(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144676
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】感染リスク評価支援装置及び感染リスク評価支援プログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 50/80 20180101AFI20231003BHJP
【FI】
G16H50/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051776
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大渕 正博
(72)【発明者】
【氏名】天野 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】千葉 友樹
(72)【発明者】
【氏名】野村 佳緒里
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA00
(57)【要約】
【課題】医療施設の建設前の段階においても感染症に対する感染リスクの評価を支援することができる感染リスク評価支援装置及びプログラムを得る。
【解決手段】感染リスク評価支援装置10は、建物の設計条件に関する設計条件関連情報、評価対象とする感染症に関する感染症関連情報、建物において換気及び空気清浄の少なくとも一方を行うために適用する設備のコストに関する設備コスト関連情報、及び設備により換気及び空気清浄の少なくとも一方が行われる空気量に関する空気量関連情報を取得する取得部11Aと、取得した情報を用いて、設備の適用数、換気及び空気清浄の少なくとも一方が行われる空気量、建物の設計条件の少なくとも1つについて異なる複数の条件を適用した場合の各々における、建物での感染症による感染リスク情報及び設備の導入に要する導入コスト情報を導出する導出部11Bと、導出した情報を提示する提示部11Cと、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象とする建物の設計条件に関する設計条件関連情報、評価対象とする感染症に関する感染症関連情報、前記建物において換気及び空気清浄の少なくとも一方を行うために適用する設備のコストに関する設備コスト関連情報、及び前記設備により換気及び空気清浄の少なくとも一方が行われる空気量に関する空気量関連情報を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された情報を用いて、前記設備の適用数、前記換気及び空気清浄の少なくとも一方が行われる空気量、及び前記建物の設計条件の少なくとも1つについて異なる複数の条件を適用した場合の各々における、前記建物の内部での前記感染症による感染リスクを示す感染リスク情報、及び前記設備の導入に要するコストを示す導入コスト情報を導出する導出部と、
前記導出部によって導出された前記感染リスク情報及び前記導入コスト情報を提示する提示部と、
を備えた感染リスク評価支援装置。
【請求項2】
前記設計条件関連情報は、前記建物に設けられた部屋の容積、当該部屋における感染者の利用に供するための病床の数、及び当該部屋に入室する医療従事者の数の少なくとも1つを含み、
前記感染症関連情報は、quanta生成率を含み、
前記設備コスト関連情報は、前記設備の価格、前記設備の設置費用、及び前記設備のランニングコストの少なくとも1つを含み、
前記空気量関連情報は、単位時間当たりの外気による換気回数、及び単位時間当たりの循環による換気回数の少なくとも一方を含む、
請求項1に記載の感染リスク評価支援装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記感染リスク情報及び前記導入コスト情報の何れの情報を優先するかを示す優先情報を更に取得し、
前記提示部は、前記取得部によって取得された優先情報が示す情報について、昇順又は降順に並べた状態で、前記感染リスク情報及び前記導入コスト情報を提示する、
請求項1又は請求項2に記載の感染リスク評価支援装置。
【請求項4】
評価対象とする建物の設計条件に関する設計条件関連情報、評価対象とする感染症に関する感染症関連情報、前記建物において換気及び空気清浄の少なくとも一方を行うために適用する設備のコストに関する設備コスト関連情報、及び前記設備により換気及び空気清浄の少なくとも一方が行われる空気量に関する空気量関連情報を取得し、
取得した情報を用いて、前記設備の適用数、前記換気及び空気清浄の少なくとも一方が行われる空気量、及び前記建物の設計条件の少なくとも1つについて異なる複数の条件を適用した場合の各々における、前記建物の内部での前記感染症による感染リスクを示す感染リスク情報、及び前記設備の導入に要するコストを示す導入コスト情報を導出し、
導出した前記感染リスク情報及び前記導入コスト情報を提示する、
処理をコンピュータに実行させるための感染リスク評価支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染リスク評価支援装置及び感染リスク評価支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な蔓延もあり、医療施設における感染症に対する感染リスクを精度よく評価する技術が要望されている。
【0003】
従来、感染症に対する感染リスクの評価に寄与することのできる技術として、次の技術があった。
【0004】
特許文献1には、施設内の環境状態をモニタリングして環境状態に起因する疾病の発生の危険性を把握することを目的とした施設内監視システムが開示されている。
【0005】
