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特開2023-144729放射冷却フィルム、放射冷却フィルムの使用方法及び放射冷却フィルムの作成方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144729
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】放射冷却フィルム、放射冷却フィルムの使用方法及び放射冷却フィルムの作成方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/08 20060101AFI20231003BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20231003BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20231003BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20231003BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
G02B5/08 A
B32B7/027
B32B15/08 D
B32B15/082 A
G02B5/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051852
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】末光 真大
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅行
【テーマコード(参考)】
2H042
2H148
4F100
【Fターム(参考)】
2H042DA01
2H042DA04
2H042DA11
2H042DA14
2H042DA17
2H042DA21
2H042DB13
2H042DC02
2H042DC04
2H042DC07
2H148FA05
2H148FA07
2H148FA09
2H148FA12
2H148FA15
2H148FA18
2H148FA22
2H148FA24
4F100AB21C
4F100AK03D
4F100AK03E
4F100AK15A
4F100AK25D
4F100AK25E
4F100AK51D
4F100AK51E
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA04A
4F100CA23
4F100CB00E
4F100EC182
4F100EH46E
4F100EH66C
4F100GB01
4F100GB07
4F100GB31
4F100GB76
4F100JD10
4F100JD12A
4F100JD14A
4F100JJ10
4F100JK02
4F100JK08
4F100JN06B
4F100JN06C
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4F100YY00D
4F100YY00E
(57)【要約】
【課題】反射層を構成する銀又は銀合金が破断しても意匠性の低下を抑制できる放射冷却フィルムを提供する。
【解決手段】放射面Hから赤外光IRを放射する赤外放射層Aと、赤外放射層Aにおける放射面Hの存在側とは反対側に位置させる銀または銀合金で構成された光反射層Bとを備えるフィルム体Fに構成され、赤外放射層Aが、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整されている樹脂材料層Jであり、光反射層における前記樹脂材料層から離れる裏面側に、インジウム又はスズの蒸着層が配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる銀または銀合金で構成された光反射層とを備えるフィルム体に構成され、
前記赤外放射層が、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整されている樹脂材料層である放射冷却フィルムであって、
前記光反射層における前記赤外放射層から離れる裏面側に、インジウム又はスズの蒸着層が配置されている放射冷却フィルム。
【請求項2】
前記フィルム体は、常温における引張強さが140N/2.5cm以下でかつ破断時伸びが30%以上である請求項1に記載の放射冷却フィルム。
【請求項3】
前記光反射層の厚みが70nm以上、300nm以下である請求項1又は2に記載の放射冷却フィルム。
【請求項4】
前記樹脂材料層の膜厚が、
波長0.4μmから0.5μmの範囲の光吸収率の波長平均が13%以下であり、波長0.5μmから波長0.8μmの範囲の光吸収率の波長平均が4%以下であり、波長0.8μmから波長1.5μmの範囲の光吸収率の波長平均が1%以内であり、1.5μmから2.5μmの範囲の光吸収率の波長平均が40%以下となる光吸収特性を備え、且つ、8μmから14μmの範囲の輻射率の波長平均が40%以上となる熱輻射特性を備える状態の厚みに調整され、
前記樹脂材料層は、引張強さが139N/2.5cm以下で、破断時伸びが50%以上であり、かつ、温度上昇により引張強さが低下する請求項1~3のいずれか1項に記載の放射冷却フィルム。
【請求項5】
前記樹脂材料層を形成する樹脂材料が、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂であり、前記樹脂材料層の厚みが、14μm以上、330μm以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の放射冷却フィルム。
【請求項6】
前記樹脂材料層の厚みが、50μm以上、330μm以下である請求項5に記載の放射冷却フィルム。
【請求項7】
前記可塑剤が、フタル酸エステル類、脂肪族二塩基酸エステル類及びリン酸エステル類からなる群より選択される1つ以上の化合物からなる請求項5又は6に記載の放射冷却フィルム。
【請求項8】
前記可塑剤が、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、7重量部以上、50重量部以下の範囲で混入されている請求項5~7のいずれか1項に記載の放射冷却フィルム。
【請求項9】
前記可塑剤が、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、15重量部以上、50重量部以下の範囲で混入されている請求項8に記載の放射冷却フィルム。
【請求項10】
前記蒸着層の厚さが40nm以上、200nm以下である請求項1~9のいずれか1項に記載の放射冷却フィルム。
【請求項11】
前記光反射層の前記赤外放射層に隣接する側の面に位置させる隣接側保護層、及び、前記光反射層における前記赤外放射層から離れる側の面に位置させる離間側保護層が備えられ、
前記隣接側保護層及び前記離間側保護層を形成する樹脂材料が、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂のいずれかである請求項1~10のいずれか1項に記載の放射冷却フィルム。
【請求項12】
前記隣接側保護層及び前記離間側保護層の厚さが300nm以上で、40μm以下である請求項11に記載の放射冷却フィルム。
【請求項13】
前記蒸着層における前記光反射層に隣接する側の面に蒸着層用保護層としての第1保護層が配置され、前記蒸着層における前記光反射層から離間する側の面に前記蒸着層用保護層としての第2保護層が配置され、
前記蒸着層用保護層を形成する樹脂材料が、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂のいずれかである請求項11又は12に記載の放射冷却フィルム。
【請求項14】
前記樹脂材料層と前記隣接側保護層とが、接着層にて接着され、
当該接着層が、ウレタン樹脂系接着剤、アクリルウレタン樹脂系接着剤、ポリオレフィン樹脂系接着剤のいずれかで形成されている請求項13に記載の放射冷却フィルム。
【請求項15】
前記離間側保護層とこの離間側保護層に対向する前記第1保護層が、蒸着層用接着層にて接着され、
当該蒸着層用接着層が、ウレタン樹脂系接着剤、アクリルウレタン樹脂系接着剤、ポリオレフィン樹脂系接着剤のいずれかで形成されている請求項14に記載の放射冷却フィルム。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の放射冷却フィルムの使用方法であって、
前記フィルム体の伸びが40%以内となる状態にて使用する放射冷却フィルムの使用方法。
【請求項17】
請求項15に記載の放射冷却フィルムの作成方法であって、
基材の上部に、離型層、前記離間側保護層、前記光反射層、前記隣接側保護層を順次積層し光反射層側積層体を形成し、
蒸着層側基材の上部に、蒸着層側離型層、前記第2保護層、前記蒸着層、前記第1保護層を順次積層して蒸着層側積層体を形成し、
前記樹脂材料層を別途形成し、
次に、前記樹脂材料層と前記光反射層側積層体の前記隣接側保護層とを前記接着層にて接着し、
その後、前記離型層を前記離間側保護層から分離し、
次に、前記離間側保護層と前記蒸着層側積層体の前記第1保護層とを前記蒸着層接着層にて接着し、
その後、前記蒸着層側離型層を前記第2保護層から分離する放射冷却フィルムの作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる銀または銀合金で構成された光反射層とを備えるフィルム体に構成され、
前記赤外放射層が、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整されている樹脂材料層である放射冷却フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
放射冷却とは、物質が周囲に赤外線などの電磁波を放射することでその温度が下がる現象のことを言う。この現象を利用すれば、たとえば、電気などのエネルギーを消費せずに冷却対象を冷やす放射冷却フィルムを構成することができる。
【0003】
放射冷却フィルムにおいては、赤外放射層が、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放射するから、光反射層が太陽光を十分に反射することにより、昼間の日射環境下においても冷却対象を冷やすことができる。
【0004】
つまり、光反射層が、赤外放射層を透過した光(紫外光、可視光、赤外光)を反射して放射面から放射させて、赤外放射層を透過した光(紫外光、可視光、赤外光)が冷却対象に対して投射されて、冷却対象が加温されることを回避することにより、昼間の日射環境下においても冷却対象を冷やすことができる。
尚、光反射層は、赤外放射層を透過した光に加えて、赤外放射層から光反射層の存在側に放射される光を赤外放射層に向けて反射する作用も奏することになるが、以下の説明においては、光反射層を設ける目的が赤外放射層を透過した光(紫外光、可視光、赤外光)を反射することにあるとして説明する。
【0005】
従来の放射冷却フィルムにおいては、銀または銀合金で構成された光反射層のみにて、赤外放射層を透過した光を反射させるようになっていた(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
ちなみに、特許文献1において、光反射層における赤外放射層に隣接する側に位置させる隣接側保護層と、光反射層における赤外放射層から離れる側に位置させる離間側保護層を備えさせることにより、銀及び銀合金が水分により変色すること等を抑制して、光反射層の光反射を適切に行わせることができるように構成されている。尚、隣接側保護層及び離間側保護層を形成する材料として、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、酸化膜(SiO、Al)が記載されている。
【0007】
このような構成の場合には、光反射層は、赤外放射層及び隣接側保護層を透過した光を反射させることになる。
尚、離間側保護層は光反射機能を備えないものであり、この場合においても、銀または銀合金で構成された光反射層のみにて、赤外放射層及び隣接側保護層を透過した光を反射させることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2020/195743号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
放射冷却フィルムの使用例として、テント等の膜材の外面に貼付(装着)して使用される場合、及び、自動車の外面やコンテナの外面等の施工対象に後付けで貼付(装着)して使用される場合がある。ちなみに、放射冷却フィルム(フィルム体)を後付けで冷却対象(施工対象)に貼付(装着)する際には、フィルム体を加熱して伸ばしながら必要に応じて屈曲させて貼付施工することが行われる。
【0010】
フィルム体を膜材の外面等に貼り付けて使用する場合には、冷却対象である施工対象が折り曲げられて使用されること等に起因して、光反射層を構成する銀又は銀合金が破断する虞がある。
また、フィルム体を後付けで施工対象に貼付(装着)する場合には、フィルム体を加熱して伸ばしながら屈曲させさせること等に起因して、光反射層を構成する銀又は銀合金が破断する虞がある。
【0011】
そして、光反射層を構成する銀又は銀合金が破断すると、光反射層の下地隠蔽性がなくなることになる。その結果、光反射層の割れた箇所を通過した光が貼付された施工対象に到達することにより、意匠性が低下する不都合があり、改善が望まれるものであった。
つまり、光反射層を構成する銀又は銀合金が破断していない場合には、放射面からフィルム体を見た場合には、全面に亘って光反射層が一様に見えることになるが、光反射層を構成する銀又は銀合金が破断すると、放射面からフィルム体を見た場合に、光反射層が存在しない部分が見えることになり、意匠性が低下するものとなる。
【0012】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、反射層を構成する銀又は銀合金が破断しても意匠性の低下を抑制できる放射冷却フィルムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の放射冷却フィルムは、放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる銀または銀合金で構成された光反射層とを備えるフィルム体に構成され、
前記赤外放射層が、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整されている樹脂材料層であるものであって、その特徴構成は、
前記光反射層における前記赤外放射層から離れる裏面側に、インジウム又はスズの蒸着層が配置されている点にある。
【0014】
先ず、昼間の日射環境下においても冷却対象を冷やすことができる点について説明を加える。
すなわち、フィルム体における赤外放射層の放射面から入射する太陽光は、樹脂材料層を透過した後、樹脂材料層の放射面の存在側とは反対側にある光反射層で反射され、放射面から系外へ逃がされる。
なお、本明細書の記載において、単に光と称する場合、当該光の概念には紫外光(紫外線)、可視光、赤外光を含む。これらを電磁波としての光の波長で述べると、その波長が10nmから20000nm(0.01μmから20μmの電磁波)の電磁波を含む。
【0015】
また、フィルム体への伝熱(入熱)は、赤外放射層としての樹脂材料層で赤外線に変換されて、放射面から系外へ逃がされる。
