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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144830
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/54 20060101AFI20231003BHJP
   F16C 19/26 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
F16C33/54 Z
F16C19/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051990
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000229335
【氏名又は名称】日本トムソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【弁理士】
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】島田 義洋
(72)【発明者】
【氏名】飛田野 謙吾
(72)【発明者】
【氏名】石塚 直也
(72)【発明者】
【氏名】柳谷 明英
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA13
3J701AA14
3J701AA34
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA34
3J701BA45
3J701BA47
3J701BA49
3J701DA07
3J701DA09
3J701DA16
3J701EA01
3J701FA04
3J701FA44
3J701GA01
(57)【要約】
【課題】コストダウンを図りつつ、比較的簡易な構成で転動体の脱落を防止することができる転がり軸受を提供する。
【解決手段】転がり軸受は、外輪と、軌道面を転動する複数の転動体と、帯状の金属部材を環状に折り曲げて両端を溶接して形成され、転動体の内径側への脱落を防止する環状の転動体脱落防止部材と、を備える。転動体脱落防止部材は、複数の柱部と、連結部と、を含む。連結部は、溶接部と、第1の切断部と、第2の切断部と、を含む。軸方向に見て、第1の切断部および第2の切断部はそれぞれ、軸の中心を中心として溶接部から45°以上315°以下の角度の範囲内で設けられている。第2の切断部は、軸の中心を中心として第1の切断部の位置に対して、180°に相当する位置にある窓部の位置または180°に相当する位置にある窓部と隣り合う窓部の位置に設けられている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸を支持する転がり軸受であって、
内周面に軌道面を有する外輪と、
前記軌道面を転動する複数の転動体と、
前記外輪の内径側に配置され、前記転動体の転動面を露出するよう径方向に貫通する複数の窓部を有し、帯状の金属部材を環状に折り曲げて両端を溶接して形成され、前記転動体の内径側への脱落を防止する環状の転動体脱落防止部材と、を備え、
前記転動体脱落防止部材は、
周方向にそれぞれ前記転動体の径よりも短い間隔をあけて前記複数の窓部を形成するように配置され、軸方向に延びる複数の柱部と、
周方向に延び、前記複数の柱部のそれぞれの端部を連結する連結部と、を含み、
前記連結部は、
溶接部と、
前記柱部を避けた位置に設けられている第1の切断部と、
前記柱部および前記第1の切断部を避けた位置に設けられている第2の切断部と、を含み、
軸方向に見て、
前記第1の切断部および前記第2の切断部はそれぞれ、前記軸の中心を中心として前記溶接部から45°以上315°以下の角度の範囲内で設けられており、
前記第2の切断部は、前記軸の中心を中心として前記第1の切断部の位置に対して、180°に相当する位置にある前記窓部の位置または180°に相当する位置にある前記窓部と隣り合う前記窓部の位置に設けられている、転がり軸受。
【請求項2】
前記第1の切断部は、前記軸の中心を中心として前記溶接部から90°離れて設けられており、
前記第2の切断部は、前記軸の中心を中心として前記溶接部から270°離れて設けられている、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記連結部は、
前記柱部、前記第1の切断部および前記第2の切断部を避けた位置に設けられている第3の切断部と、
前記柱部、前記第1の切断部、前記第2の切断部および前記第3の切断部を避けた位置に設けられている第4の切断部をさらに含み、
