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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145009
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】多官能ビニル芳香族共重合体
(51)【国際特許分類】
   C08F 212/08 20060101AFI20231003BHJP
   C08L 25/08 20060101ALI20231003BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231003BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20231003BHJP
   C08K 5/3477 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C08F212/08
C08L25/08
C08L101/00
C08L71/12
C08K5/3477
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052267
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100191444
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 尚久
(72)【発明者】
【氏名】末満 千豊
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BC041
4J002CH072
4J002EK037
4J002EU196
4J002FD147
4J002FD156
4J002GJ01
4J002GQ00
4J002GQ01
4J002HA05
4J100AB02P
4J100AB07Q
4J100AB16R
4J100CA05
4J100CA23
4J100DA01
4J100DA04
4J100FA03
4J100FA19
4J100JA03
4J100JA43
4J100JA44
(57)【要約】
【課題】本開示は、誘電特性に優れ、かつ高い耐熱性及び強度を有する積層板等を提供することができる、多官能ビニル芳香族共重合体、及びこれを含む硬化性樹脂組成物等を提供すること。
【解決手段】ジビニル芳香族化合物に由来する構造単位と、モノビニル芳香族化合物に由来する構造単位とを有する多官能ビニル芳香族共重合体が提供される。多官能ビニル芳香族共重合体は、炭素数3~20のアルキル基を有するアルキルスチレンに由来する構造単位を、全構造単位の合計100mol%に対して1mol%~99mol%含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジビニル芳香族化合物に由来する構造単位と、モノビニル芳香族化合物に由来する構造単位とを有する多官能ビニル芳香族共重合体であって、炭素数3~20のアルキル基を有するアルキルスチレンに由来する構造単位を、全構造単位の合計100mol%に対して1mol%~99mol%含む、多官能ビニル芳香族共重合体。
【請求項2】
前記アルキルスチレンが炭素数6~10のアルキル基を有するアルキルスチレンである、請求項1に記載の多官能ビニル芳香族共重合体。
【請求項3】
前記アルキルスチレンが4-n-オクチルスチレンである、請求項2に記載の多官能ビニル芳香族共重合体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の多官能ビニル芳香族共重合体と、
硬化性反応型化合物、硬化性反応型樹脂、熱可塑性樹脂、及びラジカル重合開始剤からなる群から選ばれる1つ以上と
を含有する、硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
硬化性反応型化合物を含み、前記硬化性反応型化合物が、トリアルケニルイソシアヌレート及び/又はトリアルケニルシアヌレートである、請求項4に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
硬化性反応型樹脂を含み、前記硬化性反応型樹脂が、ポリフェニレンエーテル化合物である、請求項4または5に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
難燃剤及び/又は充填剤を更に含有する、請求項4~6のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項9】
請求項4~7のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物と基材とを含む、硬化性複合材料であって、前記基材は、前記硬化性複合材料の全質量を基準として1質量%~99質量%を構成する、硬化性複合材料。
【請求項10】
請求項9に記載の硬化性複合材料を硬化させた、硬化複合材料。
【請求項11】
請求項10に記載の硬化複合材料の層を複数枚有する、積層体。
【請求項12】
請求項9に記載の硬化性複合材料の層と金属箔層とを有する、金属張積層板。
【請求項13】
金属箔と、前記金属箔の片面に請求項4~7のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物を硬化させた膜とを有する、樹脂付き金属箔。
【請求項14】
有機溶剤と、前記有機溶剤中に溶解した請求項4~7のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物とを含有する、樹脂組成物ワニス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多官能ビニル芳香族共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報ネットワーク技術の著しい進歩又は情報ネットワークを活用したサービスの拡大に伴い、電子機器には情報量の大容量化、及び処理速度の高速化が求められている。これらの要求に応えるため、電子機器に搭載されるプリント配線板には、従来から求められていた絶縁信頼性、耐熱性、剛性、難燃性等の特性に加え、低誘電率・低誘電正接が強く求められている。したがって、プリント配線板を構成する主要な絶縁材料である樹脂組成物は、特に誘電正接の更なる改良が検討され、様々な化学構造を持つビニル系化合物を使用した硬化樹脂が提案されている。
【0003】
このような硬化樹脂としては、例えば特許文献1には、ジビニル芳香族化合物とモノビニル芳香族化合物をルイス酸触媒の存在下で重合させることによって得られる可溶性多官能ビニル芳香族共重合体が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ジビニル芳香族化合物とビニル芳香族化合物だけでなくシクロオレフィン化合物を重合させることによって得られる多官能ビニル芳香族共重合体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/115813号
【特許文献2】国際公開第2018/181842号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に記載されるような従来の多官能ビニル芳香族共重合体は、誘電特性に優れるものの、積層体の強度に劣るという課題があった。そこで、本開示は、誘電特性に優れ、かつ高い耐熱性及び強度を有する積層板等を提供することができる、多官能ビニル芳香族共重合体、及びこれを含む硬化性樹脂組成物等を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の実施形態の例を以下の項目[1]~[13]に列記する。
