(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144973
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】自沈式発炎筒
(51)【国際特許分類】
B63C 9/20 20060101AFI20231003BHJP
F42B 12/48 20060101ALI20231003BHJP
F42B 4/26 20060101ALI20231003BHJP
F42B 12/46 20060101ALI20231003BHJP
B63B 22/10 20060101ALI20231003BHJP
G08B 5/40 20060101ALI20231003BHJP
C06D 3/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B63C9/20 Z
F42B12/48
F42B4/26
F42B12/46
B63B22/10
G08B5/40
C06D3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052214
(22)【出願日】2022-03-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年1月22日に防衛省東北防衛局郡山防衛事務所白河製造所常駐検査官室に自沈式発炎筒について説明した技術変更提案書を提出 令和4年2月7日に防衛省東北防衛局郡山防衛事務所白河製造所常駐検査官室に自沈式発炎筒について説明した技術変更提案書を提出 令和4年2月7日に防衛省東北防衛局郡山防衛事務所に自沈式発炎筒について説明した技術変更提案書を郵送で提出
(71)【出願人】
【識別番号】390037224
【氏名又は名称】日本工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 芳仁
(72)【発明者】
【氏名】矢野 英治
(57)【要約】
【課題】大型化を抑えつつ長時間の発炎を可能にした自沈式発炎筒を提供する。
【解決手段】自沈式発炎筒2は、噴炎孔14を有する木製の柱状本体10を有する。柱状本体10の底部には重りとなる底蓋20が取り付けられている。柱状本体10の内部には、導火線50によって直列に接続された複数の炎薬管200と、先頭の炎薬管200に着火させる点火装置100とが収容されている。柱状本体10には、噴炎孔14と連通し複数の炎薬管200を収納する複数の筒状収納空間12が形成されている。連結孔16によって隣接する筒状収納空間12同士が連結されることで複数の筒状収納空間12は直列に連通している。列の先頭の筒状収納空間12と柱状本体10の外部との間には自沈装置30が設けられている。自沈装置30が設けられた筒状収納空間12には、着火順序において最後に着火される炎薬管200が収納される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴炎孔を有する木製の柱状本体と、
前記柱状本体の底部に取り付けられた重りと、
前記柱状本体の内部に収納され、導火線によって直列に接続された複数の炎薬管と、
前記柱状本体の内部に収納され、直列に接続された前記複数の炎薬管の列の先頭の炎薬管に着火させる点火装置と、を備え、
前記柱状本体は、
前記噴炎孔と連通し前記複数の炎薬管を収納する複数の筒状収納空間と、
隣接する筒状収納空間同士を連結して前記複数の筒状収納空間を直列に連通させる連結孔と、
直列に連通された前記複数の筒状収納空間の列の先頭の筒状収納空間と前記柱状本体の外部とを連通させる注水穴と、
前記注水穴に詰められた水溶性且つ熱可塑性の栓と、を備え、
前記列の先頭の筒状収納空間は前記複数の炎薬管の間での着火順序において最後に着火される炎薬管を収納する
ことを特徴とする自沈式発炎筒。
【請求項2】
請求項1に記載の自沈式発炎筒において、
前記連結孔により連結される2つの筒状収納空間のうち、先頭側の筒状収納空間と前記連結孔との接続位置は、後尾側の筒状収納空間と前記連結孔との接続位置よりも低い位置に設定され、
前記先頭側の筒状収納空間は前記着火順序が遅い炎薬管を収納し、前記後尾側の筒状収納空間は前記着火順序が早い炎薬管を収納する
ことを特徴とする自沈式発炎筒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自沈式発炎筒において、
