(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144926
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物の硬化物及び熱硬化性樹脂組成物で形成されたソルダーレジスト
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20231003BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20231003BHJP
C08K 5/3415 20060101ALI20231003BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20231003BHJP
H05K 3/28 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K3/013
C08K5/3415
C08G59/40
H05K3/28 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052144
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】榮西 弘
(72)【発明者】
【氏名】有馬 克哉
(72)【発明者】
【氏名】堀 敦史
(72)【発明者】
【氏名】奥村 凌也
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
5E314
【Fターム(参考)】
4J002BH02W
4J002CD001
4J002DE097
4J002DE137
4J002DE146
4J002DE187
4J002EU026
4J002FD017
4J002FD146
4J002GP03
4J002GQ01
4J036AD08
4J036AE05
4J036AF05
4J036AF06
4J036AF07
4J036AH00
4J036AJ05
4J036DC40
4J036DC42
4J036EA06
4J036HA12
4J036JA10
5E314AA32
5E314AA42
5E314AA45
5E314BB02
5E314CC02
5E314CC07
5E314DD06
5E314EE01
5E314EE02
5E314FF01
5E314GG26
(57)【要約】
【課題】高い誘電率を有しつつ、誘電正接を低減できる熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)エポキシ化合物と、(B)マレイミド基を有する化合物と、(C)無機フィラーと、(D)熱硬化触媒と、を含有する熱硬化性樹脂組成物であり、前記(C)無機フィラーが、(C1)金属酸化物粒子を含有し、前記(C1)金属酸化物粒子が、前記熱硬化性樹脂組成物の固形分中に50質量%以上90質量%以下含まれる熱硬化性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ化合物と、(B)マレイミド基を有する化合物と、(C)無機フィラーと、(D)熱硬化触媒と、を含有する熱硬化性樹脂組成物であり、
前記(C)無機フィラーが、(C1)金属酸化物粒子を含有し、
前記(C1)金属酸化物粒子が、前記熱硬化性樹脂組成物の固形分中に50質量%以上90質量%以下含まれる熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C1)金属酸化物粒子が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム及びカルシウムとチタンとマンガンからなる複合金属の酸化物からなる群から選択された少なくとも1種を含有する請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C1)金属酸化物粒子が、酸化チタンを含有する請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)マレイミド基を有する化合物が、ダイマー酸由来の炭化水素構造を有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)マレイミド基を有する化合物が、下記一般式(1)
【化1】
(式(1)中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8は、それぞれ、独立して、炭素数2個以上20個以下の鎖状炭化水素基、nは1以上5以下の整数を表す。)で表されるビスマレイミド化合物である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記一般式(1)で表されるビスマレイミド化合物が、下記一般式(2)
【化2】
(式(2)中、p、q、r、sは、それぞれ、独立して、5以上10以下の整数、nは1以上5以下の整数を表す。)で表されるビスマレイミド化合物である請求項5に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記一般式(2)中における、p、q、r、sは、それぞれ、8である請求項6に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記(A)エポキシ化合物が、前記熱硬化性樹脂組成物の固形分中に0.5質量%以上5.0質量%以下含まれる請求項1乃至7のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
