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特開2023-145163脱硫方法、脱硫装置および脱硫剤の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145163
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】脱硫方法、脱硫装置および脱硫剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/52 20060101AFI20231003BHJP
   B01D 53/82 20060101ALI20231003BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20231003BHJP
   B01D 53/18 20060101ALI20231003BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20231003BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B01D53/52 200
B01D53/82 ZAB
B01D53/14 100
B01D53/18 130
B01J20/06 A
B01J20/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052489
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】矢出 乃大
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敏
(72)【発明者】
【氏名】日高 秀敏
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
4G066
【Fターム(参考)】
4D002AA03
4D002AC10
4D002BA03
4D002CA07
4D002DA11
4D002DA22
4D002EA01
4D002EA04
4D002EA06
4D002EA13
4D002FA10
4D002GA01
4D002GB08
4D002GB20
4D002HA05
4D020AA04
4D020BA04
4D020BA08
4D020BB01
4D020BC06
4D020CA05
4D020CC01
4D020CC20
4D020DA03
4D020DB07
4D020DB20
4G066AA27B
4G066BA09
4G066BA20
4G066BA36
4G066CA24
4G066DA02
4G066FA11
4G066FA26
4G066FA33
4G066FA37
(57)【要約】
【課題】脱硫塔内に充填される脱硫剤同士の固着を抑制して脱硫剤の交換を円滑に行うことができ、且つ、脱硫剤の寿命を長くして交換作業の頻度を低減させることが可能な脱硫方法、脱硫装置および脱硫剤の製造方法を提供する。
【解決手段】硫黄含有ガスを脱硫処理する脱硫剤22を脱硫塔1内に充填して脱硫剤充填層2を形成し、硫黄含有ガスを脱硫剤充填層2に通すことにより、脱硫剤と硫黄含有ガスとを接触させて脱硫処理する工程を有し、硫黄含有ガスを脱硫剤22と接触させる前に、脱硫剤22を水洗する工程を有する脱硫方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄含有ガスを脱硫処理する脱硫剤を脱硫塔内に充填して脱硫剤充填層を形成し、前記硫黄含有ガスを前記脱硫剤充填層に通すことにより、前記脱硫剤と前記硫黄含有ガスとを接触させて脱硫処理する工程を有し、
前記硫黄含有ガスを前記脱硫剤と接触させる前に、前記脱硫剤を水洗する工程を有することを特徴とする脱硫方法。
【請求項2】
前記脱硫剤を水洗する工程が、前記脱硫剤充填層の上部から散水することにより、前記脱硫剤を水洗することを含む請求項1に記載の脱硫方法。
【請求項3】
前記脱硫剤を水洗する工程が、前記脱硫剤充填層の上部及び下部に散水装置を配置し、前記硫黄含有ガスを前記脱硫剤と接触させる前に、前記散水装置を介して前記脱硫剤充填層の上部及び下部から前記脱硫剤充填層及び前記脱硫剤充填層を支持する脱硫剤支持部に向けて散水することを含む請求項1に記載の脱硫方法。
【請求項4】
前記脱硫剤を水洗する工程が、前記脱硫剤の表面に付着する粒径2mm未満の付着粉を前記脱硫剤から分離することを含む請求項1~3のいずれか1項に記載の脱硫方法。
【請求項5】
前記脱硫剤を水洗する工程が、前記硫黄含有ガスと接触する前記脱硫剤の含水率が5.0~40wt%となるように水洗することを含む請求項1~4のいずれか1項に記載の脱硫方法。
【請求項6】
前記脱硫剤を水洗する工程が、散水量1.0~50m3/m2・時、散水時間6時間以内で水洗することを含む請求項1~5のいずれか1項に記載の脱硫方法。
【請求項7】
1又は複数の脱硫塔と、
前記脱硫塔内に設けられ、脱硫剤が充填された脱硫剤充填層と、
前記脱硫塔の上部に設けられ、前記脱硫剤充填層の上部から前記脱硫剤を充填する脱硫剤投入部と、
前記脱硫塔内で前記脱硫剤充填層を支持する脱硫剤支持部と
前記脱硫塔内から前記脱硫剤を取り出す脱硫剤取出部と、
前記脱硫剤支持部の下方に設けられ、前記脱硫塔内に硫黄含有ガスを流入させるガス流入部と、
前記脱硫塔の上部に設けられ、前記脱硫塔外へ処理ガスを流出させるガス流出部と、
前記脱硫塔の上部に着脱可能に設けられ、前記脱硫剤充填層の上部から散水用水を散水する散水装置と、
前記脱硫塔内の前記散水用水を排水する排水部と
を備える脱硫装置。
【請求項8】
1又は複数の脱硫塔と、
前記脱硫塔内に設けられ、水洗された脱硫処理前の脱硫剤が充填された脱硫剤充填層と、
前記脱硫塔の上部に設けられ、前記脱硫剤充填層の上部から前記脱硫剤を充填する脱硫剤投入部と、
