IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-トリポード型等速自在継手 図1
  • 特開-トリポード型等速自在継手 図2
  • 特開-トリポード型等速自在継手 図3
  • 特開-トリポード型等速自在継手 図4
  • 特開-トリポード型等速自在継手 図5
  • 特開-トリポード型等速自在継手 図6
  • 特開-トリポード型等速自在継手 図7
  • 特開-トリポード型等速自在継手 図8
  • 特開-トリポード型等速自在継手 図9
  • 特開-トリポード型等速自在継手 図10
  • 特開-トリポード型等速自在継手 図11
  • 特開-トリポード型等速自在継手 図12
  • 特開-トリポード型等速自在継手 図13
  • 特開-トリポード型等速自在継手 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144585
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】トリポード型等速自在継手
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/205 20060101AFI20231003BHJP
   F16B 21/18 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
F16D3/205 M
F16B21/18 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051640
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】板垣 卓
(72)【発明者】
【氏名】杉山 達朗
(72)【発明者】
【氏名】河田 将太
【テーマコード(参考)】
3J037
【Fターム(参考)】
3J037AA08
3J037JA13
(57)【要約】
【課題】ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手の振動特性の悪化やローラユニットの耐久性低下を防止する。
【解決手段】スナップリング14は、せん断加工による切断面Aを有する。切断面Aは、表面14d側の領域に設けられたせん断面A2と、裏面14e側の領域に設けられた破断面A3とを有する。スナップリング14の表面14dが、複数の針状ころ13と対向している。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面の周方向の三箇所に軸方向に延びるトラック溝が形成された外側継手部材と、前記外側継手部材の内周に配され、前記トラック溝に向けて半径方向に突出した三つの脚軸を有するトリポード部材と、前記脚軸に回転自在に支持されると共に前記トラック溝に収容される三つのローラユニットとを備え、
前記ローラユニットは、ローラと、前記脚軸に外嵌されたインナリングと、前記ローラの内周面と前記インナリングの外周面との間に配された複数の転動体と、前記ローラの内周面に形成された取付溝に装着され、前記インナリング及び前記複数の転動体の前記脚軸の軸心方向の移動を規制するスナップリングとを有するトリポード型等速自在継手において、
前記スナップリングが、せん断加工による切断面を有し、
前記切断面が、厚さ方向一方側の領域に設けられたせん断面と、厚さ方向他方側の領域に設けられた破断面とを有し、
前記スナップリングの厚さ方向一方側の面が、前記複数の転動体と対向したトリポード型等速自在継手。
【請求項2】
前記スナップリングが、周方向一箇所にスリットを有する有端状を成し、
前記スリットが、前記スナップリングの半径方向に対して傾斜している請求項1に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項3】
前記インナリングの内周面が、前記インナリングの軸線を含む断面において内径側に凸を成した円弧状凸面を有し、
前記脚軸の外周面が、前記脚軸の軸線を含む断面において該軸線と平行なストレート形状であり、且つ、前記脚軸の軸線と直交する断面において略楕円形状であり、
前記脚軸の外周面が、トルク負荷方向で前記インナリングの内周面と当接すると共に、継手軸線方向では前記インナリングの内周面との間に隙間が形成された請求項1又は2に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項4】
前記転動体が針状ころである請求項1~3の何れか1項に記載のトリポード型等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリポード型等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の動力伝達系で使用されるドライブシャフトにおいては、中間軸のインボード側(車幅方向の中央側)に摺動式等速自在継手を結合し、アウトボード側(車幅方向の外側)に固定式等速自在継手を結合する場合が多い。ここでいう摺動式等速自在継手は、二軸間の角度変位および軸方向相対移動の双方を許容するものであり、固定式等速自在継手は、二軸間での角度変位を許容するが、二軸間の軸方向相対移動は許容しないものである。
【0003】
