(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145170
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】吊荷の吊り上げ方法
(51)【国際特許分類】
B66C 1/62 20060101AFI20231003BHJP
E04G 21/16 20060101ALI20231003BHJP
B66C 1/14 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B66C1/62 C
E04G21/16
B66C1/14 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052500
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】514131098
【氏名又は名称】株式会社ハウスギア
(71)【出願人】
【識別番号】506050226
【氏名又は名称】株式会社マツザワ瓦店
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】長津 朋幸
(72)【発明者】
【氏名】中安 誠明
(72)【発明者】
【氏名】山本 一成
(72)【発明者】
【氏名】松澤 考宏
【テーマコード(参考)】
2E174
3F004
【Fターム(参考)】
2E174BA01
2E174CA03
2E174CA38
3F004EA27
3F004KA01
3F004LA07
3F004LB02
(57)【要約】
【課題】より安定して吊荷を吊り上げることができる吊荷の吊り上げ方法を提供する。
【解決手段】本発明による吊荷の吊り上げ方法は、建物の屋根に向けて所定の勾配を有する状態で吊荷1を吊り上げる吊荷の吊り上げ方法であって、吊荷1は屋根パネル10を含み、吊荷1の重心1cと屋根パネル10の図心10cとを勾配Gの方向にずらした状態で吊荷1を吊り上げる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の屋根に向けて所定の勾配を有する状態で吊荷を吊り上げる吊荷の吊り上げ方法であって、前記吊荷は屋根パネルを含み、前記吊荷の重心と前記屋根パネルの図心とを前記勾配の方向にずらした状態で前記吊荷を吊り上げる、吊荷の吊り上げ方法。
【請求項2】
前記吊荷の重心を前記屋根パネルの図心よりも前記勾配の上側に位置させる、請求項1に記載の吊荷の吊り上げ方法。
【請求項3】
前記吊荷の重心と前記屋根パネルの図心との距離が前記屋根パネルの全長の1%以上10%以下である、請求項1又は2に記載の吊荷の吊り上げ方法。
【請求項4】
前記吊荷は、前記屋根パネルの図心よりも前記勾配の方向に係る上側の位置で前記屋根パネルに付加された付加部材を含む、請求項1から3までのいずれか1項に記載の吊荷の吊り上げ方法。
【請求項5】
前記吊荷は、前記屋根パネルに接続された一対の上側接続治具と、前記一対の上側接続治具よりも前記勾配の下側で前記屋根パネルに接続された一対の下側接続治具とを含み、前記一対の上側接続治具の重量が前記一対の下側接続治具の重量よりも大きい、請求項1から4までのいずれか1項に記載の吊荷の吊り上げ方法。
【請求項6】
前記吊荷は、前記屋根パネルに接続された一対の上側接続治具と、前記一対の上側接続治具よりも前記勾配の下側で前記屋根パネルに接続された一対の下側接続治具とを含み、前記一対の上側接続治具と前記一対の下側接続治具との間の距離を基準長さとし、前記基準長さに対する前記勾配に係る前記屋根パネルの上端と前記一対の上側接続治具との間の距離の割合が、前記基準長さに対する前記勾配に係る前記屋根パネルの下端と前記一対の下側接続治具との間の距離の割合よりも小さい、請求項1から5までのいずれか1項に記載の吊荷の吊り上げ方法。
【請求項7】
前記一対の上側接続治具が前記屋根パネルの上端に接続される、請求項6に記載の吊荷の吊り上げ方法。
【請求項8】
前記屋根パネルの重量に対する前記一対の上側接続治具の重量の割合が5%以上30%以下である、請求項5から7までのいずれか1項に記載の吊荷の吊り上げ方法。
【請求項9】
