(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145291
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】ターゲットトレイ、スパッタ成膜装置および成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20231003BHJP
H01L 21/203 20060101ALI20231003BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C23C14/34 C
C23C14/34 L
C23C14/34 A
H01L21/203 S
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022066614
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】521257673
【氏名又は名称】株式会社TAK薄膜デバイス研究所
(74)【代理人】
【識別番号】597125863
【氏名又は名称】株式会社ケミトロニクス
(71)【出願人】
【識別番号】597125863
【氏名又は名称】株式会社ケミトロニクス
(72)【発明者】
【氏名】藤井 隆満
(72)【発明者】
【氏名】本間 康之
【テーマコード(参考)】
4K029
5F045
5F103
【Fターム(参考)】
4K029AA04
4K029AA06
4K029AA09
4K029BA43
4K029BA58
4K029BB02
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4K029DC16
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4K029DC34
4K029DC40
4K029DC45
5F045AA19
5F045AB14
5F045AB40
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5F045AC15
5F045AE01
5F045BB08
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5F103GG02
5F103NN01
5F103NN06
5F103RR10
(57)【要約】
【課題】液体金属ガリウムをターゲットとして用いたスパッタ成膜において、再現性の高い成膜を実現する。
【解決手段】液体金属ガリウムをターゲットとして用いてスパッタを行う成膜装置において、液体金属ガリウムを収容するターゲットトレイを設置するターゲット設置部と、液体金属ガリウムを30℃以上に保持する温度保持機構と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体金属ガリウムをターゲットとして用いてスパッタを行う成膜装置であって、
前記液体金属ガリウムを収容するターゲットトレイと、
前記ターゲットトレイを設置するターゲット設置部と、
前記液体金属ガリウムを30℃以上に保持する温度保持機構と、
反応性スパッタのためのガス導入機構を、
備えた成膜装置。
【請求項2】
前記温度保持機構が、前記ターゲット設置部に備えられた、30℃以上の熱媒体を循環させる媒体循環機構である、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記のターゲット設置部に設置した前記ターゲットトレイ内に収容された前記液体金属ガリウムを搖動する搖動機構を備えた、請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記ターゲット上に磁界を発生させる磁場発生用磁石を前記ターゲット設置部に設けてマグネトロンスパッタ成膜装置を構成し、
更に、前記磁場発生用磁石を回転させる回転機構を設け、
前記ターゲットトレイに収容された前記液体金属ガリウム中に磁性体または磁石を挿入し、前記磁場発生用磁石の回転に伴い前記磁性体または前記磁石を、前記液体金属ガリウム中で移動させることによって、前記液体金属ガリウムを撹拌する、「磁気撹拌機構」を備えた、請求項1~3の何れか1項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記ターゲットトレイ内に磁界を発生させる磁場発生用磁石を前記のターゲット設置部に設け、
前記ターゲットトレイに収容された前記液体金属ガリウム中に磁性体又は磁石を挿入し、前記磁場発生用磁石を回転させることにより前記磁性体または前記磁石を前記液体金属ガリウム中で移動させて前記液体金属ガリウムを撹拌する「磁気撹拌機構」を備えた、請求項1~3の何れか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記のターゲットトレイは、前記液体ガリウム(第1ターゲット)と、第2ターゲットとによる共スパッタをするためのターゲットトレイであって、
前記の第2ターゲットは、液体金属ガリウム以外の金属、金属の酸化物、金属の窒化物、又は、半導体に対するドーパント元素を含む材料のいずれかであり、いずれも融点が30℃以上である材料であって、
前記ターゲットトレイの底面又は側壁内面の任意位置に、前記の第2ターゲットを前記ターゲットトレイに固定するための1個以上の「ターゲット支持体」(以下では、「TG支持体」と略称する。)を設け、
あるいは、前記ターゲットトレイの底面から隆起し、その上端が前記液体ガリウムの液面から突き出る1個以上の「島状TG支持体」を設け、更にその上端面には1個以上の「上端ピット」を設け、
さらに、その先端が前記液体ガリウムの液面よりも突き出るように形状加工した前記の第2ターゲットを前記の「TG支持体」に固定し、
また、前記の「上面ピット」に収容できるサイズに形状加工した前記の第2ターゲットを前記「上面ピット」に装着し、
更には又、前記第2ターゲットが前記液体ガリウムよりも比重の小さい場合にあっては、前記第2ターゲットを前記液体ガリウムの液面上に浮上させて前記第2ターゲットをセットして、
前記ガリウム(第1ターゲット)と前記第2ターゲットとの共スパッタによる成膜を行う、請求項1~5の何れか1項に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記液体ガリウム上、又は液体ガリウム中に設置される前記第2ターゲットが、前記液体ガリウムと接触する面を、樹脂あるいは炭素系材料あるいはセラミックス材料でコーティングしている、請求項6に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記ターゲットに印加する電圧が直流である、請求項1~7の何れか1項に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記ターゲットトレイの内面のうち、少なくとも前記液体ガリウムと接触する部分を炭素系材料又はセラミックスで構成している、
