(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145142
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】ノック式筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 24/08 20060101AFI20231003BHJP
B43K 7/12 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B43K24/08 110
B43K24/08 150
B43K7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052458
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】石川 淳
【テーマコード(参考)】
2C350
2C353
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C353HC04
2C353HG04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡単な構造で、筆記体の筆記先端部を軸筒の前端開口部から出没させるためのノック操作時におけるノック音を低減する。
【解決手段】軸筒2内に、複数のカム溝23と、カム部材3と、カム部材の前端に傾斜面で構成された噛合部と、カム突起を有する回転カム4と、カム部材を押圧するノック体33と、筆記体5と、筆記体を後方に付勢する弾発体5と、を備え、回転カムは、前端が筆記体の後端部に連接し、カム溝に沿って前後に移動可能に構成され、カム壁と、カム突起が摺接する第一カム傾斜面と、係止部と、カム突起が摺接する第二カム傾斜面と、を備え、噛合部は、複数の凸部が軸周方向に均等に配置され、隣り合う凸部同士の間に後方へ向かって凹む凹部と凹部の後端に底部を有し、凸部の前端部に平地部を有し、カム部材が前進した際、平地部の一端部と、第一カム傾斜面の前端または第二カム傾斜面の前端と、を軸周方向において近接させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒内に、前後方向に延びる複数のカム溝と、前記カム溝に沿って前後に摺動可能な摺動突起を有するカム部材と、前記カム部材の前端に形成され軸心方向に対する傾斜面で構成された凹凸状の噛合部と、後端に前記カム部材の噛合部に噛み合う被噛合部が設けられ前記カム溝に係合するカム突起を周側部に有する回転カムと、前記カム部材を押圧するためのノック体と、前部に筆記先端部を備えた筆記体と、前記筆記体を後方に付勢する弾発体と、を備え、
前記回転カムは、該回転カムの前端が前記筆記体を後方から押圧可能に配設されるとともに、前記カム溝に沿って前後に移動可能に構成され、
前記ノック体をノック操作することにより、前記弾発体により後方へ付勢された前記筆記体の筆記先端部を、前記軸筒の前端開口部より出没させる構造のノック式筆記具であって、
前記カム溝が、前後方向に延びるカム壁と、該カム壁の前端に連設され前記カム突起が摺接する第一カム傾斜面と、前記第一カム傾斜面の側端に連設され前記カム突起が当接する当接部を有する係止部と、前記当接部の前端に連設され前記カム突起が摺接する第二カム傾斜面と、を備え、
前記カム部材の噛合部は、前方へ突出する複数の凸部が軸周方向に均等に配置され、隣り合う前記凸部同士の間に軸方向後方へ向かって凹む凹部と前記凹部の後端に底部とを有するとともに、前記凸部の前端部に平地部を備え、
前記カム部材が前進した際、前記平地部の軸周方向における一端部と、前記第一カム傾斜面の前端および前記第二カム傾斜面の前端と、が軸周方向において近接するよう配設されたことを特徴とするノック式筆記具。
【請求項2】
前記噛合部の平地部の軸周方向の長さをS、前記カム溝の溝幅をMとしたとき、0.7M<S<0.95Mであることを特徴とする請求項1に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カム溝と、カム部材と、回転カムおよびノック体とを備えたノック式筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、軸筒内に設けられたカム溝と、カム溝に係合する突起を周側部に有し、凹凸部を先端に有し、カム溝に沿って前後に移動可能に設けた固定カム(カム部材)と、カム溝に係合するカム突起を周側部に有し、固定カムの凹凸部に噛合う噛合部を有し、前端で筆記体の後端部に直接的または間接的に連接し、後端で固定カムに連接しカム溝に沿って前後に移動可能に設けた回転カムと、固定カムを押圧するためのノック体で構成されたノック機構を備え、ノック体をノック操作することにより、軸筒内に配したコイルスプリングにより後方へ付勢された筆記体の筆記先端部を軸筒の前端開口部より出没させる構造のノック式筆記具は知られている。
