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特開2023-144818船舶の揺動抑制システム、方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144818
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】船舶の揺動抑制システム、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B63B 39/08 20060101AFI20231003BHJP
   B63H 25/42 20060101ALI20231003BHJP
   B63B 39/04 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B63B39/08
B63H25/42 N
B63B39/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051976
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 修
(72)【発明者】
【氏名】酒井 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】水野 剣一
(72)【発明者】
【氏名】武居 直行
(72)【発明者】
【氏名】木森 啓太
(57)【要約】
【課題】船舶の揺動を抑制する。
【解決手段】スラスター10は、水中でスクリューを回転させることでそれぞれ異なる方向の推進力を発生する推進装置である。本実施形態において、各スラスター10は、船舶を所望の方向に航行させるために用いられるとともに、例えば波や風の影響による船舶の揺動を抑制するために用いられる。後者の場合、スラスター制御装置11は、ジャイロセンサ20により検出された船舶の揺動状態に応じて、その揺動を抑制するよう各スラスター10を個別に制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶において水面下の位置に設けられ、それぞれ異なる方向の推進力を発生する複数の推進装置と、
前記船舶の揺動状態を検出する揺動状態検出装置と、
検出された前記揺動状態に応じて前記推進装置を個別に制御し、前記船舶の揺動を抑制する揺動抑制制御装置と
を備える揺動抑制システム。
【請求項2】
前記推進装置は、水中でスクリューを回転させることで推進力を発生するスラスターを有する
請求項1に記載の揺動抑制システム。
【請求項3】
前記推進装置は、3以上のスラスターを有する
請求項2に記載の揺動抑制システム。
【請求項4】
前記揺動状態検出装置は、前記船舶の3次元の慣性運動を検出する慣性計測装置である
請求項1~3のいずれか1項に記載の揺動抑制システム。
【請求項5】
前記揺動抑制制御装置は、
前記船舶におけるロール軸について、
f’pを、前記船舶のピッチ軸方向の移動に対する推進力とし、
ωを、前記揺動状態検出装置によって検出されたロール軸回りの角速度とし、
を、ロール軸回りの角速度に対するフィードバックゲインとしたとき、
=f’p+ω
を用いて算出した前記fpに相当するピッチ軸方向の推進力を発生させるよう、前記推進装置を制御し、
前記船舶におけるピッチ軸について、
f’rを、前記船舶のロール軸方向の移動に対する推進力とし、
ωpを、前記揺動状態検出装置によって検出されたピッチ軸回りの角速度とし、
pを、ピッチ軸回りの角速度に対するフィードバックゲインとしたとき、
r=f’r+ωpp
を用いて算出した前記frに相当するロール軸方向の推進力を発生させるよう、前記推進装置を制御し、
前記船舶におけるヨー軸について、
f’yを、前記船舶のヨー軸回りの回転に対する回転力とし、
ωYを、前記揺動状態検出装置によって検出されたヨー軸回りの角速度とし、
Yを、ヨー軸回りの角速度に対するフィードバックゲインとしたとき、
y=f’y+ωYY
を用いて算出した前記fyに相当するヨー軸回りの回転力を発生させるよう、前記推進装置を制御する
請求項1~4のいずれか1項に記載の揺動抑制システム。
【請求項6】
さらに、前記船舶の周囲にある物体の形状を認識する形状認識装置と、
