(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144826
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】呼吸法トレーニングシステム、プログラム、及び、情報処理装置
(51)【国際特許分類】
A63B 23/18 20060101AFI20231003BHJP
A63B 24/00 20060101ALI20231003BHJP
A63B 69/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
A63B23/18
A63B24/00
A63B69/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051986
(22)【出願日】2022-03-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年3月3日 第31回ライフサポート学会フロンティア講演会抄録集の1C03にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年3月7日 オンライン開催の第31回ライフサポート学会にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】518212241
【氏名又は名称】公立大学法人公立諏訪東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】518440833
【氏名又は名称】株式会社BiPSEE
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(72)【発明者】
【氏名】山口 武彦
(72)【発明者】
【氏名】松村 雅代
(72)【発明者】
【氏名】小松 尚平
(57)【要約】
【課題】高い集中力を維持できる環境を構築する。
【解決手段】呼吸法トレーニングシステム1は、ユーザの呼吸から呼吸パラメータを抽出する呼吸センサ22と、ユーザによって視認されるディスプレイ26と、呼吸パラメータに応じて、ユーザの呼吸スキルを推定する推定手段42と、呼吸スキルに応じて、ディスプレイ26に表示されるオブジェクトの形状を変化させる度合いである最適呼吸抵抗負荷感を調整する調整手段44と、呼吸パラメータと最適呼吸抵抗負荷感に応じて、オブジェクトの形状を変化させる映像をディスプレイ26に表示させる制御手段46と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの呼吸から呼吸パラメータを抽出する呼吸センサと、
前記ユーザによって視認されるディスプレイと、
前記呼吸パラメータに応じて、前記ユーザの呼吸スキルを推定する推定手段と、
前記呼吸スキルに応じて、前記ディスプレイに表示されるオブジェクトの形状を変化させる度合いである最適呼吸抵抗負荷感を調整する調整手段と、
前記呼吸パラメータと前記最適呼吸抵抗負荷感に応じて、前記オブジェクトの形状を変化させる映像を前記ディスプレイに表示させる制御手段と、
を備える、
呼吸法トレーニングシステム。
【請求項2】
前記調整手段は、前記呼吸スキルが高いほど、前記最適呼吸抵抗負荷感を高く調整し、
前記制御手段は、前記最適呼吸抵抗負荷感が高いほど、前記オブジェクトの形状を変化させにくくする、
請求項1に記載の呼吸法トレーニングシステム。
【請求項3】
前記制御手段は、前記最適呼吸抵抗負荷感が高いほど、前記オブジェクトの形状が変化し始める前記呼吸パラメータの閾値を高くする、
請求項2に記載の呼吸法トレーニングシステム。
【請求項4】
前記呼吸パラメータは、吸気又は呼気を示す呼吸状態と、ボリュームを含み、
前記推定手段は、前記呼吸パラメータの時系列データから抽出される、最大ボリューム、吸気又は呼気の所要時間、ボリューム変化の分散、及び、ボリューム変化の速度を用いて、前記呼吸スキルを推定する、
請求項3に記載の呼吸法トレーニングシステム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記呼吸状態が呼気である場合に前記オブジェクトの形状を縮小させ、前記呼吸状態が吸気である場合に前記オブジェクトの形状を拡大させる映像を前記ディスプレイに表示させる、
請求項4に記載の呼吸法トレーニングシステム。
【請求項6】
前記ユーザの心拍から心拍変動パラメータを解析する心電計と、
前記解析された心拍変動パラメータに応じて、前記ユーザがフロー状態に至っていることを示す評価値を算出する評価手段と、
を備え、
前記調整手段は、前記評価値に応じて、前記最適呼吸抵抗負荷感を調整する、
請求項1乃至5の何れか1項に記載の呼吸法トレーニングシステム。
【請求項7】
前記心拍変動パラメータは、LF/HFであって、
前記評価手段は、交感神経の活動が優位な区間から副交感神経の活動が優位な区間へ変化している両区間の時間的割合の平均値を前記評価値とする、
請求項6に記載の呼吸法トレーニングシステム。
【請求項8】
前記調整手段は、前記評価値がフロー状態に至っていることを示す状態が一定時間以上に渡って継続した場合、最適呼吸抵抗負荷感を上昇させる、
請求項6又は7に記載の呼吸法トレーニングシステム。
【請求項9】
前記ディスプレイは、ヘッドマウントディスプレイである、
請求項1乃至8の何れか1項に記載の呼吸法トレーニングシステム。
【請求項10】
コンピュータを、
ユーザの呼吸から抽出された呼吸パラメータに応じて、当該ユーザの呼吸スキルを推定する推定手段、
前記呼吸スキルに応じて、前記ユーザによって視認されるディスプレイに表示されるオブジェクトの形状を変化させる度合いである最適呼吸抵抗負荷感を調整する調整手段、
前記呼吸パラメータと前記最適呼吸抵抗負荷感に応じて、前記オブジェクトの形状を変化させる映像を前記ディスプレイに表示させる制御手段、
として機能させる、
プログラム。
【請求項11】
ユーザの呼吸から抽出された呼吸パラメータに応じて、当該ユーザの呼吸スキルを推定する推定手段と、
前記呼吸スキルに応じて、前記ユーザによって視認されるディスプレイに表示されるオブジェクトの形状を変化させる度合いである最適呼吸抵抗負荷感を調整する調整手段と、