【0003】
前記ノック式筆記具においては、ノック体を押圧すると、ノック体に押圧された固定カムは、固定カムに設けた突起がカム溝に係合しているので回転することなく前進し、固定カムにより押圧された前記回転カムも、回転カムに設けたカム突起がカム溝に係合しているので、回転することなく前進する。この際、回転カムに当接した筆記体も連動して前進し、筆記先端部が軸筒の前端開口部から突出される。回転カムに設けたカム突起がカム溝の先端に来ると、回転カムが回転してカム突起がカム溝の係止部に係止し、回転カムの後退は抑制されるので、ノック体の押圧をやめても筆記先端部は軸筒の前端開口部から突出した状態を維持する。そして、筆記先端部を軸筒内に没入させるには、再度ノック体を押圧して回転カムを前進させることにより、回転カムは回転してカム溝の係止部との係止を解除する。それにより、回転カムおよび固定カムはバネにより後端側へ付勢された筆記体を介して後方へ押圧されるので後退し、筆記体も後退して筆記先端部は軸筒内に没入する。
【0004】
しかしながら、こうしたノック式筆記具においては、筆記体の筆記先端部を軸筒の前端開口部から突出させるためのノック操作時や、筆記体の筆記先端部を軸筒内に没入させるためのノック操作時において、カム溝とカム突起とが衝突することによる衝撃音が発生していた。
【0005】
ここで、衝撃音の発生する機構について、
図10及び
図11を用いて簡単に説明する。
図10は、従来のノック式筆記具のペン先部突出動作時におけるカム溝と固定カムと回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図10(a)から
図10(f)に各動作段階におけるカム溝と固定カムと回転カムとの位置関係を順に示した図であり、
図11は、従来のノック式筆記具のペン先部没入動作時におけるカム溝と固定カムと回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図11(a)から
図11(g)に各動作段階におけるカム溝と固定カムと回転カムとの位置関係を順に示した図である。尚、
図10及び
図11においては、上方(ノック体側)を後方と表現し、下方(ペン先部側)を前方と表現する。
【0006】
図10(a)は、従来のノック式筆記具において、ペン先部が軸筒内に没入された収納状態における、カム溝23と固定カム203と回転カム4との位置関係を示しており、固定カム203の摺動突起231が、カム溝23の第一カム壁26aと第二カム壁26bとの隙間となる深いカム溝23aの後方に位置した状態である。この状態からノック体(図示せず)を前方に押圧すると、ノック体と一体になった固定カム203は深いカム溝23aに係合した摺動突起231に導かれて回転することなく前進し、固定カム203に連接した回転カム4は深いカム溝23aに係合したカム突起41に導かれて同じように回転することなく前進する。そして、回転カム4のカム突起41が深いカム溝23aの先端に達して該深いカム溝23aから離脱すると(
図10(b))、固定カム203の前端の噛合部232の凸部232aは、カム突起41の前端に形成された傾斜面43の中間部に位置しており、回転カム4が軸筒内に配したコイルスプリング(図示せず)により後方へ付勢されたレフィル(図示せず)の後端部と当接していることから、当該回転カム4は後退しようとして、固定カム203の噛合部232の第一斜面232bに沿って滑り、
図10における左側へ回転し、カム突起41の傾斜面43の後端頂部44が噛合部232の第一斜面232bの底部232cに当接して一度目の衝突音が発生する(
図10(c))。この際、
図10(b)における長さL1分カム突起41が後方へ移動することで衝突音が発生する。
【0007】
ここで、ノック体の前進を解除すると、コイルスプリングにより後方へ付勢された回転カム4に押されて固定カム203が後退し、回転カム4の傾斜面43が第一カム傾斜面27に当接する(
図10(d))。そして、回転カム4のカム突起41は、
図10において左上がりの第一カム傾斜面27の表面を摺動し、同時に、
図10において左下がり固定カム203の第二斜面232cをカム突起4が後方へ押圧しながら表面を摺動するため、固定カム203及び回転カム4をゆっくり後方へ移動させ、カム突起41の後端頂部44と固定カム203の凸部232aが当接する位置まで後退する(
図10(e))。そして、固定カム203の凸部232aが第一カム傾斜面27より後方へ移動すると、凸部232aが第一カム傾斜面27を滑り、第一カム傾斜面27と該第一カム傾斜面27に連設され軸心に沿った方向に形成された当接部24aとで構成された係止部24に係止され筆記状態となる(
