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特開2023-144702捺染用水性インクジェットインク及び捺染物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144702
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】捺染用水性インクジェットインク及び捺染物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20231003BHJP
   D06P 1/645 20060101ALI20231003BHJP
   D06P 5/30 20060101ALI20231003BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20231003BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C09D11/322
D06P1/645
D06P5/30
B41J2/01 501
B41M5/00 114
B41M5/00 120
B41M5/00 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051810
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】白石 哲也
(72)【発明者】
【氏名】林 暁子
(72)【発明者】
【氏名】甲 こころ
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FB03
2C056FC01
2H186AB13
2H186BA08
2H186DA17
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB48
2H186FB56
2H186FB58
4H157AA01
4H157AA02
4H157BA15
4H157CA29
4H157CB18
4H157CB25
4H157DA01
4H157GA06
4J039AE06
4J039BA04
4J039BA13
4J039BA35
4J039BC09
4J039BC13
4J039BC35
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE28
4J039BE30
4J039CA07
4J039EA18
4J039EA19
4J039EA46
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】インクのワイピング性に優れ、捺染物の溶剤滲みを抑制する捺染用水性インクジェットインクを提供することである。
【解決手段】水、水溶性有機溶剤、アミノアルコール、水分散性樹脂、及び顔料を含み、固形分がインク全量に対し20質量%以上であり、水溶性有機溶剤は、沸点が250℃以上であり、かつポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール誘導体、及び3価アルコールからなる群から選択される1種以上である水溶性有機溶剤(A)を含み、水溶性有機溶剤(A)はインク全量に対し1~7質量%であり、水溶性有機溶剤の全含有量からアミノアルコールの含有量を除く含有量を1質量部とする場合に水溶性有機溶剤(A)の含有量が0.110質量部以上であり、固形分の全含有量を1質量部とする場合にアミノアルコールの含有量が0.010質量部以上である、捺染用水性インクジェットインクである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、水溶性有機溶剤、アミノアルコール、水分散性樹脂、及び顔料を含み、固形分がインク全量に対し20質量%以上であり、
前記水溶性有機溶剤は、沸点が250℃以上であり、かつポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール誘導体、及び3価アルコールからなる群から選択される1種以上である水溶性有機溶剤(A)を含み、
前記水溶性有機溶剤(A)はインク全量に対し1~7質量%であり、
水溶性有機溶剤の全含有量から前記アミノアルコールの含有量を除く含有量を1質量部とする場合に前記水溶性有機溶剤(A)の含有量が0.110質量部以上であり、
固形分の全含有量を1質量部とする場合に前記アミノアルコールの含有量が0.010質量部以上である、捺染用水性インクジェットインク。
【請求項2】
水溶性有機溶剤の全含有量から前記アミノアルコールの含有量を除く含有量を1質量部とする場合に前記水溶性有機溶剤(A)の含有量が0.150質量部以上である、請求項1に記載の捺染用水性インクジェットインク。
【請求項3】
固形分の全含有量を1質量部とする場合に前記アミノアルコールの含有量が0.030質量部以上である、請求項1又は2に記載の捺染用水性インクジェットインク。
【請求項4】
前記水溶性有機溶剤は、沸点が250℃未満である水溶性有機溶剤(B)を含み、
水溶性有機溶剤の全含有量から前記アミノアルコールの含有量を除く含有量を1質量部とする場合に前記水溶性有機溶剤(B)の含有量が0.500質量部以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載の捺染用水性インクジェットインク。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の捺染用水性インクジェットインクを布にインクジェット方式で付与することを含む、捺染物の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捺染用水性インクジェットインク及び捺染物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
織物、編み物、不織布等の布に、文字、絵、図柄等の画像を捺染する方法として、スクリーン捺染法やローラー捺染法の他に、近年では、コンピュータで画像処理して実質無版で捺染することができるダイレクト方式の捺染インクジェット方法が注目されている。捺染インクジェット方法は、布に非接触で画像を捺染することができるという点で、他の捺染方法に比べて応用性が広いという利点もある。布への捺染では、溶剤による布の変質防止、環境への安全性等の観点から水性インクジェットインクが適している。
【0003】
布への捺染では、画像の発色性及び耐候性に優れる顔料を用いる場合に、顔料の布への定着性を高めるために、結着性を示す顔料、顔料と布との定着性を高める樹脂等が用いられる。例えば、バインダー樹脂の添加によって、布へのインク画像の定着性を高め、さらにインク画像の塗膜強度を高めることができる。
【0004】
布へのインク画像の定着のために顔料及び樹脂等の固形分の含有量が多くなると、大気開放環境でインクが放置される状態で、インクが固化又は膜化することがある。例えば、インクジェットノズルからインクが吐出される際にインクミストがノズル吐出口近傍に付着すると、ノズル吐出口近傍において付着したインクが大気開放されて固化又は膜化し吐出不良を引き起こすことがある。ノズル吐出口近傍において付着したインクをワイピング動作によって拭き取ることも可能だが、インクが固化又は膜化しているとワイピング性が低下することがある。
【0005】
水性インクの固化又は膜化を防止する方法として、水性インクにグリセリン等の保湿性成分を添加して、水性インクから水分の揮発を抑制する方法がある。さらに、水性インクへのアミン化合物の添加とインクの固化又は膜化の関係性についても検討されている。
【0006】
特許文献1には、正に帯電しているOHPシート(オーバーヘッドプロジェクタシート)への印刷において、アニオン性ウレタン樹脂を水性インクの定着樹脂として用いることで、インク画像の定着性を高めることが提案されている。
特許文献1には、水性インクにおいてインクの乾燥を抑制するためにグリセリン等の多価アルコールを用いることが開示されている。
【0007】
特許文献2には、光沢紙への印刷においてアニオン性ウレタン樹脂を含む水性インクを用いることで、画像の耐擦過性とメンテナンス性を改善することが提案されている。特許文献2には、水性インクにおいて特定のアミン化合物がアニオン性ウレタン樹脂に対し特定の質量割合で含まれることで、水性インクから水分が蒸発する場合にもアミン化合物が水性インク中に残りアニオン性ウレタン樹脂のカウンターイオンとして作用するため、インクの粘度上昇を抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-053328号公報
【特許文献2】特開2016-210954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び2の技術のように、OHPシート、光沢紙等に付与される水性インクは固形分が少なく、相対的に水分量が多くなっている。そのため、開放放置環境でインクからの水分の蒸発量はある程度許容される処方になっている。布への捺染において、インク画像の画像濃度及び定着性を高めるために顔料及び樹脂等の固形分の合計含有量が多い場合では、インクから水分が蒸発すると系の安定性が崩れ、顔料及び樹脂等が凝集し、さらに凝集した顔料及び樹脂等が固着しやすくなる問題がある。
