(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014461
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】減肉離隔検出システムと方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/90 20210101AFI20230124BHJP
【FI】
G01N27/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118400
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000198318
【氏名又は名称】株式会社IHI検査計測
(71)【出願人】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】大森 征一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 かさね
(72)【発明者】
【氏名】前角 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】藤原 貢
(72)【発明者】
【氏名】水上 孝一
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA12
2G053AB21
2G053BA03
2G053BA21
2G053BC05
2G053BC14
2G053CA03
2G053CC07
2G053DA01
2G053DA09
2G053DA10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】減肉部の位置が不明であっても減肉位置と減肉状態を判定することができ、かつアルミニウムへの適用が可能である減肉離隔検出手段を提供する。
【解決手段】減肉離隔検出システムが、励磁コイルと検出コイルを有するプローブと、パルス電流発生器と、データ解析装置とを備える。励磁コイルは、試験体の表面に平行な単一方向Xの平行磁束を発生させ、検出コイルは、試験体の表面に直交する直交磁束を検出する。ステップS1では、異なる減肉量ΔTを有する複数の基準試験体における第2ピーク電圧差ΔV2と検出距離Lとの関係を示す複数の検量線MLを作成する。ステップS2では、実試験体に対し複数のプローブ位置XLiで第2ピーク電圧差ΔV2を算出する。ステップS3では、プローブ相対距離ΔXLと複数の第2ピーク電圧差ΔV2から検量線MLを用いて、実試験体の減肉位置と減肉状態を判定する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験体の表面に平行な単一方向の平行磁束を発生させる励磁コイルと、前記表面に直交する直交磁束を検出する検出コイルと、を有するプローブと、
前記励磁コイルに矩形のパルス電流を印加するパルス電流発生器と、
前記検出コイルに生じる検出電圧をデータ解析するデータ解析装置と、を備え、
前記検出電圧は、前記パルス電流の印加後に順に、最も高い第1ピーク電圧と、最も低い第1ボトム電圧と、前記第1ピーク電圧の次に高い第2ピーク電圧と、前記第1ボトム電圧と前記第2ピーク電圧の中間の一定の収束電圧と、を有しており、
前記データ解析装置は、
(A)異なる減肉量を有する複数の基準試験体における、前記第2ピーク電圧と前記収束電圧の差である第2ピーク電圧差と、前記プローブから減肉開始点までの距離である検出距離との関係を示す複数の検量線を記憶し、
(B)実試験体に対する複数のプローブ位置における複数の前記第2ピーク電圧差に基づき、プローブ相対距離と複数の前記第2ピーク電圧差から前記検量線を用いて、前記実試験体の減肉位置と減肉状態を判定する、減肉離隔検出システム。
【請求項2】
前記励磁コイルは、第1矩形内面を有する矩形コイルであり、
前記第1矩形内面の第1短辺は前記基準試験体の板厚以上に設定され、前記第1矩形内面の第1長辺は前記基準試験体の幅以下に設定されており、
前記プローブの使用時において、前記第1長辺は前記単一方向に直交しかつ前記試験体の幅方向に位置し、前記第1短辺は前記試験体の前記表面に直交する上下方向に位置する、請求項1に記載の減肉離隔検出システム。
