(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145096
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】滑り軸受およびサスペンション
(51)【国際特許分類】
F16C 17/04 20060101AFI20231003BHJP
F16C 33/20 20060101ALI20231003BHJP
F16C 27/06 20060101ALI20231003BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20231003BHJP
F16F 9/54 20060101ALI20231003BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20231003BHJP
F16F 15/067 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
F16C17/04 Z
F16C33/20 A
F16C27/06 A
F16F9/32 B
F16F9/54
F16F15/023 A
F16F15/067
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052382
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 孝尚
【テーマコード(参考)】
3J011
3J012
3J048
3J069
【Fターム(参考)】
3J011BA08
3J011CA01
3J011KA03
3J011MA06
3J011SC16
3J011SC20
3J012AB07
3J012BB02
3J012CB03
3J012DB07
3J012FB01
3J048AA02
3J048AC04
3J048BC02
3J048BE03
3J048EA15
3J069AA50
3J069CC02
3J069CC36
3J069DD26
(57)【要約】
【課題】支持対象に伝わる振動を低減可能な滑り軸受を提供する。
【解決手段】滑り軸受1は、アッパーケース2と、ロワーケース3と、アッパーケース2およびロワーケース3間に配置され、アッパーケース2およびロワーケース3間の相対的な回動を実現するセンタープレート4と、を備える。センタープレート4は、同じ中心Oに対して交互に配置された環状肉厚部400および環状肉薄部401を有し、環状肉厚部400は、アッパーケース2側と接触する第1環状凸部402と、第1環状凸部402と同じ円周上に設けられ、ロワーケース3側と接触する第2環状凸部403と、を有し、環状肉薄部401は、アッパーケース2側およびロワーケース3側と非接触である。ロワーケース3は、第2環状凸部403を収容する環状収容部340を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持対象の荷重を支持する滑り軸受であって、
前記支持対象の荷重を受けるアッパーケースと、
前記アッパーケースに回動自在に組み合わされたロワーケースと、
前記アッパーケースおよび前記ロワーケース間に配置され、前記アッパーケースおよび前記ロワーケース間の相対的な回動を実現する環状のセンタープレートと、を備え、
前記センタープレートは、
同じ中心に対して交互に配置された環状肉厚部および環状肉薄部を有し、
前記環状肉厚部は、
前記アッパーケース側と接触する第1環状凸部と、
前記第1環状凸部と同じ円周上に設けられ、前記ロワーケース側と接触する第2環状凸部と、を有し、
前記環状肉薄部は、
前記アッパーケース側および前記ロワーケース側と非接触であり、
前記ロワーケースは、
前記第2環状凸部を収容する環状収容部を有する
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の滑り軸受けであって、
前記センタープレートは、
径方向において2つの前記環状肉厚部の間に配置された前記環状肉薄部を有する
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項3】
請求項1または2に記載の滑り軸受であって、
前記第2環状凸部は、
当該第2環状凸部の先端面に向かうにつれてラジアル方向の幅が狭くなるようにテーパが付けられている
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の滑り軸受であって、
前記環状収容部は、
当該環状収容部の底面に向かうにつれてラジアル方向の幅が狭くなるようにテーパが付けられている
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の滑り軸受であって、
前記ロワーケースは、
前記センタープレートの載置面に前記環状収容部が形成された環状凸部をさらに有し、
前記アッパーケースは、
