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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145108
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】超速硬性セメントモルタル
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20231003BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20231003BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20231003BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20231003BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20231003BHJP
   C04B 24/06 20060101ALI20231003BHJP
   C04B 24/24 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B18/14 Z
C04B22/08 Z
C04B22/08 A
C04B22/10
C04B22/14 A
C04B22/14 B
C04B24/06 A
C04B24/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052397
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】木元 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田原 英男
(72)【発明者】
【氏名】石隈 春輝
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB00
4G112MB02
4G112MB06
4G112MB12
4G112MB23
4G112MC11
4G112MC12
4G112PA28
4G112PB05
4G112PB06
4G112PB08
4G112PB10
4G112PB11
4G112PB17
4G112PB26
(57)【要約】
【課題】温度環境による凝結時間の変動が小さく、かつ固形物の状態で長期間保存しても凝結時間などの特性が変化しにくく、長さ変化率が低く、硬化物の凍結融解抵抗性が高いセメント構造物の補修材として有用な超速硬性セメントモルタルを提供する。
【解決手段】セメントと、速硬性混和材と、細骨材と、シリカフュームと、オキシカルボン酸と、無機炭酸塩と、ミョウバンと、合成ポリマー系増粘保水剤と、水とを含み、前記無機炭酸塩の含有量が、前記オキシカルボン酸1.0質量部に対して1.0質量部以上2.0質量部以下の範囲内にあり、前記ミョウバンの含有量が、速硬性混和材とセメントの合計量100質量部に対して0.4質量部以上9.0質量部以下 の範囲内にある超速硬性セメントモルタル。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルタル組成物と水とを含む超速硬性セメントモルタルであって、
前記モルタル組成物は、セメントと、速硬性混和材と、細骨材と、シリカフュームと、オキシカルボン酸と、無機炭酸塩と、ミョウバンと、合成ポリマー系増粘保水剤とを含み、
前記速硬性混和材は、カルシウムアルミネートと無水石膏とを含み、前記カルシウムアルミネートは、Alに対するCaOの含有量がモル比で1.5以上2.0以下の範囲内にあって、ガラス化率が80%以上であり、前記無水石膏の含有量が前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して45質量部以上56質量部以下の範囲内にあり、
前記セメントの含有量が、前記速硬性混和材100質量部に対して100質量部以上1900質量部以下の範囲内にあり、
前記細骨材の含有量が、前記速硬性混和材と前記セメントの合計量100質量部に対して50質量部以上300質量部以下の範囲内にあり、
シリカフュームの含有量が、前記速硬性混和材と前記セメントの合計量100質量部に対して2質量部以上8質量部以下の範囲内にあり、
前記オキシカルボン酸の含有量が、前記速硬性混和材と前記セメントの合計量100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下の範囲内にあり、
前記無機炭酸塩の含有量が、前記オキシカルボン酸1.0質量部に対して1.0質量部以上2.0質量部以下の範囲内にあり、
前記ミョウバンの含有量が、前記速硬性混和材と前記セメントの合計量100質量部に対して0.4質量部以上9.0質量部以下の範囲内にあり、
前記合成ポリマー系増粘保水剤の含有量が、前記速硬性混和材と前記セメントの合計量100質量部に対して0.05質量部以上0.4質量部以下の範囲内にあり、
前記水の含有量が、前記モルタル組成物100質量部に対して10質量部以上20質量部以下の範囲内にある超速硬性セメントモルタル。
【請求項2】
前記モルタル組成物の全Alの含有量に対する全SOの含有量のモル比が1.0以上2.0以下の範囲内にある請求項1に記載の超速硬性セメントモルタル。
【請求項3】
さらに、ケイ酸ナトリウムを含み、前記ケイ酸ナトリウムの含有量が前記速硬性混和材と前記セメントの合計量100質量部に対して0.1質量部以上5.0質量部以下の範囲内にある請求項1または2に記載の超速硬性セメントモルタル。
【請求項4】
前記無機炭酸塩が炭酸ナトリウムである請求項1から3のいずれか1項に記載の超速硬性セメントモルタル。
【請求項5】
前記オキシカルボン酸が酒石酸である請求項1から4のいずれか1項に記載の超速硬性セメントモルタル。
【請求項6】
長さ変化率が±250×10-6の範囲内にある請求項1から5のいずれか1項に記載の超速硬性セメントモルタル。
【請求項7】