請求項1~8の何れか1項に記載の成膜装置。
【請求項10】
液体ガリウムをターゲットとするスパッタに用いるターゲットトレイであって、前記液体ガリウムを収容する前記ターゲットトレイの内面のうち、少なくとも前記液体ガリウムと接触する部分を炭素系材料又はセラミックスで構成した、
スパッタ用ターゲットトレイ。
【請求項11】
ターゲットとなる液体金属ガリウムを収容したターゲットトレイを成膜装置内のターゲット設置部に設置し、
前記ターゲットトレイに収容された前記液体金属ガリウムを30℃以上に保持した状態で、
アルゴンガスと、反応性ガスとしての酸素ガスおよび/または窒素ガスとを前記成膜装置内にフローさせて、反応性スパッタによる成膜を行う成膜方法。
【請求項12】
前記ターゲットトレイに収容された前記液体金属ガリウムを搖動または撹拌しつつ、前記反応性スパッタを行う、請求項11に記載の成膜方法。
【請求項13】
前記ターゲット上に磁界を発生させる磁場発生用磁石を前記ターゲット設置部に設けてマグネトロンスパッタ成膜装置を構成し、
更に、前記磁場発生用磁石を回転させる回転機構を設け、
前記ターゲットトレイに収容された前記液体金属ガリウム中に磁性体又は磁石を挿入し、前記磁場発生用磁石の回転に伴い前記磁性体または前記磁石を、前記液体金属ガリウム中で移動させることによって、前記液体金属ガリウムを撹拌する、「磁気撹拌機構」を用いる、請求項11または12に記載の成膜方法。
【請求項14】
前記のターゲットトレイは、前記液体ガリウム(第1ターゲット)と、第2ターゲットとによる共スパッタをするためのターゲットトレイであって、
前記の第2ターゲットは、液体金属ガリウム以外の金属、金属の酸化物、金属の窒化物、又は、半導体に対するドーパント元素を含む材料のいずれかであり、いずれも融点が30℃以上である材料であって、
前記ターゲットトレイの底面又は側壁内面の任意位置に、前記の第2ターゲットを前記ターゲットトレイに固定するための1個以上の「ターゲット支持体」(以下では、TG支持体と略称する。)を設け、
あるいは、前記ターゲットトレイの底面から隆起し、その上端が前記液体ガリウムの液面から突き出る1個以上の「島状TG支持体」を設け、更にその上端面には1個以上の「上端ピット」を設け、
また、その先端が前記液体ガリウムの液面よりも突き出るように形状加工した前記の第2ターゲットを前記の「TG支持体」に固定し、更に前記の「上面ピット」に収容できるサイズに形状加工した前記の第2ターゲットを前記「上面ピット」に装着し、
さらには、前記の第2ターゲットが前記液体ガリウムよりも比重の小さい場合にあっては、前記第2ターゲットを前記液体ガリウムの液面上に浮上させて前記第2ターゲットをセットし、
また、前記液体ガリウム上、又は液体ガリウム中に設置される前記第2ターゲットが、前記液体ガリウムと接触する面を、樹脂あるいは炭素系材料あるいはセラミックスでコーティングを施して、
前記ガリウム(第1ターゲット)と前記第2ターゲットとの共スパッタによる成膜を行う、請求項11~13の何れか1項に記載の成膜方法。
【請求項15】
成膜中に前記成膜装置内にフローさせる反応性ガスを前記酸素ガスから前記窒素ガス、あるいは前記窒素ガスから前記酸素ガスに切り替え、酸化ガリウムおよび窒化ガリウムの積層膜を成膜する、請求項11~14の何れか1項に記載の成膜方法。
【請求項16】
成膜開始から所定膜厚に至るまでの前記反応性ガスの濃度が、前記所定膜厚以降での前記反応性ガスの濃度よりも低くなる条件で成膜する、請求項11~15の何れか1項に記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はターゲットトレイ、スパッタ成膜装置および成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガリウム(Ga)の酸化物および窒化物には、発光材料、パワー半導体素子および圧電体など様々な用途がある。特に、Gaの酸化物および窒化物は、パワー半導体素子としての性能(性能指数)が炭化ケイ素(SiC)よりも優れている。具体的には、パワー半導体素子の動作時(通電状態)における抵抗(オン抵抗)が低いという特徴がある。オン抵抗とはパワー半導体素子の主要な性能指数であり、値が小さいほど高性能であることを意味する。オン抵抗が小さいとその分電力の損失が少なく済む。そのため、パワー半導体素子における高耐圧と低損失を両立させるための材料として、Gaの酸化物(酸化ガリウム)および窒化物(窒化ガリウム)を用いることが検討されている。
【0003】
窒化ガリウムはLED(light emitting diode)材料として使用されているが、現在は膜形成にはMOCVD(metal organic chemical vapor deposition)が用いられており、1000℃以上の高温で成膜されている。他方、スパッタを用いて窒化ガリウムあるいは酸化ガリウムを成膜する手法も検討されている。
【0004】
スパッタによって、金属酸化物あるいは金属窒化物を成膜する方法は大きく分けて2通りある。一つは、金属ターゲットを使用する方法、もう一つは金属酸化物あるいは金属窒化物のターゲットを使用する方法である。
【0005】
工業的には金属ターゲットを使用し、反応性スパッタ(スパッタガスに酸素や窒素を入れる)方法がよく用いられている。これは、金属材料のスパッタの方が、酸化物あるいは窒化物のターゲットを用いるよりも成膜速度が著しく速いこと、金属材料は導電性がありDC(Direct Current)スパッタが利用できること、および金属ターゲットは割れにくいこと、などの理由による。
【0006】
しかしながら、金属ガリウムは室温では液体状態であり、通常の金属ターゲットのような取り扱いができない。金属ガリウムは反応性が高くハンドリングが難しい。したがって、金属ガリウムをターゲットとするスパッタは一般的ではないが、金属ガリウムを用いた成膜方法が、例えば特許文献1~3および非特許文献1等に開示されている。
【0007】
特許文献1、2では、液体金属ガリウムをターゲットとして用いたスパッタ方法が開示されている。特許文献1では、液体金属ガリウムを収容するトレイとして、液体金属ガリウムと反応しないモリブデンなどの材質で形成されたトレイを用いることが開示されている。
【0008】
他方、特許文献3では、ガリウムを冷却して固相に維持した状態でターゲットとして用い、成膜する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004-327905号公報
【特許文献2】特開2012-246204号公報
