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  • 特開-亜鉛電池用の亜鉛極及び亜鉛電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144770
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】亜鉛電池用の亜鉛極及び亜鉛電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/24 20060101AFI20231003BHJP
   H01M 4/06 20060101ALI20231003BHJP
   H01M 4/42 20060101ALI20231003BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
H01M4/24 H
H01M4/06 T
H01M4/42
H01M4/62 C
H01M4/06 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051904
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】山口 同通
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 知志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聡真
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 武
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA09
5H050BA04
5H050BA11
5H050CA03
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB04
5H050CB05
5H050CB13
5H050DA03
5H050DA11
5H050DA12
5H050EA22
5H050EA28
5H050FA16
(57)【要約】
【課題】従来よりも自己放電を抑制でき、容量を長期間維持可能な亜鉛電池用の亜鉛極及びこの亜鉛極を含む亜鉛電池を提供する
【解決手段】電池2は、外装缶10と、外装缶10内にアルカリ電解液とともに収容された電極群22とを備え、電極群22は、正極24と、負極26とがセパレータ28を介して重ね合わされてなり、負極26は、負極基材と、負極基材に保持された負極合剤とを含み、負極合剤は、亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛含有化合物のうちの少なくとも1種と、結着剤としての合成ゴムと、樹脂繊維と、を含んでいる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極基材と、前記負極基材に保持された負極合剤とを含み、
前記負極合剤は、亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛含有化合物のうちの少なくとも1種と、結着剤としての合成ゴムと、樹脂繊維と、を含んでいる、亜鉛電池用の亜鉛極。
【請求項2】
前記樹脂繊維は、窒素元素を含有する繊維である、請求項1に記載の亜鉛電池用の亜鉛極。
【請求項3】
前記窒素元素を含有する繊維は、ポリアミド繊維である、請求項2に記載の亜鉛電池用の亜鉛極。
【請求項4】
前記合成ゴムは、スチレンブタジエンゴムである、請求項1~3の何れかに記載の亜鉛電池用の亜鉛極。
【請求項5】
容器と、前記容器内にアルカリ電解液とともに収容された電極群とを備え、
前記電極群は、正極と、負極とがセパレータを介して重ね合わされてなり、
前記負極は、請求項1~4の何れかに記載の亜鉛電池用の亜鉛極である、亜鉛電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛電池用の亜鉛極及びこの亜鉛極を含む亜鉛電池に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛電池は、負極活物質に亜鉛、亜鉛合金又は亜鉛含有化合物を用いる電池であり、電池の普及とともに古くから研究開発されてきた電池の一種である。亜鉛等を負極に用いる電池としては、一次電池、二次電池(蓄電池)等が挙げられ、例えば、正極活物質に空気中の酸素を用いる空気亜鉛電池、正極活物質にニッケル含有化合物を用いるニッケル亜鉛電池、正極活物質にマンガン含有化合物を用いるマンガン亜鉛電池、正極活物質に銀含有化合物を用いる銀亜鉛電池、亜鉛イオン電池等が研究及び開発されている。特に、空気亜鉛一次電池、マンガン亜鉛一次電池、銀亜鉛一次電池は実用化され、広く世界で使用されている。
