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特開2023-144948固体酸化物形電解セル、固体酸化物形電解セルの製造方法、固体酸化物形電解モジュール、電気化学装置及びエネルギーシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144948
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】固体酸化物形電解セル、固体酸化物形電解セルの製造方法、固体酸化物形電解モジュール、電気化学装置及びエネルギーシステム
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/23 20210101AFI20231003BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20231003BHJP
   C25B 9/63 20210101ALI20231003BHJP
   C25B 9/77 20210101ALI20231003BHJP
   C25B 11/03 20210101ALI20231003BHJP
   C25B 1/23 20210101ALI20231003BHJP
   C25B 9/65 20210101ALI20231003BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20231003BHJP
【FI】
C25B9/23
C04B38/00 303Z
C04B38/00 304Z
C25B9/63
C25B9/77
C25B11/03
C25B1/23
C25B9/65
C25B1/042
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052171
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】津田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】越後 満秋
(72)【発明者】
【氏名】大西 久男
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 享平
【テーマコード(参考)】
4G019
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G019FA13
4G019GA04
4K011AA11
4K011BA01
4K011DA01
4K011DA11
4K021AA01
4K021AB25
4K021BA02
4K021BA17
4K021CA02
4K021CA05
4K021DB06
4K021DB36
4K021DB53
(57)【要約】
【課題】電極層の剥離を抑えられ、強度(信頼性)や耐久性、性能に優れた固体酸化物形電解セルを提供する。
【解決手段】固体酸化物電解セルEは、少なくとも、第1電極層6と、第2電極層2と、第1電極層6と第2電極層2との間に配置された電解質層4とを有する固体酸化物形電解セルEであって、第1電極層6は、その縦断面において、面積が0.75μm以上の孔を少なくとも複数有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層と前記第2電極層との間に配置された電解質層とを有する固体酸化物形電解セルであって、
前記第1電極層は、その縦断面において、面積が0.75μm以上の孔を少なくとも複数有する固体酸化物形電解セル。
【請求項2】
前記第1電極層は、その縦断面において、前記面積が0.75μm以上の孔が3つ以上存在する10μm角領域を少なくとも有する請求項1に記載の固体酸化物形電解セル。
【請求項3】
前記第1電極層における前記面積が0.75μm以上の孔が、直径が0.5μm以上の孔である請求項1又は2に記載の固体酸化物形電解セル。
【請求項4】
前記第1電極層は、その縦断面において、面積が0.04μm以下の孔を少なくとも有する請求項1~3のいずれか一項に記載の固体酸化物形電解セル。
【請求項5】
前記第1電極層における前記面積が0.04μm以下の孔が、直径0.1μm以下の孔である請求項4に記載の固体酸化物形電解セル。
【請求項6】
前記第1電極層は、前記面積が0.75μm以上の孔に関する第1気孔率が5%以上20%未満である縦断面が存在する請求項1~5のいずれか一項に記載の固体酸化物形電解セル。
【請求項7】
前記第1電極層は、前記面積が0.75μm以上の孔及び前記面積が0.04μm以下の孔に関する第2気孔率が10%以上40%以下である縦断面が存在する請求項4又は5に記載の固体酸化物形電解セル。
【請求項8】
前記第1電極層は、少なくとも粒子径が0.1μm以下の粒子を複数含む請求項1~7のいずれか一項に記載の固体酸化物形電解セル。
【請求項9】
前記第1電極層は、酸素発生極である請求項1~8のいずれか一項に記載の固体酸化物形電解セル。
【請求項10】
前記第1電極層と前記電解質層との間に反応防止層が配置される請求項1~9のいずれか一項に記載の固体酸化物形電解セル。
【請求項11】
前記電解質層は、酸化物イオン伝導体を含有する請求項1~10のいずれか一項に記載の固体酸化物形電解セル。
【請求項12】
金属支持体を有する請求項1~11のいずれか一項に記載の固体酸化物形電解セル。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の固体酸化物形電解セルの製造方法であって、前記第1電極層を形成する工程において造孔材を用いる、固体酸化物形電解セルの製造方法。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の固体酸化物形電解セルの製造方法であって、全工程における処理温度が1100℃以下である、固体酸化物形電解セルの製造方法。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか一項に記載の固体酸化物形電解セルが複数集合した状態で配置される固体酸化物形電解モジュール。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか一項に記載の固体酸化物形電解セル又は請求項15に記載の固体酸化物形電解モジュールと、前記固体酸化物形電解セル又は前記固体酸化物形電解モジュールで生成する還元性成分を含有するガスを変換する燃料変換器と、を少なくとも有する電気化学装置。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか一項に記載の固体酸化物形電解セル又は請求項15に記載の固体酸化物形電解モジュールと、前記固体酸化物形電解セル又は前記固体酸化物形電解モジュールに電力を流通する電力変換器と、を少なくとも有する電気化学装置。
【請求項18】
請求項16又は17に記載の電気化学装置と、前記電気化学装置から排出される熱を再利用する排熱利用部と、を少なくとも有するエネルギーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形電解セル、その製造方法、並びに固体酸化物形電解セルを備えた固体酸化物形電解モジュール、電気化学装置及びエネルギーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、固体酸化物形燃料電池(SOFC)が開示されている。
【0003】
非特許文献1に開示された固体酸化物形燃料電池は、まず、Fe-Cr系合金粉末を焼結して得た多孔質金属支持体の上にアノード電極層を焼成して形成する。ついで、エアロゾルデポジション法(AD法)を用いて加熱することなく、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)からなる電解質層をアノード電極層の上に形成する。その後、当該電解質層の上に、LSCF粉末に造孔材としてのPVDF(ポリビニリデンフルオライド)を混ぜた状態で積層して焼成し、ナノサイズの多孔質構造を有するカソード電極層を形成することで製造される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Jong-Jin Choi and Dong-Soo Park, “Preparation of Metal-supported SOFC using Low Temperature Ceramic Coating Process”, Proceedings of 11th European SOFC & SOE Forum, A1502, Chapter 09 - Session B15 - 14/117- 20/117 (1-4 July 2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような固体酸化物形燃料電池は、電極層や電解質層からなる素子部において発電反応を生じさせることで発電セルとして機能する。一方、素子部において発電反応の逆反応である電解反応を生じさせることも可能であり、この場合、固体酸化物形電解セル(SOEC)として機能する。
