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特開2023-145278油脂組成物および油脂組成物を含有する焼成食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145278
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】油脂組成物および油脂組成物を含有する焼成食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/007 20060101AFI20231003BHJP
   A21D 2/14 20060101ALI20231003BHJP
   A21D 2/22 20060101ALI20231003BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20231003BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
A23D9/007
A21D2/14
A21D2/22
A21D13/00
A23D9/00 502
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052653
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】三平 浩人
(72)【発明者】
【氏名】石田 栄一
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC03
4B026DG02
4B026DG03
4B026DG04
4B026DH02
4B026DL08
4B026DL09
4B026DL10
4B026DX01
4B026DX02
4B032DB08
4B032DB09
4B032DB13
4B032DB22
4B032DB40
4B032DK18
4B032DK24
4B032DK45
4B032DK51
4B032DL06
4B032DL20
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、特定の油脂中に、乳脂肪を含む食品を酵素処理して得られる酸価の高い風味素材、ビタミンCまたはビタミンCエステル体から選択される1種以上、を含有させることで、風味素材由来のバター風味を長期間持続し、ビタミンCまたはビタミンCエステル体が加熱されることで生じる好ましくない風味を抑制することができる油脂組成物、および前記油脂組成物を含有する焼成食品を提供することにある。
【解決手段】上記課題を解決するために、35℃における固体脂含量が2~15%かつラウリン酸含量が4~30質量%である油脂、乳脂肪のリパーゼ処理物であり酸価が100以上である風味素材、ビタミンCまたはビタミンCエステル体から選ばれる1種以上、を含有し、風味素材の含有量は、0.01~1質量%であり、ビタミンCまたはビタミンCエステル体の含有量は、0.001~0.1質量%である油脂組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
35℃における固体脂含量が2~15%、ラウリン酸含量が4~30質量%である油脂に、乳脂肪のリパーゼ処理物であり酸価が100以上である風味素材、ビタミンCまたはビタミンCエステル体から選択される1種以上、を含有し、
前記風味素材の含有量は、0.01~1質量%であり、前記ビタミンCまたはビタミンCエステル体の含有量は、0.001~0.1質量%である油脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の油脂組成物を含有する焼成食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳脂肪を含む食品を酵素処理して得られる酸価の高い風味素材由来のバター風味を長期間持続し、ビタミンCまたはビタミンCエステル体が加熱されることで生じる好ましくない風味を抑制することができる油脂組成物、および前記油脂組成物を含有する焼成食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品ロスを削減するために、おいしく食べられる期間が長い焼成食品が求められている。焼成食品に使用される食用油脂や卵は、光、温度、酸化などの要因により、風味の劣化を生じ、それにより焼成食品の風味に悪影響を及ぼす。そのため、食用油脂や卵の風味の劣化を抑制し、焼成食品の良好な風味を持続させることが求められる。
【0003】