前記第3の切断部および前記第4の切断部はそれぞれ、前記軸の中心を中心として前記溶接部から45°以上315°以下の角度の範囲内で設けられており、
前記第4の切断部は、前記軸の中心を中心として前記第3の切断部の位置に対して、180°に相当する位置にある前記窓部の位置または180°に相当する位置にある前記窓部と隣り合う前記窓部の位置に設けられている、請求項1または請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記第1の切断部は、前記軸の中心を中心として前記溶接部から45°離れて設けられており、
前記第2の切断部は、前記軸の中心を中心として前記溶接部から225°離れて設けられており、
前記第3の切断部は、前記軸の中心を中心として前記溶接部から135°離れて設けられており、
前記第4の切断部は、前記軸の中心を中心として前記溶接部から315°離れて設けられている、請求項3に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記転動体は、ころであり、
前記転がり軸受は、総ころ形式である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、転がり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数のポケットを有するリング状に形成された内外2つの保持器と、これら2つの保持器のポケットにわたって保持される複数のころと、を備えるステアリング用ころ軸受が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に開示のステアリング用ころ軸受は、内外2つの保持器で複数のころを保持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-57075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示のステアリング用ころ軸受では、内外2つの保持器で転動体としてのころを保持する構成を採用するため、その構成が複雑である。転がり軸受としては、転動体の脱落を防止しつつ、コストダウンを図って安価な構成を採用することが望まれる。
【0005】
そこで、コストダウンを図りつつ、比較的簡易な構成で転動体の脱落を防止することができる転がり軸受を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従った転がり軸受は、軸を支持する転がり軸受であって、内周面に軌道面を有する外輪と、軌道面を転動する複数の転動体と、外輪の内径側に配置され、転動体の転動面を露出するよう径方向に貫通する複数の窓部を有し、帯状の金属部材を環状に折り曲げて両端を溶接して形成され、転動体の内径側への脱落を防止する環状の転動体脱落防止部材と、を備える。転動体脱落防止部材は、周方向にそれぞれ転動体の径よりも短い間隔をあけて複数の窓部を形成するように配置され、軸方向に延びる複数の柱部と、周方向に延び、複数の柱部のそれぞれの端部を連結する連結部と、を含む。連結部は、溶接部と、柱部を避けた位置に設けられている第1の切断部と、柱部および第1の切断部を避けた位置に設けられている第2の切断部と、を含む。軸方向に見て、第1の切断部および第2の切断部はそれぞれ、軸の中心を中心として溶接部から45°以上315°以下の角度の範囲内で設けられている。第2の切断部は、軸の中心を中心として第1の切断部の位置に対して、180°に相当する位置にある窓部の位置または180°に相当する位置にある窓部と隣り合う窓部の位置に設けられている。
【発明の効果】
【0007】
上記転がり軸受によれば、コストダウンを図りつつ、比較的簡易な構成で転動体の脱落を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の実施の形態1における転がり軸受を示す概略斜視図である。
図2図2は、図1に示す転がり軸受の一部を示す概略断面図である。
図3図3は、図2中の矢印III-IIIで示す断面で切断した場合の概略断面図である。
図4図4は、図1に示す転がり軸受に含まれる転動体脱落防止部材を示す概略斜視図である。
図5図5は、図4に示す転動体脱落防止部材の一部を拡大して示す図である。
図6図6は、図4に示す転動体脱落防止部材のうちの後述する切断部を含む領域を拡大して示す図である。
図7図7は、転動体脱落防止部材を軸方向から見た概略図である。
図8図8は、本開示の実施の形態2における転がり軸受に含まれる転動体脱落防止部材を軸方向から見た概略図である。