前記形状認識装置により認識された形状を表す形状データに基づき前記船舶の位置を推定する自己位置推定装置と
を備える請求項1~5のいずれか1項に記載の揺動抑制システム。
【請求項7】
さらに、推定された前記船舶の位置に基づいて当該船舶の航行を制御する航行制御装置を備える
請求項6に記載の揺動抑制システム。
【請求項8】
船舶の揺動状態の検出結果を取得するステップと、
前記船舶において水面下の位置に設けられ、それぞれ異なる方向の推進力を発生する複数の推進装置を、取得された前記揺動状態の検出結果に応じて個別に制御し、前記船舶の揺動を抑制するステップと
を備える揺動抑制方法。
【請求項9】
コンピュータに請求項8記載の揺動抑制方法を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の揺動を抑制するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、桟橋上部工下部面のコンクリートの浮きや剥離などの劣化箇所を調査する場合には、検査員が小型船舶に乗船して桟橋下部の内部に立ち入って行う実地調査が行われている。また、最近では無線で制御可能なラジコンのボートに搭載されたカメラで検査箇所を撮影して調査するといったことも行われている。この場合には桟橋下におけるボートの位置を正確に認識する必要がある。例えば特許文献1には、GNSS(Global Navigation Satellite System)、ジャイロコンパス、流速計等から船舶の位置を取得すること開示されている。しかしながら、桟橋下のようなGNSSの電波が届かないエリアでは、GNSSによる自己位置の取得が難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5056437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、GNSSを利用せずに船舶の位置を測定するために、LIDAR(Light Detection and Ranging)と呼ばれるセンシング技術を用いた、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)という自己位置推定アルゴリズムを利用したラジコンボートによる劣化調査方法が考えられる。
【0005】
しかしながら、LIDARは周囲の物体の形状を正確にセンシングする必要があり、船舶が波や風などの影響で大きく揺れた場合には、そのセンシングの精度が低くなり、角度補正処理をしてもSLAMによる自己位置推定の正確性が低下するという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は船舶によるGNSSを用いない劣化調査において船舶の揺動を抑制することによりLIDARを用いたSLAM処理による自己位置推定の正確性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る揺動抑制システムは、船舶において水面下の位置に設けられ、それぞれ異なる方向の推進力を発生する複数の推進装置と、前記船舶の揺動状態を検出する揺動状態検出装置と、検出された前記揺動状態に応じて前記推進装置を個別に制御し、前記船舶の揺動を抑制する揺動抑制制御装置とを備える。
【0008】
前記推進装置は、水中でスクリューを回転させることで推進力を発生するスラスターを有するようにしてもよい。
【0009】
前記推進装置は、3以上のスラスターを有するようにしてもよい。
【0010】
前記揺動状態検出装置は、前記船舶の3次元の慣性運動を検出する慣性計測装置であるようにしてもよい。
【0011】