[1]
ジビニル芳香族化合物に由来する構造単位と、モノビニル芳香族化合物に由来する構造単位とを有する多官能ビニル芳香族共重合体であって、炭素数3~20のアルキル基を有するアルキルスチレンに由来する構造単位を、全構造単位の合計100mol%に対して1mol%~99mol%含む、多官能ビニル芳香族共重合体。
[2]
上記アルキルスチレンが炭素数6~10のアルキル基を有するアルキルスチレンである、項目1に記載の多官能ビニル芳香族共重合体。
[3]
上記アルキルスチレンが4-n-オクチルスチレンである、項目2に記載の多官能ビニル芳香族共重合体。
[4]
項目1~3のいずれか一項に記載の多官能ビニル芳香族共重合体と、
硬化性反応型化合物、硬化性反応型樹脂、熱可塑性樹脂、及びラジカル重合開始剤からなる群から選ばれる1つ以上と
を含有する、硬化性樹脂組成物。
[5]
硬化性反応型化合物を含み、上記硬化性反応型化合物が、トリアルケニルイソシアヌレート及び/又はトリアルケニルシアヌレートである、項目4に記載の硬化性樹脂組成物。
[6]
硬化性反応型樹脂を含み、上記硬化性反応型樹脂が、ポリフェニレンエーテル化合物である、項目4または5に記載の硬化性樹脂組成物。
[7]
難燃剤及び/又は充填剤を更に含有する、項目4~6のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
[8]
項目4~7のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
[9]
項目4~7のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物と基材とを含む、硬化性複合材料であって、上記基材は、上記硬化性複合材料の全質量を基準として1質量%~99質量%を構成する、硬化性複合材料。
[10]
項目9に記載の硬化性複合材料を硬化させた、硬化複合材料。
[11]
項目10に記載の硬化複合材料の層を複数枚有する、積層体。
[12]
項目9に記載の硬化性複合材料の層と金属箔層とを有する、金属張積層板。
[13]
金属箔と、上記金属箔の片面に項目4~7のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物を硬化させた膜とを有する、樹脂付き金属箔。
[14]
有機溶剤と、上記有機溶剤中に溶解した項目4~7のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物とを含有する、樹脂組成物ワニス。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、誘電特性に優れ、かつ高い耐熱性及び強度を有する積層板等を提供することができる、多官能ビニル芳香族共重合体、及びこれを含む硬化性樹脂組成物等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について説明する。以下の実施形態は、本発明の一態様であるため、本発明は以下の実施形態のみに限定されない。従って、以下の実施形態は、本発明の要旨の範囲内で適宜変形して実施可能である。また、本明細書での「~」とは、特に断りがない場合、その両端の数値を上限値、及び下限値として含む意味である。本明細書において、数値範囲の上限値、及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0010】
[多官能ビニル芳香族共重合体]
本開示の多官能ビニル芳香族共重合体は、ジビニル芳香族化合物に由来する構造単位(a)と、モノビニル芳香族化合物に由来する構造単位(b)とを有し、かつ炭素数3~20のアルキル基を有するアルキルスチレンに由来する構造単位(c)を、全構造単位の合計100mol%に対して1mol%~99mol%含む。
【0011】
理論に限定されないが、従来の多官能ビニル芳香族共重合体の耐熱性や強度は、ジビニル芳香族化合物由来の構造単位中のビニル基による架橋のみに起因するため、耐熱性及び物理強度に改善の余地があると考えられる。これに対して、本開示の可溶性多官能ビニル芳香族共重合体は、炭素数3~20のアルキル基を有するアルキルスチレンを、全構造単位の合計100mol%に対して1mol%~99mol%含むことにより、ジビニル芳香族化合物由来の構造単位中のビニル基による架橋、及びアルキルスチレンに由来するアルキル基に起因して、高い耐熱性及び強度を有する積層板等を提供することができると考えられる。炭素数が3未満の場合、アルキル基が短いため耐熱性及び強度が改善されにくく、炭素数が20より長い場合、硬化性樹脂組成物を構成する他の要素との相溶性に劣るため、誘電特性、耐熱性及び強度が改善されにくい。アルキルスチレンの含有量が1mol%未満の場合、耐熱性及び強度が改善されにくく、99mol%より多い場合には、硬化性樹脂組成物を構成する他の要素との相溶性に劣るため、誘電特性、耐熱性及び強度が改善されにくい。
【0012】
上記構造単位(a)の構造はジビニル芳香族化合物に由来するものであれば特に限定されないが、下記化学式(1)で表される構造を含むことが好ましい。
【化1】
(式中、Rは炭素数6~30の芳香族炭化水素基、nは1以上の整数を表す。)
【0013】
上記構造単位(a)の構造は、ジビニル芳香族化合物に由来する2つのビニル基が両方とも反応した、例えば、下記化学式(1’)で表される構造を含んでもよい。
【化2】
(式中、Rは炭素数6~30の芳香族炭化水素基、nは1以上の整数を表す。)
【0014】
一般式(1)及び(1’)中、Rは、それぞれ独立に、好ましくは炭素数6~30の二価の芳香族炭化水素基、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、二価のビフェニル基、これらの構造異性体、及びこれらの組み合わせ等が挙げられ、溶解性の観点から、フェニレン基が好ましい。nは、それぞれ独立に、1以上の整数であり、nの上限は、限定されないが、例えば100以下であってよい。
【0015】
上記構造単位(b)の構造はモノビニル芳香族化合物(ただし、構造単位(c)の「炭素数3~20のアルキル基を有するアルキルスチレン」に該当するものを除く。)に由来するものであれば特に限定されないが、下記化学式(2)で表される構造を含むことが好ましい。
【化3】
(式中、Rは炭素数6~30の芳香族炭化水素基、nは1以上の整数を表す。)
【0016】
一般式(2)中、Rは、好ましくは炭素数6~30の一価の芳香族炭化水素基、例えば、フェニル基、ナフチル基、一価のビフェニル基、これらの構造異性体、及びこれらの組み合わせ等が挙げられ、溶解性の観点から、フェニル基が好ましい。nは1以上の整数であり、nの上限は、限定されないが、例えば100以下であってよい。多官能ビニル芳香族共重合体において、構造単位(a)と構造単位(b)とは、交互、ランダム、ブロック若しくはグラフト状、又はこれらの組み合わせで配列していてよい。
【0017】
本開示の多官能ビニル芳香族共重合体は、炭素数3~20のアルキル基を有するアルキルスチレンに由来する構造単位(c)を、全構造単位の合計100mol%に対して1mol%~99mol%含む。炭素数3~20のアルキル基は、直鎖又は分岐鎖アルキル基であってよく、好ましくは直鎖アルキル基である。炭素数は、耐熱性及び強度の向上と取扱容易性との両立の観点から、好ましくは6~10であり、さらに好ましくは6~8である。アルキル基としては、より具体的には、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基及びこれらの構造異性体等が挙げられる。入手容易性の観点から、炭素数8の4-n-オクチルスチレンが特に好ましい。多官能ビニル芳香族共重合体は、これらのアルキルスチレンに由来する構造単位を有することにより、より高い耐熱性及び強度を有する積層板等を提供することができる。
