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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145046
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20231003BHJP
   G03G 13/20 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
G03G15/20 515
G03G13/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052314
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174104
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 康一
(72)【発明者】
【氏名】大▲高▼ 友美
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA03
2H033AA06
2H033AA10
2H033AA11
2H033AA45
2H033BA25
2H033BA26
2H033BA31
2H033BA32
2H033BB03
2H033BB04
2H033BB05
2H033BB06
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB15
2H033BB18
2H033BB21
2H033BB29
2H033BB30
2H033BB33
2H033BB34
2H033BE00
2H033CA02
2H033CA09
2H033CA27
2H033CA43
(57)【要約】
【課題】環状ベルトを使用して媒体に定着させる画像の品質を向上させるようにする。
【解決手段】画像形成装置201は、弾性層82の厚さが300[μm]以上である定着ベルト277において、膜厚分布曲線に出現する極大値及び極小値の差分値である高さT1が、101[μm]未満となるようにした。これにより画像形成装置201は、定着ユニット250のニップ領域Nにおいて、媒体Mに加える圧力が局所的に減少する圧力抜けの発生を抑え、白抜けの発生を良好に低減させることができる。
【選択図】図18

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面を有し、所定の速度で走行し、厚さが300[μm]よりも大きい弾性層を有する環状ベルトと、
前記環状ベルトの前記外周面に対向し、前記環状ベルトとの間でニップ領域を形成する対向部材と
を具え、
前記環状ベルトは、幅方向における第1位置において、当該第1位置の周方向に関する前記外周面の高低差が101[μm]未満である
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記ニップ領域には、前記ニップ領域には、前記対向部材との間に荷重を作用させる第1荷重領域と、前記第1荷重領域よりも強い荷重を作用させる第2荷重領域とを有し、
前記環状ベルトは、周方向に関する前記外周面において高低差を形成する部分の長さが、前記ニップ領域における前記第1荷重領域の長さよりも短い
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記環状ベルトは、所定の周方向において、幅方向における第1位置の前記外周面と第2位置の前記外周面とを結ぶ直線と、当該幅方向に沿った直線とのなす角度が、0.1[°]以下である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記環状ベルトは、長手方向における前記第2位置と前記第1位置との間における、周方向に関する前記外周面の高低差が47[μm]以下である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の定着装置。
【請求項5】
前記環状ベルトは、硬度計を用いた前記外周面の硬度計測において、前記硬度計測の開始後、前記外周面の所定位置が前記ニップ領域を通過するのに要する時間に相当する計測時間を経過した時点の計測値を第1の硬度値(A)とし、前記硬度計の計測値が飽和した時点の計測値を第2の硬度値(B)としたとき、前記第2の硬度値(B)に対する前記第1の硬度値(A)の比率(A/B)が0.566以上である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の定着装置。
【請求項6】
前記硬度計は、計測端子に所定の荷重を印加し、当該計測端子を計測対象である前記外周面に対し所定の押込速度で押し込み、当該計測端子の変位量を基に前記第1の硬度値及び前記第2の硬度値を得る
ことを特徴とする請求項5に記載の定着装置。
【請求項7】
前記環状ベルトは、前記比率(A/B)が0.898以下である
ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の定着装置。
【請求項8】
前記環状ベルトは、前記比率(A/B)が0.698以下である
ことを特徴とする請求項5乃至請求項7の何れかに記載の定着装置。
【請求項9】
前記環状ベルトは、内径が4[mm]以上48[mm]以下である
ことを特徴とする請求項5乃至請求項8の何れかに記載の定着装置。
【請求項10】
前記環状ベルトは、
基体と、
前記基体の外側に位置し前記外周面を形成する表層と
をさらに具え、
前記弾性層は、前記基体と前記表層との間に設けられ、厚さが377~607[μm]である
ことを特徴とする請求項5乃至請求項9の何れかに記載の定着装置。
【請求項11】
現像剤を用いた現像剤像を媒体の表面に付着させる現像部と、
請求項1乃至請求項10の何れかに記載され、前記現像剤像を前記媒体に定着させる定着装置と
を具えた画像形成装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は定着装置及び画像形成装置に関し、例えば電子写真式のプリンタに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、画像形成装置として、例えば現像装置によりトナー(現像剤とも呼ぶ)を用いたトナー像(現像剤像とも呼ぶ)を形成して用紙(媒体とも呼ぶ)に転写し、定着装置によってこの用紙に熱や圧力を加えて定着させることにより、画像を印刷するものがある。このうち定着装置は、例えば用紙の搬送路の上下にローラや環状のベルト等をそれぞれ配置し、両者の間に形成されるニップ領域において用紙を挟持し、当該用紙に熱及び圧力を加えるようになっている。
【0003】
この定着装置として、搬送路の上側部分又は下側部分において、ローラや加圧部材等の周囲を定着ベルト(環状ベルトとも呼ぶ)が周回するように構成されたものがある。この定着装置では、搬送路の上側部分及び下側部分のうち少なくとも一方を1本のローラにより構成する場合と比較して、ニップ領域の搬送方向に沿った長さ(いわゆるニップ幅)を比較的長く構成し、定着性を高めることができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-144509号公報(図2等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した定着装置では、画像の品質を向上させるために、定着ベルトの弾性層を比較的厚く構成することがあるものの、製造上の精度等の問題により、厚さが不均一となる場合がある。
【0006】
そうすると定着装置では、定着ベルトの厚さが不均一であった場合に、ニップ領域においてローラや加圧部材等の間に挟まれた際に、媒体に対して不均一な圧力を加えることになる。この結果、画像形成装置では、形成された画像において定着が不十分な箇所が生じ、当該画像の品質を低下させる恐れがある、という問題があった。
【0007】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、環状ベルトを使用して媒体に定着させる画像の品質を向上させる定着装置及び画像形成装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため本発明の定着装置においては、外周面を有し、所定の速度で走行し、厚さが300[μm]よりも大きい弾性層を有する環状ベルトと、環状ベルトの外周面に対向し、環状ベルトとの間でニップ領域を形成する対向部材とを設け、環状ベルトは、幅方向における第1位置において、当該第1位置の周方向に関する外周面の高低差が101[μm]未満であるようにした。
【0009】
また本発明の画像形成装置においては、現像剤を用いた現像剤像を媒体の表面に付着させる現像部と、上述した構成を有し現像剤像を媒体に定着させる定着装置とを設けるようにした。
【0010】
本発明は、環状ベルトにおける周方向に関する外周面の高低差に関する上限値を適切に規定したことにより、該環状ベルトと共に媒体がニップ領域を通過する際に、該媒体に対して加えられる圧力のばらつきを小さく抑えることができる。これにより本発明は、媒体に付着している現像剤を一様に定着させた高品質な画像を形成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環状ベルトを使用して媒体に定着させる画像の品質を向上させる定着装置及び画像形成装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】画像形成装置の構成を示す略線図である。
