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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144845
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】車両挙動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/015 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
B60G17/015 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052011
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】弁理士法人広和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石丸 博規
(72)【発明者】
【氏名】平尾 隆介
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA04
3D301AA05
3D301AB21
3D301AB25
3D301DA08
3D301DA33
3D301DA39
3D301EA15
3D301EA19
3D301EA20
3D301EA22
3D301EA59
3D301EA82
3D301EB13
3D301EC01
3D301EC08
3D301EC57
3D301EC69
(57)【要約】
【課題】低車速時にうねり路を走行するときの乗り心地を向上させることができる車両挙動制御装置を提供する。
【解決手段】可変ダンパ7は、車両の車体2と車輪3の間に設けられている。車両挙動制御装置1は、車体2と車輪3の間で調整可能な力を発生する可変ダンパ7を制御する。車両挙動制御装置1は、車輪3の回転速度を検出する車輪速センサ9の検出値から路面状態を推定する路面推定部22と、車両の車速を推定することにより車速を特定する状態推定部21と、路面推定部22の推定値から車両の上下変位が継続していると判断したときで、かつ状態推定部21で特定した車速が第1所定速度V1よりも低いとき、第1所定速度V1よりも高いときと比して、可変ダンパ7に大きな力を発生させる乗り心地制御ロジック30と、を有している。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車体と車輪の間に設けられ前記車体と前記車輪の間で調整可能な力を発生する力発生機構を制御する車両挙動制御装置であって、
前記車輪の回転速度を検出する車輪速検出手段の検出値から路面状態を推定する路面状態推定部と、
前記車両の車速を推定もしくは検出することにより前記車速を特定する車速特定部と、
前記路面状態推定部の推定値から前記車両の上下変位が継続していると判断したときで、かつ前記車速特定部で特定した前記車速が所定車速よりも低いとき、前記所定車速よりも高いときと比して、前記力発生機構に大きな力を発生させる低車速うねり路指令部と、を有する、車両挙動制御装置。
【請求項2】
前記低車速うねり路指令部は、うねり路指数と悪路指数に応じてベース指令を切り換える機能と、うねり路指数に応じて乗り心地制御指令の制御ゲインを切り換える機能と、を有する、請求項1に車両挙動制御装置。
【請求項3】
前記低車速うねり路指令部は、前記車速が低い場合には、前記車速が高い場合に比して、うねり路指数に応じたベース指令を増大させる機能と、うねり路指数に応じた乗り心地制御指令の制御ゲインを減少させる機能と、を有する、請求項1に車両挙動制御装置。
【請求項4】
車両の車体と車輪の間に設けられ前記車体と前記車輪の間で調整可能な力を発生する力発生機構を制御する車両挙動制御装置であって、
前記車輪の回転速度を検出する車輪速センサの検出値または加速度センサの検出値から路面状態を推定する路面状態推定部と、
前記車両の車速を検出する車速検出手段と、
前記路面状態推定部の推定値が凹凸を繰り返していると判断したときで、かつ前記車速検出手段で検出した前記車速が所定車速よりも低いとき、前記所定車速よりも高いときと比して、前記力発生機構に大きな力を発生させる低車速うねり路指令部と、を有する、車両挙動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば4輪自動車等の車両に好適に用いられる車両挙動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されたコントローラは、車両の走行速度に応じて可変ダンパ(力発生機構)が発生する力の下限となる命令信号の下限値(即ち、ベース指令値)を求めるベース制御部を有している。ベース制御部は、ベース指令値算出部において、路面判定部から出力される路面判定結果(即ち、路面状態検出部の検出結果)に基づきベース指令値を補正する。コントローラから出力される指令値により、可変ダンパの減衰力特性を路面状態に応じて可変に制御する構成としている。
【0003】
特許文献2には、車輪速センサにより路面判定を推定するものにおいて、車速が所定値以下のとき、路面判定で路面凹凸が判定される直前の値に比べて減衰力を増大させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6773881号公報
【特許文献2】特開2015-47907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車輪速センサを用いた場合は、低車速時の路面判定の精度が低い傾向がある。この理由としては、例えば前輪と後輪の入力成分を考慮していない、パルス信号を拾っているため、低車速時のサンプリング数が少ない等が考えられる。