図9図9は、本開示の実施の形態3における転がり軸受に含まれる転動体脱落防止部材を軸方向から見た概略図である。
図10図10は、本開示の実施の形態4における転がり軸受に含まれる転動体脱落防止部材を軸方向から見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態の概要]本開示の転がり軸受は、軸を支持する転がり軸受であって、内周面に軌道面を有する外輪と、軌道面を転動する複数の転動体と、外輪の内径側に配置され、転動体の転動面を露出するよう径方向に貫通する複数の窓部を有し、帯状の金属部材を環状に折り曲げて両端を溶接して形成され、転動体の内径側への脱落を防止する環状の転動体脱落防止部材と、を備える。転動体脱落防止部材は、周方向にそれぞれ転動体の径よりも短い間隔をあけて複数の窓部を形成するように配置され、軸方向に延びる複数の柱部と、周方向に延び、複数の柱部のそれぞれの端部を連結する連結部と、を含む。連結部は、溶接部と、柱部を避けた位置に設けられている第1の切断部と、柱部および第1の切断部を避けた位置に設けられている第2の切断部と、を含む。軸方向に見て、第1の切断部および第2の切断部はそれぞれ、軸の中心を中心として溶接部から45°以上315°以下の角度の範囲内で設けられている。第2の切断部は、軸の中心を中心として第1の切断部の位置に対して、180°に相当する位置にある窓部の位置または180°に相当する位置にある窓部と隣り合う窓部の位置に設けられている。
【0010】
本発明者らは、転動体としての複数のころと外輪とを含む転がり軸受について、以下のように考えた。例えば、転がり軸受として定格荷重をアップさせるためには、例えばまず総ころ形式、つまりころの周方向の間に保持器を含む他の部材を配置しない構成を採用することが良いと考えた。この場合、ころの外径側には外輪が配置されるため、外径側へのころの脱落を防止することができる。しかし、内径側に内輪を含まない場合、転がり軸受を軸に組み付ける際または軸から転がり軸受を取り外す際に、ころが内径側から脱落してしまう。ころの内径側からの脱落を防止するために、ころの転動面を露出するように形成される複数の窓部を有する転動体脱落防止部材を外輪の内径側に配置すれば良いと考えた。本明細書における転動体脱落防止部材は、軸への組み込み時や軸からの取り外し時において外輪との間で径方向に転動体を挟み込むことにより転動体を内径側から脱落することを防止する部材であり、転動体を案内する部材ではない。すなわち、転動体脱落防止部材は、軸受の中で転動体を等間隔に保持して転動体同士の接触を防ぐ保持器とは異なるものである。
【0011】
さらに本発明者らは、上記構成の転動体脱落防止部材を得るに際し、コストダウンを図りつつ、比較的簡易な構成を実現すべく、鋭意検討した。そして、金属板を準備し、外形形状を帯状とし、複数の窓部を形成するように厚さ方向に金属板を打ち抜いた後、これを円環状に折り曲げて両端を溶接することにより上記転動体脱落防止部材を製造することができれば、コストダウンおよび簡易な構成を実現することができると考えた。このようにして製造された転動体脱落防止部材については、軌道面に転動体を配置した外輪の内径側に組み込む必要がある。ここで、円環状の転動体脱落防止部材を部分的に切断し、この切断部を利用して、外輪の内径側に組み込むことができると考えた。すなわち、転動体脱落防止部材を組み込む際に、切断部の両端を重ねて径が小さくなるようにして転動体脱落防止部材を弾性変形により縮径し、外輪の内径側に組み込んだ状態として、縮径させた部分を転動体脱落防止部材のばね性を利用して元に戻すことにより転動体脱落防止部材を外輪の内径側に配置させることができると考えた。
【0012】
本発明者らは、切断部を設ける位置および切断部の数についてさらに考えた。そして、両端を溶接して形成された溶接部と、切断部を設ける位置および切断部の数との関係性を見出した。具体的には、切断部の数が少なすぎると、縮径させる際にうまく弾性変形させることができず、外輪の内径側へ配置しにくい点を見出した。そして、切断部を複数設ける際に、切断部同士が近すぎると、転動体脱落防止部材の強度が部分的に低くなる領域が生じ、負荷がかかった場合にころが脱落するおそれがある点を見出した。また、溶接部については、他の部分と比較して強度が低い点に着目し、この溶接部付近に切断部を設けると、溶接部に負荷がかかった場合に耐え切れなくなり、溶接部が破断して、ころが脱落するおそれがある点を見出した。そして、本発明者らは鋭意検討し、本願発明の構成を採用するに至った。
【0013】
