(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145075
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20231003BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20231003BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20231003BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20231003BHJP
C08G 63/60 20060101ALI20231003BHJP
B32B 15/088 20060101ALI20231003BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C08L79/08
C08L101/12
C08L67/04
C08G73/10
C08G63/60
B32B15/088
H05K1/03 630H
H05K1/03 610N
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052356
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】津田 康介
(72)【発明者】
【氏名】木戸 雅善
(72)【発明者】
【氏名】服部 圭香
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J029
4J043
【Fターム(参考)】
4F100AB01B
4F100AK49A
4F100AT00
4F100EH462
4F100EH46A
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4J043XA16
4J043YA06
4J043ZA43
4J043ZB50
(57)【要約】
【課題】誘電正接が低く、吸水時の誘電正接の変化が小さいポリイミド樹脂組成物と、当該ポリイミド樹脂組成物の製造に用いられる液状樹脂組成物と、当該液状樹脂組成物からなる製膜用ドープと、当該製膜用ドープを用いるフィルムの製造方法と、前述のポリイミド樹脂組成物からなるフィルムと、当該フィルムを備える金属張積層板、及びプリント基板とを提供すること。
【解決手段】ポリイミド樹脂(A)に、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量として、10,000以下の分子量を有する液晶性オリゴマー(B)を配合する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂(A)と、液晶性オリゴマー(B)とを含み、
前記液晶性オリゴマー(B)の分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量として、10,000以下であるポリイミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記液晶性オリゴマー(B)の量が、前記ポリイミド樹脂(A)の質量と、前記液晶性オリゴマー(B)の質量との合計に対して、5質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記液晶性オリゴマー(B)が、芳香族オキシカルボニル繰り返し単位、及び/又は芳香族ジオキシ繰り返し単位を有する、請求項1、又は2に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂組成物からなるフィルム。
【請求項5】
ポリアミド酸(a)、液晶性オリゴマー(B)、及び有機溶媒(S)とを含み、
前記液晶性オリゴマー(B)の分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量として、10,000以下である液状樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の液状樹脂組成物からなる製膜用ドープ。
【請求項7】
請求項6に記載の製膜用ドープを、支持体上に流延して、ポリイミド樹脂前駆膜を得ることと、
前記ポリイミド樹脂前駆膜を、前記支持体上で加熱してゲルフィルムを形成することと、
前記ゲルフィルムを、前記支持体から剥離させることと、
前記支持体から剥離された前記ゲルフィルムを加熱することにより、前記ゲルフィルム中のポリアミド酸をイミド化することと、
を含む、請求項4に記載のフィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項4に記載のフィルムを備える、金属張積層板。
【請求項9】
請求項4に記載のフィルムを備える、プリント基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂組成物と、当該ポリイミド樹脂組成物の製造に用いられる液状樹脂組成物と、当該液状樹脂組成物からなる製膜用ドープと、当該製膜用ドープを用いるフィルムの製造方法と、前述のポリイミド樹脂組成物からなるフィルムと、当該フィルムを備える金属張積層板、及びプリント基板とに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、機械強度、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性に優れているため、電子基板材料用途で多く利用されている。例えば、基板材料としてのポリイミドフィルムの少なくとも片面に銅箔が積層されたフレキシブル銅張積層板(以下、FCCLともいう)や、FCCL上にさらに回路が形成されたフレキシブルプリント基板(以下、FPCともいう)等が、各種電子機器に使用されている。
【0003】
近年の電子機器の高速信号伝送に伴う回路を伝播する電気信号の高周波化において、電気信号の伝送損失を抑制するため、電子基板材料の低誘電率化、低誘電正接化の要求が高まっている。具体的には、10GHz以上の領域においても伝送損失を抑制できるような基板材料が求められている。このような要求に応える材料として、例えば、特許文献1、及び2に記載されるような低誘電率・低誘電正接のポリイミドフィルムが知られている。一方で、低誘電正接に優れるだけでなく、湿度の高い環境下においても、電気信号の伝送損失が悪化しないような材料も要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2018/079710号
【特許文献2】国際公開2016/159060号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、及び2に記載のポリイミドフィルムは、耐熱性、引張特性等のフィルム特性に優れ、低誘電正接であるものの、吸水時の誘電正接の変化が大きいという課題があった。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、誘電正接が低く、吸水時の誘電正接の変化が小さいポリイミド樹脂組成物と、当該ポリイミド樹脂組成物の製造に用いられる液状樹脂組成物と、当該液状樹脂組成物からなる製膜用ドープと、当該製膜用ドープを用いるフィルムの製造方法と、前述のポリイミド樹脂組成物からなるフィルムと、当該フィルムを備える金属張積層板、及びプリント基板とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(9)を提供する。
(1)ポリイミド樹脂(A)と、液晶性オリゴマー(B)とを含み、
液晶性オリゴマー(B)の分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量として、10,000以下であるポリイミド樹脂組成物。
(2)液晶性オリゴマー(B)の量が、ポリイミド樹脂(A)の質量と、液晶性オリゴマー(B)の質量との合計に対して、5質量%以上50質量%以下である、(1)に記載のポリイミド樹脂組成物。
(3)液晶性オリゴマー(B)が、芳香族オキシカルボニル繰り返し単位、及び/又は芳香族ジオキシ繰り返し単位を有する、(1)、又は(2)に記載のポリイミド樹脂組成物。