【0006】
特許文献1に開示された制御装置では、路面状態がうねり路と判断した場合、低車速時にソフト減衰にする。しかしながら、このような制御では、ばね上の制振性が悪く、乗り心地が悪い、という課題がある。
【0007】
一方、特許文献2に開示された制御装置は、車速の値と車輪速変動量を考慮して減衰量を増大させる。しかしながら、特許文献2の制御装置では、凹凸路に進入したときの車速の変化を考慮していない。このため、例えば一度車輪速変動量が閾値を超えた後に車速が変化した場合、後輪の凹凸通過による車体の振動タイミングで既に制御が終了してしまい、乗り心地が低下してしまう。
【0008】
本発明の一実施形態の目的は、低車速時にうねり路を走行するときの乗り心地を向上させることができる車両挙動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態は、車両の車体と車輪の間に設けられ前記車体と前記車輪の間で調整可能な力を発生する力発生機構を制御する車両挙動制御装置であって、前記車輪の回転速度を検出する車輪速検出手段の検出値から路面状態を推定する路面状態推定部と、前記車両の車速を推定もしくは検出することにより前記車速を特定する車速特定部と、前記路面状態推定部の推定値から前記車両の上下変位が継続していると判断したときで、かつ前記車速特定部で特定した前記車速が所定車速よりも低いとき、前記所定車速よりも高いときと比して、前記力発生機構に大きな力を発生させる低車速うねり路指令部と、を有している。
【0010】
また、本発明の一実施形態は、車両の車体と車輪の間に設けられ前記車体と前記車輪の間で調整可能な力を発生する力発生機構を制御する車両挙動制御装置であって、前記車輪の回転速度を検出する車輪速センサの検出値または加速度センサの検出値から路面状態を推定する路面状態推定部と、前記車両の車速を検出する車速検出手段と、前記路面状態推定部の推定値が凹凸を繰り返していると判断したときで、かつ前記車速検出手段で検出した前記車速が所定車速よりも低いとき、前記所定車速よりも高いときと比して、前記力発生機構に大きな力を発生させる低車速うねり路指令部と、を有している。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、低車速時にうねり路を走行するときの乗り心地を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態による車両挙動制御装置を模式的に示す図である。
図2図1中のコントローラを示す制御ブロック図である。
図3図2中の指令制限部を示すブロック図である。
図4】スリップ率と指令許可範囲との関係を示す説明図である。
図5図2中の上下VSEおよび乗り心地制御ロジックを示すブロック図である。
図6図5中の路面推定部を示すブロック図である。
図7】うねり路指数に対するスカイフックゲインの一例を示す特性線図である。
図8】車速に対するスカイフックゲインおよびベース指令値の一例を示す特性線図である。
図9図5中のベース制御部を示すブロック図である。
図10図9中の普通路用マップの一例を示す説明図である。
図11図9中の悪路用マップの一例を示す説明図である。
図12図9中のうねり路用マップの一例を示す説明図である。
図13】実施形態と従来技術について、路面変位、うねり路指数、制御指令、フロア上下加速度の時間変化の一例を示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態による車両挙動制御装置を4輪自動車に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0014】
図1は、実施形態による車両挙動制御装置1を示している。車両挙動制御装置1は、減衰力発生装置を構成するサスペンション装置5と、車両制御装置を構成するコントローラ11とにより構成されている。ここで、図1において、車両のボディを構成する車体2の下側には、例えば左,右の前輪と左,右の後輪(以下、総称して車輪3という)が設けられている。この車輪3は、タイヤ4を含んで構成されており、タイヤ4は、路面の細かい凹凸を吸収するばねとして作用する。
【0015】
サスペンション装置5は、車両の車体2と車両の車輪3との間に介装して設けられている。このサスペンション装置5は、懸架ばね6(以下、スプリング6という)と、スプリング6と並列関係をなして車体2と車輪3との間に設けられた減衰力調整式緩衝器(以下、可変ダンパ7という)とにより構成される。
【0016】
なお、図1中では1組のサスペンション装置5を、車体2と車輪3との間に設けた場合を示している。しかし、サスペンション装置5は、例えば4つの車輪3と車体2との間に個別に独立して合計4組設けられるもので、このうちの1組のみを図1では模式的に示している。
【0017】
ここで、サスペンション装置5の可変ダンパ7は、車体2と車輪3との間に介装して設けられた減衰力調整式の油圧緩衝器を用いて構成される。この可変ダンパ7には、発生減衰力の特性(即ち、減衰力特性)をハードな特性(硬特性)からソフトな特性(軟特性)に連続的に調整するため、減衰力調整バルブ等からなる減衰力可変アクチュエータ8が付設されている。可変ダンパ7は、車体2と車輪3の間で調整可能な力を発生する力発生機構を構成している。なお、減衰力可変アクチュエータ8は、減衰力特性を必ずしも連続的に調整する構成でなくてもよく、例えば2段階以上の複数段階で減衰力を調整可能なものであってもよい。また、可変ダンパ7は、圧力制御タイプでもよく、流量制御タイプであってもよい。可変ダンパ7は、磁気粘性流体や電気粘性流体のように粘性を制御するタイプであってもよい。
【0018】
