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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144930
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】通信電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/18 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
H01B11/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052151
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】安好 悠太
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 達也
【テーマコード(参考)】
5G319
【Fターム(参考)】
5G319FA04
5G319FC02
5G319FC06
5G319FC20
5G319FC21
5G319FC37
(57)【要約】
【課題】所望の周波数の電磁波ノイズを遮蔽し易い通信電線を提供する。
【解決手段】導体と、前記導体の外周を被覆している絶縁層と、前記絶縁層の外周を被覆している磁性シース層と、を備え、前記磁性シース層は、軟磁性粉末と有機ポリマーとを含む材料で構成されており、前記軟磁性粉末の形状は、扁平状であり、前記軟磁性粉末の構成材料は、シリコンとアルミニウムとを含む鉄合金であり、前記磁性シース層における前記軟磁性粉末の含有量は、前記有機ポリマー100質量部に対して50質量部以上800質量部以下である、通信電線。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の外周を被覆している絶縁層と、
前記絶縁層の外周を被覆している磁性シース層と、を備え、
前記磁性シース層は、軟磁性粉末と有機ポリマーとを含む材料で構成されており、
前記軟磁性粉末の形状は、扁平状であり、
前記軟磁性粉末の構成材料は、シリコンとアルミニウムとを含む鉄合金であり、
前記磁性シース層における前記軟磁性粉末の含有量は、前記有機ポリマー100質量部に対して50質量部以上800質量部以下である、
通信電線。
【請求項2】
前記磁性シース層における前記軟磁性粉末の平均配向角は25°以下である、請求項1に記載の通信電線。
【請求項3】
前記軟磁性粉末の平均粒径は25μm以上70μm以下である、請求項1又は請求項2に記載の通信電線。
【請求項4】
前記軟磁性粉末の平均アスペクト比は2.2以上4.3以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の通信電線。
【請求項5】
前記有機ポリマーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体、及びオレフィン系エラストマーからなる群より選択される1種以上を含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の通信電線。
【請求項6】
前記有機ポリマーは、ポリプロピレン、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、及びオレフィン系エラストマーの3種からなる樹脂組成物である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の通信電線。
【請求項7】
前記磁性シース層の構成材料のメルトフローレイトは4.0g/10min以上20.0g/10min以下であり、
前記メルトフローレイトは、温度を220℃とし、荷重を10kgとして測定された値である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の通信電線。
【請求項8】
前記磁性シース層の平均厚さは100μm以上300μm以下である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の通信電線。
【請求項9】
