(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145042
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20231003BHJP
G03G 13/20 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
G03G15/20 515
G03G13/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052308
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174104
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 康一
(72)【発明者】
【氏名】菅野 義博
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA02
2H033AA03
2H033AA06
2H033AA10
2H033AA11
2H033AA45
2H033BA26
2H033BA31
2H033BA32
2H033BB03
2H033BB05
2H033BB06
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB15
2H033BB18
2H033BB21
2H033BB29
2H033BB30
2H033BB33
2H033BB34
2H033BE00
2H033CA02
2H033CA09
2H033CA27
2H033CA43
(57)【要約】
【課題】表面に微細な凹凸が形成された媒体に定着させる画像の品質を向上させる。
【解決手段】画像形成装置1は、コート紙の媒体Mに画像を印刷する場合、定着部40の加熱ベルト72を、微小硬度計を用いて測定される0.2s後硬度比率の値が少なくとも0.738以上0.837以下の範囲R1に収まるようにした。このため画像形成装置1は、媒体Mが定着部40のニップ領域Nを通過する約0.2[s]の間に、該媒体Mの窪みDに合わせて加熱ベルト72の形状を確実に変形させることができる。これにより画像形成装置1は、媒体Mに対し平坦な部分及び窪みDの何れにおいてもトナーを十分に定着させることができ、該媒体Mに印刷された画像において光沢ムラの発生を抑え、一様な光沢性を持たせることができる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面を有し、所定の速度で走行する環状ベルトと、
前記環状ベルトの前記外周面に対向し、前記環状ベルトとの間でニップ領域を形成する対向部材と
を具え、
前記環状ベルトは、硬度計を用いた前記外周面の硬度計測において、前記硬度計測の開始後、前記外周面の所定位置が前記ニップ領域を通過するのに要する時間に相当する計測時間を経過した時点の計測値を第1の硬度値(A)とし、前記硬度計の計測値が飽和した時点の計測値を第2の硬度値(B)としたとき、前記第2の硬度値(B)に対する前記第1の硬度値(A)の比率(A/B)が0.738以上0.837以下である
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記硬度計は、計測端子に所定の荷重を印加し、当該計測端子を計測対象である前記外周面に対し所定の押込速度で押し込み、当該計測端子の変位量を基に前記第1の硬度値及び前記第2の硬度値を得る
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記環状ベルトは、前記比率(A/B)が0.793以上0.837以下である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記環状ベルトは、
基体と、
前記基体の外側に位置し前記外周面を形成する表層と
前記基体と前記表層との間に設けられた弾性層と
を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の定着装置。
【請求項5】
前記基体の厚みは、70~90[μm]であり、
前記弾性層の厚みは、150~300[μm]であり、
前記表層の厚みは、13~30[μm]である
ことを特徴とする請求項4に記載の定着装置。
【請求項6】
前記弾性層の硬度は、12~20[°]である
ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の定着装置。
【請求項7】
前記対向部材は、回転可能に支持された中心軸の周側面に弾性を有する層が形成されたローラである
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れかに記載の定着装置。
【請求項8】
外周面を有し、所定の速度で走行する環状ベルトと、
前記環状ベルトの前記外周面に対向し、前記環状ベルトとの間でニップ領域を形成する対向部材と
を具え、
前記環状ベルトは、
基体と、
前記基体の表面に形成され、厚さが250~300[μm]の弾性層と、
前記弾性層の表面に形成され、厚さが15.0~29.6[μm]の表層と
を有し、
前記環状ベルトは、硬度計を用いた前記外周面の硬度計測において、前記硬度計測の開始後、前記外周面の所定位置が前記ニップ領域を通過するのに要する時間に相当する計測時間を経過した時点の計測値が56.4[°]以上65.5[°]以下である
ことを特徴とする定着装置。
【請求項9】
前記弾性層の硬度は、12~20[°]である
ことを特徴とする請求項8に記載の定着装置。
【請求項10】
前記環状ベルトの内周側であって、前記対向部材と対向する位置に配設された加熱部材
を具えることを特徴とする請求項1乃至請求項9の何れかに記載の定着装置。
【請求項11】
現像剤を用いた現像剤像を媒体の表面に付着させる現像部と、
請求項1乃至請求項10の何れかに記載され、前記現像剤像を前記媒体に定着させる定着装置と
を具えた画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は定着装置及び画像形成装置に関し、例えば電子写真式のプリンタに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、画像形成装置として、例えば現像装置によりトナー(現像剤とも呼ぶ)を用いたトナー像(現像剤像とも呼ぶ)を形成して用紙(媒体とも呼ぶ)に転写し、定着装置によってこの用紙に熱や圧力を加えて定着させることにより、画像を印刷するものがある。このうち定着装置は、例えば用紙の搬送経路の上下にローラや環状のベルト等をそれぞれ配置し、両者の間に形成されるニップ部において用紙を挟持し、当該用紙に熱及び圧力を加えるようになっている。
【0003】
また画像形成装置では、いわゆるエンボス紙のような、予め紙面に比較的大きい凹凸が形成された用紙に画像を印刷する場合がある。しかし、このような用紙は、特に凹んだ部分においてトナーの定着性が低くなってしまう。そこで、定着ベルトにおける押し込み深さを規定することにより、定着性の改善を図ったものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-148760号公報(
