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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144780
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】六輪式電動車両
(51)【国際特許分類】
   B60G 21/045 20060101AFI20231003BHJP
   A61G 5/04 20130101ALI20231003BHJP
【FI】
B60G21/045
A61G5/04 710
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051921
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮矢
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA24
3D301AB21
3D301BA18
3D301BA20
3D301CA50
3D301DA08
3D301DB13
(57)【要約】
【課題】高い走行性能を有する六輪式電動車両を提供すること。
【解決手段】六輪式電動車両は、左右一対の前輪と、前記前輪の後方に配置された左右一対の駆動輪である中輪と、前記中輪の後方に配置された左右一対の後輪と、前記前輪、前記中輪、及び、前記後輪を、左右それぞれにおいて接続する接続部と、を備え、前記接続部は、前記前輪と前記中輪とを連結して懸架する第一リンクと、前記後輪が連結された第二リンクと、前記第一リンクに第一関節部を介して回動可能に連結され、且つ、前記第二リンクに第二関節部を介して回動可能に連結される第三リンクと、を含み、前記第一関節部は、前記前輪の回転中心と、前記中輪の回転中心とを結ぶ線分よりも下方に位置する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の前輪と、
前記前輪の後方に配置された左右一対の駆動輪である中輪と、
前記中輪の後方に配置された左右一対の後輪と、
前記前輪、前記中輪、及び、前記後輪を、左右それぞれにおいて接続する接続部と、を備え、
前記接続部は、
前記前輪と前記中輪とを連結して懸架する第一リンクと、
前記後輪が連結された第二リンクと、
前記第一リンクに第一関節部を介して回動可能に連結され、且つ、前記第二リンクに第二関節部を介して回動可能に連結される第三リンクと、を含み、
前記第一関節部は、前記前輪の回転中心と、前記中輪の回転中心とを結ぶ線分よりも下方に位置する、
六輪式電動車両。
【請求項2】
前記第一関節部は、前記前輪の回転中心と前記中輪の回転中心とを結ぶ線分までの距離が、前記中輪の半径の1/7以上1/2以下の長さになるように配置されている、
請求項1に記載の六輪式電動車両。
【請求項3】
前記前輪の回転中心から前記第一関節部までの距離は、前記中輪の回転中心から前記第一関節部までの距離より長い、
請求項1又は請求項2に記載の六輪式電動車両。
【請求項4】
前記前輪の回転中心から前記第一関節部までの距離は、前記中輪の回転中心から前記第一関節部までの距離の1倍を超え、且つ、2倍以下の長さである、
請求項3に記載の六輪式電動車両。
【請求項5】
前記左右一対の前輪は、オムニホイールにより構成され、前記前輪の前端同士の間隔が後端同士の間隔と異なるように配置されている、
請求項1から4のいずれか一項に記載の六輪式電動車両。
【請求項6】
前記左右一対の前輪は、トーアウトの状態で配置されている、
請求項5に記載の六輪式電動車両。
【請求項7】
前記左右一対の前輪は、トー角が5°以上45°以下となるように配置されている、
請求項6記載の六輪式電動車両。
【請求項8】
前記左右一対の前輪は、
左側の前記前輪及び地面の接点と左側の前記中輪及び地面の接点を結ぶ線が進行方向に対してなす角度と、前記前輪のトー角との和が10°以上60°以下となり、
右側の前記前輪及び地面の接点と右側の前記中輪及び地面の接点を結ぶ線が進行方向に対してなす角度と、前記前輪のトー角との和が10°以上60°以下となるよう配置されている、
請求項6または7記載の六輪式電動車両。
【請求項9】
前記左右一対の前輪は、前記左右一対の中輪よりも前記六輪式電動車両の内側に配置されている、
請求項5から8のいずれか一項に記載の六輪式電動車両。
【請求項10】
前記左右一対の後輪は、オムニホイールにより構成され、前記前輪の前端同士の間隔が後端同士の間隔と異なるように配置されている、