前記環状凸部が挿入される環状凹部をさらに有し、
前記センタープレートは、
前記ロワーケースの前記環状凸部の内周側壁と前記アッパーケースの前記環状凹部の内周側壁との間に配置され、前記アッパーケースの前記環状凹部の内周側壁との摺動面を有する筒状のラジアルブッシュ部をさらに有する
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項6】
車体の懸架に用いられるサスペンションであって、
ピストンロッドおよび油圧式ショックアブソーバ含むアッセンブリと、
前記アッセンブリが挿入され、ステアリング操作によって前記アッセンブリと共に回動するコイルスプリングと、
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の滑り軸受と、を備え、
前記滑り軸受は、
前記アッパーケースが、前記サスペンションの前記車体への取付機構であるアッパーマウントに取り付けられるものであり、
前記ロワーケースが、前記サスペンションのコイルスプリングの上端部側に取り付けられるものである
ことを特徴とするサスペンション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持対象の荷重を支持する滑り軸受に関し、特に、サスペンションに加わる車体の荷重を支持する滑り軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の前輪に用いられるストラット式サスペンションは、ピストンロッドおよび油圧式ショックアブソーバを備えたストラットアッセンブリに、コイルスプリングを組み合わせた構造を有しており、ステアリング操作によってストラットアッセンブリがコイルスプリングとともに回動する。このため、ストラットアッセンブリの円滑な回動を許容しつつ、ストラット式サスペンションに加わる自動車の荷重を支持するべく、通常、車体へのストラットアッセンブリの取付機構であるアッパーマウントとコイルスプリング上端部のばね座であるアッパースプリングシートとの間に、軸受が配置されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ストラット式サスペンション用の軸受として、合成樹脂製の滑り軸受が開示されている。この滑り軸受は、アッパーマウント側に取り付けられるアッパーケースと、アッパースプリングシート側に取り付けられ、アッパーケースに回動自在に組み合わされるロワーケースと、アッパーケースとロワーケースとの間に介在して、アッパーケースおよびロワーケース間の円滑な回動を可能とする環状のセンタープレートと、を備えており、センタープレートがアッパーケースに加わる荷重をアッパーケースに対して摺動可能に支持することにより、ストラットアッセンブリの円滑な回動を許容しつつ、ストラット式サスペンションに加わる車体の荷重を支持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電気自動車が普及しつつある。電気自動車では、駆動力に内燃機関を用いておらず、このため、走行中の車内ノイズとして、タイヤからサスペンションを介して車体に伝達されるロードノイズ(微細な振動)が大きな割合を占める。したがって、電気自動車では、ロードノイズの低減がこれまで以上に重要な課題になっている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、支持対象に伝わる振動を低減することが可能な滑り軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、支持対象の荷重を受けるアッパーケースと、アッパーケースに回動自在に組み合わされたロワーケースと、アッパーケースとロワーケースとの間に介在して、アッパーケースおよびロワーケース間の円滑な回動を可能とする環状のセンタープレートと、を備えた滑り軸受において、センタープレートを熱可塑性エラストマーで形成するとともに、このセンタープレートに、環状肉厚部および環状肉薄部を同じ中心に対して交互に配置し、環状肉薄部はアッパーケース側およびロワーケース側と非接触とし、環状肉厚部がアッパーケース側およびロワーケース側と接触するようにした。また、ロワーケースに、センタープレートの環状肉厚部のロワーケース側を収容する環状の収容部を設けることにより、滑り軸受のスラスト方向の厚みが増加するのを抑制しつつ、環状肉厚部の厚みを増加させた。
【0008】
例えば、本発明の滑り軸受は、
支持対象の荷重を支持する滑り軸受であって、
前記支持対象の荷重を受けるアッパーケースと、
前記アッパーケースに回動自在に組み合わされたロワーケースと、
前記アッパーケースおよび前記ロワーケース間に配置され、前記アッパーケースおよび前記ロワーケース間の相対的な回動を実現する環状のセンタープレートと、を備え、
前記センタープレートは、
同じ中心に対して交互に配置された環状肉厚部および環状肉薄部を有し、
