(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144804
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】磁性基体及びその製造方法、並びにコイル部品及び回路基板
(51)【国際特許分類】
H01F 27/255 20060101AFI20231003BHJP
C04B 35/30 20060101ALI20231003BHJP
H01F 1/36 20060101ALI20231003BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20231003BHJP
H01F 27/06 20060101ALI20231003BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
H01F27/255
C04B35/30
H01F1/36
H01F17/04 F
H01F27/06 103
H01F41/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051953
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(72)【発明者】
【氏名】草田 隆良
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 健二
(72)【発明者】
【氏名】浅子 典弘
【テーマコード(参考)】
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
5E041AB01
5E041AB19
5E041BD01
5E041CA02
5E041HB05
5E041HB15
5E041NN06
5E070AA01
5E070AB02
5E070AB03
5E070BA03
5E070BB01
5E070DB02
5E070EB03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】回路基板が変形した際に破壊しにくく、かつ、透磁率が高い磁性基体及びその製造方法並びにコイル部品及び回路基板を提供をする。
【解決手段】磁性基体10aは、Ni及びZnを含有するフェライトで形成された焼結粒子を含み、構成元素としてさらにBiを含み、表面からの距離が、最大寸法の10%以内にある部分を表面部11aとし、該表面部の内部に位置する部分を中央部12aとしたときに、表面部における焼結粒子の平均粒径に対する、中央部における焼結粒子の平均粒径の比が1.3以上となる焼結体で形成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni及びZnを含有するフェライトで形成された焼結粒子を含み、
構成元素としてさらにBiを含み、
表面からの距離が、最大寸法の10%以内にある部分を表面部とし、該表面部の内部に位置する部分を中央部としたときに、前記表面部における焼結粒子の平均粒径に対する、前記中央部における焼結粒子の平均粒径の比が1.3以上となる
焼結体で形成された磁性基体。
【請求項2】
前記フェライトがさらにCuを含有する、請求項1に記載の磁性基体。
【請求項3】
前記焼結体が、鍔部と軸部とを有するドラム形状を有する、請求項1又は2に記載の磁性基体。
【請求項4】
前記鍔部の厚みが、該厚みを除く焼結体10aの外形寸法の最小値の1/3以下である、請求項3に記載の磁性基体。
【請求項5】
Ni及びZnを含有するフェライトと酸化ビスマスとを含む原料粉末を準備すること、
前記原料粉末を成形し、表面からの距離が、最大寸法の10%以内にある部分を表面部とし、該表面部の内部に位置する部分を中央部としたときに、前記中央部の密度に対する前記表面部の密度の比が0.98以下となる成形体を得ること、並びに
前記成形体を焼成して焼結体を得ること
を含む、磁性基体の製造方法。
【請求項6】
前記成形体を、鍔部と軸部とを有するドラム形状とする、請求項5に記載の磁性基体の製造方法。
【請求項7】
前記鍔部の厚みを、該厚みを除く成形体の外形寸法の最小値の1/3以下とする、請求項6に記載の磁性基体の製造方法。
【請求項8】
前記軸部の密度に対する前記鍔部の密度の比を0.95以下とする、請求項6又は7に記載の磁性体の製造方法。
【請求項9】
請求項1から4のいずれか1項に記載の磁性基体、
前記磁性基体の周囲に巻回された導体、及び
前記磁性基体の表面に設けられ、前記導体と電気的に接続された外部電極
を備えるコイル部品。
【請求項10】