前記絶縁層と前記磁性シース層との間に設けられた金属シールド層を更に備える、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の通信電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、通信電線に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、信号線と信号線の外周を覆うシースとを備える信号ケーブルを開示している。シースは、内周から外周に向かって順にフェライト混合樹脂層と外側樹脂層とを備える。フェライト混合樹脂層は、Ni-Zn系フェライト粉末と樹脂との混合物で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-311600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようなシースは、特定の周波数の電磁波ノイズを効果的に遮蔽できる。しかし、特定の周波数以外の周波数の電磁ノイズを効果的に遮蔽することができない。
【0005】
本開示は、所望の周波数の電磁波ノイズを遮蔽し易い通信電線を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の通信電線は、
導体と、
前記導体の外周を被覆している絶縁層と、
前記絶縁層の外周を被覆している磁性シース層と、を備え、
前記磁性シース層は、軟磁性粉末と有機ポリマーとを含む材料で構成されており、
前記軟磁性粉末の形状は、扁平状であり、
前記軟磁性粉末の構成材料は、シリコンとアルミニウムとを含む鉄合金であり、
前記磁性シース層における前記軟磁性粉末の含有量は、前記有機ポリマー100質量部に対して50質量部以上800質量部以下である。
【発明の効果】
【0007】
本開示の通信電線は、所望の周波数の電磁波ノイズを遮蔽し易い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態の通信電線を示す概略横断面図である。
図2図2は、実施形態の通信電線に備わる磁性シース層を示す概略縦断面図である。
図3図3は、試験例における周波数とノイズ吸収量の関係を示すグラフである。
図4図4は、試料No.3の通信電線に備わる磁性シース層の縦断面の写真を示す図である。
図5図5は、試料No.4の通信電線に備わる磁性シース層の縦断面の写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
《本開示の実施形態の説明》
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0010】
(1)本開示の一態様の通信電線は、
導体と、
前記導体の外周を被覆している絶縁層と、
前記絶縁層の外周を被覆している磁性シース層と、を備え、
前記磁性シース層は、軟磁性粉末と有機ポリマーとを含む材料で構成されており、
前記軟磁性粉末の形状は、扁平状であり、
前記軟磁性粉末の構成材料は、シリコンとアルミニウムとを含む鉄合金であり、
前記磁性シース層における前記軟磁性粉末の含有量は、前記有機ポリマー100質量部に対して50質量部以上800質量部以下である。
【0011】
上記通信電線は、上記鉄合金を構成材料とする扁平状の軟磁性粉末の含有量が上記範囲である特定の磁性シース層を備える。上記通信電線は、特定の磁性シース層を備えることで、所望の周波数の電磁波ノイズを遮蔽し易い。理由は詳しくはわかっていないものの、上記通信電線は、軟磁性粉末の含有量を上記範囲内で変えることで、軟磁性粉末の含有量に応じて遮蔽できる電磁波ノイズの周波数を変え易いからである。
【0012】
(2)上記通信電線において、
前記磁性シース層における前記軟磁性粉末の平均配向角は25°以下であってもよい。
【0013】
上記通信電線は、軟磁性粉末の平均配向角が25°以下であることで、電磁波ノイズを遮蔽し易い。上記通信電線は、25°以下の平均配向角を有する軟磁性粉末の含有量を上記範囲内で変えることで、軟磁性粉末の含有量に応じて遮蔽できる電磁波ノイズの周波数を特に変え易い。
【0014】
(3)上記通信電線において、
前記軟磁性粉末の平均粒径は25μm以上70μm以下であってもよい。
【0015】
上記平均粒径が25μm以上であることで、磁性シース層は電磁波ノイズを遮蔽し易い。上記平均粒径が70μm以下であることで、磁性シース層の質量の増大が抑制される。その上、磁性シース層の構成材料は押出成形時の流動性に優れる。
【0016】
(4)上記通信電線において、
前記軟磁性粉末の平均アスペクト比は2.2以上4.3以下であってもよい。
【0017】
上記平均アスペクト比が2.2以上であることで、磁性シース層は電磁波ノイズを遮蔽し易い。上記平均アスペクト比が4.3以下であることで、磁性シース層の構成材料は押出成形時の流動性に優れる。
【0018】
(5)上記通信電線において、
前記有機ポリマーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体、及びオレフィン系エラストマーからなる群より選択される1種以上を含んでいてもよい。
【0019】
上記樹脂又はエラストマーを含む磁性シース層の構成材料は押出成形時の流動性に優れる。
【0020】
(6)上記通信電線において、