焼成食品の良好な風味を持続させるために、従来から酸化防止効果を有する物質を添加する方法が用いられている。特許文献1には、ローズマリー抽出物、ビタミンE、ビタミンCエステル体を添加して油脂の劣化が抑制されることが開示されている。特許文献2には、トコフェロール、ルチンから選ばれる1種類以上を含む油脂組成物を使用することで、シュー皮の風味変化が抑制されることが開示されている。特許文献3には、カロテン、レシチン、ビタミンCおよび/またはビタミンCエステル体、トコフェロールを含む油脂組成物を使用することで、米菓またはスナック菓子の風味変化が抑制されることが開示されている。特許文献4には、バター由来の油脂にトコフェロール、ポリフェノール系抗酸化物質を含有することで、曝光下でのペストリーの風味変化が抑制されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-195434号公報
【特許文献2】特開2006-141271号公報
【特許文献3】特開2014-7993号公報
【特許文献4】特開2007-143430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そのような酸化防止剤の効果は添加量を増やせばより効果的であるが、焼成食品の良好な風味を持続させるために使用する酸化防止効果を有する物質には加熱による分解反応、重合反応、ならびに酸化防止効果を有する物質自身の酸化等により、酸化防止効果を有する物質自身の風味が変化し、焼成食品の良好な風味に悪影響を及ぼすことがあり、実際の使用においてはその添加量に制限がある。そのため、酸化防止効果を有する物質を添加することで焼成食品の良好な風味を持続する効果を発揮しつつ、酸化防止効果を有する物質が加熱されることで生じる好ましくない風味を抑制することが求められる。
【0006】
本発明の課題はこのような現状に鑑み、特定の油脂中に、乳脂肪を含む食品を酵素処理して得られる酸価の高い風味素材、ビタミンCまたはビタミンCエステル体を含有させることで、風味素材由来のバター風味を長期間持続し、ビタミンCまたはビタミンCエステル体が加熱されることで生じる好ましくない風味を抑制することができる油脂組成物、および前記油脂組成物を含有する焼成食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、35℃における固体脂含量とラウリン酸含量を特定の値にした油脂に、乳脂肪のリパーゼ処理物であって酸価が高い風味素材、ビタミンCまたはビタミンCエステル体を含有させることで、風味素材由来のバター風味を長期間持続し、ビタミンCまたはビタミンCエステル体が加熱されることで生じる好ましくない風味を抑制することができる油脂組成物、および前記油脂組成物を含有する焼成食品が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の〔1〕~〔2〕である。
〔1〕35℃における固体脂含量が2~15%かつラウリン酸含量が4~30質量%である油脂、乳脂肪のリパーゼ処理物であり酸価が100以上である風味素材、ビタミンCまたはビタミンCエステル体から選ばれる1種以上、を含有し、前記風味素材の含有量は、0.01~1質量%であり、前記ビタミンCまたはビタミンCエステル体の含有量は、0.001~0.1質量%である油脂組成物。
〔2〕〔1〕記載の油脂組成物を含有する焼成食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の油脂組成物によれば、特定の油脂中に、乳脂肪を含む食品を酵素処理して得られる酸価の高い風味素材、ビタミンCまたはビタミンCエステル体を含有させることで、風味素材由来のバター風味を持続し、ビタミンCまたはビタミンCエステル体が加熱されることで生じる好ましくない風味を抑制することができる油脂組成物、および前記油脂組成物を含有する焼成食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。本発明の油脂組成物は35℃における固体脂含量が2~15%かつラウリン酸含量が4~30質量%である油脂中、乳脂肪のリパーゼ処理物であり酸価が100以上である風味素材、ビタミンCまたはビタミンCエステル体から選ばれる1種以上、を含有することを特徴とするものである。本発明の油脂組成物はマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングいずれの形態においてもその効果を発揮することができる。
【0011】
