(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145292
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】成形体補強用部材、これを用いた成形体並びに接続構造体
(51)【国際特許分類】
B29C 70/10 20060101AFI20231003BHJP
B32B 5/04 20060101ALI20231003BHJP
B29C 70/68 20060101ALI20231003BHJP
F16B 5/02 20060101ALI20231003BHJP
F16B 5/04 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B29C70/10
B32B5/04
B29C70/68
F16B5/02 U
F16B5/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022066615
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】517362381
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・オー・エヌ・七二
(72)【発明者】
【氏名】青山 正義
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 公夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勝
【テーマコード(参考)】
3J001
4F100
4F205
【Fターム(参考)】
3J001FA02
3J001GA07
3J001GB01
3J001HA02
3J001JA10
3J001JB02
3J001JD03
3J001KA21
3J001KB01
3J001KB04
4F100AB00B
4F100AK01B
4F100BA02
4F100DH02A
4F100DH02B
4F100EC12
4F100EJ99
4F205AD16
4F205AG03
4F205AG28
4F205AH06
4F205AR07
4F205HA14
4F205HA19
4F205HA22
4F205HA37
4F205HB01
4F205HB11
4F205HL15
4F205HT16
4F205HT26
(57)【要約】
【課題】 本発明技術は、FRP等の成形体のボルト締め部やリベット接合部又は極度に曲げ半径が小さい曲げ部等の応力負荷が高い部分や強度が低い部分における割れ発生と割れの進展を抑制することができる成形体補強用部材及びこれを用いた成形体並びに接続構造体を提供する。
【解決手段】 少なくとも1層の繊維強化プラスチック層を有し、プラスチック、繊維強化プラスチック又は金属からなる成形体の表面に張り付けて使用する成形体補強用部材であって、前記少なくとも1層の繊維強化プラスチック層は、その中心もしくは中心付近から外縁に向かって放射状に配置された補強繊維を有する繊維強化プラスチックからなる放射状繊維強化プラスチック層である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層の繊維強化プラスチック層を有し、プラスチック、繊維強化プラスチック又は金属からなる成形体の表面に張り付けて使用する成形体補強用部材であって、前記少なくとも1層の繊維強化プラスチック層は、その中心もしくは中心付近から外縁に向かって放射状に配置された補強繊維を有する繊維強化プラスチック層(以下、放射状繊維強化プラスチック層という)であることを特徴とする成形体補強用部材。
【請求項2】
前記放射状繊維強化プラスチック層の補強繊維は、角度が3度~60度の間隔をもって配置されていることを特徴とする請求項1に記載の成形体補強用部材。
【請求項3】
前記放射状繊維強化プラスチック層が複数層積層されていることを特徴とする請求項1または2に記載の成形体補強用部材。
【請求項4】
補強繊維が渦巻状に配置された繊維強化プラスチック層(以下、渦巻状繊維強化プラスチック層という)又は補強繊維が同心円状に配置された繊維強化プラスチック層(以下、同心円状繊維強化プラスチック層という)を更に有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の成形体補強用部材。
【請求項5】
2層の前記放射状繊維強化プラスチック層が前記渦巻状繊維強化プラスチック層又は前記同心円状繊維強化プラスチック層を挟むように積層されていることを特徴とする請求項4に記載の成形体補強用部材。
【請求項6】