【0010】
特許文献1の技術では、インクの乾燥を抑制し、インクジェットノズルの目詰まりを防止するために、保湿性成分であるグリセリンの含有割合を多くしている。しかし、保湿性成分が多く含まれる水性インクを布に付与すると、布から溶剤成分が乾燥しにくくなり、画像領域以外に溶剤成分が濡れ広がり、インク画像の周りに溶剤滲みが観察される場合がある。
特許文献2の技術では、インク中にアミン化合物を添加することで固形分のカウンターイオンの揮発による凝集を防いでいる。しかし、インク中の固形分が多く水分量が少ない場合では、インクから水分が蒸発した際の溶剤系の極性変化が大きくなり、顔料、樹脂等の凝集が引き起こされる場合がある。
【0011】
本発明の一目的としては、インクのワイピング性に優れ、捺染物の溶剤滲みを抑制する捺染用水性インクジェットインクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一側面としては、水、水溶性有機溶剤、アミノアルコール、水分散性樹脂、及び顔料を含み、固形分がインク全量に対し20質量%以上であり、前記水溶性有機溶剤は、沸点が250℃以上であり、かつポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール誘導体、及び3価アルコールからなる群から選択される1種以上である水溶性有機溶剤(A)を含み、前記水溶性有機溶剤(A)はインク全量に対し1~7質量%であり、水溶性有機溶剤の全含有量から前記アミノアルコールの含有量を除く含有量を1質量部とする場合に前記水溶性有機溶剤(A)の含有量が0.110質量部以上であり、固形分の全含有量を1質量部とする場合に前記アミノアルコールの含有量が0.010質量部以上である、捺染用水性インクジェットインクである。
本発明の他の側面としては、上記した捺染用水性インクジェットインクを布にインクジェット方式で付与することを含む、捺染物の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、インクのワイピング性に優れ、捺染物の溶剤滲みを抑制する捺染用水性インクジェットインクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を一実施形態を用いて説明する。本発明は以下の実施形態における例示によって限定されるものではない。以下の説明における用語及び表現は後述の実施例の具体例によって限定されるものではない。
【0015】
<捺染用水性インクジェットインク>
一実施形態による捺染用水性インクジェットインクは、水、水溶性有機溶剤、アミノアルコール、水分散性樹脂、及び顔料を含み、固形分がインク全量に対し20質量%以上であり、水溶性有機溶剤は、沸点が250℃以上であり、かつポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール誘導体、及び3価アルコールからなる群から選択される1種以上である水溶性有機溶剤(A)を含み、水溶性有機溶剤(A)はインク全量に対し1~7質量%であり、水溶性有機溶剤の全含有量からアミノアルコールの含有量を除く含有量を1質量部とする場合に水溶性有機溶剤(A)の含有量が0.110質量部以上であり、固形分の全含有量を1質量部とする場合にアミノアルコールの含有量が0.010質量部以上であることを特徴とする。
これによれば、インクのワイピング性に優れ、捺染物の溶剤滲みを抑制する捺染用水性インクジェットインクを提供することができる。
以下の説明において、捺染用水性インクジェットインクを単に水性インク又はインクと称することがある。
【0016】
水性インク中において顔料、樹脂粒子等の粒子状物質は、静電反発力によって分散された状態であることが好ましい。水性インク中で粒子状物質の静電反発力を補助するためにカウンターイオンが含まれる。このカウンターイオンは一般的に沸点が低いイオン性化合物として水性インクに配合されることから、水性インクを大気開放環境で放置すると水分とともに低沸点のイオン性化合物がインクから揮発しやすくなる。イオン性化合物が揮発してインク中のカウンターイオンが減少すると粒子状物質間の静電反発力が弱くなり、粒子状物質が凝集しやすくなる。固形分がインク全量に対し20質量%以上となる場合では静電反発力の補助効果を得るためにカウンターイオンが十分に水性インクに含まれることが望ましい。
アミノアルコールは比較的に沸点が高い化合物であることから、アミノアルコールが水性インクに含まれる場合では、開放放置環境にあってもインクからの揮発を抑制することができる。アミノアルコールはアミノ基部位がカチオン性を示すことから、水性インク中の粒子状物質のカウンターイオンとして作用し、粒子状物質の静電反発力を補助することができる。また、アミノアルコールは有機物であることから水溶性有機溶剤との親和性が高く、水性インク中において粒子状物質のカウンターイオンとして作用しやすくなる。このようにアミノアルコールが粒子状物質の静電反発力を補助し、粒子状物質の凝集を抑制することができる。
カウンターイオンの減少により粒子状物質が凝集しやすい状態では、水性インクがインクジェットノズルから吐出されインクミストがノズル吐出口近傍に付着する場合に、ノズル吐出口近傍でインクの粒子状物質が固着し、ノズルからの吐出不良を引き起こすことがある。さらには、ノズル吐出口近傍で固着した粒子状物質は印刷装置のワイピング動作で取り去ることが難しくなり、インクのワイピング性の低下を引き起こすことがある。ワイピング性が低下すると吐出不良が改善されにくくなり、さらにはワイパー等の部材の寿命が短くなり印刷装置のメンテンナンス性が低下することがある。
【0017】
水性インクに含まれる水溶性有機溶剤(A)は、沸点が250℃以上であり、かつポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール誘導体、及び3価アルコールからなる群から選択される1種以上であることから、高沸点及び高極性を示し水性インクから揮発しにくく、さらに保湿性を示し水性インクから水分の揮発を抑制することができる。
一方で、水性インクが布に付与された状態では、水溶性有機溶剤(A)は捺染物から揮発しにくく水分の揮発を抑制するため、捺染物において溶剤滲みの発生の一因となることがある。溶剤滲みは、捺染物においてインクを付与した領域から溶剤成分が滲みだし、インク画像の周囲に溶剤によって基材の変色が観察される現象である。
水溶性有機溶剤(A)のインク全量に対する含有量を規定することで、水分の揮発を抑制するとともに、捺染物において溶剤の滲みを抑制することができる。
【0018】
水溶性有機溶剤の全含有量からアミノアルコールの含有量を除く含有量を1質量部とする場合に水溶性有機溶剤(A)の含有量が0.110質量部以上であることで、溶剤系において高沸点かつ高極性の水溶性有機溶剤(A)の質量割合を大きくすることができる。水溶性有機溶剤(A)は高沸点を示すため開放放置環境でも水性インクから揮発しにくいことから、水分が揮発して減少したとしても水溶性有機溶剤(A)の減少は抑制され、溶剤系を高極性に維持することができる。溶剤系の極性が低下すると粒子状物質、特に親水性の粒子状物質の分散不良が引き起こされることがある。そのため、溶剤系を高極性に維持することで粒子状物質の凝集が抑制され、インクのワイピング性の低下を防止することができる。
【0019】
また、水性インク中においてアミノアルコールは粒子状物質のカウンターイオンとして作用するため、粒子状物質を含む固形分に対するアミノアルコールの質量割合を規定することで、水性インク中で粒子状物質の静電反発力を十分に維持し、粒子状物質の凝集を抑制し、インクのワイピング性の低下を防止することができる。
【0020】
水性インクは、水、水溶性有機溶剤、アミノアルコール、水分散性樹脂、及び顔料を含み、固形分がインク全量に対し20質量%以上であるものである。水性インクの固形分は、揮発成分を除く成分の合計量である。水性インクの固形分としては、顔料、水分散性樹脂等が挙げられ、さらに顔料分散剤、界面活性剤、架橋剤等の任意成分の中から不揮発性成分が挙げられる。水性インクの固形分の測定方法は、TG-DTA(示差熱重量分析)等の熱分析により求めることができる。具体的には、RIGAKU製「Thermo plus EV02」(商品名)にて窒素雰囲気下で500℃まで昇温した場合に残留する成分の合計質量である。
【0021】
固形分は、水性インク全量に対し20質量%以上であることで、インク中の顔料濃度が高まり捺染物の画像濃度を高めることができる。また、固形分として樹脂粒子が含まれる場合は、捺染物に樹脂塗膜が形成されてインク画像の定着性をより高めることができる。また、捺染物に樹脂塗膜が形成されることでインク画像の塗膜強度が高まり、捺染物の耐擦過性及び堅牢性をより高めることができる。一実施形態では、顔料等の粒子状物質の静電反発力を十分に維持することができるため、固形分は、水性インク全量に対し23質量%以上、又は25質量%以上で含まれてもインクのワイピング性の低下を防止することができる。
