(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144652
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H01P 1/212 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
H01P1/212
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051741
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】角田 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】岡本 泰久
【テーマコード(参考)】
5J006
【Fターム(参考)】
5J006JA01
5J006JA21
5J006LA09
(57)【要約】
【課題】端子間の高周波信号の漏洩を抑制することが可能なフィルタを提供する。
【解決手段】フィルタ100は、複数の誘電体層が積層された積層体と、積層体の表面に設けられた入力端子Tinと、積層体の表面に設けられた出力端子Toutと、積層体内に設けられ、入力端子Tinから出力端子Toutに高周波信号が伝送される経路40と、積層体の表面に設けられ、高周波信号が入力および出力しない第1端子と、入力端子Tinおよび出力端子Toutのいずれか一方の第2端子と、積層体内に設けられ、第2端子との間を直流電流が導通するように経路40内に設けられたノードN1に一端が接続され、第1端子に他端が接続され、通過帯域の中心周波数においてノードN1から第1端子を見たインピーダンスは略オープンである線路M1とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層が積層された積層体と、
前記積層体の表面に設けられた入力端子と、
前記積層体の表面に設けられた出力端子と、
前記積層体内に設けられ、前記入力端子から前記出力端子に高周波信号が伝送される経路と、
前記積層体の表面に設けられ、高周波信号が入力および出力しない第1端子と、
前記入力端子および前記出力端子のいずれか一方の第2端子と、
前記積層体内に設けられ、前記第2端子との間を直流電流が導通するように前記経路内に設けられたノードに一端が接続され、前記第1端子に他端が接続され、通過帯域の中心周波数において前記ノードから前記第1端子を見たインピーダンスは略オープンである線路と、
を備えるフィルタ。
【請求項2】
前記入力端子および前記出力端子のうち前記第2端子でない他方の第3端子と、
前記積層体内に設けられ、前記第3端子との間を直流電流が導通するように前記経路内に設けられた別のノードに一端が接続され、前記第1端子に他端が接続され、前記中心周波数において前記別のノードから前記第1端子を見たインピーダンスは略オープンである別の線路と、
を備える請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記中心周波数において前記ノードから前記線路を介し前記第1端子を見たインピーダンスは、スミスチャートをオープンの位置の角度を0°かつ外周の動径を1とする極座標で表したとき、角度が+45°以下かつ-45°以上であり、動径が0.8以上かつ1.0以下の範囲に位置する請求項1または2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記線路は、前記複数の誘電体層のうち隣接する誘電体層の間に設けられた1つの導電体層から形成され、最も近いグランドパターンとで形成されるマイクロストリップ線路を仮定したときの実効比誘電率をεreffとし、前記中心周波数をf0としたとき、長さは、6.18×107×√(εreff)/f0以上かつ1.031×107×√(εreff)/f0以下である線路パターンを備える請求項1から3のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項5】
前記線路は、前記複数の誘電体層のうち隣接する誘電体層の間に設けられた1つの導電体層から形成され、前記複数の誘電体層の積層する積層方向から見た形状がスパイラル状の部分を含む線路パターンを備える請求項1から3のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項6】
前記複数の誘電体層の積層する積層方向から見て、前記線路パターンのうちスパイラル状の領域において最も近いグランドパターンと重なる領域の面積は、前記線路パターンのうちスパイラル状の領域の面積の0.3倍以下である請求項5に記載のフィルタ。
【請求項7】
前記線路は、前記複数の誘電体層のうち隣接する誘電体層の間に設けられた1つの導電体層から形成され、幅が前記積層体内において高周波信号が伝送する線路パターンの幅のうち最も小さい線路パターンを備える請求項1から3のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項8】
複数の誘電体層が積層された積層体と、
前記積層体の表面に設けられた入力端子と、
前記積層体の表面に設けられた出力端子と、
前記積層体内に設けられ、前記入力端子から前記出力端子に高周波信号が伝送される経路と、
前記積層体の表面に設けられ、高周波信号が入力および出力しない第1端子と、
前記入力端子および前記出力端子のいずれか一方の第2端子と、
前記積層体内に設けられ、前記第2端子との間を直流電流が導通するように前記経路内に設けられたノードに一端が接続され、前記第1端子に他端が接続され、通過帯域の中心周波数において前記ノードから前記第1端子を見たインピーダンスは、スミスチャートをオープンの位置の角度を0°かつ外周の動径を1とする極座標で表したとき、角度が+45°以下かつ-45°以上であり、動径が0.8以上かつ1.0以下の範囲に位置する線路と、
を備えるフィルタ。
【請求項9】
前記入力端子および前記出力端子のうち前記第2端子でない他方の第3端子と、
前記積層体内に設けられ、前記第3端子との間を直流電流が導通するように前記経路内に設けられた別のノードに一端が接続され、前記第1端子に他端が接続され、前記中心周波数において前記別のノードから前記第1端子を見たインピーダンスは、スミスチャートを前記極座標で表したとき、角度が+45°以下かつ-45°以上であり、動径が0.8以上かつ1.0以下の範囲に位置する別の線路と、
を備える請求項8に記載のフィルタ。
【請求項10】
前記第1端子と前記第2端子とは、前記線路以外の直流電流が導通する経路を介し接続されていない請求項1から9のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項11】
