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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144855
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】蛍光部材および発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/80 20060101AFI20231003BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20231003BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20231003BHJP
【FI】
C09K11/80
C09K11/00 Z
H01L33/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052028
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 剛
(72)【発明者】
【氏名】中村 篤
(72)【発明者】
【氏名】大長 久芳
【テーマコード(参考)】
4H001
5F142
【Fターム(参考)】
4H001CA02
4H001XA08
4H001XA13
4H001XA14
4H001XA39
4H001XA56
4H001YA58
5F142AA23
5F142DA02
5F142DA14
5F142DA73
5F142FA24
5F142FA28
(57)【要約】
【課題】発光特性の良好な蛍光部材および発光装置を提供できる。
【解決手段】蛍光部材は、結晶構造がガーネット構造であり、一般式がBa3-x-yAl5-xSi12:Ce(ただし、xは、0.01≦x≦0.2を満たし、yは、0.02≦y≦0.1を満たす。)で表される単結晶で構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶構造がガーネット構造であり、一般式がBa3-x-yAl5-xSi12:Ce(ただし、xは、0.01≦x≦0.2を満たし、yは、0.02≦y≦0.1を満たす。)で表される単結晶で構成された蛍光部材。
【請求項2】
前記一般式において、xおよびyは、y=0.3155x+0.0574で表される直線、y=0.1052x+0.0191で表される直線、x=0.01で表される直線、x=0.20で表される直線、およびy=0.10で表される直線で囲まれる範囲に含まれる値である、
請求項1に記載の蛍光部材。
【請求項3】
前記蛍光部材は、板状の形状を有する、
請求項1または2に記載の蛍光部材。
【請求項4】
前記蛍光部材の厚さtは、0.02mm<t<0.6mmの範囲にある、
請求項3に記載の蛍光部材。
【請求項5】
ピーク波長が430nm~480nmの範囲にある青色光で励起され、ドミナント波長が567nm~571nmの範囲にある黄色光を発する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の蛍光部材。
【請求項6】
白色光を出射する発光装置であって、
ピーク波長が430nm~480nmの範囲にある青色光を発する光源と、
前記光源に接合された、請求項1から5のいずれか一項に記載の蛍光部材と、を備える、
発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光部材および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、YAG蛍光体と青色LEDとを組み合わせた白色光源が広く知られており、YAG蛍光体に関する研究が進められている。例えば、非特許文献1には、YAG蛍光体にBaおよびSiを固溶させたBaYAlSiO12:Ceが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Haipeng Ji et al.、「New Y2BaAl4SiO12:Ce3+ yellow microcrystal-glass powder phosphor with high thermal emission stability」、Journal of Materials Chemistry C, 2016, 4, pp.9872-9878