図4等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで画像形成装置では、いわゆる光沢紙のような、表面の平滑性が高められた用紙に画像を印刷する場合がある。この光沢紙は、例えば基材となる紙の表面に樹脂層が重畳された構成となっているため、印刷された画像に高い光沢性を持たせることが可能となる。
【0006】
しかし、実際の光沢紙では、基材となる紙の表面に微細な凹凸が形成されているため、これに起因して樹脂層の表面にも微細な凹凸が表れる場合がある。そうすると画像形成装置は、上述したように押し込み深さが規定された範囲の定着ベルトを使用したとしても、当該凹凸を有する部分において、当該光沢紙にトナーを適切に定着させ得ない可能性がある。この結果、画像形成装置では、印刷された画像において局所的に光沢を有しない状態、すなわち光沢ムラが発生した状態となり、画像の品質が低下する恐れがある、という問題があった。
【0007】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、表面に微細な凹凸が形成された媒体に定着させる画像の品質を向上させる定着装置及び画像形成装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため本発明の定着装置においては、外周面を有し、所定の速度で走行する環状ベルトと、環状ベルトの外周面に対向し、環状ベルトとの間でニップ領域を形成する対向部材とを設け、環状ベルトは、硬度計を用いた外周面の硬度計測において、硬度計測の開始後、外周面の所定位置がニップ領域を通過するのに要する時間に相当する計測時間を経過した時点の計測値を第1の硬度値(A)とし、硬度計の計測値が飽和した時点の計測値を第2の硬度値(B)としたとき、第2の硬度値(B)に対する第1の硬度値(A)の比率(A/B)が0.738以上0.837以下であるようにした。
【0009】
また本発明の定着装置においては、外周面を有し、所定の速度で走行する環状ベルトと、環状ベルトの外周面に対向し、環状ベルトとの間でニップ領域を形成する対向部材とを設け、環状ベルトは、基体と、基体の表面に形成され、厚さが250~300[μm]の弾性層と、弾性層の表面に形成され、厚さが15.0~29.6[μm]の表層とを有し、環状ベルトは、硬度計を用いた外周面の硬度計測において、硬度計測の開始後、外周面の所定位置がニップ領域を通過するのに要する時間に相当する計測時間を経過した時点の計測値が56.4~65.5[°]であるようにした。
【0010】
さらに本発明の画像形成装置においては、現像剤を用いた現像剤像を媒体の表面に付着させる現像部と、上述した構成を有し現像剤像を媒体に定着させる定着装置とを設けるようにした。
【0011】
本発明は、環状ベルトにおける第2の硬度値に対する第1の硬度値の比率を適切に規定したことにより、環状ベルトと共に媒体がニップ領域を通過する通過時間の間に、該媒体に形成されている微細な凹凸に合わせて該環状ベルトが変形できる。これにより本発明は、媒体の平面部分及び微細な凹凸の部分にそれぞれ付着している現像剤を一様に定着させ、一様な光沢を有する画像を形成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、表面に微細な凹凸が形成された媒体に定着させる画像の品質を向上させる定着装置及び画像形成装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図4】加熱ベルトの構成を示す略線的断面図である。
【
図6】媒体の窪みに応じた加熱ベルトの変形を示す略線図である。
【
図7】微小硬度計による計測値の時間変化の様子を示す略線図である。
【
図8】加熱ベルトにおける各部の値及び測定結果並びに評価レベルを示す略線図である。
【
図9】加熱ベルトにおける0.2s後硬度比率と評価レベルとの関係を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、発明を実施するための形態(以下実施の形態とする)について、図面を用いて説明する。
【0015】
[1.画像形成装置の構成]
図1に示すように、画像形成装置1は、電子写真式のプリンタであり、普通紙やコート紙等の媒体Mに対しカラーの画像を形成すること、すなわち印刷することができる。因みに画像形成装置1は、原稿を読み取るイメージスキャナ機能や電話回線を使用した通信機能等を有しておらず、プリンタ機能のみを有する単機能のSFP(Single Function Printer)となっている。
【0016】
画像形成装置1は、略箱型に形成された筐体2の内部に種々の部品が配置されている。因みに以下では、
図1における右端部分を画像形成装置1の正面とし、この正面と対峙して見た場合の上下方向、左右方向及び前後方向をそれぞれ定義した上で説明する。また画像形成装置1は、最大でA3サイズの媒体Mに対応可能となっており、当該媒体Mにおける短辺を左右方向に沿わせた状態で、後述する搬送路に沿って搬送しながら、画像を形成していく。このため画像形成装置1内における各部分は、左右方向に関し、A3サイズにおける短辺(297[mm])に対応した長さとなっている。
【0017】
画像形成装置1は、制御部3により全体を統括制御するようになっている。この制御部3は、図示しないコンピュータ装置等の上位装置と接続されており、この上位装置から印刷指示や印刷データを受信すると、媒体Mの表面に印刷画像を形成する画像形成処理(印刷処理とも呼ぶ)を実行する。
【0018】
筐体2の上面前寄りには、種々の情報を表示すると共に操作入力を受け付けるオペレーションパネル4が設けられている。このオペレーションパネル4は、例えば液晶パネルのような表示パネルとタッチセンサとが組み合わされたタッチパネルや、LED(Light Emitting Diode)等を有しており、制御部3の制御に基づき種々の情報を表示する他、使用者からの操作入力を受け付ける。
【0019】
筐体2内の最下部には、媒体Mを収容するトレイ5が設けられている。このトレイ5には、最大でA3サイズの媒体Mを、その短辺を左右方向に沿わせた状態で収容し得るようになっている。トレイ5の前上方には、給紙搬送部10が設けられている。給紙搬送部10は、所定の間隔を隔てて対向する搬送ガイド11により、媒体Mを搬送する際の経路である給紙搬送路W1を形成している。
【0020】
また給紙搬送部10は、この給紙搬送路W1に沿ってピックアップローラ12、給紙ローラ13、分離ローラ14、レジストローラ15、プレッシャローラ16、及び搬送ローラ対17等が配置されている。各ローラは、中心軸を左右方向に沿わせた円柱状に形成されており、それぞれ回転可能に支持されている。また一部のローラには、図示しない給紙モータから駆動力が伝達されている。搬送ローラ対17及び18は、給紙搬送路W1を挟んで互いに対向する位置に、それぞれ搬送ローラが配置されている。
【0021】
