(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014489
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】低温液貯槽及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F17C 3/04 20060101AFI20230124BHJP
B65D 90/02 20190101ALI20230124BHJP
【FI】
F17C3/04 D
B65D90/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118456
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000113517
【氏名又は名称】BASF INOACポリウレタン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 龍樹
【テーマコード(参考)】
3E170
3E172
【Fターム(参考)】
3E170AA08
3E170AB29
3E170NA04
3E170NA05
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB04
3E172BA06
3E172BB04
3E172BB12
3E172BB17
3E172BC05
3E172BC06
3E172BD05
3E172CA07
3E172CA10
3E172DA13
3E172DA17
3E172DA26
(57)【要約】
【課題】低温液貯槽の外槽のコーティング作業を容易にすることが求められている。
【解決手段】本開示の低温液貯槽100では、外槽30の内面に、下吹き層12、発泡樹脂層13、補強層14が積層されている。補強層14は、補強繊維16を含有していて、その補強繊維16は、上下方向、左右方向にランダムになって重なっている。また、補強繊維16の含有率は、補強層14のうち発泡樹脂層13側の方が内槽20側よりも高くなっている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0℃以下の低温液が貯留される内槽と、その外側を覆う外槽と、前記外槽の内側面にコーティングされた発泡樹脂層と、を備える低温液貯槽であって、
前記発泡樹脂層の内側面に、チョップドストランドを含む樹脂製の補強層を有している低温液貯槽。
【請求項2】
前記補強層は、発泡樹脂を含んでいる請求項1に記載の低温液貯槽。
【請求項3】
前記補強層のうち前記発泡樹脂層側の方が前記内槽側よりも前記チョップドストランドの含有率が高い請求項1又は2に記載の低温液貯槽。
【請求項4】
前記発泡樹脂層及び前記補強層は、ウレタンフォームを含んでいる請求項1から3のうち何れか1の請求項に記載の低温液貯槽。
【請求項5】
前記補強層のうち少なくとも前記発泡樹脂層側の樹脂は、前記発泡樹脂層よりも発泡倍率が小さい請求項1から4の何れか1の請求項に記載の低温液貯槽。
【請求項6】
前記補強層の厚さが、5~20mmである、請求項1から5の何れか1の請求項に記載の低温液貯槽。
【請求項7】
前記チョップドストランドの長さが10~50mmである請求項1から6の何れか1の請求項に記載の低温液貯槽。
【請求項8】
前記補強層内の前記チョップドストランドの前記発泡樹脂層の内側面に対する平均傾斜角は25°以下である請求項1から7の何れか1の請求項に記載の低温液貯槽。
【請求項9】
0℃以下の低温液が貯留される内槽と、その外側を覆う外槽と、前記外槽の内側面にコーティングされ、前記低温液の漏れを抑え、冷熱衝撃を緩和するための発泡樹脂層と、を備える低温液貯槽の製造方法であって、
前記外槽の内側面に原料を塗布し、発泡硬化させて前記発泡樹脂層を形成する第1工程と、
前記発泡樹脂層の内側面に、樹脂液をチョップドストランドと共に塗布し、硬化させて補強層を形成する第2工程と、を行う低温液貯槽の製造方法。
【請求項10】
