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特開2023-144842樹脂膜形成用複合シート、キット、及び、樹脂膜付きワーク加工物の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144842
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】樹脂膜形成用複合シート、キット、及び、樹脂膜付きワーク加工物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20231003BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20231003BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20231003BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20231003BHJP
   C09J 133/00 20060101ALI20231003BHJP
   C09J 5/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
H01L21/78 M
H01L21/52 E
C09J7/38
C09J201/00
C09J133/00
C09J5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052006
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 壮起
(72)【発明者】
【氏名】山下 茂之
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑耶
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
5F047
5F063
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AB01
4J004AB06
4J004CA04
4J004CA06
4J004CC05
4J004DB03
4J004FA08
4J040DF001
4J040DF021
4J040EF282
4J040FA132
4J040GA05
4J040JA09
4J040JB07
4J040JB09
4J040KA13
4J040KA14
4J040KA15
4J040KA16
4J040KA17
4J040KA23
4J040KA26
4J040KA29
4J040KA31
4J040KA32
4J040KA35
4J040KA42
4J040LA06
4J040MA02
4J040MA10
4J040NA20
4J040PA00
4J040PA20
4J040PA30
4J040PA32
4J040PA42
5F047AA17
5F047BA33
5F047BA34
5F047BB03
5F047BB19
5F063AA18
5F063AA33
5F063EE13
5F063EE14
5F063EE43
(57)【要約】
【課題】基材の一方の面上に設けられたエネルギー線硬化性の粘着剤層を有する支持シート上で樹脂膜付きワークを加工することにより、ワーク加工物を作製する際に、粘着剤層から樹脂膜付きワーク加工物が剥がれてしまうことを抑制し、かつ、エネルギー線硬化した粘着剤層から樹脂膜付きワーク加工物の正常なピックアップを可能とする樹脂膜形成用複合シート、及び、キットの提供。
【解決手段】基材11の一方の面上に設けられたエネルギー線硬化性の粘着剤層12を有する支持シート10と、熱硬化性樹脂膜形成フィルム13と、を備え、加熱後の前記粘着剤層と、樹脂膜と、の間の粘着力(Z2)が8000mN/25mm以上であり、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と、前記樹脂膜と、の間の粘着力(Z1)が400mN/25mm以下である、樹脂膜形成用複合シート1、又は、キット。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材及び前記基材の一方の面上に設けられた粘着剤層を有する支持シートと、前記支持シートの前記粘着剤層上に設けられた熱硬化性樹脂膜形成フィルムと、を備える、樹脂膜形成用複合シートであって、
前記粘着剤層が、エネルギー線硬化性であり、
前記樹脂膜形成用複合シート中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを130℃で加熱して樹脂膜を形成し、加熱後の前記粘着剤層と、前記樹脂膜と、の間の粘着力(Z2)を測定したとき、前記粘着力(Z2)が8000mN/25mm以上であり、
前記樹脂膜形成用複合シート中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを130℃で加熱して樹脂膜を形成し、加熱後の前記粘着剤層をエネルギー線硬化させ、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と、前記樹脂膜と、の間の粘着力(Z1)を測定したとき、前記粘着力(Z1)が400mN/25mm以下である、樹脂膜形成用複合シート。
【請求項2】
前記粘着剤層が、エネルギー線硬化性化合物及びエネルギー線硬化性アクリル樹脂を含有する、請求項1に記載の樹脂膜形成用複合シート。
【請求項3】
前記支持シートを、前記粘着剤層によってステンレス鋼板の表面に貼付し、貼付後の前記粘着剤層を130℃で加熱し、加熱後の前記粘着剤層と、前記ステンレス鋼板と、の間の粘着力(Y2)を測定したとき、前記粘着力(Y2)が13000mN/25mm以上である、請求項1又は2に記載の樹脂膜形成用複合シート。
【請求項4】
前記支持シートを、前記粘着剤層によってステンレス鋼板の表面に貼付し、貼付後の前記粘着剤層を130℃で加熱し、加熱後の前記粘着剤層をエネルギー線硬化させ、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と、前記ステンレス鋼板と、の間の粘着力(Y1)を測定したとき、前記粘着力(Y1)が300mN/25mm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂膜形成用複合シート。
【請求項5】
第1剥離フィルム及び熱硬化性樹脂膜形成フィルムが積層されて構成された第一積層体と、基材及び前記基材の一方の面上に設けられた粘着剤層を有し、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムの貼着対象となるワーク及び前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを支持するために用いられる支持シートと、を備えるキットであって、
前記粘着剤層が、エネルギー線硬化性であり、
前記支持シート中の粘着剤層と、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムと、を貼着して第二積層体を形成し、前記第二積層体中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを130℃で加熱して樹脂膜を形成し、加熱後の前記粘着剤層と、前記樹脂膜と、の間の粘着力(Z2)を測定したとき、前記粘着力(Z2)が8000mN/25mm以上であり、
前記支持シート中の粘着剤層と、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムと、を貼着して第二積層体を形成し、前記第二積層体中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを130℃で加熱して樹脂膜を形成し、加熱後の前記粘着剤層をエネルギー線硬化させ、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と、前記樹脂膜と、の間の粘着力(Z1)を測定したとき、前記粘着力(Z1)が400mN/25mm以下である、キット。
【請求項6】
前記粘着剤層が、エネルギー線硬化性化合物及びエネルギー線硬化性アクリル樹脂を含有する、請求項5に記載のキット。
【請求項7】
前記支持シートを、前記粘着剤層によってステンレス鋼板の表面に貼付し、貼付後の前記粘着剤層を130℃で加熱し、加熱後の前記粘着剤層と、前記ステンレス鋼板と、の間の粘着力(Y2)を測定したとき、前記粘着力(Y2)が13000mN/25mm以上である、請求項5又は6に記載のキット。
【請求項8】
前記支持シートを、前記粘着剤層によってステンレス鋼板の表面に貼付し、貼付後の前記粘着剤層を130℃で加熱し、加熱後の前記粘着剤層をエネルギー線硬化させ、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と、前記ステンレス鋼板と、の間の粘着力(Y1)を測定したとき、前記粘着力(Y1)が300mN/25mm以上である、請求項5~7のいずれか一項に記載のキット。
【請求項9】
ワーク加工物と、前記ワーク加工物の裏面に設けられた樹脂膜と、を備える樹脂膜付きワーク加工物の製造方法であって、
ワークの裏面に、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂膜形成用複合シート中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを貼付するか、又は、ワークの裏面に、請求項5~8のいずれか一項に記載のキット中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを貼付して、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルム及びワークが、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層フィルムを作製し、さらに、前記第1積層フィルム中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムの露出面に前記キット中の支持シートを貼付することにより、前記基材、前記粘着剤層、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルム及び前記ワークがこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層複合シートを作製する工程と、
前記第1積層複合シートの周縁部を固定用治具に貼付した状態で、前記第1積層複合シートを加熱して、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを硬化させ前記樹脂膜を形成することにより、前記基材、前記粘着剤層、前記樹脂膜及び前記ワークがこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第2積層複合シートを作製する工程と、
前記第2積層複合シート中の前記ワークを分割し、前記樹脂膜を切断することにより、前記基材及び前記粘着剤層上に、複数個の樹脂膜付きワーク加工物が固定されている第3積層複合シートを作製する工程と、
前記第3積層複合シート中の粘着剤層に対してエネルギー線を照射して、加熱後の前記粘着剤層をエネルギー線硬化させ、前記基材及び前記粘着剤層のエネルギー線硬化物上に、複数個の樹脂膜付きワーク加工物が固定されている第4積層複合シートを作製する工程と、
前記第4積層複合シート中の前記樹脂膜付きワーク加工物を前記粘着剤層のエネルギー線硬化物から引き離してピックアップするピックアップ工程と、を有する、樹脂膜付きワーク加工物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂膜形成用複合シート、キット、及び、樹脂膜付きワーク加工物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ、絶縁体ウエハ、半導体装置パネル等のワークには、その一方の面(回路面)に回路が形成されており、さらにその面(回路面)上にバンプ等の突状電極を有するものがある。
【0003】
いわゆるフェースダウン(face down)方式と呼ばれる実装法を用いた半導体装置の製造プロセスにおいて、前記ワークをダイシングして形成されたワーク加工物の裏面保護のために、保護膜形成フィルムが使用されており、基材の一方の面に粘着剤層が積層されてなる支持シートと、保護膜形成フィルムと、が組み合わされた保護膜形成用複合シートが使用されている。また、ワーク加工物の裏面をリードフレームや有機基板などに接合するためにフィルム状接着剤が使用されており、前記ワークをダイシングする際には、支持シートとフィルム状接着剤とが組み合わされたダイシングダイボンディングシートも使用されている。保護膜形成フィルム及びフィルム状接着剤は前記ワークの裏面に貼付して使用されている。
【0004】
以下、本明細書において、熱硬化性の保護膜形成フィルム又はフィルム状接着剤を熱硬化性樹脂膜形成フィルムと云い、保護膜形成用複合シート又はダイシングダイボンディングシートを、樹脂膜形成用複合シートと云う。保護膜形成フィルムよって形成された保護膜、又は、フィルム状接着剤によって形成された接合膜を、樹脂膜と云う。
【0005】
樹脂膜付きワーク加工物の製造加工では、ワークの裏面に、保護膜又は接合膜を形成するための熱硬化性樹脂膜形成フィルムを貼付する。熱硬化性樹脂膜形成フィルムは、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムが支持シート上に積層された樹脂膜形成用複合シートの状態でワークの裏面に貼付されることもある。熱硬化性樹脂膜形成フィルムは、支持シート上に積層されずにワークの裏面に貼付され、その後、支持シートに貼付されることもある。
【0006】
ワークの裏面に貼付された熱硬化性樹脂膜形成フィルムは、例えば、基材及び粘着剤層が積層されてなる支持シート上で熱硬化させて樹脂膜とする。支持シート上で、前記ワークの裏面に貼付された熱硬化性樹脂膜形成フィルムを熱硬化する場合、基材、粘着剤層、熱硬化性樹脂膜形成フィルム及びワークがこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層複合シートを、前記支持シートの周縁部をリングフレームに貼付した状態で加熱し、そして冷却する。その後、支持シート上のダイシング工程で、ワークが分割され、樹脂膜が切断され、樹脂膜付きワーク加工物としてピックアップすることがある(特許文献1参照)。
【0007】
粘着剤層がエネルギー線硬化性である場合には、粘着剤層をエネルギー線硬化させることで、樹脂膜付きワーク加工物のピックアップが容易となる。
【0008】
ここで、支持シートは、熱硬化性樹脂膜形成フィルムを介してワーク又はワーク加工物が貼付された状態で、熱硬化性樹脂膜形成フィルムを硬化させるために、熱硬化性樹脂膜形成フィルムと共に加熱される。ところが、支持シートの耐熱性が不十分であると、熱硬化性樹脂膜形成フィルムを介してワーク又はワーク加工物が貼付された支持シートを、このような温度で加熱すると、最終的に樹脂膜付きワーク加工物を支持シートからピックアップできなくなることがあった。
【0009】
耐熱性を有し、加熱を行うのに適した支持シートとしては、基材と粘着剤層を備え、120℃で4時間加熱した後における基材の23℃におけるヤング率と、120℃における基材の貯蔵弾性率E’が、いずれも特定の範囲に規定された支持シート(ワーク加工用シート)が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2015/178346号
【特許文献2】特開2021-119592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
例えば、特許文献1では、直径が8インチである半導体ウエハを、9mm×9mmのチップサイズにダイシングし、チップにすることが説明されている。特許文献2では、直径が8インチである半導体ウエハを、3mm×3mmのチップサイズにダイシングし、チップにすることが説明されている。
【0012】
樹脂膜付きチップの製造加工では、直径がより大きい半導体ウエハが採用され、かつ、チップサイズは逆により小さくなる傾向にある。チップサイズが小さい場合、生産効率向上のためにより高速の送り速度でのダイシングが必要になる。
【0013】
ところが、粘着剤層がエネルギー線硬化性である場合において、加熱した後の支持シートは、最終的に樹脂膜付きワーク加工物を支持シートからピックアップできなくなる場合にあった。また、その様な条件下のダイシング工程では、加熱硬化した後の樹脂膜付きワークは、支持シート中の粘着剤層から剥がれてしまうことがあった。
【0014】
本発明は、基材及び前記基材の一方の面上に設けられたエネルギー線硬化性の粘着剤層を有する支持シート上で樹脂膜付きワークを加工することにより、ワーク加工物を作製する際に、粘着剤層から樹脂膜付きワーク加工物が剥がれてしまうことを抑制し、かつ、エネルギー線硬化した粘着剤層から樹脂膜付きワーク加工物の正常なピックアップを可能とする樹脂膜形成用複合シート、及び、キットを提供することを目的とする。また、前記樹脂膜形成用複合シート、又は、前記キットを用いた、樹脂膜付きワーク加工物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成を採用する。
[1] 基材及び前記基材の一方の面上に設けられた粘着剤層を有する支持シートと、前記支持シートの前記粘着剤層上に設けられた熱硬化性樹脂膜形成フィルムと、を備える、樹脂膜形成用複合シートであって、
前記粘着剤層がエネルギー線硬化性であり、
前記樹脂膜形成用複合シート中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを130℃で加熱して樹脂膜を形成し、加熱後の前記粘着剤層と、前記樹脂膜と、の間の粘着力(Z2)を測定したとき、前記粘着力(Z2)が8000mN/25mm以上であり、
前記樹脂膜形成用複合シート中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを130℃で加熱して樹脂膜を形成し、加熱後の前記粘着剤層をエネルギー線硬化させ、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と、前記樹脂膜と、の間の粘着力(Z1)を測定したとき、前記粘着力(Z1)が400mN/25mm以下である、樹脂膜形成用複合シート。
[2] 前記粘着剤層が、エネルギー線硬化性化合物及びエネルギー線硬化性アクリル樹脂を含有する、[1]に記載の樹脂膜形成用複合シート。
[3] 前記支持シートを、前記粘着剤層によってステンレス鋼板の表面に貼付し、貼付後の前記粘着剤層を130℃で加熱し、加熱後の前記粘着剤層と、前記ステンレス鋼板と、の間の粘着力(Y2)を測定したとき、前記粘着力(Y2)が13000mN/25mm以上である、[1]又は[2]に記載の樹脂膜形成用複合シート。
[4] 前記支持シートを、前記粘着剤層によってステンレス鋼板の表面に貼付し、貼付後の前記粘着剤層を130℃で加熱し、加熱後の前記粘着剤層をエネルギー線硬化させ、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と、前記ステンレス鋼板と、の間の粘着力(Y1)を測定したとき、前記粘着力(Y1)が300mN/25mm以上である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の樹脂膜形成用複合シート。
【0016】
[5] 第1剥離フィルム及び熱硬化性樹脂膜形成フィルムが積層されて構成された第一積層体と、基材及び前記基材の一方の面上に設けられた粘着剤層を有し、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムの貼着対象となるワーク及び前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを支持するために用いられる支持シートと、を備えるキットであって、
前記粘着剤層が、エネルギー線硬化性であり、
前記支持シート中の粘着剤層と、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムと、を貼着して第二積層体を形成し、前記第二積層体中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを130℃で加熱して樹脂膜を形成し、加熱後の前記粘着剤層と、前記樹脂膜と、の間の粘着力(Z2)を測定したとき、前記粘着力(Z2)が8000mN/25mm以上であり、
前記支持シート中の粘着剤層と、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムと、を貼着して第二積層体を形成し、前記第二積層体中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを130℃で加熱して樹脂膜を形成し、加熱後の前記粘着剤層をエネルギー線硬化させ、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と、前記樹脂膜と、の間の粘着力(Z1)を測定したとき、前記粘着力(Z1)が400mN/25mm以下である、キット。
【0017】
[6] 前記粘着剤層が、エネルギー線硬化性化合物及びエネルギー線硬化性アクリル樹脂を含有する、[5]に記載のキット。
[7] 前記支持シートを、前記粘着剤層によってステンレス鋼板の表面に貼付し、貼付後の前記粘着剤層を130℃で加熱し、加熱後の前記粘着剤層と、前記ステンレス鋼板と、の間の粘着力(Y2)を測定したとき、前記粘着力(Y2)が13000mN/25mm以上である、[5]又は[6]に記載のキット。
[8] 前記支持シートを、前記粘着剤層によってステンレス鋼板の表面に貼付し、貼付後の前記粘着剤層を130℃で加熱し、加熱後の前記粘着剤層をエネルギー線硬化させ、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と、前記ステンレス鋼板と、の間の粘着力(Y1)を測定したとき、前記粘着力(Y1)が300mN/25mm以上である、[5]~[7]のいずれか一項に記載のキット。
[9] ワーク加工物と、前記ワーク加工物の裏面に設けられた樹脂膜と、を備える樹脂膜付きワーク加工物の製造方法であって、
ワークの裏面に、[1]~[4]のいずれか一項に記載の樹脂膜形成用複合シート中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを貼付するか、又は、ワークの裏面に、[5]~[7]のいずれか一項に記載のキット中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを貼付して、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルム及びワークが、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層フィルムを作製し、さらに、前記第1積層フィルム中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムの露出面に前記キット中の支持シートを貼付することにより、前記基材、前記粘着剤層、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルム及び前記ワークがこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層複合シートを作製する工程と、
