(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144759
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】吸音材構造
(51)【国際特許分類】
G10K 11/168 20060101AFI20231003BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
G10K11/168
G10K11/16 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051889
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大悟
(72)【発明者】
【氏名】豊原 匡志
(72)【発明者】
【氏名】山本 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】阿部 幸夫
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061AA06
5D061AA22
5D061BB21
5D061DD11
(57)【要約】
【課題】製造工程を簡略化することができる吸音材構造を提供することである。
【解決手段】実施形態の吸音材構造100は、音の伝搬方向であるP方向に沿って順に配置される第1層10および第2層20を有する。第1層10および第2層20は、繊維素材により形成される。第2層20の密度は、P方向の上流側ほど大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音の伝搬方向である第1方向に沿って順に配置される第1層および第2層を有し、
前記第1層および前記第2層は、繊維素材により形成され、
前記第2層の密度は、前記第1方向の上流側ほど大きい、
吸音材構造。
【請求項2】
前記第2層の全体の前記第1方向の流れ抵抗を前記第2層の前記第1方向の厚さで除算した前記第2層の前記第1方向の単位厚さ当たりの流れ抵抗は、13.1×103N・s/m4以上、100.0×103N・s/m4以下である、
請求項1に記載の吸音材構造。
【請求項3】
前記第1層の密度は、前記第1方向に沿って同等であり、
前記第1層の全体の前記第1方向の流れ抵抗を前記第1層の前記第1方向の厚さで除算した前記第1層の前記第1方向の単位厚さ当たりの流れ抵抗は、2.20×103N・s/m4以上、11.0×103N・s/m4以下である、
請求項1または2に記載の吸音材構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道高架橋用防音壁又は各種の建築用壁材として用いられる吸音材構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道、自動車などの走行経路には、防音壁や防音パネル表面での反射音を低減するために、音源側表面に吸音パネルが設置されることが多い。吸音パネルには、様々な材料や厚さの吸音材が使用される。
【0003】
高速鉄道走行時の走行装置付近で発生する音は、人の聴感特性上、特に不快となる800Hzから3150Hzの1/3オクターブバンド中心周波数の成分が卓越する。その対策として、特許文献1発明の吸音材構造が提案されている。この吸音材構造は、音源に近い側に配置される第1層と、音源より遠い側に配置される第2層とを少なくとも有する積層体を具備する。第1層は、音の伝搬方向に沿って第2層よりも厚く、かつ第2層よりも相対的に流れ抵抗が小さい繊維素材からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1発明の吸音材構造において、各層に用いる繊維素材の構造は、均質・等方であることが望ましい。第2層は、相対的に第1層よりも流れ抵抗が大きい。第2層は、例えば繊維素材の両面を加熱および加圧(熱プレス)により高密度化して製造される。厚さ方向に対して均質に高密度化するためには、加熱加圧時間を長くすることが必要となり、吸音材構造の製造工程を簡略化することが求められる。
本発明が解決しようとする課題は、製造工程を簡略化することができる吸音材構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の吸音材構造は、音の伝搬方向である第1方向に沿って順に配置される第1層および第2層を有する。第1層および第2層は、繊維素材により形成される。第2層の密度は、第1方向の上流側ほど大きい。