図2】プロセスユニットの構成を示す略線図である。
図3】定着ユニットの構成を示す略線的断面図である。
図4】定着ベルトの構成を示す略線的断面図である。
図5】ニップ領域における圧力の分布を示す略線図である。
図6】媒体の構成を示す略線的斜視図である。
図7】媒体の窪みに応じた加熱ベルトの変形を示す略線図である。
図8】微小硬度計による計測値の時間変化の様子を示す略線図である。
図9】第1の実施の形態による定着ベルトにおける各部の値及び測定結果並びに光沢レベルを示す略線図である。
図10】第1の実施の形態による定着ベルトにおける荷重硬度比率と光沢レベルとの関係を示す略線図である。
図11】第1の実施の形態による定着ベルトにおける弾性層の厚さと荷重硬度比率との関係を示す略線図である。
図12】第2の実施の形態による定着ベルトにおける各部の値及び測定結果並びに光沢ベルを示す略線図である。
図13】第2の実施の形態による定着ベルトにおける弾性層の厚さと光沢レベルとの関係を示す略線図である。
図14】白抜けが発生しない場合の印刷画像と定着ベルトの膜厚との関係を示す略線図である。
図15】白抜けが発生する場合の印刷画像と定着ベルトの膜厚との関係を示す略線図である。
図16】定着ベルトにおける膜厚の測定箇所を示す略線図である。
図17】ニップ領域における圧力の分布と定着ベルトの膜厚との関係を示す略線図である。
図18】膜厚プロファイルにおける極大値及び極小値の距離及び膜厚差を示す略線図である。
図19】定着ベルトにおける複数の幅計測位置における幅方向間隔と膜厚の差分値との関係を示す略線図である。
図20】各幅方向膜厚差における白抜けの有無を示す略線図である。
図21】幅方向膜厚差と白抜けの有無との関係を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明を実施するための形態(以下実施の形態とする)について、図面を用いて説明する。
【0014】
[1.第1の実施の形態]
[1-1.画像形成装置の構成]
図1に示すように、第1の実施の形態による画像形成装置1は、電子写真式のプリンタであり、フィルム状の媒体Mに対しカラーの画像を形成すること、すなわち印刷することができる。
【0015】
画像形成装置1は、略箱型に形成された筐体2の内部に種々の部品が配置されている。因みに以下では、図1における右端部分を画像形成装置1の正面とし、この正面と対峙して見た場合の上下方向、左右方向及び前後方向をそれぞれ定義した上で説明する。また画像形成装置1は、左右方向の長さが170[mm]である媒体Mに対応するようになっており、後述する搬送路に沿って搬送しながら、画像を形成していく。このため画像形成装置1内の各部分は、左右方向に関し、当該媒体Mに対応した長さとなっている。
【0016】
画像形成装置1は、制御部3により全体を統括制御するようになっている。この制御部3は、図示しないコンピュータ装置等の上位装置と接続されており、この上位装置から印刷指示や印刷データを受信すると、媒体Mの表面に印刷画像を形成する画像形成処理(印刷処理とも呼ぶ)を実行する。
【0017】
筐体2内の前側部分には、媒体Mを収容する媒体カセット10が設けられている。この媒体カセット10は、全体として中空の直方体状に構成されており、上部が開放されると共に、その内部で媒体供給軸11を回転可能に支持している。媒体供給軸11は、その周囲に長尺の媒体Mが巻き付けられることにより、媒体供給ロールMR1を形成している。
【0018】
媒体供給軸11の後上側には、ピックアップローラ12が配置されている。ピックアップローラ12は、中心軸を左右方向に沿わせた円柱状に構成され、回転可能に支持されている。このピックアップローラ12は、図示しない駆動力源から駆動力が供給されると、図の反時計回りに回転することにより、媒体供給ロールMR1から媒体Mを引き出して後方へ送り出す。なお、画像形成装置1の内部には、ピックアップローラ12の後側に、媒体Mが搬送される搬送路Wが、前後方向に沿って概ね一直線状に形成されている。
【0019】
ピックアップローラ12の後側には、カッターユニット13が配置されている。カッターユニット13は、制御部3の制御に基づき、媒体Mを切断する。
【0020】
カッターユニット13の後側には、搬送路Wに沿って、複数の搬送ローラ対14及び媒体センサ15が適宜配置されている。搬送ローラ対14は、搬送路Wの上下それぞれに搬送ローラが配置された構成となっている。各搬送ローラは、中心軸を左右方向に沿わせた円柱状に形成されており、それぞれ回転可能に支持されると共に、その一方が他方に押し付けられている。この搬送ローラ対14は、上下の各搬送ローラによって媒体Mを挟持することにより、該媒体Mを搬送路Wに沿って後方へ進行させる。媒体センサ15は、搬送路Wを通過する媒体Mを検知して所定の検知信号を生成し、これを制御部3に供給する。制御部3は、この検知信号を基に、各部の動作を制御する。
【0021】
搬送ローラ対14及び媒体センサ15の上側には、中間転写ユニット20が配置されている。この中間転写ユニット20は、中間ローラ21及び22、5個の1次転写ローラ23、2次転写ローラ24、2次転写バックアップローラ25、並びに中間転写ベルト26等により構成されている。このうち中間ローラ21及び22、5個の1次転写ローラ23、2次転写ローラ24並びに2次転写バックアップローラ25は、何れも中心軸を左右方向に沿わせた円柱状に形成されており、回転可能に支持されている。
【0022】
中間ローラ21は、搬送ローラ対14等の上側に配置されている。中間ローラ22は、中間ローラ21の後側にやや離れて配置されており、図示しない駆動力源から駆動力が伝達される。いる。5個の1次転写ローラ23は、中間ローラ21及び22の間に、互いに概ね等間隔となるように、一直線状に順次配置されている。また1次転写ローラ23は、所定の高電圧が印加される。
【0023】
2次転写ローラ24は、前後方向に関して中間ローラ21及び22の間であって、搬送路Wの上側に隣接する位置に配置されている。2次転写バックアップローラ25は、2次転写ローラ24の直下における該2次転写ローラ24と当接する位置に配置されている。すなわち2次転写ローラ24及び2次転写バックアップローラ25は、搬送路W上に位置する媒体Mを挟持している。以下、2次転写ローラ24及び2次転写バックアップローラ25をまとめて2次転写部27とも呼び、両ローラにより挟持される箇所を2次転写ニップ部28とも呼ぶ。
【0024】
中間転写ベルト26は、可撓性を有する無端ベルトであり、中間ローラ21及び22、5個の1次転写ローラ23、並びに2次転写ローラ24の周囲を周回するように張架されている。中間転写ユニット20は、制御部3の制御に基づき、中間ローラ22及び1次転写ローラ23をそれぞれ図の時計回りに回転させることにより、中間転写ベルト26を図の時計回りに走行させる。
【0025】
各1次転写ローラ23の上側には、前後方向に沿って5個のプロセスユニット30(30K、30Y、30M、30C及び30S)が順次配置されている。各プロセスユニット30は、画像形成部や現像部とも呼ばれており、ブラック(K)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及び特色(S)の各色にそれぞれ対応しているものの、色のみが相違しており、何れも同様に構成されている。このうち特色は、例えば白色やクリア(透明)等、一般的なカラー印刷では使用されない特殊な色となっている。
【0026】
図2に模式的な側面図を示すように、プロセスユニット30は、露光部31と隣接するように配置されている。このプロセスユニット30には、トナー収容部32、供給ローラ33、帯電ローラ34、感光体ドラム35及び現像ブレード36等を有している。このうち各ローラ及び感光体ドラム35は、何れも中心軸を左右方向に沿わせた円柱状若しくは円筒状に構成されており、回転可能に構成されている。
【0027】
露光部31は、感光体ドラム35の上側において、複数のLED(Light Emitting Diode)を左右方向に沿って整列させている。トナー収容部32は、現像剤としてのトナーを収容している。また感光体ドラム35は、その下端近傍を中間転写ベルト26に当接させ、1次転写ローラ23との間に該中間転写ベルト26を挟持している。
【0028】
このプロセスユニット30では、所定の駆動力源から供給される駆動力により、感光体ドラム35が図の時計回りに回転すると共に、各ローラが図の反時計回りに回転する。帯電ローラ34は、感光体ドラム35の外周面を一様に帯電させる。露光部31は、制御部3の制御に基づいて各LEDを適宜発光させることにより、感光体ドラム35の外周面を感光させ、静電潜像を形成する。
【0029】
供給ローラ33は、トナー収容部32内のトナーを周側面に薄膜状に付着させている。感光体ドラム35は、形成された静電潜像に応じて供給ローラ33からトナーを転写させることにより、トナー画像(現像剤像とも呼ばれる)を形成する。このトナー画像は、1次転写ローラ23に印加された高電圧により中間転写ベルト26に転写される。また感光体ドラム35の外周面に残っていたトナーは、現像ブレード36によりそぎ落とされる。
