(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145182
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】表面処理剤
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20231003BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20231003BHJP
C08G 77/42 20060101ALI20231003BHJP
C08G 79/00 20060101ALI20231003BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20231003BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20231003BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20231003BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231003BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20231003BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C09D201/00
C23C26/00 A
C08G77/42
C08G79/00
B05D7/14 Z
B05D7/24 303E
B05D7/24 302Y
B05D7/24 302X
C09D7/63
C09D7/61
C09D7/65
C09D183/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052515
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健
(72)【発明者】
【氏名】河村 謙太
(72)【発明者】
【氏名】猪古 智洋
【テーマコード(参考)】
4D075
4J030
4J038
4J246
4K044
【Fターム(参考)】
4D075AB01
4D075BB65X
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4D075EB19
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4K044CA53
(57)【要約】
【課題】親水性及び耐食性に優れ、且つ、臭気の抑制された皮膜を形成可能な表面処理剤を提供する。
【解決手段】水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上と、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上と、水溶性樹脂(C)と、エーテル化合物(D)と、水及び/又は水混和性溶媒とを含有し、水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上の合計質量、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上の合計質量、水溶性樹脂(C)の質量、及びエーテル化合物(D)の質量をそれぞれMA、MB、MC及びMDで表すと、(MA+MB)/(MA+MB+MC+MD)=0.01~0.7である、表面処理剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上と、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上と、水溶性樹脂(C)と、エーテル化合物(D)と、水及び/又は水混和性溶媒とを含有し、
水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上の合計質量、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上の合計質量、水溶性樹脂(C)の質量、及びエーテル化合物(D)の質量をそれぞれMA、MB、MC及びMDで表すと、(MA+MB)/(MA+MB+MC+MD)=0.01~0.7である、
表面処理剤。
【請求項2】
前記水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上は、アルカリ性であって、Si、V、Zr、Mo、Ti及びWから選ばれる一つの元素(M1)と、Na、K、Li、及びNH4から選ばれる一つのカチオン成分(M2)とを含有し、(M1)に対する(M2)のモル比率(M2)/(M1)が0.1~8.0である請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
前記水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上が、一般式Me2O・nSiO2の分子式で表され、MeがNa、K、Li、及びNH4から選ばれる一つのカチオン成分であり、nが0.5~8.0である請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【請求項4】
前記水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上の合計質量と、前記オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上の合計質量をそれぞれMA、MBで表すと、(MA)/(MB)=0.25~4.0である請求項1~3のいずれか一項に記載の表面処理剤。
【請求項5】
前記水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上と前記オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上は、複合化物を形成しており、当該複合化物の動的光散乱法により測定されるメジアン径が10nm以下である請求項1~4のいずれか一項に記載の表面処理剤。
【請求項6】
前記水溶性樹脂(C)が、アミド基、ヒドロキシル基及びカルボキシル基から選ばれる1種以上の官能基を有する水溶性樹脂、又は骨格中にアミド結合を有する水溶性樹脂から選ばれる1種以上を含む請求項1~5のいずれか一項に記載の表面処理剤。
【請求項7】
前記水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上の合計質量、前記オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上の合計質量、前記水溶性樹脂(C)の質量、並びに前記エーテル化合物(D)の質量をそれぞれMA、MB、MC及びMDで表すと、MD/(MA+MB+MC+MD)=0.001~0.2である請求項1~6のいずれか一項に記載の表面処理剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の表面処理剤を金属材料に接触させた後に乾燥させる工程、を含む金属材料の表面処理方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の表面処理剤を金属材料に接触させた後に乾燥させる工程、を含む表面処理金属材料の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法により得られた表面処理金属材料が用いられている熱交換器。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか一項に記載の表面処理剤を熱交換器に接触させた後に乾燥させる工程、を含む熱交換器の表面処理方法。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか一項に記載の表面処理剤を熱交換器に接触させた後に乾燥させる工程、を含む表面処理熱交換器の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の製造方法により得られた表面処理熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理剤に関し、特に金属材料用表面処理剤に関する。更に、本発明は、当該表面処理剤を用いた金属材料の表面処理方法、表面処理金属材料の製造方法、表面処理金属材料が用いられている熱交換器、熱交換器の表面処理方法、表面処理熱交換器の製造方法、及び、表面処理熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空調機や自動車用のエアコンディショナーに用いられる熱交換器は、加工性・熱伝導性等の優位性から金属材料、とりわけアルミニウム含有金属材料で形成されることが多く、熱交換効率を高めるため通風する部位の金属材料(一般にフィンと呼ばれる)間の間隔を非常に狭く設計している。エアコンディショナーを稼動(冷却)した際に大気中の水分がフィン上で凝縮し結露が起こるが、この結露水はフィン表面の疎水性が高いほど嵩高い水滴になり、フィン間で目詰まりを発生し易くなる。目詰まりが発生すると、通風抵抗が増大し熱交換効率が低下し、熱交換器本来の性能が得られなくなる。また、目詰まりによって送風時の騒音が増大することもある。これらの問題を解消するために、金属材料に親水性を付与する方法が提案、実施されている。