請求項9に記載のコイル部品を実装した回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性基体及びその製造方法、並びにコイル部品及び回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品及びこれを実装した回路基板の用途拡大に伴い、種々の環境下で高い性能を発揮する電子部品が求められている。例えば、自動車用途の電子部品には、耐湿性、及び振動や衝撃に耐える機械的強度に加え、広い温度範囲(例えば、-40℃から150℃)で安定して動作することが求められる。電子部品は、回路基板に実装して使用されるため、振動や衝撃、及び温度変化に伴う膨張収縮等によって回路基板が変形した場合に、該変形に起因した応力が発生することとなる。このため、電子部品には、こうした応力によって破壊しないことも求められる。
【0003】
電子部品の中でも、フェライト焼結体製の磁性基体を有するコイル部品は、圧縮応力に対しては高い強度を示すものの、引張応力に対する強度は相対的に低い。このため、回路基板の変形に伴って磁性基体中に発生する引張応力により、クラックを生じて破壊することが懸念される。そこで、磁性基体中に発生する引張応力を緩和するための試みがなされている。
【0004】
例えば、特許文献1、2にはそれぞれ、Fe2O3、ZnO、CuO及びNiOからなるフェライト材料に、0.03wt%、0.06wt%、0.1wt%、0.3wt%、0.6wt%、1.0wt%、2.0wt%又は3.0wt%のBi2O3を含むフェライト材料が開示されている。
【0005】
また、Fe2O3、ZnO、CuO及びNiOからなる主成分に対して、さらにBi2O3を含むフェライトとして、特許文献3には、主成分に対して0.25質量%、0.3質量%又は0.5質量%のBi2O3を含むものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4-323806号公報
【特許文献2】特開平4-325458号公報
【特許文献3】特開2011-18913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、磁性基体を構成する上記組成のフェライトの結晶粒径が20~60μmであれば、優れた耐熱衝撃性を有するとしている。しかし、磁性基体が比較的結晶粒径の大きなフェライト粒子で形成されていることから、回路基板の変形に起因した破壊の抑制効果は限定的であった。
【0008】
特許文献2では、磁性基体を構成する上記組成のフェライトが、非晶質層で形成された厚み2~50nmの粒界を有するものであれば、優れた耐熱衝撃性を有するとしている。粒界に存在する非晶質層は、応力緩和層として機能し、回路基板の変形に起因した破壊の抑制に寄与する。しかし、粒界に存在する非晶質層の厚みが増すほど磁性基体の透磁率は低下するため、回路基板の変形に起因する破壊の抑制と高い透磁率とを両立することは困難であった。
【0009】
特許文献3では、主成分に対するBi2O3量が0.25質量%及び0.3質量%のフェライトの平均結晶粒径が、0.9~1.4μmであったことが報告されている。また、同文献では、主成分に対するBi2O3量が0.5質量%のフェライトの結晶組織が、粒径が30μm程度の結晶粒と1μm程度の結晶粒とが混在するものとなったことが報告されている。これらのフェライトでは、粒径の小さな結晶粒子の存在により磁区が小さくなり、透磁率が不十分となることが問題であった。
【0010】
本発明は、前述の問題点を鑑みてなされたものであり、回路基板が変形した際に破壊しにくく、かつ透磁率が高い磁性基体、及びこれを備えるコイル部品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前述の目的を達成するために種々の検討を行ったところ、磁性基体をNi-Zn系フェライト焼結体で形成すると共に、該焼結体の結晶粒子径を、表面近傍で小さく、内部で大きくなるように調整することで、前述の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、前述の課題を解決するための本発明の一側面は、Ni及びZnを含有するフェライトで形成された焼結粒子を含み、構成元素としてさらにBiを含み、表面からの距離が、最大寸法の10%以内にある部分を表面部とし、該表面部の内部に位置する部分を中央部としたときに、前記表面部における焼結粒子の平均粒径に対する、前記中央部における焼結粒子の平均粒径の比が1.3以上となる焼結体で形成された磁性基体である。
【0013】
また、本発明の他の一側面は、Ni及びZnを含有するフェライトと酸化ビスマスとを含む原料粉末を準備すること、前記原料粉末を成形し、表面からの距離が、最大寸法の10%以内にある部分を表面部とし、該表面部の内部に位置する部分を中央部としたときに、前記中央部の密度に対する前記表面部の密度の比が0.98以下となる成形体を得ること、並びに前記成形体を焼成して焼結体を得ることを含む、磁性基体の製造方法である。
【0014】
さらに本発明は、前記磁性基体、前記磁性基体の周囲に巻回された導体、及び前記磁性基体の表面に設けられ、前記導体と電気的に接続された外部電極を備えるコイル部品、並びに該コイル部品を備える回路基板を一側面として含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、回路基板が変形した際に破壊しにくく、かつ透磁率が高い磁性基体、及びこれを備えるコイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1側面に係る磁性基体における、断面の微細構造を示す模式図