前記屋根パネルの重心が前記屋根パネルの図心よりも前記勾配の上側に配置されている、請求項1から8までのいずれか1項に記載の吊荷の吊り上げ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の屋根に向けて所定の勾配を有する状態で吊荷を吊り上げる吊荷の吊り上げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、吊天秤、吊ロープ及びフック等を含む吊具により建築用大版瓦等の板状体を吊り上げることが開示されている。吊天秤の両端下面には吊金が固着されており、吊天秤の上面には吊金間の長さの1/4だけ中央から一方の吊金に近寄った位置に吊環が固着されている。吊天秤の吊金には吊ロープの上端が掛け止めされ、吊ロープの下端にはフックが係着されている。板状体の四角隅にはナットが埋設されており、板状体を吊り上げる際にはそれらナットに吊ボルトが螺着される。そして、それら吊ボルトに吊ロープのフックが係止され、吊天秤上面の吊環に吊フックが掛止めされて吊り上げられる。このとき、吊環が片寄った位置に配置されていることにより、垂直に近い勾配を有する状態で吊天秤及び板状体が吊り上げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の吊荷の吊り上げ方法では、板状体を含む吊荷が勾配を有する状態で吊り上げられるので、屋根の勾配に合わせて吊荷を位置合わせしやすいとの利点がある。しかしながら、勾配を有する状態で吊荷を吊り上げると、風の影響を受けやすく、吊荷の吊り上げが不安定になることがある。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的の一つは、より安定して吊荷を吊り上げることができる吊荷の吊り上げ方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る吊荷の吊り上げ方法は、一実施形態において、建物の屋根に向けて所定の勾配を有する状態で吊荷を吊り上げる吊荷の吊り上げ方法であって、吊荷は屋根パネルを含み、吊荷の重心と屋根パネルの図心とを勾配の方向にずらした状態で吊荷を吊り上げる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の吊荷の吊り上げ方法の一実施形態によれば、吊荷の重心と屋根パネルの図心とを勾配の方向にずらした状態で吊荷を吊り上げるので、より安定して吊荷を吊り上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態による吊荷の吊り上げ方法を示す説明図である。
【
図3】
図1の屋根パネルの一例を示す斜視図である。
【
図4】
図2のように吊荷の重心と屋根パネルの図心とをずらす第1方法を示す説明図である。
【
図5】
図2のように吊荷の重心と屋根パネルの図心とをずらす第2方法を示す説明図である。
【
図6】
図2のように吊荷の重心と屋根パネルの図心とをずらす第3方法を示す説明図である。
【
図7】
図6の基準長さL0に対する距離L2の割合βと基準長さL0に対する距離L1の割合αとの差β-αと、屋根パネルの全長Lに対する吊荷の重心と屋根パネルの図心との距離δの割合δ/L(%)との関係を示すグラフである。
【
図8】
図6の屋根パネルの重量M0に対する一対の上側接続治具の重量M1の割合M1/M0(%)と、屋根パネルの全長Lに対する吊荷の重心と屋根パネルの図心との距離δの割合δ/L(%)との関係を示すグラフである。
【
図9】
図2のように吊荷の重心と屋根パネルの図心とをずらす第4方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。本発明は各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0010】
図1は本発明の実施の形態による吊荷1の吊り上げ方法を示す説明図であり、
図2は
図1の吊荷1を示す平面図であり、
図3は
図1の屋根パネル10の一例を示す斜視図である。本実施の形態の吊荷1の吊り上げ方法は、建物の屋根に向けて所定の勾配Gを有する状態で吊荷1を吊り上げるための方法である。
【0011】
建物は、典型的には住宅(特に木造住宅)であり得るが、例えば倉庫又は公共施設等の住宅以外の建物であってもよい。屋根は、例えば、切妻屋根、寄棟屋根又は片流屋根等の勾配を有する屋根であってよい。
【0012】
吊荷1を吊り上げる際の吊荷1の勾配Gは、屋根の勾配に応じたものであってよい。すなわち、屋根の棟側に位置させることが意図される吊荷1の一端に対して、屋根の軒側に位置させることが意図される吊荷1の他端が低い位置となるように、吊荷1が傾斜されてよい。吊荷1の勾配Gは、屋根の勾配と実質的に同じであるか、又は屋根の勾配よりも大きくされることが好ましい。しかしながら、実施の形態によっては、吊荷1の勾配Gが屋根の勾配よりも小さくてもよい。