前記(B)マレイミド基を有する化合物が、前記熱硬化性樹脂組成物の固形分中に10質量%以上40質量%以下含まれる請求項1乃至8のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物で形成されたソルダーレジスト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高誘電性の材料、例えば、回路基板に形成された導体回路パターンを被覆するための高誘電性の材料として適した熱硬化性樹脂組成物、前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物及び前記熱硬化性樹脂組成物で形成されたソルダーレジスト
【背景技術】
【0002】
回路基板上には導体回路パターンが形成され、導体回路パターンのはんだ付けランドに電子部品をはんだ付けにより搭載し、はんだ付けランドを除いた導体回路の部分は、保護膜(例えば、ソルダーレジスト膜)で被覆される。
【0003】
また、アンテナ用途の回路基板の材料としては、回路基板材料の誘電率が大きくなるほど信号の電播波長は小さくなるため、誘電率が高い基板材料が要求される。特に、近年、高速通信域(例えば、5G)において、Ghzオーダーの高周波帯が使用されつつあることから、誘電率の高い基板材料の要求がさらに高まっている。また、回路基板の小型化のために、高誘電性の材料で回路基板の両面を被覆することがある点でも、誘電率の高い基板材料の要求が高まっている。上記から、アンテナ用途の回路基板では、ソルダーレジスト膜等の保護膜には、高い誘電率を有することの要求が高まっている。
【0004】
そこで、誘電率の高いソルダーレジスト膜を得るために、エポキシ樹脂と、カルボキシル基含有光重合性樹脂と、光重合開始剤と、無機フィラーと、を含有し、前記無機フィラーは、チタン酸バリウムを含み、(D)無機フィラーの含有量は、固形分中80~98質量%である、ソルダーレジスト用樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。特許文献1では、チタン酸バリウムは、高い比誘電率を持っているため、チタン酸バリウムがソルダーレジスト用樹脂組成物に含有されていることで、誘電率の高いソルダーレジスト膜を得ている。
【0005】
一方で、周波数が高くなるほど信号の伝送損失が大きくなり、高周波帯の波長が使用されるにともなって、誘電損失の影響が顕著となる。高誘電体として材料を設計した場合、誘電率が高くなるのに伴って伝送損失が大きくなって誘電正接が高くなり、伝送損失を小さくして誘電正接を低下させると、誘電率が低くなる傾向がみられる。すなわち、誘電率と誘電正接はトレードオフの関係にある。
【0006】
上記から、特許文献1では、チタン酸バリウムを固形分中に80~98質量%配合することにより誘電率の高いソルダーレジスト膜を得ることはできても、誘電率が高くなるのに伴って伝送損失が大きくなってしまう、すなわち、誘電正接が高くなるという点で、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、高い誘電率を有しつつ、誘電正接を低減できる熱硬化性樹脂組成物、前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物及び前記熱硬化性樹脂組成物で形成されたソルダーレジストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1](A)エポキシ化合物と、(B)マレイミド基を有する化合物と、(C)無機フィラーと、(D)熱硬化触媒と、を含有する熱硬化性樹脂組成物であり、
前記(C)無機フィラーが、(C1)金属酸化物粒子を含有し、
前記(C1)金属酸化物粒子が、前記熱硬化性樹脂組成物の固形分中に50質量%以上90質量%以下含まれる熱硬化性樹脂組成物。
[2]前記(C1)金属酸化物粒子が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム及びカルシウムとチタンとマンガンからなる複合金属の酸化物からなる群から選択された少なくとも1種を含有する[1]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[3]前記(C1)金属酸化物粒子が、酸化チタンを含有する[1]または[2]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[4]前記(B)マレイミド基を有する化合物が、ダイマー酸由来の炭化水素構造を有する[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[5]前記(B)マレイミド基を有する化合物が、下記一般式(1)
【化1】
(式(1)中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8は、それぞれ、独立して、炭素数2個以上20個以下の鎖状炭化水素基、nは1以上5以下の整数を表す。)で表されるビスマレイミド化合物である[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[6]前記一般式(1)で表されるビスマレイミド化合物が、下記一般式(2)