請求項1から9のいずれか一項に記載の六輪式電動車両。
【請求項11】
前記左右一対の後輪は、トーインの状態で配置されている、
請求項10に記載の六輪式電動車両。
【請求項12】
前記左右一対の後輪は、トー角が5°以上30°以下となるように配置されている、
請求項11に記載の六輪式電動車両。
【請求項13】
前記左右一対の後輪は、
左側の前記後輪及び地面の接点と左側の前記中輪及び地面の接点を結ぶ線が進行方向に対してなす角度と、前記後輪のトー角との和が10°以上60°以下となり、
右側の前記後輪及び地面の接点と右側の前記中輪及び地面の接点を結ぶ線が進行方向に対してなす角度と、前記後輪のトー角との和が10°以上60°以下となるよう配置されている、
請求項11または12に記載の六輪式電動車両。
【請求項14】
前記前輪のトー角又は前記後輪のトー角を外部環境に応じて変更可能な機構を有する、
請求項5から13のいずれか一項に記載の六輪式電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、六輪式電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
六輪式電動車両は、駆動輪である一対の中輪と、その中輪の前後に2つずつ配置された4つの従動輪とからなる計6つの車輪を備える。六輪式電動車両は、四輪式の電動車両に比べ、回転半径をより小さくすることができるため、走行時の小回りが利く。また、六輪式電動車両は、傾斜に対して自重による車体の旋回をより抑えることができるため、高い走行安定性を有する。
【0003】
その一方、六輪式電動車両は、中輪が、接地面にある凹凸、段差、又は、平面と斜面との接続部等に差し掛かって接地面から離れてしまうと、中輪の駆動力を接地面に伝達できなくなる。そのため、六輪式電動車両は、路面の段差を安定して乗り越えることが難しい。この問題の解決にあたり、開発された六輪式電動車椅子の一例が特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献1の六輪式電動車両は、前輪と中輪と後輪とが、それぞれ一対でサスペンションに装着されている。サスペンションは、前輪と中輪とを連結した状態で懸架するボギーリンク部と、後輪を懸架するロッカーリンク部と、ボギーリンク部とロッカーリンク部とが回動可能に連結された関節部と、を有するロッカーボギーリンク機構により構成されている。前輪と後輪とを繋ぐ方向を前後方向とし、前後方向に直交し且つ水平方向に平行な方向を左右方向とし、前後方向及び左右方向に直交する方向を高さ方向とした場合、ロッカーリンク部は、前端側を関節部に接続した状態で、後端側に向けて直線的に延びるフレーム部材を有する。フレーム部材は、平坦面に基づく対地からの高さを基準に、前端側から後端側に向けて次第に高くなる後方高の傾斜姿勢で配置されている。後輪は、フレーム部材の後端側にある後輪支持部で、中輪の軸心より高い位置に、少なくとも1つ配設された支点軸により、左右両側とも互いに独立して懸架されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-151160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の六輪式電動車両では、ボギーリンク部と、当該ボギーリンク部に懸架される前輪及び後輪の構成上、駆動輪による推進力由来の、ボギーリンク部とロッカーリンク部を連結する関節部周りモーメントが、前輪を上方へ上げる方向に働くため、意図せず前輪が上がり走行性を害することがある。
【0007】
本開示は、高い走行性能を有する六輪式電動車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の六輪式電動車両は、左右一対の前輪と、前記前輪の後方に配置された左右一対の駆動輪である中輪と、前記中輪の後方に配置された左右一対の後輪と、前記前輪、前記中輪、及び、前記後輪を、左右それぞれにおいて接続する接続部と、を備え、前記接続部は、前記前輪と前記中輪とを連結して懸架する第一リンクと、前記後輪が連結された第二リンクと、前記第一リンクに第一関節部を介して回動可能に連結され、且つ、前記第二リンクに第二関節部を介して回動可能に連結される第三リンクと、を含み、前記第一関節部は、前記前輪の回転中心と、前記中輪の回転中心とを結ぶ線分よりも下方に位置する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の六輪式電動車両によれば、高い走行性能を有する六輪式電動車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態における六輪式電動車両の左側面図