【0006】
ここで、固体酸化物形燃料電池をベースとする固体酸化物形電解セルによって水蒸気の電解を行う場合、水の電解による吸熱と、セルのオーム損による発熱とがバランスする反応条件(熱中立点)は、理論的には単セル電圧が1.3Vのときに成り立つことが知られている。したがって、固体酸化物形電解セルを使用するシステムは、外部への熱排出や外部からの熱供給を必要としない熱中立点付近、言い換えれば、1.3V程度の電圧を印加した状態での運転を継続できることが望ましい。
【0007】
しかしながら、固体酸化物形燃料電池は、発電用途向けに最適化されている。そのため、これを固体酸化物形電解セルとして使用した場合、1.3V程度の電圧を印加して水蒸気や二酸化単炭素の電解反応を行うと、電極層で大量の酸素が発生し、その発生した酸素の圧に電極層が耐えられなくなる虞がある。具体的には、大量の酸素が発生した場合に、電極層からの酸素の放出が追い付かなくなり、電極層内の圧力が増加して電極層が電解質層などの下地層から剥離し、セルが破損するという課題がある。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みなされたものであり、電極層の剥離を抑えられ、強度(信頼性)や耐久性、性能に優れた固体酸化物形電解セル、その製造方法、並びに固体酸化物形電解セルを備えた固体酸化物形電解モジュール、電気化学装置及びエネルギーシステムの提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る固体酸化物形電解セルの特徴構成は、
少なくとも、第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層と前記第2電極層との間に配置された電解質層とを有する固体酸化物形電解セルであって、
前記第1電極層は、その縦断面において、面積が0.75μm以上の孔を少なくとも複数有する点にある。
【0010】
上記特徴構成によれば、例えば、第1電極層で大量の酸素が発生した場合であっても、縦断面において、面積が0.75μm以上の孔を複数有していることで、第1電極層から酸素が放出され易くなり、第1電極層内の圧力の上昇を抑えることができるため、第1電極層の剥離を抑制できる。したがって、固体酸化物形電解セルは、強度(信頼性)や耐久性、性能に優れたものとなる。
【0011】
本発明に係る固体酸化物形電解セルの更なる特徴構成は、
前記第1電極層は、その縦断面において、前記面積が0.75μm以上の孔が3つ以上存在する10μm角領域を少なくとも有する点にある。
【0012】
上記特徴構成によれば、第1電極層内に存在する面積が0.75μm以上の孔の数が電解反応に関与する気体を供給、放出する上で十分なものとなり、第1電極層の剥離をより抑制できる。
【0013】
本発明に係る固体酸化物形電解セルの更なる特徴構成は、
前記第1電極層における前記面積が0.75μm以上の孔が、直径が0.5μm以上の孔である点にある。
【0014】
上記特徴構成によれば、第1電極層から酸素が放出され易くなり、第1電極層内の圧力の上昇を抑えることができるため、第1電極層の剥離を抑制できる。したがって、固体酸化物形電解セルは、強度(信頼性)や耐久性、性能に優れたものとなる。
【0015】
本発明に係る固体酸化物形電解セルの更なる特徴構成は、
前記第1電極層は、その縦断面において、面積が0.04μm以下の孔を少なくとも有する点にある。
【0016】
上記特徴構成によれば、ミクロンオーダーの孔とナノオーダーの孔との双方が存在することで、第1電極層内から気体が放出され易くなるだけでなく、ミクロンオーダーの孔のみを有する場合と比較して表面積が増えるため、第1電極層における、電気化学反応場を多く確保することができる。即ち、上記特徴構成によれば、電解セルとしての性能を高めつつ、第1電極層の剥離を抑制できる。
【0017】
本発明に係る固体酸化物形電解セルの更なる特徴構成は、
前記第1電極層における前記面積が0.04μm以下の孔が、直径0.1μm以下の孔である点にある。
【0018】
上記特徴構成によれば、上記と同様に、ミクロンオーダーの孔とナノオーダーの孔との双方が存在することで、第1電極層内から気体が放出され易くなるだけでなく、ミクロンオーダーの孔のみを有する場合と比較して表面積が増えるため、第1電極層における、電気化学反応場を多く確保することができる。即ち、上記特徴構成によれば、電解セルとしての性能を高めつつ、第1電極層の剥離を抑制できる。
【0019】
本発明に係る固体酸化物形電解セルの更なる特徴構成は、
前記第1電極層は、前記面積が0.75μm以上の孔に関する第1気孔率が5%以上20%未満である縦断面が存在する点にある。
【0020】
上記特徴構成によれば、第1電極層には、面積が0.75μm以上の孔に関する第1気孔率が5%以上20%未満という適度な値の縦断面が存在するため、第1電極層の強度を確保しつつ、第1電極層から電解反応に関与する気体を供給、放出し易くなり、第1電極層の剥離を抑制し易くなる。
【0021】
本発明に係る固体酸化物形電解セルの更なる特徴構成は、
前記第1電極層は、前記面積が0.75μm以上の孔及び前記面積が0.04μm以下の孔に関する第2気孔率が10%以上40%以下である縦断面が存在する点にある。
【0022】
上記特徴構成によれば、第1電極層には、面積が0.75μm以上の孔及び面積が0.04μm以下の孔に関する第2気孔率が10%以上40%以下という適度な値の縦断面が存在するため、第1電極層の強度を確保しつつ、第1電極層から電解反応に関与する気体を供給、放出し易くなり、第1電極層の剥離を抑制できる。
【0023】
本発明に係る固体酸化物形電解セルの更なる特徴構成は、
前記第1電極層は、少なくとも粒子径が0.1μm以下の粒子を複数含む点にある。
【0024】
上記特徴構成によれば、第1電極層が面積が0.75μm以上の孔以外に、少なくとも粒子径が0.1μm以下の粒子を複数含んでいることで、第1電極層の強度の極端な低下が抑えられるとともに、電気化学反応場を多く確保できるため、高性能な固体酸化物形電解セルを実現できる。
【0025】
本発明に係る固体酸化物形電解セルの更なる特徴構成は、
前記第1電極層は、酸素発生極である点にある。
【0026】
上記特徴構成によれば、高電圧高電流密度で電解を行うと、水蒸気や二酸化炭素の電解反応によって大量の酸素が第1電極層側で発生するが、第1電極層が電解反応で発生した気体(酸素)を放出し易くなっている。そのため、電解質層などの下地層からの第1電極層の剥離が抑えられる。
【0027】
本発明に係る固体酸化物形電解セルの更なる特徴構成は、
前記第1電極層と前記電解質層との間に反応防止層が配置される点にある。
【0028】
上記特徴構成によれば、第1電極層の成分と電解質層の成分との反応を防止できる。
【0029】
本発明に係る固体酸化物形電解セルの更なる特徴構成は、
前記電解質層は、酸化物イオン伝導体を含有する点にある。
【0030】
上記特徴構成によれば、電解質層が酸化物イオン伝導体を含むため、高い電気化学性能を発揮可能な固体酸化物形電解セルを実現できる。
【0031】
本発明に係る固体酸化物形電解セルの更なる特徴構成は、
金属支持体を有する点にある。
【0032】
上記特徴構成によれば、安価で堅牢な金属支持体により第1電極層、第2電極層及び電解質層を支持することができるため、高価なセラミック材料の使用量を低減できるとともに、強度が高く信頼性・耐久性に優れた固体酸化物形電解セルを得ることができる。更に、加工性にも優れるため、製造コストの低減も可能となる。
