(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144799
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】構造用形鋼およびそれを用いたトラス構造体
(51)【国際特許分類】
E04C 3/07 20060101AFI20231003BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20231003BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20231003BHJP
E04H 12/10 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
E04C3/07
E04B1/24 B
E04B1/58 M
E04H12/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051946
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】久積 和正
(72)【発明者】
【氏名】妙中 真治
(72)【発明者】
【氏名】二階堂 仁之
(72)【発明者】
【氏名】根上 潤
(72)【発明者】
【氏名】松田 修二
(72)【発明者】
【氏名】和知 功
【テーマコード(参考)】
2E125
2E163
【Fターム(参考)】
2E125AA35
2E125AB02
2E125AC15
2E163FB03
2E163FB32
(57)【要約】
【課題】土木・建築構造物に用いられる構造用形鋼であって、構造部材として基本的な構造性能に加えて、運搬性およびメンテナンス性を併せ持つ、構造用形鋼およびそれを用いたトラス構造体を提供する。
【解決手段】断面形状が等辺山形状で、辺角θ1が60°以上120°以下であり、側辺の先端に、側辺の幅Bより短い幅Cを有し、側辺の延長線から辺角を挟んで互いに近づく側に、0°超、かつ、辺角θ1以下の角度のリップ角θ2を有して傾斜するリップを有する構造用形鋼であって、板厚が比較的薄い開断面構造でありながら、構造部材として基本的な座屈耐力や曲げ強度等の構造性能に加えて、運搬性(保管時および輸送時の積み重ね性を含む)およびメンテナンス性を併せ持つ構造用形鋼、およびそれを用いたトラス構造体が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に垂直な断面が、
(a)山形状であり、
(b)両側の側辺の幅Bが互いに略等しく、
(c)前記両側の側辺のなす辺角θ1が60°以上120°以下であり、
(d)前記両側の側辺のそれぞれの先端に、前記山形状の断面の強軸に対して対称形のリップがそれぞれ付加されてなる、
構造用形鋼であって、
前記リップは、前記側辺の幅Bより短い幅Cを有し、前記側辺の延長線から前記辺角を挟んで互いに近づく側に、0°超、かつ、辺角θ1以下の角度のリップ角θ2を有して傾斜する、構造用形鋼。
【請求項2】
前記リップ角θ2は、前記構造用形鋼の断面の弱軸に対して前記リップが略垂直となる角度より小さい、請求項1に記載の構造用形鋼。
【請求項3】
前記リップの幅Cが、下記(1)式で求められる必要リップ幅Cmin以上である、請求項1または請求項2に記載の構造用形鋼。
【数1】
ここで、
Cmin:必要リップ幅(mm)、
B:リップに直接接する側辺の板要素の幅(mm)、
t:板厚(mm)、
F:F値(鋼材等の種類及び品質に応じて国土交通大臣が定める基準強度(N/mm
2)。建築基準法施行令第90条、等参照。)であり、降伏点と引張り強さの70%とのうち小さい方とする。
【請求項4】