この施設内監視システムは、施設内の複数の区画の位置を示した区画配置図を表示する表示部と、前記区画毎に設けられ、疾病の発生の危険度と関連する環境パラメータを計測するセンサと、を備える。また。この施設内監視システムは、前記センサから出力される前記環境パラメータの計測値に基づいて、各区画における疾病の発生の危険度を表す環境状態を前記区画配置図に識別可能に表示させる表示データを生成する制御部と、を備える。
【0006】
また、特許文献2には、施設内で計測された環境データの他に、市中感染状況を含んだ疫学データを入力情報(数理モデルに使用する入力パラメータ)として取り込んで一元化し、感染リスクを確率的に定量化することを目的とした感染リスク定量化方法が開示されている。
【0007】
この感染リスク定量化方法は、施設内の少なくとも1つの区画の感染リスクを評価する感染リスク定量化方法であって、前記区画内のCO2濃度を計測しつつ、前記施設外のCO2濃度を計測する計測工程と、疫学データ閲覧サイトから、少なくとも1つの感染症に関する前記施設の属する地域の感染者報告数nrを随時取得する工程と、前記区画内のCO2濃度及び前記施設外のCO2濃度を含む数理モデルを用いて前記区画での感染確率Pを随時導出する工程と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-79136号公報
【特許文献2】特許第6967329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示されている技術は、医療施設の稼働時においては利用することができるものの、医療施設の計画段階や、設計段階等の建設前の段階において感染リスクの評価を支援することができない、という問題点があった。
【0010】
本開示は、以上の事情を鑑みて成されたものであり、医療施設の建設前の段階においても感染症に対する感染リスクの評価を支援することができる感染リスク評価支援装置及び感染リスク評価支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の本発明に係る感染リスク評価支援装置は、評価対象とする建物の設計条件に関する設計条件関連情報、評価対象とする感染症に関する感染症関連情報、前記建物において換気及び空気清浄の少なくとも一方を行うために適用する設備のコストに関する設備コスト関連情報、及び前記設備により換気及び空気清浄の少なくとも一方が行われる空気量に関する空気量関連情報を取得する取得部と、前記取得部によって取得された情報を用いて、前記設備の適用数、前記換気及び空気清浄の少なくとも一方が行われる空気量、及び前記建物の設計条件の少なくとも1つについて異なる複数の条件を適用した場合の各々における、前記建物の内部での前記感染症による感染リスクを示す感染リスク情報、及び前記設備の導入に要するコストを示す導入コスト情報を導出する導出部と、前記導出部によって導出された前記感染リスク情報及び前記導入コスト情報を提示する提示部と、を備える。
【0012】
請求項1に記載の本発明に係る感染リスク評価支援装置によれば、評価対象とする建物の設計条件に関する設計条件関連情報、評価対象とする感染症に関する感染症関連情報、上記建物において換気及び空気清浄の少なくとも一方を行うために適用する設備のコストに関する設備コスト関連情報、及び上記設備により換気及び空気清浄の少なくとも一方が行われる空気量に関する空気量関連情報を取得し、取得した情報を用いて、上記設備の適用数、上記換気及び空気清浄の少なくとも一方が行われる空気量、及び上記建物の設計条件の少なくとも1つについて異なる複数の条件を適用した場合の各々における、上記建物の内部での上記感染症による感染リスクを示す感染リスク情報、及び上記設備の導入に要するコストを示す導入コスト情報を導出し、導出した感染リスク情報及び導入コスト情報を提示することで、医療施設の建設前の段階においても感染症に対する感染リスクの評価を支援することができる。
【0013】
請求項2に記載の本発明に係る感染リスク評価支援装置は、請求項1に記載の感染リスク評価支援装置であって、前記設計条件関連情報が、前記建物に設けられた部屋の容積、当該部屋における感染者の利用に供するための病床の数、及び当該部屋に入室する医療従事者の数の少なくとも1つを含み、前記感染症関連情報が、quanta生成率を含み、前記設備コスト関連情報が、前記設備の価格、前記設備の設置費用、及び前記設備のランニングコストの少なくとも1つを含み、前記空気量関連情報が、単位時間当たりの外気による換気回数、及び単位時間当たりの循環による換気回数の少なくとも一方を含むものである。
【0014】
請求項2に記載の本発明に係る感染リスク評価支援装置によれば、設計条件関連情報が、上記建物に設けられた部屋の容積、当該部屋における感染者の利用に供するための病床の数、及び当該部屋に入室する医療従事者の数の少なくとも1つを含み、感染症関連情報が、quanta生成率を含み、設備コスト関連情報が、上記設備の価格、当該設備の設置費用、及び当該設備のランニングコストの少なくとも1つを含み、空気量関連情報が、単位時間当たりの外気による換気回数、及び単位時間当たりの循環による換気回数の少なくとも一方を含むことで、含めた情報を用いて、感染リスク情報及び導入コスト情報を導出することができる。
【0015】
請求項3に記載の本発明に係る感染リスク評価支援装置は、請求項1又は請求項2に記載の感染リスク評価支援装置であって、前記取得部が、前記感染リスク情報及び前記導入コスト情報の何れの情報を優先するかを示す優先情報を更に取得し、前記提示部が、前記取得部によって取得された優先情報が示す情報について、昇順又は降順に並べた状態で、前記感染リスク情報及び前記導入コスト情報を提示するものである。
【0016】