【0018】
アルキルスチレンに由来する構造単位の含有量は、全構造単位の合計100mol%に対して、好ましくは1mol%~99mol%、より好ましくは5mol%~99mol%、さらに好ましくは10mol%~99mol%である。多官能ビニル芳香族共重合体は、アルキルスチレンに由来する構造単位をこれらの含有量の範囲で有することにより、より高い耐熱性及び強度を有する積層板等を提供することができる。
【0019】
ジビニル芳香族化合物に由来する構造単位(a)のビニル基は、架橋成分として作用し、多官能ビニル芳香族共重合体の耐熱性を向上させるのに寄与する。一方、モノビニル芳香族化合物(b)に由来する構造単位は、ビニル基を有さないため架橋成分として作用せず、変性PPEなどの硬化性樹脂との相溶性向上、ワニス溶媒への溶解性向上、プリプレグ及び積層体等の成形性を向上させるのに寄与する。
【0020】
ジビニル芳香族化合物に由来する構造単位(a)において、「m-体」とは、2つのビニル基が互いにm-位(メタ位)であるジビニル芳香族化合物に由来する構造単位を指す。すなわち、一般式(1)ではR基の主鎖への結合とビニル基とが互いにm-位(メタ位)である構造異性体をいい、一般式(1’)ではR基の主鎖への結合とビニル基に由来するエチレン基とが互いにm-位である構造異性体をいう。構造単位(a)のうち、m-体の構造異性体が占める比率(以下、m-体比率と記述する。)は、好ましくは50mol%~100mol%であり、より好ましくは60mol%~100mol%であり、さらに好ましくは65mol%~100mol%であり、特に好ましくは70mol%~100mol%である。ジビニル芳香族化合物に由来する構造単位(a)におけるm-体比率は、重合時にモノマーとして用いるジビニル芳香族化合物に含まれるm-体の比率に起因する。つまり、上記のm-体比率のジビニル芳香族化合物に由来する構造単位(a)を有する多官能ビニル共重合体を合成するために、m-体比率が好ましくは50mol%~100mol%、より好ましくは60mol%~100mol%、さらに好ましくは65mol%~100mol%、特に好ましくは70~100mol%のジビニル芳香族化合物のモノマーを用いる。この範囲のジビニル芳香族化合物のモノマーを用いることにより、重合中に成長末端がジビニル芳香族化合物由来の構造単位(a)のビニル基と反応して架橋構造を形成する副反応が抑制され、架橋構造のないシャープな分子量分布の多官能ビニル共重合体が得られる。得られた多官能ビニル共重合体は架橋構造をほとんど含まないため、プリプレグ製作時にボイドの発生量が著しく低減され、積層体を製作した場合には層間ピール強度が向上する。さらに、多官能ビニル共重合体中のジビニル芳香族化合物に由来する構造単位(a)におけるm-体比率が前述の範囲にあることにより、ジビニル芳香族化物の片方のビニル基が重合中に架橋に使われることなく残存するため、ラジカル重合開始剤の添加量が同じ場合には硬化時の架橋がより進行してガラス転移温度が向上し、さらに三次元架橋がより進行するためハンダ耐熱性が向上する。硬化時までビニル基が残存しているため、ラジカル重合開始剤の添加量を低減することができ、これにより誘電正接を低減することができる。したがって、ジビニル芳香族化合物に由来する構造単位(a)のうち、m-体の構造異性体が占める比率が上記の範囲にあることにより、積層体の外観品質や層間ピール強度、耐熱性、誘電特性が改善される。
【0021】
ジビニル芳香族化合物に由来する構造単位(a)は、一般式(1)で表されるビニル基が1つだけ反応したもの、一般式(1’)で表される2つ反応したものなど複数の構造になり得る。これらのうち、一般式(1)で表されるビニル基が1つだけ反応した繰り返し単位の量は、構造単位(a)、(b)及び(c)の総和に対し、好ましくは、1mol%~95mol%、より好ましくは5mol%~50mol%、更に好ましくは5mol%~40mol%、より更に好ましくは5mol%~35mol%である。この範囲にあることにより、重合中に成長末端がジビニル芳香族化合物由来の構造単位(a)のビニル基と反応して架橋構造を形成する副反応が抑制され、架橋構造の少ないシャープな分子量分布の多官能ビニル共重合体を得ることができる。また、硬化時に架橋に使われず残存するビニル基を低減できるため、誘電正接をより低減できる。
【0022】
モノビニル芳香族化合物に由来する構造単位(b)の量は、構造単位(a)、(b)及び(c)の総和に対し、好ましくは5mol%~99mol%、より好ましくは50mol%~95ol%、更に好ましくは60mol%~95mol%、より更に好ましくは65mol%~95mol%である。この範囲にあることにより、変性PPEなどの硬化性樹脂との相溶性やワニス溶媒への溶解性、プリプレグや積層体の成形性に優れた多官能ビニル芳香族共重合体となる。
【0023】
ジビニル芳香族化合物に由来する構造単位(a)やモノビニル芳香族化合物に由来する構造単位(b)は、それぞれ一種類ずつ、又は複数種類の組み合わせを含んでもよい。ジビニル芳香族化合物の例としては、ビニル基を二つ有する芳香族であれば限定されないが、好ましくは、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル、これらの構造異性体、及びこれらの混合物が使用され、溶解性の観点からジビニルベンゼンがより好ましい。モノビニル芳香族化合物の例としては、ビニル基を一つ有する芳香族であれば限定されないが、例えば、スチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニルなどのビニル芳香族化合物;o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o,p-ジメチルスチレン、o-エチルビニルベンゼン、m-エチルビニルベンゼン、p-エチルビニルベンゼンなどのアルキル置換ビニル芳香族化合物などが挙げられる。好ましくは、多官能ビニル芳香族共重合体のゲル化を防ぎ、溶剤可溶性、加工性の向上効果が高く、コストが低く、入手が容易であることから、スチレン、エチルビニルベンゼン(各位置異性体又はこれらの混合物を含む)である。
【0024】
本開示の効果を損なわない範囲で、多官能ビニル芳香族共重合体は、ジビニル芳香族化合物、モノビニル芳香族化合物の他に、トリビニル芳香族化合物、トリビニル脂肪族化合物、ジビニル脂肪族化合物、モノビニル脂肪族化合物等の他のモノマー成分に由来する構造単位を有してもよい。
【0025】