すなわち、まず、切断部については、少なくとも2か所が必要であることを見出した。そして、2か所の切断部につき、2か所あれば周方向のどの位置でも良い訳ではない点も見出した。そして、溶接部の位置と切断部の位置との関係について鋭意検討し、軸方向に見て、第1の切断部および第2の切断部はそれぞれ、軸の中心を中心として溶接部から45°以上315°以下の角度の範囲内で設けられている必要があることを突き止めた。また、2か所の切断部について、第2の切断部は、軸の中心を中心として第1の切断部の位置に対して、180°に相当する位置にある窓部の位置または180°に相当する位置にある窓部と隣り合う窓部の位置に設けられている必要があることを突き止めた。このようにすることにより、第1の切断部および第2の切断部を利用した弾性変形により、転動体脱落防止部材を外輪の内径側に適切に組み込むことができる。また、組み込んだ後に衝撃が加えられた場合でも、転動体の内径側からの脱落を防止することができる。このような転動体脱落防止部材は、金属板を打ち抜き、円環状に折り曲げた後、両端を溶接して製造されるので、コストダウンを図りながら比較的簡単な構造とすることができる。したがって、このような転がり軸受は、コストダウンを図りつつ、比較的簡易な構成で転動体の脱落を防止することができる。
【0014】
なお、「第2の切断部は、軸の中心を中心として第1の切断部の位置に対して、180°に相当する位置にある窓部の位置に設けられている」とは、180°に相当する位置に窓部が配置されている場合には、その窓部の位置に第2の切断部が設けられており、180°に相当する位置に柱部が配置されている場合には、その柱部に隣り合う二つの窓部のいずれかの位置に第2の切断部が設けられていることを意味する。すなわち、「第2の切断部は、軸の中心を中心として第1の切断部の位置に対して、180°に相当する位置にある窓部の位置または180°に相当する位置にある窓部と隣り合う窓部の位置に設けられている」とは、180°に相当する位置に窓部が配置されている場合には、その窓部の位置または隣り合う二つの窓部の位置である合計3つの窓部のいずれかの位置に第2の切断部が設けられていることを意味し、180°に相当する位置に柱部が配置されている場合には、その柱部に隣り合う二つの窓部、さらにその二つの窓部に隣り合う窓部である合計4つの窓部のいずれかの位置に第2の切断部が設けられていることを意味する。
【0015】
上記転がり軸受において、第1の切断部は、軸の中心を中心として溶接部から90°離れて設けられていてもよい。第2の切断部は、軸の中心を中心として溶接部から270°離れて設けられていてもよい。このようにすることにより、より確実に転動体の脱落を防止することができる。
【0016】
上記転がり軸受において、連結部は、柱部、第1の切断部および第2の切断部を避けた位置に設けられている第3の切断部と、柱部、第1の切断部、第2の切断部および第3の切断部を避けた位置に設けられている第4の切断部をさらに含んでもよい。第3の切断部および第4の切断部はそれぞれ、軸の中心を中心として溶接部から45°以上315°以下の角度の範囲内で設けられていてもよい。第4の切断部は、軸の中心を中心として第3の切断部の位置に対して、180°に相当する位置にある窓部の位置または180°に相当する位置にある窓部と隣り合う窓部の位置に設けられていてもよい。このようにすることにより、切断された部分のそれぞれについて、弾性変形量を小さくすることができ、より適切に組み込むことができる。
【0017】
上記転がり軸受において、第1の切断部は、軸の中心を中心として溶接部から45°離れて設けられていてもよい。第2の切断部は、軸の中心を中心として溶接部から225°離れて設けられていてもよい。第3の切断部は、軸の中心を中心として溶接部から135°離れて設けられていてもよい。第4の切断部は、軸の中心を中心として溶接部から315°離れて設けられていてもよい。このようにすることにより、それぞれの切断部をできるだけ離した状態として、さらに適切に組み込むことができる。
【0018】
上記転がり軸受において、転動体は、ころであってもよい。転がり軸受は、総ころ形式であってもよい。このようにすることにより、転がり軸受の定格荷重を大きくすることができる。
【0019】
[実施形態の具体例]次に、本開示の転がり軸受の具体的な実施の形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0020】