前記脱硫塔内で前記脱硫剤充填層を支持する脱硫剤支持部と
前記脱硫塔内から前記脱硫剤を取り出す脱硫剤取出部と、
前記脱硫剤支持部の下方に設けられ、前記脱硫塔内に硫黄含有ガスを流入させるガス流入部と、
前記脱硫塔の上部に設けられ、前記脱硫塔外へ処理ガスを流出させるガス流出部と、
前記脱硫塔の上部に着脱可能に設けられ、前記脱硫剤充填層の上部から散水用水を散水する散水装置と、
前記脱硫塔内の前記散水用水を排水する排水部と
を備える脱硫装置。
【請求項9】
硫黄含有ガスを脱硫処理するための酸化鉄粉を造粒して脱硫剤を作製し、前記脱硫剤の表面を水洗することにより前記脱硫剤の表面に付着する粒径2mm未満の付着粉を分離することを有する脱硫剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硫方法、脱硫装置および脱硫剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタン発酵処理法は、水産物加工や農産物加工からの廃棄物、乳牛ふん尿や生ごみ、食品残渣、厨芥、下水汚泥などの有機性廃棄物、及びバイオマスの処理等で普及している。メタン発酵処理で発生するバイオガス(以下、「消化ガス」という)の組成は、メタン発酵処理の原料により異なるが、おおむねメタンガスが60~70容量%、二酸化炭素が30~40容量%、硫化水素100~5000ppmである。
【0003】
メタン発酵処理で発生する消化ガスは硫化水素を含むため、そのまま発電機やガスボイラで利用すると、機器の損傷・劣化が生じる。よって、硫化水素をあらかじめ除去する脱硫処理が行われる。一般には、乾式脱硫装置を用いて消化ガスの硫化水素を10ppm以下まで低減させ、処理済の消化ガスを発電機やガスボイラで利用することが行われる。
【0004】
脱硫方法には、微生物による生物脱硫法と酸化鉄を用いる乾式脱硫法が知られている。生物脱硫法は、消化ガスに少量の空気を混入させ、空気中の酸素と硫黄酸化細菌とを利用することにより、硫化水素を硫黄あるいは硫酸イオンに酸化する方法である。しかしながら、生物脱硫法は運転管理が煩雑である。
【0005】
乾式脱硫法は、酸化鉄が主成分の円柱状やペレット状や粒状の脱硫剤で形成される充填層に消化ガスを通して脱硫するもので、運転管理が楽で脱硫性能が高いことから広く用いられている。例えば実開昭57-181334号公報(特許文献1)及び実開昭62-56124号公報(特許文献2)には、脱硫剤の交換作業を改善した乾式脱硫装置の例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭57-181334号公報
【特許文献2】実開昭62-56124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
乾式脱硫法では、硫化水素で破過した脱硫剤を定期的に脱硫塔から取り出し、新品の脱硫剤を充填する必要がある。使用済脱硫剤は、硫化鉄を含んでおり、脱硫塔からの取出過程又は貯蔵過程において酸素に触れると発熱するため、交換作業を行う際には水で冷却しながら行われる。
【0008】
しかしながら、使用済脱硫剤を脱硫装置から取り出す際に、脱硫剤同士が固着し、取出し作業が困難になる場合がある。特許文献1及び2の乾式脱硫装置では、脱硫塔の下部構造を改良することにより、脱硫剤の取出作業を改善することを提案している。しかしながら、根本的な原因は、脱硫剤同士の固着にあるため、脱硫塔の下部構造を改良しても、脱硫剤の取出しが円滑に行えない場合がある。
【0009】
更に、脱硫剤同士の固着によって脱硫剤内部まで脱硫剤が有効に使えなくなるため、脱硫剤の破過が早まり、脱硫剤の交換作業頻度が増す。脱硫剤の頻繁な交換作業により、交換用の新品脱硫剤費用や交換作業費も必要になるとともに、使用済脱硫剤を産業廃棄物として処分する必要もある。そのため、脱硫剤はできるだけ長い期間使用できることが望ましい。
【0010】
上記課題を鑑み、本発明は、脱硫塔内に充填される脱硫剤同士の固着を抑制して脱硫剤の交換を円滑に行うことができ、且つ、脱硫剤の寿命を長くして交換作業の頻度を低減させることが可能な脱硫方法、脱硫装置および脱硫剤の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、硫黄含有ガスを脱硫処理するための脱硫剤を脱硫処理前に水洗することが有用であることがわかった。
【0012】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、硫黄含有ガスを脱硫処理する脱硫剤を脱硫塔に充填して脱硫剤充填層を形成し、硫黄含有ガスを脱硫剤充填層に通すことにより、脱硫剤と硫黄含有ガスとを接触させて脱硫処理する工程を有し、硫黄含有ガスを脱硫剤と接触させる前に、脱硫剤を水洗する工程を有することを特徴とする脱硫方法である。
【0013】
本発明の実施の形態に係る脱硫方法は一実施態様において、脱硫剤を水洗する工程が、脱硫剤充填層の上部から散水することにより、脱硫剤を水洗する。
【0014】
本発明の実施の形態に係る脱硫方法は別の一実施態様において、脱硫剤を水洗する工程が、脱硫剤充填層の上部及び下部に散水装置を配置し、硫黄含有ガスを脱硫剤と接触させる前に、散水装置を介して脱硫剤充填層の上部及び下部から脱硫剤充填層及び脱硫剤充填層を支持する脱硫剤支持部に向けて散水する。
【0015】
本発明の実施の形態に係る脱硫方法は更に別の一実施態様において、脱硫剤を水洗する工程が、脱硫剤の表面に付着する粒径2mm未満の付着粉を脱硫剤から分離する。
【0016】
本発明の実施の形態に係る脱硫方法は更に別の一実施態様において、脱硫剤を水洗する工程が、脱硫剤充填層を構成する脱硫剤の含水率が5.0~40wt%となるように水洗する。
【0017】
本発明の実施の形態に係る脱硫方法は更に別の一実施態様において、脱硫剤を水洗する工程が、散水量1.0~50m3/m2・時、散水時間6時間以内で水洗する。