図10(f))。この際、カム突起41は前記コイルスプリング(図示せず)の弾発力にて第一カム傾斜面27を摺動した後に当接部24aに衝接し、2度目の衝突が発生する。そして、
図10(e)の長さL2分カム突起が移動することで2度目の衝突音が発生する。
【0008】
次に、
図10(a)は、従来のノック式筆記具において、ペン先部が突出した筆記状態における、カム溝23と固定カム203と回転カム4との位置関係を示しており、回転カム4のカム突起41が固定カム203の係止部24に係合した状態である。この状態からノック体(図示せず)を前方に押圧すると、ノック体と一体になった固定カム203はカム溝23に係合した摺動突起231に導かれて回転することなく前進し、固定カム203に連接した回転カム4は係止部24の当接部24aに係合したカム突起41に導かれて同じように回転することなく前進する。そして、カム突起41が当接部24aの先端に達して係止部26から離脱すると(
図11(b))、固定カム203の前端の噛合部232の凸部232aは、カム突起41の前端に形成された傾斜面43の中間部に位置しており、回転カム203が軸筒内に配したコイルスプリング(図示せず)により後方へ付勢されたレフィル(図示せず)の後端部と当接していることから、当該回転カム203は後退しようとして、固定カム203の凹凸部の第一斜面232bに沿って
図11における左側へ回転し、カム突起41の傾斜面43の後端頂部44が噛合部232の第一斜面232bの底部232d(凹部232h)に当接してペン先部没入時における1度目の衝突音が発生する(
図11(c))。この際、ペン先部突出動作時と同様に、
図11(b)の長さL’1分カム突起41が移動することで1回目の衝突音が発生する。
【0009】
ここで、ノック体の前進を解除すると、コイルスプリングにより後方へ付勢された回転カム4に押されて固定カム203が後退し、回転カム4の傾斜面43が第二カム傾斜面28に当接する(
図11(d))。そして、回転カム4のカム突起41は、
図11において左上がりの第二カム傾斜面28の表面を摺動し、同時に、
図11において左下がり固定カム203の第二斜面232cをカム突起41が後方へ押圧しながら表面を摺動するため、固定カム203及び回転カム4をゆっくり後方へ移動させ、カム突起41の後端頂部44と固定カム203の凸部232aが当接する位置まで後退する(
図11(e))。そして、固定カム203の凸部232aが後方へ移動すると、前記コイルスプリング(図示せず)の弾発力にて後方に付勢されたカム突起41が第二カム傾斜面28を滑り、カム突起41がカム溝23の第二カム壁26bに衝接し、2度目の衝突が発生する(
図11(f))。この際、
図11(e)の長さL’2分カム突起が移動することでペン先没入動作時における2度目の衝突音が発生する。その後、回転カム4のカム突起41は深いカム溝23aに係合したまま後方に後退する(
図11(g))。
【0010】
前記ノック式筆記具のペン先部突出動作時及びペン先部没入動作時にそれぞれ発生する2回の衝突音は、ノック音とも呼ばれ、使用者自身にとって筆記体の出没状態を確認する意味もあり、必ずしも不快なものではないが、例えば会議中等の僅かな音でも響く環境下においては、そのノック音が気になる場合がある。また、高価格な筆記具に至っては、大きいノック音は高級感を損ねるという問題がある。
【0011】
そこで、ノック音を低減するために、筆記体を後方へ付勢するバネの弾発力を低減することで、カム溝の当接面に回転カムのカム突起が衝突する勢いを和らげることも考えられるが、そうすると、使用者がノック式筆記具をポケットに挿着した状態でノック体に触れただけで、筆記体の筆記先端部が軸筒の前端開口部から突出してしまい、筆記先端部がポケットなどの布地に接触して衣類などをインキで汚してしまうおそれがある。
【0012】
なお、特許文献1(特開2009-255426号)では、回転カムと筆記体の後端部との間に回転抑制部材を介在させて、ノック操作時の回転カムの回転の際の回転力や回転スピードを弱めたことを特徴としたノック式筆記具が開示されている。
【0013】
また、特許文献2(特開2009-255427号公報)では、回転カムと筆記体との間に、少なくとも一部が軸筒の内壁面に当接するように回転抑制部材を介在し、および/または筆記体の周側面に、少なくとも一部が軸筒の内壁面に当接するように回転抑制部材を設けて、ノック操作時の回転カムの回転力や回転スピードを弱めたことを特徴とするノック式筆記具が開示されている。
【0014】
また、特許文献3(特開2009-292070号公報)では、回転カムの後端に、ノック体内に位置する軸部を設けるとともに、ノック体の内壁面と軸部の外表面との間に、回転抑制部材を、ノック体の内壁面と軸部の外表面の両方に当接するように配設し、ノック操作時における回転カムの回転力や回転速度を弱めたことを特徴とするノック式筆記具が開示されている。