(4)(1)~(3)のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物からなるフィルム。
(5)ポリアミド酸(a)、液晶性オリゴマー(B)、及び有機溶媒(S)を含み、
液晶性オリゴマー(B)の分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量として、10,000以下である液状樹脂組成物。
(6)(5)に記載の液状樹脂組成物からなる製膜用ドープ。
(7)(6)に記載の製膜用ドープを、支持体上に流延して、ポリイミド樹脂前駆膜を得ることと、
ポリイミド樹脂前駆膜を、支持体上で加熱してゲルフィルムを形成することと、
ゲルフィルムを、支持体から剥離させることと、
支持体から剥離されたゲルフィルムを加熱することにより、ゲルフィルム中のポリアミド酸をイミド化することと、
を含む、(4)に記載のフィルムの製造方法。
(8)(4)に記載のフィルムを備える、金属張積層板。
(9)(4)に記載のフィルムを備える、プリント基板。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、誘電正接が低く、吸水時の誘電正接の変化が小さいポリイミド樹脂組成物と、当該ポリイミド樹脂組成物の製造に用いられる液状樹脂組成物と、当該液状樹脂組成物からなる製膜用ドープと、当該製膜用ドープを用いるフィルムの製造方法と、前述のポリイミド樹脂組成物からなるフィルムと、当該フィルムを備える金属張積層板、及びプリント基板とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪ポリイミド樹脂組成物≫
ポリイミド樹脂組成物は、ポリイミド樹脂(A)と、液晶性オリゴマー(B)とを含む。液晶性オリゴマー(B)の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量として、10,000以下である。
かかるポリイミド樹脂組成物の誘電正接Dfは、湿度の影響により増加しにくい。
【0011】
<ポリイミド樹脂(A)>
ポリイミド樹脂(A)は、特に限定されない。ポリイミド樹脂(A)は、機械的特性や誘電特性を考慮して、従来知られるポリイミド樹脂から適宜選択され得る。
ポリイミド樹脂(A)が、溶融加工可能である場合、ポリイミド樹脂(A)と液晶性オリゴマー(B)とを溶融根練して、ポリイミド樹脂組成物を得ることができる。
また、ポリイミド樹脂(A)が有機溶媒に可溶である場合、ポリイミド樹脂(A)の有機溶媒溶液中に液晶性オリゴマー(B)を均一に混合した後、当該溶液から有機溶媒を除去することによりポリイミド樹脂組成物を得ることができる。
しかしながら、ポリイミド樹脂(A)は、溶融加工が困難であったり、有機溶媒に不溶、又は難溶である場合であったりすることが多い。
このため、ポリイミド樹脂の種類によらずポリイミド樹脂(A)と、液晶性オリゴマー(B)とを均一に混合しやすい点からは、ポリイミド樹脂(A)を与えるポリアミド酸(a)と、液晶性オリゴマー(B)と、有機溶媒(S)とを含む液状樹脂組成物を調製した後、当該液状樹脂組成物中のポリアミド酸(a)をイミド化して、ポリイミド樹脂組成物を得るのが好ましい。
【0012】
典型的には、ポリイミド樹脂(A)は、ポリアミド酸を前駆体として用いて製造される。ポリアミド酸の製造方法としては公知のあらゆる方法を用いることができる。ポリアミド酸の製造に用いる酸二無水物成分と、ジアミン成分とはそれぞれ限定されないが、それぞれ芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとが好ましい。
【0013】
一般的なポリアミド酸の製造法を以下に記す。まず、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族テトラカルボン酸二無水物のモル数と実質的に等モルの芳香族ジアミンとを、有機溶媒中に溶解させる。得られた溶液を、制御された温度条件下で、重合が完了するまで撹拌することによって、ポリアミド酸が製造される。ポリアミド酸溶液の濃度は通常5質量%以上35質量%以下であり、10質量%以上30質量%以下が好ましい。この範囲の濃度である場合に適当な分子量と溶液粘度を得る。
【0014】
重合方法としてはあらゆる公知の方法、及びそれらを組み合わせた方法を用いることができる。重合方法の特徴は、モノマーの添加順序にある。ポリアミド酸を製造する際のモノマーの添加順序を制御することにより、得られるポリイミド樹脂の諸物性を制御できる。代表的な重合方法として、例えば、以下の1)~4)の方法が挙げられる。
1)芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、芳香族ジアミンのモル数と実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を芳香族ジアミンと重合させる方法。
2)芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族テトラカルボン酸二無水物のモル数よりも少ないモル数の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、最終的に使用された芳香族テトラカルボン酸二無水物のモル数と、芳香族ジアミン化合物のモル数とが実質的に等しくなるように、プレポリマーを、芳香族ジアミン化合物とさらに重合させる方法。
3)芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族テトラカルボン酸二無水物のモル数よりも多いモル数の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いて、最終的に使用された芳香族テトラカルボン酸二無水物のモル数と、芳香族ジアミン化合物のモル数とが実質的に等しくなるように、プレポリマーを、芳香族テトラカルボン酸二無水物とさらに重合させる方法。
4)芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解及び/又は分散させた後、芳香族テトラカルボン酸二無水物のモル数と実質的に等モルの芳香族ジアミン化合物を、有機極性溶媒中に加えて重合する方法。
5)実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの混合物を有機極性溶媒中で重合する方法。
これら方法を単独で用いてもよいし、部分的に組み合わせて用いることもできる。
【0015】
パラフェニレンジアミンや置換ベンジジンに代表される剛直構造を有するジアミン成分を用いてプレポリマーを得る重合方法を用いることも好ましい。本方法を用いることにより、引張/貯蔵弾性率が高く、吸湿膨張係数が小さいポリイミド樹脂を得やすい。本方法においてプレポリマー調製時に用いる剛直構造を有する芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とのモル比は100:70~100:99が好ましく、100:75~100:90がより好ましい。また、上記のモル比は、70:100~99:100であるのもの好ましく、75:100~90:100であるのもより好ましい。
このようなモル比で芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを用いてプレポリマーを製造する場合、引張/貯蔵弾性率、及び吸湿膨張係数についての所望する改善効果を得やすく、線膨張係数が小さくなりすぎたり、引張伸びが小さくなりすぎたりする等の弊害が起こりにくい。
【0016】
以下、ポリアミド酸の製造に用いられる材料について説明する。
【0017】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシフタル酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの類似物が挙げられる。これらは、単独、又は任意の割合の混合物として好ましく用い得る。
【0018】