請求項3に記載の本発明に係る感染リスク評価支援装置によれば、感染リスク情報及び導入コスト情報の何れの情報を優先するかを示す優先情報を更に取得し、取得した優先情報が示す情報について、昇順又は降順に並べた状態で、感染リスク情報及び導入コスト情報を提示することで、利用者にとっての利便性を、より向上させることができる。
【0017】
請求項4に記載の本発明に係る感染リスク評価支援プログラムは、評価対象とする建物の設計条件に関する設計条件関連情報、評価対象とする感染症に関する感染症関連情報、前記建物において換気及び空気清浄の少なくとも一方を行うために適用する設備のコストに関する設備コスト関連情報、及び前記設備により換気及び空気清浄の少なくとも一方が行われる空気量に関する空気量関連情報を取得し、取得した情報を用いて、前記設備の適用数、前記換気及び空気清浄の少なくとも一方が行われる空気量、及び前記建物の設計条件の少なくとも1つについて異なる複数の条件を適用した場合の各々における、前記建物の内部での前記感染症による感染リスクを示す感染リスク情報、及び前記設備の導入に要するコストを示す導入コスト情報を導出し、導出した前記感染リスク情報及び前記導入コスト情報を提示する、処理をコンピュータに実行させる。
【0018】
請求項4に記載の本発明に係る感染リスク評価支援プログラムによれば、評価対象とする建物の設計条件に関する設計条件関連情報、評価対象とする感染症に関する感染症関連情報、上記建物において換気及び空気清浄の少なくとも一方を行うために適用する設備のコストに関する設備コスト関連情報、及び上記設備により換気及び空気清浄の少なくとも一方が行われる空気量に関する空気量関連情報を取得し、取得した情報を用いて、上記設備の適用数、上記換気及び空気清浄の少なくとも一方が行われる空気量、及び上記建物の設計条件の少なくとも1つについて異なる複数の条件を適用した場合の各々における、上記建物の内部での上記感染症による感染リスクを示す感染リスク情報、及び上記設備の導入に要するコストを示す導入コスト情報を導出し、導出した感染リスク情報及び導入コスト情報を提示することで、医療施設の建設前の段階においても感染症に対する感染リスクの評価を支援することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、医療施設の建設前の段階においても感染症に対する感染リスクの評価を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態に係る感染リスク評価支援装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係る感染リスク評価支援装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】実施形態に係るコスト情報データベースの構成の一例を示す模式図である。
【
図4】実施形態に係る感染リスク評価支援処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】実施形態に係る病室種類入力画面の構成の一例を示す正面図である。
【
図6】実施形態に係る第1設計条件関連情報入力画面の構成の一例を示す正面図である。
【
図7】実施形態に係る感染症関連情報入力画面の構成の一例を示す正面図である。
【
図8】実施形態に係る第2設計条件関連情報入力画面の構成の一例を示す正面図である。
【
図9】実施形態に係る空気量関連情報入力画面の構成の一例を示す正面図である。
【
図10】実施形態に係る優先順位設定画面の構成の一例を示す正面図である。
【
図11】実施形態に係る評価支援情報提示画面の構成の一例を示す正面図である。
【
図12】実施形態に係る詳細情報提示画面の構成の一例を示す正面図である。
【
図13】実施形態に係る手法と従来技術による手法との比較に供するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態例を詳細に説明する。
【0022】
まず、
図1及び
図2を参照して、本実施形態に係る感染リスク評価支援装置10の構成を説明する。
図1は、本実施形態に係る感染リスク評価支援装置10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。また、
図2は、本実施形態に係る感染リスク評価支援装置10の機能的な構成の一例を示すブロック図である。なお、感染リスク評価支援装置10の例としては、パーソナルコンピュータ及びサーバコンピュータ等の情報処理装置が挙げられる。
【0023】
図1に示すように、本実施形態に係る感染リスク評価支援装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、一時記憶領域としてのメモリ12、不揮発性の記憶部13、キーボードとマウス等の入力部14、液晶ディスプレイ等の表示部15、媒体読み書き装置(R/W)16及び通信インタフェース(I/F)部18を備えている。CPU11、メモリ12、記憶部13、入力部14、表示部15、媒体読み書き装置16及び通信I/F部18はバスB1を介して互いに接続されている。媒体読み書き装置16は、記録媒体17に書き込まれている情報の読み出し及び記録媒体17への情報の書き込みを行う。
【0024】
記憶部13はHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶媒体としての記憶部13には、感染リスク評価支援プログラム13Aが記憶されている。感染リスク評価支援プログラム13Aは、感染リスク評価支援プログラム13Aが書き込まれた記録媒体17が媒体読み書き装置16にセットされ、媒体読み書き装置16が記録媒体17からの感染リスク評価支援プログラム13Aの読み出しを行うことで、記憶部13へ記憶される。CPU11は、感染リスク評価支援プログラム13Aを記憶部13から読み出してメモリ12に展開し、感染リスク評価支援プログラム13Aが有するプロセスを順次実行する。
