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特開2023-145189ムラサキ属植物抽出物、ムラサキ属植物由来アセチルシコニン、抗インフルエンザ作用付与用組成物、ムラサキ属植物利用飲食品、ムラサキ属植物利用衣料品、ムラサキ属植物利用雑貨品、ムラサキ属植物利用製品、インフルエンザ予防方法、インフルエンザ治療方法、および抗インフルエンザ作用付与用アセチルシコニン
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  • 特開-ムラサキ属植物抽出物、ムラサキ属植物由来アセチルシコニン、抗インフルエンザ作用付与用組成物、ムラサキ属植物利用飲食品、ムラサキ属植物利用衣料品、ムラサキ属植物利用雑貨品、ムラサキ属植物利用製品、インフルエンザ予防方法、インフルエンザ治療方法、および抗インフルエンザ作用付与用アセチルシコニン 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145189
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】ムラサキ属植物抽出物、ムラサキ属植物由来アセチルシコニン、抗インフルエンザ作用付与用組成物、ムラサキ属植物利用飲食品、ムラサキ属植物利用衣料品、ムラサキ属植物利用雑貨品、ムラサキ属植物利用製品、インフルエンザ予防方法、インフルエンザ治療方法、および抗インフルエンザ作用付与用アセチルシコニン
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/30 20060101AFI20231003BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20231003BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20231003BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20231003BHJP
   A41D 31/30 20190101ALI20231003BHJP
【FI】
A61K36/30
A61P31/16
A61K31/122
A23L33/105
A41D31/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052527
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】302045989
【氏名又は名称】加美町
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 健郎
(72)【発明者】
【氏名】生田 和史
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD48
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF14
4C088AB12
4C088AC11
4C088BA10
4C088CA06
4C088MA52
4C088NA20
4C088ZB33
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB28
4C206KA04
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA20
4C206ZB33
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ムラサキの有効成分であるアセチルシコニンおよびシコニンの新規かつ効率的な抽出法を開発し、ムラサキの有効利用に資すること。
【解決手段】抗インフルエンザ作用付与用のムラサキ属植物抽出物であり、この抗インフルエンザ作用にはインフルエンザ予防作用、インフルエンザ治療作用のいずれもが該当する。本ムラサキ属植物抽出物の抽出にはエタノールを、より望ましくはd-リモネンが添加されたエタノールを用いることができる。原料としては、ムラサキ(Lithospermum erythrorhizon Siebold et Zucc.)、セイヨウムラサキ(Lithospermum officinale L.)、イヌムラサキ(Lithospermum arvense L.)、ホタルカズラ(Lithospermum zollingeri A.DC.)のいずれかを好適に用いることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗インフルエンザ作用付与用のムラサキ属植物抽出物。