芳香族ジアミンとしては、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’-ジクロロベンジジン、3,3‘-ジメチルベンジジン、2,2’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、2,2’-ジメトキシベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-オキシジアニリン、3,3’-オキシジアニリン、3,4’-オキシジアニリン、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノジフェニル-N-メチルアミン、4,4’-ジアミノジフェニル-N-フェニルアミン、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4-(3-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノベンゾフェノン及びそれらの類似物等が挙げられる。
【0019】
ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒は、ポリアミド酸を溶解する溶媒であればいかなるものも用いることができる。好ましい溶媒としてはアミド系溶媒が挙げられる。アミド系溶媒の好適な具体例は、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、及びN-メチル-2-ピロリドン等であり、N,N-ジメチルホルムアミド、及びN,N-ジメチルアセトアミドが特に好ましい。
【0020】
高周波数帯域における良好な誘電特性の点で、ポリイミド樹脂(A)の構成としては、以下の構成が好ましい。
具体的には、芳香族テトラカルボン酸二無水物としての3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、及び4,4’-オキシジフタル酸無水物と、芳香族ジアミンとしてのp-フェニレンジアミン、及び1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンとに由来するポリイミド樹脂が、ポリイミド樹脂(A)として好ましい。
上記のポリイミド樹脂を製造する際に用いられる芳香族テトラカルボン酸二無水物の全モル数に対する3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物のモル数の比率をA1モル%とする。上記のポリイミド樹脂を製造する際に用いられる芳香族テトラカルボン酸二無水物の全モル数に対する4,4’-オキシジフタル酸無水物のモル数の比率をA2モル%とする。上記のポリイミド樹脂を製造する際に用いられる芳香族ジアミンの全モル数に対するp-フェニレンジアミンのモル数の比率をB1モル%とする。上記のポリイミド樹脂を製造する際に用いられる芳香族ジアミンの全モル数に対する1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンのモル数の比率をB2モル%とする。この場合、A1+A2≧80、B1+B2≧80、及び(A1+B1)/(A2+B2)≦3.50の関係を満たす。
以下、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を「BPDA」と記載することがある。4,4’-オキシジフタル酸無水物を「ODPA」と記載することがある。p-フェニレンジアミンを「PDA」と記載することがある。1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンを「TPE-R」と記載することがある。ピロメリット酸二無水物を「PMDA」と記載することがある。3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を、「BTDA」と記載することがある。p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)を、「TMHQ」と記載することがある。
「A1+A2≧80」とは、上記のポリイミド樹脂を製造する際に用いられる芳香族テトラカルボン酸二無水物の全モル数に対する、BPDAのモル数の比率とODPAのモル数の比率との合計が、80モル%以上であることを意味する。「B1+B2≧80」とは、上記のポリイミド樹脂を製造する際に用いられる芳香族ジアミンの全モル数に対する、PDAのモル数の比率とTPE-Rのモル数の比率との合計が、80モル%以上であることを意味する。
BPDA及びPDAは、いずれも剛直構造を有する。一方、ODPA及びTPE-Rは、いずれも屈曲構造を有するで。であるので、「(A1+B1)/(A2+B2)」は、屈曲構造に対する剛直構造の存在比である。以下、「(A1+B1)/(A2+B2)」を、「剛直/屈曲比」と記載することがある。
上記の好ましいポリイミド樹脂によれば、誘電正接を低減できる。その理由は、以下のように推測される。
BPDA、OPDA、PDA、及びTPE-に由来する上記の好ましいポリイミド樹脂では、ポリイミド樹脂を製造する際に用いられる芳香族テトラカルボン酸二無水物の全モル数に対する、BPDAのモル数の比率とODPAのモル数の比率との合計が、80モル%以上である。また、上記の好ましいポリイミド樹脂を製造する際に用いられる芳香族ジアミンの全モル数に対する、PDAのモル数の比率とTPE-Rのモル数の比率との合計が、80モル%以上である。さらに、上記の好ましいポリイミド樹脂では、剛直/屈曲比が3.50以下である。よって、上記の好ましいポリイミド樹脂では、剛直構造と、屈曲構とが、安定した結晶構造を得るのに適したバランスで存在しているため、パッキング性が高く、誘電緩和が抑制されることにより、誘電正接を低減できると推察される。
【0021】
(ポリイミド樹脂(A-1)の製造)
ポリイミド樹脂(A-1)の製造に用いられる原料モノマーは、ポリイミド樹脂(A-1)に関する前述の所定の条件を満たすポリイミド樹脂を製造できる限り特に限定されず、ポリアミド酸の合成に通常用いられるジアミン、及び酸ニ無水物を使用可能である。
【0022】
ポリイミド樹脂(A-1)の製造に使用し得るジアミンの具体例としては、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-オキシジアニリン、3,3’-オキシジアニリン、3,4’-オキシジアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノジフェニル-N-メチルアミン、4,4’-ジアミノジフェニル-N-フェニルアミン、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4-(3-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン等が挙げられる。ジアミンは、これらに限定されない。ジアミンとしては、これらを単独、又は複数併用できる。
【0023】
ポリイミド樹脂(A-1)の製造に使用し得るテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,4’-オキシジフタル酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン酸二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの類似物等が挙げられる。テトラカルボン酸二無水物は、これらに限定されない。
【0024】
ポリイミド樹脂(A-1)を製造するためには、剛直性を有するモノマー由来の結晶部を導入しながら、屈曲性を有するモノマー由来の可動部を分子中に導入することで、より高密度化された結晶構造を形成すると推察しており、この観点からは、ポリアミド酸の分子中に、結晶性を示すユニットと、任意の種類、割合で屈曲性の構造とを導入することが好ましい。
【0025】
結晶性を示すユニットとして、直線的で剛直な構造であるp-フェニレンジアミンとs-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物をから形成されるユニットが挙げられる。これは最も直線性が高く、剛直なユニットである。このユニットが分子中に含まれると、得られるポリアミド酸を用いてポリイミド樹脂を形成する過程で分子が運動し、結晶構造を形成しやすい。