【0003】
親水性を付与する方法としては、無機物を主成分とした親水化処理剤(以下、無機系親水化処理剤とする)(特許文献1を参照。)や、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などの樹脂や有機物を主成分とした親水化処理剤(以下、有機系親水化処理剤とする)などが提案、実施されている(特許文献2を参照)。
【0004】
ここで、無機系親水化処理剤を用いて親水性を付与した金属材料や熱交換器は、高い親水性を長期間持続でき耐久性に優れている反面、無機物に特有の皮膜臭気(埃っぽい臭気。以下、埃臭とする)が発生するなど臭気性に問題がある。一方、有機系親水化処理剤を用いた場合、埃臭の問題は軽減される反面、親水性成分である有機物が流去しやすく、長期間にわたり高い親水性を持続することが難しく耐久性に問題がある。これらを改善すべく、無機物であるシリカ粒子をポリビニルアルコールで分散させることでシリカ特有の埃臭を改善する親水化処理剤が提案されている(特許文献3を参照)。その他、アルカリ珪酸塩、特定のアクリルアミド共重合物及びシランカップリング剤による親水化処理剤が提案されている(特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59-13078号公報
【特許文献2】特開2000-328038号公報
【特許文献3】特開2001-323250号公報
【特許文献4】特開平1-249863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3~4に記載の親水化処理剤による皮膜は臭気抑制に優れていると記載されているものの、本発明者の検討結果によると、この親水化処理剤を用いて形成した親水性皮膜は、エアコンディショナーの長期使用により皮膜中の有機物が流去し、臭気抑制、耐食性、及び親水性の観点で総合的に優れた性能を得ることが出来なかった。特に、耐孔食性(孔空き腐食の抑制)については改善の余地が残されている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みて創作されたものであり、一実施形態において、耐食性及び親水性に優れ、且つ、臭気の抑制された皮膜を形成可能な表面処理剤を提供することを課題とする。また、本発明は更なる実施形態において、金属材料の表面処理方法、表面処理金属材料の製造方法、表面処理金属材料が用いられている熱交換器、熱交換器の表面処理方法、表面処理熱交換器の製造方法、及び、表面処理熱交換器をそれぞれ提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上と、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上と、水溶性樹脂(C)と、エーテル化合物(D)とを適切な比率により配合することが、耐食性及び親水性に優れ、且つ、臭気の抑制された皮膜を形成可能な表面処理剤を得るのに有利であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は例示的に以下のように特定される。
[1]
水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上と、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上と、水溶性樹脂(C)と、エーテル化合物(D)と、水及び/又は水混和性溶媒とを含有し、
水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上の合計質量、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上の合計質量、水溶性樹脂(C)の質量、及びエーテル化合物(D)の質量をそれぞれMA、MB、MC及びMDで表すと、(MA+MB)/(MA+MB+MC+MD)=0.01~0.7である、
表面処理剤。
[2]
前記水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上は、アルカリ性であって、Si、V、Zr、Mo、Ti及びWから選ばれる一つの元素(M1)と、Na、K、Li、及びNH4から選ばれる一つのカチオン成分(M2)とを含有し、(M1)に対する(M2)のモル比率(M2)/(M1)が0.1~8.0である[1]に記載の表面処理剤。
[3]
前記水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上が、一般式Me2O・nSiO2の分子式で表され、MeがNa、K、Li、及びNH4から選ばれる一つのカチオン成分であり、nが0.5~8.0である[1]又は[2]に記載の表面処理剤。
[4]
前記水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上の合計質量と、前記オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上の合計質量をそれぞれMA、MBで表すと、(MA)/(MB)=0.25~4.0である[1]~[3]のいずれか一項に記載の表面処理剤。
[5]
前記水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上と前記オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上は、複合化物を形成しており、当該複合化物の動的光散乱法により測定されるメジアン径が10nm以下である[1]~[4]のいずれか一項に記載の表面処理剤。
[6]
前記水溶性樹脂(C)が、アミド基、ヒドロキシル基及びカルボキシル基から選ばれる1種以上の官能基を有する水溶性樹脂、又は骨格中にアミド結合を有する水溶性樹脂から選ばれる1種以上を含む[1]~[5]のいずれか一項に記載の表面処理剤。
[7]
前記水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上の合計質量、前記オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上の合計質量、前記水溶性樹脂(C)の質量、並びに前記エーテル化合物(D)の質量をそれぞれMA、MB、MC及びMDで表すと、MD/(MA+MB+MC+MD)=0.001~0.2である[1]~[6]のいずれか一項に記載の表面処理剤。
[8]
[1]~[7]のいずれか一項に記載の表面処理剤を金属材料に接触させた後に乾燥させる工程、を含む金属材料の表面処理方法。
[9]
[1]~[7]のいずれか一項に記載の表面処理剤を金属材料に接触させた後に乾燥させる工程、を含む表面処理金属材料の製造方法。
[10]
[9]に記載の製造方法により得られた表面処理金属材料が用いられている熱交換器。
[11]
[1]~[7]のいずれか一項に記載の表面処理剤を熱交換器に接触させた後に乾燥させる工程、を含む熱交換器の表面処理方法。
[12]
[1]~[7]のいずれか一項に記載の表面処理剤を熱交換器に接触させた後に乾燥させる工程、を含む表面処理熱交換器の製造方法。
[13]
[12]に記載の製造方法により得られた表面処理熱交換器。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、耐食性及び親水性に優れ、且つ、臭気の抑制された皮膜を形成可能な表面処理剤を提供することができる。従って、本発明は、例えば金属材料を備える熱交換器、とりわけ金属材料をフィンとして備えるエアコンディショナーの性能向上に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、表面処理剤及び表面処理金属材料を含む本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、その本発明の趣旨から逸脱しない範囲で任意に変更可能であり、下記の実施形態に限定されない。尚、本明細書にて数値範囲を示す「~」は上限値及び下限値も包含する。例えば、「X~Y」はX以上Y以下であることを意味する。
【0012】
<1.表面処理剤>
本発明の一実施形態によれば、水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上と、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上と、水溶性樹脂(C)と、エーテル化合物(D)と、水及び/又は水混和性溶媒とを含有する表面処理剤が提供される。