多官能ビニル芳香族共重合体の数平均分子量(Mn:ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定される標準ポリスチレン換算の数平均分子量)は、好ましくは300~8,000、より好ましくは300~7,000、更に好ましくは300~6,000である。Mnが300以上であることで、分子量が充分に高く硬化物の強度を高められる傾向にあり、Mnが8,000以下であることで、成形加工性を良好にできる傾向にある。また、重量平均分子量(Mw:ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定される標準ポリスチレン換算の重量平均分子量)とMnの比で表される分子量分布の分散度(Mw/Mn)の値は、3.0以下であり、好ましくは2.5以下、より好ましくは1~2.3である。Mw/Mnが2.5を超えると、分子量分布は二峰以上の多峰性を示す傾向があり、高分子量側にブロードな分子量分布となる。これは重合中の架橋と不溶成分の生成を示唆するため、プリプレグのボイドや積層体のピール強度が著しく低下する傾向にある。また、ジビニル芳香族化合物の両方のビニル基が重合に使用されることから、硬化時に使われるべきビニル基の含有量が低下することとなり、硬化後のガラス転移温度が低い傾向がある。これらの好ましい分子量及び分子量分布では、ビニル基が2つとも反応している一般式(1’)のm-体をほとんど含まない傾向があり、その場合、m-体比率の測定において、一般式(1)のm-体の量に比べて一般式(1’)のm-体の量を数値として無視することができる。
【0026】
分子量分布は、単峰性の微分分子量分布を示すことがより好ましい。また、積分分子量分布において、分子量1万以上の重合体が全体の60%以下であることが好ましい。分子量分布が単峰性であること及び分子量1万以上の重合体が上記範囲内であることは、重合時に架橋した高分子量成分をほとんど含まないことを意味し、ワニス溶媒への溶解性が向上し、ボイドが少ないプリプレグ、並びに良好な外観及び高い層間ピール強度を有する積層板等を提供することができる。
【0027】
[多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法]
本開示の可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法は、ジビニル芳香族化合物とモノビニル芳香族化合物等のモノマーを、触媒及び助触媒の存在下に重合して、多官能ビニル芳香族共重合体を製造する方法が挙げられる。より詳細には、モノマーの物質量の総和に対し、ジビニル芳香族化合物を1mol%以上95mol%未満使用し、モノビニル芳香族化合物5mol%以上99mol%未満使用し、-78℃~120℃の温度で重合する方法が好ましい。また、重合に使用する器具は、使用直前に200℃で2時間以上乾燥し乾燥機等から取出した後すぐに窒素雰囲気下で冷却して表面の水分を除去したものを用いることが好ましい。重合溶液の調製の際は、助触媒、モノビニル芳香族化合物、アルキルスチレン、ジビニル芳香族化合物、触媒の順に混合する。
【0028】
触媒としては、一般にカチオン重合やリビングカチオン重合で用いられる開始剤が選択され、重合制御の容易さから好ましくはルイス酸触媒が選択される。ルイス酸触媒は金属イオン(酸)と配位子(塩基)からなる化合物であって、電子対を受け取ることのできるものであれば特に制限なく使用できる。中でも、得られる多官能ビニル芳香族共重合体の耐熱分解性の観点から、金属フッ化物又はその錯体が好ましく、特にB、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Ti、W、Zn、Fe及びV等の2~6価の金属フッ化物又はその錯体が好ましい。これらの触媒は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。得られる多官能ビニル芳香族共重合体の分子量及び分子量分布の制御及び重合活性の観点から、三フッ化ホウ素のエーテル錯体が最も好ましく使用される。ここで、エーテル錯体のエーテルとしては、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、ジブチルエーテル等がある。入手容易かつ安価であることから三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体が特に好ましい。
【0029】
触媒は、モノマーの物質量の総和に対し、モル比0.0001~10の範囲内で使用することがよく、より好ましくはモル比0.001~1、更に好ましくはモル比0.001~0.1である。モル比が10以下であれば、重合速度が大きくなりすぎず、分子量分布などの重合制御が容易となる。また、0.0001以上では、十分な重合速度を確保して重合にかかる時間を低減し、コスト削減に繋がり、工業的実施に好ましい。
【0030】
本開示の多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法では、助触媒として種々の試薬を添加することができる。例えば、添加塩基として、1種以上のルイス塩基化合物が使用される。ルイス塩基化合物としては、モノエステル系化合物、ジエステル系化合物、チオエステル系化合物、チオエーテル系化合物、ケトン系化合物、エーテル系化合物、ホスフィン系化合物が挙げられる。ルイス塩基化合物は重合に用いられる開始剤(触媒)によって適切なものが選択されるが、例えば触媒に三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を用いる場合には、モノエステル系化合物やジエステル化合物が好ましく使用される。具体例としては、酢酸ブチルなどの酢酸エステルや、アジピン酸ジメチルやマロン酸ジエチルなどのジエステルである。ルイス塩基化合物は、1種又は2種以上を併用して使用することができる。
【0031】
ルイス塩基化合物は、重合反応時に、対アニオンであるルイス酸触媒に配位することによって、活性種であるカルボカチオンと対アニオンの相互作用を制御することによって、連鎖移動剤としても作用するモノマーとの間の相対的な反応頻度を調節する。一般的にはルイス塩基化合物を添加することによって、活性種であるカルボカチオン末端とルイス塩基化合物が相互作用するため、カルボカチオン末端が他の分子鎖に作用するなどの副反応が抑制され、分子量分布の制御が可能となる。
【0032】
ルイス塩基化合物は、触媒の物質量に対し、好ましくは0.1~100、より好ましくは1~100、特に好ましくは5~50のモル比で添加する。上記範囲内であれば、重合速度が適切に保持されると同時に、上記の副反応が抑制され単峰性の分子量分布の多官能ビニル芳香族共重合体を得ることができる。
【0033】
重合には所望により、溶媒を添加することができる。溶媒としては、重合を阻害しない化合物であり、かつ、触媒、助触媒、モノマー成分を溶解して、均一溶液を形成するもので、具体的には、重合活性や溶解性のバランスの観点から、トルエン、キシレン、nーヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン又はエチルシクロヘキサン、アセトニトリルが特に好ましい。また、溶媒の使用量は、得られる重合溶液の粘度や除熱の容易さを考慮して、重合溶液中のモノマー成分が1vol%~90vol%、好ましくは1vol%~80vol%、特に好ましくは1vol%~60vol%となるように決定することが好ましい。この濃度が1vol%以上であれば、十分な重合効率を確保し、コスト削減に繋がり、90vol%以下であれば、生成する多官能ビニル芳香族共重合体の分子量及び分子量分布を低減し、プリプレグのボイド抑制、積層体の層間ピール強度及び成形加工性の向上に繋がる。
【0034】
多官能ビニル芳香族共重合体を製造する際、重合溶液を-78℃~120℃の温度で重合させることが必要である。重合温度は使用する触媒や溶媒によって選択されるが、工業的な実現可能性から、好ましくは-20℃~120℃、より好ましくは30℃~120℃、特に好ましくは40℃~120℃である。重合温度が120℃以下であれば、反応の選択性が向上するためよりシャープな分子量分布が得られ、ゲルの発生を抑制することができる。-78℃以上であれば、十分な触媒活性を確保し、重合効率を向上させることができる。
