(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145061
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】グルタチオンを含む徐放性肥料
(51)【国際特許分類】
C05C 11/00 20060101AFI20231003BHJP
C07K 5/093 20060101ALN20231003BHJP
C12N 1/16 20060101ALN20231003BHJP
【FI】
C05C11/00
C07K5/093
C12N1/16 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052335
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】阿孫 健一
(72)【発明者】
【氏名】安松 良恵
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 悠希
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
4H061
【Fターム(参考)】
4B065AA72X
4B065CA60
4H045AA10
4H045BA12
4H045EA60
4H061AA01
4H061BB01
4H061EE45
4H061EE66
4H061FF06
4H061GG13
4H061GG42
4H061GG43
4H061GG52
4H061HH03
4H061HH07
(57)【要約】
【課題】本発明は、酸化型グルタチオンを肥料として使用する際に、持続的に酸化型グルタチオンの機能が発揮できる肥料を提供することを課題とする。
【解決手段】
上記課題の解決につき鋭意研究の結果、グルタチオンやグルタチオン含有酵母エキスなどグルタチオンと酵母菌体を含む組成物をNa型又はCa型ベントナイト担体として固形化することで、グルタチオンの溶出を緩やかにすることを見出し、本発明を完成させた。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタチオン、酵母菌体、及びベントナイトを含む肥料
【請求項2】
グルタチオンが、酸化型グルタチオン含有酵母エキスである、請求項1の肥料
【請求項3】
酵母菌体が、酵母エキス抽出後の酵母菌体である請求項1又は2の肥料
【請求項4】
ベントナイトが、Na型ベントナイトである、請求項1~3の肥料
【請求項5】
ベントナイトが、Na型ベントナイトとCa型ベントナイトの混合である請求項1~4の肥料
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルタチオンとベントナイトを含む固形化した肥料組成物に関る。
【背景技術】
【0002】
グルタチオン(γ―グルタミル―L―システイニルグリシン)は、L―システイン、L―グルタミン酸、及びグリシンからなるトリペプチドであり、還元型グルタチオンと、2分子の還元型グルタチオンのL-システイン残基のチオール基が酸化されグルタチオン2分子間でジスルフィド結合を形成した酸化型グルタチオンが知られている。
【0003】
グルタチオンは、ヒトだけでなく、広く動植物、微生物などに存在し、解毒作用、抗酸化作用、コク味付与などの効果が知られており、医薬品、化粧品などの分野での利用だけでなく、飼料や植物成長剤など動植物に広く利用されている。
【0004】
このような様々な用途を有しているグルタチオンの機能をより効果的に発揮するための方法は種々検討されている。特許文献1ではシクロデキストリンを添加する方法、特許文献2ではアルギニンを添加する方法、特許文献3ではアルカリ性鉱物質担体、Na型ベントナイトでグルタチオンを安定化させる方法が開示されている。
【0005】
また、酸化型グルタチオンは、肥料として使用すると収穫指数が向上することが知られている。一方で、土壌に酸化型グルタチオンを施肥すると、グルタチオンは、水によって土壌に速やかに溶出する可能性があった。そのため、グルタチオンを植物に適用する場合には、安定期に植物に吸収される構成が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1-63342