【0013】
[1-1.水溶性無機酸化物及びその塩(A)]
水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上は、皮膜に親水性及び耐食性を与えるための役目を担っており、皮膜中に混在させることにより、優れた親水性と耐食性を長期的に確保することを可能とする。水溶性無機酸化物及びその塩(A)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上は、アルカリ性であって、Si、V、Zr、Mo、Ti及びWから選ばれる一つの元素(M1)と、Na、K、Li及びNH4から選ばれる一つのカチオン成分(M2)とを含有し、(M1)に対する(M2)のモル比率(M2)/(M1)が0.1~8.0であることが好ましい。(M2)/(M1)が0.1以上である場合には、アルミニウム等の金属に対する浸食作用が大きくなるのを防止でき、皮膜の耐久性を高めることができる。(M2)/(M1)の下限はより好ましくは0.5以上であり、更により好ましくは1.0以上である。(M2)/(M1)が8.0以下の場合、水溶性が高まり表面処理剤の液安定性を高めることができる。水溶性であることによって、作業性の向上という利点が得られる。(M2)/(M1)の上限はより好ましくは7.0以下であり、更により好ましくは6.0以下である。
【0014】
優れた親水性及び耐食性を得るためには、水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上として、一般式Me2O・nSiO2(MeはNa、K、Li、及びNH4から選ばれる一つのカチオン成分を表し、nは0.5~8.0である。)の分子式で表されるアルカリケイ酸塩を用いるのが好ましい。特に、n=1.0~8.0のアルカリケイ酸塩を用いるのが好ましい。
【0015】
尚、本明細書において「水溶性」とは、室温20℃で水に対して0.1質量%以上の溶解性を有する物質を表し、溶解性は0.5質量%以上が好ましく、特に1質量%以上がより好ましい。また、本明細書において、酸化物とは、金属原子が直接酸素原子と結合し、その金属原子の酸化数が(+I)以上である部分を有する化合物を指す。
【0016】
水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上が「アルカリ性」であるとは、(A)を0.1質量%濃度の条件で25℃の水中に溶解したときに「アルカリ性」を示すことを意味する。
【0017】
水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上として使用可能なその他のケイ素化合物としては、例えば、二酸化ケイ素の水和物が挙げられる。
【0018】
水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上として使用可能なチタン化合物としては、酸化チタンの塩(カリウム、アンモニウム塩等)が挙げられる。
【0019】
水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上として使用可能なバナジウム化合物としては、バナジン酸塩(ナトリウム、カリウム、アンモニウム塩等)、メタバナジン酸塩(ナトリウム、カリウム、アンモニウム塩等)等が挙げられる。
【0020】
水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上として使用可能なジルコニウム化合物としては、炭酸ジルコニウム及びその水和物、更には炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム等の炭酸ジルコニウム塩が挙げられる。
【0021】
水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上として使用可能なモリブデン化合物としては、モリブデン酸及びその塩(ナトリウム、カリウム、アンモニウム塩等)等が挙げられる。
【0022】
水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上として使用可能なタングステン化合物としては、タングステン酸の塩(ナトリウム、カリウム、アンモニウム塩等)等が挙げられる。
【0023】
[1-2.オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物]
オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上は、皮膜に混在させることにより、水溶性無機酸化物及びその塩(A)の特有な埃臭を低減せしめる。また、皮膜構成成分のバインダーとしての役割を担い、水溶性無機酸化物及びその塩(A)、水溶性樹脂(C)、及びエーテル化合物(D)の流去を抑制し、親水性、耐食性及び臭気抑制を長期間発現することに寄与する。更には、表面処理剤中の水溶性無機酸化物及びその塩(A)の安定性を確保し、処理剤の安定性を高めることにも寄与する。
【0024】
オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上は、水中で加水分解し、脱水縮合することができれば特に限定されるものではない。オルガノアルコキシシラン(B)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
オルガノアルコキシシランとしては、例えば加水分解性基としてアルコキシ基を有するシランカップリング剤が挙げられる。アルコキシ基としては、限定的ではないが、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1~4(特に、1又は2)のアルコキシ基が挙げられる。また、シランカップリング剤は有機官能基として、例えば、エポキシ基(特に、グリシジル基)、アミノ基、ビニル基、メルカプト基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、イソシアネート基等を有することができる。中でも、水溶性無機酸化物及びその塩(A)との複合化に優れる点で、有機官能基としてグリシジル基を1つ以上有するオルガノアルコキシシランから選ばれる1種以上であることが好ましい。好適なオルガノアルコキシシランとしては、例えば、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランが挙げられる。該意図に反さない限り、オルガノアルコキシシランは、グリシジル基以外にアミノ基、ビニル基、メルカプト基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、イソシアネート基を1つ以上有していても良い。
【0026】
オルガノアルコキシシランは、水中で加水分解し、シラノール及びアルコールが加水分解物として生成する。加水分解によって生成したシラノール及び/又はアルコール同士が水素結合している場合があるが、本明細書においてはそのようなものも加水分解物として取り扱う。更に、加水分解によって生成した一部又は全部のシラノールが脱水縮合反応することによって、シロキサン結合(Si-O-Si)を有する縮合反応物(オルガノシロキサン)が生成する場合もある。従って、本発明に係る表面処理剤中には、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上が含まれることになる。
【0027】
[1-3.水溶性樹脂(C)]
水溶性樹脂(C)は、皮膜に混在させることにより、流水や腐食環境中において水溶性無機酸化物及びその塩(A)とオルガノアルコキシシラン(B)の複合化物の皮膜系外への流去を抑制し、皮膜耐久性を高めて、耐食性、親水性及び耐臭気性を持続的に発現することに寄与すると考えられる。水溶性樹脂(C)の中では、アミド基、ヒドロキシル基及びカルボキシル基から選ばれる1種以上の官能基を有する水溶性樹脂、又は骨格中にアミド結合を有する水溶性樹脂が好ましい。水溶性樹脂(C)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
