(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145187
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】燃焼装置、燃焼方法、ガス化装置、およびガス化方法
(51)【国際特許分類】
F23J 15/00 20060101AFI20231003BHJP
C10J 3/46 20060101ALI20231003BHJP
C10J 3/54 20060101ALI20231003BHJP
F23C 10/10 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
F23J15/00 Z
C10J3/46 E
C10J3/54 E
F23C10/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052525
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】598132048
【氏名又は名称】一般財団法人カーボンフロンティア機構
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 石英
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 知直
(72)【発明者】
【氏名】神成 尚克
(72)【発明者】
【氏名】ツェデンバル バトツェツェグ
(72)【発明者】
【氏名】植田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】柴谷 徹也
【テーマコード(参考)】
3K064
3K070
【Fターム(参考)】
3K064AA04
3K064AB03
3K064AD05
3K064BA07
3K070DA01
3K070DA12
3K070DA24
3K070DA38
(57)【要約】
【課題】排ガス中のアルカリ分を低減できる燃焼装置、燃焼方法、ガス化装置、およびガス化方法を提供する。
【解決手段】本発明の燃焼装置は、燃料を燃焼して、カリウムおよびナトリウムから選択されるアルカリ分を含有する排ガスを生成する燃焼炉(11)と、前記燃焼炉内にまたは前記燃焼炉とは別途設けられ、前記排ガスを接触させてアルカリ分を低減するアルカリ吸収部(13)とを備え、前記アルカリ吸収部は、チタン含有複合酸化物の粒子を含むことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を燃焼して、カリウムおよびナトリウムから選択されるアルカリ分を含有する排ガスを生成する燃焼炉と、
前記燃焼炉内にまたは前記燃焼炉とは別途設けられ、前記排ガスを接触させてアルカリ分を低減するアルカリ吸収部とを備え、
前記アルカリ吸収部は、チタン含有複合酸化物の粒子を含むことを特徴とする燃焼装置。
【請求項2】
前記チタン含有複合酸化物は、チタン酸鉄である請求項1記載の燃焼装置。
【請求項3】
前記チタン酸鉄は、Fe2TiO5またはFeTiO3で表されるイルメナイトである請求項1または2記載の燃焼装置。
【請求項4】
前記燃料は、褐炭またはバイオマスである請求項1~3のいずれか1項記載の燃焼装置。
【請求項5】
前記燃焼炉は、循環流動媒体を備えた流動層であり、
前記アルカリ吸収部は、前記循環流動媒体の少なくとも一部である請求項1~4のいずれか1項記載の燃焼装置。
【請求項6】
前記燃焼炉は、高温排ガスを排出する噴流層であり、
前記アルカリ吸収部は、前記噴流層からの前記高温排ガスが導入される請求項1~4のいずれか1項記載の燃焼装置。
【請求項7】
燃料を燃焼して、カリウムおよびナトリウムから選択されるアルカリ分を含有する排ガスを生成する燃焼工程と、
前記排ガスをアルカリ吸収部に接触させて、前記アルカリ分を低減する工程とを備え、
前記アルカリ吸収部は、チタン含有複合酸化物の粒子を含むことを特徴とする燃焼方法。
【請求項8】
前記チタン含有複合酸化物は、チタン酸鉄である請求項7記載の燃焼方法。
【請求項9】
前記チタン酸鉄は、Fe2TiO5またはFeTiO3で表されるイルメナイトである請求項7または8記載の燃焼方法。
【請求項10】
前記燃料は、褐炭またはバイオマスである請求項7~9のいずれか1項記載の燃焼方法。
【請求項11】
燃料をガス化して、カリウムおよびナトリウムから選択されるアルカリ分を含有する排ガスを生成するガス化炉と、