図2】第1実施形態における六輪式電動車両の正面図
図3】第1実施形態における六輪式電動車両の背面図
図4】第1実施形態の構成を適用しない従来の六輪式電動車両を側面から見た概念図
図5】第1実施形態における六輪式電動車両を側方から見た概念図
図6】第2実施形態における六輪式電動車両の左側面図
図7】第2実施形態における六輪式電動車両の平面図
図8】第2実施形態における六輪式電動車両の従動輪に用いられるオムニホイールの平面図
図9】第2実施形態における六輪式電動車両を上方から見た概念図
図10】第3実施形態における六輪式電動車両の左側面図
図11】第3実施形態における六輪式電動車両を上方から見た概念図
図12】第3実施形態における六輪式電動車両における外部環境に応じてトー角を変更する動作を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1実施形態]
まず、本開示の第1実施形態について、図面を参照しながら説明する。但し、本開示が以下の第1実施形態及び第2実施形態に限定されるわけではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜簡略化されている。図1は、六輪式電動車両の左側面図である。図2は、六輪式電動車両の正面図である。図3は、六輪式電動車両の背面図である。図4は、特許文献1に代表されるような第1実施形態の構成を適用しない従来の六輪式電動車両を側面から見た概念図である。図5は、六輪式電動車両を側方から見た概念図である。
【0012】
図1図3に示される六輪式電動車両1は、6つの車輪を有する電動式車両である。六輪式電動車両1の用途としては、例えば、屋外、屋内、施設、又は、私有地等において物品を搬送する移動ロボット、或いは、屋外、屋内、施設、又は、私有地等において人が移動のために搭乗する電動車椅子の走行部を、例示することができる。六輪式電動車両1は、車体部2と、本体部3と、制御部4と、を備える。
【0013】
車体部2は、前輪11と、中輪12と、後輪13と、モータ14と、接続部20と、を含み、六輪式電動車両1の移動に関する機能を有する。
【0014】
本体部3は、六輪式電動車両1における積載等の機能を有する。本体部3としては、物品を搬送するためのロッカーのような構造、又は、人が搭乗するため椅子等を例示することができる。なお、本体部3は、ロッカーのような構造、又は、椅子に限定されず、他の構造を有していても良い。また、六輪式電動車両1は、本体部3が積載等の機能を有していなくても良い。
【0015】
制御部4は、バッテリー、モータドライバ又は速度判定部等の制御装置、及び、記憶部等を有している。制御部4は、車体部2の内部、本体部3の下方に配置されるが、制御部4の配置箇所は、前述の位置に限定されない。
【0016】
次に、車体部2の詳細な構成について説明する。車体部2は、それぞれ一対ずつの前輪11(左側の前輪11L、右側の前輪11R)、中輪12(左側の中輪12L、右側の中輪12R)、後輪13(左側の後輪13L、右側の後輪13R)、及び、モータ14(左側のモータ14L、右側のモータ14R)を備える。前輪11と中輪12と後輪13とを繋ぐ方向は、前後方向である。また、一対の前輪11L,11R同士を繋ぐ方向、一対の中輪12L,12R同士を繋ぐ方向、及び、一対の後輪13L,13R同士を繋ぐ方向は、左右方向である。
【0017】
中輪12は、駆動輪であり、モータ14の駆動により回転する。左側の中輪12Lは、左側のモータ14Lに接続され、右側の中輪12Rは、右側のモータ14Rに接続されている。左側のモータ14L及び右側のモータ14Rは、制御部4により互いに独立的に制御され、左側の中輪12L及び右側の中輪12Rを互いに独立的に回転させる。中輪12の直径は、前輪11及び後輪13の直径よりも大きい、又は、前輪11及び後輪13の直径と等しい。
【0018】
前輪11及び後輪13は、従動輪であり、六輪式電動車両1の移動に応じて回転する。すなわち、中輪12が駆動して、六輪式電動車両1が移動すると、六輪式電動車両1の移動に追従して前輪11と後輪13が回転する。前輪11及び後輪13は、それぞれ全方位、すなわち、前後左右に自由に動ける車輪である。前輪11及び後輪13としては、オムニホイール、又は、キャスタを例示することができる。
【0019】
接続部20は、左右一対の第一リンク21と、左右一対の第二リンク22と、左右一対の第三リンク23と、第四リンク24と、を備える。
【0020】