(実施の形態1)まず、本開示の実施の形態である実施の形態1について説明する。図1は、本開示の実施の形態1における転がり軸受を示す概略斜視図である。なお、理解を容易にする観点から、転がり軸受に含まれる後述する外輪を図1において破線で示している。図2は、図1に示す転がり軸受の一部を示す概略断面図である。図2は、転がり軸受が支持する軸の軸方向に垂直な平面で切断した場合の断面図である。なお、理解を容易にする観点から、図2において、転がり軸受が支持する軸を破線で示している。図3は、図2中の矢印III-IIIで示す断面で切断した場合の概略断面図である。図3は、転がり軸受が支持する軸の中心を含む平面で切断した場合の断面図に相当する。本実施形態において、軸方向は、図3中の矢印Yで示す向きまたはその逆の向きで示す方向である。また、図4は、図1に示す転がり軸受に含まれる転動体脱落防止部材を示す概略斜視図である。
【0021】
図1図4を参照して、本開示の実施の形態1における転がり軸受11aは、図2に示す軸16aを支持する。図1中の一点鎖線で示される転がり軸受11aの中心19aは、軸16aの中心でもある。
【0022】
転がり軸受11aは、外輪12aと、複数の転動体としてのころ20aと、ころ20aの内径側への脱落を防止する転動体脱落防止部材31aと、を含む。外輪12aは、内周面に軌道面13aを有する。外輪12aは、軸方向の両端部からそれぞれ内径側に延びる一対の鍔部14a,15aを含む。鍔部14a,15aのそれぞれの内径側への突出量は、同等である。本実施形態においては、外輪12aは、シェル形外輪である。外輪12aは、例えば、一枚の金属板を絞り加工してカップ状に成型した後、一方の鍔部14aを形成するようにカップの底を打ち抜き、他方の縁部を内径側に折り曲げて他方の鍔部15aを形成することにより製造される。必要に応じて適宜熱処理が施される。
【0023】
ころ20aは、外輪12aの軌道面13aを転動する。また、ころ20aは、軸16aの外周面を軌道面17aとして転動する。ころ20aは、軌道面13a,17aを転動する転動面21aを有する。ころ20aの両端面には、面取りが施されている。ころ20aは、外輪12aの内径側に配置される。ころ20aは、外輪12aの一対の鍔部14a,15aにより軸方向の移動が規制される。なお、図3において、ころ20aの転動軸心22aを二点鎖線で示している。
【0024】
転がり軸受11aは、総ころ形式を採用する。すなわち、転がり軸受11aは、ころ20aの間に他の部材が配置されない構成を採用する。このようにすることにより、転がり軸受11aの定格荷重を大きくすることができる。なお、ころ20aの組み込みについては、軌道面13aを含む外輪12aの内周面にグリースを塗布し、このグリースに貼付するようにして各ころ20aを組み込む。
【0025】
次に、転動体脱落防止部材31aの構成について説明する。図5は、図4に示す転動体脱落防止部材31aの一部を拡大して示す図である。図6は、図4に示す転動体脱落防止部材31aのうちの後述する第1の切断部43aを含む領域を拡大して示す図である。
【0026】
図5および図6を併せて参照して、転動体脱落防止部材31aは、外輪12aの内径側に配置される。転動体脱落防止部材31aは、円環状である。転動体脱落防止部材31aの径Dは、外輪12aの鍔部14a,15aの径Dよりも小さい(特に図3参照)。すなわち、転動体脱落防止部材31aは、径方向において、外輪12aの一対の鍔部14a,15aと干渉しないよう構成されている。なお、転動体脱落防止部材31aの径Dは、ころ20aのPCD(Pitch Circle Diameter)よりも小さい。
【0027】
転動体脱落防止部材31aは、金属製である。転動体脱落防止部材31aは、帯状の金属部材を円環状に折り曲げて両端を溶接して製造される。溶接した直後は、溶接部が外径側に少し尖った形状となる。転動体脱落防止部材31aは、外形形状が円環状となるよう、その形状が整えられた後、溶接により両端が接続される。なお、転動体脱落防止部材31aは、溶接により両端が接続された後、外形形状が円環状となるよう、その形状が整えられてもよい。すなわち、転動体脱落防止部材31aにおいて、円環状とする形状の整えは、溶接の前後のどちらでもよい。転動体脱落防止部材31aは、ばね性を有する。
【0028】
転動体脱落防止部材31aは、ころ20aの転動面21aを露出するように径方向に貫通する複数の窓部32aを有する。窓部32aは、周方向に間隔をあけて複数設けられる。このような転動体脱落防止部材31aの窓部32aは、帯状の金属部材を準備する際に、上記窓部32aの形状となるよう厚さ方向に金属部材を打ち抜いて貫通させることにより形成される。
【0029】