前記ガス化炉内にまたは前記ガス炉とは別途設けられ、前記排ガスを接触させてアルカリ分を低減するアルカリ吸収部とを備え、
前記アルカリ吸収部は、チタン含有複合酸化物の粒子を含むことを特徴とするガス化装置。
【請求項12】
前記チタン含有複合酸化物は、チタン酸鉄である請求項11記載のガス化装置。
【請求項13】
前記チタン酸鉄は、Fe2TiO5またはFeTiO3で表されるイルメナイトである請求項11または12記載のガス化装置。
【請求項14】
前記燃料は、褐炭またはバイオマスである請求項11~13のいずれか1項記載のガス化装置。
【請求項15】
前記ガス化炉は、循環流動媒体を備えた流動層であり、
前記アルカリ吸収部は、前記循環流動媒体の少なくとも一部である請求項11~14のいずれか1項記載のガス化装置。
【請求項16】
前記ガス化炉は、高温排ガスを排出する噴流層であり、
前記アルカリ吸収部は、前記噴流層からの前記高温排ガスが導入される請求項11~14のいずれか1項記載のガス化装置。
【請求項17】
燃料をガス化して、カリウムおよびナトリウムから選択されるアルカリ分を含有する排ガスを生成するガス化工程と、
前記排ガスをアルカリ吸収部に接触させて、前記アルカリ分を低減する工程とを備え、
前記アルカリ吸収部は、チタン含有複合酸化物の粒子を含むことを特徴とするガス化方法。
【請求項18】
前記チタン含有複合酸化物は、チタン酸鉄である請求項17記載のガス化方法。
【請求項19】
前記チタン酸鉄は、Fe2TiO5またはFeTiO3で表されるイルメナイトである請求項17または18記載のガス化方法。
【請求項20】
前記燃料は、褐炭またはバイオマスである請求項17~19のいずれか1項記載のガス化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼装置、燃焼方法、ガス化装置、およびガス化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
褐炭、バイオマス等は、アルカリ分(特にカリウム)を多く含有するため、燃焼、ガス化した際には、カリウム等のアルカリ分が蒸発する。生成ガスに含有されるアルカリ分は、後流の脱塵、脱硫等設備における機器の腐食、配管の閉塞などの原因となる。また、カリウム等は流動媒体としての硅砂や、褐炭灰やバイオマス灰と低融点物質を形成し、流動層ボイラの塊生成や閉塞等トラブルの原因にもなる。
【0003】
排ガス中のアルカリ分を除去するために、微粉状のアルカリ吸着剤を排ガス中に噴霧する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この場合には、アルカリ吸着剤を排ガス中に噴霧するための手段を設ける必要がある。また、機器仕様に大きな裕度を取ったり、高価な耐腐食性金属材料を使用するという対処法もある。こうした対処法は、設備コストの増加につながってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、排ガス中のアルカリ分を低減できる燃焼装置、燃焼方法、ガス化装置、およびガス化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、排ガス中の酸化カリウムなどアルカリ分は、チタン含有複合酸化物中の酸化チタンと高温で優先的に結合してアルカリチタネートを形成する傾向があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、燃料を燃焼して、カリウムおよびナトリウムから選択されるアルカリ分を含有する排ガスを生成する燃焼炉と、前記燃焼炉内にまたは前記燃焼炉とは別途設けられ、前記排ガスを接触させてアルカリ分を低減するアルカリ吸収部とを備え、前記アルカリ吸収部は、チタン含有複合酸化物の粒子を含むことを特徴とする燃焼装置である。
【0008】
また、本発明は、燃料を燃焼して、カリウムおよびナトリウムから選択されるアルカリ分を含有する排ガスを生成する燃焼工程と、前記排ガスをアルカリ吸収部に接触させて、前記アルカリ分を低減する工程とを備え、前記アルカリ吸収部は、チタン含有複合酸化物の粒子を含むことを特徴とする燃焼方法である。
【0009】
さらに、本発明は、燃料をガス化して、カリウムおよびナトリウムから選択されるアルカリ分を含有する排ガスを生成するガス化炉と、前記ガス化炉内にまたは前記ガス化炉とは別途設けられ、前記排ガスを接触させてアルカリ分を低減するアルカリ吸収部とを備え、前記アルカリ吸収部は、チタン含有複合酸化物の粒子を含むことを特徴とするガス化装置である。