【0015】
しかしながら、上記特許文献1~3の構造では、ノック操作時において、回転カムの回転力や回転速度が回転抑制部材により常に弱められることになるため、筆記体の筆記先端部を軸筒の前端開口部から突出させるためのノック操作を行った場合に、本来は回転カムが回転して回転カムのカム突起がカム溝の係止部に係止し、筆記先端部が軸筒の前端開口部から突出した状態が維持されるところを、回転カムが回転しきれずに、カム突起が係止部に係止されず、結果筆記先端部の突出状態が維持できないという問題が生じるおそれがあった。また、筆記体の筆記先端部を軸筒内に没入させるためのノック操作を行った場合にも、同様に筆記先端部を軸筒内に没入させることができなくなるおそれがあった。
さらに、前記特許文献1~3の構造では、部品点数が多くなり構造が複雑になってしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2009-255426号公報
【特許文献2】特開2009-255427号公報
【特許文献3】特開2009-292070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記問題を鑑みて、簡単な構造で、筆記体の筆記先端部を軸筒の前端開口部から出没させるためのノック操作時におけるノック音を低減することが可能なノック式筆記具を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、軸筒内に、前後方向に延びる複数のカム溝と、前記カム溝に沿って前後に摺動可能な摺動突起を有するカム部材と、前記カム部材の前端に形成され軸心方向に対する傾斜面で構成された凹凸状の噛合部と、後端に前記カム部材の噛合部に噛み合う被噛合部が設けられ前記カム溝に係合するカム突起を周側部に有する回転カムと、前記カム部材を押圧するためのノック体と、前部に筆記先端部を備えた筆記体と、前記筆記体を後方に付勢する弾発体と、を備え、
前記回転カムは、該回転カムの前端が前記筆記体を後方から押圧可能に配設されるとともに、前記カム溝に沿って前後に移動可能に構成され、
前記ノック体をノック操作することにより、前記弾発体により後方へ付勢された前記筆記体の筆記先端部を、前記軸筒の前端開口部より出没させる構造のノック式筆記具であって、
前記カム溝が、前後方向に延びるカム壁と、該カム壁の前端に連設され前記カム突起が摺接する第一カム傾斜面と、前記第一カム傾斜面の側端に連設され前記カム突起が当接する当接部を有する係止部と、前記当接部の前端に連設され前記カム突起が摺接する第二カム傾斜面と、を備え、
前記カム部材の噛合部は、前方へ突出する複数の凸部が軸周方向に均等に配置され、隣り合う前記凸部同士の間に軸方向後方へ向かって凹む凹部と前記凹部の後端に底部とを有するとともに、前記凸部の前端部に平地部を備え、
前記カム部材が前進した際、前記平地部の軸周方向における一端部と、前記第一カム傾斜面の前端および前記第二カム傾斜面の前端と、が軸周方向において近接するよう配設されたことを特徴とするノック式筆記具。
【0019】
また、前記噛合部の平地部の軸周方向の長さをS、前記カム溝の溝幅をMとしたとき、0.7M<S<0.95Mの関係式を満たすように構成してもよい。
【0020】
本発明におけるノック式筆記具は、前記のようにカム溝、カム部材、回転カムおよびノック体とで構成されたものであるが、カム部材は、ノック体と別体で形成したものであってもよいし、カム部材の後方にノック部(ノック体)を一体に形成したものであってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、簡単な構造で、筆記体の筆記先端部を軸筒の前端開口部から出没させるためのノック操作時におけるノック音を低減することが可能なノック式筆記具を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第一の実施形態のノック式筆記具において、ペン先部を没入させた非筆記状態を示す縦断面図である。
【
図2】
図1のノック式筆記具におけるカム部材の側面図である。
【
図3】
図1のノック式筆記具における回転カムの側面図である。
【
図4】
図1のノック式筆記具において、ペン先部を突出維持させた筆記状態を示す縦断面図である。
【
図5】
図1におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図の一部拡大図である。
【
図6】
図1のノック式筆記具において、ペン先部突出動作時におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図6(a)から