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、光源を高輝度化すると、YAG蛍光体での波長変換(ストークスロス)による熱集中によって温度消光が起こり、YAG蛍光体における発光効率の低下を招く。このため、発光特性が良好な蛍光体が希求される。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、発光特性の良好な蛍光部材および発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の蛍光部材は、結晶構造がガーネット構造であり、一般式がBa3-x-yAl5-xSi12:Ce(ただし、xは、0.01≦x≦0.2を満たし、yは、0.02≦y≦0.1を満たす。)で表される単結晶で構成される。
【0007】
この態様によると、発光特性の良好な蛍光部材を実現できる。
【0008】
上記一般式において、xおよびyは、y=0.3155x+0.0574で表される直線、y=0.1052x+0.0191で表される直線、x=0.01で表される直線、x=0.20で表される直線、およびy=0.10で表される直線で囲まれる範囲に含まれる値であってよい。
【0009】
上記蛍光部材は、板状の形状を有してよい。これにより、光源への実装などがより簡便になる。
【0010】
上記蛍光部材の厚さtは、0.02mm<t<0.6mmの範囲にあってよい。これにより、蛍光部材の発光特性をより向上させることが可能となる。
【0011】
上記蛍光部材は、ピーク波長が430nm~480nmの範囲にある青色光で励起され、ドミナント波長が567nm~571nmの範囲にある黄色光を発してよい。これにより、青色光の光源と組み合わせて、例えば白色光を実現することが可能となる。
【0012】
本発明の他の態様は、白色光を出射する発光装置である。発光装置は、ピーク波長が430nm~480nmの範囲にある青色光を発する光源と、上記光源に接合された、上記蛍光部材と、を備える。この態様によると、発光特性の良好な発光装置を実現できる。
【0013】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を製造方法、灯具や照明などの装置、発光モジュール、光源などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、発光特性の良好な蛍光部材および発光装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る蛍光部材におけるBa量およびCe量を説明するための図である。
図2】同実施形態に係る発光装置の模式図である。
図3図3(a)は、単結晶の回折スポットの一例を示す図であり、図3(b)は、多結晶の回折スポットの一例を示す図である。
図4】実施例および比較例に係る蛍光部材におけるBa量およびCe量を示す図である。
図5】実施例に係る発光装置における蛍光部材の板厚と発光装置の有効光束比との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0017】
[蛍光部材]
本実施形態に係る蛍光部材は、単結晶の蛍光体で構成された部材であり、具体的には、結晶構造がガーネット構造であり、一般式がBa3-x-yAl5-xSi12:Ce(ただし、xは、0.01≦x≦0.2を満たし、yは、0.02≦y≦0.1を満たす。)で表される単結晶で構成された蛍光部材である。ここで、ガーネット構造は、結晶系が立方晶で有り、空間群がIa3dである結晶構造である。
【0018】
本実施形態に係る蛍光部材は、青色光で励起され黄色光を発することができる。例えば、蛍光部材は、ピーク波長が430~480nmの範囲にある青色光で励起され、ドミナント波長が567~572nmの範囲にある黄色光を発してよい。なお、黄色発光は、蛍光部材にドープされたCe3+イオン等によって実現され得る。これにより、蛍光部材を例えば青色LEDなどと組み合わせることにより、白色光を出射する発光装置を簡便に作製できる。
【0019】
図1は、本実施形態に係る蛍光部材におけるBa量およびCe量を説明するための図である。図1では、上述の一般式におけるB量(x)を横軸にとり、Ce量(y)を縦軸にとっている。本発明者らは、後述する実施例で示される実験を行うことにより、xが0.01≦x≦0.2を満たし、yが0.02≦y≦0.1を満たす範囲において、良好な発光特性を示す蛍光部材が得られる知見を得た。
【0020】