【0010】
またさらに、本発明は、燃料をガス化して、カリウムおよびナトリウムから選択されるアルカリ分を含有する排ガスを生成するガス化工程と、前記排ガスをアルカリ吸収部に接触させて、前記アルカリ分を低減する工程とを備え、前記アルカリ吸収部は、チタン含有複合酸化物の粒子を含むことを特徴とするガス化方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、排ガス中のアルカリ分を低減できる燃焼装置、燃焼方法、ガス化装置、およびガス化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明におけるアルカリ吸収の原理の一例を説明する模式図である。
【
図2】本発明におけるアルカリ吸収の原理の他の例を説明する模式図である。
【
図3】本発明を適用したプロセスの一例を示す模式図である。
【
図4】本発明を適用したプロセスの他の例を示す模式図である。
【
図5】本発明を適用したプロセスの他の例を示す模式図である。
【
図6】本発明を適用したプロセスの他の例を示す模式図である。
【
図7】本発明を適用したプロセスの他の例を示す模式図である。
【
図12】バイオマス灰添加イルメナイトの酸化還元に用いた装置の模式図である。
【
図13】水蒸気酸化後の試料のXRDプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の燃焼装置および燃焼方法を説明する。本発明においては、排ガス中のアルカリ分を低減するために、チタン含有複合酸化物の粒子が用いられる。チタン含有複合酸化物としては、例えば、チタン酸鉄、およびチタン酸カルシウム等が挙げられる。チタン含有複合酸化物中における酸化チタンの含有量は特に規定されないが、酸化チタン含有量が多いほどアルカリ分を低減する効果が高い。
なお、アルカリ分とは、褐炭等の低品位炭、バイオマスに含有されているカリウム、ナトリウム等をさす。
【0014】
チタン酸鉄のなかでも、Fe2TiO5またはFeTiO3で表されるイルメナイトが好ましい。イルメナイトは、600℃以上の高温で酸化カリウムと反応した際、下記式(1)、(2)で表されるように高融点カリウムチタネートを形成し、無害な酸化鉄を遊離させる。イルメナイトは、天然砂状鉱石であるので、排ガス中のアルカリ分を低コストで低減することができる。
Fe2TiO5+K2O ⇒ K2TiO3+Fe2O3 (1)
FeTiO3+K2O ⇒ K2TiO3+FeO (2)
【0015】
本発明の方法は、循環流動層燃焼、ガス化に適用することができる。
図1を参照して、この場合におけるアルカリ吸収の原理を説明する。
図1に示すように、燃料導入部12と、流動層13と、粒子供給部14と、ガス排出部15と、粒子排出部16とを備えた燃焼炉本体11を用いることができる。ガス化の場合には、燃料炉本体11をガス化炉本体に変更すればよい。
【0016】
燃焼炉本体11は、空間を内部に備えた塔である。図示する燃焼炉本体11は、側面形状が長方形型の円筒形状であるが、これに限定されず、種々の形態のものを採用することができる。褐炭、バイオマス等のアルカリ分を含む燃料は、燃料導入部12から燃焼用空気とともに流動層13に導入される。ガス化の場合には、燃焼用空気の代わりにガス化用水蒸気が流動層13に導入される。空気または水蒸気は、別途設けた空気導入部(図示せず)または水蒸気導入部(図示せず)から導入することもできる。
【0017】
流動層13内の循環流動媒体の少なくとも一部は、イルメナイト等のチタン含有複合酸化物の粒子である。以下、イルメナイト粒子を例に挙げて説明する。イルメナイト粒子は、循環流動媒体全体の50%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、循環流動媒体全体を占めることが最も好ましい。イルメナイト粒子は、必要に応じて粒子供給部14から供給することができる。
【0018】
流動層13内では、導入された燃料が高温で燃焼、ガス化してアルカリ分を含む排ガスが生成される。流動層13内の温度は600℃以上であるので、排ガス中のアルカリ分は、イルメナイト粒子中の酸化チタンと結合してアルカリチタネートを形成する。すなわち、流動層13自体がアルカリ吸収部に相当する。アルカリ分が低減された排ガスは、ガス排出部15から外部に排出される。アルカリチタネートは、遊離した酸化鉄とともに使用済イルメナイトとして、粒子排出部16から排出することができる。