コントローラ11は、車両制御装置を構成している。コントローラ11は、可変ダンパ7の減衰特性を制御する制御装置として、例えばマイクロコンピュータにより構成されている。コントローラ11は、例えばデータ通信に必要な回線網であるCAN10(Controller Area Network)に接続されている。コントローラ11は、CAN10を通じて、車両の走行に関する諸元を取得する。このとき、車両の走行に関する諸元は、例えば車輪速、スリップ率、前後加速度、エンジントルク、ブレーキ液圧、路面摩擦係数、4輪独立の制駆動力制御フラグ等を含んでいる。このため、コントローラ11には、車輪速検出手段としての車輪速センサ9が検出した車輪3の回転速度の検出値が入力される。コントローラ11の出力側は、可変ダンパ7の減衰力可変アクチュエータ8に接続されている。
【0019】
また、コントローラ11は、ROM、RAM、不揮発性メモリ等からなる記憶部11Aを有している。コントローラ11の記憶部11Aには、可変ダンパ7を制御するための各種のプログラム、情報(車両情報)、データ等が格納されている。
【0020】
図2に示すように、コントローラ11は、上下VSE20、乗り心地制御ロジック30、平面VSE12、操縦安定性制御ロジック13、指令制限部14、制御指令選択部15を備えている。
【0021】
上下VSE20は、上下方向の車両状態推定(Vehicle State Estimation)を行う。上下VSE20は、状態推定部21と路面推定部22を備えている。状態推定部21は、例えば、特開2015-155214号公報に開示された走行状態推定部と同様に構成されている。状態推定部21は、CAN10を伝搬するCAN信号から車輪速を取得する。状態推定部21は、車輪速の変化から車体2の上下方向の状態として、各輪のばね上速度、相対速度等を推定する。路面推定部22は、状態推定部21からばね上速度、相対速度等を取得し、これらを用いてうねり路指数、悪路指数、スカイフックゲイン(制御ゲイン)を出力する。
【0022】
乗り心地制御ロジック30は、各輪の相対速度、ばね上速度等に基づいて可変ダンパ7(力発生機構)への指令値を算出する。乗り心地制御ロジック30は、例えばスカイフック制御則に基づいて、相対速度、ばね上速度等からばね上の上下振動を低減するための減衰力指令値を算出する。また、乗り心地制御ロジック30は、路面に応じた減衰力指令値を算出するベース制御部33を備えている。ベース制御部33は、うねり路指数、悪路指数、車速に基づいて、減衰力指令値となるベース指令値(ベース指令)を出力する。ベース指令値は、可変ダンパ7が発生する力の下限となる制御指令の下限値である。乗り心地制御ロジック30は、スカイフック制御則に基づく減衰力指令値と、ベース指令値となる減衰力指令値とのうちハード側の方を選択して出力する。このとき、乗り心地制御ロジック30から出力される減衰力指令値は、乗り心地制御ロジック指令値である。
【0023】
平面VSE12は、平面方向の車両状態推定を行う。平面VSE12は、CAN10を伝搬するCAN信号から車輪速、舵角、車体横速度、実ヨーレイト等を取得し、これらを用いて、横加速度等を推定する。操縦安定性制御ロジック13は、横加速度等に基づいて、車両の操縦安定性を向上させるための第2指令値を出力する。操縦安定性制御ロジック13は、例えば横加速度が大きくなるに従って、可変ダンパ7の減衰力特性がハードとなるような第2指令値を算出する。このとき、第2指令値は、操縦安定性制御ロジック指令値である。
【0024】
指令制限部14は、例えば国際公開第2021/157640号に開示された指令制限部と同様に構成されている。指令制限部14は、入力された情報に基づいて演算を行い、演算結果を出力する。指令制限部14は、CAN10を通じて、例えばスリップ率、4輪独立の制駆動力制御フラグ等のような車両の走行に関する諸元を取得する。図3に示すように、指令制限部14には、スリップ率、4輪独立の制駆動力制御フラグが入力される。
【0025】
指令制限部14は、取得された車両の走行に関する諸元に基づいて、車両の車体2と車輪3との間に設けられたサスペンション装置5(減衰力発生装置)で発生させる減衰力の可変範囲を制限して減衰力制御指令となる第1指令値を求める。具体的には、指令制限部14は、乗り心地制御ロジック30から出力された減衰力指令値を、車両の走行に関する諸元に基づいて制限する。これにより、指令制限部14は、減衰力指令値から第1指令値を求める。指令制限部14は、求められた第1指令値を制御指令選択部15に出力する。
【0026】
指令制限部14は、車両の走行に関する諸元のうち、車輪3のスリップ率SRに基づいて減衰力の可変範囲を制限する。図4に示すように、指令制限部14は、車輪3のスリップ率SRに基づいて指令許可範囲を変化させる。
【0027】
具体的には、指令制限部14は、スリップ率SRが予め設定された第1閾値S1より小さい場合(SR<S1)、指令許可範囲に制限を設けない。このとき、第1指令値は、減衰力指令値と同じ値になる。このため、減衰力は、ハードとソフトとの間の全ての範囲で発生可能になる。
【0028】
指令制限部14は、スリップ率SRが第1閾値S1以上、かつ第1閾値S1より大きい第2閾値S2より小さい場合(S1≦SR<S2)、スリップ率SRの増加に伴い指令許可範囲が狭くなるように、指令許可範囲を制限する。このとき、第1指令値は、指令許可範囲内となるように減衰力指令値が制限される。このため、減衰力の発生可能な範囲は、スリップ率SRが第1閾値S1より小さい場合(SR<S1)に比べて、狭くなる。
【0029】
指令制限部14は、スリップ率SRが第2閾値S2以上の場合(S2≦SR)、第2閾値S2より小さいときの指令許可範囲より狭くなるように、指令許可範囲を制限する。具体的には、指令制限部14は、スリップ率SRが第2閾値S2以上の場合、指令許可範囲を予め設定された所定値F0にする。このとき、第1指令値は、減衰力指令値に関係なく、所定値F0になる。なお、所定値F0は、例えば減衰力が固定された従来のダンパ(コンベンショナルダンパ)と同じ減衰力を発生させる値に設定されている。