より詳細には、本発明者らは、Ba量(x)およびCe量(y)が図1に示すハッチングで示した領域Sに含まれるとき、より良好な発光特性を示す蛍光部材が得られる知見を得ている。すなわち、(x、y)が、y=0.3155x+0.0574で表される直線L1、y=0.1052x+0.0191で表される直線L1’、x=0.01で表される直線L2、x=0.20で表される直線L3、およびy=0.10で表される直線L4で囲まれる範囲に含まれる場合に、より良好な発光特性を示す蛍光部材が得られる。
【0021】
本実施形態に係る蛍光部材は、単結晶で構成されており、より良好な発光特性を実現している。これは、本実施形態に係る蛍光部材では、多結晶で構成されている場合と比べて、熱伝導率が向上しており、発光時において発生する熱が拡散し易くなり、蛍光部材における温度上昇が抑制されているためであると推測される。
【0022】
多結晶は、微細な単結晶の粒子が集まって構成されている固体であり、多結晶を構成する互いに隣接した粒子の間には、粒界または空間(ボイド)が存在する。この粒界およびボイドは、熱伝導の抵抗となる。一方単結晶は、構成元素が規則正しく並んでおり、あらゆる部位で結晶軸方向が同一な固体である。このため、単結晶では、多結晶のような粒子間の粒界およびボイドは存在しない(または少ない)。このように、単結晶で構成された本実施形態に係る蛍光部材では、熱伝導の抵抗となる粒界およびボイドがない(または少ない)ため、熱伝導率を向上させ、その結果、良好な発光特性を実現可能となる。
【0023】
[製造方法]
本発明の一実施形態に係る蛍光部材の製造方法の一例を説明する。本実施形態に係る蛍光部材の製造方法では、各種の方法を用いて蛍光体の単結晶を作製し、蛍光体の単結晶を加工して蛍光部材を作製する。
【0024】
蛍光体の原料は、上述の一般式に含まれる元素を有するものであり、例えばY、CeO、α-Al、BaCOおよびSiOなどであってよい。また、原料の形状は、特に限定されないが、本実施形態では、粉末状である例を説明する。
【0025】
これらの粉末原料を所望の組成比となるように混合し、必要に応じて例えばBaFなどのフラックスを加えて混合物を得る。所定の雰囲気(例えば水素および窒素の還元雰囲気など)において、得られた混合物を加熱することにより蛍光体の粉末を合成できる。
【0026】
合成した蛍光体の粉末を用いて、蛍光体の単結晶を作製する。例えば、FZ(Floating Zone)法を用いて、蛍光体の単結晶を作製してよい。この場合、蛍光体の粉末を湿式ボールミルで混合および粉砕し、その後、蛍光体の粉末を加熱乾燥して、所定の形状に成形することにより焼結原料を作製する。この焼結原料をFZ炉において所定の加熱温度により加熱し、単結晶育成を行うことにより、蛍光体の単結晶のインゴットを作製できる。このようにして得られた単結晶のインゴットを各種の公知の加工方法によって加工することにより、所望の形状の蛍光部材を得ることができる。
【0027】
なお、ここではFZ法を用いて蛍光体の単結晶を得る方法を説明したが、蛍光体の単結晶を得る方法はこれに限られるものではなく、例えば、ブリッジマン法またはCZ(Czochralski)法などであってもよい。例えば、FZ法によって作製された蛍光体の単結晶を種結晶として、ブリッジマン法またはCZ法によって蛍光部材を作製することもできる。
【0028】
[発光装置]
図2を参照して、上述の蛍光部材を用いた発光装置の一例を説明する。図2は、本実施形態に係る発光装置10を側面視した模式図である。図2に示すように、本実施形態に係る発光装置10は、基板12と、基板12上に設けられた光源14と、光源14上に設けられた蛍光部材16とを備える。
【0029】
光源14は、各種の光を出射し、例えば、LED(Light Emitting Diode)などを含んでよい。光源14は、例えばピーク波長が430nm~480nmの範囲にある青色光などを発することができる。光源14は、上面から蛍光部材16に向かう方向に光を出射し、出射された光は、蛍光部材16に入射する。
【0030】
蛍光部材16は、光源14から出射された光の波長を変換して、変換した光を発する。具体的には、蛍光部材16は、入射した光の少なくとも一部の光の波長を変換して、黄色光などを発することができる。光源14が出射する青色光および蛍光部材16が発する黄色光は、例えば白色光を形成してよい。形成された白色光は、蛍光部材16の上方に出射される。
【0031】
蛍光部材16の形状は、特に限定されるものではないが、図2に示すように板状の形状であってよい。この場合、蛍光部材16の厚さtは、好ましくは、0.02mm<t<0.6mmの範囲にあり、より好ましくは、0.05mm<t<0.6mmの範囲にある。蛍光部材16の厚さを0.2mmよりも大きくすることにより、蛍光部材16の機械的強度を高めることができ、例えば実装時における歩留まりを向上させることができる。また、蛍光部材16の厚さを0.2mmよりも大きくすることにより、光源14から出射された光を十分に変換させて、所望の光(例えば白色光)を実現させ易くなる。また、蛍光部材16の厚さを0.6mm未満とすることにより、蛍光部材16の側面から漏れる光の量を低減し、発光装置10の有効光束を向上させ易くなる。