転動体脱落防止部材31aは、周方向にそれぞれころ20aの径よりも短い間隔をあけて複数の窓部32aを形成するように配置され、軸方向に延びる複数の柱部33aを含む。本実施形態においては、柱部33aはそれぞれ、軸方向の中央の領域が軸方向の両端部の領域よりも狭く構成されている。すなわち、窓部32aについては、軸方向の中央の領域が軸方向の両端部の領域よりも広く構成されている。特に図2を参照して、窓部32aの周方向の間隔、すなわち、隣り合う柱部33aの対向する側壁面34a,35a同士の間隔Lは、ころ20aの径Lよりも短い。なお、柱部33aの形状については、上記に限らず、例えば、柱部33aの側壁面34a,35aが軸方向に真っ直ぐに延びる形状でもよいし、軸方向の中央の領域が軸方向の両端部の領域よりも広く構成されていてもよい。
【0030】
転動体脱落防止部材31aは、周方向に延び、複数の柱部33aのそれぞれの端部を連結する連結部36a,37aを含む。本実施形態においては、連結部36a,37aは、柱部33aの軸方向の両端部を連結するようにして、軸方向に間隔をあけて一対設けられている。すなわち、転動体脱落防止部材31aにおいて、一つの窓部32aは、一対の連結部36a,37aと隣り合う二つの柱部33aとの間に囲まれた空間によって形成されている。径方向内側から見て、この窓部32aから、ころ20aの転動面21aが露出する。
【0031】
連結部36a,37aにはそれぞれ、両端を溶接した際に形成される溶接部41a,42aが設けられている。帯状の金属部材を円環状に折り曲げて両端を溶接した際の溶接部41a,42aは、周方向の同じ位置に設けられている。溶接部41a,42aが配置される位置においても、隣り合う柱部33aと一対の連結部36a,37aにより、窓部32aが形成される。溶接部41a,42aは、帯状の金属部材の両端同士を溶接により繋ぎ合わせた部分であり、連結部36a,37aの他の部分と異なる外観および内部組織を有する溶接痕であるため、視認または分析にて溶接部41a,42aの周方向の位置を把握することができる。
【0032】
一方の連結部36aは、第1の切断部43aと、第2の切断部44aと、を含む。第1の切断部43aおよび第2の切断部44aはそれぞれ、柱部33aを避けた位置に設けられている。具体的には、一方の連結部36aは、溶接部41aと、柱部33aを避けた位置に設けられる第1の切断部43aと、柱部33aおよび第1の切断部43aを避けた位置に設けられる第2の切断部44aと、を含む。他方の連結部37aは、溶接部42aを含む。すなわち、転動体脱落防止部材31aは、一方の連結部36aのうちの柱部33aを避けた位置において、二か所切断された構成である。
【0033】
このような構成によれば、転動体脱落防止部材を組み込む際に、第1の切断部43aおよび第2の切断部44aの両端を重ねて径が小さくなるようにして転動体脱落防止部材31aを弾性変形により縮径し、外輪12aの内径側に組み込んだ状態として、縮径させた部分を転動体脱落防止部材31aのばね性を利用して元に戻すことにより転動体脱落防止部材31aを外輪12aの内径側に配置させることができる。すなわち、一方の連結部36aを縮径させるように力を加え、第1の切断部43aおよび第2の切断部44aを利用して、弾性変形により一方の連結部36aを一時的に容易に縮径させることができる。よって、この連結部36aを縮径させた状態で外輪12aの内径側に転動体脱落防止部材31aを容易に配置することができる。外輪12aの内径側に転動体脱落防止部材31aを配置させた後、縮径させた力を解除すると、弾性変形した転動体脱落防止部材31aは元の形状に戻ろうとし、複数の窓部32a内にそれぞれころ20aの一部が収容された状態となる。
【0034】
なお、第1の切断部43aおよび第2の切断部44aの形状については、図6に示すように軸方向に真っ直ぐに延びる切断面で、切断代を有するように切断することとしたが、これに限らず、軸方向に対して傾斜した切断面で切断して第1の切断部43aおよび第2の切断部44aを形成することにしてもよいし、切断代をなくしてもよい。また、切断面が凹凸形状を有していてもよい。
【0035】
ここで、連結部36aにおける溶接部41a、第1の切断部43aおよび第2の切断部44aの位置関係について説明する。図7は、転動体脱落防止部材31aを軸方向から見た概略図である。図7は、図3中の矢印Yで示す向きに見た図である。
【0036】
図7を併せて参照して、軸方向に見て、第1の切断部43aおよび第2の切断部44aはそれぞれ、軸の中心19aを中心として溶接部41aから45°以上315°以下の角度の範囲内で設けられている。また、第2の切断部44aは、軸の中心19aを中心として第1の切断部43aの位置に対して、180°に相当する位置にある窓部32aの位置または180°に相当する位置にある窓部32aと隣り合う窓部32aの位置に設けられている。本実施形態においては、第1の切断部43aは、軸の中心19aを中心として溶接部41aから90°離れて設けられている。第2の切断部44aは、軸の中心19aを中心として溶接部41aから270°(90°+180°)離れて設けられている。第2の切断部44aは、軸の中心19aを中心として第1の切断部43aの位置に対して、180°に相当する位置にある窓部32aの位置に設けられている。