s-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の構造は、クランクシャフト構造である。このため、s-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いると、ポリイミド樹脂を形成する過程において、高温に晒さらされたポリアミド酸、及びポリイミド樹脂の分子の運動性が高い。その結果、結晶構造が形成されやすい。
【0026】
一方、p-フェニレンジアミンとピロメリット酸二無水物とから形成されるユニットは、剛直な構造ではあるが、持続長が無限である。また、p-フェニレンジアミンとピロメリット酸二無水物とに由来するポリイミド樹脂のガラス転移温度は、400℃を超える。このため、p-フェニレンジアミンとピロメリット酸二無水物とを組み合わせて用いる場合、得られるポリイミド樹脂の分子運動性が乏しく、ポリイミド樹脂の結晶化が困難な場合がある。このように、分子の剛直性だけでなく、フィルム成形時の分子運動性も考慮してモノマーを選択することが好ましい。
【0027】
さらに、ポリイミド樹脂の分子運動性を増大させる目的で、ジアミン成分、テトラカルボン酸二無水物成分の一方、又は両方に、屈曲構造を導入することも好ましい。そのような屈曲構造を導入するためのジアミン成分としては、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)が好ましく、酸二無水物成分としては、4,4’-オキシジフタル酸(s-ODPA)、及び3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)が好ましい。
【0028】
屈曲部位を有するジアミン成分としては、4,4’-ジアミノフェニルエーテル(4,4’-ODA)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-M)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-Q)、及び2,2’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジアミン(m-TB)等が挙げられる。
なお、BAPPは、構造の中心部分に、強直で嵩高いビスフェノール-Aの構造を有するため、立体的な異方性が結晶構造の形成を阻害する場合がある。TPE-Mは構造規則性を損なう場合がある。
また、4,4’-ODAは、屈曲部のイミド基濃度が高噛めることにより、吸水性の高いポリイミド樹脂を与える場合がある。m-TBは、嵩高いため、分子鎖の凝集を阻害する場合がある。
従って、これらのジアミン成分は、ジアミン成分全量に対して10mol%以下の範囲で使用されるのが好ましい。
一方、TPE-Rの使用量は、ジアミン成分全量に対して5mol%以上が好ましい。
【0029】
酸二無水物成分としてs-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’-オキシジフタル酸を併用し、その量を変更すると最終的に得られるポリイミド樹脂のラメラ周期の値も変動させることができる。全テトラカルボン酸二無水物中、s-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の量が50~65mol%、4,4’-オキシジフタル酸二無水物の量が50~35mol%、ピロメリット酸二無水和物(PMDA)の量が3~10mol%、4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)の量が0~5mol%であると、より結晶性を高められる。そうすると、誘電正接の大幅に低下したポリイミド樹脂を調製しやすい。
【0030】
また、s-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を用いる場合、全テトラカルボン酸二無水物中、s-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の量が65~75mol%、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物の量が35~25mol%、ピロメリット酸二無水和物(PMDA)の量が3~10mol%であると、より結晶性を高められる。そうすると、誘電正接が大幅に低下したポリイミド樹脂を調製しやすい。
【0031】
<液晶性オリゴマー(B)>
液晶性オリゴマー(B)は、溶融時に光学的異方性を示すオリゴマーである。液晶性オリゴマー(B)の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量として、10,000以下である。
かかる分子量を有する液晶性オリゴマー(B)は、ポリイミド樹脂(A)と液晶性オリゴマーとを溶融根練する場合に、ポリイミド樹脂(A)中に均一に分散しやすかったり、後述する液状樹脂組成物中で均一に溶解、又は分散しやすかったりする。
また、ポリイミド樹脂(A)に液晶性重合体を配合する場合、液晶性重合体の使用量によっては、ポリイミド樹脂組成物において、機械的特性や誘電特性に異方性が生じる場合がある。しかし、上記の分子量の液晶性オリゴマー(B)をポリイミド樹脂(A)等に配合する場合、ポリイミド樹脂組成物における機械的特性や誘電特性に関する異方性を軽減しやすい。
【0032】
液晶性オリゴマー(B)について、溶融時の光学的異方性は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査方法により確認することができる。
【0033】
液晶性オリゴマー(B)の分子量は、液晶性オリゴマー(B)を、ペンタフルオロフェノール、及びクロロホルムからなる混合溶媒に溶解させた試料を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりポリスチレン換算の重量平均分子量として測定できる。
【0034】
液晶性オリゴマー(B)は、典型的にはフェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物を重縮合することにより製造される。重縮合は、触媒の存在下に行われるのが好ましい。触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、1-メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられる。
【0035】
触媒の使用量は、例えば、モノマー混合物の量100質量部に対し、0.1質量部以下が好ましい。
【0036】
前述の通り、モノマー混合物は、フェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマーの混合物である。モノマー混合物は、テレフタル酸やイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸や、アジピン酸やセバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸等のフェノール性水酸基を持たないモノマーを含んでいてもよい。
【0037】
モノマー混合物の調製方法としては、コストや製造時間の点で、フェノール性水酸基を有するモノマーを含むモノマー混合物をアシル化して、フェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物を得る方法が好ましい。
【0038】
液晶性オリゴマー(B)を構成する構成単位としては、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族アミノオキシ単位、芳香族ジアミノ単位、芳香族アミノカルボニル単位、脂肪族ジカルボニル単位、及び脂肪族ジオキシ単位等が挙げられる。
【0039】
なお、液晶性オリゴマー(B)は、エステル結合以外の結合として、アミド結合、イミド結合やチオエステル結合を含んでいてもよい。
【0040】
芳香族オキシカルボニル単位は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する単位である。