また、金属支持体を有する固体酸化物形電解セルは、金属支持体の損傷を抑えるために、製造時に高温域(例えば、1100℃よりも高い温度域)での処理を避ける必要があり、結果的に、第1電極層と下地となる層との間の密着強度が低くなり易く、第1電極層の剥離という問題が生じやすい。しかしながら、上記特徴構成を備えた固体酸化物形電解セルにおいては、第1電極層が面積が0.75μm以上の孔を有していることで、第1電極層の剥離を抑制できるようになっている。そのため、第1電極層の剥離という問題が生じやすい、金属支持体を有した固体酸化物形電解セルを、第1電極層の剥離を抑制でき、強度(信頼性)や耐久性、性能に優れたものにできる。
【0033】
また、本発明に係る固体酸化物形電解セルの製造方法の特徴構成は、
上記固体酸化物電解セルの製造方法であって、
前記第1電極層を形成する工程において造孔材を用いる点にある。
【0034】
上記特徴構成によれば、第1電極層を形成する際に造孔材を用いるため、第1電極層に面積が0.75μm以上の孔を形成できる。
【0035】
本発明に係る固体酸化物形電解セルの製造方法の別の特徴構成は、
上記固体酸化物形電解セルの製造方法であって、
全工程における処理温度が1100℃以下である点にある。
【0036】
上記特徴構成によれば、例えば、固体酸化物形電解セルが金属支持体を有している場合であっても、当該金属支持体の損傷を抑制できる。
【0037】
上記目的を達成するための本発明に係る固体酸化物形電解モジュールの特徴構成は、
上記固体酸化物形電解セルが複数集合した状態で配置される点にある。
【0038】
上記特徴構成によれば、固体酸化物形電解セルが複数集合した状態で配置されることで、材料コストと加工コストを抑制しつつ、コンパクトで高性能な、強度と信頼性に優れた固体酸化物形電解モジュールが実現できる。
【0039】
上記目的を達成するための本発明に係る電気化学装置の特徴構成は、
上記固体酸化物形電解セル又は上記固体酸化物形電解モジュールと、前記固体酸化物形電解セル又は前記固体酸化物形電解モジュールで生成する還元性成分を含有するガスを変換する燃料変換器と、を少なくとも有する点にある。
【0040】
固体酸化物形電解セル又は固体酸化物形電解モジュールを電解セルとして動作させる際、第2電極層に水蒸気や二酸化炭素を含有するガスが流通され、第2電極層と第1電極層との間に電圧が印加される。そうすると、第2電極層において電子eと水HOや二酸化炭素分子COが反応して、水素Hや一酸化炭素COと酸素イオンO2-となる。発生した酸素イオンO2-は、電解質層を通って第1電極層へ移動する。そして、第1電極層において、酸素イオンO2-が電子を放出して酸素Oとなる。以上の反応により、水蒸気を含有するガスが流通する場合には、水HOが水素Hと酸素Oとに分解され、二酸化炭素分子COを含有するガスが流通する場合には、一酸化炭素COと酸素Oとに電気分解される。
したがって、水蒸気と二酸化炭素分子COとを含有するガスが流通される場合は、上記電気分解により固体酸化物形電解セル又は固体酸化物形電解モジュールで生成した水素及び一酸化炭素等から炭化水素などの種々の化合物を合成する燃料変換器を設けることができる。これにより、燃料変換器が生成した炭化水素等を固体酸化物形電解セル又は固体酸化物形電解モジュールに流通する、或いは本システム・装置外に取り出して別途燃料や化学原料として利用することが可能となる。
【0041】
上記目的を達成するための本発明に係る電気化学装置の特徴構成は、
上記固体酸化物形電解セル又は上記固体酸化物形電解モジュールと、前記固体酸化物形電解セル又は前記固体酸化物形電解モジュールに電力を流通する電力変換器と、を少なくとも有する点にある。
【0042】
上記特徴構成によれば、電力変換器は、固体酸化物形電解セル又は固体酸化物形電解モジュールに電力を流通することができる。これにより、上記のように固体酸化物形電解セル又は固体酸化物形電解モジュールは、電解セルとして作用する。したがって、上記特徴構成によれば、電気エネルギーを燃料等の化学的エネルギーに変換する効率が向上した電気化学装置を実現できる。尚、例えば、電力変換器としてインバータを用いる場合、電解セルとして動作させる際に、交流電源から直流を得て、固体酸化物形電解セル又は固体酸化物形電解モジュールへ直流の電力供給できる電気化学装置を構築できるので好ましい。
【0043】
上記目的を達成するための本発明に係るエネルギーシステムの特徴構成は、
上記電気化学装置と、前記電気化学装置から排出される熱を再利用する排熱利用部と、を少なくとも有する点にある。
【0044】
上記特徴構成によれば、耐久性・信頼性及び性能に優れ、かつエネルギー効率にも優れたエネルギーシステムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】一実施形態に係る固体酸化物形電解セルの概略構成を示す図である。
図2】一実施形態に係る固体酸化物形電解モジュールの概略構成を示す図である。
図3】一実施形態に係る電気化学装置及びエネルギーシステムの概略構成を示す図である。
図4】実施例に係る固体酸化物形電解セルの縦断面を示すSEM画像である。
図5】実施例に係る固体酸化物形電解セルの縦断面を示すSEM画像である。
図6】比較例に係る固体酸化物形電解セルの縦断面を示すSEM画像である。
図7】別実施形態に係る固体酸化物形電解モジュールの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、実施形態に係る固体酸化物形電解セルE、その製造方法、固体酸化物形電解モジュールM、電気化学装置Y及びエネルギーシステムZについて説明する。尚、以下、層の位置関係などを表す際、例えば、電解質層4から見て対極電極層6(第1電極層)の側を「上」又は「上側」、電極層2(第2電極層)の側を「下」又は「下側」という場合がある。また、金属支持体1における電極層2が形成されている側の面を「表側の面」、反対側の面を「裏側の面」という場合がある。
【0047】
(固体酸化物形電解セル)
図1に示すように、固体酸化物形電解セルEは、金属支持体1と、電極層2(第2電極層)と、電極層2の上に形成された第1反応防止層3と、第1反応防止層3の上に形成された電解質層4と、電解質層4の上に形成された第2反応防止層5と、第2反応防止層5の上に形成された対極電極層6(第1電極層)とを有する。つまり、電解質層4は、対極電極層6と電極層2との間に配置され、対極電極層6と電解質層4との間には、第2反応防止層5が配置されている。
【0048】
(金属支持体)
金属支持体1は、電極層2、第1反応防止層3、電解質層4、第2反応防止層5及び対極電極層6を支持して固体酸化物形電解セルEの強度を保つ。つまり、金属支持体1は、電解セルの構成要素を支持する支持体としての役割を担う。
【0049】
金属支持体1の材料としては、電子伝導性、耐熱性、耐酸化性及び耐腐食性に優れた材料が用いられる。例えば、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、ニッケル基合金などが用いられる。特に、クロムを含む合金が好適に用いられる。本実施形態では、金属支持体1は、Crを18質量%以上25質量%以下含有するFe-Cr系合金を用いているが、Mnを0.05質量%以上含有するFe-Cr系合金、Tiを0.15質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金、Zrを0.15質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金、Ti及びZrを含有しTiとZrとの合計の含有量が0.15質量%以上1.0質量%以下であるFe-Cr系合金、Cuを0.10質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金であると特に好適である。
尚、金属支持体1がフェライト系ステンレス材から構成されると、安価で強度が高い固体酸化物形電解セルEを実現できるので好ましい。
【0050】