ミニスランプフロー値が150mm以上210mm以下の範囲内にある請求項1から6のいずれか1項に記載の超速硬性セメントモルタル。
【請求項8】
環境温度20℃における、凝結始発時間が30分以上であって、凝結終結時間が75分以下である請求項1から7のいずれか1項に記載の超速硬性セメントモルタル。
【請求項9】
凍結融解試験300サイクル終了後の相対動弾性係数が80%以上である請求項1から8のいずれか1項に記載の超速硬性セメントモルタル。
【請求項10】
JIS A 1108:2018(コンクリートの圧縮強度試験方法)に準拠した方法に従って測定された材齢4時間の圧縮強度が28N/mm以上であり、JIS A 1149:2017(コンクリートの静弾性係数試験方法)に準拠した方法に従って測定された材齢28日の静弾性係数が31.5kN/mm以下である請求項1から9のいずれか1項に記載の超速硬性セメントモルタル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超速硬性セメントモルタルに関する。
【背景技術】
【0002】
劣化したコンクリートの凹部に補修用の材料(以下、補修材ともいう)を充填することが行われている。補修材としては、セメントと細骨材とを主成分とするモルタル組成物(固形分)に水を加えて練り込んで調製したモルタルが使用されている。
【0003】
補修材として用いられるモルタルは、一般に、速硬性混和材や凝結遅延剤などの混和材を含む超速硬性セメントモルタルである。速硬性混和材は、モルタルの硬化速度を速める作用があり、凝結遅延剤は補修材の硬化速度を遅延させる作用がある。速硬性混和材と凝結遅延剤とを用いることによって、補修材の硬化速度を調整することができる。速硬性混和材としては、カルシウムアルミネートと無水石膏を含む組成物が知られている(特許文献1~3)。凝結遅延剤として、無機炭酸塩、オキシカルボン酸、アルミン酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムの組み合わせ(特許文献1)、無機炭酸塩、オキシカルボン酸およびミョウバンの組み合わせ(特許文献2)が知られている。また、モルタルが硬化するときの長さ変化率を低くするために、モルタルにシリカフュームを添加すること、モルタルが硬化した硬化物の静弾性係数を低くするために、モルタルに合成ポリマー系増粘保水剤を添加することも検討されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6183571号公報
【特許文献2】特開2021-160989号公報
【特許文献3】特許第6653077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
補修材の長期強度発現性や凍結融解抵抗の向上のため、シリカフュームや合成ポリマー系増粘保水剤などの混和材を添加することは有効である。一方、劣化したコンクリートに補修材を充填する作業の温度環境は、夏季と冬季では大きく相違する。温度環境によって、補修材の特性が変動すると、作業が煩雑になるおそれがある。このため、補修材は広い温度範囲において、特性が変動せずに安定していることが好ましい。しかしながら、混和材は、それぞれ温度に対する特性が異なるため、補修材に添加する混和材の種類が多くなると、環境温度による特性の変動が大きくなるおそれがある。また、補修材の調製は、通常、コンクリート舗装の補修現場で行われる。このため、補修材は、固形物(モルタル組成物)の状態で保存されている。したがって、補修材は、固形物の状態で保存しても凝結時間などの特性が変化しにくいことが要求される。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、温度環境による凝結時間の変動が小さく、かつ固形物の状態で長期間保存しても凝結時間などの特性が変化しにくく、長さ変化率が低く、硬化物の凍結融解抵抗性が高い補修材として有用な超速硬性セメントモルタルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の超速硬性セメントモルタルは、モルタル組成物と水とを含む超速硬性セメントモルタルであって、前記モルタル組成物は、セメントと、速硬性混和材と、細骨材と、シリカフュームと、オキシカルボン酸と、無機炭酸塩と、ミョウバンと、合成ポリマー系増粘保水剤とを含み、前記速硬性混和材は、カルシウムアルミネートと無水石膏とを含み、前記カルシウムアルミネートは、Alに対するCaOの含有量がモル比で1.5以上2.0以下の範囲内にあって、ガラス化率が80%以上であり、前記無水石膏の含有量が前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して45質量部以上56質量部以下の範囲内にあり、前記セメントの含有量が、前記速硬性混和材100質量部に対して100質量部以上1900質量部以下の範囲内にあり、前記細骨材の含有量が、前記速硬性混和材と前記セメントの合計量100質量部に対して50質量部以上300質量部以下の範囲内にあり、シリカフュームの含有量が、前記速硬性混和材と前記セメントの合計量100質量部に対して2質量部以上8質量部以下の範囲内にあり、前記オキシカルボン酸の含有量が、前記速硬性混和材と前記セメントの合計量100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下の範囲内にあり、前記無機炭酸塩の含有量が、前記オキシカルボン酸1.0質量部に対して1.0質量部以上2.0質量部以下の範囲内にあり、前記ミョウバンの含有量が、前記速硬性混和材と前記セメントの合計量100質量部に対して0.4質量部以上9.0質量部以下の範囲内にあり、前記合成ポリマー系増粘保水剤の含有量が、前記速硬性混和材と前記セメントの合計量100質量部に対して0.05質量部以上0.4質量部以下の範囲内にあり、前記水の含有量が、前記モルタル組成物100質量部に対して10質量部以上20質量部以下の範囲内にある。
【0008】