前記複数の筒状収納空間のそれぞれはその内壁と収納される炎薬管との間に隙間を有し、前記隙間は高空隙率材料からなるスペーサによって埋められている
ことを特徴とする自沈式発炎筒。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の自沈式発炎筒において、
前記柱状本体は頭部の太さを胴部の太さよりも細く形成されている
ことを特徴とする自沈式発炎筒。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の自沈式発炎筒において、
前記柱状本体は前記複数の炎薬管を前記複数の筒状収納空間に挿入するための複数の挿入口を底部に備え、
前記重りは前記底部を覆い前記複数の挿入口をシールする底蓋である
ことを特徴とする自沈式発炎筒。
【請求項6】
請求項5に記載の自沈式発炎筒において、
前記底蓋にはシリコーンで埋められた空間が設けられ、
前記導火線は前記シリコーンで埋められた空間を通って前記複数の炎薬管を接続している
ことを特徴とする自沈式発炎筒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機から投下される海上浮遊発炎筒に関し、特に、自沈式の海上浮遊発炎筒に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2には、燃焼後に自沈する海上浮遊発炎筒が開示されている。これら先行技術文献に開示された発炎筒は金属製の中空構造の本体を有する。本体内部に形成された空陵は発炎筒を浮遊させるための浮力室となる一方、水を流入させることによって発炎筒を自沈させる自沈装置としても機能する。先行技術文献に開示された発炎筒の自沈装置は、発炎筒が燃焼した後、及び、不発に終わった場合でも一定時間浮遊した後、水を本体内部の空陵に流入させるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60-178299号公報
【特許文献2】特開平09-061098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発炎筒、特に、救難救助などで使用される発炎筒は、長時間にわたり場所を示す必要性から発炎時間の長期化が求められている。発炎時間を長くするには発炎薬の増量が必要であるが、発炎薬の増量は発炎筒全体の重量を増加させる。先行技術文献に開示された発炎筒の本体は金属製であるため、重量が増加した発炎筒を海上で浮遊させるためには、増加した重量にバランスする浮力が得られるように空陵を広げる必要がある。しかし、空陵を広げることは発炎筒の大型化につながるため、発炎筒の航空機への搭載において支障が生じてしまう。
【0005】
また、航空機から投下される発炎筒では、発炎筒自体の個体差や着水時の衝撃の影響により、燃焼開始から内部に水が流入し始めるまでの時間にはばらつきが生じる。さらに、先行技術文献に開示された発炎筒は空陵の空気によって浮力を得ているため、空陵に水が流入し始めてから自沈するまでの時間は短い。このため、水が流入し始めるまでの時間が設計値よりも短くなった場合、発炎薬を増量したにも関わらず十分な発炎時間を確保できないおそれがある。
【0006】
本発明は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、大型化を抑えつつ長時間の発炎を可能にした自沈式発炎筒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するための自沈式発炎筒を提供する。
【0008】
本発明に係る自沈式発炎筒は、噴炎孔を有する木製の柱状本体、柱状本体の底部に取り付けられた重り、複数の炎薬管、及び点火装置を備える。複数の炎薬管は柱状本体の内部に収納され、導火線によって直列に接続されている。点火装置は柱状本体の内部に収納され、直列に接続された複数の炎薬管の列の先頭の炎薬管に着火させるように構成されている。
【0009】
柱状本体は噴炎孔と連通し複数の炎薬管を収納する複数の筒状収納空間を備える。1つの筒状収納空間には1つの炎薬管が収納される。ただし、複数の噴炎孔が設けられて1つの噴炎孔に1つの筒状収納空間が連通していてもよいし、1つの噴炎孔が複数の筒状収納空間で供用されていてもよい。
【0010】
柱状本体は、隣接する筒状収納空間同士を連結する連結孔を備える。ただし、必ずしも隣接する2つの筒状収納空間の全ての組み合わせに対して連結孔が設けられているわけではない。連結孔は複数の筒状収納空間が直列に連通するように設けられている。
【0011】