給紙搬送部10は、制御部3の制御に基づいて各ローラを適宜回転させることにより、トレイ5に集積された状態で収容されている媒体Mを1枚ずつ分離しながらピックアップし、搬送する。具体的に、ピックアップローラ12は、トレイ5から媒体Mを引き出す。給紙ローラ13は、ピックアップローラ12によりトレイ5から引き出された媒体Mを給紙搬送路W1に沿って進行させる。分離ローラ14は、トレイ5から複数の媒体Mが取り出された際に、最も上側の媒体Mを他の媒体Mから分離する。レジストローラ15およびプレッシャローラ16は、給紙搬送路W1に対し媒体Mが斜行した場合に、その姿勢(進行方向に対する各辺の向き)を矯正して正しく進行させる。搬送ローラ対17は、給紙搬送路W1に沿って媒体Mを搬送し、さらに後斜め上方へ送り出す。
【0022】
給紙搬送部10における搬送ローラ対17の後上側には、下側に転写部20が配置されると共に、その上側に4個の現像部30が配置されている。該転写部20及び各現像部30の間には、給紙搬送路W1と接続され、後斜め上方向へ向かう直線状の転写搬送路W2が形成されている。
【0023】
転写部20は、ドライブローラ21、アイドルローラ22、転写ベルト23及び4個転写ローラ24等により構成されている。ドライブローラ21、アイドルローラ22及び各転写ローラ24は、何れも中心軸を左右方向に沿わせた円柱状に形成されると共に、それぞれが回転可能に支持されている。
【0024】
ドライブローラ21は、比較的後側に配置されており、図示しない駆動力源から供給される駆動力により回転することができる。アイドルローラ22は、ドライブローラ21の前下側にやや離れた位置であって、搬送ローラ対17の近傍となる箇所に配置されている。各転写ローラ24は、ドライブローラ21及びアイドルローラ22の間に、ほぼ等間隔となるように離散的に配置されている。
【0025】
転写ベルト23は、柔軟性を有する無端ベルトであり、ドライブローラ21、アイドルローラ22及び各転写ローラ24の周囲を周回するように張架されている。この転写ベルト23のうち上側部分は、転写搬送路W2に沿って直線状に張架されている。また各転写ローラ24は、その上端近傍を転写ベルト23の上側部分における内周側に当接させている。このため転写部20では、ドライブローラ21が
図1における反時計回りに回転されると、転写ベルト23を走行させ、これに伴ってアイドルローラ22及び各転写ローラ24を回転させることができる。このとき転写ベルト23の上側部分は、転写搬送路W2に沿って後斜め上方向に走行する。
【0026】
4個の現像部30(30K、30Y、30M及び30C)は、画像形成部とも呼ばれており、転写部20の上側において、転写搬送路W2に沿って、すなわち前下側から後上側へ向かう斜め方向に沿って、整列するように配置されている。各現像部30は、ブラック(K)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)及びシアン(C)の各色にそれぞれ対応しているものの、色のみが相違しており、何れも同様に構成されている。
【0027】
現像部30は、現像処理ユニット31及び露光処理ユニット32により構成されている。現像処理ユニット31は、現像剤としてのトナーを収容するトナー収容ユニットや、複数のローラ、及び感光体ドラム34等を有している。このうち各ローラ及び感光体ドラム34は、何れも中心軸を左右方向に沿わせた円柱状若しくは円筒状に構成されており、回転可能に構成されている。感光体ドラム34は、現像処理ユニット31における最も下側に位置しており、転写ローラ24との間に転写ベルト23を挟むようにして、該転写ベルト23と当接している。
【0028】
露光処理ユニット32は、感光体ドラム34の上側において、複数のLEDを左右方向に沿って整列させている。この露光処理ユニット32は、制御部3の制御に基づいて各LEDを適宜発光させることにより、感光体ドラム34の外周面を感光させ、静電潜像を形成する。これに応じて現像処理ユニット31は、該感光体ドラム34の外周面にトナーを付着させることにより、トナー画像(現像剤像とも呼ぶ)を形成する。
【0029】
このとき転写部20は、転写搬送路W2に沿って媒体Mが搬送されていた場合、感光体ドラム34から該媒体Mにトナー画像を転写させ、該媒体Mの表面にトナー画像を付着させる。
【0030】
転写部20の後側、すなわち最も後側に位置する現像部30Cの後側には、定着部40が配置されている。定着部40は、媒体Mを定着搬送路W3に沿って搬送しながら、該媒体Mに対して熱及び圧力を加えることにより、該媒体Mの表面にトナー画像を定着させ、後斜め上方向へ送り出す(詳しくは後述する)。
【0031】
定着部40の後側及び下側には、両面印刷部50が設けられている。両面印刷部50は、定着部40の後側に設けられた切替器51の他、複数の搬送ガイド及び複数の搬送ローラ対等により、循環搬送路W4や一時退避搬送路W5等を形成している。このうち循環搬送路W4は、切替器51と給紙搬送部10の搬送ローラ対17とを結ぶように形成されている。
【0032】
両面印刷部50は、両面印刷を行う場合、制御部3の制御に基づき、切替器51を切り替えて媒体Mを一時退避搬送路W5に進行させる。続いて両面印刷部50は、該媒体Mの末尾が該切替器51を通過した後、該媒体Mの進行方向を反転させて循環搬送路W4に沿って進行させ、搬送ローラ対17の近傍から給紙搬送部10の給紙搬送路W1に合流させる。この結果、両面印刷部50は、媒体Mの表裏を反転させた状態で再び給紙搬送路W1から転写搬送路W2へ進行させ、該媒体Mの裏面に画像を転写させることができる。因みに両面印刷部50は、媒体Mに両面印刷を行わない場合、及び該媒体Mの裏面に画像を転写させた場合、該媒体Mを後斜め上方向へ進行させる。
【0033】
切替器51の後側ないし上側には、排紙搬送部60が配置されている。排紙搬送部60は、給紙搬送部10の一部と類似した構成となっており、所定の間隔を隔てて対向する搬送ガイド61により、媒体Mを搬送する際の経路である排紙搬送路W6を形成しており、その末端に排出口62を形成している。また排紙搬送部60には、この排紙搬送路W6に沿って搬送ローラ対63及び64等が順次配置されている。
【0034】
排紙搬送部60は、制御部3の制御に従って搬送ローラ対63及び64を回転させることにより、定着部40から切替器51を介して受け取った媒体Mを排紙搬送路W6に沿って搬送し、排出口62から排出することにより、筐体2の上面に形成された排出トレイ6上に載置させる。
【0035】
このように画像形成装置1は、各搬送路Wに沿って媒体Mを順次搬送しながら、現像部30により形成したトナー画像を該媒体Mに転写し、定着部40において定着させることにより、画像を形成すること、すなわち印刷することができる。
【0036】
[2.定着部の構成]
次に、定着部40の構成について説明する。
図2は、定着部40の模式的な斜視図である。
図3は、定着部40の模式的な断面図である。
図2に示したように、定着部40は、全体として左右方向に長い直方体状に構成されている。
【0037】