このように、フィルム体は、フィルム体へ照射される太陽光を反射し、また、フィルム体への伝熱(例えば、大気からの伝熱や、フィルム体が冷却する冷却対象からの伝熱)を赤外光として系外へ放射することができる。
【0016】
そして、樹脂材料層が、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整されているから、光反射層にて太陽光を適切に反射させるようにしながら、昼間の日射環境下においても、冷却機能を発揮することができる。
【0017】
光反射層にて太陽光を適切に反射できる点について説明を加えると、銀または銀合金である光反射層には、波長0.4μmから0.5μmの反射率が90%以上、波長0.5μmより長波の反射率が96%以上である反射率特性を備えさせることができ、太陽光を適切に反射させることができる。
つまり、太陽光スペクトルは波長0.295μmから4μmにかけて存在し、そして、波長が0.4μmから大きくなるにつれて強度が大きくなり、特に波長0.5μmから波長2.5μmにかけての強度が大きい。
銀又は銀合金にて構成される光反射層は、波長0.4μmから0.5μmにかけて90%以上の反射率を示し、波長0.5μmより長波の反射率が96%以上である反射特性を備えているため、光反射層が太陽光エネルギーを5%程度以下しか吸収しなくなる。
【0018】
その結果、夏場の南中時に、光反射層が吸収する太陽光エネルギーを50W/m程度以下とすることができ、樹脂材料層による放射冷却を良好に行うことができる。
尚、本明細書では、太陽光について、断りのない場合、スペクトルはAM1.5Gの規格とする。
以上の通り、昼間の日射環境下においても、冷却対象を放射冷却作用により冷却できることになる。
【0019】
そして、本発明の放射冷却フィルムの特徴構成によれば、光反射層における赤外放射層から離れる裏面側に、インジウム又はスズの蒸着層が配置されているから、光反射層を構成する銀又は銀合金が破断した際に、光反射層の割れた箇所を通過した光が蒸着層にて反射されることになるから、光反射層を構成する銀又は銀合金が破断した際にも、意匠性の低下を抑制できる。
【0020】
つまり、インジウム又はスズは、銀又は銀合金と同等の光反射性を備える。そして、インジウム又はスズの蒸着層は、金属同士が島状に独立した構造をしており、伸ばしたり折ったりしても、割れやひびが入る要素がなく、高反射性能が維持される。つまり、フィルム体が伸ばされることや折られることにより、光反射層の銀又は銀合金が破断して亀裂が入ったとしても、インジウム又はスズの蒸着層には割れやひびが入る要素がなく、高反射性能を維持することになる。
【0021】
従って、光反射層の銀又は銀合金が破断して亀裂が入ったとしても、光反射層の割れた箇所を通過した光が蒸着層にて光反射層と同様な状態で反射されることになる。このため、光反射層の銀又は銀合金が破断して亀裂が入ったとしても、意匠性の低下を抑制することができる。
ちなみに、蒸着層は光反射率が高いため、光反射層の銀又は銀合金が破断して亀裂が入ったとしても、フィルム体の放射冷却性能の低下がほとんど見られないものとなる。
【0022】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの特徴構成によれば、光反射層を構成する銀又は銀合金が破断しても意匠性の低下を抑制できる。
【0023】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、前記フィルム体は、常温における引張強さが140N/2.5cm以下でかつ破断時伸びが30%以上である点にある。
本発明では、常温とは、23℃(JIS K 6732で定められてる温度)であると定義する。
また、蒸着層が十分に大きな伸性(伸び易さ)を備えるものであるから、本発明では、フィルム体の常温における引張強さ及び破断時伸び(伸びの限界)は、樹脂材料層(赤外放射層)及び光反射層の伸性(伸び易さ)によって定まるものとする。
【0024】
すなわち、フィルム体の常温における引張強さが140N/2.5cm以下でかつフィルム体の破断時伸び(伸びの限界)が30%以上であるから、貼り付け対象(施工対象)に対する形状追随性を的確に増加させ、かつ、折皺の発生を抑制できる。
【0025】
説明を加えると、フィルム体における2.5cmあたりの引張強さ(JIS K 6732)が70N/2.5cm以下であると、フィルム体の曲面への施工性が優れたものとなる。そして、フィルム体を曲面に貼付施工する際には、ヒートガンなどによりフィルム体を80℃以上に加熱しながら伸ばすことになる。フィルム体を80℃以上に加熱すると、樹脂材料層(例えば、可塑剤が混入された塩化ビニル樹脂)の引張強さは常温と比較し、一般に1/2以下に下がることになる。故に、23℃における引張強さは、施工時に80℃以上に加熱することを鑑みて、140N/2.5cm以下にすることが望ましいものとなる。
【0026】
また、貼り付け対象(例えば、車のボンネットやトラックコンテナの端部等)にフィルム体を貼付施工する(貼り付ける)上で、30%の伸びは最低限必要であり、30%の伸びがあれば十分に貼付施工できるものとなる。
さらに、30%の伸びがあれば、フィルム体を折った際に皺(折皺)が入ることを抑制できる。
【0027】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成によれば、貼り付け対象に対する形状追随性を的確に増加させ、かつ、折皺の発生を抑制できる。
【0028】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、前記光反射層の厚みが70nm以上、300nm以下である点にある。
【0029】
すなわち、光反射層に上述の反射特性、つまり、波長0.4μmから0.5μmの反射率が90%以上、波長0.5μmより長波の反射率が96%以上である反射率特性を備えさせた状態で太陽光を反射させる場合には、光反射層の厚みを50nm以上にすることが望ましいものとなる。
そして、銀又は銀合金の光反射層は40%を超えて伸びると破断するから、フィルム体の曲面への施工の際に、光反射層が40%伸ばされることを考慮すれば、光反射層の厚みを50nmの1.4倍である70nm以上にすることにより、フィルム体が伸ばされた状態で施工されても、光反射層に適切な反射特性を備えさせることができる。
【0030】
また、光反射層が万が一破断すると、光反射層の引張強さが0となるが、光反射層の引張強さがフィルム体の全体の引張強さに占める割合が大きいと、光反射層が破断した際に、フィルム体の引張強さの変化が大きくなり、貼りにくさに繋がることになる。
光反射層の引張強さを1N/2.5cm以下とすれば、フィルム体の全体の引張強さに占める割合(例えば、フィルム体の全体の引張強さが140N/2.5cmの場合に、1%以下となる)を少なくして、光反射層が破断した際に、フィルム体の引張強さの変化を小さくして、貼りにくさに繋がることを軽減できることになる。
【0031】
そして、銀又は銀合金の場合、室温から80℃程度に加熱しても引張強さに変化は生じない。
故に、反射層の厚みは300nm以下とし、光反射層の引張強さを1N/2.5cm以下とするのが望ましい。
【0032】
つまり、光反射層を構成する銀又は銀合金は、40%を超えて伸びると破断するものであるから、フィルム体を伸ばしながら貼付施工を行う際に、光反射層が破断することは少ないものの、万が一、光反射層が破断した際においても、フィルム体の引張強さの変化を小さくして、フィルム体を貼り付け易い状態に維持することができる。
【0033】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成によれば、フィルム体を伸ばしながら貼り付け対象に貼り付けた状態においても光反射層に適切な反射特性を備えさせるようにしながら、フィルム体を伸ばしながら貼り付け対象に貼り付ける貼付施工を良好に行うことができる。
【0034】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、
前記樹脂材料層の膜厚が、
波長0.4μmから0.5μmの範囲の光吸収率の波長平均が13%以下であり、波長0.5μmから波長0.8μmの範囲の光吸収率の波長平均が4%以下であり、波長0.8μmから波長1.5μmの範囲の光吸収率の波長平均が1%以内であり、1.5μmから2.5μmの範囲の光吸収率の波長平均が40%以下となる光吸収特性を備え、且つ、8μmから14μmの範囲の輻射率の波長平均が40%以上となる熱輻射特性を備える状態の厚みに調整され、
前記樹脂材料層は、引張強さが139N/2.5cm以下で、破断時伸びが50%以上であり、かつ、温度上昇により引張強さが低下する点にある。
【0035】
尚、波長0.4μmから0.5μmの範囲の光吸収率の波長平均とは、0.4μmから0.5μmの範囲の波長毎の光吸収率の平均値を意味するものであり、波長0.5μmから波長0.8μmの範囲の光吸収率の波長平均、波長0.8μmから波長1.5μmの範囲の光吸収率の波長平均、及び、1.5μmから2.5μmの範囲の光吸収率の波長平均も同様である。また、輻射率を含む他の同様な記載も同様な平均値を意味するものであり、以下、本明細書においては同様である。
【0036】
すなわち、樹脂材料層は、厚みによって光吸収率や輻射率(光放射率)が変化する。そのため、太陽光をできるだけ吸収せず、いわゆる大気の窓の領域の波長帯域(光の波長8μmから14μmの領域)において大きな熱輻射を発するように樹脂材料層の厚みを調整する必要がある。
【0037】
具体的には、樹脂材料層における太陽光の光吸収率(光吸収特性)の観点において、波長0.4μmから0.5μmの範囲の光吸収率の波長平均が13%以下であり、波長0.5μmから波長0.8μmの範囲の光吸収率の波長平均が4%以下であり、波長0.8μmから波長1.5μmの範囲の光吸収率の波長平均が1%以内であり、波長1.5μmから2.5μmの範囲の光吸収率の波長平均が40%以下とする必要がある。尚、2.5μmから4μmの範囲の光吸収率については、波長平均が100%以下であればよい。
このような光吸収率が分布する場合、太陽光の光吸収率は10%以下となり、エネルギーで言うと100W以下となる。
【0038】
つまり、太陽光の光吸収率は樹脂材料層の膜厚を厚くすると増加する。樹脂材料層を厚膜にすると、大気の窓の輻射率はほぼ1となり、その際に宇宙に放出する熱輻射は125W/mから160W/mとなる。
光反射層での太陽光吸収は50W/m以下であることが好ましい。
したがって、樹脂材料層と光反射層における太陽光吸収の和が150W/m以下であり、大気の状態がよければ冷却が進む。樹脂材料層は、以上のように太陽光スペクトルのピーク値付近の吸収率が小さなものを用いるのが良い。
【0039】
また、樹脂材料層の赤外光を放射する輻射率(熱輻射特性)の観点では、波長8μmから14μmの範囲の輻射率の波長平均が40%以上となる必要がある。
すなわち、光反射層で吸収される50W/m程度の太陽光の熱輻射を樹脂材料層から宇宙に放出させるには、それ以上の熱輻射を樹脂材料層が出す必要がある。
例えば、外気温が30℃のとき、波長8μmから14μmの大気の窓の熱輻射の最大は200W/mである(輻射率1として計算)。この値が得られるのは、高山など、空気の薄いよく乾燥した環境の快晴時である。低地などでは大気の厚みが高山よりも厚くなるので、大気の窓の波長帯域は狭くなり、透過率は低下する。ちなみに、このことを「大気の窓が狭くなる」と呼ぶ。
【0040】
また、実際に放射冷却フィルムを使用する環境は多湿であることもあり、その場合も大気の窓は狭くなる。低地で利用する際の大気の窓域で発生する熱輻射は、状態の良いときで30℃において160W/mと見積もられる(輻射率1として計算)。
また、日本ではよくあることであるが、空に靄があるときや、スモッグが存在する場合、大気の窓はさらに狭くなり、宇宙への放射は125W/m程度となる。
【0041】
かかる事情を鑑みて、波長8μmから14μmの範囲の輻射率の波長平均は40%以上(大気の窓帯での熱輻射強度が50W/m以上)ないと中緯度帯の低地で用いることができない。
したがって、樹脂材料層の厚みを、上述した光学的規定の範囲になるように調整することにより、太陽光の光吸収による入熱よりも大気の窓における出熱の方が大きくなり、昼間の日射環境下でも屋外で放射冷却できるようになる。
【0042】
また、樹脂材料層は、引張強さが139N/2.5cm以下でかつ破断時伸びが50%以上であり、かつ、温度上昇により引張強さが低下するものであるから、貼り付け対象に対してフィルム体を貼り付ける施工性を高めるために、樹脂材料層の厚さを厚くしても、曲面への貼付施工においては、ヒートガンなどによりフィルム体を80℃以上に加熱しながら伸ばすことにより、フィルム体を曲面に対して良好に貼付施工することができる。
【0043】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成によれば、太陽光の光吸収による入熱よりも大気の窓における出熱の方が大きくなって、日射環境下でも屋外で放射冷却でき、しかも、フィルム体を曲面に対して良好に貼付施工することができる。
【0044】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、
前記樹脂材料層を形成する樹脂材料が、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂であり、前記樹脂材料層の厚みが、14μm以上、330μm以下である点にある。
本発明で用いられる塩化ビニル系樹脂とは、塩化ビニルあるいは塩化ビニリデンの単独重合体及び塩化ビニルあるいは塩化ビニリデンの共重合体であり、その製造方法は、従来公知の重合方法で行われる。
【0045】
すなわち、塩化ビニル系樹脂は、10μm以上の厚みがあれば、大気の窓領域において十分な熱輻射が得られるものであり、その結果、日射環境下でも屋外で適切に放射冷却できる。つまり、塩化ビニル系樹脂は、その熱輻射特性が大気の窓領域において大きな熱輻射が得られるフッ素樹脂やシリコーンゴムと同等であり、これら樹脂よりもかなり安価であるから、直射日光下で周囲温度よりも温度が低下するフィルム体(放射冷却フィルム)を安価に構成するのに有効である。
【0046】
また、塩化ビニル系樹脂に可塑剤が混入されているから、樹脂材料層が十分な伸性(伸び易さ)を備えることになる結果、放射冷却フィルムが十分な伸性(伸び易さ)を備えるものとなる。
したがって、フィルム体を伸ばしながら貼り付け対象に貼り付ける貼付施工を良好に行うことができる。
【0047】
ちなみに、塩化ビニル系樹脂は、可塑剤を入れることにより軟質となることで、他物が接触しても他物に合わせて柔軟に形状を変化させることによって傷つくことを回避するため、長期に亘って美麗な状態に維持できる。ちなみに、薄膜状のフッ素樹脂は、硬質性であるから、他物の接触により柔軟に形状を変化させることができず傷がつき易く、美麗な状態を維持し難いものである。
また、塩化ビニル系樹脂に可塑剤を入れることにより、傷がついても80℃以上に加熱することで変形し表面傷を無くし平滑化することができ、つまりは傷を自己修復することができる。フッ素樹脂やシリコーンゴムにこの特性はない。軟質な塩化ビニル系樹脂のこの特性によって綺麗な状態を長期間維持することができる。このことは長期にわたる放射冷却性能の維持につながる。
このように、可塑剤を入れることにより、フィルム体(放射冷却フィルム)の耐久性が向上する。
また、塩化ビニル系樹脂は、難燃性であり且つ生分解され難いものであるから、屋外で長期間使用する放射冷却フィルムの樹脂材料層を形成する樹脂材料として好適である。