柱状本体は、直列に連通された複数の筒状収納空間の列の先頭の筒状収納空間と柱状本体の外部とを連通させる注水穴と、注水穴に詰められた水溶性且つ熱可塑性の栓とを備える。上記のように複数の筒状収納空間は連結孔によって直列に連通されている。環状でもなく並列でもなく直列であるならば、必ず列の先頭になる筒状収納空間と列の後尾となる筒状収納空間とが存在する。列の端部となる2つの筒状収納空間のうちどちらを列の先頭とみなしてもよいし列の後尾とみなしてもよい。列の先頭の筒状収納空間、すなわち、注水穴によって柱状本体の外部と連通する筒状収納空間には、複数の炎薬管の間での着火順序において最後に着火される炎薬管が収納される。
【0012】
本発明に係る自沈式発炎筒は以上のように構成されている。本発明に係る自沈式発炎筒によれば、柱状本体は木製でありそれ自体が浮力を有しているので、浮力を得るための空間を内部に設ける必要はない。ゆえに、金属製の自沈式発炎筒に比較して全体を小型化することができる。また、柱状本体自体が浮力を有しているため、燃焼開始から内部に水が流入し始めるまでの時間のばらつきが自沈時間に与える影響も低く抑えられる。
【0013】
さらに、本発明に係る自沈式発炎筒によれば、複数の炎薬管は導火線によって直列に接続されているので、点火装置によって最初に着火された炎薬管から順々に燃焼し、最後に、列の先頭の筒状収納空間に収納された炎薬管が燃焼する。列の先頭の筒状収納空間は注水穴が設けられた筒状収納空間であるが、注水穴には栓が詰められているので注水穴からの浸水はすぐには生じない。栓は熱可塑性であるので、列の先頭の筒状収納空間に収納された炎薬管が燃焼したときにその熱によって溶解し、注水穴から筒状収納空間への水の浸水が始まる。つまり、本発明に係る自沈式発炎筒によれば、着火順序において最後の炎薬管が燃焼してから内部に水を浸入させることができるので、全ての炎薬管を燃焼させて長時間の発炎を確保することができる。注水穴から列の先頭の筒状収納空間に浸入してきた水は、連結孔を介して全ての筒状収納空間へ順に浸入し、やがて自沈式発炎筒を自沈させる。
【0014】
また、何らかの理由で点火装置が作動しなかった場合や、途中の炎薬管で燃焼が止まってしまうことが有りうる。この場合、着火順序において最後の炎薬管が燃焼しないため、栓を熱で溶解させることはできない。しかし、栓は水溶性でもあるため、時間の経過によってやがて水に溶解し、注水穴から筒状収納空間への水の浸水が始まる。つまり、本発明に係る自沈式発炎筒によれば、不発であった場合でも内部に水を浸入させることができる。注水穴から列の先頭の筒状収納空間に浸入してきた水は、連結孔を介して全ての筒状収納空間へ順に浸入していき、自沈式発炎筒を次第に自沈させていく。
【0015】
本発明に係る自沈式発炎筒において、連結孔により連結される2つの筒状収納空間のうち、先頭側の筒状収納空間と連結孔との接続位置は、後尾側の筒状収納空間と連結孔との接続位置よりも低い位置に設定されてもよい。そして、先頭側の筒状収納空間は着火順序が遅い炎薬管を収納し、後尾側の筒状収納空間は着火順序が早い炎薬管を収納してもよい。このような構成によれば、先に着火された炎薬管で発生した火が後に着火される炎薬管へ連結孔を通って燃え移ることを防ぐことができる。
【0016】
本発明に係る自沈式発炎筒において、複数の筒状収納空間のそれぞれはその内壁と収納される炎薬管との間に隙間を有し、隙間は高空隙率材料からなるスペーサによって埋められていてもよい。このような構成によれば、炎薬管を筒状収納空間内で保持しつつ、不発或いは途中で燃焼が止まった場合において、注水穴から発炎筒の内部に浸水してきた水の溜まり場を確保することができる。
【0017】
本発明に係る自沈式発炎筒において、柱状本体は頭部の太さを胴部の太さよりも細く形成されていてもよい。このような構成によれば、柱状本体による浮力を低減し、注水穴から発炎筒の内部に浸水してきた際に発炎筒を自沈しやすくすることができる。
【0018】
本発明に係る自沈式発炎筒において、柱状本体は複数の炎薬管を複数の筒状収納空間に挿入するための複数の挿入口を底部に備えてもよい。そして、柱状本体の底部に取り付けられる重りは底部を覆い複数の挿入口をシールする底蓋であってもよい。このような構成によれば、重りである底蓋から着水するため、底蓋によって底部を保護されている柱状本体の破損を防ぐことができる。
【0019】