【0018】
本発明は別の一側面において、1又は複数の脱硫塔と、脱硫塔内に設けられ、脱硫剤が充填された脱硫剤充填層と、脱硫塔の上部に設けられ、脱硫剤充填層の上部から脱硫剤を充填する脱硫剤投入部と、脱硫塔内で脱硫剤充填層を支持する脱硫剤支持部と、脱硫塔内から脱硫剤を取り出す脱硫剤取出部と、脱硫剤支持部の下方に設けられ、脱硫塔内に硫黄含有ガスを流入させるガス流入部と、脱硫塔の上部に設けられ、脱硫塔外へ処理ガスを流出させるガス流出部と、脱硫塔の上部に着脱可能に設けられ、脱硫剤充填層の上部から散水用水を散水する散水装置と、脱硫塔内の散水用水を排水する排水部とを備える脱硫装置である。
【0019】
本発明は更に別の一側面において、1又は複数の脱硫塔と、脱硫塔内に設けられ、水洗された脱硫処理前の脱硫剤が充填された脱硫剤充填層と、脱硫塔の上部に設けられ、脱硫剤充填層の上部から脱硫剤を充填する脱硫剤投入部と、脱硫塔内で脱硫剤充填層を支持する脱硫剤支持部と、脱硫塔内から脱硫剤を取り出す脱硫剤取出部と、脱硫剤支持部の下方に設けられ、脱硫塔内に硫黄含有ガスを流入させるガス流入部と、脱硫塔の上部に設けられ、脱硫塔外へ処理ガスを流出させるガス流出部と、脱硫塔の上部に着脱可能に設けられ、脱硫剤充填層の上部から散水用水を散水する散水装置と、脱硫塔内の散水用水を排水する排水部とを備える脱硫装置である。ここで「水洗された脱硫処理前の脱硫剤」とは、脱硫塔へ充填して脱硫処理を行う前の市販の(未使用の)脱硫剤に対して水洗処理を施した脱硫剤を意味する。
【0020】
本発明の実施の形態に係る脱硫装置は一実施態様において、脱硫塔の下部に設けられ、脱硫剤支持部を洗浄するように、脱硫剤支持部の下部から散水用水を散水する第2の散水装置を更に備える。
【0021】
本発明は更に別の一側面において、硫黄含有ガスを脱硫処理するための酸化鉄粉を造粒して脱硫剤を作製し、脱硫剤の表面を水洗することにより脱硫剤の表面に付着する粒径2mm以下の付着粉を分離することを有する脱硫剤の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、脱硫塔内に充填される脱硫剤同士の固着を抑制して脱硫剤の交換を円滑に行うことができ、且つ、脱硫剤の寿命を長くして交換作業の頻度を低減させることが可能な脱硫方法、脱硫装置および脱硫剤の製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施の形態に係る脱硫塔内の脱硫剤充填層に充填された脱硫剤の様子を示す模式図であり、図1(a)は一般的に入手可能な市販の脱硫剤、図1(b)は、本実施形態に係る脱硫剤、図1(c)は本実施形態において理想的な脱硫剤の例を示す。
図2】本発明の実施の形態に係る脱硫装置の一例を示す概略図である。
図3】本発明の実施の形態に係る脱硫装置の別の一例を示す概略図である。
図4図4(a)~図4(c)は、本発明の実施の形態に係る第1の散水装置及び第2の散水装置の構成例を示す概略図である。
図5】本発明の実施の形態に係る脱硫装置の更に別の一例を示す概略図である。
図6図5の脱硫装置において脱硫塔1Aと脱硫塔1Bとを直列で接続し、硫黄含有ガスを脱硫塔1Aから脱硫塔1Bへ供給する際の処理の流れの例を示す概略図である。
図7図5の脱硫装置において、脱硫塔1A内の脱硫剤を交換する際の脱硫処理の流れの例を示す概略図である。
図8図5の脱硫装置において、脱硫塔1Aの脱硫剤を交換した後の脱硫処理の流れの例を示す概略図である。
図9】脱硫塔1A、1Bを並列配置した場合の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお、以下に示す実施の形態はこの発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであってこの発明の技術的思想は構成要素の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0025】
(脱硫剤)
脱硫剤としては、硫化水素等の硫黄成分を含む硫黄含有ガスから硫化水素を除去する一般的な脱硫剤が利用できる。本実施形態では、脱硫剤として、酸化鉄を主成分とする造粒物が利用できる。このような脱硫剤は、例えば、直径が約10mm、長さが約10~40mmの円柱状に造粒される。
【0026】
脱硫剤は、後述する脱硫塔1内に充填されて、脱硫剤充填層2を形成する。硫黄含有ガスは、脱硫剤充填層2に充填された脱硫剤と接触することにより、脱硫処理が進行する。乾式脱硫法による一般的な脱硫反応は、例えば以下のように進行する。
Fe23・3H2O+3H2S→Fe23+6H2
FeO+H2S→FeS+H2
【0027】
図1(b)は、本実施形態に係る脱硫剤23の例を示す模式図である。脱硫反応の進行に伴い、脱硫剤23の表面及び隙間に存在する脱硫剤23の付着粉21が、脱硫剤23の空隙部分に詰まり、硫黄含有ガスに含まれる水分と硫化水素との反応によって固化する。そしてこの固化した付着粉21がバインダーとなって、円柱状の脱硫剤本体部20同士が強く固まる。その結果、脱硫反応が進行するにつれて、脱硫剤充填層の内部で脱硫剤23同士が固着した複数の大きな塊状物が生成されることがある。
【0028】
図1(c)に示す脱硫剤24は、脱硫剤22から付着粉21を完全に除去した理想的な脱硫剤の例を示す。この脱硫剤24の場合は、脱硫剤本体部20の表面に付着粉21がないため、付着粉21を介した脱硫剤本体部20同士の強い固着は生じにくい。
【0029】
図1(a)は、一般的に入手可能な市販の脱硫剤22の例を示す模式図である。この脱硫剤22は、脱硫剤本体部20の表面全体にわたって付着粉21が付着している。このような脱硫剤22を脱硫塔1内に充填して脱硫剤充填層2を形成すると、複数の脱硫剤22同士が固着した脱硫剤22の塊状物は、脱硫剤と硫化水素との反応生成物となるため、新品の脱硫剤22と比べて外力を加えても、容易に脱硫剤22同士を分離させることが難しい。