アミド基を有する水溶性樹脂(C)の好適な例としては、例えば、アクリルアミド化合物のホモポリマー及びコポリマーが挙げられる。アクリルアミド化合物としては、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メチレンスルホン酸アクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。コポリマーとしては、アクリルアミドモノマーの1種以上と他のコモノマーの1種以上の共重合体が例示される。コポリマーを製造する際、アクリルアミドモノマー:コモノマー=95:5以下のモル比で重合することが好ましく、90:10~10:90のモル比で重合することがより好ましく、85:15~15:85のモル比で重合することが更により好ましい。ここで用いられるコモノマーは、アクリルアミド化合物と重合可能なアニオン性、ノニオン性、カチオン性の付加重合モノマーから選ばれ、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホエチルアクリレート、スルホエチルメタクリレート、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート又はこれらの塩等のアニオン性不飽和モノマー;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、アクロイルモルホリン、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレートアルキルフェニルエーテル等のノニオン性の不飽和モノマー;並びにアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N-ヒドロキシプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシメチルアミノエチルメタクリレート、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、N,N-ジアリルアミン、N,N-ジアリル-N,N-ジメチルアンモニウムクロリド等のカチオン性不飽和モノマー等から選ぶことができる。
【0029】
アミド基を有する水溶性樹脂(C)、とりわけアクリルアミド化合物のホモポリマー及びコポリマーの重量平均分子量は、皮膜の耐久性を高める観点で、5,000~2,000,000であることが好ましく、更には5,000~1,500,000であることがより好ましい。
【0030】
ヒドロキシ基を有する水溶性樹脂(C)としては、親水性と臭気性を長期に渡り持続する点でヒドロキシル基密度が高い水溶性樹脂であることが好ましく、ポリビニルアルコール又はその誘導体であることがより好ましい。ポリビニルアルコール又はその誘導体は、(-CH2CH(OH)-)の繰り返し単位を含んでいる重合体を表し、公知の製法に従って製造することができ、特に制限はない。例えば、ビニルエステルをモノマーとしてラジカル重合させたポリビニルエステルの部分けん化物及び完全けん化物、ビニルエステルと他のコモノマーとのコポリマーの部分けん化物及び完全けん化物、並びにポリビニルアルコールの変性物が例示される。ビニルエステルとしては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、及びカプロン酸ビニル等が例示される。これらの中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0031】
ビニルエステルと共重合されるコモノマーには、格別の限定はないが、例えば、エチレンやプロピレン等のα-オレフィン;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類、及びそのアシル化物などの誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等の不飽和酸類、その塩、そのモノ又はジアルキルエステル;アクリロニトリル等のニトリル類;メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;エチレンオキサイドモノアリルエーテルなどのアリル化合物類などが共重合されていてもよい。これらのコモノマーは単独で使用しても良いし、2種以上を組み合わせても良い。コポリマーを製造する際、ビニルエステルモノマー:コモノマー=95:5以下のモル比で重合することが好ましく、90:10~10:90のモル比で重合することがより好ましく、85:15~15:85のモル比で重合することが更により好ましい。
【0032】
ポリビニルアルコール又はその誘導体は、中でも親水性と臭気性を長期に渡り持続する点で、けん化度が90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、特に上限は設定されず、100モル%でもよい。ポリビニルアルコール又はその誘導体のけん化度は、JIS K6726:1994に準拠して測定される。
【0033】
ヒドロキシ基を有する水溶性樹脂(C)、典型的にはポリビニルアルコール又はその誘導体の重量平均分子量は、皮膜の耐久性を高める点で5,000~200,000であることが好ましく、更には5,000~100,000であることがより好ましい。特に、ポリビニルアルコール又はその誘導体から選ばれる1種以上で、且つけん化度が90モル%以上であるものの場合、重量平均分子量が10,000~50,000であることが更に好適である。
【0034】
カルボキシル基を有する水溶性樹脂(C)の好適な例としては、ポリアクリル酸又はその誘導体が挙げられる。
【0035】
ポリアクリル酸又はその誘導体は、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造を含んでいる重合体を表し、公知の製法に従って製造することができ、特に制限はない。例えば、(メタ)アクリル酸(塩)がラジカル重合することにより得られる重合物並びにそれらの共重合物又はその塩である。該(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造とは、(メタ)アクリル酸(塩)がラジカル重合することで形成される構造であって、-CH2CR(COOM)-、で表される構造である。該構造中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Mは、水素原子、金属原子、アンモニウム塩、有機アミン塩を表す。上記金属原子としては、Li、Na、K等のアルカリ金属原子、Ca、Mg等のアルカリ土類金属原子等が例示される。上記(メタ)アクリル酸(塩)とは、アクリル酸、アクリル酸塩、メタクリル酸、メタクリル酸塩を表し、これらの中でも、アクリル酸、アクリル酸塩が好ましい。これら(メタ)アクリル酸(塩)は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。上記(メタ)アクリル酸(塩)における塩としては、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩が挙げられる。ポリアクリル酸又はその誘導体がコポリマーである場合、(メタ)アクリル酸(塩):コモノマー=95:5以下のモル比で重合することが好ましく、90:10~10:90のモル比で重合することがより好ましく、85:15~15:85のモル比で重合することが更により好ましい。
【0036】
カルボキシル基を有する水溶性樹脂(C)、とりわけポリアクリル酸又はその誘導体のホモポリマー及びコポリマーの重量平均分子量は、皮膜の耐久性を高める点で5,000~2,000,000であることが好ましく、更には10,000~1,000,000であることがより好ましい。
【0037】
骨格中にアミド結合を有する水溶性樹脂(C)としては、例えば水溶性ポリアミドが挙げられる。水溶性ポリアミドは、ポリアルキレンポリアミン類と、脂肪族ジカルボン酸類、例えばアジピン酸、とから得られる塩基性ポリアミド類、及び前記塩基性ポリアミド類にエピクロルヒドリンを反応させて製造されるエポキシ変性ポリアミド類が挙げられる。また、アミノ基を含有するカチオン性ポリアミドやエチレンオキサイドを含有するノニオン性ポリアミドも挙げられる。
【0038】
本発明における水溶性樹脂(C)の重量平均分子量はGPC法により測定される。実施例における重量平均分子量の測定は以下の条件で行った。
<GPCによる測定条件>
高速GPC装置(HLC-8320GPC:東ソー株式会社製)を用いて測定し、SECカラム及びガードカラムの組み合わせにて重量平均分子量を求めた。測定は以下の条件で行った。
SECカラム:TSKgel SuperAWM-H(東ソー株式会社製)
ガードカラム:TSKgurdcolumn SuperAW-H(東ソー株式会社製)
検出器:RI(HLC-8320GPC内蔵検出器)
標準試料:ポリスチレン
試料注入量:0.06%DMF溶液30μL
流速:0.5mL/min
溶離液:DMF/100mM LiBr/60mM H3PO4
【0039】
[1-4.エーテル化合物(D)]