左側の第一リンク21は、左側の前輪11Lと中輪12Lとを連結して懸架し、右側の第一リンク21は、右側の前輪11Rと中輪12Rとを連結して懸架する。各第一リンク21は、第一リンク前輪連結部25を介して各前輪11L,11Rに連結され、第一リンク中輪連結部26を介して各中輪12L,12Rに連結されている。
【0021】
左側の第二リンク22には、左側の後輪13Lが連結され、右側の第二リンク22には、右側の後輪13Lが連結されている。各第二リンク22は、第二リンク後輪接続部27を介して各後輪13L,13Rに連結されている。
【0022】
左側の第三リンク23は、左側の第一リンク21に左側の第一関節部28を介して回動可能に連結され、且つ、左側の第二リンク22に左側の第二関節部29を介して回動可能に連結されている。右側の第三リンク23は、右側の第一リンク21に右側の第一関節部28を介して回動可能に連結され、且つ、右側の第二リンク22に右側の第二関節部29を介して回動可能に連結されている。左右の第三リンク23は、左右方向に伸びる第四リンク24により連結されている。第四リンク24は、左右の第三リンク23と一体でも良いし、本体部3と一体でも良い。左右の第三リンク23には、それぞれストッパ30が設置されていることが望ましく、左右の第一リンク21の揺動運動(回動)の稼働範囲は、ストッパ30により制限されることが望ましい。
【0023】
従来例では、図4に示されるように第一リンク21と第三リンク23を接続する第一関節部28は、前輪11の回転中心11Cと、中輪12の回転中心12Cとを結ぶ線分よりも上方に位置するように構成されている。この時、従来例の課題に記したように駆動輪による推進力由来の、ボギーリンク部とロッカーリンク部を連結する関節部周りモーメントが、前輪を上方へ上げる方向に働くため、意図せず前輪が上がり走行性を害することがある。さらに前方の段差を乗り越える際に、段差から前輪11が受ける反力Tが、第一リンク21が第一関節部28まわりに揺動するトルクτに変換される際に損失される成分が存在する。
【0024】
一方、本第1実施形態の六輪式電動車両1は、図5に示されるように、第一リンク21と第三リンク23を接続する第一関節部28は、前輪11の回転中心11Cと、中輪12の回転中心12Cとを結ぶ線分よりも下方に位置するように構成されている。第一関節部28が、前輪11の回転中心11Cと、中輪12の回転中心12Cとを結ぶ線分よりも下方に配置されることで、モータ14から発生するトルクより中輪12が発する駆動力F由来の、第一関節部28まわりのトルクτにより、不意に第一リンク21が揺動して前輪11が上がることを防ぐことができる。さらに、前方の段差を乗り越える際に、段差から前輪11が受ける反力Tが、第一リンク21が第一関節部28まわりに揺動するトルクτを発生する方向に働くため、段差の乗り越え性能を向上することができる。したがって、高い走行性能を有する六輪式電動車両1を提供することができる。
【0025】
第一関節部28と、前輪11の回転中心11Cと中輪12の回転中心12Cとを結ぶ線分FMとの距離をAHとすると、距離AHは、中輪12の半径の1/7以上1/2以下の長さであることが望ましい。例えば、中輪12の直径が280mm、つまり半径140mmのときに、前輪11の回転中心11C及び中輪12の回転中心12Cを結ぶ線分から25mmだけ下方に離れた位置に、第一関節部28を配置する。距離AHが大きいほど、不意な前輪11の浮き上がりを防ぐことができたり、段差の乗り越え性能を向上できる一方、前進時に中輪12の駆動力より第一関節部28まわりに揺動するトルクτが中輪12を上方に浮かせる方向に働く。このため、距離AHが過剰に大きいと、中輪12と地面の摩擦力が十分に得られず、中輪12が滑り、十分な駆動力Fが得られなくなるおそれがある。
【0026】
次に、前輪11、中輪12、後輪13、第一関節部28、及び、第二関節部29の配置関係について説明する。各距離FM_HORIZ,FM,MR_HORIZ,MR,FA,AM,BRを以下のように定義する。
距離FM_HORIZ:六輪式電動車両1が平面に正立時の前輪11と中輪12の水平距離(前輪11の回転中心11Cから中輪12の回転中心12Cまでの水平方向の距離)
距離FM:六輪式電動車両1が平面に正立時の前輪11と中輪12の距離(前輪11の回転中心11Cから中輪12の回転中心12Cまでの距離)
距離MR_HORIZ:車両が平面に正立時の中輪12と後輪13の水平距離(中輪12の回転中心12Cから後輪13の回転中心13Cまでの水平方向の距離)