【
図2】本発明の第1側面に係る磁性基体における、焼結粒子の粒径分布を示す説明図
【
図3】本発明の第1側面に係る磁性基体における、最大寸法s
maxを示す説明図
【
図4】本発明の第3の側面に係るコイル部品の構造を示す模式図
【
図5】本発明の第4の側面に係る回路基板の構造を示す断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の構成及び作用効果について、技術的思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。
【0018】
[磁性基体]
本発明の一側面に係る磁性基体(以下、単に「第1側面に係る磁性基体」と記載することがある。)は、
図1に模式的に示すように、Ni及びZnを含有するフェライトで形成された焼結粒子1を含み、構成元素としてさらにBiを含む焼結体10aで形成される。この焼結体10aは、焼結粒子1同士の界面に、界面層2を有していてもよい。そして、この焼結体10aは、表面からの距離が、最大寸法の10%以内にある部分を表面部11aとし、該表面部の内部に位置する部分を中央部12aとしたときに、前記表面部11aにおける焼結粒子1の平均粒径に対する、前記中央部12aにおける焼結粒子1の平均粒径の比が1.3以上となる。
【0019】
第1側面に係る磁性基体において、焼結粒子1を構成するフェライトは、構成元素としてFeの他にNi及びZnを含み、スピネル型の結晶構造を有するもので、Ni-Zn系フェライトと呼ばれている。また、前記各元素に加えてCuを含むものは、特にNi-Zn-Cu系フェライトと呼ばれることもある。Ni-Zn系フェライトの典型的な組成は、Fe2O3、NiO及びZnO換算で、これらの酸化物の合計を100mol%としたときに、47.3mol%以上49.8mol%以下のFe2O3、15.0mol%以上36.9mol%以下のNiO及び15.0mol%以上36.9mol%以下のZnOである。また、質量%で表示した場合のNi-Zn系フェライトの典型的な組成は、Fe2O3、ZnO、及びNiO換算で、これらの酸化物の合計を100質量%としたときに、64.4質量%以上67.4質量%以下のFe2O3、9.4質量%以上23.8質量%以下のNiO、及び10.4質量%以上25.6質量%以下のZnOである。さらに、Ni-Zn-Cu系フェライトの典型的な組成は、Fe2O3、NiO、ZnO及びCuO換算で、これらの酸化物の合計を100mol%としたときに、41.6mol%以上49.5mol%以下のFe2O3、13.3mol%以上36.5mol%以下のNiO、13.3mol%以上36.5mol%以下のZnO及び1.0mol%以上12.1mol%のCuOである。また、質量%で表示した場合のNi-Zn-Cu系フェライトの典型的な組成は、Fe2O3、ZnO、NiO及びCuO換算で、これらの酸化物の合計を100質量%としたときに、58.9質量%以上66.9質量%以下のFe2O3、8.6質量%以上23.6質量%以下のNiO、9.5質量%以上25.4質量%以下のZnO及び0.6質量%以上8.6質量%以下のCuOである。
【0020】
前述のNi-Zn系フェライト及びNi-Zn-Cu系フェライトにおいては、Fe2O3の含有割合が高くなると、磁性基体の比透磁率及び飽和磁束密度が向上する。また、これらのフェライトにおいては、ZnOに対するNiOの比率(NiO/ZnO)の変動により、磁性基体の比透磁率の大きさが変動する。さらに、Ni-Zn-Cu系フェライトにおいては、CuOの含有割合が高くなると、磁性基体の比透磁率が向上する。このように、第1側面におけるフェライトは、組成によって磁性基体の特性を調整可能なものである。
【0021】
焼結粒子1を構成するフェライトの組成は、以下の手順で決定する。まず、焼結体10aを、その体積を略等分する面で切断するか、その体積が略半分になるまで平面研削し、平滑な面を露出させる。次いで、露出した面にカーボンを蒸着し、導電性を付与して測定面とする。次いで、測定面を、エネルギー分散型X線分光器(EDS)又は波長分散型X線分光器(WDS)のいずれかを搭載した走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、暗部に囲まれて相対的に明るく見える領域である焼結粒子1を特定する。次いで、焼結粒子1の中央付近の任意の箇所について、含有する元素の種類及び量をEDS又はWDSを用いて測定・算出し、Fe、Ni、Zn及びCuの含有量から、Fe2O3、ZnO、NiO及びCuOの含有割合をmol%又は質量%で算出する。この測定・算出を5箇所について行って、各成分の含有割合の平均値を算出する。なお、一般的な製法で得られた焼結体においては、焼結粒子1の中央付近での各元素の含有割合は位置によらず一定であり、かつ異なる焼結粒子1間の各元素の含有割合には有意な差がないことが通常であるから、この場合の測定箇所は、1つの焼結粒子1内の複数個所としてもよく、異なる焼結粒子1から1箇所ずつ選択してもよい。最後に、算出された各平均値を、該各平均値の合計でそれぞれ除した後100倍し、前記各酸化物の合計を100%としたときの各酸化物の含有割合を算出し、これをフェライトの組成とする。