【0030】
中間転写ユニット20(図1)は、中間転写ベルト26を走行させることにより、各プロセスユニット30から各色のトナー画像が順次転写され、このトナー画像を2次転写部27に到達させ、2次転写ニップ部28において媒体Mに転写する。
【0031】
2次転写部27の後側には、定着ユニット50が配置されている。定着ユニット50は、媒体Mを搬送路Wに沿って搬送しながら、該媒体Mに対して熱及び圧力を加えることにより、該媒体Mの表面にトナー画像を定着させ、後方へ送り出す(詳しくは後述する)。
【0032】
定着ユニット50の後側には、搬送ローラ対17及び媒体センサ18が配置されている。搬送ローラ対17は、搬送ローラ対14と同様に構成されており、媒体Mを後方向へ送り出す。媒体センサ18は、媒体センサ15と同様に構成されており、媒体Mを検知して所定の検知信号を生成し、これを制御部3に供給する。制御部3は、この検知信号を基に、各部の動作を制御する。
【0033】
画像形成装置1の後側には、媒体巻取ユニット60が設けられている。この媒体巻取ユニット60は、媒体カセット61の内部において、媒体巻取軸62が回転可能に支持されている。また媒体巻取軸62の前上側には、搬送ローラ対63が設けられている。媒体巻取ユニット60は、画像形成装置1から後方へ排出された媒体M、すなわち画像が形成された媒体Mを、搬送ローラ対63により後方向へ搬送した後、媒体巻取軸62に巻き付けながら巻き取ることにより、媒体巻取ローラMR2を形成する。
【0034】
このように画像形成装置1は、搬送路Wに沿って媒体Mを搬送しながら、プロセスユニット30により形成したトナー画像を該媒体Mに転写し、定着ユニット50において定着させることにより、画像を形成すること、すなわち印刷することができる。
【0035】
[1-2.定着ユニットの構成]
次に、定着ユニット50の構成について説明する。図3は、定着ユニット50の模式的な断面図である。定着ユニット50は、大きく分けて、搬送路Wの上側に位置する上定着ユニット51と、該搬送路Wの下側に位置する下定着ユニット52とにより構成されている。この定着ユニット50は、画像形成装置1内に設けられた他の部分と同様、左右方向に十分な長さを有している。
【0036】
上定着ユニット51は、加圧パッド71、駆動ローラ72、ヒータ73及び74、ガイドローラ75及び76、並びに定着ベルト77等を有している。
【0037】
加圧パッド71は、左右方向から見た場合の形状が台形に類似しており、下面が平坦に形成されている。駆動ローラ72は、中心軸を左右方向に沿わせた円柱状に形成されると共に回転可能に支持されており、図示しない駆動力源から駆動力が供給されると、図の時計回りに回転する。ヒータ73及び74は、制御部3(図1)の制御に基づき、図示しない電力供給部から電力が供給されると発熱する。
【0038】
ガイドローラ75は、加圧パッド71並びにヒータ73及び74の上方に位置している。ガイドローラ76は、加圧パッド71の前方に位置している。このガイドローラ75及び76は、何れも中心軸を左右方向に沿わせた円柱状に形成されており、回転可能に支持されている。
【0039】
環状ベルトとしての定着ベルト77は、中空の円筒状に構成されると共に左右方向に十分な長さを有する無端ベルトであり、可撓性及び耐熱性を有している。この定着ベルト77は、図4に模式的な断面図を示すように、基体81、弾性層82及び表層83といった3種類の部材が順次積層された層構造となっている。定着ベルト77の内径は、約15~60[mm]とすることが可能である。本実施の形態では、定着ベルト77の内径を、42~48[mm]とした。
【0040】
基体81は、定着ベルト77の最も内側に位置しており、例えばステンレスのような金属材料により構成されている。基体81の厚さは、約20~60[μm]とすることが可能である。本実施の形態では、基体81の厚さを、約40~60[μm]とした。また基体81は、ポリイミドのような樹脂材料により構成することも可能であり、この場合の厚さを約50~120[μm]とすることができる。
【0041】
弾性層82は、基体81及び表層83の間に位置しており、例えばシリコーンゴムにより構成されている。弾性層82の厚さは、約100~1000[μm]とすることが可能であり、本実施の形態では約300~800[μm]としている。この弾性層82を構成するシリコーンゴムの硬度に関しては、JIS K 6253に基づくデュロメータタイプA(シェアA)の測定方法において、約10~50[°]であることが望ましい。本実施の形態では、弾性層82として、硬度が約30~40[°]の材料を使用した。
【0042】
表層83は、定着ベルト77の最も外側に位置しており、例えばPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)により構成されている。表層83の厚さは、約8~40[μm]とすることが可能である。本実施の形態では、表層83の厚さを15~30[μm]とした。
【0043】
この定着ベルト77(図3)は、加圧パッド71、駆動ローラ72、ガイドローラ75及び76の周囲を周回するように配置されている。このため定着ベルト77は、駆動ローラ72が時計回りに回転すると、時計回りに周回するように走行する。また定着ベルト77は、ヒータ73及び74から熱が供給されるため、例えば140~160[℃]のように比較的高温となる。
【0044】
下定着ユニット52は、上定着ユニット51と概ね上下対称に構成されており、加圧パッド91、加圧ローラ92、ヒータ93、ガイドローラ95及び96、並びに対向部材としての加圧ベルト97等を有している。
【0045】
このうち加圧パッド91、ヒータ93、ガイドローラ95及び96、並びに加圧ベルト97は、それぞれ加圧パッド71、ヒータ73、ガイドローラ75及び76、並びに定着ベルト77と同様に構成されている。加圧ローラ92は、駆動ローラ72と同様、中心軸を左右方向に沿わせた円柱状に形成されると共に回転可能に支持されているものの、駆動力は供給されていない。
【0046】
この定着ユニット50では、加圧パッド71及び91が互いに近接する方向に付勢されると共に、駆動ローラ72及び加圧ローラ92も互いに近接する方向に付勢されている。これにより定着ユニット50では、定着ベルト77のうち加圧パッド71及び駆動ローラ72の近傍にある部分と、加圧ベルト97のうち加圧パッド91及び加圧ローラ92の近傍にある部分とを、搬送路W上で互いに当接させている。以下では、この部分をニップ領域Nと呼び、このニップ領域Nにおける搬送路Wに沿った前後方向の長さをニップ幅WNと呼ぶ。本実施の形態では、ニップ幅WNを20~23[mm]としている。
【0047】
またニップ領域Nでは、加圧パッド71等による圧力よりも、駆動ローラ72等による圧力の方が高められており、図5に示すような圧力分布となっている。この図5は、横軸が前後方向の位置を表しており、縦軸が圧力の大きさを表している。以下では、加圧パッド71等により圧力が加えられた領域を第1荷重領域AR1と呼び、駆動ローラ72等により圧力が加えられた領域を第2荷重領域AR2と呼ぶ。
【0048】
定着ユニット50では、主に第1荷重領域AR1において、比較的弱い圧力を加えて媒体M上のトナーを溶融させ、主に第2荷重領域AR2において、第1荷重領域AR1よりも強い圧力を加えて該媒体Mの表面に対してトナーを定着させるようになっている。この定着ユニット50では、定着ベルト77と加圧ベルト97とを搬送路の上側部分及び下側部分のうち少なくとも一方を1本のローラにより構成する場合と比較して、ニップ幅WNを比較的長く構成できるため、定着性を高めることができる。
【0049】
この定着ユニット50では、図示しない付勢部材や重力等の作用により、上定着ユニット51及び下定着ユニット52の間で25~35[kg]の荷重に相当する圧力が作用することが望ましい。本実施の形態では、上定着ユニット51及び下定着ユニット52の間で、左右方向に関し長さが170[mm]の範囲において、30[kg]の荷重が作用する状態で、定着ユニット50を動作させるようにした。
【0050】
また画像形成装置1では、媒体Mとして、フィルムとして構成されたもの、或いはいわゆるコート紙や耐水紙のように、通紙の際に発生する抵抗が比較的大きい媒体を使用する場合がある。このとき画像形成装置1では、普通紙を使用する場合と比較して、媒体Mの搬送速度(すなわち通紙速度)を低下させることにより、該媒体Mに対するトナーの定着効率を高めると共に定着性を向上させるようになっている。
【0051】
画像形成装置1では、フィルムでなる媒体Mを使用する場合の搬送速度を約2~6[ips(inch per second)]、すなわち50.8~152.4[mm/s]とすることが可能であり、本実施の形態では4[ips]、すなわち約101.6[mm/s]とした。この場合、画像形成装置1では、ニップ幅WNが20[mm]であることから、定着ユニット50において媒体M上の所定箇所がニップ領域Nを通過するのに要する通過時間が、約0.2[s]となる。
【0052】
このような構成により、定着ユニット50では、駆動ローラ72を回転させ定着ベルト77を走行させると、これに追従するようにして加圧ベルト97を図の反時計回りに走行させることができる。またこのとき定着ユニット50では、搬送路Wに沿って媒体Mが搬送されていると、該媒体Mのうちニップ領域N内に位置する部分に対して熱及び圧力を加える。これにより定着ユニット50は、2次転写部27(図1)において媒体Mにトナー画像が転写されていた場合、そのトナーを溶融させてこのトナー画像を該媒体Mに定着させることができる。