このような構成とされた本発明の超速硬性セメントモルタルによれば、シリカフュームを上記の範囲内で含むので長さ変化率が低減し、合成ポリマー系増粘保水剤を上記の範囲内で含むので硬化物の凍結融解抵抗性が高くなる。また、オキシカルボン酸と無機炭酸塩とを上記の範囲内で含むので、温度環境による凝結時間の変動が小さくなる。かつ固形物の状態で長期間保存しても凝結時間などの特性が変化しにくい。さらに、ミョウバンを上記の範囲内で含むので、固形物の状態で長期間保存しても凝結時間などの特性が変化しにくい。
【0009】
ここで、本発明の超速硬性セメントモルタルにおいては、前記モルタル組成物の全Alの含有量に対する全SOの含有量のモル比が1.0以上2.0以下の範囲内にある構成とされていてもよい。
この場合、全Alの含有量に対する全SOの含有量のモル比が上記の範囲内にあるので、特に低温(5℃)における強度発現性が高くなる。
【0010】
また、本発明の超速硬性セメントモルタルにおいては、さらに、ケイ酸ナトリウムを含み、前記ケイ酸ナトリウムの含有量が前記速硬性混和材と前記セメントの合計量100質量部に対して0.1質量部以上5.0質量部以下の範囲内にある構成とされていてもよい。
この場合、ケイ酸ナトリウムを上記の割合で含むので、超速硬性セメントモルタルの硬化物の初期強度が高くなり、補修工事期間を短縮化しやすくなる。
【0011】
また、本発明の超速硬性セメントモルタルにおいては、前記無機炭酸塩が炭酸ナトリウムである構成とされていてもよい。
この場合は、炭酸ナトリウムは凝結調整効果が高いので、少量の使用で超速硬性セメントモルタルの凝結時間を調整することが可能となるとともに、温度環境による凝結時間の変動をより小さくすることができる。
【0012】
また、本発明の超速硬性セメントモルタルにおいては、前記オキシカルボン酸が前記酒石酸である構成とされていてもよい。
この場合、酒石酸は凝結調整効果が高いので、少量の使用で超速硬性セメントモルタルの凝結時間を調整することが可能となるとともに、温度環境による凝結時間の変動をより小さくすることができる。
【0013】
また、本発明の超速硬性セメントモルタルにおいては、長さ変化率が±250×10-6の範囲内にある構成とされていてもよい。
この場合は、長さ変化率が上記の範囲内にあるので、補修後のコンクリート舗装に欠陥が発生しにくくなる。
【0014】
また、本発明の超速硬性セメントモルタルにおいては、ミニスランプフロー値が150mm以上210mm以下の範囲内にある構成とされていてもよい。
この場合は、材料分離も無く、施工性も良好となる。
【0015】
また、本発明の超速硬性セメントモルタルにおいては、環境温度20℃における、凝結始発時間が30分以上であって、凝結終結時間が75分以下である構成とされていてもよい。
環境温度20℃における凝結始発時間が30分以上である場合は超速硬性セメントモルタルを調製してからコンクリート舗装の欠陥に充填するまでの時間を十分に確保することができる。また、環境温度20℃における凝結終結時間が75分以下である場合は、超速硬性セメントモルタルを欠陥に充填してから硬化するまでの時間を短縮できるので、修復工事期間を短縮化しやすくなる。
【0016】
また、本発明の超速硬性セメントモルタルにおいては、凍結融解試験300サイクル終了後の相対動弾性係数が80%以上である構成とされていてもよい。
この場合、この超速硬性セメントモルタルの硬化物は、凍結融解による欠陥が生じにくい。よって、この超速硬性セメントモルタルは寒冷地のコンクリート舗装の修復に有利に利用することができる。
【0017】
また、本発明の超速硬性セメントモルタルにおいては、JIS A 1108:2018(コンクリートの圧縮強度試験方法)に準拠した方法に従って測定された材齢4時間の圧縮強度が28N/mm以上であり、JIS A 1149:2017(コンクリートの静弾性係数試験方法)に準拠した方法に従って測定された材齢28日の静弾性係数が31.5kN/mm以下である構成とされていてもよい。
この場合、圧縮強度と静弾性係数が上記の条件を満足するので、この超速硬性セメントモルタルの硬化物は衝撃に対して高い耐久性を有する。よって、この超速硬性セメントモルタルを用いて補修されたコンクリート舗装は、長期間にわたって欠陥が生じにくい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、温度環境による凝結時間の変動が小さく、かつ固形物の状態で長期間保存しても凝結時間などの特性が変化しにくく、長さ変化率が低く、硬化物の静弾性係数が低いセメント構造物の補修材として有用な超速硬性セメントモルタルを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態であるについて説明する。
超速硬性セメントモルタルは、コンクリート構造物に発生した欠けやひび割れなどの欠陥部に充填して、硬化させることによって、欠陥部を補修するための補修材として用いられる水性組成物である。補修材が使用されるコンクリート構造物としては、橋梁、建物等である。
【0020】
本実施形態の超速硬性セメントモルタルは、セメントと、速硬性混和材と、細骨材と、シリカフュームと、オキシカルボン酸と、無機炭酸塩と、ミョウバンと、合成ポリマー系増粘保水剤と、水とを練り混ぜて調製した水性組成物である。本実施形態の超速硬性セメントモルタルは、さらに、ケイ酸ナトリウム、再乳化粉末ポリマー、減水剤、消泡剤、短繊維を含んでいてもよい。
【0021】
(速硬性混和材)
速硬性混和材は、カルシウムアルミネートと無水石膏とを含む。
カルシウムアルミネートは、一般に、12CaO・7Al、11CaO・7Al2O3・CaF及びCaO・Alなどの組成を有する化合物である。本実施形態で用いるカルシウムアルミネートは、Alに対するCaOの含有量がモル比で1.50以上2.0以下の範囲内とされている。Alに対するCaOの含有量が上記の範囲を外れると、超速硬性セメントモルタルの初期強度を向上させる作用や白斑の発生を防止する作用が得られにくくなるおそれがある。
【0022】
また、カルシウムアルミネートは、ガラス化率が80%以上とされている。ガラス化率が低くなりすぎると、超速硬性セメントモルタルの初期強度を向上させる作用が得られにくくおそれがある。ガラス化率は、80%以上99%以下の範囲内にあることが好ましく、特に90%以上99%以下の範囲内にあることが好ましい。