【0037】
上記転がり軸受11aによると、コストダウンを図りつつ、比較的簡易な構成でころ20aの脱落を防止することができる。
【0038】
本実施形態においては、第1の切断部43aは、軸の中心19aを中心として溶接部41aから90°離れて設けられている。第2の切断部44aは、軸の中心19aを中心として溶接部41aから270°離れて設けられている。よって、より確実にころ20aの脱落を防止することができる。
【0039】
なお、上記した実施の形態1における切断部の数および切断位置と落下試験との関係を表1に示す。表1においては、以下の実施の形態2、実施の形態3および実施の形態4の試験結果も併せて示している。
【0040】
【表1】
【0041】
表1において、サンプル1が実施の形態1の場合である。ここで、評価試験として、落下試験を行った。落下試験については、JISZ0200に基づく包装貨物の落下試験を適用し、高さを40cmとし、角8か所下にして落下させた。区分をレベルIIIとした。サンプル2は、サンプル1の切断箇所に加え、溶接部41aおよび軸の中心19aを中心として溶接部41aから180°離れて切断部を設けた場合を示す。表1からも把握できるように、サンプル1の場合、落下試験の結果も良好で、ころ20aの脱落を防止できることが把握できる。サンプル2の場合、溶接部41aの破断により、ころ20aが脱落してしまっている。
【0042】
(実施の形態2)次に、他の実施の形態である実施の形態2について説明する。図8は、本開示の実施の形態2における転がり軸受に含まれる転動体脱落防止部材31bを軸方向から見た概略図である。
【0043】
図8を併せて参照して、転動体脱落防止部材31bに含まれる連結部36bには、軸方向に見て、第1の切断部43bおよび第2の切断部44bはそれぞれ、軸の中心19aを中心として溶接部41aから45°以上315°以下の角度の範囲内で設けられている。また、第2の切断部44bは、軸の中心19aを中心として第1の切断部43bの位置に対して、180°に相当する位置にある窓部32aの位置または180°に相当する位置にある窓部32aと隣り合う窓部32aの位置に設けられている。本実施形態においては、第1の切断部43bは、軸の中心19aを中心として溶接部41aから45°離れて設けられている。第2の切断部44bは、軸の中心19aを中心として溶接部41aから225°(45°+180°)離れて設けられている。第2の切断部44bは、軸の中心19aを中心として第1の切断部43bの位置に対して、180°に相当する位置にある窓部32aの位置に設けられている。
【0044】
このようにすることによっても、コストダウンを図りつつ、比較的簡易な構成でころ20aの脱落を防止することができる。落下試験結果は、表1のサンプル3に示す通りである。
【0045】
(実施の形態3)次に、さらに他の実施の形態である実施の形態3について説明する。図9は、本開示の実施の形態3における転がり軸受に含まれる転動体脱落防止部材31cを軸方向から見た概略図である。
【0046】
図9を併せて参照して、転動体脱落防止部材31cに含まれる連結部36cは、溶接部41aと、第1の切断部43cと、第2の切断部44cと、第3の切断部45cと、第4の切断部46cと、を含む。第1の切断部43cは、柱部33aを避けた位置に設けられる。第2の切断部44cは、柱部33aおよび第1の切断部43cを避けた位置に設けられる。第3の切断部45cは、柱部33a、第1の切断部43cおよび第2の切断部44cを避けた位置に設けられる。第4の切断部46cは、柱部33a、第1の切断部43c、第2の切断部44cおよび第3の切断部45cを避けた位置に設けられる。第1の切断部43c、第2の切断部44c、第3の切断部45cおよび第4の切断部46cはそれぞれ、溶接部41aから45°以上315°以下の角度を離して設けられている。第4の切断部46cは、軸の中心19aを中心として第3の切断部45cの位置に対して、180°に相当する位置にある窓部32aの位置または180°に相当する位置にある窓部32aと隣り合う窓部32aの位置に設けられている。
【0047】