前記第2工程では、前記樹脂液を前記発泡樹脂層の内側面に向けて噴霧すると共に、噴霧されて前記発泡樹脂層の内側面に付着するまでの前記樹脂液の飛沫に前記チョップドストランドを混入する請求項9に記載の低温液貯槽の製造方法。
【請求項11】
前記第2工程では、前記樹脂液として、前記発泡樹脂層の内側面に付着してから60秒経過後に液だれしないものを用いる請求項9又は10に記載の低温液貯槽の製造方法。
【請求項12】
前記チョップドストランドを含む前記樹脂液を塗布した上から、前記チョップドストランドを含まない前記樹脂液を重ねて塗布する請求項9から11の何れか1の請求項に記載の低温液貯槽の製造方法。
【請求項13】
前記チョップドストランドを含む前記樹脂液を塗布した後、前記補強層の硬化が完了する前に、前記補強層の表面を押圧する請求項9から11の何れか1の請求項に記載の低温液貯槽の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、0℃以下の低温液が貯留される低温液貯槽及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の低温液貯槽として、内部に低温液を貯留する内槽と、その内槽を外側から覆う外槽とを備え、外槽の内側面に発泡樹脂層がコーティングされたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3044605号(段落[0002]、
図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の低温液貯槽は、発泡樹脂層の表面に接着剤層を介して補強シートを備えた構成となっている。この構成では、補強シートが浮いてはがれないように、接着剤を塗る前に発泡樹脂層の表面を切削して平坦にする工程が必要であった。これに鑑みて、低温液貯槽の外槽のコーティング作業を容易にすることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた本発明の第1態様は、0℃以下の低温液が貯留される内槽と、その外側を覆う外槽と、前記外槽の内側面にコーティングされた発泡樹脂層と、を備える低温液貯槽であって、前記発泡樹脂層の内側面に、チョップドストランドを含む樹脂製の補強層を有している低温液貯槽である。
【発明の効果】
【0006】
発明の第1態様によれば、発泡樹脂層が、補強シートではなくチョップドストランドにより補強されるので、発泡樹脂層に凹凸があってもその凹凸に応じてチョップドストランドが配されるので、切削等の工程を必要とせず、外槽のコーティング作業を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の一実施形態に係る低温液貯槽の破断正面図
【
図4】低密度硬質ウレタンフォームからなる拡散層の内部に進入した液化天然ガスの流れを示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、
図1~
図4を参照して、本開示の低温液貯槽100について説明する。
図1に示すように、本実施形態の低温液貯槽100は、内槽20と外槽30とを備えた中空円筒状のタンク部40と、タンク部40の周囲を取り囲む円筒状の防液堤50と、からなる。タンク部40は、内槽20の内部に液化天然ガスLを貯留する。なお、低温液貯槽100の容量は、大型と呼ばれるものは一般的に14万~23万kLであり、23万kLの低温液貯槽100では、防液堤50の直径は約90mであり、その高さは約40mとなる。
【0009】
内槽20及び外槽30は、それぞれ天井部21,31を備え、その内部が外部に対して遮断された構造となっている。天井部21,31は、中央部が膨らんだドーム形状をなし、気化した液化天然ガスLが充満する空間となっている。内槽20及び外槽30は共に、金属で構成されていて、例えば、低温靭性の観点から、鉄や鋼鉄等が好ましい。特に、内槽20は、常時極低温に曝されるため、低温靭性に優れた鉄を主成分とするニッケル等の合金が好ましい。
【0010】
