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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144971
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】筒状編地の編成方法、及び筒状編地
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/00 20060101AFI20231003BHJP
   D04B 1/28 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
D04B1/00 Z
D04B1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052211
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】川上 美紀
(72)【発明者】
【氏名】池中 政光
【テーマコード(参考)】
4L002
【Fターム(参考)】
4L002BA00
4L002BA05
4L002BB05
4L002EA00
4L002FA01
4L002FA04
(57)【要約】
【課題】筒状編地に備わる第一筒部の着用感を悪化させることなく、第一筒部を補強できる筒状編地の編成方法を提供する。
【解決手段】横編機を用いた筒状編地の編成方法であって、編出し部と、前記編出し部のウエール方向に続く複数の編目とを含む補強部の少なくとも一部を編成する工程Aと、前記補強部の編幅方向に重複する位置、又は前記補強部の外側の位置で、ウエール方向に連続する複数の第一筒状編目列によって構成される第一筒部を編成する工程Bと、を備える筒状編地の編成方法である。前記工程Bでは、前記第一筒部の編幅方向の端部に前記補強部のウエール方向の終端部を接合する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一針床と、前記第一針床に向き合う第二針床と、編糸を給糸する給糸口とを備える横編機を用いた筒状編地の編成方法において、
編出し部と、前記編出し部のウエール方向に続く複数の編目とを含む補強部の少なくとも一部を編成する工程Aと、
前記補強部の編幅方向に重複する位置、又は前記補強部の外側の位置で、ウエール方向に連続する複数の第一筒状編目列によって構成される第一筒部を編成する工程Bと、を備え、
前記工程Bでは、
少なくとも一つの第一筒状編目列を編成する工程B1と、
前記工程B1において最後に編成した第一筒状編目列を、前記補強部の編幅方向における第一の方向に移動させ、前記最後に編成した第一筒状編目列の編目と、前記補強部の編目とを重ねる工程B2と、を複数回繰り返すことで、前記第一筒部の編幅方向の端部に前記補強部のウエール方向の終端部を接合する、
筒状編地の編成方法。
【請求項2】
前記工程Bは、前記工程B1において前記最後に編成した第一筒状編目列と、前記補強部の一部のウエール方向に続けて、前記最後に編成した第一筒状編目列よりも大きな追加筒状編目列を編成する工程B3を含み、
前記追加筒状編目列のうち、前記最後に編成した第一筒状編目列から張り出す部分によって、前記補強部の一部を形成する、請求項1に記載の筒状編地の編成方法。
【請求項3】
前記工程Bの後に、前記補強部の編幅方向の中央を挟んで前記第一筒部と反対側の位置で、ウエール方向に連続する複数の第二筒状編目列によって構成される第二筒部を編成する工程Cを備え、
前記工程Cでは、
少なくとも一つの第二筒状編目列を編成する工程C1と、
前記工程C1において最後に編成した第二筒状編目列を、前記第一の方向と反対の第二の方向に移動させ、前記最後に編成した第二筒状編目列の編目と、前記補強部の編目とを重ねる工程C2と、を複数回繰り返ことで、前記第二筒部の編幅方向の端部に前記補強部のウエール方向の終端部を接合する、請求項1又は請求項2に記載の筒状編地の編成方法。
【請求項4】
前記補強部は、筒状につながる第一編地部と第二編地部とを備え、
前記第一編地部と前記第二編地部の少なくとも一方の編幅方向の一部において引き返し編成を行う、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の筒状編地の編成方法。
【請求項5】
前記補強部における前記引き返し編成が行われた部分に対向する部分においてミス編成を行う、請求項4に記載の筒状編地の編成方法。
【請求項6】
ウエール方向に連続する複数の第一筒状編目列によって構成される第一筒部を備える筒状編地において、