【特許文献3】特開2013-227198号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.98,141915(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
既述の通り、特許文献1には、液体金属ガリウムと反応しない材質の例としてモリブデンが挙げられている。しかしながら、液体状態の金属ガリウムは多種金属の粒界に侵入し脆化させる特徴があるため、モリブデンから形成されたトレイであっても金属であるために、金属ガリウムによる侵食が少なからず生じ、トレイが脆化したり、穴が開いて金属ガリウムが漏れ出したりする懸念がある。特に量産などを考えた場合には長時間安定することが重要であり、通常の金属材料のトレイでは困難であると予想される。
【0012】
既述の通り、特許文献3では金属ガリウムを液体状態ではなく固体状態にて成膜する方法が行われている。この場合は、初期状態では固体状態であっても、スパッタ成膜を開始するとプラズマの熱にて表面が液化していき、上部は液体、下部は固体のような状態になる。さらに成膜を進めると場合によっては全体が液体化する。そのため初期の全面固体のときと比較して、成膜の状況が変化し、再現性が得られにくいものとなる。
【0013】
さらに、上述した反応性スパッタによる成膜においては、成膜速度とその膜質とを両立させることが難しいことが、広く知られている。以下では、金属ターゲットと反応性ガスとを用いる反応性スパッタによる「酸化膜」の成膜を例にして説明する。
【0014】
まず、成膜速度を速くするためにAr濃度を高めると、反応性ガスの濃度は相対的に低下する。そのため、金属の酸化膜は酸素不足となり、化学量論的組成からの偏差が大きくなるので、膜品質が低下する。
【0015】
これを回避するために反応性ガスの濃度を高めると、当然ながら、ターゲット近傍の反応性ガスの濃度も高くなり、ターゲットの酸化が起きやすくなる。金属の酸化物のスパッタ速度は、金属のそれよりも大幅に低下するので、実用的な成膜速度を得るのが困難な状況になっている。
【0016】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、液体金属ガリウムをターゲットとして用いたスパッタ成膜において、再現性の高い成膜を実現可能な成膜装置および成膜方法を提供することを目的とする。また、本開示は、液体金属ガリウムを安定的に保持可能なターゲットトレイを提供することを目的とする。
更にまた、本開示は、液体金属ガリウムをターゲットとする反応性スパッタ成膜において、実用的な成膜速度をもつ成膜装置と成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本開示は、以下の態様を含む。
【0018】
本開示の成膜装置は、液体金属ガリウムをターゲットとして用いてスパッタを行う成膜装置であって、液体金属ガリウムを収容するターゲットトレイと、液体金属ガリウムを収容するターゲットトレイを設置するターゲット設置部と、液体金属ガリウムを30℃以上に保持する温度保持機構と、反応性スパッタを行うためのガス導入機構とを備えている。
【0019】
本開示の成膜装置においては、温度保持機構が、ターゲット設置部に備えられた、30℃以上の熱媒体を循環させる媒体循環機構であることが好ましい。
【0020】
さらに本開示の成膜方法は、反応性スパッタによる成膜方法である。さらに、上記の導入ガスとしてアルゴンガスを、また反応性ガスとしての酸素ガスおよび/または窒素ガスとを成膜装置内に導入して、反応性スパッタによる成膜を行う成膜方法である。
【0021】
本開示の成膜装置においては、ターゲットトレイ内に収容された液体金属ガリウムを搖動する搖動機構を備えてもよい。液体金属ガリウムを揺動又は撹拌しつつ反応性スパッタによる成膜をすることも好ましい成膜方法である。
【0022】
本開示の成膜装置では、以下に述べる構成の磁気撹拌機構を装備することができる。すなわち、ターゲットトレイ内に磁界を発生させる磁場発生用磁石をターゲット設置部に設け、ターゲットトレイに収容された液体金属ガリウム中に磁性体又は磁石を挿入し、磁場発生用磁石を回転させることにより磁性体又は磁石を液体金属ガリウム中で移動させ、これにより液体金属ガリウムを撹拌する磁気撹拌機構である。
【0023】
一方、本開示の成膜装置としてマグネトロンスパッタ方式を採用し、上記の磁気撹拌機構を構成する磁場発生用磁石を、上記のマグネトロンスパッタ用の磁石と共用する構成とすることもできる。
【0024】
上記に開示する撹拌機構の何れかを用いて液体金属ガリウムを撹拌しながら成膜することは、好ましい成膜方法である。
【0025】
本開示のターゲットトレイは、ガリウム(第1ターゲット)と第2ターゲットとの共スパッタをするためのターゲットトレイである。第2ターゲットは、液体金属ガリウム以外の金属、金属の酸化物、金属の窒化物、又は半導体に対するドーパント元素を含む材料の何れかであり、いずれも融点が30℃以上の材料である。
上記のターゲットトレイには、その底面又は側壁内面の任意位置に、第2ターゲットをターゲットトレイに固定するための1個以上の「ターゲット支持体」を設けている。以下では、ターゲット支持体を「TG支持体」と略称する。
【0026】
また、別のTG支持体としては、ターゲットトレイの底面から隆起し、その上端が液体ガリウムの液面から突き出る1個以上の「島状TG支持体」を設け、更にその上端面には1個以上の「上端ピット」を設ける。
【0027】
さらに、上記の第2ターゲットの先端が液体ガリウムの液面よりも突き出るように第2ターゲットを形状加工し、これをTG支持体に固定する。
あるいはまた、上記の「島状TG支持体」の上面に設けられた「上端ピット」に収容できるサイズに形状加工した第2ターゲットを上記の上端ピットに装着して、ガリウム(第1ターゲット)と第2ターゲットとの共スパッタを行うためのターゲットトレイであり、これを装備した成膜装置である。
【0028】
さらには又、第2ターゲットが液体ガリウムよりも比重の小さい場合には、第2ターゲットを液体ガリウムの液面上に浮上させて第2ターゲットをセットして、ガリウム(第1ターゲット)と第2ターゲットとの共スパッタによる成膜を行う成膜装置とすることもできる。
【0029】
第2ターゲットは、上記のようにターゲットトレイ中の液体ガリウムの中に設置されることもあるので、液体金属ガリウムと接触する面が樹脂あるいは炭素系材料あるいはセラミックスでコーティングされていることが好ましい。
【0030】
本開示はまた、以上開示した共スパッタのためのターゲットトレイを、上記開示の成膜装置に装備して、ガリウム(第1ターゲット)と第2ターゲットとの共スパッタをする成膜方法である。
【0031】
以上開示した成膜装置においては、ターゲットに印加する電圧が直流(DC)であることが好ましい。
【0032】
