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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145311
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】二軸延伸ポリエチレンフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20231003BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20231003BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B27/18 D
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152132
(22)【出願日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2022051553
(32)【優先日】2022-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】寺本 靖丈
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 達也
(72)【発明者】
【氏名】岡本 健太郎
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA01
3E086AB01
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB35
3E086BB66
3E086BB90
4F100AK04A
4F100AK04B
4F100AK04C
4F100AK04D
4F100AK07B
4F100AK07C
4F100AT00
4F100BA04
4F100BA05
4F100CA22B
4F100CA22C
4F100CA22H
4F100CB03E
4F100CB03G
4F100EH202
4F100EH20A
4F100EH20B
4F100EH20C
4F100EH20D
4F100EJ382
4F100EJ553
4F100EJ55A
4F100GB15
4F100JG03
4F100JL06
4F100JL16
(57)【要約】
【課題】包装用資材として用いられるラミネートフィルムの基材として用いられる積層フィルムにおいて、リサイクルに優位なモノマテリアルを達成しつつ、製膜時の作業環境の悪化を防ぎ、環境及び人的負荷の低減に大いに貢献可能な二軸延伸ポリエチレンフィルムを提供する。
【解決手段】ラミネートフィルムの基材として用いられる複数の層からなる積層フィルムであり、Tダイ法によって賦形されて縦(MD)方向及び横(TD)方向の二軸方向に延伸されてなる二軸延伸フィルムであって、ポリエチレン樹脂を主体として少なくとも両表層と基材層とを備え、帯電防止剤が表層以外の少なくとも一層に添加されてなり、帯電防止剤が0.050~4.500重量%の割合で含有され、かつ、160℃以下の加熱条件下で二軸方向に延伸されてなる。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラミネートフィルムの基材として用いられる複数の層からなる積層フィルムであり、Tダイ法によって賦形されて縦(MD)方向及び横(TD)方向の二軸方向に延伸されてなる二軸延伸フィルムであって、
ポリエチレン樹脂を主体として少なくとも両表層と基材層とを備え、
帯電防止剤が前記表層以外の少なくとも一層に添加されてなり、
前記帯電防止剤が0.050~4.500重量%の割合で含有され、かつ、
160℃以下の加熱条件下で二軸方向に延伸されてなる
ことを特徴とする二軸延伸ポリエチレンフィルム。
【請求項2】
前記二軸延伸フィルムが前記表層と前記基材層の間に中間層を備える請求項1に記載の二軸延伸ポリエチレンフィルム。
【請求項3】
ラミネートフィルムの基材として用いられる複数の層からなる積層フィルムであり、Tダイ法によって賦形されて縦(MD)方向及び横(TD)方向の二軸方向に延伸されてなる二軸延伸フィルムであって、
ポリエチレン樹脂を主体として少なくとも両表層と基材層とを備え、
帯電防止剤が少なくとも一側の前記表層及び基材層に添加されてなり、
前記帯電防止剤が0.050~4.500重量%の割合で含有され、かつ、
160℃以下の加熱条件下で二軸方向に延伸されてなる
ことを特徴とする二軸延伸ポリエチレンフィルム。
【請求項4】
前記二軸延伸フィルムが前記表層と前記基材層の間に中間層を備える請求項3に記載の二軸延伸ポリエチレンフィルム。
【請求項5】