【請求項2】
前記抗インフルエンザ作用がインフルエンザ予防作用であることを特徴とする、請求項1に記載のムラサキ属植物抽出物。
【請求項3】
前記抗インフルエンザ作用がインフルエンザ治療作用であることを特徴とする、請求項1に記載のムラサキ属植物抽出物。
【請求項4】
抽出にエタノールが用いられていることを特徴とする、請求項1、2、3のいずれかに記載のムラサキ属植物抽出物。
【請求項5】
抽出にd-リモネンが添加されたエタノールが用いられていることを特徴とする、請求項1、2、3のいずれかに記載のムラサキ属植物抽出物。
【請求項6】
原料ムラサキ属植物が、ムラサキ(Lithospermum erythrorhizon Siebold et Zucc.)、セイヨウムラサキ(Lithospermum officinale L.)、イヌムラサキ(Lithospermum arvense L.)、ホタルカズラ(Lithospermum zollingeri A.DC.)のいずれかであることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5のいずれかに記載のムラサキ属植物抽出物。
【請求項7】
抗インフルエンザ作用付与用のムラサキ属植物由来アセチルシコニン。
【請求項8】
前記抗インフルエンザ作用がインフルエンザ予防作用であることを特徴とする、請求項7に記載のムラサキ属植物由来アセチルシコニン。
【請求項9】
前記抗インフルエンザ作用がインフルエンザ治療作用であることを特徴とする、請求項7に記載のムラサキ属植物由来アセチルシコニン。
【請求項10】
抽出にエタノールが用いられていることを特徴とする、請求項7、8、9のいずれかに記載のムラサキ属植物由来アセチルシコニン。
【請求項11】
抽出にd-リモネンが添加されたエタノールが用いられていることを特徴とする、請求項7、8、9のいずれかに記載のムラサキ属植物由来アセチルシコニン。
【請求項12】
原料ムラサキ属植物が、ムラサキ(Lithospermum erythrorhizon Siebold et Zucc.)、セイヨウムラサキ(Lithospermum officinale L.)、イヌムラサキ(Lithospermum arvense L.)、ホタルカズラ(Lithospermum zollingeri A.DC.)のいずれかであることを特徴とする、請求項7、8、9、10、11のいずれかに記載のムラサキ属植物由来アセチルシコニン。
【請求項13】
請求項1、2、3、4、5のいずれかに記載のムラサキ属植物抽出物を主成分とすることを特徴とする、抗インフルエンザ作用付与用組成物。
【請求項14】
請求項7、8、9、10、11のいずれかに記載のムラサキ属植物由来アセチルシコニンを主成分とすることを特徴とする、抗インフルエンザ作用付与用組成物。
【請求項15】
「抗インフルエンザ作用を有する」旨の表示が付されていることを特徴とする、請求項13、14のいずれかに記載の抗インフルエンザ作用付与用組成物。
【請求項16】
請求項13、14、15のいずれかに記載の抗インフルエンザ作用付与用組成物を用いた、ムラサキ属植物利用飲食品。
【請求項17】
請求項13、14、15のいずれかに記載の抗インフルエンザ作用付与用組成物を用いた、ムラサキ属植物利用衣料品。
【請求項18】
請求項13、14、15のいずれかに記載の抗インフルエンザ作用付与用組成物を用いた、ムラサキ属植物利用雑貨品。
【請求項19】
請求項13、14、15のいずれかに記載の抗インフルエンザ作用付与用組成物を用いた、ムラサキ属植物利用製品(飲食品、衣料品、雑貨品を除く)。
【請求項20】
請求項1、2、3、4、5のいずれかに記載のムラサキ属植物抽出物、または請求項7、8、9、10、11のいずれかに記載のムラサキ属植物由来アセチルシコニンを用いることを特徴とする、インフルエンザ予防方法。
【請求項21】
請求項1、2、3、4、5のいずれかに記載のムラサキ属植物抽出物、または請求項7、8、9、10、11のいずれかに記載のムラサキ属植物由来アセチルシコニンを用いることを特徴とする、インフルエンザ治療方法。
【請求項22】