【0022】
第1側面に係る磁性基体において、焼結体10aは、構成元素としてさらにBiを含む。このことにより、焼結体10aの機械的強度が向上し、回路基板に実装した際に、該回路基板の変形に起因する破壊が発生しにくいコイル部品を形成することができる。Biの含有量は特に限定されないが、焼結体10aの機械的強度を顕著に高める点からは、前述したフェライトに対してBi2O3換算で0.04質量%を超え0.3質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上0.2質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
焼結体10aのBi含有量は、以下の方法で決定する。まず、上述したフェライトの組成の決定方法と同様の手順で、測定面を形成する。次いで、測定面の重心近傍に位置する50μm四方、又はこれ以上の面積を有する領域を、分析領域として決定する。次いで、分析領域に対してレーザーアブレーションICP質量分析(LA-ICP-MS)を用いてスポット分析し、Fe2O3、ZnO、NiO、CuO及びBi2O3の含有割合を質量%で算出する。この測定・算出を、異なる5箇所の分析領域について行って、各成分の含有割合の平均値を算出する。最後に、Fe2O3、ZnO、NiO及びCuOの含有割合の合計に対するBi2O3の含有割合の百分率を算出し、これをフェライトに対するBi2O3換算でのBi含有量とする。
【0024】
第1側面に係る磁性基体では、電気的絶縁性、機械的強度又は磁気的特性をさらに向上させるために、本発明の目的を達成できる範囲内で、上述した必須成分以外に種々の副成分を添加してもよい。
【0025】
第1側面に係る磁性基体では、焼結体中に、不可避不純物を数百ppm程度まで含むことが許容される。不可避不純物の例としては、B、C、S、Cl、Se、Br、Te、Iや、Li、Na、Mg、Al、K、Ga、Ge、Sr、In、Sn、Sb、Ba、Pb等の典型元素、並びにSc、Ti、V、Cr、Mn、Y、Nb、Mo、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta等の遷移元素が挙げられる。
【0026】
第1側面に係る磁性基体において、焼結体10aは、表面からの距離が、最大寸法の10%以内にある部分を表面部11aとし、該表面部の内部に位置する部分を中央部12aとしたときに、表面部11aにおける焼結粒子1の平均粒径に対する、中央部12aにおける焼結粒子1の平均粒径の比が1.3以上となる。すなわち、焼結体10aは、
図2に模式的に示すように、表面部11aに存在する焼結粒子1の粒径が小さく、中央部12aに存在する焼結粒子1の粒径が大きいものである。このことにより、回路基板に実装した際に、該回路基板の変形に起因する破壊が発生しにくいコイル部品が形成可能で、透磁率等の磁気的特性にも優れた磁性基体が得られる。これは、以下の作用機序によるものと推定される。焼結体10aの表面部11aは、コイル部品を形成して回路基板に実装した際に、回路基板の変形に起因して大きな引張応力が発生しやすい。このため、この部分に含まれる焼結粒子1の粒径が小さく、粒子界面の面積が大きいと、粒子界面の応力緩和作用によりクラックの発生が抑制される。他方、焼結体10aの中央部12aは、回路基板の変形に起因して生じる引張応力がさほど大きくないため、この部分に含まれる焼結粒子1の粒径が大きくても、クラックの発生リスクは限定的である。そして、焼結体10aの大部分を占める中央部12aが粒径の大きな焼結粒子1で形成され、大きな磁区を有することで、優れた磁気的特性を有する磁性基体となる。
【0027】
磁性基体を、回路基板に実装した際により破壊が発生しにくく、かつ磁気特性により優れたものとする点からは、表面部11aにおける焼結粒子1の平均粒径に対する、中央部12aにおける焼結粒子1の平均粒径の比は、3.0以上であることが好ましく、5.0以上であることがより好ましい。前記平均粒径の比の上限値は特に限定されないが、表面部11aと中央部12aとの界面に発生する応力に起因する磁性基体の破壊を効果的に抑制する点からは、9.5以下であることが好ましく、8.5以下であることがより好ましい。これらの理由から、前記平均粒径の比の好ましい範囲は、3.0以上9.5以下であり、より好ましい範囲は、5.0以上8.5以下である。
【0028】