複数の前記成形体がボルト又はリベットにより接続された接続構造体において、前記成形体のボルト穴又はリベット穴の周辺を覆うように請求項1乃至5のいずれかに記載の成形体補強用部材が前記成形体に装着されていることを特徴とする接続構造体。
【請求項7】
前記成形体の機械的強度が弱い部分に請求項1乃至6のいずれかに記載の成形体補強用部材が装着されていることを特徴とする成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成形体補強用部材と、この成形体補強用部材を貼付け等の手段により装着して補強した成形体並びに接続構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
FRP(繊維強化プラスチック)は、金属材料に比べて軽量かつ強度が高い材料即ち比強度の高い材料である。FRPに使用される補強繊維はガラス繊維や炭素繊維のほか、用途によってはアラミド繊維も使われる。FRPの製法として細かく切断したガラス繊維を均一にまぶす方法やガラス繊維や炭素繊維に樹脂を浸透させる方法等がある。繊維強化プラスチックのマトリックスには、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂が使われることが多い。
【0003】
FRPの製造方法としては、ハンドレイアップ法、スプレーアップ法、SMC(Sheet Molding Compound)プレス法、インジェクションを利用した樹脂高圧注入技術によるRTM(Resin Transfer Molding)法、オートクレーブ法等があり、高品質製品が製作できる段階にある。
【0004】
最近では、社会インフラ設備の変遷があり、風力発電など採用する発電方式の変化による設備大型化や電車、自動車、飛行機の輸送設備の燃費向上のための大型薄肉軽量化等のニーズが高まっている。大型化に対処可能なFRPは厚さを高め高強度化することが考えられるがより軽量化も望まれている。軽量化のためにはFRPの厚さを薄くすることが考えられるが、FRP成形体自体の強度、FRP成形体同士もしくはFRP成形体と他の材料(例えばプラスチックや金属等)からなる成形体との接続部分の強度が劣化する虞がある。そこで、可能な限りFRP厚さの増大を抑えつつFRP本体並びに接続部の強度向上を図ることが望まれる。
【0005】
FRPを構成する補強繊維の強度は高いが、樹脂は強度が低く割れが発生し易い。特に、ボルト締め穴周辺、あるいはその他の目的であけられた穴周辺に過大な応力が加わる虞がある。また穴がない場合でも曲げ半径が小さい場合等、構造上応力の集中が避けられないケースもあり、最悪の場合割れが発生する虞がある。
【0006】
1974年以降に日本で公開された特許文献を調べると、ボルト穴周辺の強度向上のためにFRP構造体本体の繊維構造を変えることにより強化する技術(特許文献1、特許文献2)は存在する。また、FRPに関する記載はないが、樹脂製部品のボルト穴に樹脂の補強シートを張り付ける技術(特許文献3)も存在する。さらにボルト穴あるいは割れの可能性がある部分にFRPと同程度の数mm以上の厚さの発明部材を貼り付けて割れの進行を抑制する技術として割れに直角にファイバーを配置する即ち渦巻き状ファイバーを設置する構造が提案されている(特許文献4)。基礎的なデータを解析するとワッペンの破壊には曲げ剛性を考慮する必要がある。調査した範囲では、曲げ剛性に関する補強技術は認められなかった。
【0007】
また、非特許文献1にはFRP同士の貼り付け接続法やFRPと金属のボルト接続技術が紹介されている。ボルト周辺の応力解析は一部行われており、非特許文献2には、ボルト穴周りで圧縮応力が大きくなることも報告されている。
このような状況において、応力低減の技術や割れの進行を抑制する曲げ剛性に係る技術検討が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002-307585号公報
【特許文献2】特開2003-225914号公報
【特許文献3】特開2017-19311号公報
【特許文献4】国際公開番号 WO2021/201298A1
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】FRP成形技能テキスト(新版)財団法人強化プラスチック協会 平成9年(1997)年10月31日発行
【非特許文献2】FRP部材の接合および鋼とFRPの接着接合に関する先端技術 平成25年(2013)年11月12日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