抗インフルエンザ作用付与用のアセチルシコニン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はムラサキ属植物抽出物、ムラサキ属植物由来アセチルシコニン、抗インフルエンザ作用付与用組成物等に係り、特に、ムラサキ属植物を原料とした抗インフルエンザウイルス技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物由来の抗ウイルス剤等については従来、さまざまに研究開発がなされ、特許出願等もなされている。たとえば後掲特許文献1には、プロアントシアニジン含有植物エキスと、プロポリスエキスと、乳酸菌とを含む抗インフルエンザウイルス剤が開示されている。プロアントシアニジン含有植物としては特に、クランベリーを初めとするベリー類が挙げられ、そのエキス抽出にはエタノールを用いるとしている。
【0003】
また特許文献2には、α-グルコシダーゼ阻害作用を有する植物由来抽出物を有効成分として含有する抗ウイルス剤が開示されており、当該植物由来抽出物として、サラシア属植物の水抽出物もしくはアルコール抽出物が挙げられている。そして、特にインフルエンザウイルス感染の予防や、その症状の軽減用であることが記載されている。
【0004】
また特許文献3は、ナガイモの可食部を擂り下ろし、これを10000rpm以下1時間以下で遠心分離することにより得られる上清液を、経口摂取可能な抗インフルエンザウイルス組成物として開示している。さらに、これを適宜条件にて超音波処理することにより、粘度を低下させることができ、また、凍結乾燥などによって乾燥粉末化可能であることが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-104686号公報「抗インフルエンザウイルス剤及びそれを含む組成物」
【特許文献2】特開2015-110680号公報「抗ウイルス剤」
【特許文献3】特開2010-132630号公報「抗インフルエンザウイルス組成物及びインフルエンザ予防食品」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、種々の植物資源による抗ウイルス剤や抗ウイルス組成物が提案されている。ムラサキ科(Boraginaceae)ムラサキ(Lithospermum erythrorhizon Siebold et Zucc.)も、その根(紫根)が染料や抗炎症作用、抗腫瘍作用を示す医薬品として用いられてきた(後掲 参考文献1)。紫根成分であるシコニンにはA型インフルエンザウイルス(参考文献2)、C型肝炎ウイルス(参考文献3)、アデノウイルス(参考文献4)、エンテロウイルス(参考文献5)、HIV(参考文献6)などに対する抗ウイルス効果があり、シコニン誘導体であるアセチルシコニンも抗コクサッキーウイルス効果を有する(参考文献7)ことから、その有効利用に期待がもたれる。
【0007】
しかしながらムラサキについては、その栽培技術が未確立であること、冷涼な気候が適しているところ温暖化による環境変化に伴い生育数が減少していること(2022年3月現在環境省レッドリスト絶滅危惧1B類(環境省レッドリスト2020)指定)などから、その有効利用をテーマとした研究開発の今後のさらなる推進が待たれるところである。かかる状況下、宮城県加美郡加美町の加美町薬用植物研究会(2015年11月設立)が行ってきたムラサキ栽培技術およびその改良の取り組みを推進するため、ムラサキ有効利用の可能性をさらに拡大することのできる研究の積み重ねが重要である。
【0008】
そこで本発明が掲げる課題は、かかる従来技術・取り組み状況を踏まえ、ムラサキの有効成分であるアセチルシコニンおよびシコニンの新規かつ効率的な抽出法を開発し、ムラサキの有効利用に資することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は上記課題について検討した。その結果、ムラサキの有効成分であるアセチルシコニンおよびシコニンを高濃度に抽出する新規抽出法を開発し、ムラサキエタノール抽出物がインフルエンザウイルス不活化作用を有すること、またその作用は、アセチルシコニンを効率的にかつ高濃度に抽出できるd-リモネン添加エタノール抽出物においてさらに強まることを確認した。そして、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0010】
〔1〕 抗インフルエンザ作用付与用のムラサキ属植物抽出物。
〔2〕 前記抗インフルエンザ作用がインフルエンザ予防作用であることを特徴とする、〔1〕に記載のムラサキ属植物抽出物。