【0053】
[1-3.定着ベルトの詳細]
ところで、本実施の形態において使用する媒体Mは、上述したフィルムとして構成されている。この媒体Mは、図6に模式的な斜視図及びその切断面を示すように、例えば基体層ML1における両方に被覆層ML2及びML3がそれぞれ重ねられた構成となっている。
【0054】
また媒体Mは、基体層ML1、被覆層ML2及びML3に、複数の微細な空孔H1、H2及びH3がそれぞれ形成されることにより、光を乱反射させ白色の度合いを高めており、また筆記のしやすさを高めると共に軽量化を実現している。
【0055】
この媒体Mは、例えば単一の色により塗り潰された一定の領域(ベタ領域等とも呼ばれる)を含む画像が画像形成装置1等によって印刷された場合等に、一様に光沢を有する高品質な状態に仕上がることが期待される。しかし媒体Mでは、各層に各空孔が形成されているため、定着ユニット50のニップ領域Nにおいて荷重(すなわち圧力)が加えられ際に、その表面のうち該空孔が形成された部分の近傍が局所的に大きく変形し、微細な窪みDが形成される場合がある。
【0056】
定着ユニット50は、このような構成の媒体Mにトナー画像を定着させる場合、窪みDがニップ領域Nを通過する間に、加えられた荷重により定着ベルト77の一部を該窪みDに入り込むように変形させて該窪みDの内側面に当接させ、トナーを該媒体Mの表面に押し付けることが望ましい。
【0057】
一方、画像形成装置1では、上述したように、フィルム状の媒体Mを使用する場合、該媒体Mの搬送速度を4[ips]、すなわち約101.6[mm/s]としており、これに伴い定着ユニット50のニップ領域Nにおける媒体Mの通過時間が約0.2[s]となっている。このことは、定着ユニット50において、定着ベルト77が媒体Mに当接した状態で荷重が加えられ変形を開始してから、0.2[s]以内に窪みDに応じた形状に変形できれば、該媒体Mに対し熱及び圧力を適切に加え得ることを意味している。これを換言すれば、画像形成装置1では、定着ユニット50の定着ベルト77に関し、変形する速度や硬度等が適切な範囲に収まっていれば、窪みDにおいてもトナーを適切に定着させ、画像に光沢を生じさせることが可能となる。
【0058】
ここで、定着ベルト77が変形する速度や硬度と、媒体Mに対する追従の可能性との関係について図7(A)~(C)を参照しながら説明する。図7(A)~(C)は、ニップ領域Nにおいて、窪みDが形成された媒体Mの表面に対し、定着ベルト77が当接している様子を模式的に表した断面図である。
【0059】
例えば、図7(A)に示すように、定着ベルト77の硬度が比較的低いために変形する速度が比較的遅い場合、該定着ベルト77は、窪みDに対し完全に入り込むことができず、窪みDの内側面においてトナーに熱や圧力を十分に伝えられない。換言すれば、このとき定着ベルト77は、媒体Mにおける窪みDを含めた形状に対する追従が遅く、或いは応答性が悪いため、通過時間内では該媒体Mに対し十分に追従できない。この場合、媒体Mは、該窪みDが形成された箇所において局所的に光沢が表れない、いわゆる光沢ムラが発生した状態となるため、画質が低いと評価されることになる。
【0060】
一方、図7(B)に示すように、定着ベルト77の硬度が適切な範囲にあり変形する速度が適切である場合、定着ベルト77は、窪みDに対し完全に入り込むことができ、窪みDの内側面においてトナーに熱や圧力を十分に伝えられる。換言すれば、このとき定着ベルト77は、媒体Mにおける窪みDを含めた形状に対する追従性が高く、応答性が良好となっている。この場合、媒体Mは、該窪みDが形成された箇所においても光沢が十分に表れ、一様に光沢を有する状態となるため、画質が高いと評価されることになる。
【0061】
さらに、図7(C)に示すように、定着ベルト77の硬度が比較的高い場合、該定着ベルト77は、窪みDに対し完全に入り込むことができず、窪みDの内側面においてトナーに熱や圧力を十分に伝えられない。換言すれば、このとき定着ベルト77は、媒体Mにおける窪みDを含めた形状に対する追従性が低く、応答性が悪くなっている。この場合、媒体Mは、図7(A)の場合と同様に、該窪みDが形成された箇所において局所的に光沢が表れない、いわゆる光沢ムラが発生した状態となるため、画質が低いと評価されることになる。
【0062】
このように定着ユニット50では、定着ベルト77の硬度や変形する速度が適切な範囲内であれば、媒体Mの形状に対し適切に追従できるので、各部分においてトナーを良好に定着させ、光沢ムラが発生する可能性を低減できると考えられる。
【0063】
ところで、定着ベルト77のように比較的薄く構成された部材の硬度を測定する場合、一般的に、いわゆる微小硬度計を用いて硬度計測を行う。この微小硬度計では、例えば円柱状等に形成された探針(計測端子とも呼ばれる)を対象部材に当接させ、所定の荷重や速度を加えて押し込み、当該探針の変位量を基に、硬度を計測することができる。
【0064】
本実施の形態では、微小硬度計として、高分子計器株式会社製「マイクロゴム硬度計 MD-1capa」を使用した。また本実施の形態では、直径が0.16[mm]の円柱形状でなる探針を計測に使用し、この探針の降下速度(すなわち押込速度)を3.2[mm/s]とし、荷重を22~332[Nm]とした。
【0065】
図8は、互いに構成が異なる複数の定着ベルト77について、微小硬度計によりそれぞれ得られた計測値の時間的な変化の一例を、グラフとして表したものである。縦軸は、硬度の値を表しており、最終的に飽和した際の硬度の値(以下これを飽和硬度値と呼ぶ)に対する相対値[%]に換算している。横軸は、計測を開始した時点からの経過時間であり、0.1[s]ごとに値をプロットしている。以下では、図8に示した各プロットを結んだ特性曲線をプロファイルとも呼ぶ。
【0066】
この図8では、測定開始後の時間経過に応じて、微小硬度計による計測値が増加していく様子や、定着ベルト77の構成に応じてプロファイルの形状が異なる様子が表れている。このように、定着ベルト77におけるプロファイルの形状が異なることは、当該定着ベルト77における変形の速度が異なることを表している。
【0067】
そこで本実施の形態では、この微小硬度計を利用して定着ベルト77の硬度を計測するようにした。また本実施の形態では、計測開始後に0.2[s]が経過した時点における計測値(以下これを荷重硬度値と呼ぶ)を、該定着ベルト77が変形する速度に応じた値と見なすようにした。以下では、この0.2[s]を計測時間とも呼ぶ。
【0068】
さらに本実施の形態では、定着ベルト77における荷重硬度値と、当該定着ベルト77を用いて媒体Mに印刷された画像の品質との関係を調査した。また本実施の形態では、荷重硬度値を、最終的に収束した硬度の値である飽和硬度値に対する相対的な比率(以下これを荷重硬度比率と呼ぶ)として表すことにより、硬度値を正規化し、比較の容易化を図った。説明の都合上、以下では、荷重硬度値及び飽和硬度値を、それぞれ第1の硬度値及び第2の硬度値とも呼ぶ。
【0069】
具体的に本実施の形態では、評価試験として、弾性層82及び表層83を様々な構成とした5種類の定着ベルト77(77A~77E)を用意し、微小硬度計により各定着ベルト77の硬度をそれぞれ計測した。
【0070】
また本評価試験では、各定着ベルト77について、その仕様に関し、弾性層82の厚さ[μm]、弾性層82の硬度[°]及び表層83の厚さ[μm]をそれぞれ測定した。このうち弾性層82の厚さについては、左右方向(幅方向とも呼ぶ)に離れた複数箇所においてそれぞれ測定し、定着ベルト77ごとに、最大値及び最小値を特定すると共に平均値を算出した。
【0071】
図9に示す表TBL1は、各定着ベルト77の仕様や計測結果を表形式にまとめたものである。この表TBL1には、各定着ベルト77の仕様として、弾性層82の厚さ[μm]に関する最大値、最小値及び平均値、並びに弾性層82の硬度[°]、及び表層83の厚さ[μm]を記載した。
【0072】
また表TBL1には、各定着ベルト77の飽和硬度値[°]及び荷重硬度値[°]の計測値、並びに両者を基に算出された荷重硬度比率を、それぞれ記載した。なお、荷重硬度比率については、各定着ベルト77の左右方向に離れた複数箇所においてそれぞれ測定した値のうち、最大値、最小値及び平均値のそれぞれについて、小数点以下第4位を四捨五入した値を記載した。また飽和硬度値及び荷重硬度値については、各定着ベルト77の左右方向に離れた複数箇所においてそれぞれ測定した値の平均値のみを記載した。
【0073】
次に本実施の形態では、画像形成装置1の定着ユニット50において各定着ベルト77(77A~77E)を使用し、上述したフィルム状の媒体Mを使用して、後述する試験画像を印刷する印刷試験をそれぞれ行い、得られた印刷結果に対する評価をそれぞれ行った。この印刷試験では、画像形成装置1として沖電気工業株式会社製「Pro1050」を使用した。また媒体Mの搬送速度は、4[ips]、すなわち約101.6[mm/s]とした。
【0074】