【0003】
また、近年においては、各種のポータブル機器やハイブリッド電気自動車等の各種機器に電池が使用されるようになっており、電池の用途は拡大している。このような用途の拡大にともない、多くの産業において電池の開発や改良の重要性が高まっており、主に電池の性能やその二次電池化の面で優れた新たな電池の開発や改良が望まれている。このような状況において、亜鉛電池に対してもより高性能化が望まれている。ここで、亜鉛電池における高度化すべき性能の一つとして、自己放電の抑制が挙げられる。
【0004】
亜鉛電池においては、負極活物質である亜鉛が電解液と接することにより、自発的に溶解して電解液中に溶出し、酸化することで自己放電が進み、充電した容量が減少する問題がある。
【0005】
亜鉛電池の自己放電を抑制するために、種々の研究が行われており、亜鉛電池の自己放電抑制の効果を高めることが試みられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-133844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記したような各種機器においては、電池の用途が益々拡大している。それにともない、それらの機器に搭載される亜鉛電池に関しても、自己放電抑制の更なる改善が求められている。
【0008】
しかしながら、亜鉛電池の自己放電の抑制は、未だ十分なものとはなっておらず、ユーザーの要求に十分に対応できていないのが現状である。
【0009】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、従来よりも自己放電を抑制でき、容量を長期間維持可能な亜鉛電池用の亜鉛極及びこの亜鉛極を含む亜鉛電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、負極基材と、前記負極基材に保持された負極合剤とを含み、前記負極合剤は、亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛含有化合物のうちの少なくとも1種と、結着剤としての合成ゴムと、樹脂繊維と、を含んでいる、亜鉛電池用の亜鉛極が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る亜鉛電池用の亜鉛極は、負極基材と、前記負極基材に保持された負極合剤とを含み、前記負極合剤は、亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛含有化合物のうちの少なくとも1種と、結着剤としての合成ゴムと、樹脂繊維と、を含んでいる。この構成により、本発明に係る亜鉛電池用の亜鉛極は、亜鉛が電解液中に溶出することを抑えることができ、自己放電を抑制することに貢献する。このため、本発明の亜鉛電池は、斯かる亜鉛極を含むことから、充電した容量を長期間維持可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係るニッケル亜鉛電池を部分的に破断して示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、一実施形態に係るニッケル亜鉛電池(以下、電池とも表記する)2を、図面を参照して説明する。
【0014】
電池2は、例えば、FAサイズの円筒型電池である。詳しくは、図1に示すように、電池2は、上端が開口した有底円筒形状をなす容器としての外装缶10を備えている。外装缶10は導電性を有し、その底壁35は負極端子として機能する。外装缶10の開口には封口体11が固定されている。この封口体11は、蓋板14及び正極端子20を含み、外装缶10を封口するとともに正極端子20を提供する。蓋板14は、導電性を有する円板形状の部材である。外装缶10の開口内には、蓋板14及びこの蓋板14を囲むリング形状の絶縁パッキン12が配置され、絶縁パッキン12は外装缶10の開口縁37をかしめ加工することにより外装缶10の開口縁37に固定されている。すなわち、蓋板14及び絶縁パッキン12は互いに協働して外装缶10の開口を気密に閉塞している。
【0015】
ここで、蓋板14は中央に中央貫通孔16を有し、蓋板14の外面上には中央貫通孔16を塞ぐゴム製の弁体18が配置されている。更に、蓋板14の外面上には、弁体18を覆うようにしてフランジ付き円筒形状をなす金属製の正極端子20が電気的に接続されている。この正極端子20は弁体18を蓋板14に向けて押圧している。なお、正極端子20には、図示しないガス抜き孔が設けられており、中央貫通孔16、弁体18及び正極端子20は電池のための安全弁を形成している。