防液堤50は、液化天然ガスLの漏洩事故発生時に液化天然ガスLの拡散防止のために設置されていて、本実施形態では、防液堤50の内側面は、外槽30の外側面に重ねられている。なお、防液堤50は、ひび割れしにくいプレストレストコンクリートで構成されている。
【0011】
タンク部40において、内槽20と外槽30の間に形成される空間には、液化天然ガスLを-160℃程度に保ち、液化天然ガスLの気化を低減するための保冷層60が備えられている。保冷層60は、天井部保冷層61、側部保冷層62、底部保冷層63から構成されている。
【0012】
詳細には、内槽20及び外槽30のうち、天井部21,31に形成される空間と、側部22,32に形成される空間と、には、天井部保冷層61及び側部保冷層62として、断熱性能を有する粒状パーライト等が充填されている。また、内槽20及び外槽30のうち、底部23,33に形成される空間には、底部保冷層63として、耐荷重性能及び断熱性能を有するパーライトコンクリート、軽量気泡コンクリート等が配設されている。
【0013】
さて、低温液貯槽100では、外槽30の内側面30Sに緩和層10がコーティングされている。この緩和層10は、漏洩した液化天然ガスLの冷熱衝撃が、防液堤50に急激に伝わることを防止するために形成されている。
【0014】
図2に示すように、緩和層10は、外槽30の内側面30S全体を覆う側面緩和層10Sと、外槽30の内底面30Tのうち、周縁部を全周に亘って覆う環状の底面緩和層10Tとからなる。なお、底面緩和層10Tは、底部保冷層63の周縁部も覆っている。
【0015】
図3には、本実施形態の緩和層10の断面構造が示されている。緩和層10は、外槽30の内面(内側面30S及び内底面30T)に、下吹き層12、発泡樹脂層13(13A,13B)、補強層14が積層されてなる。
【0016】
下吹き層12及び発泡樹脂層13は、ウレタンフォーム原料を発泡硬化させて形成される硬質ウレタンフォームで構成されている。硬質ウレタンフォームは、比較的薄い厚みで、優れた断熱性能を有している。このため、液化天然ガスLの冷熱による急激な温度変化(冷熱衝撃)を緩和して、防液堤50に冷熱衝撃が加わることを防止することができる。
【0017】
下吹き層12は、外槽30の内面に直接積層される層であり、発泡樹脂層13の接着性を確保するためのプライマー的役割を果たす層である。厚みは、0.1~5mmが好ましい。
【0018】
発泡樹脂層13は、下吹き層12に積層されていて、液化天然ガスLの急激な冷熱の伝達を抑制し、緩和することで、防液堤50を保護している。そのため、発泡樹脂層13は、優れた断熱性能及び圧縮強度を有し、かつ、空間の効率利用の観点から厚みは薄い方が好ましい。具体的には、密度が40~80kg/m3、熱伝導率が0.040W/mK以下、圧縮強度が360kPa以上のものが好ましい。また、発泡樹脂層13の厚みは、40mm以上60mm以下が好ましい。この厚みにすることにより、外槽30の局所的な温度低下を抑制することができる。なお、本実施形態では、発泡樹脂層13は2層(13A,13B)で構成されているが、1層であってもよいし、3層以上で構成されていてもよい。発泡樹脂層13のスキン層は、高密度のウレタン層であり、コア部に比べてウレタン樹脂の比率が増すため、熱伝導率が高くなり、断熱性能が低下する。このため、発泡樹脂層13を構成する層の数は少ない方が好ましく、1層又は2層で構成することがより好ましい。
【0019】
なお、発泡樹脂層13に求められる圧縮強度は、一般社団法人 日本ガス協会のLNG地上式貯槽指針における「9.5.2.2 荷重の算定」より、防液堤の高さを40m(23万kLの低温液貯槽を想定)とし、「8.4.4 冷熱抵抗緩和材」より、安全率を2.0として算出すると、約360KPaとなる。そのため、発泡樹脂層13に必要な圧縮強度は、360KPa以上となる。
【0020】
本実施形態の発泡樹脂層13は、密度、65kg/m3、熱伝導率、0.022W/mK、圧縮強度、520KPa、厚み、50mm(25mmが2層)である。
【0021】
発泡樹脂層13の表面には、補強層14が積層されている。補強層14は、硬質ウレタンフォームで構成され、その厚みは、5~20mmとなっている。