【請求項3】
前記検出コイルは、前記第1矩形内面より小さい第2矩形内面を有する矩形コイルであり、
前記第2矩形内面の第2短辺は前記励磁コイルの軸方向長さ以下に設定され、前記第2矩形内面の第2長辺は前記第1矩形内面の第1長辺以下に設定されており、
前記検出コイルは、前記プローブの使用時において、前記励磁コイルと前記試験体の間に位置し、前記第2短辺は前記単一方向に位置し、前記第2長辺は前記幅方向に位置する、請求項2に記載の減肉離隔検出システム。
【請求項4】
前記パルス電流発生器は、矩形の前記パルス電流を一定の周期で発生するファンクションジェネレータと、発生した前記パルス電流を増幅し前記励磁コイルに流すパワーアンプとを有し、
前記データ解析装置は、前記検出コイルで検出した複数周期分の前記検出電圧をAD変換するオシロスコープと、AD変換後の複数周期分の前記検出電圧を平均化処理する信号処理器とを有する、請求項1に記載の減肉離隔検出システム。
【請求項5】
前記データ解析装置は、200~300Hzを超える信号を除去するローパスフィルタを有する、請求項4に記載の減肉離隔検出システム。
【請求項6】
請求項1に記載の減肉離隔検出システムを用い、
(A)異なる前記減肉量を有する複数の基準試験体における、前記第2ピーク電圧と前記収束電圧の差である前記第2ピーク電圧差と、前記プローブから減肉開始点までの距離である検出距離との関係を示す複数の前記検量線を作成し記憶するステップと、
(B)前記実試験体に対し複数の前記プローブ位置で前記検出電圧を検出してそれぞれの前記第2ピーク電圧差を算出するステップと、
(C)プローブ相対距離と複数の前記第2ピーク電圧差から前記検量線を用いて、前記実試験体の減肉位置と減肉状態を判定するステップと、を有する減肉離隔検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明柱など地中等に埋設された部材の減肉を掘削することなく検出するための減肉離隔検出手段に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、照明柱の老朽化が進んでいる。照明柱埋設部の検査は、従来は掘削後の目視点検が主流であるが、費用も時間もかかる点が問題である。
そこで、パルス電流を用いて、埋設部材の減肉を掘削することなく検出する手段が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1の「一部埋設構造物の際部分の減肉検査方法」は、測定プローブをその励磁コイルの中心軸が傾斜する姿勢で地盤等の基礎部分の表面上にセットしてその中心軸を際部分に指向させる。この状態で励磁コイルにパルス電流を流して際部分の表面に渦電流を形成し、渦電流の強さを経時的に検出してその持続時間を特定する。特定された持続時間と予め健全部について同じ傾斜角度で採取された渦電流の持続時間に関する参照データとの対比により際部分における減肉状態を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、励磁コイルに直流のパルス電流が流れると、これにより形成された磁束の変化によって被検査物の表面に渦電流が生じ、この渦電流が減衰しながら被検査物の裏面まで浸透する。また、被検査物の裏面まで到達した時点で渦電流の減衰が加速する。
検出コイルの中心軸は、励磁コイルの中心軸と同軸であり、検出コイルにより渦電流が形成されてからその減衰の加速が始まるまでの時間を計測することにより、減肉状態を判定している。
【0006】
しかし、特許文献1の方法には、以下の問題点があった。
(1)励磁コイルの中心軸を被検査物の減肉部に向けて位置決めする必要がある。
励磁コイルにより形成される渦電流は、励磁コイルの中心軸に沿って浸透するので、中心軸の延長線上に減肉部がないと減肉状態を判定できない。
そのため、減肉部の位置が不明であり、例えば減肉部が埋設構造物の際部分以外にある場合、多数の治具を用いて探索する必要が生じる。