前記構造用形鋼の2つの前記側辺のそれぞれの前記先端から所定長さ位置にそれぞれ辺内屈曲部を設けて前記側辺を辺角部側の第1側辺と先端側の第2側辺に区分し、前記辺内屈曲部の屈曲角度を、前記辺角θ1および前記リップ角θ2を維持しつつ、前記2つの第2側辺の延長線が互いに略直交する屈曲角度として、前記第2側辺を部材連結部とする、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の構造用形鋼。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の構造用形鋼を構成部材とする、トラス構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造用形鋼およびそれを用いたトラス構造体に関し、詳しくは、鉄塔、橋梁およびクレーン等のトラス構造を含む土木・建築構造物に用いられる、構造用形鋼およびそれを用いたトラス構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
土木・建築分野では、トラス構造等の鉄骨構造を構築する構造部材として、設備の規模や用途に応じて、様々な材質(強度、延性、靭性等)、および、厚さを含む断面形状(鋼管、H形鋼、山形鋼等)を有する鋼材が用いられている。
【0003】
例えば送電鉄塔では、送電規模によって構造形式が異なり、一般的な中小規模の場合は山形鋼鉄塔(特許文献1参照)が太宗を占め、大規模送電の場合は鋼管鉄塔(特許文献2参照)が採用される。一般的な中小規模の鉄塔で山形鋼が用いられるのは、構成部材および構造体として求められる強度が山形鋼でも問題ない程度に小さいことに加え、断面形状が山形(L字形)で単純な形状であることから、部材としての運搬性(保管時および輸送時の積み重ね性を含む)および組み立て性に優れているからである。また、開断面であるためメンテナンス性を確保し易いこと等の製造から維持管理に至るまでのコスト面における特性を有するからである。
【0004】
一方、大規模送電鉄塔に鋼管が用いられるのは、閉断面構造であり、座屈耐力や曲げ強度といった構造部材として求められる基本的な構造性能において、山形鋼に比べて極めて高い構造性能を有しているからである。ただし、鋼管鉄塔の場合は、例えば特許文献2で開示されているとおり、閉断面の鋼管内部を点検したり補修したりすることが容易でないというメンテナンス上の問題に加え、接合部などのディテールが複雑化してしまうために、山形鋼を使用した場合と比較して大幅な製作コストアップが避けられないという問題がある。
【0005】
構造部材としての鋼管の閉断面構造の問題に対し、特許文献3では、その解決手段として
図8に示すように、角形鋼管断面の1つの角部を切り欠いて4つの側壁板51~54で構成した建築用柱材50を開示している。そして、このような建築用柱材50において、側壁板51、54を、側壁幅の最大幅W1の45%以上で側壁板の板厚T1の10倍以下の開口幅W2の開口部55を設けることで形成するようにすることで、角形鋼管の強度特性を維持しながら、中空部における作業性を確保できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-184565号公報
【特許文献2】特開2004-286114号公報
【特許文献3】特開2020-165221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、送電鉄塔の大型化・長寿命化が進む傾向にあり、従来の一般的な中小規模で採用されてきた山形鋼鉄塔においても、高性能部材を採用せざるを得ない状況にある。また、高度経済成長期に建設された多くの送電鉄塔の老朽更新が必要となっており、建設後の維持管理の問題に加えて、更新時における構造合理化、施工効率化、ならびに軽量化をはじめとした生産性向上の技術開発が求められている。
【0008】
これに対し、従来から鉄塔で多用されている山形鋼に対して座屈耐力や耐食性といった構造性能に影響を及ぼす特性を改善した形鋼が求められるところ、特許文献3に記載の角形鋼管断面の1つの角部を切り欠いた部材では、開断面の形鋼としての構造性能の改善を主目的としているため、側壁板の幅を大きく残させざるを得ず、すなわち、開口幅が小さく、部材の配設位置によっては検査機器や補修機器等の挿入が困難になる等のメンテナンス性の問題が残り、また、一般的な山形鋼のような運搬性(保管時および輸送時の積み重ね性を含む)の優位性もないという問題がある。