【特許文献2】WO 2009/099132
【特許文献3】WO2017/130884
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、グルタチオンの機能をより効果的に発揮する方法を見出すことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、本発明者らは、上記課題の解決につき鋭意研究の結果、グルタチオンやグルタチオン含有酵母エキスなどグルタチオンと酵母菌体を含む組成物をNa型又はCa型ベントナイト担体として固形化することで、グルタチオンの溶出を緩やかにすることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は以下のような発明である。
(1)グルタチオン、酵母菌体、及びベントナイトを含む肥料、
(2)グルタチオンが、酸化型グルタチオン含有酵母エキスである、前記(1)の肥料、
(3)酵母菌体が、酵母エキス抽出後の酵母菌体である前記(1)又は(2)の肥料
(4)ベントナイトが、Na型ベントナイトである、前記(1)~(3)の肥料
(5)ベントナイトが、Na型ベントナイトとCa型ベントナイトの混合である前記(1)~(4)の肥料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、グルタチオンの機能を長期間発揮させることができるため、肥料として使用した際に、グルタチオンの徐放性を付与する組成、方法を提供することができる。本発明での徐放性とは、粒剤中から、有効成分であるグルタチオンが徐放することを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
還元型グルタチオンとは、γ - L - G l u - L - C y s - G l y の構造を有するトリペプチドであり、酸化型グルタチオンとは、還元型グルタチオン2分子が、S-S 結合により結合したものである。以下、還元型グルタチオンはGSH、酸化型グルタチオンはGSSGと略することがある。また、本願中のグルタチオンとの記載は、酸化型、還元型の両方を含むグルタチオンを意味する。
【0012】
本発明で使用するグルタチオンは、精製されたもの、結晶体、他の物質と結合していない状態、酸又は塩基と形成される塩などどのような形態であっても良い。さらに、酵母や酵母エキスなどに含まれるものであっても良いし、還元型と酸化型の混合、還元型のみ、酸化型のみのような形態であっても良い。酵母エキスは、酵母を培養し、該酵母体を集菌、洗浄した後、熱水抽出法、酵素抽出法、又は酸、若しくはアルカリ抽出法、さらには、これらの組み合わせによる抽出した抽出物である。使用する酵母はグルタチオン(酸化型、還元型を問わず)を含む酵母を使用することができる。産業利用できる酵母が好ましく、具体的には、パン酵母、ビール酵母、トルラ酵母などを例示することができる。酵母、酵母エキス中のグルタチオンを利用する場合は、市販のものを利用しても良い。例えば、グルタチオンを多く含有する酵母としては「ハイチオンコーボMG」(三菱商事ライフサイエンス社)、グルタチオンを含有する酵母エキスとしては、「ハイチオンエキスYH-D12」、「ハイチオンエキスYH-D18」、「ハイチオンエキスYH-D20」「ハイチオンエキスYH」(三菱商事ライフサイエンス社)などがある。
【0013】
また、グルタチオンの製造方法は、公知の方法で製造することができる。グルタチオン含有酵母エキス製造の一例として、以下に具体的に説明する。
グルタチオンを含有する酵母菌体から酵母エキスを抽出することで、グルタチオンを15質量%以上含有する酵母エキスが得られる。酵母の培養形式に特に制限はないが、一般にバッチ培養(batch culture)、あるいは連続培養(continuous culture)のいずれかが用いられる。培地も一般に使用されているものが使用できる。例えば、炭素源としてブドウ糖、酢酸、エタノール、グリセロール、糖蜜、亜硫酸パルプ廃液、木材由来のセルロース分解物等が用いられ、窒素源としては、尿素、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸塩等が使用される。リン酸、カリウム、マグネシウム源としては例えば過リン酸石灰、リン酸アンモニウム、塩化カリウム、水酸化カリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等が使用でき、その他亜鉛イオン、銅イオン、マンガンイオン、鉄イオン等の無機塩を添加する。その他、ビタミン、アミノ酸、核酸関連物質等を添加したり、カゼイン、酵母エキス、肉エキス、ペプトンなどの有機物を添加したりしてもよい。培養温度は21~37℃、好ましくは25~34℃で、pHは3.0~8.0、特に3.5~7.0が好ましい。
