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特開2023-144800鋼管矢板壁用継手セットおよびその製造方法ならびに鋼管矢板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144800
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】鋼管矢板壁用継手セットおよびその製造方法ならびに鋼管矢板
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/14 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
E02D5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051947
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】籾山 嵩
(72)【発明者】
【氏名】妙中 真治
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】柳 悦孝
(72)【発明者】
【氏名】澤石 正道
【テーマコード(参考)】
2D049
【Fターム(参考)】
2D049EA01
2D049EA02
2D049EA03
2D049FB03
2D049FB14
2D049FC01
(57)【要約】
【課題】打設時の継手の耐損傷性を向上させつつ作業効率を高めることのできる、鋼管矢板壁用継手セットおよびその製造方法ならびに鋼管矢板を提供する。
【解決手段】本発明は、先行継手と後行継手とからなる鋼管矢板壁用継手セットであって、前記後行継手が、断面形状で、先行継手側先端が開口する円形状または多角形状の嵌合部と、該嵌合部から直線状に延びるアーム部と、該アーム部の先端に二股状に延びる溶接部とを有し、前記先行継手が、断面形状で、後行継手の嵌合部と緩嵌する円形状または多角形状の内部空間と、後行継手のアーム部と緩嵌する側面開口部とを有してなる嵌合部を有するものであり、また、この様な継手セットは熱間押出し成形して製造され、また、前記先行継手および前記後行継手を、矢板鋼管の長手方向に沿って溶接接合して鋼管矢板とされる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行継手と後行継手とからなる鋼管矢板壁用継手セットであって、
前記後行継手は、断面形状で、前記先行継手側先端が開口する円形状または多角形状の嵌合部と、該嵌合部から直線状に延びるアーム部と、該アーム部の先端に二股状に延びる溶接部とを有し、
前記先行継手は、断面形状で、前記後行継手の嵌合部が緩嵌する円形状または多角形状の内部空間と、前記後行継手のアーム部が緩嵌する側面開口部とを有してなる嵌合部を有する、鋼管矢板壁用継手セット。
【請求項2】
前記先行継手の嵌合部の内周面の前記側面開口部の近傍位置または前記後行継手の嵌合部の外周面の前記アーム部近傍位置に、嵌合面封止用突起を有する、請求項1に記載の鋼管矢板壁用継手セット。
【請求項3】
前記先行継手は、前記嵌合部の側面から断面形状で直線状に延びるアーム部と、該アーム部の先端に二股状に延びる溶接部とをさらに有する、請求項1または請求項2に記載の鋼管矢板壁用継手セット。
【請求項4】
前記先行継手と前記後行継手とが嵌合した状態で、前記先行継手の嵌合部の位置と、前記後行継手の嵌合部の位置とが、所定の許容変動範囲内に入るようにする、位置調整用突起が、前記後行継手のアーム部の2つの板面のいずれか一方または双方の板面であって、前記先行継手の嵌合部の側面開口部を挟んで、前記後行継手の嵌合部に近接する板面の位置に配設される、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の鋼管矢板壁用継手セット。
【請求項5】
前記先行継手の嵌合部をなす鋼管が、長手方向に所定間隔で窪みを有する鋼管、または、長手方向および周方向にそれぞれ所定間隔で窪みを有する鋼管である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の鋼管矢板壁用継手セット。
【請求項6】