〔3〕 前記抗インフルエンザ作用がインフルエンザ治療作用であることを特徴とする、〔1〕に記載のムラサキ属植物抽出物。
〔4〕 抽出にエタノールが用いられていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕のいずれかに記載のムラサキ属植物抽出物。
〔5〕 抽出にd-リモネンが添加されたエタノールが用いられていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕のいずれかに記載のムラサキ属植物抽出物。
〔6〕 原料ムラサキ属植物が、ムラサキ(Lithospermum erythrorhizon Siebold et Zucc.)、セイヨウムラサキ(Lithospermum officinale L.)、イヌムラサキ(Lithospermum arvense L.)、ホタルカズラ(Lithospermum zollingeri A.DC.)のいずれかであることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕のいずれかに記載のムラサキ属植物抽出物。
【0011】
〔7〕 抗インフルエンザ作用付与用のムラサキ属植物由来アセチルシコニン。
〔8〕 前記抗インフルエンザ作用がインフルエンザ予防作用であることを特徴とする、〔7〕に記載のムラサキ属植物由来アセチルシコニン。
〔9〕 前記抗インフルエンザ作用がインフルエンザ治療作用であることを特徴とする、〔7〕に記載のムラサキ属植物由来アセチルシコニン。
〔10〕 抽出にエタノールが用いられていることを特徴とする、〔7〕、〔8〕、〔9〕のいずれかに記載のムラサキ属植物由来アセチルシコニン。
〔11〕 抽出にd-リモネンが添加されたエタノールが用いられていることを特徴とする、〔7〕、〔8〕、〔9〕のいずれかに記載のムラサキ属植物由来アセチルシコニン。
〔12〕 原料ムラサキ属植物が、ムラサキ(Lithospermum erythrorhizon Siebold et Zucc.)、セイヨウムラサキ(Lithospermum officinale L.)、イヌムラサキ(Lithospermum arvense L.)、ホタルカズラ(Lithospermum zollingeri A.DC.)のいずれかであることを特徴とする、〔7〕、〔8〕、〔9〕、〔10〕、〔11〕のいずれかに記載のムラサキ属植物由来アセチルシコニン。
【0012】
〔13〕 〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕のいずれかに記載のムラサキ属植物抽出物を主成分とすることを特徴とする、抗インフルエンザ作用付与用組成物。
〔14〕 〔7〕、〔8〕、〔9〕、〔10〕、〔11〕のいずれかに記載のムラサキ属植物由来アセチルシコニンを主成分とすることを特徴とする、抗インフルエンザ作用付与用組成物。
〔15〕 「抗インフルエンザ作用を有する」旨の表示が付されていることを特徴とする、〔13〕、〔14〕のいずれかに記載の抗インフルエンザ作用付与用組成物。
〔16〕 〔13〕、〔14〕、〔15〕のいずれかに記載の抗インフルエンザ作用付与用組成物を用いた、ムラサキ属植物利用飲食品。
〔17〕 〔13〕、〔14〕、〔15〕のいずれかに記載の抗インフルエンザ作用付与用組成物を用いた、ムラサキ属植物利用衣料品。
【0013】
〔18〕 〔13〕、〔14〕、〔15〕のいずれかに記載の抗インフルエンザ作用付与用組成物を用いた、ムラサキ属植物利用雑貨品。
〔19〕 〔13〕、〔14〕、〔15〕のいずれかに記載の抗インフルエンザ作用付与用組成物を用いた、ムラサキ属植物利用製品(飲食品、衣料品、雑貨品を除く)。
〔20〕 〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕のいずれかに記載のムラサキ属植物抽出物、または〔7〕、〔8〕、〔9〕、〔10〕、〔11〕のいずれかに記載のムラサキ属植物由来アセチルシコニンを用いることを特徴とする、インフルエンザ予防方法。
〔21〕 〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕のいずれかに記載のムラサキ属植物抽出物、または〔7〕、〔8〕、〔9〕、〔10〕、〔11〕のいずれかに記載のムラサキ属植物由来アセチルシコニンを用いることを特徴とする、インフルエンザ治療方法。