金属支持体1は全体として板状である。金属支持体1は、支持体として固体酸化物形電解セルEを形成するのに充分な強度を有すれば良く、その厚さは、強度を確保するという観点で、例えば、0.1mm以上であると好ましく、0.15mm以上であるとより好ましく、0.2mm以上であると更に好ましい。また、その厚さは、コストを抑制するという観点で、例えば、2mm以下であると好ましく、1mm以下であるとより好ましく、0.5mm以下であると更に好ましい。そして、金属支持体1は、電極層2が設けられる面(表側の面)から裏側の面へ貫通する複数の貫通孔1aを有する。本実施形態において、金属支持体1は、金属板の表側の面と裏側の面とを貫通するように、パンチング加工やエッチング加工、レーザー加工などの、機械的、化学的あるいは光学的穿孔加工(孔加工)などにより、複数の貫通孔1aを設けた金属板である。これにより、金属支持体1の裏側の面から電極層2側への水蒸気や二酸化炭素が含有するガス(以下、単に「混合ガス」ともいう)の供給をスムーズにできるので高性能な固体酸化物形電解セルEを実現できる。
尚、板状の金属支持体1を曲げたりして、例えば箱状、円筒状などの形状に変形させて使用することも可能である。
【0051】
金属支持体1の表面には、拡散抑制層としての金属酸化物層1bが設けられる。即ち、金属支持体1と後述する電極層2との間に、拡散抑制層が形成されている。金属酸化物層1bは、金属支持体1の外部に露出した面だけでなく、電極層2との接触面(界面)及び貫通孔1aの内側の面にも設けられる。この金属酸化物層1bにより、金属支持体1と電極層2との間の元素相互拡散を抑制できる。例えば、金属支持体1としてクロムを含有するフェライト系ステンレスを用いた場合は、金属酸化物層1bが主にクロム酸化物となる。そして、金属支持体1のクロム原子等が電極層2や電解質層4へ拡散することを、クロム酸化物を主成分とする金属酸化物層1bが抑制する。金属酸化物層1bの厚さは、拡散防止性能の高さと電気抵抗の低さを両立させることのできる厚みであれば良い。例えば、サブミクロンオーダーであることが好ましく、具体的には、平均的な厚さが0.3μm以上0.7μm以下程度であることがより好ましい。また、最小厚さは約0.1μm以上であることがより好ましい。また、最大厚さが約1.1μm以下であることが好ましい。
【0052】
尚、金属酸化物層1bは、種々の手法により形成され得るが、金属支持体1の表面を酸化させて金属酸化物とする手法が好適に利用される。また、金属支持体1の表面に、金属酸化物層1bをスパッタリング法やPLD法等のPVD法、CVD法、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジション法、パウダージェットデポジション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)などにより形成しても良いし、メッキと酸化処理によって形成しても良い。更に、金属酸化物層1bは導電性の高いスピネル相などを含んでも良い。
【0053】
(電極層)
電極層2は、図1に示すように、金属支持体1の貫通孔1aが形成された領域を覆うように金属支持体1の表面に薄層の状態で設けることができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは、5μm~50μmとすることができる。このような厚さにすると、高価な電極層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な電極性能を確保することが可能となる。また、金属支持体1における貫通孔1aが設けられた領域は、その全体が電極層2に覆われている。つまり、貫通孔1aは、金属支持体1における電極層2が形成された領域の内側に形成されている。換言すれば、全ての貫通孔1aは、電極層2に面して設けられている。
【0054】
電極層2の材料としては、例えば、NiO-GDC、Ni-GDC、NiO-YSZ、Ni-YSZ、CuO-CeO、Cu-CeOなどの複合材を用いることができる。これらの例では、GDC、YSZ、CeOを複合材の骨材と呼ぶことができる。
【0055】
尚、電極層2は、低温焼成法(例えば1100℃より高い高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジション法、パウダージェットデポジション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法やパルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能なプロセスにより、例えば、1100℃より高い高温域での焼成を用いずに、良好な電極層2が得られる。そのため、金属支持体1を傷めることなく、また、金属支持体1と電極層2との元素拡散を抑制することができ、耐久性に優れた固体酸化物形電解セルEを実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0056】
電極層2は、気体透過性を持たせるため、その内部及び表面に複数の細孔を有する。即ち、電極層2は、多孔質な層として形成される。電極層2は、例えば、その緻密度が30%以上80%未満となるように形成される。細孔のサイズは、電気化学反応を行う際に円滑な反応が進行するのに適したサイズを適宜選ぶことができる。尚、緻密度とは、層を構成する材料の空間に占める割合であって、(1-気孔率)と表すことができ、また、相対密度と同等である。
【0057】
(第1反応防止層)
第1反応防止層3は、図1に示すように、電極層2を覆った状態で、電極層2の上に薄層の状態で形成することができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは2μm~50μm程度、より好ましくは4μm~25μm程度とすることができる。このような厚さにすると、高価な反応防止層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な性能を確保することが可能となる。
【0058】
第1反応防止層3の材料としては、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)やGDC(ガドリニウム・ドープ・セリア)、YDC(イットリウム・ドープ・セリア)、SDC(サマリウム・ドープ・セリア)等を用いることができる。特にセリア系のセラミックスが好適に用いられる。
【0059】
第1反応防止層3は、低温焼成法(例えば1100℃より高い高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジション法、パウダージェットデポジション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能な成膜プロセスにより、例えば、1100℃より高い高温域での焼成を用いずに第1反応防止層3が得られる。そのため、金属支持体1を傷めることなく、金属支持体1と電極層2との元素相互拡散を抑制することができ、耐久性に優れた固体酸化物形電解セルEを実現できる。また、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0060】
尚、本実施形態において、第1反応防止層3は、酸素イオン(酸化物イオン)及び電子の双方の伝導性を有する混合伝導体であると更に好ましい。このような性質を有する第1反応防止層3は、固体酸化物形電解セルEへの適用に適している。
【0061】
(電解質層)
電解質層4は、図1に示すように、第1反応防止層3の上に薄層の状態で形成される。また、厚さが10μm以下の薄膜の状態で形成することもできる。本実施形態において、電解質層4は、第1反応防止層3の上と金属支持体1の上とにわたって(跨って)設けられる。このように構成し、電解質層4を金属支持体1に接合することで、固体酸化物形電解セルEを全体として堅牢性に優れたものとすることができる。
【0062】
また、電解質層4は、金属支持体1の表側の面であって貫通孔1aが設けられた領域よりも大きな領域に設けられる。つまり、貫通孔1aは、金属支持体1における電解質層4が形成された領域の内側に形成されている。これにより、電解質層4の周囲において、電極層2及び第1反応防止層3からのガスのリークを抑制することができる。説明すると、固体酸化物形電解セルEの作動時には、金属支持体1の裏側から貫通孔1aを通じて電極層2へ混合ガスが供給される。電解質層4が金属支持体1に接している部位においては、ガスケット等の別部材を設けることなく、ガスのリークを抑制することができる。尚、本実施形態では、電解質層4によって電極層2の周囲を全て覆っているが、電極層2及び第1反応防止層3の上部に電解質層4を設け、周囲にガスケット等を設ける構成としてもよい。