前記嵌合部、前記アーム部、および、前記溶接部のそれぞれの任意の断面位置でのビッカース硬度の平均値HAと、
前記嵌合部と前記アーム部との接続部、および、前記アーム部と前記溶接部との接続部のそれぞれの断面におけるビッカース硬度の平均値HBとが、
0.9≦HA/HB≦1.1を満足する、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の鋼管矢板壁用継手セット。
【請求項7】
前記請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の鋼管矢板壁用継手セットを構成する前記先行継手および前記後行継手のいずれか一方または双方を、それぞれの断面形状に機械加工したダイスを通して熱間押出し成形して製造する工程を含む、鋼管矢板壁用継手セットの製造方法。
【請求項8】
前記請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の鋼管矢板壁用継手セットが溶接接合された、鋼管矢板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管矢板壁を構成する鋼管同士を接続する鋼管矢板壁用継手セット、およびその製造方法、ならびにその鋼管矢板壁用継手セットが配設された鋼管矢板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、河川や海岸の護岸、土留め壁等を構築する手段の一つに、複数本の鋼管を連続して打設することにより構成する鋼管矢板構造が使用されている。鋼管矢板は、鋼管に継手を溶接により取り付けた部材であり、鋼管同士を連結することで壁体構造を構築することができる。さらに、鋼管矢板は、鋼管径や板厚、継手の取り付け位置を変化させることで、壁体の剛性や平面的な配置箇所を自由に設定できる点や、鋼管の支持力を活かして基礎構造としても利用できる点などに特長がある。
【0003】
鋼管矢板の継手としては、従来、大きく3種類の組み合わせの継手(L-T継手、P-P継手、P-T継手)が使用されている。継手内には止水性の確保やせん断耐力の向上を目的としてモルタル等の充填材を充填する場合があり、その際には、鋼管矢板の打設後に継手内を洗浄し、その後、トレミー管を継手内空部に挿入してモルタル等の充填材を充填する、という手順が一般的に採用される。
【0004】
ここで、P-T継手を有する鋼管矢板の一般的な継手部の構造と簡単な打設手順について、特許文献1に記載の継手部の構造を図5に示して説明する。なお図5において、従来技術に係る継手では遮水板59がなく、特許文献1に記載の発明では遮水板59を採用するものである。一般的なP-T継手50を有する鋼管矢板51、56は、先行継手(継手パイプ)53と後行継手(CT形鋼)58とが、1本の矢板鋼管52、57の周方向の2箇所で長手方向全長に渡って溶接接合されて1本の鋼管矢板51、56とされる。次に、鋼管矢板51、56の地盤への打設手順について、先行する鋼管矢板51を打設した後からの工程で説明する。後行の鋼管矢板56は、先行継手(継手パイプ)53の開口部55を利用して、後行継手58を先行継手(継手パイプ)53の内部空間54に嵌合させながら、先行の鋼管矢板51と同等の地盤深さまで打設される。
【0005】
次に、図5を用いて、従来技術に係るP-T継手を有する鋼管矢板の問題点について説明する。上記のとおり、先行継手の継手パイプ53には、後行継手(CT形鋼)58の基部挿入用のスリット状の開口部55が設けられている。そのため、鋼管矢板51、56打設の際の継手パイプ53底部の掘削工程の間、および打設後の継手パイプ53内部の洗浄工程の間に、この開口部55から周辺の泥土および泥水が継手パイプ53内に流入してしまう。このことが、充填材60の充填の前に必要となる継手パイプ53の内部からの排土および内部洗浄等の作業の効果を著しく減少させるため、大きな問題であった。このような問題に対し、特許文献1に記載の発明は、図5に示すように、遮水板59をCT形鋼58に設けて、開口部55から、継手パイプ53の内部空間54への泥水および泥土の流入を遮断しようとするものである。
【0006】