〔22〕 抗インフルエンザ作用付与用のアセチルシコニン。
【発明の効果】
【0014】
本発明のムラサキ属植物抽出物、ムラサキ属植物由来アセチルシコニン、抗インフルエンザ作用付与用組成物等は上述のように構成されるため、これらによれば、ムラサキの有効成分であるアセチルシコニンおよびシコニンを高濃度に抽出することができる。特にd-リモネン添加エタノールを用いた抽出方法によって、抽出の効率を顕著に高めることができ、さらに実用性の高い高濃度抽出が可能である。また、本発明に係る抽出物等にはインフルエンザウイルス不活化作用が認められた。それにより、インフルエンザ予防用途・治療用途のさまざまな製品等への応用・開発を促進し、ムラサキ有効利用を推進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ムラサキ根70%エタノール抽出物(A)の成分プロファイルを示すグラフである。
図2】ムラサキ根エタノール抽出物(B)の成分プロファイルを示すグラフである。
図3】ムラサキ根5%d-リモネン含有エタノール抽出物(C)の成分プロファイルを示すグラフである。
図4】各ムラサキ抽出物のエキス濃度による抗インフルエンザウイルス効果を示す培地写真である。
図5】各ムラサキ抽出物のエキス濃度によるインフルエンザウイルス効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施例説明に先立ち、本発明の構成を概説する。
本発明の基本は、抗インフルエンザ作用付与用のムラサキ属植物抽出物であり、この抗インフルエンザ作用には、インフルエンザ予防作用、インフルエンザ治療作用のいずれもが該当する。本ムラサキ属植物抽出物の抽出にはエタノールが用いられるが、より望ましくはd-リモネンが添加されたエタノールを用いることができる。
【0017】
本発明ムラサキ属植物抽出物の原料ムラサキ属植物としては、ムラサキ(Lithospermum erythrorhizon Siebold et Zucc.)、セイヨウムラサキ(Lithospermum officinale L.)、イヌムラサキ(Lithospermum arvense L.)、ホタルカズラ(Lithospermum zollingeri A.DC.)のいずれかを好適に用いることができる。
【0018】
本発明にはまた、抗インフルエンザ作用付与用のムラサキ属植物由来アセチルシコニンが含まれる。この場合の抗インフルエンザ作用にも、インフルエンザ予防作用、インフルエンザ治療作用のいずれもが該当する。また、その抽出にはエタノールが用いられること、より望ましくはd-リモネンが添加されたエタノールを用いられることも、上記抗インフルエンザ作用付与用のムラサキ属植物抽出物発明と同様である。さらに、原料についても同様である。
【0019】
また、上記ムラサキ属植物抽出物、あるいはムラサキ属植物由来アセチルシコニンを主成分とする抗インフルエンザ作用付与用組成物も、本発明の範囲内である。ここで組成物には、液体状のもの、固体状のもの、両者が混合したものなどあらゆる性状のものを含み、これら主成分以外の成分も特に限定されず広く用いるものとすることができる。また、これら抗インフルエンザ作用付与用組成物が特に「抗インフルエンザ作用を有する」旨の表示付きであることとしてもよい。
【0020】
かかる抗インフルエンザ作用付与用組成物を用いた製品もまた、本発明の範囲内であり、たとえばムラサキ属植物利用飲食品、ムラサキ属植物利用衣料品、ムラサキ属植物利用雑貨品、ムラサキ属植物利用医薬品などであるが、これらの範疇に限定されない。また、「抗インフルエンザ作用を有する」旨の表示付きのこれらの製品も本発明の範囲内である。
【0021】
飲食品には、機能性を特徴とするものやサプリメントも含まれる。衣料品には、被服の他にハンカチ・タオル・手ぬぐい・マスク・手袋等の身の回り品も含まれる。また、雑貨品としては、たとえばスマートフォンや携帯電話等のカバーやストラップ、紙ナプキン・紙タオル、文房具、玩具、使い捨て食器、寝具、バッグ等のかばん・袋類、その他種々のものが含まれるが、これらに限定されない。
【0022】
また、以上述べた本発明ムラサキ属植物抽出物、またはムラサキ属植物由来アセチルシコニンを用いたインフルエンザ予防方法やインフルエンザ治療方法も本発明の範囲内であり、さらに原料が何であるかに関わらず、抗インフルエンザ作用付与用のアセチルシコニン自体も権利請求される発明である。
【実施例0023】