距離MR:六輪式電動車両1が平面に正立時の中輪12と後輪13の距離(中輪12の回転中心12Cから後輪13の回転中心13Cまでの距離)
距離FA:六輪式電動車両1が平面に正立時の前輪11と第一関節部28との距離(前輪11の回転中心11Cから第一関節部28までの線分FM方向の距離)
距離AM:六輪式電動車両1が平面に正立時の第一関節部28と中輪12との距離(第一関節部28から中輪12の回転中心12Cまでの線分FM方向の距離)
距離BR:六輪式電動車両1が平面に正立時の第二関節部29と後輪13との距離(第二関節部29から後輪13の回転中心13Cまでの線分MR方向の距離)
【0027】
距離FM_HORIZと距離MR_HORIZの割合比であるFM_HORIZ:MR_HORIZは1:1に設定される。この距離FM_HORIZと距離MR_HORIZの割合比は、1:1に限定されるものではなく、適宜変更可能であるが、1:1に近いことが望ましい。さらに、距離FAと距離AMの割合比であるFA:AMは2:1に設定される。この距離FAと距離AMの割合比も2:1に限定されるものではなく、適宜変更可能であるが、FA/AMが1より大きく且つ2以下の値になるように設定されることが理想的である。FA/AMを1より大きくすることで、中輪12に働く自重の割合が大きくなり、中輪12の摩擦力を大きくすることができ、地面の凹凸に対して走行を安定させることができる。
【0028】
左右それぞれの第二リンク22と第三リンク23の間は、サスペンション31が接続されていることが望ましい。各サスペンション31は、第二サスペンション接続部32を介して各第二リンク22に接続され、第三サスペンション接続部33を介して各第三リンク23に接続される。サスペンション31は、後輪13の揺動を制限しつつ、地面の凹凸に対して後輪13をなじませる役割を果たす。サスペンション31の接続部である、第二サスペンション接続部32及び第三サスペンション接続部33には、揺動軸が設けられていることが望ましいが、揺動軸を設けることなく第二リンク22及び第三リンク23に固定されていても良い。サスペンション31を構成するサスペンション用ばね34は、車体部2の自重により、車体部2が水平になる状態を中立位置となるように設定するのが望ましい。
【0029】
サスペンション31のストロークは、サスペンション用ばね34の特性やストッパー等を用いて次のように設定するのが望ましい。サスペンション31のストロークは、最も圧縮している状態、つまり後輪13が最上端に位置する状態の場合、第二リンク22が水平面に対して水平となる、又は、当該水平の状態より後輪13が下方に位置するよう設定されることが望ましい。サスペンション31のストロークは、最も伸長している状態、つまり後輪13が最下端に位置する状態の場合、後輪13が中立位置から乗り越え段差の高さ寸法以上、下がる高さに設定されることが望ましい。このような設定にすれば、六輪式電動車両1が段差に対して柔軟に走行しやすくなる。
【0030】
[第2実施形態]
次に、本開示の第2実施形態について、図面を参照しながら説明する。図6は、六輪式電動車両の左側面図である。図7は、六輪式電動車両の平面図である。図8は、六輪式電動車両の従動輪に用いられるオムニホイールの平面図である。図9は、六輪式電動車両を上方から見た概念図である。なお、第1実施形態の六輪式電動車両1の構成と同じ構成については、同一符号及び同一名称を付し、説明を省略する場合がある。また、第1実施形態の六輪式電動車両1の構成と機能が同じである一方で配置又は形状等が異なる構成については、同一名称を付し、説明を簡略にする場合がある。
【0031】
図6及び図7に示される第2実施形態の六輪式電動車両100は、各前輪111及び各後輪113がオムニホイールにより構成される車両である。六輪式電動車両100は、車輪の配置により、側方の段差を乗り越える性能を向上させることができる構成を有する。第2実施形態の六輪式電動車両100は、前輪111及び後輪113の配置や角度が、第1実施形態の六輪式電動車両1と異なり、またそれに伴う周辺構造が、第1実施形態の六輪式電動車両1と異なる。
【0032】
六輪式電動車両100は、車体部110と、本体部3と、制御部4と、を備える。車体部110は、それぞれ一対ずつの前輪111(左側の前輪111L、右側の前輪111R)、中輪12(左側の中輪12L、右側の中輪12R)、後輪113(左側の後輪113L、右側の後輪113R)、及び、モータ14(左側のモータ14L、右側のモータ14R)を備える。車体部110は、接続部120を更に備える。接続部120は、左右一対の第一リンク121と、左右一対の第二リンク122と、左右一対の第三リンク123と、第四リンク124と、を備える。第1実施形態の六輪式電動車両1と同様に、六輪式電動車両100の第一関節部28は、第一リンク前輪連結部25及び第一リンク中輪連結部26よりも下方に配置されている。また、六輪式電動車両100の前輪111、中輪12、後輪113、第一関節部28、及び、第二関節部29の配置関係についても、第1実施形態と同様に定義される各距離FM_HORIZ,FM,MR_HORIZ,MR,FA,AM,BRが、第1実施形態と同じ関係を満たすように、設定されている。