(2)被検査物が鋼材である場合、腐食による減肉が大きく検出可能であるが、減肉が小さいアルミニウムへの適用は困難である。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、減肉部の位置が不明であっても減肉位置と減肉状態を判定することができ、かつアルミニウムへの適用が可能である減肉離隔検出手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、試験体の表面に平行な単一方向の平行磁束を発生させる励磁コイルと、前記表面に直交する直交磁束を検出する検出コイルと、を有するプローブと、
前記励磁コイルに矩形のパルス電流を印加するパルス電流発生器と、
前記検出コイルに生じる検出電圧をデータ解析するデータ解析装置と、を備え、
前記検出電圧は、前記パルス電流の印加後に順に、最も高い第1ピーク電圧と、最も低い第1ボトム電圧と、前記第1ピーク電圧の次に高い第2ピーク電圧と、前記第1ボトム電圧と前記第2ピーク電圧の中間の一定の収束電圧と、を有しており、
前記データ解析装置は、
(A)異なる減肉量を有する複数の基準試験体における、前記第2ピーク電圧と前記収束電圧の差である第2ピーク電圧差と、前記プローブから減肉開始点までの距離である検出距離との関係を示す複数の検量線を記憶し、
(B)実試験体に対する複数のプローブ位置における複数の前記第2ピーク電圧差に基づき、プローブ相対距離と複数の前記第2ピーク電圧差から前記検量線を用いて、前記実試験体の減肉位置と減肉状態を判定する、減肉離隔検出システムが提供される。
【0009】
また本発明によれば、上記の減肉離隔検出システムを用い、
(A)異なる前記減肉量を有する複数の基準試験体における、前記第2ピーク電圧と前記収束電圧の差である前記第2ピーク電圧差と、前記プローブから減肉開始点までの距離である検出距離との関係を示す複数の前記検量線を作成し記憶するステップと、
(B)前記実試験体に対し複数の前記プローブ位置で前記検出電圧を検出してそれぞれの前記第2ピーク電圧差を算出するステップと、
(C)プローブ相対距離と複数の前記第2ピーク電圧差から前記検量線を用いて、前記実試験体の減肉位置と減肉状態を判定するステップと、を有する減肉離隔検出方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本願発明者は、矩形のパルス電流を印加して試験体の表面に平行な単一方向の平行磁束を発生させ、表面に直交する直交磁束を検出することで、以下の新規の知見を得た。
(1)検出した検出電圧は、パルス電流の印加後に順に、最も高い第1ピーク電圧と、最も低い第1ボトム電圧と、第1ピーク電圧の次に高い第2ピーク電圧と、第1ボトム電圧と第2ピーク電圧の中間の一定の収束電圧と、を有する再現性の高い変化を示す。
(2)異なる減肉量を有する複数の試験体において、第2ピーク電圧と収束電圧の差である第2ピーク電圧差と、プローブから減肉開始点までの距離である検出距離との関係は、異なる減肉量毎に単一の2次曲線で表せる相関を示す。
(3)試験体の減肉部の形状(例えば、段差、スロープ、貫通孔)の影響は少ない。
(4)試験体の減肉部の体積変化の大小が第2ピーク電圧差の大小に影響している。
【0011】
本発明は、上述した新規の知見に基づくものである。
上記本発明によれば、異なる減肉量を有する複数の基準試験体における、第2ピーク電圧差と検出距離との関係を示す複数の検量線を予め求めて記憶する。
次いで、実試験体に対し複数のプローブ位置で検出コイルに生じる検出電圧を検出してそれぞれの第2ピーク電圧差を算出する。
【0012】
プローブ相対距離は、それぞれの検量線における検出距離の差に相当するので、それぞれの第2ピーク電圧差を有しかつ検出距離の差がプローブ相対距離と一致する検量線を選択することで、実試験体の減肉位置と減肉状態を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による減肉離隔検出システムの説明図である。
【
図2】減肉離隔検出システムを用いた試験方法と試験結果の説明図である。
【
図3】第2ピーク電圧差と検出距離との関係を示す図である。
【
図4】本発明による減肉離隔検出方法の全体フロー図である。
【
図7】スロープ付き試験体を用いた試験状態を示す模式図である。
【
図8】円管試験体を用いた試験状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0015】