【0019】
本発明の方法は、微粉燃焼、噴流層ガス化に適用することもできる。微粉燃料とは、粒径が0.1mm以下程度の燃料をさす。
図2を参照して、この場合におけるアルカリ吸収の原理を説明する。
【0020】
図2に示すように、微粉状の燃料が導入されて高温排ガスが排出される噴流層21と、高温排ガスが導入されるアルカリ吸収装置22とを用いることができる。この場合、アルカリ吸収部は、燃焼炉とは別個に設けられている。アルカリ吸収装置22は、上述したようなイルメナイト粒子を収容した流動層または固定層または移動層であり、必要に応じてイルメナイト粒子を供給することができる。
【0021】
噴流層21に導入された微粉状の燃料は、高温で燃焼、ガス化してアルカリ分を含む排ガスが生成される。排ガスは、600℃以上の高温を維持して、アルカリ吸収装置22に導入される。排ガス中のアルカリ分は、アルカリ吸収装置22内に収容されているイルメナイト粒子中の酸化チタンと結合してアルカリチタネートを形成する。アルカリ分が低減された排ガスは外部に排出され、アルカリチタネートは、遊離した酸化鉄とともに使用済イルメナイトとして排出することができる。
【0022】
本発明は、
図3~7に示すような種々の方式のプロセスに適用することができる。各プロセスについて、以下に説明する。
【0023】
図3は、CFBC(循環流動層燃焼:Circulating Fluidized Bed Combustion)方式に適用した例である。
燃焼炉31に収容されている循環流動媒体(図示せず)の少なくとも一部は、イルメナイト粒子である。アルカリ分を含有する燃料32は、空気33が導入される燃焼炉31内で800℃以上の高温で燃焼し、排ガス中のアルカリ分はイルメナイト粒子によって低減される。アルカリ分が低減された排ガス35は、イルメナイト粒子とともにサイクロン36に導入される。
サイクロン36からは、アルカリ分が低減された排ガス38が排出され、イルメナイト粒子37が燃焼炉31に循環される。循環されたイルメナイト粒子37は、燃焼炉31内で再度、排ガス中のアルカリ分の低減に寄与する。
【0024】
図4は、CFBG(循環流動層ガス化:Circulating Fluidized Bed Gasification)方式に適用した例である。
アルカリ分を含有する燃料42は、水蒸気等のガス化剤43が導入されるガス化装置41内でガス化された後、燃焼炉44に導入される。燃焼炉44に収容されている循環流動媒体(図示せず)の少なくとも一部はイルメナイト粒子であり、燃焼炉44には空気45が導入される。ガス化された燃料は、燃焼炉44内で900℃程度の高温で燃焼し、排ガス中のアルカリ分はイルメナイト粒子によって低減される。
【0025】
アルカリ分が低減された排ガス46は、イルメナイト粒子とともにサイクロン47に導入される。サイクロン47からは、アルカリ分が低減された排ガス49が排出され、イルメナイト粒子がガス化装置41を介して燃焼炉44に循環される。ガス化装置41内においても、イルメナイト粒子によってアルカリ分が低減され、アルカリ分の低減されたガス化燃料48がガス化装置41から排出される。
【0026】
図5は、CLC(ケミカルルーピング燃焼:Chemical Looping Combustion)方式に適用した例である。
アルカリ分を含有する燃料52は、水蒸気等のガス化剤53が導入される燃料反応塔51内でイルメナイト中の酸化鉄を還元した後、空気反応塔54に導入される。空気反応塔54に収容されている循環流動媒体(図示せず)の少なくとも一部はイルメナイト粒子であり、空気反応塔54には空気55が導入される。循環流動媒体の全部をイルメナイト粒子としても良い。ガス化された燃料およびイルメナイト中の還元された酸化鉄は、空気反応塔54内で900℃程度の高温で燃焼し、排ガス中のアルカリ分はイルメナイト粒子によって低減される。
【0027】
アルカリ分が低減された排ガス56は、イルメナイト粒子とともにサイクロン57に導入される。サイクロン57からは、アルカリ分が低減された燃焼排ガス(N2)59が排出され、イルメナイト粒子が燃料反応塔51を介して空気反応塔54に循環される。燃料反応塔51内においても、イルメナイト粒子によってアルカリ分が低減され、アルカリ分の低減された高濃度CO258が燃料反応塔51から排出される。チタネート生成の際に遊離された酸化鉄の反応性が優れていることから、燃料反応塔51での酸化鉄の還元反応が促進される。