【0013】
限定はされないが、図示の態様では、吊天秤2を用いることで、勾配Gを有した状態で吊荷1を吊り上げるようにしている。吊天秤2の上部には、吊上装置(クレーン等)からの第1索状体3が接続された吊環20が設けられている。吊環20は、吊天秤2の長手方向に関して中央位置2cよりも片側に片寄った位置に配置されている。吊天秤2の長手方向に係る一方の端部(第1端部21)には第2索状体4が接続され、他方の端部(第2端部22)には第3索状体5が接続されている。第2及び第3索状体4,5は、吊天秤2の下方に配置された吊荷1に接続されている。第1索状体3により吊天秤2が吊り上げられることで、第2及び第3索状体4,5を介して吊荷1が吊り上げ可能とされている。上述のように吊環20が吊天秤2の長手方向に関して片寄った位置に配置されていることで、吊天秤2及び吊荷1を吊り上げた際に第1索状体3の芯の位置(吊心)と吊荷1の重心1cとが鉛直方向に一直線に並ぶように吊環20を中心とするモーメントが生じ、勾配Gを有した状態で吊荷1が吊り上げられる。吊上げられた物のうち、第2及び第3索状体4,5よりも下の物を吊荷1と理解してよい。
【0014】
吊荷1は、屋根パネル10を含む。屋根パネル10は、他の屋根パネルとともに建物の屋根の上に配置されることで、建物の屋根の外面を構成する外装材と理解してよい。屋根パネル10は、例えばスレート瓦等のような屋根材そのものであってもよいが、
図3に示すような複数の部材が一体化された複合ユニットであってもよい。
【0015】
図3に示す屋根パネル10は、下地部材100と複数の屋根材101とを有している。下地部材100は、例えば、垂木100a、野地板100b及び防水シート(図示せず)等の部材を有していてよい。複数の屋根材101は、下地部材100の上に並べて配置されている。図示の態様では、複数の屋根材101は、棟側の屋根材101が軒側の屋根材101に部分的に重なるように配置されている。複数の屋根材101は、下地部材100に緊結又は固定されていてよい。屋根材101は、例えばスレート瓦等の窯業系屋根材であってもよいし、金属板からなる表基材を有する金属系屋根材であってもよい。
図3には示していないが、太陽光パネルを取り付けるための金具、雪止め用の金具及び/又は屋根材101を固定するための吊子等の他の部材がさらに設けられていてもよい。
【0016】
図2及び
図3に特に表れているように、本実施の形態の屋根パネル10は、幅方向Wに比べて奥行方向Dに長い平面視長方形の部材とされている。例えば、
図3に示す屋根パネル10の幅方向Wに係る寸法は約900mmであり、奥行方向Dに係る寸法は約3000mmであり得る。しかしながら、屋根パネル10の寸法及び形状等は設置される屋根に応じて適宜変更され得る。例えば、幅方向Wに係る屋根パネル10の寸法は約450~1800mmの範囲内で変更され、奥行方向Dに係る屋根パネル10の寸法は約450~8000mmの範囲内で変更されることもある。また、平面で見たときの屋根パネル10の形状は、例えば、正方形、三角形及び台形等の他の形状とされてよい。本実施の形態の屋根パネル10は、幅方向Wが屋根の軒方向に沿い、奥行方向Dが屋根の勾配方向(軒棟方向)に沿うように適合されている。すなわち、奥行方向Dに係る屋根パネル10の一端に対して他端が低い位置となるように、勾配Gを有する状態で吊荷1が吊り上げられる。このとき、吊荷1の勾配Gの方向は奥行方向Dと同義である。
【0017】
屋根パネル10と第2及び第3索状体4,5との接続方法は任意である。本実施の形態では、第2索状体4の先端には一対の上側接続治具6a,6bが取り付けられており、それら上側接続治具6a,6bを介して第2索状体4が屋根パネル10に接続されている。同様に、第3索状体5の先端には一対の下側接続治具7a,7bが取り付けられており、それら下側接続治具7a,7bを介して第3索状体5が屋根パネル10に接続されている。一対の下側接続治具7a,7bは、一対の上側接続治具6a,6bよりも勾配Gの下側で屋根パネル10に接続されている。すなわち、本実施の形態では、屋根パネル10は4点吊りとされている。これら上側接続治具6a,6b及び下側接続治具7a,7bは、吊荷1に含まれていると理解してよい。
【0018】
図示の態様では、上側接続治具6a,6b及び下側接続治具7a,7bは、屋根パネル10を挟持するクランプにより構成されている。上側接続治具6a,6b及び下側接続治具7a,7bは、例えば、索状体を接続することができる吊環を頭部に有するとともに、屋根パネル10に設けられたナット部分に螺着可能な吊ボルト等の他の部材であってもよい。