前記揺動抑制制御装置は、前記船舶におけるロール軸について、f’pを、前記船舶のピッチ軸方向の移動に対する推進力とし、ωを、前記揺動状態検出装置によって検出されたロール軸回りの角速度とし、Kを、ロール軸回りの角速度に対するフィードバックゲインとしたとき、f=f’p+ωを用いて算出した前記fに相当するピッチ軸方向の推進力を発生させるよう、前記推進装置を制御し、前記船舶におけるピッチ軸について、f’rを、前記船舶のロール軸方向の移動に対する推進力とし、ωpを、前記揺動状態検出装置によって検出されたピッチ軸回りの角速度とし、Kpを、ピッチ軸回りの角速度に対するフィードバックゲインとしたとき、fr=f’r+ωppを用いて算出した前記frに相当するロール軸方向の推進力を発生させるよう、前記推進装置を制御し、前記船舶におけるヨー軸について、f’yを、前記船舶のヨー軸回りの回転に対する回転力とし、ωYを、前記揺動状態検出装置によって検出されたヨー軸回りの角速度とし、KYを、ヨー軸回りの角速度に対するフィードバックゲインとしたとき、fy=f’y+ωYYを用いて算出した前記fyに相当するヨー軸回りの回転力を発生させるよう、前記推進装置を制御するようにしてもよい。
【0012】
さらに、前記船舶の周囲にある物体の形状を認識する形状認識装置と、前記形状認識装置により認識された形状を表す形状データに基づき前記船舶の位置を推定する自己位置推定装置とを備えるようにしてもよい。
【0013】
さらに、推定された前記船舶の位置に基づいて当該船舶の航行を制御する航行制御装置を備えるようにしてもよい。
【0014】
また、本発明に係る揺動抑制方法は、船舶の揺動状態の検出結果を取得するステップと、前記船舶において水面下の位置に設けられ、それぞれ異なる方向の推進力を発生する複数の推進装置を、取得された前記揺動状態の検出結果に応じて個別に制御し、前記船舶の揺動を抑制するステップとを備える。
【0015】
また、本発明に係るプログラムは、コンピュータに上記揺動抑制方法を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、船舶の揺動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る揺動抑制システム全体の構成の一例を示すブロック図。
図2】同実施形態に係る情報処理装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図。
図3】同実施形態に係る船舶におけるスラスターの位置を例示する図。
図4】船舶が前に移動するときの各スラスターによる推進方向を説明する図。
図5】船舶が左に移動するときの各スラスターによる推進方向を説明する図。
図6】船舶におけるロール、ピッチ及びヨーの各軸を例示する図。
図7】同実施形態においてロール軸回りの揺動を抑制する仕組みを説明する図。
図8】同実施形態に係る揺動抑制の効果についての実験の仕組みを説明する図。
図9】上記実験において模型ボートに設けたマーカの位置を説明する図。
図10】上記実験の条件を説明する図。
図11】上記実験の結果を表すグラフ。
図12】上記実験の結果を表すグラフ。
図13】上記実験の結果を表す表及びグラフ。
図14】上記実験の結果を表す表及びグラフ。
図15】船舶におけるスラスターの位置に関する変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態の一例について説明する。
[構成]
図1は、本発明の実施形態に係る揺動抑制システム1の全体構成の一例を示すブロック図である。図1に示すように、この揺動抑制システム1は、船舶において水面下の位置に設けられた複数(図1では4つ)のスラスター10a~10dと、船舶の揺動状態を検出するジャイロセンサ20と、船舶の周囲にある物体の形状を認識するLIDAR(Light Detection and Ranging)装置30と、桟橋のような調査対象を撮影するためのカメラ40と、コンピュータからなる情報処理装置100とを備えている。船舶の用途は、例えば桟橋下のようなGNSS(Global Navigation Satellite System)の電波が届かないエリアにおいて桟橋の調査を行うといった例が考えられるが、必ずしもこの例に限定されない。
【0019】
スラスター10a~10d(以下、スラスター10と総称する)は、水中でスクリューを回転させることでそれぞれ異なる方向の推進力を発生する推進装置である。本実施形態において、各スラスター10は、船舶を所望の方向に航行させるために用いられるとともに、例えば波や風の影響による船舶の揺動を抑制するために用いられる。
【0020】
ジャイロセンサ20は、船舶の3次元の慣性運動を検出する慣性計測装置である。より具体的には、ジャイロセンサ20は、船舶におけるロール軸、ピッチ軸及びヨー軸の各軸回りに生じる角速度を検出する。