【0041】
芳香族ヒドロキシカルボン酸の好適な具体例としては、p-ヒドロキシ安息香酸、m-ヒドロキシ安息香酸、o-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体が挙げられる。
【0042】
芳香ヒドロキシカルボン酸のエステル誘導体、酸ハロゲン化物等のエステル形成性誘導体も、芳香族ヒドロキシカルボン酸と同様に好適に使用できる。
【0043】
得られる液晶性オリゴマー(B)の融点を調製しやすいことから、これらの芳香族ヒドロキシカルボン酸の中では、p-ヒドロキシ安息香酸、及び6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が好ましい。
【0044】
芳香族ジカルボニル繰返し単位は、芳香族ジカルボン酸に由来する単位である。
【0045】
芳香族ジカルボン酸の好適な具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、及び4,4’-ジカルボキシビフェニル等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体が挙げられる。
【0046】
芳香族ジカルボン酸のエステル誘導体、酸ハロゲン化物等のエステル形成性誘導体も、芳香族ジカルボン酸と同様に好適に使用できる。
【0047】
得られる液晶性オリゴマー(B)の機械物性、耐熱性、融点温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから、これらの芳香族ジカルボン酸中ではテレフタル酸、及び2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0048】
芳香族ジオキシ繰返し単位は、芳香族ジオールに由来する単位である。
【0049】
芳香族ジオールの好適な具体例としては、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテル、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体等が挙げられる。
【0050】
重縮合時の反応性、及び得られる液晶性オリゴマー(B)の特性等の点から、これらの芳香族ジオールの中ではハイドロキノン、レゾルシン、及び4,4’-ジヒドロキシビフェニルが好ましい。
【0051】
芳香族アミノオキシ単位は、芳香族ヒドロキシアミンに由来する単位である。
【0052】
芳香族ヒドロキシアミンの好適な具体例としては、p-アミノフェノール、m-アミノフェノール、4-アミノ-1-ナフトール、5-アミノ-1-ナフトール、8-アミノ-2-ナフトール、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシアミン、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体等が挙げられる。
【0053】
芳香族ジアミノ単位は、芳香族ジアミンに由来する単位である。
【0054】
芳香族ジアミンの好適な具体例としては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン等の芳香族ジアミン、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体が挙げられる。
【0055】
芳香族アミノカルボニル単位は、芳香族アミノカルボン酸に由来する単位である。
【0056】
芳香族アミノカルボン酸の好適な具体例としては、p-アミノ安息香酸、m-アミノ安息香酸、6-アミノ-2-ナフトエ酸等の芳香族アミノカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体が挙げられる。
【0057】
芳香族アミノカルボン酸のエステル誘導体、酸ハロゲン化物等のエステル形成性誘導体も液晶性オリゴマー(B)製造用のモノマーとして好適に使用できる。
【0058】
脂肪族ジカルボニル単位は、脂肪族ジカルボン酸に由来する単位である。脂肪族ジカルボン酸の好適な具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、フマル酸、マレイン酸、及び1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
【0059】
脂肪族ジオキシ単位を与える単量体の具体例としては、例えばエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、並びにそれらのアシル化物が挙げられる。
【0060】
また、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレート等の脂肪族ジオキシ単位を含有するポリマーを、前術の芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、及びそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等と反応させることによっても、脂肪族ジオキシ単位を含む液晶性オリゴマー(B)を得ることができる。
【0061】
液晶性オリゴマー(B)は、チオエステル結合を含むものであってもよい。このような結合を与える単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、芳香族ジチオール、及びヒドロキシ芳香族チオール等が挙げられる。
【0062】
これらの単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰り返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、脂肪族ジカルボニル繰り返し単位/脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の合計量に対して10モル%以下であるのが好ましい。
【0063】
液晶性オリゴマー(B)としては、調製が容易であることや、誘電特性に優れるポリアミド樹脂組成物を得やすいことから、芳香族オキシカルボニル繰り返し単位、及び/又は芳香族ジオキシ繰り返し単位を有する液晶性オリゴマー(B)が好ましい。このような液晶性オリゴマー(B)としては、芳香族オキシカルボニル繰り返し単位を必須に有し、芳香族ジオキシ繰り返し単位を任意に有する液晶性オリゴマーと、4,4’-ジオキシビフェニル繰り返し単位と、脂肪族ジカルボニル繰り返し単位とからなる液晶性オリゴマー(B)とが好ましい。
【0064】
芳香族オキシカルボニル繰り返し単位を必須に有し、芳香族ジオキシ繰り返し単位を任意に有する液晶性オリゴマー液晶性オリゴマー(B)の好適な例としては、以下の1)~39)が挙げられる。
1)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸共重合体
2)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
3)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
4)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン共重合体
5)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
6)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン共重合体
7)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
8)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
9)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
10)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
11)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