【0009】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、土木・建築構造物に用いられる構造用形鋼であって、板厚が比較的薄い開断面構造でありながら、構造部材として基本的な座屈耐力や曲げ強度等の構造性能に加えて、運搬性(保管時および輸送時の積み重ね性を含む)およびメンテナンス性を併せ持つ、構造用形鋼およびそれを用いたトラス構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]長手方向に垂直な断面が、
(a)山形状であり、
(b)両側の側辺の幅Bが互いに略等しく、
(c)前記両側の側辺のなす辺角θ1が60°以上120°以下であり、
(d)前記両側の側辺のそれぞれの先端に、前記山形状の断面の強軸に対して対称形のリップがそれぞれ付加されてなる、
構造用形鋼であって、
前記リップは、前記側辺の幅Bより短い幅Cを有し、前記側辺の延長線から前記辺角を挟んで互いに近づく側に、0°超、かつ、辺角θ1以下の角度のリップ角θ2を有して傾斜する、構造用形鋼。
【0011】
[2]前記リップ角θ2は、前記構造用形鋼の断面の弱軸に対して前記リップが略垂直となる角度より小さい、[1]に記載の構造用形鋼。
【0012】
[3]前記リップの幅Cが、下記(1)式で求められる必要リップ幅Cmin以上である、[1]または[2]に記載の構造用形鋼。
【数1】
ここで、
Cmin:必要リップ幅(mm)、
B:リップに直接接する側辺の板要素の幅(mm)、
t:板厚(mm)、
F:F値(鋼材等の種類及び品質に応じて国土交通大臣が定める基準強度(N/mm
2)。建築基準法施行令第90条、等参照。)であり、降伏点と引張り強さの70%とのうち小さい方とする。
【0013】
[4]前記構造用形鋼の2つの前記側辺のそれぞれの前記先端から所定長さ位置にそれぞれ辺内屈曲部を設けて前記側辺を辺角部側の第1側辺と先端側の第2側辺に区分し、前記辺内屈曲部の屈曲角度を、前記辺角θ1および前記リップ角θ2を維持しつつ、前記2つの第2側辺の延長線が互いに略直交する屈曲角度として、前記第2側辺を部材連結部とする、[1]~[3]のいずれかに記載の構造用形鋼。
【0014】
[5][1]~[4]のいずれかに記載の構造用形鋼を構成部材とする、トラス構造体。
【発明の効果】
【0015】
本発明の構造用形鋼およびそれを用いたトラス構造体によれば、断面形状が等辺山形状で、辺角θ1が60°以上120°以下であり、側辺の先端に、側辺の幅Bより短い幅Cを有し、側辺の延長線から辺角を挟んで互いに近づく側に、0°超、かつ、辺角θ1以下の角度のリップ角θ2を有して傾斜するリップを有する構造用形鋼を採用することにより、板厚が比較的薄い開断面構造でありながら、構造部材として基本的な座屈耐力等の構造性能に加えて、運搬性(保管時および輸送時の積み重ね性を含む)およびメンテナンス性を併せ持つことが可能な、構造用形鋼およびそれを用いたトラス構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施の形態1に係る構造用形鋼の断面形状を説明する図である。
【
図2】実施の形態1に係る構造用形鋼を斜視図で説明する図である。
【
図3】リップ山形鋼のリップ角と弱軸断面二次モーメントとの関係を説明する図である。
【
図4】リップ山形鋼のリップ角と、リップ山形鋼を積み重ねた場合に生じるリップ山形鋼同士の間の空隙の大きさとの関係を説明する図である。
【
図5】リップ山形鋼のリップ角と局部座屈強度との関係を説明する図である。
【
図6】実施の形態2に係る構造用形鋼の断面形状を説明する図である。
【
図7】実施の形態1、2に係る構造用形鋼を(a)で示すトラス構造体である送電鉄塔に適用した実施例を、(a)のA-A断面矢視で構造用形鋼の部分を拡大して模式的に示した(b)~(d)の水平断面図で説明する図である。
【