本開示の成膜方法においては、成膜中に成膜装置中にフローさせる反応性ガスを酸素ガスから窒素ガス、あるいは窒素ガスから酸素ガスに切り替え、酸化ガリウムおよび窒化ガリウムの積層膜を成膜してもよい。
【0033】
本開示の成膜方法においては、成膜開始から所定膜厚に至るまでの反応性ガスの濃度が、所定膜厚以降での反応性ガスの濃度よりも低くなる条件で成膜することが好ましい。
【0034】
本開示のターゲットトレイは、スパッタ用のターゲットとして液体金属ガリウムを収容するターゲットトレイであり、少なくとも液体金属ガリウムと接する面を炭素系材料あるいはセラミックスで構成している。上記のターゲットトレイは、本開示の成膜装置に応用することができる。
【発明の効果】
【0035】
本開示の成膜装置および成膜方法によれば、液体金属ガリウムをターゲットとして用いるスパッタ成膜において、再現性の高い成膜を実現可能である。また、本開示のターゲットトレイによれば、液体金属ガリウムを安定的に保持可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】第1の実施形態に係る成膜装置の概略構成を示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係るターゲットトレイの斜視図である。
【
図3】第2の実施形態に係る成膜装置の概略構成を示す図である。
【
図4】第3の実施形態に係る成膜装置の概略構成を示す図である。
【
図5】共スパッタの場合のターゲットとして、液体金属ガリウム以外の金属チップが液体金属ガリウム中に設置されているターゲットトレイを示す模式断面図である。
【
図6】液体金属ガリウム(第1ターゲット)と、第2ターゲットとによる共スパッタを行うためのターゲットの配置に係る一例を示す模式断面図である。
【
図7】実施例1の成膜方法で得られた酸化ガリウムのXRDスペクトルを示す図である。
【
図8】実施例3の成膜方法で得られた酸化ガリウムのXRDスペクトルを示す図である。
【
図9】実施例4の成膜方法で得られた酸化ガリウムのXRDスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本開示の技術の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0038】
『第1の実施形態』
【0039】
「成膜装置」
本開示の第1の実施形態に係る成膜装置の概略構成図を
図1に示す。本成膜装置1における、成膜に用いられるターゲット20としては、金属ガリウムを想定している。本実施形態ではマグネトロンスパッタ装置を例として説明する。
【0040】
図1に示す成膜装置1は、真空容器からなる成膜室10と、成膜室10内に備えられた、基板保持部12、ターゲット設置部14、磁場発生部16、および温度保持機構18と、ターゲット20に電力を投入する電源19とを備える。
【0041】
成膜室10は、スパッタを行うために所定の真空度を維持する、鉄、ステンレス、アルミニウム等で形成される気密性の高い容器である。成膜室10には、内部に、成膜に必要なガスGを導入するガス導入管10aおよび成膜室10内のガスの排気VGを行うガス排出管10bが取り付けられている。
【0042】
ガス導入管10aから成膜室10に導入されるガスGとしては、アルゴン、アルゴンと酸素の混合ガス、アルゴンと窒素の混合ガス、あるいは、アルゴンと酸素と窒素の混合ガス等が挙げられる。ガス導入管10aは、これらのガスGの供給源(図示せず)に接続されている。
【0043】
一方、ガス排出管10bは、成膜室10内を排気して所定の真空度にすると共に、成膜室10中を所定の真空度に維持するために、真空ポンプ等の排気手段に接続されている。
【0044】
電源19は、ターゲット20にスパッタ電力を投入する電源であり、より具体的には、成膜室10内に導入されたArなどのガスをプラズマ化させるための電力を、プラズマ電極を構成するターゲット設置部14の設置面14aに供給するためのものである。電源19はRF(radio-frequency)電源であってもよいし、DC(direct current)電源であってもよい。
【0045】
基板保持部12は、成膜処理が施される被処理基板BSを保持する。被処理基板BSを保持する機構は特に限定されないが、例えば、吸引吸着により、被処理基板BSを保持することができる。基板保持部12に保持される被処理基板BSのサイズは特に制限なく、一般的な6インチサイズの基板であっても、5インチあるいは8インチのサイズの基板であってもよいし、5cm角などのサイズの基板であってもよい。
【0046】
被処理基板BSは特に制限されず、Si基板、酸化物基板、窒化物基板、ガラス基板、あるいは各種フレキシブル基板など、用途に応じて適宜選択することができる。
【0047】
成膜装置1においては、プラズマ電極の放電により成膜室10内に導入されたガスGがプラズマ化され、アルゴンイオン等のプラスイオンが生成する。生成したプラスイオンはターゲット20をスパッタする。プラスイオンにスパッタされたターゲット20の構成元素(ここでは、Ga:ガリウム)は、ターゲット20から放出され、中性あるいはイオン化された状態で被処理基板BSに堆積する。
【0048】
ターゲット設置部14には、ターゲット20を収容したターゲットトレイ22(以下において、単にトレイ22という。)が設置される。本実施形態において、ターゲット設置部14は、ターゲット設置面14aを備え、ターゲット設置面14a上にトレイ22が設置される。基板保持部12とターゲット設置部14とは互いに対向して配置されている。したがって、基板保持部12に保持された被処理基板BSとターゲット20とは対向して設置される。
【0049】
ターゲット設置部14は、後述する温度保持機構18により循環される熱媒体HMを収容する収容部15を備えた枠体である。収容部15には、トレイ22が設置される設置面14aの背面に磁場発生用磁石24も収容されている。
【0050】
磁場発生部16は、上記のターゲット設置部14を構成する枠体内の収容部15に備えられた複数の磁場発生用磁石24によって構成される。磁場発生部16は、ターゲット20上に磁場を生じさせる。磁場を発生させた状態でスパッタを実施することにより、スパッタ効率を高めることができる。
【0051】
温度保持機構18は、ターゲット20の温度を一定に保つための機構であり、例えば、設置面14aの背面に30℃以上の熱媒体HMを循環させる熱媒体循環機構である。熱媒体HMは液体が好ましく、水あるいはオイルなどが挙げられる。温度保持機構18は、ターゲット設置部14の設置面14aの背面の収容部15内に熱媒体HMを供給する供給管18aと、収容部15から熱媒体HMを排出する排出管18bとを備える。温度保持機構18は、供給管18aを介して温度調整した熱媒体HM、例えば、30℃の水を収容部15内に供給し、収容部15内の熱媒体HMを、排出管18bを介して排出させる。熱媒体循環機構は、排出管18bから排出された熱媒体HMを30℃に再調整した後に、再度供給管18aから供給する。