なお、上記カルシウムアルミネートのガラス化率(%)は、試料のカルシウムアルミネートのX線回折法により測定したX回折線パターンから、結晶質部分(ピーク)と非晶質部分ハローのフィッティングを行い、各積分強度を以下の式に当てはめて算出した値である。
ガラス化率(%)=100-(100×Ic/(Ic+Is))
Ic:結晶性散乱積分強度
Is:非結晶性散乱積分強度
【0023】
カルシウムアルミネートは、ブレーン比表面積が3000cm/g以上5500cm/g以下の範囲内にあることが好ましい。カルシウムアルミネートのブレーン比表面積が上記の範囲内にあることによって、超速硬性セメントモルタルの硬化速度を速めることができ、初期強度を向上させる作用が向上する。
【0024】
無水石膏の含有量は、カルシウムアルミネートと無水石膏の合計量100質量部に対して45質量部以上56質量部以下の範囲内にある。カルシウムアルミネートと無水石膏を上記の割合で含有することによって、超速硬性セメントモルタルの硬化速度を速めることができ、初期強度を向上させる作用が向上する。
【0025】
速硬性混和材のAlの含有量に対するSOの含有量のモル比(SO/Alのモル比)は、1.5以上2.4以下の範囲内にあることが好ましい。SO/Alのモル比がこの範囲内にあると、特に低温における強度発現性が高くなる。
SO/Alのモル比は、例えば、次のようにして測定することができる。まず、試料中のSOとAlの含有量を、JIS R 5204:2019(セメントの蛍光X線分析方法)に準拠した方法に従って測定する。得られたSOの含有量(単位:質量%)をXとし、Alの含有量をY(単位:質量%)として下記の式に代入して、SO/Alのモル比を算出する。
SO/Alのモル比=(X/80.06)/(Y/101.96)
【0026】
(セメント)
セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメントなど超速硬性セメントモルタルの原料として用いられている各種のセメントを用いることができる。セメントは、普通ポルトランドセメントであることが好ましい。
セメントの含有量は、速硬性混和材100質量部に対して100質量部以上1900質量部以下の範囲内にある。セメントの含有量がこの範囲内にあることによって、JIS A1108:2018に準拠した方法に従って測定された材齢4時間の圧縮強度が28N/mm以上の超速硬性セメントモルタルの硬化物を得ることが可能となる。
【0027】
(細骨材)
細骨材は特に制限はなく、超速硬性セメントモルタルの細骨材として利用されている公知の細骨材を用いることができる。細骨材としては、例えば、山砂、川砂、陸砂、砕砂、海砂、珪砂3~8号を用いることができる。
骨材の含有量は、速硬性混和材とセメントの合計量100質量部に対して50質量部以上300質量部以下の範囲内にある。細骨材の含有量がこの範囲内にあることによって、超速硬性セメントモルタルの硬化物の形状が安定する。
【0028】
(シリカフューム)
シリカフュームは、ポゾラン作用を有する。このため、シリカフュームを含む超速硬性セメントモルタルは長期強度発現性が向上し、さらにこれを硬化させた硬化物は緻密化して、総細孔量が小さくなり、長さ変化率が低減し、中性化の進行や塩化物イオンの拡散の進行が抑制される。
シリカフュームの含有量は、速硬性混和材とセメントの合計量100質量部に対して2質量部以上8質量部以下の範囲内にある。シリカフュームの含有量がこの範囲内にあることによって、超速硬性セメントモルタルの硬化物の長期強度発現性が向上する。
【0029】
(オキシカルボン酸)
オキシカルボン酸は、凝結調整剤として作用する。オキシカルボン酸の例としては酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、マレイン酸が挙げられる。これらのオキシカルボン酸は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、オキシカルボン酸は塩であってもよい。塩としては、ナトリウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩などの金属塩であることが好ましい。
オキシカルボン酸の含有量は、速硬性混和材とセメントの合計量100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下の範囲内にある。
【0030】
(無機炭酸塩)
無機炭酸塩は、凝結調整剤として作用する。無機炭酸塩は、アルカリ金属の炭酸塩あるいは炭酸水素塩であることが好ましい。無機炭酸塩の例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸アンモニウムが挙げられる。これらの無機炭酸塩は、1つを単独で使用してもよいし、2つ以上を組み合わせて使用してもよい。
無機炭酸塩の含有量は、オキシカルボン酸1.0質量部に対して1.0質量部以上2.0質量部以下の範囲内にある。無機炭酸塩の含有量がオキシカルボン酸の含有量と同じもしくはそれ以上であることによって、超速硬性セメントモルタルの温度環境による凝結時間の変動が小さくなる。
【0031】
オキシカルボン酸と無機炭酸塩とは、予め混合された混合物(凝結調整剤)として、超速硬性セメントモルタルに含まれていることが好ましい。これによって、超速硬性セメントモルタルの温度環境による凝結時間の変動がより小さくなる。
【0032】
(ミョウバン)
ミョウバンはアルミニウムを含有し、凝結調整剤として用いられているアルミン酸ナトリウムと同様に、アルミニウム補助剤として作用して超速硬性セメントモルタルの凝結時間や初期強度などを調整する。また、ミョウバンは超速硬性セメントモルタルの硬化物の表面に析出する白斑の発生を抑制する作用がある。さらに、ミョウバンはアルミン酸ナトリウムと比較して化学的な安定性が高い。このため、超速硬性セメントモルタルを固形物の状態で長期間保存しても凝結時間などの特性が変化しにくくなる。ミョウバンとしては、ナトリウムミョウバン(NaAl(SO・12HO)、カリウムミョウバン(AlK(SO・12HO)を用いることが好ましく、特に、カリウムミョウバンを用いることが好ましい。ミョウバンの平均粒子径は、1μm以上100μm以下の範囲内にあることが好ましい。