【0030】
図1(a)の脱硫剤22の付着粉21は、図1(b)の脱硫剤23または図1(c)の脱硫剤24よりも、脱硫反応が早く優先的に反応するとともに、付着粉21が脱硫剤本体部20の表面を覆うことによって脱硫剤本体部20の硫化水素との反応が妨げられることがある。その結果、付着粉21が表面全面に存在する脱硫剤22の硫化水素除去速度が低下し、処理ガスの硫化水素濃度保証値までの使用期間が短くなることがある。
【0031】
本発明の実施の形態に係る脱硫方法によれば、硫黄含有ガスを脱硫処理する場合に、図1(a)の脱硫剤22と硫黄含有ガスとを接触させる前に、脱硫剤22が水洗されて脱硫剤23又は脱硫剤24が得られる。脱硫剤22が水洗され、脱硫剤22の表面に付着する付着粉21が除去されるため、脱硫剤充填層2内で互いに固着して大きな塊状となることを抑制できる。その結果、脱硫装置に充填される脱硫剤23同士の固着を抑制して、脱硫剤23の交換を円滑に行うことができる。また、脱硫剤22の表面の付着粉21が水洗により除去された脱硫剤23を用いることにより、脱硫剤23自体と硫黄含有ガスとの接触が促進されるため、脱硫剤23の寿命を長くでき、交換作業の頻度が低減可能となる。
【0032】
市販の脱硫剤22の水洗処理は、脱硫塔1に充填する前に行ってもよいし、脱硫塔1に充填した後、脱硫剤充填層2の上部から散水することにより脱硫剤22を水洗してもよい。脱硫塔1に充填する前に、脱硫剤22を事前に水洗し、脱硫剤22に付着する付着粉21を分離することによって、脱硫剤22を輸送する段ボール箱やフレキシブルコンテナ等の包装容器内で脱硫剤22の付着粉21が多く発生したとしても、この付着粉21を予め取り除くことができる。その結果、脱硫剤22に付着する付着粉21の脱硫塔1への混入を抑制できる。
【0033】
脱硫剤22を事前に水洗する方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、脱硫剤22を包装容器から取出し、金網等に載せ、脱硫剤22の上部から散水用水(水)を散水して、脱硫剤22に付着する付着粉21を除去する方法が利用できる。
【0034】
脱硫剤22を脱硫塔1に充填した後、脱硫剤充填層2の上部から散水して脱硫剤22を水洗することにより、脱硫剤22同士の摩擦等によって充填時に発生する付着粉21を脱硫剤充填層2から予め除去することもまた好ましい。これにより、脱硫剤充填層2に充填された脱硫剤23の空隙部分に付着粉21が詰まることを抑制できるため、付着粉21を介して脱硫剤23同士が脱硫反応により固着することが抑制できる。
【0035】
脱硫剤充填層2の上部及び下部の少なくともいずれかに第1及び第2の散水装置6、7を配置し、第1及び第2の散水装置6、7を介して脱硫剤充填層2の上部及び下部から脱硫剤充填層2に向けて散水することもまた好ましい。具体的な構成例は後述するが、脱硫剤充填層2の上部から散水した場合に、脱硫剤22から分離された付着粉21が、脱硫剤充填層2を支持する脱硫剤支持部3付近で閉塞し、脱硫塔1の外部へ排出されないことがある。第1及び第2の散水装置6、7を介して脱硫剤充填層2の上部及び下部から脱硫剤充填層2及び脱硫剤充填層2を支持する脱硫剤支持部3に向けて散水することにより、脱硫剤22の表面に付着する付着粉21を脱硫剤充填層2の外部へとより効果的に排出させることができる。これにより、脱硫塔1内に充填される脱硫剤23同士の固着を抑制して脱硫剤23の交換を円滑に行うことができる。
【0036】
脱硫剤充填層2に充填する脱硫剤22の表面に付着する付着粉21のうち、粒径が2mm未満、特に粒径1mm未満の付着粉21が脱硫剤充填層2の空隙部分に多く存在すると、付着粉21がバインダーとなり、脱硫剤22同士を強く固着させる原因となる。本発明の実施の形態に係る脱硫剤23は、表面に付着する粒径が2mm未満、特に粒径1mm未満の付着粉21を脱硫剤23の表面から分離するように水洗処理されることが好ましい。
【0037】
なお、本実施形態における付着粉21の粒径は、JIS Z8815(1994)のふるい分け試験法に従い、JIS Z8801に規定される試験用ふるいを用いた乾式ふるい分け試験により付着粉21の粒径分布を測定した結果をいう。水洗前の市販の脱硫剤22は、種類により付着粉21の粒径の比率も異なるが、3種類の脱硫剤22を測定したところ、1kgの脱硫剤22に対して1mm未満の付着粉21の比率がいずれも0.03~0.14kg/kg、1mm以上~2mm未満の付着粉21の比率が0.01~0.02kg/kgの範囲にあった。また、脱硫剤22の2mm未満の付着粉21の比率は0.04~0.16kg/kgであった。この付着粉21を適切に除去することによって、脱硫塔1に充填される脱硫剤23同士の固着を抑制して脱硫剤23の交換を円滑に行うことができる。
【0038】
本実施形態の脱硫塔1に充填される脱硫剤23の付着粉21の比率は、脱硫剤23の重量1kgに対する1mm未満の付着粉21の比率が0.00005~0.10kg/kg、1mm以上~2mm未満の付着粉21の比率が0.00005~0.05kg/kgが望ましい。脱硫剤23の2mm未満の付着粉21の比率は0.0001~0.15kg/kgが望ましい。また、1mm未満の付着粉21の比率が0.01~0.03kg/kg、1mm以上~2mm未満の付着粉21の比率が0.01~0.03kg/kgがより好適である。脱硫剤23の2mm未満の付着粉21の比率は0.02~0.06kg/kgがより好適である。
【0039】
脱硫剤22の種類に応じて、脱硫剤22に対して所定の重量比率で付着粉21が除去できるように水洗条件を決定することにより、脱硫塔1に充填される脱硫剤23同士の固着を抑制できる。
【0040】