【化2】
(式(2)中、p、q、r、sは、それぞれ、独立して、5以上10以下の整数、nは1以上5以下の整数を表す。)で表されるビスマレイミド化合物である[5]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[7]前記一般式(2)中における、p、q、r、sは、それぞれ、8である[6]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[8]前記(A)エポキシ化合物が、前記熱硬化性樹脂組成物の固形分中に0.5質量%以上5.0質量%以下含まれる[1]乃至[7]のいずれか1つに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[9]前記(B)マレイミド基を有する化合物が、前記熱硬化性樹脂組成物の固形分中に10質量%以上40質量%以下含まれる[1]乃至[8]のいずれか1つに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[10][1]乃至[9]のいずれか1つに記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物。
[11][1]乃至[9]のいずれか1つに記載の熱硬化性樹脂組成物で形成されたソルダーレジスト。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の態様によれば、(A)エポキシ化合物と、(B)マレイミド基を有する化合物と、(C)無機フィラーと、(D)熱硬化触媒と、を含有する熱硬化性樹脂組成物であり、前記(C)無機フィラーが、(C1)金属酸化物粒子を含有し、前記(C1)金属酸化物粒子が、前記熱硬化性樹脂組成物の固形分中に50質量%以上90質量%以下含まれることにより、高い誘電率を有しつつ、誘電正接を低減した熱硬化性樹脂組成物の硬化物を得ることができる。
【0011】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の態様によれば、前記(C1)金属酸化物粒子が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム及びカルシウムとチタンとマンガンからなる複合金属の酸化物からなる群から選択された少なくとも1種を含有することにより、誘電正接を低減しつつ、高い誘電率を有する熱硬化性樹脂組成物の硬化物を、より確実に得ることができる。
【0012】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の態様によれば、前記(C1)金属酸化物粒子が、酸化チタンを含有することにより、さらに高い誘電率を有しつつ、誘電正接をさらに低減できる。
【0013】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の態様によれば、前記(B)マレイミド基を有する化合物が、ダイマー酸由来の炭化水素構造を有することにより、高い誘電率を有しつつ、誘電正接を低減した熱硬化性樹脂組成物の硬化物を、より確実に得ることができる。
【0014】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の態様によれば、前記(B)マレイミド基を有する化合物が、上記一般式(1)で表されるビスマレイミド化合物であることにより、高い誘電率を有しつつ、誘電正接を低減した熱硬化性樹脂組成物の硬化物を、より確実に得ることができる。
【0015】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の態様によれば、前記(A)エポキシ化合物が、前記熱硬化性樹脂組成物の固形分中に0.5質量%以上5.0質量%以下含まれることにより、エポキシ化合物のエポキシ基とマレイミド基を有する化合物のマレイミド基の反応により、マレイミド基を有する化合物に架橋が多く形成されて、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の強度が向上する。
【0016】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の態様によれば、前記(B)マレイミド基を有する化合物が、前記熱硬化性樹脂組成物の固形分中に10質量%以上40質量%以下含まれることにより、高い誘電率を有しつつ、誘電正接を低減した熱硬化性樹脂組成物の硬化物を、より確実に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の熱硬化性樹脂組成物について、詳細を説明する。本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(A)エポキシ化合物と、(B)マレイミド基を有する化合物と、(C)無機フィラーと、(D)熱硬化触媒と、を含有する熱硬化性樹脂組成物であり、前記(C)無機フィラーが、(C1)金属酸化物粒子を含有し、前記(C1)金属酸化物粒子が、前記熱硬化性樹脂組成物の固形分中に50質量%以上90質量%以下含まれる。本発明の熱硬化性樹脂組成物では、高い誘電率を有しつつ、誘電正接を低減した熱硬化性樹脂組成物の硬化物を得ることができる。
【0018】
<(A)エポキシ化合物>