前記第2端子の面積は前記第1端子の面積の1/2倍以下または2倍以上である請求項1から10のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項12】
前記第1端子はグランド端子である請求項1から11のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
LTE(Long Term Evolution)や5G(5th Generation)移動通信システム等の無線通信端末には、不要な妨害波を除去するフィルタが用いられている。フィルタに、誘電体層を積層させた積層体を有する積層フィルタが知られている。電界めっき工程等により積層体の表面に設けられた端子の厚さが不均一になる。これを抑制するため、一部の端子と直流(DC:Direct Current)電流が導通するめっき用電極を設けることが知られている(例えば特許文献1)。端子にめっき膜を形成した後、端子を接続するショートパターンを切断することが知られている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-39334号公報
【特許文献2】実開平6-52127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2では、端子の厚さを均一化することができる。しかしながら、めっき用電極を設けるため積層体が大型化する。また、ショートパターンの切断のため、工程が増加する。これらにより、フィルタのコストが高くなる。厚さが異ならないように端子間を直流電流が導通する線路を用い接続することが考えられる。しかしながら、線路を介し端子間を高周波信号が漏洩してしまう。このように、端子間を直流電流が導通するように接続し、高周波信号が漏洩しないように線路を設けることが求められる場合がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、端子間の高周波信号の漏洩を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数の誘電体層が積層された積層体と、前記積層体の表面に設けられた入力端子と、前記積層体の表面に設けられた出力端子と、前記積層体内に設けられ、前記入力端子から前記出力端子に高周波信号が伝送される経路と、前記積層体の表面に設けられ、高周波信号が入力および出力しない第1端子と、前記入力端子および前記出力端子のいずれか一方の第2端子と、前記積層体内に設けられ、前記第2端子との間を直流電流が導通するように前記経路内に設けられたノードに一端が接続され、前記第1端子に他端が接続され、通過帯域の中心周波数において前記ノードから前記第1端子を見たインピーダンスは略オープンである線路と、を備えるフィルタである。
【0007】
上記構成において、前記入力端子および前記出力端子のうち前記第2端子でない他方の第3端子と、前記積層体内に設けられ、前記第3端子との間を直流電流が導通するように前記経路内に設けられた別のノードに一端が接続され、前記第1端子に他端が接続され、前記中心周波数において前記別のノードから前記第1端子を見たインピーダンスは略オープンである別の線路と、を備える構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記中心周波数において前記ノードから前記線路を介し前記第1端子を見たインピーダンスは、スミスチャートをオープンの位置の角度を0°かつ外周の動径を1とする極座標で表したとき、角度が+45°以下かつ-45°以上であり、動径が0.8以上かつ1.0以下の範囲に位置する構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記線路は、前記複数の誘電体層のうち隣接する誘電体層の間に設けられた1つの導電体層から形成され、最も近いグランドパターンとで形成されるマイクロストリップ線路を仮定したときの実効比誘電率をεreffとし、前記中心周波数をf0としたとき、長さは、6.18×107×√(εreff)/f0以上かつ1.031×107×√(εreff)/f0以下である線路パターンを備える構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記線路は、前記複数の誘電体層のうち隣接する誘電体層の間に設けられた1つの導電体層から形成され、前記複数の誘電体層の積層する積層方向から見た形状がスパイラル状の部分を含む線路パターンを備える構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記複数の誘電体層の積層する積層方向から見て、前記線路パターンのうちスパイラル状の領域において最も近いグランドパターンと重なる領域の面積は、前記線路パターンのうちスパイラル状の領域の面積の0.3倍以下である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記線路は、前記複数の誘電体層のうち隣接する誘電体層の間に設けられた1つの導電体層から形成され、幅が前記積層体内において高周波信号が伝送する線路パターンの幅のうち最も小さい線路パターンを備える構成とすることができる。
【0013】
本発明は、複数の誘電体層が積層された積層体と、前記積層体の表面に設けられた入力端子と、前記積層体の表面に設けられた出力端子と、前記積層体内に設けられ、前記入力端子から前記出力端子に高周波信号が伝送される経路と、前記積層体の表面に設けられ、高周波信号が入力および出力しない第1端子と、前記入力端子および前記出力端子のいずれか一方の第2端子と、前記積層体内に設けられ、前記第2端子との間を直流電流が導通するように前記経路内に設けられたノードに一端が接続され、前記第1端子に他端が接続され、通過帯域の中心周波数において前記ノードから前記第1端子を見たインピーダンスは、スミスチャートをオープンの位置の角度を0°かつ外周の動径を1とする極座標で表したとき、角度が+45°以下かつ-45°以上であり、動径が0.8以上かつ1.0以下の範囲に位置する線路と、を備えるフィルタである。
【0014】