焼結体10aの表面部11aに含まれる焼結粒子1の平均粒径は特に限定されないが、クラックの抑制作用を顕著なものとする点からは、1μm以上20μm以下であることが好ましい。また、前記平均粒径を有しつつ、20μm以上の焼結粒子1を含まないことが、より好ましい。焼結体10aの中央部12aに含まれる焼結粒子1の平均粒径も特に限定されないが、より優れた磁気的特性を得る点からは、30μm以上100μm以下であることが好ましい。また、前記平均粒径を有しつつ、100μm以上の焼結粒子1を含まないことが、より好ましい。
【0029】
焼結体10aの表面部11a及び中央部12aにおける焼結粒子1の平均粒径は、以下の手順で決定する。まず、
図3に示すように、磁性基体を構成する焼結体10aの表面に位置する任意の2点のうち、距離が最大となるものを決定し、その距離を最大寸法s
maxとする。次いで、上述したフェライトの組成の決定方法と同様の手順で、測定面を形成する。次いで、測定面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、測定面の外縁からの距離が(1/10)s
max以内にある表面部11a及びその内側に位置する中央部12aについてSEM像をそれぞれ取得する。次いで、得られたSEM像中に任意の直線を引き、該直線を各焼結粒子1の周縁で切り取った線分の長さ(該直線が焼結粒子1の周縁と交わる2点間の距離)を測定し、これをSEM像の倍率で割って得られる値を、該各焼結粒子1の粒径とする。この粒径を、表面部11a及び中央部12aのそれぞれにおいて、400個以上の焼結粒子1について算出する。なお、このとき、1つのSEM像中に観察される焼結粒子1の数が少ない場合には、観察位置を変えて取得した複数のSEM像から焼結粒子1の粒径を算出してもよい。また、1つのSEM像中に複数の直線を引くことで、粒径を算出する焼結粒子の数を増やしてもよい。ただし、この場合には、複数の直線は互いに平行なものとする。最後に、得られた各焼結粒子1の粒径の総和を、粒径を算出した焼結粒子1の個数で割り、得られた値を表面部11a及び中央部12aにおける平均粒径とする。
【0030】
第1側面に係る磁性基体において、焼結体10aは、鍔部と軸部とを有するドラム形状であることが好ましい。該形状の焼結体10aは、鍔部における表面部11aの割合が、軸部に比べて極端に高くなる。このため、表面部11aにおける焼結粒子1の平均粒径を小さくすることによる鍔部のクラック抑制作用と、中央部12aにおける焼結粒子1の平均粒径を大きくすることによる磁気的特性の向上作用とが顕著になる。これらの作用は、鍔部の厚みが、該厚みを除く焼結体10aの外形寸法の最小値の1/3以下である場合に特に顕著となる。
【0031】
[磁性基体の製造方法]
本発明の他の一側面に係る磁性基体の製造方法(以下、単に「第2側面に係る磁性基体の製造方法」と記載することがある。)は、Ni及びZnを含有するフェライトと酸化ビスマスとを含む原料粉末を準備すること、前記原料粉末を成形し、表面からの距離が、最大寸法の10%以内にある部分を表面部とし、該表面部の内部に位置する部分を中央部としたときに、前記中央部の密度に対する前記表面部の密度の比が0.98以下となる成形体を得ること、並びに前記成形体を焼成して焼結体を得ることを含む。
【0032】
第2側面に係る磁性基体の製造方法で原料粉末として用いるフェライトは、Ni、Zn及びFeを含有するものであれば、これらの他にCu等の他の成分を含むものであってもよい。該フェライトは、既製品を用いてもよく、私製して準備してもよい。以下、フェライトを私製する方法を説明する。
【0033】
フェライトの製造に使用する原料は、Fe、Ni及びZn、並びに任意成分としてのCuを含んでいれば特に限定されず、金属単体、合金、又は酸化物をはじめとする種々の化合物を使用できる。化合物としては、複合酸化物等の、前述した元素のうち複数種を含むものであってもよい。これらのうち、粒子形状及び粒径のバラツキが小さく、粒径の小さな粒子からなる粉末が容易に入手可能な点で、酸化物であるFe2O3、NiO、ZnO及びCuOの使用が好ましい。
【0034】
このとき使用する原料の粒径は特に限定されず、例えば、体積基準で測定した粒度分布から算出される平均粒径(メジアン径(D50))を0.1μm以上5μm以下とすることができる。平均粒径は、0.5μm以上3.5μm以下とすることが好ましく、0.5μm以上2.5μm以下とすることがより好ましく、0.5μm以上1.5μm以下とすることがさらに好ましい。平均粒径が前記下限値以上であることで、取り扱いが容易となる。他方、平均粒径が前記上限値以下であることで、合成されたフェライトが均一になりやすい。この平均粒径は、例えば、レーザー回折/散乱法を利用した粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0035】
これらの原料を、所期の組成のフェライトが生成する量比で配合・混合する。原料粉末の配合・混合方法は、不純物の混入を防ぎつつ各粉末が均一に混合されるものであれば特に限定されず、乾式混合、湿式混合のいずれを採用してもよい。ボールミルを用いた湿式混合を採用する場合には、例えば、混合時間を8時間以上24時間以下とすることができる。