【0063】
電解質層4の材料としては、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)やGDC(ガドリニウム・ドープ・セリア)、YDC(イットリウム・ドープ・セリア)、SDC(サマリウム・ドープ・セリア)、LSGM(ストロンチウム・マグネシウム添加ランタンガレート)等の酸素イオンを伝導する電解質材料(酸化物イオン伝導体)を用いることができる。特に、ジルコニア系のセラミックスが好適に用いられる。尚、本実施形態において、電解質層4は安定化ジルコニアを含有している。
【0064】
電解質層4は、低温焼成法(例えば1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジション法、パウダージェットデポジション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能な成膜プロセスにより、例えば、1100℃を越える高温域での焼成を用いずに、緻密で気密性及びガスバリア性の高い電解質層4が得られる。そのため、金属支持体1の損傷を抑制し、また、金属支持体1と電極層2との元素拡散を抑制することができ、性能・耐久性に優れた固体酸化物形電解セルEを実現できる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、スプレーコーティング法を用いると、緻密で気密性及びガスバリア性の高い電解質層4が低温域で容易に得られやすいので更に好ましい。
【0065】
電解質層4は、電極層2に供給される混合ガスや対極電極層6で発生する酸素ガスのリークを遮蔽し、且つ、高いイオン伝導性を発現するために、緻密に構成される。電解質層4の緻密度は90%以上が好ましく、95%以上であるとより好ましく、98%以上であると更に好ましい。電解質層4は、均一な層である場合は、その緻密度が95%以上であると好ましく、98%以上であるとより好ましい。また、電解質層4が、複数の層状に構成されているような場合は、そのうちの少なくとも一部が、緻密度が98%以上である層(緻密電解質層)を含んでいると好ましく、99%以上である層(緻密電解質層)を含んでいるとより好ましい。このような緻密電解質層が電解質層4の一部に含まれていると、電解質層4が複数の層状に構成されている場合であっても、緻密で気密性及びガスバリア性の高い電解質層4を形成しやすくできるからである。
【0066】
(第2反応防止層)
第2反応防止層5は、電解質層4の上に薄層の状態で形成できる。薄層とする場合は、その厚さを例えば、1μm~100μm程度、好ましくは2μm~50μm程度、より好ましくは3μm~15μm程度とすることができる。このような厚さにすると、高価な反応防止層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な性能を確保することが可能となる。
【0067】
第2反応防止層5の材料としては、電解質層4の成分と対極電極層6の成分との間の反応を防止できる材料であれば良いが、例えばセリア系材料等が用いられる。また、第2反応防止層5の材料として、Sm、Gd及びYからなる群から選ばれる元素のうち少なくとも1つを含有する材料が好適に用いられる。尚、Sm、Gd及びYからなる群から選ばれる元素のうち少なくとも1つを含有し、これら元素の含有率の合計が1.0質量%以上10質量%以下であるとよい。第2反応防止層5を電解質層4と対極電極層6との間に導入することにより、対極電極層6の構成材料と電解質層4の構成材料との反応が効果的に抑制され、固体酸化物形電解セルEの性能の長期安定性を向上できる。
【0068】
第2反応防止層5は、酸素イオン(酸化物イオン)伝導性を有することが好ましい。また、酸素イオン(酸化物イオン)及び電子の双方の伝導性を有する混合伝導体であると更に好ましい。このような性質を有する第2反応防止層5は、固体酸化物形電解セルEへの適用に適している。
【0069】
第2反応防止層5の形成は、1100℃以下の処理温度で形成できる方法を適宜用いて行うと、金属支持体1の損傷を抑制し、また、金属支持体1と電極層2との元素拡散を抑制でき、性能・耐久性に優れた固体酸化物形電解セルEを実現できるので好ましい。例えば、低温焼成法(例えば、1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジション法、パウダージェットデポジション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを適宜用いて行うことができる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな電解セルが実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0070】
(対極電極層)
対極電極層6は、第2反応防止層5の上に薄層の状態で形成することができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは、5μm~50μmとすることができる。このような厚さにすると、高価な対極電極層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な電極性能を確保することが可能となる。
【0071】
対極電極層6の材料としては、例えば、LSCF、LSM等の複合酸化物、セリア系酸化物及びこれらの混合物を用いることができる。特に、対極電極層6が、La、Sr、Sm、Mn、Co及びFeからなる群から選ばれる2種類以上の元素を含有するペロブスカイト型酸化物を含むことが好ましい。以上の材料を用いて構成される対極電極層6は、酸素発生極として機能する。
【0072】
尚、対極電極層6の形成は、1100℃以下の処理温度で形成できる方法を適宜用いて行うと、金属支持体1の損傷を抑制し、また、金属支持体1と電極層2との元素拡散を抑制でき、性能・耐久性に優れた固体酸化物形電解セルEを実現できるので好ましい。例えば、低温焼成法(例えば、1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)などを適宜用いて行うことができる。特に、低温焼成法を用いると低コストな電解セルが実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0073】
本実施形態の対極電極層6は、縦断面における面積が0.75μm以上の孔を有しており(図4及び図5参照)、面積が0.75μm以上(好ましくは3μm以上、より好ましくは12μm以上)であって55μm以下である孔を有していることが好ましい。特に、その縦断面において、面積が0.75μm以上(或いは面積が0.75μm以上(好ましくは3μm以上、より好ましくは12μm以上)55μm以下)の孔が3つ以上存在する10μm角領域(図4中の領域R1)を有している。このように、対極電極層6内に面積が0.75μm以上の孔が存在することで、水蒸気や二酸化炭素の電解反応によって対極電極層6側で発生した酸素が、当該対極電極層6内から放出され易くなり、第2反応防止層5からの対極電極層6の剥離を抑制できる。尚、対極電極層6内に存在する面積が0.75μm以上の孔の数が少ないと、対極電極層6内からの酸素の放出が不十分となり、結果的に、対極電極層6の剥離を十分に抑制できない虞がある。しかしながら、本実施形態に係る固体酸化物形電解セルEでは、上記のように、対極電極層6がその縦断面において、面積が0.75μm以上の孔が3つ以上存在する10μm角領域を有しており、対極電極層6内に存在する面積が0.75μm以上の孔の数が電解反応に関与する気体(酸素)を放出する上で十分なものとなっているため、対極電極層6の剥離をより抑制できるようになっている。尚、面積が0.75μm以上の孔は、縦断面における直径が0.5μm以上の孔であることが好ましい。また、縦断面における面積が0.75μm以上の孔は、縦断面における形状が図4においては略円形であるが、後述する造孔材の形状や対極電極層6内での孔の姿勢に応じて、縦断面における形状は適宜変化し、円形の他、三角形、四角形、楕円であってもよい。
【0074】