前記第1積層複合シートの周縁部を固定用治具に貼付した状態で、前記第1積層複合シートを加熱して、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを硬化させ前記樹脂膜を形成することにより、前記基材、前記粘着剤層、前記樹脂膜及び前記ワークがこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第2積層複合シートを作製する工程と、
前記第2積層複合シート中の前記ワークを分割し、前記樹脂膜を切断することにより、前記基材及び前記粘着剤層上に、複数個の樹脂膜付きワーク加工物が固定されている第3積層複合シートを作製する工程と、
前記第3積層複合シート中の粘着剤層に対してエネルギー線を照射して、加熱後の前記粘着剤層をエネルギー線硬化させ、前記基材及び前記粘着剤層のエネルギー線硬化物上に、複数個の樹脂膜付きワーク加工物が固定されている第4積層複合シートを作製する工程と、
前記第4積層複合シート中の前記樹脂膜付きワーク加工物を前記粘着剤層のエネルギー線硬化物から引き離してピックアップするピックアップ工程と、を有する、樹脂膜付きワーク加工物の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、基材及び前記基材の一方の面上に設けられたエネルギー線硬化性の粘着剤層を有する支持シート上で樹脂膜付きワークを加工することにより、ワーク加工物を作製する際に、粘着剤層から樹脂膜付きワーク加工物が剥がれてしまうことを抑制し、かつ、エネルギー線硬化した粘着剤層から樹脂膜付きワーク加工物の正常なピックアップを可能とする樹脂膜形成用複合シート、及び、キットが提供される。また、前記樹脂膜形成用複合シート、又は、前記キットを用いた、樹脂膜付きワーク加工物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る樹脂膜形成用複合シートの一例を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るキットの一例を模式的に示す断面図である。
図3A】本発明の一実施形態に係る樹脂膜付きワーク加工物の製造方法の一例の一部を、模式的に説明するための断面図である。
図3B】本発明の一実施形態に係る樹脂膜付きワーク加工物の製造方法の一例の一部を、模式的に説明するための断面図である。
図3C】本発明の一実施形態に係る樹脂膜付きワーク加工物の製造方法の一例の一部を、模式的に説明するための断面図である。
図3D】本発明の一実施形態に係る樹脂膜付きワーク加工物の製造方法の一例の一部を、模式的に説明するための断面図である。
図3E】本発明の一実施形態に係る樹脂膜付きワーク加工物の製造方法の一例の一部を、模式的に説明するための断面図である。
図3F】本発明の一実施形態に係る樹脂膜付きワーク加工物の製造方法の一例の一部を、模式的に説明するための断面図である。
図4A】本発明の他の実施形態に係る樹脂膜付きワーク加工物の製造方法の一例の一部を、模式的に説明するための断面図である。
図4B】本発明の他の実施形態に係る樹脂膜付きワーク加工物の製造方法の一例の一部を、模式的に説明するための断面図である。
図4C】本発明の他の実施形態に係る樹脂膜付きワーク加工物の製造方法の一例の一部を、模式的に説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
◇樹脂膜形成用複合シート
本発明の一実施形態に係る樹脂膜形成用複合シートは、基材及び前記基材の一方の面上に設けられた粘着剤層を有する支持シートと、前記支持シートの前記粘着剤層上に設けられた熱硬化性樹脂膜形成フィルムと、を備える、樹脂膜形成用複合シートであって、
前記粘着剤層が、エネルギー線硬化性である。
前記樹脂膜形成用複合シート中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを130℃で加熱して樹脂膜を形成し、加熱後の前記粘着剤層と、前記樹脂膜と、の間の粘着力(Z2)(本明細書においては、単に「粘着力(Z2)」と称することがある)を測定したとき、前記粘着力(Z2)が8000mN/25mm以上である。
前記樹脂膜形成用複合シート中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを130℃で加熱して樹脂膜を形成し、加熱後の前記粘着剤層をエネルギー線硬化させ、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と、前記樹脂膜と、の間の粘着力(Z1)(本明細書においては、単に「粘着力(Z1)」と称することがある)を測定したとき、前記粘着力(Z1)が400mN/25mm以下である。
【0021】
本実施形態の樹脂膜形成用複合シートは、例えば、後述するように、樹脂膜付きワーク加工物の製造に用いることができる。
【0022】
本実施形態の樹脂膜形成用複合シートにおいて、前記粘着力(Z2)が8000mN/25mm以上であることで、ワークが貼付された状態の支持シートを高温で加熱した後であっても、基材及び前記基材の一方の面上に設けられたエネルギー線硬化性の粘着剤層を有する支持シート上で樹脂膜付きワークを加工することにより、ワーク加工物を作製する際に、粘着剤層から樹脂膜付きワーク加工物が剥がれてしまうことを抑制できる。また、前記粘着力(Z1)が400mN/25mm以下であることで、エネルギー線硬化した粘着剤層から樹脂膜付きワーク加工物を正常にピックアップできる。
【0023】
本明細書においては、粘着剤層が硬化した後の支持シートを、特に、粘着剤層が硬化していない状態での支持シートと区別するために、「硬化済み支持シート」と称することがある。
【0024】
本明細書において、「常温」とは、特に冷やしたり、熱したりしない温度、すなわち平常の温度を意味し、例えば、18~28℃の温度等が挙げられる。
【0025】
本実施形態において、ワークとしては、例えば、ウエハ、半導体装置パネル等が挙げられる。
【0026】
前記ウエハとしては、シリコン、ゲルマニウム、セレン等の元素半導体や、GaAs、GaP、InP、CdTe、ZnSe、SiC等の化合物半導体、で構成される半導体ウエハ;サファイア、ガラス等の絶縁体で構成される絶縁体ウエハが挙げられる。
これらウエハを代表とするワークの一方の面上には、回路が形成されており、本明細書においては、このように回路が形成されている側のワークの面を「回路面」と称する。そして、ワークの回路面とは反対側の面を「裏面」と称する。
ウエハは、ダイシング等の手段により分割され、チップとなる。本明細書においては、ウエハの場合と同様に、回路が形成されている側のチップの面を「回路面」と称し、チップの回路面とは反対側の面を「裏面」と称する。
ワークの回路面には、いずれもバンプ、ピラー等の突状電極が設けられていることが好ましい。突状電極は、はんだで構成されていることが好ましい。
【0027】
前記半導体装置パネルは、半導体装置の製造過程で取り扱うものであり、その具体例としては、1個又は2個以上の電子部品が封止樹脂によって封止された状態の半導体装置を用い、複数個のこれら半導体装置が、円形、矩形等の形状の領域内に、平面的に配置されて構成されたものが挙げられる。
【0028】
本実施形態において、樹脂膜付きワーク加工物は、樹脂膜付きワークを加工して得られたものであり、例えば、ワークがウエハである場合、樹脂膜付きワーク加工物としては樹脂膜付きチップが挙げられ、ワークが半導体ウエハである場合、樹脂膜付きワーク加工物としては樹脂膜付き半導体チップが挙げられる。
【0029】
本明細書において、「エネルギー線」とは、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するものを意味する。エネルギー線の例としては、紫外線、放射線、電子線等が挙げられる。紫外線は、例えば、紫外線源として高圧水銀ランプ、ヒュージョンランプ、キセノンランプ、ブラックライト又はLEDランプ等を用いることで照射できる。電子線は、電子線加速器等によって発生させたものを照射できる。
本明細書において、「エネルギー線硬化性」とは、エネルギー線を照射することにより硬化する性質を意味し、「非エネルギー線硬化性」とは、エネルギー線を照射しても硬化しない性質を意味する。
本明細書において、「非硬化性」とは、加熱やエネルギー線の照射等、如何なる手段によっても、硬化しない性質を意味する。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係る樹脂膜形成用複合シートの一例を模式的に示す断面図である。なお、以下の説明で用いる図は、本発明の特徴を分かり易くするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
【0031】
ここに示す樹脂膜形成用複合シート1は、基材11及び基材11の一方の面11a上に設けられた粘着剤層12を有する支持シート10と、支持シート10の粘着剤層12上に設けられた熱硬化性樹脂膜形成フィルム13と、を備える。
粘着剤層12は、エネルギー線硬化性である。
樹脂膜形成用複合シート1において、前記粘着力(Z2)は8000mN/25mm以上であり、前記粘着力(Z1)は400mN/25mm以下である。
【0032】
本実施形態の樹脂膜形成用複合シート1において、基材11と、粘着剤層12と、はおよそ同じ大きさである。熱硬化性樹脂膜形成フィルム13の周縁部の外側で、粘着剤層12がリングフレーム18に貼付できるよう、熱硬化性樹脂膜形成フィルム13は基材11及び粘着剤層12よりも小さい。
【0033】
本実施形態の樹脂膜形成用複合シートは、図1に示すものに限定されず、公知の樹脂膜形成用複合シートの形態を採用できる。すなわち、本発明の効果を損なわない範囲内において、図1に示すものにおいて、一部の構成が変更、削除又は追加されたものであってもよい。
【0034】
図1に示す樹脂膜形成用複合シート1は、基材11と、粘着剤層12と、熱硬化性樹脂膜形成フィルム13と、剥離フィルム15と、を備えている。本実施形態の樹脂膜形成用複合シートは、基材と、粘着剤層と、熱硬化性樹脂膜形成フィルムと、剥離フィルムと、のいずれにも該当しない他の層を備えていてもよい。
例えば、熱硬化性樹脂膜形成フィルム13の周縁部の外側の粘着剤層12上には、治具用粘着剤層が積層されて、治具用粘着剤層がリングフレーム18に貼付できるようにしてもよい。
【0035】
熱硬化性樹脂膜形成フィルム13の大きさは、これに限定されず、基材11と、粘着剤層12と、熱硬化性樹脂膜形成フィルムと、はおよそ同じ大きさであって、熱硬化性樹脂膜形成フィルムの周縁部の上に、治具用粘着剤層が積層されて、治具用粘着剤層がリングフレーム18に貼付できるようにしてもよい。
【0036】
図1に示す樹脂膜形成用複合シート1は、剥離フィルム15を備えているが、本実施形態の樹脂膜形成用複合シートにおいて、剥離フィルムは任意の構成であり、本実施形態の樹脂膜形成用複合シートは剥離フィルムを備えていなくてもよい。
【0037】
本実施形態の樹脂膜形成用複合シートにおいては、基材及び粘着剤層が互いに直接接触して設けられ、粘着剤層及び熱硬化性樹脂膜形成フィルムが互いに直接接触して設けられ、熱硬化性樹脂膜形成フィルム及び剥離フィルムが互いに直接接触して設けられていることが好ましい。
【0038】
次に、本実施形態の樹脂膜形成用複合シートを構成する各層の詳細について、説明する。
【0039】
<<熱硬化性樹脂膜形成フィルム>>
熱硬化性樹脂膜形成フィルムは、樹脂膜付きワーク加工物の製造方法において、ワークの裏面に貼付して用いられるものである。熱硬化性樹脂膜形成フィルムは、ワーク又は前記ワークを分割して得られるワーク加工物の裏面を保護するために用いられる保護膜形成フィルムであることが好ましい。
本実施形態の保護膜形成フィルムは、熱硬化性を有し、その熱硬化によって保護膜として機能する。
本明細書において、常温の樹脂膜形成フィルムを、常温を超える温度になるまで加熱し、次いで常温になるまで冷却することにより、加熱・冷却後の樹脂膜形成フィルムとし、加熱・冷却後の樹脂膜形成フィルムの硬さと、加熱前の樹脂膜形成フィルムの硬さと、を同じ温度で比較したとき、加熱・冷却後の樹脂膜形成フィルムの方が硬い場合には、この樹脂膜形成フィルムは、熱硬化性である。
【0040】
前記支持シート及び前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを備える前記樹脂膜形成用複合シート又は前記キットを用いることにより、後述する樹脂膜付きワーク加工物の製造方法により、ワーク加工物と、前記ワーク加工物の裏面に設けられた樹脂膜と、を備える樹脂膜付きワーク加工物を製造できる。例えば、ワークがウエハである場合、前記樹脂膜形成用複合シート又は前記キットを用いることにより、チップと、前記チップの裏面に設けられた樹脂膜と、を備えた樹脂膜付きチップを製造できる。
【0041】
前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムが保護膜形成フィルムであるとき、前記支持シート及び前記保護膜形成フィルムを備える前記樹脂膜形成用複合シート(すなわち保護膜形成用複合シート)又は前記キットを用いることにより、後述する樹脂膜付きワーク加工物の製造方法により、ワーク加工物と、前記ワーク加工物の裏面に設けられた保護膜と、を備える保護膜付きワーク加工物を製造できる。
【0042】
さらに、前記樹脂膜付きワーク加工物を用いることにより、基板装置を製造できる。
本明細書において、「基板装置」としては、樹脂膜付きワーク加工物が、回路基板に接続されて、構成されたものを意味する。例えば、保護膜付きワーク加工物が、その回路面上の突状電極において、回路基板上の接続パッドにフリップチップ接続されて、構成されたものが挙げられる。また、例えば、ワークとして半導体ウエハを用いた場合であれば、基板装置としては、樹脂膜付き半導体チップを搭載した半導体装置が挙げられる。
【0043】
熱硬化性樹脂膜形成フィルムは、1層(単層)からなるものであってもよいし、2層以上の複数層からなるものであってもよい。熱硬化性樹脂膜形成フィルムが複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。
【0044】
熱硬化性樹脂膜形成フィルムの厚さは、1~100μmであることが好ましく、5~60μmであることがより好ましく、10~50μmであることがさらに好ましい。熱硬化性樹脂膜形成フィルムの厚さが前記下限値以上であることで、保護性能がより高い樹脂膜を形成できる。熱硬化性樹脂膜形成フィルム厚さが前記上限値以下であることで、樹脂膜の厚さが過剰となることが避けられる。
ここで、「熱硬化性樹脂膜形成フィルムの厚さ」とは、熱硬化性樹脂膜形成フィルム全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなる熱硬化性樹脂膜形成フィルムの厚さとは、熱硬化性樹脂膜形成フィルムを構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0045】
熱硬化性樹脂膜形成フィルムは、その構成材料を含有する樹脂膜形成用組成物(すなわち、熱硬化性樹脂膜形成フィルムを形成するための熱硬化性樹脂膜形成用組成物)を用いて形成できる。例えば、熱硬化性樹脂膜形成フィルムは、その形成対象面に熱硬化性樹脂膜形成用組成物を塗工し、必要に応じて乾燥させることで、形成できる。熱硬化性樹脂膜形成用組成物における、常温で気化しない成分同士の含有量の比率は、通常、熱硬化性樹脂膜形成フィルムにおける前記成分同士の含有量の比率と同じとなる。
【0046】
特に、熱硬化性保護膜形成フィルムは、以下に説明する保護膜形成用組成物(III-1)を用いて形成できる。
【0047】
<保護膜形成用組成物(III-1)>
樹脂膜形成用組成物としては、例えば、重合体成分(A)及び熱硬化性成分を含有する保護膜形成用組成物(III-1)(本明細書においては、「保護膜形成用組成物(III-1)」と略記することがある)等が挙げられる。
【0048】
(重合体成分(A))
重合体成分(A)は、熱硬化性保護膜形成フィルムに造膜性や可撓性等を付与するための重合体化合物である。
保護膜形成用組成物(III-1)及び熱硬化性保護膜形成フィルムが含有する重合体成分(A)は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0049】
重合体成分は、熱硬化性成分にも該当する場合がある。本明細書においては、保護膜形成用組成物が、このような重合体成分及び熱硬化性成分の両方に該当する成分を含有する場合、保護膜形成用組成物は、重合体成分及び熱硬化性成分を含有するとみなす。
【0050】
重合体成分としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコーン樹脂、飽和ポリエステル樹脂等を用いることができる。重合体成分として、アクリル樹脂が好ましく用いられる。
【0051】
重合体成分の重量平均分子量(Mw)は、1万~200万であることが好ましく、10万~120万であることがより好ましい。重合体成分の重量平均分子量が上記下限値以上であると、前記粘着力(Z1)がより下がり易い傾向がある。重合体成分の重量平均分子量が上記上限値以下であると、前記粘着力(Z2)がより上がり易い傾向がある。
【0052】
重合体成分のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-60~50℃、より好ましくは-50~40℃、さらに好ましくは-40~20℃、特に好ましくは-30~-1℃の範囲にある。
重合体成分のガラス転移温度が上記下限値以上であると、前記粘着力(Z1)がより下がり易い傾向がある。重合体成分のガラス転移温度が上記上限値以下であると、前記粘着力(Z2)がより上がり易い傾向がある。また、ロール体にして保護膜形成フィルムが屈曲した際に割れ(ヒビ)が発生するリスクが低減される。
【0053】
粘着性、接着性および造膜性の観点から、重合体成分の好ましい含有量は、保護膜形成フィルムを構成する全固形分100質量部に対して、5~50質量部、10~45質量部、14~40質量部、18~35質量部である。
【0054】
重合体成分を構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)は、以下に示すFoxの式を用いて計算から求めることができる。
1/Tg=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+…+(Wm/Tgm)(式中、Tgは重合体成分を構成する樹脂のガラス転移温度であり、Tg1,Tg2,…Tgmは重合体成分を構成する樹脂の原料となる各単量体のホモポリマーのガラス転移温度であり、W1,W2,…Wmは各単量体の質量分率である。ただし、W1+W2+…+Wm=1である。)
前記Foxの式における各単量体のホモポリマーのガラス転移温度は、高分子データ・ハンドブック、粘着ハンドブック又はPolymer Handbook等に記載の値を用いることができる。例えば、ホモポリマーのガラス転移温度は、メチルアクリレートは10℃、メチルメタクリレートは105℃、n-ブチルアクリレートは-54℃、2-エチルヘキシルアクリレートは-70℃、グリシジルメタクリレートは41℃、2-ヒドロキシエチルアクリレートは-15℃である。
【0055】
上記アクリル樹脂を構成するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体が挙げられる。例えば、アルキル基の炭素数が1~18であるアルキル(メタ)アクリレート、具体的にはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、環状骨格を有する(メタ)アクリレート、具体的にはシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレートなどが挙げられる。さらに官能基含有モノマーとして、水酸基を有するヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられ;その他、エポキシ基を有するグリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。アクリル樹脂は、水酸基を有している構成単位を含有しているアクリル重合体が、後述する熱硬化性成分との相溶性が良いため好ましい。また、上記アクリル重合体は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレンなどが共重合されていてもよい。
【0056】
(熱硬化性成分)
保護膜形成用組成物(III-1)は熱硬化性成分を含有することが好ましい。これにより、保護膜形成フィルムを、熱硬化性とすることができる。
【0057】
熱硬化性の保護膜形成フィルムを用いることにより、保護膜形成フィルムを厚膜化しても、厚みに依存する硬化性のバラツキが比較的少なくできる。加熱硬化工程では、多数のワークの一括硬化が可能である。
【0058】
熱硬化性成分としては、熱硬化樹脂(B)および熱硬化剤(C)が用いられる。熱硬化樹脂としては、たとえば、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられ、エポキシ樹脂が好ましい。本明細書において、熱硬化性ポリイミド樹脂とは、熱硬化することによってポリイミド樹脂を形成する、ポリイミド前駆体と、熱硬化性ポリイミドと、の総称である。
【0059】
エポキシ樹脂としては、従来公知のエポキシ樹脂を用いることができる。エポキシ樹脂としては、具体的には、多官能エポキシ樹脂や、ビフェニル化合物、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやその水添物、オルソクレゾールノボラックエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェニレン骨格型エポキシ樹脂など、分子中に2官能以上有するエポキシ化合物が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
熱硬化性成分の好ましい含有量は、保護膜形成フィルムを構成する全固形分100質量部に対して、1~75質量部であることが好ましく、2~60質量部であることがより好ましく、3~50質量部であることがさらに好ましく、例えば、4~40質量部であってもよく、5~35質量部であってもよく、6~30質量部であってもよい。
熱硬化性成分の含有量が、上記下限値以上であると保護膜がワークとの十分な接着性を得ることができ、保護膜がワークを保護する性能が優れる。熱硬化性成分の含有量が、上記上限値以下であると保管した際の保管安定性に優れる。
【0061】
熱硬化剤(C)は、熱硬化樹脂(B)、特にエポキシ樹脂に対する硬化剤として機能する。好ましい熱硬化剤としては、1分子中にエポキシ基と反応しうる官能基を2個以上有する化合物が挙げられる。その官能基としてはフェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基および酸無水物などが挙げられる。これらのうち好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基、酸無水物などが挙げられ、さらに好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基が挙げられる。
【0062】
フェノール系硬化剤の具体的な例としては、多官能フェノール樹脂、ビフェノール、ノボラック型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン系フェノール樹脂、ザイロック型フェノール樹脂、アラルキルフェノール樹脂が挙げられる。アミン系硬化剤の具体的な例としては、DICY(ジシアンジアミド)が挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上混合して使用できる。