図8】従来技術に係るリップ山形鋼に類似する建築用柱材を斜視図で説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る構造用形鋼1を示す断面図であり、
図2は、実施の形態1に係る構造用形鋼1を示す斜視図である。以下、
図1、
図2を参照して、実施の形態1に係る構造用形鋼1について説明する。
【0019】
図1に示すように、実施の形態1に係る構造用形鋼1は、長手方向に垂直な断面が、
(a)山形状であり、
(b)両側の側辺5の幅Bが互いに略等しく、
(c)前記両側の側辺5のなす辺角θ1が60°以上120°以下であり、
(d)前記両側の側辺5のそれぞれの先端に、前記山形状の断面の強軸に対して対称形のリップ7がそれぞれ付加されてなる、構造用形鋼1であって、
前記リップ7は、前記側辺5の幅Bより短い幅Cを有し、前記側辺5の延長線から前記辺角を挟んで互いに近づく側に、0°超、かつ、辺角θ1以下の角度のリップ角θ2を有して傾斜するものである。
【0020】
図1は、辺角θ1が略90°で、リップ角θ2が略45°の場合の実施の形態1に係る構造用形鋼1の断面図であり、2つの側辺5の外面と座標軸が重なるx-y直角座標系と、この構造用形鋼1の強軸x’と弱軸y’も併せて示している。また、
図2は、
図1に示す断面形状を有する実施の形態1に係る構造用形鋼1を辺角部3側から見た斜視図である。
【0021】
実施の形態1に係る構造用形鋼1は、
図1、
図2から分かるとおり断面形状が山形状で開断面形状であるため、保管時および輸送時の積み重ね性を含め、運搬性に優れているといえ、また、閉断面構造のような点検や補修等での内面側の処置に対する困難性がなくメンテナンス性にも優れているといえる。
【0022】
また、実施の形態1に係る構造用形鋼1は、両側の側辺5の幅Bが互いに略等しく、構造部材として構造力学上の対称性に優れているといえる。なお、リップ7の幅Cは側辺5の幅Bより短いとするのは、リップ7の幅Cがリップ7の補剛対象である側辺5の幅B以上になるほど大きい場合は、リップ7そのものも補剛対象の側辺5と同様の補剛対策を要することになることから、もはやそのような幅広のリップは含めないという意味である。
【0023】
以上のとおり実施の形態1に係る構造用形鋼1は、断面形状がリップ付きの等辺山形鋼のなかで、特に次の2点で、すなわち、(1)辺角θ1が60°以上120°以下であり、(2)リップ7は、側辺5の延長線から辺角を挟んで互いに近づく側に、0°超、かつ、辺角θ1以下の角度のリップ角θ2を有して傾斜するものである点で特徴を有するものである。
【0024】
なお、辺角θ1は、構造用形鋼1の用途に応じて60°以上120°以下の範囲で選択されるものである。例えば、辺角θ1が略90°の実施の形態1に係る構造用形鋼1は、水平断面形状が四角形の場合の支柱等に好適であり、辺角θ1が60°以上120°以下の実施の形態1に係る構造用形鋼1は、水平断面形状が三角形から多角形の場合や水平断面の一部に三角形から多角形の角部の形状を含む場合の支柱等に好適である。
【0025】
次に、実施の形態1に係る構造用形鋼1のリップ7は、側辺5の延長線から辺角を挟んで互いに近づく側に、0°超、かつ、辺角θ1以下の角度のリップ角θ2を有して傾斜するものであるとする要件について、まず、弱軸断面二次モーメントの向上の観点での予備検討結果について、
図3、
図4を用いて説明し、次に、局部座屈強度の向上の観点での予備検討結果について、
図5を用いて説明する。
【0026】
図3は、リップ角θ2以外は実施の形態1に係る構造用形鋼1としての条件を満たす、辺角θ1が90°、板厚が6mm、側辺幅Bが300mm、リップ幅Cが60mmの構造用形鋼について、リップ角θ2を0°から180°まで条件を変化させた場合の弱軸断面二次モーメントを計算した結果を示すものである。
図3に示すとおり、リップ角θ2が、側辺5に沿った方向(θ2=0°)から辺角θ1に相当する角度(θ2=θ1=90°)の範囲(0°<θ2≦θ1=90°)にあるとき、実施の形態1に係る構造用形鋼1の弱軸断面二次モーメントIy’は、山形鋼断面(θ2=0°)よりも向上するため、全体座屈強度を上昇させることができることが分かる。