本実施形態においては、第1の切断部43cは、軸の中心19aを中心として溶接部41aから45°離れて設けられている。第2の切断部44cは、軸の中心19aを中心として溶接部41aから225°(45°+180°)離れて設けられている。第3の切断部45cは、軸の中心19aを中心として溶接部41aから135°(45°+90°)離れて設けられている。第4の切断部46cは、軸の中心19aを中心として溶接部41aから315°(45°+90°+180°)離れて設けられている。
【0048】
このようにすることによっても、コストダウンを図りつつ、比較的簡易な構成でころ20aの脱落を防止することができる。この場合、切断された部分のそれぞれについて、弾性変形量を小さくすることができ、より適切に組み込むことができる。そして、それぞれの切断部をできるだけ離した状態として、さらに適切に組み込むことができる。落下試験結果は、表1のサンプル4に示す通りである。
【0049】
(実施の形態4)次に、さらに他の実施の形態である実施の形態4について説明する。図10は、本開示の実施の形態4における転がり軸受に含まれる転動体脱落防止部材31dを軸方向から見た概略図である。
【0050】
図10を併せて参照して、転動体脱落防止部材31dに含まれる連結部36dは、溶接部41aと、第1の切断部43dと、第2の切断部44dと、第3の切断部45dと、第4の切断部46dと、第5の切断部47dと、第6の切断部48dと、を含む。第1の切断部43dは、柱部33aを避けた位置に設けられる。第2の切断部44dは、柱部33aおよび第1の切断部43dを避けた位置に設けられる。第3の切断部45dは、柱部33a、第1の切断部43dおよび第2の切断部44dを避けた位置に設けられる。第4の切断部46dは、柱部33a、第1の切断部43d、第2の切断部44dおよび第3の切断部45dを避けた位置に設けられる。第5の切断部47dは、柱部33a、第1の切断部43d、第2の切断部44d、第3の切断部45dおよび第4の切断部46dを避けた位置に設けられる。第6の切断部48dは、柱部33a、第1の切断部43d、第2の切断部44d、第3の切断部45d、第4の切断部46dおよび第5の切断部47dを避けた位置に設けられる。
【0051】
本実施形態においては、第1の切断部43dは、軸の中心19aを中心として溶接部41aから45°離れて設けられている。第2の切断部44dは、軸の中心19aを中心として溶接部41aから225°(45°+180°)離れて設けられている。第3の切断部45dは、軸の中心19aを中心として溶接部41aから135°(45°+90°)離れて設けられている。第4の切断部46dは、軸の中心19aを中心として溶接部41aから315°(45°+90°+180°)離れて設けられている。第5の切断部47dは、軸の中心19aを中心として溶接部41aから90°離れて設けられている。第6の切断部48dは、軸の中心19aを中心として溶接部41aから270°(90°+180°)離れて設けられている。
【0052】
このようにすることによっても、コストダウンを図りつつ、比較的簡易な構成でころ20aの脱落を防止することができる。この場合、切断された部分のそれぞれについて、弾性変形量を小さくすることができ、より適切に組み込むことができる。そして、それぞれの切断部をできるだけ離した状態として、さらに適切に組み込むことができる。落下試験結果は、表1のサンプル5に示す通りである。
【0053】
(他の実施の形態)なお、上記実施の形態において、転動体をころとすることとしたが、これに限らず、転動体をボールとしてもよい。
【0054】
また、上記実施の形態においては、外輪は一対の鍔部を含むこととしたが、これに限らず、いずれか一方の鍔部を含まない構成としてもよいし、双方の鍔部を含まない構成としてもよい。この場合、例えば、転動体脱落防止部材の窓部を構成する一対の連結部において、転動体の軸方向の移動を規制するようにしてもよい。
【0055】
なお、上記実施の形態において、軸が回転してもよいし、外輪が回転する構成としてもよい。
【0056】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0057】
11a 転がり軸受、12a 外輪、13a,17a 軌道面、14a,15a 鍔部、16a 軸、19a 中心、21a 転動面、22a 転動軸心、31a,31b,31c,31d 転動体脱落防止部材、32a 窓部、33a 柱部、34a,35a 側壁面、36a,36b,36c,36d,37a 連結部、41a,42a 溶接部、43a,43b,43c,43d 第1の切断部、44a,44b,44c,44d 第2の切断部、45c,45d 第3の切断部、46c,46d 第4の切断部、47 第5の切断部、48d 第6の切断部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10