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  • 特開-表面被覆切削工具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144687
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】表面被覆切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20231003BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B23B27/14 A
C23C14/06 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051789
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(72)【発明者】
【氏名】向田 展章
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 峻
(72)【発明者】
【氏名】土橋 正卓
【テーマコード(参考)】
3C046
4K029
【Fターム(参考)】
3C046FF02
3C046FF10
3C046FF16
3C046FF19
3C046FF25
4K029AA04
4K029BA58
4K029BB02
4K029BB07
4K029BC02
4K029BD05
4K029CA04
4K029CA13
4K029DA03
4K029DA08
4K029DB04
4K029DB14
4K029DD06
4K029FA04
4K029FA05
4K029JA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】断続切削加工でも優れた耐摩耗性や耐欠損性を有する表面被覆切削工具を提供する。
【解決手段】被覆層は、I層と該I層上のII層を含み、I層は、(Al1-xTi)N(0.35≦x≦0.60)であり、II層は、IIa層とIIb層との交互積層を有し、IIa層は、(Al1-y-zTi)N(0.30≦y≦0.70、0.01≦z≦0.10)、IIb層は、(Al1-p-qTiSi)N(0.30≦p≦0.60、0.01≦q≦0.10)であり、I層の平均厚さtと前記II層の平均厚さtIIは、t+tIIが1.0μm以上、4.0μm以下であって、2≦tII/t≦10であり、IIa層の平均厚さ、IIb層の平均厚さは、共に、1nm以上、100nm以下であり、被覆層の<100>優先方位に由来する回折線強度の半値全幅が、0.2°以上、1.0°以下ある表面被覆切削工具。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と該基体の表面に被覆層を有する表面被覆切削工具であって、
1)前記被覆層は、I層と該I層上のII層を含み、
2)前記I層は、(Al1-xTi)N(0.35≦x≦0.60)であり、
3)前記II層は、IIa層とIIb層との交互積層を有し、
前記IIa層は、(Al1-y-zTi)N(0.30≦y≦0.70、0.01≦z≦0.10)であり、
前記IIb層は、(Al1-p-qTiSi)N(0.30≦p≦0.60、0.01≦q≦0.10)であり、
4)前記I層の平均厚さtと前記II層の平均厚さtIIは、t+tIIが1.0μm以上、4.0μm以下であって、2≦tII/t≦10であり、
5)前記IIa層の平均厚さ、前記IIb層の平均厚さは、共に、1nm以上、100nm以下であり、
6)前記被覆層の<100>優先方位に由来する回折線強度の半値全幅が、0.2°以上、1.0°以下、
であることを特徴とする表面被覆切削工具。
【請求項2】
前記被覆層の<111>優先方位に由来する回折線強度I(111)と、<100>優先方位に由来する回折線強度I(100)において、2≦I(100)/I(111)≦20であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面被覆切削工具(以下、被覆工具ということがある)に関する。
【背景技術】
【0002】
切削工具の寿命を向上させるために、炭化タングステン(以下、WCという)基超硬合金やcBN焼結体等の基体の表面に、被覆層を形成した被覆工具があり、この被覆工具は耐摩耗性が向上している。