また、鋼管矢板の打設後に行われる、ウォータージェットやエアーリフターによる継手内洗浄作業は、その作業そのものに多大な時間を要することや、深度が大きい場合には土砂を完全に洗浄するのが難しいことが問題であった。このような問題に対する解決手段として、例えば、特許文献2に、鋼管矢板の継手ではないがこれに類似する遮水パネルの継手が開示されている。具体的には、特許文献2に記載の発明は、図6に示すように、先行打設される遮水パネル70の遮水パネル本体71に添接される継手パイプ72には、その側面に設けられる後行継手嵌合のためのスリット状開口部73を封止する開口部封止板74が溶接接合されている。さらに、特許文献2に記載の発明では、継手パイプ72の下端に、土砂流入防止用の蓋部材75が設置されている。このような特許文献2に記載の発明によれば、後行の遮水パネル70の打設時に、後行継手が先行継手の開口部封止板74を切断しながら先行継手に嵌合されるようにすることで、遮水パネルの継手部内への土砂の侵入を防止して、止水材が所定の止水性能を発揮することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-055958号公報
【特許文献2】特開2008-014004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、図7に示すとおり、先行継手(継手パイプ)53の内部空間54のうち後行継手(CT形鋼)58の嵌合部が占める空間が、トレミー管の挿入を阻害する範囲82として広く占めてしまうために、トレミー管が挿入可能な範囲(内接円)80が小さくなってしまうなどして、モルタル充填作業の時間が増加するという問題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載の発明のような、継手パイプ72の下端に土砂流入防止用の蓋部材75を設置する発明を鋼管矢板の継手に適用する場合は、鋼管矢板の打設時に地盤から継手が受ける抵抗力が蓋部材の面積に応じて増加するため、継手の変形や損傷が生じる危険性が高まるという問題があった。
【0010】
このように、鋼管矢板の継手に要求される継手断面は、モルタル等の充填材の充填作業の作業性からは大型化が求められ、地盤からの抵抗を考慮した打設性からは小型化が求められるといった相反した問題をはらんでおり、その両立は難しいという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、継手の断面積を大きくすることなく継手の内部空間を最大化することにより、打設時の継手の耐損傷性を向上させつつ作業効率を高めることのできる、鋼管矢板壁用継手セットおよびその製造方法、ならびにその鋼管矢板壁用継手セットが配設された鋼管矢板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]先行継手と後行継手とからなる鋼管矢板壁用継手セットであって、
前記後行継手は、断面形状で、前記先行継手側先端が開口する円形状または多角形状の嵌合部と、該嵌合部から直線状に延びるアーム部と、該アーム部の先端に二股状に延びる溶接部とを有し、前記先行継手は、断面形状で、前記後行継手の嵌合部が緩嵌する円形状または多角形状の内部空間と、前記後行継手のアーム部が緩嵌する側面開口部とを有してなる嵌合部を有する、鋼管矢板壁用継手セット。
【0013】
[2]前記先行継手の嵌合部の内周面の前記側面開口部の近傍位置または前記後行継手の嵌合部の外周面の前記アーム部近傍位置に、嵌合面封止用突起を有する、[1]に記載の鋼管矢板壁用継手セット。
【0014】
[3]前記先行継手は、前記嵌合部の側面から断面形状で直線状に延びるアーム部と、該アーム部の先端に二股状に延びる溶接部とをさらに有する、[1]または[2]に記載の鋼管矢板壁用継手セット。
【0015】
[4]前記先行継手と前記後行継手とが嵌合した状態で、前記先行継手の嵌合部の位置と、前記後行継手の嵌合部の位置とが、所定の許容変動範囲内に入るようにする、位置調整用突起が、前記後行継手のアーム部の2つの板面のいずれか一方または双方の板面であって、前記先行継手の嵌合部の側面開口部を挟んで、前記後行継手の嵌合部に近接する板面の位置に配設される、[1]~[3]のいずれかに記載の鋼管矢板壁用継手セット。
【0016】
[5]前記先行継手の嵌合部をなす鋼管が、長手方向に所定間隔で窪みを有する鋼管、または、長手方向および周方向にそれぞれ所定間隔で窪みを有する鋼管である、[1]~[4]のいずれかに記載の鋼管矢板壁用継手セット。
【0017】