定着部40は、中空の直方体状に形成された定着筐体41の内部に、複数の部品が組み込まれた構成となっている。定着筐体41の前面側及び後面側には、左右方向に長く前後方向に貫通した長孔がそれぞれ形成されており、媒体Mを通過させ得るようになっている。
【0038】
定着筐体41の内部には、上側に加熱部42が配置されると共に、その下側に加圧部43が配置されている。加熱部42は、全体として中心軸を左右方向に沿わせた円柱状に形成されている。因みに加熱部42は、定着筐体41により、概ね上下方向に沿って変位し得るように支持されている。
【0039】
この加熱部42は、
図3に示すように、大きく分けて、中央側に位置する加熱中央部71と、その周囲を取り囲む加熱ベルト72とにより構成されている。加熱中央部71は、全体として左右方向に長い中空の直方体状に構成されており、支持体73及び74、熱伝導板75、ヒータ76、離間板77、並びに温度センサ78等により構成されている。
【0040】
支持体73は、例えば耐熱性を有する樹脂材料による成形部品であり、全体として、左右方向に沿った中空の四角柱から上面を省略したような形状に構成されている。支持体74は、例えば板状の金属部材を屈曲加工することにより形成されており、全体として、左右方向に沿った中空の四角柱から下面を省略したような形状に構成されている。この支持体74の前側板は、支持体73の前側板の前側に当接している。また支持体74の後側板は、支持体73の後側板の後側に当接している。このため支持体73及び74は、互いに組み合わされることにより、全体として左右方向に沿った一本の四角柱を構成している。
【0041】
熱伝導板75は、左右方向に長く上下方向に薄い板状に形成されており、支持体73の下側板の下側に位置している。この熱伝導板75は、例えばステンレス等の熱伝導率が比較的高い金属材料によって構成されており、後述するヒータ76により発生される熱を効率良く伝達する。加熱部材としてのヒータ76は、左右方向に長く上下方向に薄い板状に形成されており、支持体73の下側に位置している。このヒータ76は、制御部3(
図1)の制御に基づき、所定の電力供給部から供給される電力により発熱する。
【0042】
離間板77は、左右方向に長く上下方向に薄い板状の下側板を中心に構成されており、その前辺及び後辺から上方向に屈曲された部分がそれぞれ前側板及び後側板として形成されている。この離間板77は、下側板がヒータ76の下側に位置しており、該ヒータ76と加熱ベルト72とを離間させ、両者を直接接触させないようにしている。
【0043】
温度センサ78は、支持体73の内部おける下側板の上側に位置している。この温度センサ78は、熱伝導板75を介してヒータ76の温度を検出し、検出した温度に応じた電気信号を生成して、これを制御部3(
図1)に通知する。制御部3は、通知された温度を基に、ヒータ76に供給させる電力を制御することにより、所望の温度に合わせていく。
【0044】
環状ベルトとしての加熱ベルト72は、中空の円筒状に構成されると共に左右方向に十分な長さを有する無端ベルトであり、加熱中央部71の周囲を周回するように配置されている。この加熱ベルト72は、
図4に模式的な断面図を示すように、基体81、弾性層82及び表層83といった3種類の部材が順次積層された層構造となっている。
【0045】
基体81は、加熱ベルト72の最も内側に位置しており、例えばポリイミドにより構成されている。基体81の厚さは、約50~120[μm]とすることが可能である。本実施の形態では、基体81の厚さを、約70~90[μm]とした。また基体81は、金属材料により構成することも可能であり、この場合の厚さを約20~60[μm]とすることができる。
【0046】
弾性層82は、基体81及び表層83の間に位置しており、例えばシリコーンゴムにより構成されている。弾性層82の厚さは、約100~350[μm]とすることが可能であり、本実施の形態では約150~300[μm]としている。この弾性層82を構成するシリコーンゴムの硬度に関しては、JIS K 6253に基づくデュロメータタイプA(シェアA)の測定方法において、約7~50[°]であることが望ましい。本実施の形態では、弾性層82として、硬度が約12~40[°]の材料を使用した。
【0047】
表層83は、加熱ベルト72の最も外側に位置しており、例えばPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)により構成されている。表層83の厚さは、約8~40[μm]とすることが可能である。本実施の形態では、表層83の厚さを13~30[μm]とした。
【0048】
因みに、加熱ベルト72の内周面には、液体の潤滑剤が塗布されている。このため離間板77及び加熱ベルト72の間には、この潤滑剤が介在している。これにより加熱ベルト72は、離間板77に対して円滑に摺動することができる。
【0049】
対向部材としての加圧部43(
図2及び
図3)は、全体として中心軸を左右方向に沿わせた円柱状に形成されており、その直径が約30[mm]となっている。この加圧部43は、加圧ローラとも呼ばれる。加圧部43は、
図5に模式的な断面図を示すように、中心材91に弾性層92、プライマー層93及び表面層94が順次積層された構成となっている。
【0050】
中心材91は、例えば快削鋼(SUMとも呼ばれる)で構成されており、中心軸を左右方向に沿わせた円柱状に形成されている。中心材91の直径は、約24[mm]である。弾性層92は、例えばシリコーンゴムであり、中心材91の周側面に対し、厚さが約3[mm]となるように積層されている。プライマー層93は、例えば非導電性を有するRTV(Room Temperature Vulcanizing)シリコーンゴムであり、弾性層92の外周面に対し、厚さが約5[μm]以下となるように形成されている。表面層94は、例えば非導電性を有するPFAであり、その厚さを15~25[μm]としている。
【0051】
さらに定着部40(
図2及び
図3)の定着筐体41内における左側及び右側には、圧縮バネ44がそれぞれ組み込まれている。この圧縮バネ44は、コイルスプリングであり、図示しない部品を介して、加熱部42を加圧部43に付勢している。
【0052】
この定着部40では、圧縮バネ44や加熱部42の自重等により、加熱部42及び加圧部43の間で、27~36[kg]の荷重に相当する圧力が作用することが望ましい。本実施の形態では、加熱部42及び加圧部43の間で、30[kg]の荷重に相当する圧力を作用させた状態で、定着部40を動作させるようにした。
【0053】
これにより定着部40では、加熱部42が加圧部43に押し付けられ、該加圧部43が弾性変形することにより、加熱ベルト72及び加圧部43の間にニップ領域Nが形成される。因みに画像形成装置1(
図1)の内部では、このニップ領域Nに沿って定着搬送路W3が形成されている。定着部40では、このニップ領域Nの搬送方向(すなわち概ね前後方向)に沿った長さであるニップ幅WN(
図3)を、8~11[mm]とした。
【0054】