そして、被覆工具のより一層の切削性能を向上させるために、被覆層の組成や構造について、種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、被覆層が(AlTi1-x)(B1-y)(0.05≦x≦0.75、0.02≦y≦0.12)を含み、厚さが0.5~8μmである被覆工具が記載され、該被覆工具は硬さ、耐摩耗性が向上しているとされている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、
(Al1-x)N[MはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Siの1種以上、0.58≦x≦0.80]を含む層と、
(Al1-y)N[MはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Siの1種以上、0.57≦y≦0.79]を含む層との交互積層構造を有し、
前記層に含まれる全金属元素の量に対する特定の金属元素の量と、当該層に隣接した他の層に含まれる全金属元素の量に対する前記特定の金属元素の量と、の差の絶対値が、0原子%を超え、5原子%未満であり、
前記層のそれぞれの平均厚さは、1nm以上50nm以下であり、前記交互積層構造の平均厚さは、1.5μm以上15.0μm以下である被覆層を有する被覆工具が記載され、該被覆工具は熱伝導率が低い材料の切削加工において耐欠損性があり、耐久性があるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4-26756号公報
【特許文献2】特許第6004366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記事情や、前記提案を鑑みてなされたもので、特に、断続切削加工において、優れた耐摩耗性や耐欠損性を有する表面被覆切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る表面被覆切削工具は、
1)基体と該基体の表面に被覆層を有し、
2)該被覆層は、I層と該I層上のII層を含み、
3)前記I層は、(Al1-xTi)N(0.35≦x≦0.60)であり、
4)前記II層は、IIa層とIIb層との交互積層を有し、
前記IIa層は、(Al1-y-zTi)N(0.30≦y≦0.70、0.01≦z≦0.10)であり、
前記IIb層は、(Al1-p-qTiSi)N(0.30≦p≦0.60、0.01≦q≦0.10)であり、
5)前記I層の平均厚さtと前記II層の平均厚さtIIは、t+tIIが1.0μm以上、4.0μm以下であって、2≦tII/t≦10であり、
6)前記IIa層の平均厚さ、前記IIb層の平均厚さは、共に、1nm以上、100nm以下であり、
7)前記被覆層の<100>優先方位に由来する回折線強度の半値全幅が、0.2°以上、1.0°以下、
である。
【0008】
さらに、前記実施形態に係る表面被覆切削工具は、次の事項を満足してもよい。
【0009】
前記被覆層の<111>優先方位に由来する回折線強度I(111)と、<100>優先方位に由来する回折線強度I(100)において、2≦I(100)/I(111)≦20であること。
【発明の効果】
【0010】
前記表面被覆切削工具は、断続切削加工においても、優れた耐摩耗性や耐欠損性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る表面被覆切削工具の被覆層の縦断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は、特に、断続切削加工において、優れた耐摩耗性や耐欠損性を有する被覆工具を得るべく、鋭意検討した。
その結果、
1)基材と被覆層との密着強度を高める必要があること
2)単一被覆層では、高硬度、耐溶着性、耐酸化性の全てを満足することは困難であるため、高硬度で耐溶着性の優れた層と高硬度で耐酸化性が優れた層を交互に積層することが好ましいこと
3)交互に積層する層の格子定数の差を小さくすると、耐摩耗性と靱性が向上し、その結果断、続切削加工においてチッピング、欠損の抑制と耐摩耗性の両立ができること
を知見した。
【0013】
以下では、本発明の実施形態の被覆工具について詳細に説明する。
ここで、本明細書および特許請求の範囲において、断続切削加工とは、被削材と被覆工具が切削と空転を繰り返す加工をいう。
【0014】
また、本明細書および特許請求の範囲において、数値範囲を「L~M」(L、Mは共に数値)で表現するときは、その範囲は、「L以上、M以下」と同義であって、上限値(M)および下限値(L)を含んでおり、上限値(M)のみに単位が記載されているときは、上限値(M)と下限値(L)の単位は同じである。