【0030】
指令制限部14は、乗り心地制御ロジック30から出力された減衰力指令値を指令許可範囲内の値に制限する。このため、指令制限部14は、スリップ率SRが第1閾値S1より小さい場合は、乗り心地制御ロジック30から出力された減衰力指令値と同じ値となった第1指令値を出力する。指令制限部14は、スリップ率SRが第1閾値S1以上、かつ第2閾値S2より小さい場合は、減衰力指令値をスリップ率SRに応じて設定された指令許可範囲内の値に制限し、値が制限された第1指令値を出力する。指令制限部14は、スリップ率SRが第2閾値S2以上の場合は、所定値F0に設定された第1指令値を出力する。このとき、第1閾値S1および第2閾値S2は、例えばタイヤ4の特性を考慮して予め設定されている。第1閾値S1および第2閾値S2は、チューニングにより適宜設定される。
【0031】
また、指令制限部14は、スリップ率SRだけでなく、4輪独立の制駆動力制御時も指令許可範囲を制限する。例えばABS、TCS、ESCが動作する4輪独立の制駆動力制御時には急激な車輪速変動が生じ、車両状態の推定精度が悪化するためである。そのため、4輪独立の制駆動力制御が動作している場合は、指令制限部14は、指令許可範囲の制限量を最大にする。この際、瞬間的に最大制限量に変化させてもよいし、時間経過に従って徐々に最大制限量にしてもよい。
【0032】
図3に示すように、4輪独立の制駆動力制御に基づく指令許可範囲の制限を実行するために、指令制限部14には、4輪独立の制駆動力制御フラグが入力される。このとき、制駆動力制御フラグは、車両の全輪を独立に制動または駆動させるための制御フラグである。制駆動力制御フラグは、例えばABS作動フラグ、TCS作動フラグ、ESC作動フラグを含んでいる。例えば車両は、車輪のロックを防止する安全装置としてのABSと、車輪のスリップを抑制する安全装置としてのTCSと、車両の横滑りを防止する安全装置としてのESCとを備えている。ABS、TCS、ESCが全て動作していないときには、制駆動力制御フラグは「OFF」となる。ABS、TCS、ESCのうちいずれかが動作しているときには、制駆動力制御フラグは「ON」となる。指令制限部14は、「ON」状態の制駆動力制御フラグが「ON」を取得したときに、指令許可範囲の制限量を最大にする。
【0033】
このため、指令制限部14は、車両の走行に関する諸元のうち、車輪を含む車両の全輪を独立に制駆動させるための制駆動力制御フラグ「ON」を取得した場合、第2閾値S2より小さいときの指令許可範囲より狭くなるように、指令許可範囲を制限する。このため、指令制限部14は、制駆動力制御フラグ「ON」を取得した場合には、所定値F0に設定された第1指令値を出力する。
【0034】
図2に示すように、制御指令選択部15には、指令制限部14から出力される第1指令値と、操縦安定性制御ロジック13から出力される第2指令値と、が入力される。制御指令選択部15は、これらの指令値のうちいずれか一方を選択する。例えば車両の走行が安定な状態では、制御指令選択部15は、乗り心地を優先させるために、指令制限部14から出力される第1指令値を選択する。一方、車両の走行が不安定な状態では、制御指令選択部15は、操縦安定性を優先させるために、操縦安定性制御ロジック13から出力される第2指令値を選択する。制御指令選択部15は、例えば入力される2つの指令値の大きさを比較して指令値を選択してもよく、車両状態に関する情報に基づいて指令値を選択してもよい。制御指令選択部15は、電流指令値(制御指令)として選択した指令値を可変ダンパ7の減衰力可変アクチュエータ8に出力する。
【0035】
次に、上下VSE20と乗り心地制御ロジック30の具体的な構成について、図5ないし図12を参照して説明する。
【0036】
図5に示すように、上下VSE20は、状態推定部21と路面推定部22を備えている。状態推定部21は、CAN10を伝搬するCAN信号から車輪速を取得する。状態推定部21は、車両の車速を推定することにより、車速を特定する車速特定部を構成している。また、状態推定部21は、車輪速の変化から車体2の上下方向の状態を推定する。具体的には、状態推定部21は、車輪速に基づいて各輪の相対速度(ストローク速度)、バウンスレイト、ロールレイト、ピッチレイト、ばね上速度、車速等を推定する。状態推定部21は、CAN信号から車輪速、舵角、車体横方向速度、実ヨーレイト等を取得し、これらを用いて各輪のばね上速度、相対速度、車速等を推定する。
【0037】
路面推定部22は、車輪3の回転速度を検出する車輪速センサ9の検出値から路面状態を推定する路面状態推定部を構成している。路面推定部22は、状態推定部21からばね上速度、相対速度等を取得し、これらを用いてうねり路指数、悪路指数、スカイフックゲインを出力する。図6に示すように、路面推定部22は、うねり路指数算出部22A、悪路指数算出部22B、ゲイン算出部22Cを備えている。
【0038】
うねり路指数算出部22Aは、ばね上速度、相対速度等から車体2(ばね上)の上下加速度を推定する。うねり路指数算出部22Aは、例えばバンドパスフィルタ等を備え、ばね上上下加速度から所定周波数帯域(例えば0.5~2Hz)のうねり路成分を抽出する。うねり路指数算出部22Aは、うねり路成分の大きさ(うねり路レベル)に応じたうねり路指数を出力する。このとき、うねり路成分が抽出されずに最小値になる場合、うねり路指数は0になる。一方、うねり路成分が最大値になる場合、うねり路指数は1になる。このように、うねり路指数は、0~1までの間に正規化された値になっている。即ち、うねり路指数は、路面入力による車体2の上下・ピッチ・ロール運動(0.5~2Hz)を0~1で指数化したものである。
【0039】