【0025】
また、記憶部13には、コスト情報データベース13Bが記憶される。コスト情報データベース13Bについては、詳細を後述する。
【0026】
次に、
図2を参照して、本実施形態に係る感染リスク評価支援装置10の機能的な構成について説明する。
図2に示すように、感染リスク評価支援装置10は、取得部11A、導出部11B、及び提示部11Cを含む。感染リスク評価支援装置10のCPU11が感染リスク評価支援プログラム13Aを実行することで、取得部11A、導出部11B、及び提示部11Cとして機能する。
【0027】
本実施形態に係る取得部11Aは、評価対象とする建物(以下、「対象建物」という。)の設計条件に関する設計条件関連情報、及び評価対象とする感染症(以下、「対象感染症」という。)に関する感染症関連情報を取得する。また、本実施形態に係る取得部11Aは、対象建物において換気及び空気清浄の少なくとも一方を行うために適用する設備(本実施形態では、空気清浄機能を有する換気設備であり、以下、単に「換気設備」、又は「対象設備」という。)のコストに関する設備コスト関連情報、及び対象設備により換気や空気清浄が行われる空気量に関する空気量関連情報を取得する。以下では、空気清浄機能による循環による空気清浄動作も「換気」と称する。
【0028】
なお、本実施形態では、上記設計条件関連情報に、対象建物に設けられた部屋の容積、当該部屋における感染者の利用に供するための病床の数、及び当該部屋に入室する医療従事者の数の各情報を含める形態としているが、これに限るものではない。例えば、これらの情報のうちの1つ、又は2つの組み合わせを上記設計条件関連情報に含める形態としてもよい。
【0029】
また、本実施形態では、上記感染症関連情報に、quanta生成率を含める形態としているが、これに限るものではない。例えば、quanta生成率に代えて、対象感染症に関する他の情報を、上記感染症関連情報に含める形態としてもよい。
【0030】
また、本実施形態では、上記設備コスト関連情報に、対象設備の価格、及び対象設備の設置費用の各情報を含める形態としているが、これに限るものではない。例えば、これらの情報のうちの一方のみを上記設備コスト関連情報に含める形態としてもよい。
【0031】
更に、本実施形態では、上記空気量関連情報に、単位時間当たりの外気による換気回数、及び単位時間当たりの循環による換気回数の各情報を含める形態としているが、これに限るものではない。例えば、これらの情報のうちの何れか一方のみを上記空気量関連情報に含める形態としてもよい。
【0032】
なお、ここでいう「換気回数」は、単位時間当たりの換気量を意味している。具体的には、1時間に室内に流入する空気の量(=換気量)を、その部屋の容積で除算して得られた値を意味する。例えば、床が幅5mで奥行きが4mで、高さが3mの部屋は、容積が60(m3)(=5×4×3)であるが、この場合において、1時間当たりの換気量が120(m3/h)だった場合、換気回数は2(回/h)(=120/60)となる。
【0033】
また、本実施形態に係る導出部11Bは、取得部11Aによって取得された情報を用いて、対象設備の適用数、上記換気が行われる空気量、及び対象建物の設計条件の少なくとも1つについて異なる複数の条件を適用した場合の各々における、対象建物の内部での対象感染症による感染リスクを示す感染リスク情報、及び対象設備の導入に要するコストを示す導入コスト情報を導出する。
【0034】
そして、本実施形態に係る提示部11Cは、導出部11Bによって導出された感染リスク情報及び導入コスト情報を提示する。なお、本実施形態では、提示部11Cによる提示として、表示部による表示による提示を適用しているが、これに限るものではない。例えば、画像形成装置による印刷による提示や、音声生成装置による音声による提示を、提示部11Cによる提示として適用する形態としてもよい。
【0035】
また、本実施形態に係る取得部11Aは、感染リスク情報及び導入コスト情報の何れの情報を優先するかを示す優先情報を更に取得する。そして、本実施形態に係る提示部11Cは、取得部11Aによって取得された優先情報が示す情報について、昇順又は降順に並べた状態で、感染リスク情報及び導入コスト情報を提示する。
【0036】
ここで、本実施形態に係る導出部11Bによる感染リスク情報の導出方法について説明する。
【0037】
本実施形態では、感染リスク情報を次の3段階で導出する。
【0038】
<第1段階>
【0039】
次の式(1)に示すWells-Rileyモデルに基づいて医療従事者1人の1時間当たりの感染リスク値(感染確率)P0を算出する。式(1)における、Q(m3/h)は実効換気量を表し、I(人)は感染者数を表し、q(quanta/h)はquanta生成率(感染性粒子生成率)を表し、p(m3/h・人)は呼吸率(1人当たりの呼吸量)を表し、t(h)は滞在時間を表す。
【0040】
【0041】
ここで、実効換気量Qは「感染症対策としての換気設計再考」(第54回建築設備技術会議 2021,倉渕 隆(東京理科大学))を参考に次の式(2)で算出されるものとしてもよい。式(2)における、QOAは外気による換気量を表し、Qfltrはエアフィルタのろ過効果による相当換気量を表し、Qdeは重力沈降による除去に関する相当換気量を表し、Qinactは不活化効果の換気量換算量を表し、何れも単位は(m3/h)である。
【0042】
【0043】
但し、以下では簡略化のため、次の式(3)によって実効換気量Qを算出することとする。
【0044】
【0045】
部屋の容積Vに外気による換気回数N1を乗じることで外気による換気量QOAを、部屋の容積Vに循環による換気回数N2及びろ過率または殺菌率Psを乗じることでエアフィルタのろ過効果による相当換気量Qfltrを算出することができる。また、マスクによる捕集率Nを考慮するために、quanta生成率qをq×(1-N)に変更する。