【0007】
第2層の全体の第1方向の流れ抵抗を第2層の第1方向の厚さで除算した第2層の第1方向の単位厚さ当たりの流れ抵抗は、13.1×103N・s/m4以上、100.0×103N・s/m4以下である。
【0008】
第1層の密度は、第1方向に沿って同等である。第1層の全体の第1方向の流れ抵抗を第1層の第1方向の厚さで除算した第1層の第1方向の単位厚さ当たりの流れ抵抗は、2.20×103N・s/m4以上、11.0×103N・s/m4以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吸音材構造は、人の聴感特性上、特に不快となる800Hzから3150Hzの1/3オクターブバンド中心周波数の帯域で、高い吸音率を有する。第2層の密度は第1方向の上流側ほど大きいので、第2層は片面熱プレスにより製造可能である。したがって、製造工程を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】第1実施例および第1比較例の吸音率のグラフ。
【
図5】第2実施例、第2比較例および第3比較例の吸音率のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態の吸音材構造を、図面を参照して説明する。
図1は、実施形態の吸音材構造100の側面図である。吸音材構造100は、音源Nから入射した音を吸収して、音の再出射(反射)を抑制する。音源Nは、例えば走行する鉄道車両である。吸音材構造100は、壁体Wの表面に沿って配置される。吸音材構造100と壁体Wとの間に空気層40が存在してもよい。空気層40の厚さは、例えば0~100mmである。
【0012】
吸音材構造100は、複数の吸音材層の積層体30である。吸音材構造100は、吸音材層として、少なくとも第1層10および第2層20を有する。第1層10および第2層20は、音の伝搬方向であるP方向(第1方向)に沿って順に配置される。第1層10は音源Nに近い側に配置され、第2層20は音源Nから遠い側に配置される。第1層10および第2層20は、ポリエステルやグラスウール、ポリプロピレン、アクリルなどの繊維素材で形成される多孔質体である。第1層10と第2層20とは接触しているが、両者は接着されていない。
【0013】
吸音材構造100に対する入射音は、吸音材構造100の内部で減衰する。入射音の一部は、吸音材構造100の表面および裏面、並びに第1層10と第2層との境界面で反射する。入射音および反射音は相互に干渉し、周波数に応じて強めあったり弱めあったりする。反射音の一部は、吸音材構造100の表面から出射する。吸音材構造100の入射音に対する出射音の割合が小さいほど、吸音材構造100の垂直入射吸音率(以下、単に吸音率と言う場合がある。)は大きい。吸音材構造100の吸音率は、周波数特性を有する。
【0014】
高速鉄道走行時の走行装置付近で発生する音は、人の聴感特性上、特に不快となる800Hzから3150Hzの1/3オクターブバンド中心周波数の成分が卓越する。吸音材構造100には、この周波数帯域における吸音率の向上が求められる。
【0015】
繊維素材で形成された吸音材の吸音率は、吸音材層厚さと、吸音材の特性インピーダンスと伝搬定数から決定される。特性インピーダンスと伝搬定数は吸音材内部での音の伝搬状況を規定し、吸音材ごとに固有である。特性インピーダンスと伝搬定数の異なる第1層10と第2層20を用いて各厚さを変化させることにより、吸音材構造100の吸音率の周波数特性が変化する。
【0016】
繊維素材からなる吸音材中での空気の流れにくさの指標として、流れ抵抗が知られている。特性インピーダンスと伝搬定数は、それぞれ流れ抵抗と高い相関を有する。隣接する吸音材層の流れ抵抗の相違が、両者の境界面における音の反射の程度などに影響を与える。吸音材構造100の第1層10に対する第2層20の流れ抵抗を調整することにより、吸音材構造100の吸音率の周波数特性を調整することができる。
吸音材層の単位厚さ当たりの流れ抵抗R1は、次式で表される。
【0017】
【数1】
ただし、ΔPは吸音材層の表面と裏面との圧力差、uは吸音材層を流れる空気の平均流速、dは吸音材層の厚さである。本願では、単位厚さ当たりの流れ抵抗R