なお本発明における、風味素材由来のバター風味とは、本発明の油脂組成物を含有する焼成食品を喫食した際に、トップ(食品を口に入れた瞬間)~ラスト(食品を飲み込んだ直後)に感じるバター様のまろやかでコク深い香り立ちとコクのある脂肪感のことであり、ビタミンCまたはビタミンCエステル体由来の風味とは、本発明の油脂組成物を含有する焼成食品を喫食した際に、トップ~ラストに感じる酸臭、金属臭の香り立ち、酸味、苦味、渋味の複合的な味のことである。
【0012】
〔油脂〕
油脂には、食用に適する油脂が使用できる。具体的には、牛脂、豚脂、魚油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、大豆油、コーン油、コメ油、バター、バターオイル等の動植物油脂、およびこれらの硬化油、極度硬化油、エステル交換油等が挙げられ、これらの群から選ばれる1種類以上を使用できる。
【0013】
本発明の油脂組成物に使用する油脂中の35℃における固体脂含量は2~15%であり、好ましくは5~12%である。人の口腔内の温度は約35℃であるため、35℃の固体脂含量が低い場合、焼成食品喫食時の油脂の口溶けが良く、油脂組成物を用いて製造した焼成食品の風味素材由来の良好なバター風味を感じやすくなるが、ビタミンCまたはビタミンCエステル体由来の好ましくない風味も感じやすくなる。一方、35℃の固体脂含量が高い場合、焼成食品喫食時の油脂の口溶けが悪く、油脂組成物を用いて製造した焼成食品のビタミンCまたはビタミンCエステル体由来の好ましくない風味を感じにくくなるが、風味素材由来の良好なバター風味も感じにくくなる。
【0014】
本発明の油脂組成物に使用する油脂中のラウリン酸含量は4~30質量%であり、好ましくは10~24質量%である。油脂中にラウリン酸を一定量含むことで、焼成食品喫食時の油脂の口溶けが良くなり、油脂組成物を用いて製造した焼成食品の風味素材由来の良好なバター風味を感じやすくなるが、ビタミンCまたはビタミンCエステル体由来の好ましくない風味も感じやすくなる。そのため、ラウリン酸含量が30質量%を超えると、ビタミンCまたはビタミンCエステル体由来の好ましくない風味が強くなる。一方、油脂中のラウリン酸含量が4質量%よりも少ないと、焼成食品喫食時の油脂の口溶けが悪く、油脂組成物を用いて製造した焼成食品のビタミンCまたはビタミンCエステル体由来の好ましくない風味を感じにくくなるが、風味素材由来の良好なバター風味も感じにくくなる。なお、ラウリン酸含量の調整は、例えば、ヤシ油、パーム核油などのラウリン系油脂を配合することにより調整することができる。
【0015】
なお、35℃における油脂中の固体脂含量および脂肪酸組成は、基準油脂分析試験法「2.2.9-2013 固体脂含量(NMR法)」、「2.4.2.2-2013脂肪酸組成」に準じて測定した。
【0016】
〔風味素材〕
本発明における風味素材は、乳脂肪を含む食品をリパーゼで処理して製造した乳脂肪のリパーゼ分解物である。乳脂肪を含む食品としては、バター、発酵バター、バターオイル、チーズ、生クリーム、牛乳、バターミルク、全粉乳等が挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1種類以上を使用できる。リパーゼとしては、動植物、微生物から分離した各種酵素を使用できる。具体的には、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、リゾープス(Rhizopus)属等の糸状菌、キャンディダ(Candida)属等の酵母、小山羊、山羊、小牛の口頭分泌腺から採取されるオーラル・リパーゼ(Oral Lipase)等が挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1種類以上のリパーゼを使用できる。
【0017】
酵素による乳脂肪を含む食品の分解は、酵素の種類に応じて一般に用いられている至適温度、至適pH等の条件で行うことができる。例えば、乳脂肪を含む食品100質量部を攪拌しながら、予め水0.01~50質量部にリパーゼ0.001~2質量部を溶解したリパーゼ水溶液を添加し、25℃~60℃、pH4.0~8.0の範囲で分解を行う。目標となる酸価に達した後、酵素反応阻害剤を添加したり、あるいは加熱処理したりして酵素反応を停止させる。また、遠心分離等により水分等を除去してもよい。油脂組成物に添加する風味素材中の酸価は100以上であり、酸価が100未満の場合、油脂組成物を用いて製造した焼成食品の風味素材由来のバター風味が弱く、ビタミンCまたはビタミンCエステル体由来の風味が十分に抑制されない。また、酸価の上限は、特に制限されないが、好ましくは150以下である。
【0018】
なお、上記で得た風味素材中の酸価は、基準油脂分析試験法「2.3.1-2013 酸価」に準じて測定を行った。
【0019】