(A)成分であるエポキシ化合物は、エポキシ化合物のエポキシ基と後述するマレイミド基を有する化合物のマレイミド基との反応により、マレイミド基を有する化合物に架橋が多く形成されて、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の強度向上に寄与すると共に、エポキシ化合物の架橋密度が向上することで、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の架橋密度を上げて十分な硬度を硬化物に付与するためのものである。
【0019】
エポキシ化合物としては、例えば、エポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂としては、特に限定されず、例えば、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂等のゴム変性エポキシ樹脂、ε-カプロラクトン変性エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、オルト-クレゾールノボラック型等のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族多官能エポキシ樹脂、グリシジルエステル型多官能エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、複素環式多官能エポキシ樹脂、ビスフェノール変性ノボラック型エポキシ樹脂、多官能ノボラック型エポキシ樹脂等を挙げることができる。これらのエポキシ化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
このうち、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の強度がさらに向上する点から、多官能ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂が好ましい。
【0021】
エポキシ化合物のエポキシ当量は、特に限定されず、例えば、その上限値は、硬化物の強度を確実に向上させる点から、3000g/eqが好ましく、2000g/eqがより好ましく、1000g/eqが特に好ましい。一方で、エポキシ化合物のエポキシ当量の下限値は、硬化物に適度は柔軟性を付与する点から、100g/eqが好ましく、200g/eqが特に好ましい。
【0022】
エポキシ化合物の質量平均分子量(Mn)は、特に限定されず、使用条件等により適宜選択可能であり、例えば、その下限値は、硬化物の強靭性を確実に向上させる点から、500が好ましく、800がより好ましく、1000が特に好ましい。一方で、エポキシ化合物の質量平均分子量の上限値は、硬化物の強度を確実に向上させる点から、5000が好ましく、3000がより好ましく、2000が特に好ましい。また、エポキシ化合物の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されず、使用条件等により適宜選択可能であり、例えば、その下限値は、硬化物の強靭性を確実に向上させる点から、1000が好ましく、1500がより好ましく、2000が特に好ましい。一方で、エポキシ化合物の重量平均分子量の上限値は、硬化物の強度を確実に向上させる点から、8000が好ましく、6000がより好ましく、4000が特に好ましい。
【0023】
エポキシ化合物の分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定されないが、その下限値は、1.30が好ましく、1.50が特に好ましい。一方で、エポキシ化合物の分子量分布(Mw/Mn)の上限値は、2.20が好ましく、2.00が特に好ましい。なお、上記「質量平均分子量」及び「質量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、常温で測定し、ポリスチレン換算にて算出される質量平均分子量を意味する。
【0024】
エポキシ化合物の配合量は、特に限定されないが、その下限値は、エポキシ化合物のエポキシ基とマレイミド基を有する化合物のマレイミド基の反応により、マレイミド基を有する化合物に架橋が多く形成されて、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の強度が向上する点から、熱硬化性樹脂組成物の固形分(すなわち、熱硬化性樹脂組成物の全固形分100質量%)中に0.5質量%が好ましく、1.0質量%がより好ましく、1.5質量%が特に好ましい。一方で、エポキシ化合物の配合量の上限値は、誘電正接の上昇を防ぐ点から、熱硬化性樹脂組成物の固形分中に5.0質量%が好ましく、3.5質量%がより好ましく、2.5質量%が特に好ましい。
【0025】
<(B)マレイミド基を有する化合物>
(B)成分であるマレイミド基を有する化合物は、本発明の熱硬化性樹脂組成物のベースとなる成分である。マレイミド基を有する化合物が熱硬化性樹脂組成物に配合されることにより、高い誘電率を損なうことなく、誘電正接を低減することができる。
【0026】
マレイミド基を有する化合物は、その化学構造中に1つ以上のマレイミド基を有する化合物であれば、特に限定されないが、高い誘電率を有しつつ、誘電正接を低減した熱硬化性樹脂組成物の硬化物をより確実に得ることができる点から、ダイマー酸由来の炭化水素構造を有する化合物、すなわち、マレイミド基とダイマー酸由来の炭化水素基とを有する化合物が好ましい。また、マレイミド基を有する化合物として、マレイミド基を有する樹脂(マレイミド樹脂)が挙げられる。