エーテル化合物(D)は、分子中に-C-O-C-で表されるエーテル結合を有する化合物を指す。エーテル化合物(D)は、親水性を高める役割を担う。また、理論によって本発明が限定されることを意図しないが、エーテル化合物(D)は、水溶性樹脂(C)の流去を抑制することで皮膜の耐久性を向上することができると考えられる。エーテル化合物(D)としては、限定的ではないが、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンフェニルエーテル、エーテルエステル化合物、グリシジルエーテル化合物、及び、ピラノース構造又はフラノース構造を持つ炭水化物等が挙げられる。エーテル化合物(D)は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール等が挙げられる。ポリアルキレングリコールアルキルエーテルとしては、ポリエチレングリコール(モノ)メチルエーテル、ポリ(エチレン、プロピレン)グリコール(モノ)メチルエーテル、ポリエチレングリコール(モノ)エチルエーテル等が挙げられる。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、ポリオキシエチレンアルキル(特に炭素数が12~15のアルキル)エーテルが挙げられる。ポリオキシアルキレンフェニルエーテルとしては、ポリオキシエチレンフェニルエーテルが挙げられる。エーテルエステル化合物としては、ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレンソルビトールエーテル脂肪酸エステル等が挙げられる。これらポリオキシアルキレンアルキルエーテルは炭素数の異なる複数のアルキレン構造を持つエーテル化合物であっても良い。
【0041】
グリシジルエーテル化合物としては、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、エチレンオキサイド含有フェノール系グリシジルエーテル、エチレンオキサイド含有ラウリルアルコール系グリシジルエーテル、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、及びビスフェノールAD型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0042】
ピラノース構造又はフラノース構造を持つ炭水化物としては、デンプン、グリコーゲン、セルロース、キチン、デキストラン等の多糖及びそれらの誘導体が挙げられる。多糖誘導体としてセルロース誘導体を挙げると、メチルセルロース(MC)等のアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等のヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ヒドロキシエチルエチルセルロース(HEEC)等のヒドロキシアルキルアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)が例示される。
【0043】
[1-5.その他の成分(E)]
表面処理剤は、酸触媒、架橋剤、抗菌剤、潤滑剤、界面活性剤、顔料、染料、耐食性付与のためのインヒビター等の各種添加剤を必要に応じて含有することができる。また、表面処理剤は、必要成分を溶解するために水、水混和性溶媒又は、水と水混和性溶媒の混合溶媒を含有することが好ましい。表面処理剤の取り扱いが容易であるという観点から、水としては脱イオン水を用いることが好ましい。水の含有量は、表面処理剤全量に対して、80~99質量%が好ましく、85~95質量%がより好ましい。水と水混和性溶媒の混合溶媒を使用する場合、水の割合は、例えば、混合溶媒の全質量に対して60質量%以上とすることが好ましい。水混和性溶媒としては、水と混合した後、相分離しないものであれば特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類が挙げられる。
【0044】
前記酸触媒(エポキシ基の開環、ケイ素に結合したアルコキシ基の加水分解)の種類は特に限定されないが、例えば、有機酸として(1)ギ酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、コハク酸、乳酸、L-アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、DL-リンゴ酸、マロン酸、マレイン酸、フタル酸等のカルボン酸(モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸等の多価カルボン酸)、(2)ニトリロトリスメチレンホスホン酸、ニトリロトリスプロピレンホスホン酸、ニトリロジエチルメチレンホスホン酸、メタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、プロパン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸等のホスホン酸、(3)メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等のスルホン酸、及び無機酸として(4)リン酸等が挙げられる。尚、当該酸触媒は、皮膜形成後も皮膜中に残存する。これを踏まえると、得られる皮膜の耐水性が優れる点から、有機酸が好ましく、より好ましくはカルボン酸である。これらは、単独で使用してもよいし、2種類以上混合して使用してもよい。
【0045】
[1-6.配合割合(A)~(D)]
前記表面処理剤中に含まれる水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上の合計質量、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上の合計質量、水溶性樹脂(C)の質量、及びエーテル化合物(D)の質量をそれぞれMA、MB、MC及びMDで表すと、(MA+MB)/(MA+MB+MC+MD)=0.01~0.7の関係が成立することが求められる。更に、(MA+MB)/(MA+MB+MC+MD)=0.05~0.5の関係が成立することが好ましく、(MA+MB)/(MA+MB+MC+MD)=0.1~0.4の関係が成立することがより好ましい。(MA+MB)/(MA+MB+MC+MD)が0.7を超えると、後述する水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上と、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上との複合化物が皮膜中に十分に固定化できずに流去し、親水性及び耐食性が不十分となる。また、(MA+MB)/(MA+MB+MC+MD)が0.01を下回ると有効成分が不足し、親水性、耐食性ともに不十分となる。
【0046】
更に、前記表面処理剤中に含まれる水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上の合計質量と、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上の合計質量をそれぞれMA、MBで表すと、(MA)/(MB)=0.25~4.0の関係が成立することが好ましく、0.5~2.0の関係が成立することがより好ましい。(MA)/(MB)が4.0以下であることで、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上によって水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上を被覆及び保持しやすくなり、異臭の抑制効果が向上すると共に、親水性、耐食性共に向上する。また、(MA)/(MB)が0.25以上であることで、表面処理剤中の水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上の安定性が低下したり、長期保管により沈殿や凝集が生じたりして、操業性が低下するのを抑制可能である。
【0047】
更に、前記表面処理剤中に含まれる水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上の合計質量、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上の合計質量、水溶性樹脂(C)の質量、及びエーテル化合物(D)の質量をそれぞれMA、MB、MC及びMDで表すと、MD/(MA+MB+MC+MD)=0.001~0.2の関係が成立することが好ましく、0.01~0.2の関係が成立することがより好ましく、0.03~0.2の関係が成立することが更により好ましい。MD/(MA+MB+MC+MD)が0.2以下であることで皮膜の耐水性が低下することを抑制でき、耐食性の向上に加えて、耐久時の親水性も向上しやすい。MD/(MA+MB+MC+MD)が0.001以上であることにより、親水性の向上が期待できる。
【0048】
後述するように、水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上と前記オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上は、反応して複合化物を形成し得るが、当該複合化物の化学構造を定量分析し特定することは困難である。このため、MA及びMBは、表面処理剤中での複合化物の形成はないものとして決定する。更に、MBについては、加水分解物及び縮合物を定量分析し特定することが困難であることから、これらの原料となるオルガノアルコキシシラン(B)の質量を基準に決定する。また、MA、MC及びMDについても、水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上、水溶性樹脂(C)、及びエーテル化合物(D)をそれぞれ配合するときの質量を基準に決定する。