また、本発明に係る自沈式発炎筒において、底蓋にはシリコーンで埋められた空間が設けられてもよく、導火線はシリコーンで埋められた空間を通って複数の炎薬管を接続してもよい。これによれば、導火線が燃えてシリコーンが溶けることで、注水穴から発炎筒の内部に浸水してきた水の通路を作ることができ、発炎筒をより自沈しやすくすることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上述べたように、本発明に係る自沈式発炎筒によれば、大型化を抑えつつ長時間の発炎を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係る自沈式発炎筒の側面図である。
【
図2】
図1に示される自沈式発炎筒の断面A-Aを示す断面図である。
【
図3】
図1に示される自沈式発炎筒の断面B-Bを示す断面図である。
【
図4】
図1に示される自沈式発炎筒が備える炎薬管の縦断面図である。
【
図5】
図1に示される自沈式発炎筒が備える自沈装置の拡大断面図である。
【
図6】
図1に示される自沈式発炎筒の底蓋が無い状態での底面図である。
【
図7】
図1に示される自沈式発炎筒の自沈装置の位置での横断面図である。
【
図8】
図1に示される自沈式発炎筒の作動シーケンスを示す図である。
【
図9】自沈装置による未燃焼状態での自沈時間の検証結果を示す図である。
【
図10】自沈装置による燃焼状態での自沈時間の検証結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る自沈式発炎筒(以下、単に発炎筒という)について説明する。ただし、以下に示される実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本発明に係る思想が限定されるものではない。また、以下に示される実施形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、本発明に係る思想に必ずしも必須のものではない。
【0023】
1.発炎筒の外観
まず、
図1を参照して発炎筒2の外観から説明する
【0024】
図1は発炎筒2の側面図である。発炎筒2は縦に長い柱状の本体10を有し、本体10の底部には底蓋20が取り付けられている。本体10は、より具体的には、四角柱状の外観形状を有している。ただし、本体10は一定の太さではなく、本体10の頭部10bの太さは胴部10aの太さよりも細くされている。底蓋20は、本体10に取り付けられた状態では、高さの低い四角柱状の外観形状を有している。
【0025】
外観では、本体10の頭部10bと胴部10aの底蓋20の近くのそれぞれに防湿テープ42,44が貼られている。頭部10bに貼られた防湿テープ42は後述する引き環106を固定するために貼られている。胴部10aの底蓋20の近くに貼られた防湿テープ44は後述する自沈装置30をカバーし、発炎筒2の保管時に内部の火薬や発炎剤を防湿するために貼られている。防湿テープ42,44は共に発炎筒2の使用時に剥がされる。
【0026】
2.発炎筒の材質
上記の外観を有する発炎筒2は、本体10の材質において1つの特徴を有する。本体10の材質としては木材が用いられている。木材は詳しくは比重が1未満の木材であり、エゾ松、トド松、シナ、スプルース等を具体例として挙げることができる。本体10の材質として木材を選択したことで、金属製の発炎筒のように中空構造にして内部の空気に頼らずとも、本体10自体によって発炎筒2に浮力を与えることができる。
【0027】
一方、底蓋20の材質としては金属が用いられている。金属の具体例としては鋼、銅合金、亜鉛合金、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン等を挙げることができる。重さのある底蓋20を発炎筒2の底部に配置することで、発炎筒2の重心位置を底部に下げ、航空機からの落下中や水面で浮遊している際、発炎筒2の姿勢を安定させることができる。つまり、底蓋20は重りとして機能する。また、着水時は、底蓋20から着水することで本体10の破損を防ぐ効果もある。
【0028】
3.発炎筒の内部の構造
次に、
図2及び
図3を参照して発炎筒2の内部の構造について説明する。
【0029】
図2は
図1に示される発炎筒2の断面A-Aを示している。断面A-Aは発炎筒2の中心軸を含み、四角柱状に形成された発炎筒2の1つの側面に平行な断面である。
【0030】