【0033】
前輪111及び後輪113は、図8に示されるオムニホイール115により構成されている。オムニホイール115は、複数のローラ116を含む全方向車輪であり、ホイール117の車輪外周上に、円周を中心としてそれぞれが回転するローラ116が並ぶことで、ホイール117の回転方向と車輪軸118に沿う方向の移動を可能にする車輪である。なお、オムニホイールと呼ばれる全方向車輪は、図8に示される構造以外にも存在し、本開示に用いられるオムニホイールは、図8の構成に限定されない。
【0034】
オムニホイール115は、段差に対して、外周方向については通常の車輪と同様にオムニホイール115の外周により段差を乗り越える一方、車輪の側方に存在する段差に対しては外周上に配置されるローラ116によって段差を乗り越える。外周上に配置されるローラ116は、オムニホイール115の外径に比べ小さい。一般的に、車輪の段差乗り越え性能は車輪径が大きいほど、乗り越え可能な段差が大きくなる。前輪111がオムニホイール115により構成される車両は、各前輪111がトーアウトの状態で配置される場合のトー角を正の角度とした場合、各前輪111のトー角が、0°以下または0°に近い場合、車体側方に存続する段差に対する乗り越え性能が低くなる。なお、各前輪111がトーアウトの状態とは、各前輪111の前端が六輪式電動車両100の外側に開くように、つまり前端同士の間隔が後端同士の間隔よりも大きくなるように、各前輪111が傾斜をつけて配置されることである。
【0035】
六輪式電動車両100の各前輪111は、図7及び図9に示されるように、トーアウト、つまり、前向きの進行方向に対して前端が六輪式電動車両100の外側に開くように、傾斜をつけて配置される。このように、各前輪111をトーアウトになるように配置することで、ローラ116の外周に加えて、ホイール117の外周でも段差を乗り越えることができるため、図9に示されるトー角θ1を0°にする場合に比べて、側方の段差の乗り越え性能が向上する。各前輪111のトー角θ1は、5°以上45°以下が理想的である。トー角θ1が大きいほど、側方の段差の乗り越え性能が向上する一方、前方の段差の乗り越え性能が低下するため、トー角θ1は、走行環境や求める性能に対して設定することが望ましい。
【0036】
各前輪111をトーアウトになるように配置する方法としては、図7に示されるように、屈曲している第一リンク121を用いても良いし、トーアウトにするための締結構造を設けても良い。図7に示されるように、第一リンク121を屈曲した構造にする方法が、部品点数を抑えることができ、最も簡易な構造となる。この場合、第一リンク121の形状や揺動時の可動範囲を考慮して、第一リンク前輪連結部25、第三リンク123、第四リンク124及び第一関節部128の形状が設定される。
【0037】
各前輪111は、トーアウトになるように配置されることに加えて、各中輪12よりも車体の内側に配置される。各前輪111が各中輪12よりも車体の内側に配置されることで、六輪式電動車両100の旋回時に、側方の段差に対して各前輪111が接触する際に、段差に対して傾斜した状態で接触するため、前方の段差に対する性能を低下させずに、各前輪111をトーアウトになるように配置する場合と同様に、オムニホイール115の外周とローラ116の外周の双方で、側方の段差を乗り越えることができる。
【0038】
各前輪111を各中輪12よりも内側へ配置するに際し、各前輪111の位置は、図9に示されるように、前輪111の地面との接点P1と中輪12の地面との接点P2とを結ぶ線とL1、車体前後方向と平行な線L2とのなす角度Φに基づいて、設定される。つまり、各前輪111が内側に配置されるほど、角度Φは大きくなる。角度Φが大きいほど、側方の段差を乗り越える性能が向上する一方で、車体内部に機器を搭載可能な容積が小さくなる。このことを踏まえると、角度Φとトー角θ1との和(θ1+Φ)は、10°以上60°以下であることが望ましい。
【0039】