【0046】
以上を式(1)に代入することで次の式(4)が算出される。
【0047】
【0048】
ここで、pは呼吸率であり、人の活動度に応じた値を設定する必要がある。呼吸率pを感染リスク評価支援装置10に直接入力する形態も可能であるが、以下に示す実施形態では病床にいる病人の活動度を極軽作業と仮定し、事前に感染リスク評価支援装置10に設定された値を用いることとする。
【0049】
事前に感染リスク評価支援装置10に設定された値を用いて呼吸率p=0.6(m
3/h・人)とする。その他のパラメータは、後述する感染リスク評価支援処理(
図4も参照。)により、ユーザによって設定された数値を用いる。
【0050】
例えば、I=1(人)、q=10(quanta/h)、N=95(%)、V=50(m3)、N1=2(回/h)、N2=10(回/h)、PS=50(%)とした場合、式(4)によって算出される感染リスク値P0は次のようになる。
【0051】
【0052】
<第2段階>
【0053】
第1段階で算出された医療従事者1人の1時間当たりの感染リスク値P0から、医療従事者1人に対する感染リスクを評価するため、評価期間EPに応じた感染リスク値Phcを次の式(5)に基づいて算出する。
【0054】
ここで、滞在時間T、評価期間EPは、後述する感染リスク評価支援処理により、ユーザによって設定された数値を用いる。
【0055】
【0056】
例えば、P0=0.086(%)、T=2(h)、EP=80(日)とした場合、式(5)より算出される感染リスク値Phcは以下のようになる。
【0057】
【0058】
<第3段階>
【0059】
第1段階で算定された医療従事者1人の1時間当たりの感染リスク値P0から、病院全体に対する感染リスクを評価するため、医療従事者の人数INと評価期間EPに応じた感染リスク値Pallを式(6)に基づいて算出する。ここで、医療従事者の人数IN、滞在時間T、評価期間EPは、後述する感染リスク評価支援処理により、ユーザによって設定された数値を用いる。
【0060】
【0061】
例えば、P0=0.086(%)、IN=10(人)、T=2(h)、EP=80(日)とした場合、式(5)より算出される感染リスク値Pallは以下のようになる。
【0062】
【0063】
次に、
図3を参照して、本実施形態に係るコスト情報データベース13Bについて説明する。
図3は、本実施形態に係るコスト情報データベース13Bの構成の一例を示す模式図である。
【0064】
図3に示すように、本実施形態に係るコスト情報データベース13Bは、項目、対象、及びコストの各情報が関連付けられて記憶されている。
【0065】
上記項目は、上述した導入コストにおける、対象とする項目を示す情報であり、本実施形態では、換気設備に関する設備費用(以下、単に「設備費用」という。)に加えて、病室の種類毎の施工費用(以下、単に「施工費用」という。)の2種類を適用している。但し、この形態に限るものではなく、設備費用及び施工費用の何れか一方を導入コストとして適用する形態としてもよいし、これらの費用に加えて、換気設備のランニングコスト等の他のコストを導入コストとして適用する形態としてもよい。
【0066】
また、上記対象は、対象とする物を示す情報であり、上記コストは、対応する対象のコストそのものを示す情報である。なお、本実施形態では、コストとして、対応する対象の1台(1室)当たりのコストを適用しているが、これに限るものでないことは言うまでもない。
【0067】
図3に示す例では、例えば、換気設備における機器Aの1台当たりの価格は10万円で、1台当たりの設置費用が5万円であることを示しており、また、例えば、1床室の1室当たりの施工費用が400万円であることを示している。
【0068】
次に、
図4~
図13を参照して、本実施形態に係る感染リスク評価支援装置10の作用を説明する。
図4は、本実施形態に係る感染リスク評価支援処理の一例を示すフローチャートである。
【0069】
ユーザによって感染リスク評価支援プログラム13Aの実行を開始する指示入力が入力部14を介して行われた場合に、感染リスク評価支援装置10のCPU11が当該感染リスク評価支援プログラム13Aを実行する。この感染リスク評価支援プログラム13Aの実行により、
図4に示す感染リスク評価支援処理が実行される。なお、ここでは、錯綜を回避するために、コスト情報データベース13Bが構築済みである場合について説明する。
【0070】
図4のステップ100で、CPU11は、コスト情報データベース13Bから全ての情報(以下、「コスト情報」という。)を読み出す。
【0071】
ステップ102で、CPU11は、予め定められた構成とされた病室種類入力画面を表示するように表示部15を制御し、ステップ104で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0072】
図5には、本実施形態に係る病室種類入力画面の一例が示されている。
図5に示すように、本実施形態に係る病室種類入力画面では、病床の種類の設定を促すメッセージが表示される。また、この病室種類入力画面では、1床室、2床室、及び4床室の少なくとも1種類を設定する場合に指定される指定部15A1が表示される。更に、この病室種類入力画面では、1床室、2床室、及び4床室以外の床数の病室を設定する場合に、当該病室の床数を入力するための病室設定枠15A2が表示される。
【0073】
一例として