前記環状肉厚部は、
前記アッパーケース側と接触する第1環状凸部と、
前記第1環状凸部と同じ円周上に設けられ、前記ロワーケース側と接触する第2環状凸部と、を有し、
前記環状肉薄部は、
前記アッパーケース側および前記ロワーケース側と非接触であり、
前記ロワーケースは、
前記第2環状凸部を収容する環状収容部を有する。
【0009】
また、本発明のサスペンションは、
車体の懸架に用いられるサスペンションであって、
ピストンロッドおよび油圧式ショックアブソーバ含むアッセンブリと、
前記アッセンブリが挿入され、ステアリング操作によって前記アッセンブリと共に回動するコイルスプリングと、
前記滑り軸受と、を備え、
前記滑り軸受は、
前記アッパーケースが、前記サスペンションの前記車体への取付機構であるアッパーマウントに取り付けられるものであり、
前記ロワーケースが、前記サスペンションのコイルスプリングの上端部側に取り付けられるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、振動減衰機能を有する熱可塑性エラストマーでセンタープレートを形成するとともに、このセンタープレートに、環状肉厚部および環状肉薄部を同じ中心に対して交互に配置し、環状肉薄部はアッパーケース側およびロワーケース側と非接触とし、環状肉厚部がアッパーケース側およびロワーケース側と接触するようにしている。このため、ロワーケースからアッパーケースに伝達される振動をセンタープレートの環状肉厚部で効率よく減衰させることができる。
【0011】
また、環状肉厚部のラジアル方向の隣にはロワーケース側およびアッパーケース側のいずれとも接触しない環状肉薄部が配置されるので、ロワーケースからアッパーケースに伝達される振動の伝達経路が環状肉厚部内に制限される。このため、センタープレート全体を肉厚にして上面および下面の全面をアッパーケース側およびロワーケース側に接触させた場合に比べて、ロワーケースからアッパーケースに伝達される振動の伝達経路が単純化され、センタープレート内で共振するのを低減することができる。また、熱可塑性エラストマー製のセンタープレート全体を肉厚にした場合に起こりやすいクラック(圧縮割れ)を抑制しつつ、センタープレートの強度を確保することができる。
【0012】
さらに、ロワーケースに、センタープレートの環状肉厚部のロワーケース側を収容する環状収容部を設けることにより、滑り軸受のスラスト方向の厚みの増加を抑制しつつ、環状肉厚部の厚みを増加させているので、滑り軸受のスラスト方向の厚みの増加を抑制しつつ、ロワーケースからアッパーケースに伝達される振動をさらに効率よく減衰させることができる。
【0013】
このように、本発明によれば、支持対象に伝わる振動を低減することが可能な滑り軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係る滑り軸受1を用いたストラット式サスペンション7の概略部分断面図である。
【
図2】
図2(A)、
図2(B)および
図2(C)は、本発明の一実施の形態に係る滑り軸受1の平面図、底面図および正面図であり、
図2(D)は、
図2(A)に示す滑り軸受1のA-A断面図である。
【
図3】
図3は、
図2(D)に示す滑り軸受1のB部拡大図である。
【
図4】
図4(A)、
図4(B)および
図4(C)は、アッパーケース2の平面図、底面図および正面図であり、
図4(D)は、
図4(A)に示すアッパーケース2のC-C断面図である。
【
図5】
図5(A)、
図5(B)および
図5(C)は、ロワーケース3の平面図、底面図および正面図であり、
図5(D)は、
図5(A)に示すロワーケース3のD-D断面図である。
【
図6】
図6(A)、
図6(B)および
図6(C)は、センタープレート4の平面図、底面図および正面図であり、
図6(D)は、
図6(A)に示すセンタープレート4のE-E断面図である。
【
図7】
図7(A)は、摺動シート5の平面図であり、
図7(B)は、
図7(A)に示す摺動シート5のF-F断面図である。
【
図8】
図8は、滑り軸受1の変形例1Aを説明するための図であり、
図2(D)に示すB部拡大図に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について説明する。
【0016】
図1は、本実施の形態に係る滑り軸受1を用いたストラット式サスペンション7の概略部分断面図である。
【0017】
ストラット式サスペンション7は、自動車等の車体の懸架に用いられ、図示するように、ピストンロッド70、油圧式ショックアブソーバ71、バンプストッパ72、およびダストブーツ73を含むストラットアッセンブリ74と、ストラットアッセンブリ74が挿入され、ステアリング操作によってストラットアッセンブリ74と共に回動するコイルスプリング75と、ストラットアッセンブリ74を車体(不図示)に対して回動自在に取り付けるための滑り軸受1と、を備えて構成される。
【0018】