【0019】
図示の態様では、上側接続治具6a,6bは、吊荷1の勾配Gに係る屋根パネル10の上端10aに接続されている。しかしながら、上側接続治具6a,6bは、吊荷1の勾配Gに係る屋根パネル10の上端10aから離れた位置で屋根パネル10に接続されてよく、
図2において二点鎖線で示すように屋根パネル10の側部に接続されていてもよい。一方、図示の態様では、下側接続治具7a,7bは、吊荷1の勾配Gに係る屋根パネル10の下端10bから離れた位置で屋根パネル10の側部に接続されている。しかしながら、下側接続治具7a,7bは、
図2において二点鎖線で示すように吊荷1の勾配Gに係る屋根パネル10の下端10bに接続されていてもよい。
【0020】
上側接続治具6a,6bは、屋根パネル10の図心10cよりも上端10a側に配置されることが好ましい。また、下側接続治具7a,7bは、屋根パネル10の図心10cよりも下端10b側に配置されることが好ましい。すなわち、吊荷1の勾配Gの方向に関して、上側接続治具6a,6bと下側接続治具7a,7bとの間に屋根パネル10の図心10cが位置することが好ましい。なお、屋根パネル10の図心10cとは、平面で見たときの屋根パネル10の中心位置であると理解してよい。本実施の形態の屋根パネル10のように、屋根パネル10が平面視矩形であるとき、対角線の交点が図心10cであり得る。
【0021】
ここで、勾配Gを有する状態で吊荷1が吊り上げられるとき、風の影響を受けて、吊荷1の吊り上げが不安定になることがある。より具体的には、屋根パネル10の表面又は裏面に風が吹き付けたときに、吊荷1が回転しようとすることがある。
【0022】
本実施の形態の吊荷1の吊り上げ方法では、
図2に特に示すように、吊荷1の重心1cと屋根パネル10の図心10cとを吊荷1の勾配Gの方向にずらした状態で吊荷1を吊り上げる。屋根パネル10の図心10cを中心に回転させようとする風荷重に対し、吊荷1は吊荷1の重心1c(第1索状体3の芯の位置「吊心」に一致)を中心に回転しようとする。このため、吊荷1の重心1cと屋根パネル10の図心10cとを吊荷1の勾配Gの方向にずらすことで、いわゆる芯ずれの状態となり、風の影響を受けても吊荷1が回転しづらくなり、より安定して吊荷1を吊り上げることができると考えられる。
【0023】
吊荷1の重心1cを屋根パネル10の図心10cよりも勾配Gの上側(棟側)に位置させることが好ましい。図心10cが重心1cより低い位置にあるとき、風荷重は振り子のように中央位置で安定し、図心10cが重心1cより高い位置にある場合と比較して吊荷1がより安定すると考えられる。但し、図心10cが重心1cより高い位置にあるときでも、図心10cが重心1cと一致している場合と比較すれば、吊荷1を安定させることができると考えられる。
【0024】
吊荷1の重心1cと屋根パネル10の図心10cとの距離δが屋根パネル10の全長Lの1%以上10%以下であることが好ましい。距離δが全長Lの1%以上であることで、より確実に芯ずれの状態となり、より安定して吊荷1を吊り上げることができると考えられる。距離δを大きくするためには、後述のように付加部材40を付加したり、上側接続治具6a,6bの重量を大きくしたりすることが考えられる。すなわち、距離δを大きくするほど、吊荷1の重量が増える傾向にある。距離δが全長Lの10%以下であることで、吊荷1の重量増を抑制することできる。距離δ及び全長Lは、吊り上げ時の勾配Gの方向に沿った距離及び長さとすることができる。
【0025】
吊荷1の重心1cと屋根パネル10の図心10cとをずらす方法としては、種々の方法があるが、以下のような方法等を例として挙げることができる。以下説明する方法等は、単独で適用されてもよいし、組み合わせて適用されてもよい。
【0026】
図4は、
図2のように吊荷1の重心1cと屋根パネル10の図心10cとをずらす第1方法を示す説明図である。
図4に示す第1方法では、吊荷1は、屋根パネル10の図心10cよりも勾配Gの方向に係る上側の位置で屋根パネル10に付加された付加部材40を含む。付加部材40は、所定の重さを有する重り等により構成することができる。このような付加部材40を付加することにより、吊荷1の重心1cを勾配Gの方向に係る上側に移動させることができ、吊荷1の重心1cと屋根パネル10の図心10cとをずらすことができる。
【0027】