【0027】
なお、実施の形態1に係る構造用形鋼1では、リップ角θ2は、構造用形鋼1の断面の弱軸に対してリップが略垂直となる角度より小さいことが好ましい。
図3に示すとおり、リップが部材断面の弱軸に対して垂直となるリップ角θ2(例えば、θ1=90°のときθ2=θ1/2=45°)のとき、弱軸断面二次モーメントが最大となり、全体座屈強度を最大化することが可能となり、その効果は、リップ角θ2が0°超の範囲まで高く維持されるからである。また、
図4に示すとおり(併せて
図1参照)、この範囲ではリップ角θ2が小さくなるにしたがって、リップ7の先端がリップ7の付け根の側辺5の先端より拡がり、開口部9の幅をより大きくすることから、構造用形鋼1を積み重ねた場合に生じる構造用形鋼1同士の間の空隙の大きさ(
図4の空隙断面積A参照)が急激に小さくなり、運搬性が向上するからである。
【0028】
次に、実施の形態1に係る構造用形鋼1のリップ7は、側辺5の延長線から辺角を挟んで互いに近づく側に、0°超、かつ、辺角θ1以下の角度のリップ角θ2を有して傾斜するものであるとする要件について、局部座屈強度の向上の観点での予備検討結果について、
図5を用いて説明する。
【0029】
図5は、リップ角θ2以外は実施の形態1に係る構造用形鋼1としての条件に相当する、辺角θ1が90°、板厚が6mm、側辺幅Bが300mm、リップ幅Cが60mmの構造用形鋼について、リップ角θ2を0°から180°まで条件を変化させた場合の局部座屈強度を計算した結果を示すものである。
図5に示すとおり、薄肉化した場合に発生する局部座屈に対して、実施の形態1に係る構造用形鋼1のリップ7を設けることによって、リップ角θ2が0°超、かつ、辺角θ1以下の角度の範囲で、リップ角θ2の増加に伴って側辺5の局部座屈強度を上昇させることができることが確認できる。さらに、θ2=30°~150°の範囲では局部座屈強度がほとんど低下せず、部材断面全体を効率よく活用できており、一般的に使用されるSS400材やSM490材の降伏強度を下回らないことが分かる。
【0030】
局部座屈強度は、板要素の幅と板厚との比である幅厚比が大きくなるに従って、荷重に抵抗できる断面(有効断面)とともに低下するが、リップ7を付加することでその低下を抑制できる。すなわち、薄肉化しても断面を効率的に機能させることも可能であることから、実施の形態によらず、例えば、板厚が9mm以下となるような比較的薄い断面に対してリップ7を付加させることが好適である。
【0031】
また、実施の形態1に係る構造用形鋼1は、リップ7の幅Cが、下記(1)式で求められる必要リップ幅Cmin以上であることが好ましい。構造用形鋼1の側辺幅B、板厚t、素材材質に応じて適切なリップ幅Cを選択できるからである。なお、ここでの必要リップ幅とは、「国土交通省国土技術政策総合研究所(監修),建築研究所(監修),日本鉄鋼連盟(編).薄板軽量形鋼造建築物設計の手引き.第2版,技報堂出版,2014,p.83」記載の要求リップ長さのことであり、次式から算出される。
【0032】
【数2】
ここで、Cminは要求リップ長さ(必要リップ幅)(mm)であり、Bはリップ山形鋼においてリップに直接接する側辺の板要素の幅(mm)であり、tは板厚(mm)であり、Fは鋼材等の種類及び品質に応じて国土交通大臣が定める基準強度(N/mm
2)(建築基準法施行令第90条、等参照。)のF値であり降伏点と引張り強さの70%とのうち小さい方とされるものである。
【0033】
実施の形態1に係る構造用形鋼1に用いる素材としては、特に限定されないが、耐食性鋼材を使用したり、耐食性を向上させる表面処理を施したりすることで、メンテナンス性をさらに向上させることができ好ましい。
【0034】