前記呼吸パラメータと前記最適呼吸抵抗負荷感に応じて、前記オブジェクトの形状を変化させる映像を前記ディスプレイに表示させる制御手段と、
を備える、
情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸法トレーニングシステム、プログラム、及び、情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ユーザの呼吸を整えるように誘導する呼吸誘導システムが知られている。
【0003】
これに関し、特許文献1には、ユーザ(利用者)に自然な呼吸を行わせることにより、息苦しさを感じさせないようにして、呼吸状態を習得することができる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、正しい呼吸パターンへの効果的な誘導を目的としており、呼吸に負荷をかけるような状況は避けるように設計されている。すなわち、ユーザの呼吸スキルが変化している場合でも呼吸の負荷は変更されないため、当該呼吸スキルの変化によって高い集中力を維持できる環境が構築できないという問題があった。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い集中力を維持できる環境を構築することができる呼吸法トレーニングシステム、プログラム、及び、情報処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第一態様に係る呼吸法トレーニングシステムは、ユーザの呼吸から呼吸パラメータを抽出する呼吸センサと、前記ユーザによって視認されるディスプレイと、前記呼吸パラメータに応じて、前記ユーザの呼吸スキルを推定する推定手段と、前記呼吸スキルに応じて、前記ディスプレイに表示されるオブジェクトの形状を変化させる度合いである最適呼吸抵抗負荷感を調整する調整手段と、前記呼吸パラメータと前記最適呼吸抵抗負荷感に応じて、前記オブジェクトの形状を変化させる映像を前記ディスプレイに表示させる制御手段と、を備える。
【0008】
また、本発明の第二態様では、前記調整手段は、前記呼吸スキルが高いほど、前記最適呼吸抵抗負荷感を高く調整し、前記制御手段は、前記最適呼吸抵抗負荷感が高いほど、前記オブジェクトの形状を変化させにくくする。
【0009】
また、本発明の第三態様では、前記制御手段は、前記最適呼吸抵抗負荷感が高いほど、前記オブジェクトの形状が変化し始める前記呼吸パラメータの閾値を高くする。
【0010】
また、本発明の第四態様では、前記呼吸パラメータは、吸気又は呼気を示す呼吸状態と、ボリュームを含み、前記推定手段は、前記呼吸パラメータの時系列データから抽出される、最大ボリューム、吸気又は呼気の所要時間、ボリューム変化の分散、及び、ボリューム変化の速度を用いて、前記呼吸スキルを推定する。
【0011】
また、本発明の第五態様では、前記制御手段は、前記呼吸状態が呼気である場合に前記オブジェクトの形状を縮小させ、前記呼吸状態が吸気である場合に前記オブジェクトの形状を拡大させる映像を前記ディスプレイに表示させる。
【0012】
また、本発明の第六態様では、前記ユーザの心拍から心拍変動パラメータを解析する心電計と、前記解析された心拍変動パラメータに応じて、前記ユーザがフロー状態に至っていることを示す評価値を算出する評価手段と、を備え、前記調整手段は、前記評価値に応じて、前記最適呼吸抵抗負荷感を調整する。
【0013】
また、本発明の第七態様では、前記心拍変動パラメータは、LF/HFであって、前記評価手段は、交感神経の活動が優位な区間から副交感神経の活動が優位な区間へ変化している両区間の時間的割合の平均値を前記評価値とする。
【0014】
また、本発明の第八態様では、前記調整手段は、前記評価値がフロー状態に至っていることを示す状態が一定時間以上に渡って継続した場合、最適呼吸抵抗負荷感を上昇させる。
【0015】
また、本発明の第九態様では、前記ディスプレイは、ヘッドマウントディスプレイである。
【0016】
また、本発明の第十態様に係るプログラムは、コンピュータを、ユーザの呼吸から抽出された呼吸パラメータに応じて、当該ユーザの呼吸スキルを推定する推定手段、前記呼吸スキルに応じて、前記ユーザによって視認されるディスプレイに表示されるオブジェクトの形状を変化させる度合いである最適呼吸抵抗負荷感を調整する調整手段、前記呼吸パラメータと前記最適呼吸抵抗負荷感に応じて、前記オブジェクトの形状を変化させる映像を前記ディスプレイに表示させる制御手段、として機能させる。
【0017】
また、本発明の第十一態様に係る情報処理装置は、ユーザの呼吸から抽出された呼吸パラメータに応じて、当該ユーザの呼吸スキルを推定する推定手段と、前記呼吸スキルに応じて、前記ユーザによって視認されるディスプレイに表示されるオブジェクトの形状を変化させる度合いである最適呼吸抵抗負荷感を調整する調整手段と、前記呼吸パラメータと前記最適呼吸抵抗負荷感に応じて、前記オブジェクトの形状を変化させる映像を前記ディスプレイに表示させる制御手段と、を備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高い集中力を維持できる環境を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】呼吸法トレーニングシステムの全体構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】呼吸スキルと呼吸抵抗負荷感の関係と、フロー状態に至ると予測される範囲を表すグラフの一例を示す図である。
【
図3】ユーザの呼吸量の時系列データを表すグラフの一例を示す図である。
【
図4】(A)乃至(C)は、ディスプレイに表示されるトレーニング映像の一例を示す図である。(A)は、ユーザの呼吸が開始される前のトレーニング映像の様子を示す図である。(B)は、(A)のトレーニング映像の様子からユーザが呼気を行った後のトレーニング映像の様子を示す図である。(C)は、(A)のトレーニング映像の様子からユーザが吸気を行った後のトレーニング映像の様子を示す図である。
【
図5】呼吸法トレーニング装置の機能構成の一例を概略的に示すブロック図である。
【