【0035】
重合反応停止後、多官能ビニル芳香族共重合体を回収する方法は特に限定されず、例えば、加熱濃縮法、スチームストリッピング法、貧溶媒での析出などの通常用いられる方法を用いればよい。触媒や助触媒、溶媒など、重合や回収に使用した化合物を共重合体から除去し、残存量を低減させる観点からは、貧溶媒での析出を複数回繰り返す方法が好ましい。
【0036】
[硬化性樹脂組成物]
本開示の硬化性樹脂組成物は、多官能ビニル芳香族共重合体を含有し、かつ、硬化性反応型化合物、硬化性反応型樹脂、熱可塑性樹脂、及びラジカル重合開始剤からなる群から選択される少なくとも一つを含有する。所望により、ラジカル重合開始剤などの開始剤、難燃剤、シリカフィラー、及び、溶剤等を更に含むことができる。以下、硬化性樹脂組成物を構成可能な要素について説明する。
【0037】
本開示において、「硬化性反応型化合物」とは、硬化性樹脂組成物を硬化させる際に架橋剤として機能する低分子量の化合物を意味し、具体的には分子量300未満の化合物を指す。硬化性反応型化合物としては、トリアルケニルイソシアヌレート及び/又はトリアルケニルシアヌレート(以下、「トリアルケニルイソシアヌレート/シアヌレート」と略記する。)が、室温で液状のため取扱容易性の観点から好ましい。トリアルケニルイソシアヌレート化合物としては、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等、トリアルケニルシアヌレート化合物としては、トリアリルシアヌレート(TAC)等が、多官能ビニル芳香族共重合体と硬化性反応樹脂、熱可塑性樹脂いずれかの相溶性をさらに向上させ、積層体の耐熱性や層間ピール強度をさらに向上させるため、より好ましい。
【0038】
硬化性樹脂組成物におけるトリアルケニルイソシアヌレート/シアヌレートの配合量は、溶媒以外の成分の総重量に対して、好ましくは2質量%~20質量%である。トリアルケニルイソシアヌレート/シアヌレートの配合量は、他の成分との相溶性の観点、又は樹脂組成物の成形体、樹脂組成物を含むプリプレグ、複数のプリプレグの積層板、プリプレグと基板の積層体などの誘電正接の低減、耐熱性の向上、及び良好な外観の観点から、より好ましくは2質量%~15質量%、更に好ましくは3質量%~10質量%である。
【0039】
硬化性反応型化合物には、トリアルケニルイソシアヌレート/シアヌレート以外にも、特性を損なわない範囲で一般的な架橋剤を添加してもよく、例えば、分子中にメタクリル基を2個以上有する多官能メタクリレート化合物、分子中にアクリル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物、ポリブタジエン等の分子中にビニル基を2個以上有する多官能ビニル化合物、分子中にビニルベンジル基を有するジビニルベンゼン(ただし、上記(b)成分における共重合可能なモノマーとしての添加を除く)等のビニルベンジル化合物、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタン等の分子中にマレイミド基を2個以上有する多官能マレイミド化合物等が挙げられる。
【0040】
本開示において、「硬化性反応型樹脂」とは、硬化性樹脂組成物を硬化させる際に架橋剤として機能しうる、多官能ビニル芳香族共重合体以外の高分子材料を意味し、具体的には分子量300以上の高分子材料を指す。硬化性反応型樹脂としては、ポリフェニレンエーテル(以下「PPE」と略記する)が、低誘電特性と耐熱性の観点から好ましい。PPEは、フェニレンエーテル単位を繰り返し構造単位として含む。フェニレンエーテル単位中のフェニレン基は、置換基を有してもよく、有していなくてもよい。本明細書において、硬化性反応型樹脂としてのPPEは、ダイマー、トリマー、オリゴマー、及びポリマーを含む。硬化性反応型樹脂は、硬化性樹脂組成物の主材として配合してもよく、これによって、強度に優れる硬化物を得ることができる。「主材として配合」とは、硬化性樹脂組成物に含まれる成分の中で最も多い質量%を占めることを意味する。
【0041】
PPEは、フェニレンエーテル単位以外のその他の構成単位も含んでもよい。その他の構造単位の量は、全単位構造の数に対して、典型的には、30mol%以下、25mol%以下、20mol%以下、15mol%以下、10mol%以下又は5mol%以下である。ただし、本開示の作用効果を阻害しない範囲内であれば、その他の構造単位の量は、全単位構造の数に対して、30mol%を超えてもよい。
【0042】
PPEの具体例としては、例えば、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-フェニル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレンエーテル)、2,6-ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6-トリメチルフェノール、2-メチル-6-ブチルフェノール等)との共重合体、及び、2,6-ジメチルフェノールとビフェノール類又はビスフェノール類とをカップリングさせて得られるPPE共重合体、及び、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)等をビスフェノール類又はトリスフェノール類のようなフェノール化合物とラジカル重合開始剤の存在下でトルエン溶媒中で加熱し、再分配反応させて得られる、直鎖構造又は分岐構造を有するPPE等が挙げられる。さらに、これらPPEの末端水酸基が、炭素-炭素二重結合を含有する官能基で置換されたPPEも挙げられる。炭素-炭素二重結合を有する官能基の具体例としては、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、1-ペンテニル基、p-ビニルフェニル基、p-イソプロペニルフェニル基、m-ビニルフェニル基、m-イソプロペニルフェニル基、o-ビニルフェニル基、o-イソプロペニルフェニル基、p-ビニルベンジル基、p-イソプロペニルベンジル基、m-ビニルベンジル基、m-イソプロペニルベンジル基、o-ビニルベンジル基、o-イソプロペニルベンジル基、p-ビニルフェニルエテニル基、p-ビニルフェニルプロペニル基、p-ビニルフェニルブテニル基、m-ビニルフェニルエテニル基、m-ビニルフェニルプロペニル基、m-ビニルフェニルブテニル基、o-ビニルフェニルエテニル基、o-ビニルフェニルプロペニル基、o-ビニルフェニルブテニル基、メタクリル基、アクリル基、2-エチルアクリル基、2-ヒドロキシメチルアクリル基等が挙げられる。
【0043】
PPEの数平均分子量は、1,000~5,000であることが好ましい。樹脂組成物が、このような低分子量のPPEを含むことで、樹脂組成物ワニスの粘度増大を抑制できるので、樹脂組成物ワニスの基材への塗工性の向上を図ることができる。当該塗工性の向上を図ることにより、樹脂組成物又はその硬化物に要求される、各種特性の向上も図ることができる。低分子量PPEの数平均分子量は、好ましくは、1,000~4,000、又は1,500~3,000である。
【0044】
なお、硬化性反応型樹脂に含まれるPPEは、1種でもよいし、数平均分子量が1,000~5,000である2種以上のPPEの組合せでもよい。
【0045】
硬化性樹脂組成物におけるPPEの配合量は、溶媒以外の成分の総重量に対して50質量%~90質量%である。PPEの配合量は、他の成分との相溶性の観点、又は硬化性樹脂組成物の硬化物、プリプレグ、複数のプリプレグの積層板、プリプレグと基板の積層体などの誘電正接の低減、耐熱性の向上、及び良好な外観の観点から、50質量%~80質量%であることが好ましく、50質量%~70質量%であることがより好ましい。