【0048】
そして、銀又は銀合金の光反射層は40%を超えて伸びると破断するものであり、フィルム体の曲面への施工の際に、フィルム体が40%伸ばされながら貼り付け施工されることを考慮して、樹脂材料層の厚みを10nmの1.4倍である14nm以上にしてあるから、フィルム体が伸ばされた状態で施工されても、樹脂材料層に適切な熱輻射特性を備えさせることができる。
【0049】
また、塩化ビニル系樹脂にて形成される樹脂材料層の厚みが330μm以下であるから、樹脂材料層の引張強さを139N/2.5cm以下にすることができ、上述の如く、曲面への貼付施工においては、ヒートガンなどによりフィルム体を80℃以上に加熱しながら伸ばすことにより、フィルム体を曲面に対して良好に貼付施工することができる。
【0050】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成によれば、日射環境下でも屋外で放射冷却できるフィルム体の低廉化を図り、しかも、フィルム体を曲面に対して良好に貼付施工することができる。
【0051】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、前記樹脂材料層の厚みが、50μm以上、330μm以下である点にある。
【0052】
すなわち、塩化ビニル系樹脂にて形成される樹脂材料層の厚みが50μm以上であるから、フィルム体が40%伸ばされた状態で施工されても、樹脂材料層の厚みが略36μm程度となり、十分大きな熱輻射特性を備えさせることができる。
その結果、日射環境下でも屋外で適切に放射冷却できる。
ちなみに、塩化ビニル系樹脂にて形成される樹脂材料層の厚みが330μm以下であるから、上述の如く、フィルム体を曲面に対して良好に貼付施工することができる。
【0053】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成によれば、日射環境下でも屋外で適切に放射冷却できる。
【0054】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、前記可塑剤が、フタル酸エステル類、脂肪族二塩基酸エステル類及びリン酸エステル類からなる群より選択される1つ以上の化合物からなる点にある。
【0055】
すなわち、塩化ビニル系樹脂に混入する可塑剤が、フタル酸エステル類、脂肪族二塩基酸エステル類及びリン酸エステル類からなる群より選択される1つ以上の化合物であるから、可塑剤が太陽光に含まれている紫外線(波長295nmから400nmの紫外光)を吸収し難いものとなるため、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂の耐候性を適切に向上できる。
【0056】
つまり、塩化ビニル系樹脂に混入する可塑剤が紫外線を吸収すると、可塑剤の加水分解が進む結果、塩化ビニル系樹脂が脱塩素等を生じて着色(茶色)し、しかも、機械強度の低下を生じる虞があるが、可塑剤が太陽光に含まれている紫外線を吸収し難いものとなるため、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂の耐候性を向上できるのである。
【0057】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの特徴構成によれば、耐候性を向上できる放射冷却フィルムを提供できる。
【0058】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、前記可塑剤が、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、7重量部以上、50重量部以下の範囲で混入されている点にある。
【0059】
すなわち、塩化ビニル系樹脂に混入する可塑剤が、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、7重量部以上、50重量部以下の範囲で混入されているから、樹脂材料層に適度の伸性(伸び易さ)を備えさせるようにしながら、樹脂材料層の耐久性の低下を抑制できる。
【0060】
つまり、塩化ビニル系樹脂に混入する可塑剤が、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、7重量部以上混入されているから、樹脂材料層に適度の伸性(伸び易さ)を備えさせることができる。
また、塩化ビニル系樹脂に混入する可塑剤が、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、50重量部以下で混入されているから、樹脂材料層の耐久性の低下を抑制できる。
【0061】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成によれば、樹脂材料層に適度の伸性(伸び易さ)を備えさせかつ樹脂材料層の耐久性の低下を抑制できる。
【0062】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、前記可塑剤が、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、15重量部以上、50重量部以下の範囲で混入されている点にある。
【0063】
すなわち、塩化ビニル系樹脂に混入する可塑剤が、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、15重量部以上混入されているから、樹脂材料層の伸性(伸び易さ)を十分に向上させることができる。
【0064】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成によれば、樹脂材料層の伸性(伸び易さ)を十分に向上させることができる。
【0065】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、前記蒸着層の厚さが40nm以上、200nm以下である点にある。
【0066】
すなわち、インジウム又はスズの蒸着層は、40nm以上の厚さがあれば、銀又は銀合金と同等の光反射特性を示すことになる。そして、蒸着層の厚さを200nm以下にすることにより、インジウム又はスズの蒸着により蒸着層を適正に作成できる。
【0067】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成によれば、蒸着層に銀又は銀合金と同等の反射特性を備えさせ、しかも、蒸着層を適正に作成できる。
【0068】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、前記光反射層の前記赤外放射層に隣接する側の面に位置させる隣接側保護層、及び、前記光反射層における前記赤外放射層から離れる側の面に位置させる離間側保護層が備えられ、
前記隣接側保護層及び前記離間側保護層を形成する樹脂材料が、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂のいずれかである点にある。
尚、隣接側保護層及び離間側保護層がウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂にて形成されて十分に大きな伸性(伸び易さ)を備えるものであるから、本発明では、隣接側保護層及び離間側保護層が備えられる場合においても、フィルム体の常温における引張強さ及び破断時伸び(伸びの限界)は、樹脂材料層(赤外放射層)及び光反射層の伸性(伸び易さ)によって定まるものとする。
【0069】
すなわち、隣接側保護層及び離間側保護層を備えているから、光反射層を構成する銀または銀合金に水分が到達することを抑制して銀または銀合金が水分により変色することを回避する等、銀または銀合金にて構成される光反射層の劣化を抑制できるから、銀または銀合金にて構成される光反射層の光反射を適切に行わせることができる。
ちなみに、隣接側保護層は、樹脂材料層にて発生したラジカルが光反射層を形成する銀又は銀合金に到達することも抑制することになり、樹脂材料層にて発生したラジカルが光反射層を形成する銀又は銀合金に到達することにより、光反射層の銀または銀合金が短期間で変色することも抑制することになる。
【0070】
そして、本発明の放射冷却フィルムの特徴構成によれば、隣接側保護層及び離間側保護層を形成する樹脂材料が、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂のいずれかであるから、フィルム体(放射冷却フィルム)に伸性(伸び易さ)を備えさせることができる。
【0071】
つまり、光反射層は、銀または銀合金が展性を有するため、伸性(伸び易さ)を備えるものであり、赤外放射層を、伸性(伸び易さ)を備える樹脂材料を用いた樹脂材料層とすることにより、赤外放射層に伸性(伸び易さ)を備えさせることができ、また、蒸着層は、伸性(伸び易さ)を備えるものである。
加えて、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂は、伸性(伸び易さ)を備えるものであるから、隣接側保護層及び離間側保護層に伸性(伸び易さ)を備えさせることができる。
その結果、フィルム体(放射冷却フィルム)に伸性(伸び易さ)を備えさせることができ、貼り付け対象(施工対象)に対する形状追随性を増加させることができる。
【0072】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの特徴構成によれば、貼り付け対象に対する形状追随性を増加させることができる。
【0073】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、前記隣接側保護層及び前記離間側保護層の厚さが300nm以上で、40μm以下である点にある。
【0074】
すなわち、隣接側保護層及び離間側保護層の夫々の厚さが300nm以上であるから、樹脂材料層を透過する水分が光反射層を形成する銀又は銀合金に到達することや、冷却対象(例えば、フィルム体の貼り付け対象)からの水分が光反射層を形成する銀又は銀合金に到達することを適切に抑制して、光反射層の劣化を適切に抑制できる。
また、隣接側保護層の厚さが300nm以上であるから、樹脂材料層にて発生したラジカルが光反射層を形成する銀又は銀合金に到達することも適切に抑制することになる。
【0075】
また、隣接側保護層及び離間側保護層の厚さが40μm以下であるから、隣接側保護層及び離間側保護層がフィルム体の断熱性を上げて、フィルム体の放射冷却性能を低下させることを回避できる。
【0076】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成によれば、光反射層の劣化を適切に抑制し、フィルム体の放射冷却性能の低下を抑制できる。
【0077】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、前記蒸着層における前記光反射層に隣接する側の面に蒸着層用保護層としての第1保護層が配置され、前記蒸着層における前記光反射層から離間する側の面に前記蒸着層用保護層としての第2保護層が配置され、
前記蒸着層用保護層を形成する樹脂材料が、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂のいずれかである点にある。
尚、蒸着層用保護層がウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂にて形成されて十分に大きな伸性(伸び易さ)を備えるものであるから、本発明では、蒸着層用保護層が備えられる場合においても、フィルム体の常温における引張強さ及び破断時伸び(伸びの限界)は、樹脂材料層(赤外放射層)及び光反射層の伸性(伸び易さ)によって定まるものとする。
【0078】
すなわち、蒸着層における光反射層に隣接する側の面及び光反射層から離間する側の面の夫々に、蒸着層用保護層(第1保護層、第2保護層)が配置されているから、蒸着層の劣化を抑制できる。
【0079】
そして、蒸着層用保護層を形成する樹脂材料が、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂のいずれかであるから、フィルム体(放射冷却フィルム)に伸性(伸び易さ)を備えさせることができる。
【0080】
つまり、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂は、伸性(伸び易さ)を備えるものであるから、蒸着層用保護層に伸性(伸び易さ)を備えさせることができ、その結果、蒸着層用保護層を備えていても、フィルム体(放射冷却フィルム)に伸性(伸び易さ)を備えさせることができる。
【0081】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成によれば、蒸着層用保護層の劣化を抑制できる。
【0082】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、前記樹脂材料層と前記隣接側保護層とが、接着層にて接着され、
前記接着層が、ウレタン樹脂系接着剤、アクリルウレタン樹脂系接着剤、ポリオレフィン樹脂系接着剤のいずれかで形成されている点にある。
【0083】
すなわち、樹脂材料層と隣接側保護層とが、接着層にて接着されるものであるから、例えば、離間側保護層、光反射層及び隣接側保護層を積層状態に一体的に形成し、別途製作した樹脂材料層と隣接側保護層とを接着層にて接着する手順にて、樹脂材料層、隣接側保護層、光反射層及び離間側保護層が積層された状態に良好に形成することができる。
【0084】
接着層の厚みは、1μm以上、30μm以下であることが好ましい。
尚、ウレタン樹脂は破断時伸びが100%~10000%の範囲である等、接着層を形成するウレタン樹脂系接着剤、アクリルウレタン樹脂系接着剤、ポリオレフィン樹脂系接着剤は伸性(伸び易さ)が特に優れているから、本発明では、接着層が存在する場合においても、フィルム体の常温における引張強さ及び破断時伸び(伸びの限界)は、樹脂材料層(赤外放射層)及び光反射層の伸性(伸び易さ)によって定まるものとする。
【0085】
ちなみに、樹脂材料層と隣接側保護層との間に接着層が位置する場合には、接着層からもラジカルが発生することになるが、接着層にて発生したラジカルが光反射層に到達することを、隣接側保護層によって抑制できる。
【0086】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成によれば、樹脂材料層、隣接側保護層、光反射層及び離間側保護層が積層された状態に良好に形成することができる。
【0087】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、前記離間側保護層とこの離間側保護層に対向する前記第1保護層が、蒸着層用接着層にて接着され、
当該蒸着層用接着層が、ウレタン樹脂系接着剤、アクリルウレタン樹脂系接着剤、ポリオレフィン樹脂系接着剤のいずれかで形成されている点にある。
【0088】
すなわち、離間側保護層とこの離間側保護層に対向する第1保護層(蒸着層用保護層)が、蒸着層用接着層にて接着されるものであるから、例えば、蒸着層とこの蒸着層の両側に位置する蒸着層用保護層を積層状態に一体的に形成し、離間側保護層とこの離間側保護層に対向する第1保護層(蒸着層用保護層)とを蒸着層用接着層にて接着する手順にて、樹脂材料層、隣接側保護層、光反射層、離間側保護層、第1保護層、蒸着層、及び、第2保護層が積層された状態に良好に形成することができる。
【0089】
蒸着層用接着層の厚みは、1μm以上、30μm以下であることが好ましい。