この印刷試験では、シアンとマゼンタの混色により全面を一様に塗り潰した画像(いわゆる全面ベタ画像)を試験画像とした。また印刷後の媒体Mでは、光沢ムラが発生する場合、その表面に微小な凹凸が形成され、非平面となっていることが考えられる。すなわち媒体Mでは、平面部分の面積が減少し非平面部分の面積が増加するに連れて、光沢ムラの度合いが高まると考えられる。
【0075】
そこで本実施の形態では、媒体Mの印刷結果に対する評価として、該媒体Mの表面における平面部分の面積の比率を基に、複数段階の「レベル」に区分する評価を行った。このように区分された各レベルは、光沢ムラが発生する度合と高い相関を有することになる。すなわち本実施の形態では、印刷後の媒体Mの表面における平面部分の比率を用いることにより、該媒体Mにおいて光沢ムラが発生する度合を、客観的な指標により表すようにした。
【0076】
具体的に本実施の形態では、各定着ベルト77を定着ユニット50に組み込んだ画像形成装置1により、試験画像を該媒体Mに印刷した。本実施の形態では、媒体Mとして、株式会社ユポ・コーポレーション製「ユポタック(登録商標)原紙[高機能品]」を使用した。
【0077】
次に本実施の形態では、当該媒体Mの表面形状をレーザー顕微鏡により観測して顕微鏡画像を撮像した。本実施の形態では、レーザー顕微鏡として、レーザーテック株式会社製のコンフォーカル顕微鏡「OPTELICS(登録商標) HYBRID」を使用した。
【0078】
続いて本実施の形態では、このレーザー顕微鏡により、得られた顕微鏡画像における各画素の輝度を基に2値化処理を行い、平面部分と非平面部分とを区分した。さらに本実施の形態では、顕微鏡画像全体の面積に対する平面部分の面積の比率を算出し、これをトナー平面面積率[%]とした。ここで、レーザー顕微鏡に関しては、以下のような設定内容を採用した。
【0079】
光量:50[%]
明るさ:500
対物レンズ:10x (倍率185倍)
パッチワーク枚数:縦8枚×横8枚(11[mm]×11[mm]の画像領域)
2値化メソッド:輝度値
平面部抽出閾値:85~190(輝度値)
【0080】
さらに本実施の形態では、算出されたトナー平面面積率[%]の値に関し、以下のような閾値を設定することにより、光沢ムラが比較的多い「レベル1」から光沢ムラがほとんど見られない「レベル10」までの、10段階の光沢レベルに区分した。各評価レベルの閾値に関しては、トナー平面面積率[%]が様々な値である複数の媒体Mにおける光沢ムラの状態を目視により観察し、各レベルの間で有意な差異が認められるよう、それぞれの値を適切に設定した。
【0081】
因みに本評価試験では、各定着ベルト77について、左右方向に離れた複数箇所における飽和硬度値等を基に複数の荷重硬度比率を算出しているものの、1個の定着ベルト77に対しては1種類の光沢レベルに区分し、その値を表TBL1(図9)に示した。
【0082】
また定着ベルト77に関しては、弾性層82の厚さが比較的大きいために、ニップ領域Nにおける圧力に対し表層83が耐えきれなくなって割れる現象(以下これを表層割れと呼ぶ)が発生し、形成された画像の画質が大幅に低下する場合がある。そこで本評価試験では、この表層割れの有無に関しても評価を行い、その結果を表TBL1(図9)に示した。
【0083】
さらに本評価試験では、光沢レベル及び表層割れ、並びに弾性層82の硬度に関する知見等を基に、各定着ベルト77に対する総合評価を行い、記号「○」、「△」及び「×」により表される3段階に区分して、その結果を表TBL1(図9)に示した。
【0084】
記号「○」は、評価が高いことを表しており、光沢レベルがレベル5以上であり、且つ表層割れ等の問題が発生していない場合が該当する。また記号「△」は、評価が中程度であることを表しており、光沢レベルがレベル5以上であるものの、表層割れ等の何らかの問題が発生している場合が該当する。この問題の一例としては、例えば荷重硬度比率が0.700を超えるような比較的高い値の場合に、弾性層82が硬すぎる状態となり、特に複数の色を混在させる混色の場合に定着率の低下を引き起こすことが挙げられる。さらに記号「×」は、評価が低いことを表しており、光沢レベルがレベル4以下である場合が該当する。
【0085】
次に示す図10は、荷重硬度比率及び評価レベルをそれぞれ横軸及び縦軸としたグラフであり、各定着ベルト77の値を基にプロットを配置した。また図11は、弾性層82の厚さ及び荷重硬度比率をそれぞれ横軸及び縦軸としたグラフであり、各定着ベルト77の値を基にプロットを配置した。また各グラフでは、総合評価の記号をプロットした。
【0086】
この図10及び図11では、各定着ベルト77について、左右方向に離れた複数箇所から得られたそれぞれの荷重硬度比率について、それぞれのプロットを表した。このため図10では、1個の定着ベルト77に関する複数のプロットが、荷重硬度比率の値における最小値から最大値に至る範囲に広がって分布している。
【0087】
以下では、図9図10及び図11を基に、この評価試験における荷重硬度比率と評価レベルとの相関等について説明する。
【0088】
本評価試験では、図10において、荷重硬度比率の値が少なくとも0.566(56.6%)以上である場合、評価レベルがレベル5以上となった。このとき定着ユニット50では、図7(B)に示したように、定着ベルト77において押し込みに対する応答が比較的速く、媒体Mに形成された窪みDに対する追従性も高いと考えられる。このため画像形成装置1は、定着ユニット50のニップ領域Nにおいて、媒体Mの各部分に対し熱及び圧力を均等に与えることができ、該媒体Mに印刷した画像において、光沢ムラを良好に低減させることができる。
【0089】
また本評価試験では、図10において、荷重硬度比率の値に関し、さらに上限を考慮して0.898(89.8%)以下とした場合、すなわち範囲R1内である場合に、評価レベルがレベル5以上である、と見なすこともできる。この場合も、定着ユニット50では、図7(B)に示したように、定着ベルト77において押し込みに対する応答が比較的速く、媒体Mに形成された窪みDに対する追従性も高いと考えられる。またこの場合、弾性層82の厚さは377~834[μm]の範囲内となる。
【0090】
また本評価試験では、図11において、荷重硬度比率の値が0.566(56.6%)以上0.698(69.8%)以下の範囲R2内であり、且つ弾性層82の厚さが377[μm]以上607[μm]以下の範囲R3内ある場合、評価レベルがレベル5以上であり、且つ他の問題が発生しなかった。このとき定着ユニット50では、押し込みに対する応答が比較的速いことに加えて、弾性層82の厚さや硬度が大きすぎず、適切な範囲内にあると考えられる。このため画像形成装置1は、媒体Mに印刷した画像において光沢ムラを格段にさせることができ、且つ画像の割れや定着率の低下を引き起こすこと無く、極めて高い品質の印刷結果を得ることができる。
【0091】
一方、本評価試験では、荷重硬度比率の値が0.566未満であった場合、評価レベルがレベル4以下となった。このとき定着ユニット50では、図7(A)に示したように、定着ベルト77において押し込みに対する応答が比較的遅く、媒体Mに形成された窪みDに対する追従性が低いと考えられる。この結果、画像形成装置1は、媒体Mに印刷した画像において、光沢ムラを比較的多く発生させてしまう。
【0092】
このように本評価試験では、荷重硬度比率の値に応じて、媒体Mに印刷された画像における光沢ムラの発生度合が変化する、といった関係性が明らかになった。また本評価試験では、光沢ムラの発生度合を良好に低減させ得るような荷重硬度比率の範囲や荷重硬度値の範囲も明らかになった。
【0093】
以上を踏まえ、本実施の形態による画像形成装置1の定着ユニット50では、定着ベルト77における荷重硬度比率の値を、少なくとも0.566以上とし、望ましくは0.898以下とし、さらに望ましくは0.698以下とするように選定した。また画像形成装置1の定着ユニット50では、定着ベルト77における弾性層82の厚さを、377[μm]以上607[μm]以下とするようにした。
【0094】
なお定着ユニット50では、定着ベルト77に関し、ニップ領域Nを通過するニップ通過終了時間までに、硬度比率の値が少なくとも0.566以上に達していれば、媒体Mにおける平坦な部分及び窪みDの何れにおいても、光沢ムラの発生を抑えることができる。このため、定着ベルト77の硬度比率を得る場合における、硬度計による硬度値の計測時間は、0.2[s]以外としても良い。
【0095】
具体的に、本実施の形態では、ニップ幅WNが20[mm]であるから、例えば搬送速度が50.8[mm/s]の場合、ニップ通過終了時間が0.39[s]となる。この場合、硬度計による硬度値の計測時間は、0.39[s]となる。また、例えば搬送速度が152.4[mm/s]の場合、ニップ通過終了時間が0.13[s]となる。この場合、硬度計による硬度値の計測時間は、0.13[s]となる。このため、本実施の形態では、ニップ領域を通過するのに要する時間、具体的には0.26±0.13[s]が経過した時点において、硬度比率の値が、少なくとも0.566以上に達していれば良い。
【0096】
[1-4.効果等]
以上の構成において、第1の実施の形態による画像形成装置1は、フィルム状の媒体Mに画像を印刷する場合、定着ユニット50の定着ベルト77を、該媒体Mがニップ領域Nを通過する時間で十分に変形する、といった性質を有するものとした。具体的に画像形成装置1では、定着ベルト77として、微小硬度計を用いて測定される荷重硬度比率の値が、少なくとも0.566以上であるものを採用した。