【0015】
1.被覆層
図1は、本発明の一実施形態に係る被覆工具の縦断面(インサートのときは基体表面の微小な凹凸を無視したこの表面に垂直な断面。エンドミル、ドリルのような軸物工具のときは、この中心軸に垂直な断面)を模式的に示した図である。
この実施形態では、基体(1)から被覆工具の表面、すなわち、被覆層(2)の表面に向かって、順にI層(3)、II層(4)を有している。そして、II層(4)は、IIa層(5)とIIb層(6)の交互積層を有している。なお、図1において、、II層の白地部分にもIIa層(5)とIIb層(6)が交互に積層されている。
以下、順に、各層を説明する。
【0016】
(1)I層
I層は、平均組成が(Al1-xTi)N(0.35≦x≦0.60)である。
I層は、基体と被覆層との密着性を高めるために設けるものであり、xをこの範囲とすると、この密着性の向上が確実に達成される。xのより好ましい範囲は0.35以上、0.50以下である。
そして、このI層は、被覆層との密着性の確保が難しいとされる基体であるcBN焼結体においても、基体と被覆層の密着性を確保することができる。
【0017】
なお、後述する製造法の一例に従えば、(AlTi)とNとの比は、1:1となるように成膜されるが、不可避的に(意図せずに)1:1とならないものが存在することがある。このことは、以下で述べる他の複合窒化物、窒化物についても同様である。
【0018】
(2)II層
II層は、IIa層とIIb層との交互積層を有し、
前記IIa層は、平均組成が、(Al1-y-zTi)N(0.40≦y≦0.70、0.01≦z≦0.10)であり、
前記IIb層は、平均組成が、(Al1-p-qTiSi)N(0.40≦p≦0.60、0.01≦q≦0.10)である。
【0019】
IIa層は、Bを含有するため、高硬度と優れた耐溶着性を有し、一方、IIb層は、Siを含有するため、高硬度と優れた耐酸化性を有する。そのため、このIIa層とIIb層を交互に積層することにより、耐摩耗性と耐チッピングが共に優れた被覆層を得ることができる。
【0020】
そして、この優れた耐摩耗性と耐チッピング性を確実に得るためには、Tiの平均含有量y、Bの平均含有量z、Tiの平均含有量p、および、Siの平均含有量qが前記範囲にあることが好ましい。y、z、p、および、qのより好ましい範囲は、0.35≦y≦0.55、0.02≦z≦0.08、0.35≦p≦0.55、および0.02≦q≦0.08がより好ましい。
【0021】
(3)被覆層の平均厚さ
被覆層の平均厚さ、すなわち、I層の平均厚さtとII層の平均厚さtIIの和(t+tII)は、1.0μm以上、4.0μm以下であることが好ましい。その理由は、1.0μm未満であると耐久性が十分でなく、一方、4.0μmを超えると欠損が発生しやすくなる。被覆層の平均厚さは1.5μm以上、3.5μm以下がより好ましい。
【0022】
また、tIIは、2≦tII/t≦10であることが好ましい。tII/tがこの範囲を満足すると、I層のもたらす基体との密着性を高める働きと、II層のもたらす耐摩耗性と耐チッピング性を共に優れたものとする働きが、確実にもたらされる。tII/tは、4≦tII/t≦6がより好ましい。
【0023】
(4)IIa層およびIIb層の平均厚さ
II層において、交互積層を構成するIIa層の平均厚さ(t)およびIIb層の平均厚さ(t)は、共に、1nm以上、100nm以下であることが好ましい。IIa層の平均厚さ(t)およびIIb層の平均厚さ(t)は、同じであっても、異なっていてもよい。
【0024】
(5)IIa層とIIb層の交互積層
IIa層とIIb層は交互積層されており、この交互積層は、IIa層とIIb層とが交互に積層されていればよく、最もI層に近い側の層、最も工具表面側の層のいずれもが、IIa層、IIb層のどちらでもかまわない。
【0025】
交互積層を構成するIIa層とIIb層の積層数は、制約がない。しかし、IIa層とIIb層がそれぞれ、20~100層であることがより好ましい。この積層数を満足すると、より一層確実に、II層の耐摩耗性と耐チッピング性が向上する。
【0026】
(6)<100>優先方位に由来する回折線の半値全幅
被覆層の100>優先方位に由来する回折線強度の半値全幅が、0.2°以上、1.0°以下であることが好ましい。半値全幅がこの範囲にあると、IIa層とIIb層の格子定数の差が小さくなり、前記目的が確実に達成される。
【0027】
(7)<111>優先方位に由来する回折線強度と<100>優先方位に由来する回折線強度