また、対極電極層6は、縦断面における面積が0.04μm以下の孔を少なくとも有している(図4及び図5参照)。即ち、対極電極層6は、全体としてミクロンオーダーの孔とナノオーダーの孔との双方を有している。このようにミクロンオーダーの孔とナノオーダーの孔との双方を有していることで、対極電極層6内から酸素が放出され易くなるだけでなく、ミクロンオーダーの孔のみを有する場合と比較して表面積が増えるため、対極電極層6における、電気化学反応場を多く確保することができ、電解セルとしての性能・強度を高められる。尚、面積が0.04μm以下の孔は、縦断面における直径が0.1μm以下の孔であることが好ましい。
【0075】
尚、対極電極層6(第1電極層)内に存在する面積が0.75μm以上の孔が多すぎると、対極電極層6の強度が低くなって固体酸化物形電解セルEの耐久性を確保し難くなる虞があり、逆に上記のように、対極電極層6内に存在する面積が0.75μm以上の孔の数が少ないと対極電極層6内からの酸素の放出が不十分となり易く、対極電極層6の剥離を十分に抑制できなくなる可能性がある。したがって、対極電極層6には、面積が0.75μm以上の孔が適度に存在することが好ましい。よって、対極電極層6は、面積が0.75μm以上(或いは面積が0.75μm以上(好ましくは3μm以上、より好ましくは12μm以上)55μm以下)の孔のみが占める割合である第1気孔率が5%以上20%未満である縦断面が存在することが好ましい。これにより、対極電極層6の強度を確保しつつ、対極電極層6の剥離を抑制できる。尚、第1気孔率の下限値は、8%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましい。また、第1気孔率の上限値は、15%未満であることがより好ましく、12%未満であることが更に好ましい。
【0076】
また、同様の観点から、対極電極層6は、面積が0.75μm以上の孔及び面積が0.04μm以下の孔が占める割合である第2気孔率が10%以上40%以下である縦断面が存在すると好ましい。尚、第2気孔率の下限値は、15%以上であることが好ましく、20%以上であることが更に好ましく、第2気孔率の上限値は、35%以下であることが好ましく、30%以下であることが更に好ましい。更に、対極電極層6は、面積が0.04μm以下の孔のみが占める第3気孔率が5%以上35%以下である縦断面が存在すると好ましい。尚、第3気孔率の下限値は、7%以上であることが好ましく、10%以上であることが更に好ましく、第3気孔率の上限値は、20%以下であることが好ましく、18%以下であることが更に好ましい。このような場合でも、対極電極層6の強度を確保しつつ、対極電極層6の剥離を抑制できる。
【0077】
尚、縦断面に現れる、面積が0.75μm以上の孔は、製造時における造孔材の分散度合や断面をとる位置によって変わるが、面積が0.75μm以上の孔が対極電極層6全体に均一に分散していると仮定した場合、第1気孔率は、面積が0.75μm以上の孔のみが対極電極層6全体に占める体積の割合としての気孔率に相当する。更に、面積が0.04μm以下の孔も対極電極層6全体に均一に分散していると仮定した場合、第2気孔率は、面積が0.75μm以上の孔及び面積が0.04μm以下の孔が対極電極層6全体に占める体積の割合としての気孔率に相当し、第3気孔率は、面積が0.04μm以下の孔が対極電極層6全体に占める体積の割合としての気孔率に相当する。また、対極電極層6中に存在する孔が、縦断面における面積が0.75μm以上の孔及び0.04μm以下の孔によって大部分が占められ、面積が0.75μm以上の孔及び面積が0.04μm以下の孔が対極電極層6全体に均一に分散していると仮定した場合、第2気孔率は、対極電極層6の気孔率とみなすことができる。
【0078】
また、対極電極層6は、少なくとも粒子径(平均粒子径)が0.1μm以下の粒子を複数含んでいる。また、対極電極層6は、平均粒子径が0.1μm以下の粒子により構成される領域(図5中の領域R2)を少なくとも有することが好ましい。このようにすることで、電気化学反応場を多く確保できるため、高性能な対極電極層6を得ることができる。また、対極電極層6の強度の極端な低下も抑えられる。
【0079】
以上のような構成を備えた固体酸化物形電解セルEを動作させる場合、例えば、電極層2に混合ガス(水蒸気や二酸化炭素)を流通し、電極層2と対極電極層6との間に電圧を印加する。そうすると、電極層2において電子eと水HOや二酸化炭素分子COとが反応し、水素Hや一酸化炭素COといった還元性成分と酸素イオンO2-となる。酸素イオンO2-は、電解質層4を通って対極電極層6へ移動する。そして、対極電極層6において酸素イオンO2-が電子を放出して酸素Oとなる。以上の反応により、水HOが水素Hと酸素Oとに電気分解される。二酸化炭素分子COを含有するガスが流通される場合は一酸化炭素COと酸素Oとに電気分解される。
【0080】
(固体酸化物形電解セルの製造方法)
次に、固体酸化物形電解セルEの製造方法について説明する。本実施形態に係る固体酸化物形電解セルEの製造方法は、電極層形成ステップ、第1反応防止層形成ステップ、電解質層形成ステップ、第2反応防止層形成ステップ及び対極電極層形成ステップを含む。尚、これら全てのステップ(全工程)における処理温度は、1100℃以下であることが好ましい。
【0081】
(電極層形成ステップ)
電極層形成ステップでは、金属支持体1上に電極層2が薄膜の状態で形成される。電極層2の形成は、上述した成膜方法を用いることができるが、金属支持体1の劣化を抑制すべく、1100℃以下の低温域で使用可能な成膜方法を用いることが好ましい。
【0082】
電極層形成ステップを低温焼成法で行う場合には、具体的には以下の例のように行う。まず、電極層2の材料粉末と溶媒(分散媒)とを混合して材料ペーストを作成し、金属支持体1の表側の面に塗布する。そして電極層2を圧縮成形し(電極層平滑化工程)、1100℃以下で焼成する(電極層焼成工程)。電極層2の圧縮成形は、例えば、CIP(Cold Isostatic Pressing ;冷間静水圧加圧)成形、ロール加圧成形、RIP(Rubber Isostatic Pressing;ゴム型等方圧加圧)成形などにより行うことができる。また、電極層2の焼成は、800℃以上1100℃以下の温度で行うと好適である。また、電極層平滑化工程と電極層焼成工程の順序を入れ替えることもできる。
尚、本実施形態では、電極層2を形成した後、第1反応防止層3を形成するため、電極層平滑化工程や電極層焼成工程を省いたり、電極層平滑化工程や電極層焼成工程を後述する反応防止層平滑化工程や反応防止層焼成工程に含めてもよい。また、電極層平滑化工程は、ラップ成形やレベリング処理、表面の切削・研磨処理などを施すことによって行うことでもできる。
【0083】
また、本実施形態において、電極層形成ステップにおける焼成工程時に、金属支持体1の表面に金属酸化物層1b(拡散抑制層)が形成される。つまり、本実施形態では、上記焼成工程に、焼成雰囲気を酸素分圧が低い雰囲気条件とする焼成工程を含んでいる。これにより、元素の相互拡散抑制効果が高く、抵抗値の低い良質な金属酸化物層1bが形成される。尚、電解質層形成ステップを焼成を行わない方法で行う場合を含め、別途、拡散抑制層を形成する工程を行うようにしてもよい。
【0084】
(第1反応防止層形成ステップ)
第1反応防止層形成ステップでは、電極層2を覆う形態で、電極層2の上に第1反応防止層3が薄層の状態で形成される。第1反応防止層3の形成は、上述した成膜方法を用いることができるが、金属支持体1の劣化を抑制すべく、1100℃以下の低温域で使用可能な成膜方法を用いることが好ましい。
【0085】
第1反応防止層形成ステップを低温焼成法で行う場合には、具体的には以下の例のように行う。まず、第1反応防止層3の材料粉末と溶媒(分散媒)とを混合して材料ペーストを作製し、電極層2の表側の面に塗布する。そして第1反応防止層3を圧縮成形し(第1反応防止層平滑化工程)、1100℃以下で焼成する(第1反応防止層焼成工程)。第1反応防止層3の圧縮成形は、例えば、CIP成形、ロール加圧成形、RIP成形などにより行うことができる。また、第1反応防止層3の焼成は、800℃以上1100℃以下の温度で行うと好適である。このような温度であると、金属支持体1の損傷・劣化を抑制しつつ、強度の高い第1反応防止層3を形成できるためである。また、第1反応防止層3の焼成を1050℃以下で行うとより好ましく、1000℃以下で行うと更に好ましい。これは、第1反応防止層3の焼成温度を低下させる程に、金属支持体1の損傷・劣化をより抑制しつつ、固体酸化物形電解セルEを形成できるからである。尚、第1反応防止層平滑化工程と第1反応防止層焼成工程の順序を入れ替えることもできる。また、第1反応防止層平滑化工程は、ラップ成形やレベリング処理、表面の切削・研磨処理などを施すことによって行うことでもできる。