図6】本実施形態に係る呼吸法トレーニングシステムにおいて、呼吸法トレーニングの処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図7】本実施形態に係る呼吸法トレーニングシステムにおいて、心拍変動パラメータによって最適呼吸抵抗負荷感を調整する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図8】(A)乃至(C)は、心拍変動パラメータであるLF/HFの時系列データを表すグラフから、評価値を算出するプロセスの一例を示す図である。(A)は、LF/HFの時系列データの或る区間T
nに着目することを示す図である。(B)は、区間T
n内において交感神経及び副交感神経の活動が優位となる区間をそれぞれ示す図である。(C)は、区間T
n内において交感神経と副交感神経の活動バランスを評価するために用いる情報を示す図である。
【
図9】(A)及び(B)は、最適呼吸抵抗負荷感の動的調整プロセスの一例を示す図である。(A)は、評価値の時系列データを示す図である。(B)は、呼吸スキルと呼吸抵抗負荷感の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素及びステップに対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0021】
<全体構成>
図1は、呼吸法トレーニングシステム1の全体構成の一例を示すブロック図である。
【0022】
図1に示すように、呼吸法トレーニングシステム1は、呼吸法トレーニング装置10と、呼吸センサ22と、心電計24と、ディスプレイ26と、を備える。これらの装置は、有線又は無線によって接続され、各種情報(信号)を通信可能に構成されている。
【0023】
呼吸法トレーニング装置10は、ユーザに呼吸法を習得させるための情報処理装置(コンピュータ)である。呼吸法トレーニング装置10は、制御装置11と、通信装置16と、記憶装置18と、を備える。制御装置11は、CPU(Central Processing Unit)12及びメモリ14を主に備えて構成される。
【0024】
呼吸法トレーニング装置10は、例えば、記憶装置18に格納されているプログラム20をメモリ14に読み込んで、呼吸法のトレーニングを実行する情報処理装置(コンピュータ)である。呼吸法トレーニング装置10としては、パーソナルコンピュータやスマートフォン、タブレット、ビデオゲーム機等の様々なものが挙げられる。本実施形態では、呼吸法トレーニング装置10は、プログラム20を実行し、呼吸センサ22において検出された呼吸パラメータや、心電計24において解析された心拍変動パラメータに基づき、映像や音声をディスプレイ26に出力させる。
なお、プログラム20は、呼吸法トレーニング装置10に挿入される各種記憶媒体に格納されていてもよい。
【0025】
制御装置11では、CPU12がメモリ14或いは記憶装置18等に格納された所定のプログラムを実行することにより、各種の機能手段として機能する。この機能手段の詳細については後述する。
【0026】
通信装置16は、外部の装置と通信するための通信インターフェース等で構成される。例えば、通信装置16は、外部のディスプレイ装置(例えば検証用ディスプレイ)に、ディスプレイ26において流れている映像や音声、後述する呼吸パラメータや、呼吸スキル、最適呼吸抵抗負荷感、心拍変動パラメータ、評価値、閾値等の時系列データを送信(出力)する。
【0027】
記憶装置18は、ハードディスク等で構成される。記憶装置18は、プログラム20を含む、制御装置11における処理の実行に必要な各種プログラムや各種の情報、及び処理結果の情報を記憶する。
【0028】
呼吸センサ22は、ユーザの呼吸から、単位時間(例えば100ミリ秒)毎に呼吸パラメータを抽出するセンサである。この呼吸パラメータは、呼吸状態と、ボリューム(呼吸量)を含む。呼吸状態は、吸気又は呼気を示す値(例えばフラグ)を含む。例えば、呼吸状態が吸気である場合、ボリュームは、吸気量(吸気ボリューム)を含む。一方、呼吸状態が呼気である場合、ボリュームは、呼気量(呼気ボリューム)を含む。ボリュームは、例えば0から100までの値を含む。
【0029】
呼吸センサ22としては、ユーザが呼吸時に発生する音声を検知する音声検知センサや、ユーザの腹部の動き(例えば腹囲)を検知する動作検知センサ、ユーザの口付近の温度を検知する温度センサ、ユーザの口付近の湿度を検知する温度センサ等が挙げられる。本実施形態では、呼吸センサ22は、音声検知センサ(例えばマイク)によって実現される。
なお、呼吸センサ22は、後述する心電計24やディスプレイ26と一体化されていてもよい。
【0030】
心電計24は、ユーザの心拍から心拍変動パラメータ(周波数領域パラメータ)を解析する測定器である。この心拍変動パラメータとしては、例えば、LF/HFが挙げられる。LFは、低周波(例えば、0.02~0.15Hz)の周波数帯のパワースペクトルである。HFは、高周波(例えば、0.15~0.5Hz)の周波数帯のパワースペクトルである。
LF/HFは、LFとHFのパワー値の比であって、交感神経と副交感神経のバランスを表す。例えば、LF/HFは、高い数値であると交感神経が優位であることを示し、低い数値であると副交感神経が優位であることを示す。
【0031】
ディスプレイ26は、ユーザによって視認される映像が表示される。このディスプレイ26は、例えば、ヘッドマウントディスプレイである。ヘッドマウントディスプレイは、ユーザの頭部に装着されるディスプレイ(画面)である。このヘッドマウントディスプレイは、ユーザの頭の動きを検知するセンサを備え、仮想空間の映像(例えば風景等)をユーザの顔の向きに合わせて出力することができ、360度の視界(視野角)を提供することができる。
また、ディスプレイ26(ヘッドマウントディスプレイ)は、スピーカを備え、映像に合わせた音声を出力することができる。
例えば、ユーザは、このヘッドマウントディスプレイを装着することにより、より没入感や臨場感の高いバーチャルリアリティ(VR)を体験しながら、呼吸法トレーニングを行うことができる。
【0032】
なお、呼吸法トレーニングシステム1は、専用又は汎用のサーバ・コンピュータなどの情報処理装置を用いて実現することができる。また、呼吸法トレーニング装置10は、単一の情報処理装置より構成されるものであっても、通信ネットワークを介して複数の情報処理装置より構成されるものであってもよい。