【0052】
供給する熱媒体HMの温度は金属ガリウムを常に液体状態に維持するために30℃以上とする。熱媒体HMの温度は30℃~100℃とすることが好ましい。金属ガリウムを液体状態に維持するには金属ガリウムを30℃以上に維持できればよく、過剰な高温にする必要はない。また、Oリングなどの装置の部品の耐熱性の観点から、熱媒体HMの温度は100℃以下とすることが好ましい。
【0053】
本実施形態の成膜装置1は、以上のように構成されている。
【0054】
本成膜装置1は、温度保持機構18を備え、ターゲット20を30℃以上に維持している。従来の装置では、ターゲット20を冷却するために、おおよそ20℃以下の冷水が用いられている。ガリウムは融点が29.76℃であり、従来方式によるターゲット設置部14の水冷では、少なくともトレイ22の底面に接するガリウムは固化してしまう。
【0055】
一方で、スパッタを実施している間は、プラズマやスパッタ電力の印加によりターゲット温度が上昇するため、トレイ22中の少なくとも表面に露出される金属ガリウムは液化する。トレイ22中に液体ガリウムと固体ガリウムとが混在した状態でスパッタが実施された場合、ターゲット20の物性が不安定なものとなり、成膜された膜の均一性が低下してしまう。
【0056】
一方、本開示の成膜装置1においては、ターゲット20を30℃以上に維持しているので、金属ガリウムは常に液体状に維持される。このため、液体ガリウムと固体ガリウムが混在していた場合に比べて、ターゲット20の物性が安定化する。ターゲット20の物性が安定化することにより、成膜する膜の均一性を向上させることができる。
【0057】
「ターゲットトレイ」
次に、ターゲット20である液体金属ガリウムを収容するトレイ22について説明する。
【0058】
トレイ22は、少なくとも金属ガリウムが接触する面が炭素系材料あるいはセラミックス材料から構成されていることが好ましい。金属ガリウムが接触する面とは、
図2に示すように、トレイ22がシャーレ状である場合には、内底面22aおよび内側面22bである。炭素系材料としては、例えば、有機樹脂、例えばポリイミドやグラファイト、C/Cコンポジット(Carbon Fiber Reinforced Carbon Composite:炭素繊維強化炭素複合材料)などを用いることができる。
【0059】
セラミックス材料としては、アルミナ、ジルコニア、窒化シリコン、窒化アルミニウム、などを用いることができる。これらのうちで、導電性が比較的高いSiC、あるいはAl2O3+TiC、ZrO2+NbCなどの複合材料を用いることが好ましい。
【0060】
一方、トレイ22自体の材質としては、全体を炭素系材料あるいはセラミックス材料で構成することが好ましい。例えば、グラファイト材料をトレイ形状に加工したもの、あるいは、アルミナ、ジルコニア、窒化シリコン、窒化アルミニウム、SiC、などをトレイ形状に加工して用いることが好ましい。
【0061】
トレイ22自体も導電性が高い方が好ましい。導電性が高いほど、スパッタ電力がターゲット20に伝達され易いからである。この意味から、導電性が比較的高いSiC、あるいはAl2O3+TiC、ZrO2+NbCなどの複合材料をトレイ自体の構成材とすることが好ましい。
一方、トレイ自体が導電性の低い材質で構成される場合には、トレイ自体よりも高い導電性を持つ材質、例えば、グラファイト、SiC、Al2O3+TiC、ZrO2+NbC、さらには、TiN、ITOなどの材質の薄膜で、トレイの全表面(トレイの裏側底部・外側面・内側面・トレイの内底面、等)を被覆することにより、ターゲット設置部からターゲット(液体金属ガリウム)に至るまでの電気抵抗を低下できる。これにより、スパッタ電力を効率的にターゲットに供給できる。
【0062】
さらに又、例えば、金属であるCu製トレイの内面の金属ガリウム(ターゲット20)と接触する面に、ポリイミド樹脂などの絶縁物を薄くコーティングしてトレイ22とすることもできる。
【0063】
一方、上記のような樹脂コーティングなどを施していないCu製のターゲットトレイに金属ガリウムを収容し、スパッタを行ったところ、ターゲットトレイに穴が開き、金属ガリウムが漏れ出した。ガリウムは、Cuに限らず大部分の金属に対し、その粒界に侵入して脆化させる性質を有する。そのため、金属を主材とするターゲットトレイを用いると、Cuの場合と同様に、脆化や、穴が開く等の不具合を生じることが予測できる
【0064】
上記のように、スパッタリング中にトレイが脆化したり、トレイに穴が生じる等すると、液体金属ガリウムが漏れ出し、安定的なスパッタリングができなくなる可能性がある。
これに対し、上述の本開示のトレイ、すなわち、トレイの内面を炭素系材料あるいはセラミックス材料で構成しているターゲットトレイを用いれば、トレイへの液体金属ガリウムの侵入を抑制することができ、安定したスパッタリングが可能となる。ターゲット20の物性が安定化することにより、成膜する膜の均一性を向上させることができる。
【0065】
なお、液体のガリウムは表面張力が大きく、トレイ材料との濡れ性が悪い。このため、トレイ内に収容している液体金属ガリウムがトレイ内に偏在してしまい、トレイの底面が露出し、また、ターゲットである液体金属ガリウムの実効面積が大きく減少してしまう障害が発生する。
これに対しては、液体ガリウムとの濡れ性の良い金属材料、金属酸化物、又は酸化ガリウム、などの薄膜コーティングをトレイの内表面に施すことにより、濡れ性を改善することができる。
【0066】
「成膜方法」
以下では、本成膜装置1を用いた成膜方法について説明する。
【0067】
まず、
図1に示す成膜装置1のターゲット設置部14の設置面14aに、ターゲット20を収容するトレイ22を設置する。また、基板保持部12に薄膜を成膜する被処理基板BSを装着して保持させる。ここで、ターゲット20は、金属ガリウムである。設置時点では、固体であっても、液体であっても構わない。
【0068】
次いで、成膜室10内が所定の真空度になるまでガス排出管10bから排気し、さらに、所定の真空度を維持するように排気し続けながら、ガス導入管10aからアルゴン(Ar)ガスなどのプラズマ用ガスを所定量ずつ供給し続ける。また、温度保持機構18により、設置面14aの背面の収容部15に30℃以上の熱媒体HMを循環させ、ターゲット20である金属ガリウムを液体状に維持する。これと同時に、電源19からプラズマ電極に電力を投入して、Arイオン等のプラズマイオンを生成させ、プラズマ空間を形成する。
【0069】
ターゲットに印加するパワー密度(ここでは、プラズマ電極に印加する電力の密度)は、一例を挙げれば、5W/cm2程度以上とすることが好ましい。
【0070】