特に限定されないが、インクの高粘度化を防止し吐出性能を高める観点から、固形分は、水性インク全量に対し40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。これらの範囲内であれば、顔料及び樹脂粒子を含む固形分の凝集を抑制しながら、捺染物の画像濃度、用途、風合い等を考慮して固形分を適宜調節することができる。
例えば、固形分は、インク全量に対し20~40質量%、23~35質量%、又は25~30質量%であってよい。
【0022】
水性インクは、水溶性有機溶剤(A)を含むものである。水溶性有機溶剤(A)は沸点が250℃以上であり、かつポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール誘導体、及び3価アルコールからなる群から選択される1種以上であってよい。
水溶性有機溶剤(A)はインク全量に対し1質量%以上で含まれることで、水性インクの保湿性を十分に得て、開放放置環境で水分の揮発を抑制することができる。水分の減少による水性インクの極性の低下が防止されるため、粒子状物質の凝集が抑制され、インクのワイピング性の低下を防止することができる。また、水性インクから水分の揮発が抑制されることで、水性インクの増粘が抑制される観点からも、インクのワイピング性を改善することができる。より好ましくは、水溶性有機溶剤(A)はインク全量に対し3質量%以上であり、さらに好ましくは4質量%以上である。
水溶性有機溶剤(A)はインク全量に対し7質量%以下で含まれることで、捺染物表面において水及び水溶性有機溶剤の揮発を促進して、捺染物の溶剤滲みの発生を防止することができる。捺染物の溶剤滲みをより防止する観点から、水溶性有機溶剤(A)はインク全量に対し6質量%以下、又は5質量%以下であってよい。
例えば、水溶性有機溶剤(A)はインク全量に対し1~7質量%、3~6質量%、又は4~7質量%であってよい。
【0023】
水溶性有機溶剤の全含有量からアミノアルコールの含有量を除く含有量を1質量部とする場合に水溶性有機溶剤(A)の含有量は、0.110質量部以上が好ましく、0.120質量部以上がより好ましく、0.130質量部以上がさらに好ましく、0.150質量部以上が一層好ましい。これらの範囲では、水性インク中で粒子状物質の凝集を抑制し、インクのワイピング性の低下を防止することができる。
水溶性有機溶剤の全含有量からアミノアルコールの含有量を除く含有量を1質量部とする場合に水溶性有機溶剤(A)の含有量は、特に限定されないが、0.650質量部以下が好ましく、0.550質量部以上がより好ましく、0.450質量部以下がさらに好ましい。これらの範囲では、捺染物の溶剤滲みの発生をより防止することができる。捺染物の溶剤滲みをより防止する観点から、この水溶性有機溶剤(A)の質量割合は、0.400質量部以下、又は0.300質量部以下がより好ましい。
例えば、水溶性有機溶剤の全含有量からアミノアルコールの含有量を除く含有量を1質量部とする場合に水溶性有機溶剤(A)の含有量は、0.110~0.650質量部、0.120~0.550質量部、又は0.130~0.450質量部であってよい。
【0024】
固形分の全含有量を1質量部とする場合にアミノアルコールの含有量は、0.010質量部以上が好ましく、0.020質量部以上がより好ましく、0.035質量部以上がさらに好ましい。これらの範囲では、水性インク中で粒子状物質の凝集を抑制し、ワイピング性の低下を防止することができる。
固形分の全含有量を1質量部とする場合にアミノアルコールの含有量は、特に限定されないが、0.200質量部以下が好ましく、0.150質量部以下がより好ましく、0.080質量部以下がさらに好ましい。これらの範囲では、アミノアルコールに高粘度のものを用いる場合に水性インクの粘度上昇を抑制することができる。また、水性インクのpH範囲が適度に調節されインクの貯蔵安定性をより改善することができる。
【0025】
このように、水性インクにアミノアルコール及び水溶性有機溶剤(A)が含まれ、固形分がインク全量に対し20質量%以上であり、水溶性有機溶剤(A)のインク全量に対する含有量が規定され、水溶性有機溶剤(A)の溶剤系に対する質量割合が規定され、アミノアルコールの固形分に対する質量割合が規定されることで、インクのワイピング性に優れ、捺染物の溶剤滲みを抑制する捺染用水性インクジェットインクを提供することができる。
【0026】
以下、アミノアルコールについて説明する。
アミノアルコールは、ヒドロキシ基を有する脂肪族アミン及びヒドロキシ基を有する芳香族アミンのいずれであってもよく、これらを組み合わせて用いてもよいが、好ましくはヒドロキシ基を有する脂肪族アミンである。ヒドロキシ基を有する脂肪族アミンとしては、アミノ基と飽和又は不飽和の直鎖又は分岐の炭化水素基とを有し、炭化水素基の少なくとも1個の水素原子がヒドロキシ基に置換された化合物であってよく、なかでもアルカノールアミンが好ましい。アミノアルコールにおいて、ヒドロキシ基の数は、1~5個が好ましく、1~4個がより好ましく、1~3個がさらに好ましい。
【0027】
アミノアルコールは、モノアミンであってもよく、ジアミン、トリアミン等の多価アミンであってもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。アミノアルコールとしては、塩基性の調節の観点から、モノアミンであることが好ましく、なかでもアルカノールモノアミンが好ましい。アミノアルコールは、溶解性及び塩基性の調節の観点から、窒素原子、及びヒドロキシ基に含まれる酸素原子を除いて、ヘテロ原子を含まない化合物であることが好ましい。
アミノアルコールは、第1級アミン化合物、第2級アミン化合物、及び第3級アミン化合物のいずれであってもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0028】
アミノアルコールとしては、例えば、2,2’,2’’-ニトリロトリエタノール、ジ-2-プロパノールアミン、2-ジメチルエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノ-ル、1-アミノ-2-プロパノ-ル、3-アミノ-1-プロパノ-ル、N-メチルエタノ-ルアミン、N,N-ジメチルエタノ-ルアミン、1-アミノ-2-メチル-プロパノール、モノエタノ-ルアミン、ジエタノ-ルアミン、トリエタノ-ルアミン、N,N-ジメチルモノエタノ-ルアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、N-メチルジエタノ-ルアミン、N-メチルエタノ-ルアミン、N-フェニルエタノ-ルアミン、3-アミノプロピルジエチルアミン、2-アミノ-2-エチル-1,3プロパンジオ-ル等が挙げられる。なかでも、ジ-2-プロパノ-ルアミン、トリエタノ-ルアミンが好ましい。
【0029】
アミノアルコールの沸点は、特に限定されないが、インクを低揮発性とし、かつ低粘度化する観点から、100~400℃が好ましく、130~360℃がより好ましく、150~350℃がさらに好ましい。水性インクからのアミノアルコールの揮発が抑制されることで、インクのワイピング性にも寄与する観点から、アミノアルコールの沸点は100℃以上、130℃以上、又は150℃以上が好ましく、200℃以上、250℃以上、又は300℃以上であってもよい。
アミノアルコールは、水溶性化合物であることが好ましく、例えば、25℃において水100gに0.1g以上、1g以上、又は5g以上で溶解する化合物であることが好ましい。また、アミノアルコールは、水性インクの処方において、25℃で水性インクの水及び水溶性有機溶剤に溶解していることが好ましい。
【0030】
水性インクは、水を含むことが好ましく、主溶媒が水であってもよい。水としては、特に制限されないが、イオン成分をできる限り含まないものが好ましい。特に、水性インクの貯蔵安定性の観点から、カルシウム等の多価金属イオンの含有量が少ないことが好ましい。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等を用いるとよい。
【0031】
水は、インク粘度調節の観点から、水性インク全量に対して20~80質量%で含まれることが好ましく、40~70質量%で含まれることがより好ましく、50~60質量%で含まれることがさらに好ましい。
【0032】
水性インクは、水溶性有機溶剤を含むことが好ましい。水溶性有機溶剤としては、室温(25℃)で液体であり、水に溶解可能な有機化合物を使用することができ、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0033】
以下、水溶性有機溶剤(A)について説明する。
水溶性有機溶剤(A)は沸点が250℃以上であることで、水性インクからの水溶性有機溶剤(A)の揮発が抑制され、水性インクの保湿性が高まり、水性インクの水分減少による極性の低下によって引き起こされる粒子状物質の凝集が抑制され、インクのワイピング性の低下を防止することができる。より好ましくは、水溶性有機溶剤(A)の沸点は260℃以上であり、さらに好ましくは280℃以上である。
水溶性有機溶剤(A)の沸点は、特に限定されないが、水性インクの粘度調節の観点から、400℃以下、350℃以下、又は300℃以下であることが好ましい。
例えば、水溶性有機溶剤(A)の沸点は250~400℃、260~350℃、又は280~300℃であってよい。
【0034】