【0063】
熱硬化剤(C)の含有量は、熱硬化樹脂(B)100質量部に対して、0.1~500質量部であることが好ましく、0.5~200質量部であることがより好ましく、1~50質量部であることがさらに好ましく、1~30質量部であることが特に好ましい。熱硬化剤の含有量が、上記下限値以上であると、十分に硬化して、保護性能が得られ易い。熱硬化剤の含有量が、上記上限値以下であると、保護膜の吸湿率が抑えられる観点で、ワークと保護膜との接着信頼性が向上し易い傾向がある。
保護膜形成用組成物(III-1)は、上記重合体成分(A)及び熱硬化性成分(すなわち、熱硬化樹脂(B)及び熱硬化剤(C))に加えて下記成分を含むことができる。
【0064】
(エネルギー線硬化性成分)
保護膜形成用組成物(III-1)はエネルギー線硬化性成分を含有してもよい。エネルギー線硬化性成分としては、エネルギー線重合性不飽和基を含み、紫外線、電子線等のエネルギー線の照射を受けると重合硬化する低分子化合物(エネルギー線重合性化合物)を用いることができる。このようなエネルギー線重合性化合物として具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートあるいは1,4-ブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、オリゴエステルアクリレート、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシ変性アクリレート、ポリエーテルアクリレートおよびイタコン酸オリゴマーなどのアクリレート系化合物が挙げられる。このような化合物は、分子内に少なくとも1つのエネルギー線重合性不飽和基を有し、通常は、重量平均分子量が100~30000、好ましくは300~10000程度である。エネルギー線硬化性成分の好ましい含有量は、保護膜形成フィルムを構成する全固形分100質量部に対して、1~30質量部であることが好ましく、5~25質量部であることがより好ましい。
【0065】
また、エネルギー線硬化性成分として、重合体成分の主鎖または側鎖に、エネルギー線重合性不飽和基が結合されてなるエネルギー線硬化型重合体を用いてもよい。このようなエネルギー線硬化型重合体は、重合体成分としての機能と、硬化性成分としての機能を兼ね備える。
【0066】
エネルギー線硬化型重合体の主骨格は特に限定はされず、重合体成分として汎用されているアクリル重合体であってもよく、またポリエステル、ポリエーテル等であっても良いが、合成および物性の制御が容易であることから、アクリル重合体を主骨格とすることが特に好ましい。
【0067】
エネルギー線硬化型重合体の主鎖または側鎖に結合するエネルギー線重合性不飽和基は、具体的には(メタ)アクリロイル基等を例示できる。エネルギー線重合性不飽和基は、アルキレン基、アルキレンオキシ基、ポリアルキレンオキシ基を介してエネルギー線硬化型重合体に結合していてもよい。
【0068】
エネルギー線硬化型重合体の重量平均分子量(Mw)は、1万~200万であることが好ましく、10万~120万であることがより好ましい。また、エネルギー線硬化型重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-60~50℃、さらに好ましくは-50~40℃、特に好ましくは-40~20℃の範囲にある。
【0069】
エネルギー線硬化型重合体は、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基を含有するアクリル樹脂と、該官能基と反応する置換基とエネルギー線重合性不飽和基を1分子毎に1~5個を有する不飽和基含有化合物とを反応させて得られる。該官能基と反応する置換基としては、イソシアネート基、グリシジル基、カルボキシル基等が挙げられる。
【0070】
不飽和基含有化合物としては、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、メタ-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート、アリルイソシアネート、グリシジル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0071】
官能基を含有するアクリル樹脂は、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基を有する(メタ)アクリルモノマーまたはその誘導体と、これと共重合可能な他の(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体とからなる共重合体であることが好ましい。
【0072】
ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基を有する(メタ)アクリルモノマーまたはその誘導体としては、たとえば、ヒドロキシ基を有する2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;カルボキシル基を有するアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸;エポキシ基を有するグリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートなどが挙げられる。
【0073】
上記モノマーと共重合可能な他の(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体としては、例えば、アルキル基の炭素数が1~18であるアルキル(メタ)アクリレート、具体的にはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられ;環状骨格を有する(メタ)アクリレート、具体的にはシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、イミドアクリレートなどが挙げられる。また、上記アクリル樹脂には、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレンなどが共重合されていてもよい。
【0074】
(着色剤(G))
保護膜形成フィルムは、着色剤(G)を含有することが好ましい。保護膜形成フィルムに着色剤を配合することで、半導体装置を機器に組み込んだ際に、周囲の装置から発生する赤外線等を遮蔽し、それらによる半導体装置の誤作動を防止できる。保護膜を形成された半導体装置や半導体チップでは、保護膜の表面に品番等が通常レーザーマーキング法により印字されるが、保護膜が着色剤を含有することで、保護膜のレーザー光によりマーキングされた部分とそうでない部分のコントラスト差が充分に得られ、視認性が向上する。着色剤としては、有機または無機の顔料および染料が用いられる。耐熱性等の観点から顔料が好ましい。顔料としては、カーボンブラック、酸化鉄、二酸化マンガン、アニリンブラック、活性炭等が用いられるが、これらに限定されることはない。その中でもハンドリング性や分散性の観点からカーボンブラックが特に好ましい。着色剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
着色剤の含有量は、保護膜形成フィルムを構成する全固形分100質量部に対して、好ましくは0.05~35質量部、さらに好ましくは0.1~25質量部、特に好ましくは0.2~15質量部である。
【0076】
(硬化促進剤(D))
硬化促進剤(D)は、保護膜形成フィルムの硬化速度を調整するために用いられる。硬化促進剤は、特に、熱硬化性成分において、エポキシ樹脂と熱硬化剤とを併用する場合に好ましく用いられる。
【0077】
好ましい硬化促進剤としては、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの3級アミン類;2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールなどのイミダゾール類;トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して使用できる。
【0078】
硬化促進剤は、熱硬化性成分100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、さらに好ましくは0.1~5質量部の量で含まれる。硬化促進剤を上記範囲の量で含有することにより、高温度高湿度下に曝されても優れた接着特性を有し、厳しいリフロー条件に曝された場合であっても高い接着信頼性を達成できる。
【0079】
(カップリング剤(F))
カップリング剤(F)は、保護膜のワークに対する接着信頼性を向上させるために用いてもよい。また、カップリング剤を使用することで、保護膜形成フィルムを硬化して得られる保護膜の耐熱性を損なうことなく、その耐水性を向上できる。
【0080】
カップリング剤としては、重合体成分、熱硬化性成分などが有する官能基と反応する基を有する化合物が好ましく使用される。カップリング剤としては、シランカップリング剤が望ましい。このようなカップリング剤としてはγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-6-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-6-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシランなどが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して使用できる。
【0081】
カップリング剤は、重合体成分および熱硬化性成分の合計100質量部に対して、通常0.1~20質量部、好ましくは0.2~10質量部、より好ましくは0.3~5質量部の割合で含まれる。カップリング剤の含有量が0.1質量部未満だと上記の効果が得られない可能性があり、20質量部を超えるとアウトガスの原因となる可能性がある。
【0082】
(充填材(E))
充填材(E)を保護膜形成フィルムに配合することにより、硬化後の保護膜における熱膨張係数を調整することが可能となり、半導体チップに対して硬化後の保護膜の熱膨張係数を最適化することでワークと保護膜の接着信頼性を向上させることができる。充填材として、無機充填材が好ましい。また、硬化後の保護膜の吸湿率を低減させることも可能となる。
【0083】
好ましい無機充填材としては、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化鉄、炭化珪素、窒化ホウ素等の粉末、これらを球形化したビーズ、単結晶繊維およびガラス繊維等が挙げられる。これらのなかでも、シリカフィラーおよびアルミナフィラーが好ましい。上記無機充填材は単独でまたは2種以上を混合して使用できる。無機充填材の含有量は、保護膜形成フィルムを構成する全固形分100質量部に対して、1~85質量部とすることもでき、5~80質量部とすることもでき、10~75質量部とすることもでき、20~70質量部とすることもでき、30~66質量部とすることもできる。
【0084】
無機充填材の含有量を、上記上限値以下とすることにより、ロール体にして保護膜形成フィルムが屈曲した際に割れ(ヒビ)が発生するリスクを低減することができ、上記下限値以上とすることにより、保護膜の耐熱性を向上させることができ、また前記粘着力(Z1)がより下がり易い傾向がある。
【0085】
(光重合開始剤)
保護膜形成フィルムが、エネルギー線硬化性成分を含有する場合には、その使用に際して、紫外線等のエネルギー線を照射して、エネルギー線硬化性成分を硬化させる。この際、該組成物中に光重合開始剤を含有させることで、重合硬化時間ならびに光線照射量を少なくできる。
【0086】
このような光重合開始剤として具体的には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4-ジエチルチオキサンソン、α-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、1,2-ジフェニルメタン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドおよびβ-クロールアンスラキノンなどが挙げられる。光重合開始剤は1種類単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0087】
光重合開始剤の配合割合は、エネルギー線硬化性成分100質量部に対して0.1~10質量部含まれることが好ましく、1~5質量部含まれることがより好ましい。上記下限値以上であると光重合して満足な保護性能を得ることができ、上記上限値以下であると光重合に寄与しない残留物の生成を抑制して保護膜形成フィルムの硬化性を十分なものとすることができる。
【0088】
(架橋剤)
保護膜形成フィルムのワークとの粘着力および凝集性を調節するために、架橋剤を添加することもできる。架橋剤としては有機多価イソシアネート化合物、有機多価イミン化合物などが挙げられる。
【0089】
上記有機多価イソシアネート化合物としては、芳香族多価イソシアネート化合物、脂肪族多価イソシアネート化合物、脂環族多価イソシアネート化合物およびこれらの有機多価イソシアネート化合物の三量体、ならびにこれら有機多価イソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマー等を挙げることができる。
【0090】
有機多価イソシアネート化合物としては、たとえば2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、3-メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-2,4’-ジイソシアネート、トリメチロールプロパンアダクトトリレンジイソシアネートおよびリジンイソシアネートが挙げられる。
【0091】
上記有機多価イミン化合物としては、N,N’-ジフェニルメタン-4,4’-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン-トリ-β-アジリジニルプロピオネートおよびN,N’-トルエン-2,4-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)トリエチレンメラミン等を挙げることができる。
【0092】
架橋剤は重合体成分およびエネルギー線硬化型重合体の合計量100質量部に対して通常0.01~20質量部、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.5~5質量部の比率で用いられる。
【0093】
(汎用添加剤)
保護膜形成フィルムには、上記の他に、必要に応じて各種添加剤が配合されてもよい。
各種添加剤としては、粘着付与剤、レベリング剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、イオン捕捉剤、ゲッタリング剤、連鎖移動剤などが挙げられる。
【0094】
(溶媒)
保護膜形成用組成物は、さらに溶媒を含有することが好ましい。溶媒を含有する保護膜形成用組成物は、取り扱い性が良好となる。
前記溶媒は特に限定されないが、好ましいものとしては、例えば、トルエン、キシレン等の炭化水素;メタノール、エタノール、2-プロパノール、イソブチルアルコール(2-メチルプロパン-1-オール)、1-ブタノール等のアルコール;酢酸エチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;テトラヒドロフラン等のエーテル;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド(アミド結合を有する化合物)等が挙げられる。
保護膜形成用組成物が含有する溶媒は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0095】
保護膜形成用組成物が含有する溶媒は、組成物中の含有成分をより均一に混合できる点から、メチルエチルケトン等であることが好ましい。
【0096】
上記のような各成分からなる保護膜形成用組成物を、塗布し、乾燥させて得られる保護膜形成フィルムは、粘着性と硬化性とを有し、未硬化状態ではワークに圧着する。圧着する際に、保護膜形成フィルムを加熱してもよい。そして硬化を経て最終的には耐衝撃性の高い保護膜を与えることができ、接着性にも優れ、厳しい高温度高湿度条件下においても十分な保護性能を保持し得る。なお、保護膜形成フィルムは単層構造であってもよく、また上記成分を含む層を1層以上含む限りにおいて多層構造であってもよい。
【0097】
保護膜形成フィルムの厚さは特に限定されないが、3~300μmとすることもでき、3~200μmとすることもでき、5~100μmとすることもでき、7~80μmとすることもでき、10~70μmとすることもでき、12~60μmとすることもでき、15~50μmとすることもでき、18~40μmとすることもでき、20~30μmとすることもできる。
保護膜形成フィルムの厚さが、上記下限値以上であると保護膜の保護性能を十分なものとすることができ、上記上限値以下であると費用を低減させることができる。
【0098】
○樹脂膜形成用組成物の製造方法
保護膜形成用組成物(III-1)等の樹脂膜形成用組成物は、これを構成するための各成分を配合することで得られる。
各成分の配合時における添加順序は特に限定されず、2種以上の成分を同時に添加してもよい。
溶媒を用いる場合には、溶媒を溶媒以外のいずれかの配合成分と混合してこの配合成分を予め希釈しておくことで用いてもよいし、溶媒以外のいずれかの配合成分を予め希釈しておくことなく、溶媒をこれら配合成分と混合することで用いてもよい。
配合時に各成分を混合する方法は特に限定されず、撹拌子又は撹拌翼等を回転させて混合する方法;ミキサーを用いて混合する方法;超音波を加えて混合する方法等、公知の方法から適宜選択すればよい。
各成分の添加及び混合時の温度並びに時間は、各配合成分が劣化し難い条件を考慮して、適宜調節すればよいが、温度は15~30℃であることが好ましい。
【0099】
<<粘着剤層>>
前記粘着剤層は、シート状又はフィルム状であり、エネルギー線硬化性である。粘着剤層は、その硬化前及び硬化後での物性を調節できる。
【0100】
粘着剤層は1層(単層)からなるものであってもよいし、2層以上の複数層からなるものであってもよく、複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。
【0101】
本明細書においては、粘着剤層の場合に限らず、「複数層が互いに同一でも異なっていてもよい」とは、「すべての層が同一であってもよいし、すべての層が異なっていてもよいし、一部の層のみが同一であってもよい」ことを意味し、さらに「複数層が互いに異なる」とは、「各層の構成材料及び厚さの少なくとも一方が互いに異なる」ことを意味する。
【0102】
粘着剤層の厚さは、特に限定されないが、基材のマット面への粘着剤層の埋め込みが必要な場合はその埋め込みを良好とする観点、及びワーク加工物の正常なピックアップをより容易にする観点から、1~100μmであることが好ましく、3~60μmであることがより好ましく、5~30μmであることがさらに好ましく、8~25μmであることが特に好ましい。
ここで、「粘着剤層の厚さ」とは、粘着剤層全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなる粘着剤層の厚さとは、粘着剤層を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0103】
本明細書においては、粘着剤層の場合に限らず「厚さ」とは、特に断りのない限り、対象物において無作為に選出された5箇所で測定した厚さの平均で表される値であり、JIS K7130に準じて、定圧厚さ測定器を用いて取得できる。
【0104】
粘着剤層は、エネルギー線硬化性化合物(本明細書においては、「エネルギー線硬化性化合物(α)」と称することがある)を含有する粘着剤組成物(I)を用いて形成できる。例えば、粘着剤層の形成対象面に粘着剤組成物(I)を塗工し、必要に応じて乾燥させることで、目的とする部位に粘着剤層を形成できる。粘着剤組成物(I)における、常温で気化しない成分同士の含有量の比率は、通常、粘着剤層における前記成分同士の含有量の比率と同じとなる。
【0105】
粘着剤層において、粘着剤層の総質量に対する、粘着剤層の1種又は2種以上の後述する含有成分の合計含有量の割合は、100質量%を超えない。
同様に、粘着剤組成物(I)において、粘着剤組成物(I)の総質量に対する、粘着剤組成物(I)の1種又は2種以上の後述する含有成分の合計含有量の割合は、100質量%を超えない。
【0106】
粘着剤組成物(I)の塗工は、公知の方法で行えばよく、例えば、エアーナイフコーター、ブレードコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロールコーター、ロールナイフコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ナイフコーター、スクリーンコーター、マイヤーバーコーター、キスコーター等の各種コーターを用いる方法が挙げられる。
【0107】
粘着剤組成物(I)の乾燥条件は、特に限定されない。ただし、粘着剤組成物(I)は、後述する溶媒を含有している場合、加熱乾燥させることが好ましい。そして、溶媒を含有する粘着剤組成物(I)は、例えば、70~130℃で10秒~5分の条件で、加熱乾燥させることが好ましい。
【0108】
基材上に粘着剤層を設ける場合には、例えば、基材上に粘着剤組成物(I)を塗工し、必要に応じて乾燥させればよい。また、例えば、剥離フィルム上に粘着剤組成物(I)を塗工し、必要に応じて乾燥させることで、剥離フィルム上に粘着剤層を形成しておき、この粘着剤層の露出面を、基材の一方の表面と貼り合わせることで、基材上に粘着剤層を積層してもよい。この場合の剥離フィルムは、支持シートの製造過程又は使用過程のいずれかのタイミングで、取り除けばよい。
【0109】
<エネルギー線硬化性化合物(α)>
前記エネルギー線硬化性化合物(α)は、エネルギー線硬化性を有しており、その23℃での粘度が350mPa・s以下であることが好ましい。
23℃でのエネルギー線硬化性化合物(α)の粘度は、例えば、320mPa・s以下、220mPa・s以下、120mPa・s以下、及び60mPa・s以下のいずれかであってもよい。基材のマット面への粘着剤層の埋め込みが必要な場合は、前記粘度が低いほど、基材のマット面の粘着剤層による埋め込み性が高くなる。
23℃でのエネルギー線硬化性化合物(α)の粘度の下限値は、特に限定されない。例えば、前記粘度が5mPa・s以上であるエネルギー線硬化性化合物(α)は、より容易に入手できる。
23℃でのエネルギー線硬化性化合物(α)の粘度は、例えば、5~350mPa・s、5~320mPa・s、5~220mPa・s、5~120mPa・s、及び5~60mPa・s以下のいずれかであってもよい。ただし、これらは、前記粘度の一例である。
【0110】
23℃でのエネルギー線硬化性化合物(α)の粘度は、例えば、単一円筒型のB形(ブルックフィード形)回転粘度計により、測定できる。
【0111】
エネルギー線硬化性化合物(α)としては、例えば、エネルギー線重合性不飽和基を有し、エネルギー線の照射により硬化可能なモノマー又はオリゴマーが挙げられる。
1分子のエネルギー線硬化性化合物(α)は、前記エネルギー線重合性不飽和基を1個又は2個以上有し、3個以上有していてもよいが、1個又は2個有することが好ましい。
エネルギー線重合性不飽和基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基が挙げられる。
【0112】