図5に示す病室種類入力画面が表示部15に表示されると、ユーザは、入力部14を介して、1床室、2床室、及び4床室の少なくとも1種類を適用する場合は、該当する指定部15A1を指定する。また、ユーザは、他の床数の病室を適用する場合は、設定したい病室の床数を病室設定枠15A2に入力する。そして、適用したい病室の種類の設定が終了すると、ユーザは、入力部14を介して、病室種類入力画面に表示されている決定ボタン15Kを指定する。これに応じて、ステップ104が肯定判定となって、ステップ106に移行する。
【0074】
ステップ106で、CPU11は、予め定められた構成とされた第1設計条件関連情報入力画面を表示するように表示部15を制御し、ステップ108で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0075】
図6には、本実施形態に係る第1設計条件関連情報入力画面の一例が示されている。
図6に示すように、本実施形態に係る第1設計条件関連情報入力画面では、検討ケース別で、かつ病室の種類毎の病室数、及び病室の種類毎の病室の大きさの設定を促すメッセージが表示される。また、この第1設計条件関連情報入力画面では、病室種類入力画面で設定した、適用したい病室の種類毎に、検討ケース別の病室数を入力するための入力枠15B1が表示されると共に、病室の種類毎の病室の床面積、及び病室の高さを示す情報を入力するための入力枠15B2が表示される。
【0076】
一例として
図6に示す第1設計条件関連情報入力画面が表示部15に表示されると、ユーザは、入力部14を介して、自身が設定した病室の種類毎に、検討ケース別の病室数を対応する入力枠15B1に入力する。また、ユーザは、入力部14を介して、病室の種類毎の病室の床面積、及び病室の高さを示す情報を対応する入力枠15B2に入力した後、決定ボタン15Kを指定する。これに応じて、ステップ108が肯定判定となって、ステップ110に移行する。
【0077】
ステップ110で、CPU11は、予め定められた構成とされた感染症関連情報入力画面を表示するように表示部15を制御し、ステップ112で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0078】
図7には、本実施形態に係る感染症関連情報入力画面の一例が示されている。
図7に示すように、本実施形態に係る感染症関連情報入力画面では、感染症の種類とパラメータの設定を促すメッセージが表示される。また、この感染症関連情報入力画面では、適用したい対象感染症を既存の感染症から選択するための選択枠15C1が表示され、かつ適用したい対象感染症のquanta生成率、不活性時間、及び医療用マスクの捕集率を入力するための入力枠15C2が表示される。
【0079】
一例として
図7に示す感染症関連情報入力画面が表示部15に表示されると、ユーザは、入力部14を介して、選択枠15C1を用いて適用したい対象感染症を選択する。また、ユーザは、quanta生成率、不活性時間、及び医療用マスクの捕集率の各パラメータの値を対応する入力枠15C2に入力し、その後に決定ボタン15Kを指定する。これに応じて、ステップ112が肯定判定となって、ステップ114に移行する。
【0080】
ステップ114で、CPU11は、予め定められた構成とされた第2設計条件関連情報入力画面を表示するように表示部15を制御し、ステップ116で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0081】
図8には、本実施形態に係る第2設計条件関連情報入力画面の一例が示されている。
図8に示すように、本実施形態に係る第2設計条件関連情報入力画面では、各種パラメータの設定を促すメッセージが表示される。また、この第2設計条件関連情報入力画面では、感染リスクの評価期間、病床で患者と接する医療従事者の数、及び医療従事者の1日当たりの病室の滞在時間を入力するための入力枠15Dが表示される。
【0082】
一例として
図8に示す第2設計条件関連情報入力画面が表示部15に表示されると、ユーザは、入力部14を介して、感染リスクの評価期間、病床で患者と接する医療従事者の数、及び医療従事者の1日当たりの病室の滞在時間を対応する入力枠15Dに入力する。そして、ユーザは、決定ボタン15Kを指定する。これに応じて、ステップ116が肯定判定となって、ステップ118に移行する。
【0083】
ステップ118で、CPU11は、予め定められた構成とされた空気量関連情報入力画面を表示するように表示部15を制御し、ステップ120で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0084】
図9には、本実施形態に係る空気量関連情報入力画面の一例が示されている。
図9に示すように、本実施形態に係る空気量関連情報入力画面では、検討ケース別の空気量(換気量)に関する条件の設定を促すメッセージが表示される。また、この空気量関連情報入力画面では、検討ケース毎に、適用したい換気設備を既存の換気設備から選択するための選択枠15E1が表示されると共に、換気設備の性能を示すパラメータを入力するための入力枠15E2が表示される。ここで、本実施形態では、上記換気設備の性能を示すパラメータとして、外気との換気回数、循環による換気回数、循環時のフィルタによるろ過率または紫外線による殺菌率、及び1床室当たりに必要となる換気設備の台数を適用している。但し、上記換気設備の性能を示すパラメータは、これらに限るものではないことは言うまでもない。
【0085】
一例として
図9に示す空気量関連情報入力画面が表示部15に表示されると、ユーザは、入力部14を介して、検討ケース毎に、選択枠15E1を用いて適用したい換気設備を選択する。そして、ユーザは、選択した換気設備の性能を示すパラメータの値を対応する入力枠15E2に入力し、その後に決定ボタン15Kを指定する。これに応じて、ステップ120が肯定判定となって、ステップ122に移行する。
【0086】