【0097】
このため画像形成装置1は、媒体Mが定着ユニット50のニップ領域Nを通過する約0.2[s]の間に、該媒体Mの窪みDに合わせて定着ベルト77の形状を確実に変形させ、その表面に当接させることができる(図7(B))。これにより画像形成装置1は、媒体Mにおける平坦な部分及び窪みDの何れにおいても、定着ベルト77により熱及び圧力を加えてトナーを十分に定着させることができ、該媒体Mに印刷された画像においてムラの無い一様な光沢性を持たせることができる。特に画像形成装置1は、柔軟性を高める等の目的により複数の微細な空孔が形成されたフィルム状の媒体Mにおいても、印刷された画像に一様な光沢性を持たせることができる。
【0098】
また画像形成装置1は、定着ユニット50の定着ベルト77に関し、荷重硬度比率の値が0.566以上0.898以下とすること、すなわち図10における範囲R1内とすることもできる。この場合、画像形成装置1は、弾性層82における硬度が過剰に高くなって媒体Mに対する追従性が低下し、結果として印刷後の画像において光沢ムラが発生することを、良好に回避できる。
【0099】
さらに画像形成装置1は、定着ユニット50の定着ベルト77として、荷重硬度比率の値が0.566以上0.698以下に収まり、且つ弾性層82の厚さが377[μm]以上607[μm]以下に収まるように、すなわち図11における範囲R2及びR3に収まるようにすることもできる。この場合、画像形成装置1では、定着ベルト77における弾性層82の厚さが大きい場合に生じ得る、ニップ領域Nの圧力に耐えきれず表層83に割れが発生し、結果的に画像の品質を大幅に低下させる、といった事態を回避できる。
【0100】
特に本実施の形態では、定着ベルト77の単なる硬度、すなわち飽和硬度値では無く、微小硬度計による計測値のうち、計測開始から0.2[s]が経過した時点の値である荷重硬度値を利用するようにした。また本実施の形態では、この0.2[s]という時間を、媒体Mがニップ領域Nを通過するのに要する時間とし、具体的には該媒体Mの搬送速度及びニップ領域Nの長さであるニップ幅WNを基に算出するようにした。このため画像形成装置1では、媒体Mがニップ領域Nを通過する間に窪みDに合わせて変形し終えるような適切な定着ベルト77を採用することができる。
【0101】
他の観点から見ると、本実施の形態では、微小硬度計に関し、通常とは一部異なる手法により利用するようにした。通常であれば、微小硬度計を使用する場合、計測対象物に探針を押し当て、ある程度の時間が経過した後に値が安定した段階で、このときの値(すなわち飽和硬度値)を計測値とする。
【0102】
これに対し、本実施の形態では、微小硬度計の探針を押し当てることによる定着ベルト77の経時変化が、媒体Mの窪みDに当接した該定着ベルト77の経時変化に極めて近いものとみなすようにした。これにより、本実施の形態では、微小硬度計における計測値の経時変化を逐次読み取ることにより、定着ベルト77の経時的な形状変化の様子として捉えることができる。
【0103】
さらに別の観点から見ると、画像形成装置1では、フィルム状の媒体Mに対しトナーを良好に定着させる観点から、定着ユニット50においてニップ領域Nのニップ幅WNを比較的長く形成するようにした。具体的に定着ユニット50では、上定着ユニット51を単なるローラによる構成とせず、加圧パッド71等及び駆動ローラ72等の周囲に定着ベルト77を周回させる構成とし、下定着ユニット52もこれと類似した構成とした。このような構成の定着ユニット50では、定着ベルト77等を比較的薄く形成する必要があるため、該定着ベルト77に十分な厚さを持たせることが難しく、その結果として該定着ベルト77における硬度の選定が困難であった。
【0104】
この点において、本実施の形態では、ニップ領域Nを通過する通過時間(すなわち0.2[s])における定着ベルト77の追従性や応答性に着目し、荷重硬度比率を指標として使用することにより、良好な範囲R1(図10)等を特定した。このため画像形成装置1では、定着ユニット50(図3)において比較的大きいニップ幅WNを確保しながら、比較的薄く構成された定着ベルト77において追従性や応答性を適切に高めることができ、形成された画像において良好な光沢性を得ることができる。
【0105】
また本実施の形態では、顕微鏡画像における各画素の輝度に基づいたトナー平面面積率を指標とし、その値に応じて評価レベルを区分するようにした。このため本実施の形態では、光沢ムラの有無や度合に関し、目視に頼った曖昧な区分では無く、一様な基準に従った明確な区分により、各定着ベルト77の客観的な評価レベルを適切に定めることができる。この結果、画像形成装置1では、適切に評価されたレベルを基に選定された適切な定着ベルト77を用いることにより、光沢ムラが殆ど見られないような、十分な光沢性を有する画像を媒体Mに印刷することができる。
【0106】
以上の構成によれば、第1の実施の形態による画像形成装置1は、フィルム状の媒体Mに画像を印刷する場合、定着ユニット50の定着ベルト77を、微小硬度計を用いて測定される荷重硬度比率の値が少なくとも0.566以上となるようにした。このため画像形成装置1は、媒体Mが定着ユニット50のニップ領域Nを通過する約0.2[s]の間に、該媒体Mの微小な窪みDに合わせて定着ベルト77の形状を確実に変形させることができる。これにより画像形成装置1は、媒体Mに対し平坦な部分及び窪みDの何れにおいてもトナーを十分に定着させることができ、該媒体Mに印刷された画像において光沢ムラの発生を抑え、一様な光沢性を持たせることができる。
【0107】
[2.第2の実施の形態]
第2の実施の形態による画像形成装置201(図1)は、第1の実施の形態による画像形成装置1と比較して、定着ユニット50に変わる定着ユニット250を有する点にお手相違するものの、他の点については同様に構成されている。定着ユニット250(図3)は、第1の実施の形態による定着ユニット50と比較して、定着ベルト77に代わる定着ベルト277を有する点において相違する。この定着ベルト277は、第1の実施の形態における定着ベルト77(図4)と同様に構成されており、基体81、弾性層82及び表層83が順次積層されている。
【0108】
[2-1.定着ベルトの詳細]
第2の実施の形態では、定着ベルト277における弾性層82の厚さに関する評価試験として、まず第1の実施の形態と同様に、複数種類の定着ベルト277に対し、微小硬度計を用いた荷重硬度値等の計測や光沢ムラに関する評価レベルの区分を行った。
【0109】
具体的に、第2の実施の形態における評価試験では、7種類の定着ベルト277(277A~277G)を使用した。図12に示す表TBL2は、この評価試験における定着ベルト277の仕様の一部と評価レベル、及び総合的な評価をまとめたものである。
【0110】
この評価試験では、弾性層82の厚さが377[μm]未満である場合、光沢ムラの発生度合いが比較的大きく、評価レベルが4以下となった。一方、この評価試験では、弾性層82の厚さが377[μm]以上である場合、媒体Mに印刷された画像において光沢ムラの発生度合いが比較的小さく、良好な光沢が得られており、評価レベルが5以上となった。
【0111】
またこの評価試験では、弾性層82の厚さが607[μm]以下である場合、表層83において表層割れが発生せず、媒体Mに印刷された画像において良好な画質が得られた。一方、この評価試験では、弾性層82の厚さが607[μm]よりも大きい場合、表層83において表層割れが発生し、媒体Mに印刷された画像において画質の低下が見られた。
【0112】
これらを基に、この評価試験では、弾性層82の厚さが377[μm]以上607[μm]以下である場合に、総合評価が高いものとし、表TBL2において記号「○」により表した。一方、この評価試験では、弾性層82の厚さが377[μm]よりも小さい場合、又は607[μm]よりも大きい場合に、総合評価が低いものとし、表TBL2において記号「×」により表した。
【0113】
図13は、この評価試験における弾性層82の厚さ及び光沢レベルをそれぞれ横軸及び縦軸としたグラフであり、各定着ベルト277の値を基にプロットを配置した。この図13のグラフでは、総合評価の記号をプロットした。この図13から、弾性層82の厚さが377[μm]以上607[μm]以下となる範囲R21において、光沢レベルの値が5以上である範囲R22となっている。
【0114】
ところで画像形成装置201では、総合評価が高い定着ベルト277を使用したにもかかわらず、媒体Mに印刷された画像の画質に問題が発生する場合が見受けられた。
【0115】
例えば図14(A)は、画像形成装置201において、ある定着ベルト277(以下これを定着ベルト277Jと呼ぶ)を使用し、第1の実施の形態における評価試験と同様の試験画像(すなわち全面ベタ画像)を印刷した結果を表している。この図14(A)は、画像が印刷された媒体Mのうち、定着ベルト277の1周分に相当する長さの範囲を表している。この図14(A)では、画質に問題は発生していない。
【0116】
一方、図14(A)と対応する図15(A)は、画像形成装置201において、他の定着ベルト277(以下これを定着ベルト277Kと呼ぶ)を使用し、同様の試験画像を印刷した結果を表している。この図15(A)では、画像の一部に、媒体Mにトナーが十分に定着されておらず、該媒体Mの地色である白色に近い色を呈している部分(以下この現象を白抜けと呼ぶ)が存在する。