図1は、本発明による減肉離隔検出システム100の説明図である。この図において、(A)は全体構成図、(B)はプローブ10の側面図、(C)はプローブ10の斜視図である。
【0016】
図1(A)において、減肉離隔検出システム100は、プローブ10、パルス電流発生器20、及び、データ解析装置30を備える。
【0017】
プローブ10は、励磁コイル12と検出コイル14を有する。励磁コイル12は、試験体1の表面に平行な単一方向X(以下、「X方向」)の一様な平行磁束を発生させるコイルである。また、検出コイル14は、試験体1の表面に直交する直交磁束を検出するコイルである。
【0018】
減肉が存在しないときに、検出コイル14を貫く磁束の総和が0に近づくよう、励磁コイル12と検出コイル14は細長い検出コイルとした。
図1(B)と
図1(C)において、励磁コイル12は、矩形内面(以下、「第1矩形内面」)を有する矩形コイルである。第1矩形内面の短辺(以下、「第1短辺」)は基準試験体2(後述する)の板厚以上に設定され、第1矩形内面の長辺(以下、「第1長辺」)は基準試験体2の幅以下に設定されている。
試験体1と基準試験体2は、同一材料、同一厚さを有する。
【0019】
後述する実施例において、試験体1と基準試験体2は、アルミニウム板であり、板厚は6mm、幅は200mmである。また、励磁コイル12の第1短辺は40mm、第1長辺は80mm、軸方向長さは10mmである。
【0020】
また、プローブ10の使用時において、励磁コイル12の第1長辺はX方向(単一方向X)に直交しかつ試験体1の幅方向Y(以下、「Y方向」)に位置し、第1短辺は試験体1の表面に直交する上下方向Z(以下、「Z方向」)に位置する。
【0021】
検出コイル14は、励磁コイル12の第1矩形内面より小さい矩形内面(以下、「第2矩形内面」)を有する矩形コイルである。第2矩形内面の短辺(以下、「第2短辺」)は励磁コイル12の軸方向長さ以下に設定され、第2矩形内面の長辺(以下、「第2長辺」)は第1矩形内面の第1長辺以下に設定されている。
【0022】
また、プローブ10の使用時において、検出コイル14は、励磁コイル12と試験体1の間に位置し、第2短辺はX方向(単一方向X)に位置し、第2長辺は幅方向Y(Y方向)に位置する。
【0023】
後述する実施例において、検出コイル14の第2短辺は4mm、第2長辺は40mm、軸方向長さは3mmである。また、検出コイル14と励磁コイル12の上下方向Z(Z方向)の隙間は6mmである。
【0024】
図1(A)において、パルス電流発生器20は、励磁コイル12に矩形のパルス電流を印加する。
後述する実施例において、パルス電流発生器20は、ファンクションジェネレータ22とパワーアンプ24を有する。ファンクションジェネレータ22は、矩形のパルス電流を一定の周期で発生する。パワーアンプ24は、発生したパルス電流を増幅し励磁コイル12に流す。
矩形のパルス電流の周波数は、好ましくは5~20Hz、さらに好ましくは10Hzである。
実施例では、ファンクションジェネレータ22から矩形のパルス(10Hz,デューティ比50%、Vp-p±0.8V)で印加した電流を、パワーアンプ24で20倍に増幅し、励磁コイル12に流した。
【0025】
データ解析装置30は、検出コイル14に生じる検出電圧をデータ解析する。
後述する実施例において、データ解析装置30は、オシロスコープ32と信号処理器34を有する。オシロスコープ32は、検出コイル14で検出した複数周期分の検出電圧をAD変換する。信号処理器34は、AD変換後の複数周期分の検出電圧を平均化処理(加算平均10回、移動平均20点)する。
【0026】
また、データ解析装置30は、後述する実施例において、200~300Hzを超える信号を除去するローパスフィルタ(図示せず)を有する。
検証試験で取得した検出信号に対して、FFTを行い、200~300Hz(好ましくは250Hz)を超える信号がノイズであり、それ以下の低周波数が離れた減肉検出に効果的であることを明らかにした。この結果に基づき、検出信号に対して250Hzのローパスフィルタを通した信号で評価することとした。
【0027】
上述した減肉離隔検出システム100を用い、減肉部を有する試験体1において検出コイル14に生じる検出電圧Vを検出する試験を実施した。