上記構成において、前記入力端子および前記出力端子のうち前記第2端子でない他方の第3端子と、前記積層体内に設けられ、前記第3端子との間を直流電流が導通するように前記経路内に設けられた別のノードに一端が接続され、前記第1端子に他端が接続され、前記中心周波数において前記別のノードから前記第1端子を見たインピーダンスは、スミスチャートを前記極座標で表したとき、角度が+45°以下かつ-45°以上であり、動径が0.8以上かつ1.0以下の範囲に位置する別の線路と、を備える構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記第1端子と前記第2端子とは、前記線路以外の直流電流が導通する経路を介し接続されていない構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記第2端子の面積は前記第1端子の面積の1/2倍以下または2倍以上である構成とすることができる。
【0017】
上記構成において、前記第1端子はグランド端子である構成とすることができる。
【0018】
本発明は、上記フィルタを含むマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、端子間の高周波信号の漏洩を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1(a)および
図1(b)は、実施例1に係るフィルタの回路図である。
【
図2】
図2(a)および
図2(b)は、実施例1に係るフィルタの斜視図および断面図である。
【
図3】
図3は、実施例1における誘電体層の解体斜視図である。
【
図4】
図4は、実施例1における誘電体層の解体斜視図である。
【
図5】
図5(a)から
図5(c)は、実施例1における各誘電体層の平面図である。
【
図6】
図6(a)から
図6(c)は、実施例1における各誘電体層の平面図である。
【
図7】
図7(a)から
図7(c)は、実施例1における各誘電体層の平面図である。
【
図8】
図8(a)から
図8(c)は、シミュレーション1における各フィルタの通過特性および反射特性を示す図である。
【
図9】
図9(a)から
図9(c)は、フィルタAにおける線路パターンM1aおよびM2aを示す斜視図である。
【
図10】
図10は、フィルタBにおける線路パターンM1aおよびM2aを示す斜視図である。
【
図11】
図11は、シミュレーション2におけるフィルタA~Cの通過特性S21を示す図である。
【
図12】
図12(a)および
図12(b)は、シミュレーション2におけるフィルタA~Cの通過帯域付近におけるそれぞれ通過特性S21および反射特性S11を示す図である。
【
図13】
図13(a)はマイクロストリップ線路の斜視図、
図13(b)は、マイクロストリップ線路の一端から他端をみたインピーダンスのスミスチャートである。
【
図14】
図14は、マイクロストリップ線路の位相に対するフィルタの挿入損失を示す図である。
【
図15】
図15は、線路パターンM1aおよびM2aに対するフィルタBの挿入損失を示す図である。
【
図18】
図18は、実施例2に係るダイプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例0022】
実施例1として、5Gに用いられるバンドパスフィルタ(BPF)を例に説明する。5Gでは、28GHz帯等のミリ波を用いており、通過帯域を6GHz以下とするフィルタであっても、減衰帯域を30GHz付近までとすることが求められている。
【0023】
図1(a)および
図1(b)は、実施例1に係るフィルタの回路図である。
図1(b)は、フィルタ回路F1の例を示す回路図である。
図1(a)に示すように、入力端子Tinに入力した高周波信号は経路40を伝送し出力端子Toutから出力される。経路40にはフィルタ回路F1が設けられている。フィルタ回路F1はBPFである。入力端子Tinとフィルタ回路F1との間に伝送線路R0およびキャパシタC1が設けられている。フィルタ回路F1と出力端子Toutとの間に伝送線路R0およびキャパシタC1が設けられている。伝送線路R0は、入力端子Tinまたは出力端子Toutとフィルタ回路F1とを接続する線路である。キャパシタC1は、高周波信号を通過させ、直流電流を遮断する。
【0024】
経路40内にノードN1およびN2が設けられている。ノードN1は、入力端子Tinに直流的に接続され、出力端子Toutとは直流的には接続されていない。ノードN2は、出力端子Toutに直流的に接続され、入力端子Tinとは直流的には接続されていない。線路M1の一端はノードN1に接続され、他端はグランド端子Tgに接続されている。線路M2の一端はノードN2に接続され、他端はグランド端子Tgに接続されている。線路M1は、ノードN1とグランド端子Tgとの間を直流的に接続し、通過帯域においてノードN1とグランド端子Tgとの間を略オープンとする。線路M2は、ノードN2とグランド端子Tgとの間を直流的に接続し、通過帯域においてノードN2とグランド端子Tgとの間を略オープンとする。
【0025】
図1(b)に示すように、フィルタ回路F1は、伝送線路R1~R3およびキャパシタC2~C5を備えている。フィルタ100は、入力端子Tinと出力端子ToutとがキャパシタC5およびC4に対し対称である。対称なキャパシタC1~C3、伝送線路R0~R3およびノードN3およびN4については同じ符号をつけている。経路40に伝送線路R1、キャパシタC5および伝送線路R1が直列接続されている。伝送線路R1とキャパシタC5との間のノードN3と、ノードN4と、の間にキャパシタC2、伝送線路R2およびキャパシタC3が直列接続されている。ノードN4に伝送線路R3がオープンスタブとして接続されている。ノードN4の間にキャパシタC4が接続されている。なお、フィルタ100は入力端子Tinと出力端子Toutとが非対称でもよい。
【0026】
図2(a)および
図2(b)は、実施例1に係るフィルタの斜視図および断面図である。誘電体層11a~11iの積層方向をZ方向、誘電体層11a~11iの平面方向のうち入力端子Tinと出力端子Toutとの配列方向をX方向、X方向に直交する方向をY方向とする。
【0027】
図2(a)および
図2(b)に示すように、フィルタ100は、積層体10を有している。積層体10は、複数の積層された誘電体層11a~11iを備えている。積層体10には、複数の誘電体層11a~11iが積層されている。積層体10の表面(例えば下面)に端子14が設けられている。端子14は、例えば入力端子Tin、出力端子Toutおよびグランド端子Tgである。グランド端子Tgは、後述するように伝送線路の基準電位面として機能する。このため、グランド端子Tgの面積は、入力端子Tinの面積および出力端子Toutの面積の各々の例えば70倍である。積層体10の上面には、導電体層12aにより方向識別マークが設けられている。端子14は、積層体10の下面に設けられた金属層14aと、金属層14aの下面に設けられた金属層14bと、を備える。
【0028】
図3および