尚、ウレタン樹脂は破断時伸びが100%~10000%の範囲である等、蒸着層用接着層を形成するウレタン樹脂系接着剤、アクリルウレタン樹脂系接着剤、ポリオレフィン樹脂系接着剤は伸性(伸び易さ)が特に優れているから、本発明では、蒸着層用接着層が存在する場合においても、フィルム体の常温における引張強さ及び破断時伸び(伸びの限界)は、樹脂材料層(赤外放射層)及び光反射層の伸性(伸び易さ)によって定まるものとする。
【0090】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成によれば、樹脂材料層、隣接側保護層、光反射層、離間側保護層、第1保護層、蒸着層、及び、第2保護層が積層された状態に良好に形成することができる。
【0091】
本発明の放射冷却フィルムの使用方法の特徴構成は、上記した放射冷却フィルムの使用方法であって、
前記フィルム体の伸びが40%以内となる状態にて使用する点にある。
【0092】
すなわち、光反射層の銀及び銀合金が40%を超えて伸びると破断するから、伸びが40%以内となる状態にてフィルム体を使用することにより、光反射層が破断することを抑制しながら、フィルム体を貼り付け対象に良好に貼り付け施工することができる。
【0093】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの使用方法の特徴構成によれば、光反射層が破断することを抑制しながら、フィルム体を貼り付け対象に良好に貼り付け施工することができる。
【0094】
本発明の放射冷却フィルムの作成方法の特徴構成は、上記した放射冷却フィルムの作成方法であって、
基材の上部に、離型層、前記離間側保護層、前記光反射層、前記隣接側保護層を順次積層して光反射層側積層体を形成し、
蒸着層側基材の上部に、蒸着層側離型層、前記蒸着層用保護層、前記蒸着層、前記蒸着層用保護層を順次積層して蒸着層側積層体を形成し、
前記樹脂材料層を別途形成し、
次に、前記樹脂材料層と前記光反射層側積層体の前記隣接側保護層とを前記接着層にて接着し、
その後、前記離型層を前記離間側保護層から分離し、
次に、前記離間側保護層と前記蒸着層側積層体の前記第1保護層とを前記蒸着層用接着層にて接着し、
その後、前記蒸着層側離型層を前記第2保護層から分離する点にある。
【0095】
すなわち、樹脂材料層、隣接側保護層、光反射層、離間側保護層、第1保護層、蒸着層、及び、第2保護層が積層された状態のフィルム体を作成するにあたり、先ず、基材の上部に、離型層、離間側保護層、光反射層、隣接側保護層を順次積層して光反射層側積層体を形成する。また、蒸着層側基材の上部に、蒸着層側離型層、第2保護層、蒸着層、第1保護層を順次積層して蒸着層側積層体を形成する。また、樹脂材料層を別途形成する。
【0096】
次に、樹脂材料層と光反射層側積層体の隣接側保護層とを接着層にて接着する。
その後、離型層を離間側保護層から外して、基材を分離する。
尚、離型層は、シリコーン樹脂、フッ素樹脂のいずれかで形成することが好ましく、また、基材は、エチレンテレフタラート樹脂(PET)を用いることができる。
【0097】
次に、離間側保護層と蒸着層側積層体の第1保護層とを蒸着層用保護層に接着する。
その後、蒸着層側離型層を蒸着層用保護層から外して、蒸着層側基材を分離する。
尚、蒸着層側離型層は、シリコーン樹脂、フッ素樹脂のいずれかで形成することが好ましく、また、基材は、エチレンテレフタラート樹脂(PET)を用いることができる。
【0098】
つまり、適度の厚さを備えて適度の保形性を有する基材を用いることにより、基材の上部に、離型層、離間側保護層、光反射層、隣接側保護層を順次積層して光反射層側積層体を形成することにより、基材の上部に、離間側保護層、光反射層及び隣接側保護層を積層状態に良好に形成できることになる。
同様に、適度の厚さを備えて適度の保形性を有する蒸着層側基材を用いることにより、蒸着層側基材の上部に、蒸着層側離型層、第2保護層、蒸着層、第1保護層を順次積層して蒸着層側積層体を形成することにより、基材の上部に、第2保護層、蒸着層及び第1保護層を積層状態に良好に形成できることになる。
【0099】
そして、別途製作した樹脂材料層と光反射層側積層体の隣接側保護層とを接着層にて接着し、その後、離型層を離間側保護層から外して基材を分離することにより、樹脂材料層、隣接側保護層、光反射層及び離間側保護層が積層された状態を良好に形成できることになる。
【0100】
次に、離間側保護層と蒸着層側積層体の第1保護層とを蒸着層側接着層にて接着し、その後、蒸着層側離型層を蒸着層側保護層から外して蒸着層側基材を分離することにより、樹脂材料層、隣接側保護層、光反射層、離間側保護層、第1保護層、蒸着層及び第2保護層が積層された状態のフィルム体を良好に形成できることになる。
【0101】
このように、基材を用いて光反射層側積層体を形成し、蒸着層側基材を用いて蒸着層側積層体を形成しながら、接着層や蒸着層側接着層による接着、及び、離型層や蒸着層側離型層による分離を行うことにより、樹脂材料層、隣接側保護層、光反射層、離間側保護層、第1保護層、蒸着層及び第2保護層が積層された状態のフィルム体を良好に形成できることになる。
【0102】
要するに、放射冷却フィルムの作成方法の特徴構成によれば、フィルム体を良好に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
図1】放射冷却フィルムの基本構成を説明する図である。
図2】樹脂材料の光吸収率と波長との関係を示す図である。
図3】塩化ビニル樹脂の輻射率スペクトルを示す図である。
図4】塩化ビニリデン樹脂の輻射率スペクトルを示す図である。
図5】放射冷却フィルムの具体構成を示す図である。
図6】蒸着層の拡大図である。
図7】放射冷却フィルムの作成手順を示す図である。
図8】放射冷却フィルムの作成手順を示す図である。
図9】可塑剤の添加量と引張強さとの関係を示す表である。
図10】可塑剤の添加量と伸び限界との関係を示す表である。
図11】紫外線吸収剤を添加した樹脂材料層の透過率を示す図である。
図12】銀をベースにした光反射層の光反射率スペクトルを示す図である。
図13】銀、インジウム、スズの光反射率スペクトルを示す図である。
図14】蒸着層の光反射率スペクトルを示す図である。
図15】ポリエチレンの光透過率と波長との関係を示す図である。
図16】試験用構成を説明する図である。
図17】隣接側保護層がポリエチレンの場合の試験結果を示す図である。
図18】隣接側保護層が紫外線吸収アクリルの場合の試験結果を示す図である。
図19】ポリエチレンの輻射率スペクトルを示す図である。
図20】塩化ビニル樹脂に可塑剤を混入した試験結果を示す図である。
図21】可塑剤の波長と吸光度との関係を示す図である。
図22】可塑剤の波長と吸光度との関係を示す図である。
図23】可塑剤の波長と吸光度との関係を示す図である。
図24】可塑剤の波長と吸光度との関係を示す図である。
図25】樹脂材料層の表裏を凹凸状にした構成を説明する図である。
図26】樹脂材料層にフィラーを混入させた構成を説明する図である。
図27】可塑剤と引張強さと破断時伸びとの関係を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0104】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔放射冷却フィルムの基本構成〕
図1に示すように、放射冷却フィルムCPは、放射面Hから赤外光IRを放射する赤外放射層Aと、当該赤外放射層Aにおける放射面Hの存在側とは反対側に位置させる光反射層Bと、当該光反射層Bにおける赤外放射層Aから離れる裏面側に配置される蒸着層Qを備えるフィルム体Fに構成されている。
蒸着層Qは、インジウム(In)又はスズ(Sn)を蒸着させたものである。本実施形態においては、蒸着層Qはインジウムを蒸着させた層であるとして、以下説明する。
【0105】
尚、銀および銀合金は雨や湿度に弱くそれらから保護をする必要があり、また、その変色を抑制する必要がある。そのために、図5に示す如く、銀や銀合金に隣接させる形態で、銀を保護する隣接側保護層Du及び離間側保護層Dsが備えられる。
隣接側保護層Du及び離間側保護層Dsの詳細は、後述する。
【0106】
フィルム体Fは、常温における引張強さが140N/2.5cm以下でかつ破断時伸びが30%以上である。
本実施形態では、赤外放射層Aの常温における引張強さが139N/2.5cm以下で、破断時伸びが50%以上であり、光反射層Bの常温における引張強さが1N/2.5cm以下で、破断時伸びが30%以上である。
ちなみに、常温とは、23℃(JIS K 6732で定められている温度)と定義する。
【0107】
光反射層Bは、銀あるいは銀合金で構成され、赤外放射層A及び隣接側保護層Duを透過した太陽光等の光Lを反射するものである。そして、その反射特性が、波長0.4μmから0.5μmの反射率が90%以上、波長0.5μmより長波の反射率が96%以上である。
太陽光スペクトルは、波長0.295μm(295nm)から4μm(4000nm)にかけて存在し、波長0.4μm(400nm)から大きくなるにつれ強度が大きくなり、特に波長0.5μm(500nm)から波長1.8μm(1800nm)にかけての強度が大きい。
【0108】
尚、本実施形態において、光Lとは、紫外光(紫外線)、可視光、赤外光を含むものであり、これらを電磁波としての光の波長で述べると、その波長が10nmから20000nm(0.01μmから20μmの電磁波)の電磁波を含む。本書では、紫外光(紫外線)の波長域が、295nm(0.295μm)以上で、400nm(0.4μm)以下の範囲であるとする。
【0109】
光反射層Bが、波長0.4μmから0.5μmにかけて90%以上の反射特性を示し、波長0.5μmより長波の反射率が96%以上の反射特性を示すことにより、放射冷却フィルムCP(フィルム体F)が光反射層Bで吸収する太陽光エネルギーを5%以下に抑えることができ、すなわち夏場の南中時に吸収する太陽光エネルギーを50W程度とすることができる。
【0110】
赤外放射層Aは、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整された塩化ビニル系樹脂からなる樹脂材料層Jとして構成されている。
ちなみに、本発明で用いられる塩化ビニル系樹脂とは、塩化ビニルあるいは塩化ビニリデンの単独重合体及び塩化ビニルあるいは塩化ビニリデンの共重合体であり、その製造方法は、従来公知の重合方法で行われる。
【0111】
樹脂材料層Jの詳細は後述するが、本実施形態では、樹脂材料層Jを形成する樹脂材料が、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂である。つまり、樹脂材料層Jを形成する樹脂材料が、可塑剤が混入された塩化ビニル樹脂、または、可塑剤が混入された塩化ビニリデン樹脂である。
可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂は、伸性(伸び易さ)が優れ、温度上昇により引張強さが低下する性能を有する。
【0112】
図6に示すように、蒸着層Qは、金属同士が島状に独立した構造をしており、伸性(伸び易さ)が優れ、しかも、伸ばしたり折ったりしても、割れやひびが入る要素がなく、高反射性能を維持する。
【0113】
従って、放射冷却フィルムCP(フィルム体F)は、放射冷却フィルムCPに入射した光Lのうちの一部の光を、赤外放射層Aの放射面Hにて反射し、放射冷却フィルムCPに入射した光Lのうちで樹脂材料層Jを透過した光(太陽光等)を、光反射層Bにて反射して、放射面Hから外部へ逃がすように構成されている。
【0114】
そして、光反射層Bにおける樹脂材料層Jの存在側とは反対側に位置する冷却対象物Eからの放射冷却フィルムCPへの入熱(例えば、冷却対象物Eからの熱伝導による入熱)を、樹脂材料層Jによって赤外光IRに変換して放射することにより、冷却対象物Eを冷却するように構成されている。
【0115】
つまり、放射冷却フィルムCP(フィルム体F)は、当該放射冷却フィルムCPへ照射される光Lを反射し、また、放射冷却フィルムCP(フィルム体F)への伝熱(例えば、大気からの伝熱や冷却対象物Eからの伝熱)を赤外光IRとして外部に放射するように構成されている。
【0116】
また、樹脂材料層J、光反射層B及び蒸着層Qが伸性(伸び易さ)を備えることによって、放射冷却フィルムCP(フィルム体F)が伸性を備えるように構成されており、貼付施工性が優れている。
【0117】
さらに、フィルム体Fが伸ばされることや曲げられることにより、光反射層Bの銀又は銀合金が破断して亀裂が入ることがあっても、光反射層Bの割れた箇所を通過した光が蒸着層Qにて光反射層Bと同様な状態で反射されることになる。このため、光反射層Bの銀又は銀合金が破断して亀裂が入ったとしても、意匠性の低下を抑制することができる。
ちなみに、蒸着層Qは光反射率が銀又は銀合金と同等に高いため、光反射層Bの銀又は銀合金が破断して亀裂が入ったとしても、フィルム体Fの放射冷却性能の低下がほとんど見られないものとなる。
【0118】
加えて、放射冷却フィルムCP(フィルム体F)は、赤外光IRを樹脂材料層Jの光反射層Bと接する面とは反対側の放射面Hから放射する放射冷却方法を実施するために用いられることになり、具体的には、放射面Hを空に向け、当該空に向けた放射面Hから赤外光IR放射する放射冷却方法を実施することになる。
【0119】
本発明の放射冷却フィルムCP(フィルム体F)を装着する対象(冷却対象物E)としては、各種のテント類(膜材)の外面、電気機器等を収納するボックスの外面、物品搬送用コンテナの外面、牛乳を貯留する牛乳タンクの外面、牛乳タンクローリーの牛乳貯留部の外面等、冷却が必要な諸々のものを対象とすることができる。
また、本発明の放射冷却フィルムCP(フィルム体)は、糊をつけて、車の外周、倉庫や建屋の外壁、ヘルメットの外周にラッピングすることにより、放射冷却を発揮させる等、既設の物体に後付けして、容易に放射冷却能力を発揮させることができる。
【0120】
〔樹脂材料層の概要〕
樹脂材料層Jを形成する樹脂材料(塩化ビニル系樹脂)は、厚みによって光吸収率や輻射率(光放射率)が変化する。そのため、太陽光をできるだけ吸収せず、いわゆる大気の窓の波長帯域(波長8μmから波長14μmの帯域)において大きな熱輻射を発するように樹脂材料層Jの厚みを調整する必要がある。
【0121】
具体的には、樹脂材料層Jの厚みが、波長0.4μmから0.5μmの範囲の光吸収率の波長平均が13%以下であり、波長0.5μmから波長0.8μmの範囲の光吸収率の波長平均が4%以下であり、波長0.8μmから波長1.5μmの範囲の光吸収率の波長平均が1%以内であり、波長1.5μmから2.5μmの範囲の光吸収率の波長平均が40%以下となる光吸収特性を備え、且つ、波長8μmから14μmの範囲の輻射率の波長平均が40%以上となる熱輻射特性を備える状態の厚みに調整されている。
【0122】
太陽光の光吸収率の観点で、樹脂材料の光吸収率は樹脂材料の膜厚を厚くすると増加する。樹脂材料を厚膜にすると、大気の窓の輻射率はほぼ1となり、その際に宇宙に放出する熱輻射は125W/mから160W/mとなる。隣接側保護層Du及び光反射層Bでの太陽光吸収は50W/m以下である。樹脂材料層J、隣接側保護層Du及び光反射層Bにおける太陽光吸収の和が150W/m以下であり、大気の状態がよければ冷却が進む。樹脂材料層Jを形成する樹脂材料は、以上のように太陽光スペクトルのピーク値付近の光吸収率が小さなものを用いるのが良い。
【0123】
また、赤外放射(熱輻射)の観点では、樹脂材料層Jの厚みは、波長8μmから14μmの範囲の輻射率の波長平均が40%以上となる状態の厚みに調整する必要がある。