図6(f)に各動作段階におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を順に示した図である。
【
図8】
図4のノック式筆記具において、ペン先部没入動作時におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図8(a)から
図8(g)に各動作段階におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を順に示した図である。
【
図10】従来のノック式筆記具のペン先部突出動作時におけるカム溝と固定カムと回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図10(a)から
図10(f)に各動作段階におけるカム溝と固定カムと回転カムとの位置関係を順に示した図である。
【
図11】従来のノック式筆記具のペン先部没入動作時におけるカム溝と固定カムと回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図11(a)から
図11(g)に各動作段階におけるカム溝と固定カムと回転カムとの位置関係を順に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照して本実施の形態におけるノック式筆記具を詳細に説明する。
【0024】
実施形態1
図1は、本発明の第一の実施形態のノック式筆記具において、ペン先部を没入させた非筆記状態を示す縦断面図であり、
図2は、
図1のノック式筆記具におけるカム部材の側面図であり、
図3は、
図1のノック式筆記具における回転カムの側面図であり、
図4は、
図1のノック式筆記具において、ペン先部を突出維持させた筆記状態を示す縦断面図であり、
図5は、
図1におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図の一部拡大図であり、
図6は、
図1のノック式筆記具において、ペン先部突出動作時におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図6(a)から
図6(h)に各動作段階におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を順に示した図であり、
図7は、
図6(e)を拡大した拡大図であり、
図8は、
図4のノック式筆記具において、ペン先部没入動作時におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図8(a)から
図8(h)に各動作段階におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を順に示した図であり、
図9は、
図8(e)を拡大した拡大図である。
なお、図面の説明においては、上方(ノック体側)を後方と表現し、下方(ペン先部側)を前方と表現する。
【0025】
図1から
図5に示すように、本実施形態1のノック式筆記具1は、後軸22の前方に前軸21が螺合されて軸筒2を構成し、軸筒2内に収容したボールペンレフィル5(筆記体)が前軸21に係止したコイルスプリング6(弾発体)で後方へ弾発され、軸筒2内に設けた複数のカム溝23に沿って摺動可能な複数の摺動突起31を有するカム部材3を有し、カム部材3の前方でカム溝23を摺動して回転し、該カム溝23の前端部に設けた係止部24に係止されるカム突起41を有した回転カム4を備えている。カム部材3と回転カム4は、カム部材3に形成した軸心方向に対する傾斜面で構成された凹凸状の噛合部32に、回転カム4に形成した前記噛合部32にかみ合う被噛合部42をかみ合わせて縦列配置されている。
ノック式筆記具1は、カム部材3のノック部33を押動することにより回転カム4を摺動させると共に、回転カム4の回転に伴い、軸筒4内に収容したボールペンレフィル5のペン先部51(筆記先端部)を前軸21の前端開口部21aから出没させることができる。
【0026】
ノック式筆記具1は、軸筒2の後部に、ノック部33をノック操作することにより作動する回転カム機構が設けられている。回転カム機構は、軸筒4の内面25の円周上に等間隔で形成したカム溝23と、後軸22の後端に形成した後端開口部22aから後方へ突出した筒状のカム部材3と、カム部材3の前方に配置した筒状の回転カム4とで構成してある。
【0027】
カム溝23について詳述する。