バンプストッパ72は、ピストンロッド70に装着され、ピストンロッド70が圧縮された際にストラットアッセンブリ74が車体にぶつかるのを防止する。ダストブーツ73は、バンプストッパ72が装着されたピストンロッド70を覆うように装着され、塵埃、泥水等がピストンロッド70に付着するのを防止する。コイルスプリング75には、バンプストッパ72およびダストブーツ73が装着されたピストンロッド70が挿入され、その上端部750が滑り軸受1にばね座として設けられたアッパースプリングシート76より支持されるとともに、その下端部751がショックアブソーバ71にばね座として設けられたロワースプリングシート77により支持される。
【0019】
滑り軸受1は、コイルスプリング75の上端部750と車体へのストラットアッセンブリ74の取付機構であるアッパーマウント78との間に配置される。
【0020】
図2(A)、
図2(B)および
図2(C)は、本実施の形態に係る滑り軸受1の平面図、底面図および正面図であり、
図2(D)は、
図2(A)に示す滑り軸受1のA-A断面図である。また、
図3は、
図2(D)に示す滑り軸受1のB部拡大図である。
【0021】
滑り軸受1は、ストラットアッセンブリ74を収容するための収容孔10を備え、この収容孔10に収容されたストラットアッセンブリ74の回動を許容しつつ、ストラット式サスペンション7に加わる荷重を支持する。
【0022】
図示するように、滑り軸受1は、アッパーケース2と、アッパーケース2と回動自在に組み合わされて、アッパーケース2との間に環状空間6を形成するロワーケース3と、この環状空間6に配置された環状のセンタープレート4と、この環状空間6においてセンタープレート4とアッパーケース2との間に配置された環状の摺動シート5と、図示していないが、この環状空間6に充填された潤滑グリースと、を備えている。
【0023】
アッパーケース2は、必要に応じて潤滑油が含浸されたポリアセタール樹脂等の摺動特性に優れた熱可塑性樹脂で形成され、ストラットアッセンブリ74が挿入された状態で、アッパーマウント78に取り付けられる。
【0024】
図4(A)、
図4(B)および
図4(C)は、アッパーケース2の平面図、底面図および正面図であり、
図4(D)は、
図4(A)に示すアッパーケース2のC-C断面図である。
【0025】
図示するように、アッパーケース2は、ストラットアッセンブリ74を挿入するための挿入孔20を備えた環状のアッパーケース本体21と、アッパーケース本体21の上面22に形成され、滑り軸受1をアッパーマウント78に取り付けるための取付面23と、アッパーケース本体21の下面24に形成され、ロワーケース3と回動自在に組み合わされることにより環状空間6を形成する環状凹部25と、を備えている。
【0026】
環状凹部25の天井26には、摺動シート5を装着するための環状溝27が形成されている。
【0027】
ロワーケース3は、ポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂で形成され、ストラットアッセンブリ74が挿入された状態でコイルスプリング75の上端部750に取り付けられる。これにより、ロワーケース3は、コイルスプリング75の上端部750のばね座であるアッパースプリングシート76として機能する。ただし、アッパースプリングシート76は、ロワーケース3とは別個に設けられていてもよい。この場合、ロワーケース3は、この別個に設けられたアッパースプリングシート76に取り付けられる。
【0028】
図5(A)、
図5(B)および
図5(C)は、ロワーケース3の平面図、底面図および正面図であり、
図5(D)は、
図5(A)に示すロワーケース3のD-D断面図である。
【0029】
図示するように、ロワーケース3は、ストラットアッセンブリ74を挿入するための挿入孔30を備えた筒状のロワーケース本体31と、ロワーケース本体31の上端部35側に形成され、ロワーケース本体31の外周面36から径方向外方へ張り出したフランジ部32と、フランジ部32の上面33に形成され、ロワーケース3がアッパーケース2と回動自在に組み合わされた場合に、アッパーケース2のアッパーケース本体21の下面24に形成された環状凹部25に収容されて環状空間6を形成する環状凸部34と、を備えている。
【0030】
環状凸部34の先端面343には、センタープレート4の後述する環状肉厚部400を構成する第2環状凸部403をそれぞれ収容する環状収容部340が形成されている。ここで、環状収容部340は、その底面341に向かうにつれてラジアル方向Rの幅が狭くなるようにテーパが付けられている(
図3参照)。
【0031】
フランジ部32の下面37は、コイルスプリング75の上端部750を支持するばね座であるアッパースプリングシート76として機能する。
【0032】
センタープレート4は、ロワーケース3のフランジ部32の上面33に形成された環状凸部34上に載置され、この環状凸部34とともに環状空間6を構成するアッパーケース2の環状凹部25の環状溝27に装着された摺動シート5を介して、ストラット式サスペンション7に加わる車体の荷重を支持する。