【0022】
図4に示すように、補強層14は、補強繊維16を含有している。補強繊維16は、10~50mm(38mm以上が好ましい)のガラス繊維のチョップドストランドであり、ほとんどが補強層14の内部に配されている。補強繊維16は、炭素繊維やアラミド繊維等であってもよい。
【0023】
補強繊維16は、上下方向、左右方向にランダムになって重なっている。補強繊維16の一部は、発泡樹脂層13の内側面に対して略平行に延び、残りは、発泡樹脂層13の内側面に対して傾斜していて、補強繊維16の発泡樹脂層13の内側面に対する平均傾斜角は25°以下である。また、補強繊維16の含有率は、補強層14のうち発泡樹脂層13側の方が内槽20側よりも高くなっている。
【0024】
また、本実施形態では、補強層14の硬質ウレタンフォームは2層(14A,14B)で構成されている。発泡樹脂層13側の第1補強層14Aは、内槽20側の第2補強層14Bよりも厚くなっていて、補強繊維16の含有率は、第1補強層14Aの方が第2補強層14Bよりも高くなっている。第2補強層14Bに含まれる補強繊維16のほとんどは、第1補強層14Aの内部や表面から第2補強層14Bにかけて延びていて、全体が第2補強層14Bに配される補強繊維16はほとんどない。
【0025】
第2補強層14Bの硬質ウレタンフォームの発泡倍率は発泡樹脂層13の硬質ウレタンフォームの発泡倍率と同一である一方、第1補強層14Aの硬質ウレタンフォームの発泡倍率は発泡樹脂層13の硬質ウレタンフォームの発泡倍率よりも小さくなっている。これは、補強繊維16を含有する第1補強層14Aの硬質ウレタンフォームの発泡倍率が大きすぎると、補強繊維16の保持力が十分ではなくなるためである。第1補強層14Aの硬質ウレタンフォームは、発泡倍率が1~10倍、フリー発泡密度が120~1200kg/m3、目付量が1.2kg/m2(=1200kg/m3×0.001m)以上、であることが好ましい。
【0026】
次に、緩和層10の施工方法について
図5~7を用いて説明する。緩和層10の施工は、内槽20、外槽30および防液堤50がほぼ完成した状態で、内槽20及び外槽30の側部22,32同士の間に粒状パーライトが充填される前に行われる。従って、
図6に示すように、内槽20の側部22と外槽30の側部32との間の狭い空間内に作業者M,N,O,Pが入って施工を行う。このとき、底部は外槽30の上に底部保冷層63が配設され、その上に内槽20が配置されているため、通常は、図示しない天井に設けられた入口から出入りする。なお、内槽20の側部22と外槽30の側部32との幅は、1000mm~2000mmであり、高さは約45mである。
【0027】
緩和層10のうち、外槽30の内側面30Sに備えられる側面緩和層10Sの施工は、
図5に示すように、図示しない天井に設置されたトロリービームに取り付けられたゴンドラ70に乗り込んだ作業者M,N又はOによって行われる。ゴンドラ70は、空間K内を外槽30の内側面30Sに沿って昇降可能及び水平移動可能に吊持されている。
【0028】
緩和層10の施工は、外槽30の内側面30S及び内底面30Tを、鉛直方向に所定間隔で分割した複数の施工領域W毎に行われる。側面緩和層10Sの施工においては、ゴンドラ70に乗り込んだ作業者M、N又はOが、施工領域Wを上端部又は下端部から順に施工を行っていく。ある施工領域Wの施工が終わったら、隣の施工領域Wに水平移動し、同様にして上端部又は下端部から繰り返し施工を行っていく。なお、施工領域Wを上端部又は下端部から順に施工を行う際、ゴンドラ70から施工できない領域は、施工を行わないで、隣の施工領域Wへ水平移動する。上述した側面緩和層10Sのうちゴンドラ70から施工できない領域及び底面緩和層10Tについては、
図5に示すように、側面緩和層10Sの施工が完了した後に又は側面緩和層10Sの施工と並行して作業者Pが行う。あるいはM、N又はOが都度、ゴンドラ70を降りて連続して施工してもよい。
【0029】