1(N・s/m
4)を、単に流れ抵抗R
1と言う場合がある。
【0018】
繊維素材で形成された多孔質吸音材の流れ抵抗R1は、その繊維径μと嵩密度ρmに依存して、数式2のような関係にあると言われる。
【0019】
【数2】
係数xは0.3~1.0である。繊維径μをμm、嵩密度ρ
mをkg/m
3、流れ抵抗R
1をN・s/m
4のMKS単位系で表示したとき、定数Kは3.18×10
3である。数式2から、嵩密度ρ
mが大きいほど流れ抵抗R
1が大きいことが分かる。
【0020】
流れ抵抗の測定規格は複数あるが、本願ではASTM C 522に準拠して流れ抵抗R
1を測定した。吸音材構造100の第1層10および第2層20につき、
図1に符号Sで示す円柱形状の試料を作成して、流れ抵抗R
1を測定した。円柱形状の試料Sの中心軸は、P方向と平行である。
【0021】
第1層10として、ポリエステル繊維素材により、表1に示す3種類の試料A1,B1,C1を作成した。
【0022】
【0023】
各試料種類の密度および厚さは公称値である。試料種類A1,B1,C1に用いる繊維素材の構造は、均質・等方である。試料種類A1として、密度24kg/m3、厚さ50mmの試料を作成した。試料種類B1として、密度32kg/m3、厚さ50mmの試料を作成した。試料種類C1として、最初に密度24kg/m3、厚さ50mmの初期試料を作成し、その初期試料を両面熱プレス加工して、密度40kg/m3、厚さ30mmの試料を作成した。
【0024】
図2は、熱プレス加工装置50の概略構成図である。熱プレス加工装置50は、加熱盤52と、加圧盤54と、を有する。加圧盤54は、加熱盤52に対して接近および離反が可能である。
【0025】
熱プレス加工では、加熱盤52と加圧盤54との間に試料Sを配置する。試料Sの第1面S1を加熱盤52で加熱する。試料Sの第2面S2を加圧盤54で加圧する。加熱される第1面S1に近いほど、試料Sが圧縮されて密度が増加する。
【0026】
片面熱プレス加工では、第1面S1の加熱および第2面S2の加圧のみを実施する。これにより、第2面S2から第1面S1にかけて密度が大きくなり、密度勾配を有する試料Sが作成される。加工後の第1面S1の密度は、加工前の試料Sの密度より大きい。加工後の第2面S2の密度は、加工前の試料Sの密度と同等である。加圧盤54に加圧と加熱の両機能を持たせ、第1面S1から第2面S2にかけて密度を大きくして、密度勾配を有する試料Sを作成しても良い。
【0027】
両面熱プレス加工では、第1面S1の加熱および第2面S2の加圧の後に、試料Sを反転させて、第2面S2の加熱および第1面S1の加圧を実施する。加熱面付近の密度が大きくなる傾向があるため、厚さ方向に密度を均一化する試料Sを作成するためには、加熱温度を弱めて長時間の加熱および加圧を行う必要ある。加工後の試料Sの全体の密度は、加工前の試料Sの密度より大きい。
【0028】
第1層10の試料種類A1,B1,C1に含まれる複数の試料について、流れ抵抗R1を測定した。流れ抵抗R1は、試料全体で測定した厚さ方向の流れ抵抗を、試料の厚さで除算したものである。各試料種類A1,B1,C1の流れ抵抗R1の平均、標準偏差σおよび平均±3σの値を表1に示す。流れ抵抗R1が小さい試料種類A1の平均-3σの値は、2.20×103N・s/m4である。流れ抵抗R1が大きい試料種類C1の平均+3σの値は、10.6×103N・s/m4である。第1層10の流れ抵抗R1は、2.20×103N・s/m4以上、11.0×103N・s/m4以下(または10.6×103N・s/m4以下)の範囲に分布する。
【0029】
第2層20として、ポリエステル繊維素材により、表2に示す3種類の試料A2,B2,C2を作成した。
【0030】
【0031】
試料種類A2,B2,C2は、最初に均質・等方の繊維素材の初期試料を作成し、その初期試料を片面熱プレス加工して作成した。試料種類A2として、最初に密度24kg/m3、厚さ50mmの初期試料を作成し、その初期試料を片面熱プレス加工して、厚さ20mmの試料を作成した。試料種類B2として、最初に密度40kg/m3、厚さ50mmの初期試料を作成し、その初期試料を片面熱プレス加工して、厚さ20mmの試料を作成した。試料種類C2として、最初に密度32kg/m3、厚さ100mmの初期試料を作成し、その初期試料を片面熱プレス加工して、厚さ20mmの試料を作成した。片面熱プレス加工後の各試料は前述した密度勾配を有するため、表2には加工後の密度が記載されていない。第2層20の試料種類A2,B2,C2の厚さは20mmであり、第1層10の試料種類A1,B1,C1の厚さ50mmより薄い。