図2に示されるように、発炎筒2の本体10の中心部には、点火装置100が収納されている。前述の引き環106には金属製の引抜線108が取り付けられている。引抜線108の先端は点火装置100に繋がっている。引き環106を引いて点火装置100から引抜線108を引き抜くことで点火装置100が作動し、点火装置100から下方に延びている導火線50に火が着くようになっている。点火装置100は、木栓104によって本体10に封じ込められている。木栓104は本体10と同様に木材で作られている。
【0031】
導火線50は底蓋20の内側に形成された空間22を通って後述する炎薬管に接続されている。なお、底蓋20の空間22は液密性を担保するためにシリコーン24で埋められている。また、
図2より、本体10の底部は底蓋20に嵌め込まれていることが分かる。底蓋20は本体10の底部に複数本の金属製の木ネジ28によって固定されている。
【0032】
図3は
図1に示される発炎筒2の断面B-Bを示している。断面B-Bは、断面A-Aと断面A-Aに平行な側面との中間で発炎筒2を縦に切断して得らえる断面である。なお、断面A-Aに関して断面B-Bとは反対側の断面も、断面B-Bに示される構造と同じ構造になっている。
【0033】
図3に示されるように、発炎筒2の本体10の内部には、着火されることで炎と煙を発生させる炎薬管200が設けられている。炎薬管200は本体10の内部に形成された筒状収納空間12に収容されている。筒状収納空間12は本体10の底面に開口し、その開口部から発炎筒2の軸方向に延びている。筒状収納空間12の開口部は炎薬管200を挿入する挿入口である。筒状収納空間12の天井面には、本体10の頂部に開口する噴炎孔14が連通している。炎薬管200から発生する炎と煙は噴炎孔14から外部に噴出される。ただし、噴炎孔14の開口部には金属製の蓋46が取り付けられている。蓋46は着水時に噴炎孔14からの浸水を防ぐ役割を有し、炎薬管200から炎と煙が噴出された際に本体10から外れるようになっている。また、蓋46には、発炎筒2が不発であった場合に、内部の空気を抜いて発炎筒2を自沈させるための空気抜き穴が開けられている。
【0034】
図3に示される断面B-Bでは、2組の筒状収納空間12と噴炎孔14とが本体10に形成されている。断面A-Aに関して断面B-Bとは反対側の断面も断面B-Bに示される構造と同じ構造であるから、本体10には合計4組の筒状収納空間12と噴炎孔14とが形成されている。各筒状収納空間12に1つずつ炎薬管200が収納されるので、発炎筒2には合計4本の炎薬管200が備えられている。炎薬管200同士は、底蓋20の空間22を通る導火線50によって直列に接続されている
【0035】
筒状収納空間12及び噴炎孔14の容積は、内部に浸水した際に発炎筒2を自沈させるのに十分な量の水が入るように設計されている。また、前述のように、本体10は、その頭部10bの太さを炎薬管200が収納される胴部10aの太さよりも細くされている。このような形状に本体10を形成することで、本体10それ自体で生じる浮力を減らし、その分、重りである底蓋20の重量を抑えることができる。つまり、発炎筒2全体として小型化且つ軽量化することができる。
【0036】
また、本体10の内部には、隣り合う筒状収納空間12と筒状収納空間12とを連結する連結孔16が形成されている。連結孔16は筒状収納空間12の開口部の近くに設けられている。ただし、連結孔16と筒状収納空間12との接続位置は、連結孔16により連結される2つの筒状収納空間12の間で高低差が設けられている。連結孔16の機能と高低差の理由については後述する。
【0037】
さらに、本体10には自沈装置30が設けられている。自沈装置30は発炎筒2の外部と筒状収納空間12とを連通させて本体10の内部に水を浸水させ、発炎筒2を自沈させる機構である。自沈装置30の詳細については後述する。自沈装置30は4つの筒状収納空間12のうちの1つのみに設けられている。
【0038】
4.炎薬管の構造
次に、
図4を参照して炎薬管200の構造の詳細について説明する。
【0039】
図4は炎薬管200の縦断面図である。なお、前述のように発炎筒2には4本の炎薬管200が備えられているが、どの炎薬管200も
図4に示されるものと同じ構造を有している。ただし、
図4に示される炎薬管200は、導火線50-1によって点火装置100に接続された第1炎薬管であるとする。
【0040】