【0033】
<呼吸法トレーニングの概要>
本実施形態に係る呼吸法トレーニングは、ユーザの呼吸スキルに応じた最適呼吸抵抗負荷感を用いて、当該ユーザに視覚的フィードバックを行う。この視覚的フィードバックは、例えば、ユーザの呼吸によって、ディスプレイ26に出力されるトレーニング映像に含まれるオブジェクト(例えば雲オブジェクト)の形状を変化させることである。
【0034】
呼吸スキルは、例えば、呼吸を行う能力を示す値である。例えば、呼吸スキルが高いユーザは、最大ボリューム(最大呼吸量)が大きかったり、吸気又は呼気の所要時間(完全に吸う時間又は吐き切るまでの時間)が長かったり、ボリューム変化(呼吸量変化)の分散(バラツキ)が小さかったり、ボリューム変化(呼吸量変化)の速度が低かったりする。
【0035】
最適呼吸抵抗負荷感は、例えば、視覚的フィードバックを行う映像に含まれるオブジェクトの形状を変化させる度合い(値)である。例えば、最適呼吸抵抗負荷感(値)に応じて、トレーニング映像に含まれるオブジェクトの形状が変化し始める呼吸パラメータ(例えば呼吸ボリューム)の閾値が更新される。具体的には、ユーザの呼吸パラメータ(例えば呼吸ボリューム)が閾値以上である場合は、オブジェクトの形状が変化し始める。一方、ユーザの呼吸パラメータ(例えば呼吸ボリューム)が閾値未満である場合は、オブジェクトの形状は変化しない。すなわち、ユーザは、最適呼吸抵抗負荷感が高い値であるほどオブジェクトの形状を変化させにくく感じ、最適呼吸抵抗負荷感が低い値であるほどオブジェクトの形状を変化させやすく感じる。
【0036】
図2は、呼吸スキルと呼吸抵抗負荷感の関係と、フロー状態に至ると予測される範囲を表すグラフの一例を示す図である。
【0037】
図2に示すように、呼吸パラメータによって呼吸スキルが推定(呼吸スキル推定値が算出)された場合、当該呼吸スキル(横軸)に対して、フロー状態に至ると予測される範囲(領域)に含まれる最適呼吸抵抗負荷感(縦軸)が導き出される。
【0038】
図3は、ユーザの呼吸量の時系列データを表すグラフの一例を示す図である。
【0039】
図3に示すように、呼吸量(呼吸パラメータ)が最適呼吸抵抗負荷感に応じて定められた閾値以上となった時間帯(t
1~t
5)と、閾値未満の時間帯が存在する。本実施形態では、呼吸量が閾値以上となった時間帯(t
1~t
5)において、トレーニング映像に含まれるオブジェクトの形状が変化し、それ以外(閾値未満)の時間帯においては、当該オブジェクトの形状は変化しない。
【0040】
図4(A)乃至(C)は、ディスプレイ26に表示されるトレーニング映像50の一例を示す図である。例えば、
図4(A)は、ユーザの呼吸が開始される前のトレーニング映像50の様子を示す図である。また、例えば、
図4(B)は、
図4(A)のトレーニング映像50の様子からユーザが呼気を行った後のトレーニング映像50の様子を示す図である。また、例えば、
図4(C)は、
図4(A)のトレーニング映像50の様子からユーザが吸気を行った後のトレーニング映像50の様子を示す図である。
【0041】
図4に示すように、トレーニング映像50には、例えば、仮想空間52と、雲オブジェクト54と、が表されている。仮想空間52には、例えば、雲オブジェクト54が含まれる。
【0042】
図4(A)の仮想空間52において、ユーザが呼気を行うと、
図4(B)の仮想空間52のように雲オブジェクト54を縮小(離散)させ、空を出現させる(天候が曇りから晴れになる)。また、
図4(A)の仮想空間52において、ユーザが吸気を行うと、
図4(C)の仮想空間52のように雲オブジェクト54を拡大(集合)させ、雨雲を出現させる(天候が曇りから雨になる)。
【0043】
例えば、
図4(A)や
図4(B)の仮想空間52が表示されている場合、すなわち、仮想空間52の天候が晴れの状態である場合、ディスプレイ26(ヘッドマウントディスプレイ)のスピーカには、虫の鳴き声(例えばセミの鳴き声)が出力される。また、例えば、
図4(C)の仮想空間52が表示されている場合、すなわち、仮想空間52の天候が雨の状態である場合、ディスプレイ26(ヘッドマウントディスプレイ)のスピーカには、雨や雷の音が出力される。これにより、ユーザは、仮想空間52に実際にいるかのように錯覚し、没入感や臨場感を得ながら、呼吸法トレーニングを行うことができる。
【0044】
以上のようなトレーニング映像50に表示される仮想空間52おいて、例えば、ユーザは、呼気をすることで雲オブジェクト54を散らし、吸気をすることで雲オブジェクト54を集めることによって、呼吸法トレーニングを行う。すなわち、ユーザは、呼吸によって仮想空間52に含まれる雲オブジェクト54の形状を変化させて、天候が晴れの状態や、曇りの状態、雨の状態を順番に作り出すことに集中することで、自然に呼吸法のトレーニングを行うことができる。
【0045】
<機能構成>
図5は、呼吸法トレーニング装置10の機能構成の一例を概略的に示すブロック図である。
【0046】
図5に示すように、呼吸法トレーニング装置10は、記憶手段40と、推定手段42と、調整手段44と、制御手段46と、評価手段48等の機能構成を備える。記憶手段40は、メモリ14や、一又は複数の記憶装置18で実現される。記憶手段40以外の機能構成は、記憶装置18等に格納されたプログラム20を制御装置11が実行することにより実現される。
【0047】
記憶手段40は、映像情報40Aや、時系列データ40B等を記憶する機能を有する。
【0048】
映像情報40Aは、オブジェクト画像や背景画像を含む。オブジェクト画像は、例えば、雲や雨雲等の画像を含む。背景画像は、空や山、木等の画像を含む。
【0049】
時系列データ40Bは、各種情報の時系列データを含む。この各種情報としては、呼吸パラメータや、呼吸スキル、最適呼吸抵抗負荷感、心拍変動パラメータ、評価値、閾値等が挙げられる。この時系列データには、例えば呼吸法トレーニングの開始から終了までの間における各種情報の推移が含まれる。呼吸スキル(呼吸スキル推定値)は、呼吸パラメータに応じて推定される値である。この呼吸スキル(呼吸スキル推定値)は、例えば0から100までの値を含む。最適呼吸抵抗負荷感は、呼吸スキルや心拍変動パラメータによって調整される値である。最適呼吸抵抗負荷感は、例えば0から100までの値を含む。評価値は、心拍変動パラメータに応じて算出される値である。評価値は、例えば0から1までの値を含む。閾値は、オブジェクトの形状が変化し始める呼吸パラメータ(例えば呼吸量)に対応する値である。この閾値は、最適呼吸抵抗負荷感に応じて定められる(更新される)。