なお、酸化ガリウム膜を成膜する場合には、プラズマ用ガスであるアルゴンガスと共に、反応性ガスとして酸素ガスを成膜室10中に導入する。また、窒化ガリウム膜を成膜する場合には、プラズマ用ガスであるアルゴンガスと共に、反応性ガスとして窒素ガスを成膜室10中に導入する。さらに、酸窒化ガリウム膜を成膜する場合には、プラズマ用ガスであるアルゴンガスと共に、反応性ガスとしての酸素ガスおよび窒素ガスを成膜室10中に導入する。
【0071】
酸化ガリウム、窒化ガリウム、あるいは酸窒化ガリウムを成膜する場合において、それぞれ成膜する膜の組成の焼結体ターゲットを用いて成膜することも考えられる。しかし、焼結体は、スパッタ電力を高めると割れる可能性があるため、一定以上にスパッタ電力を上げることができない。そのため、焼結体の場合には、スパッタ電力と比例関係にある成膜速度にも限界があり、一定以上に成膜速度を上げることができない。また、酸化物、窒化物ターゲットは、金属よりも二次電子放出係数が高いため、金属と比してスパッタ電力を大きくした場合に電子放出の雪崩現象が起きやすく、アーキングが発生しやすい、という問題がある。
【0072】
これに対し、本成膜装置1および成膜方法では、ターゲット20として液体金属ガリウムを用いるので、電力の投入によりターゲット割れが生じる恐れがなく、焼結体を用いた場合よりも投入電力を高めることができる。上述の通り、例えば、投入電力の電力密度を5W/cm2程度以上とすることができる。したがって、焼結体を用いた場合よりも、成膜速度を高めることができる。さらに上記の通り、焼結体を用いた場合に問題となるアーキングの発生を抑制することができ、安定した成膜が可能となる。
【0073】
さらに、酸化ガリウムあるいは窒化ガリウムなどの焼結体は絶縁体であり、体積抵抗が高いため、RFスパッタを用いる必要がある。これに対し、ターゲットとして金属ガリウムを用いるので、DCスパッタを実施でき、低コストに成膜が可能である。電源19として、DCスパッタのためのDC電源を備えた成膜装置は、RFスパッタのためのRF電源を備えた成膜装置と比較して、簡易な装置となり低コストである。また、DC電源はRF電源よりも大パワーを出力可能であり、成膜速度の向上を図ることができる。したがって、金属ガリウムをターゲットとすることで、均一な膜を安価に提供することが可能となる。
なお、DC電源を用いる場合には、異常放電防止回路を付与することが好ましい。
【0074】
また、反応性スパッタにより、酸化ガリウム、窒化ガリウムあるいは酸窒化ガリウムを成膜するので、組成変更が容易であり、例えば、成膜途中に反応性ガスのガス量を変更したり、反応性ガスの種類を変更したりすることにより、組成がシームレスに変化する膜の成膜が可能となる。
【0075】
例えば、成膜中に、反応性ガスを酸素ガスから窒素ガス、あるいは窒素ガスから酸素ガスに切り替えることにより、シームレスに酸化ガリウムと窒化ガリウムの積層膜を成膜することができる。また、酸化ガリウムに対して、所望量の窒素ドーピングを行うことも容易である。
【0076】
また、以下に述べる理由から、上記成膜方法において、事前に設定している所定膜厚に至るまでの成膜初期における反応性ガスの濃度を、それ以降の成膜中の反応性ガスの濃度よりも低くなる条件で成膜させることが好ましい。
また、このときの被処理基板BSとしては、サファイアなど、格子定数が成膜層のそれと整合する基板を用いることが好ましい。
【0077】
成膜中の反応性ガスの濃度に関しては、成膜初期に反応性ガスの濃度を低くすることで、Ga原子が膜成長面に到達した際に金属的な振る舞いをして大きな移動が生じ、基板の格子定数に整合する位置(エネルギー準位的に安定な位置)に留まりやすくなり、エピタキシャル成長しやすくなる。初期層がエピタキシャル成長してしまえば、その後はホモエピタキシャル成長となるため、その後は反応性ガスの濃度を高めれば、欠陥が少なく安定した成膜が可能となる。これにより、良質な膜が得られる。
ここで、成膜初期とは、成膜開始から100nm以下の所定膜厚となるまでの成膜期間をいう。所定膜厚としては、100nm以下であればよく、代表的には数10nmである。成膜初期の反応性ガスの濃度と、所定膜厚以降の反応性ガスの濃度の比は、例えば、
1:1.5(=1/1.5)などである。
【0078】
なお、酸化ガリウムの膜を成膜する場合において、上記のように成膜初期における成膜条件を最適化することにより、α型、β型の作り分けも可能と考えられる。
【0079】
『第2の実施形態』
【0080】
図3は、第2の実施形態に係る成膜装置2の概略構成を示す。
図1に示した成膜装置1と同一の要素には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。以下の図面においても同様とする。
【0081】
成膜装置2は、トレイ22内に収容された液体金属ガリウムからなるターゲット20(以下において、液体金属ガリウム20という場合がある。)を搖動する搖動機構30を備えている。搖動機構30は、例えば、ターゲット設置部14を搖動するバイブレータである。成膜中、バイブレータによって、ターゲット設置部14を搖動させることにより、トレイ22中の液体金属ガリウム20を搖動する。液体金属ガリウム20は搖動により撹拌される。
【0082】
成膜時において、反応性ガスと接触する液体金属ガリウム20の露出表面は、酸素あるいは窒素によって、酸化あるいは窒化されて、酸化ガリウム、窒化ガリウムあるいは酸窒化ガリウムの固相が形成されてしまう場合がある。
一方、搖動機構30により、液体金属ガリウム20が搖動されて撹拌されていれば、表面に生じた、主として薄膜状の反応生成物(固相固形物)は形状が分断されるなどして、細かい粒子状になる。これらの重い粒子は、ガリウム液の中に引き込まれ、沈んでゆく。
これによって、ターゲットである液体ガリウム20の表面に、常に液体ガリウムの新生面を露出させておくことができる。この結果、従来とは異なり、著しい成膜速度の低下が生じることはなく、安定した成膜速度を維持することができ、均一な膜質の成膜が可能となる。
【0083】
『第3の実施形態』
【0084】
図4は、第3の実施形態に係る成膜装置3の概略構成を示す。本図は、前出の
図1と同様のマグネトロンスパッタ装置に「磁気撹拌機構」31を備えた一例を示す。なお、前出の成膜装置1と同一の要素には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0085】
まず、磁場発生部17がターゲット設置部14の下側に位置する収容部15の外部に配置されている。磁場発生部17は、磁場発生用磁石25に加え、磁場発生用磁石25を回転させる回転機構28を備える。磁場発生用磁石25は回転台26上に固定配置されており、回転台26が回転軸27を中心に回転することによって、磁場発生用磁石25も回転する。なお、前述の成膜装置1と同様に、上記の磁場発生部17は、ターゲット20上にまで磁場を生じさせ、マグネトロンスパッタ機構を構成している。