【0032】
第2層20の試料種類A2,B2,C2に含まれる複数の試料について、流れ抵抗R1を測定した。流れ抵抗R1は、試料全体で測定した厚さ方向の流れ抵抗を、試料の厚さで除算したものである。これらの試料は厚さ方向に密度勾配を有する。前述した数式2から分かるように、嵩密度ρmが大きいほど流れ抵抗R1が大きい。そのため、これらの試料は厚さ方向に流れ抵抗R1の勾配を有する。
【0033】
各試料種類A2,B2,C2の流れ抵抗R1の平均、標準偏差σおよび平均±3σの値を表2に示す。流れ抵抗R1が小さい試料種類A2の平均-3σの値は、13.1×103N・s/m4である。流れ抵抗R1が大きい試料種類C2の平均+3σの値は、93.7×103N・s/m4である。第2層20の流れ抵抗R1は、13.1×103N・s/m4以上、100.0×103N・s/m4以下(または93.7×103N・s/m4以下)の範囲に分布する。
【0034】
前述したように、試料の(単位厚さ当たりの)流れ抵抗R1は、試料全体で測定した厚さ方向の流れ抵抗を、試料の厚さで除算したものである。片面熱プレス加工により作成した試料は、厚さ方向に流れ抵抗R1の勾配を有する。この試料について、厚さ方向の特定部分の流れ抵抗R1を測定することは困難である。ただし、この試料において流れ抵抗R1が最小となる第1端部の流れ抵抗R1は、片面熱プレス加工前の試料の流れ抵抗R1と同等であると推定される。また、この試料において流れ抵抗R1が最大となる第2端部の流れ抵抗R1は、両面熱プレス加工後の試料の流れ抵抗R1と同等であると推定される。
【0035】
第1層10および第2層20の試料を組み合わせた吸音材構造100につき、吸音率を測定した。以下の吸音材構造100の実施例および比較例の吸音率(
図4および
図5参照)は、吸音材構造100と壁体Wとの間の空気層40(
図1参照)を0mmとした場合の吸音率である。吸音率は、JIS A 1405-2に準拠して測定した。
図3は、吸音率の測定装置60の概略構成図である。吸音率の測定装置60は、音響管Tと、音源(スピーカー)Nと、マイクロホンMと、を有する。音響管Tは、円筒形状である。音響管Tは、壁体Wを有する。壁体Wは、音響管Tの一方の端部に配置され、音響管Tの開口を閉塞する。音源Nは、音響管Tの他方の端部に配置され、音響管Tの開口を閉塞する。マイクロホンMは、音響管Tの軸方向の中間部に配置される。マイクロホンMは、音響管Tの外周に装着され、マイクロホンMの先端は音響管Tの内径と同じ高さで音響管Tの内部に露出する。
【0036】
吸音率の測定では、壁体Wの内側に吸音材構造100の試料を取り付ける。音源Nにより、音響管Tの内部に平面波を励起する。マイクロホンMにより、試料に近い二つの位置で音圧を測定する。二つのマイクロホン信号の複素音圧伝達関数を求め、それを用いて試料の吸音率の計算を行う。吸音率αは、数式3で表される。
【0037】
【数3】
rは、入射音に対する出射音の大きさの割合に対応する比である。入射音および出射音の大きさが同じである場合に、吸音率αは最小値の0になる。出射音の大きさが0の場合に、吸音率αは最大値の1になる。
【0038】
吸音材構造100の第1実施例は、第1層10として試料種類A1の試料a1を採用し、第2層20として試料種類A2の試料a2を採用したものである。
吸音材構造100の第2実施例は、第1層10として試料種類A1の試料a1を採用し、第2層20として試料種類C2の試料c2を採用したものである。
【0039】
第2層20の試料a2,c2は、前述した密度勾配を有する。第1および第2実施例では、音の伝搬方向であるP方向の上流側ほど密度が大きくなるように、第2層20の試料a2,c2を配置した。第2層20の密度および流れ抵抗R1は、第1層10に近いほど大きい。第1層10と第2層20との境界面において、両者の流れ抵抗R1の差が大きい。
【0040】
各試料の密度、厚さ、および流れ抵抗R1の実測値を表3に示す。各試料の密度は、各試料の質量を体積で除算したものである。第1および第2実施例の第2層20の試料a2,c2は厚さ方向に密度勾配を有するため、試料a2,c2の密度は厚さ方向の平均密度に相当する。