【0036】
混合後の粉末を熱処理することで、フェライトが得られる。熱処理条件は、各原料が反応して所期の組成を有するNi-Zn系フェライトないしNi-Zn-Cu系フェライトが生成するものであれば限定されず、例えば空気中、500℃以上1000℃以下で、1時間以上2時間以下とすればよい。熱処理条件を決定するにあたっては、低温又は短時間では未反応の原料や中間生成物が残存する虞があること、及び高温又は長時間では成分の揮発により所期の組成の化合物が得られない虞や、生成物が固結して解砕しにくくなることで生産性が低下する虞があること、を考慮するとよい。
【0037】
前述の熱処理により得られた仮焼粉末が凝集している場合、酸化ビスマスと混合して原料粉末とすることに先立って、これを解砕することが好ましい。解砕は、仮焼粉末の凝集をくずして適度の焼結性を有する粉体とするために行われる。解砕は、振動ミル、ハンマーミル、ローラーミル等を用いて乾式で行ってもよいが、仮焼粉末が大きい塊を形成しているときには、粗粉砕を行ってからボールミルやアトライター等を用いて湿式にて行うことが好ましい。解砕は、仮焼粉末の平均粒径が0.5μm以上2μm以下となるまで、又は仮焼粉末のBET比表面積が2.0m2/g以上3.0m2/g以下となるまで行うことが、成形性、保形性及び焼結性の点で好ましい。
【0038】
第2側面に係る磁性基体の製造方法で、フェライトと共に原料粉末として用いる酸化ビスマスとしては、Bi2O3が挙げられる。
【0039】
フェライト及び酸化ビスマスは、所定の量比で混合して原料粉末とする。このとき、他の成分を混合してもよい。混合方法は、上述したフェライトを私製する場合と同様のものが採用できる。
【0040】
第2側面に係る磁性基体の製造方法では、原料粉末を成形して成形体を得る。このとき、成形体表面からの距離が、該成形体の最大寸法の10%以内にある部分の、前記表面部の内側にある部分に対する密度比、すなわち表面部の中央部に対する密度比が、0.98以下となるように成形する。このような密度比を有する成形体を得ることで、焼成を経て製造される磁性基体が、表面部に存在する焼結粒子の粒径が小さく、中央部に存在する焼結粒子の粒径が大きいものとなる。表面部と中央部の焼結粒子の粒径差が大きな磁性基体を得る点からは、前記密度比は0.95以下であることが好ましく、0.90以下であることがより好ましい。他方、成形体の保形性を十分なものとする点からは、前記密度比は0.80以上が好ましく、0.85以上がより好ましい。これらの理由から、前記密度比の好ましい範囲は、0.80以上0.95以下であり、より好ましい範囲は、0.85以上0.90以下である。前述の密度比を有する成形体を得る方法としては、金型を用いたプレス成形が例示される。
【0041】
成形体の形状は特に限定されず、棒状、板状、トロイダル状、ドラム形状等の公知の形状から、用途に応じて適宜選択すればよい。成形体が鍔部と軸部とを有するドラム形状であると、中央部に対する表面部の密度比が小さい成形体が得られやすい点で好ましい。中でも、鍔部の厚みが、該厚みを除く成形体の外形寸法の最小値の1/3以下であるドラム形状がより好ましい。こうしたドラム形状の成形体において、軸部の密度に対する鍔部の密度の比が0.95以下であると、鍔部に割れや欠けが生じにくい磁性基体が得られる点で特に好ましい。
【0042】
成形体の各部の密度は、以下の手順で決定する。まず、成形体から、密度を求める部分を試験片として切り出し、各部の寸法からその体積を算出する。次いで、試験片の質量を測定する。最後に、得られた質量を試験片の体積で割って得られる試験片の密度を、試験片を切り出した部分の密度とする。なお、表面部又は鍔部の密度を決定する際に、これらの部分の体積が小さく、試験片を得ることが困難な場合には、前述した手順に代えて、以下の手順で密度を決定する。まず、成形体の寸法から該成形体全体の体積を算出する。次いで、成形体全体の質量を測定する。次いで、研磨又は研削により、表面部又は鍔部を成形体から削り取る。次いで、残った成形体について、その寸法から体積を算出する。次いで、残った成形体の質量を測定する。次いで、成形体全体の体積と残った成形体の体積との差を算出し、これを削り取った表面部又は鍔部の体積とする。次いで、成形体全体の質量と、残った成形体の質量との差を算出し、これを削り取った表面部又は鍔部の質量とする。最後に、得られた表面部又は鍔部の質量を、その体積で割って、表面部又は鍔部の密度とする。
【0043】
第2側面に係る磁性基体の製造方法では、原料粉末の成形に先立って、該原料粉末の造粒を行い、造粒物(顆粒)を得てもよい。造粒は、原料粉末を適度な大きさの凝集粒子とし、成形に適した形態に変換するために行われる。こうした造粒法としては、例えば、加圧造粒法やスプレードライ法等が挙げられる。
【0044】