[6]前記嵌合部、前記アーム部、および、前記溶接部のそれぞれの任意の断面位置でのビッカース硬度の平均値HAと、前記嵌合部と前記アーム部との接続部、および、前記アーム部と前記溶接部との接続部のそれぞれの断面におけるビッカース硬度の平均値HBとが、0.9≦HA/HB≦1.1を満足する、[1]~[5]のいずれかに記載の鋼管矢板壁用継手セット。
【0018】
[7]前記[1]~[6]のいずれかに記載の鋼管矢板壁用継手セットを構成する前記先行継手および前記後行継手のいずれか一方または双方を、それぞれの断面形状に機械加工したダイスを通して熱間押出し成形して製造する工程を含む、鋼管矢板壁用継手セットの製造方法。
【0019】
[8]前記[1]~[6]のいずれかに記載の鋼管矢板壁用継手セットが溶接接合された、鋼管矢板。
【発明の効果】
【0020】
本発明の構成によれば、継手の断面積を大きくすることなく継手の内部空間を最大化することにより、鋼管矢板の打設時の継手の耐損傷性を向上させつつ作業効率を高めることのできる鋼管矢板壁用継手セットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施の形態1に係る鋼管矢板壁用継手セット1を断面図で示す図である。
図2】実施の形態1に対する変形例に係る鋼管矢板壁用継手セット2を断面図で示す図である。
図3】実施の形態2に係る鋼管矢板壁用継手セット3を断面図で示す図である。
図4】実施の形態3に係る鋼管矢板壁用継手セット4を断面図で示す図である。
図5】従来技術に係る遮水板をCT形鋼に設けた鋼管矢板のP-T継手の構造を断面図で示す図である。
図6】従来技術に係る継手パイプの下端に土砂流入防止用の蓋部材を設置した構造を斜視図で示す図である。
図7】従来技術に係る鋼管矢板のP-T継手におけるトレミー管の挿入可能範囲を断面図で説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。以下に示す実施の形態においては、鋼管矢板壁を構成する鋼管矢板の隣合う1対を接続する、先行継手と後行継手とからなる鋼管矢板壁用継手セット(以下、単に継手セットともいう。)を説明するものである。併せて、適宜、このような継手セットが配設された鋼管矢板の打設性や、鋼管矢板壁の継手の遮水性(止水性ともいう)等についても説明を加える。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。また、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る鋼管矢板壁用継手セット1の先行継手10と後行継手20とが嵌合された状態を、長手方向に垂直な断面で示す断面図である。なお、図1では、鋼管矢板壁用継手セット1が溶接接合される矢板鋼管については図示を省略している。
【0024】
実施の形態1に係る鋼管矢板壁用継手セット1は、
先行継手10と後行継手20とからなる鋼管矢板壁用継手セット1であって、
後行継手20は、断面形状で、先行継手側先端が開口する円形状または多角形状の嵌合部22と、該嵌合部22から直線状に延びるアーム部26と、該アーム部26の先端に二股状に延びる溶接部28とを有し、
先行継手10は、断面形状で、後行継手20の嵌合部22と緩嵌する円形状または多角形状の内部空間30と、後行継手20のアーム部26と緩嵌する側面開口部14とを有してなる嵌合部12を有するものである。
【0025】
このような先行継手10および後行継手20が、鋼管矢板用の鋼管(以下、単に鋼管または矢板鋼管ともいう。)の側面で鋼管断面周方向の2つの位置に、それぞれ矢板鋼管の全長に渡って溶接接合されて鋼管矢板とされる。さらに、このような鋼管矢板を連続的に打設していきつつ、継手の内部空間に止水材を充填していくことで、止水性を有する鋼管矢板壁が構築される。
【0026】
後行継手20は、断面形状で、先行継手側先端が開口する円形状または多角形状の嵌合部22を有する。嵌合部22の先行継手側先端が開口する断面形状とすることで、継手セット1の嵌合状態での内部空間30を、先行継手10の内部空間と後行継手の内部空間とが連通して一体的な内部空間とすることができる。さらに、この内部空間30にモルタル等の充填材を充填することで、継手の高いせん断耐力と高い止水性が得られる。なお、嵌合部22の円形状または多角形状の断面形状については、後述する先行継手10の嵌合部12と併せて説明する。