本明細書において、「(メタ)アクリロイル基」とは、「アクリロイル基」及び「メタクリロイル基」の両方を包含する概念である。(メタ)アクリロイル基と類似の用語についても同様であり、例えば、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の両方を包含する概念であり、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方を包含する概念である。
【0113】
エネルギー線硬化性化合物(α)は、置換基を有していてもよい(メタ)アクリル酸エステルであることが好ましい。置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル中の、アルコールに由来する炭化水素基(オキシカルボニル基(-O-C(=O)-)中のカルボニル基を構成していない酸素原子に結合している炭化水素基)の中の、1個又は2個以上の炭素原子が、この炭素原子に結合している水素原子と共に(例えば、-CH-、=CH-の単位で)、置換基で置換された構造を有する化合物が挙げられる。ただし、隣接する2個の炭素原子は置換基で置換されないものとする。
【0114】
エネルギー線硬化性化合物(α)である前記(メタ)アクリル酸エステル中の前記炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれであってもよく、環状である場合には、単環状及び多環状のいずれであってもよい。前記炭化水素基は、鎖状構造(直鎖状構造及び分岐鎖状構造のいずれか一方又は両方)並びに環状構造をともに有していてもよい。
【0115】
前記炭化水素基は、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のいずれであってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれであってもよい。本明細書においては、脂肪族基のみを有し、芳香族環式基を有しない炭化水素基は脂肪族炭化水素基であり、脂肪族基と芳香族環式基を共に有するか、又は、芳香族環式基のみを有する炭化水素基は、芳香族炭化水素基である。
【0116】
前記炭化水素基は、環状構造を有すること、すなわち、環状の炭化水素基であるか、又は、鎖状構造及び環状構造をともに有する炭化水素基であることが好ましい。
【0117】
前記炭化水素基は、アルキル基、アルキレン基又はアラルキル基(アリールアルキル基)であることが好ましい。
【0118】
前記置換基は、複数個の原子が結合した構造を有する原子団であってもよいし、1個の原子であってもよい。
好ましい前記置換基としては、例えば、酸素原子(-O-)等が挙げられる。
【0119】
前記炭化水素基が前記置換基を有する場合、置換基の数は、炭化水素基の種類によって適宜調節されるが、通常、1~4個であることが好ましく、1~3個であることがより好ましい。
【0120】
前記炭化水素基の炭素数は、3~20であることが好ましく、例えば、3~16、3~12、及び3~8のいずれかであってもよいし、4~20、9~20、及び13~20のいずれかであってもよいし、4~16、及び9~14のいずれかであってもよい。ただし、これらは、前記炭素数の一例である。ここで、「炭化水素基の炭素数」とは、炭化水素基が前記置換基を有する場合には、置換基で置換される前の炭化水素基の炭素数を意味する。例えば、炭化水素基が置換基として酸素原子(-O-)のみを有する場合には、炭化水素基の炭素数とは、この酸素原子をメチレン基(-CH-)等の置換前の基に置き換えたときの炭化水素基の炭素数を意味する。
【0121】
前記炭化水素基は、環状構造を有し、かつ置換基として酸素原子を有していてもよい炭化水素基であることが好ましく;鎖状構造及び環状構造をともに有し、かつ置換基として酸素原子を有していてもよい炭化水素基であることがより好ましく;置換基として酸素原子を有していてもよい脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基であることがさらに好ましく;置換基として酸素原子を有する脂肪族基と、置換基を有しない芳香族環式基と、をともに有する芳香族炭化水素基である(本明細書においては、この場合のエネルギー線硬化性化合物(α)を「エネルギー線硬化性化合物(α1)」と称することがある)か、置換基を有しない環状構造と、置換基を有しない鎖状構造と、を共に有する脂肪族炭化水素基である(本明細書においては、この場合のエネルギー線硬化性化合物(α)を「エネルギー線硬化性化合物(α2)」と称することがある)か、又は、置換基として酸素原子を有する環状構造と、置換基を有しない鎖状構造と、を共に有する脂肪族炭化水素基である(本明細書においては、この場合のエネルギー線硬化性化合物(α)を「エネルギー線硬化性化合物(α3)」と称することがある)ことがさらに好ましい。このようなエネルギー線硬化性化合物(α)を用いることにより、加熱後の前記粘着剤層と前記樹脂膜との間の粘着力(Z2)、及び、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と前記樹脂膜との間の粘着力(Z1)の両方を、より好適に調整できる。
【0122】
前記エネルギー線硬化性化合物(α1)の一例としては、実施例で後述するエネルギー線硬化性化合物(α)-1が挙げられる。
前記エネルギー線硬化性化合物(α2)の一例としては、実施例で後述するエネルギー線硬化性化合物(α)-2が挙げられる。
前記エネルギー線硬化性化合物(α3)の一例としては、実施例で後述するエネルギー線硬化性化合物(α)-3が挙げられる。
【0123】
エネルギー線硬化性化合物(α)の分子量は、特に限定されないが、500以下であることが好ましい。このようなエネルギー線硬化性化合物(α)を用いることにより、加熱後の前記粘着剤層と前記樹脂膜との間の粘着力(Z2)、及び、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と前記樹脂膜との間の粘着力(Z1)の両方を、より好適に調整できる。
【0124】
エネルギー線硬化性化合物(α)の分子量は、100~500であることが好ましく、200~400であることがより好ましく、例えば、200~310、及び200~280のいずれかであってもよいし、250~400、及び310~400のいずれかであってもよいし、250~310であってもよい。前記分子量が前記上限値以下であることで、加熱後の前記粘着剤層と前記樹脂膜との間の粘着力(Z2)、さらに高くできる。前記分子量が前記下限値以上であることで、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と前記樹脂膜との間の粘着力(Z1)をさらに小さくできる。ただし、これらは、エネルギー線硬化性化合物(α)の分子量の一例である。
エネルギー線硬化性化合物(α1)、エネルギー線硬化性化合物(α2)及びエネルギー線硬化性化合物(α3)で、ここに示すいずれかの分子量を有するものは、特に好ましいエネルギー線硬化性化合物(α)である。
【0125】
エネルギー線硬化性化合物(α)は、(メタ)アクリル酸エステル中の、アルコールに由来する炭化水素基の中の、1個又は2個以上の炭素原子が、この炭素原子に結合している水素原子と共に置換基で置換された構造を有していてもよい(メタ)アクリル酸エステルであって、前記炭化水素基が環状構造を有し、分子量が500以下の化合物であることが好ましい。
【0126】
このようなエネルギー線硬化性化合物(α)は、前記炭化水素基がアルキル基、アルキレン基又はアラルキル基であるものが好ましく、前記置換基が酸素原子であるものが好ましく、前記エネルギー線硬化性化合物(α1)、前記エネルギー線硬化性化合物(α2)又は前記エネルギー線硬化性化合物(α3)であることが好ましく、上述のさらに限定されたいずれかの数値範囲の分子量であるものが好ましく、これら4条件の1以上を同時に満たすものがより好ましい。
【0127】
粘着剤層及び粘着剤組成物(I)が含有するエネルギー線硬化性化合物(α)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0128】
粘着剤組成物(I)において、溶媒以外の全ての成分の総含有量に対する、エネルギー線硬化性化合物(α)の含有量の割合は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上、及び14質量%以上のいずれかであってもよい。一方、前記割合は、100質量%以下である。
この内容は、粘着剤層における、粘着剤層の総質量に対する、エネルギー線硬化性化合物(α)の含有量の割合が、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上、及び14質量%以上のいずれかであってもよく、前記割合は100質量%以下である、ことと同義である。
これは、溶媒を含有する樹脂組成物から溶媒を除去して、樹脂の薄膜を形成する過程では、溶媒以外の成分の量は、通常、変化しないことに基づいており、樹脂組成物と樹脂の薄膜とでは、溶媒以外の成分同士の含有量の比率は同じである。そこで、本明細書においては、以降、粘着剤層の場合に限らず、溶媒以外の成分の含有量については、樹脂組成物から溶媒を除去した樹脂の薄膜での含有量のみ記載する。
【0129】
<エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)>
前記粘着剤層及び粘着剤組成物(I)は、さらに、エネルギー線硬化性アクリル樹脂を含有する(本明細書においては、「エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)」とも称する)ことが好ましい。エネルギー線硬化性化合物(α)及びエネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)を含有する粘着剤層は、加熱後の前記粘着剤層と前記樹脂膜との間の粘着力(Z2)、及び、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と前記樹脂膜との間の粘着力(Z1)の両方を、より好適に調整できる。また、後述する粘着力(Y1)を調節することが、より容易である。
【0130】
前記エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)としては、例えば、非エネルギー線硬化性アクリル樹脂の側鎖に、エネルギー線重合性不飽和基が導入された構造を有する樹脂が挙げられる。
【0131】
[非エネルギー線硬化性アクリル樹脂]
前記非エネルギー線硬化性アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位と、官能基含有モノマー由来の構成単位と、を有するアクリル重合体が挙げられる。
【0132】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、そのアルキルエステルを構成するアルキル基の炭素数が、1~20であるのものが挙げられる。前記アルキルエステルを構成するアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれであってもよいが、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましい。
【0133】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルのうち、前記アルキル基が直鎖状又は分岐鎖状であるものとして、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル((メタ)アクリル酸ラウリル)、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル((メタ)アクリル酸ミリスチル)、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル((メタ)アクリル酸パルミチル)、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル((メタ)アクリル酸ステアリル)、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸イコシル等が挙げられる。
【0134】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルのうち、前記アルキル基が環状であるものとして、例えば、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル等が挙げられる。
これらの中でも、粘着力(Z1)をより小さくする観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル(アクリル酸ラウリル)、及びメタクリル酸ドデシル(メタクリル酸ラウリル)が好ましい。
【0135】
前記官能基含有モノマーとしては、例えば、前記官能基が後述する架橋剤と反応することで架橋の起点となったり、前記官能基が後述する不飽和基含有化合物中の非エネルギー線硬化性アクリル樹脂と結合可能な基と反応することで、アクリル重合体の側鎖に不飽和基の導入を可能とするものが挙げられる。
【0136】
前記官能基含有モノマーとしては、例えば、水酸基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー等が挙げられる。
【0137】
前記水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル;ビニルアルコール、アリルアルコール等の非(メタ)アクリル不飽和アルコール((メタ)アクリロイル骨格を有しない不飽和アルコール)等が挙げられる。
これらの中でも、粘着力(Z1)をより小さくする観点から、水酸基含有モノマーとしては、メタクリル酸ヒドロキシアルキルが好ましく、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル及びメタクリル酸2-ヒドロキシブチルのいずれかがより好ましい。
【0138】
前記カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸(エチレン性不飽和結合を有するモノカルボン酸);フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸(エチレン性不飽和結合を有するジカルボン酸);前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の無水物;2-カルボキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸カルボキシアルキルエステル等が挙げられる。
【0139】
前記エポキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル等のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0140】
前記官能基含有モノマーは、水酸基含有モノマーであることが好ましい。
【0141】
非エネルギー線硬化性アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位と、前記官能基含有モノマー由来の構成単位と、のいずれにも該当しない他のモノマー由来の構成単位を有していてもよい。
【0142】
前記他のモノマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル等と共重合可能なものであれば特に限定されない。
前記他のモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリルアミド等が挙げられる。
【0143】
非エネルギー線硬化性アクリル樹脂が有する、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位と、前記官能基含有モノマー由来の構成単位と、前記他のモノマー由来の構成単位は、それぞれ、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0144】
非エネルギー線硬化性アクリル樹脂において、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位の含有量は、構成単位の全量に対して、65~99質量%であることが好ましい。
【0145】
非エネルギー線硬化性アクリル樹脂において、官能基含有モノマー由来の構成単位の含有量は、構成単位の全量に対して、1~35質量%であることが好ましい。
【0146】
非エネルギー線硬化性アクリル樹脂において、前記他のモノマー由来の構成単位の含有量は、構成単位の全量に対して、0~10質量%であることが好ましい。
【0147】
エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)は、例えば、非エネルギー線硬化性アクリル樹脂中の前記官能基に、エネルギー線重合性不飽和基を有する不飽和基含有化合物を反応させることで得られる。
【0148】
前記不飽和基含有化合物は、前記エネルギー線重合性不飽和基以外に、さらに非エネルギー線硬化性アクリル樹脂中の官能基と反応することで、非エネルギー線硬化性アクリル樹脂と結合可能な基を有する化合物である。
前記エネルギー線重合性不飽和基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基(エテニル基)、アリル基(2-プロペニル基)等が挙げられ、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
非エネルギー線硬化性アクリル樹脂中の前記官能基と結合可能な基としては、例えば、水酸基又はアミノ基と結合可能なイソシアネート基及びグリシジル基、並びにカルボキシ基又はエポキシ基と結合可能な水酸基及びアミノ基等が挙げられる。
【0149】
前記不飽和基含有化合物としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0150】
非エネルギー線硬化性アクリル樹脂中の前記官能基に、エネルギー線重合性不飽和基を有する不飽和基含有化合物を反応させることで、エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)を得るときに、非エネルギー線硬化性アクリル樹脂中の前記官能基の総モル数に対する、前記不飽和基含有化合物中の前記不飽和基の総モル数は、0.6倍以上であってもよいが、0.75倍以上であることが好ましく、0.8倍以上であることがより好ましく、0.85倍以上であることがさらに好ましく、0.9倍以上であることが特に好ましい。前記不飽和基の総モル数が多いほど、加熱後の前記粘着剤層と前記樹脂膜との間の粘着力(Z2)をより大きくでき、ダイシング時の耐チップ剥がれ性(すなわち、耐ワーク加工物剥がれ性)が、より優れる傾向にある。さらに、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と前記樹脂膜との間の粘着力(Z1)をより小さくでき、樹脂膜付きワーク加工物の硬化済み支持シートからのピックアップ性を、より高くできる傾向にある。
一方、非エネルギー線硬化性アクリル樹脂中の前記官能基の総モル数に対する、前記不飽和基含有化合物中の前記不飽和基の総モル数は、1倍以下であることが好ましい。
【0151】
粘着剤層及び粘着剤組成物(I)が含有するエネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0152】
粘着剤層及び粘着剤組成物(I)がエネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)を含有する場合、粘着剤層における、粘着剤層の総質量に対する、エネルギー線硬化性化合物(α)の含有量の割合は、5~50質量%であることが好ましく、例えば、5~30質量%、及び5~20質量%のいずれかであってもよいし、10~50質量%、及び14~50質量%のいずれかであってもよいし、10~30質量%であってもよい。前記割合の範囲であることで、加熱後の前記粘着剤層と前記樹脂膜との間の粘着力(Z2)、及び、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と前記樹脂膜との間の粘着力(Z1)の両方を、より好適に調整できる。
【0153】
粘着剤層及び粘着剤組成物(I)がエネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)を含有する場合、粘着剤層における、粘着剤層の総質量に対する、エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)の含有量の割合は、50~95質量%であることが好ましく、例えば、70~95質量%、及び80~95質量%のいずれかであってもよいし、50~90質量%、及び50~86質量%のいずれかであってもよいし、70~90質量%であってもよい。前記割合の範囲であることで、加熱後の前記粘着剤層と前記樹脂膜との間の粘着力(Z2)、及び、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と前記樹脂膜との間の粘着力(Z1)の両方を、より好適に調整できる。
【0154】
<他の成分>
粘着剤層及び粘着剤組成物(I)は、本発明の効果を損なわない範囲内において、エネルギー線硬化性化合物(α)と、エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)と、のいずれにも該当しない、他の成分を含有していてもよい。
前記他の成分としては、例えば、架橋剤(β)、光重合開始剤(γ)、添加剤等が挙げられる。
【0155】
粘着剤層及び粘着剤組成物(I)が含有する前記他の成分は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0156】
[架橋剤(β)]
エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)の調製時に、非エネルギー線硬化性アクリル樹脂中の前記官能基として、前記不飽和基含有化合物と未反応のものが残存した場合、エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)は、この官能基を有する。このようなエネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)を用いる場合には、粘着剤層及び粘着剤組成物(I)は、さらに、架橋剤(β)を含有していてもよい。前記架橋剤(β)を含有する粘着剤層及び粘着剤組成物(I)では、エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)同士が架橋され得る。
【0157】
架橋剤(β)としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、これらジイソシアネートのアダクト体等のイソシアネート系架橋剤(イソシアネート基を有する架橋剤);エチレングリコールグリシジルエーテル等のエポキシ系架橋剤(グリシジル基を有する架橋剤);ヘキサ[1-(2-メチル)-アジリジニル]トリフオスファトリアジン等のアジリジン系架橋剤(アジリジニル基を有する架橋剤);アルミニウムキレート等の金属キレート系架橋剤(金属キレート構造を有する架橋剤);イソシアヌレート系架橋剤(イソシアヌル酸骨格を有する架橋剤)等が挙げられる。
これらの中でも、加熱後の前記粘着剤層と前記樹脂膜との間の粘着力(Z2)、及び、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と前記樹脂膜との間の粘着力(Z1)の両方を、より好適に調整できることから、架橋剤(β)としては、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト体が好ましい。