図4では屋根パネル10の上面に付加部材40を載置しているように示しているが、付加部材40の付加方法も任意の方法を採ることができる。例えば、上側接続治具6a,6bがクランプにより構成される場合、上側接続治具6a,6bにより付加部材40を挟持してもよい。また、第2索状体4を屋根パネル10の下面に回り込ませる場合、第2索状体4と屋根パネル10との間に付加部材40を挟み込んでもよい。
【0028】
次に、
図5は、
図2のように吊荷1の重心1cと屋根パネル10の図心10cとをずらす第2方法を示す説明図である。
図5に示す第2方法では、一対の上側接続治具6a,6bの重量が一対の下側接続治具7a,7bの重量よりも大きくされている。このように上側接続治具6a,6bの重量を大きくすることによっても、吊荷1の重心1cを勾配Gの方向に係る上側に移動させることができ、吊荷1の重心1cと屋根パネル10の図心10cとをずらすことができる。
【0029】
次に、
図6は、
図2のように吊荷1の重心1cと屋根パネル10の図心10cとをずらす第3方法を示す説明図である。
図6に示す第3方法では、一対の上側接続治具6a,6bと一対の下側接続治具7a,7bとの間の距離を基準長さL0とし、基準長さL0に対する勾配Gに係る屋根パネル10の上端10aと一対の上側接続治具6a,6bとの間の距離L1の割合α(=L1/L0)が、基準長さL0に対する勾配Gに係る屋根パネル10の下端10bと一対の下側接続治具7a,7bとの間の距離L2の割合β(=L2/L0)よりも小さくされている。このように、基準長さL0に対する距離L1の割合αを基準長さL0に対する距離L2の割合βよりも小さくすることによっても、吊荷1の重心1cを勾配Gの方向に係る上側に移動させることができ、吊荷1の重心1cと屋根パネル10の図心10cとをずらすことができる。割合α,βは、吊り上げ時の勾配Gの方向に沿ったそれぞれの距離L0,L1,L2の割合とすることができる。
【0030】
次に、
図7は、
図6の基準長さL0に対する距離L2の割合βと基準長さL0に対する距離L1の割合αとの差β-αと、屋根パネル10の全長Lに対する吊荷1の重心1cと屋根パネル10の図心10cとの距離δの割合δ/L(%)との関係を示すグラフである。
図7は、基準長さL0に対する距離L2の割合βと基準長さL0に対する距離L1の割合αとの差β-αが0のとき吊荷1の重心1cと屋根パネル10の図心10cとの距離δが実質的に0となる条件下での差β-αと割合δ/L(%)との関係を示している。なお、以下では、基準長さL0を固定し、距離L1,L2を変えることで割合α,βを変えている。
【0031】
図7において、四角のプロットは、割合αを0に固定した状態(上側接続治具6a,6bを上端10aに接続した状態)で、割合βを変化させたときの割合δ/L(%)の変化を示している。
【0032】
また、三角のプロットは、割合αを0.25に固定した状態で、割合βを変化させたときの割合δ/L(%)の変化を示している。
【0033】
また、丸のプロットは、割合αを0.50に固定した状態で、割合βを変化させたときの割合δ/L(%)の変化を示している。
【0034】
いずれのプロットにおいても、差β-αを大きくすることで、割合δ/Lを大きくすることができる(すなわち吊荷1の重心1cと屋根パネル10の図心10cとの距離δを大きくすることができる)ことが示されている。特に、四角のプロットで示されているように、上側接続治具6a,6bを上端10aに接続したときに、吊荷1の重心1cと屋根パネル10の図心10cとの距離δが大きくなる傾向にあることが分かる。このことから、一対の上側接続治具6a,6bが屋根パネル10の上端に取り付けられることが好ましいことが分かる。
【0035】
次に、
図8は、
図6の屋根パネル10の重量M0に対する一対の上側接続治具6a,6bの重量M1の割合M1/M0(%)と、屋根パネル10の全長Lに対する吊荷1の重心1cと屋根パネル10の図心10cとの距離δの割合δ/L(%)との関係を示すグラフである。なお、以下では、基準長さL0を固定し、距離L1,L2を変えることで割合α,βを変えている。
【0036】
図8において、菱形のプロットは、割合αを0とし割合βを0.5としたときに、屋根パネル10の重量M0に対する一対の上側接続治具6a,6bの重量M1(合計重量)の割合M1/M0(%)を変化させた際の屋根パネル10の全長Lに対する吊荷1の重心1cと屋根パネル10の図心10cとの距離δの割合δ/L(%)の変化を示している。
【0037】
また、四角のプロットは、割合αを0とし割合βを0.9としたときに、屋根パネル10の重量M0に対する一対の上側接続治具6a,6bの重量M1の割合M1/M0(%)を変化させた際の屋根パネル10の全長Lに対する吊荷1の重心1cと屋根パネル10の図心10cとの距離δの割合δ/L(%)の変化を示している。