図2は、減肉離隔検出システム100を用いた試験方法と試験結果の説明図である。この図において、(A)は、試験状態を示す模式図、(B)は得られた検出電圧Vの変化を示す図である。
【0028】
図2(A)において、試験体1はアルミニウム板であり、試験体1の板厚(以下、「健全部厚T」)は6mm、減肉部の板厚(以下、「減肉部厚t」)は1mmであった。以下、健全部厚Tと減肉部厚tとの差を減肉量ΔTと呼ぶ。この例で減肉量ΔTは5mmである。また、減肉開始点Eと励磁コイル12の減肉側端面までのX方向距離を以下、検出距離Lと呼ぶ。
また、
図2(A)に示す試験体1を以下、「段差付き試験体1A」と呼ぶ。
【0029】
事前試験より試験体1の幅方向Yには端部から50mm以上、長さ方向Xには100mm以上離せば、端部の影響は受けないことを明らかにし、それより大きい寸法の試験体を製作した。
すべての試験体1と基準試験体2は、アルミニウム板であり、板厚は6mm、幅は200mm、全長は600mm、健全部の全長は400mmである。
【0030】
図2(B)において、横軸は矩形のパルス電流をOFFした時点からの経過時間、縦軸は検出コイル14に生じた検出電圧Vである。また、図中の破線は試験体1に減肉部のない場合、実線は減肉量ΔTが5mmの場合である。
なお、矩形のパルス電流の周波数は10Hzであり、電流OFFの継続時間は周期100msの半分(50ms)である。
【0031】
この図から、実線の検出電圧Vは、破線と相違し、以下の特徴を有することがわかる。
(1)パルス電流の印加後に順に、第1ピーク電圧Vp1、第1ボトム電圧Vb1、第2ピーク電圧Vp2、及び収束電圧Veを有する。
(2)第1ピーク電圧Vp1は、パルス電流の印加後に最初に現れ、最も高い検出電圧Vを有する。
(3)第1ボトム電圧Vb1は、第1ピーク電圧Vp1の次に現れ、最も低い検出電圧Vを有する。
(4)第2ピーク電圧Vp2は、第1ボトム電圧Vb1の次に現れ、第1ピーク電圧Vp1の次に高い検出電圧Vを有する。
(5)収束電圧Veは、第2ピーク電圧Vp2の後で第1ボトム電圧Vb1と第2ピーク電圧Vp2の中間の実質的に一定の検出電圧を有する。
【0032】
上述した(1)~(5)の特徴は、後述する実施例において、段差付き試験体1Aの板厚(健全部厚T)が6mm、減肉量ΔTが2,3,4,5mmの場合に、再現性が高く、測定誤差が少ないことがわかった。
【0033】
図3は、第2ピーク電圧差ΔV2と検出距離Lとの関係を示す図である。この図は、段差付き試験体1Aの健全部厚Tが6mm、減肉量ΔTが2,3,4,5mmの場合を示している。
この図において、横軸は第2ピーク電圧差ΔV2(すなわち、第2ピーク電圧Vp2と収束電圧Veの差)、縦軸は検出距離L(すなわち、励磁コイル12の段差側端面から減肉開始点EまでのX方向距離)である。
この図から、第2ピーク電圧差ΔV2と検出距離Lは、異なる減肉量毎に単一の2次曲線で表せる高い相関を示すことがわかる。
【0034】
図1のデータ解析装置30は、例えばコンピュータ(PC)であり、
図3と同様の複数の検量線MLを記憶装置に記憶する。
検量線MLは、異なる減肉量ΔTを有する複数の基準試験体2における、第2ピーク電圧差ΔV2と検出距離Lとの関係を示す。
【0035】
また、データ解析装置30は、実際の試験体1(「実試験体」)に対する複数のプローブ位置XLiにおける複数の第2ピーク電圧差ΔV2に基づき、プローブ相対距離ΔXLと複数の第2ピーク電圧差ΔV2から検量線MLを用いて、実試験体の減肉位置と減肉状態を判定する。
【0036】
「複数のプローブ位置」とは、実試験体のX方向の基準位置X0から励磁コイル12の段差側端面までのX方向距離である。基準位置X0は、例えば実試験体が地中等の埋設物である場合、地表面近傍に設定することが好ましい。
以下、プローブ位置をXLiとする。iは整数(1,2,3、・・・)である。
この場合、実試験体の減肉位置と減肉状態は不明であるため、プローブ位置XLiは、検出距離Lと原則として相違する。
【0037】
図4は、本発明による減肉離隔検出方法の全体フロー図である。
この図において、減肉離隔検出方法は、S1~S3の各ステップ(工程)を有する。
【0038】