本実施形態では、脱硫剤23の含水率が5.0~40wt%となるように、脱硫剤22が水洗処理されていることが好ましい。脱硫剤23の含水率が5.0wt%以上とすると、散水により十分に粒径2mm未満の付着粉21が洗い流され、充填時の粉塵発生及び脱硫反応による脱硫剤23同士の固着を抑えることができる。脱硫剤23の含水率が40wt%以下では、脱硫剤23の初期の脱硫性能に影響を及ぼすことなく、且つ、充填時の粉塵発生も抑えながら脱硫反応による脱硫剤23同士の固着を抑えることができる。脱硫剤23の含水率は、硫黄含有ガスと接触させる直前の含水率が5.0~40wt%となるように処理されることが好ましく、10~30wt%となるように処理されることがより好ましい。
【0041】
このような脱硫剤23は、硫黄含有ガスを脱硫処理するための酸化鉄等を主成分とする粉末を円柱状等の所定の形状に造粒して脱硫剤22を作製し、脱硫剤22の表面を水洗し、脱硫剤22の表面に付着する粒径2mm未満の付着粉21を分離することによって製造することができる。本発明の実施の形態に係る脱硫剤23によれば、脱硫塔1に充填される脱硫剤同士の固着を抑制できるとともに、脱硫剤の寿命を長くして交換作業の頻度を低減させることが可能となる。
【0042】
(水洗済脱硫剤)
本発明の実施の形態に係る水洗済脱硫剤は、脱硫剤22を脱硫塔1に充填する前に、予め水洗処理が施された水洗済脱硫剤や、充填後脱硫処理前に洗浄した脱硫剤も好適に利用できる。充填する前に予め水洗処理を施した水洗済脱硫剤は脱硫塔1に充填後に、再度脱硫剤充填層を散水により水洗しても、水洗しなくてもよい。本実施形態に係る水洗済脱硫剤に付着した付着粉21の粒径の比率は、水洗済脱硫剤の重量1kgに対して、1mm未満の付着粉21の比率が0.00005~0.10kg/kg、1mm以上~2mm未満の付着粉21の比率が0.00005~0.05kg/kgが望ましい。水洗済脱硫剤の2mm未満の付着粉21の比率は0.0001~0.15kg/kgが望ましい。また、1mm未満の付着粉21の比率が0.01~0.03kg/kg、1mm以上~2mm未満の付着粉21の比率が0.01~0.03kg/kgがより好適である。水洗済脱硫剤の2mm未満の付着粉21の比率は0.02~0.06kg/kgがより好適である。
【0043】
(脱硫装置)
図2に示すように、本発明の実施の形態に係る脱硫装置は、脱硫塔1と、脱硫塔1内に設けられ、脱硫剤23(不図示)が充填された脱硫剤充填層2と、脱硫塔1の上部に設けられ、脱硫剤充填層2の上部から脱硫剤を充填する脱硫剤投入部5と、脱硫塔1内で脱硫剤充填層2を支持する脱硫剤支持部3と、脱硫塔1内から脱硫剤23を取り出す脱硫剤取出部51と、脱硫剤支持部3の下方に設けられ、脱硫塔1内に硫黄含有ガスを流入させるガス流入部4と、脱硫塔1の上部に着脱可能に設けられ、脱硫剤充填層2の上部から散水用水を散水する第1の散水装置6と、脱硫塔1内の散水用水を排水する排水部8とを備える。
【0044】
処理対象となる硫黄含有ガスは、脱硫処理が必要な硫化水素等で、硫黄含有ガス成分の分子内に硫黄を含有するガスであれば特に限定されない。例えば、水産物加工や農産物加工からの廃棄物、乳牛ふん尿、生ごみ、食品残渣、厨芥、下水汚泥などの有機性廃棄物、バイオマス等をメタン発酵処理することにより生成される消化ガス等が含まれる。
【0045】
脱硫塔1内に配置される脱硫剤支持部3は金属又は樹脂等で構成されており、脱硫塔1の下部に設けられたガス流入部4から流入させる硫黄含有ガスを脱硫塔1の下方から上部へと通すための複数の通気孔3aを有する。通気孔3aの直径は、通気孔3aから脱硫剤23が落下しないように、脱硫剤23の最小径よりも小さくなるように構成されている。脱硫剤支持部3の形状、通気孔3aの数及び位置は特に限定されない。
【0046】
脱硫剤支持部3上には、脱硫剤23が充填された脱硫剤充填層2が配置される。脱硫剤取出部51は、脱硫剤充填層2の下方に設けられている。なお、図2の例では、脱硫剤取出部51が脱硫塔1の側面に接続される例が示されているが、脱硫塔1の底部から脱硫剤を取出すような構造であっても構わない。また、脱硫剤充填層2の上部から脱硫剤を充填する脱硫剤投入部5の開口部が、脱硫剤取出部51を兼ねても良い。ガス流入部4は、脱硫剤支持部3よりも下方に接続されており、脱硫剤支持部3の下方から脱硫剤充填層2へ向けて硫黄含有ガスを通すことができるようになっている。
【0047】
第1の散水装置6は、脱硫剤充填層2の上方に着脱可能に取り付けられることにより、脱硫剤22または水洗された脱硫処理前の脱硫剤の充填時、脱硫塔1内の洗浄時、或いは脱硫処理時などに、必要に応じて取り外しができるようにする。これにより、第1の散水装置6等に劣化や脱硫剤23の付着粉21等の詰まりが発生しても、第1の散水装置6の交換がしやすくなる。脱硫剤充填層2の上方の内壁面には、散水装置取付用の取付座111が配置されている。例えば、この取付座111に、第1の散水装置6を固定することで、脱硫塔1内の所定の高さに、第1の散水装置6が着脱可能に取り付けられる。
【0048】
図3に示すように、脱硫塔1の下部に第2の散水装置7を更に備えていても良い。第2の散水装置7は、脱硫剤支持部3を洗浄するように、脱硫剤支持部3の下部から散水用水を散水する。この第2の散水装置7は、脱硫剤支持部3の下方から、脱硫剤支持部3が備える通気孔3aに向けて散水用水を散水できるように構成されている。脱硫剤充填層2の下方からの散水等により脱硫剤23または脱硫剤23から分離された付着粉21が脱硫剤支持部3上へ堆積し、通気孔3aを閉塞させるおそれがある。図3の第2の散水装置7によれば、脱硫剤支持部3の下方から散水用水を散水することにより、脱硫剤支持部3に堆積する付着粉21を効率良く脱硫剤支持部3の上方側へと排出できる。
【0049】