図4は、実施例1における誘電体層の解体斜視図である。
図5(a)から
図7(c)は、実施例1における各誘電体層の平面図である。
図5(a)~
図7(b)は、誘電体層11b~11iの上面における導電体層およびビア配線を示している。
図7(c)は、誘電体層11iを上方から透過した誘電体層11iの下面における端子14および誘電体層11iを貫通するビア配線13iを示している。
図3~
図7(b)において、誘電体層11c~11iの上面には、1つ上の誘電体層11b~11hを貫通するビア配線13b~13hを図示する。
【0029】
図3に示すように、誘電体層11aの上面には方向識別マークを形成する導電体層12aが設けられている。
図3および
図5(a)に示すように、誘電体層11bの上面にはグランドパターンGaを形成する導電体層12bが設けられている。
図3および
図5(b)に示すように、誘電体層11cの上面には、電極C4aを形成する導電体層12cが設けられている。誘電体層11bを貫通するビア配線13bは、ビア配線群16b~16gを形成する。
【0030】
図3および
図5(c)に示すように、誘電体層11dの上面には線路パターンR1a、R2aおよびR3aを形成する導電体層12dが設けられている。線路パターンR1aの一方の端部は電極C1aに相当し、他方の端部は電極C2aに相当する。線路パターンR2aの一方の端部は電極C2aに相当し、他方の端部は電極C3aに相当する。線路パターンR3aの一方の端部は電極C3aおよびC4bに相当する。誘電体層11cを貫通するビア配線13cは、ビア配線群16b~16gを形成する。
【0031】
図3および
図6(a)に示すように、誘電体層11eの上面には電極C1bおよびC2bを形成する導電体層12eが設けられている。誘電体層11dを貫通するビア配線13dは、ビア配線群16b~16gを形成する。
図4および
図6(b)に示すように、誘電体層11fの上面には電極C3bを形成する導電体層12fが設けられている。誘電体層11eを貫通するビア配線13eの一部は、ビア配線群16b~16gを形成する。ビア配線13eの一部は、ビア配線15aである。
【0032】
図4および
図6(c)に示すように、誘電体層11gの上面には線路パターンR0aを形成する導電体層12gが設けられている。誘電体層11fを貫通するビア配線13fの一部は、ビア配線群16b~16gを形成する。ビア配線13fの一部は、ビア配線15aである。
【0033】
図4および
図7(a)に示すように、誘電体層11hの上面には線路パターンM1aおよびM2aを形成する導電体層12hが設けられている。誘電体層11gを貫通するビア配線13gの一部は、ビア配線群16b~16gを形成する。ビア配線13gの一部は、ビア配線15bおよび15cである。
【0034】
図4および
図7(b)に示すように、誘電体層11iの上面には線路パターンM1b、M2bおよびグランドパターンGb~Ggを形成する導電体層12iが設けられている。誘電体層11hを貫通するビア配線13hの一部は、ビア配線群16b~16gを形成する。ビア配線13hの一部は、ビア配線15b~15gである。
【0035】
図4および
図7(c)に示すように、誘電体層11iの下面には入力端子Tin、出力端子Toutおよびグランド端子Tgを含む端子14が設けられている。誘電体層11iを貫通するビア配線13iの一部は、ビア配線群16b~16gを形成する。ビア配線13iの一部は、ビア配線15b、15c、15fおよび15gである。
【0036】
ビア配線群16b~16fは、誘電体層11b~11iを貫通し、グランド端子TgとグランドパターンGaとを電気的に接続する。また、ビア配線群16b~16fは、
図5(c)の誘電体層11dのように導電体層12d間に設けられており、導電体層12d間の電磁界結合を抑制する。
【0037】
誘電体層11dを挟む電極C1aとC1bとはキャパシタC1を形成する。誘電体層11dを挟む電極C2aとC2bとはキャパシタC2を形成する。誘電体層11dおよび11eを挟む電極C3aとC3bとはキャパシタC3を形成する。誘電体層11cを挟む電極C4aとC4bとはキャパシタC4を形成する。誘電体層11d上の線路パターンR1aの間はキャパシタC5を形成する。
【0038】
ビア配線15aは、線路パターンR0aの一方の端部と電極C1bとを電気的に接続する。ビア配線15bは、線路パターンR0aの他方の端部および線路パターンM1bの一方の端部を入力端子Tinに電気的に接続する。ビア配線15cは、線路パターンR0aの他方の端部および線路パターンM2bの一方の端部を出力端子Toutに電気的に接続する。ビア配線15dは線路パターンM1bの他方の端部と線路パターンM1aの一方の端部を電気的に接続する。ビア配線15eは線路パターンM2bの他方の端部と線路パターンM2aの一方の端部を電気的に接続する。ビア配線15fは線路パターンM1aの他方の端部をグランド端子Tgに電気的に接続する。ビア配線15gは線路パターンM2aの他方の端部をグランド端子Tgに電気的に接続する。
【0039】
線路パターンR1a~R3aと主にグランドパターンGaとは伝送線路R1~R3をそれぞれ形成する。線路パターンM1a、M1b、ビア配線15dおよび15fは主に線路M1を形成する。線路パターンM2a、M2b、ビア配線15eおよび15gは主に線路M2を形成する。
【0040】
誘電体層11a~11iは、セラミック材料からなり、主成分として例えばSi、CaおよびMgの酸化物(例えばディオプサイド結晶であるCaMgSi2O6)を含む。誘電体層11aから11iの主成分は、Si、Caおよび/またはMg以外の酸化物でもよい。さらに、誘電体層11a~11iは、絶縁体材料としてTi、ZrおよびAlの少なくとも1つの酸化物を含んでもよい。
【0041】
導電体層12a~12i、ビア配線13b~13iおよび端子14のうち金属層14aは、例えばAg、Pd、Pt、Cu、Ni、Au、Au-Pd合金またはAg-Pt合金を主成分とする金属層である。金属層14aは、上記金属材料に加えTiO2、ZrO2またはAl2O3等の不伝導性材料を含んでもよい。端子14のうち金属層14bは、Ni膜およびSn膜である。
【0042】
導電体層12a~12iおよび金属層14aは、各誘電体層11a~11iの表面にスクリーン印刷法または転写法を用い形成する。誘電体層11a~11iを積層し圧着することにより、板状の積層体が形成される。板状の積層体を個片化することで、積層体10を形成する。この段階の積層体10には金属層14bは形成されていない。
【0043】