【0046】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)オクタン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(トリメチルシリル)パーオキサイド、トリメチルシリルトリフェニルシリルパーオキサイド等の過酸化物が挙げられる。なお、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン等のラジカル発生剤も樹脂組成物のための反応開始剤として使用することができる。中でも、耐熱性、及び機械特性に優れ、更に低い誘電率、及び低い誘電正接を有する硬化物を提供することができるという観点から、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。
【0047】
ラジカル重合開始剤の1分間半減期温度は、好ましくは、155℃~185℃、又は160℃~180℃、又は165℃~175℃である。本明細書では、1分間半減期温度は、ラジカル重合開始剤が分解して、その活性酸素量が半分になる時間が1分間となる温度である。1分間半減期温度は、ラジカルに対して不活性な溶剤、例えばベンゼン等にラジカル重合開始剤を0.05mol/L~0.1mol/Lの濃度となるように溶解させ、ラジカル重合開始剤溶液を窒素雰囲気下で熱分解させる方法で確認される値である。
【0048】
ラジカル重合開始剤の1分間半減期温度が155℃以上であることにより、樹脂組成物を加熱加圧成型に供する際、PPEを十分に溶融させてから架橋剤との反応を開始できるので、成型性に優れる傾向にある。一方、ラジカル重合開始剤の1分間半減期温度が185℃以下であることにより、通常の加熱加圧成型条件(例えば最高到達温度200℃)でのラジカル重合開始剤の分解速度が十分であるため、架橋剤との架橋反応を効率的かつ緩やかに進めることができるので、良好な電気特性(特に誘電正接)を有する硬化物を形成可能である。
【0049】
1分間半減期温度が155℃~185℃の範囲内にあるラジカル重合開始剤としては、例えば、t-へキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート(155.0℃)(括弧内は1分間半減期温度、以下同じ。)、t-ブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート(166.0℃)、t-ブチルペルオキシラウレート(159.4℃)、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート(158.8℃)、t-ブチルペルオキシ2-エチルへキシルモノカーボネート(161.4℃)、t-へキシルパーオキシベンゾエート(160.3℃)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン(158.2℃)、t-ブチルペルオキシアセテート(159.9℃)、2,2-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ブタン(159.9℃)、t-ブチルパーオキシベンゾエート(166.8℃)、n-ブチル4,4-ジ-(t-ブチルペルオキシ)バレラート(172.5℃)、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(175.4℃)、ジクミルパーオキサイド(175.2℃)、ジ-t-へキシルパーオキサイド(176.7℃)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(179.8℃)、及びt-ブチルクミルパーオキサイド(173.3℃)等が挙げられる。
【0050】
ラジカル重合開始剤の含有量は、硬化性樹脂組成物の合計質量100質量%を基準として、反応率を高くすることができるという観点から、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、得られる硬化物の誘電率、及び誘電正接を低く抑えることができるという観点から、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
【0051】
硬化性樹脂組成物には、難燃剤を含むことが好ましい。難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛等の無機難燃剤;ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニルエタン、4,4-ジブロモビフェニル、エチレンビステトラブロモフタルイミド等の芳香族臭素化合物;レゾルシノールビス-ジフェニルホスフェート、レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート等のリン系難燃剤等が挙げられる。これらの難燃剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中でも、難燃剤は、硬化性樹脂組成物が硬化した際に低誘電率及び低誘電正接となる観点から、デカブロモジフェニルエタンであることが好ましい。
【0052】
難燃剤の含有量は、特に限定されないが、UL規格94V-0レベルの難燃性を維持するという観点から、硬化性樹脂組成物の合計100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上である。また、得られる硬化物の誘電率、及び誘電正接を低く維持できる観点から、難燃剤の含有量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは45質量部以下、更に好ましくは40質量部以下である。
【0053】
硬化性樹脂組成物は、充填剤を含有してもよい。充填剤としては、シリカフィラーを含有してよい。シリカフィラーとしては、天然シリカ、合成シリカのいずれも使用でき、例えば、溶融シリカ、アモルファスシリカ、アエロジル、及び中空シリカが挙げられる。シリカフィラーの含有量は、PPE、及び架橋剤として使用可能な全成分の合計100質量部に対して、10~100質量部であることができる。また、シリカフィラーは、その表面にシランカップリング剤等を用いて表面処理をされたものであってもよい。
【0054】
硬化性樹脂組成物は、上記の成分以外に、熱安定剤、酸化防止剤、UV吸収剤、界面活性剤、滑剤等の添加剤を更に含んでもよい。
【0055】
[樹脂組成物ワニス]
本開示の樹脂組成物ワニスは、有機溶剤と、当該有機溶剤中に溶解した本開示の硬化性樹脂組成物とを含有する。樹脂組成物ワニスは、ガラスクロスに含侵させる際に好適な流動性を有することができる。プリプレグの製造工程においては、ガラスクロスに樹脂組成物ワニスを含浸させた後、熱風乾燥機等で溶剤分を乾燥除去することが好ましい。樹脂組成物ワニス中の固形成分は、ワニス中に溶解又は分散していてよい。溶剤の量は、樹脂組成物ワニスの流動性が好適な範囲となるように適宜調整すればよいが、例えば、樹脂組成物ワニス中の溶剤の量は、20質量%~80質量%、又は30質量%~70質量%、又は40質量%~60質量%であってよい。
【0056】
溶剤としては、樹脂組成物中の成分の溶解性の観点から、トルエン、キシレン等の芳香族系化合物、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、及びクロロホルムが好ましい。これらの溶剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0057】