FRP成形体の軽量・薄肉化の要望が高まる中、ボルト締め部やリベット接合部又は極度に曲げ半径が小さい曲げ部等における割れ発生と割れの進展を抑制する技術が望まれている。なお、この割れ発生と割れの進展を抑制する技術はFRP成形体だけでなく、一般的なプラスチック成形体や薄い金属材料からなる成形体などにも応用可能である。
【0011】
本発明の目的は、FRP等の成形体のボルト締め部やリベット接合部又は極度に曲げ半径が小さい曲げ部等の応力負荷が高い部分や強度が低い部分における割れ発生と割れの進展を抑制することができる成形体補強用部材及びこれを用いた成形体並びに接続構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のFRP成形体に貼り付けて使用するFRP補強用部材は、少なくとも1層の繊維強化プラスチック層を有し、プラスチック、繊維強化プラスチック又は金属からなる成形体の表面に貼り付けて使用する成形体補強用部材である。この成形体補強用部材を構成する繊維強化プラスチック層の少なくとも1層は、成形体補強用部材の中心もしくは中心付近から外縁に向かって放射状に配置された補強繊維を有する繊維強化プラスチック層(以下、放射状繊維強化プラスチック層という)である。(請求項1)
【0013】
放射状繊維強化プラスチック層の補強繊維は、角度が3度~60度の間隔をもって配置されている。この角度は経済性や作り易さから45度が好ましい。(請求項2)
【0014】
また使われる放射状繊維強化プラスチック層はその用途により、複数層積層されている成形体補強用部材が望ましい。(請求項3)
【0015】
成形体補強用部材の好ましい例として、補強繊維を渦巻状に配置して成形した繊維強化プラスチック層(以下、渦巻状繊維強化プラスチック層という)又は補強繊維を同心円状に配置して成形した繊維強化プラスチック層(以下、同心円状繊維強化プラスチック層という)を重ねて使用する補強部材にするのもよい。(請求項4)
【0016】
このような構成の補強部材として、渦巻状繊維強化プラスチック層又は同心円状繊維強化プラスチック層を2層の放射状繊維強化プラスチック層で挟むように積層した構造の成形体補強用部材が好ましい。(請求項5)
【0017】
また、本発明の複数の成形体がボルト又はリベットにより接続された接続構造体は、上記成形体のボルト穴又はリベット穴の周辺を覆うように上記成形体補強用部材が成形体に貼り付けられている接続構造体である。(請求項6)
【0018】
また、本発明の成形体は、成形体の機械的強度が弱い部分(例えば、成形体表面の凹部又は穴あるいはFPR成形の際に歪み応力が集中した部分等)を覆うように、上記成形体補強用部材が装着補強されている成形体である。(請求項7)
【発明の効果】
【0019】
本発明のFRP補強用部材及びその製造方法、FRP成形体並びにFRP接続構造体によれば、ボルト締め部やリベット接合部又は極度に曲げ半径が小さい曲げ部等の応力負荷が高い部分や強度が低い部分における割れ発生と割れの進展を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1はボルト用穴のあるFRP成形体の割れモデル図である。
【
図2】
図2は本発明のFRP補強用部材(以下ワッペンという)の外観例である。
【
図3】
図3は2枚のワッペン5を用いて2枚のFRP成形体をボルト締めにより接続したデザイン例である。
【
図4】
図4は基礎検討として、繊維の基本構成と曲げ試験概要を示したものである。
【
図5】
図5は繊維の基本構成と曲げ試験結果の関係を示したものである。
【
図6】
図6はワッペンを構成する(a)亀裂の進展16を抑制する渦巻きまたは同心円状に補強繊維を配置したデザイン例、(b)本発明亀裂の進展16方向の剛性を高めるように放射状に補強繊維を配置したデザイン例である。
【
図7】
図7は構成に必要なワッペン内繊維基本構造を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
FRP成形体は、FRP成形体同士又は他の材料(例えばプラスチックや金属)からなる成形体と接続して使うことが多い。また形状も用途により、複雑なものも多い。例えば、ボルトナット又はリベットによる加締め部等その複雑な構造により応力がかかって使用されているものがある。
【0022】
図1はボルト用穴のあるFRP成形体の割れモデル図である。約3mmのFRP成形体の表面割れ2はFRP成形体1の穴3からその半径方向へ放射状に進展する放射状の割れであることが予想される。割れ発生伝播を抑制するには割れの抵抗になるように繊維を配置する必要がある。
【0023】
図2は本発明のFRP補強用部材(以下ワッペン4という)の外観例である。FRP成形体1の穴3の周りに樹脂と補強繊維(例えば、ガラスファイバ―、炭素繊維等)を適切な構造に貼り付け配置することで、亀裂進展抑制機能を発現できる。