【0050】
推定手段42は、ユーザの呼吸スキルを推定(呼吸スキル推定値を算出)する機能手段である。本実施形態では、推定手段42は、呼吸センサ22によって抽出された呼吸パラメータに応じて、ユーザの呼吸スキルを推定する。この呼吸パラメータは、吸気又は呼気を示す呼吸状態と、ボリュームを含む。例えば、推定手段42は、呼吸パラメータの時系列データから抽出される、最大ボリューム(最大呼吸量)、吸気又は呼気の所要時間(完全に吸う時間又は吐き切るまでの時間)、ボリューム変化(呼吸量変化)の分散(バラツキ)、及び、ボリューム変化の速度を用いて、呼吸スキルを推定する。なお、推定手段42は、呼吸パラメータの時系列データから抽出されるこれらの情報の一部を用いて、呼吸スキルを推定してもよい。
【0051】
例えば、推定手段42は、最大ボリュームが大きい場合や、吸気又は呼気の所要時間が長い場合、ボリューム変化の分散が小さい場合、ボリューム変化の速度が低い場合に、呼吸スキル推定値を高く算出する。
【0052】
調整手段44は、最適呼吸抵抗負荷感を調整する機能手段である。本実施形態では、調整手段44は、推定手段42によって推定された呼吸スキルに応じて、ディスプレイ26に表示されるオブジェクト(例えば雲オブジェクト)の形状を変化させる度合いである最適呼吸抵抗負荷感を調整する。例えば、調整手段44は、ユーザの呼吸スキルに対して、予め定められたフロー状態に至ると予測される範囲に含まれる最適呼吸抵抗負荷感を調整する。例えば、呼吸スキルが「30」である場合、予め定められたフロー状態に至ると予測される最適呼吸抵抗負荷感は、「20~40」の範囲である。このため、調整手段44は、呼吸スキルが「30」である場合、最適呼吸抵抗負荷感を「20~40」の中間値である「30」に調整する。また、例えば、呼吸スキルが「50」である場合、予め定められたフロー状態に至ると予測される最適呼吸抵抗負荷感は、「40~60」の範囲である。このため、調整手段44は、呼吸スキルが「50」である場合、最適呼吸抵抗負荷感を「40~60」の中間値である「50」に調整する。すなわち、調整手段44は、推定された呼吸スキルが高いほど最適呼吸抵抗負荷感を高く調整し、呼吸スキルが低いほど最適呼吸抵抗負荷感を低く調整する。
【0053】
また、調整手段44は、評価手段48によって算出された評価値に応じて、最適呼吸抵抗負荷感を調整する。
例えば、調整手段44は、評価値がフロー状態に至っていることを示す状態(例えば評価値が0.7以上である状態)が一定時間(例えば10秒)以上に渡って継続した場合、最適呼吸抵抗負荷感を上昇させて呼吸に対する負荷を与える。すなわち、調整手段44は、敢えてフロー状態から逸脱する状態を作るように最適呼吸抵抗負荷感を調整する。
一方、調整手段44は、敢えてフロー状態から逸脱するように最適呼吸抵抗負荷感を調整した後、評価値がフロー状態から離れていることを示す状態(例えば評価値が0.4未満である状態)が一定時間(例えば10秒)以上に渡って継続した場合、最適呼吸抵抗負荷感を下降させて呼吸に対する負荷を軽減する。すなわち、調整手段44は、敢えてフロー状態から逸脱させた状態から再びフロー状態に至る(戻る)ように、最適呼吸抵抗負荷感を調整する。
【0054】
制御手段46は、呼吸法トレーニングシステム1の全体を制御する機能手段である。本実施形態では、制御手段46は、呼吸パラメータと最適呼吸抵抗負荷感に応じて、オブジェクトの形状を変化させる映像をディスプレイ26に表示させる。
例えば、制御手段46は、最適呼吸抵抗負荷感が高いほど、オブジェクトの形状を変化させにくくする。例えば、制御手段46は、最適呼吸抵抗負荷感が高いほど、呼吸パラメータに応じたオブジェクトの形状の変化量(移動距離)を小さくする。すなわち、制御手段46は、最適呼吸抵抗負荷感が高い場合には、呼吸パラメータ(ボリューム)によって、当該変化量を小さくする。
また、例えば、制御手段46は、最適呼吸抵抗負荷感が高いほど、オブジェクトの形状が変化し始める(移動が開始する)呼吸パラメータの閾値を高くする。例えば、制御手段46は、最適呼吸抵抗負荷感が「30以上40未満」である場合、閾値を「30」とする。また、例えば、制御手段46は、最適呼吸抵抗負荷感が「50以上60未満」である場合、閾値を「50」とする。
【0055】
また、制御手段46は、呼吸状態が呼気である場合にオブジェクトの形状を縮小させ、呼吸状態が吸気である場合にオブジェクトの形状を拡大させる映像をディスプレイ26に表示させる。例えば、制御手段46は、呼吸状態が呼気である場合に雲オブジェクトを離散させ、呼吸状態が吸気である場合に雲オブジェクトを集合させる映像をディスプレイ26に表示させる。
【0056】
評価手段48は、ユーザがフロー状態に至っていることを示す評価値を算出する。この評価値は、例えば、交感神経と副交感神経の活動バランスを評価した値である。本実施形態では、評価手段48は、心電計24によって解析された心拍変動パラメータに応じて、評価値を算出する。この心拍変動パラメータは、LF/HFである。例えば、評価手段48は、交感神経の活動が優位な区間から副交感神経の活動が優位な区間へ変化している両区間の正規化した時間的割合の平均値を評価値とする。この評価値の算出方法については、後述する。
【0057】
<呼吸法トレーニング処理の流れ>
(具体例1)
図6は、本実施形態に係る呼吸法トレーニングシステム1において、呼吸法トレーニングの処理の流れの一例を示すフローチャートである。また、以下のステップの処理は、例えば、ユーザの呼吸が検知されたタイミングで開始される。なお、以下のステップの順番及び内容は、適宜、変更することができる。
【0058】
(ステップSP10)
推定手段42は、呼吸センサ22によって抽出された呼吸パラメータを取得する。続いて、推定手段42は、時系列データ40Bにおける呼吸パラメータの時系列データを更新する。そして、処理は、ステップSP12の処理に移行する。