前記有機ポリマーは、ポリプロピレン、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、及びオレフィン系エラストマーの3種からなる樹脂組成物であってもよい。
【0021】
磁性シース層の構成材料は、上記の3種からなる樹脂組成物を含むことによって押出成形時の流動性に特に優れる。そのため、扁平状の軟磁性粉末の長軸が押出方向に沿って揃い易い。よって、押出成形によって軟磁性粉末の平均配向角の小さな磁性シース層が形成され易い。即ち、通信電線における磁性シース層の軟磁性粉末の平均配向角が小さくなり易い。
【0022】
(7)上記通信電線において、
前記磁性シース層の構成材料のメルトフローレイトは4.0g/10min以上20.0g/10min以下であってもよい。
前記メルトフローレイトは、温度を220℃とし、荷重を10kgとして測定された値である。
【0023】
上記メルトフローレイトが4.0g/10min以上であることで、磁性シース層の構成材料は押出成形時の流動性に優れる。上記メルトフローレイトが20.0g/10min以下であれば、磁性シース層の厚さが均一になり易い。そのため、磁性シース層による電磁波ノイズの遮蔽性が均一になり易い。
【0024】
(8)上記通信電線において、
前記磁性シース層の平均厚さは100μm以上300μm以下であってもよい。
【0025】
磁性シース層の平均厚さが100μm以上であれば、磁性シース層は電磁波ノイズを遮蔽し易い。磁性シース層の平均厚さが300μm以下であれば、磁性シース層の質量の増大が抑制される。
【0026】
(9)上記通信電線において、
前記絶縁層と前記磁性シース層との間に設けられた金属シールド層を更に備えていてもよい。
【0027】
金属シールド層は電磁波ノイズを遮蔽する。そのため、上記通信電線は電磁波ノイズを遮蔽し易い。
【0028】
《本開示の実施形態の詳細》
本開示の実施形態の通信電線の詳細を、以下に説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。各図面が示す部材の大きさ等は、説明を明確にする目的で表現されており、必ずしも実際の寸法関係等を表すものではない。
【0029】
《実施形態》
〔通信電線〕
図1及び図2を参照して、実施形態の通信電線1を説明する。実施形態の通信電線1は、導体2と絶縁層3と磁性シース層5とを備える。絶縁層3は導体2の外周を被覆している。磁性シース層5は絶縁層3の外周を被覆している。磁性シース層5は、軟磁性粉末51と有機ポリマー53とを含む材料で構成されている。本実施形態の通信電線1の特徴の一つは、軟磁性粉末51が特定の材質かつ特定の形状であり、軟磁性粉末51の含有量が特定の範囲である点にある。本実施形態の通信電線1は同軸電線として構成されている。
【0030】
[導体]
導体2は電気信号を伝送する。導体2の構成材料は公知の金属である。金属の一例は、銅、銅合金、アルミニウム、又はアルミニウム合金である。これらの金属は導電性に優れる。導体2の組成は、導体2の横断面を成分分析することで求められる。横断面は通信電線1の軸方向に直交する断面である。成分分析は走査型電子顕微鏡に付属されるエネルギー分散型X線分光装置(SEM-EDX)により行える。導体2は、単線、撚り線、又は圧縮撚り線のいずれでもよい。撚り線は、複数の素線からなる。複数の素線は全て同じ材質の素線であってもよいし、少なくとも1本の素線の材質が残りの素線の材質と異なっていてもよい。圧縮撚り線は、撚り線が所定の形状に圧縮成形されてなる。導体2の断面積は、例えば0.05mm以上1.0mm以下である。
【0031】
[絶縁層]
絶縁層3は、導体2の外周を被覆している。「外周を被覆」とは、導体2を直接又は他の層を介して間接的に被覆していることをいう。「外周を被覆」の考え方は、後述する金属シールド層4、磁性シース層5、及びアウターシース層6でも同様である。絶縁層3の構成材料は、例えば、公知の有機ポリマー、又は有機ポリマーと公知の添加剤とを含む混合材料である。絶縁層3は、磁性シース層5に含まれている磁性材料を含んでいない。有機ポリマーは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、及びゴムからなる群より選択される1種以上を含む。有機ポリマーは、架橋又は発泡されていてもよい。添加剤の一例は、難燃剤、銅害防止剤、酸化防止剤、及び金属酸化物からなる群より選択される1種以上である。絶縁層3の成分は、絶縁層3の横断面を成分分析することで求められる。成分分析はガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)により行える。絶縁層3の厚さは、例えば0.1mm以上1.0mm以下である。
【0032】
[金属シールド層]