油脂組成物中における風味素材の含有量は、特に制限されないが、油脂組成物100質量%に対する風味素材が、好ましくは0.01~1質量%である。含有量の下限値は、より好ましくは0.1質量%以上である。含有量の上限値は、より好ましくは0.75質量%以下である。油脂組成物中における風味素材の含有量が上記範囲である場合、風味素材由来の良好なバター風味が強く発揮され、ビタミンCまたはビタミンCエステル体由来の風味を十分に抑制する。
【0020】
また、本発明の油脂組成物を含有する焼成食品における風味素材の含有量は、穀粉100質量部に対する風味素材が、好ましくは0.001~1質量部である。含有量の下限値は、より好ましくは0.01質量部以上である。含有量の上限値は、より好ましくは0.75質量部以下である。この範囲とすることにより、焼成食品に風味素材由来の良好なバター風味を付与することができる。
【0021】
〔ビタミンCまたはビタミンCエステル体〕
本発明におけるビタミンCまたはビタミンCエステル体としては、ビタミンC、ビタミンCパルミテート、ビタミンCステアレート等が挙げられ、これらの群から選ばれる1種類以上を使用できる。
【0022】
油脂組成物中におけるビタミンCまたはビタミンCエステル体から選ばれる1種以上の含有量は、油脂組成物100質量%に対するビタミンCまたはビタミンCエステル体から選ばれる1種以上が、好ましくは0.001~0.1質量%である。含有量の下限値は、より好ましくは0.01質量%以上である。含有量の上限値は、より好ましくは0.075質量%以下である。油脂組成物中におけるビタミンCまたはビタミンCエステル体から選ばれる1種以上の含有量が上記範囲である場合、風味持続素材の良好なバター風味を長期間持続することができる。
【0023】
また、本発明の油脂組成物を含有する焼成食品におけるビタミンCまたはビタミンCエステル体から選ばれる1種以上の含有量は、穀粉100質量部に対するビタミンCまたはビタミンCエステル体から選ばれる1種以上が、好ましくは0.0001~0.1質量部である。含有量の下限値は、より好ましくは0.001質量部以上である。含有量の上限値は、より好ましくは0.075質量部以下である。
【0024】
〔油脂組成物〕
本発明の油脂組成物は、油脂および油溶性成分からなる油相と、水および水溶性成分から成る水相からなり、水相を実質的に含有しない形態(水相の含有量が0.5質量%以下)、および油相と水相から成り水相を含有する形態、いずれでもかまわない。水相を含有する形態としては油中水型あるいは水中油型等の形態が挙げられる。本発明の油脂組成物を使用する際には良好な可塑性を示し作業性が良いものが求められているため、油中水型とすることが好ましい。
【0025】
本発明の油脂組成物における油脂の含有量は特に制限されないが、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。また、本発明の油脂組成物における水分の含有量は特に制限されないが、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下である。
【0026】
本発明の油脂組成物には、35℃における固体脂含量が2~15%かつラウリン酸含量が4~30質量%である油脂、乳脂肪のリパーゼ処理物であり酸価が100以上である風味素材、ビタミンCまたはビタミンCエステル体から選ばれる1種以上の他、乳化剤、酸化防止剤、動植物タンパク質、乳、乳製品、澱粉、糖類、塩類、増粘多糖類、酸味料、酵素、pH調整剤等の安定剤、香辛料、呈味素材、フレーバー等の原料を本発明の効果を損なわない範囲において配合してもよい。
【0027】
本発明の油脂組成物の製造方法は特に制限されず、公知の方法により製造することができる。例えば、水相を含有する形態で油中水型のものであれば、70℃に加熱、溶解した上記の油脂に、乳脂肪のリパーゼ処理物であり酸価が100以上である風味素材、ビタミンCまたはビタミンCエステル体から選ばれる1種以上を添加して作製した油相と水相とを、70℃に加熱、混合して乳化した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター等の冷却混合機により急冷捏和することにより得ることができる。また、水相を含有する形態で水中油型のものであれば、70℃に加熱、溶解した上記の油脂に、乳脂肪のリパーゼ処理物であり酸価が100以上である風味素材、ビタミンCまたはビタミンCエステル体から選ばれる1種以上を添加して作製した油相と水相とを、70℃に加熱、混合して乳化した後、ホモジナイザー等の均質機により均質化を行い、冷却することにより得ることができる。また、水相を含有しない形態のものであれば、70℃に加熱、溶解した上記の油脂に、乳脂肪のリパーゼ処理物であり酸価が100以上である風味素材、ビタミンCまたはビタミンCエステル体から選ばれる1種以上を添加し、70℃に加熱、混合した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター等の冷却混合機により急冷捏和し、必要に応じてテンパリングすることにより得ることができる。本発明の油脂組成物の形状は、特に制限されない。