ステップ122で、CPU11は、以上の処理により、ユーザによって設定された各種情報を用いて、上述した手順により、想定している検討ケース毎の各種感染リスク値を導出する。また、ステップ122で、CPU11は、ステップ100の処理によって読み出したコスト情報を用いて、想定している検討ケース毎の導入コストを導出する。この際、CPU11は、ユーザによって設定された病室の種類、及び当該種類毎の病室数から最大患者数及び必要な医療従事者の数を算出し、これらの値を用いて各種感染リスク値を導出する。また、この際、CPU11は、ユーザによって設定された病室の種類、及び当該種類毎の病室数と、ステップ100の処理によって読み出したコスト情報を用いて、全ての病室及び換気設備に関する合算値として導入コストを導出する。
【0087】
ステップ124で、CPU11は、予め定められた構成とされた優先順位設定画面を表示するように表示部15を制御し、ステップ126で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0088】
図10には、本実施形態に係る優先順位設定画面の一例が示されている。
図10に示すように、本実施形態に係る優先順位設定画面では、評価対象に対する優先順位が高い方の設定を促すメッセージが表示される。また、この優先順位設定画面では、導入コスト及び感染リスクのうちの優先順位が高い方を指定するための指定部15Fが表示される。
【0089】
一例として
図10に示す優先順位設定画面が表示部15に表示されると、ユーザは、入力部14を介して、導入コスト及び感染リスクのうちの優先順位が高い方に対応する指定部15Fを指定した後に決定ボタン15Kを指定する。これに応じて、ステップ126が肯定判定となって、ステップ128に移行する。なお、
図10に示す例では、導入コストの方が感染リスクより優先順位が高い場合について例示している。
【0090】
ステップ128で、CPU11は、ステップ122の処理で導出した各種感染リスク値及び導入コストを含む情報を、ユーザが設定した優先順位に従って並べた状態で表示する、予め定められた構成とされた評価支援情報提示画面を表示するための情報を作成する。ステップ130で、CPU11は、作成した情報を用いて、評価支援情報提示画面を表示するように表示部15を制御する。そして、ステップ132で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0091】
図11には、本実施形態に係る評価支援情報提示画面15Gの一例が示されている。
図11に示すように、本実施形態に係る評価支援情報提示画面15Gでは、検討ケース毎に、導入コスト、病室の種類毎の病室数、最大患者数、及び必要な医療従事者数が表示される。また、この評価支援情報提示画面15Gでは、検討ケース毎に、医療従事者1人当たりの設定された期間(
図11に示す例では、80日間)当たりの感染リスク値P
hc、及び病院全体での感染リスク値P
allが表示される。この際、ユーザによって優先順位が高いと設定された対象について、昇順又は降順に並べられた状態で、各情報が表示される。なお、
図11に示す例では、病室の種類毎の数が同一の検討ケースを同一のグループとして一纏めとし、グループ毎に、導入コストが低い順に並べた場合について例示されている。
【0092】
一例として
図11に示す評価支援情報提示画面15Gが表示部15に表示されると、ユーザは、入力部14を介して、より詳細な情報を表示する詳細情報提示画面を表示させたい場合は詳細情報表示ボタン15Jを指定する。また、ユーザは、評価支援情報提示画面15Gの表示を終了させたい場合は決定ボタン15Kを指定する。ユーザによって詳細情報表示ボタン15J又は決定ボタン15Kが指定されると、ステップ132が肯定判定となって、ステップ134に移行する。
【0093】
ステップ134で、CPU11は、詳細情報表示ボタン15Jが指定されたか否かを判定することにより、詳細情報提示画面を表示するか否かを判定し、否定判定となった場合は本感染リスク評価支援処理を終了する。これに対し、ステップ134で、肯定判定となった場合はステップ136に移行する。
【0094】
ステップ136で、CPU11は、予め定められた構成とされた詳細情報提示画面を表示するように表示部15を制御する。そして、ステップ138で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0095】
図12には、本実施形態に係る詳細情報提示画面15Hの一例が示されている。
図12に示すように、本実施形態に係る詳細情報提示画面15Hでは、検討ケース毎で、かつ、病室の種類毎に、1部屋当たりのコスト、部屋面積、室内高さ、換気設備、外気及び循環による換気回数、及びフィルタに関する情報が表示される。
【0096】
一例として
図12に示す詳細情報提示画面15Hが表示部15に表示されると、ユーザは、詳細情報提示画面の表示を終了させたい場合は決定ボタン15Kを指定する。ユーザによって決定ボタン15Kが指定されると、ステップ138が肯定判定となって、本感染リスク評価支援処理を終了する。
【0097】
ところで、汚染された空気への対応策は、大きく2つの方法に分かれており、第1に外気との換気による希釈、第2に空調による循環時におけるフィルタによるろ過や紫外線による殺菌が挙げられる。このうち、第1の方法ではCO2濃度も同時に希釈するが、第2の方法ではCO2濃度は希釈せず、汚染物質のみを除去、又は殺菌することになる。このため、循環による換気回数が外気との換気回数よりも多い室内ではCO2濃度から空気感染のリスクを評価することは不適切である。
【0098】
本実施形態に係る手法では、循環による換気回数を考慮した上で、汚染された空気によるリスクを確率的に評価できるものとなっており、従来の多くの技術では考慮していない要因も含めて空気感染のリスクを評価している。