【0033】
図6(A)、
図6(B)および
図6(C)は、センタープレート4の平面図、底面図および正面図であり、
図6(D)は、
図6(A)に示すセンタープレート4のE-E断面図である。
【0034】
センタープレート4は、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー等の振動減衰機能を有する熱可塑性エラストマーで形成され、図示するように、円環板状のスラストプレート部40と、円筒状のラジアルブッシュ部41と、を備えている。
【0035】
スラストプレート部40は、同じ中心Oに対してラジアル方向に交互に配置された環状肉厚部400および環状肉薄部401を有する。ここでは、2つの環状肉厚部400と3つの環状肉薄部401とを設けているが、環状肉厚部400および環状肉薄部401は、それぞれ1つ以上設けられていればよい。
【0036】
環状肉厚部400は、スラストプレート部40の上面404からスラスト方向に突出し、アッパーケース2の環状凹部25の環状溝27に装着された摺動シート5と接触する第1環状凸部402と、第1環状凸部402と同じ円周上に設けられ、スラストプレート部40の下面405からスラスト方向に突出し、ロワーケース3の環状収容部340に収容される第2環状凸部403と、を有する。
【0037】
第2環状凸部403は、その先端面406に向かうにつれてラジアル方向Rの幅が狭くなるようにテーパが付けられている(
図3参照)。これにより、スラスト方向に荷重が加わることによって楔効果が発生し、第2環状凸部403がロワーケース3の環状凸部34に設けられた環状収容部340に固定され、センタープレート4のロワーケース3に対する回転が阻止される。
【0038】
また、第2環状凸部403は、スラストプレート部40の下面405からの突出量がロワーケース3の環状凸部34に設けられた環状収容部340の深さより長い。このため、環状肉薄部401とロワーケース3の環状凸部34との間にギャップが形成され、環状肉薄部401はロワーケース3と非接触になる。
【0039】
また、第1環状凸部402がスラストプレート部40の上面404から突出して摺動シート5と接触するため、環状肉薄部401と摺動シート5との間にギャップが形成され、環状肉薄部401は摺動シート5(アッパーケース2)と非接触になる。ここで、2つの環状肉厚部400の第1環状凸部402に挟まれた環状肉薄部401と摺動シート5との間に形成されるギャップは、潤滑グリース溜りとして機能する。
【0040】
最外周側に配置された環状肉薄部401の外周縁には、アッパーケース2の環状凹部25と接触する環状のリップ部407が設けられている。このリップ部407は、センタープレート4と摺動シート5との間に塵埃、泥水等が侵入するのを防止するダストシールとして機能する。
【0041】
ラジアルブッシュ部41は、最内周側に配置された環状肉薄部401の内周縁に設けられ、アッパーケース2の環状凹部25の内周側壁250とロワーケース3の環状凸部34の内周側壁342との間に位置して滑り軸受1に加わるラジアル方向の荷重を支持する。
【0042】
摺動シート5は、環状空間6において、センタープレート4とアッパーケース2との間に配置された円環板状の摺動部材であり、アッパーケース2の環状凹部25の環状溝27に装着され、センタープレート4の環状肉厚部400の第1環状凸部402と摺動する。摺動シート5は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、TFE(テトラフルオロエチレン)に他原料(コモノマー)を微量共重合させた変性PTFE等のフッ素樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の合成樹脂で形成され、必要に応じてPTFE(ただし、熱可塑性プラスチックがPTFE、変性PTFEの場合を除く)、潤滑油、シリコーン、黒鉛等の潤滑剤を添加して摺動特性を向上させている。また、必要に応じてアラミド繊維、ガラス繊維、炭素繊維等の補強材を添加して強度を向上させている。あるいは、摺動シート5は、黄銅合金等の摺動特性に優れた金属で形成される。
【0043】
図7(A)は、摺動シート5の平面図であり、
図7(B)は、
図7(A)に示す摺動シート5のF-F断面図である。
【0044】
図示するように、摺動シート5はアッパーケース2の環状凹部25の環状溝27の溝底と接触する接触面50と、接触面50の反対側に位置し、センタープレート4のスラストプレート部40の環状肉厚部400の第1環状凸部402と摺接する摺動面51と、を有する。摺動シート5の摺動面51がセンタープレート4の第1環状凸部402と摺接することにより、アッパーケース2およびロワーケース3間の摺動性が向上する。
【0045】