前記第一筒部の編幅方向の一方の端部において、前記第一筒部の筒軸方向に沿って配置される補強部を備え、
前記補強部は、前記筒軸方向に延びる編出し部と、前記編出し部のウエール方向に続く複数の編目とを含み、
前記第一筒部の編幅方向の一方の端部と、前記補強部のウエール方向の終端部とが重ね目によって接合されている、
筒状編地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強された第一筒部を備える筒状編地と、その編成方法に係る。
【背景技術】
【0002】
少なくとも一つの筒部を備える筒状編地において、筒部を補強することが行われている。例えば、特許文献1は、手袋の人差し指と親指とを補強する技術を開示する。具体的には、人差し指と親指における互いに向き合う箇所を高強度の編糸によって編成したり、前記箇所を他の箇所よりも厚く編成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-003309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の筒状編地における補強箇所が着用者に違和感を生じさせる恐れがある。
【0005】
本発明の目的の一つは、筒状編地に備わる第一筒部の着用感を悪化させることなく、第一筒部を補強できる筒状編地の編成方法を提供することにある。本発明の別の目的は、補強され、かつ着用感に優れる第一筒部を備える筒状編地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1>本発明の編地の編成方法は、
第一針床と、前記第一針床に向き合う第二針床と、編糸を給糸する給糸口とを備える横編機を用いた筒状編地の編成方法であって、
編出し部と、前記編出し部のウエール方向に続く複数の編目とを含む補強部の少なくとも一部を編成する工程Aと、
前記補強部の編幅方向に重複する位置、又は前記補強部の外側の位置で、ウエール方向に連続する複数の第一筒状編目列によって構成される第一筒部を編成する工程Bと、を備え、
前記工程Bでは、
少なくとも一つの第一筒状編目列を編成する工程B1と、
前記工程B1において最後に編成した第一筒状編目列を、前記補強部の編幅方向における第一の方向に移動させ、前記最後に編成した第一筒状編目列の編目と、前記補強部の編目とを重ねる工程B2と、を複数回繰り返すことで、前記第一筒部の編幅方向の端部に前記補強部のウエール方向の終端部を接合する。
ここで、補強部は、工程Aにおいて全て編成されても良いし、工程Aにおいて一部編成されても良い。後者の場合、例えば下記<2>の形態に示されるように、工程Bの途中で補強部の残部が編成される。
【0007】
<2>上記筒状編地の編成方法において、
前記工程Bは、前記工程B1において前記最後に編成した第一筒状編目列と、前記補強部の一部のウエール方向に続けて、前記最後に編成した第一筒状編目列よりも大きな追加筒状編目列を編成する工程B3を含み、
前記追加筒状編目列のうち、前記最後に編成した第一筒状編目列から張り出す部分によって、前記補強部の一部を形成しても良い。
【0008】
<3>上記筒状編地の編成方法において、
前記工程Bの後に、前記補強部の編幅方向の中央を挟んで前記第一筒部と反対側の位置で、ウエール方向に連続する複数の第二筒状編目列によって構成される第二筒部を編成する工程Cを備え、
前記工程Cでは、
少なくとも一つの第二筒状編目列を編成する工程C1と、
前記工程C1において最後に編成した第二筒状編目列を、前記第一の方向と反対の第二の方向に移動させ、前記最後に編成した第二筒状編目列の編目と、前記補強部の編目とを重ねる工程C2と、を複数回繰り返ことで、前記第二筒部の編幅方向の端部に前記補強部のウエール方向の終端部を接合しても良い。
【0009】
<4>上記筒状編地の編成方法において、
前記補強部は、筒状につながる第一編地部と第二編地部とを備え、
前記第一編地部と前記第二編地部の少なくとも一方の編幅方向の一部において引き返し編成を行っても良い。
【0010】
<5>上記筒状編地の編成方法において、
前記補強部における前記引き返し編成が行われた部分に対向する部分においてミス編成を行っても良い。
ここで、ミス編成は、工程Aにおいて行っても良いし、上記<2>の形態であれば工程B3において行っても良い。
【0011】
<6>本発明の筒状編地は、
ウエール方向に連続する複数の第一筒状編目列によって構成される第一筒部を備える筒状編地であって、
前記第一筒部の編幅方向の一方の端部において、前記第一筒部の筒軸方向に沿って配置される補強部を備え、