【0027】
また、マレイミド基を有する化合物としては、高い誘電率を有しつつ、誘電正接を低減した熱硬化性樹脂組成物の硬化物をより確実に得ることができる点から、下記一般式(1)
【化3】
(式(1)中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8は、それぞれ、独立して、炭素数2個以上20個以下の鎖状炭化水素基、nは1以上5以下の整数を表す。)で表されるビスマレイミド化合物が好ましい。
【0028】
このうち、誘電正接をさらに低減できる点から、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8は、それぞれ、独立して、炭素数5個以上10個以下の鎖状炭化水素基が好ましく、炭素数6個以上9個以下の鎖状炭化水素基がより好ましく、炭素数6個以上9個以下の直鎖状炭化水素基が特に好ましい。また、誘電正接をさらに低減できる点から、nは1以上3以下の整数が好ましい。
【0029】
また、一般式(1)で表されるビスマレイミド化合物のうち、誘電正接をさらに低減できる点から、下記一般式(2)
【化4】
(式(2)中、p、q、r、sは、それぞれ、独立して、5以上10以下の整数、nは1以上5以下の整数を表す。)で表されるビスマレイミド化合物が好ましい。一般式(2)で表されるビスマレイミド化合物は、一般式(1)で表されるビスマレイミド化合物のうち、R
1、R
4、R
5、R
8が炭素数5個以上10個以下の直鎖状炭化水素基、R
2、R
7が炭素数8個の直鎖状炭化水素基、R
3、R
6が炭素数6個の直鎖状炭化水素基であるビスマレイミド化合物に相当する。
【0030】
このうち、一般式(2)中における、p、q、r、sは、それぞれ、独立して、6以上9以下の整数が好ましく、誘電正接をさらに低減できる点から、p、q、r、sは、それぞれ、8であることが特に好ましい。また、誘電正接をさらに低減できる点から、nは1以上3以下の整数が好ましい。なお、p、q、r、sがいずれも8である一般式(2)のビスマレイミド化合物は、ダイマー酸由来の炭化水素構造を有する化合物である。
【0031】
マレイミド基を有する化合物の配合量は、特に限定されないが、その下限値は、高い誘電率を有しつつ、誘電正接を低減した熱硬化性樹脂組成物の硬化物をより確実に得ることができる点から、熱硬化性樹脂組成物の固形分中に10質量%が好ましく、13質量部がより好ましく、15質量部が特に好ましい。一方で、マレイミド基を有する化合物の配合量の上限値は、熱硬化性樹脂組成物に耐熱性を付与するために優れた架橋密度を得る点から、熱硬化性樹脂組成物の固形分中に40質量%が好ましく、30質量%がより好ましく、25質量%が特に好ましい。
【0032】
<(C)無機フィラー>
本発明の熱硬化性樹脂組成物では、(C)成分である無機フィラーとして、(C1)金属酸化物粒子を含有している。また、(C1)成分である金属酸化物粒子が、熱硬化性樹脂組成物の固形分中に50質量%以上90質量%以下含まれる。無機フィラーとして金属酸化物粒子を含有し、熱硬化性樹脂組成物の固形分中に金属酸化物粒子が50質量%以上90質量%以下配合されることにより、高い誘電率を有する熱硬化性樹脂組成物の硬化物を得ることができる。本発明の熱硬化性樹脂組成物では、金属酸化物粒子が高充填された組成物である。
【0033】
金属酸化物粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、酸化アルミニウム、カルシウムとチタンとマンガンからなる複合金属の酸化物((Ca・Ti・Mn)O3)等が挙げられる。これらの金属酸化物粒子は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
このうち、誘電正接を低減しつつ、高い誘電率を有する熱硬化性樹脂組成物の硬化物をより確実に得ることができる点から、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム及びカルシウムとチタンとマンガンからなる複合金属の酸化物が好ましく、さらに高い誘電率を有しつつ、誘電正接をさらに低減できる点から、酸化チタンが特に好ましい。
【0035】
本発明の熱硬化性樹脂組成物では、(C)成分である無機フィラーが、(C1)金属酸化物粒子からなることが好ましい。金属酸化物粒子の形状は、球状、楕円形状、板状、棒状、不定形状等、特に限定されないが、熱硬化性樹脂組成物中への高充填が可能であり、熱硬化性樹脂組成物の流動性が向上する点から、球状、略球状が好ましい。
【0036】
金属酸化物粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、その下限値は、熱硬化性樹脂組成物中における均一分散性の点から、0.05μmが好ましく、0.10μmがより好ましく、0.15μmが特に好ましい。一方で、金属酸化物粒子の平均粒子径の上限値は、パターン形成の容易性や熱硬化性樹脂組成物中への無機フィラーの充填性の点から、15μmが好ましく、10μmがより好ましく、8.0μmがさらに好ましく、5.0μmが特に好ましい。なお、金属酸化物粒子の平均粒子径は、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置によって測定することができる。
【0037】