以下、本発明実施例を述べるが、本発明はこれに限定されない。なお、ムラサキ属植物抽出物の新規抽出方法の開発、およびその抽出物の効果を確認する研究課程の概説をもって実施例に替える。
【0024】
〔1.研究の主題〕
抗インフルエンザウイルス作用を有するムラサキ抽出物の新規抽出方法
〔2.要約〕
ムラサキ(Lithospermum erythrorhizon Siebold et Zucc.)の有効成分であるアセチルシコニンおよびシコニンを高濃度に抽出する新規抽出法を開発し、その抽出効率の比較と各抽出物の抗インフルエンザウイルス作用を既存のエタノール抽出エ物と比較検討した。その結果、ムラサキエタノール抽出物でインフルエンザウイルスの不活化を認め、その作用はアセチルシコニンを効率的にかつ高濃度に抽出するd-リモネン添加エタノール抽出物でさらに強まることを確認した。
【0025】
〔3.背景〕
ムラサキ科(Boraginaceae)ムラサキ(Lithospermum erythrorhizon Siebold et Zucc.)は本邦では北海道から九州にかけて、さらに朝鮮半島、中国、アムール地方の山地や草原に広く分布する.その根(紫根)は染料や抗炎症作用、抗腫瘍作用を示す医薬品として用いられてきた(参考文献1)。紫根成分であるシコニンにはA型インフルエンザウイルス(参考文献2)、C型肝炎ウイルス(参考文献3)、アデノウイルス(参考文献4)、エンテロウイルス(参考文献5)、HIV(参考文献6)などに対する抗ウイルス効果があり、シコニン誘導体であるアセチルシコニンも抗コクサッキーウイルス効果を有する(参考文献7)ことから、その有効利用に期待がもたれる。
【0026】
しかしながら、その栽培技術が未確立であることや冷涼な気候が適しているために、温暖化による環境変化に伴い生育数が減少し、2022年3月現在環境省レッドリスト絶滅危惧1B類(環境省レッドリスト2020)に指定されている。このことから、ムラサキの有効利用をさらに広げる可能性を探る目的で、宮城県加美郡加美町で加美町薬用植物研究会(2015年11月設立)が栽培技術の改良を行い栽培しているムラサキの有効成分であるアセチルシコニンおよびシコニンの新たな抽出法を開発し、その有効利用に資することを目的とした。
【0027】
なお、本発明に用いられるムラサキ属植物としては、ムラサキ(Lithospermum erythrorhizon Siebold et Zucc.)、セイヨウムラサキ(Lithospermum officinale L.)、イヌムラサキ(Lithospermum arvense L.)、ホタルカズラ(Lithospermum zollingeri A.DC.)等があげられ、中でもムラサキ(Lithospermum erythrorhizon Siebold et Zucc.)が好ましい。また、これらムラサキ属植物の産地は特に限定されない。
【0028】
〔4.実験方法〕
〔4.-1 ムラサキ試料〕
宮城県加美郡加美町薬用植物研究会により栽培されたムラサキの根(紫根)を乾燥して使用した。なお、水分含量は10%以下である。
【0029】
〔4.-2 抽出方法〕
ムラサキの根を細断し、その500gに対して<1>70%エタノール1500mL、<2>エタノール(95)1500mL、<3>エタノール(95)1425mLとd-リモネン75mLの混合溶液(d-リモネン含有量;5v/v%)にて48時間冷浸した後にろ過したものを、それぞれムラサキ抽出物A(<1>)、B(<2>)、C(<3>)とした。なお、70%エタノールによる抽出液はムラサキの染料としての利用の際の標準的な抽出方法である。また、試験に用いた試薬類は全て富士フィルム和光純薬株式会社より購入したものである。次に、同様の方法でd-リモネンの添加量にょり抽出物の組成に変化が認められるかどうかを検討する目的で、d-リモネンの組成が1%(D)、5%(E)、10%(F)、100%(G)となるエタノール(95)抽出物を作製し、下記の方法で、主要成分であるアセチルシコニンの濃度を測定した。
【0030】
〔4.-3 抽出液中のアセチルシコニンおよびシコニン濃度の測定〕
3種類のムラサキ抽出物A、B、CはHPLC用エタノール(99.5)で10倍に希釈し、HPLC測定用試料とした。なお、HPLC測定条件は下記の通りである。
HPLC測定条件
HPLCシステム:SHIMADZU S-20A
移動相:60%Acetonitril、1%TFA
Flow: 1.0mL/min.