摺動式等速自在継手としてトリポード型等速自在継手が公知である。このトリポード型等速自在継手としては、シングルローラタイプとダブルローラタイプとが存在する。シングルローラタイプは、外側継手部材のトラック溝に挿入されるローラを、トリポード部材の脚軸に複数の針状ころを介して回転可能に取り付けたものである。ダブルローラタイプは、外側継手部材のトラック溝に挿入されるローラと、トリポード部材の脚軸に外嵌して前記ローラを回転自在に支持するインナリングとを備えるものである。ダブルローラタイプは、ローラを脚軸に対して揺動させることが可能となるため、シングルローラタイプに比べ、誘起スラスト(継手内部での部品間の摩擦により誘起される軸力)とスライド抵抗を低減できるという利点を有する。
【0004】
下記の特許文献1にダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手の一例が開示されている。このようなダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手では、ローラが針状ころを介してインナリングの外周に回転可能に配置される。針状ころとインナリングは、ローラの内周面に装着した一対のスナップリングによって抜け止めがなされている。すなわち、ローラの内周面に、針状ころの長さに対応する間隔で脚軸方向に離間させた一対の取付溝を形成し、この取付溝にそれぞれスナップリングを嵌合させている。
【0005】
スナップリングは、周方向一箇所にスリットを有する有端状を成し、弾性的に縮径させてローラの内周面の取付溝に装着される。下記の特許文献2では、スナップリングの周方向端部に面取りを施すことで、スナップリングをローラの内周面に装着する際にスナップリングの周方向端部が干渉しないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-320563号公報
【特許文献2】特開2007-10086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スナップリングは、せん断加工(プレス成形)で形成されることが多い。一般に、せん断加工は、図10~13に示すように、ダイ201とパンチ202を用いて金属板100を打ち抜くことにより行われる。具体的に、パンチ202を降下させて金属板100に食い込ませることで、金属板100にダレ101が形成される(図10参照)。その後、さらにパンチ202を降下させることで、金属板100にせん断面102が形成されると共にクラック103aが生じる(図11参照)。さらにパンチ202を降下させることで、クラック103aが繋がって破断面103が形成され(図12参照)、金属板100が製品部100Aとスクラップ部100Bとに分断される(図13参照)。
【0008】
こうして形成された製品部100Aの切断面には、図4に示すように、厚さ方向一方側(図中上側)から厚さ方向他方側(図中下側)に向けて、ダレ101、せん断面102、及び破断面103が順に形成される。破断面103の図中下側の端部には、図中下方に突出したカエリ(バリとも呼ばれる)104が形成される。
【0009】
スナップリングをせん断加工で形成すると、その切断面(内周面、外周面、及びスリットを介して対向する端面)の破断面側の端部にカエリが形成される。トリポード型等速自在継手でトルク伝達を行う際には、スナップリングが針状ころの端面と摺動しながら、ローラユニット(スナップリングで一体化されたローラ、インナリング、及び針状ころ)が脚軸に対して回転する。このとき、スナップリングにカエリが形成されていると、このカエリが針状ころの端面と干渉することでローラユニットの回転が阻害され、等速自在継手の振動特性の悪化やローラユニットの耐久性低下を招く恐れがある。
【0010】
そこで、本発明は、ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手の振動特性の悪化やローラユニットの耐久性低下を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は、内周面の周方向の三箇所に軸方向に延びるトラック溝が形成された外側継手部材と、前記外側継手部材の内周に配され、前記トラック溝に向けて半径方向に突出した三つの脚軸を有するトリポード部材と、前記脚軸に回転自在に支持されると共に前記トラック溝に収容される三つのローラユニットとを備え、
前記ローラユニットは、ローラと、前記脚軸に外嵌されたインナリングと、前記ローラの内周面と前記インナリングの外周面との間に配された複数の転動体と、前記ローラの内周面に形成された取付溝に装着され、前記インナリング及び前記複数の転動体の前記脚軸の軸心方向の移動を規制するスナップリングとを有するトリポード型等速自在継手において、
前記スナップリングが、せん断加工による切断面を有し、
前記切断面が、厚さ方向一方側の領域に設けられたせん断面と、厚さ方向他方側の領域に設けられた破断面とを有し、
前記スナップリングの厚さ方向一方側の面が、前記複数の転動体と対向したことを特徴とする。
【0012】
このように、本発明では、スナップリングの厚さ方向一方側(すなわち、せん断面側)の面を転動体と対向させ、スナップリングの厚さ方向他方側(すなわち、破断面側)の面を転動体と反対側に配した。これにより、スナップリングの切断面の破断面側の端部に形成されるカエリが、転動体(例えば、針状ころ)と反対側に配されるため、このカエリが転動体と干渉する事態を回避できる。