積層体10への金属層14bの形成には例えばバレルめっき法を用いる。バレルめっき法では、積層体10と導電性の金属粒(メディア)をめっき液に浸す。めっき液を攪拌しながらめっき液に電流を流す。これにより、金属層14aの表面にめっき金属が析出する。電流は、メディアが積層体10の金属層14aに接触したときに流れめっき金属が析出する。金属層14aの面積が大きいと、金属層14aがメディアに接触する確率が高くなる。これにより、めっき金属の析出量が多くなる。このように、めっき金属の析出量は、金属層14aの面積に依存する。金属層14bは、例えば金属層14a側からNi膜およびSn膜である。Sn膜は、電子部品をマザーボード等に実装するための半田層であり、Ni膜は、半田層と金属層14aとの間の相互拡散を抑制するためのバリア層である。
【0044】
図2(a)のように、グランド端子Tgの面積が入力端子Tinの面積および出力端子Toutの面積より大きい。このため、経路40と入力端子Tinおよび出力端子Toutとが直流的に接続されていない場合、グランド端子Tgに比べ入力端子Tinおよび出力端子Toutが薄くなる。これにより、コプラナリティが悪化する。よって、フィルタ100を実装基板に実装したときに、入力端子Tinおよび出力端子Toutと実装基板との接合が弱くなってしまう。
【0045】
実施例1では、線路M1およびM2を設けることで、グランド端子Tgと入力端子Tinおよび出力端子Toutを直流的に接続する。これにより、めっき法を用い金属層14bを形成するときに、グランド端子Tgと入力端子Tinおよび出力端子Toutはほぼ同電位となる。よって、グランド端子Tgと入力端子Tinおよび出力端子Toutにおける金属層14bの厚さをほぼ同じにできる。一方、高周波信号では線路M1およびM2をほぼオープンとする。これにより、経路40からグランド端子Tgに漏れる高周波信号を抑制でき、フィルタ特性の劣化を抑制できる。線路M1およびM2について以下に説明する。
【0046】
[シミュレーション1]
まず、線路M1およびM2を設けない比較例であるフィルタCについて、通過特性S21および反射特性S11をシミュレーションした。誘電体層11a~11iの比誘電率εrを5、10および15に設定した。比誘電率が5、10および15のときのキャパシタC1~C5のキャパシタンスの概略値を表1に示す。
【表1】
【0047】
比誘電率が5、10および15の伝送線路R1~R3を形成する線路パターンR1a~R3aの幅Wおよび長さLを表2に示す。
【表2】
【0048】
シミュレーション1では、表1および表2の値を用い、回路シミュレーションを行った。
図8(a)から
図8(c)は、シミュレーション1における各フィルタの通過特性S21および反射特性S11を示す図である。
図8(a)から
図8(c)は、それぞれ比誘電率εrが5、10および15のときの通過特性および反射特性である。
【0049】
図8(a)から
図8(c)に示すように、通過帯域Passが27GHz~30GHzとなるように、キャパシタC1~C5のキャパシタンス、線路パターンR1a~R3aの幅Wおよび長さLを設定した。比誘電率εrを5、10および15と変化させても、通過帯域Pass、通過帯域Passより低い減衰域、および通過帯域Passより高い減衰域における通過特性S21および反射特性S11は、ほとんど変わらない。なお、シミュレーション1は表1、2の概算値を用いた回路シミュレーションであり、後述するシミュレーション2の3次元電磁界シミュレーションに比べると精度は低い。
【0050】
[シミュレーション2]
シミュレーション1により、誘電体層11a~11iにおける比誘電率εrを5、10、15と変えても、フィルタの通過特性S21および反射特性S11はほとんど変わらない。そこで、比誘電率εrを10に設定して、シミュレーション1より精度の高い有限要素法を用い3次元電磁界シミュレーション2を行った。シミュレーション2は、フィルタA~Cについて行った。
【0051】
フィルタAは、線路M1およびM2としてスパイラルインダクタを含むフィルタである。フィルタBは、線路M1およびM2として伝送線路を含むフィルタである。フィルタCは、線路M1およびM2を備えず、入力端子Tinとグランド端子Tgとが直流的に接続されておらず、出力端子Toutとグランド端子Tgとが直流的に接続されていないフィルタである。フィルタAおよびBは実施例1のフィルタであり、フィルタCは比較例のフィルタである。
【0052】
図9(a)から
図9(c)は、フィルタAにおける線路パターンM1aおよびM2aを示す斜視図である。
図9(a)では、誘電体層11hの上面における線路パターンM1aおよびM2aを示す斜視図であり、
図9(b)は、線路パターンM1aの拡大斜視図、
図9(c)は、線路パターンM2aの拡大斜視図である。
図9(a)から
図9(c)に示すように、線路パターンM1aおよびM2aの平面形状はスパイラル形状(渦巻形状)である。スパイラル形状では、隣接する線路における電流の流れる方向が同じである。このため、インダクタンスが大きくなる。線路パターンM1aおよびM2aの最短距離の長さをL、幅をWおよび厚さをtとする。
【0053】
図10は、フィルタBにおける線路パターンM1aおよびM2aを示す斜視図である。
図10に示すように、線路パターンM1aおよびM2aの平面形状は直線状である。線路パターンM1aおよびM2aとグランド端子Tgとはマイクロストリップ線路を形成する。線路パターンM1aおよびM2aの最短距離の長さをL、幅をWおよび厚さをtとする。
【0054】
キャパシタC1~C5のキャパシタンスの概算値を、表1の比誘電率εrが10における値に設定した。線路パターンR1a~R3aの幅Wおよび長さLを、表2の比誘電率εrが10における値に設定した。
【0055】
線路パターンR1a~R3aの厚さは8μm、線路パターンR1a~R3aとグランドパターンGaとの間の誘電体層11bおよび11cの合計の厚さは300μmである。
【0056】
フィルタAでは、線路パターンM1aおよびM2aの幅Wは25μm、長さLは1200μm、厚さtは8μm、線路パターンM1aおよびM2aとグランド端子Tgとの間の誘電体層11hおよび11iの合計の厚さは35μmである。
【0057】
フィルタBでは、線路パターンM1aおよびM2aの幅Wは25μm、長さLは1071μm、厚さtは8μm、線路パターンM1aおよびM2aとグランド端子Tgとの間の誘電体層11hおよび11iの合計の厚さは35μmである。
【0058】
図11は、シミュレーション2におけるフィルタA~Cの通過特性S21を示す図である。
図12(a)および
図12(b)は、シミュレーション2におけるフィルタA~Cの通過帯域付近におけるそれぞれ通過特性S21および反射特性S11を示す図である。
【0059】
図11から