【0086】
(電解質層形成ステップ)
電解質層形成ステップでは、電極層2及び第1反応防止層3を覆った状態で、電解質層4が第1反応防止層3の上に薄層の状態で形成される。電解質層4の形成は、上述した低温域で使用可能な成膜方法を用いることができるが、スプレーコーティング法を用いることが好ましい。特に、緻密で気密性及びガスバリア性能の高い、良質な電解質層4を1100℃以下の温度域で形成する上では、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジション法、パウダージェットデポジション法、パーティクルジェットデポジション法のいずれかを用いることがより好ましい。本実施形態では、エアロゾルデポジション法を用いて電解質層4を形成する。具体的には、エアロゾル化した電解質層4の材料粉末(本実施形態ではYSZやSSZなどの安定化ジルコニアの微粉末)を金属支持体1上の第1反応防止層3に向けて噴射し、電解質層4を形成する。
【0087】
(第2反応防止層形成ステップ)
第2反応防止層形成ステップでは、電解質層4の上に第2反応防止層5が薄層の状態で形成される。第2反応防止層5の形成は、第1反応防止層形成ステップと同様に、上述した成膜方法を用いることができるが、金属支持体1の劣化を抑制すべく、1100℃以下の低温域で使用可能な成膜方法を用いることが好ましい。
【0088】
(対極電極層形成ステップ)
対極電極層形成ステップでは、対極電極層6が第2反応防止層5の上に薄層の状態で形成される。対極電極層6の形成は、上述した成膜方法を用いることができるが、金属支持体1の劣化を抑制すべく、1100℃以下の低温域で使用可能な成膜方法を用いることが好ましい。
【0089】
対極電極層形成ステップを低温焼成法で行う場合には、具体的には以下の例のように行う。まず、対極電極層6の材料粉末と、造孔材と、溶媒(分散媒)とを混合して材料ペーストを作成し、金属支持体1の表側の面に塗布する。そして電極層2を圧縮成形し(電極層平滑化工程)、1100℃以下で焼成する(電極層焼成工程)。これにより、対極電極層6は、縦断面における面積が0.75μm以上の孔を有するものとなる。尚、造孔材としては、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)やPVDF(ポリビニリデンフルオライド)を用いることができる。また、造孔材の混合量は、対極電極層6に形成する面積が0.75μm以上の孔の量に応じて適宜決定すればよいが、上記第1気孔率及び第2気孔率を考慮すると、対極電極層6の材料粉末に対する混合割合(質量ベース)が2%~8%となることが好ましい。また、造孔材の粒子径(平均粒子径)は、対極電極層6に形成する孔の径に応じて適宜決定すればよいが、例えば、0.5μm以上4μm以下であり、本実施形態においては、2μmである。尚、造孔材は、球状に限られるものではなく、だ円球状、円柱状、角柱状、ペレット状などの種々の形状であってもよい。
【0090】
以上のようにして、酸素が放出され易い対極電極層6を有し、当該対極電極層6の剥離を抑制可能な固体酸化物形電解セルEを製造できる。
【0091】
(固体酸化物形電解モジュール)
次に、図2を参照して固体酸化物形電解モジュールMについて説明する。固体酸化物形電解モジュールMは、金属支持体1と金属支持体1の裏面に取り付けられたU字部材9とで筒状支持体が形成された状態の固体酸化物形電解セルEを備えている。そして、この固体酸化物形電解セルEが集電部材26を挟んで複数積層(複数集合)されて固体酸化物形電解モジュールMが構成されている。尚、本実施形態では、集電部材26が、固体酸化物形電解セルEの対極電極層6とU字部材9とに接合され、両者を電気的に接続しているが、固体酸化物形電解セルEの対極電極層6とU字部材9とを直接電気的に接続する構成としてもよい。
【0092】
また、固体酸化物形電解モジュールMは、ガスマニホールド17、終端部材及び電流引出し部を有する。複数積層された固体酸化物形電解セルEは、筒状支持体の一方の開口端部がガスマニホールド17に接続されて、ガスマニホールド17から気体(水蒸気や二酸化炭素)の供給を受ける。供給された気体は、筒状支持体の内部を通流し、金属支持体1の貫通孔1aを通って電極層2に供給される。
【0093】
(電気化学装置及びエネルギーシステム)
次に、図3を参照して、上記固体酸化物形電解モジュールMを用いて構築した電気化学装置Y及びエネルギーシステムZについて説明する。
【0094】
図3に示すように、エネルギーシステムZは、電気化学装置Yと、電気化学装置Yから流通される熱を再利用する排熱利用部としての2つの熱交換器90,92とを有する。
【0095】
また、電気化学装置Yは、固体酸化物形電解モジュールMと、固体酸化物形電解モジュールMで生成された水素などを基に炭化水素を合成する燃料変換器91と、固体酸化物形電解モジュールMに電力を流通する電力変換器93とを有する。
【0096】
この電気化学装置Yにおいて、固体酸化物形電解モジュールMは、複数の固体酸化物形電解セルEと2つのガスマニホールド17,171とを有する。複数の固体酸化物形電解セルEは、互いに電気的に接続された状態で並列して配置される。固体酸化物形電解セルEは、一方の端部(下端部)がガスマニホールド17に固定されており、他方の端部(上端部)がガスマニホールド171に固定されている。固体酸化物形電解セルEの一方の端部におけるガスマニホールド17は、水蒸気及び二酸化炭素の供給を受ける。そして、固体酸化物形電解セルEで上述の反応により生成した水素及び一酸化炭素が、他方の端部と連通するガスマニホールド171によって収集される。
【0097】
また、この電気化学装置Yにおいて、電力変換器93は、固体酸化物形電解モジュールMの固体酸化物形電解セルEに電力を流通する。これにより、固体酸化物形電解セルEでは、下端部に固定されたガスマニホールド17を通して供給される水蒸気及び二酸化炭素が電気分解されて、水素や一酸化炭素が上端部に固定されたガスマニホールド171を通して熱交換器92、燃料変換器91及び熱交換器90を経由して燃料に変換される。一方、対極電極層6からは酸素が放出され、これが外部に排出される。
【0098】
また、エネルギーシステムZでは、燃料変換器91で起きる反応によって生ずる反応熱と水とを熱交換させて水を気化する排熱利用部として熱交換器90を動作させるとともに、固体酸化物形電解セルEによって生ずる排熱と水蒸気及び二酸化炭素とを熱交換させて当該水蒸気及び二酸化炭素を予熱する排熱利用部として熱交換器92を動作させる。このような構成を採用することで、エネルギー効率を高められるようになっている。
【0099】
〔実施例〕
以下、実施例について説明する。まず、厚さ0.3mm、直径25mmの円形のフェライト系ステンレス板(金属板)に対して、中心から半径6mmの領域にレーザー加工により貫通孔1aを複数設けて、金属支持体1を作製した。
【0100】
次に、60質量%のNiO粉末と40質量%のGDC粉末とを混合し、有機バインダーと有機溶媒(分散媒)とを加えてペーストを作製した。そのペーストを用いて、金属支持体1の中心から半径8mmの領域に電極層2を積層した。尚、電極層2の形成にはスクリーン印刷を用いた。そして、電極層2を積層した金属支持体1に対して、1000℃で焼成処理を行った(電極層形成ステップ)。
【0101】
ついで、GDCの微粉末に有機バインダーと有機溶媒(分散媒)を加えてペーストを作製した。そのペーストを用いて、スクリーン印刷により、電極層2を積層した金属支持体1の中心から半径10mmの領域に第1反応防止層3を積層した。その後、第1反応防止層3を積層した金属支持体1に対して、300MPaの圧力でCIP成形した後、1000℃で焼成処理を行うことで、表面が平坦な第1反応防止層3を形成した(第1反応防止層形成ステップ)。
【0102】
以上のステップで得られた電極層2の厚さは約25μmであり、第1反応防止層3の厚さは約10μmであった。
【0103】