【0014】
酵母菌体培養後に本発明の酵母エキスの抽出を行う。酵母エキスの抽出法は、特に制限がないが、一般的に、自己消化法、熱水抽出法、酵素抽出法、酸若しくはアルカリ抽出法、又はこれらの組み合わせにより行うことが可能である。
【0015】
自己消化により酵母エキスを抽出する場合は、例えば酵母培養液等を、55℃で4時間撹拌する。酵素抽出法であれば、酵母培養液等に、細胞壁溶解酵素又はプロテアーゼ等を添加し、反応させて抽出する。酸抽出法であれば、酵母培養液等を硫酸等で酸性に調整後、抽出する。アルカリ抽出法であれば、酵母培養液等を、アルカリに調整後、抽出する。又は、自己消化後に、酵素抽出を行うなどの組み合わせも可能である。
【0016】
酵母エキス抽出後は、遠心分離等で酵母残渣を分離し、濃縮後、凍結乾燥又は熱風乾燥することでグルタチオン含有酵母エキスを得ることができる。
【0017】
なお、前述のように抽出した酵母エキス中のグルタチオンは、還元型グルタチオンを多く含むことがある。この場合、還元型グルタチオンを酸化処理することで、酸化型グルタチオンに変換することができる。酸化処理の方法は、公知の処理方法で良く、任意に選択できるが、例えば、エアレーションなどで酸化処理することができる。また、特開2004-283125に記載の方法によっても、酸化型グルタチオンを含む酵母エキスを製造することができる。
【0018】
本発明の組成物中のグルタチオン含量は、任意に調整できる。植物用途に使用する場合には、一般にグルタチオン含量が1重量%以上になるようにする。ベントナイト及び酵母菌体とグルタチオン割合は、組成物中に、70%重量以上がベントナイト及び酵母菌体となることが望ましい。より望ましくは80重量%以上、さらに望ましくは90重量%以上である。
【0019】
ベントナイトとは、ナトリウム型ベントナイト、カルシウム型ベントナイト、活性化ベントナイトなどが挙げられるが、本発明では、カルシウム型ベントナイト及びナトリウム型ベントナイトを使用する。カルシウム型ベントナイトは、ベントナイトのモンモリロナイト層間陽イオンが、主にカルシウムイオンであるものをいう。モンモリロナイト含有量は、45%以上あることが好ましく、より好ましくは55%以上である。また、品質の目安のひとつである日本ベントナイト工業会標準試験方法の項目である陽イオン交換容量が40meq/100g以上、より好ましくは、60meq/100g以上である。本願発明でナトリウム型ベントナイトとは、日本ベントナイト工業会分析規格において、浸出イオンのうちCa/Naの濃度比(モル比)が0.9以下、好ましくは0.8以下のものである。
【0020】
本願発明では、ナトリウム型ベントナイトを単独で使用しても良いが、カルシム型ベントナイト(Ca型)にナトリウム型ベントナイト(Na型)を混合してもよい。混合する場合の比率は、Ca型:Na型=20:80~80:20の比率が好ましい。さらに好ましくは、Ca型:Na型=30:70~70:30であり、特に好ましくは、Ca型:Na型を等量混合することが好ましい。
【0021】
本願発明では、さらに酵母菌体を混合する。酵母菌体は、酵母から酵母エキスなどを抽出した後の固形成分を使用することが好ましい(以下、酵母菌体)。酵母菌体から酵母エキス抽出法は、とくに制限がないが、一般的に、自己消化法、熱水抽出法、酵素抽出法、酸、若しくはアルカリ抽出法、又はこれらの組み合わせにより行う。これらの抽出法により抽出した後の酵母菌体や固形分を使用することが特に好ましい。本発明では、これらの酵母菌体又は固形分をドラムドライヤー、噴霧乾燥などの公知方法で乾燥したものを使用する。
【0022】