前記中間層に帯電防止剤が添加される請求項2又は4に記載の二軸延伸ポリエチレンフィルム。
【請求項6】
前記二軸延伸ポリエチレンフィルムの少なくとも一面が表面処理され、
該表面処理された一面のJIS K 6768(1999)に準拠して測定したぬれ張力が36mN/m以上であって、
JIS K 6911(2006)に準拠して測定した表面固有抵抗率が1×1010~1×1014Ω/□である請求項1又は3に記載の二軸延伸ポリエチレンフィルム。
【請求項7】
請求項6に記載の二軸延伸ポリエチレンフィルムにポリエチレン樹脂からなるシーラントフィルムが積層されてなるラミネートフィルム。
【請求項8】
請求項7に記載のラミネートフィルムよりなる包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラミネートフィルムの基材フィルムとして用いられるポリエチレンフィルムに関し、特に二軸方向に延伸されてなる延伸ポリエチレンフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、包装用として使用される積層体の表基材フィルムには、剛性、耐熱性、寸法安定性や安価である等の観点から二軸延伸ポリプロピレンフィルムが主に用いられる。二軸延伸ポリプロピレンフィルムには、印刷やラミネート等の加工工程における適性を備えさせるために、帯電防止剤等の添加剤が配合されて製造される。
【0003】
帯電防止剤のうち、広く使用されているものには油脂成分が含まれており、ポリプロピレンフィルム製造時の延伸工程においては200℃程度の高温にさらされることによって、該油脂成分の一部が蒸気化することがある。蒸気化した油脂成分は煙となり、作業環境を悪化させる。そして、排ガス処理前の排気ダクト内における、例えば、湾曲部等で油脂成分と埃が堆積し、蓄熱されて発火するといった事例も報告されており、火災の原因となりうる危険性がある。このため、ポリプロピレン系の延伸フィルムにおいて、加工温度を抑制することにより、油脂成分による発煙を抑制する工夫がなされている(例えば、特許文献1等参照。)。
【0004】
合成樹脂フィルムからなる包装用資材は、印刷加工等が施された基材フィルムとシーラントフィルムとが接着剤等により貼り合わされて積層(ラミネート加工)された積層体で構成される。積層体の基材フィルムには、耐熱性、剛性、耐ピンホール性等の性能が要求され、上記したように、主にポリプロピレンを成分とした二軸延伸フィルムが使用される。また、積層体のシーラントフィルムには、ポリプロピレン、ポリエチレンを成分とした無延伸フィルムが使用され、特に優れたヒートシール適性からポリエチレン系無延伸フィルムが好ましく用いられる。
【0005】
合成樹脂製の包装資材は、要求される性能の高度化により、複数種類の樹脂が積層され複合化される傾向がある。しかし、近年の環境問題への関心の高まりにより廃プラスチックのリサイクルが望まれており、複数種類の樹脂が積層されたフィルムは樹脂ごとに分けてのリサイクルが困難であってリサイクルに不向きである。そこで、この種の合成樹脂製包装資材では、基材フィルムとシーラントフィルムとを単一素材(モノマテリアル)で構成されることの要求が高まりつつある。
【0006】
基材フィルムとシーラントフィルムとが単一素材からなるモノマテリアルの包装資材では、例えば、シーラントフィルムとして好ましく採用されるポリエチレン系素材を基材フィルムに使用したポリエチレン系積層体が知られている(特許文献2参照)。このポリエチレン系積層体は、基材フィルムである延伸ポリエチレンフィルムと、シーラントフィルムであるヒートシール性ポリエチレンフィルムとを備え、接着層が無溶剤型接着剤を含むように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-066470号公報
【特許文献2】特開2019-189333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、包装用資材の分野においては、従来フィルムに要求されていた任意の物性に加え、リサイクルへの適性も要求されるように市場が変化しつつある。近年では、国際的な達成目標としてのSDGs(Sustainable Development Goals)、持続可能な開発目標が掲げられ、我が国の産業においても、経済成長とともに環境並びに人的にも負荷の少ない技術が求められている。
【0009】