【0021】
LIDAR装置30は、レーザー光を周囲に照射し、そのレーザー光が物体に当たって反射してくるまでの時間に基づいてその物体までの距離及び方向を計測することで、その物体の形状を認識する形状認識装置である。
【0022】
カメラ40は、例えば桟橋等の調査対象を撮影するための撮影装置である。
【0023】
情報処理装置100は、スラスター制御装置11と、自己位置推定装置12とを備える。スラスター制御装置11は、各スラスター10を制御することで、船舶を所望の方向に航行させるための航行制御装置として機能するとともに、例えば波や風などの影響による船舶の揺動を抑制する揺動抑制制御装置として機能する。スラスター制御装置11が航行制御装置として機能するときは、例えば遠隔操縦信号に従って各スラスター10を個別に制御することで、水面上で船舶を移動させる。また、スラスター制御装置11が揺動抑制制御装置として機能するときは、ジャイロセンサ20により検出された船舶の揺動状態に応じて各スラスター10の推力及び向きを個別に制御することで、船舶の揺動を抑制する。
【0024】
自己位置推定装置12は、LIDAR装置30により認識された物体の形状を表す形状データに基づき、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)と呼ばれる自己位置推定アルゴリズムを利用して、船舶の位置を推定する。
【0025】
なお、スラスター制御装置11及び自己位置推定装置12は、単体の情報処理装置100によって実現されるものであってもよいし、それぞれ異なる情報処理装置100によって実現されるものであってもよい。
【0026】
図2は、情報処理装置100のハードウェア構成を示す図である。情報処理装置100は、物理的には、プロセッサ1001、メモリ1002、ストレージ1003、通信装置1004、入力装置1005、出力装置1006及びこれらを接続するバスなどを含むコンピュータ装置として構成されている。これらの各装置は図示せぬ電源から供給される電力によって動作する。情報処理装置100における各機能は、プロセッサ1001、メモリ1002などのハードウェア上に所定のソフトウェア(プログラム)を読み込ませることによって、プロセッサ1001が演算を行い、通信装置1004による通信を制御したり、他の装置から送信されてきたデータを取得したり、メモリ1002及びストレージ1003におけるデータの読み出し及び書き込みの少なくとも一方を制御したりすることによって実現される。
【0027】
プロセッサ1001は、例えば、オペレーティングシステムを動作させてコンピュータ全体を制御する。プロセッサ1001は、周辺装置とのインターフェース、制御装置、演算装置、レジスタなどを含む中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)によって構成されてもよい。
【0028】
プロセッサ1001は、プログラム(プログラムコード)、ソフトウェアモジュール、データなどを、ストレージ1003及び通信装置1004の少なくとも一方からメモリ1002に読み出し、これらに従って各種の処理を実行する。プログラムとしては、後述する動作の少なくとも一部をコンピュータに実行させるプログラムが用いられる。情報処理装置100の機能ブロックは、メモリ1002に格納され、プロセッサ1001において動作する制御プログラムによって実現されてもよい。各種の処理は、1つのプロセッサ1001によって実行されてもよいが、2以上のプロセッサ1001により同時又は逐次に実行されてもよい。プロセッサ1001は、1以上のチップによって実装されてもよい。なお、プログラムは、クラウド上の他の装置から電気通信回線を介して情報処理装置100に送信されてもメモリ1002やストレージ1003にインストールされてもよい。
【0029】
メモリ1002は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、ROM(Read Only Memory)、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)、RAM(Random Access Memory)などの少なくとも1つによって構成されてもよい。メモリ1002は、レジスタ、キャッシュ、メインメモリ(主記憶装置)などと呼ばれてもよい。メモリ1002は、本実施形態に係る方法を実施するために実行可能なプログラム(プログラムコード)、ソフトウェアモジュールなどを保存することができる。