室温程度でも樹脂組成物ワニスの好適な流動性を確保し易くする観点からも、溶剤としては、トルエン等の芳香族系化合物が好ましく、例えば、トルエン・メチルエチルケトン混合溶剤、トルエン・シクロヘキサノン混合溶剤、及びトルエン・シクロペンタノン混合溶剤等が好ましい。また、本開示の樹脂組成物であれば、トルエン単独の溶剤であってもかかる溶剤に好適に溶解し、ひいては、基板への含浸性に優れるため、溶剤としてはトルエン単独の溶剤も好ましい。
【0058】
[未硬化物]
(硬化性複合材料)
本開示の硬化性複合材料(「プリプレグ」ともいう。)は、硬化性樹脂組成物と基材を含み、基材は硬化性複合材料の全質量を基準として1質量%~99質量%を構成する。基材としては、Eガラス繊維、Lガラス繊維、及びSガラス繊維等から形成されるガラスクロス、並びにアラミド樹脂繊維等から形成される有機繊維クロス等が挙げられる。硬化性複合材料を製造する方法としては、例えば、上述した本開示の樹脂組成物ワニスに基材を含浸させ、溶媒を乾燥除去する方法が挙げられる。
【0059】
(金属張積層板)
本開示の金属張積層板は、本開示の硬化性複合材料の層(未硬化)と金属箔層とを有する。本開示の硬化性複合材料の層と金属箔層とを積層させることにより、本開示の金属張積層板を製造することができる。金属箔と組合せる硬化性複合材料は、1枚でも複数枚でもよく、用途に応じて硬化性複合材料の片面又は両面に金属箔を重ねて金属張積層板に加工することができる。
【0060】
[硬化物]
本開示によれば、本開示の硬化性樹脂組成物を硬化させた硬化物もまた提供される。本開示の硬化物は、誘電特性及び耐熱性に優れ、かつ、ボイドが少なく、良好な外観を有する。
【0061】
(硬化複合材料)
硬化物としては、上述した本開示の硬化性複合材料(プリプレグ)を硬化させた硬化複合材料が挙げられる。硬化は、樹脂組成物の硬化温度で所定時間加熱することにより行うことができる。
【0062】
(積層体)
硬化性複合材料(プリプレグ)は、複数枚積層して、これを硬化させることにより、積層板(積層体)を提供することができる。より具体的には、硬化性複合材料(プリプレグ)を複数枚積層して、これを硬化させることにより、本開示の硬化複合材料の層を複数枚有する積層体を提供することができる。
【0063】
(硬化金属張積層板)
硬化性複合材料(プリプレグ)は、所望により他の層と積層してこれを硬化させてもよい。より具体的には、本開示の硬化性複合材料の層と金属箔層とを積層させた金属張積層板を硬化させることにより、本開示の硬化複合材料の層と金属箔層とを有する、硬化金属張積層板を提供することができる。硬化金属張積層板の誘電正接は、実施例に記載の方法により10GHzで測定されるときに、0.0033未満であることが好ましく、0.0031以下であることがより好ましい。硬化金属張積層板は、硬化性複合材料(プリプレグ)の硬化物(硬化複合材料)の層と金属箔層とが積層して密着している形態を有することが好ましく、電子回路基板用材料として好適に用いられる。金属箔としては、例えば、アルミニウム箔、及び銅箔が挙げられ、これらの中でも銅箔は電気抵抗が低いため好ましい。硬化金属張積層板の特に好ましい用途の1つは、プリント配線板である。プリント配線板は、硬化金属張積層板から金属箔の少なくとも一部が除去されていることが好ましい。
【0064】
(プリント配線板)
プリント配線板は、金属張積層板から金属箔の一部が除去されたものである。プリント配線板は、典型的には、上述した本開示の硬化性複合材料(プリプレグ)を用いて、加圧加熱成型する方法で形成できる。プリント配線板は、本開示の硬化性複合材料(プリプレグ)から製造されることにより、優れた耐熱性、及び電気特性(低誘電率、及び低誘電正接)を有し、更には環境変動に伴う電気特性の変動を抑制可能であり、更には優れた絶縁信頼性、及び機械特性を有する。
【0065】
(樹脂付き金属箔)
硬化物の他の例としては、樹脂付き金属箔である。樹脂付き金属箔は、金属箔と、金属箔の少なくとも片面、又は両面に、本開示の硬化性樹脂組成物を硬化させた膜とを有する。金属箔としては、例えば、アルミニウム箔、及び銅箔が挙げられ、これらの中でも銅箔は電気抵抗が低いため好ましい。硬化前の膜と金属箔とを合わせて真空プレスして作成することができる。
【実施例0066】
以下に本開示の実施例を挙げる。ただし、本開示は実施例に限定されるものではない。
【0067】
[多官能ビニル芳香族共重合体の合成]
(実施例1)
酢酸n-プロピル8.3モル(東京化成工業(株)製、850g)、スチレン7.2モル(東京化成工業(株)製、750g)、4-n-オクチルスチレン0.9モル(東京化成工業(株)製、195g)、構造異性体のm-体比率が60mol%であるジビニルベンゼン0.9モル(111g)を3Lのフラスコ内に投入した。70℃で0.3モルの三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体(東京化成工業(株)製)を添加し、3時間反応させた。重合溶液の調製の際は、助触媒(酢酸n-プロピル)、モノビニル芳香族化合物、アルキルスチレン、ジビニル芳香族化合物、触媒(三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体)の順に混合した。重合溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液で停止させた後、純水で5回油層を洗浄し、メタノール(関東化学(株)製)と酢酸プロピルで再沈殿処理を二回した後、減圧ろ過で固体を回収し、一晩ドラフト内で風乾し、減圧乾燥機で80℃、3時間真空乾燥した。得られた固体を秤量し、317gの共重合体が得られたことを確認した。
【0068】
得られた共重合体をGPC分析したところ、Mn3,800、Mw8400、Mw/Mnは2.2であった。反応溶液のGC分析により、共重合体の構成単位は以下のように算出された。
ジビニル芳香族化合物由来の構造単位(a) :19モル%
モノビニル芳香族化合物由来の構造単位(b):72モル%
アルキルスチレン由来の構造単位(c):9モル%
【0069】
(実施例2~6)
スチレン、4-n-オクチルスチレン、ジビニルベンゼンのモノマー比が異なる以外は、実施例1と同様に共重合体を合成した。
【0070】
(実施例7~13)
コモノマーに用いる4-n-アルキルスチレンの種類が異なる以外は、実施例1と同様に共重合体を合成した。なお、4-n-アルキルスチレンは自社合成品を用いた。
【0071】
(実施例14)
コモノマーに用いるアルキルスチレンがt-ブチルスチレン(東京化成工業(株)製)であること以外は、実施例1と同様に共重合体を合成した。
【0072】
実施例の合成結果と下記評価手法の評価結果を表1及び表2に示す。
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
(比較例1)
構造異性体のm-体比率が60mol%であるジビニルベンゼン0.9モル(111g)、スチレン7.7モル(東京化成工業(株)製、797g)、酢酸n-プロピル7.8モル(東京化成工業(株)製、799g)を3Lのフラスコ内に投入し、70℃で0.3モルの三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体(東京化成工業(株)製)を添加し、3時間反応させた。重合溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液で停止させた後、純水で5回油層を洗浄し、メタノール(関東化学(株)製)と酢酸プロピルで再沈殿処理を二回した後、減圧ろ過で固体を回収し、一晩ドラフト内で風乾し、減圧乾燥機で80℃、3時間真空乾燥した。得られた固体を秤量し、223gの共重合体が得られたことを確認した。