悪路指数算出部22Bは、ばね上速度、相対速度等から車体2(ばね上)の上下加速度を推定する。悪路指数算出部22Bは、例えばバンドパスフィルタ等を備え、ばね上上下加速度から所定周波数帯域(例えば5~6Hz以上)の悪路成分を抽出する。悪路指数算出部22Bは、悪路成分の大きさ(悪路レベル)に応じた悪路指数を出力する。このとき、悪路成分が抽出されずに最小値になる場合、悪路指数は0になる。一方、悪路成分が最大値になる場合、悪路指数は1になる。このように、悪路指数は、0~1までの間に正規化された値になっている。即ち、悪路指数は、路面入力による車体2の上下・ピッチ・ロール運動(5~6Hz以上)を0~1で指数化したものである。
【0040】
ゲイン算出部22Cは、うねり路指数算出部22Aから出力されるうねり路指数に基づいて、スカイフックゲインを算出する。このとき、スカイフックゲインは、乗り心地制御指令の制御ゲインである。また、うねり路指数は、うねり路の路面レベル(うねり路レベル)に応じた値になっている。このため、ゲイン算出部22Cは、うねり路の路面レベルに基づいた利得(ゲイン)としてのスカイフックゲインを、図7中に例示した設定マップにより算出する。ゲイン算出部22Cで算出されるゲインは、うねり路指数(路面レベル)が小さいときは小さな値となり、うねり路指数(路面レベル)が大きくなるに応じて漸次大きな値となるように増加される。
【0041】
ゲイン算出部22Cには、うねり路指数に加えて、状態推定部21によって特定した車速が入力される。図8に示すように、ゲイン算出部22Cは、車速が低い場合には、車速が高い場合に比して、うねり路指数に応じたスカイフックゲインを減少させる。具体的には、ゲイン算出部22Cは、車速が第1所定速度V1(例えば40km/h)よりも低い場合(低速の場合)には、第1所定速度V1よりも高い場合(中速および高速の場合)に比して、うねり路指数に応じたスカイフックゲインを減少させる。
【0042】
ゲイン算出部22Cは、車速が第1所定速度V1よりも高く第2所定速度V2(例えば80km/h)よりも低い場合(中速の場合)には、車速が変動してもスカイフックゲインをほぼ一定値に保持する。ゲイン算出部22Cは、車速が第2所定速度V2よりも高い場合(高速の場合)には、車速が上昇するのに応じてスカイフックゲインを増加させる。
【0043】
また、ゲイン算出部22Cは、車速が第1所定速度V1よりも低い最低速度V0(例えば20km/h)以下の場合には、スカイフックゲインを最小値に設定する。ゲイン算出部22Cは、車速が最低速度V0よりも高く第1所定速度V1よりも低い場合には、車速が上昇するのに応じて、中速でのスカイフックゲインよりも小さい範囲で、スカイフックゲインを増加させる。
【0044】
乗り心地制御ロジック30は、低車速うねり路指令部である。乗り心地制御ロジック30は、路面推定部22の推定値から車両の上下変位が継続しているうねり路と判断したときで、かつ車速が第1所定速度V1(所定車速)よりも低いとき、第1所定速度V1よりも高いときと比して、可変ダンパ7に大きな力を発生させる。乗り心地制御ロジック30は、目標減衰力算出部31、指令値算出部32、ベース制御部33、最大値演算部43を備えている。
【0045】
目標減衰力算出部31は、路面推定部22のゲイン算出部22Cで算出されたゲイン(例えば、スカイフックゲインCsky)を、状態推定部21からのばね上速度と乗算することにより、サスペンション装置5の可変ダンパ7で発生すべき力としての目標減衰力を算出する。このとき、ゲイン算出部22Cで算出されるスカイフックゲインは、うねり路指数に応じて変化する。このため、目標減衰力算出部31は、うねり路指数に応じて乗り心地制御指令のスカイフックゲイン(制御ゲイン)を切り換える。また、ゲイン算出部22Cで算出されるスカイフックゲインは、車速が低い場合には、車速が高い場合に比して、減少する。このため、目標減衰力算出部31は、車速が低い場合には、車速が高い場合に比して、うねり路指数に応じたスカイフックゲインを減少させる。
【0046】
指令値算出部32は、図5中に示す特性マップのように、目標とする減衰力Fと電流値Iとの関係を相対速度に従って可変に設定したF-Iマップを備えている。指令値算出部32は、目標減衰力算出部31から出力された信号(目標減衰力の信号)と状態推定部21から出力される信号(相対速度)とに基づいて、可変ダンパ7の減衰力可変アクチュエータ8に出力すべき制御電流値としての指令値を算出する。
【0047】
ベース制御部33は、うねり路指数と悪路指数に応じてベース指令を切り換える。また、ベース制御部33は、車速が低い場合には、車速が高い場合に比して、うねり路指数に応じたベース指令を増大させる(図8図12参照)。ベース制御部33は、カーモード、車速、うねり路指数、悪路指数に基づいて、ベース指令値を算出する。このとき、ベース指令値は、少なくとも車両の走行速度に応じて可変ダンパ7(力発生機構)が発生する力の下限となる命令信号の下限値である。即ち、ベース指令値は、例えば減衰力指令の最低値である最低指令値の下限値である。カーモードは、例えば通常モード(Nomal)、スポーツモード(Sport)、快適モード(Comfort)の3種類が含まれる。カーモードは、例えば車両に設けられたモード選択スイッチ(図示せず)によって選択されている。なお、図8は、カーモードが通常モードである場合を例示しているが、スポーツモード、快適モードの場合でも同様である。即ち、スポーツモード、快適モードの場合でも、ベース制御部33は、車速が低い場合には、車速が高い場合に比して、うねり路指数に応じたベース指令を増大させる。
【0048】