前記補強部は、前記筒軸方向に延びる編出し部と、前記編出し部のウエール方向に続く複数の編目とを含み、
前記第一筒部の編幅方向の一方の端部と、前記補強部のウエール方向の終端部とが重ね目によって接合されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の筒状編地の編成方法は、第一筒部の着用感を悪化させることなく、第一筒部の編幅方向の一方の端部が補強された筒状編地を得ることができる。この編成方法では、第一筒部の編幅方向の一方の端部に、第一筒部の筒軸方向に沿って補強部が接合される。補強部は、重ね目によって第一筒部の筒形状の外側に接合されるため、当該箇所が筒状編地の着用者に違和感を感じさせ難い。補強部は、第一筒部の外部からの圧力を第一筒部よりも先に受けるので、補強部によって第一筒部が保護される。
【0013】
上記<2>に記載の筒状編地の編成方法は、後述する実施形態に示されるように、厚い補強部を容易に編成できる。
【0014】
上記<3>に記載の筒状編地の編成方法は、第一筒部から第二筒部にいたる補強部を編成できる。この補強部は、第一筒部と第二筒部との間の股部にも形成される。従って、補強部によって、第一筒部と第二筒部だけでなく股部も補強される。
【0015】
上記<4>に記載の筒状編地の編成方法は、補強部の編幅方向の任意の位置で補強部のウエール方向の編目数を調整できる。この補強部によって第一筒部が立体的に形成される
【0016】
上記<5>に記載の筒状編地の編成方法によれば、引き返し編成によって形成された部分が、ミス編成によって伸ばされた旧編目に引っ張られた状態になり易い。
【0017】
本発明の筒状編地は、補強され、かつ着用感に優れる第一筒部を備える。従って、本発明の筒状編地は、耐久性に優れ、着用者に違和感を生じさせにくい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施形態1に記載される筒状編地である手袋の概略図である。
図2図2は、図1のII-II断面図である。
図3図3は、図1に示される手袋の編成工程を模式的に説明する第一の編成イメージ図である。
図4図4は、図3に続く第二の編成イメージ図である。
図5図5は、実施形態2に記載される手袋の編成工程を模式的に説明する編成イメージ図である。
図6図6は、実施形態2に記載される手袋の五本胴の編成工程の一部を模式的に説明する編成イメージ図である。
図7図7は、実施形態2に記載される手袋の写真である。
図8図8は、図7に示される手袋の指股の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態に係る筒状編地、及び筒状編地の編成方法を図面に基づいて説明する。
【0020】
<実施形態1>
図1には、本発明の筒状編地6の一例として手袋が示されている。図1には左手用の手袋の手の平側が示されれている。本例の筒状編地6は、四つの第一筒部1,1A,1B,1Cと、一つの第二筒部2と、四本胴4と、五本胴5とを備える。第一筒部1,1A,1B,1Cと四本胴4との境界、及び四本胴4と五本胴5との境界は二点鎖線で示されている。第一筒部1、第一筒部1A、第一筒部1B、及び第一筒部1Cはそれぞれ、人差し指、中指、薬指、及び小指に対応する指袋である。第二筒部2は、親指に対応する指袋である。本例の筒状編地6は、一本の編糸によって編成されている。筒状編地6は、第一筒部1、第一筒部1A、第一筒部1B、第一筒部1C、四本胴4、第二筒部2、五本胴5の順に編成される。本例とは異なり、筒状編地6は複数の編糸によって編成されても良い。
【0021】
筒状編地6は更に四つの補強部3,3A,3B,3Cを備える。補強部3は、第一筒部1から第二筒部2にかけて形成されている。補強部3によって第一筒部1と第二筒部2とが互いに向かい合う部分が補強される。補強部3は、第一筒部1と第二筒部2との間の股部60にも形成されている。従って、股部60も補強部3によって補強される。この補強部3によって補強された部分は、手袋で物をつかむときに物が当たり易い部分である。従って、補強部3によって手袋の消耗が抑制され易い。本例とは異なり、人差し指に対応する指袋、又は親指に対応する指袋にのみ補強部3が設けられていても良い。本例では、補強部3,3A,3B,3Cを編成する編糸と、補強部3,3A,3B,3C以外の部分を編成する編糸が同じ編糸であるが、異なる編糸でも良い。例えば、補補強部3,3A,3B,3Cを太い編糸又は高強度の編糸によって編成することもできる。
【0022】