【0028】
図6は、CLC-H
2(ケミカルルーピング燃焼/水素製造:Chemical Looping Combustion/Hydrogen Production)方式に適用した例である。
アルカリ分を含有する燃料62は、水蒸気等のガス化剤63が導入される燃料反応塔61内でイルメナイト中の酸化鉄を還元した後、水蒸気65が導入される水素生成塔64を介してイルメナイト粒子とともに空気反応塔66に導入される。空気反応塔66に収容されている循環流動媒体(図示せず)の少なくとも一部はイルメナイト粒子であり、空気反応塔66には空気67が導入される。ガス化された燃料は、空気反応塔66内で900℃程度の高温で燃焼し、排ガス中のアルカリ分はイルメナイト粒子によって低減される。
【0029】
アルカリ分が低減された排ガスは、イルメナイト粒子とともにサイクロン68に導入される。サイクロン68からは、アルカリ分が低減された燃焼排ガス(N2)69cが排出される。さらに、イルメナイト粒子が、燃料反応塔61および水素生成塔64を介して空気反応塔66に循環される。
【0030】
燃料反応塔61内においても、イルメナイト粒子によってアルカリ分が低減されて、アルカリ分の低減された高濃度CO269aが燃料反応塔61から排出される。さらに、水素生成塔64内においても、イルメナイト粒子によってアルカリ分が低減され、アルカリ分の低減された高濃度H269bが水素生成塔64から排出される。チタネート生成の際に遊離された酸化鉄の反応性が優れていることから、燃料反応塔61での酸化鉄の還元反応および水素生成塔64での水素生成反応が促進される。
【0031】
図7は、PC(微粉炭燃焼:Pulverized Coal Combustion)方式、FBC(流動層燃焼:Fluidized Bed Combustion)方式に適用した例である。
アルカリ分を含有する燃料72は、空気73が導入される燃焼、ガス化装置71内で燃焼され、600℃以上の高温排ガスがアルカリ吸収装置75に導入される。アルカリ吸収装置は、イルメナイト粒子76を収容しており、流動層、移動層、または充填層のいずれであってもよい。排ガス中のアルカリ分は、イルメナイトによって低減される。アルカリ吸収装置75からは、アルカリ分が低減された排ガス78、および使用済イルメナイト粒子77が排出される。
【0032】
以下、排ガスからのアルカリ吸収における詳細条件を説明する。
(1)イルメナイト粒子径
イルメナイト粒子の粒子径は、通常は0.05~0.5mmの範囲内である。イルメナイト粒子の流動性やアルカリ吸収効率の観点からは、0.1~0.3mmの範囲が好ましい。イルメナイト粒子径が0.1mm未満の場合には、多量の粉塵が発生するおそれがある。一方、イルメナイト粒子径が0.3mmを超えると、比外表面積が小さすぎ、アルカリ吸収効率が低下しやすくなる。
なお、本明細書で粒子径とは、平均粒子径を意味し、複数の粒子の粒子径の平均値を意味する。粒子径は、SEMなどの観測手段により目視で粒子径を確認して計算する方法や、粒度分析計などで測定する方法などで求めることができる。
【0033】
(2)イルメナイト粒子の装填方法
アルカリ吸収部には、流動層内に所定量のイルメナイト粒子を予め装填しておく。使用済イルメナイトの排出量に応じて、アルカリ吸収部内にイルメナイト粒子を供給すればよい。
【0034】
(3)アルカリ吸収部の温度
アルカリ吸収部の温度は、通常は600℃以上、好ましくは800℃以上である。アルカリ吸収部の温度が600℃を下回ると、アルカリ分が酸化チタンと結合しにくく、アルカリ吸収効率が低くなる傾向にある。
【0035】
以上のように、アルカリ分を含有する燃料を燃焼して生成した排ガスを、燃焼炉内、あるいは燃焼炉の後流において、チタン含有複合酸化物と接触させることによって、アルカリ分がアルカリチタネートとして固定されるので、排ガス中のアルカリ分を低減することが可能となった。
【実施例0036】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではない。また、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0037】
1.平衡組成計算