【0117】
ここで本実施の形態では、定着ベルト277の厚さ(以下これを膜厚と呼ぶ)に着目し、該定着ベルト277に複数の計測箇所を設定し、図示しない膜厚計測器を用いることにより、各計測箇所における膜厚をそれぞれ計測した。
【0118】
定着ベルト277における計測箇所のうち、左右方向(以下これを幅方向とも呼ぶ)に関する位置は、図16(A)に模式図を示すように、左端から幅方向端部間隔LA0(例えば6[mm])となる位置から幅方向間隔LA1(例えば26[mm])ごとにそれぞれ設定した。以下では、それぞれの位置を、左側から順に幅計測位置PA1、PA2、…と呼ぶ。また定着ベルト277における計測箇所のうち、周方向に関する位置は、図14(B)に模式図を示すように周方向間隔LC1(例えば0.4[mm])ごとにそれぞれ設定した。
【0119】
まず、定着ベルト277Jについて、幅計測位置PA3及びPA4における、周方向に沿った計測箇所毎の膜厚をそれぞれ計測したところ、図14(B)に示すような膜厚分布曲線PF3J及びPF4Jが得られた。以下では、このような膜厚分布曲線を膜厚プロファイルとも呼ぶ。図14(B)は、横軸が周方向に関する位置を角度[°]によって表しており、縦軸が膜厚[μm]を表している。
【0120】
この図14(B)では、膜厚分布曲線PF3J及びPF4Jの何れにおいても、周方向の位置に応じて膜厚がある程度増減している。しかし膜厚分布曲線PF3J及びPF4Jは、周方向に関する各位置における膜厚の絶対値や、増減が発生している部分の周方向に関する位置(以下これを位相とも呼ぶ)及び増減の度合いが、互いに概ね一致している。これを換言すれば、膜厚分布曲線PF3J及びPF4Jは、互いの波形に関する類似の度合いが比較的高く、また周方向に関する位置のずれ(以下これを位相差とも呼ぶ)も殆ど生じていない。
【0121】
次に、定着ベルト277Kについて、同様に幅計測位置PA3及びPA4における、周方向に沿った計測箇所毎の膜厚をそれぞれ計測したところ、図14(B)と対応する図15(B)に示すような膜厚分布曲線PF3K(破線)及びPF4K(実線)が得られた。
【0122】
この図15(B)では、膜厚分布曲線PF3K及びPF4Kの何れにおいても、周方向の位置に応じて膜厚がある程度増減している。また膜厚分布曲線PF3K及びPF4Kは、周方向に関する各位置における膜厚の絶対値や、増減が発生している部分の周方向に関する位置(すなわち位相)に関し、ある程度の差異が生じている。これを換言すれば、膜厚分布曲線PF3K及びPF4Kは、互いの波形に関する類似の度合いがやや低く、周方向に関する位置のずれ(すなわち位相差)が生じている。
【0123】
さらに膜厚分布曲線PF3K及びPF4Kでは、約90[°]のような比較的短い周期で、膜厚の増減によるピーク形状が繰り返し出現している。図15(B)を図15(A)と対比してみると、周方向に関し、膜厚分布曲線PF3Kにおけるピークと膜厚分布曲線PF4Kにおけるピークとに挟まれた範囲において、白抜けが発生している。これを詳細に見ると、図15(B)では、周方向に関し、位相が先行している膜厚分布曲線PF3Kにおいて膜厚が増加から減少に転じると共に、位相が後行している膜厚分布曲線PF4Kにおいて膜厚が増加するような範囲において、白抜けが発生している。以下では、このような範囲を膜厚増減範囲ATと呼ぶ。
【0124】
次に、定着ユニット250において定着ベルト277J及び277Kをそれぞれ使用した場合における、ニップ領域Nでの圧力の分布を調べた。その結果、定着ユニット250では、定着ベルト277Jを使用した場合と比較して、定着ベルト277Kを使用した場合の方が、周囲よりも圧力が弱まっている部分が広く形成されていることが判明した。以下、このようにニップ領域Nにおいて圧力が弱まった部分が形成されることを、圧力抜けとも呼ぶ。
【0125】
以上から、画像形成装置201では、定着ベルト277の周方向に関し、膜厚増減範囲ATのように比較的狭い角度の範囲において、比較的大きい膜厚から比較的小さい膜厚へ急峻に変化する場合に、印刷された画像に白抜け(図15(A))が発生しやすい、という傾向がある。また画像形成装置201では、定着ベルト277の幅方向に比較的近い箇所において、互いの膜厚プロファイルにおける位相がずれている場合に、部分的な圧力抜けが発生し、その結果として、印刷された画像に白抜けが発生しやすい、という傾向がある。
【0126】
ここで、定着ユニット250のニップ領域Nにおける各部分の長さや圧力の大きさと、白抜けが発生する定着ベルト277Kの膜厚プロファイルとの関係について検討する。図17は、ニップ領域Nにおける圧力分布の特性(図5)と、定着ベルト277Kにおける膜厚分布曲線PF4K(図15(B))とを並べて表したものである。
【0127】
ここで、ニップ領域Nにおける圧力分布の特性のうち、加圧パッド71等に起因する弱荷重領域AR1に相当する距離をW1[μm]とする。また、膜厚分布曲線PF4Kのうち、極大値から極小値までの周方向に関する角度をW2[°]とし、このときの膜厚の差分値、すなわち高低差でもあるピークの高さをT1とする。
【0128】
画像形成装置201において、定着ベルト277の周方向に関し白抜けが発生するのは、膜厚分布曲線PF4Kの距離W2が、弱荷重領域AR1に相当する距離W1よりも小さい場合であって、且つピークの高さT1が101[μm]未満である場合となる。
【0129】
このため、画像形成装置201において、定着ベルト277の周方向に関し白抜けが発生しないための条件は、以下に示す(1)及び(2)式のように表すことができる。ただし、定数rは定着ベルト277の半径であり、21~24[mm]となる。
【0130】
【数1】
【0131】
【数2】
【0132】
次に、画像形成装置201において、定着ベルト277の幅方向に関し白抜けが発生する場合について検討する。ここでは、定着ベルト277K(図15(B))のように、幅計測位置PA3及びPA4における膜厚分布曲線PF3K及びPF4K(すなわち膜厚プロファイル)に位相差が生じているものとする。また以下では、幅計測位置PA3及びPA4をそれぞれ第1位置及び第2位置とも呼ぶ。
【0133】
図19は、定着ベルト277を前側から見た様子を表す模式図である。図19において、直線XAは、左右方向(すなわち幅方向)に沿った、仮想的な直線である。また直線XBは、定着ベルト277における所定の周方向(例えば下方向)に関し、幅計測位置PA3における外周面と、幅計測位置PA4における外周面とを結ぶ仮想的な直線である。さらに角度αは、直線XA及び直線XBのなす角度を表す。
【0134】
この図19において、幅計測位置PA3における膜厚と、幅計測位置PA4における膜厚との差分である幅方向膜厚差T2が比較的大きい場合、ニップ領域Nにおいて定着ベルト277が媒体Mに対して十分に追従できなくなり、白抜けが発生する恐れが生じる。
【0135】
そこで、幅方向膜厚差T2の大きさと白抜けの有無との関係について調査したところ、図20の表T3に示すような調査結果が得られた。この表T3では、白抜けが発生しなかったことを記号「○」により表しており、また白抜けが発生したことを記号「×」により表している。また、図21は、幅方向膜厚差T2と白抜けの有無との関係をグラフとしたものである。このうち白抜けの有無に関しては、白抜けが発生したことを値「0」と対応付け、白抜けが発生しなかったことを値「1」と対応付けている。
【0136】
この図20及び図21から、定着ベルト277に関しては、幅方向間隔LA1を26[mm]とした場合に、幅方向膜厚差T2が47[μm]以下であれば、白抜けの発生を回避できることが分かる。また、図19において、幅方向間隔LA1を26[mm]とし、幅方向膜厚差T2を47[μm]とした場合、角度αは0.1[°]となる。
【0137】
このため、画像形成装置201において、定着ベルト277の周方向に関し白抜けが発生しないための条件は、以下に示す(3)及び(4)式のように表すことができる。
【0138】
【数3】
【0139】
【数4】
【0140】
[2-2.効果等]
以上の構成において、第2の実施の形態による画像形成装置201は、弾性層82の厚さが300[μm]以上である定着ベルト277の膜厚分布曲線に出現する極大値及び極小値の差分値である高さT1に関し、少なくとも上述した(1)式を満たすようにした。これにより画像形成装置201は、定着ベルト277の周方向に関して、白抜けの発生を良好に抑えることができる。
【0141】
また画像形成装置201は、定着ベルト277の膜厚分布曲線に関する距離W2と、ニップ領域Nにおける弱荷重領域AR1に相当する距離W1とに関し、上述した(2)式を満たすようにした。これにより画像形成装置201は、定着ベルト277の周方向に関して、白抜けの発生を確実に抑えることができる。
【0142】
さらに画像形成装置201は、定着ベルト277の幅方向膜厚差T2に関し、上述した(3)式を満たすようにした。これにより画像形成装置201は、定着ベルト277の幅方向に関して、白抜けの発生を良好に抑えることができる。
【0143】
これに加えて画像形成装置201は、定着ベルト277の幅方向膜厚差T2及び幅方向間隔LA1に関し(4)式を満たすようにした。これにより画像形成装置201は、幅方向間隔LA1に関わらず、定着ベルト277の幅方向に関して、白抜けの発生を確実に抑えることができる。