本実施形態の通信電線1は、絶縁層3の外周を被覆している金属シールド層4を更に備えていてもよい。本実施形態の金属シールド層4は、絶縁層3と磁性シース層5との間に設けられている。金属シールド層4は、電磁波ノイズを遮蔽する。金属シールド層4は、同軸電線の外導体を構成する。通信電線1を1GHz以上のような高周波帯域の通信に用いる場合、電磁波ノイズの影響が大きくなり易い。その場合、金属シールド層4を設けることで、高周波の電磁波ノイズの影響を効果的に低減することができる。
【0033】
金属シールド層4は、金属箔41と編組線42とを有している。金属シールド層4が金属箔41と編組線42の両方を有することで、電磁波ノイズの遮蔽効果が高くなり易い。本実施形態では、金属箔41及び編組線42が通信電線1の内周から外周に向かって順に設けられている。この順に金属箔41及び編組線42が設けられていることで、信号の損失が少なくなり易い。
【0034】
金属箔41を構成する金属の一例は、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、又はアルミニウム合金である。金属箔41は、単層構造、又は積層構造である。単層構造の金属箔41は単一の金属種によって構成されている。積層構造の金属箔41は、複数の金属種の層が積層されて構成されている。金属箔41は、高分子フィルムの基材に結合されていてもよい。上記基材に結合された金属箔41は、基材に対する蒸着、めっき、接着によって形成される。金属箔41は、絶縁層3の外周面に螺旋状に巻き付けられていてもよいし、絶縁層3の外周面に縦添えされていてもよい。金属箔41が絶縁層3の外周面に縦沿えされていると、電磁波ノイズの遮蔽性が高くなり易い。
【0035】
編組線42は、複数の金属素線が相互に編み込まれて、中空筒状に成形されている。上記金属素線は、例えば裸線又は被覆線である。被覆線は、裸線と裸線の表面に被覆されためっき層とを有する。裸線を構成する金属の一例は、銅、銅合金、アルミニウム、又はアルミニウム合金である。めっき層を構成する金属の一例は、スズである。
【0036】
金属箔41及び編組線42の組成は、導体2の組成と同様にして求められる。
【0037】
[磁性シース層]
磁性シース層5は、電磁波ノイズを遮蔽する。磁性シース層5は、本実施形態では金属シールド層4の外周を被覆している。磁性シース層5は、図2に示すように軟磁性粉末51と有機ポリマー53とを含む材料で構成されている。図2は、磁性シース層5の縦断面を拡大して示す。縦断面は通信電線1の軸方向に沿った断面である。図2の左右方向が通信電線1の軸方向に沿った方向である。図2の上下方向が通信電線1の径方向である。磁性シース層5は、軟磁性粉末51を含むことによって電磁波ノイズを遮蔽し易い。特に、1GHz以上のような高周波の電磁波ノイズが遮蔽され易い。軟磁性粉末51は有機ポリマー53中に分散されている。
【0038】
軟磁性粉末51の形状は扁平状である。軟磁性粉末51の構成材料は、シリコン(Si)とアルミニウム(Al)を含む鉄合金である。この鉄合金の代表例は、Fe-Si-Al合金(センダスト)である。軟磁性粉末51の組成は、導体2の組成と同様にして求められる。
【0039】
軟磁性粉末51の平均粒径は、例えば25μm以上70μm以下である。上記平均粒径が25μm以上であれば、磁性シース層5は電磁波ノイズを遮蔽し易い。上記平均粒径が70μm以下であれば、磁性シース層5の質量の増大が抑制される。その上、磁性シース層5の構成材料は押出成形時の流動性に優れる。上記平均粒径は、更に30μm以上60μm以下、特に40μm以上50μm以下であってもよい。
【0040】
軟磁性粉末51の平均アスペクト比は、例えば2.2以上4.3以下である。上記平均アスペクト比が2.2以上であれば、磁性シース層5は電磁波ノイズを遮蔽し易い。上記平均アスペクト比が4.3以下であれば、磁性シース層5の構成材料は押出成形時の流動性に優れる。上記平均アスペクト比は、更に2.5以上4.0以下、特に3.0以上4.0以下であってもよい。
【0041】
軟磁性粉末51の平均アスペクト比は、次のようにして測定する。磁性シース層5の縦断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察する。縦断面の観察画像を取得する。SEMの倍率は300倍以上1000倍以下である。観察画像のサイズは250μm×200μmである。観察画像の取得数は3個以上である。1断面につき1つの観察画像を取得、又は1断面につき複数の観察画像を取得する。取得した各観察画像中に存在する全ての軟磁性粉末51のアスペクト比の平均値が上記平均アスペクト比である。各軟磁性粉末51のアスペクト比は第一長さに対する第二長さの比である。即ち、上記アスペクト比は、「第二長さ/第一長さ」である。第一長さは、第二長さに直交する方向に沿った長さのうち最大長さである。第二長さは、軟磁性粉末51の最大長さである。平均アスペクト比を求めるための軟磁性粉末51の測定数は30個以上である。