次に、エアロゾルデポジション法によって電解質層4を形成した。具体的には、モード形が約0.7μmの8YSZ(イットリア安定化ジルコニア)粉末を13L/minの流量でドライエアでエアロゾル化した。エアロゾルを圧力250Paとしたチャンバー内に導入して、電極層2と第1反応防止層3とを積層させた金属支持体1に対して、第1反応防止層3を覆うように金属支持体全面に噴射し、電解質層4を形成した(電解質層形成ステップ)。尚、その際、金属支持体1は加熱しなかった。
【0104】
以上のステップで得られた電解質層4の厚さは3~4μm程度であった。電極層2と第1反応防止層3と電解質層4を積層した状態での金属支持体1のHeリーク量を0.2MPaの圧力下で測定したところ、Heリーク量は検出下限(1.0mL/min・cm)未満であった。つまり、第1反応防止層3までを積層した状態でのHeリーク量に比べ、電解質層4を積層した状態でのHeリーク量は大幅に小さくなり、検出限界を下回るものとなった。したがって、形成された電解質層4は、緻密でガスバリア性能の高い、良質なものであることが確認された。
【0105】
次に、GDCの微粉末に有機バインダーと有機溶媒(分散媒)を加えてペーストを作製した。そのペーストを用いて、スクリーン印刷により、電解質層4上に第2反応防止層5を形成した。その後、形成した固体酸化物形電解セルEに対して、1000℃で焼成処理を行うことで、第2反応防止層5を形成した(第2反応防止層形成ステップ)。
【0106】
ついで、実施例として、GDC粉末とLSCF粉末と造孔材としてのPMMA粉末(粒子径:2μm)とを混合(GDC粉末+LSCF粉末に対する造孔材の混合割合(質量ベース)が3.3%)し、有機バインダーと有機溶媒(分散媒)とを加えてペーストを作製した。そのペーストを用いて、スクリーン印刷により、第2反応防止層5の上に対極電極層6を形成した。最後に、対極電極層6を形成した固体酸化物形電解セルEを900℃にて焼成して、造孔材を焼き飛ばした(対極電極層形成ステップ)。
【0107】
また、比較例として、上記と同様の手順で第2反応防止層5まで形成した後、GDC粉末とLSCF粉末とを混合し、有機バインダーと有機溶媒(分散媒)とを加えてペーストを作製し、このペーストを用いて、スクリーン印刷により、第2反応防止層5の上に対極電極層6を形成した。その後、対極電極層6を形成した固体酸化物形電解セルEを900℃にて焼成した。
【0108】
図4及び図5は、実施例に係る固体酸化物形電解セルEの縦断面を撮影して得られたSEM画像である。また、図6は、比較例に係る固体酸化物形電解セルの縦断面を撮影して得られたSEM画像である。図4図6から明らかなように、対極電極層6を形成する際に造孔材を使用することで、面積が0.75μm以上の孔が形成された対極電極層6を形成できる。また、実施例に係る固体酸化物形電解セルEの第1気孔率、第2気孔率及び第3気孔率は、それぞれ10.5%、22.5%、12.0%であった。一方、比較例に係る固体酸化物形電解セルの第1気孔率、第2気孔率及び第3気孔率は、それぞれ0%、15.2%、15.2%であった。尚、各気孔率は、上記SEM画像を処理して算出した。
【0109】
ついで、上記のようにして作製した実施例及び比較例それぞれの固体酸化物形電解セルについて、熱中立点付近の電圧(1.3V)を印加する電解試験を実施した。その結果、実施例に係る固体酸化物形電解セルでは、1.3Vの電圧を印加しても対極電極層6の剥離はみられなかった。これに対して、比較例に係る固体酸化物形電解セルでは、1.3Vの電圧を印加することによって、対極電極層6が剥離した。このことから、対極電極層6が面積が0.75μm以上の孔を有していることで、熱中立点付近の電圧を印加した場合であっても、対極電極層6の剥離が抑えられることが確認できた。
【0110】
〔別実施形態〕
〔1〕上記実施形態では、固体酸化物形電解セルEが第1反応防止層3及び第2反応防止層5を備える態様としたが、これに限られるものではなく、第1反応防止層3及び/又は第2反応防止層5を備えていない態様であってもよい。この場合、例えば、固体酸化物形電解セルEは、電極層2の上に電解質層4が形成された状態や、電解質層4の上に対極電極層6が形成された状態となる。
【0111】
〔2〕上記実施形態では、孔加工を施した金属板からなる金属支持体1を備える態様としたが、これに限られるものではない。例えば、金属支持体1を備えていない態様であってもよいし、金属支持体1が金属粉末を焼結して得た多孔質体からなる態様であってもよい。
【0112】
〔3〕上記実施形態では、固体酸化物形電解セルEを固体酸化物形電解モジュールMとして複数組み合わせて用いる態様としたが、これに限られるものではなく、一つの固体酸化物形電解セルEを単独で用いることも可能である。
【0113】
〔4〕上記実施形態では、エネルギーシステムZが、電気化学装置Yから排出される熱を再利用する排熱利用部を備える態様としたが、これに限られるものではなく、排熱利用部を備えていない態様であってもよい。
【0114】
〔5〕上記実施形態では、対極電極層6が酸素発生極である態様としたが、これに限られるものではなく、電極層2が酸素発生極である態様であってもよい。この場合、電極層2をその縦断面において面積が0.75μm以上の孔を有するように形成した上で、対極電極層6側に水蒸気や二酸化炭素を供給し、電極層2と対極電極層6との間に電圧を印加することで、対極電極層6において電子eと水HOや二酸化炭素分子COとが反応し、水素Hや一酸化炭素COと酸素イオンO2-となる。そして、酸素イオンO2-は、電解質層4を通って電極層2へ移動し、電極層2において酸素イオンO2-が電子を放出して酸素Oとなって、当該酸素Oが電極層2から放出される。
【0115】
〔6〕上記実施形態では、固体酸化物形電解モジュールMが、金属支持体1と金属支持体1の裏面に取り付けられたU字部材9とで筒状支持体が形成された状態の固体酸化物形電解セルEを備える態様としたが、これに限られるものではない。例えば、図7に示すように、固体酸化物形電解セルEを、セル間接続部材71を間に挟んで積層することで、固体酸化物形電解モジュールMを構成する態様であってもよい。
この場合、セル間接続部材71は、導電性を有し、且つ気体透過性を有さない板状の部材であり、表面と裏面とに互いに直交する溝72が形成されている。尚、セル間接続部材71は、ステンレス等の金属や、金属酸化物を用いることができる。
そして、このセル間接続部材71を間に挟んで固体酸化物形電解セルEを積層すると、溝72内を気体が流通可能な状態となり、固体酸化物形電解セルEへのガスの供給・回収が可能となる。詳しくは、一方の面に形成された溝72が第一気体流路72aとなり、固体酸化物形電解セルEの表側、即ち、対極電極層6から放出された酸素が流通する。また、他方の面に形成された溝72が第二気体流路72bとなり、固体酸化物形電解セルEの裏側、即ち、金属支持体1の裏側の面から貫通孔1aを通じて電極層2に供給する水蒸気や二酸化炭素が流通する。
このように構成した固体酸化物形電解モジュールMにおいては、第二気体流路72bに水蒸気や二酸化炭素を供給し、電極層2と対極電極層6との間に電圧を印加することで、電解反応が進行し、電極層2側では水素や一酸化炭素が発生して、発生したこれらの気体は第二気体流路72bを流通する。また、対極電極層6からは酸素が放出され、この放出された酸素は第一気体流路72aを流通する。
尚、溝72は、セル間接続部材71の表面に形成されるものと裏面に形成されるものとが互いに並行であってもよい。
【0116】
〔7〕上記実施形態では、固体酸化物形電解セルEが主に平板型や円筒平板型である態様としたが、これに限られるものではなく、固体酸化物形電解セルEは円筒型であってもよい。
【0117】
〔8〕上記実施形態では、電気化学装置Yが、複数の固体酸化物形電解セルEを有する固体酸化物形電解モジュールMを備える態様としたが、これに限られるものではない。例えば、電気化学装置が一つの固体酸化物形電解セルEを備える態様であってもよい。
【0118】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0119】
1 :金属支持体
2 :電極層(第2電極層)
3 :第1反応防止層
4 :電解質層
5 :第2反応防止層
6 :対極電極層(第1電極層)
E :固体酸化物形電解セル
M :固体酸化物形電解モジュール
Y :電気化学装置
Z :エネルギーシステム

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7