【0144】
これらにより画像形成装置201は、定着ベルト277の膜厚が偏りを有することに起因してニップ領域Nにおいて圧力抜けが生じることを未然に防止でき、媒体Mに印刷された画像に白抜け(図15(A))が発生することを確実に回避できる。
【0145】
これに加えて画像形成装置201は、定着ベルト277について、第1の実施の形態と同様に、荷重硬度比率の値が少なくとも0.566以上となるようにした。これにより画像形成装置201は、第1の実施の形態と同様に、媒体Mにおける平坦な部分及び窪みDの何れにおいてもトナーを十分に定着させることができ、該媒体Mに印刷された画像においてムラの無い一様な光沢性を持たせることができる。
【0146】
その他の点においても、第2の実施の形態による画像形成装置201は、第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0147】
以上の構成によれば、第2の実施の形態による画像形成装置201は、弾性層82の厚さが300[μm]以上である定着ベルト277において、膜厚分布曲線に出現する極大値及び極小値の差分値である高さT1が、101[μm]未満となるようにした。これにより画像形成装置201は、定着ユニット250のニップ領域Nにおいて、媒体Mに加える圧力が局所的に減少する圧力抜けの発生を抑え、白抜けの発生を良好に低減させることができる。
【0148】
[3.他の実施の形態]
なお上述した第1の実施の形態においては、定着ユニット50におけるニップ幅WNを17[mm]とし、媒体Mの搬送速度を4[ips]、すなわち約101.6[mm/s]として、媒体M上の所定箇所がニップ領域Nを通過するのに要する通過時間を約0.2[s]とする場合について述べた。またこれに応じて、定着ベルト77の評価において計測開始から0.2[s]後の荷重硬度値や荷重硬度比率を使用する場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、定着ユニット50におけるニップ幅WN及び媒体Mの搬送速度を種々の値とすることにより、当該通過時間を例えば0.1[s]や0.4[s]等、種々の時間としても良い。またこの場合、当該通過時間に合わせて、計測開始後に当該時間が経過した時点の荷重硬度値や荷重硬度比率を使用しても良い。或いは、当該通過時間よりも短い時間が経過した時点の荷重硬度値や荷重硬度比率を使用しても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0149】
また上述した第1の実施の形態においては、定着ベルト77の評価試験において、レーザー顕微鏡を用いて得られた顕微鏡画像の輝度値を基にトナー平面面積率を算出し、これを用いて10段階の光沢レベルに区分する場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、例えば評価担当者の目視による主観に基づいて各光沢レベルに区分する等、種々の手法により各光沢レベルに区分しても良い。また区分する光沢レベルの数は、10段階に限らず、9段階以下又は11段階以上としても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0150】
さらに上述した第1の実施の形態においては、定着ベルト77の内径を42~48[mm]とする場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、該定着ベルト77の内径を、約15~60[mm]の範囲内において、44[mm]よりも小さく、或いは48[mm]よりも大きくしても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0151】
さらに上述した第1の実施の形態においては、定着ベルト77(図4)を構成する弾性層82の厚さを約300~800[μm]とする場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、弾性層82の厚さを、例えば約100~300[μm]や約800~1000[μm]としても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0152】
さらに上述した第2の実施の形態においては、定着ベルト277の膜厚分布曲線に出現する極大値及び極小値の差分値である高さT1を101[μm]未満とする場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、高さT1の上限値をこれらの値に応じて定めても良い。この場合、(2)式の関係を満たしていることが望ましい。
【0153】
さらに上述した第2の実施の形態においては、定着ベルト277の幅方向に関し、幅方向間隔LA1を26[mm]とする場合に、該幅方向間隔LA1だけ離れた2箇所の幅計測位置PAにおける膜厚の差分値である幅方向膜厚差T2を47[μm]以下とする場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、幅方向間隔LA1を他の種々の値とし、これに応じて幅方向膜厚差T2の上限値を他の値としても良い。この場合、(4)式の関係を満たしていれば良い。
【0154】
さらに上述した第1の実施の形態においては、定着ユニット50における上定着ユニット51の定着ベルト77について、荷重硬度比率の値を少なくとも0.566以上とする場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、例えば下定着ユニット52の加圧ベルト97についても、荷重硬度比率の値を少なくとも0.566以上としても良い。この場合、定着ベルト77及び加圧ベルト97の間で荷重硬度比率の値を一致させても良く、また相違させても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0155】
さらに上述した第1の実施の形態においては、媒体M(図6)を、基体層ML1、被覆層ML2及びML3が積層された構成とし、且つそれぞれに複数の微細な空孔H1、H2及びH3を形成する場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、例えば媒体Mを単層、2層又は4層以上の構成としても良く、そのうちの少なくとも1個の層に複数の微細な空孔を形成しても良い。また媒体Mとしては、フィルム状に限定されることは無く、例えば所定の台紙にフィルムを貼り合わせてなる媒体Mを使用しても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0156】
さらに上述した第1の実施の形態においては、画像形成装置1内に媒体カセット10を設け、媒体供給ロールMR1(図1)から長尺の媒体Mを引き出して供給する場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、例えばA3サイズやA4サイズ等のカット紙でなる媒体Mを所定の媒体カセットに収納しておき、当該媒体カセットから1枚ずつ分離しながら供給しても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0157】
さらに上述した第1の実施の形態においては、画像形成装置1(図1)に5個のプロセスユニット30を設ける場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、例えば画像形成装置1に1個以上4個以下、又は5個以上のプロセスユニット30を設けても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0158】
さらに本発明は、上述した各実施の形態及び他の実施の形態に限定されるものではない。すなわち本発明は、上述した各実施の形態と上述した他の実施の形態の一部又は全部を任意に組み合わせた実施の形態や、一部を抽出した実施の形態にもその適用範囲が及ぶものである。
【0159】
さらに上述した第2の実施の形態においては、環状ベルトとしての定着ベルト277と、対向部材としての加圧ベルト97とによって定着装置としての定着ユニット250を構成する場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなる環状ベルトと、対向部材とによって定着装置を構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明は、例えば電子写真方式により媒体上に形成されたトナー画像を定着部により該媒体に定着させる場合に利用できる。
【符号の説明】
【0161】
1、201……画像形成装置、30……プロセスユニット、50、250……定着ユニット、51……上定着ユニット、52……下定着ユニット、71……加圧パッド、72……駆動ローラ、77、277、277J、277K……定着ベルト、81……基体、82……弾性層、83……表層、91……加圧パッド、92……加圧ローラ、97……加圧ベルト、AR1……第1荷重領域、AR2……第2荷重領域、D……窪み、LA1……幅方向間隔、LC1……周方向間隔、M……媒体、N……ニップ領域、PA……幅計測位置、T1……高さ、T2……幅方向膜厚差、W……搬送路、WN……ニップ幅、α……角度。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21