隣接側保護層Du及び光反射層Bで吸収される50W/m程度の太陽光の熱エネルギーを、樹脂材料層Jの熱輻射より樹脂材料層Jから宇宙に放出させるには、それ以上の熱輻射を樹脂材料層Jが出す必要がある。
例えば、外気温が30℃のとき、8μmから14μmの大気の窓の熱輻射の最大は200W/mである(輻射率1として計算)。この値が得られるのは、高山など、空気の薄いよく乾燥した環境の快晴時である。低地などでは大気の厚みが高山よりも厚くなるので、大気の窓の波長帯域は狭くなり、透過率は低下する。ちなみに、このことを「大気の窓が狭くなる」と呼ぶ。
【0124】
また、放射冷却フィルムCPを実際に使用する環境は多湿であることもあり、その場合においても大気の窓は狭くなる。低地で利用する際の大気の窓域で発生する熱輻射は、状態の良いときで30℃において160W/mと見積もられる(輻射率1として計算)。
また、日本ではよくあることであるが空に靄があるときや、スモッグが存在する場合、大気の窓はさらに狭くなり、宇宙への放射は125W/m程度となる。
かかる事情を鑑みて、波長8μmから14μmの輻射率の波長平均は40%以上(大気の窓帯での熱輻射強度が50W/m)ないと中緯度帯の低地で用いることができない。
【0125】
したがって、上記事項を鑑みた光学的規定の範囲になるように樹脂材料層Jの厚みを調整すると、太陽光の光吸収による入熱よりも大気の窓における出熱の方が大きくなり、日射環境下でも屋外で放射冷却により外気より低温とすることができるようになる。
【0126】
本実施形態においては、塩化ビニル系樹脂にて形成される樹脂材料層Jの厚みが、14μm以上330μm以下である。好ましくは、塩化ビニル系樹脂にて形成される樹脂材料層Jの厚みが、50μm以上330μm以下である。
このようにすることで、塩化ビニル系樹脂にて形成される樹脂材料層Jの引張強さが、139N/2.5cm以下でかつ破断時伸び(伸びの限界)が50%以上となる。
また、塩化ビニル系樹脂にて形成される樹脂材料層Jは、温度上昇により引張強さが低下することになる。例えば、80℃に加熱すると、塩化ビニル系樹脂にて形成される樹脂材料層Jの引張り強さが、常温に較べて、一般的に1/2以下に低下することになる。
【0127】
〔樹脂材料の詳細〕
キルヒホッフの法則により、輻射率(ε)と光吸収率(A)は等しい。光吸収率は吸収係数(α)から下記の式(1)(以下、光吸収率関係式と呼ぶことがある)にて求めることができる。
A=1-exp(-αt)---(1)尚、tは膜厚である。
つまり、樹脂材料層Jの膜厚を調整すると、吸収係数の大きな波長帯域で大きな熱輻射が得られる。屋外で放射冷却する場合、大気の窓の波長帯域である波長8μmから14μmにおいて吸収係数の大きな材料を用いるとよい。
また、太陽光の吸収を抑制するために波長0.3μmから4μm、特に0.4μmから2.5μmの範囲で吸収係数を持たない、或いは小さな材料を用いるとよい。吸収係数と吸収率の関係式(光吸収率関係式)からわかるように、光吸収率(輻射率)は樹脂材料の膜厚によって変化する。
【0128】
日射環境下での放射冷却によって周囲の大気より温度を下げるためには、大気の窓の波長帯域において大きな吸収係数をもち、太陽光の波長帯域では吸収係数を殆ど持たない材料を選ぶと、膜厚の調整によって太陽光は殆ど吸収しないが、大気の窓の熱輻射を多く出す、つまりは太陽光の入力よりも放射冷却による出力の方が大きな状態を作り出すことができる。
【0129】
太陽光スペクトルは波長0.295μmより長波しか存在しない。なお、紫外線の定義は波長0.4μmよりも短波長側の範囲、可視光線の定義は波長0.4μmから0.8μmの範囲、近赤外線の定義は波長0.8μmから3μmの範囲、中赤外線の定義は3μmから8μmの範囲、遠赤外線の定義は波長8μmよりも長波の範囲とする。
【0130】
炭素-塩素結合(C-Cl)に関して、アルケンの炭素と塩素の結合エネルギーは3.28eVであり、その波長は0.378μmであるので、太陽光のうちの紫外線を多く吸収するが、可視域については吸収をほとんど持たない。
厚さ100μmの塩化ビニル樹脂の紫外から可視域の吸収率スペクトルを図2に示すが、波長0.38μmよりも短波長側で光吸収が大きくなる。
厚さ100μmの塩化ビニリデン樹脂の紫外から可視域の吸収率スペクトルを図2に示すが、波長0.4μmよりも短波長側で若干の吸収率スペクトルの増加がみられる。
【0131】
尚、図2には、厚さ40μmのエチレンテレフタラート樹脂(PET)の紫外から可視域の吸収率スペクトル、及び、ポリエチレン(オレフィン系)の紫外から可視域の吸収率スペクトルを併記する。
【0132】
図3に、炭素-塩素結合をもつ塩化ビニル樹脂(PVC)の大気の窓における輻射率を示す。また、図4に、炭素-塩素結合をもつ塩化ビニリデン樹脂(PVDC)の大気の窓における輻射率を示す。
炭素-塩素結合に関しては、C-Cl伸縮振動による吸収係数が波長12μmを中心に半値幅1μm以上の広帯域に現れる。
また、塩化ビニル樹脂の場合、塩素の電子吸引の影響で、主鎖に含まれるアルケンのC-Hの変角振動に由来する吸収係数が波長10μmあたりに現れる。塩化ビニリデン樹脂についても同様である。
これらの影響で、厚さ10μmの輻射率の波長平均は、波長8μmから14μmの範囲において43%であり、波長平均40%以上という規定の中に入る。図示の通り、膜厚が厚くなると大気の窓領域における輻射率は増大する。
【0133】
図3に示す如く、塩化ビニル樹脂の場合は100μmより厚くなっても大気の窓領域における熱輻射の増大は殆どなくなる。つまり、塩化ビニル樹脂の場合、大気の窓における熱輻射は表面から深さ約100μm以内の部分で生じており、より深い部分の輻射は外に出てこない。
図4に示す如く、塩化ビニリデン樹脂は、塩化ビニル樹脂と同様であることが分かる。
【0134】
以上のように、樹脂材料表面から発生する大気の窓領域の熱輻射は、表面からの深さが概ね100μm以内の部分で生じており、それ以上に樹脂の厚みが増していくと、熱輻射に寄与しない樹脂材料によって、放射冷却フィルムCP(フィルム体F)の放射冷却した冷熱が断熱されることになる。
理想的に太陽光を全く吸収しない樹脂材料層Jを光反射層Bの上に作製することを考える。この場合、太陽光は放射冷却フィルムCP(フィルム体F)の光反射層Bでのみ吸収される。
樹脂材料の熱伝導率はおしなべて0.2W/m/K程度であり、この熱伝導性を考慮して計算すると、樹脂材料層Jの厚みが20mmを超えると、冷却面(光反射層Bにおける樹脂材料層Jの存在側とは反対側の面)の温度が上昇する。
【0135】
太陽光をまったく吸収しない理想的な樹脂材料が存在したとしても、樹脂材料の熱伝導率はおしなべて0.2W/m/K程度であるので、20mmを超えると光反射層Bが日射を受けて加熱されてしまい、光反射層側に設置された冷却対象物Eは加熱される。つまり、放射冷却フィルムCP(フィルム体F)の樹脂材料の厚みは20mm以下にする必要がある。
【0136】
〔樹脂材料層の厚みについて〕
放射冷却フィルムCPの実用の観点では、樹脂材料層Jの厚みは薄い方がよい。樹脂材料の熱伝導率は、金属やガラスなどよりも一般に低い。冷却対象物Eを効果的に冷却するには、樹脂材料層Jの膜厚は必要最低限であるのがよい。樹脂材料層Jの膜厚を厚くするほどに大気の窓の熱輻射は大きくなり、ある膜厚を超えると大気の窓における熱輻射エネルギーは飽和する。
【0137】
飽和する膜厚は樹脂材料にもよるが、炭素-塩素結合を含む樹脂の場合、厚みが100μmであっても飽和しており、厚さ50μmでも大気の窓領域において十分な熱輻射が得られる。樹脂材料の厚さが薄い方が、熱貫流率が高まり被冷却物の温度をより効果的に下げられるので、炭素-塩素結合を含む樹脂の場合、50μm以下の厚さにすると断熱性が小さくなり冷却対象物Eを効果的に冷却することができる。炭素-塩素結合の場合には、100μm以下の厚さであれば、冷却対象物Eを効果的に冷却することができる。
【0138】
薄くする効用は断熱性を下げて冷熱を伝えやすくすること以外にもある。それは、炭素-塩素結合を含む樹脂が呈する、近赤外域でのCH、CH、CH由来の近赤外域の光吸収の抑制である。薄くすると、これらによる太陽光吸収を小さくすることができるので、放射冷却フィルムCPの冷却能力が高まることになる。
以上の観点から、炭素-塩素結合を含む樹脂である塩化ビニル系樹脂の場合、50μm以下の厚さにするとより効果的に日照下において放射冷却効果を出すことができる。
【0139】
上述の通り、樹脂材料層Jの厚さが10μm以上であれば日照下において放射冷却効果を出すことができるが、放射冷却フィルムCP(フィルム体F)を貼付施工の際に40%近く伸ばすことを前提とした場合には、上述の如く、樹脂材料層Jの厚さは14μm以上にする必要がある。そして、樹脂材料層Jの厚さが50μm以上であれば、樹脂材料層Jが十分大きな放射冷却効果を出すことができる。
また、樹脂材料層Jの引張強さを139N/2.5cm以下にするため、樹脂材料層Jの厚さを、300μm以下にする必要がある。
【0140】
(樹脂材料層Jの引張強さについて)
図9には、樹脂材料層Jの厚さ(μm)と引張強さ(N/2.5cm)との関係を例示する。具体的には、図9においては、樹脂材料層J(塩化ビニル樹脂)に可塑剤としてDOP(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)を添加する場合において、添加するDOPの添加量(重量部)を変化させながら、樹脂材料層Jの厚さ(μm)と引張強さ(N/2.5cm)との関係を例示する。
【0141】
図9においては、樹脂材料層Jの100重量に対して添加するDOPの重量部の上限は、50重量部とする。つまり、可塑剤の添加量は、耐久性の観点から50重量部を上限とする。
図9に示す如く、樹脂材料層Jの100重量に対して可塑剤の添加量が50重量部で、引張強さが139N/2.5cm以下になるには、樹脂材料層Jの厚さの上限は概ね330μmであり、樹脂材料層Jの厚さの上限を320μmにすると一層よい。
ちなみに、可塑剤の種類が変化した場合には、可塑剤の可塑化効率を重量部に掛け合わせることにより、樹脂材料層Jの厚さ(μm)と引張強さ(N/2.5cm)との関係を求まることができる。
【0142】
〔光反射層の詳細〕
光反射層Bに上述の反射率特性を持たせるためには、放射面Hの存在側(樹脂材料層Jの存在側)の反射材料は銀または銀合金である必要がある。
図12に示す通り、銀をベースとして光反射層Bを構成すれば、光反射層Bに求められる反射率が得られる。
【0143】
銀または銀合金のみで太陽光を上述の反射率特性を持たせた状態で反射する場合、厚さが50nm以上必要である。
ちなみに、銀及び銀合金は40%を超えて伸びると破断することになるので、放射冷却フィルムCP(フィルム体F)は、40%以内の伸びで使用する必要がある。つまり、本発明の放射冷却フィルムCPの使用方法として、フィルム体Fの伸びが40%以内となる状態で使用する必要がある。
【0144】
そして、光反射層Bが40%伸びても、光反射層Bの厚さを50nmに確保するためには、光反射層Bの厚さを70nm以上にする必要がある。
また、光反射層Bの引張強さを1N/2.5cm以下にするには、光反射層Bの厚さの上限は0.3μmである。
つまり、本発明の放射冷却フィルムCP(フィルム体F)においては、光反射層Bの厚さを70nm以上、0.3μm以下にすることになる。
【0145】
ちなみに、「銀合金」としては、銀に、銅、パラジウム、金、亜鉛、スズ、マグネシウム、ニッケル、チタンのいずれかを、例えば、0.4質量%から4.5質量%程度添加した合金を用いることができる。具体例としては、銀に銅とパラジウムを添加して作成した銀合金である「APC-TR(フルヤ金属製)」を用いることができる。
【0146】
〔可塑剤の詳細〕
樹脂材料層Jを形成する塩化ビニル系樹脂に混入する可塑剤は、フタル酸エステル類、脂肪族二塩基酸エステル類及びリン酸エステル類からなる群より選択される1つ以上の化合物である。
そして、可塑剤の添加量が、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して7重量部以上、50重量部以下である。好ましくは、可塑剤の添加量が、15重量部以上、50重量部以下である。
【0147】
可塑剤としての脂肪族二塩基酸エステルが、アジピン酸エステル類、アジピン酸エステル共重合体類、アゼライン酸エステル類、アゼライン酸エステル共重合体類、セバシン酸エステル類、セバシン酸エステル共重合体類、コハク酸エステル類及びコハク酸エステル共重合体類からなる群より選択される1つ以上の化合物から構成されるとよい。
【0148】
可塑剤としての脂肪族二塩基酸エステルが、脂肪族二塩基酸と飽和脂肪族アルコール2分子とがエステル結合したものであるとよい。
可塑剤のフタル酸エステルが、フタル酸と飽和脂肪族アルコール2分子とがエステル結合したものであるとよい。
可塑剤としてのリン酸エステルが、リン酸トリエステル、又は、芳香族リン酸エステルであるとよい。
【0149】
<フタル酸エステル類の詳細>
フタル酸エステル類を列挙すると、次の通りである。
フタル酸ジメチル(DMP)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジブチル(DPP)、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)、フタル酸ジトリデシル(DTDP)、テレフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOTP)、イソフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOIP)等。
【0150】
<脂肪族二塩基酸エステル類の詳細>
脂肪族二塩基酸エステル類を列挙すると、次の通りである。
アジピン酸ジブチル(DBA)、アジピン酸ジイソブチル(DIBA)、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、アジピン酸ジイソデシル(DIDA)、アゼライン酸ビス-2-エチルヘキシル(DOZ)、セバシン酸ジブチル(DBS)、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOS)、セバシン酸ジイソノニル(DINS)、コハク酸ジエチル(DESU)等。
また、アジピン酸等の2塩基酸とジオール(二官能アルコール、あるいはグリコール)との共重合(ポリエステル化)によって合成された分子量400~4000の脂肪族ポリエステル。
【0151】
<リン酸トリエステル>
リン酸トリエステルを列挙すると、次の通りである。
トリメチルホスフェート(TMP)、トリエチルホスフェート(TEP)、トリブチルホスフェート(TBP)、トリス(2エチルヘキシル)ホスフェート(TOP)。
【0152】
<芳香族リン酸エステル>
芳香族リン酸エステルを列挙すると、次の通りである。
トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレシルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、トレジルジフェニルホスフェート(CDP)、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート。
【0153】
<可塑剤と伸びの限界との関係について>