12)4-ヒドロキシ安息香酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
13)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
14)4-ヒドロキシ安息香酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
15)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
16)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
17)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール共重合体
18)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール共重合体
19)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール共重合体
20)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/4-アミノフェノール共重合体
21)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
22)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体
23)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
24)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体
25)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
26)4-ヒドロキシ安息香酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/アジピン酸共重合体
27)4-ヒドロキシ安息香酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/セバシン酸共重合体
28)4-ヒドロキシ安息香酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/1,4-シクロヘキサンジカルボン酸共重合体
29)4-ヒドロキシ安息香酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/アジピン酸/セバシン酸共重合体
30)4-ヒドロキシ安息香酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/アジピン酸/1,4-シクロヘキサンジカルボン酸共重合体
31)4-ヒドロキシ安息香酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/セバシン酸/1,4-シクロヘキサンジカルボン酸共重合体
32)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/アジピン酸共重合体
33)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/セバシン酸共重合体
34)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/1,4-シクロヘキサンジカルボン酸共重合体
35)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/アジピン酸/セバシン酸共重合体
36)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/アジピン酸/1,4-シクロヘキサンジカルボン酸共重合体
37)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/セバシン酸/1,4-シクロヘキサンジカルボン酸共重合体
38)4-ヒドロキシ安息香酸単独重合体
39)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸単独重合体
【0065】
4,4’-ジオキシビフェニル繰り返し単位と、脂肪族ジカルボニル繰り返し単位とからなる液晶性オリゴマー(B)の好適な例としては、以下のI)~VI)が挙げられる。
I)4,4’-ジヒドロキシビフェニル/アジピン酸共重合体
II)4,4’-ジヒドロキシビフェニル/セバシン酸共重合体
III)4,4’-ジヒドロキシビフェニル/1,4-シクロヘキサンジカルボン酸共重合体
IV)4,4’-ジヒドロキシビフェニル/アジピン酸/セバシン酸共重合体
V)4,4’-ジヒドロキシビフェニル/アジピン酸/1,4-シクロヘキサンジカルボン酸共重合体
VI)4,4’-ジヒドロキシビフェニル/セバシン酸/1,4-シクロヘキサンジカルボン酸共重合体
【0066】
前述の通り、フェノール性水酸基を有するモノマーを含むモノマー混合物をアシル化して、フェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物を得るのが好ましい。アシル化は、フェノール性水酸基と、脂肪酸無水物とを反応させることにより行われるのが好ましい。脂肪酸無水物としては、例えば、無水酢酸、及び無水プロピオン酸等を用いること出来る。価格と取り扱い性の点から、無水酢酸が好ましく使用される。
【0067】
脂肪酸無水物の使用量は、フェノール性水酸基の量に対して、1.0倍当量以上1.15倍当量以下が好ましく、1.03倍当量以上1.10倍当量以下がより好ましい。
【0068】
フェノール性水酸基を有するモノマーを含むモノマー混合物と、上記の脂肪酸無水物とを混合して加熱することによりアシル化して、フェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物が得られる。
【0069】
以上のようにして得られたフェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物を加熱するとともに、重縮合により副生する脂肪酸を留去することにより液晶性オリゴマー(B)が得られる。
【0070】
溶融重縮合のみにより液晶性オリゴマー(B)を製造する場合、溶融重縮合の温度は、150℃以上350℃以下が好ましく、200℃以上330℃以下が好ましい。
【0071】
ポリイミド樹脂(A)が備える種々の特性を著しく損なうことなく、ポリイミド樹脂組成物の誘電正接Dfの湿度の影響による増加を抑制できる点で、ポリイミド樹脂組成物における液晶性オリゴマー(B)の量は、ポリイミド樹脂(A)の質量と、液晶性オリゴマー(B)の質量との合計に対して、5質量%以上50質量%以下が好ましく、6質量%以上40質量%以下がより好ましく、7質量%以上30質量%以下がさらに好ましい。
【0072】
<その他の添加剤>
ポリイミド樹脂組成物には、必要に応じて、無機充填剤を配合できる。無機充填剤としては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ、モンモリロナイト、石膏、ガラスフレーク、ガラス繊維、ミルドガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、ホウ酸アルミニウムウィスカ、及びチタン酸カリウム繊維等が挙げられる。無機充填剤は、単独で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0073】
これらの無機充填剤の使用量は、ポリイミド樹脂組成物の低誘電特性を損なわない範囲で、ポリイミド樹脂組成物の用途に応じて適宜決定される。例えば、ポリイミド樹脂組成物を用いてフィルムを形成する場合には、フィルムの機械強度を著しく損なわない範囲で、無機充填剤の使用量の上限が定められる。
【0074】
ポリイミド樹脂組成物には、必要に応じて、さらに、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、及び離型改良剤等の各種の添加剤を配合できる。