【0049】
[1-7.複合化物]
水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上と、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上は、前記表面処理剤中で複合化物を形成していることが好ましい。複合化物の化学構造は必ずしも明らかではないが、オルガノアルコキシシランの加水分解により生じるシラノール(-Si-OH)が、水溶性無機酸化物及びその塩の金属元素と結合した構造を有していると推定される。本明細書においては、多核NMRによるスペクトル測定を行った際に、(Si-O-Me;Meは水溶性無機酸化物及びその塩(A)を構成し、酸素原子と直接結合している金属原子又はカチオン成分、例えばSi、V、Zr、Mo、Ti、W、Na、K、Li、又はNH4)のピークが観測された場合に複合化物が存在すると認定し、上記のピークが観測されない場合に複合化物が存在しないと認定する。
実施例においては、多核NMRによるスペクトル測定は以下の条件で行った。
・測定装置:日本電子株式会社製JNM-ECX400
・プローブ:日本電子株式会社製NM-40T10AT
・測定溶媒:重水
【0050】
前記水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上とオルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上の複合化物の粒径は、表面処理剤の安定性及び皮膜形成性に寄与する。当該複合化物の粒子径は小さい方が、長期の保管において処理剤中に沈殿が発生し難く、表面処理剤を使用することで形成した皮膜の密着性や皮膜自身の造膜性も向上しやすい。上記の観点で、当該複合化物のメジアン径は、10nm以下であることが好ましい。
【0051】
本発明における「メジアン径」とは、一次粒子、二次粒子は問わず、動的光散乱法により粒度分布測定した際の散乱光強度を基準にした累積50%径を指す。動的光散乱法による測定機器としては、例えば日機装株式会社製UPA-EX150等が挙げられる。動的光散乱法とは、溶液中の粒子の大きさによって動きの速度(ブラウン運動)が異なることを利用し、溶液にレーザー光を照射しその散乱光を光子検出器で観測し、周波数解析することで、粒度分布を得ることができる。実施例においては、前記複合化物の粒度分布の測定は以下の条件で行った。測定手順上、前記複合化物以外の粒子も加味した粒度分布が得られるものの、これらを分離して測定することは困難であるため、本明細書においては、前記複合化物以外の粒子が存在している場合でも、前記複合化物の粒度分布とみなす。(粒子径測定条件)
測定装置:日機装株式会社製UPA-EX150
光源:半導体レーザー780nm、3mW
光源プローブ:内部プローブ方式
測定サンプルの調整:前記水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上とオルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上の複合化物を固形分濃度が0.01質量%程度になるよう脱イオン水で希釈した後、良く攪拌分散させた。なお、ここでいう固形分濃度は、JIS K6828-1:2003に準拠した常圧加熱乾燥法(サンプル重量:1.0g、乾燥温度110℃×2時間乾燥)により測定される値を指す。
測定時間:180秒
循環:なし
透過性:透過
形状:非球形
屈折率:1.81(装置のデフォルト設定)
溶媒:水
溶媒屈折率:1.333
【0052】
[1-8.表面処理剤のpH]
前記表面処理剤の(25℃における)pHは7.0以上であることが好ましく、7.0~11.0であることがより好ましく、7.0~10.0であることが更により好ましい。
【0053】
[1-9.製法]
前記表面処理剤は、例えば、上記の各成分を所望の割合で混合し、混合物に対して所要量の水を添加し、攪拌することで調製可能である。
【0054】
但し、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上に関しては、予め水中でオルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上を生成させてから他の成分と混合してもよく、或いは、オルガノアルコキシシラン(B)を他の成分と混合し、混合中に加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上を生成させてもよい。何れの場合であっても、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解を効率よく進めるためには30~80℃に加温しながら攪拌することが好ましい。オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解を促進するため、必要に応じて酸触媒を加えてもよい。
【0055】
更に、複合化物の形成を促進するため、水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上と、オルガノアルコキシシラン(B)を、他の成分と混合する前に、容器に入れて水中で加温、攪拌等を行う前処理を行っても良い。加温はオルガノアルコキシシラン(B)の加水分解を効率よく進めるため30~80℃が好ましい。別法として、水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上と、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上を、他の成分と混合する前に、容器に入れて水中で攪拌等を行う前処理を行っても良い。前処理時には30~80℃に加温することで複合化物の形成を促進することが好ましい。これらの前処理においては、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解を促進するため、必要に応じて酸触媒を加えてもよい。
【0056】
<2.表面処理金属材料及び表面処理熱交換器>
本発明の一実施形態によれば、上記表面処理剤を、金属材料の表面又は表面上に接触させる工程と、前記接触させる工程の後に前記表面処理剤を乾燥させる工程を含む、金属材料の表面処理方法、及び表面処理金属材料の製造方法が提供される。また、当該製法によって、表面処理皮膜を有する金属材料が得られる。このようにして製造した、表面処理皮膜を表面に有する金属材料は、フィン材を形成するのに有用である。また、このフィン材は、熱交換器の部品として有用である。従って、本発明の一実施形態によれば、上記の製造方法により得られた表面処理金属材料が用いられている熱交換器が提供される。
【0057】
本発明の別の一実施形態によれば、上記表面処理剤を、熱交換器の表面又は表面上に接触させる工程と、前記接触させる工程の後に前記表面処理剤を乾燥させる工程を含む、熱交換器の表面処理方法、及び表面処理熱交換器の製造方法が提供される。また、当該製法によって、表面処理皮膜を有する表面処理熱交換器が得られる。このようにして得られた熱交換器は、耐食性に優れた表面処理皮膜を備えているので、機器の長寿命化を可能とし、資源の有効活用が図れる点で有用である。また、熱交換器に形成された表面処理皮膜は親水性にも優れているので、フィン間に水滴が滞留することがなく、熱交換効率の低下を抑制でき、延いてはエネルギー効率の改善が図れる点で有用である。
【0058】
この表面処理皮膜における、水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上と、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上と、水溶性樹脂(C)と、エーテル化合物(D)の割合は、表面処理剤における水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上と、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上と、水溶性樹脂(C)と、エーテル化合物(D)の割合と実質的に同じである。
【0059】
[2-1.金属材料及び熱交換器の材料]
上記表面処理剤を適用可能な金属材料及び熱交換器の材料としては、特に制限はないが、アルミニウム、鉄鋼、ステンレス、チタン、及びこれらの合金が挙げられる。上記表面処理剤は、特にアルミニウム含有金属材料に好適に適用可能である。アルミニウム含有金属材料を構成する材料は、純アルミニウムであってもよいが、アルミニウム合金であってもよい。
【0060】
[2-2.洗浄工程]
未処理の金属材料及び熱交換器は予め酸性又はアルカリ性洗浄剤で洗浄することが好ましい。使用する酸性洗浄剤の例としては、硝酸、硫酸、及びフッ酸の少なくとも1種を含有する酸性水溶液が挙げられる。アルカリ性洗浄剤の例としては、水酸化ナトリウム、珪酸ナトリウム、及びリン酸ナトリウムの少なくとも1種を含有するアルカリ水溶液を挙げることができる。洗浄性を高めるため、アルカリ水溶液に界面活性剤を添加してもよい。金属材料及び熱交換器の洗浄方法としては、例えば、浸漬法及びスプレー法が挙げられる。