【0030】
ストレージ1003は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、CD-ROM(Compact Disc ROM)などの光ディスク、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ、フレキシブルディスク、光磁気ディスク(例えば、コンパクトディスク、デジタル多用途ディスク、Blu-ray(登録商標)ディスク)、スマートカード、フラッシュメモリ(例えば、カード、スティック、キードライブ)、フロッピー(登録商標)ディスク、磁気ストリップなどの少なくとも1つによって構成されてもよい。ストレージ1003は、補助記憶装置と呼ばれてもよい。
【0031】
通信装置1004は、有線又は無線の少なくとも一方を介して通信を行うためのハードウェア(送受信デバイス)であり、例えばスラスター10、ジャイロセンサ20及びLIDAR装置30と有線通信を行う。また、船舶が遠隔操縦される場合には、通信装置1004は、操縦者が操作する操縦端末等と無線通信を行う。
【0032】
入力装置1005は、外部からの入力を受け付ける入力デバイス(例えばキー、スイッチ、ボタンなど)である。出力装置1006は、外部への出力を実施する出力デバイス(例えばディスプレイ、スピーカー、LEDライトなど)である。
【0033】
図3は、船舶における各スラスター10の位置を例示する図であり、船舶Bを上方から見たときの各スラスター10の位置を例示している。図3において、船舶Bの船首Bbと船尾Bsを結ぶ直線を中心軸にして対称となる位置に、スラスター10がそれぞれ配置されている。各スラスター10の推進方向は、船舶Bの船首Bbと船尾Bsを結ぶ直線に対して約45度で内外方向に傾いている。各スラスター10において、例えばスクリューを正方向に回転させたときには推進方向Pbに推進力が生じ、また、スクリューを逆方向に回転させたときには推進方向Pfに推進力が生じるようになっている。
【0034】
各スラスター10における推進方向Pbは、例えば船舶の中心位置から見て船尾Bsの方向に向かうベクトル成分を有しており、推進方向Pfは、船首Bbの方向に向かうベクトル成分を有している。このため、図4に示すように、船舶が方向Fに直進移動するときには、スラスター制御装置11(航行制御装置)は、各スラスター10が推進方向Pbに推進力を生じさせるように制御すればよい。一方、船舶が方向Fとは逆に後ろに移動するときには、スラスター制御装置11(航行制御装置)は、各スラスター10が推進方向Pfに推進力を生じさせるように制御すればよい。
【0035】
また、スラスター10a,10dにおける推進方向Pbは、例えば船首Bbに向かって左方向に向かうベクトル成分を有しており、スラスター10b,10cにおける推進方向Pbは船首Bbに向かって右方向に向かうベクトル成分を有している。また、スラスター10a,10dにおける推進方向Pfは、例えば船首Bbに向かって右方向に向かうベクトル成分を有しており、スラスター10b,10cにおける推進方向Pfは船首Bbに向かって左方向に向かうベクトル成分を有している。このため、図5に示すように、船舶Bが左側に向かう方向Lに移動するときには、スラスター制御装置11(航行制御装置)は、スラスター10a,10dが推進方向Pbに推進力を生じさせるように制御するとともに、スラスター10b,10cが推進方向Pfに推進力を生じさせるように制御すればよい。一方、船舶Bが方向Lとは逆に右側に移動するときには、スラスター制御装置11(航行制御装置)は、スラスター10a,10dが推進方向Pfに推進力を生じさせるように制御するとともに、スラスター10b,10cが推進方向Pbに推進力を生じさせるように制御すればよい。
【0036】
一方、スラスター制御装置11が揺動抑制制御装置として機能する場合には、ジャイロセンサ20により検出されたロール、ピッチ又はヨーの各軸回りの角速度に応じて各スラスター10を個別に制御する。図6に示すように、ロール軸Rは、船舶Bにおいて船首Bb及び船尾Bsを結ぶ方向の軸であり、ピッチ軸Pはロール軸Rと同一平面上でロール軸Rに直交する軸であり、ヨー軸Yはピッチ軸P及びロール軸Rに直交する軸である。