【0027】
また、後行継手20は、断面形状で、嵌合部22から直線状に延びるアーム部26を有する。このようなアーム部26が存在することにより、鋼管矢板壁の延長方向での継手の幅当たり鋼重を低減することも可能となる。
【0028】
後行継手20は、アーム部26の先端に二股状に延びる溶接部28を有する。二股状に延びる溶接部28とすることにより、従来のP-T継手でのCT形鋼の矢板鋼管との接合部と比較して(図5参照)、両側の溶接部同士の間隔を拡げることができるため、溶接施工が容易になる。さらに、両側の溶接部同士の間隔が拡がることにより、溶接熱変形の抑制等の溶接品質の向上の効果も得られる。なお、溶接部の形状は、想定される矢板鋼管との溶接方法(フレア溶接または隅肉溶接)を実施可能である形状とする。
【0029】
先行継手10は、断面形状で、後行継手20の嵌合部22(外周面23)と緩嵌する円形状または多角形状の内部空間30(内周面13)を有してなる嵌合部12を有する。すなわち、先行継手10と後行継手20とは、断面形状でともに円形状または多角形状を有し、また、相互に緩く嵌合(緩嵌)する、形状と大きさの相互関係を有する嵌合部12、22を有する。そのため、従来のP-T継手と比較して(図5参照)、継手の断面積を大きくすることなく内部空間30を最大化することができる。その結果、挿入可能なトレミー管の径を最大化することができて、モルタル等の充填材の充填作業の効率を高めることができる。
【0030】
また、先行継手10と後行継手20との嵌合部が、このような形状と大きさの相互関係を有することで、従来のP-T継手と比較して(図5参照)、先行継手10の嵌合部12の内周面13と後行継手20の嵌合部22の外周面23との間の経路長が増加する。そのため、モルタル等の充填材を充填する場合は、鋼管矢板の打設の際の固化前の充填材の流出を抑制する効果が発揮されることになる。また、モルタルを充填しない場合であっても、経路長の増加により止水性を向上させる副次的な効果が発揮される。なお、浸透経路に水流により運ばれた土砂が詰まることによっても止水性が向上すると考えられる。
【0031】
また、先行継手10の嵌合部12は、断面形状で、後行継手20のアーム部26が緩嵌する側面開口部14を有する。この側面開口部14は、後行継手20のアーム部26が緩嵌されて隣接する鋼管矢板同士が連結されるために必要なものである。なお、鋼管矢板の長手方向に垂直な断面での、先行継手10の嵌合部12の矢板鋼管への溶接接合位置と側面開口部14の開口位置との関係の調整により、鋼管矢板壁の延伸方向を調整することができる。
【0032】
ここで、後行継手20の嵌合部側の先端は、断面形状で、嵌合部22の先端が開口していない円形状または多角形状を想定した図形の図心位置よりも先まで出た形状であることが、嵌合位置の調整を容易とするため好ましい。このような後行継手20が先行継手10に嵌合された場合は、後行継手20の嵌合部側の先端部は、先行継手10の嵌合部内周面13に当接して深く入り込むことはなく、その結果として内部空間30の断面積が低減されることを抑制できるからである。
【0033】
先行継手10の嵌合部12をなす鋼管は、図示は省略するが、長手方向に所定間隔で窪みを有する鋼管(段付鋼管)、または、長手方向および周方向にそれぞれ所定間隔で窪みを有する鋼管(ディンプル鋼管)としてもよい。この場合は、鋼管の表面積の増加によりモルタルの付着力が向上し、先行継手10とする鋼管のせん断耐力を著しく向上させることができるからである。
【0034】
次に、実施の形態1に係る鋼管矢板壁用継手セット1の製造方法、およびその製造方法により製造された鋼管矢板壁用継手セット1の材質について説明する。
【0035】
実施の形態1に係る鋼管矢板壁用継手セット1の製造方法は、特に限定されず、例えば、鋼管と帯板との溶接等の一般的な工程を経て製造することができる。ただ、このようにして製造された継手セット1は、製造時においては溶接熱による各部位の変形が生じる可能性がある。また、このような継手セット1は、製造時に生じる溶接熱影響部などで局所的に靱性が低くなった部位付近が、使用時や施工時において破壊の起点となる可能性もある。
【0036】