炎薬管200はアルミ防湿フィルムからなる管本体202を有する。管本体202の底部は底部金物212とナット214によって蓋をされている。管本体202の頂部にはべークライト等の熱硬化性樹脂でできた着火薬容器206が取り付けられている。着火薬容器206の中には着火薬208が詰められている。着火薬容器206と底部金物212との間に挟まれた管本体202の内部には、発炎薬210が詰められている。点火装置100から延びる導火線50-1は、底部金物212を貫通して管本体202の中を通り、着火薬容器206の内部に達している。
【0041】
導火線50-1を伝わってきた火は着火薬容器206に達し、着火薬208を着火させる。そして、着火した着火薬208の燃焼によって発炎薬210に着火する。着火した発炎薬210は上方から下方に向けて炎と煙を出しながら燃焼していく。そして、発炎薬210が導火線50-2まで燃焼したとき、導火線50-2に着火する。導火線50-2は、4本の炎薬管200のうちの第1炎薬管と第2炎薬管とを接続する導火線50である。
【0042】
管本体202の周囲には高空隙率材料で形成されたスペーサ220が巻かれている。高空隙率材料の好ましい例は片面段ボールである。スペーサ220は、筒状収納空間12の内壁と管本体202との隙間を埋めて管本体202を固定するともに、浸水時には水が溜まる空間となる。ただし、発炎薬210が燃焼するときには、スペーサ220は管本体202とともに燃焼して燃え落ちるようになっている。
【0043】
また、炎薬管200の頂部は、べークライト等の熱硬化性樹脂でできた座204を介して筒状収納空間12の天井面に押し付けられる。座204には発炎薬210が燃焼したときに生じる燃焼ガス(炎と煙を含む)の流路が形成されている。筒状収納空間12の天井面には噴炎孔14が連通しているので、燃焼ガスは座204に形成された流路を通って噴炎孔14へと流れていく。
【0044】
5.自沈装置の構造の詳細
次に、
図5を参照して自沈装置30の構造の詳細について説明する。
【0045】
図5は自沈装置30の拡大断面図である。自沈装置30は、発炎筒2の本体10の側面に形成された注水穴32と、注水穴32に詰められた樹脂栓34とで構成される。注水穴32は金属で作られた円筒状の部材であり、本体10の側面に打ち込まれている。本体10の側面における注水穴32の位置は、発炎筒2が水に浮かんでいる状態において水面下になる位置である。注水穴32は本体10の側面と筒状収納空間12との間を貫通し、発炎筒2の外部と筒状収納空間12とを連通させる。樹脂栓34は水溶性且つ熱可塑性の樹脂で作られている。樹脂栓34の具体的な材質としては、ポリビニルアルコールや熱可塑性澱粉糊等を挙げることができる。発炎筒2が保管されているときには、注水穴32は防湿テープ44で塞がれている。
【0046】
発炎筒2の使用時には、発炎筒2は防湿テープ44を剥がされて水面に投下される。水面に投下された時点では、注水穴32は樹脂栓34によって塞がれているので、発炎筒2の内部に水が浸水することはない。しかし、発炎薬210が燃焼すると、その熱によって樹脂栓34は溶解し、発炎筒2の外部と筒状収納空間12とが連通することによって注水穴32から筒状収納空間12の内部に浸水する。また、発炎薬210が燃焼しなかった場合であっても、発炎筒2が長時間水面に浮かんでいると、水に濡れることによって樹脂栓34は溶解し、発炎筒2の外部と筒状収納空間12とが連通することによって注水穴32から筒状収納空間12の内部に浸水する。筒状収納空間12の内部に水が浸水することで、筒状収納空間12内の空気は噴炎孔14から外に出ていき、やがて、浮力が重量よりも小さくなったときに発炎筒2は自沈する。
【0047】
6.発炎筒の構造の詳細
次に、上述のような構造を有する点火装置100、炎薬管200及び自沈装置30を備える発炎筒2の構造の詳細について
図6及び
図7を参照して説明する。
【0048】
図6は発炎筒2の底蓋20が無い状態での底面図である。発炎筒2の本体10の底面は正方形であり、その中心に点火装置100が配置されている。そして、点火装置100から等距離の位置に4つの筒状収納空間12-1,12-2,12-3,12-4が開口している。ここで、符号の“12-n”は着火順序においてn番目の炎薬管が収納される筒状収納空間12を意味している。つまり、筒状収納空間12-1は着火順序において1番目の第1炎薬管が収納される筒状収納空間12である。筒状収納空間12-2は着火順序において2番目の第2炎薬管が収納される筒状収納空間12である。筒状収納空間12-3は着火順序において3番目の第3炎薬管が収納される筒状収納空間12である。そして、筒状収納空間12-4は着火順序において4番目の第4炎薬管が収納される筒状収納空間12である。4つの筒状収納空間12-1,12-2,12-3,12-4は番号順に反時計回りに隣接している。