【0032】
上面視したときの蛍光部材16の形状は、任意の形状であってよいが、例えば矩形であってよい。例えば、上面視したときの蛍光部材16の形状は正方形であり、その寸法は、例えば、1mm~3mm角であってよい。
【0033】
また、蛍光部材16は、任意の方法によって光源14と接合されていてよいが、例えば、蛍光部材16は、常温接合などによって光源14と接合されていてよい。
【0034】
[実施例]
以下、実施例および比較例を用いて更に具体的に説明するが、以下の蛍光部材の原料、製造方法、蛍光部材の化学組成等の記載は本発明の蛍光部材の実施の形態を何ら制限するものではない。
【0035】
(測定)
各実施例および各比較例では、分光光度計(FP-8500、日本分光株式会社製)を用いて、波長が460nmの光で励起された試料が発する光のドミナント波長を測定した。ドミナント波長の目標値の範囲は、567.6nm~570.4nmとした。
【0036】
また、実施例1~8および比較例1では、作製した試料について、X線回折(XRD)を用いて結晶性を判定した。具体的には、X線回折装置(単結晶XRD、株式会社リガク製)を用いて試料の回折スポットを観測し、観測した回折スポットに基づいて試料の結晶性を判定した。
【0037】
図3(a)は、単結晶の回折スポットの一例を示す図であり、図3(b)は、多結晶の回折スポットの一例を示す図である。図3(a)に示すように、単結晶は、結晶方位や面間隔に対応して回折した原子が回折スポットを形成し、幾何学的なパターンを示す。一方、図3(b)に示すように、多結晶は、複数の結晶から得られる多数の回折スポットが同心円状のリング(デバイシェラーリング)を示す。実施例1~8および比較例1では、観測された回折スポットに応じて、試料の結晶性を判別した。
【0038】
(実施例1)
実施例1に係る蛍光部材の組成式は、Ba0.052.89Al4.95Si0.05:Ce0.06で表される。実施例1に係る蛍光部材は、以下のようにして製造した。まず、Y(99.99%、株式会社高純度化学研究所製)、CeO(99.99%、株式会社高純度化学研究所製)、α-Al(99.99%、株式会社高純度化学研究所製)、BaCO(99.9%、関東化学株式会社製)、SiO(99.9%、株式会社トクヤマ製)の粉末原料を準備した。実施例1では、これらの粉末原料を、Ba(x)=0.05、Y=2.89、Al=4.95、Si=0.05、Ce(y)=0.06のmol比となるように計量した。実施例1~8および比較例1に係る元素の仕込み比を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
フラックスとしてBaF(99%、株式会社高純度化学研究所製)を、粉末原料の合計重量の5wt%計量し、粉末原料と合わせ、それらを乳鉢で均一混合し、混合物を得た。その後、アルミナルツボ(SSA-S B1、株式会社ニッカトー製)に混合物を入れ、還元雰囲気中(H:N=5:95(vol比))、1550℃で4hr加熱し、蛍光体の粉末を合成した。合成した蛍光体の粉末を常温まで冷却し、その後、乳鉢で冷却した蛍光体の粉末を粉砕した。粉砕した蛍光体の粉末を分光光度計(FP-8500:日本分光株式会社製)にて、波長が460nmの光で励起された蛍光体の発光特性を測定した。その結果、実施例1に係る蛍光体のドミナント波長λdは、569.0nmであり、目標値の中心に入った。
【0041】
25gに計量した蛍光体の粉末をφ1mmのアルミナボール250gおよび純粋200mlとともに、容量が500mlのポリポットに入れ、このポリポットを60rpmで24hr回転させた。次に、テフロン(登録商標)でコーティングされたアルミニウム製のバットに蛍光体の粉末を移し、加熱乾燥して乾燥物を得た。次に、乾燥物を目開き50μmのナイロンメッシュに通した後、乾燥物を5g計量し、φ5×L50mmの寸法に成形して成形体を得た。この成形体を1500℃で12hr空気中で焼結させ、棒状の焼結原料(「焼結原料棒」ともいう。)を得た。
【0042】
その後、FZ炉において、ハロゲンランプの集光熱により、焼結原料棒を1700℃で加熱し、Ar・水素雰囲気(Ar:H=96:4(vol比))中において育成速度1.0mm/hrで結晶成長を行い、インゴットを得た。
【0043】