図12(b)に示すように、フィルタA~Cにおける通過帯域PassをS21が-3dB以上(すなわち挿入損失が3dB以下)の範囲とすると、通過帯域Passは26.4GHz~30.6GHzであり、通過帯域Passの中心周波数f0は25.5GHzである。通過帯域Passにおける通過特性S21および反射特性S11はほとんど変わらない。S21はほぼ平坦な27.45GHz~29.55GHzの間において、最も大きい挿入損失は以下である。
フィルタA:1.523dB
フィルタB:1.600dB
フィルタC:1.517dB
フィルタAおよびBとも最大の挿入損失は比較例のフィルタCの挿入損失とほぼ同じである。より詳細には、フィルタAの挿入損失はフィルタCと同程度であるが、フィルタBの挿入損失はフィルタCの挿入損失より0.08dB大きい。
【0060】
図11のように、20GHz以下および35GHz~50GHzの減衰特性は、フィルタCが最もよく、フィルタAはフィルタCの次によく、フィルタBは最も悪い。
【0061】
フィルタBにおける線路パターンM1aおよびM2aの幅および長さの最適化について説明する。
図13(a)はマイクロストリップ線路の斜視図、
図13(b)は、マイクロストリップ線路の一端から他端をみたインピーダンスのスミスチャートである。
図13(b)は、マイクロストリップ線路の一端から他端をみたS11に相当する。
【0062】
図13(a)に示すように、マイクロストリップ線路41では、誘電体層42の下面の全面にグランドパターン43が設けられ、誘電体層42の上面に線路パターン44が設けられている。誘電体層42の厚さをH、線路パターン44の幅をW、長さをL、厚さをtとする。マイクロストリップ線路41の長さLを通過帯域Passの中心周波数f0における波長λの1/4とすると、マイクロストリップ線路41のインピーダンスは無限大となり、オープンとなる。
【0063】
図13(b)に示すように、長さLがλ/4のマイクロストリップ線路41におけるインピーダンスはスミスチャートのオープンの位置45となる。スミスチャートを極座標で表し、中心46(標準インピーダンスとなる点)の動径を0とし、外周の動径を1とする。オープンの位置45を基準に反時計方向を角度とする。中心46の極座標は(0、0°)であり、オープンの位置45の極座標は(1、0°)である。任意の点Qの極座標は(r、θ)である。
【0064】
マイクロストリップ線路41を線路M1およびM2として、フィルタの挿入損失をシミュレーションした。シミュレーションしたマイクロストリップ線路41では、線路パターン44の幅Wは88μm、厚さtは8μm、誘電体層42の厚さHは100μm、比誘電率は10である。
【0065】
図14は、マイクロストリップ線路41の位相に対するフィルタの挿入損失を示す図である。
図14の横軸は、マイクロストリップ線路41の長さLを中心周波数f0の位相で表している。位相が0°は長さLが中心周波数f0における波長λの1/4であることを示している。位相が-45°は、長さLがλ/4-λ/16であることを示している。位相が+45°は、長さLがλ/4+λ/16であることを示している。
図14の縦軸は挿入損失[%]である。挿入損失[%]は、27.45GHz~29.55GHzにおいて最も大きな挿入損失をdB表示でなくパワーで表し、長さLがλ/4(位相が0°)のときの挿入損失を100%としたときの、長さLが各位相のときの挿入損失を%で表したものである。例えば、長さLがλ/4のときの挿入損失が-1.6dBのとき、パワー表記の挿入損失は10
(-1.6/10)=0.692である。挿入損失[%]が90%のとき、パワー表記の挿入損失は0.692×0.9=0.623であり。dB表記の挿入損失は10×log(0.623)=-2.06dBである。黒丸はシミュレーションした点を示し、曲線は黒丸をつなぐ線である。
【0066】
図14に示すように、位相が0°から外れると挿入損失[%]は劣化する。これは、長さLがλ/4から外れると、
図13(b)のスミスチャートにおけるインピーダンスの位置は、オープンの位置45である(1、0°)から角度がずれる。このため、経路40から高周波信号がグランド端子Tgに漏れてしまうためと考えられる。
図14のように、挿入損失[%]を85%程度以上としようとすると、位相は0°±22.5°の範囲47になる。マイクロストリップ線路41における位相22.5°は、
図13(b)のスミスチャートでは角度が45°に相当する。
【0067】
フィルタBにおける線路パターンM1aおよびM2aをマイクロストリップ線路41に相当するとし、線路パターンM1aおよびM2aの幅Wを変えてフィルタBの挿入損失をシミュレーションした。
図15は、線路パターンM1aおよびM2aに対するフィルタBの挿入損失を示す図である。
図15の横軸は、線路パターンM1aおよびM2aの幅Wである。縦軸は、フィルタCのパワー表記の挿入損失を100%としたときの挿入損失を%で示している。線路パターンM1aおよびM2aの長さLを1150μmとした。長さL=1150μmは、長さLを変えフィルタBの挿入損失が最も小さな長さLである。黒丸はフィルタBのシミュレーション点を示す。白丸は後述するフィルタAの挿入損失を示す。
【0068】
図15に示すように、線路パターンM1aおよびM2aの幅Wが小さくなると挿入損失[%]は小さくなる(すなわち挿入損失が劣化する)。これは、幅Wが小さくなるとマイクロストリップ線路41の特性インピーダンスが大きくなるためと考えられる。線路M1およびM2が理想的なλ/4線路から外れた場合に、特性インピーダンスが大きければ高周波信号が経路40からグランド端子Tgに線路M1およびM2を介し漏れにくくなる。このため、幅Wの小さい方が挿入損失を抑制できると考えられる。線路パターンM1aおよびM2aの幅Wを小さくすると製造ばらつきが大きくなる。この観点から、
図10~
図12(b)のフィルタBでは、線路パターンM1aおよびM2aの幅Wを25μmとしている。
【0069】
フィルタAでは、挿入損失はほぼ100%である。この理由は、線路パターンM1aおよびM2aをスパイラル形状とすることで、線路パターンM1aおよびM1bの自己インダクタンスが大きくなる。これにより、線路M1およびM2のインピーダンスが大きくなる。よって、高周波信号が経路40からグランド端子Tgに線路M1およびM2を介し漏れにくくなると考えられる。このように、フィルタAはフィルタBより挿入損失が小さくなる。
【0070】
次に、フィルタAにおいて、平面視において、線路パターンM1aおよびM2aのスパイラル領域がグランド端子Tgに重なる面積を変えて、フィルタAにおける挿入損失をシミュレーションした。
図16(a)および