上記構成を有する滑り軸受1において、センタープレート4のセンタープレート部40は、ロワーケース3の環状凸部34上に載置され、センタープレート部40の環状肉厚部400を構成する第1環状凸部402は、アッパーケース2の環状凹部25の環状溝27に装着された摺動シート5と摺動する。また、センタープレート部40のラジアルブッシュ部41は、アッパーケース2の環状凹部25の内周側壁250とロワーケース3の環状凸部34の内周側壁342との間に配置され、アッパーケース2の環状凹部25の内周側壁250と摺動する。このため、アッパーケース2は、センタープレート4および摺動シート5を介して、アッパーケース2に加わるスラスト方向およびラジアル方向の荷重を支持しつつ、ロワーケース3と回動自在に組み合わされる。これにより、滑り軸受1は、収容孔10に挿入されたストラット式サスペンション7のストラットアッセンブリ74の回動を許容しつつ、ストラット式サスペンション7に加わる車体の荷重を支持する。
【0046】
また、センタープレート部40の環状肉厚部400を構成する第2環状凸部403は、ロワーケース3の環状凸部34に形成された環状収容部340に収容され、スラスト方向に荷重が加わることによって楔効果が発生することにより、第2環状凸部403がロワーケース3の環状凸部34に設けられた環状収容部340に固定される。これにより、センタープレート4のロワーケース3に対する回転が阻止される。
【0047】
以上、本発明の一実施の形態について説明した。
【0048】
本実施の形態では、振動減衰機能を有する熱可塑性エラストマーでセンタープレート4を形成するとともに、このセンタープレート4に環状肉厚部400および環状肉薄部401を同じ中心Oに対してラジアル方向に交互に配置し、環状肉薄部401はアッパーケース2に装着された摺動シート5およびロワーケース3と非接触とし、環状肉厚部400がアッパーケース2に装着された摺動シート5およびロワーケース3と接触するようにしている。このため、ロワーケース3からアッパーケース2に伝達される振動をセンタープレート4の環状肉厚部400で効率よく減衰させることができる。
【0049】
また、センタープレート4の環状肉厚部400のラジアル方向の隣には摺動シート5およびロワーケース3のいずれとも接触しない環状肉薄部401が配置されるので、ロワーケース3からアッパーケース2に伝達される振動の伝達経路が環状肉厚部400内に制限される。このため、センタープレート4のスラストプレート部40全体を肉厚にしてその上面404および下面405の全面を摺動シート5およびロワーケース3に接触させた場合に比べて、ロワーケース3からアッパーケース2に伝達される振動の伝達経路が単純化され、センタープレート4内で共振するのを低減することができる。また、熱可塑性エラストマー製のセンタープレート4のスラストプレート部40全体を肉厚にした場合に起こりやすいクラック(圧縮割れ)を抑制しつつ、スラストプレート部40の強度を確保することができる。
【0050】
さらに、センタープレート4が載置されるロワーケース3の環状凸部34に、センタープレート4の環状肉厚部400の第2環状凸部403を収容する環状収容部340を設けることにより、滑り軸受1のスラスト方向の厚みの増加を抑制しつつ、環状肉厚部400の厚みを増加させているので、滑り軸受1のスラスト方向の厚みの増加を抑制しつつ、ロワーケース3からアッパーケース2に伝達される振動をさらに効率よく減衰させることができる。
【0051】
このように、本実施の形態によれば、ストラット式サスペンション7を介して路面から車体に伝わる振動を低減可能な滑り軸受1を提供することができる。
【0052】
また、本実施の形態では、ロワーケース3の環状凸部34の環状収容部340に、その底面341に向かうにつれてラジアル方向Rの幅が狭くなるようにテーパを付けている。同様に、センタープレート4の環状肉厚部400の第2環状凸部403も、その先端面406に向かうにつれてラジアル方向Rの幅が狭くなるようにテーパを付けている。これにより、センタープレート4の環状肉厚部400の第2環状凸部403がロワーケース3の環状凸部34の環状収容部340に収容された状態でスラスト方向に荷重が加わることにより楔効果が発生し、第2環状凸部403が環状収容部340に固定され、センタープレート4のロワーケース3に対する回転が阻止される。このため、本実施の形態よれば、センタープレート4のロワーケース3に対する回り止め機構を別途設ける必要がない。また、センタープレート4をロワーケース3に載置する際に、センタープレート4のロワーケース3に対する回転方向の角度を位置決めする必要もない。その分、滑り軸受1のコストを低減することができる。
【0053】
また、本実施の形態では、センタープレート4のスラストプレート部40の最内周側に配置された環状肉薄部401の内周縁に円筒状のラジアルブッシュ部41を設け、このラジアルブッシュ部41を、アッパーケース2の環状凹部25の内周側壁250とロワーケース3の環状凸部34の内周側壁342との間に配置しているので、スラスト方向の荷重に加えて、滑り軸受1に加わるラジアル方向の荷重を支持することができる。