水溶性有機溶剤(A)は、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール誘導体、及び3価アルコールからなる群から選択される1種以上である。
【0035】
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・プロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール等が挙げられる。ポリアルキレングリコールの数平均分子量は、溶剤の沸点及びインクの粘度を調節する観点から、100~800が好ましく、150~400がより好ましい。ここで、数平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法で標準ポリスチレン換算で求めた値である。
沸点が250℃以上を示すポリアルキレングリコールの具体例としては、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0036】
ポリアルキレングリコール誘導体としては、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル、ポリアルキレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・プロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール等のモノアルキルエーテル又はジアルキルエーテル等が挙げられる。
沸点が250℃以上を示すポリアルキレングリコール誘導体の具体例としては、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
【0037】
3価アルコールとしては、飽和又は不飽和の脂肪族3価アルコールが好ましく、飽和続3価アルコールがより好ましい。3価アルコールの炭素数は、3~8が好ましく、2~5がより好ましい。
沸点が250℃以上を示す3価アルコールの具体例としては、グリセリン、トリメチロールエタン、1,2,4-ブタントリオール等が挙げられる。
【0038】
水溶性有機溶剤(A)としては、好ましくは、グリセリン、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールであり、より好ましくは、グリセリン、トリエチレングリコールであり、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0039】
水性インクは、水溶性有機溶剤(A)に加えてその他の水溶性有機溶剤をさらに含んでもよい。その他の水溶性有機溶剤としては、例えば、低級アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、β-チオジグリコール、スルホラン、沸点が250℃未満のポリアルキレングリコール及びその誘導体、沸点が250℃未満の3価アルコール及びその誘導体等が挙げられ、なかでもグリコール類、グリコールエーテル類が好ましい。
低級アルコール類としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、2-メチル-2-プロパノール等の低級アルコール類等が挙げられる。グリコール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-エチル-1,3-ブタンジオール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。グリコールエーテル類としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
その他の水溶性有機溶剤の沸点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。その他の水溶性有機溶剤は、単独で使用してもよく、水及び水溶性有機溶剤(A)と単一の相を形成する限り2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0040】
水性インクは、水溶性有機溶剤として、水溶性有機溶剤(A)に加えて、沸点が250℃未満である水溶性有機溶剤(B)をさらに含むことが好ましい。これによって、捺染物の溶剤滲みの発生をより抑制することができる。
水溶性有機溶剤(B)の沸点はより好ましくは245℃以下であり、さらに好ましくは230℃以下である。
特に限定されないが、水溶性有機溶剤(B)の沸点は、インクを低揮発性とする観点から、100℃以上、150℃以上、又は200℃以上であることが好ましい。
例えば、水溶性有機溶剤(B)の沸点は100~250℃、150~245℃、又は200~230℃であってよい。
【0041】
水溶性有機溶剤(B)としては、上記した水溶性有機溶剤の具体例の中から沸点が250℃未満の溶剤を1種、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。水溶性有機溶剤(B)としては、グリコール類が好ましい。例えば、水溶性有機溶剤(B)としては、ジエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、1,3プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-エチル-1,3-ブタンジオール等が挙げられる。好ましくは、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3プロパンジオール、1,3-ブタンジオールであり、これらを1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
水溶性有機溶剤の全含有量からアミノアルコールの含有量を除く含有量を1質量部とする場合に水溶性有機溶剤(B)の含有量は、捺染物の溶剤滲みの発生抑制の観点から、0.500質量部以上であることが好ましく、0.600質量部以上であることがより好ましく、0.800質量部以上であることがさらに好ましい。この水溶性有機溶剤(B)の質量割合は、0.500~0.900質量部、0.600~0.880質量部、又は0.800~0.850質量部であってよい。捺染物の溶剤滲みの発生をより抑制する観点から、水性インクに含まれる水溶性有機溶剤において、水溶性有機溶剤(A)及びアミノアルコールを除く水溶性有機溶剤は全て沸点が250℃未満であることが好ましい。
【0043】
水溶性有機溶剤(B)は、インク全量に対し1~80質量%であってよく、5~50質量%、10~30質量%、又は15~20質量%がより好ましい。
【0044】
水溶性有機溶剤(A)に加えその他の水溶性有機溶剤が含まれる場合、水溶性有機溶剤の合計含有量は、インク全量に対し、1~80質量%であることが好ましく、5~40質量%であることがより好ましく、7~30質量%であることがさらに好ましい。
【0045】
水性インクは顔料を含むことができる。顔料は白色顔料及び非白色顔料のいずれであってもよい。
水性インクは、白色顔料を含むことで、白色を呈する画像を形成するために用いることができる。また、白色顔料を含むインクは、基材の隠蔽性を高めるためにカラー印刷の下地層として基材に付与することができる。白色顔料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。
白色顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム等の白色無機顔料などを挙げることができる。さらに、中空樹脂微粒子、中実樹脂微粒子等の白色有機顔料を用いることもできる。なかでも、隠蔽性の観点から、酸化チタン顔料を用いることが好ましい。白色顔料の平均粒子径は、動的光散乱法により測定した粒度分布における体積基準の平均値として、隠蔽性の観点から50nm以上、100nm以上、又は200nm以上であることが好ましく、吐出安定性の観点から500nm以下、400nm以下、300nm以下であることが好ましい。酸化チタン顔料の平均粒子径は隠蔽性及び吐出安定性の観点から200~300nmがより好ましい。酸化チタン顔料を使用する場合は、光触媒作用を抑制するために、アルミナ、シリカ等で表面処理されたものを用いることが好ましい。表面処理量は、顔料中に5~20質量%であることが好ましい。
【0046】
水性インクは、非白色顔料を含むことで、カラーインクを提供することができる。カラーインクとしては、マゼンタインク、シアンインク、イエローインク、ブラックインク等が挙げられる。非白色顔料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0047】
非白色顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料、及び、カーボンブラック、金属酸化物等の無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。非白色顔料の平均粒子径は、吐出安定性と貯蔵安定性の観点から、動的光散乱法により測定した粒度分布における体積基準の平均値として、300nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。
【0048】