【0075】
得られた共重合体をGPC分析したところ、Mn3,800、Mw8200、Mw/Mnは2.2であった。反応溶液のGC分析により、共重合体の構成単位は以下のように算出された。
ジビニル芳香族化合物由来の構造単位(a) :25モル%
モノビニル芳香族化合物由来の構造単位(b):75モル%
【0076】
(比較例2)
4-n-オクチルスチレンの代わりに4-メチルスチレン(東京化成工業(株)製)を用いる以外は、実施例1と同様に共重合体を合成した。
【0077】
(比較例3)
4-n-オクチルスチレンの代わりに4-エチルスチレン(自社合成品)を用いる以外は、実施例1と同様に共重合体を合成した。
【0078】
比較例の合成結果と下記評価手法の評価結果を表3に示す。
【表3】
【0079】
[硬化性樹脂組成物の製造]
次の材料を混合して硬化性樹脂組成物を製造した。
【0080】
(硬化性反応型化合物)
・TAIC(三菱ケミカル社製、分子量:249.7、分子当たり不飽和二重結合数:3個)
【0081】
(硬化性反応型樹脂)
・末端メタクリル基変性PPE(製品名「SA9000」、Sabicイノベーティブプラスチックス社製、Mn:2756、分子当たり末端官能基数:2個)
【0082】
(ラジカル重合開始剤)
・ビス(1-tert-ブチルペルオキシ-1-メチルエチル)ベンゼン(製品名「パーブチルP」、日油社製)
【0083】
(その他)
・スチレンブタジエン共重合体(製品名「Ricon100」、CRAY VALLEY社製)
【0084】
[樹脂組成物ワニスの調製]
硬化性反応型樹脂、多官能ビニル芳香族共重合体、及び硬化性反応型化合物を50:40:10の重量比で計量し、この固形分に対して1質量%のラジカル重合開始剤を計量して容器に入れた。トルエン/メチルエチルケトン混合溶剤を50:50の比率で固形分50質量%になるよう添加し、5時間以上撹拌して、樹脂組成物ワニスを調製した。
【0085】
[プリプレグの作製]
低誘電率ガラスクロスL2116(重量94g/m、厚さ91μm)を、約100N/mの一定張力で樹脂組成物ワニスに含浸させ、スリットで掻き落とし、120℃で3分間乾燥して、プリプレグを作製した。
【0086】
[積層体の作成]
プリプレグを8枚重ね、室温から昇温速度3℃/分で加熱しながら圧力5kg/cmの条件で真空プレスを行った。130℃まで達したら昇温速度3℃/分で加熱しながら圧力40kg/cmの条件で真空プレスを行った。そして、200℃まで達したら温度を200℃に維持したまま圧力40kg/cm、かつ60分間の条件で真空プレスを行うことによって、積層体を作製した。
【0087】
[評価方法]
(多官能ビニル芳香族共重合体のジビニル芳香族化合物由来の構造単位におけるm-体比率の解析方法)
日本電子製核磁気共鳴分光装置(機種名:JNM-ECZ500R/S1型)を用い、13C-NMR分析により測定した。溶媒としてクロロホルム-d1を使用し、テトラメチルシランの共鳴線を内部標準として使用した。113ppm、135ppm、137ppmのピークの面積値に対する125ppmのピークの面積値の比率をジビニル芳香族化合物由来の構造単位におけるm-体の比率とした。
【0088】
(多官能ビニル芳香族共重合体の各構造単位の比率の解析方法)
ガスクロマトグラフ装置(Agilent社製6890N)を用いて反応溶液を重合前後で分析し、各モノマーの消費率から各モノマー反応率を求めた。各モノマー反応率及び反応溶液における各モノマーの仕込み比に基づいて、多官能ビニル芳香族共重合体の各構造単位の比率を算出した。
【0089】
(分子量分布の測定方法)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用い、分子量既知の標準ポリスチレンの溶出時間との比較により、スチレン系エラストマーの数平均分子量(Mn)を求めた。具体的には、試料濃度1.0質量%(溶媒:クロロホルム)の測定試料を調製後、測定装置にはHLC-8320GPC(東ソー株式会社製)を用い、次の条件にて測定した。
カラム:Shodex(登録商標)製K-806Lを3本を直列に接続
溶離液:クロロホルム
注入量:100μL
流量 :1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出器:RI
【0090】
(積層体の衝撃強度の測定方法)
JIS K7077(1991年)に従い、積層体を幅10mm、長さ80mmに切削して試験片を作製し、秤量300kg・cmでフラットワイズ衝撃、すなわち積層体の面に垂直な方向から衝撃を与えてシャルピー衝撃試験を行い、シャルピー衝撃値を求めた。なお、試験片にはノッチ(切り欠き)は導入していない。得られたシャルピー衝撃値を次の評価基準に従って評価した。
A:70kJ/m以上
B:60kJ/m以上70kJ/m未満
C:60kJ/m未満
【0091】
(層間ピール強度の測定方法)
プリプレグを2枚重ね、その上下に銅箔(厚み12μm、表面粗さRz2.0μm、FV-WS箔、古川電気工業株式会社製)を重ね合わせたものを、室温から昇温速度3℃/分で加熱しながら圧力5kg/cmの条件で真空プレスを行った。130℃まで達したら昇温速度3℃/分で加熱しながら圧力30kg/cmの条件で真空プレスを行った。そして、200℃まで達したら温度を200℃に保ったまま圧力 30kg/cmの条件で60分間真空プレスを行うことによって、両面銅張積層板を作製し、測定試料とした。測定試料を、幅15mm×長さ150mmのサイズに切り出した。オートグラフ(AG-5000D、株式会社島津製作所製)を用い、銅箔を積層板面に対し90℃の角度で50mm/分の速度で引き剥がした際の荷重の平均値を測定し、5回の測定の平均値を求めた。
【0092】
(積層板のカスレ有無の判定方法)
50mm×80mmの積層板において、ガラスクロス糸束への樹脂未含浸部を示す積層板の外観のカスレの有無を目視により評価した。具体的には、積層板に対して30°の確度からペンライトを照らし、45°の確度からカスレの有無を確認した。
【0093】
(誘電正接の測定方法)
積層板の10GHzでの誘電正接を空洞共振法にて測定した。測定装置としてネットワークアナライザー(N5230A、AgilentTechnologies社製)、及び関東電子応用開発社製の空洞共振器(Cavity Resornator CPシリーズ)を用いて測定した。
【0094】
(ガラス転移点の測定方法)
ガラス転移温度(Tg)測定に使用する試験片は、積層体を幅:3.0mm、長さ25mmに切断して作成した。得られた試験片をTMA(熱機械分析装置)にセットし、窒素気流下、昇温速度10℃/分で220℃まで昇温し、更に220℃で20分間加熱処理することにより残存する成形歪を除去した。試験片を室温まで放冷した後、TMA測定装置のチャックに固定し、窒素気流下、昇温速度10℃/分で30℃から320℃までスキャン測定を行い、接線法でTgを求めた。
【0095】
(ハンダ耐熱の測定方法)
積層体を、50mm×50mmにカットし、121℃飽和蒸気圧のプレッシャークッカーに10時間入れ、た。積層体を取り出し、表面の水分を拭き取った後、288℃のハンダ浴に20秒間浸漬し、た。浸漬後の積層板の膨れ度を次の評価基準に従って評価した。
A:直径3mm以上の膨れが全く発生せず
B:直径3mm以上の膨れが1個~3個発生、かつ直径5mm以上の膨れが発生せず
C:直径3mm以上の膨れが4個以上発生、または直径5mm以上の膨れが1個以上発生