図5に示すように、カム溝23は、深いカム溝23aと浅いカム溝23bとが交互に並んで配置されており、カム溝23の両側面にはカム壁26として、第一カム壁26aと第二カム壁26bを有している。そして、第二カム壁26bの前端には周方向に傾斜して延びる第一カム傾斜面27の前端27aが連設され、第一カム傾斜面27の他端部には前記カム突起41が係止する係止部24が形成されている。係止部24には第一カム傾斜面27に連設し、軸方向軸方向に沿って前方に延びる当接部24aを有しており、当接部24aにカム突起41が当接させることで、該カム突起41は係止部24に係止されている。尚、浅いカム溝23bにはカム突起41が入らない深さで形成されている。また、当接部24aの前端には周方向に傾斜して延びる第二カム傾斜面28の前端28aが連設され、第二カム傾斜面28の他端部は深いカム溝23aの第一カム壁26aの前端に連設されている。
【0028】
カム部材3について詳述する。
図2および
図5に示すように、カム部材3は、先端に凹凸状の噛合部32を有し、外面には、カム溝23に係合する複数の摺動突起31を、円周上に等間隔で設けてある。噛合部32の前端には前方へ向かって突出する凸部32aを有しており、凸部32aの軸周方向の中心位置とカム溝23の軸周方向の中心位置とを一致するように形成するとともに、凸部32aには軸周方向に延びる平地部32eを形成してある。また、噛合部32は
図5において平地部32eの一端部32fから左上がりの第一斜面32bと、第一斜面32bから連設され、左下がりの第二斜面32cを有しており、第一斜面32bと第二斜面32cとにより後方へ向かって凹む凹部32hが形成され、第一斜面32bと第二斜面32cとの接合点には底部32dが形成されている。さらに、第二斜面32cは平地部32eの他端部32gに連設されている。そして、平地部32eの軸周方向の幅Sは、カム溝23の溝幅Mに対して、小さく形成されており、カム溝23溝幅Mと平地部32eの幅Sとの関係は、0.7M<S<0.95Mの関係式を満たすことが好ましく、この場合、カム溝23の溝幅内に平地部32eが収まり、且つ、後述するようにカム部材3が前進した際に平地部32eの一端部32fと 第一カム傾斜面27の前端27aおよび第二カム傾斜面28の前端28aとが近接させることができるともに第一斜面32bの少なくとも一部がカム溝23内に配置される。本実施形態では、平地部の幅S=1.11mm、カム溝の溝幅M=1.30mmで形成してあり、前記関係式を満たしている。また、カム部材3の後端部には、ノック操作するためのノック部33(ノック体)が一体的に設けられている。
【0029】
また、
図5における第一斜面32bと第二斜面32cにより形成される内角Tは、110°<T<150°で形成することが好ましく、この場合、ノック時にカム突起41が噛合部32に沿って滑る動きを阻害することなく、噛合部32の底部32dから平地部32eまでの軸方向の長さを制限することができるため、後述するように、ノック操作時の回転カム4の前後方向の移動距離を低減することができる。これにより、カム突起41と噛合部32の当接時の音(ノック音)を軽減することができるとともにノック操作時の回転カム3の回転動作が確実に実行される。
【0030】
次に、
図1、
図6、
図7及び
図10を用いて、本実施形態1のノック式筆記具1におけるノック部33を前方に押圧するノック操作で、回転カム機構を作動させ、ボールペンレフィル5のペン先部51を軸筒2の前端開口部21aから繰り出すペン先部突出動作動作と、その際に発生するノック音が軽減される状況を説明する。尚、
図10は、従来のノック式筆記具のペン先部突出動作時におけるカム溝と固定カムと回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図10(a)から
図10(f)に各動作段階におけるカム溝と固定カムと回転カムとの位置関係を順に示した図である。
【0031】
図1に示すノック式筆記具1は、非筆記状態であり、軸筒2の後端開口部22aから突出したカム部材3のノック部33(ノック体)を軸筒2の前方へ押動すると、カム部材3が、軸筒2の内面25に形成した深いカム溝23aと浅いカム溝23bに係合した摺動突起31に導かれて前進し、カム部材3の噛合部32に連接した回転カム4は、深いカム溝23aに係合したカム突起41に導かれて前進する(
図5及び
図6(a)参照)。詳細には、カム部材3は噛合部32の第一斜面32bがカム突起41の傾斜面43に連接しており、第一斜面32bが傾斜面43を押圧することで回転カム4がカム部材3と共に前進し、カム突起41が、深いカム溝23aの前端である第一カム傾斜面27の前端27aを超えて深いカム溝23aから離脱する(
図6(b)参照)。このカム部材3が前進した際、第一カム傾斜面27の前端27aと平地部32eの一端部32fとが近接する。そして、回転カム4は、前軸21に係合したコイルスプリング6(弾発体)で後方へ弾発されたボールペンレフィル5に当接しているので、後退しようとして被噛合部42がカム部材3の噛合部32の第一斜面32bを滑って
図6における右側から左側に回転し、カム突起4の後端頂部44が噛合部32の底部32dに衝接し、1回目の衝突が発生する(
図6(c))。この際、