図9に示すように、ベース制御部33は、路面状態に応じた指令値を算出するために、普通路用マップ34、悪路用マップ35、うねり路用マップ36を備えている。ベース制御部33は、普通路指数を算出する普通路指数算出部37と、悪路指数に基づいてうねり路指数を調整するうねり路指数調整部38とを備えている。ベース制御部33は、普通路用指令算出部39、悪路用指令算出部40、うねり路用指令算出部41、加算器42を備えている。
【0049】
普通路用マップ34は、カーモードと車速に基づいて、普通路用の基準指令値を算出する。図10に示すように、カーモードが通常モードの場合、普通路用マップ34は、低速と高速のときには、減衰力が小さくなる指令値を出力し、中速のときには、減衰力が最小となる指令値として、減衰力が極めて小さくなる(極小)指令値を出力する。このとき、減衰力が極小の指令値では、減衰力が小さくなる指令値のときに比べて、減衰力は小さくなる。
【0050】
カーモードがスポーツモードの場合、普通路用マップ34は、低速と中速のときには、減衰力が小さくなる指令値を出力し、高速のときには、減衰力が中程度になる指令値を出力する。このとき、減衰力が中程度の指令値では、減衰力が小さくなる指令値のときに比べて、減衰力は大きくなる。カーモードが快適モードの場合、普通路用マップ34は、低速のときには、減衰力が小さくなる指令値を出力し、中速と高速のときには、減衰力が最小となる指令値として、減衰力が極めて小さくなる(極小)指令値を出力する。
【0051】
悪路用マップ35は、カーモードと車速に基づいて、悪路用の基準指令値を算出する。図11に示すように、カーモードが通常モードの場合、悪路用マップ35は、低速のときには、減衰力が小さくなる指令値を出力し、中速と高速のときには、減衰力が最小となる指令値として、減衰力が極めて小さくなる(極小)指令値を出力する。カーモードがスポーツモードの場合、悪路用マップ35は、車速に拘わらず減衰力が小さくなる指令値を出力する。カーモードが快適モードの場合、悪路用マップ35は、低速のときには、減衰力が小さくなる指令値を出力し、中速と高速のときには、減衰力が最小となる指令値として、減衰力が極めて小さくなる(極小)指令値を出力する。
【0052】
悪路では、高周波入力が強いため、ベース指令を大きくすると、乗り心地が悪化し易い。この点を考慮すると、悪路用マップ35は、普通路用マップ34やうねり路用マップ36に比べて、減衰力を小さくする指令値を出力するのが好ましい。
【0053】
うねり路用マップ36は、カーモードと車速に基づいて、うねり路用の基準指令値を算出する。図12に示すように、カーモードが通常モードの場合、うねり路用マップ36は、低速のときには、減衰力が大きくなる指令値を出力し、中速のときには、減衰力が小さくなる指令値を出力し、高速のときには、減衰力が中程度の指令値を出力する。このとき、減衰力が大きくなる指令値では、減衰力が中程度の指令値のときに比べて、減衰力は大きくなる。
【0054】
カーモードがスポーツモードの場合、うねり路用マップ36は、低速と高速のときには、減衰力が大きくなる指令値を出力し、中速のときには、減衰力が中程度の指令値を出力する。カーモードが快適モードの場合、うねり路用マップ36は、低速のときには、減衰力が大きくなる指令値を出力し、中速と高速のときには、減衰力が小さくなる指令値を出力する。これにより、うねり路用マップ36は、車速が第1所定速度V1よりも低いとき(低速)、第1所定速度V1よりも高いとき(中速、高速)と比して、可変ダンパ7に大きな力を発生させる指令値を出力する。
【0055】
なお、図10ないし図12は、普通路用マップ34、悪路用マップ35、うねり路用マップ36の一例を示すものであり、本発明はこれに限らない。普通路用マップ34、悪路用マップ35、うねり路用マップ36の指令値は、車両の諸元等を考慮して適宜設定される。
【0056】
普通路指数算出部37は、うねり路指数と悪路指数に基づいて、普通路指数を算出する。図9に示すように、普通路指数算出部37は、うねり路成分除外部37A、悪路成分除外部37B、乗算器37Cを備えている。うねり路成分除外部37Aおよび悪路成分除外部37Bは、減算器によって構成されている。うねり路成分除外部37Aは、1からうねり路指数を減算し、うねり路以外の成分を抽出する。悪路成分除外部37Bは、1から悪路指数を減算し、悪路以外の成分を抽出する。乗算器37Cは、うねり路以外の成分と悪路以外の成分を乗算し、普通路指数を算出する。このため、うねり路指数または悪路指数が1のときには、普通路指数は0になる。うねり路指数および悪路指数が0のときには、普通路指数は1になる。
【0057】
うねり路指数調整部38は、悪路指数に基づいて、うねり路指数を調整する。即ち、うねり路指数調整部38は、悪路以外の成分に基づいて、うねり路指数を減少させる。うねり路指数調整部38は、悪路成分除外部38A、乗算器38Bを備えている。悪路成分除外部38Aは、1から悪路指数を減算し、悪路以外の成分を抽出する。乗算器38Bは、うねり路指数に悪路以外の成分を乗算し、調整後うねり路指数を算出する。このため、悪路指数が1のときには、調整後うねり路指数は0になる。悪路指数が0のときには、調整後うねり路指数は、調整前のうねり路指数と同じ値になる。
【0058】
普通路用指令算出部39は、普通路用マップ34から出力された普通路用の基準指令値と普通路指数とに基づいて、普通路用指令を算出する。普通路用指令算出部39は、乗算器によって構成されている。普通路用指令算出部39は、普通路用マップ34から出力された普通路用の基準指令値に、普通路指数を乗算し、普通路用指令を算出する。
【0059】
悪路用指令算出部40は、悪路用マップ35から出力された悪路用の基準指令値と悪路指数とに基づいて、悪路用指令を算出する。悪路用指令算出部40は、乗算器によって構成されている。悪路用指令算出部40は、悪路用マップ35から出力された悪路用の基準指令値に、悪路指数を乗算し、悪路用指令を算出する。
【0060】