【0016】
外装缶10には、電極群22が収容されている。この電極群22は、それぞれ帯状の正極24、負極26及びセパレータ28を含んでいる。詳しくは、これら正極24及び負極26は、セパレータ28を間に挟み込んだ状態で渦巻状に巻回されている。すなわち、セパレータ28を介して正極24及び負極26が互いに重ね合わされている。電極群22の最外周は負極26の一部(最外周部)により形成され、外装缶10の内周壁と接触している。すなわち、負極26と外装缶10とは互いに電気的に接続されている。
【0017】
外装缶10内には、電極群22の一端と蓋板14との間に正極リード30が配置されている。詳しくは、正極リード30は、その一端が正極24に接続され、その他端が蓋板14に接続されている。従って、正極端子20と正極24とは、正極リード30及び蓋板14を介して互いに電気的に接続されている。なお、蓋板14と電極群22との間には円形の上部絶縁部材32が配置され、正極リード30は上部絶縁部材32に設けられたスリット39内を通って延びている。また、電極群22と外装缶10の底部との間にも円形の下部絶縁部材34が配置されている。
【0018】
更に、外装缶10内には、所定量のアルカリ電解液(図示せず)が注入されている。アルカリ電解液は、電極群22に含浸されており、主にセパレータ28に保持されている。このアルカリ電解液は、正極24と負極26との間での充放電の際の電気化学反応(充放電反応)を進行させる。このアルカリ電解液としては、KOH、NaOH及びLiOHのうちの少なくとも一種を溶質として含む水溶液を用いることが好ましい。またアルカリ電解液の濃度についても特には限定されず、例えば7Nのものが用いられる。さらに、電池2は、ニッケル亜鉛電池であるので、上記したアルカリ電解液に酸化亜鉛を飽和濃度まで溶解させたものを用いることが好ましい。これにより、アルカリ電解液への負極からの亜鉛の溶け出しを少なく抑えることができる。
【0019】
セパレータ28の材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの等を用いることができる。具体的には、スルホン化処理が施されてスルホン基が付与されたポリオレフィン繊維を主体とする不織布を用いることが好ましい。ここで、スルホン基は、硫酸又は発煙硫酸等の硫酸基を含む酸を用いて不織布を処理することにより付与される。このようなスルホン基を有する繊維を含むセパレータを用いた電池は、優れた自己放電特性を発揮する。より好ましくは、不織布の上に、例えばポリオレフィン系微多孔膜に親水性官能基を付与したものを重ねて二重化する。これにより、内部短絡の発生を抑制できショート耐性をより高めることができる。
【0020】
正極24は、多孔質構造を有する導電性の正極芯材と、この正極芯材に保持された正極合剤とを含んでいる。上記したような正極芯材としては、例えば、3次元網目状の骨格を有するニッケル製の金属体である。この金属体の骨格は正極芯材の全体にわたって広がっており、この骨格の隙間により連通孔が形成されている。そして、この連通孔の中に正極合剤が充填されている。このような金属体としては、例えば、発泡ニッケルを用いることができる。
【0021】
正極合剤は、正極活物質、正極添加剤及び結着剤を含む。この結着剤は、正極活物質、及び正極添加剤を互いに結着させるとともに正極活物質、及び正極添加剤を正極芯材に結着させる働きをする。ここで、結着剤としては、例えば、親水性若しくは疎水性のポリマーをそれぞれ挙げることができる。
【0022】
正極活物質としては、水酸化ニッケルが用いられる。この水酸化ニッケルの形態としては、粉末状のものが用いられる。つまり、水酸化ニッケル粒子の集合体である水酸化ニッケル粉末が用いられる。この水酸化ニッケル粒子は、高次化されている水酸化ニッケル粒子を採用することが好ましい。
【0023】
上記した水酸化ニッケル粒子は、Co、Zn、Cd等を固溶しているものを用いることが好ましい。
【0024】
また、上記した水酸化ニッケル粒子は、表面がコバルト化合物を含む表面層で覆われている態様とすることが好ましい。この表面層としては、3価以上に高次化されたコバルト化合物を含む高次コバルト化合物層を採用することが好ましい。
【0025】
上記した高次コバルト化合物層は、導電性に優れており、導電性ネットワークを形成する。この高次コバルト化合物層としては、3価以上に高次化されたオキシ水酸化コバルト(CoOOH)などのコバルト化合物を含む層を採用することが好ましい。
【0026】