図10には、可塑剤の添加量(重量部)と樹脂材料層J(塩化ビニル樹脂)の伸びの限界(破断時伸び%)との関係を、アジピン酸ポリエステル(脂肪族二塩基酸エステル類)、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DOP)、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOA)の夫々について示す。
図10を参照すれば、可塑剤として、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOA)については、7重量部以上添加されると、伸びの限界(破断時伸び)が40%以上であり、放射冷却フィルムCP(フィルム体F)が、40%以内の伸びで使用される条件を満たすことになる。
また、可塑剤が15重量部以上添加されると、アジピン酸ポリエステル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DOP)、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOA)の夫々の伸びの限界(限界伸び)が確実に40%以上となり、放射冷却フィルムCP(フィルム体F)が、40%以内の伸びで使用される条件を確実に満たすことになる。
【0154】
<適正な可塑剤の評価について>
塩化ビニル樹脂用の可塑剤には、フタル酸エステル類、脂肪族二塩基酸エステル類、リン酸トリエステル類、芳香族リン酸エステル類、トリメリット酸エステル類、エポキシ化脂肪酸エステル類がある。これら可塑剤類から下記化合物を選定し、塩化ビニル100重量部に対し各種可塑剤を43重量部混ぜて、キセノンウエザー試験により評価した。
なお、塩化ビニル樹脂には、トリアジン系の紫外線吸収剤とヒンダードアミン系の光安定剤を塩化ビニル100重量部あたりそれぞれ0.5重量部ずつ混錬した。
【0155】
フタル酸エステルの代表として、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DOP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)。
脂肪族二塩基酸エステルの代表として、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOA)、アジピン酸ブタンジオール共重合体(平均分子量1000程度)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)。
リン酸トリエステルの代表として、トリブチルホスフェート(TBP)。
芳香族リン酸エステルの代表として、トリクレシルホスフェート(TCP)。
トリメリット酸エステルの代表として、トリメリット酸トリ-2-エチルヘキシル(TOTM)。
エポキシ化脂肪酸エステルの代表として、エポキシ化大豆油。
【0156】
耐久試験はキセノンウエザー試験を1920時間(実暴露4年に相当)実施した結果をもって耐久性の優劣判断を行った。尚、紫外線換算で487時間が1年に相当する。
キセノンウエザー試験の条件は以下の通りである。
紫外線強度180W/m(波長295-400nm)。
〈散水なし条件〉BPT89℃、湿度50%、1時間42分。
〈散水あり条件〉槽内温度38℃、湿度90%、18分。
【0157】
1920時間の試験結果を図20に示す。ちなみに、本実施形態では塩化ビニル樹脂で実験しているが、塩化ビニリデン樹脂でも同様である。
上記実験の結果、トリメリット酸エステル(TOTM)、及び、エポキシ化脂肪酸エステル(エポキシ化大豆油)を可塑剤として用いると耐久性が著しく下がることが明らかとなった。なお、エポキシ化脂肪酸は1120時間で茶変し試験継続できなくなったので同図に載せていない。
【0158】
これに対して、フタル酸エステル系、脂肪族二塩基酸エステル系、リン酸トリエステル系、芳香族リン酸エステル系を用いると4年程度耐久することが分かった。つまり、塩化ビニル樹脂に混入する可塑剤として、フタル酸エステル系、脂肪族二塩基酸エステル系、リン酸トリエステル系、芳香族リン酸エステル系を用いると、4年程度経過しても、放射冷却フィルムCPの反射率は低下しないが、塩化ビニル系樹脂に混入する可塑剤として、トリメリット酸エステル系、エポキシ化脂肪酸エステルを用いると、放射冷却フィルムCPの反射率が、4年程度経過する前から、大きく低下することが分かった。
【0159】
以上の試験結果により、塩化ビニル系樹脂の可塑剤としては、フタル酸エステル類、脂肪族二塩基酸エステル類、リン酸トリエステル類、芳香族リン酸エステル類の耐久が優れており、トリメリット酸エステル、エポキシ化脂肪酸エステルは耐久性がないことがわかる。
【0160】
〔その他の添加剤について〕
樹脂材料層Jを形成する塩化ビニル樹脂に、難燃剤、安定剤、安定化助剤、充てん剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤が入っていてもよい。
<難燃剤>
難燃剤としては、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛等の無機系化合物、クレジルジフェニルホスフェート、トリスクロロエチルフォスフェート、トリスクロロプロピルフォスフェート、トリスジクロロプロピルフォスフェート等のリン系化合物、塩素化パラフィン等のハロゲン系化合物等が例示される。又、塩化ビニル樹脂100重量部に対する難燃剤の配合量は0.1~20重量部程度である。
【0161】
<安定剤>
安定剤としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸マグネシウム、リシノール酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、リシノール酸バリウム、ステアリン酸バリウム、オクチル酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸化合物、ジメチルスズビス-2-エチルヘキシルチオグリコレート、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズビスブチルマレエート、ジブチルスズジラウレート等の有機錫系化合物、アンチモンメルカプタイド化合物等が例示される。又、塩化ビニル樹脂100重量部に対する安定剤の配合量は0.1~20重量部程度である。
【0162】
<安定化助剤>
安定化助剤としは、トリフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、トリデシルフォスファイト等のホスファイト系化合物、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等のベータジケトン化合物、グリセリン、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール等のポリオール化合物、過塩素酸バリウム塩、過塩素酸ナトリウム塩等の過塩素酸塩化合物、ハイドロタルサイト化合物、ゼオライトなどが例示される。又、塩化ビニル樹脂100重量部に対する安定化助剤の配合量は0.1~20重量部程度である。
【0163】
<充填剤>
充填剤としては、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、珪藻土、フェライト、などの金属酸化物、ガラス、炭素、金属などの繊維及び粉末、ガラス球、グラファイト、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウムなどが例示される。又、塩化ビニル樹脂100重量部に対する充填剤の配合量は1~100重量部程度である。
【0164】
<酸化防止剤>
酸化防止剤としては、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、テトラキス[メチレン-3-(3,5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プロピオネート]メタン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノンなどのフェノール系化合物、アルキルジスルフィド、チオジプロピオン酸エステル、ベンゾチアゾールなどの硫黄系化合物、トリスノニルフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトなどのリン酸系化合物、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアリールジチオリン酸亜鉛などの有機金属系化合物などが例示される。又、塩化ビニル樹脂100重量部に対する酸化防止剤の配合量は0.2~20重量部程度である。
【0165】
<紫外線吸収剤>
紫外線吸収剤としては、フェニルサリシレート、p-tert-ブチルフェニルサリシレートなどのサリシレート系化合物、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-メトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物、5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、1-ジオクチルアミノメチルベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系化合物の他、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物などが例示される。又、塩化ビニル樹脂100重量部に対する紫外線吸収剤の配合量は0.1~10重量部程度である。
【0166】
樹脂材料層J(赤外放射層A)には紫外線吸収剤を配合して、樹脂材料層J(赤外放射層A)の290nm以上、330nm以下の波長の光の透過率を0%にすることが望ましい。290nm以上、330nm以下の波長の光が光反射層Bまで透過すると、銀の周辺に存在する隣接側保護層Duにてラジカルが形成され、銀と反応して光反射層Bが着色する原因となる。
図11は、可塑剤として、フタル酸ジイソノニル(DINP)を用いた塩化ビニル樹脂の透過率を示す。
【0167】
<光安定剤>
光安定剤としては、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート及びメチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケート(混合物)、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドリキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1(オクチルオキシ)-4-ピペリジル)エステル及び1,1-ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールと高級脂肪酸のエステル混合物、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、コハク酸ジメチルと4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールの重縮合物、ポリ[{(6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル){(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}}、ジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N'-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1,6-ヘキサメチレンジアミンとN-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、N,N',N'',N'''-テトラキス-(4,6-ビス-(ブチル-(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アミノ)-トリアジン-2-イル)-4,7-ジアザデカン-1,10-ジアミン等のヒンダードアミン系が例示される。又、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する光安定剤の配合量は0.1~10重量部程度である。
【0168】
〔放射冷却フィルムの具体構成〕
放射冷却フィルムCP(フィルム体F)の具体構成としては、図5に示す如く、光反射層Bにおける赤外放射層Aに隣接する面に隣接側保護層Duが備えられ、光反射層Bにおける赤外放射層Aから離れる面に離間側保護層Dsが備えられている。隣接側保護層Du及び離間側保護層Dsはウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリオレフィン系樹脂のいずれかであり、その詳細は後述する。
【0169】
また、蒸着層Qにおける光反射層Bに隣接する側の面及び光反射層Bから離間する側の面の夫々に、蒸着層用保護層Rが配置されている。蒸着層用保護層Rはウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリオレフィン系樹脂のいずれかであり、その詳細は後述する。
尚、以下の記載において、蒸着層Qにおける光反射層Bに隣接する側の面に配置される蒸着層用保護層Rを、第1保護層R1と略称し、蒸着層Qにおける光反射層Bから離間する側の面に配置される蒸着層用保護層Rを、第1保護層R1と略称する場合がある。
【0170】
そして、放射冷却フィルムCP(フィルム体F)の具体構成においては、樹脂材料層Jと、隣接側保護層Du、光反射層B及び離間側保護層Dsからなる積層部とが接着層Nにて接着され、同様に、隣接側保護層Duと、第1保護層R1、蒸着層Q及び第2保護層R2からなる積層部が蒸着層用接着層Sにて接着される構成である。
【0171】
接着層Nは、例えば、ウレタン樹脂系接着剤(粘着剤)、アクリルウレタン樹脂系接着剤(粘着剤)、ポリオレフィン樹脂系接着剤(粘着剤)であり、太陽光に対して高い透明性を持つものが望ましい。
同様に、蒸着層用接着層Sは、例えば、ウレタン樹脂系接着剤(粘着剤)、アクリルウレタン樹脂系接着剤(粘着剤)、ポリオレフィン樹脂系接着剤(粘着剤)である。
【0172】
放射冷却フィルムCP(フィルム体F)を作製する一例を図7及び図8に示す。
図7に示す如く、先ず、PET等のフィルム状の基材Kの上部に、離型層Gを作成し、離型層Gの上に、離間側保護層Dsを塗布あるいは貼り付けて作成し、離間側保護層Dsの上に、蒸着・スパッタリング・イオンプレーティング・銀鏡反応などによって光反射層Bを作成し、光反射層Bの上に、隣接側保護層Duを塗布あるいは貼り付けて作成する。
つまり、基材Kの上部に、離型層G、離間側保護層Ds、光反射層B、隣接側保護層Duを順次積層して光反射層側積層体Pを形成する。
また、樹脂材料層Jをフィルム状に別途形成する。
【0173】
そして、フィルム状に作製された樹脂材料層Jと光反射層側積層体Pのと隣接側保護層Duを接着層Nにて接着する。
その後、離型層Gを離間側保護層Dsから外して基材Kを分離することになる。
ちなみに、離型層Gは、シリコーン樹脂、フッ素樹脂のいずれかで形成されることになる。
【0174】
また、図8に示す如く、PET等のフィルム状の蒸着層側基材Kqの上部に、蒸着層側離型層Gqを作成し、蒸着層側離型層Gqの上に、第2保護層R2を塗布あるいは貼り付けて作成し、第2保護層R2の上に、インジウムを蒸着して蒸着層Qを作成し、蒸着層Qの上に、第1保護層R1を塗布あるいは貼り付けて作成する。