図6には、緩和層10の施工の流れが示されている。同図に示されるように、緩和層10の施工は、まず第1工程S1が作業者Mにより行われる。その後、作業者Mを追いかけるように作業者Nにより、第2工程S2が行われる。さらに、その後、作業者Nを追いかけるように作業者Oにより、第3工程S3が行われる。
【0030】
第1工程S1では、ウレタンフォーム原料をスプレー工法により外槽30の内面に吹き付け、発泡硬化させて発泡樹脂層13を形成させる。このとき、発泡樹脂層13を形成する前に、同様のスプレー工法により下吹き層12を形成させておく。
【0031】
詳細には、第1工程S1では、作業者Mが、携行しているスプレーガン90でウレタンフォーム原料を外槽30の内面に向けて吹き付けて下吹き層12を形成した後、再度吹き付けて、発泡樹脂層13を所定の厚さになるように形成する。本実施形態では、2回に分けて吹き付けを行い、2層の発泡樹脂層13A,13Bを形成している。これは、1回のスプレー吹き付けで、所定の厚みを形成しようとしても、吹き付けたウレタンフォーム原料の発泡硬化がある程度進み、形状保持力を発揮する前に垂れることで、所定の厚みを一様に確保することが難しくなるためである。この場合、1回目の吹き付けが終わった後、硬化が進行して表面のタック(ベタツキ)がなくなった後に2回目の吹き付けを行う。なお、外側の発泡樹脂層13A及び内側の発泡樹脂層13Bの厚みは略同じとなるように形成する。
【0032】
本実施形態では、下吹き層12は、発泡樹脂層13と同じウレタンフォーム原料を塗布して形成される。下吹き層12の存在により外側の発泡樹脂層13Aの外槽30の内側面30Sへの接着性を向上させることができる。この場合も、下吹き層12の吹き付けが終わった後、硬化が進行して表面のタックがなくなった後に吹き付けを行う。なお、下吹き層12を設けず、外槽30の内面に直接、発泡樹脂層13を形成した場合、金属製で熱伝導率の高い外槽30の内面に付着した部分から熱が奪われて、発泡度合いが不十分となったり、外槽30と発泡樹脂層13との接着力が低下したりすることにより、発泡樹脂層13が外槽30から剥がれてしまう虞がある。
【0033】
第2工程S2では、発泡樹脂層13に対して、作業者Nが、携行しているチョッパー付きスプレーガン91でウレタンフォーム原料と強化用の繊維を吹き付け、補強層14のうちの第1補強層14Aを形成する。
図7に示すように、第2工程S2のチョッパー付きスプレーガン91は、ウレタンフォーム原料を噴霧するスプレーガン本体91Aの上に、補強繊維16を供給するチョッパー91Bを備えている。チョッパー91Bは、ガラス繊維の線材を所定長さに切断して補強繊維16とし、スプレーガン本体91Aから噴霧された霧状のウレタンフォーム原料に添加する。
【0034】
これにより、補強繊維16を含有する第1補強層14Aが形成される。補強繊維16の一部は、第1補強層14Aの内部に配され、他の一部は、第1補強層14Aの表面に配され、さらに他の一部は、第1補強層14Aの表面から突出した状態になる。
【0035】
なお、補強繊維16は、繊維長が長すぎると、チョッパー91Bから飛び出す繊維の軌道が安定せずウレタンフォーム原料の付着しない部分が発生し、固着が不十分になる虞れがあり、繊維長が短すぎると、補強繊維16同士の重なりが小さくなって補強効果が不十分となる。短い補強繊維16の吹付量を増やすことも考えられるが、鬆が出来やすくなることが考えられる。例えば、50mmのガラス繊維であれば、75~250g/m2、10mmのガラス繊維であれば、200~450g/m2、含有されることが好ましい。
【0036】
また、第1補強層14A用のウレタンフォーム原料におけるポリオール混合物中の水分は、0.03~1.0wt%であることが好ましい。ポリオール混合物には、液の浸透性を改善するため、炭素原子に結合した水酸基とイソシアネート基との反応よりも、水とイソシアネート基との反応を促進する泡化触媒が加えられている。なお、ポリオール混合物に低粘度の液体(発泡剤、可塑剤、難燃剤等)を添加して低粘度化してもよい。
【0037】