次に、正極添加剤としては、酸化イットリウムが挙げられる。また、酸化コバルト、金属コバルト、水酸化コバルト等のコバルト化合物、金属亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛等の亜鉛化合物、酸化エルビウム等の希土類化合物等を用いることも好ましい。
【0027】
次に、正極24は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、上記したようにして得られた正極活物質粒子の集合体である正極活物質粉末に、正極添加剤、水及び結着剤を添加して混練し、正極合剤スラリーを調製する。得られた正極合剤スラリーは、例えば、発泡ニッケルに充填され、その後乾燥処理が施される。乾燥処理後、水酸化ニッケル粒子等が充填された発泡ニッケルは、ロール圧延されてから裁断される。これにより、正極合剤を含む正極24が得られる。
【0028】
次に、負極26について説明する。
負極26は、帯状をなす導電性の負極基材を有し、この負極基材に負極合剤が保持されている。
【0029】
負極基材は、帯状の金属材からなる芯体と、この芯体を覆うスズの薄膜とを含んでいる。上記した芯体としては、多数の貫通孔を有する金属材が用いられ、例えば、発泡銅、銅パンチングメタル、銅エキスパンドメタル等を挙げることができる。また、上記したスズの薄膜としては、スズのめっき膜、スズの蒸着膜等を挙げることができる。
【0030】
負極合剤は、負極基材の貫通孔内に充填されるばかりでなく、負極基材の両面上にも層状にして保持されている。
【0031】
負極合剤は、負極活物質、結着剤、及び樹脂繊維を含み、必要に応じて負極添加剤が添加される。
【0032】
負極活物質としては、亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛含有化合物のうちの少なくとも1種を含む。ここで、亜鉛合金を構成する原材料としては、亜鉛の他にビスマス、アルミニウム、インジウム等を用いることが好ましい。亜鉛含有化合物としては、例えば、酸化亜鉛(1種/2種/3種)、水酸化亜鉛、硫化亜鉛、テトラヒドロキシ亜鉛イオン塩、亜鉛ハロゲン化物、酢酸亜鉛や酒石酸亜鉛、シュウ酸亜鉛をはじめとする亜鉛カルボキシラート化合物、亜鉛酸マグネシウム、亜鉛酸カルシウム、亜鉛酸バリウム、ホウ酸亜鉛、ケイ酸亜鉛、アルミン酸亜鉛、フッ化亜鉛、炭酸亜鉛、炭酸水素亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛等が挙げられる。
【0033】
負極活物質の形態としては、粉末状のものが用いられる。つまり、負極活物質の粒子の集合体である負極活物質粉末が用いられる。負極活物質の粒子の粒径は特に限定されるものではないが、好ましくは、亜鉛または亜鉛合金を使用の場合は平均粒径が10~1000μm、亜鉛含有化合物を使用の場合は0.1~100μmのものを用いる。なお、本明細書において、平均粒径とは、質量基準による積算が50%にあたる平均粒径を意味し、粒子径分布測定装置を用いてレーザー回折・散乱法により求められる。
【0034】
結着剤は、負極活物質、負極添加剤等を互いに結着させると同時に負極活物質、負極添加剤等を負極基材に結着させる働きをする。ここで、結着剤としては、合成ゴムが用いられる。特に、スチレンブタジエンゴム(SBR)は結着効果が高いため、結着剤として使用することが好ましい。
【0035】
樹脂繊維は、負極合剤により形成される負極合剤層の強度を維持し、負極の形状の安定化を図るとともに、自己放電を抑制する働きをする。本願の発明者は、亜鉛電池における自己放電を抑制するための研究をする過程で、負極合剤に樹脂繊維を添加すると、樹脂繊維を添加しなかった場合、及び樹脂製ではない繊維を添加した場合に比べて自己放電が抑制されることを見出した。この知見を基に樹脂繊維を負極合剤に添加することを想起した。この樹脂繊維としては、窒素元素を含有する繊維を用いることが好ましい。負極中の亜鉛は、アルカリ電解液に接することにより、溶解し亜鉛イオンとなり、アルカリ電解液中に溶出していく。溶出した亜鉛イオンは、正極に移動し、正極表面で局部的な電池反応を起こす。これにより、自己放電が起こり充電された容量が減る。ここで、窒素元素を含有する繊維を負極合剤に添加した場合、当該窒素元素の非共有電子対が亜鉛イオンを捕捉すると考えられる。しかも、この樹脂繊維は、負極合剤層中において、三次元的な形状を作り均一に存在している。このため、亜鉛イオンを負極内及び負極近傍に留めることができ、亜鉛イオンがアルカリ電解液へ溶出することは抑制される。よって、電池の自己放電は抑制される。
【0036】
ここで、窒素元素を含有する繊維としては、ポリアミド繊維を用いることが好ましい。より好ましくはポリアミド66の繊維を用いる。ポリアミド66は、耐アルカリ性に優れており、かつ安価であるというメリットがある。