ステップS1では、異なる減肉量ΔTを有する複数の基準試験体2における、第2ピーク電圧差ΔV2と検出距離Lとの関係を示す複数の検量線MLを作成し記憶する。
【0039】
ステップS1は、ステップS11~S13を有する。
ステップS11では、複数の基準試験体2を準備する。
複数(例えば4つ)の基準試験体2は、例えば
図3に示した段差付き試験体1Aを想定し、段差付き試験体1Aと同一の材料(アルミニウム)、同一の健全部厚T(例えば6mm)、同一の減肉量ΔT(例えば2,3,4,5mm)のものを準備する。
ステップS12では、各基準試験体2を用い、複数の検出距離Lで検出電圧Vを検出する。複数(例えば4)の検出距離Lは、例えば
図3と同様に20,30,40,50mmとする。この結果、
図2(B)と同様の検出電圧Vの変化が複数(例えば4つ)の減肉量ΔTと複数(例えば4)の検出距離Lの組合せとして多数(例えば4×4=16)得られる。
ステップS13では、得られた検出電圧Vの変化から、複数の検出距離Lごとの複数の検量線MLを作成し記憶する。複数の検量線MLは、例えば
図3と同様なものとなる。
【0040】
ステップS2では、実試験体(実際の試験体1)に対し複数のプローブ位置XLiで検出電圧Vを検出してそれぞれの第2ピーク電圧差ΔV2を算出する。
【0041】
ステップS2は、ステップS21~S22を有する。
ステップS21では、実試験体(実際の試験体1)に対し複数のプローブ位置XLiを設定する。プローブ位置XLiは減肉位置が予測される位置近傍に、X方向に間隔を隔てて2以上設定する。このX方向の間隔がプローブ相対距離ΔXLに相当する。
ステップS22では、設定した複数のプローブ位置XLiにおいて、検出電圧Vを検出してそれぞれの第2ピーク電圧差ΔV2を算出する。
【0042】
ステップS3では、プローブ相対距離ΔXLと複数の第2ピーク電圧差ΔV2から検量線MLを用いて、実試験体の減肉位置と減肉状態を判定する。
プローブ位置XLiが2箇所の場合、ステップS2で算出された2つの第2ピーク電圧差ΔV2は、いずれかの検量線ML(例えば
図3)の上に位置する2点とみなすことができる。
【0043】
例えば
図3において、2つの第2ピーク電圧差ΔV2に相当する平行線と複数の検量線MLとの交点を求め、同一の検量線MLの2点間の検出距離差ΔLを求める。いずれかの検量線上の検出距離差ΔLがプローブ相対距離ΔXLと一致又は近似する場合、その検量線MLに相当する減肉状態があると判定することができる。また、その検量線上の2点の検出距離Lから、実試験体の減肉位置を判定することができる。
【0044】
(実施例1)
(段差付き試験体1Aにおける減肉検出試験)
図2に示した段差付き試験体1Aとして、板厚(健全部厚T)6mmのアルミニウム板から減肉量ΔTが2mm(t4)、3mm(t3)、4mm(t2)、5mm(t1)の減肉部を有する5つ段差付き試験体1Aを準備した。
また、上述した検出距離Lが20mm,30mm,40mm,50mmとなる位置を測定点とし、5つ段差付き試験体1Aに対し検出電圧Vを測定した。
【0045】
図5は、実施例1の試験結果を示す図である。この図において、(A)は検出距離Lが20mmの例、(B)は30mmの例である。また、
図6は、
図5(A)の拡大図である。
【0046】
図5、
図6において、縦軸は検出コイル14の検出電圧V、横軸は時間を示す。減肉の有無による違いは主に3箇所に見られた。減肉がある場合、第1ピーク電圧Vp1および第1ボトム電圧Vb1は低下、第2ピーク電圧Vp2は増加する傾向が見られた。これらの指標を用いることで、50%以上の減肉量ΔTについては検出距離Lが50mmでも十分検出可能であるといえる。
【0047】
第2ピーク電圧Vp2の値は小さいが、複数回の試験を通じて、再現性の高い変化が得られ、測定誤差が少ない傾向が見られた。
いずれの減肉量ΔTにおいても、検出距離Lが大きくなるほど第2ピーク電圧差ΔV2は低下した。また、同じ検出距離Lで比較した場合、減肉量ΔTが大きいほど第2ピーク電圧差ΔV2は高い値を示した。
【0048】
これらの結果から、収束した際の電圧を収束電圧Veとし、第2ピーク電圧差ΔV2(第2ピーク電圧Vp2-収束電圧Ve)を比較した結果、上述した
図3に示すような高い相関が見られた。