金属酸化物粒子の配合量は、熱硬化性樹脂組成物の固形分中に50質量%以上90質量%以下の範囲であれば、特に限定されないが、その下限値は、金属酸化物粒子をより高充填化してさらに高い誘電率を有する熱硬化性樹脂組成物の硬化物を得ることができる点から、熱硬化性樹脂組成物の固形分中に60質量%が好ましく、65質量%がより好ましく、70質量%が特に好ましい。一方で、金属酸化物粒子の配合量の上限値は、(B)成分であるマレイミド基を有する化合物の配合量を十分に確保して誘電正接を確実に低減させつつ高い誘電率を得る点、及び熱硬化性樹脂組成物の硬化物の強度を確実に確保するから、85質量%が好ましく、82質量%がより好ましく、80質量%が特に好ましい。
【0038】
<(D)熱硬化触媒>
(D)成分である熱硬化触媒は、熱硬化促進剤であり、熱硬化性樹脂組成物中のエポキシ化合物及びマレイミド基を有する化合物の熱硬化を促進させる成分である。熱硬化触媒が配合されることで、エポキシ化合物及びマレイミド基を有する化合物の熱硬化が促進されて、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の強度が向上する。
【0039】
熱硬化触媒には、例えば、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類;アセチルアセナートZn、アセチルアセナートCr等のアセチルアセトンの金属塩;エナミン;オクチル酸錫;第4級スルホニウム塩、トリフェニルホスフィン;2-メルカプトベンズオキサゾール;イミダゾリウム塩類;トリエタノールアミンボレート等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
熱硬化触媒の配合量は、特に限定されないが、熱硬化性樹脂組成物の固形分中に0.05質量%以上2.0質量%以下が好ましく、0.10質量%以上1.0質量%以下がより好ましく、0.15質量%以上0.50質量%以下が特に好ましい。
【0041】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、さらに、他の任意成分、例えば、各種添加剤、非反応性希釈剤を配合することができる。
【0042】
各種添加剤としては、例えば、シリコーン系ポリマー、オレフィン系ポリマー、アクリル系ポリマー等の消泡剤、チキソ性付与剤、酸化防止剤等を挙げることができる。
【0043】
非反応性希釈剤は、熱硬化性樹脂組成物の、粘度、塗工性及び乾燥性を調節するための成分である。非反応性希釈剤としては、例えば、硬化性樹脂組成物に配合されている各成分に対して不活性である有機溶剤を挙げることができる。上記有機溶剤には、例えば、メチルエチルケトン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素類、石油エーテル、石油ナフサ等の石油系溶剤、セロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、カルビトール、ブチルカルビトール等のカルビトール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、エチレングリコールアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、さらに、着色剤を配合してもよい。着色剤を配合することで、隠蔽力を向上させることができる。着色剤としては、顔料、色素等、特に限定されず、また、白色着色剤、黒色着色剤、青色着色剤、緑色着色剤、黄色着色剤、紫色着色剤、橙色着色剤、赤色着色剤等、所望の色彩に応じて、いずれの着色剤も使用可能である。着色剤には、例えば、白色着色剤である二酸化チタン、黒色着色剤であるアセチレンブラック、カーボンブラック等の無機系着色剤や、緑色着色剤であるフタロシアニングリーン及び青色着色剤であるフタロシアニンブルーやリオノールブルー等のフタロシアニン系、橙色着色剤であるクロモフタルオレンジ等のジケトピロロピロール系等の有機系着色剤を挙げることができる。これらの着色剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法は、特定の方法に限定されず、例えば、上記各成分を所定割合で配合後、常温(例えば、25℃)にて、三本ロール、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、ニーダー等の混練手段、またはスーパーミキサー、プラネタリーミキサー、トリミックス等の攪拌、混合手段により、配合した成分を混練または混合して製造することができる。また、前記混練または混合の前に、必要に応じて、予備混練または予備混合を実施してもよい。
【0046】
次に、本発明の熱硬化性樹脂組成物の使用方法例について説明する。ここでは、本発明の熱硬化性樹脂組成物をプリント配線板等の回路基板に塗工して、保護膜(例えば、ソルダーレジスト等)を形成する方法を説明する。
【0047】
上記のように製造した熱硬化性樹脂組成物を、回路基板上に、スクリーン印刷法、バーコータ法、ブレードコータ法、ナイフコータ法、ロールコータ法、グラビアコータ法等の公知の方法を用いて所望の厚さに塗布する。次に、100℃~170℃程度の温度の乾燥炉等で10分~100分間程度、加熱処理することにより、塗布した熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させて、回路基板上に目的とする硬化物を形成させる。硬化物の膜厚としては、例えば、10μm~100μmが挙げられる。なお、加熱処理の前に、必要に応じて、60℃~90℃、5分~30分間程度の予備乾燥を行ってもよい。