【0158】
粘着剤層及び粘着剤組成物(I)が含有する架橋剤(β)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0159】
粘着剤層において、架橋剤(β)の含有量は、エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)の含有量100質量部に対して、0.1~7質量部であることが好ましく、例えば、0.1~5質量部、及び0.1~3質量部のいずれかであってもよいし、0.5~7質量部、1~7質量部、及び3~7質量部のいずれかであってもよいし、0.5~5質量部、及び1~3質量部のいずれかであってもよい。
【0160】
[光重合開始剤(γ)]
粘着剤層及び粘着剤組成物(I)は、さらに光重合開始剤(γ)を含有していてもよい。光重合開始剤(γ)を含有する粘着剤層及び粘着剤組成物(I)は、紫外線等の比較的低エネルギーのエネルギー線を照射しても、十分に硬化反応が進行する。
【0161】
前記光重合開始剤(γ)としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール等のベンゾイン化合物;アセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-(4-(4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン等のアセトフェノン化合物;ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド化合物;ベンジルフェニルスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のスルフィド化合物;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のα-ケトール化合物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;チタノセン等のチタノセン化合物;チオキサントン等のチオキサントン化合物;パーオキサイド化合物;ジアセチル等のジケトン化合物;ベンジル;ジベンジル;ベンゾフェノン;2,4-ジエチルチオキサントン;1,2-ジフェニルメタン;2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン;1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン等のキノン化合物が挙げられる。
光重合開始剤(γ)としては、例えば、アミン等の光増感剤等を用いることもできる。
これらの中でも、粘着力(Z1)をより小さくする観点から、光重合開始剤(γ)としては、2-ヒドロキシ-1-(4-(4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オンが好ましい。
【0162】
粘着剤層及び粘着剤組成物(I)が含有する光重合開始剤(γ)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0163】
粘着剤層において、光重合開始剤(γ)の含有量は、エネルギー線硬化性化合物(α)及びエネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)の合計含有量100質量部に対して、0.5~5質量部であることが好ましく、例えば、1~4質量部、及び1.5~3.5質量部のいずれかであってもよい。
【0164】
[添加剤]
前記添加剤としては、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤、軟化剤(可塑剤)、充填材(フィラー)、防錆剤、着色剤(顔料、染料)、増感剤、粘着付与剤、反応遅延剤、架橋促進剤(触媒)等の公知の添加剤が挙げられる。
前記反応遅延剤とは、例えば、粘着剤組成物(I)中に混入している触媒の作用によって、保管中の粘着剤組成物(I)において、目的としない架橋反応が進行するのを抑制する成分である。反応遅延剤としては、例えば、触媒に対するキレートによってキレート錯体を形成するものが挙げられ、より具体的には、1分子中にカルボニル基(-C(=O)-)を2個以上有する成分が挙げられる。
【0165】
粘着剤層及び粘着剤組成物(I)が含有する添加剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0166】
粘着剤組成物(I)の添加剤の含有量は、特に限定されず、その種類に応じて適宜選択すればよい。
【0167】
[溶媒]
粘着剤組成物(I)は、溶媒を含有していてもよい。粘着剤組成物(I)は、溶媒を含有していることで、塗工対象面への塗工適性が向上する。
【0168】
前記溶媒は有機溶媒であることが好ましく、前記有機溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン;酢酸エチル等のエステル(カルボン酸エステル);テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;シクロヘキサン、n-ヘキサン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコール等が挙げられる。
【0169】
粘着剤組成物(I)が含有する溶媒は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0170】
粘着剤組成物(I)の溶媒の含有量は、特に限定されず、適宜調節すればよい。
【0171】
<粘着剤層の一実施形態>
好ましい粘着剤層及び粘着剤組成物(I)の一例としては、エネルギー線硬化性化合物(α)、エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)、架橋剤(β)及び光重合開始剤(γ)を含有するものが挙げられる。
【0172】
<粘着剤組成物(I)の製造方法>
粘着剤組成物(I)は、エネルギー線硬化性化合物(α)と、必要に応じてエネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)等の、粘着剤組成物(I)を構成するための各成分を配合することで得られる。
各成分の配合時における添加順序は特に限定されず、2種以上の成分を同時に添加してもよい。
配合時に各成分を混合する方法は特に限定されず、撹拌子又は撹拌翼等を回転させて混合する方法;ミキサーを用いて混合する方法;超音波を加えて混合する方法等、公知の方法から適宜選択すればよい。
各成分の添加及び混合時の温度並びに時間は、各配合成分が劣化しない限り特に限定されず、適宜調節すればよいが、温度は15~30℃であることが好ましい。
【0173】
<<基材>>
前記基材は、シート状又はフィルム状であり、その構成材料としては、例えば、各種樹脂が挙げられる。
前記樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン;ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、ノルボルネン樹脂等のポリエチレン以外のポリオレフィン;エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-ノルボルネン共重合体等のエチレン系共重合体(モノマーとしてエチレンを用いて得られた共重合体);ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂(モノマーとして塩化ビニルを用いて得られた樹脂);ポリスチレン;ポリシクロオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート、すべての構成単位が芳香族環式基を有する全芳香族ポリエステル等のポリエステル;2種以上の前記ポリエステルの共重合体;ポリ(メタ)アクリル酸エステル;ポリウレタン;ポリウレタンアクリレート;ポリイミド;ポリアミド;ポリカーボネート;フッ素樹脂;ポリアセタール;変性ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリスルホン;ポリエーテルケトン等が挙げられる。
また、前記樹脂としては、例えば、前記ポリエステルとそれ以外の樹脂との混合物等のポリマーアロイも挙げられる。前記ポリエステルとそれ以外の樹脂とのポリマーアロイは、ポリエステル以外の樹脂の量が比較的少量であるものが好ましい。
また、前記樹脂としては、例えば、ここまでに例示した前記樹脂の1種又は2種以上が架橋した架橋樹脂;ここまでに例示した前記樹脂の1種又は2種以上を用いたアイオノマー等の変性樹脂も挙げられる。
上記の中でも、基材の構成材料である前記樹脂は、基材の高温(135℃程度)での耐熱性と、可撓性と、がより高くなる点では、ポリプロピレン又はポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0174】
基材を構成する樹脂は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0175】
基材は、前記樹脂等の主たる構成材料以外に、充填材、着色剤、酸化防止剤、有機滑剤、触媒、軟化剤(可塑剤)等の公知の各種添加剤を含有していてもよい。
【0176】
前記支持シートにおいては、粘着剤層がエネルギー線硬化性であるため、基材はエネルギー線を透過させるものが好ましく、透明であることが好ましい。
【0177】
基材においては、その少なくとも一方の面が、凹凸度が比較的大きく、粗くなっていることがある。このような面は、光沢度が比較的低く、マット(matte)処理されたように見えることから、「マット面」と称されることがある。
基材においては、その少なくとも一方の面がマット面であり、両面がマット面であってもよく、一方の面がマット面であり、他方の面が、凹凸度が小さいツヤ面であってもよい。
前記支持シートにおいては、基材のマット面上に粘着剤層が設けられていることが好ましい。そして、基材の両面がマット面である場合には、表面粗さ(Ra)が大きい方のマット面上に、粘着剤層が設けられていることが好ましい。
【0178】
基材のマット面は、基材の一定値以上の粗さを有する面であり、光沢度が低いことから、その外観によって明瞭に識別できる。少なくとも一方の面がマット面である基材は、市販品として容易に入手可能であり、公知の方法で容易に作製も可能である。
【0179】
基材のマット面の表面粗さ(Ra)は、0.05μm以上であることが好ましく、例えば、0.1μm以上、0.4μm以上、及び0.7μm以上のいずれかであってもよい。前記表面粗さが前記下限値以上であることで、基材を重ね合わせて保管したときの基材のブロッキングがより抑制され易い。
基材のマット面の表面粗さ(Ra)の上限値は、特に限定されない。例えば、表面の凹凸度が過剰に大きくならない点では、前記表面粗さは2μm以下であることが好ましい。
基材のマット面の表面粗さ(Ra)は、例えば、0.05~2μm、0.1~2μm、0.4~2μm、及び0.7~2μmのいずれかであってもよい。ただし、これらは、前記表面粗さの一例である。
【0180】
本明細書において、「表面粗さ(Ra)」とは、基材のマット面に限定されず、JIS B0601:2001に準拠して求められる、いわゆる算術平均粗さを意味する。
【0181】
基材のツヤ面の表面粗さ(Ra)は、0.05μm未満であることが好ましく、例えば、0.04μm以下であってもよい。
基材のツヤ面の表面粗さ(Ra)の下限値は、特に限定されない。例えば、基材を重ね合わせて保管したときの基材のブロッキングが抑制される点では、前記表面粗さは0.01μm以上であることが好ましい。
基材のツヤ面の表面粗さ(Ra)は、例えば、0.01μm以上0.05μm未満、及び0.01~0.04μmのいずれかであってもよい。ただし、これらは、前記表面粗さの一例である。
【0182】
基材の両面の表面粗さ(Ra)は、例えば、基材の成形条件や、表面処理条件等により、調節できる。ここで表面処理としては、例えば、サンドブラスト処理、溶剤処理等による凹凸化処理と、研磨処理等による平滑化処理と、が挙げられる。
【0183】
基材は、その上に設けられる粘着剤層との接着性を調節するために、コロナ放電処理、電子線照射処理、プラズマ処理、オゾン・紫外線照射処理、火炎処理、クロム酸処理、熱風処理等の酸化処理;親油処理;親水処理等が表面に施されていてもよい。基材の表面はプライマー処理されていてもよい。
【0184】
基材は1層(単層)からなるものであってもよいし、2層以上の複数層からなるものであってもよく、複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。
【0185】
基材の厚さは、50~300μmであることが好ましく、60~100μmであることがより好ましい。基材の厚さがこのような範囲であることで、前記支持シートの耐熱性(例えば135℃程度)、可撓性と、ワークへの貼付適性がより向上する。
ここで、「基材の厚さ」とは、基材全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなる基材の厚さとは、基材を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0186】
基材は、公知の方法で製造できる。例えば、樹脂を含有する基材は、前記樹脂を含有する樹脂組成物を成形することで製造できる。
【0187】
<<剥離フィルム>>
前記剥離フィルムは、公知のものであってよい。
剥離フィルムとして、より具体的には、例えば、剥離フィルム用基材の一方の面又は両面が、剥離処理面であるものが挙げられる。剥離フィルム用基材としてはポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
前記剥離処理面は、剥離フィルム用基材の表面を、公知の剥離処理剤によって剥離処理することで形成できる。
剥離フィルムの厚さは、例えば、2~300μmであってもよく、20~100μmが好ましい。
【0188】
次に、前記樹脂膜形成用複合シートの物性について説明する。
【0189】
<粘着力(Z2)>
前記粘着力(Z2)は、8000mN/25mm以上であり、9000mN/25mm以上であることが好ましく、例えば、10000mN/25mm以上、12000mN/25mm以上、及び15000mN/25mm以上のいずれかであってもよい。粘着力(Z2)が大きいほど、支持シート上で樹脂膜付きワークを加工することにより、ワーク加工物を作製する際に、粘着剤層から樹脂膜付きワーク加工物が剥がれてしまうことをより抑制できる。
【0190】
粘着力(Z2)の上限値は、特に限定されない。例えば、粘着力(Z2)が40000mN/25mm以下である粘着剤層は、より容易に形成できる。
粘着力(Z2)は、例えば、8000~40000mN/25mm、9000~40000mN/25mm、10000~40000mN/25mm、12000~40000mN/25mm、及び15000~40000mN/25mm以下のいずれかであってもよい。ただし、これらは、粘着力(Z2)の一例である。
【0191】
粘着力(Z2)は、例えば、以下に示す方法で測定できる。
はじめに、樹脂膜形成用複合シートから、幅が25mmの試験片を切り出す。
次いで、この試験片(樹脂膜形成用複合シート)を、その中の樹脂膜形成フィルムによって、厚さ650μmのシリコンミラーウエハのミラー面に貼付することで、試験片付きシリコンミラーウエハを作製する。このときの貼付は、70℃で行うことが好ましく、貼付速度は300mm/minとすることが好ましい。
【0192】
次いで、この試験片付きシリコンミラーウエハを、130℃で2時間加熱する。
次いで、この加熱後の試験片付きシリコンミラーウエハを、放冷によりその温度が23℃になるまで冷却した後、常温下で、剥離速度を300mm/minとして、樹脂膜付きシリコンミラーウエハから、粘着剤層及び基材からなる支持シートを剥離する。このとき、樹脂膜付きシリコンミラーウエハの支持シートが貼付されていた面と、支持シートの樹脂膜が貼付されていた面と、が180°の角度を為すように、支持シートをその長さ方向へ剥離する、いわゆる180°剥離を行う。そして、この180°剥離のときの荷重(剥離力)を測定し、測定の長さは50mmとし、測定の最初5mmと最後5mmは有効値から除外する。その測定値の平均値を粘着力(mN/25mm)として採用する。
本実施形態においては、このような剥離力(Z2)の測定を、2枚以上の複数枚の試験片(樹脂膜形成用複合シート)に対して行い、得られた複数の測定値の平均値を、粘着力(Z2)として採用してもよい。
【0193】
<粘着力(Z1)>
前記粘着力(Z1)は、400mN/25mm以下であり、380mN/25mm以下であることが好ましく、350mN/25mm以下、であることがより好ましく、例えば、300mN/25mm以下、280mN/25mm以下、260mN/25mm以下のいずれかであってもよい。粘着力(Z1)が小さいほど、樹脂膜付きワーク加工物の硬化済み支持シートからのピックアップ性を、より高くできる傾向にある。
【0194】
粘着力(Z1)の下限値は、特に限定されない。例えば、粘着力(Z1)が30mN/25mm以上である粘着剤層は、より容易に形成できる。
粘着力(Z1)は、例えば、30~400mN/25mm、30~380mN/25mm、30~350mN/25mm、30~300mN/25mm、30~280mN/25mm、及び30~260mN/25mmのいずれかであってもよい。ただし、これらは、粘着力(Z1)の一例である。
【0195】
粘着力(Z1)は、例えば、以下に示す方法で測定できる。
はじめに、樹脂膜形成用複合シートから、幅が25mmの試験片を切り出す。
次いで、この試験片(樹脂膜形成用複合シート)を、その中の樹脂膜形成フィルムによって、厚さ650μmのシリコンミラーウエハのミラー面に貼付することで、試験片付きシリコンミラーウエハを作製する。このときの貼付は、70℃で行うことが好ましく、貼付速度は300mm/minとすることが好ましい。
【0196】
次いで、この試験片付きシリコンミラーウエハを、130℃で2時間加熱する。
次いで、この加熱後の試験片付きシリコンミラーウエハを、放冷によりその温度が23℃になるまで冷却した後、照度230mW/cm、光量200mJ/cmの条件で、この冷却後の試験片付きシリコンミラーウエハ中の粘着剤層に対して、基材越しにエネルギー線を照射することで、試験片中の粘着剤層を硬化させる。
【0197】
次いで、常温下で、剥離速度を300mm/minとして、樹脂膜付きシリコンミラーウエハから、粘着剤層及び基材からなる支持シートを剥離する。このとき、樹脂膜付きシリコンミラーウエハの支持シートが貼付されていた面と、支持シートの樹脂膜が貼付されていた面と、が180°の角度を為すように、支持シートをその長さ方向へ剥離する、いわゆる180°剥離を行う。そして、この180°剥離のときの荷重(剥離力)を測定し、測定の長さは50mmとし、測定の最初5mmと最後5mmは有効値から除外する。その測定値の平均値を粘着力(mN/25mm)として採用する。
本実施形態においては、このような剥離力(Z1)の測定を、2枚以上の複数枚の試験片(樹脂膜形成用複合シート)に対して行い、得られた複数の測定値の平均値を、粘着力(Z1)として採用してもよい。
【0198】
<粘着力(Y2)>
前記樹脂膜形成用複合シートの前記支持シートを、前記粘着剤層によってステンレス鋼(SUS)板の表面に貼付し、貼付後の前記粘着剤層を130℃で加熱し、加熱後の前記粘着剤層と、前記ステンレス鋼板と、の間の粘着力(Y2)(本明細書においては、単に「粘着力(Y2)」と称することがある)を測定したとき、前記粘着力(Y2)が13000mN/25mm以上であることが好ましい。このような樹脂膜形成用複合シート及び支持シートを用いることで、後述する樹脂膜付きワーク加工物の製造方法において、樹脂膜形成用複合シート上のワークが、リングフレーム等の固定用治具に前記粘着剤層を介して固定された状態で加熱されても、支持シートの固定用治具からの剥離が抑制される。
【0199】
前記粘着力(Y2)は、13000mN/25mm以上であることが好ましく。14000mN/25mm以上であることがより好ましく、例えば、15000mN/25mm以上、16000mN/25mm以上、及び17000mN/25mm以上のいずれかであってもよい。粘着力(Y2)が大きいほど、上述の支持シートの固定用治具からの剥離が抑制される効果が、より高くなる。
粘着力(Y2)の上限値は、特に限定されない。例えば、粘着力(Y2)が20000mN/25mm以下である粘着剤層は、より容易に形成できる。
粘着力(Y2)は、例えば、13000~20000mN/25mm、14000~20000mN/25mm、15000~20000mN/25mm、16000~20000mN/25mm、及び17000~20000mN/25mmのいずれかであってもよい。ただし、これらは、粘着力(Y2)の一例である。
【0200】
粘着力(Y2)は、例えば、以下に示す方法で測定できる。
はじめに、樹脂膜形成用複合シートから、幅が25mmの支持シートの試験片を切り出す。
次いで、この試験片(支持シート)を、その中の粘着剤層によって、厚さ1000μmのSUS板の一方の面に貼付することで、試験片付きSUS板を作製する。このときの貼付は、常温下で行うことが好ましく、貼付速度は290~310mm/min、貼付圧力は0.3MPaのラミネートローラーで行うことが好ましい。
次いで、得られた試験片付きSUS板を、130℃で2時間加熱した後、試験片付きSUS板を、放冷によりその温度が23℃になるまで冷却する。
次いで、23℃の環境下で、剥離速度を300mm/minとして、この冷却後のSUS板から試験片を剥離する。このとき、SUS板の試験片が貼付されていた面と、試験片のSUS板が貼付されていた面と、が180°の角度を為すように、試験片をその長さ方向へ剥離する、いわゆる180°剥離を行う。そして、この180°剥離のときの荷重(剥離力)を測定し、測定の長さは50mmとし、測定の最初5mmと最後5mmは有効値から除外する。その測定値の平均値を粘着力(Y2)(mN/25mm)として採用する。
本実施形態においては、このような剥離力の測定を、2枚以上の複数枚の試験片(支持シート)に対して行い、得られた複数の測定値の平均値を、粘着力(Y2)として採用してもよい。
【0201】
<粘着力(Y1)>
前記樹脂膜形成用複合シートの支持シートを、前記粘着剤層によってステンレス鋼(SUS)板の表面に貼付し、貼付後の前記粘着剤層を130℃で加熱し、加熱後の前記粘着剤層をエネルギー線硬化させ、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と、前記ステンレス鋼板と、の間の粘着力(Y1)(本明細書においては、単に「粘着力(Y1)」と称することがある)を測定したとき、前記粘着力(Y1)が300mN/25mm以上であることが好ましい。
【0202】
後述する樹脂膜付きワーク加工物の製造方法においては、ワークと樹脂膜形成用複合シートとが、前記粘着剤層によってリングフレーム等の固定用治具に固定される。そして、この状態で、ワークからワーク加工物が作製され、支持シート中の粘着剤層がエネルギー線硬化物とされて、硬化済み支持シートとなる。そして、粘着剤層のエネルギー線硬化後には、樹脂膜付きワーク加工物と、硬化済み支持シートと、の積層物が、固定用治具に固定される。
【0203】
後述する樹脂膜付きワーク加工物の製造方法において、前記粘着力(Y1)が300mN/25mm以上である樹脂膜形成用複合シート及び支持シートを用いることで、樹脂膜形成用複合シート上のワークが、固定用治具に、前記粘着剤層を介して固定された状態で加熱された後、仮に支持シート(粘着剤層)の固定用治具との接触部にエネルギー線が照射されてしまっても、硬化済み支持シートの固定用治具からの剥離が抑制される。