ミョウバンの含有量は、速硬性混和材とセメントの合計量100質量部に対して0.4質量部以上9.0質量部以下の範囲内にある。
【0033】
オキシカルボン酸、無機炭酸塩、ミョウバンの含有量が上記の範囲内にあることによって、環境温度20℃における、超速硬性セメントモルタルの凝結始発時間を30分以上で、凝結終結時間を75分以下に調整することが可能となる。
【0034】
(合成ポリマー系増粘保水剤)
合成ポリマー系増粘保水剤は、水と接すると微細な気泡を発生する作用がある。このため、合成ポリマー系増粘保水剤を含む超速硬性セメントモルタルを硬化させた硬化物は、疑似的にエントレインドエアが導入されるので、凍結融解抵抗性が優れたものになる。このため、硬化物は凍結融解を繰り返し行っても、相対動弾性係数が高い値で維持される。
合成ポリマー系増粘保水剤の含有量は、速硬性混和材と前記セメントの合計量100質量部に対して、0.05質量部以上0.4質量部以下の範囲内にある。合成ポリマー系増粘保水剤の含有量がこの範囲内にあることによって、超速硬性セメントモルタルの硬化物の凍結融解抵抗が向上し、凍結融解試験300サイクル終了後の相対動弾性係数を80%以上とすることが可能となる。
【0035】
(ケイ酸ナトリウム)
ケイ酸ナトリウムは、アルカリ度調整剤として機能し、超速硬性セメントモルタルの硬化物の初期強度を高める作用を有する。ケイ酸ナトリウムとしては、例えば、メタケイ酸ナトリウム(NaSiO)、オルトケイ酸ナトリウム(NaSiO)、二ケイ酸ナトリウム(NaSi)、四ケイ酸ナトリウム(NaSi)を用いることができる。また、ケイ酸ナトリウムは無水物であってもよいし、水和物(例えば、NaSiO・9HO)であってもよい。
ケイ酸ナトリウムの含有量は、例えば、速硬性混和材とセメントの合計量100質量部に対して0.1質量部以上5.0質量部以下の範囲内とすることができる。ケイ酸ナトリウムの含有量がこの範囲内にあることによって、超速硬性セメントモルタルの硬化物の表面に析出する白斑の発生を抑制する作用がある。
【0036】
(再乳化粉末ポリマー)
再乳化粉末ポリマーは、超速硬性セメントモルタルを用いたコンクリート構造物の欠陥部に対して水を浸透しにくくする作用がある。また、再乳化粉末ポリマーは、コンクリート構造物の欠陥部に対する超速硬性セメントモルタルの付着力を向上させる作用がある。このため、再乳化粉末ポリマーを含む超速硬性セメントモルタルは、水に浸漬させた後の凍結融解抵抗性に優れ、欠陥部に対する付着力が向上する。さらに、再乳化粉末ポリマーは、超速硬性セメントモルタルの長さ変化率を低減させる作用も有する。再乳化粉末ポリマーの例としては、酢酸ビニル/ベオバ/アクリル酸エステル共重合樹脂、酢酸ビニル共重合樹脂、酢酸ビニル/エチレン共重合、酢酸ビニル/アクリル共重合樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。これらの再乳化粉末ポリマーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
再乳化粉末ポリマーの含有量は、例えば、速硬性混和材とセメントの合計量100質量部に対して0.1質量部以上10.0質量部以下の範囲内とすることができる。再乳化粉末ポリマーの含有量がこの範囲内にあることによって、凍結融解試験における300サイクル終了後の凍結融解抵抗性がより向上する。
【0037】
(減水剤)
減水剤は、超速硬性セメントモルタル中のセメントおよび混和材等の分散性を高めて、超速硬性セメントモルタルの流動性を向上させ、粘度を低減させる作用がある。減水剤としては、減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤を用いることができる。減水剤の材料としては、例えば、リグニンスルフォン酸塩、オキシ有機酸塩、βナフタリンスルフォン酸塩、ポリカルボン酸塩、メラミン樹脂スルフォン酸塩、クレオソート油スルフォン酸縮合物塩など補修材の減水剤として利用されている公知の材料を用いることができる。
減水剤の含有量は、例えば、速硬性混和材とセメントの合計量100質量部に対して0.005質量部以上1.0質量部以下の範囲内とすることができ、0.010質量部以上0.040質量部以下の範囲内とすることが好ましい。
【0038】
(消泡剤)
消泡剤は、超速硬性セメントモルタルの粗大な泡の発生を抑えて、流動性を向上させる作用がある。消泡剤としては、例えば、エーテル類、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、高級アルコール、高重合グリコール、シリコーン類等など補修材の消泡剤として利用されている公知の材料を用いることができる。
消泡剤の含有量は、例えば、速硬性混和材とセメントの合計量100質量部に対して0.01質量部以上1.0質量部以下の範囲内とすることができる。
【0039】
(短繊維)
短繊維は、超速硬性セメントモルタルの硬化物の補強材として作用する。短繊維を添加することによって、超速硬性セメントモルタルの硬化物はひび割れ抵抗性が向上して、疲労に対する耐久性が優れたものとなる。短繊維としては、有機短繊維及び炭素短繊維を用いることができる。有機短繊維の例としては、PVA短繊維(ポリビニルアルコール短繊維)、ナイロン短繊維、アラミド短繊維、ポリプロピレン短繊維、レーヨン短繊維等が挙げられる。これらの短繊維は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。短繊維は、繊維長が1mm以上10mm以下の範囲内にあることが好ましい。
短繊維の含有量は、例えば、速硬性混和材とセメントの合計量100質量部に対して0.01質量部以上1.0質量部以下の範囲内とすることができる。
【0040】
(水)
水は特に制限はなく、超速硬性セメントモルタルに使用されている通常の水を用いることができる。