得られたインゴットから蛍光部材の試料を切り出し、分光光度計を用いて、波長が460nmの光で励起された試料の発光特性を測定した。その結果、実施例1に係る試料のドミナント波長λdは、569.0nmであり、目標値の範囲の中心に入った。また、X線回折装置を用いて試料の結晶性を判定したところ、試料が単結晶であることがわかった。
【0044】
実施例1に係る試料のドミナント波長の測定結果および結晶性の判定結果は、実施例2~7および比較例1の結果と併せて表1に示している。表1では、ドミナント波長λdが567.4nm≦λd≦570.6nmを満たす場合を○、満たさない場合を×としている。また、結晶性について、試料が単結晶である場合を○、単結晶でない場合を×としている。
【0045】
(実施例2)
実施例2に係る蛍光部材の組成式は、Ba0.012.97Al4.99Si0.01:Ce0.02で表される。実施例2では、粉末原料を、Ba(x)=0.01、Y=2.97、Al=4.99、Si=0.01、Ce(y)=0.02のmol比となるように計量したこと以外は実施例1と同様にして焼結原料を得た。
【0046】
その後、焼結原料をるつぼに入れ、実施例1において作製した単結晶を種結晶とし、ブリッジマン法を用いて単結晶育成し、インゴットを得た。育成条件は、加熱温度を1700℃、育成速度を1.0mm/hrとした。得られたインゴットから蛍光部材の試料を切り出し、試料のドミナント波長および結晶性を判定した。その結果、実施例2に係る試料では、ドミナント波長は567.6nmで目標値の範囲の下限値であり、結晶性は単結晶であった。
【0047】
(実施例3)
実施例3に係る蛍光部材の組成式は、Ba0.012.93Al4.99Si0.01:Ce0.06で表される。実施例3では、粉末原料を、Ba(x)=0.01、Y=2.93、Al=4.99、Si=0.01、Ce(y)=0.06のmol比となるように計量したこと以外は実施例1と同様にして焼結原料を得た。
【0048】
実施例3では、以下のようにCZ法を用いてインゴットを得た。まず、実施例1で作製した単結晶の試料を種結晶として、回転軸の先端に取り付け、焼結原料をるつぼに入れ、るつぼ中において焼結原料を1700℃で融解した。そこに種結晶を接触させ、回転軸を1rpmで回転させながら、1.0mm/hrで種結晶を引き上げて、インゴットを得た。インゴットから蛍光部材の試料を切り出し、試料のドミナント波長および結晶性を判定した。その結果、実施例3に係る試料では、ドミナント波長は570.4nmで目標値の範囲の上限値であり、結晶性は単結晶であった。
【0049】
(実施例4~8)
実施例4~8に係る蛍光部材の組成式は、Ba3-x-yAl5-xSi12:Ceにおいて、x=0.10、y=0.03(実施例4)、x=0.10、y=0.09(実施例5)、x=0.20、y=0.04(実施例6)、x=0.20、y=0.08(実施例7)、x=0.20、y=0.10(実施例8)である。実施例4~8では、実施例3と同様のそれぞれの粉末原料を、所望のmol比となるように計量した以外は、実施例3と同様の条件で蛍光部材の試料を作製した。作製した試料のドミナント波長および結晶性を判定したところ、実施例4~8に係る試料では、いずれも、ドミナント波長が目標の範囲内であり、結晶性は単結晶であった。
【0050】
(比較例1)
比較例1に係る蛍光部材の組成比は、Ba3-x-yAl5-xSi12:Ceにおいて、x=0.20、y=0.12である。比較例1では、実施例3と同様のそれぞれの粉末原料を、所望の組成比となるように計量した以外は、実施例3と同様の条件で蛍光部材の試料を作製し、試料のドミナント波長および結晶性を判定した。
【0051】
比較例1に係る試料のドミナント波長は、570.4nmであり、目標の範囲の上限値であった。また、比較例1に係る試料は、Ce由来の異相を含む半透明な結晶であり、単結晶ではなかった。異相が発生したことの原因は、粉末原料の混合物に含まれるCe量が過剰であるため、結晶の格子内にすべてのCeをドーピングできなかったためであると推測される。
【0052】
図4は、実施例1~8および比較例1に係る試料におけるBa及びCeの仕込み比を示す図である。図4では、横軸はBaの仕込み比、縦軸はCeの仕込み比を示し、いずれもmol比を示している。
【0053】