図16(b)は、線路パターンM1aと端子との平面図である。
図16(a)および
図16(b)に示すように、グランド端子Tgと入力端子Tinが設けられている。線路パターンM1aは一部がグランド端子Tgに重なっている。線路パターンM1aのうちスパイラル状の領域をスパイラル領域48とする。スパイラル領域48は、線路パターンM1aが渦巻く領域である。
図16(a)では、スパイラル領域48の線路パターンM1aのうち一部がグランド端子Tgに重なる。スパイラル領域48内の線路パターンM1aの面積に対するスパイラル領域48内の線路パターンM1aのうちグランド端子Tgに重なる面積の比を面積比[%]とする。
図16(b)では、スパイラル領域48内の線路パターンM1aはグランド端子Tgに重なっておらず、面積比は0%である。
【0071】
図17は、面積比に対する挿入損失[%]を示す図である。
図17の横軸は、スパイラル領域48内の線路パターンM1aおよびM2aの面積に対するグランド端子Tgに重なるスパイラル領域48内の線路パターンM1aおよびM2aの面積比である。縦軸は、面積比が0%のときのフィルタAの挿入損失を100%としたときの挿入損失を%で示している。線路パターンM1aおよびM2aの長さLを1200μmとした。黒丸はシミュレーション点を示す。
【0072】
図17に示すように、面積比が20%以下では挿入損失はほぼ100%である。面積比が30%を越えると挿入損失が急激に悪化する。これは、スパイラル形状では、線路パターンM1aおよびM2aとグランド端子Tgとが重なると、線路パターンM1aおよびM2aとグランド端子Tgとの間のキャパシタンス成分が大きくなる。これにより、経路40からグランド端子Tgに高周波信号が漏れてしまうためと考えられる。
【0073】
実施例1によれば、ノードN1は、入力端子Tin(第2端子)との間を直流電流が導通するように経路40内に設けられている。線路M1は、一端がノードN1に接続され、他端がグランド端子Tg(第1端子)に接続されている。線路M1は、通過帯域Passの中心周波数f0においてノードN1からグランド端子Tgを見たインピーダンスが略オープンである。これにより、入力端子Tinとグランド端子Tgとの間は直流電流が導通するように接続される。よって、電界めっき法を用い金属層14bを形成するときに、金属層14bの厚さが入力端子Tinとグランド端子Tgとの間で異なり、コプラナリティが悪化することを抑制できる。また、中心周波数f0において線路M1は略オープンのため、経路40からグランド端子Tgに漏れる高周波信号を抑制でき、通過帯域の挿入損失を抑制できる。第1端子は、グランド端子Tgでなくてもよく、高周波信号が入力および出力しない端子であればよい。この場合でも経路40から第1端子に高周波信号が漏れることを抑制できる。
【0074】
線路M2(別の線路)は、一端が出力端子Tout(第3端子)との間を直流電流が導通するように経路40内に設けられたノードN2(別のノード)に接続され、他端がグランド端子Tgに接続されている。線路M2は、中心周波数f0においてノードN2からグランド端子Tgを見たインピーダンスが略オープンである。これにより、金属層14bの厚さが出力端子Toutとグランド端子Tgとの間で異なり、コプラナリティが悪化することを抑制できる。また、通過帯域の挿入損失を抑制できる。線路M1およびM2は少なくとも一方が設けられていればよい。すなわち、入力端子Tinおよび出力端子Toutのいずれか一方が第2端子であり、他方が第3端子であればよい。
【0075】
なお、金属層14bの厚さが端子14の面積によって異なることを抑制するために、ノードN1およびN2とグランド端子Tgとを直流電流が導通するように接続する場合を説明したが、その他の理由によりノードN1およびN2とグランド端子Tgとを直流電流が導通する場合においても、略オープンとなる線路M1およびM2を設けることで、端子間の高周波信号の漏洩を抑制できる。
【0076】
線路M1およびM2のインピーダンスが略オープンとは、中心周波数f0の信号が線路M1およびM2を介しグランド端子Tgに漏れ、挿入損失が劣化することのない程度にオープンであればよい。このようなインピーダンスの条件としては、
図13(b)のように、ノードN1(およびN2)から線路M1(およびM2)を介しグランド端子Tgを見たインピーダンスが、スミスチャートをオープンの位置の角度を0°かつ外周の動径を1とする極座標で表したとき、角度が+45°以下かつ-45°以上であり、動径が0.8以上かつ1.0以下の範囲49に位置する。線路M1およびM2のインピーダンスを略オープンとするため、角度は+22.5°以下かつ-22.5°以上がより好ましい。動径は0.9以上が好ましく、0.95以上がより好ましく、0.98以上がさらに好ましい。
【0077】
入力端子Tin(および出力端子Tout)とグランド端子Tgとは、線路M1(およびM2)以外の直流電流が導通する経路を介し接続されていない。このとき、電界めっき法を用いるときに入力端子Tin(および出力端子Tout)とグランド端子Tgとが導通しないため、金属層14bの厚さが異なる。よって、線路M1およびM2を設けることが好ましい。
【0078】
入力端子Tin(および出力端子Tout)の面積がグランド端子Tgの面積の1/2倍以下または2倍以上であるとき、金属層14bの厚さの差が大きくなる。よって、線路M1(およびM2)を設けることが好ましい。入力端子Tin(および出力端子Tout)の面積がグランド端子Tgの面積の1/5倍以下または5倍以上であるとき、金属層14bの厚さの差はより大きくなり、入力端子Tin(および出力端子Tout)の面積がグランド端子Tgの面積の1/10倍以下または10倍以上であるとき、金属層14bの厚さの差はさらに大きくなる。よって、線路M1(およびM2)を設けることが好ましい。
【0079】
線路M1およびM2の電気長を中心周波数f0の波長λの1/4とすれば、線路M1およびM2は略オープンとなる。真空中では、光速をcとすると、波長λ=c/f0である。誘電体層の比誘電率をεrとすると、誘電体層中では波長λ=c/(f0×√εr)である。線路M1およびM2がマイクロストリップ線路41では、実効比誘電率は誘電体層の比誘電率εrより小さくなり、λ=c/(f0×√εreff)である。さらに、積層体10内では、理想的なマイクロストリップ線路41でなく、上方にグランドパターンGaが存在し、側方にグランド端子TgとグランドパターンGaに接続されたビア配線群16b~16gが存在する。さらに、積層方向から見ると、線路パターンM1aおよびM2bとグランド端子Tgとは重ならない領域もある。
【0080】