水の含有量は、モルタル組成物(固形分)100質量部に対して10質量部以上20質量部以下の範囲内にある。モルタル組成物は、超速硬性セメントモルタルの水以外の成分である。
【0041】
(全SO/全Alのモル比)
本実施形態の超速硬性セメントモルタルは、全Alの含有量に対する全SOの含有量のモル比(全SO/全Alのモル比)が、1.0以上2.0以下の範囲内にあることが好ましい。全Alは、超速硬性セメントモルタルの原料であるモルタル組成物のAlの含有量である。全SOは、超速硬性セメントモルタルの原料であるモルタル組成物のSOの含有量と同じである。全SOと全Alの含有量は、超速硬性セメントモルタルから回収した固形分のAlおよびSOの含有量を測定することによって得ることができる。固形分のAlおよびSOの含有量は、JIS R 5204:2019(セメントの蛍光X線分析方法)に準拠した方法に従って測定することができる。
【0042】
(長さ変化率)
本実施形態の超速硬性セメントモルタルは、長さ変化率が±250×10-6の範囲内にあることが好ましい。長さ変化率は、NEXCO試験方法(第4編 構造関係試験方法)試験法439「床版上面における断面修復用補修材の試験方法」に準拠した方法に従って測定された値である。
【0043】
(ミニスランプフロー値)
本実施形態の補修材は、ミニスランプフロー値が150mm以上210mm以下の範囲内にあることが好ましい。ミニスランプフロー値は、JIS A 1171:2000(ポリマーセメントモルタル試験方法)に準拠し、上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmのコーンを用いた方法に従って測定された値である。
【0044】
(凝結始発時間、凝結終結時間)
本実施形態の超速硬性セメントモルタルは、環境温度20℃における、凝結始発時間が30分以上であって、凝結終結時間が75分以下であることが好ましい。さらに、環境温度5℃および35℃における、凝結始発時間が30分以上であって、凝結終結時間が75分以下であることが好ましい。
また、環境温度20℃における凝結始発時間(T20)に対する環境温度5℃における凝結始発時間(T)の変化率((T-T20)/T20×100)が±40%以内であることが好ましく、±20%以内であることがより好ましい。また、環境温度20℃における凝結始発時間(T20)に対する環境温度35℃における凝結始発時間(T35)の変化率((T35-T20)/T20×100)が±40%以内であることが好ましく、±20%以内であることがより好ましい。超速硬性セメントモルタルの凝結始発時間および終結時間は、JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)に準拠した方法に従って測定した値である。
【0045】
(凍結融解抵抗性)
本実施形態の超速硬性セメントモルタルは、凍結融解試験300サイクル終了後の相対動弾性係数が80%以上であることが好ましい。凍結融解抵抗性は、JIS A 1148:2010(コンクリートの凍結融解試験方法)に準拠した方法に従って、凍結融解を300サイクル行った後に測定した相対動弾性係数である。
【0046】
(圧縮強度、静弾性係数)
本実施形態の超速硬性セメントモルタルは、材齢4時間の圧縮強度が28N/mm以上であり、材齢28日の静弾性係数が31.5kN/mm以下であることが好ましい。圧縮強度は、JIS A 1108:2018(コンクリートの圧縮試験方法)に準拠した方法に従って測定した値である。静弾性係数は、JIS A 1149:2017(コンクリートの静弾性係数試験方法)に準拠した方法に従って測定した値である。
【0047】
(製造方法)
本実施形態の超速硬性セメントモルタルは、上述の材料を混合することによって作製されたモルタル組成物と水とを混合して、練り混ぜることによって製造することができる。モルタル組成物製造用の混合装置としては、ロッキングミキサー、V型混合機、縦型ミキサー、万能混合機、プロシェアミキサー等の通常の粉体混合装置を用いることができる。また、超速硬性セメントモルタル製造用の練り混ぜ装置としては、モルタルミキサー、ハンドミキサーなどの通常の固液混合装置を用いることができる。
【0048】
以上のような構成とされた本実施形態の超速硬性セメントモルタルによれば、シリカフュームを上記の範囲内で含むので長さ変化率が低減し、合成ポリマー系増粘保水剤を上記の範囲内で含むので凍結融解抵抗性が高くなる。また、オキシカルボン酸と無機炭酸塩とを上記の範囲内で含むので、温度環境による凝結時間の変動が小さくなる。かつ固形物の状態で長期間保存しても凝結時間などの特性が変化しにくい。さらに、ミョウバンを上記の範囲内で含むので、固形物の状態で長期間保存しても凝結時間などの特性が変化しにくい。
【0049】
また、本実施形態の超速硬性セメントモルタルにおいて、全Alの含有量に対する全SOの含有量のモル比が0.8以上1.6以下の範囲内にある場合は、材齢2時間および4時間の強度発現性が高くなる。
【0050】
また、本実施形態の超速硬性セメントモルタルにおいて、さらに、ケイ酸ナトリウムを上記の割合で含む場合は、超速硬性セメントモルタルの硬化物の初期強度が高くなるので、コンクリート舗装の補修工事期間を短縮化しやすくなる。
【0051】
また、本実施形態の超速硬性セメントモルタルにおいて、無機炭酸塩が炭酸ナトリウムである場合、炭酸ナトリウムは凝結調整効果が高いので、少量の使用で超速硬性セメントモルタルの凝結時間を調整することが可能となるとともに、温度環境による凝結時間の変動をより小さくすることができる。
【0052】
また、本実施形態の超速硬性セメントモルタルにおいて、オキシカルボン酸が酒石酸である場合、酒石酸は凝結調整効果が高いので、少量の使用で超速硬性セメントモルタルの凝結時間を調整することが可能となるとともに、温度環境による凝結時間の変動をより小さくすることができる。
【0053】
また、本実施形態の超速硬性セメントモルタルにおいて、長さ変化率が上記の範囲内にある場合は、コンクリート構造物の欠陥部に充填した後の形状変化が小さいので、補修後のコンクリート舗装に欠陥が発生しにくくなる。
【0054】