被覆層の<111>優先方位に由来する回折線強度I(111)と、<100>優先方位に由来する回折線強度I(100)において、2≦I(100)/I(111)≦20であることがより一層好ましい。I(100)/I(111)がこの範囲にあれば、前記目的がより確実に達成される。
【0028】
2.その他の層
(1)最外層
被覆層(I層およびII層)だけでも、前述の目的は達成できるが、被覆工具としてより好ましいものとするために最外層を設けてもよい。
最外層は、TiN層(TiNは化学量論的な組成に限定されない)を例示できる。TiNは、黄金色の色調を有することから、例えば、被覆工具が未使用か使用されているかを被覆工具表面の色調変化によって判別する識別層として活用することができる。
ここで、識別層としてのTiN層の平均厚みは、例えば、0.01~1.0μmでよい。
【0029】
(2)不可避的に生じる可能性のある層
本実施形態では、I層、II層、最外層以外は存在しないように成膜される。しかし、成膜すべき層を変更する際に、成膜装置内の圧力の変化が不可避的に発生し、これらの層とは組成の異なった意図しない層が形成されることがある。
【0030】
3.基体
(1)材質
基体の材質は、従来公知の基材の材質であれば、前述の目的を達成することを阻害するものでない限り、いずれのものも使用可能である。一例をあげるならば、超硬合金(WC基超硬合金、WCの他、Coを含み、さらに、Ti、Ta、Nb等の炭窒化物を添加したものも含むもの等)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの等)、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなど)、cBN焼結体、またはダイヤモンド焼結体のいずれかであることが好ましい。
【0031】
(2)形状
基体の形状は、切削工具として用いられる形状であれば特段の制約はなく、インサートの形状、ドリルの形状が例示できる。
【0032】
4.各層の平均厚さの測定
本実施形態において、被覆層を構成する各層の平均厚さについては、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)に付属するエネルギー分散型X線分光器(Energy Dispersive X-ray Spectroscope:EDS)を用いた縦断面の観察により求めることができる。
【0033】
II層の交互積層部IIaとIIbの平均厚さについては、被覆層の厚さ方向に5本のTEM-EDS線分析を行うことで求めることができる。被覆層の厚さ方向にTEM-EDS線分析を行うと、II層はIIa層とIIb層が交互積層されているため、BとSiの含有量が繰り返しに増減する。被覆層断面のTEM-EDS線分析の結果、Bの含有量の極大点と隣接する含有量の極小点の平均間隔を(Al1-y-zTi)Nの平均厚さ、Siの含有量の極大点と隣接する含有量の極小点の平均間隔を(Al1-p-qTiSi)N平均厚さとした。
【0034】
5.各層の組成の測定
各層の各成分平均含有割合については、被覆層の厚さ方向に5本のTEM-EDS線分析を行うことで求めることができる。
【0035】
6.回折線強度の測定
回折線強度の測定はX線回折(X-Ray Diffraction:XRD)装置を用いた回折線の分析を行うことで求めることができる。基体表面に垂直な方向(被覆層の厚さ方向)から、I層、IIa層およびIIb層の(200)面配向に由来する、総括したX線回折強度(I層、IIa層およびIIb層の重なったX線回折強度)を測定し、その半値全幅を算出した。またX線回折によって得られる<100>優先方位に由来するX線回折強度をI(200)、<111>優先方位に由来するX線回折強度をI(111)として算出した。なお、回折線強度の測定は、例えば、測定条件:Cu管球、測定範囲(2θ):30~70度、スキャンステップ:0.015度、スキャンスピード:2度/minという条件で測定することができる。
【0036】
6.製造方法
本実施形態の被覆工具の被覆層は、例えば、AIP装置(アークイオンプレーティング装置)を用いて製造することができる。また、そのターゲットとして、I層成膜用としてI層の組成に対応した組成のAlTiターゲットを、II層成膜用として、IIa層の組成に対応した組成のAlTiBターゲットを、IIb層の組成に対応した組成のAlTiSiターゲットを、それぞれ用いることにより成膜することができる。
【実施例0037】
次に、実施例について説明する。