図6(b)の長さL1A分だけカム突起3が軸方向に移動することで衝突音(ノック音)が発生する。この長さL1Aは、第一斜面32bと第二斜面32cにより形成される内角Tを110°より大きく形成し鈍角とすることで短くできることから、
図10(b)の従来のノック式筆記具のカム構造におけるカム突起241と噛合部232の底部232dとが衝突する際のカム突起241の移動する長さL1よりL1Aを短くすることができる。これにより、回転カム3が回転する際の勢いが減少し、本実施形態におけるペン先部突出動作時の1回目の衝突音(ノック音)は従来のカム構造に比べて軽減される。また、内角Tを、150°より小さく形成することにより、第一斜面32bに沿って回転カム4のカム突起41が滑り易くなるため、ノック操作時の回転カム3の回転動作を確実に実行させることができる。
【0032】
ここで、ノック部33への前方への押圧を解除すると、コイルスプリング6により後方へ弾発された回転カム4に押されてカム部材3が後退し、回転カム4の後端頂部44が第一カム傾斜面27に当接する(
図6(d))。そして、回転カム4のカム突起41は、
図6において左上がりの第一カム傾斜面27の表面を摺動し、同時に、
図6において左下がり(前方側に傾斜)のカム部材3の第二斜面32c及び第二斜面32cに連設されている平地部32eをカム突起41が後方へ押圧しながら摺動することでカム部材3及び回転カム4をゆっくり後方へ移動させ、カム突起41の後端頂部44とカム部材3の平地部32eの一端部32fが当接する位置まで後退する(
図6(e)、
図7)。そして、さらにカム部材3が後方へ移動すると、カム突起41の後端頂部44とカム部材3の平地部32eの一端部32fとの当接状態が解除され、回転カム4の被噛合部42は第一カム傾斜面27を滑って
図6の左方向に回転し、カム突起4の側面が当接部24aに衝接し、2回目の衝突が発生する(
図6(f))。この際、
図6(e)及び
図7の長さL2A分だけカム突起41が軸方向に移動することで2回目の衝突音(ノック音)が発生する。この長さL2Aは、
図10(e)に示す従来のノック式筆記具のカム構造におけるカム突起41と当接部24aとが衝接する際のカム突起41の移動する長さL’2よりも小さいため、その分、回転かカム4の移動前の位置エネルギーが減少し、ペン先部没入動作時の2回目の衝突音(ノック音)は従来より軽減される。そして、カム突起41は係止部24に係止された状態となり、
図4に示すように、ボールペンレフィル5のペン先部51が前軸21の前端開口部21aから突出した状態が維持される筆記状態となる。
【0033】
尚、平地部32eの幅Sとカム溝23の溝幅Mとの関係を0.7M<Sを満たすようにすることで、前述したように
図6(e)及び
図7の状態におけるL2Aを従来より短くできることから、2回目の衝突音(ノック音)の低減効果を得られる。そして、S<0.95Mの関係を満たすことで、カム部材3の第一斜面31bがカム溝23内に十分な長さで配置されるため、
図6(a)の状態からカム部材3が前進する際、第一斜面31bとカム突起4の傾斜面43が当接した状態を維持したまま
図6(b)の状態までカム部材3とカム突起41とが前進するため、
図6(b)の状態から回転カム4が第一斜面31bに沿って回転する動作が安定し確実に実行することができる。
【0034】
次に、
図1から
図5、及び
図8から
図11を用いて、本実施形態1のノック式筆記具1におけるノック部33を前方に押圧するノック操作で、回転カム機構を作動させ、
図4の状態からボールペンレフィル5のペン先部51が軸筒2の前端開口部21aに没入するペン先部没入動作と、その際に発生するノック音が軽減される状況を説明する。
【0035】
図4及び
図8(a)に示す状態から、軸筒2の後端開口部22aから突出したカム部材3のノック部33(ノック体)を軸筒4の前方へ押動すると、カム部材3が、軸筒2の内面25に形成した深いカム溝23aと浅いカム溝23bに係合した摺動突起31に導かれて前進し、カム部材3の噛合部32に連接した回転カム4は、当接部23aに係合したカム突起41に導かれて同じように回転することなく前進する。詳細には、カム部材3は噛合部32の第一斜面32bがカム突起41の傾斜面43に連接しており、第一斜面32bが傾斜面43を押圧することで回転カム4がカム部材3と共に前進し、カム突起41が、当接部24aの先端である第二カム傾斜面28の前端28aを超えて該当接部32aから離脱する(
図8(b)参照)。カム部材3が前進した際、第二カム傾斜面28の前端28aと平地部32eの一端部32fとが近接する。そして、回転カム4は、前軸21に係合したコイルスプリング6(弾発体)で後方へ弾発されたボールペンレフィル5に当接しているので、後退しようとして被噛合部42がカム部材3の噛合部32の第一斜面32bを滑って