【0099】
循環による換気回数を考慮した本実施形態に係る手法と、循環による換気回数を考慮していない従来の手法による評価結果の比較に供するグラフを
図13に示す。この従来の手法では、循環による換気や殺菌等といったウイルス除去を行った効果を考慮することができず、循環による換気回数を増やしても感染リスクの評価結果を適切に評価することができないものとなる。
【0100】
一方、本実施形態に係る手法による評価結果では、循環による換気回数を増やした効果により感染リスクが低下していることを評価することができるため、空気感染のリスクをより適正、かつ、より理論的に評価することができる。
【0101】
以上説明したように、本実施形態によれば、評価対象とする建物(対象建物)の設計条件に関する設計条件関連情報、評価対象とする感染症(対象感染症)に関する感染症関連情報、上記建物において換気を行うために適用する設備(対象設備)のコストに関する設備コスト関連情報、及び上記設備により換気が行われる空気量に関する空気量関連情報を取得し、取得した情報を用いて、上記設備の適用数、上記換気が行われる空気量、及び上記建物の設計条件の少なくとも1つについて異なる複数の条件を適用した場合の各々における、上記建物の内部での上記感染症による感染リスクを示す感染リスク情報(本実施形態では、感染リスク値)、及び上記設備の導入に要するコストを示す導入コスト情報(本実施形態では、導入コストそのもの)を導出し、導出した感染リスク情報及び導入コスト情報を提示している。従って、医療施設の建設前の段階においても感染症に対する感染リスクの評価を支援することができる。
【0102】
また、本実施形態によれば、設計条件関連情報が、上記建物に設けられた部屋(病室)の容積、当該部屋における感染者の利用に供するための病床の数、及び当該部屋に入室する医療従事者の数の少なくとも1つを含み、感染症関連情報が、quanta生成率を含み、設備コスト関連情報が、上記設備の価格、当該設備の設置費用、及び当該設備のランニングコストの少なくとも1つを含み、空気量関連情報が、単位時間当たりの外気による換気回数、及び単位時間当たりの循環による換気回数の少なくとも一方を含む。従って、含めた情報を用いて、感染リスク情報及び導入コスト情報を導出することができる。
【0103】
更に、本実施形態によれば、感染リスク情報及び導入コスト情報の何れの情報を優先するかを示す優先情報を更に取得し、取得した優先情報が示す情報について、昇順に並べた状態で、感染リスク情報及び導入コスト情報を提示している。従って、利用者にとっての利便性を、より向上させることができる。
【0104】
なお、上記実施形態では、導入コストが昇順となるように評価支援情報提示画面を表示した場合について説明したが、これに限定されない。例えば、導入コストが降順となるように評価支援情報提示画面を表示する形態としてもよいし、感染リスク値が昇順となるように当該画面を表示する形態としてもよいし、感染リスク値が降順となるように当該画面を表示する形態としてもよい。
【0105】
また、上記実施形態では、設備として空気清浄機能を備えた換気設備を適用した場合について説明したが、これに限定されない。例えば、当該換気設備に代えて、空気清浄機能を有しない換気設備を設備として適用する形態としてもよいし、換気機能を有しない空気清浄設備を設備として適用する形態としてもよい。
【0106】
また、上記実施形態では、病室の種類毎に容積を共通とする場合について説明したが、これに限定されない。例えば、病室の種類毎に容積を異ならせる形態としてもよい。
【0107】
また、上記実施形態では、導入コストに施工費用を含める場合について説明したが、これに限定されない。例えば、導入コストに施工費用は含めず、設備費用のみを含める形態としてもよい。
【0108】
また、上記実施形態で適用したコスト情報データベース13Bの構成は一例であり、例示したものに限定されるものでないことは言うまでもない。
【0109】
また、上記実施形態において、例えば、取得部11A、導出部11B、及び提示部11Cの各処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(processor)を用いることができる。上記各種のプロセッサには、前述したように、ソフトウェア(プログラム)を実行して処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0110】
処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせや、CPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0111】
処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアント及びサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0112】
更に、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)を用いることができる。
【符号の説明】
【0113】
10 感染リスク評価支援装置
11 CPU
11A 取得部
11B 導出部
11C 提示部
12 メモリ
13 記憶部
13A 感染リスク評価支援プログラム
13B コスト情報データベース
14 入力部
15 表示部
15A1 指定部
15A2 病室設定枠
15B1 入力枠
15B2 入力枠
15C1 選択枠
15C2 入力枠
15D 入力枠
15E1 選択枠
15E2 入力枠
15F 指定部
15G 評価支援情報提示画面
15H 詳細情報提示画面
15J 詳細情報表示ボタン
15K 決定ボタン
16 媒体読み書き装置
17 記録媒体
18 通信I/F部