また、第2工程S2で吹き付けるウレタンフォーム原料には、発泡樹脂層13の内側面に付着してから60秒経過後に液だれしないものが用いられている。これにより、ウレタンフォーム原料の液だれにより補強繊維16が流れ落ち、補強繊維16が存在しない箇所が発生してしまうことが防がれる。
【0038】
第3工程S3では、補強繊維16を含有する第1補強層14Aに対して、作業者Oが、携行しているスプレーガン90によりウレタンフォーム原料を吹き付け、第2補強層14Bを形成する。第3工程S3では、ウレタンフォーム原料に補強繊維16は添加されていない。これにより、第1補強層14Aの表面に配された補強繊維16が第2補強層14Bにより覆われると共に、第1補強層14Aの表面から突出した補強繊維16同士の間に第2補強層14Bの硬質ウレタンフォームが入り込む。
【0039】
本実施形態の緩和層10の構成及びその施工方法に関する説明は以上である。次に、緩和層10及びその施工方法の作用効果について説明する。
【0040】
内槽20の内部から液化天然ガスLが漏洩した場合、液化天然ガスLの冷熱衝撃は、補強層14を介して発泡樹脂層13に伝達する。このとき、発泡樹脂層13に積層されている補強層14には、補強繊維16が互いに重なり合って含有されているので、発泡樹脂層13が液化天然ガスLの冷熱衝撃により局所的に収縮し、クラックが発生することが抑制される。また、補強層14自体にクラックが入ることも防がれる。
【0041】
さらに、補強層14が、第2工程S2で補強繊維16を添加して第1補強層14Aを積層したのち、第3工程S3で補強繊維16を添加せずに第2補強層14Bを積層して形成され、発泡樹脂層13側の第1補強層14Aは、内槽20側の第2補強層14Bよりも補強繊維16の含有率が高くなっているので、発泡樹脂層13のクラック発生がより防がれる。また、補強層14の内側面から露出する補強繊維16が少なくなるので、補強繊維16の脱落が防がれる。
【0042】
また、補強繊維16同士の間に空気が入り、補強層14に鬆が入っている場合、液化天然ガスLがその内部に入り、発泡樹脂層13に冷熱衝撃を与えたり、入り込んだ液化天然ガスLが沸騰して補強層14が吹き飛んでしまったりすることが考えられるが、第1補強層14Aを積層したのち、第3工程S3で補強繊維16が添加されていないウレタンフォーム原料が吹き付けられることで、補強繊維16同士の間に硬質ウレタンフォームが入り込み、補強層14に鬆が入ることを防ぐことができる。
【0043】
また、本実施形態の構成によれば、従来の発泡樹脂層13の表面に補強シートを積層する構成よりも、作業性を向上することができる。具体的には、発泡樹脂層13の表面に補強シートを積層する構成では、第1工程S1の後に、発泡樹脂層13の表面に補強シートを接着剤等で貼り付ける。このとき、補強シートはその剛性により発泡樹脂層13の表面から浮いたり、はがれたりする虞がある。そのため、発泡樹脂層13の表面を切削して平坦にする工程が必要となる。この工程は、全ての施工領域Wに対して手作業で行うこととなり膨大な工数及び費用がかかってしまう。しかもこの粉塵を除去する工数及び費用も必要となる。さらに、切削時に発生する切削屑の粉塵により作業環境が悪化するだけでなく、粉塵爆発のリスクが生じてしまう。これに対して、本実施形態では、発泡樹脂層13に凹凸があってもその凹凸に応じて補強繊維16が配されるので、切削等の工程を必要とせず、作業性を向上させることができる。
【0044】
また、切削の工程は、平坦にする目的であるから、発泡樹脂層13の発泡硬化が進行して十分な強度を発現してから行う必要がある。十分な強度が発現する前に切削やグランダー等の加工を行うと、平坦に削れなかったり裂けたりしてしまう虞がある。十分な強度が発現するまでの目安としては、約24時間(1日)であり、余計に日数を要することとなり、費用が増えてしまう。これに対して、本実施形態では、第1工程S1の硬化が進行して表面のタックがなくなった後に、次の第2工程S2を行うことができる。これにより、第1工程S1の発泡樹脂層13の発泡硬化を待つ時間が不要となる。従って上述した問題は生じず、作業性を向上させることができる。
【0045】