【0204】
前記粘着力(Y1)は、300mN/25mm以上であることが好ましく、400mN/25mm以上であることがより好ましく、例えば、500mN/25mm以上、600mN/25mm以上のいずれかであってもよい。粘着力(Y1)が大きいほど、上述の硬化済み支持シートの固定用治具からの剥離が抑制される効果が、より高くなる。
粘着力(Y1)の上限値は、特に限定されない。例えば、粘着力(Y1)が2000mN/25mm以下である粘着剤層は、最終的に固定用治具からより容易に剥がすことができる。
粘着力(Y1)は、例えば、300~2000mN/25mm、400~2000mN/25mm、500~2000mN/25mm、及び600~2000mN/25mmのいずれかであってもよい。ただし、これらは、粘着力(Y1)の一例である。
【0205】
粘着力(Y1)は、例えば、以下に示す方法で測定できる。
すなわち、粘着力(Y2)の測定時と同じ方法で、試験片付きSUS板を作製し、130℃で2時間加熱した後、放冷によりその温度が23℃になるまで冷却する。
次いで、照度230mW/cm、光量200mJ/cmの条件で、この冷却後の試験片付きSUS板中の粘着剤層に対して、基材越しにエネルギー線を照射することで、試験片中の粘着剤層を硬化させる。
次いで、常温下で、剥離速度を300mm/minとして、SUS板から試験片を剥離する。このとき、SUS板の試験片が貼付されていた面と、試験片のSUS板が貼付されていた面と、が180°の角度を為すように、試験片をその長さ方向へ剥離する、いわゆる180°剥離を行う。そして、この180°剥離のときの荷重(剥離力)を測定し、測定の長さは50mmとし、測定の最初5mmと最後5mmは有効値から除外する。その測定値の平均値を粘着力(Y1)(mN/25mm)として採用する。
本実施形態においては、このような剥離力の測定を、2枚以上の複数枚の試験片(支持シート)に対して行い、得られた複数の測定値の平均値を、粘着力(Y1)として採用してもよい。
【0206】
<粘着剤層の粘着力の調節方法>
上述の粘着剤層の各種粘着力、すなわち、加熱後の前記粘着剤層と、前記ステンレス鋼板と、の間の粘着力(Y2)、及び、粘着剤層のエネルギー線硬化物と、前記ステンレス鋼板と、の間の粘着力(Y1)は、粘着剤層の含有成分の種類と含有量を調節することで、調節できる。
【0207】
例えば、メタクリル基を有する官能基含有モノマー由来の構成単位を有するエネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)を、粘着剤層に含有させることで、粘着力(Y1)を高くできる。
例えば、前記置換基として酸素原子(-O-)を有する(メタ)アクリル酸エステルを、エネルギー線硬化性化合物(α)として、粘着剤層に含有させることで、粘着力(Y1)を高くできる。
例えば、前記アクリル重合体中の官能基(例えば、水酸基)に、前記不飽和基含有化合物中の前記官能基と結合可能な基(例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート中のイソシアネート基)を反応させて得られたエネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)を用いるときに、前記アクリル重合体由来の未反応の前記官能基が少ない(換言すると、架橋剤(β)と反応可能な前記官能基が少ない)エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)を粘着剤層に含有させることで、粘着力(Y1)を高くできる。
例えば、粘着剤層の架橋剤(β)の含有量を少なくすることで、粘着力(Y1)を高くできる。
例えば、粘着剤層がエネルギー線硬化性化合物(α)を含有することによって、エネルギー線硬化性化合物(α)を含有しない場合よりも、粘着力(Y2)を高くできるが、エネルギー線硬化性化合物(α)の種類を調節することで、粘着力(Y2)をさらに高くできる。
例えば、前記アクリル重合体中の官能基(例えば、水酸基)に、前記不飽和基含有化合物中の前記官能基と結合可能な基(例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート中のイソシアネート基)を反応させて得られたエネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)を用いるときに、前記アクリル重合体由来の未反応の前記官能基が少ない(換言すると、架橋剤(β)と反応可能な前記官能基が少ない)エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)を粘着剤層に含有させることで、粘着力(Y2)を高くできる。
例えば、粘着剤層の架橋剤(β)の含有量を少なくすることで、粘着力(Y2)を高くできる。
【0208】
○支持シートの製造方法
前記支持シートは、これを構成する上述の各層を対応する位置関係となるように積層し、必要に応じて、一部又はすべての層の形状を調節することで、製造できる。各層の形成方法は、先に説明したとおりである。
例えば、基材の一方の面上に上述の粘着剤組成物(I)を塗工し、必要に応じて乾燥させることで、支持シートを製造できる。
【0209】
剥離フィルムの一方の面上に粘着剤組成物(I)を塗工し、必要に応じて乾燥させることで、剥離フィルム上に粘着剤層を形成しておき、この粘着剤層の露出面を、基材の一方の面と貼り合わせることでも、支持シートを製造できる。このとき、粘着剤組成物(I)は、剥離フィルムの剥離処理面に塗工することが好ましい。
【0210】
このように粘着剤層を基材と貼り合わせるときに加える圧力(貼付圧力)は、0.2~0.6MPaであることが好ましい。前記圧力が前記下限値以上であることで、粘着剤層と基材との間の密着力を十分に大きくできる。
このような粘着剤層と基材との貼り合わせは、例えば、15℃以上の温度条件下で行うことが好ましく、常温下で行ってもよい。
【0211】
<樹脂膜形成用複合シートの製造方法>
前記樹脂膜形成用複合シートは、上述の各層を対応する位置関係となるように積層し、必要に応じて、一部又はすべての層の形状を調節することで、製造できる。各層の形成方法は、先に説明した通りである。
【0212】
基材上に積層済みの粘着剤層の上に、さらに樹脂膜形成用組成物を塗工して、熱硬化性樹脂膜形成フィルムを直接形成することが可能である。このように、基材上に積層済みのいずれかの層(以下、「第1層」と略記する)上に、新たな層(以下、「第2層」と略記する)を形成して、連続する2層の積層構造(換言すると、第1層及び第2層の積層構造)を形成する場合には、前記第1層上に、前記第2層を形成するための組成物を塗工して、必要に応じて乾燥させる方法が適用できる。
ただし、第2層は、これを形成するための組成物を用いて、剥離フィルム上にあらかじめ形成しておき、この形成済みの第2層の前記剥離フィルムと接触している側とは反対側の露出面を、第1層の露出面と貼り合わせることで、連続する2層の積層構造を形成することが好ましい。このとき、前記組成物は、剥離フィルムの剥離処理面に塗工することが好ましい。剥離フィルムは、積層構造の形成後、必要に応じて取り除けばよい。
【0213】
このように、樹脂膜形成用複合シートを構成する基材以外の層はいずれも、剥離フィルム上にあらかじめ形成しておき、目的とする層の表面に貼り合わせる方法で積層できるため、必要に応じてこのような工程を採用する層を適宜選択して、樹脂膜形成用複合シートを製造すればよい。
【0214】
なお、樹脂膜形成用複合シートは、通常、その支持シートとは反対側の最表層(例えば、熱硬化性樹脂膜形成フィルム)の表面に剥離フィルムが貼り合わされた状態で保管される。したがって、この剥離フィルム(好ましくはその剥離処理面)上に、樹脂膜形成用組成物を塗工し、必要に応じて乾燥させることで、剥離フィルム上に熱硬化性樹脂膜形成フィルムを形成しておき、この熱硬化性樹脂膜形成フィルムの剥離フィルムと接触している側とは反対側の露出面上に残りの各層を上述のいずれかの方法で積層し、剥離フィルムを取り除かずに貼り合わせた状態のままとすることで、剥離フィルム付きの樹脂膜形成用複合シートが得られる。
【0215】
前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムが保護膜形成フィルムであるとき、前記支持シート及び前記保護膜形成フィルムを備える前記保護膜形成用複合シートが得られる。
【0216】
前記樹脂膜形成用複合シートは、枚葉状であってもよく、ロール状であることが好ましい。
【0217】
◇キット
本発明の実施形態に係るキットは、第1剥離フィルム及び熱硬化性樹脂膜形成フィルムが積層されて構成された第一積層体と、基材及び前記基材の一方の面上に設けられた粘着剤層を有し、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムの貼着対象となるワーク及び前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを支持するために用いられる支持シートと、を備えている。
前記粘着剤層が、エネルギー線硬化性である。
前記支持シート中の粘着剤層と、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムと、を貼着して第二積層体を形成し、前記第二積層体中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを130℃で加熱して樹脂膜を形成し、加熱後の前記粘着剤層と、前記樹脂膜と、の間の粘着力(Z2)を測定したとき、前記粘着力(Z2)が8000mN/25mm以上である。
前記支持シート中の粘着剤層と、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムと、を貼着して第二積層体を形成し、前記第二積層体中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを130℃で加熱して樹脂膜を形成し、加熱後の前記粘着剤層をエネルギー線硬化させ、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と、前記樹脂膜と、の間の粘着力(Z1)を測定したとき、前記粘着力(Z1)が400mN/25mm以下である。
【0218】
本実施形態に係るキットは、例えば、後述するように、樹脂膜付きワーク加工物の製造に用いることができる。
【0219】
本実施形態に係るキットにおいて、前記粘着力(Z2)が8000mN/25mm以上であることで、ワークが貼付された状態の支持シートを高温で加熱した後であっても、基材及び前記基材の一方の面上に設けられたエネルギー線硬化性の粘着剤層を有する支持シート上で樹脂膜付きワークを加工することにより、ワーク加工物を作製する際に、粘着剤層から樹脂膜付きワーク加工物が剥がれてしまうことを抑制できる。また、前記粘着力(Z1)が400mN/25mm以下であることで、エネルギー線硬化した粘着剤層から樹脂膜付きワーク加工物を正常にピックアップできる。
【0220】
本実施形態のキットにおける前記粘着力(Z2)及び前記粘着力(Z1)の測定において、第二積層体が、基材、粘着剤層及び熱硬化性樹脂膜形成フィルムがこの順に積層されている構成は、前記樹脂膜形成用複合シートの構成と同じである。
【0221】
本実施形態のキットにける前記粘着力(Z2)の測定は、前記樹脂膜形成用複合シートにける前記粘着力(Z2)の測定において、前記樹脂膜形成用複合シートを第二積層体に変更して、前記樹脂膜形成用複合シートにおける前記粘着力(Z2)と同様に測定できる。より具体的には、実施例のキットの評価における粘着力(Z2)の測定において説明する。本実施形態のキットにおける前記粘着力(Z1)の測定も、前記樹脂膜形成用複合シートにおける前記粘着力(Z1)の測定と同様である。より具体的には、実施例のキットの評価における粘着力(Z1)の測定において説明する。
【0222】
本実施形態のキット3の例を、以下、図面を参照しながら説明する。
図2は、本実施形態のキット3の一例を模式的に示す断面図である。
本実施形態のキット3は、第1剥離フィルム151、熱硬化性樹脂膜形成フィルム13及び第2剥離フィルム152がこの順に積層された第一積層体5と、熱硬化性樹脂膜形成フィルム13の貼着対象となるワーク及び熱硬化性樹脂膜形成フィルム13を支持するために用いられる支持シート10と、を備えている。
【0223】
ここに示す熱硬化性樹脂膜形成フィルム13は、その一方の面(本明細書においては、「第1面」と称することがある)13a上に第1剥離フィルム151を備え、前記第1面13aとは反対側の他方の面(本明細書においては、「第2面」と称することがある)13b上に第2剥離フィルム152を備えている。
【0224】
前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムが保護膜形成フィルムであるとき、前記支持シート10及び前記保護膜形成フィルムを備えるキット3を用いることにより、後述する樹脂膜付きワーク加工物の製造方法により、ワーク加工物と、前記ワーク加工物の裏面に設けられた保護膜と、を備える保護膜付きワーク加工物を製造できる。
【0225】
前記第一積層体は枚葉状であってもよい。また、このような熱硬化性樹脂膜形成フィルム13は、例えば、ロール状として保存するのに好適である。すなわち、前記第一積層体はロール状であることが好ましい。
【0226】
熱硬化性樹脂膜形成フィルム13は、上述の樹脂膜形成用組成物を用いて形成できる。
【0227】
第1剥離フィルム151及び第2剥離フィルム152は、いずれも公知のものでよい。
第1剥離フィルム151及び第2剥離フィルム152は、互いに同じものであってもよいし、例えば、熱硬化性樹脂膜形成フィルム13から剥離させるときに必要な剥離力が互いに異なるなど、互いに異なるものであってもよい。
【0228】
図2に示す熱硬化性樹脂膜形成フィルム13は、第1剥離フィルム151及び第2剥離フィルム152のいずれか一方が取り除かれ、生じた露出面が、ワーク(図示略)の裏面への貼付面となる。そして、第1剥離フィルム151及び第2剥離フィルム152の残りの他方が取り除かれ、生じた露出面が、支持シートの貼付面となる。
【0229】
図2においては、剥離フィルムが熱硬化性樹脂膜形成フィルム13の両面(第1面13a、第2面13b)に設けられている例を示しているが、剥離フィルムは、熱硬化性樹脂膜形成フィルム13のいずれか一方の面のみ、すなわち、第1面13aのみ、又は第2面13bのみに、設けられていてもよい(すなわち、第1剥離フィルムのみ設けられてもよい)。
【0230】
図2に示すキット3において、支持シート10は、基材11及び基材11の一方の面11a上に設けられた粘着剤層12を有する。粘着剤層12は、エネルギー線硬化性である。
【0231】
支持シート10は枚葉状であってもよく、ロール状であることが好ましい。
【0232】
図2に示すキット3において、支持シート10の構成は、上述の実施形態に係る樹脂膜形成用複合シートにおける支持シート10の構成と同様である。キット3における支持シート10において、基材11及び粘着剤層12の好ましい特性も、上述の実施形態に係る樹脂膜形成用複合シートにおける支持シート10の基材11及び粘着剤層12の好ましい特性と同様である。
【0233】
例えば、本実施形態に係るキット3において、前記支持シートを、前記粘着剤層によってステンレス鋼(SUS)板の表面に貼付し、貼付後の前記粘着剤層を130℃で加熱し、加熱後の前記粘着剤層と、前記ステンレス鋼板と、の間の粘着力(Y2)を測定したとき、前記粘着力(Y2)が13000mN/25mm以上であることが好ましい。このような支持シートを用いることで、後述する樹脂膜付きワーク加工物の製造方法において、支持シート及び粘着剤層上のワークがリングフレーム等の固定用治具に、前記粘着剤層を介して固定された状態で加熱されても、支持シートの固定用治具からの剥離が抑制される。
【0234】
また、本実施形態に係るキット3において、前記支持シートを、前記粘着剤層によってステンレス鋼(SUS)板の表面に貼付し、貼付後の前記粘着剤層を130℃で加熱し、加熱後の前記粘着剤層をエネルギー線硬化させ、前記粘着剤層のエネルギー線硬化物と、前記ステンレス鋼板と、の間の粘着力(Y1)を測定したとき、前記粘着力(Y1)が300mN/25mm以上であることが好ましい。このような支持シートを用いることで、後述する樹脂膜付きワーク加工物の製造方法において、前記支持シート及び前記熱硬化性樹脂膜形成フィルム上のワークがリングフレーム等の固定用治具に、前記粘着剤層を介して固定された状態で加熱された後、仮に支持シート(粘着剤層)の固定用治具との接触部にエネルギー線が照射されてしまっても、硬化済み支持シートの固定用治具からの剥離が抑制される。
【0235】
◇樹脂膜付きワーク加工物の製造方法
上述の本発明の実施形態に係る樹脂膜形成用複合シート及びキットは、樹脂膜付きワーク加工物の製造に用いることができる。
【0236】
<<製造方法1>>
本発明の第一実施形態に係る樹脂膜付きワーク加工物の製造方法は、ワークの裏面に、前記樹脂膜形成用複合シート中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを貼付することにより、前記基材、前記粘着剤層、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルム及び前記ワークがこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層複合シートを作製する工程と、
前記第1積層複合シートの周縁部を固定用治具に貼付した状態で、前記第1積層複合シートを加熱して、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを硬化させ前記樹脂膜を形成することにより、前記基材、前記粘着剤層、前記樹脂膜及び前記ワークがこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第2積層複合シートを作製する工程と、
前記第2積層複合シート中の前記ワークを分割し、前記樹脂膜を切断することにより、前記基材及び前記粘着剤層上に、複数個の樹脂膜付きワーク加工物が固定されている第3積層複合シートを作製する工程と、
前記第3積層複合シート中の粘着剤層に対してエネルギー線を照射して、加熱後の前記粘着剤層をエネルギー線硬化させ、前記基材及び前記粘着剤層のエネルギー線硬化物上に、複数個の樹脂膜付きワーク加工物が固定されている第4積層複合シートを作製する工程と、
前記第4積層複合シート中の前記樹脂膜付きワーク加工物を前記粘着剤層のエネルギー線硬化物から引き離してピックアップするピックアップ工程と、を有する。
以下、第一実施形態に係る製造方法を、本明細書においては、「製造方法1」と称することがある。
【0237】
図3A図3Fは、樹脂膜付きワーク加工物の製造方法の一例として、樹脂膜付き半導体チップの製造方法を模式的に説明するための断面図である。ここでは、図1に示す樹脂膜形成用複合シート1を用いた場合を例に挙げて、製造方法1について説明する。
【0238】
製造方法1の前記第1積層複合シートを作製する工程においては、図1に示す樹脂膜形成用複合シート1から剥離フィルム15を取り除いてから、図3Aに示すように、半導体ウエハ9の裏面9bに、樹脂膜形成用複合シート1中の熱硬化性樹脂膜形成フィルム13を貼付することにより、支持シート10上に、熱硬化性樹脂膜形成フィルム13及び半導体ウエハ9がこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層複合シート501を作製する。半導体ウエハ9の裏面9bには、樹脂膜形成用複合シート1中の熱硬化性樹脂膜形成フィルム13の第1面13aが貼付されている。
【0239】
図3Aにおいては、半導体ウエハ9において、回路面9a上のバンプ等の図示を省略しており、回路面9a上に貼付されていたバックグラインドテープが剥離された後の、第1積層複合シート501が示されている。
【0240】
樹脂膜形成用複合シート1中の熱硬化性樹脂膜形成フィルム13の半導体ウエハ9への貼付は、公知の方法で行うことができる。例えば、樹脂膜形成用複合シート1中の熱硬化性樹脂膜形成フィルム13を半導体ウエハ9への貼付しながら、支持シート10中の粘着剤層12のうち、その幅方向における熱硬化性樹脂膜形成フィルム13を取り囲む領域を、固定用治具としてのリングフレーム18に貼付してもよい。支持シート10中の粘着剤層12を加熱しながらリングフレーム18に貼付してもよく、熱硬化性樹脂膜形成フィルム13を加熱しながら、半導体ウエハ9に貼付してもよい。熱硬化性樹脂膜形成フィルム13の、半導体ウエハ9への貼付温度(加熱温度)は、50~75℃であることが好ましい。
【0241】
次いで、製造方法1の前記第2積層複合シートを作製する工程においては、第1積層複合シート501の周縁部の粘着剤層12を、リングフレーム18に貼付した状態で、第1積層複合シート501を加熱する(図3B)。これにより、熱硬化性樹脂膜形成フィルム13を硬化させて樹脂膜13’を形成することにより、図3Cに示すように、支持シート10(すなわち、基材11及び粘着剤層12)、樹脂膜13’及び半導体ウエハ9がこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第2積層複合シート502を作製する。
【0242】
この場合の第1積層複合シート501の加熱によって、例えば、半導体ウエハ9の表面(例えば、回路面9a)に付着している低分子量の樹脂成分等の異物を、揮発によって除去できる。
【0243】
第1積層複合シート501の加熱時の温度(加熱温度)は、100~135℃であることが好ましい。加熱温度が前記下限値以上であることで、加熱による効果が十分得られる。加熱温度が前記上限値以下であることで、過剰な加熱が避けられ、例えば、支持シート付き半導体ウエハ9の劣化が抑制される。
【0244】
本実施形態で用いる樹脂膜形成用複合シート1における支持シート10において、前記粘着力(Y2)が13000mN/25mm以上である場合には、前記第2積層複合シートを作製する工程において、第1積層複合シート501が固定用治具としてのリングフレーム18に固定された状態で加熱されても、第1積層複合シート501のリングフレーム18からの剥離が抑制される。
【0245】
図3に示された第2積層複合シート502において、符号13a’は、樹脂膜13’のうち、熱硬化性樹脂膜形成フィルム13の第1面13aであった面(本明細書においては、「第1面」と称することがある)を示している。符号13b’は、樹脂膜13’のうち、熱硬化性樹脂膜形成フィルム13の第2面13bであった面(本明細書においては、「第2面」と称することがある)を示している。
【0246】
熱硬化性樹脂膜形成フィルム13が保護膜形成フィルムである場合、図3Aに示す熱硬化性樹脂膜形成フィルム13に対して、支持シート10越しに(支持シート10を透過させて)レーザー照射してレーザーマーキングしてもよく、又は、図3Cに示す樹脂膜13’に対して、支持シート10越しに(支持シート10を透過させて)レーザー照射してレーザーマーキングしてもよい。
【0247】
次いで、製造方法1の前記第3積層複合シートを作製する工程においては、第2積層複合シート502を冷却し、その後、図3Dに示すように、支持シート10上で、第2積層複合シート502中の半導体ウエハ9を分割し、樹脂膜13’を切断する。半導体ウエハ9は、分割により個片化され、複数個の半導体チップ90となる。
【0248】
半導体ウエハ9の分割と、樹脂膜13’の切断は、公知の方法で行えばよい。例えば、ブレードダイシング、レーザー照射によるレーザーダイシング、又は研磨剤を含む水の吹き付けによるウォーターダイシング等の各ダイシングによって、半導体ウエハ9の分割と、樹脂膜13’の切断を、連続的に行うことができる。