市販の化学平衡計算ソフト(HSC Chemistry)を用い、イルメナイトとアルカリからカリウムチタネートおよびナトリウムチタネートの生成について平衡計算を行った。酸化雰囲気、および還元雰囲気において初期条件を入力し、ギブス原理(自由エネルギー最小原理)での計算結果を求めた。
【0038】
<カリウムチタネートの生成条件>
酸化雰囲気での入力条件
Fe
2TiO
5 100kmol,K
2CO
3 20kmol,O
2 10kmol
還元雰囲気での入力条件
Fe
2TiO
5 100kmol,K
2CO
3 20kmol,H
2 10kmol
酸化雰囲気、および還元雰囲気でのカリウムチタネートの生成条件の計算結果を、
図8および
図9にそれぞれ示す。
【0039】
<ナトリウムチタネートの生成条件>
酸化雰囲気での入力条件
Fe
2TiO
5 100kmol,Na
2CO
3 20kmol,O
2 10kmol
還元雰囲気での入力条件
Fe
2TiO
5 100kmol,Na
2CO
3 20kmol,H
2 10kmol
酸化雰囲気、および還元雰囲気でのナトリウムチタネートの生成条件の計算結果を、
図10および
図11にそれぞれ示す。
【0040】
図8、9には、酸化雰囲気および還元雰囲気のいずれにおいても、アルカリ分が選択的に酸化チタンと結合して、カリウムチタネートを生成することが示されている。また、
図10、11には、酸化雰囲気および還元雰囲気のいずれにおいても、600℃~1000℃の高温範囲でナトリウムチタネートが生成されることが示されている。
以上の計算結果から、カリウム等のアルカリは、イルメナイト中の酸化チタンと高温で結合して、アルカリチタネートを構成する傾向があることが確認された。これらの結果は、高温燃焼排ガス中あるいはガス化排ガス中のアルカリ分を、イルメナイトにより吸収できることを示唆している。
【0041】
2.バイオマス灰添加イルメナイトの酸化還元実験
図12に示すように熱天秤装置を用いて、アルカリ分を含有するバイオマス灰添加イルメナイトの酸化還元特性を評価した。具体的には、0.2gのバイオマス灰を3.8gのイルメナイト粒子(粒子径:150μm)に添加して、試料を調製した。バイオマス灰には、酸化カリウムベースで9.2~40wt%程度のカリウムが含有されている。20mgの試料を容器に収容し、以下の条件で酸化還元試験を行った。
【0042】
酸化
ガス流量: Air 100mL/min
温度・保持時間: 1173K 10min
パージ: Ar 3分間
還元
ガス流量: 5%H2/Ar 100mL/min
温度・保持時間: 1173K 30min
パージ: Ar 3分間
水蒸気による酸化(5サイクル後)
水蒸気分圧: 30kPa
Ar流量: 70mL/min
全ガス流量: 100mL/min
【0043】
熱分解ガスを回収し、GC-TCDにより水素量を測定したところ、ガス組成はH
2が多く、それ以外はCO、CO
2、CH
4であった。
図13には、水蒸気酸化後の試料のXRDプロファイルを示す。
図13中、(Oxi IL)は酸化状態のイルメナイトを表し、(Oxi IL+5%PKSA)は酸化状態のイルメナイトに9.2wt%の5%PKSA灰(パーム椰子殻由来灰)を混合したことを表す。これらには、FeTiO
3およびTiO
2の存在が認められる。
【0044】
(Oxi IL+5%CCA)は、酸化状態のイルメナイトに40.0wt%の5%CCA灰(杉チップ由来灰)を混合したことを表わしており、FeTiO3およびTiO2に加えてKTi8O16の存在が認められる。(Oxi IL+5%WPA)は、酸化状態のイルメナイトに30.4wt%の5%WPA灰(ホワイトペレット由来灰)を混合したことを表わしており、FeTiO3、TiO2、およびSiO2に加えてKTi8O16の存在が認められる。
【0045】
イルメナイトとアルカリ含有灰との混合サンプルの高温酸化/還元試験によりアルカリチタネートが検出されたことから、バイオマス灰に含有されるカリウムが、イルメナイト中の酸化チタンと結合してカリウムチタネートを形成することが確認された。この結果は、イルメナイトを用いてバイオマス中のアルカリを吸収できることを示している。
【0046】
アルカリ分を含有する燃料の燃焼により、アルカリ分を含有する排ガスが生成された場合でも、イルメナイト等のチタン含有複合酸化物と接触させることにより、アルカリ分を高融点のアルカリチタネートとして固定することができる。こうして排ガス中のアルカリ分が低減されるので、アルカリ阻害を解消し、設備のコスト削減にもつながることが期待される。