【0049】
本体10の底面には4本の導火線50-1,50-2,50-3,50-4が引かれている。ここで、符号の“50-n”は着火順序においてn番目の炎薬管に着火させる導火線50を意味している。つまり、点火装置100から延びる導火線50-1は筒状収納空間12-1に入り第1炎薬管に接続されている。筒状収納空間12-1から延びる導火線50-2は筒状収納空間12-2に入り第2炎薬管に接続されている。筒状収納空間12-2から延びる導火線50-3は筒状収納空間12-3に入り第3炎薬管に接続されている。そして、筒状収納空間12-3から延びる導火線50-4は筒状収納空間12-4に入り第4炎薬管に接続されている。
【0050】
図7は発炎筒2の自沈装置30の位置での横断面図である。本体10に形成された筒状収納空間12-1,12-2,12-3,12-4には、それぞれ炎薬管200-1,200-2,200-3,200-4が収納されている。ここで、符号の“200-n”は着火順序においてn番目の炎薬管200を意味している。
図7に示すように、自沈装置30は最後に着火する第4炎薬管200-4のみに設けられている。また、自沈装置30は本体10の異なる側面に2つ設けられている。
【0051】
また、筒状収納空間12-1と筒状収納空間12-4との間を除く3か所に連結孔16-1,16-2,16-3が設けられている。ここで、符号の“16-n”は浸水時にn番目に水が流れる連結孔16を意味している。浸水時、水は自沈装置30が設けられた第4筒状収納空間12-4に流入し、第1連結孔16-1を通って第3筒状収納空間12-3に流入する。次に、第3筒状収納空間12-3から第2連結孔16-2を通って第2筒状収納空間12-2に流入する。そして最後に、第2筒状収納空間12-2から第3連結孔16-3を通って第1筒状収納空間12-1に流入する。つまり、筒状収納空間12-1,12-2,12-3,12-4間における浸水時の水の流入順序は、炎薬管200-1,200-2,200-3,200-4における着火順序と逆の順序である。
【0052】
各連結孔16-1,16-2,16-3は両側の筒状収納空間との接続位置に高低差を設けられている(
図3に示す連結孔16を参照)。具体的には、第4筒状収納空間12-4と第1連結孔16-1との接続位置は、第3筒状収納空間12-3と第1連結孔16-1との接続位置よりも低い位置に設定されている。第3筒状収納空間12-3と第2連結孔16-2との接続位置は、第2筒状収納空間12-2と第2連結孔16-2との接続位置よりも低い位置に設定されている。そして、第2筒状収納空間12-2と第3連結孔16-3との接続位置は、第1筒状収納空間12-1と第3連結孔16-2との接続位置よりも低い位置に設定されている。つまり、着火順序が遅い炎薬管を収納された筒状収納空間と連結孔との接続位置は、着火順序が早い炎薬管を収納された筒状収納空間と連結孔との接続位置よりも低い位置に設定されている。このように各連結孔16-1,16-2,16-3が設けられることで、先に着火された炎薬管で発生した火が後に着火される炎薬管へ連結孔を通って燃え移ることは防止される。
【0053】
7.発炎筒の作動シーケンス
次に、上述の構造を有する発炎筒2の作動シーケンスについて
図8を参照して説明する。
【0054】
図8は発炎筒2の作動シーケンスを示す図である。発炎筒2を作動させる場合、まず、引き環106と自沈装置30の防湿テープ42,44が剥がされ、引き環106の固定と自沈装置30の防湿が解除される(ステップS01)。次に、引き環106を引いて引抜線108が引き抜かれることで、摩擦により点火装置100に着火する(ステップS02)。
【0055】
ステップS02において引き環106を引いて引抜線108が引き抜かれた後、発炎筒2は水面に投下される(ステップS06)。投下された発炎筒2は水面に着水し、本体10の頭部10bを含む一部を水面に出して浮遊する(ステップS07)。
【0056】
また、点火装置100に着火したことで、点火装置100から第1導火線50-1に着火する(ステップS03)。そして、第1導火線50-1から第1炎薬管200-1に着火し、噴炎孔14から炎と煙が噴出する(ステップS04)。発炎筒2が備える4本の炎薬管200-1,200-2,200-3,200-4は、導火線5-2,5-3,5-4によって直列に接続されている。よって、第1炎薬管200-1から、第2炎薬管200―2、第3炎薬管200-3の順に燃焼し、最後に、第4筒状収納空間12-4に収納された第4炎薬管200-4が燃焼する。