【0061】
[2-3.防錆処理]
洗浄工程の後に防錆処理を行ってもよい。防錆処理方法には、化成処理及び樹脂プライマーによる下地防錆処理がある。このうち化成処理に使用する化成処理剤としては、従来公知のクロム酸クロメート処理剤、リン酸クロメート処理剤又はノンクロム処理剤が挙げられる。樹脂プライマーとしては、従来公知の水溶性または水分散性の水性樹脂を挙げることができる。防錆処理方法としては、例えば、浸漬法及びスプレー法が挙げられる。
【0062】
[2-4.接触工程]
表面処理剤を金属材料及び熱交換器の表面又は表面上に接触させる方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、浸漬法、スプレー法、ロールコート法、刷毛塗り等が挙げられる。このときの表面処理剤温度は10~50℃程度とすることができる。接触時間は3秒~5分程度とすることができる。
【0063】
[2-5.乾燥工程]
表面処理剤を乾燥させる方法としては、表面処理剤中の水が蒸発すれば特に制限されない。例示的には、公知の乾燥機器、例えば、オーブン、バッチ式の乾燥炉、連続式の熱風循環式乾燥炉、コンベアー式の熱風乾燥炉、IHヒーターを用いた電磁誘導加熱炉等を用いた乾燥方法等が挙げられる。乾燥温度は100~250℃とすることができ、好ましくは120~180℃とすることができる。乾燥時間は10秒~120分間とすることができ、好ましくは1~60分間とすることができる。
【0064】
[2-6.表面処理皮膜の質量]
表面処理皮膜を有する金属材料及び熱交換器における表面処理皮膜の質量は、本発明の効果を発揮できる量であれば特に制限されるものではないが、0.01~5.0g/m2の範囲内であることが好ましく、0.05~3.5g/m2の範囲内であることがより好ましく、0.1~2.0g/m2の範囲内であることが特に好ましい。表面処理皮膜量が0.1g/m2以上あれば、金属材料及び熱交換器の被覆が十分となり、本発明の目的である親水性及び耐食性に優れ、且つ、臭気の抑制された皮膜が得られる。また、表面処理皮膜量が3.0g/m2以下であれば経済的である。
【0065】
[2-7.後処理工程]
表面処理皮膜を形成後に後処理工程を実施してもよい。後処理工程としては、潤滑油接触工程又は潤滑皮膜形成工程が挙げられる。より具体的には、金属材料及び熱交換器の表面に有する表面処理皮膜の上に、潤滑油を接触させたり、潤滑剤を接触させて潤滑皮膜を形成させたりする工程が挙げられる。このようにして、上記表面処理皮膜の上に、潤滑油を接触させた、又は潤滑皮膜を形成させた、複層皮膜を有する金属材料及び熱交換器を得ることができる。なお、潤滑油や潤滑剤の接触方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、ロールコート法、スプレー法、及び浸漬法等が挙げられる。
【0066】
潤滑油としては、成形加工時に使用される公知のものを用いることができる。また、潤滑皮膜を形成するための潤滑剤としては、例えば、水溶性ポリエーテル、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテルなどの公知の潤滑剤を用いることができる。
【実施例0067】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0068】
<水溶性無機酸化物及びその塩(A)から選ばれる1種以上と、オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上の複合化物の合成>
[合成例X1~X19]
まず、合成例X1を例に合成方法を示す。攪拌子を入れたガラス容器内にケイ酸リチウム49g及び3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン49g、脱イオン水900g、酢酸2gを順次投入し、60℃で開環反応及びメトキシ基の加水分解を開始した。反応開始から2時間後に、浴温度を40℃以下に冷却し、次いで蒸発により減量した水を脱イオン水でメスアップし、ケイ酸リチウム(A1)と3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(B1)の加水分解物及び縮合物から選ばれる1種以上との複合化物を含有する固形分10質量%水分散液を得た。ここでいう「固形分」の濃度はJIS K6828-1:2003に準拠した常圧加熱乾燥法(サンプル重量:1.0g、乾燥温度110℃×2時間乾燥)によって測定される値を指す。
【0069】
合成例X2~X19に係る複合化物については、表1に示す無機化合物(A)、オルガノアルコキシシラン(B)、及び表3に示すその他の成分(E)を表1に示す配合量で用いた他は、X1の合成例と同様の方法で合成した。
合成例X1~X19で使用した無機化合物(A)の詳細は表2に示す。無機化合物(A)を0.1質量%濃度の条件で25℃の水中に溶解したときのpHを表2に示す。なお、A6のコロイダルシリカは水不溶性である。
【0070】
上記の手順で得られた合成例X1~X19に係る複合化物のメジアン径の測定を、先述した動的光散乱法により行った。測定結果を表1に示す。分析精度の関係で、10nm未満の値は「<10」と標記した。複合化物の存在は先述した多核NMRによるスペクトル測定により確認した。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
<水溶性樹脂(C)の合成>
[合成例C1]
還流冷却器、原料投入口、温度計、加圧ガス導入口及び攪拌翼を備えた2Lオートクレーブ反応器に、加圧ガスとして窒素ガスを導入しながら酢酸ビニル50g及びメタノール80gを投入し、開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)の2質量%メタノール溶液30mLを少量ずつ添加した。メタノール溶液を全量添加し終えた後、60℃に加温して重合反応を開始した。反応開始から5時間経過後に未反応の酢酸ビニルを減圧除去し酢酸ビニル樹脂メタノール溶液を調製した。得られた酢酸ビニル樹脂メタノール溶液に10質量%水酸化ナトリウム水溶液を、原料として用いた酢酸ビニル(50g)に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.01になるように加え、50℃で1時間けん化した。次いで、メタノールを減圧留去し、遠心分離にて水を除き、乾燥することでけん化度98モル%のポリビニルアルコール(樹脂C1)の粉末を得た。重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、先述した条件で測定したところ、13,000であった。エチレン変性率(水溶性樹脂(C)中のエチレン構造単位の含有量)をプロトンNMRにより測定したところ、0モル%であった。
【0075】
エチレン変性率の具体的な測定手順は以下の通りである。樹脂(A)を脱イオン水に添加し、85~95℃に加温し溶解させる。それをジメチルスルホキシド(DMSO)-d6にて樹脂(A)の濃度が1.0質量%になるように希釈し、NMRサンプルとする。核磁気共鳴分析装置(例:JNM-EX400:日本電子株式会社)を用いて、プロトンNMR測定を行う。測定は以下の条件で行う。
測定核種:1H
観測温度:25.1℃
得られたスペクトル中の各ピークは、以下のように帰属する。
・1.0~2.0ppm:エチレン構造単位のメチレンプロトン及びヒドロキシエチレン構造単位のメチレンプロトン
・3.7~4.1ppm:少なくとも一つのエチレン構造単位に隣接したヒドロキシエチレン構造単位のメチンプロトン
・4.1~4.5ppm:エチレン構造単位に隣接しないヒドロキシエチレン構造単位のメチンプロトン
上記帰属に従い、1.0~2.0ppmの積分値をx、3.7~4.1ppmの積分値をy、4.1~4.5ppmの積分値をzとすると、エチレン変性率は以下の式で算出できる。
エチレン変性率={(x-2y-2z)/4}/{y+z+(x-2y-2z)/4}
【0076】
[合成例C2、C3]
表4に示す条件以外は合成例1と全く同様にして水溶性樹脂(C)を合成した。水溶性樹脂(C)の重量平均分子量、エチレン変性率、けん化度を表5に示す。
なお、合成例の番号に対応させて、得られた水溶性樹脂(C)をC1、C2、C3などと呼ぶ。得られた樹脂C1~C3の粉末をそれぞれ10g取り、85~95℃の温水90gに入れて、2~3時間加熱攪拌すると、全て溶解した。
【0077】
【0078】
【0079】
[合成例C4]