第2の散水装置7は、脱硫剤支持部3の下方に着脱可能に取り付けられている。これにより、脱硫塔1内の洗浄時、或いは脱硫処理時などに、必要に応じて取り外しができる。脱硫剤充填層2の内壁面下方には、散水装置取付用の取付座112が配置されている。この取付座112に、第2の散水装置7を固定することで、第2の散水装置7を脱硫塔1内の所定の高さに着脱可能に取り付けられる。
【0050】
第1の散水装置6及び第2の散水装置7の具体的構成は特に限定されないが、例えば、図4(a)~図4(c)に示すような構成を有していることが好ましい。例えば図4(a)に示すように、第1の散水装置6は、脱硫塔1の外側壁に接続される散水配管60と、脱硫塔1内に配置され、散水配管60に接続される散水枝管61aと、散水枝管61aに接続され、脱硫塔1の内部で脱硫塔1の断面と同心円状を有する円形状の散水部62aとを備える。散水部62aには、円周方向に沿って複数のキリ穴63aが設けられている。
【0051】
散水部62aは、脱硫塔1の高さ方向に沿って複数段設けられていても良い。キリ穴63aの寸法は、例えば直径1~10mm程度とすることができる。キリ穴63aは、脱硫剤充填層2の上面から均一に散水用水を散水することができる構造であれば、散水部62aの下面に配置されていてもよいし、散水部62a外側面又は内側面に設けられていても良い。例えば、キリ穴63aは、散水枝管61aから散水部62aへと散水用水が流入する部分から遠くなるにしたがって配置間隔が狭くなるように配置することにより、脱硫剤充填層2の上方からより均一に散水用水を散水することができる。キリ穴63aの直径も散水部62を流れる散水用水の圧力損失を考慮し、配置される位置によってその大きさが異なるように調整されることが好ましい。
【0052】
或いは、図4(b)に示すように、第1の散水装置6は、脱硫塔1の外側壁に接続される散水配管60と、脱硫塔1内に配置され、散水配管60に接続された枝状構造を有する散水枝管61bと、散水枝管61bに接続される複数の散水ノズル63bとを備えていてもよい。図4(b)の例では、散水枝管61bは、脱硫塔1の中心から十字状に延びる例を示しているが、脱硫剤充填層2に十分に散水可能な構成であればこの例には限定されないことは勿論である。散水ノズル63bとしては、図4(c)に示すような、散水用水をスプレー状に噴霧するスプレーノズル等が利用可能である。スプレーノズルは、噴霧時の水の形状と、汎用品の流通性等からフルコーン型が好ましい。スプレーノズルの代わりに、散水枝管61bに1~5mmの穴をあけてもよい。第2の散水装置7も第1の散水装置6と同等の構成を有することができる。
【0053】
第1の散水装置6及び第2の散水装置7は、散水用水の飛散距離を考慮して脱硫剤充填層2の表面から離間して配置されることが好ましい。例えば第1の散水装置6及び第2の散水装置7として散水ノズル63bが利用される場合には、スプレーノズルの飛散距離を考慮して第1の散水装置6及び第2の散水装置7と脱硫剤充填層2との距離が調節される。第1の散水装置6及び第2の散水装置7の散水部62aが多孔管で構成される場合には、第1の散水装置6及び第2の散水装置7と脱硫剤充填層2との距離を100mm以上あけることが好ましい。
【0054】
図3に示す脱硫装置を用いて本発明の実施の形態に係る脱硫処理を行う場合には、脱硫塔1の上部から新品の脱硫剤22を投入して脱硫剤充填層2に脱硫剤22を充填する。その後、第1の散水装置6及び第2の散水装置7を介して、脱硫剤充填層2の上部及び下部から散水用水を散水することにより、脱硫剤22の表面に付着する付着粉21を水洗する。
【0055】
散水用水は脱硫剤23の脱硫性能に悪影響を与えない液体であれば特に限定されず、例えば、水道水、工業用水、下水処理水又は排水処理水のろ過水等が利用できる。散水用水の水質は、例えば濁度5度以下、またはSS5mg/L以下のもので、消火栓や水道水の水栓等や、別途専用の散水ポンプ等から供給されることが好ましい。
【0056】
脱硫塔1内における散水処理は、散水に使用する散水用水の水量よりも、単位時間あたりの脱硫塔1の断面積あたりに散水する散水量が、脱硫剤充填層2に充填された脱硫剤22の空隙に存在する付着粉21を除去するためにより重要である。例えば、散水処理は、脱硫剤充填層2の断面積あたり、1時間あたりの散水量1.0~50m3/m2・時、散水時間6時間以内で脱硫剤22を水洗処理することが好ましい。散水量50m3/m2・時以上とすることにより、脱硫剤充填層2に充填された脱硫剤22の空隙に存在する付着粉21を散水の水流によって効果的に水洗できる。
【0057】
散水量を多くすることによって、脱硫剤充填層2の空隙に存在する付着粉をより短時間で水洗できるが、装置構成上、散水量を多くしすぎると、排水部8の口径が小さい場合には十分な散水流束が得られない場合がある。散水処理は、散水量1.0~50m3/m2・時とすることがより好ましく、4.0~25m3/m2・時とすることが更に好ましい。散水時間は長くしすぎると脱硫剤23の含水率が高くなりすぎるとともに、脱硫塔1内の水分の影響により脱硫処理初期の性能低下が大きくなる場合がある。散水時間は6時間以内、より典型的には3時間以内とすることがより好ましく、90分以内とすることが更に好ましい。散水時間は15分以上とすることがより好ましい。散水終了から脱硫塔1に硫黄含有ガスが流入するまでの時間は、脱硫剤充填層2の散水による水切れ時間(散水の水が脱硫剤充填層2から排出される時間)を考慮して、1時間以上が望ましい。1時間以上であれば、任意の時間が設定できる。
【0058】
散水処理は、第1の散水装置6及び第2の散水装置7を介して連続的に散水しても良いし、一定時間散水処理した後に散水を中止し、その後、散水処理を再開するような処理でもよい。第1の散水装置6及び第2の散水装置7を介して散水された散水用水は、脱硫剤充填層2を通過し、脱硫剤充填層2に充填された脱硫剤22から分離した付着粉21を含んだ排水が、脱硫塔1下部の排水部8から排出される。散水処理終了の判定は、操作者の経験に基づく散水量と散水時間、排水の色調から判断してよいし、排水の濁度やSS濃度から判定してもよい。