実施例1~8に係る蛍光部材の試料では、ドミナント波長が目標の範囲(567.5nm~570.5nm)内であり、かつ、結晶性が単結晶であった。したがって、一般式Ba3-x-yAl5-xSi12:Ceにおいて、xが0.01≦x≦0.2を満たし、yが0.02≦y≦0.1を満たす場合に、ドミナント波長が目標の範囲内であり、かつ、結晶性が単結晶である蛍光部材が得られたといえる。より詳細には、一般式において、(x,y)が、直線L1(y=0.3155x+0.0574)、直線L1’(y=0.1052x+0.0191)、直線L2(x=0.01)、直線L3(x=0.20)および直線L4(y=0.10)の5つの直線で囲まれる範囲にあるとき、ドミナント波長が目標の範囲内であり、かつ、結晶性が単結晶である蛍光部材が得られることがわかった。
【0054】
以下、実施例9-1~8,10-1~6および比較例2の結果を示す。以下の実施例9-1~8,10-1~6および比較例2では、青色LEDの光源に板状の蛍光部材を搭載し、図2に示す発光装置を作製した。なお、以下では、実施例9-1~8のそれぞれを互いに区別しないとき、これらをまとめて単に「実施例9」と称し、10-1~6のそれぞれを互いに区別しないとき、これらをまとめて単に「実施例10」と称する。
【0055】
実施例9、10および比較例2では、熱伝導度計を使用して、定常法により、作製した蛍光部材の熱伝導度を測定した。また、上述の実施例1~8および比較例1と同様にして、実施例9、10および比較例2では、波長が460nmの光で励起された蛍光部材が発する光のドミナント波長を測定した。
【0056】
また、実施例9、10および比較例2では、作製した発光装置について、マルチチャネル分光器(MCPD-1000、大塚電子株式会社製)を用いて、発光装置の光束(有効光束)を測定した。具体的には、マルチチャネル分光器のプローブを発光装置の直上5cmに設置し、青色LEDに500mAの電流を10分間通電した。蛍光部材の温度が安定したあと、マルチチャネル分光器のプローブが受光する、発光装置から出射された有効光束を測定した。また、測定した発光装置の有効光束を比較例2に係る発光装置の有効光束で割った値を有効光束比として算出した。
【0057】
(比較例2)
比較例2では、実施例1と同様にして作製した蛍光体の粉末を濃度3vol%でシリコーン樹脂と混練し、蛍光体の粉末が混合した蛍光樹脂を得た。その蛍光樹脂を、厚さ0.2mm、1mm角の樹脂シート(蛍光部材)に成形した。この樹脂シートの熱伝導率を測定したところ、比較例2に係る樹脂シートの熱伝導率は、0.3W/m・Kであった。また、分光光度計を用いてドミナント波長を測定したところ、比較例2に係る樹脂シートのドミナント波長は、569.0nmであり、目標の中央の値であった。この樹脂シートを1mm角の青色LEDに搭載し、発光装置を作製し、発光装置の有効光束を測定した。
【0058】
実施例9,10と併せて、比較例2に係る蛍光部材のドミナント波長、熱伝導率および発光装置の有効光束比などの結果を表2にまとめて示す。表2において、有効光束比が1.0以上である場合を○、有効光束比が1.0未満である場合を×としている。なお、比較例2の有効光束を有効光束比の基準としているため、表2では有効光束比を示していない。
【0059】
【表2】
【0060】
(実施例9)
実施例9では、実施例1のインゴットを適度に切削し、鏡面研磨して、0.02mm、0.05mm、0.10mm、0.20mm、0.30mm、0.40mm、0.50mmまたは0.60mmの厚さの単結晶板を得た。それぞれの単結晶板を1mm角に切り出したものを蛍光部材とした。作製した蛍光部材の熱伝導率およびドミナント波長を測定したところ、いずれの蛍光部材についても、熱伝導率は13W/m・Kであり、ドミナント波長は569.0nmで目標値の範囲の中心に入った。
【0061】
次に、作製した蛍光部材を青色LEDに常温接合することにより、発光装置を作製した。マルチチャネル分光器を用いて作製した発光装置の発光性能を測定したところ、蛍光部材の厚さ(以下、「板厚」ともいう。)が0.05mm~0.50mm(実施例9-2~7)の範囲にあるとき、有効光束比は1.0より大きくなった。良好な有効光束比となったのは、蛍光部材を単結晶で構成することにより、熱伝導度が向上し、発熱による発光特性の低下が抑制されたためであると推測される。一方、板厚が0.02mm(実施例9-1)または0.60mm(実施例9-8)であるとき、有効光束比は1.0より小さくなった。
【0062】
(実施例10)
実施例10では、実施例2のインゴットを適度に切削し、鏡面研磨して、0.05mm、0.10mm、0.20mm、0.40mm、0.50mmまたは0.60mmの厚さの単結晶板を得た。それぞれの単結晶板を1mm角に切り出したものを蛍光部材とした。作製した蛍光部材の熱伝導率およびドミナント波長を測定したところ、いずれの蛍光部材についても、熱伝導率は13W/m・Kであり、ドミナント波長は567.6nmで目標値の範囲の下限値となった。