各前輪111における傾斜と配置については、各後輪113に対しても同様に適用される。各後輪113は、トーインの状態で配置される。なお、各後輪113がトーインの状態とは、各後輪113の後端が六輪式電動車両100の外側に開くように、つまり前端同士の間隔が後端同士の間隔よりも小さくなるように、各後輪113が傾斜をつけて配置されることである。各前輪111のトー角θ1と各後輪113のトー角θ2は、同じ角度又はほぼ同じ角度であることが望ましい。第2実施形態では、各後輪113をトーインになるように配置する方法として、屈曲している第二リンク122を用いる構成を適用しているが、トーインにするための締結構造を設けても良い。
【0040】
[第3実施形態]
次に、本開示の第3実施形態について、図面を参照しながら説明する。図10は、六輪式電動車両の左側面図である。図11は、六輪式電動車両を上方から見た概念図である。図12は、六輪式電動車両における外部環境に応じてトー角を変更する動作を示すフローチャートである。なお、第2実施形態の六輪式電動車両100の構成と同じ構成については、同一符号及び同一名称を付し、説明を省略する場合がある。また、第2実施形態の六輪式電動車両100の構成と機能が同じである一方で配置又は形状等が異なる構成については、同一名称を付し、説明を簡略にする場合がある。
【0041】
図10に示される六輪式電動車両200は、各前輪111のトー角θ1と、各後輪113のトー角θ2とが外界環境に応じて、変更できる構造を有する。
【0042】
六輪式電動車両200は、車体部210と、本体部3と、制御部4と、を備える。車体部210は、それぞれ一対ずつの前輪111、中輪12、後輪113、及び、モータ14を備える。
【0043】
車体部210は、4つのトー角駆動部211を更に備える。トー角駆動部211は、鉛直方向に延びる回転軸を有するモータ、減速機、トー角を認識するエンコーダ、及び、それらの周辺機構を有する。2つのトー角駆動部211は、モータの回転軸に固定されたブラケット212及び前輪連結部213を介して、各前輪111を支持している。残りの2つのトー角駆動部211は、モータの回転軸に固定されたブラケット214及び後輪連結部215を介して、各後輪113を支持している。このような構成により、トー角駆動部211のモータが駆動すると、図11に示されるように、前輪111のトー角θ1又は後輪113のトー角θ2が変更される。トー角駆動部211は、前輪111のトー角θ1又は後輪113のトー角θ2を0°以上45°以下の範囲で変更できるように構成されていることが望ましい。なお、トー角駆動部211の構造は、トー角θ1,θ2を変更できる構造であれば、上述された構造に限定されない。
【0044】
車体部210は、接続部220を更に備える。接続部220は、左右一対の第一リンク221と、左右一対の第二リンク222と、左右一対の第三リンク223と、第四リンク124と、を備える。各前輪111は、トー角駆動部211の取付部を介して、第一リンク221に連結されている。各後輪113は、トー角駆動部211の取付部を介して、第二リンク222に連結されている。
【0045】
第2実施形態の六輪式電動車両100と同様に、六輪式電動車両200の第一関節部28は、トー角駆動部211を介した前輪111の回転中心111Cと、中輪12の回転中心12Cとを結ぶ線分よりも下方に配置されている。また、六輪式電動車両200の前輪111、中輪12、後輪113、第一関節部28、及び、第二関節部29の配置関係についても、第2実施形態と同様に定義される各距離FM_HORIZ,FM,MR_HORIZ,MR,FA,AM,BRが、第1実施形態と同じ関係を満たすように、設定されている。なお、第3実施形態における第二リンク後輪接続部27に相当する部位は、トー角駆動部211を介した第二リンク222と後輪113との連結部227である。
【0046】
六輪式電動車両200が電動車椅子等の人が操作する車両の場合、周囲の環境と目標進行方向に応じて、操作部を人が操作することにより、前輪111、後輪113のトー角を調整できるように構成すれば良い。人は、前方及び後方の段差を乗り越える際は、トー角θ1,θ2が0°に近づくように操作部を操作し、側方の段差を乗り越える際は、トー角θ1,θ2が大きくなる(0°を超える正の値になる)ように操作部を操作する。
【0047】
一方、六輪式電動車両200がロボット等の自律的に移動する車両の場合、外部環境に応じて、前輪111、後輪113のトー角を自動的に決定して変更できることが望ましい。このときの構成を説明する。
【0048】