【0059】
図2図3は脱硫塔1内に第1の散水装置6又は第2の散水装置7を配備した脱硫装置であるが、脱硫塔1に予め第1の散水装置6又は第2の散水装置7を配備しておくのでなく、脱硫塔1に脱硫剤22を充填後に、脱硫処理前に、脱硫剤充填層2を散水して脱硫剤22の付着粉21を除去するために、脱硫塔1内部に第1の散水装置6又は第2の散水装置7を取り付けるか、または、第1の散水装置6又は第2の散水装置7を脱硫塔1内部に挿入して、脱硫剤充填層2に散水することができる。散水方法は図2図3の脱硫装置と同様で、散水終了後には、第1の散水装置6又は第2の散水装置7を脱硫塔1内部から取出すことができる。例えば、図4に示す散水部62aを消火栓や散水用水供給ポンプ等に接続して、散水部62aから散水させることで脱硫剤22の付着粉21が除去できる。
【0060】
本実施形態では、脱硫剤充填層2中の付着粉21の除去に散水用水を利用する例を説明するが、空気を用いた脱硫剤充填層2の空気洗浄も使用してもよい。例えば、洗浄空気をガス流入部4またはガス流入部4とは別に設けた流入管等を介して脱硫剤充填層2の下部から通気し、脱硫剤充填層2の空隙部の付着粉21を空気洗浄し、付着粉を含む空気を脱硫塔1上部のガス流出部41から排出させることもできる。そして、排出口から排出させた付着粉を含む空気について除塵処理を行った後に放出させる。但し、脱硫剤充填層2中の付着粉21を除去するためには、供給空気の空塔速度LVが0.1m/秒以上必要であるため、大型の送風機等が必要となる。装置の小型化を図る目的では、上述の散水処理によって脱硫剤充填層2中の付着粉21の除去を行うことが好ましい。
【0061】
散水処理終了後は、ガス流入部4から脱硫塔1内に硫黄含有ガスを流入させて硫黄含有ガスを脱硫剤充填層2に通すことにより、脱硫処理を行う。脱硫処理後の処理ガスは脱硫塔1の上部から排出され、余剰ガス燃焼装置などによって燃焼処理されるか、ボイラや発電用エンジンの燃料に利用されるか、或いは硫化水素を低濃度までに除去した後に燃料電池の燃料等として利用される。使用済の脱硫剤23は、第1の散水装置6及び第2の散水装置7を介して水洗しながら脱硫剤取出部51から取り出すことができる。
【0062】
使用済の脱硫剤23の取出し作業前に、使用済の脱硫剤23を冷却するための散水は、脱硫剤22の付着粉21の除去のために散水する第1及び第2の散水装置6、7を付けたまま、脱硫処理後に、第1及び第2の散水装置6、7で行ってもよい。または、散水した後に第1及び第2の散水装置6、7を取り外して脱硫処理し、使用済の脱硫剤23の取出し作業前に再度、脱硫塔1内に第1及び第2の散水装置6、7を取り付けてもよい。第1の散水装置6の代わりに、使用済の脱硫剤23の冷却と取出し時に、消火栓等の散水用水の供給ができる仮設散水装置で脱硫剤充填層2の上部から簡易的な散水を行ってもよい。
【0063】
(変形例)
図5図9に示すように、複数の脱硫塔1A、1Bが直列又は並列に接続されることにより、脱硫処理をより効率良く行うことができる。複数の脱硫塔1A、1Bの接続の態様は図5に示す例に限定されず種々の構成を取り得ることは勿論である。
【0064】
脱硫塔1A、1Bを直列に接続する場合、例えば図6に示すように、まず配管11を介してガス流入部4Aから脱硫塔1A内へ硫黄含有ガスが供給される。硫黄含有ガスは脱硫剤支持部3Aの下方から脱硫剤充填層2Aを通って脱硫剤充填層2Aに充填された脱硫剤23(不図示)と接触することにより脱硫処理が行われ、処理後の処理ガスが、脱硫塔1Aの上方外側面に設けられたガス流出部41Aから配管12へ導入される。配管12へ導入された処理ガスは、切替部13、配管14、切替部15及び配管16を通ってガス流入部4Bから脱硫塔1B内へ供給される。脱硫塔1B内へ供給された処理ガスは、脱硫剤支持部3Bの下方から脱硫剤充填層2Bを通って、脱硫剤充填層2Bに充填された脱硫剤23(不図示)と接触することにより脱硫処理が行われる。脱硫処理後の処理ガスは、脱硫塔1Bの上方に設けられたガス流出部41Bから配管17、切替部13を介して外部へ排出される。
【0065】
図5の脱硫塔1A、1Bのいずれかに充填された脱硫剤23が脱硫処理によって破過した場合には脱硫剤23の交換が行われる。例えば、脱硫塔1A内の脱硫剤23が破過した場合には、図7に示すように、一の脱硫塔1Aへの硫黄含有ガスの供給を他の脱硫塔1Bへ切り替えるための切替部13、15によって硫黄含有ガスの供給方向を切り替えることができる。切替部13、15は切替弁等で構成できる。まず、硫黄含有ガスが配管10から配管16を介してガス流入部4Bへ供給されるように切替部15が流路の切替を行う。ガス流入部4Bから脱硫塔1Bへ流入した硫黄含有ガスは脱硫剤支持部3Bから脱硫剤充填層2Bを通って、脱硫剤充填層2Bに充填された脱硫剤23(不図示)と接触することにより脱硫処理が行われる。脱硫処理後の処理ガスは、脱硫塔1Bの上方外側面に設けられたガス流出部41Bから配管17及び切替部13を介して脱硫塔1Bの外部へ排出される。
【0066】
一方、脱硫塔1Aでは、脱硫塔1A内の使用済の脱硫剤23を脱硫剤取出部51Aから取出し、脱硫剤投入部5Aから新品の脱硫剤22を脱硫剤充填層2Aに充填した後、第1の散水装置6A及び第2の散水装置7Aから散水を行うことにより新品の脱硫剤22の水洗処理を行う。水洗処理完了後に、脱硫塔1Aを開放して外気で脱硫剤充填層2Aの水分を除くようにしてもよい。水洗処理完了後は、図8に示すように、脱硫塔1Bからの処理ガスを配管17、切替部13、配管14、切替部15、配管18、11を介してガス流入部4Aから脱硫塔1A内へ供給する。脱硫塔1A内の脱硫剤23は水洗処理における水分の影響で初期の脱硫性能が一時的に低下する場合があるが、図5図8に示す脱硫装置によれば、脱硫塔1A、1Bの2塔直列運転によって、一方の脱硫塔1A、1Bの脱硫剤23の水洗による脱硫性能の一次的な低下を補うことができるため、脱硫塔1A、1B内の脱硫剤同士の固着を抑制しながら脱硫剤の交換を円滑に行うことができる。脱硫塔1A内に供給された処理ガスは、脱硫剤充填層2Aを通って脱硫剤充填層2Aに充填された脱硫剤23と接触することにより脱硫処理が行われ、処理後の処理ガスが、脱硫塔1Aの上方に設けられたガス流出部41Aから配管12及び切替部13を介して脱硫塔1Aの外部へ送られる。