【0024】
図3は2枚のワッペン5を用いて2枚のFRP成形体をボルト締めにより接続したデザイン例である。4はワッペン、5はワッシャー、6はボルト、7はナットであり、ワッペンを貼り付けることでFRP基材が補強される。
【0025】
図4は基礎検討として、繊維の基本構成と曲げ試験概要を示したものである。a)に示す曲げ試験、(試料8、支点9、荷重10)にて評価する。曲げ試験片は試料長手方向11に垂直に補強繊維を設置したものは角度θが0度、試料長手方向11に平行に補強繊維を設置したものは角度θが90度と定義し、中間の45度も併せて実施した。
【0026】
図5は繊維の基本構成と曲げ試験結果の関係を示したものである。角度θが90度の場合には曲げ剛性は大きく,45度の約2倍以上になっている。したがって剛向上には90度が望ましい。
【0027】
図6において、(a)は国際公開番号WO2021/201298A1で公開された渦巻きまたは同心円状補強繊維17を配置したデザイン例、(b)は本発明の放射状に補強繊維18を配置したデザイン例である。
【0028】
図6(a)のように渦巻きまたは同心円状に補強繊維17を配置することにより、亀裂の進展方向16への伝播を抑制することができる。
【0029】
一方、
図6(b)のように、ワッペンの中心(
図6においてはワッペンの中心に穴3があるため、ワッペンの中心付近)から円周方向に(外縁に向かって)放射状にガラスファイバー18を配置することにより、補強繊維18は亀裂の進展方向16と平行となるため、剛性を高めることができる。隣り合う補強繊維の角度Fθ19は3度~60度の間隔をもって配置されていることが好ましいが、経済性や作り易さから図示の通り45度が好ましい。
【0030】
図7は
図6(a)の渦巻状繊維強化プラスチック層又は同心円状繊維強化プラスチック層と、
図6(b)の放射状繊維強化プラスチック層とを積層させた構造のワッペンの設計例を示したものである。2層の放射状繊維強化プラスチック層で渦巻状繊維強化プラスチック層又は同心円状繊維強化プラスチック層を挟むように積層することが好ましく、その場合、上下の放射状繊維強化プラスチック層の補強繊維18は、積層方向に重なり合っても良いし、重なり合わなくても良い。
【0031】
ワッペン製造可能な条件範囲に関して見積もると次のようになる。ワッペン中央の穴の全周の角度を360度とし、分割数を2分割から180分割にすると、すべて設計可能だが、上述の通り、経済性や製造のし易さから3度以上で、信頼性から60度以下が望ましい。特に作り易さから45度が好都合である。
【0032】
成形したワッペンはそれぞれ接着して複合化もできる。そのワッペンにそれぞれ接着剤をつけて複合一体化したワッペン複合体を作製使用してもよい。工業的利用を考えたとき、円盤状のワッペンを2枚重ねた形状の一体成形した異形状のワッペンが使い易く望ましい。
【0033】
これら部材の強力接着材としては瞬間接着剤、エポキシ系またはアクリル系接着剤を用いることができる。ワッペンとワッペンの間の接着も瞬間接着剤、エポキシ系またはアクリル系接着剤が使うことができる。また、強力接着両面テープでもよい。
【0034】
成形したワッペンを、プラスチック、繊維強化プラスチック又は金属からなる成形体や、それらの成形体をボルト又はリベットで接続した接続構造体に装着するときも、接着剤を使用して貼り付けることが好ましい。
【0035】
本発明の成形体補強用部材は、市場の軽量化志向に伴う薄い金属材料からなる成形体などにも応用可能であり、高強度の高張力鋼線や共析鋼線材やタングステン線等を繊維素材として基盤となる金属材料に埋め込んだ補強材にも応用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の成形体補強用部材、当該成形体補強用部材を装着したFRP等の成形体並びに接続構造体は、航空機、軽量小型飛行機、空調設備、産業・介護用ロボット、トラック、乗用車、電車部品、風力発電用設用等の部材、医療機器用筐体、大型ドローン、その他のFRP筐体やFRP部品等に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 FRP成形体基材
2 放射状割れ
3 穴
4 ワッペン
5 ワッシャー
6 ボルト
7 ナット
8 試料
9 支点
10荷重
11試料長手方向
12ファイバー配置0度
13ファイバー配置45度
14ファイバー配置90度
15角度の定義
16亀裂の進展方向
17渦巻き又は同心円状ガラスファイバー繊維
18中心穴に垂直に配置した繊維
19ファイバー群配置Fθ:45度