【0028】
〔焼成食品〕
本発明の焼成食品とは、穀粉と本発明の油脂組成物を含有することを特徴とした穀粉生地を、オーブン、フライヤー、蒸し器等で90℃以上に加熱して得られるものである。好ましくは、生地中の穀粉量が15~60質量%であり、生地中の油脂組成物の量が5~40質量%である。本発明の油脂組成物を使用した焼成食品の製造に適した穀粉としては、小麦粉、米粉、大麦粉、ライ麦粉等が挙げられ、本発明の穀粉生地はシュガーバッター法、オールインミックス法、共立法のいずれの製法でも製造することができる。本発明の油脂組成物を使用して製造する焼成食品は、例えば、パイ等のペストリー類、パウンドケーキ、クッキー、フィナンシェ、スポンジケーキ、マフィン、バームクーヘン、シフォンケーキ、カステラ、どら焼き、焼まんじゅう、もみじまんじゅう、ホットケーキ、スコーン、マドレーヌ、ワッフル、バターケーキ、サブレ等の焼き菓子類やロングライフパンが挙げられる。なお、本発明の油脂組成物の用途としては、上記に制限されるものではない。
【実施例0029】
以下に本発明をさらに具体的に説明する。本発明の油脂組成物は以下の実施例に何ら限定されるものではない。配合量と配合割合は質量基準である。
【0030】
(油脂の製造)
実施例1では溶解させたパームステアリン50g、パーム油100g、ヤシ油370g、ナタネ油480gを混合して、油脂1000gを得た。実施例2~12、比較例1~12は表1~2に示す配合割合に従って、実施例1と同様に油脂を製造した。なお、上記で用いた油脂の35℃における固体脂含量および脂肪酸組成は、基準油脂分析試験法「2.2.9-2013 固体脂含量(NMR法)」、「2.4.2.2-2013脂肪酸組成」に準じて測定した。
【0031】
(風味素材の製造)
乳脂肪として溶解させたバター(明治株式会社製:明治バター)70gに、水26.5gにリパーゼ(「リパーゼAY「アマノ」30SD」天野エンザイム(株))0.5gを添加して作製したリパーゼ溶液を添加し、45℃に保温しながらスターラーで撹拌を行った。目標とする酸価に達した後、85℃で15分間加熱してリパーゼを失活させ、風味素材(風味素材A:酸価102、風味素材B:酸価54)を得た。なお、酸価は、基準油脂分析試験法「2.3.1―2013 酸価」に準じて測定を行った。
【0032】
(油脂組成物の製造)
実施例1では表1に記した原料油脂を混合した油脂830gに対し、モノグリセリンモノ脂肪酸エステル(「エマルジーMP」(モノグリセリンモノ脂肪酸エステル)理研ビタミン(株))2g、大豆レシチン(「レシチンFA」(大豆レシチン)J-オイルミルズ(株))0.5g、風味素材5g、ビタミンCパルミテート(三菱ケミカル(株))0.5gを添加し、70℃に加熱し油相部とした。この油相部に対し、食塩10gを水152gに溶解させた水相部を添加し、70℃に加熱しながらプロペラ撹拌機で撹拌し乳化した。これをコンビネーターにて急冷混和し、油脂組成物としてのマーガリンを得た。実施例2~11、および比較例4~12は表1~2に示す配合割合に従って、実施例1と同様にマーガリンを製造した。比較例1~3は、風味素材、ビタミンCまたはビタミンCエステル体を添加しないこと以外は、上記と同様にしてマーガリンを製造した。実施例12では表1に記した配合割合の油脂992gに対し、モノグリセリンモノ脂肪酸エステル2g、大豆レシチン0.5g、乳脂肪を含む食品をリパーゼで処理して得られた風味素材5g、ビタミンまたはビタミンCエステル体から選ばれる1種以上を0.5g添加し、70℃に加熱した油相をコンビネーターにて急冷混和し、油脂組成物としてのショートニングを得た。
【0033】
(焼成食品(パウンドケーキ)の製造)
実施例1~12、および比較例1~12の油脂組成物を使用した焼成食品としてパウンドケーキを製造し、評価に用いた。すなわち、表1~2に記した実施例1~12、および比較例1~12の油脂組成物300gと上白糖300gをホバートミキサーに投入し、1速で10分間ミキシング後、全卵300gを投入し、1速で10分ミキシングした。その後、ふるいで振るった薄力粉300g、ベーキングパウダー3gを投入し、1速で1分ミキシングしてパウンドケーキの生地を得た。得られた生地を3分割して型に入れて、上火165℃・下火150℃のオーブンで34分焼成し、パウンドケーキを得た。室温にて放冷したパウンドケーキを型から外してポリ袋に投入し、ヒートシールした後、25℃で保管した。