定着部40は、画像形成装置1において印刷処理が行われる場合、加熱部42のヒータ76を発熱させ、また加圧部43を回転させることにより加熱ベルト72を周回させる。ここで定着部40では、定着搬送路W3に沿って媒体Mが搬送されてくると、該媒体Mをニップ領域Nにおいて加熱ベルト72及び加圧部43により挟持する。このとき定着部40は、加熱ベルト72を媒体Mに当接させた状態で、該加熱ベルト72を該媒体Mと同一の速度で走行させながら、熱及び圧力を加えることにより、トナーを定着させる。
【0055】
また画像形成装置1では、媒体Mとして、いわゆるコート紙や耐水紙のように高抵抗な用紙、すなわち通紙の際に発生する抵抗が比較的大きい用紙を使用する場合がある。具体的には、例えば国際紙パルプ商事株式会社製「カレカ(登録商標)」、株式会社中川製作所製「ラミフリー(登録商標)」、又は巴川製作所製「エコクリスタル(登録商標)」等のコート紙が使用可能である。このとき画像形成装置1では、普通紙を使用する場合と比較して、媒体Mの搬送速度(すなわち通紙速度)を低下させることにより、該媒体Mに対するトナーの定着効率を高めると共に定着性を向上させるようになっている。
【0056】
画像形成装置1では、コート紙等を使用する場合の搬送速度を約50~80[mm/s]とすることが可能であり、ニップ幅WNを8~11[mm]とすることが可能である。本実施の形態では、搬送速度を55[mm/s]とし、ニップ幅WNを11[mm]とした。これにより画像形成装置1では、定着部40において媒体M上の所定箇所がニップ領域Nを通過するのに要する通過時間が、約0.2[s]となる。
【0057】
なお、本実施の形態において、例えば媒体Mの搬送速度が80[mm/s]であり、ニップ幅WNが8[mm]であった場合、該媒体Mの所定箇所がニップ領域Nを通過するのに要する通過時間は、0.1[s]となる。また、例えば媒体Mの搬送速度が50[mm/s]であり、ニップ幅WNが11[mm]であった場合、該媒体Mの所定箇所がニップ領域Nを通過するのに要する通過時間は、0.22[s]となる。
【0058】
[3.加熱ベルトの評価]
ところで、上述したコート紙等は、紙(すなわちセルロース等)により構成された基材の表面に、比較的薄い樹脂等の表層が重畳された構造となっている。このコート紙は、表層により基材表面に形成されている比較的小さい凹凸を埋めており、普通紙と比較して表面が平滑に形成されている。このためコート紙は、画像形成装置1等によって画像が印刷された場合に、一様に光沢を有する高品質な状態に仕上がることが期待される。
【0059】
しかし、実際のコート紙では、基材に形成されている凹凸に起因して、その表面に、例えば直径又は長軸が約1~5[mm]程度の円形又は楕円形であり、深さが約10[μm]程度であるような、微細な窪みDが形成される場合がある。
【0060】
定着部40は、このようなコート紙等でなる媒体Mにトナー画像を定着させる場合、該窪みDがニップ領域Nを通過する間に、加熱ベルト72の一部を該窪みDに入り込むように変形させ、該加熱ベルト72の表面を該窪みDの内側面に当接させて、トナーを該媒体Mの表面に押し付けることが望ましい。
【0061】
一方、画像形成装置1では、上述したように、媒体Mとしてコート紙等を使用する場合、該媒体Mの搬送速度を55[mm/s]としており、これに伴い定着部40のニップ領域Nにおける媒体Mの通過時間が約0.2[s]となっている。このことは、定着部40において、加熱ベルト72が媒体Mに当接して変形を開始してから、0.2[s]以内に窪みDに応じた形状に変形できれば、該媒体Mに対し熱及び圧力を適切に加え得ることを意味している。これを換言すれば、画像形成装置1では、定着部40の加熱ベルト72に関し、変形する速度や硬度等が適切な範囲に収まっていれば、窪みDにおいてもトナーを適切に定着させ、画像に光沢を生じさせることが可能となる。
【0062】
ここで、加熱ベルト72が変形する速度や硬度と、媒体Mに対する追従の可能性との関係について
図6(A)~(C)を参照しながら説明する。
図6(A)~(C)は、ニップ領域Nにおいて、窪みDが形成された媒体Mの表面に対し、加熱ベルト72が当接している様子を模式的に表した断面図である。
【0063】
例えば、
図6(A)に示すように、加熱ベルト72の硬度が比較的低いために変形する速度が比較的遅い場合、該加熱ベルト72は、窪みDに対し完全に入り込むことができず、窪みDの内側面においてトナーに熱や圧力を十分に伝えられない。換言すれば、このとき加熱ベルト72は、媒体Mにおける窪みDを含めた形状に対する追従が遅く、或いは応答性が悪いため、通過時間内では該媒体Mに対し十分に追従できない。この場合、媒体Mは、該窪みDが形成された箇所において局所的に光沢が表れない、いわゆる光沢ムラが発生した状態となるため、画質が低いと評価されることになる。
【0064】
一方、
図6(B)に示すように、加熱ベルト72の硬度が適切な範囲にあり変形する速度が適切である場合、加熱ベルト72は、窪みDに対し完全に入り込むことができ、窪みDの内側面においてトナーに熱や圧力を十分に伝えられる。換言すれば、このとき加熱ベルト72は、媒体Mにおける窪みDを含めた形状に対する追従性が高く、応答性が良好となっている。この場合、媒体Mは、該窪みDが形成された箇所においても光沢が十分に表れ、一様に光沢を有する状態となるため、画質が高いと評価されることになる。
【0065】
さらに、
図6(C)に示すように、加熱ベルト72の硬度が比較的高い場合、該加熱ベルト72は、窪みDに対し完全に入り込むことができず、窪みDの内側面においてトナーに熱や圧力を十分に伝えられない。換言すれば、このとき加熱ベルト72は、媒体Mにおける窪みDを含めた形状に対する追従性が低く、応答性が悪くなっている。この場合、媒体Mは、
図6(A)の場合と同様に、該窪みDが形成された箇所において局所的に光沢が表れない、いわゆる光沢ムラが発生した状態となるため、画質が低いと評価されることになる。
【0066】
このように定着部40では、加熱ベルト72の硬度や変形する速度が適切な範囲内であれば、媒体Mの形状に対し適切に追従できるので、各部分においてトナーを良好に定着させ、光沢ムラが発生する可能性を低減できると考えられる。
【0067】
ところで、加熱ベルト72のように比較的薄く構成された部材の硬度を測定する場合、一般的に、いわゆる微小硬度計を用いて硬度計測を行う。この微小硬度計では、例えば円柱状等に形成された探針(計測端子とも呼ばれる)を対象部材に当接させ、所定の荷重や速度を加えて押し込み、当該探針の変位量を基に、硬度を計測することができる。
【0068】
本実施の形態では、微小硬度計として、高分子計器株式会社製「マイクロゴム硬度計 MD-1capa」を使用した。また本実施の形態では、直径が0.16[mm]の円柱形状でなる探針を計測に使用し、この探針の降下速度(すなわち押込速度)を3.2[mm/s]とし、荷重を22~332[Nm]とした。
【0069】
図7は、互いに構成が異なる複数の加熱ベルト72について、微小硬度計によりそれぞれ得られた計測値の時間的な変化の一例を、グラフとして表したものである。縦軸は、硬度の値を表しており、最終的に飽和した際の硬度の値(以下これを飽和硬度値と呼ぶ)に対する相対値[%]に換算している。横軸は、計測を開始した時点からの経過時間であり、0.1[s]ごとに値をプロットしている。以下では、