顔料として自己分散性顔料を用いてもよい。自己分散性顔料は、化学的処理又は物理的処理により顔料の表面に親水性官能基が導入された顔料である。自己分散性顔料に導入させる親水性官能基としては、イオン性を有するものが好ましく、顔料表面をアニオン性又はカチオン性に帯電させることにより、静電反発力によって顔料粒子を水中に安定に分散させることができる。アニオン性官能基としては、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基等が好ましい。カチオン性官能基としては、第4級アンモニウム基、第4級ホスホニウム基等が好ましい。
これらの親水性官能基は、顔料表面に直接結合させてもよいし、他の原子団を介して結合させてもよい。他の原子団としては、アルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられるが、これらに限定されることはない。顔料表面の処理方法としては、ジアゾ化処理、スルホン化処理、次亜塩素酸処理、フミン酸処理、真空プラズマ処理等が挙げられる。
【0049】
自己分散性顔料としては、例えば、キャボット社製CAB-O-JETシリーズ「CAB-O-JET200」、「CAB-O-JET300」、「CAB-O-JET250C」、「CAB-O-JET260M」、「CAB-O-JET270」、「CAB-O-JET450C」等、オリヱント化学工業株式会社製「BONJET BLACK CW-1」、「BONJET BLACK CW-2」、「BONJET BLACK CW-3」、「BONJET BLACK CW-4」等を好ましく使用することができる(いずれも商品名)。
【0050】
顔料分散剤で顔料があらかじめ分散された顔料分散体を使用してもよい。顔料分散剤で分散された顔料分散体の市販品としては、例えば、クラリアント社製HOSTAJETシリーズ、冨士色素株式会社製FUJI SPシリーズ等が挙げられる。また、顔料として、顔料を樹脂で被覆したマイクロカプセル化顔料を用いてもよい。
【0051】
顔料は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
顔料は、画像濃度とインク粘度の観点から、インク全量に対して0.1~20質量%であることが好ましく、1~15質量%であることがより好ましく、2~10質量%であることがさらに好ましい。
白色顔料の場合は、布の隠蔽性の観点から、インク全量に対して3~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましく、7~15質量%がさらに好ましい。
【0052】
貯蔵安定インク中に貯蔵安定顔料を安定に分散させるために、高分子分散剤、界面活性剤型分散剤等に代表される顔料分散剤を用いることができる。
高分子分散剤としては、例えば、市販品として、EVONIK社製のTEGOディスパースシリーズ「TEGOディスパース740W」、「TEGOディスパース750W」、「TEGOディスパース755W」、「TEGOディスパース757W」、「TEGOディスパース760W」等、日本ルーブリゾール株式会社製のソルスパースシリーズ「ソルスパース20000」、「ソルスパース27000」、「ソルスパース41000」、「ソルスパース41090」、「ソルスパース43000」、「ソルスパース44000」、「ソルスパース46000」等、BASFジャパン株式会社製のジョンクリルシリーズ「ジョンクリル57」、「ジョンクリル60」、「ジョンクリル62」、「ジョンクリル63」、「ジョンクリル71」、「ジョンクリル501」等、ビックケミージャパン株式会社製の「DISPERBYK-102」、「DISPERBYK-185」、「DISPERBYK-190」、「DISPERBYK-193」、「DISPERBYK-199」等、第一工業製薬株式会社製の「ポリビニルピロリドンK-30」、「ポリビニルピロリドンK-90」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0053】
界面活性剤型分散剤としては、例えば、花王株式会社製デモールシリーズ「デモールP」、「デモールEP」、「デモールN」、「デモールRN」、「デモールNL」、「デモールRNL」、「デモールT-45」等のアニオン性界面活性剤、花王株式会社製エマルゲンシリーズ「エマルゲンA-60」、「エマルゲンA-90」、「エマルゲンA-500」、「エマルゲンB-40」、「エマルゲンL-40」、「エマルゲン420」等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる(いずれも商品名)。
さらに、界面活性剤型分散剤としては、例えば、日本ルーブリゾール株式会社製「ソルスパース27000」(商品名);Borchers製「borchiGenDFN(アリルアルキルビフェニルポリグリコールエーテル)」(商品名);ビックケミー・ジャパン株式会社製「DISPERBYK-193」(商品名);竹本油脂株式会社製「パイオニンD-6115(アリールフェニルエーテル)」、「タケサーフD-6108-W(ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル)」、「パイオニンD-6512(ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル)」(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0054】
顔料分散剤は、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
顔料分散剤を使用する場合のインク中の含有量は、その種類によって異なり特に限定はされないが、一般に、有効成分の質量比で顔料1に対し、0.005~0.5が好ましい。
【0055】
水性インクは、水分散性樹脂を含むことができる。水分散性樹脂としては、例えばバインダー樹脂等が挙げられる。水性インクにバインダー樹脂が含まれることで、布上で樹脂塗膜が形成されて、インク画像の定着性、耐擦過性等を改善することができる。
【0056】
水分散性樹脂は、水性インクに油中水型エマルションの形態で配合され、水性インク中で樹脂粒子の形態で分散可能であるものが好ましい。水分散性樹脂は、水に安定に分散させるために親水性基及び/又は親水性セグメントが導入された自己乳化型のものでもよいし、外部乳化剤の使用により水分散性となるものでもよい。水分散性樹脂は顔料の色味に影響を与えないように、透明な塗膜を形成する樹脂であることが好ましい。
【0057】
水分散性樹脂は、アニオン性樹脂、カチオン性樹脂、両性樹脂、ノニオン性樹脂のいずれであってもよい。水性インク中での顔料の分散安定性を考慮して、アニオン性樹脂、両性樹脂、ノニオン性樹脂、又はこれらの組み合わせを好ましく用いることができ、より好ましくはアニオン性樹脂である。水分散性樹脂としては、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基等のアニオン性官能基を有するアニオン性樹脂が好ましい。
【0058】
水分散性樹脂はインク中で樹脂粒子として存在することが好ましい。樹脂粒子の平均粒子径は、インクジェット吐出性の観点から、300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、150nm以下がより好ましい。例えば、樹脂粒子の平均粒子径は、10nm~300nmの範囲とするとよい。また、インクに投入する樹脂エマルションにおいて樹脂粒子の平均粒子径がこれらの範囲を満たすことが好ましい。
ここで、樹脂の平均粒子径は、体積基準の平均粒子径であり、動的光散乱法によって測定した数値である。
【0059】
水分散性樹脂の一例としては、スチレン-ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等の共役ジエン系樹脂;アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの重合体、またはこれらとスチレン等との共重合体等のアクリル系樹脂;エチレン-酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂、あるいはこれらの各種樹脂のカルボキシ基等の官能基含有単量体による官能基変性樹脂;ポリエーテル型ウレタン樹脂、ポリエステル型ウレタン樹脂、ポリエステル・エーテル型ウレタン樹脂、ポリカーボネート型ウレタン樹脂等のポリウレタン樹脂;メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アルキッド樹脂等が挙げられる。
これらの単独樹脂の樹脂エマルションを用いてもよく、これらの2種以上の樹脂を組み合わせたハイブリッド型の樹脂エマルションを用いてもよい。樹脂は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
水分散性樹脂としては、水分散性ウレタン樹脂、水分散性(メタ)アクリル樹脂、水分散性スチレン(メタ)アクリル樹脂、水分散性ポリエステル樹脂が好ましく、水分散性ウレタン樹脂、水分散性ポリエステル樹脂がより好ましく、これらは組み合わせて用いてもよい。
【0061】