また、半導体ウエハ9として、ステルスダイシング(登録商標)によって改質層を形成し、かつ分割を行っていないものを用い、半導体ウエハ9を、その回路面9a又は裏面9bに対して平行な方向においてエキスパンドすることでも、半導体ウエハ9を分割し、樹脂膜13’を切断できる。
樹脂膜13’は、その切断方法によらず、半導体チップ90の外周に沿って切断される。
【0249】
このように、半導体ウエハ9を分割し、樹脂膜13’を切断することにより、半導体チップ90と、半導体チップ90の裏面90bに設けられた切断後の樹脂膜(本明細書においては、単に「樹脂膜」と称することがある)130’と、を備える、複数個の樹脂膜付き半導体チップ901が得られる。符号130b’は、切断後の樹脂膜130’のうち、樹脂膜13’の第2面13b’であった面(本明細書においては、「第2面」と称することがある)を示している。
【0250】
製造方法1の前記第3積層複合シートを作製する工程においては、以上により、これら複数個の樹脂膜付き半導体チップ901が支持シート10上で固定されている第3積層複合シート503を作製する。
【0251】
本発明の実施形態に係る製造方法1は、上述の実施形態の樹脂膜形成用複合シート1を用いており、前記粘着力(Z2)は8000mN/25mm以上であるので、エネルギー線硬化性の粘着剤層12を有する支持シート10を高温で加熱した後であるにも拘わらず、前記第3積層複合シートを作製する工程において、粘着剤層12から樹脂膜付き半導体チップ90が剥がれてしまうことを抑制できる。
【0252】
次いで、製造方法1の前記第4積層複合シートを作製する工程においては、図3Eに示すように、第3積層複合シート503中の粘着剤層12に対して、基材11越しに、エネルギー線を照射して、加熱後の前記粘着剤層をエネルギー線硬化させ、基材11及び粘着剤層12のエネルギー線硬化物12’上に、複数個の樹脂膜付き半導体チップ901が固定されている第4積層複合シート504を作製する。
支持シート10は、粘着剤層12がエネルギー線硬化されて、エネルギー線硬化物12’となることによって、硬化済み支持シート10’となる。
【0253】
粘着剤層12のエネルギー線硬化時における(粘着剤層12にエネルギー線を照射するときの)、エネルギー線の照度は、60~320mW/cmであることが好ましく、エネルギー線の光量は、100~1000mJ/cmであることが好ましい。
エネルギー線は、基材11越しに(基材11を介して)、支持シート10の外部から、粘着剤層12に照射することが好ましい。
【0254】
本発明の実施形態に係る製造方法1は、前記粘着力(Y1)が300mN/25mm以上である樹脂膜形成用複合シート及び支持シートを用いることで、樹脂膜形成用複合シートが、リングフレーム等の固定用治具に固定された状態で加熱され、その後に、支持シート(粘着剤層)のリングフレーム18との接触部にエネルギー線が照射されてしまっても、第4積層複合シート504の、リングフレーム18からの剥離が抑制される。
【0255】
次いで、製造方法1の前記ピックアップ工程においては、図3Fに示すように、第4積層複合シート504中の樹脂膜付き半導体チップ901を硬化済み支持シート10’から引き離すことによりピックアップする。
【0256】
本発明の実施形態に係る製造方法1は、上述の実施形態の樹脂膜形成用複合シート1を用いており、前記粘着力(Z1)が400mN/25mm以下であるので、粘着剤層12のエネルギー線硬化物12’から樹脂膜付き半導体チップ901を正常にピックアップできる。
【0257】
前記ピックアップ工程においては、樹脂膜付き半導体チップ901中の樹脂膜130’の第2面130b’と、硬化済み支持シート10’中の粘着剤層のエネルギー線硬化物12’の第1面12a’(すなわち、硬化済み支持シート10’の第1面10a’)と、の間で剥離が生じる。
【0258】
ここでは、引き離し手段7を用いて、樹脂膜付き半導体チップ901を矢印P方向に引き離す場合を示している。なお、ここでは、引き離し手段7の断面表示を省略している。
【0259】
樹脂膜付き半導体チップ901のピックアップは、公知の方法で行うことができる。例えば、樹脂膜付き半導体チップ901を硬化済み支持シート10’(粘着剤層のエネルギー線硬化物12’)から引き離すための引き離し手段7としては、真空コレット等が挙げられる。
【0260】
この場合には、粘着剤層のエネルギー線硬化物12’と樹脂膜130’との間の粘着力が、粘着剤層のエネルギー線硬化物12’と基材11との間の粘着力よりも小さいため、樹脂膜付き半導体チップ901を容易にピックアップできる。
【0261】
前記ピックアップ工程においては、このような樹脂膜付き半導体チップ901のピックアップを、目的とするすべての樹脂膜付き半導体チップ901に対して行う。
【0262】
製造方法1においては、前記ピックアップ工程までを行うことにより、目的とする樹脂膜付き半導体チップ901が得られる。
【0263】
ここまでの製造方法1の説明は、図1に示す支持シート10を備える樹脂膜形成用複合シート1を用いた場合の製造方法1について説明したが、製造方法1においては、樹脂膜形成用複合シート1以外の本実施形態の樹脂膜形成用複合シートを用いてもよい。
【0264】
<<製造方法2>>
本発明の第二実施形態に係る樹脂膜付きワーク加工物の製造方法は、ワークの裏面に、前記キット中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを貼付して、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルム及びワークが、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層フィルムを作製し、さらに、前記第1積層フィルム中の前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムの露出面に前記キット中の支持シートを貼付することにより、前記基材、前記粘着剤層、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルム及び前記ワークがこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層複合シートを作製する工程と、
前記第1積層複合シートの周縁部を固定用治具に貼付した状態で、前記第1積層複合シートを加熱して、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムを硬化させ前記樹脂膜を形成することにより、前記基材、前記粘着剤層、前記樹脂膜及び前記ワークがこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第2積層複合シートを作製する工程と、
前記第2積層複合シート中の前記ワークを分割し、前記樹脂膜を切断することにより、前記基材及び前記粘着剤層上に、複数個の樹脂膜付きワーク加工物が固定されている第3積層複合シートを作製する工程と、
前記第3積層複合シート中の粘着剤層に対してエネルギー線を照射して、加熱後の前記粘着剤層をエネルギー線硬化させ、前記基材及び前記粘着剤層のエネルギー線硬化物上に、複数個の樹脂膜付きワーク加工物が固定されている第4積層複合シートを作製する工程と、
前記第4積層複合シート中の前記樹脂膜付きワーク加工物を前記粘着剤層のエネルギー線硬化物から引き離してピックアップするピックアップ工程と、を有する。
以下、第二実施形態に係る製造方法を、本明細書においては、「製造方法2」と称することがある。
【0265】
図4A図4C、及び、図3A図3Fは、樹脂膜付きワーク加工物の製造方法(製造方法2)の一例として、樹脂膜付き半導体チップの製造方法を模式的に説明するための断面図である。
ここでは、図2に示すキット3を用いた場合を例に挙げて、製造方法2について説明する。
【0266】
製造方法2の前記第1積層複合シートを作製する工程においては、初めに、図2に示すキット3の第一積層体5に、軽面剥離フィルムとなる第1剥離フィルム151の側から円形の抜き刃を当てて、第1剥離フィルム151を剥離させて、熱硬化性樹脂膜形成フィルム13の円形の外側を第1剥離フィルム151と共に取り除いて、得られた円形の熱硬化性樹脂膜形成フィルム13の第1面13aを露出させる(図4A)。
次に、バックグラインドテープ17を備えた半導体ウエハ9の裏面9bに、得られた円形の熱硬化性樹脂膜形成フィルム13の第1面13aを貼付して、熱硬化性樹脂膜形成フィルム13及び半導体ウエハ9が、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層フィルム401を作製する(図4B)。
【0267】
次いで、第1積層フィルム401から、第2剥離フィルム152を取り除く(図4C)。これにより、熱硬化性樹脂膜形成フィルム13の第2面13bを露出させる。
【0268】
ここでは、図2に示すキット3の第一積層体5から第1剥離フィルム151を取り除いて、熱硬化性樹脂膜形成フィルム13の第1面13aを半導体ウエハ9の裏面9bに貼付した場合について示しているが、図2に示すキット3の熱硬化性樹脂膜形成フィルム13から第2剥離フィルム152を取り除いて、熱硬化性樹脂膜形成フィルム13の第2面13bを半導体ウエハ9の裏面9bに貼付してもよい。
【0269】
半導体ウエハ9への熱硬化性樹脂膜形成フィルム13の貼付は、公知の方法で行うことができる。例えば、熱硬化性樹脂膜形成フィルム13は、加熱しながら半導体ウエハ9へ貼付してもよい。その場合、半導体ウエハ9への貼付温度(加熱温度)は、50~75℃であることが好ましい。
【0270】
次いで、第1積層フィルム401中の熱硬化性樹脂膜形成フィルム13にキット3中の支持シート10の粘着剤層12を貼付することにより、支持シート10上に、熱硬化性樹脂膜形成フィルム13及び半導体ウエハ9がこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層複合シート501を作製する(図3A)。
【0271】
熱硬化性樹脂膜形成フィルム13の第2面13bに、図3Aに示すように、支持シート10の一方の面10aを貼付する。
ここに示す支持シート10は、基材11と、基材11の一方の面11a上に設けられた粘着剤層12と、を備えて構成されており、支持シート10中の粘着剤層12が熱硬化性樹脂膜形成フィルム13に貼付されている。粘着剤層12の熱硬化性樹脂膜形成フィルム13側の第1面12aは、支持シート10の第1面10aと同じである。
【0272】
製造方法2において、第1積層複合シート501は、製造方法1における第1積層複合シート501と同じである(図3A)。
【0273】
製造方法2において、前記第2積層複合シートを作製する工程は、製造方法1における第2積層複合シートを作製する工程の場合と同じ方法で行うことができる(図3B及び図3C)。
【0274】
製造方法2において、前記第3積層複合シートを作製する工程は、製造方法1における第3積層複合シートを作製する工程の場合と同じ方法で行うことができる(図3D)。
【0275】
本発明の実施形態に係る製造方法2は、上述の実施形態のキット3を用いており、前記粘着力(Z2)は8000mN/25mm以上であるので、エネルギー線硬化性の粘着剤層12を有する支持シート10を高温で加熱した後であるにも拘わらず、前記第3積層複合シートを作製する工程において、粘着剤層12から樹脂膜付き半導体チップ90が剥がれてしまうことを抑制できる。
【0276】
製造方法2において、前記第4積層複合シートを作製する工程は、製造方法1における第4積層複合シートを作製する工程の場合と同じ方法で行うことができる(図3E)。
【0277】
本発明の実施形態に係る製造方法2は、前記粘着力(Y1)が300mN/25mm以上である支持シートを用いることで、第1積層複合シート501が、リングフレーム等の固定用治具に固定された状態で加熱され、その後に、支持シート10(粘着剤層12)のリングフレーム18との接触部にエネルギー線が照射されてしまっても、第4積層複合シート504の、リングフレーム18からの剥離が抑制される。
【0278】
製造方法2において、前記ピックアップ工程は、製造方法1の前記ピックアップ工程と同じ方法で行うことができる(図3F)。
【0279】
本発明の実施形態に係る製造方法2は、上述の実施形態のキット3及び支持シート10を用いており、前記粘着力(Z1)が400mN/25mm以下であるので、粘着剤層12のエネルギー線硬化物12’から樹脂膜付き半導体チップ901を正常にピックアップできる。
【0280】
◇基板装置の製造方法(樹脂膜付きワーク加工物の使用方法)
上述の製造方法により樹脂膜付きワーク加工物を得た後は、従来の樹脂膜付きワーク加工物に代えて、この樹脂膜付きワーク加工物を用いる点を除けば、従来の基板装置の製造方法と同じ方法で、基板装置を製造できる。
【0281】
例えば、前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムが保護膜形成フィルムであって、樹脂膜付きワーク加工物が保護膜付き半導体チップである場合、基板装置の製造方法の例として、前記保護膜形成フィルムを用いて得られた保護膜付き半導体チップを硬化済み支持シートからピックアップし、保護膜付き半導体チップ上の突状電極を、回路基板上の接続パッドに接触させることにより、前記突状電極と、前記回路基板上の接続パッドと、を電気的に接続するフリップチップ接続工程を有する製造方法が挙げられる。
【0282】
前記熱硬化性樹脂膜形成フィルムがフィルム状接着剤であって、樹脂膜付きワーク加工物がフィルム状接着剤付き半導体チップである場合、基板装置の製造方法の例として、前記フィルム状接着剤を用いて得られたフィルム状接着剤付き半導体チップを、硬化済み支持シートからピックアップし、前記フィルム状接着剤を介して回路基板上に接着させる接続工程を有する製造方法が挙げられる。
【実施例0283】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0284】
<樹脂の製造原料>
本実施例及び比較例において略記している、樹脂の製造原料の正式名称を、以下に示す。
2EHA:アクリル酸2-エチルへキシル
2EHMA:メタクリル酸2-エチルへキシル
HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル
HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル
MOI:2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート
【0285】
<粘着剤組成物(I)の製造原料>
本実施例及び比較例において、粘着剤組成物(I)の製造時に用いた製造原料を、以下に示す。
4種の架橋剤(β)の23℃での粘度は、ビスコテック社製デジタル回転式粘度計「ビスコリード・アドバンス」を用いて測定した。
[エネルギー線硬化性化合物(α)]
(α)-1:2-(2-フェノキシエトキシ)エチルアクリレート、新中村化学工業社製「AMP-20GY」、23℃での粘度18mPa・s、分子量236.1
(α)-2:日本化薬社製「R-684」、23℃での粘度180mPa・s、分子量304.4)
(α)-3:(2-(1-(アクリロイルオキシ)-2-メチルプロパン-2-イル)-5-エチル-1,3-ジオキサン-5-イル)メチルアクリレート、新中村化学工業社製「A-DOG」、23℃での粘度310mPa・s、分子量326.4)
【0286】
[架橋剤(β)]
(β)-1:1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートの トリメチロールプロパンアダクト体(東ソー社製「コロネートHL」)
[光重合開始剤(γ)]
(γ)-1:2-ヒドロキシ-1-(4-(4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン(IGM Resins社製「オムニラッド(登録商標) 127」)
【0287】
【化1】
【0288】
なお、エネルギー線硬化性化合物(α)-1及び(α)-3は、いずれも、置換基を有するアクリル酸エステルである。エネルギー線硬化性化合物(α)-1において、アルコールに由来する炭化水素基が有する置換基の数は2であり、前記炭化水素基の炭素数は12である。エネルギー線硬化性化合物(α)-3において、アルコールに由来する炭化水素基が有する置換基の数は2であり、前記炭化水素基の炭素数は13である。
一方、エネルギー線硬化性化合物(α)-2は、置換基を有しないアクリル酸エステルである。エネルギー線硬化性化合物(α)-2において、アルコールに由来する炭化水素基の炭素数は12である。
【0289】
[実施例1]
<<キットの製造>>
次の手順で、基材及び前記基材の一方の面上に設けられた粘着剤層を有する支持シートと、第1剥離フィルム、熱硬化性樹脂膜形成フィルムである保護膜形成フィルム及び第2剥離フィルムがこの順に積層された第一積層体と、を備えるキットを作製した。
【0290】
<エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)の製造>
アクリル重合体(1)にMOIを加え、空気気流中において50℃で48時間付加反応を行うことで、エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)-1を得た。前記アクリル重合体(1)は、2EHA(35質量部)と、2EHMA(45質量部)と、HEMA(20質量部)と、の共重合体である。MOIの使用量は、前記アクリル重合体(1)中のHEMA由来の水酸基の総モル数に対して、MOI中のイソシアネート基の総モル数が、0.95倍となる量とした。得られたエネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)-1の重量平均分子量は440000であり、ガラス転移温度は-26℃である。
【0291】
<粘着剤組成物(I)の製造>
エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)-1(100質量部)、エネルギー線硬化性化合物(α)-1(15質量部)、架橋剤(β)-1(1.17質量部)、及び光重合開始剤(γ)-1(3質量部)を含有し、さらに溶媒としてメチルエチルケトンを含有しており、溶媒以外のすべての成分の合計濃度が25質量%である、エネルギー線硬化性の粘着剤組成物(I)-1を調製した。なお、ここに示すメチルエチルケトン以外の成分の含有量はすべて、溶媒を含まない目的物の含有量である。
【0292】
<粘着剤層の形成>
ポリエチレンテレフタレート製フィルムの片面がシリコーン処理により剥離処理された剥離フィルムを用い、その前記剥離処理面に、上記で得られた粘着剤組成物(I)-1を塗工し、100℃で2分加熱乾燥させることにより、厚さ15μmのエネルギー線硬化性の粘着剤層を形成した。
【0293】
<支持シートの製造>
次いで、常温下で、この粘着剤層の露出面に、基材としてポリプロピレン製フィルム(ダイヤプラスフィルム社製、厚さ80μm)を、貼付速度を5m/min、0.4MPaの圧力を加えて貼り合わせた。このポリプロピレン製フィルムの一方の面は、その表面粗さ(Ra)が0.90μmのマット面であり、他方の面は、その表面粗さ(Ra)が0.12μmの微マット面であって、このポリプロピレン製フィルムの前記マット面に、前記粘着剤層を貼り合わせた。
以上により、目的とする支持シートを得た。
【0294】
<保護膜形成用組成物の製造>
次の各成分を下記の配合成分(固形分換算)で混合し、固形分濃度が61質量%となるようにメチルエチルケトンで希釈して、保護膜形成用組成物を調製した。
(A)重合体成分:n-ブチルアクリレート10質量部、メチルアクリレート70質量部、グリシジルメタクリレート5質量部、及び2-ヒドロキシエチルアクリレート15質量部を共重合してなるアクリル重合体(重量平均分子量:40万、ガラス転移温度:-1℃)
(B-1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製「jER828」、23℃・1atmで液状、分子量370、軟化点93℃、エポキシ当量183~194g/eq)
(B-2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製「jER1055」、23℃・1atmで固形、分子量1600、エポキシ当量800~900g/eq)
(B-3)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(DIC社製「エピクロンHP-7200HH」、23℃・1atmで固形、軟化点88~98℃、エポキシ当量255~260g/eq)
【0295】
(C-1)熱活性潜在性エポキシ樹脂硬化剤(ジシアンジアミド、ADEKA社製「アデカハードナーEH-3636AS」、活性水素量21g/eq)
(D)硬化促進剤:2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業社製「キュアゾール2PHZ」)
(E-1)シリカフィラー(アドマテックス社製「SC2050MA」、平均粒子径0.5μm)
(F)シランカップリング剤(信越化学工業社製「KBM403」)
【0296】
(G-1)着色剤(青色顔料):フタロシアニン系青色色素(Pigment Blue 15:3)を、色素成分のスチレン-アクリル樹脂に対する質量比が1/3となる量だけ用いて顔料化したもの。
(G-2)着色剤(黄色顔料):イソインドリノン系黄色色素(Pigment Yellow 139)を、色素成分のスチレン-アクリル樹脂に対する質量比が1/3となる量だけ用いて顔料化したもの。
(G-3)着色剤(赤色顔料):ジケトピロロピロール系赤色色素(PigmentRed264)を、色素成分のスチレン-アクリル樹脂に対する質量比が1/3となる量だけ用いて顔料化したもの。
【0297】
配合成分(保護膜形成用組成物の固形分換算)
(A):150質量部
(B-1):60質量部
(B-2):10質量部
(B-3):30質量部
(C-1):2質量部
(D):2質量部
(E-1):320質量部
(F):2質量部
(G-1):5.7質量部
(G-2):2.6質量部
(G-3):6.5質量部
合計:590.8質量部
【0298】
<第一積層体の製造>
ポリエチレンテレフタレート製フィルムの片面がシリコーン処理により剥離処理された剥離フィルム(第2剥離フィルム、リンテック社製「SP-PET381031」、厚さ38μm)を用い、その前記剥離処理面に、上記で得られた保護膜形成用組成物を塗工し、100℃で2分乾燥させることにより、厚さ25μmの熱硬化性保護膜形成フィルムを製造した。
【0299】
さらに、得られた熱硬化性保護膜形成フィルムの、第2剥離フィルムを備えていない側の露出面に、剥離フィルム(第1剥離フィルム、リンテック社製「SP-PET381031」、厚さ38μm)の剥離処理面を貼り合わせることにより、熱硬化性保護膜形成フィルムと、前記熱硬化性保護膜形成フィルムの一方の面に設けられた第1剥離フィルムと、前記熱硬化性保護膜形成フィルムの他方の面に設けられた第2剥離フィルムと、を備えて構成された第一積層体を得た。
【0300】
<<キットの評価>>
<加熱後の粘着剤層と樹脂膜との間の粘着力(Z2)の測定>
70℃の貼付温度条件(ラミネートローラー温度70℃、シリコンミラーウエハ温度70℃)で、貼付速度を300mm/min、貼付圧力を0.3MPaとして、上記で得られた第一積層体から第1剥離フィルムを取り除きながら、熱硬化性保護膜形成フィルムの露出面によって、シリコンミラーウエハ(厚さ650nm)のミラー面の全面に貼付し、その後、残りの第2剥離フィルムを取り除いて、熱硬化性保護膜形成フィルム付きシリコンミラーウエハ(すなわち、第1積層フィルム)を得た。