そこで、実施の形態1に係る継手セット1の好ましい製造方法として、先行継手10および後行継手20のいずれか一方または双方を、それぞれの断面形状に機械加工したダイスを通して熱間押出し成形して製造する製造方法が挙げられる。このようにして製造される継手セット1は、機械加工および溶接等を併用することなく、最終的な断面形状の継手構造を製造することができる。また、熱間押出し成形によれば、基本的な継手構造に加えて、必要に応じて付加的な突起部の付与や表面形状の変更等を行うことも可能である。このように、熱間押出し成形によれば、一般的な機械加工と溶接等を組み合わせた従来の製造方法と比較して、加工費を低減することも可能である。
【0037】
このような好ましい製造方法である熱間押出し成形により一体的に製造される継手セット1では、強度(硬度)や靭性等の材質が、嵌合部12、22、アーム部16、26、および、溶接部18、28の各部位と、各部位同士の接続部で概ね同程度となり、一般的な機械加工と溶接等により製造される継手セット1のような局所的に強度(硬度)が変化したり靱性が低くなる部位等がない。
【0038】
実施の形態1に係る継手セット1が熱間押出し成形により製造されたものであるか否かは、継手全体で概ね均一な材質であるか否かを確認すればよく、具体的には次のような材質試験により確認することができる。すなわち、試験対象の実施の形態1に係る鋼管矢板壁用継手セット1について、嵌合部12、22、アーム部16、26、および、溶接部18、28のそれぞれの任意の断面位置でのビッカース硬度の平均値HAを求める。さらに、嵌合部12、22とアーム部16、26との接続部、および、アーム部16、26と溶接部18、28との接続部のそれぞれの断面におけるビッカース硬度の平均値HBを求める。そしてこれらのHAとHBとが、0.9≦HA/HB≦1.1を満足するか否かにより実施の形態1に係る継手セット1の製造方法を確認することができる。
【0039】
(変形例)
図2は、実施の形態1に対する変形例に係る鋼管矢板壁用継手セット2を示す断面図である。図1および図2を参照して、変形例に係る継手セット2について説明する。
【0040】
図2に示すように、変形例に係る継手セット2は、図1に示す実施の形態1に係る継手セット1と比較した場合に、嵌合面封止用突起32が配設されている点で相違する。その嵌合面封止用突起32が配設される位置は、先行継手10の嵌合部12の内周面13の側面開口部14近傍位置、または後行継手20の嵌合部22の外周面23のアーム部26の近傍位置である。その他の構成については、実施の形態1とほぼ同様である。
【0041】
以上のように構成される場合であっても、変形例に係る継手セット2は、実施の形態1に係る継手セット1とほぼ同様の効果が得られる。
【0042】
加えて、所定の位置に嵌合面封止用突起32が配設されていることにより、鋼管矢板の打設時のモルタル等の充填材の固化前の流出の抑制や、鋼管矢板壁使用時の止水性向上をより確実にする副次的な効果を発揮させることができる。
【0043】
なお、継手セット2への嵌合面封止用突起32の配設方法については、図1に示すような継手セット1に鋼線材を溶接により配設する等の一般的な製造方法により製造することができる。しかし、熱間押出し成形は、形状の自由度が極めて高い特長を有しており、継手セット2への嵌合面封止用突起32の配設方法についても、好ましい製造方法として採用することができる。すなわち、熱間押出し成形によれば、嵌合面封止用突起32が配設される所定の位置に当たるダイスの位置に嵌合面封止用突起32の断面形状を追加的に付与することができ、材料費および加工費を大きく増加させることなく、継手全体で概ね均一な材質を有する継手セット2を製造することができ好ましい。
【0044】
(実施の形態2)
図3は、実施の形態2に係る鋼管矢板壁用継手セット3を示す断面図である。図1および図3を参照して、実施の形態2に係る継手セット3について説明する。
【0045】
図3に示すように、実施の形態2に係る継手セット3は、実施の形態1に係る継手セット1と比較した場合に、先行継手10に、嵌合部12の側面から断面形状で直線状に延びるアーム部16と、該アーム部の先端に二股状に延びる溶接部18とがさらに設けられている点において相違する。その他の構成については、実施の形態1とほぼ同様である。なお、先行継手10のアーム部16、溶接部18の寸法や形状は、後行継手20のアーム部26、溶接部28の寸法や形状と同一である必要はない。