【0037】
例えば図7(A)に示すように水面Sに浮かぶ船舶Bにおいて、図7(B)に示すようにロール軸R回りの角速度ωが生じた場合には、図7(C)に示すように、ロール軸R回りにおいて角速度ωを減少させるような角速度を生じさせるピッチ軸P方向の推進力ωを船舶に生じさせるようにすればよい。Kはロール軸R回りの角速度に対するフィードバックゲインである。なお、ピッチ軸P方向に船を移動させる場合は、スラスター制御装置11(航行制御装置)によって制御される船舶Bの移動(航行)に対する推進力f’pと上記ωとの合計値、つまり、fp=f’p+ωという数式を用いて算出したfpに相当する大きさの推進力を発生させるよう、各スラスター10を個別に制御すればよい。
【0038】
図7はロール軸Rに着目したときの揺動抑制制御であるが、これと同様の制御を、ピッチ軸Pについても同時に行うようにすればよい。つまり、ピッチ軸P回りにおいて角速度ωrを減少させるような角速度を生じさせるロール軸R方向の推進力ωppを船舶に生じさせるようにすればよい。Kpはピッチ軸P回りの角速度に対するフィードバックゲインである。なお、ロール軸R方向に船を移動させる場合は、スラスター制御装置11(航行制御装置)によって制御される船舶Bの移動(航行)に対する推進力f’rと上記ωppとの合計値、つまり、fr=f’r+ωppという数式を用いて算出したfrに相当する大きさの推進力を発生させるよう、各スラスター10を個別に制御すればよい。
【0039】
ヨー軸Yについては、ヨー軸Y回りの角速度ωYが生じた場合には,その角速度が減少するようにヨー軸Y回りの回転力ωYYを船舶に生じさせるようにすればよい。KYはヨー軸Y回りの角速度に対するフィードバックゲインである。なお、ヨー軸Yに船舶を回転させる場合は、スラスター制御装置11(航行制御装置)によって制御される船舶Bのヨー軸Yの回転に対する回転力f’yとωYYとの合計値、つまり、fy=f’y+ωYYという数式を用いて算出したfyに相当する大きさの回転力を発生させるよう、各スラスター10を個別に制御すればよい。
【0040】
図8は、本願発明者らが本実施形態に係る揺動抑制の効果について実験したときの仕組みを説明する図である。図8に示すように、水を張った矩形の平面水槽Aに、船舶に見立てた模型ボートbを浮かべ、平面水槽Aの一辺から模型ボートbに向かって造波装置で入射波を発生させる。模型ボートbには、図9に示すような位置に6つの反射式マーカmを設けておき、その反射式マーカmからの反射光に基づいて各反射式マーカmの3次元の位置をモーションキャプチャmcで計測することで、入射波による模型ボートbの揺動状態を計測した。
【0041】
図10は、上記実験の条件を説明する図であり、模型ボートbの大きさ、スラスターの数及び仕様、反射式マーカmに対して光を照射するLED照射装置の数及び仕様、船舶のピッチ軸回りの固有周期、及び、船舶のロール軸回りの固有周期に関する条件を示している。なお、模型ボートbにおける4つのスラスターの位置は、図4に例示した位置である。
【0042】
図11(A)は、周期1(s)で波高10(cm)の入射波に対し、揺動抑制制御を行っていない模型ボートbのピッチ軸回りの揺動状態を示すグラフである。同グラフにおいて、縦軸はピッチ軸回りの模型ボートbの揺動角度(deg)であり、横軸は時間(s)である(以下において同じ)。図11(B)は、周期1(s)で波高10(cm)の入射波に対し、フィードバックゲインK=1.0で揺動抑制制御を行ったときの模型ボートbのピッチ軸回りの揺動状態を示すグラフである。図11(C)は、周期1(s)で波高10(cm)の入射波に対し、フィードバックゲインK=2.0で揺動抑制制御を行ったときの模型ボートbのピッチ軸回りの揺動状態を示すグラフである。図11(A)のグラフにおける振幅と、図11(B)及び(C)のグラフにおける振幅とを比較すると、揺動抑制制御を行った場合には、模型ボートbのピッチ軸回りの揺動が抑制されていることが分かる。
【0043】