【0038】
いずれのプロットにおいても、割合M1/M0(%)が5%未満では割合δ/L(%)の数値が小さいと考えられる。また、割合M1/M0(%)が30%より大きくても割合δ/L(%)の変化率が小さいと考えられる。すなわち、吊荷1の重心1cと屋根パネル10の図心10cとの距離δを効率的に大きくするために、屋根パネル10の重量M0に対する一対の上側接続治具6a,6bの重量M1の割合M1/M0(%)を5%以上30%以下とすることが好ましいことが分かる。
【0039】
次に、
図9は、
図2のように吊荷1の重心1cと屋根パネル10の図心10cとをずらす第4方法を示す説明図である。
図9に示す第4方法では、屋根パネル10の重心10dが屋根パネル10の図心10cよりも勾配Gの上側に配置されている。例えば、屋根パネル10の上端10a側の垂木100aの本数を下端10b側の垂木100aの本数よりも多くしたり、垂木100aが形鋼等の鋼製部材の場合は屋根パネル10の上端10a側の鋼製部材の板厚を下端10b側の鋼製部材の板厚よりも厚くしたりすること等により、屋根パネル10の重心10dを上側に移動させることができる。このように屋根パネル10の重心10dを屋根パネル10の図心10cよりも上側に配置することによっても、吊荷1の重心1cを勾配Gの方向に係る上側に移動させることができる。
【0040】
【0041】
限定はされないが、本実施の形態の吊荷1の吊り上げ方法は、
図10~
図18に示す吊天秤2を用いて実施することができる。
図10~
図18に示す吊天秤2は、天秤本体23と、天秤本体23の両端に配置された第1及び第2直交部材24,25とを有している。
【0042】
天秤本体23は、長手状の部材により構成されている。図示の態様では、天秤本体23は角パイプにより構成されている。しかしながら、天秤本体23としては角柱等の他の部材が使用されてもよい。吊天秤2は、天秤本体23の長手方向が屋根パネル10の奥行方向D(勾配Gの方向)と平行となるように配置される。
【0043】
天秤本体23には、頭部に吊環20を有する吊環ボルト26が取り付け可能なボルト取付部230が設けられている。
【0044】
図12及び
図13に特に表れているように、ボルト取付部230は、天秤本体23の上面に固定された基台231と、基台231と一体に設けられたステー232とを有している。基台231は、天秤本体23の長手方向に互いに離間して配置された第1及び第2側壁231a,231bと、第1及び第2側壁231a,231bの上端間を接続する上壁231cとを有している。第1側壁231aは、天秤本体23の長手方向に係る一端23a側に配置されており、天秤本体23の上面に直交するように立設されている。第2側壁231bは、天秤本体23の長手方向に係る他端23b側に配置されており、天秤本体23の上面に直交する面に対して傾斜して延在されている。第2側壁231bは、その直交する面から一端23a側に倒れるように延在されている。上壁231cには、天秤本体23の長手方向に互いに間隔をおいて複数の取付穴231dが設けられている。取付穴231dのそれぞれは、天秤本体23の長手方向に係る中央位置よりも一端23a側に片寄った位置に配置されている。ステー232は、上壁231cの内面に固定されている。ステー232は、取付穴231dのそれぞれに連通するネジ孔を有している。
【0045】
図12に特に表れているように、吊環ボルト26は、吊環20と一体に設けられた軸部260を有している。軸部260の外周面にはネジが設けられている。軸部260は、取付穴231dに挿通できるとともに、ステー232のネジ孔に螺着できるように構成されている。軸部260を挿通する取付穴231dを変えることにより、天秤本体23の長手方向に係る吊環20の位置を調整することができる。吊環20の位置を調整することにより、吊荷1の勾配Gを調整することができる。吊環ボルト26は、軸部260の長さが異なる他の吊環ボルト26に取り換えられてよい。
【0046】
天秤本体23には、天秤本体23の一端23aにおいて第1直交部材24の位置を決めるための第1直交部材位置決部233と、天秤本体23の他端23bにおいて第2直交部材25の位置を決めるための第2直交部材位置決部234とが設けられている。これら第1及び第2直交部材位置決部233,234は、天秤本体23に対して脱着可能な部材であってよい。
【0047】
図12及び