実施の形態1に係る構造用形鋼1の製造にあたっては、成形自由度の高いプレス成形加工やロールフォーミングなどの冷間加工を活用することで、平鋼板や薄鋼板コイルから任意の断面を製造することができる。このとき、テーラードブランク材のように鋼板の板厚が板面内で異なる素材を用いれば、構造用形鋼1の断面位置で板厚が異なっている構造用形鋼1を製造することもできる。このような構造用形鋼1を構造部材として用いる場合は、設計自由度も向上することになり好ましく、例えば、リップ7の板厚を側辺5の板厚よりも厚くすることは効果的に座屈強度を向上させることができる。
【0035】
実施の形態1に係る構造用形鋼1を、例えば、鉄塔、橋梁およびクレーン等のトラス構造体に適用する場合は、実施の形態1に係る構造用形鋼1は、開断面構造でありながら、構造部材として基本的な座屈耐力や曲げ強度等の構造性能を有していることから、トラス構造物のトラス構造の構成部材として好適に用いることができる。さらに、実施の形態1に係る構造用形鋼1は、トラス構造体を構築する前は、開断面構造であるため運搬性(保管時および輸送時の積み重ね性を含む)に優れた部材として好適に用いることができるだけでなく、トラス構造体を構築した後も、トラス構造体の構成部材が開断面構造であることから高いメンテナンス性を有するトラス構造体とすることができ好ましい。
【0036】
(実施の形態2)
図6は、実施の形態2に係る構造用形鋼1を示す断面図であり、
図6(a)は、辺角θ1が90°超120°以下の構造用形鋼1であり、
図6(b)は辺角θ1が60°以上90°未満の構造用形鋼1である。以下、
図6を参照して、実施の形態2に係る構造用形鋼1について説明する。
【0037】
図6に示すように、実施の形態2に係る構造用形鋼1は、2つの側辺5のそれぞれの先端から所定長さ位置にそれぞれ辺内屈曲部5cを設けて側辺5を辺角部3側の第1側辺5aと先端側の第2側辺5bに区分し、辺内屈曲部5cの屈曲角度を、辺角θ1およびリップ角θ2を維持しつつ、2つの第2側辺5bの延長線が互いに略直交する屈曲角度として、第2側辺5bを部材連結部とするものであり、その他の構成は実施の形態1と同様である。なお、上述のとおり、必要リップ幅Cminはリップに直接接する側辺の板要素の幅Bに対するものであるから、実施の形態2に係る必要リップ幅Cminは第2側辺5bに対して算出してもよい。この場合、第2側辺5bは側辺5の長さよりも当然短くなるので、必要リップ幅Cminも小さくなる。
【0038】
図7は、実施の形態2に係る構造用形鋼1がトラス構造体の代表例である(a)で示す送電鉄塔20に適用された実施例(c)、(d)を、実施の形態1に係る構造用形鋼1が同じく送電鉄塔20に適用された実施例(b)と対比しながら、(a)のA-A断面矢視で構造用形鋼1の部分を拡大して模式的に示した水平断面図で説明する図である。このような実施の形態2に係る構造用形鋼1は、
図7(c)、(d)に示すように、断面で略直交する部材連結部(第2側辺)5b(
図6参照)を有することで、水平断面が四角形の構造物の支柱、例えば送電鉄塔20の支柱(主柱材)22などに用いられる場合などで、水平材24や斜材26といった腹材28のような他の部材との連結が、
図7(b)の辺角θ1が90°の構造用形鋼1と同様に容易となり好ましい。
【0039】
また、辺角θ1が90°超120°以下の実施の形態2に係る構造用形鋼1は、辺角θ1が90°以下の構造用形鋼1と比較して開口部9が広くなることから、構造物のメンテナンス性を向上させることができるだけでなく、積み重ね方向での構造用形鋼1の重心位置が低くなり荷姿が安定するなど運搬性も向上させることができる。
【0040】
一方、辺角θ1が60°以上90°未満の実施の形態2に係る構造用形鋼1は、辺角θ1が90°以上の構造用形鋼1と比較して弱軸の断面二次モーメントが大きくなり構造部材として基本的な構造性能が高まり好ましい。
【符号の説明】
【0041】
1 構造用形鋼
3 辺角部
5 側辺
5a 第1側辺
5b 第2側辺(部材連結部)
5c 辺内屈曲部
7 リップ
9 開口部
20 送電鉄塔
22 支柱(主柱材)
24 水平材
26 斜材
28 腹材
50 建築用柱材
51、52、53、54 側壁板
55 開口部