本実施形態の超速硬性セメントモルタルにおいて、ミニスランプフロー値が上記の範囲内にある場合は、材料分離が起こりにくくなり、施工性が向上する。
【0055】
また、本実施形態の超速硬性セメントモルタルにおいて、環境温度20℃における凝結始発時間が30分以上である場合は、超速硬性セメントモルタルを調製してからコンクリート舗装の欠陥に充填するまでの時間を十分に確保することができる。また、環境温度20℃における凝結終結時間が75分以下である場合は、超速硬性セメントモルタルを欠陥に充填してから硬化するまでの時間を短縮化できるので、修復工事期間を短縮化しやすくなる。
【0056】
また、本実施形態の超速硬性セメントモルタルにおいて、凍結融解試験300サイクル終了後の相対動弾性係数が上記の範囲内にある場合、その補修材の硬化物は、凍結融解による欠陥が生じにくい。このため、この超速硬性セメントモルタルは寒冷地のコンクリート構造物の修復に有利に利用することができる。
【0057】
また、本実施形態の超速硬性セメントモルタルにおいて、JIS A 1108:2018に準拠した方法に従って測定された材齢4時間の圧縮強度、および、JIS A 1149:2017に準拠した方法に従って測定された材齢28日の静弾性係数が上記の範囲内にある場合、その補修材の硬化物の衝撃に対する耐久性に優れる。このため、この超速硬性セメントモルタルを用いて補修されたコンクリート構造物は、長期間にわたって欠陥が生じにくい。
【0058】
以上、本発明の実施形態である超速硬性セメントモルタルについて説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本発明の超速硬性セメントモルタルは、膨張材、高炉スラグ微粉末、炭酸カルシウム等を含んでいてもよい。
【実施例0059】
本発明の作用効果を、実施例により詳しく説明する。
本実施例において使用した材料の種類、名称、製造会社及び記号を下記の表1に示す。
また、本実施例において使用した凝結調整剤の組成を下記の表2に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
下記の表3に示すカルシウムアルミネートクリンカー100質量部と、炭酸ナトリウム(Na)1.0質量部と、酒石酸(Ta)0.5質量部とを混合し、得られた混合物を粉砕して、下記の表4に示すカルシウムアルミネート粉砕物を用意した。
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
[本発明例1]
カルシウムアルミネート粉砕物(CA)を45質量部、無水石膏(CS)を55質量部となる割合でV型混合機に投入して10分間混合して、速硬性混和材を得た。この速硬性混和材を使用して表5に示す組成のモルタル組成物を作製した。なお、表5の括弧内の数値は、速硬性混和材と普通ポルトランドセメント(N)の合計量を100質量部とした値である。表6に、速硬性混和材のAlに対するSOの含有量のモル比(SO/Alのモル比)と、モルタル組成物の速硬性混和材と普通ポルトランドセメント(N)の合計量を100質量部としたときの全酒石酸量と、全酒石酸量1.0質量部に対する全炭酸ナトリウム量と、モルタル組成物の全Alの含有量に対する全SOの含有量のモル比(全SO/全Alのモル比)を示す。
【0066】
モルタル組成物に水を、モルタル組成物(固形分)100質量部に対して15質量部となる割合で加えて、練り混ぜしてモルタルを作製した。得られたモルタルの合成ポリマー系増粘保水剤の含有量を、表6に示す。
【0067】
[比較例1]
モルタル組成物のメタケイ酸ナトリウム(MS)とカリウムミョウバン混合物(BK)の代わりにアルミン酸ナトリウム(Al)を表5に示す量で用いたこと以外は、本発明例1と同様にして、モルタル組成物を作製した。そして、本発明例1と同様にして、得られたモルタル組成物に水を加えて、練り混ぜしてモルタルを作製した。表6に、速硬性混和材のSO/Alのモル比、モルタル組成物の全酒石酸量と、全酒石酸量1.0質量部に対する全炭酸ナトリウム量と、全SO/全Alのモル比、モルタルの合成ポリマー系増粘保水剤の含有量を示す。
【0068】
[比較例2]
カルシウムアルミネート粉砕物(CA)を40質量部、無水石膏(CS)を60質量部となる割合でV型混合機に投入して10分間混合して、速硬性混和材を得た。それ以外は、本発明例1と同様にして、モルタル組成物を作製した。そして、本発明例1と同様にして、得られたモルタル組成物に水を加えて、練り混ぜしてモルタルを作製した。表6に、速硬性混和材のSO/Alのモル比、モルタル組成物の全酒石酸量と、全酒石酸量1.0質量部に対する全炭酸ナトリウム量と、全SO/全Alのモル比、モルタルの合成ポリマー系増粘保水剤の含有量を示す。
【0069】
[比較例3]
カルシウムアルミネート粉砕物(CA)を60質量部、無水石膏(CS)を40質量部となる割合でV型混合機に投入して10分間混合して、速硬性混和材を得た。それ以外は、本発明例1と同様にして、モルタル組成物を作製した。そして、本発明例1と同様にして、得られたモルタル組成物に水を加えて、練り混ぜしてモルタルを作製した。表6に、速硬性混和材のSO/Alのモル比、モルタル組成物の全酒石酸量と、全酒石酸量1.0質量部に対する全炭酸ナトリウム量と、全SO/全Alのモル比、モルタルの合成ポリマー系増粘保水剤の含有量を示す。
【0070】
【表5】
【0071】
【表6】
【0072】
[評価]
得られたモルタルについて、ミニスランプフロー、凝結時間(凝結始発時間、凝結終結時間)、圧縮強度、白斑の有無、静弾性係数、長さ変化率、凍結融解抵抗性の各物性を下記の方法により測定した。ミニスランプフロー、凝結時間(凝結始発時間、凝結終結時間)、圧縮強度、白斑の有無は、5℃、20℃、35℃の各環境温度で行なった。ミニスランプフロー、凝結時間(凝結始発時間、凝結終結時間)、圧縮強度、白斑の有無の測定結果を表7に、静弾性係数、長さ変化率、凍結融解抵抗性の測定結果を表8に示す。なお、比較例2、3は、本発明例1および比較例1に比べて材齢2時間および4時間の圧縮強度が低いため静弾性係数、長さ変化率、凍結融解抵抗性の評価は実施していない。
表8には、各特性の基準値を記載した。
【0073】