補強部3Aは、第一筒部1Aにおける第一筒部1に向き合う部分を補強する。補強部3Bは、第一筒部1Bにおける第一筒部1Aに向き合う部分を補強する。補強部3Cは、第一筒部1Cにおける第一筒部1Bに向き合う部分を補強する。補強部3A,3B,3Cによって補強された部分は、手袋で物をつかむときに物が当たり易い部分である。従って、補強部3A,3B,3Cによって手袋の消耗が抑制され易い。補強部3A,3B,3Cは必須ではない。
【0023】
補強部3は、第一筒部1の編幅方向の一方の端部において、第一筒部1の筒軸方向に沿って配置される。筒軸方向は、第一筒部1のウエール方向に一致する。補強部3は、第一筒部1の筒の外側に接合されている。
【0024】
図2は、図1のII-II断面図である。第一筒部1はウエール方向に連続する複数の第一筒状編目列11によって構成されている。第一筒状編目列11は、筒状につながる第一編目列111と第二編目列112とを備える。第一編目列111は手の甲側に配置される。第二編目列112は手の平側に配置される。図2の両端矢印は第一筒部1の編幅方向である。図2の紙面奥行き方向の奥側が、第一筒部1のウエール方向の終端側である。
【0025】
補強部3は、編出し部30と第一編地部31と第二編地部32とを備える。図2の白抜き矢印は、補強部3のウエール方向である。図2の紙面奥行き方向が補強部3の編幅方向である。編出し部30は、第一針床と第二針床とにジグザグに配置される1コース分の編目からなる。第一編地部31は、編出し部30の一部のウエール方向に連続する編目からなる。第二編地部32は、編出し部30の残部のウエール方向に連続する編目からなる。第一編地部31の編幅方向の端部と、第二編地部32の編幅方向の端部とは、第一筒部1につながっている。本例とは異なり、補強部3は単層の編地部によって構成されていても良い。
【0026】
第一筒部1の編幅方向の一方の端部と、補強部3のウエール方向の終端部とは重ね目61,62によって接合されている。本例では、重ね目61は、第一編地部31のウエール方向の終端部の編目と、第一編目列111の編幅方向の端部の編目とで構成される。重ね目62は、第二編地部32のウエール方向の終端部の編目と、第二編目列112の編幅方向の端部の編目とで構成される。重ね目61と重ね目62とをつなぐ円弧状の部分は、第一編目列111の端部編目と第二編目列112の端部編目とをつなぐシンカーループである。
【0027】
図1に示される筒状編地6の編成手順を図3及び図4のイメージ図に基づいて説明する。筒状編地6を編成する横編機は2枚ベッド横編機である。2枚ベッド横編機は、第一針床と、第一針床に向き合う第二針床と、編糸を給糸する給糸口9とを備える。筒状編地6を編成する横編機は、4枚ベッド横編機であっても良い。図3及び図4における『S』+数字は、編成工程の番号である。図3及び図4における逆三角形は、横編機に備わる給糸口9を示す。太線は補強部3である。
【0028】
図3のステップS1では、編出し部30(図2)を含む補強部3を編成する(工程A)。編出し部30は、抜き糸(図示せず)によって編成された複数の編目のウエール方向に連続する1コース分の編目からなる。編出し部30の編幅方向の長さは、第一筒部1の筒丈の長さを考慮した長さであり、第一筒部1の編幅方向の長さよりも長い。例えば、編出し部30の編幅方向の長さは、第一筒部1の編幅方向の長さに、第一筒部1の筒丈分の長さを加算した長さである。本例の編出し部30の編幅方向の長さは、図1に示される第一筒部1の先端部から股部60を通って第二筒部2の先端部に至る長さである。編出し部30を構成する複数の編目は、第一針床と第二針床とに分かれて係止されている。第一針床に係止される編出し部30の編目のウエール方向に連続して第一編地部31が編成される。第二針床に係止される編出し部30の編目のウエール方向に連続して第二編地部32が編成される。
【0029】
ステップS2では、給糸口9を用いて、補強部3の右端部分に重複する位置で第一筒部1の編成を開始する(工程B)。第一筒部1は、ウエール方向に連続する複数の第一筒状編目列11によって構成されている。補強部3の編幅は、第一筒部1から第二筒部2に至る長さに対応しているため、第一筒状編目列11の編幅は、補強部3の編幅よりもかなり短い。本例とは異なり、第一筒部1は、補強部3の編幅方向の外側の位置で編成されても良い。その場合、第一筒部1用の編出し部が必要となるが、第一筒部1の筒軸方向の途中から補強部3を形成できる。第一筒部1用の編出し部が筒状であれば、第一筒部1の先端が開口した第一筒部1を編成できる。
【0030】