送液時圧力:9.1Mpa/cm
inj.Vol.:10uL
カラム COSMOSIL:5PE-MS、4.6×250mm 40℃)
測定波長:214nm
データ処理機:Chromato PRO
RT(min):シコニン;5.22~5.33、アセチルシコニン;7.12~7.32
【0031】
〔4.-4 ムラサキの抽出物における抗インフルエンザウイルス効果作用〕
〔4.-4-1 細胞〕
MDCK(Madin-Darby canine kidney)細胞株(仙台医療センター臨床研究部仙台ウイルスセンターより分与)を用いた。10%胎仔ウシ血清(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)とペニシリン・ストレプトマイシン(Fujifilm Wako Pure Chemical Corp.,Osaka,Japan)を添加したDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium,D5796,Sigma-Aldrich,Inc.,St.Louis,MO)を用いて培養した。
【0032】
〔4.-4-2 ウイルス〕
A型インフルエンザウイルス(A/Aichi/2/68,Aichi株, H3N2(A香港)型,東北大学大学院医学系研究科微生物学分野より分与)を用いた。T75フラスコ(BM Bio,Tokyo,Japan)でコンフルエントに培養したMDCK細胞へ、-80℃保存ウイルスを添加した。多くの細胞でCPE(Cytopathic effect:細胞変性効果)が認められる感染4日後で凍結融解により細胞を破砕し、遠心(2,000rpm 10分)後の上清の力価を測定し、ウイルス液として-80℃保存した。
【0033】
〔4.-4-3 抗インフルエンザウイルス効果の検討〕
被験検体によるプラーク抑制効果により、抗インフルエンザウイルス効果の検討を行った(参考文献8-11)。被験検体ムラサキ抽出物BおよびC(以下、「エキスB」「エキスC」とも言う)を20倍から40,960倍まで2倍段階希釈し、等量のウイルス液(3x10 pfu/mL)と混和後、室温で1時間反応させた。検体-ウイルス混合液を10倍から1,000倍まで10倍段階希釈し、24well-plate(BM Bio)で単層培養したMDCK細胞に、37℃、5%CO下で感染させた。
【0034】
1時間後に検体-ウイルス混合液を除去し、1%Ultrapure agarose(Thermo Fisher Scientific)、5%BSA(Sigma-Aldrich)、グルタミン(Fujifilm Wako Pure Chemical Corp.)、ペニシリン・ストレプトマイシン、10mM Hepes(Dojindo,Kumamoto,Japan)、0.01%DEAE-dextran(Cytiva,Marlborough,MA)、5μg/mL trypsin(Sigma-Aldrich)を含有する寒天MEM(Nissui Pharmaceutical Co.,Ltd.,Tokyo,Japan)培地を重層後、37℃、5%CO下で1日半培養した。ホルマリン液で固定後に寒天MEM培地を除去し、クリスタル紫で細胞を染色してプラークを数えた。被験検体を含まないwellを対照とし、プラーク減少率と検体含有率の関係からIC50を算出した。
【0035】
〔5.結果〕
〔5.-1 抽出方法とアセチルシコニン濃度〕
図1はムラサキ根70%エタノール抽出物(A)の成分プロファイルを示すグラフ、図2はムラサキ根エタノール抽出物(B)の成分プロファイルを示すグラフ、図3はムラサキ根5%d-リモネン含有エタノール抽出物(C)の成分プロファイルを示すグラフである。また、表1はムラサキ各抽出物中のアセチルシコニンおよびシコニン濃度、表2はムラサキエタノール抽出物中のアセチルシコニン濃度に対するd-リモネン添加量による変化を示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
表1に示すようにd-リモネン添加エタノールによる抽出方法では、アセチルシコニンを、これまで染色に用いられてきた濃度であるところの70%エタノール抽出物に対しては約230倍もの高濃度で得ることができた。また、エタノール(95)での抽出物に比較しても約4倍の濃度で得ることができた。すなわち、アセチルシコニンの抽出効率はエタノール濃度が高いほど良く、d-リモネンを添加することによりさらに高められることが明らかになった。
【0039】
また表2に示すように、エタノールに対するd-リモネン添加量を1~100%増加させた場合に得られるアセチルシコニン量は、5%では1%の3倍以上、10%では1%の4倍以上、100%では1%の40倍以上かつ5%の14倍以上に増加した。したがって、アセチルシコニン抽出効率は添加するd-リモネンの濃度に依存して高まることも明らかとなった。
【0040】
〔5.-2 抗インフルエンザ活性〕
〔5.-2-1 新規ムラサキ抽出物によるプラーク発生抑制〕
図4は、各ムラサキ抽出物のエキス濃度による抗インフルエンザウイルス効果を示す培地写真である。また図5は、各ムラサキ抽出物のエキス濃度によるインフルエンザウイルス効果を示すグラフである。図4では、上段がエキスB、下段がエキスCであり、それぞれエキス含有率0.08%、0.16%、0.31%でのプラーク発生状況を示す。これらに示すように、用いるエキス濃度(エキス含有率)が高いほどプラーク発生は抑制され、抗インフルエンザ作用が高いことが示された。
【0041】
〔5.-2-2 新規ムラサキ抽出物におけるIC50値〕
エキスBとCのIC50はそれぞれ0.086%と0.007%であった。エキスBは160倍希釈で99.9%以上、320倍希釈で98.0%、640倍希釈で87.5%のウイルスを不活化した。エキスCは160倍希釈で99.9%以上、320倍希釈で99.8%、640倍希釈で99.2%、1,280倍希釈で97.6%のウイルスを不活化した。
【0042】