【0057】
第4炎薬管200-4が燃焼すると、その燃焼終了間際に熱が自沈装置30の樹脂栓34に伝わる。樹脂栓34は熱可塑性であるので、第4炎薬管200-4が燃焼したときにその熱によって溶解する(ステップS05)。樹脂栓34の溶解により注水穴32から第4筒状収納空間12-4の内部への浸水が始まる(ステップS09)。つまり、上述の構造を有する発炎筒2によれば、着火順序において最後の第4炎薬管200-4が燃焼してから内部に水を浸入させることができ、全ての炎薬管200-1,200-2,200-3,200-4を順に燃焼させて長時間の発炎を確保することができる。
【0058】
発炎筒2の内部への浸水は、連結孔16-1,16-2,16-3を介して第4筒状収納空間12-4、第3筒状収納空間12-3、第2筒状収納空間12-2、第1筒状収納空間12-1の順に進んでいく。さらに、底蓋20内を通る導火線50-1,50-2,50-3,50-4が燃えてシリコーン24が溶けることで、注水穴32から発炎筒2の内部に浸水してきた水の通路が作られる場合がある。底蓋20内に水の通路ができることで、発炎筒2の内部への浸水はさらに促進される。
【0059】
ただし、万が一、点火装置100の不作動やいずれかの炎薬管200で燃焼中断が発生してしまった場合、第4炎薬管200-4が燃焼しないために樹脂栓34を熱で溶解させることはできない。しかし、樹脂栓34は水溶性でもあるため、発炎筒2が浮遊している間に徐々に水に溶解する(ステップS08)。樹脂栓34の溶解により注水穴32から第4筒状収納空間12-4の内部への浸水が始まる(ステップS09)。つまり、上述の構造を有する発炎筒2によれば、発炎筒2が不発であった場合でも内部に水を浸入させることができる。
【0060】
注水穴32から第4筒状収納空間12-4に浸入してきた水は、連結孔16-1,16-2,16-3を介して全ての筒状収納空間12-4,12-3,12-2,12-1へ順に浸入していく。そして、浮力が重量よりも低下した時点で発炎筒2は自沈する(ステップS10)。
【0061】
8.自沈装置による自沈時間の検証結果
最後に、自沈装置30による自沈時間の検証結果について
図9及び
図10を参照して説明する。
【0062】
図9は自沈装置30による未燃焼状態での自沈時間の検証結果を示す図である。検証では、樹脂栓34の厚みを変えた水準の発炎筒2において、水面に浮かべてから沈むまでの時間の計測が行われた。検証の結果、板厚と自沈時間には関係があり、板厚4~5mm程度で着水から平均11時間で発炎筒2は自沈することが分かった。
【0063】
図10は自沈装置30による燃焼状態での自沈時間の検証結果を示す図である。検証では、樹脂栓34の板厚が5mmの発炎筒2を水面に浮かべた状態で燃焼させ、着火から自沈するまでの時間の計測が行われた。検証の結果、着火から1時間以内、燃焼後10分程度で自沈することが分かった。
【0064】
以上の検証結果から、発炎筒2が未燃焼の場合でも燃焼した場合でも発炎筒2は確実に自沈することが分かった。また、発炎筒2が燃焼した場合の燃焼時間と燃焼開始から自沈までの時間は2回の試験で差が無く、4本の炎薬管が確実に燃焼してから自沈していることが確認された。さらに、未燃焼の発炎筒2が自沈するまでの時間は発炎筒2が燃焼してから自沈するまでの時間よりも格段に長いことから、発炎筒2が燃焼している最中に樹脂栓34が水に溶けて自沈してしまう虞はないことも確認された。
【0065】
9.その他
上記の実施形態で発炎筒が備える炎薬管の本数は4本である。しかし、本発明の実施にあたっては炎薬管の本数は2本以上であればよい。また、発炎筒の本体の形状は柱状であれば四角柱以外の多角柱状でもよいし、円柱状でもよい。
【符号の説明】
【0066】
2 自沈式発炎筒
10 本体(柱状本体)
10a 胴部
10b 頭部
12,12-1,12-2,12-3,12-4 筒状収納空間
14 噴炎孔
16,16-1,16-2,16-3 連結孔
20 底蓋(重り)
22 空間(空陵)
24 シリコーン
28 木ネジ
30 自沈装置
32 注水穴
34 樹脂栓
42,44 防湿テープ
46 蓋
50,50-1,50-2,50-3,50-4 導火線
100 点火装置
104 木栓
106 引き環
108 引抜線
200,200-1,200-2,200-3,200-4 炎薬管
202 筒本体
204 座
206 着火薬容器
208 着火薬
210 発炎薬
212 底部金物
220 スペーサ