ステップS3では、少なくとも一つの第一筒状編目列11を編成する(工程B1)。第一筒状編目列11は第一筒部1の一部を構成する。次いで、工程B1において最後に編成した第一筒状編目列11を、補強部3の編幅方向の中央に向かう方向、即ち紙面左側に移動させる(工程B2)。この移動によって、最後に編成した第一筒状編目列11の左端の編目と、補強部3の右端の編目とが重ねられる。ステップS3では、工程B1と工程B2とを繰り返すことで、第一筒部1の編幅方向の端部に補強部3のウエール方向の端部を接合する。各工程B1において編成される第一筒状編目列11の数は同数でも良いし、異なっていても良い。各工程B1において編成される第一筒状編目列11の数は可能な限り同じにすることが好ましい。
【0031】
ステップS4では、第一筒部1の右側に新たな補強部3Aを編成する(工程A)。ステップS5では、ステップS2及びステップS3と同様の編成によって、中指に対応した第一筒部1Aを編成する(工程B)。S4及びS5と同様の編成によって、薬指に対応する第一筒部1B、及び小指に対応する第一筒部1Cを編成する。四つの第一筒部1,1A,1B,1Cの編成が終了した状態が図4のS6に示されている。
【0032】
ステップS7では、給糸口9を用いて四本胴4を編成する。四本胴4は筒状編成によって編成される。四本胴4の編成においても、四本胴4を構成する筒状編目列を編成することと、その筒状編目列を補強部3の編目に重ねることと、を繰り返す。この編成によって、股部60においても補強部3が配置される。
【0033】
ステップS8では、給糸口9を用いて、補強部3の編幅方向の中央を挟んで第一筒部1と反対側の位置で第二筒部2の編成を開始する(工程C)。本例では、第二筒部2は、補強部3の左端部分に重複する位置で編成される。第二筒部2は、ウエール方向に連続する複数の第二筒状編目列21によって構成されている。第二筒状編目列21の編幅は、針床に係止されている補強部3の編幅よりも短い。本例とは異なり、第二筒部2は、第一筒部1と同様に、補強部3の編幅方向の外側の位置で編成しても良い。
【0034】
ステップS8では、少なくとも一つの第二筒状編目列21を編成する(工程C1)。第二筒状編目列21は第二筒部2の一部を構成する。次いで、工程C1において最後に編成した第二筒状編目列21を、補強部3の編幅方向の中央に向かう方向、即ち紙面右側に移動させる(工程C2)。この移動によって、最後に編成した第二筒状編目列21の右端の編目と、補強部3の左端の編目とが重ねられる。ステップS8では、工程C1と工程C2とを繰り返すことで、第二筒部2の編幅方向の端部に補強部3のウエール方向の端部を接合する。
【0035】
ステップS9では、給糸口9を用いて、五本胴5を編成する。五本胴5は筒状編成によって編成される。五本胴5の手首部分は、リブ組織などを備えていても良い。図3及び図4の編成工程によれば、図1及び図2に示される筒状編地6が編成される。
【0036】
本例の筒状編地6は、一つの給糸口9によって連続して編成される。つまり、本例の筒状編地6において、糸入れ部は補強部3の位置に一つだけ存在し、糸出し部は手袋の手首の位置に一つだけ存在する。糸入れ部と糸出し部におけるほつれ止めの作業が少なく、本例の筒状編地6は生産性に優れる。
【0037】
<実施形態2>
実施形態2では、図1に示される手袋における股部60を効果的に補強できる筒状編地の編成方法を図5から図8に基づいて説明する。股部60は特に強い補強が必要な箇所である。実施形態2は、右手用の手袋である。図7図8の写真は、右手用の手袋を手の甲側から見た写真である。なお、本実施形態の編成方法と同様の編成方法に則って補強効果を向上させる箇所は、股部60に限定されるわけではない。
【0038】
図5及び図6は、補強部3と第一筒部1の編成順序を示す模式図である。図5には第一筒部3の一部のみが示されている。図5及び図6の編成は、下から上に向かって進行する。『T』+数字は、編成工程の番号である。横長の白抜き四角は編出し部30を示す。45°のハッチングが付された横長の四角は、前針床によって編成される部分を、135°のハッチングが付された横長の四角は、後針床によって編成される部分を示す。塗り潰された四角はミス編成を示す。
【0039】
図5に示されるステップT1では、編出し部30が編成される。編出し部30の編目は前針床と後針床とに交互に係止されている。ステップT2では、編出し部30のウエール方向に連続して手の平側の第一編地部31が編成された後、手の甲側の第二編地部32が編成される。第二編地部32の編幅方向の中央部ではミス編成が行われる。ミス編成の対象となる編目、即ちウエール方向に続く新たな編目が編成されなかった編目は、ウエール方向に伸ばされたストレッチ編目7になる。このミス編成は、図1の股部60に相当する箇所で行われる。ミス編成は必須ではない。