【0059】
(ステップSP12)
推定手段42は、ステップSP10において更新された呼吸パラメータの時系列データから抽出される、最大ボリューム(最大呼吸量)、吸気又は呼気の所要時間(完全に吸う時間又は吐き切るまでの時間)、ボリューム変化(呼吸量変化)の分散(バラツキ)、及び、ボリューム変化の速度を用いて、呼吸スキルを推定(呼吸スキル推定値を算出)する。続いて、推定手段42は、時系列データ40Bにおける呼吸スキルの時系列データを更新する。なお、推定手段42は、呼吸パラメータの時系列データが不十分である場合、例えば所定値(例えば10)を呼吸スキルとして推定する。そして、処理は、ステップSP14の処理に移行する。
【0060】
(ステップSP14)
調整手段44は、ステップSP12において推定された呼吸スキルに対して、予め定められたフロー状態に至ると予測される範囲に含まれる最適呼吸抵抗負荷感を調整する。例えば、調整手段44は、呼吸スキルが「30」である場合、最適呼吸抵抗負荷感を「30」に調整する。続いて、調整手段44は、時系列データ40Bにおける最適呼吸抵抗負荷感の時系列データを更新する。そして、処理は、ステップSP16の処理に移行する。
【0061】
(ステップSP16)
制御手段46は、ステップSP14において調整された最適呼吸抵抗負荷感に応じて、閾値を更新する。例えば、制御手段46は、最適呼吸抵抗負荷感が「30以上40未満」である場合、閾値を「30」とする。続いて、制御手段46は、時系列データ40Bにおける閾値の時系列データを更新する。そして、処理は、ステップSP18の処理に移行する。
【0062】
(ステップSP18)
制御手段46は、ステップSP10において取得された呼吸パラメータに含まれるボリュームが閾値(例えば30)以上であるか否かを判定する。そして、当該判定が肯定判定された場合には、処理は、ステップSP20の処理に移行する。一方、当該判定が否定判定された場合には、処理は、ステップSP26の処理に移行する。
【0063】
(ステップSP20)
制御手段46は、ステップSP10において取得された呼吸パラメータに含まれる呼吸状態が吸気であるか否かを判定する。そして、当該判定が肯定判定された場合には、処理は、ステップSP22の処理に移行する。一方、当該判定が否定判定された場合、すなわち、呼吸パラメータに含まれる呼吸状態が呼気である場合には、処理は、ステップSP24の処理に移行する。
【0064】
(ステップSP22)
制御手段46は、トレーニング映像に含まれる仮想空間内のオブジェクトの形状を拡大させる。例えば、制御手段46は、仮想空間内の雲オブジェクトを集合させるように雲オブジェクトの形状を更新する。そして、処理は、ステップSP26の処理に移行する。
【0065】
(ステップSP24)
制御手段46は、トレーニング映像に含まれる仮想空間内のオブジェクトの形状を縮小させる。例えば、制御手段46は、仮想空間内の雲オブジェクトを離散させるように雲オブジェクトの形状を更新する。そして、処理は、ステップSP26の処理に移行する。
【0066】
(ステップSP26)
制御手段46は、トレーニング映像を更新して、ディスプレイ26に表示させる。そして、処理は、ステップSP28の処理に移行する。
【0067】
(ステップSP28)
制御手段46は、呼吸法トレーニングが終了したか否かを判定する。例えば、制御手段46は、トレーニングの開始から所定時間(例えば15分)が経過した場合に、当該判定を肯定する。そして、当該判定が肯定判定された場合には、処理は、
図6に示す一連の処理を終了する。一方、当該判定が否定判定された場合には、処理は、ステップSP10の処理に移行する。
【0068】
(具体例2)
上述した具体例1では、上記ステップSP10乃至ステップSP14において、呼吸センサ22によって抽出された呼吸パラメータによって最適呼吸抵抗負荷感が調整されることを説明したが、心電計24によって解析された心拍変動パラメータに応じて最適呼吸抵抗負荷感が調整されてもよい。すなわち、最適呼吸抵抗負荷感は、呼吸センサ22によって抽出された呼吸パラメータ、及び/又は、心電計24によって解析された心拍変動パラメータに応じて、調整されてもよい。
【0069】
<調整処理の流れ>
図7は、本実施形態に係る呼吸法トレーニングシステム1において、心拍変動パラメータによって最適呼吸抵抗負荷感を調整する処理の流れの一例を示すフローチャートである。例えば、以下のステップの処理は、例えば、上記ステップSP10乃至ステップSP14の処理と代替してもよいし、上記ステップSP14の処理の後に開始されてもよい。なお、以下のステップの順番及び内容は、適宜、変更することができる。
【0070】
(ステップSP30)
評価手段48は、心電計24によって解析された心拍変動パラメータ(LF/HF)を取得する。続いて、評価手段48は、時系列データ40Bにおける心拍変動パラメータの時系列データを更新する。そして、処理は、ステップSP32の処理に移行する。
【0071】
(ステップSP32)
評価手段48は、ステップSP30において更新された心拍変動パラメータ(LF/HF)の時系列データから、ユーザがフロー状態に至っていることを示す評価値を算出する。続いて、評価手段48は、時系列データ40Bにおける評価値の時系列データを更新する。
【0072】
図8(A)乃至(C)は、心拍変動パラメータであるLF/HFの時系列データを表すグラフから、評価値を算出するプロセスの一例を示す図である。例えば、
図8(A)は、LF/HFの時系列データの或る区間T
nに着目することを示す図である。また、例えば、
図8(B)は、区間T
n内において交感神経及び副交感神経の活動が優位となる区間をそれぞれ示す図である。また、例えば、
図8(C)は、区間T
n内において交感神経と副交感神経の活動バランスを評価するために用いる情報を示す図である。
【0073】
図8(C)に示すように、評価手段48は、交感神経の活動が優位な区間から副交感神経の活動が優位な区間へ変化している両区間(例えば、t
sn(1)とt
pn(1)、t
sn(2)とt
pn(2)、t
sn(3)とt
pn(3)、t
sn(4)とt
pn(4))の正規化した時間的割合の平均値を評価値(E
Tn)とする。この評価値は、着目した区間T