つまり、蒸着層側基材Kqの上部に、第2保護層R2(蒸着層用保護層R)、蒸着層Q、第1保護層R1(蒸着層用保護層R)を順次積層して蒸着層側積層体Pqを形成する。
【0175】
そして、樹脂材料層J、隣接側保護層Du、光反射層B及び離間側保護層Dsからなる積層部と、蒸着層側積層体Pqとを蒸着層用接着層Sにて接着する。つまり、離間側保護層Dsと第1保護層R1とを蒸着層用接着層Sにて接着する。
その後、蒸着層側離型層Gqを第2保護層R2から外して蒸着層側基材Kqを分離することになる。
ちなみに、蒸着層側離型層Gqは、シリコーン樹脂、フッ素樹脂のいずれかで形成されることになる。
【0176】
<蒸着層の考察>
図13に示す如く、インジウムは銀と同等の光反射率を示すことになる。ちなみに、本発明は、インジウムを蒸着した蒸着層Qに代えてスズ(Sn)を蒸着した蒸着層Qとすることができる。
図13に示す如く、スズは銀と同等の光反射率を示すことになる。
【0177】
図14に示す如く、蒸着層Qは、厚さによって光反射率が変化するが、厚さが40μm以上あれば、80%を超える光反射率を備えるため、蒸着層Qの厚さは40μm以上であることが好ましい。
ちなみに、蒸着層Qは、第2保護層R2を基板として、その基板の上に粒状のインジウムが多数並ぶ状態で存在するものであり、粒状のインジウムはほとんど伸びることがなく、第2保護層R2が伸びるものであるから、蒸着層Qの伸性(伸び易さ)は、第2保護層R2の伸性(伸び易さ)に依存することになる。
つまり、第2保護層R2が伸性(伸び易さ)を備えるものであるから、蒸着層Qの伸性(伸び易さ)を備えることになる。
【0178】
<接着層及び蒸着層用接着層の考察>
伸性の良い樹脂材料としては、下記の樹脂材料等がある。
・軟質塩化ビニル樹脂
・ウレタン樹脂
・アクリル-ウレタン共重合樹脂(アクリルウレタン樹脂)
・ポリオレフィン樹脂
・シリコーン樹脂
これらの樹脂のうちで、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂が接着剤に適している。いずれも伸性が高く、引張強さが小さい。
接着層の厚みは、1μm以上、30μm以下であることが好ましい。
【0179】
ちなみに、アクリル樹脂は、引張強さが48Mpaから73Mpa程度で、破断時伸び(伸びの限界)が2%から7%であり、破断時伸び(伸びの限界)が小さく伸びにくい材料であるのでアクリル樹脂のみでは接着層Nや蒸着層用接着層Sとしては使えない。
これに対して、ウレタン樹脂は、引張強さが1Mpa~69Mpa程度で、破断時伸び(伸びの限界)が100%から10000%であり、伸びの良い材料である。アクリルとウレタンとを共重合させたアクリルウレタン樹脂を用いると、アクリルにウレタンの伸び性が付加されよく伸びるようになる。従って、アクリルウレタン樹脂が望ましい。
【0180】
〔保護層の詳細〕
隣接側保護層Du及び離間側保護層Dsは、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリオレフィン系樹脂のいずれかで、厚さが300nm以上、40μm以下である。
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン及びポリプロピレンがある。
【0181】
蒸着層用保護層R(第1保護層R1、第2保護層R2)は、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリオレフィン系樹脂のいずれかで、厚さが300nm以上、40μm以下である。
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン及びポリプロピレンがある。
【0182】
図2には、ポリエチレン(オレフィン系)、塩化ビニリデン樹脂、塩化ビニル樹脂の紫外線の吸収率を示す。尚、図2には、エチレンテレフタラート樹脂(PET)の紫外線の吸収率を参考に示すが、エチレンテレフタラート樹脂(PET)は伸びにくい材料であるため、放射冷却フィルムCP(フィルム体F)を製作する材料としは使用できないものであり、隣接側保護層Du及び離間側保護層Dsとしても使用できない。
また、図15に、隣接側保護層Du、離間側保護層Ds及び蒸着層用保護層Rを形成する合成樹脂として好適なポリエチレンの光透過率を示す。
【0183】
放射冷却フィルムCP(フィルム体F)は、夜間のみならず、日射環境下にても放射冷却作用を発揮するものであるから、光反射層Bが光反射機能を発揮する状態を維持するには、隣接側保護層Duにて光反射層Bを保護することにより、日射環境下で光反射層Bの銀が変色しないようにする必要がある。
【0184】
隣接側保護層Duが、ポリオレフィン系樹脂にて厚さが300nm以上で、40μm以下の形態に形成される場合には、ポリオレフィン系樹脂は、波長0.3μmから0.4μmの紫外線の波長域の全域において紫外線の光吸収率が10%以下である合成樹脂であるから、隣接側保護層Duが紫外線の吸収により劣化し難いものとなる。
【0185】
そして、隣接側保護層Duを形成するポリオレフィン系樹脂の厚さが、300nm以上であるから、樹脂材料層Jにて発生したラジカルが光反射層Bを形成する銀又は銀合金に到達することを遮断し、また、樹脂材料層Jを透過する水分が光反射層Bを形成する銀又は銀合金に到達することを遮断する等の遮断機能を良好に発揮することになり、光反射層Bを形成する銀又は銀合金の変色を抑制できることになる。
【0186】
ちなみに、ポリオレフィン系樹脂にて形成される隣接側保護層Duは、紫外線の吸収により、光反射層Bから離れる表面側にラジカルを形成しながら劣化することになるが、厚さが300nm以上であるから、形成したラジカルが光反射層Bに到達することはなく、また、ラジカルを形成しながら劣化するにしても、紫外線の吸収が低いことにより劣化の進み具合は遅いものであるから、上述の遮断機能を長期に亘って発揮することになる。
【0187】
なお、ポリオレフィン系樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂にて隣接側保護層Du、離間側保護層Ds及び蒸着層用保護層Rを形成する場合において、その厚さの上限を定める理由は、隣接側保護層Du、離間側保護層Ds及び蒸着層用保護層Rが放射冷却に寄与しない断熱性を奏することを回避するためである。つまり、隣接側保護層Du、離間側保護層Ds及び蒸着層用保護層Rは、厚さが厚くなるほど放射冷却に寄与しない断熱性を奏することになるから、光反射層Bや蒸着層Qを保護する機能を発揮させながらも、放射冷却に寄与しない断熱性を奏することを回避するために、厚さの上限が定められることになる。
【0188】
ところで、図5に示すように、樹脂材料層Jと隣接側保護層Duとの間に接着層Nが位置する場合には、接着層Nからもラジカルが発生することになるが、隣接側保護層Duを形成するポリオレフィン系樹脂の厚さが300nm以上であるので、接着層Nにて発生したラジカルが光反射層Bに到達することを、長期に亘って抑制できる。
【0189】
ちなみに、上述の如く、隣接側保護層Duが厚くなると、光反射層Bの銀(銀合金)の着色を防ぐうえでのデメリットは生じないが、放射冷却するうえでの問題が発生する。つまり、厚くすると放射冷却材料の断熱性を上げることになる。
例えば、隣接側保護層Duを形成する合成樹脂として優れている主成分がポリエチレンの樹脂は、図19に示すように、大気の窓における輻射率が小さいため、厚く形成しても放射冷却に寄与しない。それどころか、厚くすると放射冷却材料の断熱性を上げることになる。次に、厚くなると主鎖の振動に由来する近赤外域の吸収が増加し、太陽光吸収が増える効果が増加する。
これら要因により、隣接側保護層Duが厚いことは、放射冷却にとって不利である。このような観点から、ポリオレフィン系樹脂にて形成される隣接側保護層Duの厚さは、5μm以下であることが好ましく、さらには、1μm以下であることが一層好ましい。
【0190】
〔保護層の考察〕
隣接側保護層Duによる銀の着色のされ方の違いを検討するために、図16に示すような、赤外放射層Aとしての樹脂材料層Jを備えない隣接側保護層Duを露出させたサンプルを作製し、模擬太陽光が照射された後の銀の着色を調べた。
つまり、隣接側保護層Duとして、紫外線を吸収する一般的なアクリル系樹脂(例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が混入するメタクリル酸メチル樹脂)とポリエチレンとの二種類を、バーコーターで、光反射層Bとして銀を備えるフィルム層U(基材に相当)上に塗布したサンプルを形成し、隣接側保護層Duとしての機能を検討した。塗布した隣接側保護層Duの厚みは、それぞれ10μmと1μmである。
尚、フィルム層U(基材に相当)は、PET(エチレンテレフタラート樹脂)等にてフィルム状に形成されたものである。
【0191】
図18に示すように、隣接側保護層Duが紫外線を良く吸収するアクリル系樹脂の場合、隣接側保護層Duが紫外線で分解されラジカルを形成し、直ぐに銀が黄化して、放射冷却フィルムCPとして機能しなくなる(太陽光を吸収し、一般の材料のように日射が当たると温度上昇する)。
尚、図中の600hの線は、JIS規格5600-7-7の条件でキセノンウエザー試験(紫外光エネルギーは60W/m)を600h(時間)行った後の反射率スペクトルである。また、0hの線は、キセノンウエザー試験を行う前の反射率スペクトルである。
【0192】
図17に示すように、隣接側保護層Duが紫外線の光吸収率が低いポリエチレンの場合には、近赤外域から可視域での反射率の低下がみられないことがわかる。つまり、主成分がポリエチレンの樹脂(オレフィン系樹脂)は、地上に届く太陽光が持つ紫外線を殆ど吸収しないため、太陽光が当たってもラジカルを形成し難いので、日射が当たっても、光反射層Bとしての銀の着色が発生しない。
尚、図中の600hの線は、JIS規格5600-7-7の条件でキセノンウエザー試験(紫外光エネルギーは60W/m)を600h(時間)行った後の反射率スペクトルである。また、0hの線は、キセノンウエザー試験を行う前の反射率スペクトルである。
【0193】
なお、この波長帯域の反射率スペクトルが波打つ理由は、ポリエチレン層のファブリペロー共振である。キセノンウエザー試験の熱などによってポリエチレン層の厚みが変化したことによる原因で、この共振位置が0hの線と600hの線とで多少変わっていることがわかるが、銀の黄化に由来する紫外-可視域における大きな反射率の低下は観測されない。
【0194】
尚、フッ素樹脂系も紫外線吸収の観点からは隣接側保護層Duを形成する材料に適用できるが、実際に隣接側保護層Duとして形成すると、形成段階で着色し、劣化するため、隣接側保護層Duを形成する材料としては用いることができない。
また、シリコーン樹脂も紫外線吸収の観点からは隣接側保護層Duを形成する材料に適用できるが、銀(銀合金)との密着性が極めて悪く、隣接側保護層Duを形成する材料としては用いることができない。
【0195】
〔可塑剤の考察〕
以下、塩化ビニル系樹脂に混入する可塑剤について考察する。
(塩化ビニル系樹脂の劣化について)
塩化ビニル系樹脂(フィルム)の太陽光による劣化は、可塑剤の紫外線による劣化が大きく関与している。
通常屋外で長期使用される塩化ビニル系樹脂(可塑剤が混入されている)は、着色や添加剤によって太陽光に含まれる紫外線から守られている。例えば黒等の色に着色され、紫外線の影響を受けづらい状態となっていることが多い。一方、放射冷却フィルムCPの場合、放射冷却性能を得るために太陽光の吸収を最小限に抑える必要がある。そのため可塑剤を守るための添加物や染料・顔料を十分に入れることができない。
【0196】
放射冷却フィルムCP(フィルム体F)は、例えば、図5に例示する如く、塩化ビニル樹脂にて形成される樹脂材料層Jの下に接着層N、隣接側保護層Duがあり、その下に銀を備えた光反射層Bがある。この光反射層Bの影響で樹脂材料層Jは太陽光の影響を更に受けやすくなる。つまり、放射冷却フィルムCP(フィルム体F)に一度入射した太陽光は、光反射層Bで反射されることにより、樹脂材料層Jを2度透過する。つまり、太陽光の劣化への影響が通常の約2倍となる。
【0197】
また、銀を備えた光反射層Bの上に形成された樹脂材料層Jと、反射率が低いアルミや鉄、セラミクス上に形成された樹脂材料層Jとを比較すると、銀を備えた光反射層Bの上に形成された樹脂材料層Jを備える放射冷却フィルムCPは太陽光の影響をより多く受けることになる。
これらのことは、銀を備えた光反射層Bの上に樹脂材料層Jを備える放射冷却フィルムCP(フィルム体F)の塩化ビニル系樹脂は、一般用途の塩化ビニル系樹脂よりも太陽光に含まれる紫外線に敏感であることを示唆している。
【0198】
エステル系可塑剤の紫外線による劣化は、主に紫外線エネルギーを可塑剤が吸収することによって生じる。
紫外線吸収は、主に可塑剤のエステル結合の結合エネルギーを超える電子遷移が生じることによって生じる。紫外線による活性エネルギーの付与と水分子により、塩化ビニル系樹脂に混入された可塑剤の加水分解が進む。
可塑剤の結合が切れると、切れた結合が周囲の塩化ビニル系樹脂を攻撃し、脱塩素等を生じて着色する。また、このことにより機械強度も低下する。
塩化ビニル系樹脂が着色すると、太陽光を放射冷却フィルムCP(フィルム体F)が吸収するために日中では冷却できなくなる。
【0199】
故に、図20の実験結果で示した通り、他用途では直射日光に晒される屋外用途で用いられる可塑剤(トリメリット酸エステル、エポキシ化脂肪酸エステル)を、放射冷却フィルムCPでは用いることができず、放射冷却フィルムCP(フィルム体F)の可塑剤として、フタル酸エステル類、脂肪族二塩基酸エステル類、リン酸トリエステル類、芳香族リン酸エステル類を用いることができる。
【0200】
(紫外線吸収剤の樹脂材料層の保護性について)
実験に用いた放射冷却フィルムCP(フィルム体F)の樹脂材料層Jを形成する塩化ビニル系樹脂には、紫外線吸収剤を混ぜており、放射冷却フィルムCP(フィルム体F)の製作当初の反射率が、波長295nm以上で、350nm以下の範囲で10%以下となるよう調整している(図20参照)。
この紫外線吸収剤は、樹脂材料層Jの下にある接着層N、隣接側保護層Du、銀を備えた光反射層Bを守るために存在しており、樹脂材料層Jを紫外線から守る効果は限定的である。
【0201】
紫外線吸収剤の吸収率(A)は、下記の式(2)で表すことができる。
A=1-exp(-αt)---(2)尚、αは吸収係数、tは膜厚である。
この式から、光は、樹脂材料層J(塩化ビニル系樹脂)を移動するに伴って徐々に樹脂材料層Jに吸収されることがわかる。つまり、特に、樹脂材料層J(塩化ビニル系樹脂)の太陽光入射側は、紫外線吸収剤による紫外線保護効果は期待できない。
つまり、実験の結果、可塑剤をトリメリット酸とした場合には、放射冷却フィルムCPが、太陽光照射面(放射面H)からえぐれるようにして劣化が進むことが分かった。
【0202】
(好適な可塑剤と不適な可塑剤に関して)
塩化ビニル系樹脂に混入する好適な可塑剤は、上述の如く、フタル酸エステル、脂肪族二塩基酸エステル、リン酸トリエステル、芳香族リン酸エステルである。
脂肪族二塩基酸エステルは、脂肪族二塩基酸と飽和脂肪族アルコール2分子とがエステル結合したものであることが好ましく、フタル酸エステルは、フタル酸と飽和脂肪族アルコール2分子とがエステル結合したものであることが好ましい。
また、フタル酸エステル、脂肪族二塩基酸エステル、リン酸トリエステルの夫々については、エステルの炭化水素基がアルキル基であることが望ましい。
【0203】
不適な可塑剤は、上述の如く、トリメリット酸エステル、エポキシ化脂肪酸エステルである。