【0041】
【0042】
吸音材構造100の第1比較例は、第1層10として試料種類A1の試料a1を採用し、第2層20として試料x2を採用したものである。試料x2は、最初に密度24kg/m3、厚さ50mm(いずれも公称値)の初期試料を作成し、その初期試料を両面熱プレス加工して、密度60kg/m3、厚さ20mm(いずれも公称値)としたものである。前述した第1実施例の第2層20の試料a2は、初期試料を片面熱プレス加工したものであるのに対して、第1比較例の第2層20の試料x2は、同じ初期試料を両面熱プレス加工したものである。表3から分かるように、試料a2および試料x2の密度、厚さおよび流れ抵抗R1の実測値は、相互に近い値を示している。
【0043】
吸音材構造100の第2比較例は、第1層10として試料種類A1の試料a1を採用し、第2層20として試料y2を採用したものである。試料y2は、繊維直径が約5μm(実測)と小さい化学繊維素材により形成したものである。前述した数式2から分かるように、繊維径μが小さいほど流れ抵抗R1が大きい。表3から分かるように、第2比較例の試料y2の密度は第2実施例の試料c2より小さいが、試料y2の流れ抵抗R1は試料c2に近い。
【0044】
吸音材構造100の第3比較例は、第1層10として試料種類A1の試料a1を採用し、第2層20として試料z2を採用したものである。試料z2は、直径20~30μmの繊維と直径約5μm(いずれも実測)の繊維とが混合された化学繊維素材(3M社製シンサレート)により形成したものである。表3から分かるように、第3比較例の試料z2の密度は第2実施例の試料c2より小さいが、試料z2の流れ抵抗R1は試料c2に近い。
【0045】
前述したように、第1実施例の試料a2は初期試料を片面熱プレス加工したものであるのに対して、第1比較例の試料x2は、同じ初期試料を両面熱プレス加工したものである。試料a2および試料x2は、同等の流れ抵抗R1を有する。一方、第2実施例の第2層20の試料c2は、最初に密度32kg/m3、厚さ100mmの初期試料を作成し、その初期試料を片面熱プレス加工して、厚さ20mmとしたものである。同じ初期試料を両面熱プレス加工して作成する試料は、第2および第3比較例と同等の流れ抵抗R1を有すると考えられる。
【0046】
図4は、第1実施例および第1比較例の吸音率のグラフである。前述したように、高速鉄道走行時の走行装置付近で発生する音は、人の聴感特性上、特に不快となる800Hzから3150Hzの1/3オクターブバンド中心周波数の成分が卓越する。吸音材構造100には、この周波数帯域における吸音率の向上が求められる。
【0047】
800Hzで吸音率0.7以上を実現するため、厚さ50mm以上の吸音材が使われることが多い。例えば、吸音材としてグラスウール(厚さ50mm)を用いた場合、1000Hz~2500Hzに吸音率の極大を有し、その周波数特性は凸形状を示す。一方、その極大の前後の周波数の吸音率は低下する。そのため、幅広い周波数成分を有する不快音に対しては吸音材による防音効果が十分得られない場合がある。
【0048】
これはグラスウール以外の吸音材でも同様のことが言える。例えば、密度24kg/m3のポリエステル繊維素材の吸音材において、厚さ50mmの場合の吸音率の極大は2000Hz付近であり、厚さ70mmの場合は1200Hz付近である。それら極大の周波数より低い周波数帯域では急激に吸音率が低下し、それより高い周波数帯域では比較的緩やかな谷状に吸音率が低下する。
【0049】
図4に示すように、第1実施例の吸音材構造100では、800Hz以上の周波数で、吸音率αが0.9以上を示している。第1実施例は、1400Hz付近に吸音率αの極大値を有し、2200Hz付近に吸音率αの極小値を有する。第1実施例の吸音率αは、極小値でも約0.98であり、極めて大きい。
【0050】
800Hz以上の周波数において、第1実施例の吸音率αは、第1比較例の吸音率α以上である。特に、2200Hz付近における第1実施例の吸音率αの極小値は、第1比較例の吸音率αの極小値より大きい。
【0051】