【0013】
スナップリングは、例えば、周方向一箇所にスリットを有する有端状を成し、このスリットを、スナップリングの半径方向に対して傾斜させることができる。この場合、スリットの傾斜方向によって、スナップリングの打ち抜き方向、すなわち、スナップリングの表裏(どちらの面がせん断面側の面であるか)を認識することができる。従って、スナップリングをローラの取付溝に装着する際、スリットの傾斜方向によりスナップリングの表裏を容易に確認することができる。
【0014】
上記のトリポード型等速自在継手は、前記インナリングの内周面が、前記インナリングの軸線を含む断面において内径側に凸を成した円弧状凸面を有し、前記脚軸の外周面が、前記脚軸の軸線を含む断面において該軸線と平行なストレート形状であり、且つ、前記脚軸の軸線と直交する断面において略楕円形状であり、前記脚軸の外周面が、トルク負荷方向で前記インナリングの内周面と当接すると共に、継手軸線方向では前記インナリングの内周面との間に隙間が形成された構成とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、スナップリングに形成されるカエリと転動体の干渉を回避できるため、振動特性の悪化やローラユニットの耐久性低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手を示す継手軸方向の断面図である。
図2図1のK-K線で矢視した断面図である。
図3図1のL-L線における断面図である。
図4図1のトリポード型等速自在継手が作動角をとった状態を表す断面図である。
図5】脚軸に取り付けたローラユニットを図2のA方向から見た平面図である。
図6】脚軸の軸線方向に沿ったローラユニットの断面図である。
図7】スナップリングの平面図である。
図8】スナップリングの切断面の斜視図である。
図9図7のM-M線で矢視したローラユニットの断面図である。
図10】せん断加工の手順を示す断面図である。
図11】せん断加工の手順を示す断面図である。
図12】せん断加工の手順を示す断面図である。
図13】せん断加工の手順を示す断面図である。
図14】せん断加工による切断面の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係るトリポード型等速自在継手の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0018】
図1図4に示す本実施形態のトリポード型等速自在継手1はダブルローラタイプである。なお、以下の説明において、継手軸方向および継手円周方向は、それぞれ作動角を0°の状態とした時のトリポード型等速自在継手の軸方向および円周方向をそれぞれ意味する。
【0019】
図1および図2に示すように、このトリポード型等速自在継手1は、外側継手部材2と、内側継手部材としてのトリポード部材3と、トルク伝達部材としてのローラユニット4とを備える。外側継手部材2は、一端が開口したカップ状をなし、内周面に継手軸方向に延びる3本の直線状トラック溝5が継手円周方向で等間隔に形成される。各トラック溝5には、外側継手部材2の継手円周方向に対向して配置され、それぞれ継手軸方向に延びるローラ案内面6が形成されている。外側継手部材2の内部には、トリポード部材3とローラユニット4が収容されている。
【0020】
トリポード部材3は、中心孔30を有する胴部31(トラニオン胴部)と、胴部31の外周面の継手円周方向の三等分位置から半径方向に突出する3本の脚軸32(トラニオンジャーナル)とを一体に有する。トリポード部材3は、胴部31の中心孔30に形成された雌スプライン34に、軸としてのシャフト8に形成された雄スプライン81を嵌合させることで、シャフト8とトルク伝達可能に結合される。シャフト8に設けた肩部82にトリポード部材3の継手軸方向一方側の端面を係合させ、シャフト8の先端に装着した止め輪10をトリポード部材3の継手軸方向他方側の端面と係合させることで、トリポード部材3がシャフト8に対して継手軸方向に固定される。
【0021】
ローラユニット4は、脚軸32の軸線を中心とした円環状のローラであるアウタリング11と、アウタリング11の内周に配置されて脚軸32に外嵌された円環状のインナリング12と、アウタリング11とインナリング12との間に介在された多数の転動体13とを備える。本実施形態では、転動体13の一例として、保持器のない総ころ状態の針状ころが使用されている。ローラユニット4は、外側継手部材2のトラック溝5に収容されている。アウタリング11、インナリング12、および針状ころ13からなるローラユニット4は、後で詳細に述べるように、一対のスナップリング14により、自然には分解しない構造となっている。
【0022】
この実施形態において、アウタリング11の外周面(図2参照)は、脚軸32の軸線上に曲率中心を有する円弧を母線とする凸曲面である。アウタリング11の外周面は、ローラ案内面6とアンギュラコンタクトしている。
【0023】
針状ころ13は、アウタリング11の円筒状内周面を外側軌道面とし、インナリング12の円筒状外周面を内側軌道面として、これらの外側軌道面と内側軌道面の間に転動自在に配置される。