図12(A)は、周期1(s)で波高10(cm)の入射波に対し、揺動抑制制御を行っていない模型ボートbのロール軸回りの揺動状態を示すグラフである。同グラフにおいて、縦軸はロール軸回りの模型ボートbの揺動角度(deg)であり、横軸は時間(s)である(以下において同じ)。図12(B)は、周期1(s)で波高10(cm)の入射波に対し、フィードバックゲインK=1.0で揺動抑制制御を行ったときの模型ボートbのロール軸回りの揺動状態を示すグラフである。図12(C)は、周期1(s)で波高10(cm)の入射波に対し、フィードバックゲインK=2.0で揺動抑制制御を行ったときの模型ボートbのロール軸回りの揺動状態を示すグラフである。図12(A)のグラフにおける振幅と、図12(B)及び(C)のグラフにおける振幅とを比較すると、揺動抑制制御を行ったときは、模型ボートbのロール軸回りの揺動が抑制されていることが分かる。
【0044】
図13(A)は、揺動抑制制御無し、フィードバックゲインK=1.0で揺動抑制制御有り、及び、フィードバックゲインK=2.0で揺動抑制制御有りという条件での実験を、以下の6通りの入射波の周期及び波高で行ったときの、模型ボートbのピッチ軸回りの揺動角度(deg)の最大値(ここでは実験開始から20秒までに検出された最大値とした)を示す表であり、図13(B)はその最大値を示すグラフである。
H10_1s:入射波の周期1(s)、波高10(cm)
H10_2s:入射波の周期2(s)、波高10(cm)
H10_3s:入射波の周期3(s)、波高10(cm)
H10_4s:入射波の周期4(s)、波高10(cm)
H30_2s:入射波の周期2(s)、波高30(cm)
H30_3s:入射波の周期3(s)、波高30(cm)
【0045】
図13(A)、(B)からは、フィードバックゲインK=2.0で揺動抑制制御を行った場合には、揺動抑制制御無しの場合と比較して、ピッチ軸回りの模型ボートbの揺動角度の最大値が小さいことが分かる。なお、入射波の周期1(s)、波高10(cm)でフィードバックゲインK=1.0で揺動抑制制御を行った場合でも、ピッチ軸回りの模型ボートbの揺動角度の最大値が極めて小さい。これは、入射波の周期1(s)と、模型ボートbのピッチ軸回りの固有周期1(s)が一致したことで制御無しでは大きな揺れが生じたが、揺動抑制制御としてフィードバックゲインK=1.0で設定したとしても共振により生じる大きな揺れを抑えることができるという仮説が考えられる。
【0046】
また、図14(A)は、揺動抑制制御無し、フィードバックゲインK=1.0で揺動抑制制御有り、及び、フィードバックゲインK=2.0で揺動抑制制御有りという条件での実験を、上記の6通りの入射波の周期及び波高で行ったときの、模型ボートbのロール軸回りの揺動角度(deg)の最大値(ここでは実験開始から20秒までに検出された最大値とした)を示す表であり、図14(B)はその最大値を示すグラフである。
【0047】
図14(A)(B)からは、フィードバックゲインK=1.0で振動抑制制御を行った場合には、揺動抑制制御無しの場合と比較して、ロール軸回りの模型ボートbの揺動角度(deg)の最大値が小さいことが分かる。さらに、フィードバックゲインK=2.0で揺動抑制制御を行った場合には、フィードバックゲインK=1.0で揺動抑制制御を行った場合と比較して、ロール軸回りの模型ボートbの揺動角度(deg)の最大値が小さいことが分かる。入射波の周期1(s)、波高10(cm)でフィードバックゲインK=1.0で揺動抑制制御を行った場合には、ロール軸回りの模型ボートbの揺動角度の最大値が極めて小さい。これは、入射波の周期1(s)と、模型ボートbのロール軸回りの固有周期0.85(s)が一致したことで制御無しでは共振により大きく揺れが生じたが揺動抑制制御としてフィードバックゲインK=1.0で設定したとしても共振により生じる大きな揺れを抑えることができるという仮説が考えられる。
【0048】
以上の実験結果においては、本実施形態に係る揺動抑制制御により、船舶の揺動を抑制する効果があることが分かった。特に船舶のロール軸回りの揺動量はピッチ軸回りの揺動量よりも大きいため、ロール軸回りの揺動抑制効果はピッチ軸回りの揺動抑制効果よりも大きい。また、フィードバックゲインKの値を大きくすることで揺動抑制効果が大きくなった。特に船舶の固有周期に相当する周期の入射波に対しては、波高10(cm)のとき、ロール軸及びピッチ軸回りの揺動について、図12では揺動抑制制御無しの場合との比較で約4割の揺動抑制効果があり、図13図14では揺動抑制制御無しの場合との比較で約3割の揺動抑制効果があった。