【0042】
磁性シース層5における軟磁性粉末51の含有量は、有機ポリマー53を100質量部として、50質量部以上800質量部以下である。上記含有量が50質量部以上であることで、軟磁性粉末51が電磁波ノイズを遮蔽し易い。上記含有量が800質量部以下であることで、磁性シース層5の質量の増大が抑制される。その上、磁性シース層5の構成材料の押出成形時の流動性に優れる。磁性シース層5は、上記鉄合金を構成材料とする扁平状の軟磁性粉末51の含有量が上記範囲であることで、所望の周波数の電磁波ノイズを遮蔽し易い。理由は詳しくはわかっていないものの、軟磁性粉末51の含有量を上記範囲内で変えることで、軟磁性粉末51の含有量に応じて遮蔽できる電磁波ノイズの周波数を変え易いからである。上記含有量は、有機ポリマー53を100質量部として、更に300質量部以上800質量部以下、特に500質量部以上700質量部以下であってもよい。
【0043】
上記含有量は次のようにして求める。通信電線1から10.0g以上の磁性シース層5を取り出す。取り出した磁性シース層5の質量を求める。磁性シースから軟磁性粉末51を抽出する。軟磁性粉末51の抽出は、有機ポリマー53を溶剤や熱によって除去することで行える。抽出された軟磁性分粉末の質量を求める。磁性シース層5の質量と軟磁性粉末51の質量との差から有機ポリマー53の質量を求める。有機ポリマー53の質量を100としたときの軟磁性粉末51の質量を求める。
【0044】
磁性シース層5における軟磁性粉末51の平均配向角は、例えば25°以下である。上記平均配向角が25°以下であれば、軟磁性粉末51が電磁波ノイズを遮蔽し易い。特に、上記平均配向角が25°以下であれば、軟磁性粉末51の含有量を上記範囲内で変えることで、軟磁性粉末51の含有量に応じて遮蔽できる電磁波ノイズの周波数を特に変え易い。上記平均配向角は、更に20°以下、特に15°以下である。上記平均配向角は0(ゼロ)°以上である。即ち、上記平行配向角は、0°以上25°以下、更に0°以上20°以下、特に0°以上15°以下である。
【0045】
上記平均配向角は次のようにして測定する。光学顕微鏡を用いて磁性シース層5の縦断面の観察画像を取得する。光学顕微鏡の倍率は300倍以上1000倍以下である。観察画像のサイズは315μm×420μmである。観察画像の取得数は3個以上である。1断面につき1つの観察画像を取得、又は1断面につき複数の観察画像を取得する。全ての観察画像中に存在する全ての軟磁性粉末51において、最大長さである第二長さに沿った仮想線と通信電線1の軸方向に沿った仮想線とのなす角を求める。求めた全てのなす角の平均値が上記平均配向角である。上記平均配向角を求めるための軟磁性粉末51の測定数は30個以上である。
【0046】
有機ポリマー53は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体、及びオレフィン系エラストマーからなる群より選択される1種以上を含む。これらの樹脂又はエラストマーを含む磁性シース層5の構成材料は押出成形時の流動性に優れる。特に、有機ポリマー53は、ポリプロピレン、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、及びオレフィン系エラストマーの3種からなる樹脂組成物であってもよい。磁性シース層5の構成材料は、上記の3種からなる樹脂組成物を含むことによって押出成形時の流動性に特に優れる。そのため、扁平状の軟磁性粉末51の長軸が押出方向に沿って揃い易い。よって、押出成形によって軟磁性粉末51の平均配向角の小さな磁性シース層5が形成され易い。即ち、通信電線1における磁性シース層5の軟磁性粉末51の平均配向角が小さくなり易い。有機ポリマー53の成分は、絶縁層3の成分と同様にして求められる。
【0047】
有機ポリマー53が上記の3種からなる樹脂組成物である場合、各樹脂の含有量は次の通りである。ポリプロピレンの含有量は、例えば有機ポリマー53を100質量%として、20質量%以上40質量%以下である。エチレン・アクリル酸エチル共重合体の含有量は、例えば有機ポリマー53を100質量%として、30質量%以上50質量%以下である。オレフィン系エラストマーの含有量は、例えば有機ポリマー53を100質量%として、20質量%以上40質量%以下である。
【0048】
磁性シース層5は、軟磁性粉末51と有機ポリマー53に加え、添加剤を含有してもよい。添加剤は、難燃剤、銅害防止剤、酸化防止剤、及び金属酸化物からなる群より選択される1つ以上である。
【0049】