図7に示した各プロットを結んだ特性曲線をプロファイルとも呼ぶ。
【0070】
この
図7では、測定開始後の時間経過に応じて、微小硬度計による計測値が増加していく様子や、加熱ベルト72の構成に応じてプロファイルの形状が異なる様子が表れている。このように、加熱ベルト72におけるプロファイルの形状が異なることは、当該加熱ベルト72における変形の速度が異なることを表している。
【0071】
そこで本実施の形態では、この微小硬度計を利用して加熱ベルト72の硬度を計測するようにした。また本実施の形態では、計測開始後に0.2[s]が経過した時点における計測値(以下これを0.2s後硬度値と呼ぶ)を、該加熱ベルト72が変形する速度に応じた値と見なすようにした。以下では、この0.2[s]を計測時間とも呼ぶ。
【0072】
さらに本実施の形態では、加熱ベルト72における0.2s後硬度値と、当該加熱ベルト72を用いて媒体Mに印刷された画像の品質との関係を調査した。また本実施の形態では、0.2s後硬度値を、最終的に収束した硬度の値である飽和硬度値に対する相対的な比率(以下これを0.2s後硬度比率と呼ぶ)として表すことにより、硬度値を正規化し、比較の容易化を図った。説明の都合上、以下では、0.2s後硬度値及び飽和硬度値を、それぞれ第1の硬度値及び第2の硬度値とも呼ぶ。
【0073】
具体的に本実施の形態では、評価試験として、弾性層82及び表層83を様々な構成とした12種類の加熱ベルト72(72A~72L)を用意し、微小硬度計により各加熱ベルト72の硬度をそれぞれ計測した。
図8に示す表T1は、各加熱ベルト72の仕様や計測結果を表形式にまとめたものである。
【0074】
この表T1には、各加熱ベルト72の仕様として、弾性層82の厚さ[μm]、弾性層82の硬度[°]及び表層83の厚さ[μm]を記載した。また表T1には、加熱ベルト72の飽和硬度値[°]及び0.2s後硬度値[°]の計測値、並びに両者を基に算出された0.2s後硬度比率を、それぞれ記載した。なお、0.2s後硬度比率の値については、小数点以下第4位を四捨五入した。
【0075】
次に本実施の形態では、画像形成装置1の定着部40において各加熱ベルト72(72A~72L)を使用し、媒体Mとしてコート紙を使用して、後述する試験画像を印刷する印刷試験をそれぞれ行い、得られた印刷結果に対する評価をそれぞれ行った。この印刷試験では、画像形成装置1として沖電気工業株式会社製「C844」を使用した。
【0076】
この印刷試験では、全面を一様な黒色とした画像(いわゆる全面ベタ画像)を試験画像とした。また印刷後の媒体Mでは、光沢ムラが発生する場合、その表面に微小な凹凸が形成され、非平面となっていることが考えられる。すなわち媒体Mでは、平面部分の面積が減少し非平面部分の面積が増加するに連れて、光沢ムラの度合いが高まると考えられる。
【0077】
そこで本実施の形態では、媒体Mの印刷結果に対する評価として、該媒体Mの表面における平面部分の面積の比率を基に、複数段階の「レベル」に区分する評価を行った。このように区分された各レベルは、光沢ムラが発生する度合と高い相関を有することになる。すなわち本実施の形態では、印刷後の媒体Mの表面における平面部分の比率を用いることにより、該媒体Mにおいて光沢ムラが発生する度合を、客観的な指標により表すようにした。
【0078】
具体的に本実施の形態では、各加熱ベルト72を定着部40に組み込んだ画像形成装置1により、試験画像を該媒体Mに印刷した。本実施の形態では、媒体Mとして、株式会社中川製作所製「ラミフリー(登録商標)」を使用した。
【0079】
次に本実施の形態では、当該媒体Mの表面形状をレーザー顕微鏡により観測して顕微鏡画像を撮像した。本実施の形態では、レーザー顕微鏡として、レーザーテック株式会社製のコンフォーカル顕微鏡「OPTELICS(登録商標) HYBRID」を使用した。
【0080】
続いて本実施の形態では、このレーザー顕微鏡により、得られた顕微鏡画像における各画素の輝度を基に2値化処理を行い、平面部分と非平面部分とを区分した。さらに本実施の形態では、顕微鏡画像全体の面積に対する平面部分の面積の比率を算出し、これをトナー平面面積率[%]とした。ここで、レーザー顕微鏡に関しては、以下のような設定内容を採用した。
【0081】
光量:50[%]
明るさ:500
対物レンズ:10x (倍率185倍)
パッチワーク枚数:縦8枚×横8枚(11[mm]×11[mm]の画像領域)
2値化メソッド:輝度値
平面部抽出閾値:85~190(輝度値)
【0082】
さらに本実施の形態では、算出されたトナー平面面積率[%]の値に関し、以下のような閾値を設定することにより、光沢ムラが比較的多い「レベル1」から光沢ムラがほとんど見られない「レベル5」までの、5段階の評価レベルに区分した。各評価レベルの閾値に関しては、トナー平面面積率[%]が様々な値である複数の媒体Mにおける光沢ムラの状態を目視により観察し、各レベルの間で有意な差異が認められるよう、それぞれの値を適切に設定した。
【0083】
レベル1:31.2[%]未満
レベル2:31.2[%]以上、35.9[%]未満
レベル3:35.9[%]以上、40.6[%]未満
レベル4:40.6[%]以上、45.3[%]未満
レベル5:45.3[%]以上
【0084】
このような評価試験を各加熱ベルト72について行った結果、表T1(
図8)に示したような評価レベルが得られた。また
図9は、0.2s後硬度比率及び評価レベルをそれぞれ横軸及び縦軸としたグラフであり、各加熱ベルト72の値を基にプロットを配置した。なお
図9では、評価レベルがレベル4以上である場合のプロットを記号「○」により表し、該評価レベルがレベル3以下である場合プロットを記号「×」により表した。以下では、
図8及び
図9を基に、この評価試験における0.2s後硬度比率と評価レベルとの相関等について説明する。
【0085】
本評価試験では、0.2s後硬度比率の値が0.738(73.8%)以上0.837(83.7%)以下の範囲R1内である場合、評価レベルがレベル4以上となった。このとき定着部40では、
図6(B)に示したように、加熱ベルト72において押し込みに対する応答が比較的速く、媒体Mに形成された窪みDに対する追従性も高いと考えられる。このため画像形成装置1は、定着部40のニップ領域Nにおいて、媒体Mの各部分に対し熱及び圧力を均等に与えることができ、該媒体Mに印刷した画像において、光沢ムラを良好に低減させることができる。またこの場合、弾性層82の硬度は12~20[°]の範囲内であり、0.2s後硬度値は56.4~65.5[°]の範囲内であった。
【0086】
また本評価試験では、0.2s後硬度比率[%]の値が0.793(79.3%)以上0.837(83.7%)以下の範囲R2内である場合、評価レベルがレベル5となった。このとき定着部40では、押し込みに対する応答がさらに速く、媒体Mに形成された窪みDに対する追従性もさらに高いと考えられる。このため画像形成装置1は、媒体Mに印刷した画像において光沢ムラを格段に低減させることができ、極めて高い品質の印刷結果を得ることができる。