水分散性ウレタン樹脂としては、例えば、第一工業製薬株式会社製のスーパーフレックス300、スーパーフレックス420、スーパーフレックス460、スーパーフレックス460S、スーパーフレックス470、スーパーフレックス740(ガラス転移点-34℃)、スーパーフレックス150HS、ダイセル・オルネクス株式会社のDAOTAN TW 6490/35WA、三井化学株式会社製のタケラックW-6061、宇部興産株式会社製のUW-1701F等が挙げられる(いずれも商品名)。これらは、ウレタン骨格を有するアニオン性樹脂である。
【0062】
水分散性(メタ)アクリル樹脂又は水分散性スチレン(メタ)アクリル樹脂の市販品としては、例えば、日本合成化学株式会社製のモビニール6751D、モビニール6960、モビニール6963、モビニール702、モビニール8020、モビニール966A、モビニール6718、モビニール6750、モビニール7720、BASF社製のジョンクリルPDX-7341、ジョンクリルPDX-7370、DSM社製のNeocryl A-1094、Neocryl BT-62が挙げられる。これらのなかでも、ガラス転移点が10℃以下のものが好ましい(いずれも商品名)。
【0063】
水分散性ポリエステル樹脂としては、例えば、ユニチカ株式会社製のエリーテルKT-0507、エリーテルKT-8701、エリーテルKT-8803、エリーテルKT-9204、エリーテルKT-9511、エリーテルKA-1449S、エリーテルKA-5071S、東洋紡株式会社製バイロナールMD-1100、バイロナールMD-1200、バイロナールMD-1245、バイロナールMD-1335、バイロナールMD-1480、バイロナールMD-1500、バイロナールMD-1930、バイロナールMD-1985、バイロナールMD-2000などが挙げられる(いずれも商品名)。
【0064】
水分散性樹脂は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いて用いることができる。
水分散性樹脂は、樹脂分量で、インク全量に対し1質量%以上、5質量%以上、又は10質量%以上であることで、捺染物のインク画像の定着性をより高めることができる。さらに、水分散性樹脂は、樹脂分量で、インク全量に対し10質量%以上、13質量%以上、又は15質量%以上であることで、捺染物のインク画像の塗膜強度をより高め、捺染物の耐擦過性及び堅牢性をより改善することができる。一実施形態によれば、水性インクが水分散性を樹脂粒子等の固形分として多く含む場合でも、樹脂粒子等の凝集が抑制されることから、インクのワイピング性の低下を防止することができる。
インクの粘度調節の観点から、水分散性樹脂は、樹脂分量で、インク全量に対し30質量%以下、25質量%以下、又は20質量%以下であることが好ましい。
例えば、水分散性樹脂は、樹脂分量で、インク全量に対し5~30質量%、10~25質量%、又は15~20質量%であってよい。
【0065】
水分散性樹脂は、インク画像の定着性及び塗膜強度の向上の観点とインクの粘度調節の観点から、質量比で顔料1質量部に対し0.1~10質量部が好ましく、1~5質量部がより好ましく、1.5~3質量部がさらに好ましい。
【0066】
水性インクは、架橋剤をさらに含んでもよい。水性インクが架橋剤を含むことで、インク画像の塗膜強度をより高めることができる。架橋剤としては、例えば、カルボジイミド系化合物、イソシアネート系化合物、オキサゾリン系化合物等を挙げることができる。
架橋剤は、水性インク全量に対し、0.1~5質量%であることが好ましく、0.2~2質量%であることがより好ましい。
【0067】
水性インクは、界面活性剤をさらに含むことができる。界面活性剤として、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤のいずれを用いてもよいが、非イオン性界面活性剤がより好ましい。また、低分子系界面活性剤、高分子系界面活性剤のいずれを用いてもよい。
【0068】
界面活性剤のHLB値は、5~20であることが好ましく、10~18であることがより好ましい。
【0069】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸ソルビタンエステル等のエステル型界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のエーテル型界面活性剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のエーテルエステル型界面活性剤;アセチレン系界面活性剤;シリコーン系界面活性剤;フッ素系界面活性剤等が挙げられる。なかでも、アセチレングリコール系界面活性剤等のアセチレン系界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0070】
アセチレン系界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレン基を有する界面活性剤等を挙げることができる。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、アセチレン基を有するグリコールであって、好ましくはアセチレン基が中央に位置して左右対称の構造を備えるグリコールであり、アセチレングリコールにエチレンオキサイドを付加した構造を備えてもよい。
アセチレン系界面活性剤の市販品としては、例えば、エボニックインダストリーズ社製サーフィノールシリーズ「サーフィノール104E」、「サーフィノール104H」、「サーフィノール420」、「サーフィノール440」、「サーフィノール465」、「サーフィノール485」等、日信化学工業株式会社製オルフィンシリーズ「オルフィンE1004」、「オルフィンE1010」、「オルフィンE1020」等を挙げることができる(いずれも商品名)。
【0071】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、アルキル・アラルキル共変性シリコーン系界面活性剤、アクリルシリコーン系界面活性剤等が挙げられる。
シリコーン系界面活性剤の市販品としては、例えば、日信化学工業株式会社製の「シルフェイスSAG002」、「シルフェイス503A」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0072】
また、その他の非イオン性界面活性剤として、例えば、花王株式会社製エマルゲンシリーズ「エマルゲン102KG」、「エマルゲン103」、「エマルゲン104P」、「エマルゲン105」、「エマルゲン106」、「エマルゲン108」、「エマルゲン120」、「エマルゲン147」、「エマルゲン150」、「エマルゲン220」、「エマルゲン350」、「エマルゲン404」、「エマルゲン420」、「エマルゲン705」、「エマルゲン707」、「エマルゲン709」、「エマルゲン1108」、「エマルゲン4085」、「エマルゲン2025G」等のポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0073】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、花王株式会社製エマールシリーズ「エマール0」、「エマール10」、「エマール2F」、「エマール40」、「エマール20C」等、ネオペレックスシリーズ「ネオペレックスGS」、「ネオペレックスG-15」、「ネオペレックスG-25」、「ネオペレックスG-65」等、ペレックスシリーズ「ペレックスOT-P」、「ペレックスTR」、「ペレックスCS」、「ペレックスTA」、「ペレックスSS-L」、「ペレックスSS-H」等、デモールシリーズ「デモールN、デモールNL」、「デモールRN」、「デモールMS」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0074】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、花王株式会社製アセタミンシリーズ「アセタミン24」、「アセタミン86」等、コータミンシリーズ「コータミン24P」、コータミン86P」、「コータミン60W」、「コータミン86W」等、サニゾールシリーズ「サニゾールC」、「サニゾールB-50」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0075】
両性界面活性剤としては、例えば、花王株式会社製アンヒトールシリーズ「アンヒトール20BS」、「アンヒトール24B」、「アンヒトール86B」、「アンヒトール20YB」、「アンヒトール20N」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0076】
界面活性剤は1種で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
界面活性剤は、インク全量に対し、0.1~5質量%が好ましく、0.2~2質量%がより好ましい。
【0077】
水性インクは、その他の成分をさらに含んでもよい。その他の成分としては、pH調整剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤等が挙げられる。
【0078】