前述したように、第1実施例の試料a2は、片面熱プレス加工したものであるのに対して、第1比較例の試料x2は、両面熱プレス加工したものである。前述したように、片面熱プレス加工では、第1面S1の加熱および第2面S2の加圧のみを実施する。両面熱プレス加工では、第1面S1の加熱および第2面S2の加圧の後に、試料Sを反転させて、第2面S2の加熱および第1面S1の加圧を実施する。第1実施例の試料a2の製造工程は、第1比較例の試料x2の製造工程に比べて簡略化されている。この場合でも、第1実施例の吸音材構造100は、第1比較例に比べて同等以上の吸音率αを示す。
【0052】
第1実施例の吸音材構造100は、製造工程が簡略化された試料種類A2,B2,C2のうち、流れ抵抗R1が小さい試料種類A2の試料a2を採用したものである。以上の結果により、流れ抵抗R1が小さい試料a2を採用する場合でも、製造工程を簡略化しつつ高い吸音率αを示すことが確認された。
【0053】
図5は、第2実施例、第2比較例および第3比較例の吸音率のグラフである。第2実施例の吸音材構造100では、800Hz以上の周波数で、吸音率αが0.9以上を示している。第2実施例は、1700Hz付近に吸音率αの極大値を有し、1700Hz以上の周波数では吸音率αが緩やかに減少している。
【0054】
800Hz以上の周波数で、第2実施例の吸音率αは、第2および第3比較例の吸音率αと同等である。800Hzから1700Hzの範囲では、第2実施例の吸音率αは第3比較例と同等だが、第2比較例より低い。1700Hz以上の範囲では、第2実施例の吸音率αが、第2および第3比較例より高い。
【0055】
前述したように、第2実施例の試料c2は、初期試料を片面熱プレス加工して作成したものである。同じ初期試料を両面熱プレス加工して作成する試料に比べて、第2実施例の試料c2の製造工程は簡略化されている。同じ初期試料を両面熱プレス加工して作成する試料は、第2および第3比較例と同等の流れ抵抗R1を有すると考えられる。前述したように、第2実施例の吸音材構造100は、第2および第3比較例と同等の吸音率αを示している。そのため、第2実施例の吸音材構造100は、同じ初期試料を両面熱プレス加工して作成する試料と、同等の吸音率αを示すと考えられる。
【0056】
第2実施例の吸音材構造100は、製造工程が簡略化された試料種類A2,B2,C2のうち、流れ抵抗R1が大きい試料種類C2の試料c2を採用したものである。以上の結果により、流れ抵抗R1が大きい試料c2を採用する場合でも、製造工程を簡略化しつつ高い吸音率αを示すことが確認された。
【0057】
上記比較実験では、一部の流れ抵抗R1の試料についてのみ周波数と吸音率αとの関係を測定した。しかし、上記比較実験以外においても、第2層20の密度がP方向の上流側ほど大きいという条件下で、第1層10の流れ抵抗R1が2.20~11.0×103N・s/m4の範囲にあり、第2層20の流れ抵抗R1が13.1~100.0×103N・s/m4の範囲にある場合に、いずれも800~3200Hzの周波数で吸音率αが高くなることが確認されている。
【0058】
以上に詳述したように、実施形態の吸音材構造100は、音の伝搬方向であるP方向に沿って順に配置される第1層10および第2層20を有する。第1層10および第2層20は、繊維素材により形成される。第2層20の密度は、P方向の上流側ほど大きい。
【0059】
この吸音材構造100は、人の聴感特性上、特に不快となる800Hzから3150Hzの1/3オクターブバンド中心周波数の帯域で、高い吸音率αを示す。第2層20の密度はP方向の上流側ほど大きいので、第2層20は片面熱プレスにより製造可能である。したがって、製造工程を簡略化することができる。
【0060】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
【0061】
実施形態では、均質・等方の繊維素材の初期試料を片面熱プレス加工して、流れ抵抗R1の勾配を有する試料を作成した。前述した数式2から分かるように、流れ抵抗R1は、繊維径μおよび嵩密度ρmの関数である。そこで、厚さ方向に繊維径または繊維密度を変化させることにより、流れ抵抗R1の勾配を有する試料を作成してもよい。
【0062】
実施形態の吸音材構造100では、第1層10と第2層20とが接触している。これに対して、第1層10と第2層20との間に中間空気層が存在してもよい。中間空気層の厚さは、例えば0~20mmである。
【符号の説明】
【0063】
P…音の伝搬方向、10…第1層、20…第2層、100…吸音材構造。