nにおける交感神経と副交感神経の活動バランスの評価値である。この評価値を算出する数式は、以下のように表される。
【0074】
(数1)
ETn=(1/N)×ΣN
i=1(min(tsn(i),tpn(i))/max(tsn(i),tpn(i)))
【0075】
図7に戻って、処理は、ステップSP34の処理に移行する。
【0076】
(ステップSP34)
調整手段44は、評価値の時系列データに応じて、最適呼吸抵抗負荷感の調整が必要であるか否かを判断する。例えば、調整手段44は、一定時間以上に渡って評価値がフロー状態に至っていることを示している場合や、一定時間以上に渡って評価値がフロー状態から離れていることを示している場合に、当該判定を肯定する。そして、当該判定が肯定判定された場合には、処理は、ステップSP36の処理に移行する。一方、当該判定が否定判定された場合には、処理は、
図7に示す一連の処理を終了する。
【0077】
(ステップSP36)
調整手段44は、最適呼吸抵抗負荷感を調整する。例えば、調整手段44は、一定時間以上に渡って評価値がフロー状態に至っていることを示している場合、フロー状態から逸脱する状態を意図的に作ってリラックス状態を効果的に生み出すため、最適呼吸抵抗負荷感を敢えて高くする調整を行う。一方、調整手段44は、当該最適呼吸抵抗負荷感を敢えて高くする調整を行った後、一定時間以上に渡って評価値がフロー状態から離れていることを示している場合、フロー状態に至る状態を作るために、最適呼吸抵抗負荷感を低くする調整を行う。そして、処理は、
図7に示す一連の処理を終了する。
【0078】
図9(A)及び(B)は、最適呼吸抵抗負荷感の動的調整プロセスの一例を示す図である。例えば、
図9(A)は、評価値(E
Tn)の時系列データを示す図である。また、例えば、
図9(B)は、呼吸スキルと呼吸抵抗負荷感の関係を示すグラフである。
【0079】
図9(A)に示すように、評価値(E
Tn)が1に近似している場合(例えば0.7以上である場合)にフロー状態に至っているといえる。ここで、ID
1区間では、当該区間の中盤から評価値が上昇し、当該区間の終盤(t
n1)においてフロー状態に至っている時間が一定時間以上に渡って継続している。このため、調整手段44は、フロー状態から逸脱する状態を意図的に作ってリラックス状態を効果的に生み出すため、最適呼吸抵抗負荷感を敢えて高くする調整を行う。なお、調整手段44は、呼吸法トレーニングにおいてフロー状態を維持することを目的とする場合、一定時間以上に渡って評価値がフロー状態に至っていることを示していても、最適呼吸抵抗負荷感を調整しない。
【0080】
次に、
図9(B)に示すように、調整手段44は、ID
1区間においてフロー状態に至っている時間が一定時間以上に渡って継続した場合、最適呼吸抵抗負荷感をID
1区間よりも高く調整する。
【0081】
次に、
図9(A)に示すように、最適呼吸抵抗負荷感を調整したID
2区間が開始すると、評価値が下降し、フロー状態から逸脱する。ここで、ID
2区間では、当該区間の終盤(t
n2)において、評価値がフロー状態から離れている時間(例えば評価値が0.4未満の時間)が一定時間以上に渡って継続している。このため、調整手段44は、再びフロー状態に至る状態を作るために、最適呼吸抵抗負荷感を低くする調整を行う。
【0082】
次に、
図9(B)に示すように、調整手段44は、ID
2区間においてフロー状態から離れている時間が一定時間以上に渡って継続した場合、最適呼吸抵抗負荷感をID
2区間よりも低く調整する。
【0083】
次に、
図9(A)に示すように、最適呼吸抵抗負荷感を調整したID
3区間が開始すると、評価値が上昇し、再びフロー状態に至る。
【0084】
(具体例3)
上述した具体例1では、上記ステップSP12において、推定手段42は、呼吸センサ22によって抽出された呼吸パラメータに応じて、ユーザの呼吸スキルを推定する場合を説明したが、ユーザが吸気状態である場合の吸気スキルと、呼気状態である場合の呼気スキルを推定してもよい。
【0085】
例えば、上記ステップSP12において、推定手段42は、呼吸パラメータの時系列データから抽出される、最大吸気ボリュームや、吸気の所要時間、吸気ボリューム変化の分散、吸気ボリューム変化の速度を用いて、吸気スキルを推定する。同様に、例えば、推定手段42は、呼吸パラメータの時系列データから抽出される、最大呼気ボリュームや、呼気の所要時間、呼気ボリューム変化の分散、呼気ボリューム変化の速度を用いて、呼気スキルを推定する。
【0086】
また、例えば、上記ステップSP14において、調整手段44は、吸気に対応する最適呼吸抵抗負荷感と、呼気に対応する最適呼吸抵抗負荷感を調整してもよい。
【0087】
また、例えば、上記ステップSP16において、制御手段46は、ユーザが吸気状態である場合の吸気閾値と、呼気状態である場合の呼気閾値を定めてもよい。
【0088】
また、例えば、上記ステップSP18において、制御手段46は、上記ステップSP10において取得された呼吸パラメータに含まれる呼吸状態が吸気である場合、吸気パラメータ(例えば吸気ボリューム)が吸気閾値以上であるか否かを判定してもよい。同様に、例えば、上記ステップSP18において、制御手段46は、上記ステップSP10において取得された呼吸パラメータに含まれる呼吸状態が呼気である場合、呼気パラメータ(例えば呼気ボリューム)が呼気閾値以上であるか否かを判定してもよい。
【0089】
<効果>
以上、本実施形態では、ユーザの呼吸から呼吸パラメータを抽出する呼吸センサ22と、ユーザによって視認されるディスプレイ26と、呼吸パラメータに応じて、ユーザの呼吸スキルを推定する推定手段42と、呼吸スキルに応じて、ディスプレイ26に表示されるオブジェクトの形状を変化させる度合いである最適呼吸抵抗負荷感を調整する調整手段44と、呼吸パラメータと最適呼吸抵抗負荷感に応じて、オブジェクトの形状を変化させる映像をディスプレイに表示させる制御手段46と、を備える。
【0090】
この構成によれば、ユーザの呼吸スキルに応じた最適呼吸提供負荷感によって、オブジェクトの形状を変化させる映像をディスプレイに表示させるため、高い集中力を維持できる環境を構築することができる。また、この結果、疼痛コントロールの際に、ユーザの痛みやストレス、緊張を軽減することができる。また、最適呼吸提供負荷感を与えることで、ユーザのうつ病の治療も可能となる。