【0087】
一方、本評価試験では、0.2s後硬度比率の値が0.738未満であった場合、評価レベルがレベル3以下となった。このとき定着部40では、
図6(A)に示したように、加熱ベルト72において押し込みに対する応答が比較的遅く、媒体Mに形成された窪みDに対する追従性が低いと考えられる。この結果、画像形成装置1は、媒体Mに印刷した画像において、光沢ムラを比較的多く発生させてしまう。
【0088】
また本評価試験では、0.2s後硬度比率[%]の値が0.837よりも大きかった場合にも、評価レベルがレベル3以下となった。このとき定着部40では、
図6(C)に示したように、加熱ベルト72が比較的硬くなるため、弾性が比較的小さくなっており、媒体Mに形成された窪みDに対する追従性も低いと考えられる。この結果、画像形成装置1は、媒体Mに印刷した画像において、光沢ムラを比較的多く発生させてしまう。
【0089】
このように本評価試験では、0.2s後硬度比率の値に応じて、媒体Mに印刷された画像における光沢ムラの発生度合が変化する、といった関係性が明らかになった。また本評価試験では、光沢ムラの発生度合を良好に低減させ得るような0.2s後硬度比率の範囲や0.2s後硬度値の範囲も明らかになった。
【0090】
以上を踏まえ、本実施の形態による画像形成装置1の定着部40では、0.2s後硬度比率の値が少なくとも0.738以上0.837以下の範囲R1内となり、好ましくは0.793以上0.837以下の範囲R2内となるような、加熱ベルト72を使用するようにした。
【0091】
[4.効果等]
以上の構成において、本実施の形態による画像形成装置1は、コート紙の媒体Mに画像を印刷する場合、定着部40の加熱ベルト72を、媒体Mがニップ領域Nを通過する時間で十分に変形する、といった性質を有するものとした。具体的に画像形成装置1では、加熱ベルト72として、微小硬度計を用いて測定される0.2s後硬度比率の値が、少なくとも0.738以上0.837以下の範囲R1内に収まるものを採用した。
【0092】
このため画像形成装置1は、媒体Mが定着部40のニップ領域Nを通過する約0.2[s]の間に、該媒体Mの窪みDに合わせて加熱ベルト72の形状を確実に変形させ、その表面に当接させることができる(
図6(B))。これにより画像形成装置1は、媒体Mにおける平坦な部分及び窪みDの何れにおいても、加熱ベルト72により熱及び圧力を加えてトナーを十分に定着させることができ、該媒体Mに印刷された画像においてムラの無い一様な光沢性を持たせることができる。
【0093】
また画像形成装置1は、定着部40の加熱ベルト72に関し、0.2s後硬度値が56.4[°]以上65.5[°]以下である場合にも、評価レベルがレベル4以上となるため(
図8)、光沢ムラの発生を良好に抑えることができる。
【0094】
さらに画像形成装置1は、定着部40の加熱ベルト72として、0.2s後硬度比率の値が0.793以上0.837以下の範囲R2内に収まるものを採用することもできる。この場合、画像形成装置1は、媒体Mにおける平坦な部分及び窪みDの何れにおいても、加熱ベルト72によりトナーをさらに良好に定着させ、該媒体Mに印刷された画像において光沢ムラの発生を格段に抑えて、さらに良好に光沢性を持たせることができる。
【0095】
特に本実施の形態では、加熱ベルト72の単なる硬度、すなわち飽和硬度値では無く、微小硬度計による計測値のうち、計測開始から0.2[s]が経過した時点の値である0.2s後硬度値を利用するようにした。また本実施の形態では、この0.2[s]という時間を、媒体Mがニップ領域Nを通過するのに要する時間とし、具体的には該媒体Mの搬送速度及びニップ領域Nの長さであるニップ幅WNを基に算出するようにした。このため画像形成装置1では、媒体Mがニップ領域Nを通過する間に窪みDに合わせて変形し終えるような適切な加熱ベルト72を採用することができる。
【0096】
また本実施の形態では、0.2s後硬度比率の値が少なくとも0.738以上0.837以下の範囲R1に収まっていれば、搬送速度及びニップ幅WNを変更することにより、ニップ領域Nを通過するのに要する通過時間を0.1~0.2[s]に変更したとしても、光沢ムラの発生を良好に抑え得ることが確認できた。
【0097】
このため加熱ベルト72は、ニップ領域Nを通過するニップ通過終了時間までに、硬度比率の値が0.738以上0.837以下に達していれば、媒体Mにおける平坦な部分及び窪みDの何れにおいても、光沢ムラの発生を抑えることができる。すなわち、加熱ベルト72に求められる条件に関して、微小硬度計による計測開始後の経過時間と、ニップ領域Nの通過時間とを必ずしも一致させる必要は無い。例えば、加熱ベルト72に求められる条件を、微小硬度計による計測開始後に0.16±0.06[s]が経過した時点において、硬度比率の値が0.738以上0.837以下の範囲R1に収まっていること、としても良い。
【0098】
他の観点から見ると、本実施の形態では、微小硬度計に関し、通常とは一部異なる手法により利用するようにした。通常であれば、微小硬度計を使用する場合、計測対象物に探針を押し当て、ある程度の時間が経過した後に値が安定した段階で、このときの値(すなわち飽和硬度値)を計測値とする。
【0099】
これに対し、本実施の形態では、微小硬度計の探針を押し当てることによる加熱ベルト72の経時変化が、媒体Mの窪みDに当接した該加熱ベルト72の経時変化に極めて近いものとみなすようにした。これにより、本実施の形態では、微小硬度計における計測値の経時変化を逐次読み取ることにより、加熱ベルト72の経時的な形状変化の様子として捉えることができる。
【0100】
さらに別の観点から見ると、画像形成装置1では、媒体Mに対しトナーを良好に定着させる観点から、ニップ領域Nのニップ幅WNをできるだけ大きく確保するような構成としている。具体的には、定着部40(
図3)において、加熱部42を加圧部43のようなローラではなく、加熱中央部71の周囲に加熱ベルト72を周回させる構成とし、該加熱中央部71に設けたヒータ76や離間板77等が前後方向に沿って十分な長さを有している。このような構成の定着部40では、加熱中央部71の周囲を周回する加熱ベルト72を比較的薄く形成する必要があるため、該加熱ベルト72に十分な厚さを持たせることが難しく、その結果として該加熱ベルト72における硬度の選定が困難であった。
【0101】
この点において、本実施の形態では、ニップ領域Nを通過する通過時間(すなわち0.2[s])における加熱ベルト72の追従性や応答性に着目し、0.2s後硬度比率を指標として使用することにより、良好な範囲R1及びR2(
図9)を特定した。このため画像形成装置1では、定着部40(
図3)において比較的大きいニップ幅WNを確保しながら、比較的薄く構成された加熱ベルト72において追従性や応答性を適切に高めることができ、形成された画像において良好な光沢性を得ることができる。
【0102】