また、第2側面に係る磁性基体の製造方法では、原料粉末の成形に先立って、成形後の保形性を向上させるために、原料粉末にバインダを混合してもよい。使用するバインダとしては、仮焼粉末の粒子同士を接着して成形及び保形が可能で、かつ500℃以下の温度で分解して揮発するものが好ましい。こうしたバインダの一例として、アクリル樹脂、ブチラール樹脂、及びビニル樹脂等が挙げられる。バインダの添加量は、成形性及び保形性等を考慮して適宜決定すればよく、例えば、仮焼粉末100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下とすることができる。仮焼粉末とバインダとの混合方法としては、ボールミルによる混合等が例示される。
【0045】
第2側面に係る磁性基体の製造方法では、成形により得られた成形体を焼成し、焼結体を得る。焼成条件は、緻密な焼結体が得られるものであれば限定されず、例えば、空気中、900℃以上1200℃以下の温度にて、1時間以上5時間以内とすることができる。成形体がバインダを含む場合には、焼成に先立ってこれを除去する脱脂処理を行ってもよい。脱脂処理の条件は、成形体中の仮焼粉末粒子を焼結させることなく、バインダの大部分を酸化除去できるものであれば特に限定されない。一例として、空気中で、300℃以上450℃以下の温度に、2時間以上4時間以下の時間保持することが挙げられる。
【0046】
前述した脱脂処理及び熱処理は、雰囲気と温度を切り変えた設定ができる単一の熱処理装置を用いて連続的に行ってもよく、2以上の異なる熱処理装置を用いて断続的に行ってもよい。
【0047】
[コイル部品]
本発明のまた別の側面に係るコイル部品(以下、単に「第3側面に係るコイル部品」と記載することがある)100は、
図4に示すように、前述した第1側面に係る磁性基体10、磁性基体10の周囲に巻回された導体20及び磁性基体10の表面に設けられ、導体20と電気的に接続された外部電極30を備える。
【0048】
導体20の材質、断面形状及び寸法は特に限定されず、要求特性に応じて適宜決定すればよい。材質の一例としては、銀若しくは銅、又はこれらの合金等が挙げられる。また、断面形状の一例としては、円形、楕円形及び矩形等が挙げられ、複数の線状の導体が撚り合わされた撚り線形状であってもよい。
【0049】
外部電極30は、コイル部品を実装する回路基板と導体20との電気的な接点として機能する。外部電極30は、通常、はんだ付け等により回路基板と物理的に接着される。このため、磁性基体10の表面に外部電極30を有するコイル部品では、これが実装された回路基板が変形した際に、外部電極30の近傍に位置する磁性基体10に大きな引張応力が生じやすい。しかし、第3側面に係るコイル部品では、磁性基体10の表面部、すなわち外部電極30の近傍が、粒径の小さな焼結粒子で構成されているため、引張応力が緩和され、クラックの発生が抑制される。
【0050】
このように、第3側面に係るコイル部品は、回路基板に実装した際に、回路基板が変形しても破壊しにくい。しかも、上述したように、磁性基体10が、磁区が大きい部分の割合が高く、透磁率等の磁気的特性に優れるものであるため、インダクタンスをはじめとする電気的特性に優れたものとなる。
【0051】
[回路基板]
本発明のさらに別の側面に係る回路基板(以下、単に「第4側面に係る回路基板」と記載することがある。)は、前述した第3側面に係るコイル部品を実装した回路基板である。
【0052】
回路基板の構造や、コイル部品の実装形態等は限定されず、目的に応じたものを採用すればよい。一例として、
図5に示すような、基板50上に形成されたランド部51に対し、コイル部品100の外部電極30を、はんだ52を用いて接合したものが挙げられる。
【0053】
第4側面に係る回路基板は、第3側面に係るコイル部品を使用することで、使用中の故障発生率が低く、かつ高性能なものとなる。
【実施例0054】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
<磁性基体及びコイル部品の作製>
まず、フェライト調製用の原料として、Fe2O3、NiO、ZnO、及びCuOの粉末を準備した。次いで、これらの原料を、Fe2O3が49mol%、ZnOが25mol%、NiOが21mol%、CuOが5mol%となるように秤量し、湿式ボールミルにて混合を行った。次いで、分散媒を蒸発させて除去し、得られた混合粉末を、空気中、900℃で2時間熱処理してフェライト粉末を得た。次いで、得られたフェライト粉末に対し、Bi2O3を0.05質量%添加し、BET比表面積が2.0m2/g以上3.0m2/g以下となるように解砕した。次いで、解砕後の混合粉末に、分散媒としての蒸留水及びバインダとしてのPVA(ポリビニルアルコール)を添加し、スプレードライヤーにて噴霧乾燥して造粒粉を得た。次いで、得られた造粒粉を金型内に供給し、一軸圧縮成形して、ドラム形状の成形体を作製した。成形体の形状及び寸法は、2.5mm×2.5mm×3.0mmの軸部が、1対の鍔部で軸方向から挟み込まれたものであり、一方の鍔部は6.0mm×6.0mm×0.6mmの板状、他方の鍔部は6.0mm×6.0mm×0.8mmの板状で、軸部と反対側に外部電極形成用の凹部を有するものであった。この成形体の密度は、鍔部で3.2g/cm3、軸部で3.4g/cm3であった。次いで、得られた成形体を、空気中、1100℃で3時間焼成し、磁性基体(焼結体)を得た。最後に、得られた磁性基体の軸部に、導線を10.5ターン巻回し、導線の両端を鍔部に形成された凹部にはんだ付けして実施例1に係るコイル部品を得た。