バドル翼攪拌機、温度計、還流冷却管、4つの滴下装置を備えた内容積500mLのガラス製セパラブルフラスコに、脱イオン水76gを仕込み、沸点還流温度まで昇温した。次いで、攪拌下、アクリル酸ナトリウム(以下、SAと略す)の37質量%水溶液6.76gとアクリル酸(以下、AAと略す)の80質量%水溶液159.28gとの混合液166.04g、過硫酸ナトリウム(以下、NaPSと略す)の10質量%水溶液13.3g、及び、過酸化水素(以下、HPと略す)の2質量%水溶液22.5gを、それぞれ別々に、SA水溶液とAA水溶液との混合液は140分、NaPS水溶液は160分、HP水溶液は140分かけて、滴下した。滴下終了後、30分間にわたって沸点還流温度を維持して重合を完結させ、固形分47.4質量%の淡黄色透明な水溶性のポリアクリル酸共重合体(C4)の水溶液を得た。ここでいう「固形分」の濃度はJIS K6828-1:2003に準拠した常圧加熱乾燥法(サンプル重量:1.0g、乾燥温度110℃×2時間乾燥)によって測定される値を指す。また、重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、先述した条件で測定したところ、50,000であった。
【0080】
[合成例C5]
攪拌機、温度計、還流冷却管および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、アクリルアミド234.6g、及びイオン交換水960gを仕込み、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した。系内を40℃にし攪拌下に重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.25g及び亜硫酸水素ナトリウム0.15gを投入した。90℃まで昇温した後、2時間保温した。重合終了後、イオン交換水70gを投入し、固形分18.6質量%のポリアクリルアミド(C5)の水溶液を得た。ここでいう「固形分」の濃度はJIS K6828-1:2003に準拠した常圧加熱乾燥法(サンプル重量:1.0g、乾燥温度110℃×2時間乾燥)によって測定される値を指す。重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、先述した条件で測定したところ、100,000であった。
【0081】
[合成例C6]
合成例C5と同様の装置条件にて、アクリルアミド93.8g、及びイオン交換水960g、ヒドロキシエチルアクリレート93.8g、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(C3H5COO(C2H4O)4-H)47.0gを仕込み、同様の条件で窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した。系内を40℃にし攪拌下に重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.25g及び亜硫酸水素ナトリウム0.15gを投入した。90℃まで昇温した後、2時間保温した。重合終了後、イオン交換水70gを投入し、固形分18.6質量%のポリアクリルアミド共重合体(C6)の水溶液を得た。ここでいう「固形分」の濃度はJIS K6828-1:2003に準拠した常圧加熱乾燥法(サンプル重量:1.0g、乾燥温度110℃×2時間乾燥)によって測定される値を指す。重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、先述した条件で測定したところ、100,000であった。
【0082】
<エーテル化合物(D)の用意>
表6に示すエーテル化合物を用意した。
【表6】
【0083】
<表面処理剤の調製>
各実施例、比較例の表面処理剤は、上記で用意した複合化物を含有する水分散液と、水溶性樹脂(C)と、エーテル化合物(D)とを、表7-1、表7-2、表7-3に示す固形分の質量配合比となるように混合し、次いで、得られた混合物の固形分量100gに対し、全量が1000gとなるように脱イオン水を配合し、攪拌することにより調製した。ここでいう「固形分量」はJIS K6828-1:2003に準拠した常圧加熱乾燥法(サンプル重量:1.0g、乾燥温度110℃×2時間乾燥)によって測定される値を指す。また、表7-1、表7-2、表7-3における(A)、(B)及び(E)の固形分質量は、上記複合化物を合成する際の原料の固形分比に基づいて算出している。なお、各実施例、比較例の表面処理剤の調製に必要な複合化物及び水溶性樹脂(C)は必要量を適宜追加で合成した。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
<試験材の用意>
アルミニウム製テストピース(株式会社パルテック製A1050、寸法:70mm×150mm、板厚:0.8mm)を用意した。
【0088】
<表面処理皮膜の形成>
前記試験材を、アルカリ系脱脂剤「ファインクリーナー315E」(日本パーカライジング株式会社製)を濃度20g/L、浴温度60℃に調整した処理浴に3分間浸漬処理し、表面に付着しているゴミや油を除去した後、表面に残存しているアルカリ分を市水により洗浄した。
【0089】
前記洗浄された試験材を、各実施例、比較例に係る表面処理剤(液温:25℃)に30秒間浸漬した後、150℃に調整した送風乾燥機内で吊るして6分間加熱乾燥して、試験材の表面に表面処理皮膜を形成し、その後、室温まで冷却することで評価サンプルを作製した。表面処理皮膜の質量は、0.8g/m2となるように固形分濃度を調整した。なお、評価サンプルは以下の評価を行うのに必要な数だけ作製した。
【0090】
<親水性評価方法>
上記で作製した評価サンプル上に1μLの脱イオン水を滴下し、形成された水滴の接触角を接触角計(協和界面科学株式会社製:DM-501)により測定した。親水性処理後に室温まで冷却した評価サンプルの接触角を初期親水性、評価サンプルを脱イオン水に240時間浸漬した後、50℃に調整した送風乾燥機内で1時間乾燥させ室温まで冷却した後の接触角を耐久後親水性とした。得られた接触角は以下に示す基準でレーティングを行い、レーティングで3点以上を本発明の目的である親水性として合格とした。結果を表8-1、表8-2、表8-3に示す。
【0091】
<親水性のレーティング基準>
5点:10°未満
4点:10°以上、20°未満
3点:20°以上、30°未満
2点:30°以上、40°未満
1点:40°以上
【0092】
<耐食性評価方法>
(1)SST
上記で作製した評価サンプルを塩水噴霧試験法(JIS Z2371:2015)に則り、240時間暴露させ、試験材の錆面積(全体の面積に対する白錆面積の割合)を目視観察により評価した。評価基準を以下に示す。評価基準値で3点以上であれば耐食性が良好とした。結果を表8-1、表8-2、表8-3に示す。
<評価基準>
5点:白錆面積10%未満
4点:白錆面積10%以上、30%未満
3点:白錆面積30%以上、50%未満
2点:白錆面積50%以上、70%未満
1点:白錆面積70%以上
【0093】
(2)SWAAT
SWAAT試験(ASTM G85-A3)に基づき、人口海水溶液(ASTM D1141-98)を酢酸でpH3.0に調整した水溶液を用意した。上記で作製した評価サンプルに対して人口海水溶液噴霧(49℃×30分)、次いで湿潤曝露(49℃×90分)の合計120分を1サイクルとして、60サイクル暴露させた後、95℃の2質量%クロム酸水溶液に10分間浸漬し白錆を除去した。JIS Z2371:2015に基づいたレイティングナンバ法にて孔の大きさと個数を評価した。評価基準値で3点以上であれば耐孔食性が良好とした。結果を表8-1、表8-2、表8-3に示す。
<評価基準>
5:RNが9.5以上
4:RNが9.3以上、9.5未満
3:RNが9以上、9.3未満
2:RNが8以上、9未満
1:RNが8未満
【0094】
<臭気性評価方法>
上記で作製した評価サンプルの作製直後の臭気を初期臭気、評価サンプルを脱イオン水に240時間浸漬した後、50℃に調整した送風乾燥機内で1時間乾燥させ室温まで冷却した後の臭気を耐久後臭気とした。得られた臭気は以下に示す基準で評価した。評価基準は臭気成分の基準臭として使用されているイソ吉草酸を規定の濃度とした場合の臭気強度を用いて評価した。評価基準値で3点以上を本発明の目的である臭気性の抑制効果が得られるとして合格とした。結果を表8-1、表8-2、表8-3に示す。
【0095】
<臭気性の評価基準>
5点:無臭
4点:やっと感知できる臭い(検知閾値:イソ吉草酸濃度:0.05μg/L)
3点:何の臭いであるか分かる弱い臭い(認知閾値:イソ吉草酸濃度:0.4μg/L)
2点:楽に感知できる臭い(検知閾値:イソ吉草酸濃度:4μg/L)
1点:強い臭い(検知閾値:イソ吉草酸濃度:30μg/L)
【0096】
<分散安定性評価方法>
各実施例、比較例に係る表面処理剤を40℃の恒温槽に1週間保管し、保管後の液外観を目視にて確認し以下に示すレーティングを行った。評価基準値で3点以上を合格とした。尚、分散安定性は沈殿発生が有っても、よく攪拌、分散した後に用いて他の性能評価結果が合格であれば合格とした。結果を表8-1、表8-2、表8-3に示す。
【0097】
<分散安定性のレーティング基準>
5点:沈殿なし
3点:容器底部に微量な沈殿発生
1点:容器底部を全面覆うほど多量に沈殿発生
【0098】
【0099】
【0100】