【0037】
負極添加剤は、負極の特性を改善する働きをする。この負極添加剤としては、例えば、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、酸化インジウム、水酸化インジウム、シュウ酸カリウムおよびそれらの水和物等を挙げることができる。
【0038】
次に、負極26は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、負極活物質(亜鉛等)の粒子の集合体である負極活物質粉末、樹脂繊維、負極添加剤、結着剤、及び水を混錬することにより、負極合剤ペーストを調製する。得られた負極合剤ペーストは負極基材に塗着され、乾燥処理が施される。乾燥後、負極活物質粉末、樹脂繊維、結着剤等を保持した負極基材は、全体的に圧延されて負極活物質の充填密度を高められ、これにより負極の中間製品が得られる。そして、この負極の中間製品は所定形状に裁断される。これにより負極26が製造される。
【0039】
以上のようにして製造された正極24及び負極26は、セパレータ28を介在させた状態で、渦巻き状に巻回され、これにより電極群22が形成される。
【0040】
このようにして得られた電極群22は、外装缶10内に収容される。次いで、当該外装缶10内には所定量のアルカリ電解液が注入される。その後、電極群22及びアルカリ電解液を収容した外装缶10は、正極端子20を備えた封口体11により封口され、電池2が得られる。得られた電池2は、初期活性化処理が施され、使用可能状態とされる。
【0041】
[実施例]
1.電池の製造
(実施例1)
(1)正極の製造
正極活物質として準備されたコバルト被覆水酸化ニッケルの粉末100重量部に、酸化イットリウムの粉末0.5重量部、酸化ニオブの粉末0.3重量部、酸化亜鉛の粉末0.5重量部と、結着剤としてのヒドロキシプロピルセルロースの粉末を0.2重量%含む水50.0重量部とを添加して混練し、正極合剤のスラリーを調製した。
【0042】
ついで、この正極合剤のスラリーを正極芯材としてのシート状の発泡ニッケルに充填した。ここで、発泡ニッケルとしては、面密度(目付)が約350g/m、多孔度が95%、厚みが1.3mmであるものを用いた。
【0043】
次いで、正極合剤のスラリーが充填された発泡ニッケルに乾燥処理を施した。その後、正極合剤が充填された発泡ニッケルの全体を圧延したのち、所定寸法に切断して、FAサイズ用の正極24を得た。なお、正極24の正極容量は2000mAhである。
【0044】
(2)負極の製造
酸化亜鉛の粉末100重量部、亜鉛の粉末25重量部、酸化ビスマスの粉末3重量部、シュウ酸カリウム一水和物の粉末2重量部、ヒドロキシプロピルセルロースの粉末1重量部、及び水100重量部を準備した。更に、樹脂繊維としてのポリアミド66の繊維と、結着剤としてのスチレンブタジエンゴム(JSR株式会社製TDR2101)を準備した。ここで、ポリアミド66の繊維は、準備した酸化亜鉛(ZnO)の量に対し1.14重量%準備し、スチレンブタジエンゴム(SBR)は、準備した酸化亜鉛(ZnO)の量に対し4.00重量%準備した。そして、これら、酸化亜鉛の粉末、亜鉛の粉末、酸化ビスマスの粉末、シュウ酸カリウム一水和物の粉末、ヒドロキシプロピルセルロースの粉末、ポリアミド66の繊維、スチレンブタジエンゴム、及び水を25℃の環境下において混練し、負極合剤ペーストを調製した。
【0045】
ここで、酸化亜鉛の粉末を構成する酸化亜鉛の粒子の平均粒径は0.75μm、亜鉛の粉末を構成する粒子の平均粒径は70μmであった。
【0046】
一方、負極基材を以下のようにして製造した。まず、負極基材の芯体として、銅パンチングメタルを準備した。この銅パンチングメタルは、厚さが60μmであり、直径1.5mmの丸孔が千鳥状に多数穿設されている。次いで、この銅パンチングメタルに従来の方法によりスズの電解めっきを施した。このとき、スズめっき膜の厚さは5.0μmとした。このようにして、スズめっき膜を有する銅パンチングメタルからなる負極基材を得た。
【0047】
上記のようにして得られた負極合剤ペーストを負極基材の両面に均等、且つ、厚さが一定となるように塗布した。
【0048】
負極合剤ペーストの乾燥後、負極合剤を保持した負極基材を圧延したのち、所定寸法に切断して、FAサイズ用の負極26を得た。なお、負極26の負極容量は4500mAhである。
(3)ニッケル亜鉛電池の組み立て