【0049】
上述した実施形態によれば、複数のスラスターを個別に制御することで、船舶の揺動を抑制することが可能となる。これらのスラスターは船舶が航行するために設けられた装置であり、船舶の航行と並行して船舶の揺動抑制に用いることができるので、揺動抑制のための新たな設備を船舶に実装する必要が無いという利点がある。そして、船舶の揺動が抑制されることで、自己位置推定装置12は、LIDAR装置30により認識された物体の形状を表す形状データに基づきSLAMを利用して、十分に高い精度で船舶の自己位置を推定することが可能となる。
【0050】
[変形例]
上述した実施形態を以下のように変形してもよい。また、以下の変形例を組み合わせて実施してもよい。
【0051】
船舶の揺動抑制の目的は、GNSSの電波が届かないエリアで調査を行うための船舶の位置を推定することに限定されず、例えば、船舶の位置に基づいてその船舶の航行を自動制御する場合に揺動抑制を行うようにしてもよい。この場合、船舶の航行制御装置は、自己位置推定装置12により推定された自己位置に基づいて船舶の航行を制御する。
【0052】
実施形態で開示したジャイロセンサ20に相当する揺動状態検出装置は、船舶の揺動状態を検出するものであれば、どのような装置であってもよい。また、実施形態で開示したLIDAR装置30に相当する形状認識装置は、船舶の周囲にある物体の形状を認識するものであれば、どのような装置であってもよい。
【0053】
揺動抑制のための推進力を発揮する推進装置は、実施形態で開示したスラスターに限定されず、船舶においてそれぞれ異なる方向の推進力を発生する複数の推進装置であればよい。
【0054】
また、推進装置が複数のスラスターを有するとき、3以上のスラスターを有することが望ましい。2以上のスラスターでも個々の軸に対する揺動制御は可能ではあるが、ロール、ピッチ、ヨー軸回りの複数の揺動を同時に制御することは難しい。推進装置が3つのスラスターを有する場合、そのスラスターの位置は、例えば図15(A)に例示するように、水面下における三角形の各頂点に相当する位置であってもよい。また、図15(B)に例示するように、船舶の全長方向に船底の略中央一列に間隔をおいた位置であってもよい。また、図15(C)に例示するように、船舶の全幅方向に船底の略中央一列に間隔をおいた位置であってもよい。これらスラスターの各推進方向は、船舶の中心位置から見て船首Bbの方向に向かうベクトル成分、船尾Bsの方向に向かうベクトル成分、船首Bbに対し右方向に向かうベクトル成分、及び、船首Bbに対し左方向に向かうベクトル成分を持っている。従って、情報処理装置100(揺動抑制制御装置)が各スラスターを個別に制御することで、ロール、ピッチ及びヨー軸回りの揺動を抑制することが可能となる。また、本実施例においてスラスター10の推進方向が、船舶Bの船首Bbと船尾Bsを結ぶ直線に対して約45度となるように固定しているが、推進方向を固定とせず、スラスター10は、推進方向が可変となるアジマススラスター等のスラスターであってもよい。
【0055】
本発明は、船舶の揺動状態の検出結果を取得するステップと、前記船舶において水面下の位置に設けられ、それぞれ異なる方向の推進力を発生する複数の推進装置を、取得された前記揺動状態の検出結果に応じて個別に制御し、前記船舶の揺動を抑制するステップとを備える揺動抑制方法であってもよい。また、本発明は、コンピュータに上記揺動抑制方法を実行させるためのプログラムであってもよい。
【符号の説明】
【0056】
10a,10b,10c,10d:スラスター、20:ジャイロセンサ、30:LIDAR装置、40:カメラ、100:情報処理装置、11:スラスター制御装置、12:自己位置推定装置、Bb:船首、Bs:船尾、Pf,Pb:推進方向、B:船舶、F:方向、L:方向、R:ロール軸、P:ピッチ軸、Y:ヨー軸、S:水面、mc:モーションキャプチャ、m:マーカ、b:模型ボート、A:平面水槽。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15