【実施例0048】
実施例1~9、比較例1~3
下記表1に示す各成分を下記表1に示す割合にて配合し、3本ロールを用いて室温にて混合させて、実施例1~9、比較例1~3にて使用する熱硬化性樹脂組成物を調製した。その後、調製した熱硬化性樹脂組成物を以下のように基板に塗工して試験体を作製した。下記表1に示す各成分の配合量は、特に断りのない限り質量部を示す。なお、下記表1中の配合量の空欄部は、配合なしを意味する。
【0049】
下記表1中の各成分についての詳細は、以下の通りである。
(A)エポキシ化合物
・YL-9057:多官能ノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量458g/eq、Mw2627、Mn1460、Mw/Mn1.79、三菱ケミカル株式会社
・EP860:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、DIC株式会社
・EP-3950S:グリシジルアミン型エポキシ樹脂、株式会社ADEKA
【0050】
(B)マレイミド基を有する化合物
・SLK-1500:マレイミド樹脂、一般式(2)のp、q、r、sがいずれも8であるビスマレイミド化合物、信越化学工業株式会社
【0051】
(C1)金属酸化物粒子である(C)無機フィラー
・R-550:硫酸法酸化チタン、平均粒子径0.24μm、石原産業株式会社
・R-780:硫酸法酸化チタン、平均粒子径0.24μm、石原産業株式会社
・CR-80:塩素法酸化チタン、平均粒子径0.25μm、石原産業株式会社
・EP:酸化ジルコニウム、平均粒子径1.9μm、第一希元素化学工業株式会社
・BT-200:チタン酸バリウム、平均粒子径0.2μm、共立マテリアル株式会社
・BTC-5B:チタン酸バリウム、平均粒子径0.58μm、日本化学工業株式会社
・SG-103:複合金属酸化物((Ca・Ti・Mn)O3)、平均粒子径1.2μm、石原産業株式会社
【0052】
(D)熱硬化触媒
・2E4MZ:2-エチル-4-メチルイミダゾール、四国化成工業株式会社
【0053】
添加剤
・AC-2300C:消泡剤、共栄社化学株式会社
非反応性希釈剤
・ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート:三洋化成品株式会社
【0054】
他の無機フィラー
・ミニュシル5ミクロン:シリカ、平均粒子径5μm、エア・ブラウン株式会社
酸含有ウレタン変性アクリレート(感光性樹脂)
・FLX-2089:日本化薬株式会社
【0055】
試験体作製工程
以下のようにして、上記のように調製した実施例及び比較例の熱硬化性樹脂組成物を基板上に塗工して、基板上に硬化物を有する試験体を作製した。
基板:ポリエチレンテレフタラートフィルム(フィルム厚さ:125μm)
表面処理:イソプロピルアルコールにての脱脂処理
塗工方法:スクリーン印刷
DRY膜厚(50μm~120μm)
熱硬化処理:オーブンにて予備乾燥80℃、20分後、本乾燥150℃、60分
【0056】
評価項目
KeysightTechnologeis社のネットワークアナライザー「E5063A」を用い、試験体作製工程で作製した熱硬化性樹脂組成物の硬化物(塗布膜厚:200μm、硬化条件:150℃、60分、厚み:50~120μm、長さ:50mm、幅:2mm)を試料として、測定温度25℃、周波数10GHzの条件にて測定を行い、周波数10GHzにおける比誘電率及び誘電正接を測定し、以下の基準で評価した。比誘電率は△評価以上を合格、誘電正接は○評価以上を合格とした。
【0057】
(1)比誘電率
○:10以上
△:5以上10未満
×:5未満
(2)誘電正接
◎:0.007未満
○:0.007以上0.01未満
×:0.01以上
【0058】
評価結果を下記表1に示す。
【0059】
【0060】
上記表1に示すように、(B)マレイミド基を有する化合物と(C)無機フィラーとして(C1)金属酸化物粒子を熱硬化性樹脂組成物の固形分中に50質量%以上90質量%以下配合した実施例1~9の熱硬化性樹脂組成物では、高い誘電率を有しつつ、誘電正接を低減した硬化物を得ることができた。
【0061】
特に、実施例1~6と実施例7~9から、(C1)金属酸化物粒子として酸化チタンまたは酸化ジルコニウムを使用すると、誘電正接をさらに低減した硬化物を得ることができた。また、実施例1~5と実施例6~9から、(C1)金属酸化物粒子として酸化チタンを使用すると、さらに高い誘電率を有しつつ、誘電正接をさらに低減することができた。
【0062】
一方で、(C1)金属酸化物粒子を熱硬化性樹脂組成物の固形分中に45質量%含む比較例1では、高い誘電率を得ることができなかった。また、(B)マレイミド基を有する化合物に代えて、酸含有ウレタン変性アクリレートを配合した比較例2では、誘電正接を低減できなかった。また、(C1)金属酸化物粒子に代えて、シリカ粒子を配合した比較例3では、高い誘電率を得ることができず、誘電正接も低減できなかった。
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、高い誘電率を有しつつ、誘電正接を低減できる硬化物を得ることができるので、特に、高速通信に使用するアンテナに搭載する回路基板の保護膜の分野で利用価値が高い。