磁性シース層5の構成材料のメルトフローレイトは、例えば4.0g/10min以上20.0g/10min以下である。上記メルトフローレイトは、温度を220℃とし、荷重を10kgとして測定された値である。上記のメルトフローレイトが4.0g/10min以上であれば、磁性シース層5の構成材料は押出成形時の流動性に優れる。上記メルトフローレイトが20.0g/10min以下であれば、磁性シース層5の厚さが均一になり易い。そのため、磁性シース層5による電磁波ノイズの遮蔽性が均一になり易い。上記メルトフローレイトは、更に5.0g/10min以上18.0g/10min以下、特に8.0g/10min以上16.0g/10min以下であってもよい。
【0050】
磁性シース層5の平均厚さは、例えば100μm以上300μm以下である。磁性シース層5の平均厚さが100μm以上であれば、磁性シース層5は電磁波ノイズを遮蔽し易い。磁性シース層5の平均厚さが300μm以下であれば、磁性シース層5の質量の増大が抑制される。磁性シース層5の平均厚さは、更に150μm以上280μm以下、特に200μm以上250μm以下である。
【0051】
磁性シース層5の平均厚さは次のようにして測定する。光学顕微鏡を用いて磁性シース層5の縦断面の観察画像を取得する。各観察画像のとり方は、同一視野内に磁性シース層5の内周面と磁性シース層5の外周面とが含まれるようにする。磁性シース層5の内周面は、磁性シース層5の直下の層と磁性シース層5との境界である。磁性シース層5の直下の層は、本実施形態では金属シールド層4である。金属シールド層4を備えていない場合、磁性シース層5の直下の層は絶縁層3である。磁性シース層5の外周面は、磁性シース層5の直上の層と磁性シース層5との境界、又は磁性シース層5の露出面である。磁性シース層5の直上の層は、本実施形態では後述するアウターシース層6である。アウターシース層6を備えていない場合、磁性シース層5の直上の層は無いため、磁性シース層5の外周面は磁性シース層5の露出面である。光学顕微鏡の倍率は40倍以上200倍以下である。観察画像のサイズは3000μm×4000μmである。観察画像の取得数は3個以上である。各観察画像において通信電線1の径方向に沿った磁性シース層5の長さを測定する。各観察画像における測定数は4個以上である。測定した全ての磁性シース層5の上記長さの平均値が磁性シース層5の平均厚さである。
【0052】
[アウターシース層]
実施形態の通信電線1は、図1に示すように、磁性シース層5の外周を被覆しているアウターシース層6を更に備えていてもよい。本実施形態では、アウターシース層6は通信電線1の最外周に設けられている。アウターシース層6は、磁性シース層5を外部から機械的に保護する。
【0053】
アウターシース層6の構成材料は、公知の有機ポリマーである。アウターシース層6は、磁性シース層5に含まれた磁性材料を含んでいない。具体的な有機ポリマーは、絶縁層3又は磁性シース層5を構成する有機ポリマーと同様である。アウターシース層6の有機ポリマーと図2に示す磁性シース層5の有機ポリマー53の少なくとも一部が同種であれば、磁性シース層5に対するアウターシース層6の接着性を高め易い。
【0054】
アウターシース層6の平均厚さは、例えば0.1mm以上0.5mm以下である。0.1mm以上の厚さを有するアウターシース層6は、磁性シース層5に対する保護性能を高め易い。0.5mm以下の厚さを有するアウターシース層6は、通信電線1の可とう性を高め易い。
【0055】
《試験例》
電磁波ノイズの遮蔽性を評価した。
【0056】
〔試料No.1から試料No.4、試料No.101から試料No.103〕
各試料では軟磁性粉末と有機ポリマーとを含む材料で構成されたシート材を押出成形によって作製した。各試料における有機ポリマーの各成分、各成分の含有量、軟磁性粉末の組成、及び軟磁性粉末の含有量を表1に示す。また、各試料における軟磁性粉末の形状、軟磁性粉末の平均粒径、及び平均アスペクト比、磁性シース層の構成材料のMFR(メルトフローレイト)、及び磁性シース層における軟磁性粉末の平均配向角を表2に示す。上記平均粒径は、各軟磁性粉末の長径を測定し、累積分布が50%になる粒径D50を平均粒径とした。表2には平均アスペクト比が範囲で示されている。平均アスペクト比は表2に示す範囲を満たすことを意味する。
【0057】
メルトフローレイト測定は、JIS K 7210に準拠した方法で、温度を220℃、荷重10kgの条件で行った。
【0058】
平均配向角は、次のようにして測定した。光学顕微鏡を用いて押出方向に平行な断面の観察画像を取得した。光学顕微鏡の倍率は700倍とした。観察画像のサイズは315μm×420μmとした。観察画像の取得数は3個とした。全ての観察画像中に存在する全ての軟磁性粉末において、最大長さに沿った仮想線と押出方向に沿った仮想線とのなす角を求めた。求めた全てのなす角の平均値を上記平均配向角とした。上記平均配向角を求めるための軟磁性粉末の測定数は30個とした。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示す成分は以下の通りである。