また、線路M1は導電体層12hから形成される線路パターンM1aと導電体層12iから形成される線路パターンM1bとから形成されている。線路M2は導電体層12hから形成される線路パターンM2aと導電体層12iから形成される線路パターンM2bとから形成されている。これらを踏まえ、線路M1およびM2を略オープンとするため、線路パターンM1aおよびM2aの好ましい長さ等について考察する。
【0081】
まず、線路パターンM1aの長さが、線路パターンM1aおよびM1bの合計の長さの2/3以上(好ましくは3/4以上)であれば、線路M1およびM2のほとんどは線路パターンM1aおよびM2aと考えられる。さらに、数式1より、線路パターンM1aの幅Wが線路M1を形成する線路パターンM1aおよびM1bの幅のうち最も小さく、線路パターンM1aは、線路パターンM1aおよびM1bのうち最もグランド端子Tgから遠い(すなわち誘電体層42の厚さHが最も大きい)場合、線路パターンM1aの実効比誘電率は線路パターンM1bの実効比誘電率より大きくなる。線路パターンM1aとM1bとの物理的長さが同じであれば線路パターンM1aの方の電気長が大きくなる。よって、線路パターンM1aの電気長は線路M1の電気長に近くなる。線路パターンM2aについても同様である。
【0082】
線路パターンM1aについて、グランドパターンGaとグランド端子Tgのうち線路パターンM1aに最も近いグランド端子Tgとのマイクロストリップ線路を仮定する。このとき、実効比誘電率εreffは数式1で表される。
【数1】
Wは線路パターンM1aの幅、tは線路パターンM1aの厚さ、Hは、線路パターンM1aとグランド端子Tgとの間の誘電体層11hおよび11iの合計の厚さ、εrは誘電体層11hおよび11iの比誘電率である。
【0083】
フィルタAについて、W=25μm、t=8μmおよびH=35μm、εr=10とすると、実効比誘電率εreffは約6.0375である。中心周波数f0を28.5GHzとしたとき、λ/4=1/4×c/(f0×√εreff)=1071μmとなる。フィルタAにおいて、最も挿入損失が小さくなる線路パターンM1aおよびM2aの長さLは1200μmであり、フィルタBにおいて、最も挿入損失が小さくなる線路パターンM1aおよびM2aの長さLは1150μmである。このように、線路パターンM1aおよびM2aを理想的なマイクロストリップ線路41と仮定して算出したλ/4に比べ、フィルタAの線路パターンM1aおよびM2aの長さLは、1200/1071=1.120倍であり、フィルタBの線路パターンM1aおよびM2aの長さLは、1150/1071=1.074倍である。
【0084】
線路パターンM1aおよびM2aの長さと理想的なマイクロストリップ線路41を仮定して算出される長さの差は、上述のグランドパターンGa、ビア配線群16b~16gおよび線路パターンM1bおよびM2bの影響と考えられるが、一般的なフィルタの積層体10でも同様の影響が生じると考えられる。そこで、線路パターンM1aおよびM2aの長さLを理想的なマイクロストリップ線路41を仮定して算出される長さの1.1倍とし、線路パターンM1aおよびM2aの長さLがλ/4±λ/16となる範囲を線路M1およびM2が略オープンとなる範囲とする。
【0085】
このように、線路パターンM1aとグランド端子Tg(最も近いグランドパターン)とで形成されるマイクロストリップ線路41を仮定したときの実効比誘電率をεreff1とし、通過帯域Passの中心周波数をf0[Hz]としたとき、線路パターンM1aの長さL[m]は、1.1×3/16×c/(f0×√εreff1)=6.18×107/(f0×√εreff1)以上かつ1.1×5/16×c/(f0×√εreff1)=1.031×108/(f0×√εreff1)以下が好ましい。線路パターンM1aの長さL[m]は、1.1×7/32×c/(f0×√εreff1)=7.22×107/(f0×√εreff1)以上かつ1.1×9/32×c/(f0×√εreff1)=9.28×107/(f0×√εreff1)以下がより好ましい。
【0086】
同様に、線路パターンM2aとグランド端子Tgとで形成されるマイクロストリップ線路41を仮定したときの実効比誘電率をεreff2とし、通過帯域Passの中心周波数をf0[Hz]としたとき、線路パターンM2aの長さL[m]は、6.18×107/(f0×√εreff2)以上かつ1.031×108/(f0×√εreff2)以下が好ましい。線路パターンM2aの長さL[m]は、7.22×107/(f0×√εreff2)以上かつ9.28×107/(f0×√εreff2)以下がより好ましい。
【0087】
図9(a)から
図9(c)のように、線路パターンM1aおよびM2aの平面形状の少なくとも一部の形状はスパイラル状である。これにより、フィルタAのように、挿入損失をより抑制できる。
【0088】
図17のように、積層方向から見て、線路パターンM1aのうちスパイラル領域48においてグランド端子Tgと重なる領域の面積は、線路パターンM1aのうちスパイラル領域48の面積の0.3倍以下であることが好ましく、0.2倍以下であることがより好ましい。線路パターンM2aのうちスパイラル領域48においてグランド端子Tgと重なる領域の面積は、線路パターンM2aのうちスパイラル領域48の面積の0.3倍以下であることが好ましく、0.2倍以下であることがより好ましい。これにより、フィルタAの挿入損失をより抑制できる。
【0089】
図15のように、線路パターンM1aおよびM2aの幅Wを小さくすると、フィルタBの挿入損失を抑制できる。線路パターンM1aおよびM2aの幅Wを、複数の導電体層12a~12iにより形成され、高周波信号が伝送する線路パターンR0a~R3a、M1a、M1b、M2aおよびM2bの幅のうち最も小さくする。これにより、フィルタAおよびBの挿入損失をより抑制できる。線路パターンM1aおよびM2aの幅Wは、線路パターンR0a~R3aのうち最も小さい幅(D0aの幅は150μm)の1/2以下が好ましく、1/5以下がより好ましい。線路パターンM1aおよびM2aの幅Wは、50μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましい。幅Wの製造ばらつきを抑制する観点から、幅Wは5μm以上が好ましい。
【0090】
フィルタとして、バンドパスフィルタを例に説明したが、通過帯域Passの中心周波数f0を定義できれば、ローパスフィルタまたはハイパスフィルタでもよい。
フィルタ22を実施例1のフィルタとすることができる。マルチプレクサの例としてダイプレクサの例を説明したが、マルチプレクサはトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。