上記のようにして得られた正極24及び負極26をこれらの間にセパレータ28を挟んだ状態で渦巻状に巻回し、電極群22を製造した。ここでの電極群22の製造に使用したセパレータ28は、スルホン化処理が施されたポリオレフィン繊維製不織布の基布に親水化処理が施されたポリプロピレン製の微多孔膜を重ねて二重化した構造を有しており、その厚みは0.16mm(目付量74g/m)であった。
【0049】
一方、アルカリ金属の水酸化物を溶質として含み、かつ酸化亜鉛を飽和した水溶液であるアルカリ電解液を準備した。このアルカリ電解液は、水酸化カリウムが30重量%含まれている水溶液である。
【0050】
ついで、有底円筒形状の外装缶10内に上記した電極群22を収容するとともに、準備したアルカリ電解液を5.3g注入した。その後、封口体11で外装缶10の開口を塞ぎ、公称容量2000mAhのFAサイズの電池2を組み立てた。
【0051】
(4)初期活性化処理
得られた電池2に対し、温度25℃の環境下にて、0.1Cの上限電流で、12.5時間の充電を行った後、0.2Cの放電電流で電池電圧が1.3Vになるまで放電させる充放電作業を1サイクルとする充放電サイクルを行った。このようにして初期活性化処理を行い、電池2を使用可能状態とした。
【0052】
(比較例1)
ポリアミド66の繊維を添加しなかったことを除いて実施例1と同様にしてニッケル亜鉛電池を製造した。
【0053】
(比較例2)
ポリアミド66の繊維の代わりにアルミナ繊維を酸化亜鉛の量に対し4.00重量%となる量だけ添加したことを除いて実施例1と同様にしてニッケル亜鉛電池を製造した。
【0054】
2.ニッケル亜鉛電池の評価
(1)自己放電評価
初期活性化処理済みの実施例1、比較例1~2の電池に対し、25℃の環境下にて、0.5Cの上限電流、1.9Vの上限電圧で、公称容量の100%まで充電を行った後、15分間休止した。その後、下限電圧を1.3Vに設定して0.5Cの定電流(CC)放電を行い、放電容量を求めた。この放電容量を初期容量Aとした。
【0055】
次いで、初期容量を求めた後の電池を25℃の環境下にて、0.5Cの上限電流、1.9Vの上限電圧で、公称容量の100%まで充電を行った後、35℃の環境下にて1ヶ月間放置した。1ヶ月間放置した後の電池を再び25℃の室温環境下に置き、下限電圧を1.3Vに設定して0.5Cの定電流(CC)放電を行い、放電容量を求めた。この放電容量を残存容量Bとした。
【0056】
そして、以下に示す(I)式より残存率Rを求めた。得られた結果を表1に示した。
R[%]=(B/A)×100・・・(I)
ここで、残存率Rの値が大きいほど電池の容量が残っており自己放電が抑制されていることを示す。
【0057】
【表1】
【0058】
(2)考察
比較例1のニッケル亜鉛電池の残存率Rは、75.6%であるのに対し、実施例1のニッケル亜鉛電池の残存率Rは78.1%であり、1ヶ月後の残存率が2.5%良化していることがわかる。つまり、実施例1は、比較例1に比べ自己放電が抑制され、自己放電特性が改善されているといえる。実施例1では、負極合剤にポリアミド繊維を添加しているが、比較例1は、負極合剤にポリアミド繊維を添加していない。このことから、ポリアミド繊維を負極合剤に添加することにより、自己放電特性が改善することが確認できる。
【0059】
比較例2のニッケル亜鉛電池の残存率Rは、72.4%であるのに対し、実施例1のニッケル亜鉛電池の残存率Rは78.1%であり、1ヶ月後の残存率が5.7%良化していることがわかる。つまり、実施例1は、比較例2に比べ自己放電が抑制され、自己放電特性が改善されているといえる。比較例2は、アルミナ繊維を負極合剤に添加している。このことから、無機材料の繊維を負極合剤に添加しても自己放電特性は改善されないが、樹脂繊維を負極合剤に添加すると自己放電特性の改善に有効であるといえる。
【0060】
また、比較例1と比較例2とを比べると、比較例1の方が比較例2よりも残存率は高く、アルミナ繊維を添加した電池では、自己放電特性を改善することはできないといえる。このことから、繊維状物質が負極合剤内に存在すればよいということではなく、樹脂繊維が存在することが自己放電特性の改善には有効であるといえる。特に、樹脂繊維がポリアミド繊維であることが、自己放電特性の改善に有効であることが確認できた。
【0061】
なお、本発明は、上記した実施形態や実施例に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、負極合剤に亜鉛を含有させる電池であれば、ニッケル亜鉛電池に限定されるものではなく、空気亜鉛電池等に本発明を適用することもできる。また、本発明は、二次電池に限定されるものではなく、一次電池に用いても同様の自己放電抑制効果が得られる。
【符号の説明】
【0062】
2 ニッケル亜鉛電池
22 電極群
24 正極
26 負極
28 セパレータ
図1