さらに、補強シートを接着剤等で貼り付ける場合、補強シートにヨレや浮き等が生じないように気をかける必要があるが、本実施形態では、発泡樹脂層13を補強する補強繊維16の固定が吹付により行われるので、作業が簡素化し、作業性を向上することができる。また、補強繊維16を予めウレタンフォーム原料に混入しておくと、補強繊維16がスプレーガンの噴霧口等を閉塞させ、吐出できなくなる虞があるが、本実施形態では、チョッパー付きスプレーガン91により、スプレーガン本体91Aから噴霧された霧状のウレタンフォーム原料の上に補強繊維16を添加する構成になっているのでスプレーガンが閉塞しにくくなっている。また、補強繊維16は、同じ姿勢で並んだ状態でチョッパー91Bから排出されて添加されるので、補強繊維16を予めウレタンフォーム原料に混入しておく構成よりも、補強繊維16が発泡樹脂層13の内側面に沿った姿勢で重なりやすく(所謂二次元ランダムに近付きやすく)、発泡樹脂層13のクラック発生がより防がれる。
【0046】
また、第1~第3工程S1~S3が全て吹付により行われるので、緩和層10の形成工程を自動化しやすくなる。
【0047】
[他の実施形態]
(1)上記実施形態において、低温液貯槽100には、液化天然ガスLを貯留していたが、例えば、液化プロパンガス等の他の低温液であってもよい。
【0048】
(2)上記実施形態において、タンク部40は、天井部21,31を備えていたが、蓋体を備えて上方が開放した構造であってもよい。
【0049】
(3)補強層14は、非発泡の熱硬化性樹脂(例えば、ウレタン樹脂やエポキシ樹脂)で構成されていてもよい。
【0050】
(4)補強繊維16は予め樹脂液(上記実施形態では、ウレタンフォーム原料)に混入されていてもよい。
【0051】
(5)樹脂液を塗布した後、樹脂液が硬化し終わる前に補強繊維16を付着させる構成であってもよい。
【0052】
(6)樹脂液を吹付ではなく刷毛等で塗りつける構成であってもよい。
【0053】
(7)補強繊維16を含有する補強層14を形成したのち、補強繊維16を含まない樹脂液を塗布するのではなく、補強層14の硬化が完了する前に、ローラ(図示せず)等により補強層14の表面を押圧する構成であってもよい。この場合、補強繊維16を発泡樹脂層13の内側面と平行な姿勢に近付けることができ、補強繊維16の配置が二次元ランダムに近付き、補強層14の延在方向(発泡樹脂層13の内側面と平行な方向)での強度が高まる。また、補強繊維16同士の間に入った空気を抜くことができ、補強層14に鬆が入ることが防がれる。
【0054】
<付記>
以下、上記実施形態から抽出される発明群の特徴について、必要に応じて効果等を示しつつ説明する。なお、以下では、理解の容易のため、上記実施形態において対応する構成を括弧書き等で適宜示すが、この括弧書き等で示した具体的構成に限定されるものではない。
【0055】
[特徴A1]
0℃以下の低温液が貯留される内槽と、その外側を覆う外槽と、前記外槽の内側面にコーティングされた発泡樹脂層と、を備える低温液貯槽であって、
前記発泡樹脂層の内側面に、チョップドストランドを含む樹脂製の補強層を有している低温液貯槽。
【0056】
特徴A1によれば、発泡樹脂層が、補強シートではなくチョップドストランドにより補強されるので、発泡樹脂層に凹凸があってもその凹凸に応じてチョップドストランドが配されるので、切削等の工程を必要とせず、外槽のコーティング作業を容易にすることができる。
【0057】
[特徴A2]
前記補強層は、発泡樹脂を含んでいる特徴A1に記載の低温液貯槽。
【0058】
[特徴A3]
前記補強層のうち前記発泡樹脂層側の方が前記内槽側よりも前記チョップドストランドの含有率が高い特徴A1又は2に記載の低温液貯槽。
【0059】
特徴A3によれば、補強層のうち発泡樹脂層側の方がチョップドストランドの含有率が高いので、発泡樹脂層が効果的に補強され、破断しにくくなる。また、補強層の内槽側はチョップドストランドの含有率が低いので補強層の内側面が露出している場合、チョップドストランドが脱落しにくくなる。
【0060】
[特徴A4]