【0056】
[実施例2]
フェライト粉末に対するBi2O3の添加量を0.1質量%としたこと、及び成形体の密度を、鍔部が3.1g/cm3、軸部が3.5g/cm3となるように成形したこと以外は実施例1と同様の手順にて、実施例2に係る磁性基体及びコイル部品を作製した。
【0057】
[実施例3]
フェライト粉末に対するBi2O3の添加量を0.2質量%としたこと、及び成形体の密度を、鍔部が3.1g/cm3、軸部が3.6g/cm3となるように成形したこと以外は実施例1と同様の手順にて、実施例3に係る磁性基体及びコイル部品を作製した。
【0058】
[比較例1]
フェライト粉末に対してBi2O3を添加しなかったこと以外は実施例1と同様の手順にて、比較例1に係る磁性基体及びコイル部品を作製した。
【0059】
[比較例2]
フェライト粉末に対するBi2O3の添加量を0.04質量%としたこと、及び成形体の密度を、鍔部、軸部共に3.3g/cm3となるように成形したこと以外は実施例1と同様の手順にて、比較例2に係る磁性基体及びコイル部品を作製した。
【0060】
[比較例3]
フェライト粉末に対するBi2O3の添加量を0.2質量%としたこと以外は比較例2と同様の手順にて、比較例3に係る磁性基体及びコイル部品を作製した。
【0061】
[評価]
<磁性基体(焼結体)の平均粒径>
実施例1から3及び比較例1から3で得られた各磁性基体について、表面部及び中央部に位置する焼結粒子の平均粒径を、上述した方法でそれぞれ決定した。
【0062】
<インダクタンス特性>
実施例1から3及び比較例1から3で得られた各コイル部品について、インピーダンスアナライザー(キーサイト・テクノロジーズ・インク製、E4990A)を用い、室温にて、OSCレベル500mV、周波数1MHzの条件で、インダクタンスの測定を行った。この測定を異なる10個のコイル部品について行い、得られた結果の平均値を実施例1に係るコイル部品のインダクタンスとした。
【0063】
<ベンディング試験>
実施例1から3及び比較例1から3で得られた各コイル部品を30mm×110mm×1.6mmの回路基板の中央に実装して試験体を10個作製した。この試験体を、コイル部品の実装位置の変位量が最大となるように、実装面に対向する面側に1回撓ませた。その後、各試験体のコイル部品を目視観察し、10個全てについて、磁性基体の表面にクラックが確認されないことをもって、当該撓みの変位量ではコイル部品が破壊しないと判定した。撓み量は、コイル部品の実装位置の変位量が1cm、2cm及び3cmとなるものとし、コイル部品が破壊しなかった最大の撓み量を記録した。
【0064】
<ヒートサイクル試験>
実施例1から3及び比較例1から3で得られたコイル部品を30mm×110mm×1.6mmの回路基板の中央に実装して試験体を10個作製した。この試験体に対して、0℃以下の温度まで冷却した後100℃を超える温度までの加熱する温度変化を与えた。その後、各試験体のコイル部品を目視観察し、10個全てについて、磁性基体の表面にクラックが確認されないことをもって、当該温度変化ではコイル部品が破壊しないと判定した。温度変化は、(1)室温から-10℃まで冷却した後105℃まで加熱、(2)室温から-25℃まで冷却した後125℃まで加熱、及び(3)室温から-40℃まで冷却した後150℃まで加熱とし、コイル部品が破壊しなかった温度変化のうち、変化幅が最大のものについて、その低温側の温度を記録した。
【0065】
以上に説明した実施例及び比較例について、評価結果を表1にまとめて示す。ただし、インダクタンスの値は、比較例1の値を1.0としたときの比で示している。なお、平均粒径の値はμmを単位とし、10μm未満の場合は小数第1位を四捨五入して、10μm以上の場合は1の位を四捨五入して表示している。
【0066】
【0067】
表1における実施例と比較例との対比から、Ni及びZnを含有するフェライトで形成された焼結粒子を含むと共に、構成元素としてBiを含み、表面部における焼結粒子の平均粒径に対する、中央部における焼結粒子の平均粒径の比が1.3以上である焼結体で形成された磁性基体は、磁気的特性に優れ、かつコイル部品として回路基板に実装した際に、回路基板の変形に起因する破壊が抑制されたものとなることが判る。また、実施例1と実施例2及び実施例3との対比からは、磁性基体を形成する焼結体における前述の平均粒径の比が9.5以下であると、回路基板の変形に起因する破壊が顕著に抑制されることが判る。
本発明によれば、回路基板が変形した際に破壊しにくく、かつ透磁率が高い磁性基体、及びこれを備えるコイル部品を提供することができる。このため、使用中に故障が発生しにくく、高性能なコイル部品が得られる点で本発明は有用である。