また、上記で得られた支持シートから、幅が25mmの試験片を切り出した。
【0301】
23℃の貼付温度条件(ラミネートローラー温度23℃、第1積層フィルム温度23℃)で、貼付速度を300mm/min、貼付圧力を0.3MPaとして、前記第1積層フィルムの熱硬化性保護膜形成フィルムの露出面に、幅が25mmの支持シートの試験片の剥離フィルムを取り除きながら粘着剤層の面を貼付して、前記基材、前記粘着剤層、前記熱硬化性保護膜形成フィルム及び前記シリコンミラーウエハがこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層複合シートを得た。
【0302】
この第1積層複合シートを、130℃に温度調節したオーブンの内部に入れて、この温度(130℃)で2時間加熱した。熱硬化性保護膜形成フィルムは熱硬化して保護膜となることにより、支持シート上の熱硬化性保護膜形成フィルム付きシリコンミラーウエハ(すなわち、第1積層複合シート)は、保護膜付きシリコンミラーウエハ(すなわち、第2積層複合シート)に変化した。
【0303】
次いで、オーブンから加熱後の第2積層複合シートを取り出し、放冷によりその温度が23℃になるまで冷却した。
次いで、23℃の環境下で、剥離速度を300mm/minとして、精密万能試験機オートグラフ(株式会社島津製作所、AG-IS)を用いて、この冷却後の第2積層複合シートから前記試験片を剥離した。このとき、保護膜付きシリコンミラーウエハの前記試験片が貼付されていた面と、前記試験片の保護膜が貼付されていた面と、が180°の角度を為すように、前記試験片をその長さ方向へ剥離した(180°剥離を行った)。そして、この180°剥離のときの荷重(剥離力)を測定し、測定の長さは50mmとし、測定の最初5mmと最後5mmは有効値から除外した。その測定値の平均値を粘着力(mN/25mm)として採用した。
このような、粘着力の測定を2回行い、その時の平均値を、加熱後の粘着剤層と樹脂膜との間の粘着力(Z2)(mN/25mm)として採用した。結果を表1に示す。
【0304】
<粘着剤層のエネルギー線硬化物と樹脂膜との間の粘着力(Z1)の測定>
上記の粘着力(Z2)の測定時と同じ方法で、熱硬化性保護膜形成フィルム付きシリコンミラーウエハ(すなわち、第1積層フィルム)の熱硬化性保護膜形成フィルムの露出面に、幅が25mmの試験片の剥離フィルムを取り除きながら粘着剤層の面を貼付して、前記基材、前記粘着剤層、前記熱硬化性保護膜形成フィルム及び前記シリコンミラーウエハがこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層複合シートを得た。
【0305】
この第1積層複合シートについて、上記の粘着力(Z2)の測定時と同じ方法で、130℃で2時間加熱し、次いで、オーブンから加熱後の第2積層複合シートを取り出し、放冷によりその温度が23℃になるまで冷却した。そして、紫外線照射装置(リンテック社製「RAD-2000UV」)を用いて、照度230mW/cm、光量200mJ/cmの条件で、この取り出した加熱後の第2積層複合シート中の粘着剤層に対して、基材越しに紫外線を照射することで、加熱後の第2積層複合シート中の粘着剤層を紫外線硬化させて、前記基材及び前記粘着剤層のエネルギー線硬化物上に、前記保護膜及び前記シリコンミラーウエハがこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている積層体を得た。
【0306】
次いで、23℃の環境下で、剥離速度を300mm/minとして、精密万能試験機オートグラフ(株式会社島津製作所、AG-IS)を用いて、この紫外線照射後の積層体から前記試験片を剥離した。このとき、保護膜付きシリコンミラーウエハの前記試験片が貼付されていた面と、前記試験片の保護膜が貼付されていた面と、が180°の角度を為すように、前記試験片をその長さ方向へ剥離した(180°剥離を行った)。そして、この180°剥離のときの荷重(剥離力)を測定し、測定の長さは50mmとし、測定の最初5mmと最後5mmは有効値から除外した。その測定値の平均値を粘着力(mN/25mm)として採用した。
このような、粘着力の測定を2回行い、その時の平均値を、粘着剤層のエネルギー線硬化物と樹脂膜との間の粘着力(Z1)(mN/25mm)として採用した。結果を表1に示す。
【0307】
<加熱後の粘着剤層とSUS板との間の粘着力(Y2)の測定>
上記で得られた支持シートから、幅が25mmの試験片を切り出した。
23℃の温度条件下で、貼付速度を300mm/minとして、幅が25mmの試験片の剥離フィルムを取り除きながら粘着剤層の面を、SUS板(パルテック社製「SUS304 ♯1200HL、1000μm厚、サイズ70mm×150mm」)の♯1200研磨された面に貼付し、試験片付きSUS板を得た。
この試験片付きSUS板を、130℃に温度調節したオーブンの内部に入れて、この温度(130℃)で2時間加熱した。
【0308】
次いで、オーブンから試験片付きSUS板を取り出し、放冷によりその温度が23℃になるまで冷却した。
次いで、23℃の環境下で、剥離速度を300mm/minとして、この冷却後のSUS板から前記試験片を剥離した。このとき、SUS板の前記試験片が貼付されていた面と、前記試験片のSUS板が貼付されていた面と、が180°の角度を為すように、前記試験片をその長さ方向へ剥離した(180°剥離を行った)。そして、この180°剥離のときの荷重(剥離力)を測定し、測定の長さは50mmとし、測定の最初5mmと最後5mmは有効値から除外した。その測定値の平均値を粘着力(mN/25mm)として採用した。
このような、粘着力の測定を2回行い、その時の平均値を、加熱後の粘着剤層とSUS板との間の粘着力(Y2)(mN/25mm)として採用した。結果を表1に示す。
【0309】
<加熱後の粘着剤層のエネルギー線硬化物とSUS板との間の粘着力(Y1)の測定>
上記の粘着力(Y2)の測定時と同じ方法で、試験片付きSUS板を得た。
この試験片付きSUS板について、上記の粘着力(Y2)の測定時と同じ方法で、130℃で2時間加熱し、次いで、オーブンから試験片付きSUS板を取り出し、放冷によりその温度が23℃になるまで冷却した。そして、紫外線照射装置(リンテック社製「RAD-2000UV」)を用いて、照度230mW/cm、光量200mJ/cmの条件で、この取り出した試験片付きSUS板中の粘着剤層に対して、基材越しに紫外線を照射することで、試験片中の粘着剤層を紫外線硬化させた。
【0310】
次いで、23℃の環境下で、剥離速度を300mm/minとして、SUS板から前記試験片を剥離した。このとき、SUS板の前記試験片が貼付されていた面と、前記試験片のSUS板が貼付されていた面と、が180°の角度を為すように、前記試験片をその長さ方向へ剥離した(180°剥離を行った)。そして、この180°剥離のときの荷重(剥離力)を測定し、測定の長さは50mmとし、測定の最初5mmと最後5mmは有効値から除外した。その測定値の平均値を粘着力(mN/25mm)として採用した。
このような、粘着力の測定を2回行い、その時の平均値を、加熱後の粘着剤層のエネルギー線硬化物とSUS板との間の粘着力(Y1)(mN/25mm)として採用した。結果を表1に示す。
【0311】
<ダイシング時の耐チップ剥がれ性の評価>
(シリコンチップの製造)
一方の面が#2000研磨された8インチシリコンウエハ(厚さ200μm)を用意した。上記で得られた第一積層体から第1剥離フィルムを取り除きながら、70℃の貼付温度条件(ラミネートローラー温度70℃、シリコンウエハ温度70℃)で、貼付速度を300mm/min、貼付圧力を0.3MPaとして、熱硬化性保護膜形成フィルムの露出面を、8インチシリコンウエハの研磨面に貼付した。その後、残りの第2剥離フィルムを取り除いて、熱硬化性保護膜形成フィルム及びシリコンウエハが、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層フィルムを作製した。
【0312】
第1積層フィルムの熱硬化性保護膜形成フィルムの露出面、及び、リングフレームに対して、上記で得られた支持シートの粘着剤層を貼付した。これにより、基材、粘着剤層、熱硬化性保護膜形成フィルム及びシリコンウエハがこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層複合シートを作製した。このときの貼付は、23℃の貼付温度条件(ラミネートローラー温度23℃、第1積層フィルム温度23℃)で、貼付速度を300mm/min、貼付圧力を0.3MPaとして行った。
【0313】
次いで、リングフレームに固定した第1積層複合シートを、オーブンの内部に入れて、130℃で2時間加熱した。これにより、熱硬化性保護膜形成フィルムが硬化して保護膜を形成することにより、支持シート(すなわち、基材及び粘着剤層)上に、保護膜及びシリコンウエハがこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第2積層複合シートを作製した。
【0314】
次いで、オーブンから、リングフレームに固定した第2積層複合シートを取り出し、放冷によりその温度が23℃になるまで冷却した。そしてダイシング装置(ディスコ社製「DFD6362」)を用いて、リングフレームに固定した第2積層複合シート中のシリコンウエハ及び保護膜をダイシングすることにより、大きさが0.9mm×0.9mmの保護膜付きシリコンチップを複数個作製した。このとき、ダイシングブレードとしてはディスコ社製「ZH05-SD2000-N1-90 CC」を用い、ブレード回転数を35000rpm、ブレード送り速度を60mm/s、ブレード高さを0.06mmとして、第2積層複合シートに対して、そのシリコンウエハ側の表面からブレードを入れて、基材の、その粘着剤層側の面から20μmの深さの領域まで、切り込んだ。
【0315】
以上により、1枚の支持シート(すなわち、基材及び粘着剤層)上で複数個の保護膜付きシリコンチップが整列して保持されている、第3積層複合シートを作製した。
【0316】
(ダイシング時の耐チップ剥がれ性)
第3積層複合シートの中で、剥がれた保護膜付きシリコンチップを数えた。その際、0.9mm×0.9mm(正方形)のチップだけでなく、コーナーチップ(例えば三角形状のもの)であっても、剥がれていれば1チップとして数えた。下記の判定基準で判断した。
A:剥がれた保護膜付きシリコンチップが3チップ以下であった。
B:剥がれた保護膜付きシリコンチップが4チップ以上5チップ以下であった。
C:剥がれた保護膜付きシリコンチップが6チップ以上であった。
【0317】
<保護膜付きシリコンチップのピックアップ性の評価>
(シリコンチップの製造)
一方の面が#2000研磨された8インチシリコンウエハ(厚さ350μm)を用意した。上記で得られた第一積層体から第1剥離フィルムを取り除きながら、70℃の貼付温度条件(ラミネートローラー温度70℃、シリコンウエハ温度70℃)で、貼付速度を300mm/min、貼付圧力を0.3MPaとして、熱硬化性保護膜形成フィルムの露出面によって、8インチシリコンウエハの研磨面に貼付した。その後、残りの第2剥離フィルムを取り除いて、熱硬化性保護膜形成フィルム及びシリコンウエハが、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層フィルムを作製した。
【0318】
第1積層フィルムの熱硬化性保護膜形成フィルムの露出面、及び、リングフレームに対して、上記で得られた支持シートの粘着剤層を貼付した。これにより、基材、粘着剤層、熱硬化性保護膜形成フィルム及びシリコンウエハがこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層複合シートを作製した。このときの貼付は、23℃の貼付温度条件(ラミネートローラー温度23℃、第1積層フィルム温度23℃)で、貼付速度を300mm/min、貼付圧力を0.3MPaとして行った。
【0319】
次いで、リングフレームに固定した第1積層複合シートを、オーブンの内部に入れて、130℃で2時間加熱した。これにより、熱硬化性保護膜形成フィルムが硬化して保護膜を形成することにより、支持シート(すなわち、基材及び粘着剤層)上に、保護膜及びシリコンウエハがこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第2積層複合シートを作製した。
【0320】
次いで、オーブンから、リングフレームに固定した第2積層複合シートを取り出し、放冷によりその温度が23℃になるまで冷却した。そしてダイシング装置(ディスコ社製「DFD6362」)を用いて、リングフレームに固定した第2積層複合シート中のシリコンウエハ及び保護膜をダイシングすることにより、大きさが3mm×3mmの保護膜付きシリコンチップを複数個作製した。このとき、ダイシングブレードとしてはディスコ社製「ZH05-SD2000-N1-90 CC」を用い、ブレード回転数を35000rpm、ブレード送り速度を30mm/s、ブレード高さを0.06mmとして、第2積層複合シートに対して、そのシリコンウエハ側の表面からブレードを入れて、基材の、その粘着剤層側の面から20μmの深さの領域まで、切り込んだ。
【0321】
以上により、1枚の支持シート(すなわち、基材及び粘着剤層)上で複数個の保護膜付きシリコンチップが整列して保持されている、第3積層複合シートを作製した。
【0322】
(シリコンチップのピックアップ性)
次いで、紫外線照射装置(RAD-2000UV)を用いて、この第3積層複合シート中の粘着剤層に対して、その基材側の外部から基材越しに、照度230mW/cm、光量200mJ/cmの条件で紫外線を照射することで、リングフレームに貼付した粘着剤層を紫外線硬化させた。
以上により、前記基材及び前記粘着剤層のエネルギー線硬化物上に、複数個の保護膜付きシリコンチップが固定されている第4積層複合シートを作製した。
【0323】
次いで、ピックアップ・ダイボンディング装置(キャノンマシナリー社製「BESTEM D-02」)を用いて、第4積層複合シートの保護膜付きシリコンチップを、下記のピックアップ条件で、硬化済み支持シート(すなわち、基材及び粘着剤層のエネルギー線硬化物)から引き離してピックアップした。このピックアップは、硬化済み支持シート上の保護膜付きシリコンチップのうち、ダイシング前のシリコンウエハにおける中心とその近傍の領域から分割された、直交する2方向における10列分の領域の、合計で100個の保護膜付きシリコンチップに対して行い、1個の保護膜付きシリコンチップを、支持シート側から1本のピンによって突き上げるとともに、コレットを用いて、保護膜付きシリコンチップの支持シートからの引き離す(ピックアップ)方式で行った。そして、下記評価基準に従って、ピックアップ性を評価した。結果を表1に示す。
【0324】
(ピックアップ条件)
温度条件:23℃
エキスパンド量(テーブル突き上げ高さ):4mm
ニードル高さ:0.7mm
突き上げニードルの速度:5mm/s
保持時間を300ms
ピン先端部の曲率半径:0.75mm
【0325】
(ピックアップ性の評価基準)
A:100個すべての保護膜付きシリコンチップを正常にピックアップできた。
B:1~4個の保護膜付きシリコンチップを正常にピックアップできなかったが、他のすべて(96~99個)の保護膜付きシリコンチップを正常にピックアップできた。
C:5個以上の保護膜付きシリコンチップをピックアップできなかった。
【0326】
[実施例2]
エネルギー線硬化性化合物(α)-1(15質量部)に代わりエネルギー線硬化性化合物(α)-3(10質量部)を含有する点と、架橋剤(β)-1の含有量が1.17質量部に代わり1.33質量部である点、以外は、実施例1の場合と同じ組成である、エネルギー線硬化性の粘着剤組成物(I)-2を調製した。そして、粘着剤組成物(I)-1に代えてこの粘着剤組成物(I)-2を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、支持シートを製造した。第一積層体は実施例1と同じである。得られた実施例2のキットについて、実施例1の場合と同じ方法で評価した。結果を表1に示す。
【0327】
[実施例3]
エネルギー線硬化性化合物(α)-1(15質量部)に代わりエネルギー線硬化性化合物(α)-2(10質量部)を含有する点と、架橋剤(β)-1の含有量が1.17質量部に代わり1.33質量部である点、以外は、実施例1の場合と同じ組成である、エネルギー線硬化性の粘着剤組成物(I)-3を調製した。そして、粘着剤組成物(I)-1に代えてこの粘着剤組成物(I)-3を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、支持シートを製造した。第一積層体は実施例1と同じである。得られた実施例3のキットについて、実施例1の場合と同じ方法で評価した。結果を表1に示す。
【0328】
[比較例1]
<粘着剤組成物の製造>
エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)-1(100質量部)、架橋剤(β)-1(0.53質量部)、及び光重合開始剤(γ)-1(3質量部)を含有し、さらに溶媒としてメチルエチルケトンを含有しており、溶媒以外のすべての成分の合計濃度が25質量%である、エネルギー線硬化性の粘着剤組成物(R)-1を調製した。なお、ここに示すメチルエチルケトン以外の成分の含有量はすべて、溶媒を含まない目的物の含有量である。
【0329】
<支持シートの製造>
粘着剤組成物(I)-1に代えてこの粘着剤組成物(R)-1を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、支持シートを製造した。
【0330】
<キットの評価>
第一積層体は実施例1と同じである。得られた比較例1のキットについて、実施例1の場合と同じ方法で評価した。結果を表1に示す。
【0331】
[比較例2]
<エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)の製造>
アクリル重合体(2)にMOIを加え、空気気流中において50℃で48時間付加反応を行うことで、エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)-2を得た。前記アクリル重合体(2)は、2EHA(35質量部)と、2EHMA(45質量部)と、HEA(20質量部)と、の共重合体である。MOIの使用量は、前記アクリル重合体(2)中のHEA由来の水酸基の総モル数に対して、MOI中のイソシアネート基の総モル数が、0.7倍となる量とした。得られたエネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)-2の重量平均分子量は880000であり、ガラス転移温度は-35℃であった。
【0332】
<粘着剤組成物の製造>
エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)-2(100質量部)、架橋剤(β)-1(9.26質量部)、及び光重合開始剤(γ)-1(3質量部)を含有し、さらに溶媒としてメチルエチルケトンを含有しており、溶媒以外のすべての成分の合計濃度が25質量%である、エネルギー線硬化性の粘着剤組成物(R)-2を調製した。なお、ここに示すメチルエチルケトン以外の成分の含有量はすべて、溶媒を含まない目的物の含有量である。
【0333】
<支持シートの製造>
粘着剤組成物(I)-1に代えてこの粘着剤組成物(R)-2を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、支持シートを製造した。
【0334】
<キットの評価>
第一積層体は実施例1と同じである。得られた比較例2のキットについて、実施例1の場合と同じ方法で評価した。結果を表1に示す。
【0335】
[比較例3]
<粘着剤組成物の製造>
エネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)-2(100質量部)エネルギー線硬化性化合物(α)-3(45質量部)、架橋剤(β)-1(25.93質量部)、及び光重合開始剤(γ)-1(3質量部)を含有し、さらに溶媒としてメチルエチルケトンを含有しており、溶媒以外のすべての成分の合計濃度が25質量%である、エネルギー線硬化性の粘着剤組成物(R)-4を調製した。なお、ここに示すメチルエチルケトン以外の成分の含有量はすべて、溶媒を含まない目的物の含有量である。
【0336】
<支持シートの製造>
粘着剤組成物(I)-1に代えてこの粘着剤組成物(R)-4を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、支持シートを製造した。
【0337】
<キットの評価>
第一積層体は実施例1と同じである。得られた比較例3のキットについて、実施例1の場合と同じ方法で評価した。結果を表1に示す。
【0338】
【表1】
【0339】
上記結果から明らかなように、実施例1~3では、粘着力(Z2)が11000~16000mN/25mmであり、粘着力(Z1)が200~350mN/25mmであり、ダイシング時の耐チップ剥がれ性が優れ、かつ、保護膜付きシリコンチップのピックアップ性も優れていた。
このように、実施例1~3のキットは、目的とする特性を有していた。
【0340】
また、実施例1~3では、粘着力(Y2)が15600~17400mN/25mmであり、十分に大きく、リングフレームに固定した支持シート付きシリコンウエハを高温で加熱しても、支持シート付きの保護膜付きシリコンウエハの、固定用治具であるリングフレームからの剥離を抑制できた。
【0341】
実施例1~3では、粘着剤組成物(I)がエネルギー線硬化性アクリル樹脂(Ia)とエネルギー線硬化性化合物(α)を含有しており、上記のような特性を容易に達成できたと推測された。特に、エネルギー線硬化性化合物(α)が特定範囲の構造を有していることで、上記のような特性を、さらに、容易に達成できたと推測された。
【0342】
さらに、実施例1~2では、粘着力(Y1)が470mN/25mm以上であり、顕著に大きかった。実施例1~2では、支持シートが、固定用治具であるリングフレームに固定され、加熱された後、仮に支持シート(粘着剤層)のリングフレームとの接触部にエネルギー線である紫外線が照射されてしまっても、硬化済み支持シートがリングフレームから剥離することを抑制可能であると推測された。
【0343】
これに対して、比較例1~3では、粘着力(Z2)及び粘着力(Y2)も不十分であり、ダイシング時の耐チップ剥がれ性が劣っていたうえに、高温(130℃)の加熱後にリングフレームから支持シートが剥がれてしまうおそれがあった。また、比較例3では、保護膜付きシリコンチップのピックアップ性に難があった。
【0344】
さらに、比較例1では、粘着力(Y1)も不十分であり、仮に支持シート(粘着剤層)のリングフレームとの接触部に紫外線が照射されてしまうと、硬化済み支持シートがリングフレームから剥離してしまうおそれがあった。逆に、比較例3では、粘着力(Y1)が大きすぎて、使用後に、リングフレームからの剥離が困難だった。
【産業上の利用可能性】
【0345】
本発明は、半導体チップ等のワーク加工物の製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0346】
1・・・樹脂膜形成用複合シート、3・・・キット、10・・・支持シート、11・・・基材、11a・・・基材の一方の面、12・・・粘着剤層、12’・・・エネルギー線硬化物、13・・・熱硬化性樹脂膜形成フィルム、17・・・バックグラインドテープ、18・・・リングフレーム、9・・・半導体ウエハ、90・・・半導体チップ、401・・・第1積層フィルム、501…第1積層複合シート、502…第2積層複合シート、503…第3積層複合シート、504…第4積層複合シート
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4A
図4B
図4C