図13に特に示すように、第1直交部材位置決部233は、天秤本体23の一端23aに配置され、天秤本体23の長手方向に互いに間隔をおいて天秤本体23の上面に直交するように立設された第1及び第2縦壁233a,233bを含んでいる。第1及び第2縦壁233a,233bは、天秤本体23の長手方向に直交する方向に延在されている。図示の態様では、第2縦壁233bは基台231の第1側壁231aと隣接して設けられている。第1及び第2縦壁233a,233b間に第1直交部材24の上壁243が嵌められることで、第1直交部材24の位置が決められる。なお、少なくとも第1縦壁233aが天秤本体23に対して脱着可能とされていてよい。
【0048】
第2直交部材位置決部234は、天秤本体23の他端23bに配置され、天秤本体23の長手方向に互いに間隔をおいて天秤本体23の上面から垂直に立設された第3及び第4縦壁234a,234bを含んでいる。第3及び第4縦壁234a,234bは、天秤本体23の長手方向に直交する方向に延在されている。第3及び第4縦壁234a,234b間に第2直交部材25の上壁が嵌められることで、第2直交部材25の位置が決められる。なお、少なくとも第4縦壁234bが天秤本体23に対して脱着可能とされていてよい。
【0049】
第1直交部材24は、天秤本体23の一端23aにおいて天秤本体23の長手方向に直交する方向に延在された部材である。第2索状体4は、第1直交部材24の一端24aから引き出された第2左索状体4aと、第1直交部材24の他端24bから引き出された第2右索状体4bとを含んでいる。
【0050】
第1直交部材24は角パイプ状の部材により構成されている。より具体的には、
図15~
図18に特に示すように、第1直交部材24には、第1直交部材24の長手方向(天秤本体23の長手方向に直交する方向)に延在される第1及び第2側壁241,242と、それら第1及び第2側壁241,242の上端を接続する上壁243とが設けられている。
【0051】
本実施の形態の第1直交部材24は、天秤本体23の一端23aに脱着可能に設けられている。第1及び第2側壁241,242には、第1直交部材24の長手方向に係る中央位置に配置された貫通孔244が設けられている。貫通孔244は、天秤本体23の一端23aが挿通可能に構成されている。上壁243の幅は、第1直交部材位置決部233の第1及び第2縦壁233a,233bの間隔よりも狭くされている。第1縦壁233aが天秤本体23から取り外された状態で天秤本体23の一端23aが貫通孔244に挿通された後、天秤本体23の一端23aに第1縦壁233aを取り付けることができる。このとき、第1直交部材位置決部233の第1及び第2縦壁233a,233bが第1直交部材24の第1及び第2側壁241,242の外側に位置し、それら第1直交部材位置決部233の第1及び第2縦壁233a,233b間に上壁243が嵌め込み可能とされている。
【0052】
図15~
図18に特に示すように、第1及び第2側壁241,242には、左巻上ボルト245aと右巻上ボルト245bとが取り付けられていてよい。
【0053】
左巻上ボルト245aには第2左索状体4aの一端が固定され、左巻上ボルト245aを回転させて、左巻上ボルト245aに第2左索状体4aを巻き付けるか、又は左巻上ボルト245aから第2左索状体4aを巻き出すことにより、第2左索状体4aの長さを調整できる。
【0054】
同様に、右巻上ボルト245bには第2右索状体4bの一端が固定され、右巻上ボルト245bを回転させて、右巻上ボルト245bに第2右索状体4bを巻き付けるか、又は右巻上ボルト245bから第2右索状体4bを巻き出すことにより、第2右索状体4bの長さを調整できる。
【0055】
図15~
図18に特に示すように、上壁243には、左止ボルト246aと右止ボルト246bとが取り付けられていてよい。
【0056】
左止ボルト246aは、左巻上ボルト245aの上方に配置されている。左止ボルト246aの先端には円弧状の押当板が設けられており、左止ボルト246aを回すことで押当板を上下に移動させることができるように構成されている。押当板を第2左索状体4a又は左止ボルト246aの外周面に押し当てることにより、左止ボルト246aの回転を止めて、左止ボルト246aにおける第2左索状体4aの巻き上げ又は巻き出しを規制することができる。
【0057】
同様に、右止ボルト246bは、右巻上ボルト245bの上方に配置されている。右止ボルト246bの先端には円弧状の押当板が設けられており、右止ボルト246bを回すことで押当板を上下に移動させることができるように構成されている。押当板を第2右索状体4b又は右止ボルト246bの外周面に押し当てることにより、右止ボルト246bの回転を止めて、右止ボルト246bにおける第2右索状体4bの巻き上げ又は巻き出しを規制することができる。