うねり路用指令算出部41は、うねり路用マップ36から出力されたうねり路用の基準指令値と調整後うねり路指数とに基づいて、うねり路用指令を算出する。うねり路用指令算出部41は、乗算器によって構成されている。うねり路用指令算出部41は、うねり路用マップ36から出力されたうねり路用の基準指令値に、調整後うねり路指数を乗算し、うねり路用指令を算出する。
【0061】
加算器42は、普通路用指令、悪路用指令、うねり路用指令に基づいて、ベース指令値を算出する。具体的には、加算器42は、普通路用指令、悪路用指令、うねり路用指令を加算する。加算器42は、これらの加算値をベース指令値(ベース指令)として出力する。
【0062】
最大値演算部43は、指令値算出部32で算出した指令値と、ベース制御部33で算出したベース指令値とのうち、値が大きい方の指令値を選択する。最大値演算部43は、選択した指令値を乗り心地制御ロジック指令値として指令制限部14に出力する。指令制限部14は、乗り心地制御ロジック指令値から第1指令値を求める。このとき、制御指令選択部15には、指令制限部14から出力される第1指令値と、操縦安定性制御ロジック13から出力される第2指令値(操縦安定性制御ロジック指令値)と、が入力される。制御指令選択部15は、これらの指令値のうちいずれか一方を制御指令として選択し、可変ダンパ7の減衰力可変アクチュエータ8に出力する。これにより、可変ダンパ7は、減衰力可変アクチュエータ8に供給された電流(指令値)に従って、その減衰力特性がハードとソフトの間で連続的、または複数段でステップ状に可変に制御される。
【0063】
実施形態による車両挙動制御装置1は、上述の如き構成を有する。次に、コントローラ11を用いて可変ダンパ7の減衰力特性を可変に制御する処理について説明する。
【0064】
車体2と車輪3との間に介装して設けられた可変ダンパ7は、コントローラ11からの指令値(制御指令)が指令電流として減衰力可変アクチュエータ8に入力される。これにより、減衰力可変アクチュエータ8は、可変ダンパ7内を流通する油液の流路面積を可変に制御するように駆動される。この結果、可変ダンパ7の減衰力特性は、指令値に従ってハードな特性(硬特性)とソフトな特性(軟特性)との間で可変に制御される。
【0065】
また、本実施形態による乗り心地制御ロジック30は、路面推定部22の推定値から車両の上下変位が継続しているうねり路と判断したときで、かつ車速が第1所定速度V1(所定車速)よりも低いとき(低速)、第1所定速度V1よりも高いとき(中速、高速)と比して、可変ダンパ7に大きな力を発生させる指令を出力する。これにより、スピードバンプ等の大きな路面凹凸を低車速で通過する際に、車速が一定速度の場合に加え、車速が変化した場合でも、乗り心地の悪化を低減することができる。
【0066】
このような本実施形態による乗り心地の改善効果を確認するために、本実施形態と従来技術について、シミュレーション試験を行った。そのときの結果を、図13に示す。図13は、単発の大きな路面凹凸を車速が10km/hの低速で直進した場合について、路面変位、うねり路指数、制御指令、フロア上下加速度の時間変化を示している。
【0067】
なお、図13に示す従来技術の特性は、特許文献1に開示された車両挙動制御装置を適用した場合の結果を示している。図13中のうねり路指数は、路面入力による車体の上下・ピッチ・ロール運動(0.5~2Hz)を0~1で指数化したものである。従来技術では、低車速時の推定精度の低下に伴ってフロア上下加速度の振動が大きくなり、乗り心地が悪化している。これに対し、本実施形態では、うねり路指数が増加するタイミングで、制御指令が増加し、可変ダンパ7に大きな力を発生させる。これにより、本実施形態では、フロア上下加速度の振幅が低減すると共に、振動が短時間で収束し、乗り心地が改善している。
【0068】
かくして、本実施形態による車両挙動制御装置1は、車両の車体2と車輪3の間に設けられ車体2と車輪3の間で調整可能な力を発生する可変ダンパ7(力発生機構)を制御する。車両挙動制御装置1は、車輪3の回転速度を検出する車輪速センサ9(車輪速検出手段)の検出値から路面状態を推定する路面推定部22(路面状態推定部)と、車両の車速を推定することにより車速を特定する状態推定部21(車速特定部)と、路面推定部22の推定値から車両の上下変位が継続しているうねり路と判断したときで、かつ状態推定部21で特定した車速が第1所定速度V1(所定車速)よりも低いとき、第1所定速度V1よりも高いときと比して、可変ダンパ7に大きな力を発生させる乗り心地制御ロジック30(低車速うねり路指令部)と、を有している。
【0069】
即ち、車両挙動制御装置1は、車輪3の回転速度を検出する車輪速センサ9の検出値から路面状態を推定する路面推定部22(路面状態推定部)と、車両の車速を検出する状態推定部21(車速検出手段)と、路面推定部22の推定値が凹凸を繰り返していると判断したときで、かつ状態推定部21で検出した車速が第1所定速度V1(所定車速)よりも低いとき、第1所定速度V1よりも高いときと比して、可変ダンパ7に大きな力を発生させる乗り心地制御ロジック30(低車速うねり路指令部)と、を有している。これにより、低車速時にうねり路を走行するときの乗り心地を向上させることができる。
【0070】
また、乗り心地制御ロジック30は、うねり路指数と悪路指数に応じてベース指令を切り換えるベース制御部33と、うねり路指数に応じて乗り心地制御指令の制御ゲインを切り換える目標減衰力算出部31と、を有している。
【0071】
これにより、乗り心地制御ロジック30は、うねり路のレベルに応じてベース指令値を調整することができ、うねり路のレベルに応じた減衰力を発生させて、乗り心地を向上させることができる。
【0072】