【0034】
(焼成食品(パウンドケーキ)の評価)
専門のパネラー10人にて、室温にて実施例、および比較例のパウンドケーキを喫食し、焼成後1日保管、焼成後30日保管の「風味素材由来のバター風味」、焼成後1日保管の「ビタミンCまたはビタミンCエステル体由来の風味」について以下の基準で評価した。
【0035】
[風味素材由来のバター風味]
10名のパネラーにて官能評価を行い、比較例1の油脂組成物を用いて製造したパウンドケーキをコントロールとして、次の基準により採点し、その平均値にて評価した。評価結果は表1~2に示した。
<採点基準>
3点:コントロールと比べて、トップ~ラストにおけるバター様のまろやかでコク深い香り立ちとコクのある脂肪感を強く感じる。
2点:コントロールと比べて、トップ~ラストにおけるバター様のまろやかでコク深い香り立ちとコクのある脂肪感を感じる。
1点:コントロールと同様に、トップ~ラストにおけるバター様のまろやかでコク深い香り立ちとコクのある脂肪感を感じない。
<評価基準>
◎:2.5~3.0点
○:2.0~2.4点
×:1.0~1.9点
【0036】
[ビタミンCまたはビタミンCエステル体由来の風味]
10名のパネラーにて官能評価を行い、比較例1の油脂組成物を用いて製造したパウンドケーキをコントロールとして、次の基準により採点し、その平均値にて評価した。評価結果を表1~2に示した。
<採点基準>
3点:コントロールと同様に、トップ~ラストにおける酸臭、金属臭の香り立ち、酸味、苦味、渋味を感じない。
2点:コントロールと比べて、トップ~ラストにおける酸臭、金属臭の香り立ち、酸味、苦味、渋味をほとんど感じない。
1点:コントロールと比べて、トップ~ラストにおける酸臭、金属臭の香り立ち、酸味、苦味、渋味を感じる。
<評価基準>
◎:2.5~3.0点
○:2.0~2.4点
×:1.0~1.9点
【0037】
(表1)
実施例1~12
【0038】
(表2)
比較例1~12
【0039】
表1~2をみると、実施例1~12では焼成後1日保管したパウンドケーキにおけるビタミンCまたはビタミンCエステル体由来の風味が抑制され、風味素材由来のバター風味が強く、焼成後30日保管したパウンドケーキにおける風味素材由来のバター風味が持続していた。一方、比較例1~12では、焼成後1日保管、焼成後30日保管におけるパウンドケーキの風味素材由来のバター風味、ビタミンCまたはビタミンCエステル体由来の風味のいずれかの評価が劣ることがわかる。
【0040】
(焼成食品(クッキー)の製造)
実施例2、比較例1の油脂組成物135gと上白糖102gをホバートミキサーに投入し、1速で2分ミキシング後、全卵45gを投入し、1速で2分30秒ミキシングした。その後、ふるいで振るった薄力粉300g、ベーキングパウダー0.9gを投入し、1速30秒ミキシングしてクッキー生地を得た。冷蔵庫で一晩寝かせたクッキー生地を、厚さ3mmに伸ばし、内径4cmの円型を用いて成型し、上火170℃、下火140℃のオーブンで15分焼成し、クッキーを得た。室温にて放冷したクッキーをポリ袋に投入してヒートシールした後、25℃で保管した。
【0041】
(焼成食品(クッキー)の評価)
比較例1の油脂組成物を使用して製造し、焼成後1日保管したクッキーをコントロールとした。実施例2の油脂組成物を使用して製造し、焼成後1日保管したクッキーを室温にて喫食したところ、コントロールに比べて風味素材由来のバター風味が強く感じられ、ビタミンCまたはビタミンCエステル体由来の風味は感じられなかった。また、実施例2の油脂組成物を使用して製造し、焼成後30日保管したクッキーを室温にて喫食したところ、風味素材由来のバター風味が強く感じられ、風味素材由来のバター風味が持続していた。
【0042】
(焼成食品(フィナンシェ)の製造)
ナタネ油60g、粉糖300g、卵白300gをホバートミキサーに投入し、1速で2分ミキシング後、ふるいで振るった薄力粉300、ベーキングパウダー3gを投入し、1速で1分ミキシングした。その後、60℃に保温して溶解させた実施例2、比較例1の油脂組成物240gを投入し、1速で1分ミキシングしてフィナンシェ生地を得た。得られたフィナンシェ生地を35gに分割して型に入れて、上火200℃、下火150℃のオーブンで12分焼成し、フィナンシェを得た。室温にて放冷したフィナンシェをポリ袋に投入してヒートシールした後、25℃で保管した。
【0043】
(焼成食品(フィナンシェ)の評価)