水性インクの製造方法は、特に限定されず、公知の方法により適宜製造することができる。例えば、スリーワンモーター等の撹拌機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等のろ過機を通すことによりインクを得ることができる。
【0079】
水性インクのpHは、インクの貯蔵安定性の観点から、7.0~10.0が好ましく、7.5~9.0がより好ましい。
水性インクの粘度は適宜調節することができるが、例えば吐出性の観点から、23℃における粘度が1~30mPa・sであることが好ましい。
【0080】
一実施形態による捺染用水性インクジェットインクは布に付与して捺染物を提供することができる。布としては、織布、編物、不織布等が挙げられる。
【0081】
布を構成する繊維としては、例えば、金属繊維、ガラス繊維、岩石繊維および鉱サイ繊維等の無機繊維;セルロース系、たんぱく質系等の再生繊維;セルロース系等の半合成繊維;ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリフッ化エチレン等の合成繊維;綿、麻、絹、毛等の天然繊維等の各種の繊維から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
【0082】
<前処理液>
捺染用水性インクジェットインクを付与する布は、前処理してあってもよいし、未処理であってもよい。前処理した布を用いることで、インク画像の画質をより高めることができ、また、インク画像の布への定着性をより高めることができる。前処理した布は、布に前処理液を付与することで得ることができる。
【0083】
前処理液としては、凝集剤及び水を含む前処理液を好ましく用いることができる。
凝集剤としては、布上でインク中の色材を凝集させる作用を備える成分を用いることができる。これによって、前処理液を付与した布にインクがさらに付与されると、布上でインク中の色材が凝集し、画像濃度をより高めることができ、また、画像の滲みを防止することができる。凝集剤の具体例としては、金属塩、カチオン性ポリマー、有機酸等、又はこれらの組み合わせを用いることができる。
凝集剤の総量は、有効成分量で、前処理液全量に対し、1~30質量%が好ましく、3~30質量%がより好ましく、5~15質量%がさらに好ましい。
【0084】
金属塩としては、多価金属塩を好ましく用いることができる。
多価金属塩は、2価以上の多価金属イオンとアニオンから構成される。2価以上の多価金属イオンとしては、例えば、Ca2+、Mg2+、Cu2+、Ni2+、Zn2+、Ba2+等が挙げられる。アニオンとしては、例えば、Cl、NO 、CHCOO、I、Br、ClO 等が挙げられる。多価金属塩として具体的には、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸銅、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム等が挙げられる。
【0085】
カチオン性ポリマーとしては、カチオン性水溶性樹脂を好ましく用いることができる。
カチオン性水溶性樹脂としては、例えば、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン及びその塩、ポリビニルピリジン、カチオン性のアクリルアミドの共重合体等が挙げられる。より具体的には、例えば、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド等を用いることができる。
【0086】
有機酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、トリカルバリル酸、グリコール酸、チオグリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、イソクエン酸、グルコン酸、ピルビン酸、オキサル酢酸、ジグリコール酸、安息香酸、フタル酸、マンデル酸、サリチル酸等が挙げられる。
【0087】
前処理液は水を含むことが好ましい。前処理液は水に加え、又は水に変えて水溶性有機溶剤を含んでもよい。水及び水溶性有機溶剤の詳細については上記水性インクで説明した通りである。水溶性有機溶剤としては、例えば、上記した水性インクで説明したものから1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
水は、前処理液全量に対して、30~90質量%が好ましく、40~85質量%がより好ましく、50~80質量%であることがさらに好ましい。
水溶性有機溶剤は、前処理液全量に対し、5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、15~30質量%であることがさらに好ましい。
【0088】
前処理液は、界面活性剤をさらに含んでもよい。界面活性剤としては、例えば、上記した水性インクで説明したものから1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、非イオン性界面活性剤が好ましく、アセチレン系界面活性剤がより好ましく、アセチレングリコール系界面活性剤がさらに好ましい。
界面活性剤は、有効成分量で、前処理液全量に対し、0.1~10質量%が好ましく、0.2~5質量%がより好ましい。
【0089】
前処理液は、その他の成分をさらに含んでもよい。その他の成分としては、pH調整剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤等が挙げられる。
【0090】
前処理液の製造方法は、特に限定されず、公知の方法により適宜製造することができる。例えば、スリーワンモーター等の撹拌機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等のろ過機を通すことにより得ることができる。
【0091】
<捺染物の製造方法>
以下、一実施形態による捺染用水性インクジェットインクを用いて捺染物を製造する方法について説明する。
一例では、一実施形態による捺染用水性インクジェットインクをインクジェット方式によって布に付与することにより、捺染物を製造することができる。捺染用水性インクジェットインクが布に付与される前に、布に前処理液が付与されていてもよい。
捺染物の製造方法の好ましい一例は、前処理液を布に付与することと、前処理液を付与した布に、一実施形態による水性インクをインクジェット方式によって布に付与することとを含むことができる。この一例では、前処理液及び水性インクは、それぞれインクジェット方式で布に付与することが好ましい。
捺染物の製造方法の好ましい他の例は、前処理液を布に付与することと、前処理液を付与した布に、白色顔料を含む水性インクをインクジェット方式によって布に付与することと、白色顔料を含む水性インクを付与した布に、非白色顔料を含む水性インクをインクジェット方式によって布に付与することとを含むことができる。白色顔料を含む水性インク及び非白色顔料を含む水性インクの少なくとも一方は一実施形態による水性インクである。この一例では、前処理液、白色顔料を含む水性インク、及び非白色顔料を含む水性インクは、それぞれインクジェット方式で布に付与することが好ましい。
【0092】
インクジェット方式は、布に非接触で、オンデマンドで簡便かつ自在に画像形成をすることができる印刷方式である。インクジェット方式は特に限定されず、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式などのいずれの方式であってもよい。インクジェット印刷装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドから前処理液又はインクの液滴を吐出させ、吐出された液滴を布に付着させるようにすることが好ましい。インクジェット印刷装置は、シリアルヘッド型であってもラインヘッド型であってもよい。
【0093】
以下、前処理液を布に付与する工程について説明する。
前処理液を付与する領域は、水性インクによる画像と同一の形状の領域であってもよいし、水性インクによる画像の形状を含む広めの領域であってもよいし、布の全面であってもよい。前処理液の付与領域、水性インクの付与領域及びカラーインクの付与領域は、少なくとも部分的に重なることが好ましい。
前処理液を布に付与する方法としては、例えば、刷毛、ローラー、バーコーター、エアナイフコーター、スプレー等を用いて布表面に一様に前処理液を付与してもよいし、又は、インクジェット印刷方法、グラビア印刷方法、フレキソ印刷方法等の印刷方法によって画像領域に前処理液を印刷してもよい。
布への前処理液の付与量は、5~200g/mが好ましく、10~100g/mが好ましく、15~80g/mがより好ましい。
【0094】
次に、前処理液を付与した布に、水性インクをインクジェット方式によって付与する工程について説明する。
水性インクの付与領域は、前処理液の付与領域と少なくとも部分的に重なることが好ましい。
布への水性インクの付与量は特に限定されないが、例えば、1~100g/mが好ましく、5~50g/mがより好ましい。