前記発泡樹脂層及び前記補強層は、ウレタンフォームを含んでいる特徴A1から3のうち何れか1の特徴に記載の低温液貯槽。
【0061】
特徴A4によれば、発泡樹脂層と補強層とに共にウレタンフォームを含ませることにより親和性がよくなり、補強層が発泡樹脂層から剥がれにくくなる。
【0062】
[特徴A5]
前記補強層のうち少なくとも前記発泡樹脂層側の樹脂は、前記発泡樹脂層よりも発泡倍率が小さい特徴A1から4の何れか1の特徴に記載の低温液貯槽。
【0063】
特徴A5によれば、チョップドストランドに樹脂が付着しやすくなり、補強層のチョップドストランドの保持力が高まる。
【0064】
[特徴A6]
前記補強層の厚さが、5~20mmである、特徴A1から5の何れか1の特徴に記載の低温液貯槽。
【0065】
[特徴A7]
前記チョップドストランドの長さが10~50mmである特徴A1から6の何れか1の特徴に記載の低温液貯槽。
【0066】
[特徴A8]
前記補強層内の前記チョップドストランドの前記発泡樹脂層の内側面に対する平均傾斜角は25°以下である特徴A1から7の何れか1の特徴に記載の低温液貯槽。
【0067】
特徴A8によれば、補強層内のチョップドストランドが3次元ランダムよりも2次元ランダムに近くなり、補強層の延在方向の強度が高まる。
【0068】
[特徴A9]
0℃以下の低温液が貯留される内槽と、その外側を覆う外槽と、前記外槽の内側面にコーティングされ、前記低温液の漏れを抑え、冷熱衝撃を緩和するための発泡樹脂層と、を備える低温液貯槽の製造方法であって、
前記外槽の内側面に原料を塗布し、発泡硬化させて前記発泡樹脂層を形成する第1工程と、
前記発泡樹脂層の内側面に、樹脂液をチョップドストランドと共に塗布し、硬化させて補強層を形成する第2工程と、を行う低温液貯槽の製造方法。
【0069】
[特徴A10]
前記第2工程では、前記樹脂液を前記発泡樹脂層の内側面に向けて噴霧すると共に、噴霧されて前記発泡樹脂層の内側面に付着するまでの前記樹脂液の飛沫に前記チョップドストランドを混入する特徴A9に記載の低温液貯槽の製造方法。
【0070】
特徴A9及び特徴A10によれば、第1工程と第2工程との作業が共通化され、自動化を図りやすい。
【0071】
[特徴A11]
前記第2工程では、前記樹脂液として、前記発泡樹脂層の内側面に付着してから60秒経過後に液だれしないものを用いる特徴A9又は10に記載の低温液貯槽の製造方法。
【0072】
[特徴A12]
前記チョップドストランドを含む前記樹脂液を塗布した上から、前記チョップドストランドを含まない前記樹脂液を重ねて塗布する特徴A9から11の何れか1の特徴に記載の低温液貯槽の製造方法。
【0073】
特徴A12によれば、補強層から突出したチョップドストランドを減らすことができ、チョップドストランドがより固定される。
【0074】
[特徴A13]
前記チョップドストランドを含む前記樹脂液を塗布した後、前記補強層の硬化が完了する前に、前記補強層の表面を押圧する特徴A9から11の何れか1の特徴に記載の低温液貯槽の製造方法。
【0075】
特徴A13によれば、補強層から突出したチョップドストランドを減らすことができる。さらに、チョップドストランドを発泡樹脂層の内側面と平行な姿勢に近付けることができ、チョップドストランドの配置を2次元ランダムに近付けることができ、補強層の延在方向の強度が高まる。なお、3次元ランダムに近い場合は、補強層の板厚方向の強度が高まり、低温液の液圧に対して強くなると考えられる。
【0076】
なお、本明細書及び図面には、特許請求の範囲に含まれる技術の具体例が開示されているが、特許請求の範囲に記載の技術は、これら具体例に限定されるものではなく、具体例を様々に変形、変更したものも含み、また、具体例から一部を単独で取り出したものも含む。
【符号の説明】
【0077】
10 緩和層
13 発泡樹脂層
14 補強層
14A 第1補強層
14B 第2補強層
16 補強繊維(チョップドストランド)
20 内槽
30 外槽
50 防液堤
90 スプレーガン
91 スプレーガン
91A スプレーガン本体
91B チョッパー
100 低温液貯槽