比較例1の油脂組成物を使用して製造し、焼成後1日保管したフィナンシェをコントロールとした。実施例2の油脂組成物を使用して製造し、焼成後1日保管したフィナンシェを室温にて喫食したところ、コントロールに比べて風味素材由来のバター風味が強く感じられ、ビタミンCまたはビタミンCエステル体由来の風味は感じられなかった。また、実施例2の油脂組成物を使用して製造し、焼成後30日保管したフィナンシェを室温にて喫食したところ、風味素材由来のバター風味が強く感じられ、風味素材由来のバター風味が持続していた。
【0044】
(焼成食品(マドレーヌ)の製造)
ナタネ油75g、グラニュー糖300g、全卵300g、卵黄60gをホバートミキサーに投入し、1速で5分ミキシング後、ふるいで振るった薄力粉300g、ベーキングパウダー3gを投入し、1速で2分ミキシングした。その後、60℃に保温して溶解させた実施例2、比較例1の油脂組成物210gを投入し、1速で1分ミキシングしてマドレーヌ生地を得た。得られたマドレーヌ生地を40gに分割して型に入れて、上火170℃、下火150℃のオーブンで20分焼成し、マドレーヌを得た。室温にて放冷したマドレーヌをポリ袋に投入してヒートシールした後、25℃で保管した。
【0045】
(焼成食品(マドレーヌ)の評価)
比較例1の油脂組成物を使用して製造し、焼成後1日保管したマドレーヌをコントロールとした。実施例2の油脂組成物を使用して製造し、焼成後1日保管したマドレーヌを室温にて喫食したところ、コントロールに比べて風味素材由来のバター風味が強く感じられ、ビタミンCまたはビタミンCエステル体由来の風味は感じられなかった。また、実施例2の油脂組成物を使用して製造し、焼成後30日保管したマドレーヌを室温にて喫食したところ、風味素材由来のバター風味が強く感じられ、風味素材由来のバター風味が持続していた。
【0046】
(焼成食品(パイ)の製造)
薄力粉300g、強力粉700g、食塩15gをミキサーに投入し、1速で2分間ミキシング後、1cm角のさいころ状に刻んだ実施例2、比較例1の油脂組成物700g、水400gを投入し、1速で1分ミキシングした。得られたパイ生地を冷蔵した後、4つ折りを2回、3つ折りを2回行い、3mmまで伸ばした。伸ばした生地にピケを打ち、葉状の型を用いて成形し、上火190℃、下火190℃のオーブンで18分焼成し、パイを得た。室温にて放冷したパイをポリ袋に投入してヒートシールした後、25℃で保管した。
【0047】
(焼成食品(パイ)の評価)
比較例1の油脂組成物を使用して製造し、焼成後1日保管したパイをコントロールとした。実施例2の油脂組成物を使用して製造し、焼成後1日保管したパイを室温にて喫食したところ、コントロールに比べて風味素材由来のバター風味が強く感じられ、ビタミンCまたはビタミンCエステル体由来の風味は感じられなかった。また、実施例2の油脂組成物を使用して製造し、焼成後30日保管したパイを室温にて喫食したところ、風味素材由来のバター風味が強く感じられ、風味素材由来のバター風味が持続していた。
【0048】
(焼成食品(バームクーヘン)の製造)
流動状ショートニング(「サンショート」日油(株))750g、上白糖1650g、水あめ(「ハローデックス」(株)林原)300gをミキサーに投入し、低速で1分ミキシング後、全卵3000gを投入し、高速で5分ミキシングした。その後、ふるいで振るった薄力粉1500g、ベーキングパウダー60gを投入し、中高速で15秒ミキシングし、生クリーム450g、牛乳225g、60℃に保温して溶解させた実施例2、比較例1の油脂組成物750gを投入し、低速で1分ミキシングしてバームクーヘン生地を得た。得られたバームクーヘン生地を、バームクーヘンオーブン((株)不二商会、FIND-1 TWIN)を用いて、下記条件で焼成し、バームクーヘンを得た。室温にて放冷したバームクーヘンを食品用ラップで包んで1晩置き、スライスした後、ポリ袋に投入してヒートシールした後、25℃で保管した。
【0049】
[バームクーヘン焼成条件]
設定温度:420℃
生地巻き時間:15秒
焼成時間:ひと巻あたり60秒×20巻
【0050】
(焼成食品(バームクーヘン)の評価)
比較例1の油脂組成物を使用して製造し、焼成後1日保管したバームクーヘンをコントロールとした。実施例2の油脂組成物を使用して製造し、焼成後1日保管したバームクーヘンを室温にて喫食したところ、コントロールに比べて風味素材由来のバター風味が強く感じられ、ビタミンCまたはビタミンCエステル体由来の風味は感じられなかった。また、実施例2の油脂組成物を使用して製造し、焼成後30日保管したバームクーヘンを室温にて喫食したところ、風味素材由来のバター風味が強く感じられ、風味素材由来のバター風味が持続していた。