水性インクが白色インクであり非白色インクの下地層として布に付与される場合は、白色インクを付与する領域は、非白色インクによる画像と同一の形状の領域であってもよいし、非白色インクによる画像の形状を含む広めの領域であってもよいし、布の全面であってもよい。下地層を形成する場合、布への白色インクの付与量は特に限定されないが、例えば、80~400g/mが好ましく、120~250g/mがより好ましい。
【0095】
布に前処理液を付与した後に、水性インクをウェットオンウェット法で布に付与してもよいし、布を乾燥してから水性インクを布に付与してもよい。ウェットオンウェット法では、水性インクは、前処理液が付与された布から水分を完全に除去しない状態で付与されることが好ましい。好ましくは、水性インクは、前処理液が付与された布が湿潤状態を保つ状態で付与され得る。例えば、前処理液を布に付与した後、加熱乾燥などの乾燥工程を行わずに水性インクを布に付与することが好ましい。同様に、白色インクを布に付与し下地層を形成した後に、非白色インクを布に付与する場合も、白色インクを布に付与した後に非白色インクをウェットオンウェット法で布に付与してもよいし、布を乾燥してから非白色インクを布に付与してもよい。
【0096】
水性インクの付与後に、布を熱処理する工程をさらに設けることができる。これによってインク画像をより定着させることができる。
熱処理温度は、布の材料等によって適宜選択することができる。熱処理温度は、例えば、100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。熱処理温度は、布へのダメージを低減する観点から、200℃以下が好ましい。
加熱装置は、特に制限されないが、例えば、ヒートプレス、ロールヒータ、温風装置、赤外線ランプヒーター等を用いることができる。
加熱処理時間は、加熱方法等に応じて適宜設定すればよく、例えば、1秒~10分が好ましく、5秒~5分であってよい。
【0097】
前処理液を付与する工程、白色インクを付与する工程、及び非白色インクを付与する工程は、別々の印刷装置で行ってもよく、1つの印刷装置を用いて行ってもよい。例えば2台の印刷装置を用い、前処理液を付与する工程をそのうちの1台の印刷装置で行い、白色インクを付与する工程及び非白色インクを付与する工程を、他の1台を用いて行ってもよい。
【0098】
水性インクを付与した後の布に、オーバーコート層を形成してもよい。オーバーコート層は、インクを付与した後の布に、後処理液を付与することによって形成することができる。後処理液としては、例えば、塗膜を形成可能な樹脂と、水性媒体又は油性媒体とを含む後処理液を用いることができる。水性インクを付与したのちに、布を加熱する工程を設け、その後に後処理液を付与してもよい。水性インクの付与後にウェットオンウェット法で後処理液を付与してもよい。さらに、後処理液を付与したのちに、布を加熱する工程を設けてもよい。
【0099】
<インクセット>
一実施形態によれば、捺染用水性インクジェットインクと前処理液とを備えるインクセットを提供することができる。捺染用水性インクジェットインクは、白色顔料を含む水性インクと非白色顔料を含む水性インクとの組み合わせであってもよい。これらのインクセットは、後処理液をさらに含んでもよい。捺染用水性インクジェットインク、及び前処理液の詳細については上記した通りである。
【実施例0100】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。以下の説明において、特に説明のない箇所では、「%」は「質量%」を示す。製造元について特に説明がない原材料は富士フイルム和光純薬株式会社等から入手可能である。
【0101】
「白色顔料分散体の作製」
白色顔料として酸化チタン「TIPAQUE R-980」(商品名、石原産業株式会社製)400g、顔料分散剤として「デモールP」(商品名、花王株式会社製)16g(有効成分で4g)を、イオン交換水584gと混合し、ビーズミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製「DYNO-MILL KDL A型」(商品名))を用いて、0.5mmΦのジルコニアビーズを充填率80体積%、滞留時間2分で分散し、白色顔料分散体(顔料分40%、固形分量41.6%)を得た。
【0102】
「黒色顔料分散体の作製」
黒色顔料としてカーボンブラック「MOGUL L」(商品名、キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ・インク製)300g、顔料分散剤として「Borch(登録商標) Gen DFN」(商品名、Borchers sas製)90gを、イオン交換水610gと混合し、ビーズミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製「DYNO-MILL KDL A型」(商品名))を用いて、0.5mmΦのジルコニアビーズを充填率85体積%、滞留時間9分で分散し、黒色顔料分散体(顔料分30%、固形分39%)を得た。
【0103】
「顔料インクの作製」
表1~表3にインク処方及び評価結果を示す。表中に示す処方に従い原材料を混合し、ミックスロータで100rpm、20分間撹拌し、顔料インクを得た。表中において、顔料分散体及び樹脂エマルションの含有量はそれぞれ水性媒体等を含む全体量で示す。
【0104】
用いた成分は以下の通りである。
白色顔料分散体(顔料分40%):上記処方にて作製したもの。
黒色顔料分散体(顔料分30%):上記処方にて作製したもの。
樹脂エマルション「スーパーフレックス470」(商品名):カーボネート型ウレタン樹脂エマルション、樹脂分38%。
樹脂エマルション「エリーテルKT9204」(商品名):ポリエステル樹脂エマルション、樹脂分30%。
界面活性剤「オルフィンE1010」(商品名)(沸点418℃):日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤、有効成分量100質量%。
【0105】
水溶性有機溶剤:ジエチレングリコール(沸点244℃)、1,3-ブタンジオール(沸点207℃)、3-メチル-1,3-ブタンジオール(沸点203℃)、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(沸点245℃);水溶性有機溶剤(A):グリセリン(沸点290℃)、トリエチレングリコール(沸点288℃);アミン化合物:2,2’,2’’-ニトリロトリエタノール(沸点360℃)、ジ-2-プロパノールアミン(沸点249℃)、2-ジメチルエタノールアミン(沸点139℃)、トリエチルアミン(沸点90℃)、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(沸点165℃)は、富士フイルム和光純薬株式会社等から入手可能である。
【0106】
表中に示す「水溶性有機溶剤(A)/水溶性有機溶剤(質量割合)」は、水溶性有機溶剤の全含有量からアミン化合物の合計量を除く含有量を1質量部とする場合の水溶性有機溶剤(A)の含有量の質量割合から計算される。
表中に示す「アミン化合物/固形分(質量割合)」は、固形分の全含有量を1質量部とする場合のアミン化合物の含有量の質量割合から計算される。
ここで、アミン化合物の含有量は、アミノアルコール又はアルキルアミンの含有量である。
【0107】
各インクを用いて以下の評価を行った。評価結果を各表に示す。
「インクのワイピング性」
各インクを用いて、マスターマインド社製インクジェットプリンタ「MMP-8130」(商品名)でA4サイズにカットしたトムス株式会社製黒綿Tシャツ(製品名Printstar)に対し、A4サイズの100%ベタ画像を連続10回印刷し、1日放置後にワイピング動作を行い、プリンタ設定のノズルチェックで正常吐出されているノズルの数を計測した。全ノズルに対し正常吐出されちるノズル数の割合から、以下の基準でインクのワイピング性を評価した。
A:90%以上
B:70%以上90%未満
C:70%未満
【0108】
「捺染物の溶剤滲み防止」
A4サイズにカットしたトムス株式会社製黒綿Tシャツ(商品名「Printstar」)に対し、マスターマインド社製インクジェットプリンタ「MMP-8130」(商品名)で100%ベタ画像を印刷し、160℃、2minの条件でヒートプレスして捺染物を得た。捺染物の裏面にA4コピー用紙を貼り付けて1日放置後の用紙への染み出しを以下の基準で捺染物の溶剤滲みを評価した。
A:用紙への染み出しなし。
B:用紙への染み出しはあるが、用紙を手で触れても溶剤が付着しない。
C:用紙への染み出しがあり、用紙を手で触れると溶剤が付着する。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
表中に示す通り、各実施例のインクはワイピング性に優れ、得られる捺染物の溶剤滲みを防止することができることがわかる。また、インクはインクジェットインクに適した粘度を示し、捺染物の画質も良好であった。
【0113】
比較例1ではアミノアルコールが含まれず、比較例2ではアミノアルコールの質量割合が小さく、比較例3ではアルキルアミンが用いられ、比較例4では水溶性有機溶剤(A)が含まれない。これらの比較例のインクでは、インクのワイピング性が低下した。比較例5では、水溶性有機溶剤(A)の質量割合が大きく、捺染物の溶剤滲みが発生した。比較例6及び7では、水溶性有機溶剤(A)の質量割合が小さく、インクのワイピング性が低下した。