【0058】
図15~
図18に特に示すように、第1及び第2側壁241,242の間には、内部左ガイド部247aと内部右ガイド部247bとが設けられていてよい。
【0059】
内部左ガイド部247aは、左巻上ボルト245aと第1直交部材24の一端24aとの間に配置されている。内部左ガイド部247aは、左巻上ボルト245aからの第2左索状体4aをガイドするためのものである。図示の態様では、第1直交部材24の高さ方向に延在する壁体によって内部左ガイド部247aが構成されており、第2左索状体4aをガイドするための孔又は溝が内部左ガイド部247aに設けられている。しかしながら、内部左ガイド部247aは、例えば、第1直交部材24の長手方向に延在する壁体により構成され、その壁体に載せられた第2左索状体4aをガイドする等の他の構成をとってもよい。内部左ガイド部247aにより第2左索状体4aをガイドすることにより、第2左索状体4aの荷重を分散できる。
【0060】
同様に、内部右ガイド部247bは、右巻上ボルト245bと第1直交部材24の他端24bとの間に配置されている。内部右ガイド部247bは、右巻上ボルト245bからの第2右索状体4bをガイドするためのものである。図示の態様では、第1直交部材24の高さ方向に延在する壁体によって内部右ガイド部247bが構成されており、第2右索状体4bをガイドするための孔又は溝が内部右ガイド部247bに設けられている。しかしながら、内部右ガイド部247bは、例えば、第1直交部材24の長手方向に延在する壁体により構成され、その壁体に載せられた第2右索状体4bをガイドする等の他の構成をとってもよい。内部右ガイド部247bにより第2右索状体4bをガイドすることにより、第2右索状体4bの荷重を分散できる。
【0061】
図15~
図18に特に示すように、第1直交部材24の一端24a及び他端24bには、端部左ガイド部248aと端部右ガイド部248bとが設けられていてよい。
【0062】
端部左ガイド部248aは、第1直交部材24の一端24aに設けられている。端部左ガイド部248aは、左巻上ボルト245aからの第2左索状体4aをガイドするためのものである。
図15~18には、第1直交部材24の高さ方向に延在する壁体によって左巻上ボルト245aが構成されており、第2左索状体4aをガイドするための孔が左巻上ボルト245aに設けられている態様が示されている。一方、
図10及び
図11には、端部左ガイド部248aが、第1直交部材24の長手方向に延在する壁体により構成され、その壁体に載せられた第2左索状体4aをガイドするように構成されている態様が示されている。端部左ガイド部248aにより第2左索状体4aをガイドすることにより、第2左索状体4aの荷重を分散できる。
【0063】
同様に、端部右ガイド部248bは、第1直交部材24の他端24bに設けられている。端部右ガイド部248bは、右巻上ボルト245bからの第2右索状体4bをガイドするためのものである。
図15~18には、第1直交部材24の高さ方向に延在する壁体によって右巻上ボルト245bが構成されており、第2右索状体4bをガイドするための孔が右巻上ボルト245bに設けられている態様が示されている。一方、
図10及び
図11には、端部右ガイド部248bが、第1直交部材24の長手方向に延在する壁体により構成され、その壁体に載せられた第2右索状体4bをガイドするように構成されている態様が示されている。端部右ガイド部248bにより第2右索状体4bをガイドすることにより、第2右索状体4bの荷重を分散できる。
【0064】
第2直交部材25は、天秤本体23の他端23bにおいて天秤本体23の長手方向に直交する方向に延在された部材である。第3索状体5は、第2直交部材25の一端25aから引き出された第3左索状体5aと、第2直交部材25の他端25bから引き出された第3右索状体5bとを含んでいる。
【0065】
第2直交部材25の配置位置や第2直交部材25がガイドする索状体は第1直交部材24のそれらと異なるものの、第2直交部材25の具体的な構造は上述の第1直交部材24の構造と同様である。
【0066】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0067】
1 :吊荷
1c :重心
6a,6b:上側接続治具
7a,7b:下側接続治具
10 :屋根パネル
10c :図心
10d :重心
40 :付加部材