【0086】
さらに、トレイ22に収容されたターゲット20である液体金属ガリウム中に磁性体(または磁石)35を挿入しておく。磁性体35は、液体金属ガリウム20中において固定されていない態様で配置されている。液体金属ガリウム20中にある磁性体35は、回転機構28による磁場発生用磁石25の回転に伴って、液体金属ガリウム20の中を回転する。
以上のように構成した磁気撹拌機構31を用いれば、磁性体35が液体金属ガリウム20中で回転することで液体金属ガリウム20が撹拌されることになり、前出の搖動機構30を備えた場合と同様の効果が得られる。
【0087】
すなわち、表面に形成された酸化層あるいは窒化層などの固相膜や固形物などは、撹拌によって液体ガリウムの表面から排除される。この結果、液体金属ガリウム20の表面には、常にガリウムの新生面を露出させることができるので、安定した成膜速度を維持することができ、また、均一、均質な成膜が可能となる。
【0088】
磁性体35としては、例えば、テフロン(登録商標)コーティングされたSUS(ステンレス鋼)のボールである。なお、SUSボールへのテフロン(登録商標)コーティングは液体金属ガリウムによる侵食を予防するためになされる。液体金属ガリウム20を撹拌するための磁性体35は、1つでもよいし、複数であってもよい。
【0089】
以上が、本開示の「磁気撹拌機構」を備える反応性スパッタによる成膜装置である。なお、マグネトロン方式を採らない汎用のスパッタ装置にも上記の「磁気撹拌機構」を設けることが可能である。
この場合には、磁場発生部17は、マグネトロン機能を備える必要はなく、液体ガリウム中の磁性体35に作用できる能力があれば十分である。
【0090】
以下では、上記の反応性スパッタ方式による成膜中に生じる「金属ターゲット表面の変性(酸化や窒化など)」について述べる。例えば、上記に開示した「磁気撹拌機構」を備えていない、汎用の反応性スパッタ装置を用いて、本例のように、液体ガリウムをターゲットとする「酸化ガリウム」の成膜をする場合に、しばしば、ターゲットである液体ガリウムの表面に「薄皮状の酸化膜」が生じることがある。
【0091】
上記のような表面変性は、液体ガリウムに限られたことではなく、固体金属のターゲットの場合にも起きる現象であることは、広く知られている。金属ターゲットの表面が酸化膜で覆われると、スパッタ速度が大幅に低下してしまうので、反応性スパッタによる成膜では、実用的な成膜速度を得るのが困難であり、これが、大きな課題となっている。
【0092】
上述のターゲット表面の変性--例えば、「酸化」の問題は、スパッタ速度と反応性ガスの濃度とに関係していることが知られている。すなわち、スパッタ速度を高くするために、ターゲットに投入する電力を増加すれば、金属の成膜速度も増加するので、これに見合う量の反応性ガス(例えば酸素ガス)の濃度を高くしないと所望の酸化膜を得ることができない。反応性ガスの濃度が不足すると酸素が欠乏した酸化膜になり、「膜品位」が低下する。
【0093】
以上を考慮しながら、ターゲットへの投入電力を増加し、かつ、反応性ガスの濃度も高くしてゆくと、当然ながら、ターゲット近傍の反応性ガスの濃度も高くなってゆき、ターゲットの酸化が起きやすくなる。このため、実用的な成膜速度を得るのが困難な状況になっている。
【0094】
一方、本開示の「磁気撹拌機構」を備えた反応性スパッタ装置を用いる成膜では、ターゲット(液体ガリウム)の表面に「酸化膜」が生じる状態にあっても、この酸化膜は液体ガリウムが撹拌されることにより、液体ガリウムの表面から排除される。この結果、液体金属ガリウム20の表面に、常にガリウムの新生面を露出させることができるので、安定した成膜速度を維持することができ、また、化学量論的組成からの偏差が少ない、高品位な成膜が可能となる
【0095】
なお、上記成膜方法においては、酸化ガリウム、窒化ガリウムあるいは酸窒化ガリウムを成膜する場合について説明したが、ガリウム以外の金属を液体金属ガリウムと共にターゲットトレイの中に設置して、共スパッタを行ってもよい。共スパッタによればガリウムと他の金属との合金の成膜、あるいは合金の酸化膜、窒化膜等を成膜することも可能である。なお、以下では、共スパッタに用いられる、液体金属ガリウム以外のターゲットを「第2ターゲット」と呼ぶことにする。この「第2ターゲット」の材質としては、金属、金属の酸化物、金属の窒化物、あるいは半導体に対するドーパント元素を含む材料などであり、融点が30℃以上である材料を想定している。
【0096】
例えば、
図5に示すように共スパッタ用の「第2ターゲット」としての金属チップ40を、トレイ22中に設置する。
図5は、金属チップ40の比重が液体金属ガリウム20のそれよりも小さい場合の例示である。この場合の金属チップの形状は、板状であることが好ましい。板状であれば、液体ガリウムの液面上に安定して浮上できる。
また、金属チップ40の液体金属ガリウム20と接する面に、フッ素樹脂等の樹脂あるいは炭素系材料でコーティング42を施しておく。コーティング42により、金属チップ40の液体金属ガリウム20による侵食を抑制することができる。
図5に示す例では、金属チップ40の側面40aおよび底面40bにコーティング42が施されている。
なお、上記の金属チップのコーティングに関しては、例えば、SiであればGa金属と接する部分にポリイミド樹脂などをコーティングすることでも実現できる。コーティングの代わりに、窒化処理や酸化処理を施すことも可能である。
【0097】
一方、第2ターゲットのサイズが小さく、ガリウム液面に安定した浮上ができない場合や、液体ガリウムよりも比重が大きい場合には、前出の
図5に示した第2ターゲットをガリウム液面に浮上させる方式を採ることができない。このような場合には、
図6に示す、共スパッタ用のターゲットトレイを用いることにより、第2ターゲットのサイズや比重に左右されることなく、共スパッタによる成膜を行うことができる。
【0098】
図6は、液体金属ガリウム(第1ターゲット)と、第2ターゲットとによる共スパッタを行うための「共スパッタ用ターゲットトレイ」50の模式断面図である。以下では、自明であるときには、「共スパッタ用ターゲットトレイ」のことを、単に「ターゲットトレイ」と略記する。
【0099】
図6(A)には、ターゲットトレイ50の底面部52に、第2ターゲットである金属チップ51a、51b、51cを支持・固定するためのターゲット支持体55a、55b、55c(3種類)を例示している。以下では、ターゲット支持体を「TG支持体」と略称する。上記のTG支持体55aはピット、同55bは突起、同55cはソケットである。
【0100】
上記の3種類のTG支持体に挿入できるように、各金属チップ(51a、51b、51c)の底部端を形状加工している。また、各金属チップをターゲットトレイ底面部52にあるTG支持体にセットしたときに、各金属チップの上端面が液体ガリウム20の液面から突き出るように形状加工している。