また、フタル酸エステル、脂肪族二塩基酸エステル、リン酸トリエステルの炭化水素基が、不飽和炭化水素基である可塑剤も不適である。つまり、フタル酸エステル、脂肪族二塩基酸エステル、リン酸トリエステルの炭化水素基が、飽和炭化水素基であることが望ましい。
つまり、炭化水素基が不飽和炭化水素基であると、その不飽和結合が着色の原因となり太陽光をよく吸収し、放射冷却特性を下げる。併せて、その不飽和結合が太陽光を吸収して開裂し、周辺のオリゴマー及び塩化ビニルとの反応を進め、このことにより、放射冷却フィルムCPの樹脂材料層Jが脆化、着色する。
要するに、可塑剤の適・不適の違いは、可塑剤の紫外線の吸収し易さに起因する。
【0204】
(フタル酸エステルについて)
先ずは、芳香族カルボン酸エステルである、フタル酸エステルについて、トリメリット酸エステルと比較する。フタル酸エステルの例としては、DOP(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)があり、トリメリット酸エステルの例としては、TOTM(トリメリット酸トリ-2-エチルヘキシル)がある。
紫外線が照射される屋外での分解はエステル結合の加水分解によって生じる。紫外線がその反応の活性化エネルギーとなる。トリメリット酸エステルのエステル結合の結合エネルギーはフタル酸と比較して弱い。この違いは紫外線吸収の違いに現れる。
【0205】
下記の式(3)は、吸収波長(λA)と結合エネルギー(E)との関係を表す。
λ=1240/E---(3)
この式は、結合エネルギー(E)が小さくなると、結合の電子移動を活性化する紫外線吸収波長が長波にシフトすることを示している。図21にその一例を示す。
図21の中で、DEHP、DINCHがフタル酸エステル、TOTMがトリメリット酸エステルである。尚、DEHPは、DOPと同じである。
【0206】
地上の太陽光は295nmより長波に存在するが、TOTMは、295nmより長波の紫外線をよく吸収する。この吸収はエステル結合に由来しており、紫外線が周囲の水と反応する加水分解の活性化エネルギーとなる。
ちなみに、トリメリット酸エステルは直射日光に晒される軟質塩ビ製電線等にも用いられる可塑剤であるが、同じ屋外用途でも放射冷却フィルムCPの樹脂材料層Jを形成する塩化ビニルに用いることはできない。一般的な屋外用途において、塩化ビニル層は黒等の色に十分に着色され、紫外線の影響を受けづらい状態となっていることが多く、紫外線による劣化は生じにくい。
【0207】
一方、放射冷却フィルムCPの場合、放射冷却性能を得るために太陽光の吸収を最小限に抑える必要があり、可塑剤を守るための添加物や染料・顔料を十分には入れられない。故に、他用途では直射日光に晒される屋外用途で用いられる可塑剤が本用途では用いることができないものとなる。
トリメリット酸エステル類としては、トリメリット酸トリ-2-エチルヘキシル(TOTM)、トリメリット酸トリイソノニル(TINTM)、トリメリット酸トリイソデシル(TIDTM)等があるが、いずれも不適である。
【0208】
図22に、他のフタル酸エステルとして、DOP(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)、DBP(フタル酸ジブチル)の吸光度を示すが、295nmより長波に殆ど吸収を持たないことがわかる。
【0209】
炭化水素基がアルキル基の場合、エステル結合の強度はカルボン酸の種類に大きく依存しており、カルボン酸の種類が同一であれば紫外線吸収は同様の傾向を示す。炭化水素基がアルキル基である場合、400nm以下の紫外域の最も長波長側の光吸収はエステル結合の結合エネルギーに起因している。
炭化水素基がアルキル基のフタル酸エステルは、地上の太陽光スペクトルに存在する295nmよりも長波の紫外域に吸収を有しておらず、太陽光の紫外エネルギーで加水分解が進まない。
【0210】
一方、炭化水素基がアルキル基のトリメリット酸エステルは太陽光の紫外エネルギーをエステル結合が吸収し、そのエネルギーで加水分解が進む。加水分解で生成された酸及びアルコールは紫外線を吸収して周辺のオリゴマー及び塩化ビニルとの反応を進め、このことにより、放射冷却フィルムCPの樹脂材料層Jが脆化、着色する。
つまり、可塑剤として用いられる芳香族カルボン酸エステルには、フタル酸エステルとトリメリット酸エステルが存在するが、フタル酸エステルは放射冷却素材として用いることができるがトリメリット酸エステルは用いることができない。
【0211】
(脂肪族二塩基酸エステルについて)
炭化水素基がアルキル基の場合、エステル結合の強度はカルボン酸の種類に大きく依存しており、カルボン酸の種類が同一であれば紫外線吸収は同様の傾向を示すことはフタル酸とトリメリット酸の部分で説明した。
脂肪族二塩基酸エステルの脂肪族二塩基酸がアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸のように飽和ジカルボン酸であり、なおかつエステルがこれら酸と飽和グルコースとのエステル結合の場合を考える。なお飽和ジカルボン酸と飽和グルコースとの共重合体も含む。
この場合、紫外域において光学的に特徴のある官能基はエステル結合のみとなり、理論上、紫外域(200nm以上で400nm以下)の吸収スペクトルはいずれの脂肪族二塩基酸エステルも同一となる。
【0212】
脂肪族二塩基酸エステルの代表例としての、DOA(アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル)について検討する。図23に、紫外域におけるDOAの吸光度を示すが、295nmより長波に殆ど吸収を持たなかった前述のDOP(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)よりも、さらに太陽光吸収率が低いことがわかる。
図20において、フタル酸エステルも脂肪族二塩基酸エステルもキセノンウエザー試験で2000時間を耐久しているが、光学的には、DOAの方が耐久性は高い。
【0213】
(リン酸エステルについて)
リン酸エステルの可塑剤には、リン酸トリエステルと芳香族リン酸トリエステルが存在する。リン酸エステルの結合エネルギーは大きく、295nmより長波の紫外線で加水分解しない。故に、放射冷却フィルムCPの可塑剤として優れている。なお、リン酸エステルとすると、難燃性となる。
【0214】
リン酸トリエステルとしては、上述の如く、トリメチルホスフェート(TMP)、トリエチルホスフェート(TEP)、トリブチルホスフェート(TBP)、トリス(2エチルヘキシル)ホスフェート(TOP)がある。
図24に、トリブチルホスフェート(TBP)の吸光度を示すが、295nmより長波の紫外線を殆ど吸収しないことがわかる。
【0215】
芳香族リン酸エステルとしては、上述の如く、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレシルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、トレジルジフェニルホスフェート(CDP)、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェートがある。
図示は省略するが、芳香族リン酸エステルは、295nmより長波の紫外線を殆ど吸収しない。
【0216】
(エポキシ化脂肪酸エステルについて)
エポキシ化脂肪酸エステルは、上述したTOTM(トリメリット酸エステル)と同様に、295nmより長波の紫外線をよく吸収する。
つまり、エポキシ化脂肪酸エステルのエポキシ基は、295nmよりも長波の紫外線を吸収し分解する。微生物によっても分解する。そのため、屋外使用する観点で使えない。
尚、エポキシ化脂肪酸エステル類としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化エステル類があるが、いずれも放射冷却フィルムCPの塩化ビニル系樹脂に混入する可塑剤としては使えない。
【0217】
〔赤外放射層の別構成〕
図26に示すように、赤外放射層Aを構成する樹脂材料層J(可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂)に、無機材料のフィラーVを混入させて、光散乱構成を備えさせるようにしてもよい。また、図25に示すように、赤外放射層Aを構成する樹脂材料層Jの表裏両面を凹凸状に形成して、光散乱構成を備えさせるようにしてもよい。
このように構成すれば、放射面Hを見たときに、放射面Hのギラツキを抑制できるものとなる。
【0218】
つまり、上記した樹脂材料層Jは、表裏両面が平坦で、フィラーVが混入しない構成であるが、このような構成の場合には、放射面Hが鏡面状となるため、放射面Hを見たときに、ギラツキを感じるものとなるが、光散乱構成を備えさせるとこのギラツキを抑制できる。
また、樹脂材料層JにフィラーVを混入させた場合において、隣接側保護層Du及び光反射層Bが存在すると、にフィラーVを混入させた樹脂材料層Jのみの場合や光反射層Bのみの場合よりも、光反射率が向上する。
【0219】
フィラーVを形成する無機材料としては、二酸化ケイ素(SiO酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)等を好適に使用できる。尚、樹脂材料層JにフィラーVを混入すると、樹脂材料層Jの表裏両面が凹凸状になる。
また、樹脂材料層Jの表裏両面を凹凸状にするには、エンボス加工や表面に傷を付ける加工等を行うことにより行うことができる。
【0220】
樹脂材料層Jの裏面が凹凸状になる場合には、図5で説明した構成と同様に、樹脂材料層Jと隣接側保護層Duとの間に接着層Nが位置するようにすることが望ましい。
つまり、樹脂材料層Jの裏面が凹凸状であっても、樹脂材料層Jと隣接側保護層Duとの間に接着層N(接合層)が位置するから、樹脂材料層Jと隣接側保護層Duとを適切に接合することができる。
【0221】
尚、樹脂材料層Jの裏面が凹凸状になる場合において、例えば、プラズマ接合により、樹脂材料層Jと隣接側保護層Duとを直接的に接合するようにしてもよい。尚、プラズマ接合とは、樹脂材料層Jの接合面と隣接側保護層Duの接合面にプラズマの放射によりラジカルを形成し、そのラジカルにより接合する形態である。
【0222】
ちなみに、隣接側保護層DuにフィラーVを混入すると、隣接側保護層Duの光反射層Bに接する裏面が凹凸状になり、光反射層Bの表面を凹凸状に変形させる原因になるため、隣接側保護層DuにフィラーVを混入することは避ける必要がある。つまり、光反射層Bの表面が凹凸状に変形すると、光反射を適正通り行えないものとなり、その結果、放射冷却を適正通り行えないものとなる。
【0223】
図27には、フィラーV(酸化チタン:TiO)及び可塑剤(PE系)を混入させた樹脂材料層J(塩化ビニル樹脂)の引張強さ(N/2.5cm)及び破断時伸び(%)を例示する。ちなみに、可塑剤のPE系は、ポリエステル系(アジピン酸ポリエステル)である。
尚、図27には、フィラーVを混入させることなく可塑剤(PE系)を混入させた樹脂材料層J(塩化ビニル樹脂)の引張強さ(N/2.5cm)及び破断時伸び(%)、並びに、フィラーVを混入させることなく可塑剤(DOP:フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)を混入させた樹脂材料層J(塩化ビニル樹脂)の引張強さ(N/2.5cm)及び破断時伸び(%)を例示する。
【0224】
〔別実施形態〕
以下、別実施形態を列記する。
(1)上記実施形態では、冷却対象物Eとして、放射冷却フィルムCP(フィルム体F)の裏面に密着される物体(例えば、膜材)を例示したが、冷却対象物Eとしては、冷却対象空間等、各種の冷却対象を適用できる。
【0225】
(2)上記実施形態では、第2保護層R2(蒸着層用保護層R)を、蒸着層側基材Kqの上に作成された蒸着層側離型層Gqの上に積層して、蒸着層用接着層Sにて、離間側保護層Dsと第1保護層R1(蒸着層用保護層R)とを接着した後、蒸着層側離型層Gqを外して蒸着層側基材Kqを分離するようにしたが、蒸着層側離型層Gqを省略する形態で実施してもよい。
【0226】
つまり、第2保護層R2(蒸着層用保護層R)を蒸着層側基材Kqの上に作成し、第2保護層R2(蒸着層用保護層R)の上に蒸着層Qを蒸着し、蒸着層Qの上に第1保護層(蒸着層用保護層R)を作成し、離間側保護層Dsと第1保護層R1(蒸着層用保護層R)とを接着し、蒸着層側基材Kqを分離することなく、放射冷却フィルムCP(フィルム体F)の構成材料として使用する。
【0227】
この場合、蒸着層側基材Kqは、可塑剤が混入された可塑性PET(エチレンテレフタラート樹脂)、ABS樹脂、PVC樹脂(塩化ビニル樹脂)、PE樹脂(エチレン樹脂)、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂など、可塑性の樹脂を用いて、可塑性樹脂フィルムとして作成される。
【0228】
ちなみに、可塑性樹脂フィルム(蒸着層側基材Kq)を第2保護層R2(蒸着層用保護層R)として用いることができる場合には、第2保護層R2(蒸着層用保護層R)を省略して、可塑性樹脂フィルム(蒸着層側基材Kq)を第2保護層R2(蒸着層用保護層R)として機能させてもよい。
なお、可塑性樹脂フィルム(蒸着層側基材Kq)の上部に蒸着層Qを備える積層部を離間側保護層Dsに接着する場合においても、第1保護層(蒸着層用保護層R)を離間側保護層Dsに接着することになる。蒸着層Qの劣化を防ぐとともに、蒸着層Qと光反射層Bとを近づけることにより、銀(銀合金)がひび割れた際の反射率を高める効果がある。尚、光反射層Bと蒸着層Qとの距離が遠くなると、光反射層Bの銀がひび割れて、銀内部を光が透過する際、銀と蒸着層Qのインジウム(スズ)と間での光の多重反射が増大し、光吸収が増大することになる。
【0229】
(3)上記実施形態では、樹脂材料層Jの放射面Hをそのまま露出させる形態を例示したが、放射面Hを覆うハードコートを設ける形態で実施してもよい。
ハードコートとしては、UV硬化アクリル系、熱硬化アクリル系、UV硬化シリコーン系、熱硬化シリコーン系、有機無機ハイブリッド系、塩化ビニルが存在し、いずれを用いてもよい。添加材として有機系帯電防止剤を用いてもよい。
UV硬化アクリル系の中でもウレタンアクリレートは特によい。
【0230】
ハードコートの成膜方法としては、グラビアコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法などを用いることができる。
ハードコート(塗膜)の厚みは1~50μmであり、特に2~20μmが望ましい。
【0231】
(4)フィルム体Fの作成方法としては、上記実施形態に記載の方法に代えて、樹脂材料層Jに接着層Nを形成し、接着層Nに隣接保護層Duを形成し、隣接保護層Duに光反射層Bを直接製膜し、光反射層Bに離間保護層Dsを形成し、離間保護層Dsに蒸着層用接着層Sを形成し、蒸着層用接着層Sに第1保護層R1を形成し、第1保護層R1に蒸着層Qを蒸着し、蒸着層Qに第2保護層R2を形成するようにする等、他の形成方法を用いてもよい。
【0232】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0233】
A 赤外放射層
B 光反射層
Ds 離間側保護層
Du 隣接側保護層
F フィルム体
H 放射面
J 樹脂材料層
N 接着層
P 光反射層側積層体
Pq 蒸着層側積層体
Q 蒸着層
R 蒸着層用保護層
S 蒸着層用接着層
図1
図2
図3
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図5
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