TPO(オレフィン系熱可塑性エラストマー)1:日本ポリプロ社製 「ウェルネクス RMG02」
PP(ポリプロピレン):日本ポリプロ社製 「ノバテック BC06C」
EEA(エチレン・アクリル酸エチル共重合体):ENEOS NUC社製 「NUC-6940」
TPO2:LyondellBasell社製 「Adflex Q200F」
【0061】
【表2】
【0062】
〔電磁波ノイズの遮蔽性の評価〕
各試料のシート材おける電磁波ノイズの遮蔽性の評価は、マイクロストリップラインを用いて周波数に対するノイズ吸収量を測定することで行った。その結果を図3のグラフに示す。図3のグラフの横軸は周波数(GHz)である。図3のグラフの縦軸はノイズ吸収量(dB)である。
試料No.1の結果は太い実線で示されている。
試料No.2の結果は太い破線で示されている。
試料No.3の結果は太い一点鎖線で示されている。
試料No.4の結果は太い点線で示されている。
試料No.101の結果は細い実線で示されている。
試料No.102の結果は細い破線で示されている。
試料No.103の結果は細い一点鎖線で示されている。
【0063】
試料No.1のノイズ吸収量の最大値をとる周波数は10GHzであった。
試料No.2のノイズ吸収量の最大値をとる周波数は6GHzであった。
試料No.3のノイズ吸収量の最大値をとる周波数は3.1GHzであった。
試料No.4のノイズ吸収量の最大値をとる周波数は4.3GHzであった。
試料No.101、試料No.102、及び試料No.103のノイズ吸収量の最大値をとる周波数はいずれも10GHzであった。
【0064】
試料No.1から試料No.4では、ノイズ吸収量の最大値となる周波数が異なっていた。一方、試料No.101から試料No.103では、ノイズ吸収量の最大値となる周波数が同じであった。この結果から、試料No.1から試料No.4は所望の周波数の電磁波ノイズを遮蔽し易いことがわかった。
【0065】
代表して、試料No.3と試料No.4のシート材と同様の構成材料を用いて形成した磁性シース層を備える通信電線を作製した。この通信電線は次のようにして作製した。導体を準備した。押出成形により導体の外周に絶縁層を形成した。絶縁層の外周に金属箔を縦沿えすることで絶縁層の外周を金属箔で被覆し、金属箔の外周を編組線で被覆することで金属シールド層を形成した。押出成形により金属シールド層の外周に磁性シールド層を形成した。図4図5に磁性シース層5の縦断面を示す。図4図5の左右方向が通信電線の軸方向、即ち磁性シース層5の構成材料の押出方向である。図4図5の上下方向が通信電線の径方向、即ち磁性シース層5の厚さ方向である。
【0066】
図4に示す磁性シース層5では、多くの軟磁性粉末51の長軸が押出方向に沿って揃っている。長軸が押出方向に対して大きく傾いている軟磁性粉末51の数は少ない。図5に示す磁性シース層では、軟磁性粉末51の長軸が押出方向に沿っているものが多いものの、一部の軟磁性粉末51の長軸が押出方向に対して大きく傾いている。図4図5に示す磁性シース層5における軟磁性粉末51の平均配向角を上述のようにして求めた。その結果、図4に示す磁性シース層における軟磁性粉末51の平均配向角は、試料No.3と同様であった。図5に示す磁性シース層における軟磁性粉末51の平均配向角は、試料No.4と同様であった。
【0067】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0068】
1 通信電線
2 導体、3 絶縁層
4 金属シールド層、41 金属箔、42 編組線
5 磁性シース層、51 軟磁性粉末、53 有機ポリマー
6 アウターシース層
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2023-06-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0062
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0062】
〔電磁波ノイズの遮蔽性の評価〕
各試料のシート材おける電磁波ノイズの遮蔽性の評価は、マイクロストリップラインを用いて周波数に対するノイズ吸収量を測定することで行った。その結果を図3のグラフに示す。図3のグラフの横軸は周波数(GHz)である。図3のグラフの縦軸はノイズ吸収量(dB)である。
試料No.1の結果は太い実線で示されている。
試料No.2の結果は太い破線で示されている。
試料No.3の結果は太い一点鎖線で示されている。
試料No.4の結果は太い点線で示されている。
試料No.101の結果は細い実線で示されている。
試料No.102の結果は細い破線で示されている。
試料No.103の結果は細い線で示されている。