【0063】
次に、作製した蛍光部材を青色LEDに常温接合することにより、発光装置を作製した。マルチチャネル分光器を用いて作製した発光装置の発光性能を測定したところ、板厚が0.10mm~0.50mm(実施例10-2~5)の範囲にあるとき、有効光束比は1.0より大きくなった。良好な有効光束比となったのは、蛍光部材を単結晶で構成することにより、熱伝導度が向上し、発熱による発光特性の低下が抑制されたためであると推測される。また、板厚が0.05mm(実施例10-1)または0.60mm(実施例10-6)であるとき、有効光束比は1.0より小さくなった。
【0064】
図5は、実施例9,10に係る蛍光部材の板厚と発光装置の有効光束比との関係を示す図である。図5において、丸のプロットは、実施例9に係る蛍光部材の板厚と発光装置の有効光束比との関係を示し、白抜きの四角のプロットは、実施例10に係る蛍光部材の板厚と発光装置の有効光束比との関係を示している。
【0065】
蛍光部材の仕込み比においてCe量が0.06molである実施例9では、板厚と発光装置の有効光束比の関係は、図5に示すように山形のグラフとなった。実施例9では、板厚が0.02mmであるとき、有効光束比は0.98であり、1.0より小さい。しかしながら、板厚が0.02mmよりも大きくなるに伴い、有効光束比が上昇し、板厚が0.20mmのとき、有効光束比が1.4でピークとなった。板厚をさらに大きくすると有効光束比が小さくなり、板厚が0.60mmのとき、有効光束比が0.98となり、再び1.0よりも小さくなった。以上より、仕込み比におけるCe量が0.06molである場合、板厚tが0.02mm<t<0.60mmを満たすとき、有効光束比が1.0より大きくなった。
【0066】
板厚が0.02mmのときに有効光束比が1.0より小さい理由は、蛍光部材によって波長が変換されないまま蛍光部材を通過する励起光が多く、蛍光部材が発する黄色光が弱いためであると考えられる。また、この板厚では、蛍光部材の機械的強度が弱くなり、実装時における歩留まりが低下すると推測される。一方、板厚が0.60mmのとき、蛍光部材の上面に対する蛍光部材の側面の面積比は、他の板厚(0.02mm~0.50mm)と比べて大きくなる。板厚が0.60mmのときに有効光束比が1.0よりも小さい理由は、蛍光部材の内部において青色光から変換された黄色光が蛍光部材の内部を伝搬し、蛍光部材の側面から漏れる光の量が多くなったためであると考えられる。
【0067】
蛍光部材の仕込み比においてCe量が0.03mol(実施例9のCe量の半分)である実施例10では、板厚が0.05mmのとき、有効光束比が0.95であり、1.0より小さい。しかしながら、板厚を0.05mmよりも大きくすると、有効光束比は上昇し、板厚が0.40mmのとき、有効光束比は1.3でピークとなった。板厚をさらに大きくすると、有効光束比は小さくなり、板厚が0.60mmのとき、有効光束比は0.95となり、1.0よりも小さくなった。以上より、Ce量が0.03molである蛍光部材を用いた発光装置において、有効光束比が1.0より大きくなる板厚tの範囲は、0.02mm<t<0.60mmであった。
【0068】
板厚が0.05mmである実施例9-2に係る発光装置において有効光束比が1.0よりも大きいのに対して、板厚が0.05mmである実施例10-1に係る発光装置において有効光束比が1.0より小さい。この理由は、蛍光部材において黄色光に変換されないまま蛍光部材を通過する励起光が実施例9よりも多くなり、蛍光部材が発する黄色光の強度が実施例9よりも弱くなったためであると考えられる。また、板厚が0.60mmである実施例10-6に係る発光装置の有効光束比が0.95であり、1.0より小さい理由は、板厚が厚く、蛍光部材の側面から光が漏れやすくなっているためであると考えられる。
【0069】
以上、各実施例および各比較例について説明した。上述の実施例によれば、結晶構造がガーネット構造であり、一般式がBa3-x-yAl5-xSi12:Ce(ただし、xは、0.01≦x≦0.2を満たし、yは、0.02≦y≦0.1を満たす。)で表される単結晶で構成された蛍光部材を用いることにより、良好な有効光束の発光装置を作製できた。特に、実施例9-4に係る発光装置の有効光束は、比較例1に係る蛍光体シートを用いた発光装置の有効光束の1.4倍となった。
【0070】
[補足]
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0071】
10 発光装置、12 基板、14 光源、16 蛍光部材。
図1
図2
図3
図4
図5