【0091】
また、本実施形態では、調整手段44は、呼吸スキルが高いほど、最適呼吸抵抗負荷感を高く調整し、制御手段46は、最適呼吸抵抗負荷感が高いほど、オブジェクトの形状を変化させにくくする。
【0092】
この構成によれば、呼吸スキルが高いほどオブジェクトの形状を変化させにくくするため、ユーザの呼吸スキルに合わせた視覚的フィードバックを行うことができ、もって高い集中力を維持できる環境を構築することができる。
【0093】
また、本実施形態では、制御手段46は、最適呼吸抵抗負荷感が高いほど、オブジェクトの形状が変化し始める呼吸パラメータの閾値を高くする。
【0094】
この構成によれば、呼吸スキルが高いほどオブジェクトの形状が変化し始める呼吸パラメータも高くなるため、ユーザの呼吸スキルに合わせた視覚的フィードバックを更に行うことができ、もって高い集中力を維持できる環境を構築することができる。
【0095】
また、本実施形態では、呼吸パラメータは、吸気又は呼気を示す呼吸状態と、ボリュームを含み、推定手段42は、呼吸パラメータの時系列データから抽出される、最大ボリューム、吸気又は呼気の所要時間、ボリューム変化の分散、及び、ボリューム変化の速度を用いて、呼吸スキルを推定する。
【0096】
この構成によれば、呼吸パラメータに含まれる呼吸状態やボリュームから抽出される各種情報を用いて呼吸スキルを推定するため、ユーザに合わせた細かいトレーニングを行うことができる。
【0097】
また、本実施形態では、制御手段46は、呼吸状態が呼気である場合にオブジェクトの形状を縮小させ、呼吸状態が吸気である場合にオブジェクトの形状を拡大させる映像をディスプレイ26に表示させる。
【0098】
この構成によれば、ユーザが呼吸を行うことで、オブジェクトの形状が縮小及び拡大する映像を表示することができるため、ユーザの呼吸に合わせた視覚的フィードバックを行うことができ、もって高い集中力を維持できる環境を構築することができる。
【0099】
また、本実施形態では、ユーザの心拍から心拍変動パラメータを解析する心電計24と、解析された心拍変動パラメータに応じて、ユーザがフロー状態に至っていることを示す評価値を算出する評価手段48と、を備え、調整手段44は、評価値に応じて、最適呼吸抵抗負荷感を調整する。
【0100】
この構成によれば、心拍変動パラメータを用いて、ユーザがフロー状態に至っているかどうかをモニタリングしながら最適呼吸抵抗負荷感を調整することができるため、高い集中力を維持できる環境を構築することができる。
【0101】
また、本実施形態では、心拍変動パラメータは、LF/HFであって、評価手段48は、交感神経の活動が優位な区間から副交感神経の活動が優位な区間へ変化している両区間の時間的割合の平均値を評価値とする。
【0102】
この構成によれば、LF/HFを用いて、ユーザがフロー状態に至っているかどうかを時間的割合の平均値によって詳細にモニタリングしながら最適呼吸抵抗負荷感を調整することができるため、高い集中力を維持できる環境を構築することができる。
【0103】
また、本実施形態では、調整手段44は、評価値がフロー状態に至っていることを示す状態が一定時間以上に渡って継続した場合、最適呼吸抵抗負荷感を上昇させる。
【0104】
この構成によれば、フロー状態に至っている状態から逸脱する状態を意図的に作ることができ、リラックス状態を効果的に生み出すことができる。
【0105】
また、本実施形態では、ディスプレイ26は、ヘッドマウントディスプレイである。
【0106】
この構成によれば、視覚的フィードバックにおいて、ユーザに高い没入感と臨場感を提供することができるため、高い集中力を維持できる環境を構築することができる。
【0107】
<変形例>
なお、本発明は上記の具体例に限定されるものではない。すなわち、上記の具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。また、前述した実施形態及び後述する変形例が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【0108】
例えば、上記実施形態では、オブジェクトが雲である場合を説明したが、霧や煙、雪等の様々なオブジェクトによって代用することができる。例えば、オブジェクトは、粒子物の集合であることが好ましい。
【0109】
また、上記実施形態では、推定手段42は、呼吸センサ22が抽出した呼吸パラメータに応じて、ユーザの呼吸スキルを推定する場合を説明したが、呼吸センサ22が検知した呼吸信号に基づき、推定手段42が呼吸パラメータを抽出してもよい。
【0110】
また、上記実施形態では、評価手段48は、心電計24によって解析された心拍変動パラメータに応じて、評価値を算出する場合を説明したが、心電計24が検知した心拍信号に基づき、評価手段48が心拍変動パラメータを解析してもよい。
【0111】
また、上記実施形態では、制御手段46は、呼吸パラメータ(例えば呼吸量)によって、オブジェクトの形状を変化させる場合を説明したが、オブジェクトの位置を変化(移動)させてもよい。例えば、制御手段46は、呼吸パラメータによって、仮想空間内のオブジェクトを仮想視点(ユーザ目線)の奥行き方向に移動させてもよい。具体的には、制御手段46は、例えば、仮想視点に向かってくる球体オブジェクトを吸気によって引き寄せたり、呼気によって遠ざけたりするトレーニング映像をディスプレイ26に表示させる。
また、例えば、制御手段46は、呼吸パラメータ(例えば呼気ボリューム)によって、仮想視点に向かってくるオブジェクトの速度を低下(静止)させてもよい。この速度は、例えば、最適呼吸抵抗負荷感が高いほど、速くなる。具体的には、制御手段46は、例えば、仮想視点に向かってくる球体オブジェクトを呼気によって静止させる(押し返す)トレーニング映像をディスプレイ26に表示させる。
【符号の説明】
【0112】
1…呼吸法トレーニングシステム
10…呼吸法トレーニング装置(コンピュータ、情報処理装置)
20…プログラム
22…呼吸センサ
24…心電計
26…ディスプレイ(ヘッドマウントディスプレイ)
42…推定手段
44…調整手段
46…制御手段
48…評価手段