モルタル組成物の保存安定性を確認するために、本発明例1および比較例1で得られたモルタル組成物については、下記の試験を行った。
モルタル組成物を、ビニール袋に梱包し、ビニール袋の角部の4カ所にピンホール(孔径:0.5mm)を開け、温度30℃、湿度80%RHの室内に静置して保存した。3ヵ月保存後と6ヵ月保存後のモルタル組成物を用いて、上記と同様にモルタルを作製して、ミニスランプフロー、凝結時間(凝結始発時間、凝結終結時間)、圧縮強度、白斑の有無を20℃の環境温度で測定した。その結果を、製造直後のモルタル組成物を用いて作製したモルタルの結果と併せて表9に示す。
【0074】
(ミニスランプフロー)
JIS A 1171:2000(ポリマーセメントモルタルの試験方法)に準拠した方法により測定する。
【0075】
(凝結時間)
JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)に準拠した凝結試験装置を使用して測定する。凝結始発時間および凝結終結時間は、始発用標準針を使用して測定する。始発は、始発用標準針の先端が、底板の上面から1mmのところに止まるときとする。凝結始発時間は、モルタルの練り混ぜ開始から始発までの時間とする。終結は、始発用標準針の先端が3回連続してモルタルを貫入しなくなったときの最後の始発用標準針を降下した時とする。凝結終結時間は、練り混ぜ開始から終結までの時間とする。なお、凝結時モルタル組成物間の測定および表記は1分単位とする。
【0076】
(圧縮強度)
JIS A 1108:2018に準拠した方法に従って測定する。供試体は、次のようにして作製する。φ10×20cmの型枠にモルタルを流し込む。材齢2時間および4時間試験の供試体は、脱型後すぐに試験を行なう。材齢28日の供試体は1日後脱型し、得られた硬化物を水中で材齢28日まで養生する。
【0077】
(白斑の有無)
圧縮強度の測定で作製した材齢28日の供試体の型枠面を観察して白斑の有無を確認する。型枠面の1/5以上が白くなっている場合を白斑ありとする。
【0078】
(静弾性係数)
JIS A 1149:2017(コンクリートの静弾性係数試験方法)に準拠した方法に従って、材齢28日の供試体の静弾性係数を測定する。
【0079】
(長さ変化率)
NEXCO試験方法(第4編 構造関係試験方法)試験法439「床版上面における断面修復用補修材の試験方法」に準拠し、気中養生(湿度60±10%)を行い、材齢110分で脱型し、材齢2時間で基長を測定し、材齢6時間、1、3、7、28日の長さを測定する。長さ変化率(×10-6)は、X=(L-L)/L、Lは材齢m(時間、日)における供試体の長さ(mm)、Lは基長(材齢2時間における供試体の長さ(mm)とする。供試体は100×100×400mmとする。
【0080】
(凍結融解抵抗性:300サイクル終了後の相対動弾性係数)
JIS A 1148:2010(コンクリートの凍結融解試験方法)に準拠した方法に従って、凍結融解を300サイクル行う。その後、相対動弾性係数を測定する。
【0081】
【表7】
【0082】
【表8】
【0083】
【表9】
【0084】
表7の結果から、全SO/Alのモル比が速硬性混和材で2.01、モルタル組成物で1.67であって、メタケイ酸ナトリウム(MS)とカリウムミョウバン混合物(BK)を含む本発明例1のモルタルと、アルミン酸ナトリウム(Al)を含む比較例1のモルタルとは、5℃、20℃、35℃の各環境温度において、ミニスランプフロー、凝結時間、圧縮強度、白斑の有無の特性が同等であることがわかる。これに対して、全SO/Alのモル比が速硬性混和材で1.10、モルタル組成物で0.97の比較例2、速硬性混和材で2.47、モルタル組成物で2.06の比較例3は、20℃の材齢2時間強度、4時間強度共に低かった。
また、表8の結果から、本発明例1のモルタルと、比較例1のモルタルは、静弾性係数、長さ変化率、凍結融解抵抗性の特性は基準値を満足しており、同等であることがわかる。
【0085】
表9の結果から、本発明例1は、製造直後、3ヵ月保存後および6ヵ月保存後のモルタル組成物を用いて作製したいずれのモルタルも、ミニスランプフロー、凝結時間、圧縮強度、白斑の有無の各特性に差がないことがわかる。よって、本発明例1のモルタルは、モルタル組成物の状態(固形物の状態)で変質が起こりにくく、長期間にわたって安定することがわかる。これに対して、比較例1では、製造直後および3ヵ月保存後のモルタル組成物を用いて作製したモルタルと比較して、6ヵ月保存後のモルタル組成物を用いて作製したモルタルは、ミニスランプフローが低下し、凝結時間が長く、圧縮強度が低く、白斑が発生した。よって、比較例1のモルタルは、モルタル組成物の状態(固形物の状態)で変質が起こりやすいことがわかる。
【0086】
[本発明例2~4、比較例4~5]
凝結調整剤として、表10に示すSet2~6を用いたこと以外は、本発明例1と同様にして、モルタル組成物を作製し、得られたモルタル組成物に水を加えて、練り混ぜしてモルタルを作製した。表10に、モルタル組成物の全酒石酸量と、全酒石酸量1.0質量部に対する全炭酸ナトリウム量とを示す。
【0087】
【表10】
【0088】
[評価]
得られたモルタルについて、ミニスランプフロー、凝結時間(凝結始発時間、凝結終結時間)、圧縮強度を上記の方法により測定した。各特性は、5℃、20℃、35℃の各環境温度で行なった。また、環境温度5℃と環境温度35℃で測定した凝結始発時間は、環境温度20℃の凝結始発時間に対する変化率を算出した。その結果を、本発明例1の結果とともに表11に示す。
【0089】
【表11】
【0090】
表11の結果から、酒石酸1.0質量部に対する炭酸ナトリウムの含有量が本発明の範囲にある本発明例1~4は、環境温度20℃に対する環境温度5℃および環境温度35℃の始発時間が±40%の範囲内にあり、凝結時間の温度依存性が小さいことがわかる。これに対して、酒石酸1.0質量部に対する炭酸ナトリウムの含有量が本発明の範囲から外れる比較例4~5は、環境温度20℃に対する環境温度5℃および環境温度35℃の始発時間の変化率が40%を超えて変動しており、凝結時間の温度依存性が大きくなった。