【0101】
図6(B)には、(A)図とは異なる構造のTG支持体の例を示す。ターゲットトレイ50の側壁53から延びる腕木状のTG支持体の端部に設けたソケット55dがあり、また、ターゲットトレイの底面部52から隆起してガリウム液面上にまで達する、島状TG支持体55eがある。島状TG支持体55eの上端面には、ピット55pを設けている。
また、(A)図のときと同様に、各金属チップ(51d、51e)が対応するTG支持体に挿入できるように、その底部端を形状加工している。また、上記の金属チップをTG支持体にセットしたときに、その上端面が液体ガリウム20の液面から突き出るように形状加工している。
【0102】
ただし、島状TG支持体55eを用いるときには、ピット55pが液体ガリウムに対する、いわば「防潮堤」の役割を果たしているので、金属チップ51eは、液体ガリウムの液面高さには左右されず、また、液体ガリウムとも接触することなく、第2ターゲットとして機能できる。さらに、この島状TG支持体を用いれば、30℃以上の融点をもつ第2ターゲット材だけでなく、液状のターゲット材をチャージすることができる。
【0103】
図6(C)は、金属チップ51fをトレイ底面部52に支持・固定するのに「バヨネットロック方式」を用いたTG支持体の例を示す模式斜視図である。
円柱状の金属チップ51fの底面付近の側面に突起51pjを設けている。また、金属チップ51fを挿入するリング状のソケット55fをトレイ底面部52に設けている。さらに、ソケットには、図示のように縦スリット55vsと横スリット55hsを設けており、横スリットの行き止まり部分には、バヨネットロックをするための半月状のノッチ55byを設けている。
【0104】
金属チップ51fをソケット55fにセットするには、突起を縦スリット55vsに通して、金属チップをトレイ底面部にまで挿入する。次いで、突起が横スリット55hs内に入るようにチップを回転させ、突起が行き止まり部分に達したら上部に軽く引き上げる。
【0105】
この「バヨネットロック」による金属チップの支持・固定方式は、金属チップ(第2ターゲット材)の比重が液体ガリウムのそれよりも小さく、液体ガリウム中で浮力が発生する場合に好適な支持・固定方式である。
従って、上記の金属チップのセッティングは、ターゲットトレイに液体ガリウムを収容した状態で行うことが望ましい。このときの浮力により、金属チップの突起部分をノッチ55by、すなわち、バヨネットロックの定位置に収めることができる。
【0106】
なお、以上の構造はバヨネットロックを構成する縦・横のスリットをソケット部分に設けているが、これをターゲット底面部に設けるピット内に作ることもできる。すなわち、図示はしないが、上記の金属チップ(円柱状の第2ターゲット)が通過できる内径をもつ「庇状の円形リング」を上記ピットの上端周縁部に設ける。また、庇状の円形リングの一部に、突起を通すための縦スリットを設ける。このとき、庇状円形リングの下面とピット底面との間の空間が横スリットとして機能するので、この構造によってもバヨネットロックを構成できる。
【0107】
以上が第2ターゲットをターゲットトレイに配設する場合の「ターゲット支持体」を備えた共スパッタ用のターゲットトレイについての説明である。
なお、本例では、第2ターゲットの形状を便宜上「チップ」としているが、特定の形状に限定するものではない。例えば、「ブロック」等と呼んだ方が良い場合もあり得る。
【0108】
また、本例のTG(ターゲット)支持体の構造は、
図6(A)、(B)、(C)に示したものは一例であり、これに限定するものではない。例えば、液体ガリウムよりも比重が小さく浮力を受ける第2ターゲット材に適合するTG支持体の構造として、チップの底端部にネジ部を設けるとともに、これに対応するTG支持体(ピット、突起、ソケットなど)側にもネジ部を設けて、ネジ込み・固定をする方式などもある。
さらには又、第2ターゲットである「塊状の素材」や「柱状の素材」をターゲットトレイの底面部に、接着剤などで密着・固定してもよい。
【0109】
さらに、本例の「共スパッタ用ターゲットトレイ」では、
図6(A)、(B)、(C)に示した6種類の支持体の1種類以上を用いることも可能であり、同一種の支持体を複数個用いてもよい。また、複数個ある支持体に、それぞれ異なる材質の第2ターゲットを配設して、多元の共スパッタを行うことも可能である。
【0110】
また、
図6では、各種のチップ支持体をターゲットトレイと一体化している構造を示しているが、支持体底部にネジ部を設け、また、対応するトレイ底面部にもネジ部を設けて、支持体自体を着脱可能とすることもできる
【0111】
さらに、
図5と同様に、本例における第2ターゲット材(
図6で言えば、金属チップ51a、51b、51c、51d、51f)には、少なくとも液体ガリウムと接する面(底面、側面)に、フッ素樹脂等の樹脂あるいは炭素系材料でコーティングが施されている。
【0112】
さらに又、本例の「共スパッタ用ターゲットトレイ」の材質、及びトレイ内外面のコーティング処理については、先に開示をしたターゲットトレイと同様であるので、記載を割愛する。
【0113】
ガリウム以外の微量な金属を第2ターゲットとする場合には、ガリウムと他の微量金属を反応させて、液体金属状態にしたものを使用してもよい。この手法は、半導体への微量不純物(添加物)元素のドーピングにも用いることができる。
【0114】
半導体への上記のドーピングに関しては、
GaN系半導体に対するp型ドーパントは、Mg、Ca、Be、及びZnのうちの一種類以上の元素であってよい。n型ドーパントは、Si、Geなどを用いることができる。
また、Ga2O3系半導体に対しては、p型のドーパントとしてMg、H、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Ca、Sr、Ba、Ra、Mn、Fe、Co、Ni、Pd、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Tl、Pb、P等を用いることができる。
また、n型のドーパントとして、Sn、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Ru、Rh、Ir、C、Si、Ge、Pb、Mn、As、Sb、Bi、F、Cl、Br、Iなどを用いることができる。
【0115】
一例として、GaNのn型ドーパントとしてSiを用いる場合は、バルクSiの塊を接着剤などでトレイと密着・固定しても良い。他の元素材料も同様に設置することが可能である。さらに、ドーピングに際し、GaN膜の形成においてはドーパント元素の窒化物を、又、Ga2O3膜の形成においてはドーパント元素の酸化物を第2ターゲット材として用いても良い。
【実施例0116】
成膜装置1を用いた成膜方法の実施例および比較例を説明する。