本願発明は、グルタチオン及びベントナイトに酵母菌体を含有させる場合、グルタチオン、ベントナイト、酵母菌体混合比は、用途に応じて適宜調整できる。通常は、ベントナイトと酵母菌体以外の成分、グルタチオンや酵母エキスなどのグルタチオン含有組成物等は、ベントナイト及び酵母菌体を担体として固形化できる量であれば、制限はない。ベントナイトと酵母菌体の混合比も特に制限はないが、ベントナイト:酵母菌体=20:80~80:20など適宜調整して良い。
【0023】
また、本発明では、ベントナイト、酵母菌体以外の担体を含めることもできる。使用する担体は、使用用途に応じて適宜選択できるもので良く、その制限はない。配合量についても、ベントナイトの配合量より少なくなれば良い。使用できる担体の例として、タルク, クレー, バーミキュライト, 珪藻土, カオリン, 炭酸カルシウム, 水酸化カルシウム, 白土, シリカゲル等の無機質、小麦粉、澱粉、デキストリンなどの食品製造で賦形剤として用いられているもの、麹菌、糸状菌などの微生物担体、さらに、ゼラチン、βグルカン、キサンタンガム、アラビアガなどの増粘剤、穀物粉、大豆粉などの有機物などを混合することもができる。
【0024】
さらに、使用する用途に応じて、前段までの混合物以外に、例えば肥料として使用する場合には、肥料成分としてはカリウム、窒素、リン、カルシウム、マグネシウム等の成分を配合することができる。さらに、例えばアルキル硫酸エステル類, アルキルスルホン酸塩, アルキルアリールスルホン酸塩, ジアルキルスルホコハク酸塩等の陰イオン界面活性剤、高級脂肪族アミンの塩類等の陽イオン界面活性剤、ポリオキシエチレングリコールアルキルエーテル, ポリオキシエチレングリコールアシルエステル, ポリオキシエチレングリコール多価アルコールアシルエステル, セルロース誘導体等の非イオン界面活性剤、ゼラチン, カゼイン, アラビアゴム等の増粘剤、増量剤、結合剤、安息香酸, ニコチン酸, ニコチン酸アミド, ピペコリン酸等の肥料に配合されるものであれば、制限なく配合できる。
これら混合物は、使用用途の一般制限等に準じて、適宜調整して良い。例えば、肥料にする場合は、肥料登録の要件に応じて、適宜調整することができる。
【0025】
本発明の組成物の製造方法は特に限定されない。使用する材料が粉末、顆粒等の粒子である場合、好ましい製法としては、グルタチオン又はグルタチオン含有組成物、酵母菌体及びベントナイトと、水又は水溶性溶媒である溶媒との混合物を形成する混合工程と、前記混合物から粒子を形成する造粒工程とを含む方法が挙げられる。混合工程では必要に応じて上記で挙げた、グルタチオン又はグルタチオン含有組成物、酵母菌体及びベントナイト以外の他の成分を混合する。混合工程では、溶媒に溶解したグルタチオン又はグルタチオン含有組成物、酵母菌体及びベントナイトと他の混合成分を充分に分散させることが好ましい。混合工程における溶媒の使用量は特に限定されず、十分に均質な混合物が得られるよう適量の溶媒を使用すればよい。溶媒は、水、エタノールなどのアルコール類、又は水とアルコール類との混合溶媒などを使用することができる。
【0026】
混合工程で生成される混合物は、粒状、ペースト状又は液体であるため、次に造粒工程により固形化する。造粒工程は押出造粒、攪拌造粒、転動造粒、圧縮造粒等の通常の造粒法により行うことができる。造粒工程は必要に応じて整粒工程や、乾燥工程を含むことができる。乾燥工程では、前記溶媒が揮発により除去される。
【0027】
本発明は、上記組成物を植物に施用する植物の栽培方法を含む。適用する植物に制限はなく、本発明が適用される植物としては、特に制限されるものではなく、種々の単子葉植物、双子葉植物、樹木等の植物全般に適用することができる。
【0028】
本発明の酸化型グルタチオン濃度の測定方法は、DTNB-HPLC法(Journalo f Chromatography,194(1980)p424-428) で行った。なお、本願の酸化型グルタチオン含量は、還元型グルタチオン含量と、ジチオトレイトールでグルタチオンを全て還元型したものを測定したトータルグルタチオン含量との差し引きから算出される。
【実施例0029】
以下、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の具体例に限定されない。
顆粒剤は、表1の材料を配合し、適量の水を攪拌しながら添加し、その後混錬。1.2mm幅のプレートで押し出し、75℃で24時間 常圧にて乾燥した。乾燥後、破砕し、篩を用いて、微粉と粗粒を除去した。