【0049】
(実施例2)
(スロープ付き試験体1Bにおける減肉検出試験)
図7は、スロープ付き試験体1Bを用いた試験状態を示す模式図である。
この図に示すようにスロープ付き試験体1Bとして、減肉開始点Eと減肉部との間にスロープ(傾斜部)を設け、その影響を試験した。
健全部厚Tが6mm、減肉部厚tが3mm、スロープ長Lsが20mmの場合をスロープのない段差付き試験体1Aと比較した。
図5、
図6と同様の検出電圧Vの時間変化を検出した結果、スロープ形状においても、段差付き試験体1Aと似た信号が得られ、減肉部形状の影響は少ないことが分かった。
【0050】
(実施例3)
(貫通孔付き試験体における減肉検出試験)
スロープ付き試験体1Bの減肉部のスロープ下端近傍に、X方向10mm、Y方向50mmの楕円形貫通孔を設け、実施例2と同様の試験を実施した。
この結果、貫通孔を有する場合の方が無い場合よりも第2ピーク電圧Vp2がわずかに大きい値を示した。
また、以上の結果から、試験体1の減肉部の体積変化の程度が第2ピーク電圧差ΔV2の高低に影響していると考えられた。
【0051】
(実施例4)
(円管試験体1Cにおける減肉検出試験)
図8は、円管試験体1Cを用いた試験状態を示す模式図である。
断面が段差付き試験体1Aと同じ円管試験体1Cを準備し、試験体表面が曲面の場合の試験を実施した。
なお曲面におけるプローブ10の安定性を確保するため、図のような治具3を使用しデータを取得した。
【0052】
円柱では平板に比べて減肉時の変化量が少なくなるものの、平板での試験結果と同様に第2ピーク電圧Vp2に厚さに応じた変化が見られた。一方で、長時間側のノイズが大きく収束電圧Veが安定しないために、円柱の検出距離40mm,50mmにおける第2ピーク電圧差ΔV2は平板とは異なる値を示した。
円柱の検出距離40mm,50mmの第2ピーク電圧差ΔV2は、第2ピーク電圧Vp2が小さいために収束電圧Veのばらつきの影響を強く受けたと考えられる。
【0053】
上述したように本願発明者は、矩形のパルス電流を印加して試験体1の表面に平行な単一方向の平行磁束を発生させ、表面に直交する直交磁束を検出することで、新規の知見を得た。
本発明は、かかる新規の知見に基づくものである。
【0054】
本発明によれば、異なる減肉量ΔTを有する複数の基準試験体2における、第2ピーク電圧差ΔV2と検出距離Lとの関係を示す複数の検量線MLを予め求めて記憶する。
次いで、実試験体に対し複数のプローブ位置XLiで検出コイル14に生じる検出電圧Vを検出してそれぞれの第2ピーク電圧差ΔV2を算出する。
【0055】
プローブ相対距離ΔXLは、それぞれの検量線MLにおける検出距離Lの差に相当する。従って、それぞれの第2ピーク電圧差ΔV2を有しかつ検出距離Lの差がプローブ相対距離ΔXLと一致する検量線MLを選択することで、実試験体の減肉位置と減肉状態を判定することができる。
【0056】
また、上述したように、50%以上の減肉量ΔTについては、試験体1がアルミニウム材であっても、50mm離れた箇所からでも健全部と比べて検出信号に大きな違いが見られた。
さらに、上述した減肉離隔検出方法をソフトウェア上に実装することで、減肉離隔検出システム100により実試験体の減肉位置と減肉状態の判定精度を高めることができる。
【0057】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。
【符号の説明】
【0058】
E 減肉開始点、L 検出距離、Ls スロープ長、ΔL 検出距離差、
ML 検量線、T 健全部厚、t 減肉部厚、ΔT 減肉量、
V 検出電圧、Vp1 第1ピーク電圧、Vb1 第1ボトム電圧、
Vp2 第2ピーク電圧、ΔV2 第2ピーク電圧差、Ve 収束電圧、
X 単一方向、X0 基準位置、XLi プローブ位置、
ΔXL プローブ相対距離、Y 幅方向、Z 上下方向、1 試験体、
1A 段差付き試験体、1B スロープ付き試験体、1C 円管試験体、
2 基準試験体、3 治具、10 プローブ、12 励磁コイル、
14 検出コイル、20 パルス電流発生器、
22 ファンクションジェネレータ、24 パワーアンプ、
30 データ解析装置、32 オシロスコープ、34 信号処理器、
100 減肉離隔検出システム