【0067】
図5図8に示す脱硫装置によれば、一方の脱硫塔1A、1B内の脱硫剤23の破過が起こった場合においても、配管10、11、12、14、16、18及び切替部13、15によって、硫黄含有ガスの供給方向を変更することができる。そのため、脱硫剤23の交換時においても片方の脱硫塔をバイパスして運転することもできるため、脱硫塔1A、1Bの運転を止めることなく引き続き行うことができる。また、脱硫剤23の交換作業後は、交換した方の脱硫塔1Aを交換していない方の脱硫塔1Bよりもガスの供給方向の下流側とすることで、交換していない方の脱硫塔1Bで安定的に処理を行った後に、交換直後の脱硫塔1Aで処理することができる。これにより、処理ガスに硫化水素を漏出させることなく、交換していない方の脱硫剤を破過するまで利用することもできる。一方で、片方の脱硫塔1Aをバイパスして運転することもできるため、早く破過が起こる一方の脱硫塔1A、1Bの脱硫剤交換時には、他方の脱硫塔1A、1Bだけを運転して脱硫処理を止めることなく使用済脱硫剤23の交換を円滑に行うことができる。このような脱硫剤交換の円滑化は、図8に示すように、脱硫塔1A、1Bを並列に接続した形態において、脱硫剤を交換する方の脱硫塔を停止しておこなってもよい。
【0068】
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。即ち、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を相互に組み合わせ、変形して具体化できることは勿論である。
【0069】
本実施形態では、酸化鉄を主成分とする脱硫剤22を例に挙げたが、活性炭からなる脱硫剤22についても同様な水洗処理を行うことにより、脱硫剤23同士の固着を防ぐことができる。また、図5図9の例では、図2の脱硫装置を複数台連結した態様を示したが、図3の脱硫装置を複数台連結することもまた可能であることは勿論である。
【実施例0070】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0071】
(試験1)
脱硫塔(内径300mm、充填層高さ600mm、充填剤容積42リットル)に脱硫剤(含水率5.0wt%、エバソーブS、水ing株式会社製)を42リットル充填し、20~25℃、SV30h-1で、空気と硫化水素で調製した硫化水素濃度500ppmの模擬消化ガスを一旦水を張った水槽を経由させて、相対湿度を約80%に調整した後に連続的に通気した。処理ガスは株式会社ガステックのガス検知管(JIS K 0804検知管式ガス測定器)で、硫化水素濃度を測定した。
【0072】
脱硫剤は事前に水洗した脱硫剤(エバソーブS、水ing株式会社製)と、水洗していない脱硫剤を使用した。事前に水洗した脱硫剤は、脱硫剤(エバソーブS、水ing株式会社製)45リットルを、目開き3mmのSUS製金網に取り、脱硫剤の上から脱硫剤容積の約5倍量の水を散水して調製した。脱硫試験に使用した脱硫剤の重量に対する脱硫剤の粒径2mm未満の付着粉分の重量割合は事前に水洗した脱硫剤で0.04kg/kg、水洗していない脱硫剤で0.15kg/kgであった。事前に水洗した脱硫剤の含水率は20wt%であった。処理ガスの硫化水素濃度を測定した脱硫試験結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1に示すように、脱硫性能は事前に水洗した脱硫剤の方が良好であった。また、試験終了後、脱硫剤の充填層から散水して、使用済脱硫剤の発熱を抑えて、取り出したが、その際には、事前に水洗した脱硫剤がバラバラで容易に取り出せたが、水洗していない脱硫剤は、カラム径いっぱいに脱硫剤同士が固着していた。
【0075】
(試験2)
実施例1と同様に脱硫試験を行った。カラムに脱硫剤を充填し、充填層の上部から水道水を散水させ、その散水量は0.5~50(m3/m2・時)で、90分間行った。
出口ガスの硫化水素濃度を測定した脱硫試験結果を表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
表2に示すように、脱硫性能は事前に水洗した脱硫剤の方が良好であった。散水量が4.0m3/m2・時は、模擬消化ガスを通気して、400日まで処理ガスの硫化水素濃度が10ppm以下と安定したが、散水量が0.5m3/m2・時と散水量が減少すると、実験日数300日で処理ガスの硫化水素濃度が33ppmとなり、脱硫性能が低下した。また、試験終了後に取り出した使用済脱硫剤は、事前に水洗した脱硫剤がバラバラで容易に取り出せたが、水洗していない脱硫剤はカラム径いっぱいに脱硫剤同士が固着していた。
【符号の説明】
【0078】
1、1A、1B…脱硫塔
2、2A、2B…脱硫剤充填層
3、3A、3B…脱硫剤支持部
3a…通気孔
4、4A、4B…ガス流入部
5、5A…脱硫剤投入部
6、6A、6B…第1の散水装置
7、7A、7B…第2の散水装置
8…排水部
10、11、12、14、16、17、18…配管
13、15…切替部
20…脱硫剤本体部
21…付着粉
22、23、24…脱硫剤
41、41A、41B…ガス流出部
51、51A…脱硫剤取出部
60…散水配管
61a、61b…散水枝管
62、62a…散水部
63b…散水ノズル
63a…キリ穴
111、112…取付座
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9