【0046】
以上のように構成される場合であっても、実施の形態2に係る継手セット3は、実施の形態1に係る継手セット1とほぼ同様の効果が得られる。
【0047】
加えて、先行継手10に、嵌合部12の側面から断面形状で直線状に延びるアーム部16と、該アーム部の先端に二股状に延びる溶接部18とをさらに設けるようにすることで、先行の鋼管矢板の矢板鋼管への先行継手10の溶接施工が、実施の形態1に係る継手セット1の場合と比較して、格段に容易になる。さらに、アーム部16により嵌合部12から溶接位置を離隔させることができるため、嵌合部12への溶接熱変形の影響を軽減させる効果も得られる。
【0048】
継手セット3の製造方法については、実施の形態1に係る継手セット1と同様に、一般的な機械加工および溶接等を組み合わせた製造方法と、熱間押出し成形による製造方法とのいずれも採用することができる。
【0049】
(実施の形態3)
図4は、実施の形態3に係る鋼管矢板壁用継手セット4を示す断面図である。図2および図4を参照して、実施の形態3に係る継手セット4について説明する。
【0050】
図4に示すように、実施の形態3に係る継手セット4は、実施の形態1に対する変形例に係る継手セット2と比較した場合に、位置調整用突起34が配設されている点において相違する。位置調整用突起34の配設位置は、後行継手20のアーム部26の片面または両面の、先行継手10の嵌合部12の側面開口部14を挟んで、後行継手20の嵌合部12に近接する位置である。これにより、先行継手10と後行継手20とが嵌合した状態で、先行継手10の嵌合部12の位置と、後行継手20の嵌合部22の位置とが、所定の許容変動範囲内に入るようにすることができる。その他の構成については、実施の形態1に対する変形例とほぼ同様である。
【0051】
以上のように構成される場合であっても、実施の形態3に係る継手セット4は、実施の形態1に対する変形例に係る継手セット2とほぼ同様の効果が得られる。加えて、先行継手10と後行継手20とが嵌合した状態で、先行継手10の嵌合部12の位置と、後行継手20の嵌合部22の位置とが、所定の許容変動範囲内に入るようにすることが、実施の形態1に対する変形例に係る継手セット2の場合と比較して、格段に容易になる。
【0052】
さらに、継手セット1、2、3の場合は、継手嵌合状態で、後行継手20を先行継手10の嵌合部12内に深く入り込ませないためには、後行継手20の嵌合部側の先端は、断面形状で、嵌合部22の先端が所定の図形の図心位置よりも先まで出た形状であることが好ましいとしていたが、実施の形態3に係る継手セット4ではこのような懸念がない。なぜなら、継手セット4では位置調整用突起34を設けているので、このような観点で嵌合部22の形状が限定されないからである。そのため、継手セット4では、継手セットとしての機能が担保される限りにおいて、図4で示すような小型化した嵌合部22として、継手の内部空間30を最大化することができ、ひいては挿入可能なトレミー管の径を最大化することができて、モルタル等の充填材の充填作業の効率をさらに高めることができる。
【0053】
継手セット4の製造方法については、実施の形態1の変形例に係る継手セット2と同様に、一般的な機械加工および溶接等を組み合わせた製造方法と、熱間押出し成形による製造方法とのいずれも採用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1、2、3、4 鋼管矢板壁用継手セット(継手セット)
10 先行継手
12 嵌合部
13 内周面
14 側面開口部
16 アーム部
18 溶接部
20 後行継手
22 嵌合部
23 外周面
26 アーム部
28 溶接部
30 内部空間
32 嵌合面封止用突起
34 位置調整用突起
50 継手(P-T継手)
51 鋼管矢板
52 矢板鋼管
53 先行継手(継手パイプ)
54 内部空間
55 開口部
56 鋼管矢板
57 矢板鋼管
58 後行継手(CT形鋼)
59 遮水板
60 充填材
70 遮水パネル
71 遮水パネル本体
72 先行継手パイプ
73 スリット状開口部
74 開口部封止板
75 蓋部材
80 トレミー管挿入可能範囲(内接円)
82 トレミー管挿入阻害範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7