また本実施の形態では、顕微鏡画像における各画素の輝度に基づいたトナー平面面積率を指標とし、その値に応じて評価レベルを区分するようにした。このため本実施の形態では、光沢ムラの有無や度合に関し、目視に頼った曖昧な区分では無く、一様な基準に従った明確な区分により、各加熱ベルト72の客観的な評価レベルを適切に定めることができる。この結果、画像形成装置1では、適切に評価されたレベルを基に選定された適切な加熱ベルト72を用いることにより、光沢ムラが殆ど見られないような、十分な光沢性を有する画像を媒体Mに印刷することができる。
【0103】
以上の構成によれば、画像形成装置1は、コート紙の媒体Mに画像を印刷する場合、定着部40の加熱ベルト72を、微小硬度計を用いて測定される0.2s後硬度比率の値が少なくとも0.738以上0.837以下の範囲R1に収まるようにした。このため画像形成装置1は、媒体Mが定着部40のニップ領域Nを通過する約0.2[s]の間に、該媒体Mの窪みDに合わせて加熱ベルト72の形状を確実に変形させることができる。これにより画像形成装置1は、媒体Mに対し平坦な部分及び窪みDの何れにおいてもトナーを十分に定着させることができ、該媒体Mに印刷された画像において光沢ムラの発生を抑え、一様な光沢性を持たせることができる。
【0104】
[5.他の実施の形態]
なお上述した実施の形態においては、定着部40におけるニップ幅WNを8~11[mm]とし、媒体Mの搬送速度を55[mm/s]として、媒体M上の所定箇所がニップ領域Nを通過するのに要する通過時間を約0.2[s]とする場合について述べた。またこれに応じて、加熱ベルト72の評価において0.2s後硬度値や0.2s後硬度比率を使用する場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、定着部40におけるニップ幅WN及び媒体Mの搬送速度を種々の値とすることにより、当該通過時間を例えば0.1[s]や0.4[s]等、種々の時間としても良い。またこの場合、当該通過時間に合わせて、計測開始後に当該通過時間が経過した時点の硬度や硬度比率を使用しても良い。或いは、当該通過時間よりも短い時間が経過した時点の硬度や硬度比率を使用しても良い。
【0105】
また上述した実施の形態においては、加熱ベルト72の評価試験において、レーザー顕微鏡を用いて得られた顕微鏡画像の輝度値を基にトナー平面面積率を算出し、これを用いて5段階の評価レベル(レベル1~レベル5)に区分する場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、例えば評価担当者の目視による主観に基づいて各評価レベルに区分する等、種々の手法により各評価レベルに区分しても良い。また区分する評価レベルの数は、5段階に限らず、4段階以下又は6段階以上としても良い。
【0106】
さらに上述した実施の形態においては、加熱ベルト72における基体81の厚さを約70~90[μm]とし、弾性層82の厚さを約150~300[μm]とし、表層83の厚さを約13~30[μm]とする場合について述べた(
図8)。しかし本発明はこれに限らず、基体81、弾性層82及び表層83の厚さを、それぞれ他の値としても良い。
【0107】
さらに上述した実施の形態においては、加熱ベルト72における弾性層82の硬度を、12~20[°]とする場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、弾性層82の硬度を他の種々の値としても良い。
【0108】
さらに上述した実施の形態においては、定着部40の加圧部43(
図2及び
図3)を、中心材91の周側面に弾性層92等が形成された加圧ローラとして構成する場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、例えば加圧部43を加熱部42と同様に加熱中央部及び加熱ベルトを組み合わせた構成とする等、種々の構成としても良い。
【0109】
さらに上述した実施の形態においては、コート紙のように、基材である紙の表面に樹脂等の表層が設けられ、その表面に微細な窪みDが形成された媒体Mを使用する場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、コート紙と同様に表面に微細な窪みや凹凸が形成された種々の媒体を使用しても良い。
【0110】
さらに上述した実施の形態においては、微小硬度計により、円柱形状の探針を計測対象である加熱ベルト72に押し込み、該探針の変位量を基に該加熱ベルト72の硬度を計測する場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、例えば先端が半球状の探針や、楕円柱状の探針等、種々の形状の探針を用いても良い。或いは、他の種々の手法により計測対象の硬度を計測する硬度計を使用しても良い。この場合、探針の変位量に相当する物理量の時間変化を取得できるものであれば良い。また、微小硬度計における各種の値に関しても、探針の直径を0.16[mm]以外としても良く、探針の降下速度を3.2[mm/s]以外としても良く、荷重を22~332[Nm]以外としても良い。
【0111】
さらに上述した実施の形態においては、画像形成装置1(
図1)に4個の現像部30を設ける場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、例えば画像形成装置1に1個以上3個以下、又は5個以上の現像部30を設けても良い。
【0112】
さらに上述した実施の形態においては、本発明を単機能のSFPである画像形成装置1に適用する場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、例えば複写機やファクシミリ装置の機能を有するMFP(Multi Function Peripheral)等、他の種々の機能を有する画像形成装置に適用しても良い。
【0113】
さらに本発明は、上述した各実施の形態及び他の実施の形態に限定されるものではない。すなわち本発明は、上述した各実施の形態と上述した他の実施の形態の一部又は全部を任意に組み合わせた実施の形態や、一部を抽出した実施の形態にもその適用範囲が及ぶものである。
【0114】
さらに上述した実施の形態においては、環状ベルトとしての加熱ベルト72と、対向部材としての加圧部43とによって定着装置としての定着部40を構成する場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなる環状ベルトと、対向部材とによって定着装置を構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、例えば電子写真方式により媒体上に形成されたトナー画像を定着部により該媒体に定着させる場合に利用できる。
【符号の説明】
【0116】
1……画像形成装置、20……転写部、30……現像部、40……定着部、42……加熱部、43……加圧部、71……加熱中央部、72……加熱ベルト、73……支持体、74……支持体、75……熱伝導板、76……ヒータ、77……離間板、78……温度センサ、81……基体、82……弾性層、83……表層、91……中心材、92……弾性層、93……プライマー層、94……表面層、M……媒体、D……窪み、N……ニップ領域、WN……ニップ幅、R1……範囲、R2……範囲。