本体部3における例えば前面及び左右の両側面には、外部の段差状況を検出する段差検出部231が配置されている。段差検出部231は、例えばLiDAR又はカメラ等の物体の輪郭形状を検出するセンサにより構成されている。また、制御部4には、段差判定部232、経路判定部233、車輪角度設定部234が、第2実施形態のにおける制御部4の搭載物に追加して搭載される。段差判定部232、経路判定部233、車輪角度設定部234は、いずれもメモリに記憶されたプログラムを実行するプロセッサである。
【0049】
外部環境に応じてトー角を変更する動作について、図12のフローチャートを交えて説明する。段差検出部231は、六輪式電動車両200が停止している状態において、六輪式電動車両200周囲の輪郭形状を撮像して、段差の状況を検出する(ステップS1)。次に、段差判定部232は、段差検出部231における検出結果に基づいて、六輪式電動車両200周囲の段差の有無、段差の高さ及び位置を判定する(ステップS2)。経路判定部233は、六輪式電動車両200に設定入力された情報に基づいて、六輪式電動車両200の走行経路を判定する(ステップS3)。
【0050】
次に、車輪角度設定部234は、経路判定部233において判定された進行方向に段差が存在する場合、その段差の位置に応じて各車輪111,113のトー角θ1,θ2(各前輪111のトー角θ1及び各後輪113のトー角θ2)を設定する(ステップS4)。
【0051】
ステップS4の処理において、車輪角度設定部234は、進行方向が車体左右方向であり、六輪式電動車両200が旋回する場合であって、段差が進行方向に存在する場合、図11に示されるように、各前輪111がトーアウトの状態になり、各後輪113がトーインの状態になるように、各車輪111,113のトー角θ1,θ2を設定する。これ以外の場合においては、車輪角度設定部234は、各車輪111,113のトー角θ1,θ2を0°に近い値に設定する。
【0052】
また、進行方向が前方であり段差が前方に存在する場合、又は、進行方向が後方であり段差が後方に存在する場合、車輪角度設定部234は、各車輪111,113のトー角θ1,θ2を0°に設定する。また、段差が側方に存在し、六輪式電動車両200が旋回により当該段差を乗り換えようとする場合、車輪角度設定部234は、各車輪111,113のトー角θ1,θ2をそれぞれ45°に設定して、各前輪111がトーアウト、各後輪113がトーインの状態になるようにする。また、段差が進行方向斜め前方に存在する場合、車輪角度設定部234は、段差の高さ及び位置に応じて、各車輪111,113のトー角θ1,θ2を0°から45°の間の値に設定することが望ましい。
【0053】
そして、各トー角駆動部211は、車輪角度設定部234における判定結果に基づいて、前輪111のトー角θ1及び後輪113のトー角θ2を変更する(ステップS5)。最後に、制御部4のモータドライバは、各モータ14を制御して、六輪式電動車両200を走行させる(ステップS6)。六輪式電動車両200の走行中、ステップS1~S5の処理が繰り返し行われることにより、六輪式電動車両200は目的地まで移動する。
【0054】
なお、本開示は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本開示は、走行性能向上させる効果を有し、電動車椅子や移動ロボット等の六輪式電動車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1,100,200 六輪式電動車両
2,110,210 車体部
3 本体部
4 制御部
11,11L,11R,111,111L,111R 前輪
11C,111C 前輪の回転中心
12,12L,12R 中輪
12C 中輪の回転中心
13,13L,13R,113,113L,113R 後輪
13C 後輪の回転中心
14,14L,14R モータ
20,120,220 接続部
21,121,221 第一リンク
22,122,222 第二リンク
23,123,223 第三リンク
24,124 第四リンク
25 第一リンク前輪連結部
26 第一リンク中輪連結部
27 第二リンク後輪接続部
28,128 第一関節部
29 第二関節部
30 ストッパ
31 サスペンション
32 第二サスペンション接続部
33 第三サスペンション接続部
115 オムニホイール
116 ローラ
117 ホイール
118 車輪軸
211 トー角駆動部
212,214 ブラケット
213 前輪連結部
215 後輪連結部
227 連結部
231 段差検出部
232 段差判定部
233 経路判定部
234 車輪角度設定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12