【0024】
トリポード部材3の各脚軸32の外周面は、脚軸32の軸線を含む任意の方向の断面において脚軸32の軸線と平行なストレート形状をなす。また、図3に示すように、脚軸32の外周面は、脚軸32の軸線と直交する断面において略楕円形状をなす。脚軸32の外周面は、トルク負荷方向、すなわち長軸aの方向でインナリング12の内周面12aと接触する。継手軸方向、すなわち短軸bの方向では、脚軸32の外周面とインナリング12の内周面12aとの間に隙間mが形成されている。
【0025】
インナリング12の内周面12aは、インナリング12の軸線を含む任意の断面において凸円弧状をなす。このことと、脚軸32の横断面形状が上述のように略楕円形状であり、脚軸32とインナリング12の間に所定の隙間mを設けてあることから、インナリング12は、脚軸32に対して揺動可能となる。上述のとおりインナリング12とアウタリング11が針状ころ13を介して相対回転自在なアセンブリとされているため、アウタリング11はインナリング12と一体となって脚軸32に対して揺動可能である。つまり、脚軸32の軸線を含む平面内で、脚軸32の軸線に対してアウタリング11およびインナリング12の軸線は傾くことができる(図4参照)。
【0026】
図4に示すように、トリポード型等速自在継手1が作動角をとって回転すると、外側継手部材2の軸線に対してトリポード部材3の軸線は傾斜するが、ローラユニット4が揺動可能であるため、アウタリング11とローラ案内面6とが斜交した状態になることを回避することができる。これにより、アウタリング11がローラ案内面6に対して水平に転動するので、誘起スラストやスライド抵抗の低減を図ることができ、トリポード型等速自在継手1の低振動化を実現することができる。
【0027】
また、既に述べたように、脚軸32の断面(横断面)が略楕円状で、インナリング12の内周面12aの断面(縦断面)が円弧状凸断面であることから、図3に示すように、トルク負荷側での脚軸32の外周面とインナリング12の内周面12aとは、接触点Xにて、点接触(点接触に近い狭い面積で接触する場合も含む)する。よって、ローラユニット4を傾かせようとする力が小さくなり、アウタリング11の姿勢の安定性が向上する。
【0028】
図5は、脚軸32に取り付けたローラユニット4を図2のA方向から見た平面図であり、図6は、脚軸32の軸線方向に沿ったローラユニット4の断面図である。
【0029】
図6に示すように、ローラユニット4では、アウタリング11の内周面に脚軸32の軸線方向に離間して一対の取付溝11aが設けられる。一対のスナップリング14は、各取付溝11aに嵌合させることで、アウタリング11の内周面11bに脚軸32の軸線方向に離間して取り付けられる。このスナップリング14は、針状ころ13およびインナリング12の、脚軸32の軸線方向両側の端面と対向している。アウタリング11に対する、針状ころ13およびインナリング12の脚軸32の軸線方向への相対移動が、一対のスナップリング14によって規制されている。従って、ローラユニット4の自然な分解が一対のスナップリング14によって規制される。
【0030】
図7に示すように、スナップリング14は、円周方向一箇所にスリットC(円周方向の隙間)を有し、スリットCによって分断された有端リング状に形成される。スナップリング14は、断面矩形状の帯板を、その厚さ方向に延びる軸を中心として、その周りに周回させた形状を有する。スリットCは、スナップリング14の半径方向に対して傾斜する方向に延びている。
【0031】
スナップリング14のスリットCは、せん断加工により形成され、一般的には金属素材(例えば鋼板)に、ダイ及びパンチで打ち抜き加工を施すことにより形成される(図10~13参照)。平板状のスナップリング14の縁、具体的には、スナップリング14の周方向両端部14c(スリットCを介して周方向に対向する端面)には、せん断加工による切断面Aが設けられる。尚、加工方法によっては、さらに、スナップリング14の内周面14a及び外周面14bにも切断面Aが設けられることもある。これらの切断面Aには、図8に示すように、厚さ方向一方側の面(以下、「表面14d」と言う。)から厚さ方向他方側の面(以下、「裏面14e」と言う。)に向けて、ダレA1、せん断面A2、破断面A3、カエリA4が順に形成されている。ダレA1は、スナップリング14の表面14dとせん断面A2とを滑らかに連続する断面略円弧状の曲面である。せん断面A2は、せん断方向(厚さ方向)と略平行な平坦面であり、光沢があり、せん断方向の細かい筋が形成されている。破断面A3は、せん断面A2よりも凹凸が激しい粗い面となっている。カエリA4は、スナップリング14の裏面14eから突出した突起からなる。
【0032】
図6に示すように、スナップリング14の外径端はアウタリング11の取付溝11aに嵌合し、スナップリング14の内径端はインナリング12の端面に脚軸32の軸方向から当接する。そして、スナップリング14の半径方向中間部(外径端及び内径端を除く領域)は、針状ころ13の端面に脚軸32の軸方向から当接する。等速自在継手1が回転すると、スナップリング14の半径方向中間部と針状ころ13の端面とが摺動しながら、ローラユニット4が脚軸32の周りで回転する。このとき、スナップリング14の裏面14e(カエリA4が突出している面)が針状ころ13の端面と対向していると、針状ころ13(図7に点線で一部の針状ころ13のみを示している。)がスナップリング14のスリットCを跨いで摺動する際に、スナップリング14の周方向端部14cに設けられたカエリA4と針状ころ13とが干渉する恐れがある。