【0075】
これらの添加剤は、単独で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0076】
≪液状樹脂組成物≫
液状樹脂組成物は、ポリアミド酸(a)、液晶性オリゴマー(B)、及び有機溶媒(S)を含む。液状樹脂組成物に含まれるポリアミド酸(a)をイミド化することにより、前述のポリイミド樹脂組成物が得られる。ポリアミド酸(a)をイミド化する際には、好ましくは、有機溶媒(S)が除去される。
【0077】
ポリアミド酸(a)は、ポリイミド樹脂(A)の原料として前述したジアミン成分と、テトラカルボン酸二無水物とを、所望の比率で常法に従って重縮合させることによって得られる。
【0078】
液状樹脂組成物において、ポリアミド酸(a)と、液晶性オリゴマー(B)とは、液状樹脂組成物中のポリアミド酸(a)をイミド化した際に、ポリイミド樹脂(A)と液晶性オリゴマーとの質量比が所望する比率であるように配合される。
【0079】
有機溶媒(S)としては、ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒として前述した溶媒が好ましい。好ましい溶媒としてはアミド系溶媒が挙げられる。アミド系溶媒の好適な具体例は、N,N-ジメチルホルムフォルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、及びN-メチル-2-ピロリドン等であり、N,N-ジメチルホルムアミド、及びN,N-ジメチルアセトアミドが特に好ましい。
【0080】
液状樹脂組成物の固形分濃度は、特に限定されない。液状樹脂組成物の固形分濃度は、例えば、塗布等を行う際の取り扱いの容易さの点で、5質量%~35質量%が好ましい。
【0081】
液状樹脂組成物は、ポリイミド樹脂組成物について説明したその他の添加剤を含んでいてもよい。
【0082】
以上説明した液状樹脂組成物は、ポリイミドフィルムを形成するために使用される製膜用ドープとして好適である。
【0083】
≪フィルムの製造方法≫
前述の液状樹脂組成物を製膜用のドープとして用いることにより、前述のポリイミド樹脂組成物からなるフィルムが製造される。
具体的には、前述の製膜用ドープを、支持体上に流延して、ポリイミド樹脂前駆膜を得ることと、
ポリイミド樹脂前駆膜を、支持体上で加熱してゲルフィルムを形成することと、
ゲルフィルムを、支持体から剥離させることと、
支持体から剥離されたゲルフィルムを加熱することにより、ゲルフィルム中のポリアミド酸をイミド化することと、
を含む、方法によりフィルムが製造される。
【0084】
ポリイミド樹脂前駆膜、及びゲルフィルムをイミド化する方法について、熱イミド化法と化学イミド化法に大別される。熱イミド化法は、脱水閉環剤等を使用せず、ポリイミド樹脂前駆膜、及びゲルフィルムの加熱のみによりイミド化を進める方法である。一方の化学イミド化法は、ポリアミド酸溶液(製膜用ドープ)に、イミド化促進剤として脱水閉環剤及び触媒の少なくともいずれかを添加して、イミド化を促進する方法である。どちらの方法を用いても構わないが、化学イミド化法の方が生産性に優れる。
【0085】
脱水閉環剤としては、無水酢酸に代表される酸無水物が好適に用いられ得る。触媒としては、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、複素環式第三級アミン等の第三級アミンが好適に用いられる。
【0086】
製膜用ドープを流延する支持体としては、ガラス板、アルミ箔、エンドレスステンレスベルト、ステンレスドラム等が好適に用いられ得る。最終的に得られるフィルムの厚さ、生産速度に応じて加熱条件を設定し、部分的にイミド化、又は乾燥の少なくとも一方を行った後、支持体から剥離してポリアミド酸フィルム(ゲルフィルムという)を得る。
【0087】
上記ゲルフィルムの端部を固定して硬化時の収縮を回避して乾燥し、ゲルフィルムから、水、残留溶媒、イミド化促進剤を除去し、そして残ったアミド酸を完全にイミド化して、ポリイミド樹脂組成物からなるフィルムが得られる。加熱条件については、最終的に得られるフィルムの厚さ、生産速度に応じて適宜設定すればよい。誘電特性に優れるフィルムを得やすい点からは、最高到達点温度300~400℃の範囲で加熱するのが好ましい。最高到達点温度での加熱時間としては、例えば、1~3分が好ましい。最高到達点温度での加熱を終えた後、フィルムを徐々に冷却するのも好ましい。
【0088】
上記のようにして得られる、前述のポリイミド樹脂組成物からなるフィルムの10GHzにおける誘電正接は、0.0060以下が好ましく、0.0050以下がより好ましく、0.0040以下がさらに好ましい。
また、上記のようにして得られる、前述のポリイミド樹脂組成物からなるフィルムの10GHzにおける誘電正接ドリフトは、0.0020未満が好ましく、0.0015以下がより好ましい。
誘電正接ドリフトは、乾燥状態のフィルムの誘電正接と、水分にさらされたフィルムの誘電正接との差である。誘電正接ドリフトは、実施例において後述する方法により測定できる。
【0089】
以上説明したフィルムは、低い誘電正接を示し、誘電正接ドリフトの値も小さい為、湿度の高い環境下においても、電気信号の伝送損失が悪化しにくい。このため、かかるフィルムは、金属張積層板やプリント基板を構成するフィルムとして好適に使用される。
【実施例0090】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0091】
(合成例1)
(ポリアミド酸溶液の製造)
容量500mlのガラス製フラスコ中で、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)164.2g、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)3.0g、及びp-フェニレンジアミン(p-PDA)6.4gを溶解させた。得られた溶液にs-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)12.2g、及び4,4’-オキシフタル酸二無水物(ODPA)7.9gを添加した後、フラスコ内の液を30分撹拌して溶解させた。さらにこの溶液に別途調製してあったピロメリット酸二無水物(PMDA)のDMF溶液(PMDA0.5g/DMF5.8g)を注意深く添加し、粘度が1500ポイズ程度に達したところで添加を止めた。次いで、フラスコ内の液を1時間撹拌して固形分濃度約15重量%、23℃での回転粘度が1500~2000ポイズのポリアミド酸溶液を得た。
【0092】
〔実施例1〕
還流冷却器、窒素導入管、及びトルクメーター付き撹拌棒を備える300mLのセパラブルフラスコに、パラヒドロキシ安息香酸55.25g(0.40mol)、無水酢酸44.92g、及び触媒としての1-メチルイミダゾール0.033gを仕込んだ。フラスコの内容物を、常圧、窒素雰囲気下で145℃まで昇温し、還流状態で30分間撹拌して反応させた。
続いて、酢酸を留去しながら、フラスコの内容物を260℃まで1時間かけて昇温し、260℃で90分間保持した。引き続きその温度を保持したまま、フラスコ内を10Torrの減圧条件下にして、フラスコの内容物を反応させた。減圧開始から30分後に、フラスコ内に窒素ガスを導入して、フラスコ内を常圧に戻し、生成した液晶性オリゴマーをフラスコ内から取り出した。
得られた液晶性オリゴマーを、固形分濃度が10質量%であるようにDMFに分散させ、液晶性オリゴマーのDMF分散液を得た。
【0093】
ポリアミド酸から得られるポリイミド樹脂の質量(質量部)と、液晶性オリゴマーの質量(質量部)との比率が、表1に記載の比率であるように、合成例1で得たポリアミド酸溶液50gに対して、上記の液晶性オリゴマーのDMF分散液を加えた。
得られた混合液に、無水酢酸8.7g、イソキノリン2.6g、及びDMF8.0gからなる硬化剤22.8gを加えて、0℃以下の温度で、撹拌、脱泡して、製膜用ドープを得た。
【0094】
得られた製膜用ドープを、コンマコーターを用いてアルミ箔上に流延、塗布した。