【0054】
さらに、本実施の形態では、センタープレート4のスラストプレート部40において、2つの環状肉厚部400の第1環状凸部402に挟まれた環状肉薄部401と摺動シート5との間のギャップが、潤滑グリース溜りとして機能するので、センタープレート4と摺動シート5との間により多くの潤滑グリースを保持することができる。このため、より長期に亘り、ストラット式サスペンション7のストラットアッセンブリ74の円滑な回動を許容しつつ、ストラット式サスペンション7に加わる荷重を支持することができる。
【0055】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形は可能である。
【0056】
例えば、上記の実施の形態では、ロワーケース3の環状凸部34の環状収容部340に、その底面341に向かうにつれてラジアル方向Rの幅が狭くなるようにテーパを付けるとともに、センタープレート4の環状肉厚部400の第2環状凸部403にも、その先端面406に向かうにつれてラジアル方向Rの幅が狭くなるようにテーパが付けている。しかし、本発明はこれに限定されない。ロワーケース3の環状凸部34の環状収容部340およびセンタープレート4の環状肉厚部400の第2環状凸部403の一方にテーパが付けられていればよい。この場合でも、楔効果により、第2環状凸部403を環状収容部340に固定することができる。
【0057】
また、上記の実施の形態では、アッパーケース2とセンタープレート4との間に摺動シート5を配置しているが、本発明はこれに限定されず、摺動シート5は省略されていてもよい。
【0058】
また、上記の実施の形態では、センタープレート4にラジアルブッシュ部41が設けられている場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限定されない。ラジアルブッシュ部41は、センタープレート4から分離した独立の部品でもよい。また、ラジアル方向の荷重の影響が小さい場合には、
図8に示す滑り軸受1の変形例1Aのように、センタープレート4からラジアルブッシュ部41が省略されたセンタープレート4Aを用いてもかまわない。
【0059】
また、上記の実施の形態では、ストラット式サスペンション7のストラットアッセンブリ74の回動を許容しつつ、ストラット式サスペンション7に加わる荷重を支持する滑り軸受1を例に取り説明した。しかし、本発明はこれに限定されない。本発明は、ストラット式サスペンション7を含む様々な機構において、軸部材に加わる荷重を支持する軸受に広く適用可能である。例えば、本発明は、四輪自動車の前輪のみではなく後輪のサスペンションにも適用可能であり、さらにサスペンションの型式についても回動を伴うストラット式サスペンション7のみでなく、ダブルウィッシュボーン式サスペンション、マルチリンク式サスペンション、エアサスペンションにも適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1、1A:滑り軸受 2:アッパーケース 3:ロワーケース
4、4A:センタープレート 5:摺動シート 6:環状空間
7:ストラット式サスペンション 10:滑り軸受1の収容孔
20:アッパーケース2の挿入孔 21:アッパーケース本体
22:アッパーケース本体21の上面
23:アッパーケース2の取付面
24:アッパーケース本体21の下面
25:アッパーケース2の環状凹部
26:環状凹部25の天井 27:環状凹部25の環状溝
30:ロワーケース3の挿入孔 31:ロワーケース本体
32:ロワーケース本体31のフランジ部
33:フランジ部32の上面
34:ロワーケース3の環状凸部
35:ロワーケース本体31の上端部
36:ロワーケース本体31の外周面
37:フランジ部32の下面
40:スラストプレート部 41:ラジアルブッシュ部
50:摺動シート5の接触面 51:摺動シート5の摺動面
70:ピストンロッド 71:油圧式ショックアブソーバ
72:バンプストッパ 73:ダストブーツ
74:ストラットアッセンブリ 75:コイルスプリング
76:アッパースプリングシート
77:ロワースプリングシート 78:アッパーマウント
250:環状凹部25の内周側壁
340:ロワーケース3の環状収容部
341:環状収容部340の底面
342:環状凸部34の内周側壁
343:環状凸部34の先端面
400:スラストプレート部40の環状肉厚部
401:スラストプレート部40の環状肉薄部
402:環状肉厚部400の第1環状凸部
403:環状肉厚部400の第2環状凸部
404:スラストプレート部40の上面
405:スラストプレート部40の下面
406:第2環状凸部403の先端面
407:スラストプレート部40のリップ部
750:コイルスプリング75の上端部
751:コイルスプリング75の下端部