【0040】
ステップT3では、第一編地部31の編幅方向の少なくとも一部において引き返し編成を行う。本例では、編出し部30の編幅方向における股部60(図1)に対応する位置で、徐々に編幅が小さくなる引き返し編成が行われている。本例とは異なり、引き返し編成は、第二編地部32に対して行っても良い。第二編地部32の引き返し編成の幅、位置、及び数はそれぞれ、第一編地部31の幅、位置、及び数と同じでも良いし、異なっていても良い。これら引き返し編成によって、第一筒部1の立体形状に変化をつけることができる。
【0041】
ステップT4では、紙面左側を折り返し端として、第一編地部31を編成した後、第二編地部32を編成する。本例では、第二編地部32の編幅方向におけるステップT2のミス編成と同じ位置でミス編成が行われる。第二編地部32におけるミス編成が行われる部分は、第一編地部31における引き返し編成が行われた部分に対向する部分である。ステップT4のミス編成の位置は、ステップT2と異なっていても良い。ステップT4のミス編成は必須ではない。
【0042】
ステップT5では、補強部3の右端部において第一筒部1を編成する。第一筒部1は、ウエール方向につながる複数の第一筒状編目列11によって構成される。各第一筒状編目列11は、第一編目列111と第二編目列112とが筒状につながることによって構成されている。本例では、第一編目列111と第二編目列112とが交互に編成されることで、第一編目列111と第二編目列112とが筒状につながる。
【0043】
本例では、第一筒部1を編成する途中で、大きな追加筒状編目列19を編成している(工程B3)。具体的には、追加筒状編目列19の一つ前に編成された第一筒状編目列11の編目と、補強部3の一部にウエール方向に続く大きな追加筒状編目列19を編成する。追加筒状編目列19のうち、第一筒状編目列11の編幅からはみ出す部分の編目は、補強部3の編目となる。この追加筒状編目列19によって、容易に補強部3の厚みを増すことができる。追加筒状編目列19を編成する際、追加筒状編目列19における第二編地部32側(135°のハッチングが付された側)の部分でミス編成を行っても良い。
【0044】
図6のステップT6及びステップT7に示されるように、本例では更に、五本胴5の編成時にミス編成を行っている。ミス編成を行う箇所は、図5におけるミス編成が行われた部分のウエール方向につながる箇所である。
【0045】
実施形態2の編成方法によって編成された手袋の写真を図7及び図8に示す。図7は右手用の手袋の手の甲側の写真である。図8は、図7の股部60近傍の拡大写真である。図7に示されるように、本例の手袋では、第一筒部1から第二筒部2にかけて幅広の補強部3が配置されている。図8の拡大写真に示されるように、補強部3の第一編地部31は、第二編地部32によって手の甲側に引っ張られている。特に、ミス編成によって形成されるストレッチ編目7が第一編地部31を強く引っ張る。そのため、太点線で示される補強部3の編出し部30は、手袋の手の甲側に寄っている。補強部3が、股部60の手の甲側にかぶさるように配置されることで、股部60が効果的に補強される。本例とは異なり、補強部3が、股部60の手の平側にかぶさるように配置されても良い。
【0046】
補強部3が股部60の手の甲側にかぶさるように配置されるのは、引き返し編成(図5のステップT3参照)によって第一編地部31のコース数を第二編地部32よりも多くしているからである。また、図5のステップT2、ステップT4、及び図6のステップT6、ステップT7においてミス編成を行うことで、ストレッチ編目7が形成される。ストレッチ編目7が第一編地部31を手の甲側に強く引っ張る。
【0047】
本発明の筒状編地は手袋に限定されない。本発明の筒状編地は例えば、指袋を有するフットウェアでも良いし、ズボンなどのニットウェアでも良いし、カバーなどの産業資材でも良い。筒状編地における第一筒部1の数は特に限定されない。例えば、第一筒部1は単数でも良いし、複数でも良い。補強部3の数は第一筒部1の数に一致する。第二筒部2はなくても良い。第二筒部2は複数でも良い。
【符号の説明】
【0048】
1,1A,1B,1C 第一筒部
11 第一筒状編目列、19 追加筒状編目列
111 第一編目列、112 第二編目列
2 第二筒部
21 第二筒状編目列
3,3A,3B,3C 補強部
30 編出し部、31 第一編地部、32 第二編地部
4 四本胴
5 五本胴
6 筒状編地
60 股部、61,62 重ね目
7 ストレッチ編目
9 給糸口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8