ここでは、本発明の被覆工具の実施例として、基体としてcBN焼結体を用いたインサート切削工具に適用したものについて述べるが、基体は前述の材質のものが使用でき、また、前述のとおり形状としてドリル、エンドミル等に適用した場合も同様である。
【0038】
1.cBN製の基体の作製
基体を作製するにあたってcBN粉末と、バインダーとして TiN粉末、TiC粉末、TiCN粉末、Al粉末、AlN粉末、Al粉末を用意する。バインダー粉末のいずれか1種以上とcBN粉末を表1に記載された配合比で混合し、超高圧高温発生装置により焼結(焼結温度:1300℃、焼結圧力4.0GPa、焼結時間:30分)して、ISO規格におけるCNGA120408相当形状のcBN製の基体1~3を作製した。
【0039】
【表1】
【0040】
2.被覆層の成膜
(1)基体1~3をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、AIP装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着する。また、カソード電極(蒸発源)として、所定組成の合金ターゲットを配置した。
【0041】
(2)次に、前記回転テーブル上で自転するcBN基体をArイオンによってボンバード洗浄した。
【0042】
(3)AIP装置内に反応ガスとして、表2に示す分圧が2~6Paの窒素雰囲気とし、同じく表2に示す炉内温度に維持した。そして、前記回転テーブル上で自転する基体に、表2に示す-30~-100Vの直流電圧を印加し、I層形成用のAlTi合金電極とアノード電極との間に70~180Aの電流を流してアーク放電を発生させて所定厚さのI層を形成した。
【0043】
(4)続いて、表2に示す-30~-100Vの直流電圧を印加し、II層のIIa層形成用のAlTiB合金電極とアノード電極との間に70~200Aの電流を流してアーク放電を発生させて所定厚さのIIa層を形成した。
【0044】
(5)さらに、表2に示す-30~-100Vの直流電圧を印加し、II層のIIb層形成用のAlTiSi合金電極とアノード電極との間に70~200Aの電流を流してアーク放電を発生させて所定厚さのIIb層を形成した。
【0045】
(6)前記(4)と前記(5)の操作を繰り返して、IIa層とIIb層を積層させた。
【0046】
(7)更に、いくつかの実施例では、(6)の操作後に-20~-150Vの直流電圧を印加し、TiN層形成用のTi電極とアノード電極との間に50~250Aの電流を流してアーク電流を発生させて最外層であるTiN層を成膜し、表4に示す実施例の被覆工具実施例1~9を得た。
【0047】
一方、比較のため、前記基体1~5に対して、前記と同じ成膜装置を用いて、表3に示す条件で被覆層を蒸着形成し、表4に示す比較例の被覆工具(以下、「比較例」という)1~8を作製した。いくつかの比較例では、実施例と同様にして最外層であるTiN層を成膜した。
【0048】
被覆層の平均厚さ、被覆層の平均組成は、前記で作製した実施例1~9および比較例1~8の基体の表面に垂直な被覆層の縦断面について、基体の表面に平行な方向の幅が10μmであり、被覆層の厚み領域が全て含まれるよう設定された視野について、前述の方法により求めた。観察倍率は5000倍であり、5点の膜厚を求めて平均層厚を算出した。各層の各成分平均含有量については、被覆層の厚さ方向に5本のTEM-EDS線分析を行って求めた。
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
次に、前記実施例1~9および比較例1~9について、下記の切削試験を行い、逃げ面の摩耗幅を測定した。切削試験の結果を表5に示す。
【0053】
<切削試験>
被削材:焼入れ鋼SCr420(形状は、φ38×L120丸棒にスリット幅23mmのスリット2本を有するもの)
切削速度:200m/min
切込み:fr=0.05mm/rev、 ap=0.1mm
30秒ごとに刃先を観察し、最大360秒まで加工を実施した。刃先先端にチッピングが生じたとき、または、最大の逃げ面摩耗幅が200μmを超えたときを寿命とした。
【0054】
【表5】
【0055】
表5において、「※」は、最大切削長に到達する前に使用寿命に至ったため、切削寿命(秒)を示している。
【0056】
表5に示される結果から明らかなように、実施例1~9は断続切削加工においても、優れた耐摩耗性や耐欠損性を有していることがわかる。
これに対して、比較例1~8はいずれも被覆層の摩耗やチッピングが発生し、短い寿命であった。
【符号の説明】
【0057】
1 基体
2 被覆層
3 I層
4 II層
5 IIa層
6 IIb層
図1