このとき、乗り心地制御ロジック30は、車速が低い場合には、車速が高い場合に比して、うねり路指数に応じたベース指令を増大させるベース制御部33(うねり路用マップ36)と、うねり路指数に応じた乗り心地制御指令の制御ゲインを減少させる目標減衰力算出部31(路面推定部22からのスカイフックゲイン)とを有している。
【0073】
本実施形態では、低車速時の推定精度が低い車輪速を用いたセンサレスシステムとなっている。このとき、うねり路指数は、車速が低い場合でも精度悪化が少ない。この点を考慮して、乗り心地制御ロジック30は、車速が低い場合には、車速が高い場合に比べて、うねり路指数に応じたベース指令による制御を強めるのに対して、精度悪化の影響を受け易いリアルタイムのばね上制振制御(スカイフック等)を弱めている(図8参照)。この結果、路面の推定精度が低い低車速時であっても、乗り心地を向上させることができる。
【0074】
なお、前記実施形態では、指令制限部14は、スリップ率SRに基づいて減衰力の指令許可範囲(可変範囲)を制限するが、本発明はこれに限らない。指令制限部14は、国際公開第2021/157640号に開示されているように、前後加速度、路面摩擦係数に基づいて減衰力の指令許可範囲を制限してもよく、エンジントルク、ブレーキ液圧に基づいて減衰力の指令許可範囲を制限してもよい。また、指令許可範囲も、図4に示すものに限らず、チューニング等によって適宜設定される構成としてもよい。
【0075】
前記実施形態では、乗り心地制御ロジック30の目標減衰力算出部31は、スカイフック制御則を用いて目標減衰力を算出するものとしたが、本発明はこれに限らない。例えば、目標減衰力算出部31は、BLQ制御則(双線形最適制御則)、H∞制御則等を用いて目標減衰力を算出してもよい。従って、路面推定部22は、スカイフック制御則に応じたばね上制御ゲインとしてのスカイフックゲインに限らず、BLQ制御則(双線形最適制御則)、H∞制御則等に応じたばね上制御ゲインを出力してもよい。
【0076】
前記実施形態では、コントローラ11は、平面VSE12、操縦安定性制御ロジック13、指令制限部14、制御指令選択部15を備えているが、これらを省いてもよい。この場合、コントローラ11は、乗り心地制御ロジック30による指令値を出力する。
【0077】
前記実施形態では、ベース制御部33は、カーモード、車速、うねり路指数、悪路指数に基づいて、ベース指令値を算出したが、本発明はこれに限らない。カーモードが単一モード(例えば通常モード)の場合には、ベース制御部33は、車速、うねり路指数、悪路指数に基づいて、ベース指令値を算出してもよい。また、ベース制御部33は、特許文献1に開示されたベース制御部と組み合わせてもよい。即ち、ベース制御部33は、路面にポットホールや大突起があると判定したときに、減衰力を増加させるためのベース指令を出力してもよい。
【0078】
前記実施形態では、コントローラ11は、CAN10を通じて、車輪速を含む車両の走行に関する諸元を取得する場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らない。コントローラ11は、例えば車輪速を検出する車輪速センサ9から直接的に車輪速の検出値を取得してもよい。また、図1に示すように、コントローラ11は、ばね上やばね下の上下加速度を検出する加速度センサ51から加速度の検出値を取得してもよい。また、コントローラ11は、他のコントローラ等から車両の走行に関する諸元を取得してもよい。
【0079】
前記実施形態では、路面推定部22は、車速に基づいて路面状態を推定するものとしたが、本発明はこれに限らない。路面推定部22は、車輪速センサ9の検出値に基づいて路面状態を推定してもよく、加速度センサ51の検出値に基づいて路面状態を推定してもよい。
【0080】
前記実施形態では、状態推定部21が車両の車速を推定することにより車速を特定するものとしたが、本発明はこれに限らない。コントローラ11は、例えば状態推定部21とは別個に車速を推定する車速特定部を備えてもよい。また、車速特定部や車速検出手段は、車速を検出する車速センサでもよい。
【0081】
前記実施形態では、力発生機構としてセミアクティブダンパからなる可変ダンパ7である場合を例に説明した。本発明はこれに限らず、力発生機構としてアクティブダンパ(電気アクチュエータ、油圧アクチュエータのいずれか)を用いるようにしてもよい。前記実施形態では、車体2側と車輪3側との間で調整可能な力を発生する力発生機構を、減衰力調整式の油圧緩衝器からなる可変ダンパ7により構成する場合を例に挙げて説明した。本発明はこれに限らず、例えば力発生機構を液圧緩衝器の他に、エアサスペンション、スタビライザ(キネサス)、電磁サスペンション等により構成してもよい。
【0082】
前記実施形態では、4輪自動車に用いる車両挙動装置を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば2輪、3輪自動車、または作業車両、運搬車両であるトラック、バス等にも適用できるものである。
【0083】
前記実施形態で記載した具体的な数値は、一例を示したものであり、例示した値に限らない。
【符号の説明】
【0084】
1:車両挙動制御装置、2:車体、3:車輪、5:サスペンション装置、7:減衰力調整式緩衝器(可変ダンパ)、8:減衰力可変アクチュエータ、9:車輪速センサ、10:CAN、11:コントローラ、20:上下VSE、21:状態推定部(車速特定部)、22:路面推定部(路面状態推定部)、30:乗り心地制御ロジック(低車速うねり路指令部)、31:目標減衰力算出部、32:指令値算出部、33:ベース制御部、34:普通路用マップ、35:悪路用マップ、36:うねり路用マップ、39:普通路用指令算出部、40:悪路用指令算出部、41:うねり路用指令算出部、42:加算器、43:最大値演算部、51:加速度センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13