〔5.-2-3 アセチルシコニン含量に基づくIC50値〕
エキスBとCのアセチルシコニン含量はそれぞれ、0.85mg/mLと4.64mg/mLである。アセチルシコニン量で換算したエキスBとCのIC50はそれぞれ、0.73μg/mLと0.31μg/mLであった。
【0043】
これらの結果から、ムラサキ抽出物(エキスBおよびC)は抗インフルエンザウイルス効果を有することが示された。両抽出物を同等に希釈した場合、エキスCのほうが12.3(0.086/0.007)倍強くウイルスを不活化した。しかし、アセチルシコニン量を元に希釈した場合、その差は2.4(0.73/0.31)倍に減少したことから、抽出物中のアセチルシコニン量がウイルス不活化の主要成分であると考えられた。
【0044】
以上の通り、5%リモネン含有エタノール(95)での抽出によれば、これまでの染色に用いられてきた濃度である70%エタノールを用いた70%エタノール抽出物に対して約230倍、さらにエタノール(95)での抽出物に比較して約4倍の濃度で、アセチルシコニンを抽出することが可能であることが確認できた。なお、5%リモネン含有エタノール(95)抽出物は、抗インフルエンザウイルスへの阻害作用を有する様々な製品への応用が期待できる。
【0045】
<参考文献>
1. 寺田晁, 田上保博, 谷口博重. 古代色素、シコニンとその誘導体の化学. 有機合成化学 1990; 48:866-875.
2. Zhang Y, Han H, Qiu Het al. Antiviral activity of a synthesized shikonin ester against influenza A (H1N1) virus and insights into its mechanism. Biomed Pharmacother 2017; 93:636-645.
3. Li HM, Tang YL, Zhang ZHet al. Compounds from Arnebia euchroma and their related anti-HCV and antibacterial activities. Planta Med 2012; 78:39-45.
4. Gao H, Liu L, Qu ZYet al. Anti-adenovirus activities of shikonin, a component of Chinese herbal medicine in vitro. Biological & pharmaceutical bulletin 2011; 34:197-202.
5. Zhang Y, Han H, Sun Let al. Antiviral activity of shikonin ester derivative PMM-034 against enterovirus 71 in vitro. Braz J Med Biol Res 2017; 50:e6586.
6. Chen X, Yang L, Zhang Net al. Shikonin, a component of chinese herbal medicine, inhibits chemokine receptor function and suppresses human immunodeficiency virus type 1. Antimicrobial agents and chemotherapy 2003; 47:2810-2816.
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8. Ikuta K, Mizuta K, Suzutani T. Anti-influenza virus activity of two extracts of the blackcurrant (Ribes nigrum L.) from New Zealand and Poland. Fukushima J Med Sci 2013; 59:35-38.
9. Ikuta K, Hashimoto K, Kaneko H, Mori S, Ohashi K, Suzutani T. Anti-viral and anti-bacterial activities of an extract of blackcurrants (Ribes nigrum L.). Microbiol Immunol 2012; 56:805-809.
10. Sekizawa H, Ikuta K, Ohnishi-Kameyama M, Nishiyama K, Suzutani T. Identification of the Components in a Vaccinium oldhamii Extract Showing Inhibitory Activity against Influenza Virus Adsorption. Foods 2019; 8.
11. Sekizawa H, Ikuta K, Mizuta K, Takechi S, Suzutani T. Relationship between polyphenol content and anti-influenza viral effects of berries. Journal of the science of food and agriculture 2013; 93:2239-2241.
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のムラサキ属植物抽出物、ムラサキ属植物由来アセチルシコニン、抗インフルエンザ作用付与用組成物等によれば、ムラサキの有効成分であるアセチルシコニンおよびシコニンを高濃度に抽出でき、また、本発明に係る抽出物等はインフルエンザウイルス不活化作用を有する。したがって、保健・医療・農業・農産加工・食品・その他の産業分野、およびこれらに関連する全分野において、産業上利用性が高い発明である。
図1
図2
図3
図4
図5