図8における右側から左側に回転し、カム突起4の後端頂部44が噛合部32の底部32dに衝接し、1回目の衝突が発生する(
図8(c))。この際、
図8(b)の長さL’1A分だけカム突起3が軸方向に移動することで衝突音(ノック音)が発生する。この長さL’1Aは、ペン先部突出動作時と同様に第一斜面32bと第二斜面32cにより形成される内角Tを110°より大きく形成し鈍角とすることで短くできることから、
図11(b)の従来のノック式筆記具のカム構造におけるカム突起241と噛合部232の底部232dとが衝突する際のカム突起241の移動する長さL’1よりL’1Aを短くすることができる。これにより、回転カム3が回転する際の勢いが減少し、本実施形態におけるペン先部没入動作時の1回目の衝突音(ノック音)は従来のカム構造に比べて軽減される。尚、L’1Aは
図6(b)のL1Aと略同等であることから、ペン先部の突出動作時と略同等に没入動作時も1回目のノック音が軽減される。
【0036】
ここで、ノック部33への前方への押圧を解除すると、コイルスプリング6により後方へ付勢された回転カム4に押されてカム部材3が後退し、回転カム4の傾斜面43が第二カム傾斜面28に当接する(
図8(d))。そして、回転カム4のカム突起41は、
図8において左上がりの第二カム傾斜面28の表面を摺動し、同時に、
図8において左下がり(前方側に傾斜)のカム部材3の第二斜面32cおよび第二斜面32cに連設された平地部32eをカム突起41が後方へ押圧しながら表面を摺動するため、カム部材3及び回転カム4をゆっくり後方へ移動させ、カム突起41の後端頂部44とカム部材3の平地部32eの一端部32fが当接する位置まで後退する(
図8(e)、
図9)。そして、カム部材3の凸部32aがさらに後方へ移動すると、カム突起41の後端頂部44とカム部材3の平地部32eの一端部32fとの当接状態が解除され、回転カム4の被噛合部42は第二カム傾斜面28を滑って、カム突起4の側面が第二カム壁26bに衝接し、2回目の衝突が発生する(
図8(f))。この際、
図8(e)および
図9の長さL’2A分だけカム突起3が軸方向に移動することで2回目の衝突音(ノック音)が発生する。この長さL’2Aは、
図11(e)の従来のノック式筆記具のカム構造におけるカム突起41と第二カム壁26bとが衝接する際のカム突起41の移動する長さL2よりも短いため、その分、移動前の位置エネルギーが減少し、本実施形態におけるペン先部没入動作時の2回目の衝突音(ノック音)は従来より軽減される。そして、カム突起41は深いカム溝23aに沿って後退し、ボールペンレフィル5のペン先部51が前軸21の前端開口部21aから没入した
図1の非使用状態に戻る。尚、L’2Aはペン先部突出動作時と同様の理由(カム部材3の凸部32aに平地部32eを設けること)により短くなり、また、L’2Aは
図6(e)及び
図7のL2Aと略同等であることから、ペン先部突出動作時と略同等に没入動作時も2回目のノック音が軽減される。
【0037】
すなわち本実施形態1では、カム部材3の凸部32aに平地部32eを設けるとともに、平地部32eの幅Sとカム溝23の溝幅Mとの関係を0.7M<S<0.95Mを満たすようにすること、また、カム部材32の第一斜面32bと第二斜面により区画される内角Tを、110°<T<150°で形成するにより、ノック操作におけるペン先部51の突出動作時と没入動作時の両方において、1回目及び2回目のノック音が軽減されるものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、軸筒内に配したカム溝、固定カム、回転カム、およびノック体とで構成されたノック機構を有した、ボールペンやマーカー等のノック式筆記具や、描画用の固形芯を備えた描画具、修正液等を収容した塗布具、化粧液などを収容したノック式の化粧具等において、ノック操作時に発生するノック音を低減する場合に利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…ノック式筆記具、
2…軸筒、21…前軸、21a…前端開口部、22…後軸、22…後端開口部、
23…カム溝、23a…深いカム溝、23b…浅いカム溝、24…係止部、
24a…当接部、25…内面、26…カム壁、26a…第一カム壁、
26b…第二カム壁、27…第一カム傾斜面、27a…前端、28…第二カム傾斜面、
28a…前端、
3…カム部材、31…摺動突起、32…噛合部、32a…凸部、
32b…第一斜面、32c…第二斜面、32d…底部、32e…平地部、
32f…一端部、32g…他端部、32h…凹部、33…ノック部、
4…回転カム、41…カム突起、42…被噛合部、43…傾斜面、44…後端頂部、
5…ボールペンレフィル(筆記体)、51…ペン先部(筆記先端部)、
6…コイルスプリング(弾発体)、
M…カム溝の溝幅、
S…平地部の幅。