製膜用ドープからなる膜を、110℃133秒間乾燥させた後、ゲルフィルムをアルミ箔から剥離させた。次いで、ゲルフィルムを、収縮しないように金属製の固定枠に固定した。固定枠に固定されたゲルフィルムを、予熱された熱風循環オーブンで250℃、15秒、次いで350℃、79秒の条件で加熱して、イミド化させた。加熱後、固定枠から切り離された、厚さ17μmのポリイミドフィルムを得た。
【0095】
〔実施例2〕
合成例1で得たポリアミド酸溶液50gに対して加える、液晶性オリゴマーの分散液の量を、表1に記載のポリアミド酸から得られるポリイミド樹脂の質量(質量部)と、液晶性オリゴマーの質量(質量部)との比率に基づいて変更することの他は、実施例1と同様にして、製膜用ドープを得た。
得られた製膜用ドープを用いて、実施例1と同様にして、厚さ17μmのポリイミドフィルムを得た。
【0096】
〔実施例3〕
260℃での反応時間を、減圧前30分、減圧開始後30分に変えることの他は、実施例1と同様にして液晶性オリゴマーのDMF分散液と、製膜用ドープとを得た。
得られた製膜用ドープを用いて、実施例1と同様にして、厚さ17μmのポリイミドフィルムを得た。
【0097】
〔実施例4〕
実施例3と同様にして液晶性オリゴマーのDMF分散液を得た。得られた液晶性オリゴマーのDMF分散液を用いて、実施例2と同様にして製膜用ドープを得た。
得られた製膜用ドープを用いて、実施例1と同様にして、厚さ17μmのポリイミドフィルムを得た。
【0098】
〔実施例5〕
パラヒドロキシ安息香酸55.25g(0.40mol)を、4,4’-ジヒドロキシビフェニル37.24g(0.20mol)、及び1,4-シクロヘキサンジカルボン酸28.70g(0.17モル)に変えることの他は、実施例1と同様にして液晶性オリゴマーのDMF分散液と、製膜用ドープとを得た。
得られた製膜用ドープを用いて、実施例1と同様にして、厚さ17μmのポリイミドフィルムを得た。
【0099】
〔実施例6〕
実施例5と同様にして液晶性オリゴマーのDMF分散液を得た。得られた液晶性オリゴマーのDMF分散液を用いて、実施例2と同様にして製膜用ドープを得た。
得られた製膜用ドープを用いて、実施例1と同様にして、厚さ17μmのポリイミドフィルムを得た。
【0100】
〔実施例7〕
260℃での反応時間を、減圧前30分、減圧開始後30分に変えることの他は、実施例5と同様にして液晶性オリゴマーのDMF分散液と、製膜用ドープとを得た。
得られた製膜用ドープを用いて、実施例1と同様にして、厚さ17μmのポリイミドフィルムを得た。
【0101】
〔実施例8〕
実施例7と同様にして液晶性オリゴマーのDMF分散液を得た。得られた液晶性オリゴマーのDMF分散液を用いて、実施例2と同様にして製膜用ドープを得た。
得られた製膜用ドープを用いて、実施例1と同様にして、厚さ17μmのポリイミドフィルムを得た。
【0102】
〔実施例9〕
パラヒドロキシ安息香酸55.25g(0.40mol)を、4,4’-ジヒドロキシビフェニル37.24g(0.20mol)、及びアジピン酸35.07g(0.24モル)に変えることの他は、実施例1と同様にして液晶性オリゴマーのDMF分散液と、製膜用ドープとを得た。
得られた製膜用ドープを用いて、実施例1と同様にして、厚さ17μmのポリイミドフィルムを得た。
【0103】
〔実施例10〕
実施例9と同様にして液晶性オリゴマーのDMF分散液を得た。得られた液晶性オリゴマーのDMF分散液を用いて、実施例2と同様にして製膜用ドープを得た。
得られた製膜用ドープを用いて、実施例1と同様にして、厚さ17μmのポリイミドフィルムを得た。
【0104】
〔実施例11〕
パラヒドロキシ安息香酸55.25g(0.40mol)を、4,4’-ジヒドロキシビフェニル37.24g(0.20mol)、及びセバシン酸48.54g(0.24モル)に変えることの他は、実施例1と同様にして液晶性オリゴマーのDMF分散液と、製膜用ドープとを得た。
得られた製膜用ドープを用いて、実施例1と同様にして、厚さ17μmのポリイミドフィルムを得た。
【0105】
〔実施例12〕
実施例11と同様にして液晶性オリゴマーのDMF分散液を得た。得られた液晶性オリゴマーのDMF分散液を用いて、実施例2と同様にして製膜用ドープを得た。
得られた製膜用ドープを用いて、実施例1と同様にして、厚さ17μmのポリイミドフィルムを得た。
【0106】
〔実施例13〕
パラヒドロキシ安息香酸55.25g(0.40mol)を、p-ヒドロキシ安息香酸16.57g(0.12mol)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル22.35g(0.12mol)、及びセバシン酸29.12g(0.14mol)に変えることの他は、実施例1と同様にして液晶性オリゴマーのDMF分散液と、製膜用ドープとを得た。
得られた製膜用ドープを用いて、実施例1と同様にして、厚さ17μmのポリイミドフィルムを得た。
【0107】
〔実施例14〕
実施例13と同様にして液晶性オリゴマーのDMF分散液を得た。得られた液晶性オリゴマーのDMF分散液を用いて、実施例2と同様にして製膜用ドープを得た。
得られた製膜用ドープを用いて、実施例1と同様にして、厚さ17μmのポリイミドフィルムを得た。
【0108】
〔比較例1〕
合成例1で得たポリアミド酸溶液50gに、無水酢酸8.7g、イソキノリン2.6g、及びDMF8.0gからなる硬化剤22.8gを加えて、0℃以下の温度で、撹拌、脱泡して、製膜用ドープを得た。
得られた製膜用ドープを用いて、実施例1と同様にして、厚さ17μmのポリイミドフィルムを得た。
【0109】
各実施例で得られた液晶性オリゴマーについて、下記の方法に従って液晶性を確認した。その結果、いずれの液晶性オリゴマーも、溶融時に液晶性を示した。
<液晶性の確認方法>
オリンパス社製の偏光顕微鏡BX-51-33P-OCを用いて、液晶性の確認を行った。得られた液晶性オリゴマーのサンプルを二枚のスライドガラスで挟み、顕微鏡の加熱ステージ上にてサンプルを溶融させて、溶融時における光学異方性の有無を確認した。対物レンズを10倍、又は50倍に設定して観察を行った。溶融時に光学異方性を示すサンプルについて、液晶性を示すと判断した。
【0110】
各実施例で得られた液晶性オリゴマーについて、以下の方法に従って分子量を測定した。測定した分子量の値を、表1に記す。
<分子量測定方法>
得られた液晶性オリゴマー3mgにペンタフルオロフェノールを1.75g加え、120℃で30分間撹拌した。得られた溶液を放冷後、クロロホルムを3.25g加え撹拌し試料溶液を調製した。
得られた試料溶液を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて、ポリスチレン換算の重量平均分子量を測定した。検出器は東ソー社製の示差屈折質率検出器RI-8020、カラムは東ソー社製のTSKgelSuperHM-Mを使用した。標準試料としては、東ソー社製の単分散ポリスチレンを使用した。
【0111】
各実施例、及び比較例で得たフィルムについて、以下の方法に従って、誘電正接を測定した。誘電正接の測定値を表1に記す。
<誘電正接測定方法>
誘電正接は、HEWLETTPACKARD社製のネットワークアナライザ8719Cと株式会社関東電子応用開発製の空洞共振器振動法誘電率測定装置CP511とを用いて測定した。フィルムから、2mm×100mmのサイズの試料を切り出し、23℃/50%R.H.環境下で24時間調湿後に誘電正接(常態Df)の測定を行った。測定は10GHzで行った。
【0112】
各実施例、及び比較例で得たフィルムについて、以下の方法に従って、誘電正接ドリフト(ΔDf)を測定した。誘電正接の測定値を表1に記す。
<誘電正接ドリフト(ΔDf)測定方法>
誘電正接の測定前に、試料を150℃の乾燥機で1時間乾燥させることの他は、前述の方法に従って、試料の誘電正接(絶乾Df)を測定した。
以下の計算式により誘電正接ドリフト(ΔDf)を求めた。
ΔDf=常態Df-絶乾Df
【0113】
【0114】
表1によれば、ポリイミド樹脂(A)と、分子量10,000以下の液晶性オリゴマー(B)とを含むポリイミド樹脂組成物からなる実施例のフィルムは、液晶性オリゴマー(B)を含まないポリイミド樹脂(A)からなる比較例1のフィルムよりも誘電正接ドリフトの値が小さいことが分かる。