【0033】
そこで、本実施形態では、図9に示すように、スナップリング14の表面14d(カエリA4が突出していない面)を針状ころ13の端面と対向させ、カエリA4が突出した裏面14eを針状ころ13と反対側に配している。これにより、等速自在継手1の回転時に針状ころ13とスナップリング14とが摺動したときに、スナップリング14のカエリA4が針状ころ13と干渉することがないため、トリポード型等速自在継手の振動特性の悪化やローラユニットの耐久性低下を防止することができる。
【0034】
ここで、ローラユニット4の組立方法を説明する。ローラユニット4は、アウタリング11の内周にインナリング12を配すると共に、これらの間に多数の針状ころ13を総ころ状態で配した後、アウタリング11の取付溝11aにスナップリング14を装着することで組み立てられる。
【0035】
本実施形態では、スナップリング14をアウタリング11の内周面の取付溝11aに装着する前に、スナップリング14の表裏を確認する。せん断面A2と破断面A3とは表面性状が異なっているため、切断面Aを目視で確認することでスナップリング14の表裏を確認することも可能である。しかし、切断面Aの面積は小さいため、上記のような目視による確認は容易ではなく、手間がかかり、且つミスも起こりやすい。
【0036】
そこで、本実施形態では、スナップリング14のスリットCの傾斜方向により、スナップリング14の表裏を確認する。すなわち、スナップリング14を表面14d側(せん断面A2側)から見たときと裏面14e側(破断面A3側)から見たときとで、スリットCの傾斜方向が異なる。具体的に、スナップリング14を裏面14e側から見ると、スリットCが半径方向に対して周方向一方側に傾斜し(図7参照)、スナップリング14を表面14d側から見ると、スリットCが半径方向に対して周方向他方側(図7と反対側)に傾斜している。従って、図5及び図7に示すように、スナップリング14を軸線方向から見たとき、スリットCが半径方向に対して周方向一方側に傾斜していれば、手前側の面が裏面14e(破断面A3側の面)であり、奥側の面が表面14d(せん断面A2側の面)であることを確認できる。このように、スリットCの傾斜方向により、スナップリング14の表裏を容易に確認することができる。このようなスリットCの傾斜方向の確認は、作業者が目視で行ってもよいし、組立装置により自動で行ってもよい。
【0037】
こうしてスナップリング14の表裏を確認した後、スナップリング14を所定の向きでアウタリング11の取付溝11aに装着する(図9参照)。本実施形態では、図5に示すように、ローラユニット4を軸方向外側から見たときにスリットCが周方向一方側に傾斜する向きで、スナップリング14をアウタリング11の取付溝11aに装着する。これにより、図9に示すように、スナップリング14の表面14dが針状ころ13と対向し、スナップリング14の裏面14eが針状ころ13と反対側に配された状態で、スナップリング14をアウタリング11に組み付けることができる。
【0038】
尚、本実施形態では、一対のスナップリング14として、同じ構成のもの(同じ金型で打ち抜いたもの)を使用している。従って、組立後のローラユニット4を軸方向どちら側から見ても、スナップリング14のスリットCが半径方向に対して周方向一方側に傾斜している(図5参照)。
【0039】
本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記の実施形態では、針状ころ13の軸方向両側にスナップリング14を配した場合を示したが、アウタリングの軸方向何れか一方の端部に鍔を設けることにより、一方のスナップリング14を省略することもできる。
【0040】
以上に述べた本発明の実施形態は、他の構成を有するダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手にも適用することができる。例えば、脚軸32の外周面を凸曲面(例えば球面)に形成し、インナリング12の内周面12aを円筒面状に形成することもできる。また、脚軸32の外周面を凸曲面(例えば断面凸円弧状)に形成し、インナリング12の内周面12aを脚軸外周面と嵌合する凹球面に形成することもできる。
【0041】
以上に述べたトリポード型等速自在継手1は、自動車のドライブシャフトに限って適用されるものではなく、自動車や産業機器等の動力伝達経路に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 トリポード型等速自在継手
2 外側継手部材
3 トリポード部材
4 ローラユニット
5 トラック溝
6 ローラ案内面
8 シャフト
11 アウタリング(ローラ)
11a 取付溝
12 インナリング
13 針状ころ(転動体)
14 スナップリング
14c 周方向端部(端面)
14d 表面
14e 裏面
31 胴部
32 脚軸
A 切断面
A1 ダレ
A2 せん断面
A3 破断面
A4 カエリ
C スリット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14