本発明は、上記状況に鑑み提案されたものであり、包装用資材として用いられるラミネートフィルムの基材として用いられる積層フィルムにおいて、リサイクルに優位なモノマテリアルを達成しつつ、製膜時の作業環境の悪化を防ぎ、環境及び人的負荷の低減に大いに貢献可能な二軸延伸ポリエチレンフィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、第1の発明は、ラミネートフィルムの基材として用いられる複数の層からなる積層フィルムであり、Tダイ法によって賦形されて縦(MD)方向及び横(TD)方向の二軸方向に延伸されてなる二軸延伸フィルムであって、ポリエチレン樹脂を主体として少なくとも両表層と基材層とを備え、帯電防止剤が前記表層以外の少なくとも一層に添加されてなり、前記帯電防止剤が0.050~4.500重量%の割合で含有され、かつ、160℃以下の加熱条件下で二軸方向に延伸されてなることを特徴とする二軸延伸ポリエチレンフィルムに係る。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記二軸延伸フィルムが前記表層と前記基材層の間に中間層を備える二軸延伸ポリエチレンフィルムに係る。
【0012】
第3の発明は、ラミネートフィルムの基材として用いられる複数の層からなる積層フィルムであり、Tダイ法によって賦形されて縦(MD)方向及び横(TD)方向の二軸方向に延伸されてなる二軸延伸フィルムであって、ポリエチレン樹脂を主体として少なくとも両表層と基材層とを備え、帯電防止剤が少なくとも一側の前記表層及び基材層に添加されてなり、前記帯電防止剤が0.050~4.500重量%の割合で含有され、かつ、160℃以下の加熱条件下で二軸方向に延伸されてなることを特徴とする二軸延伸ポリエチレンフィルムに係る。
【0013】
第4の発明は、第3の発明において、前記二軸延伸フィルムが前記表層と前記基材層の間に中間層を備える二軸延伸ポリエチレンフィルムに係る。
【0014】
第5の発明は、第2又は4の発明において、前記中間層に帯電防止剤が添加される二軸延伸ポリエチレンフィルムに係る。
【0015】
第6の発明は、第1又は3の発明において、前記二軸延伸ポリエチレンフィルムの少なくとも一面が表面処理され、該表面処理された一面のJIS K 6768(1999)に準拠して測定したぬれ張力が36mN/m以上であって、JIS K 6911(2006)に準拠して測定した表面固有抵抗率が1×1010~1×1014Ω/□である二軸延伸ポリエチレンフィルムに係る。
【0016】
第7の発明は、第6の発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムにポリエチレン樹脂からなるシーラントフィルムが積層されてなるラミネートフィルムに係る。
【0017】
第8の発明は、第7の発明のラミネートフィルムよりなる包装体に係る。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムによると、ラミネートフィルムの基材として用いられる複数の層からなる積層フィルムであり、Tダイ法によって賦形されて縦(MD)方向及び横(TD)方向の二軸方向に延伸されてなる二軸延伸フィルムであって、ポリエチレン樹脂を主体として少なくとも両表層と基材層とを備え、帯電防止剤が前記表層以外の少なくとも一層に添加されてなり、前記帯電防止剤が0.050~4.500重量%の割合で含有され、かつ、160℃以下の加熱条件下で二軸方向に延伸されてなるため、リサイクルに優位なモノマテリアルを達成しつつ、製膜時の作業環境の悪化を防ぎ、環境及び人的負荷の低減に大いに貢献可能となる。
【0019】
第2の発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムによると、第1の発明において、前記二軸延伸フィルムが前記表層と前記基材層の間に中間層を備えるため、所望する物性のフィルムとしつつ、環境及び人的負荷の低減に大いに貢献可能なフィルムを提供することができる。
【0020】
第3の発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムによると、ラミネートフィルムの基材として用いられる複数の層からなる積層フィルムであり、Tダイ法によって賦形されて縦(MD)方向及び横(TD)方向の二軸方向に延伸されてなる二軸延伸フィルムであって、ポリエチレン樹脂を主体として少なくとも両表層と基材層とを備え、帯電防止剤が少なくとも一側の前記表層及び基材層に添加されてなり、前記帯電防止剤が0.050~4.500重量%の割合で含有され、かつ、160℃以下の加熱条件下で二軸方向に延伸されてなるため、リサイクルに優位なモノマテリアルを達成しつつ、製膜時の作業環境の悪化を防ぎ、環境及び人的負荷の低減に大いに貢献可能となる。
【0021】
第4の発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムによると、第3の発明において、前記二軸延伸フィルムが前記表層と前記基材層の間に中間層を備えるため、所望する物性のフィルムとしつつ、環境及び人的負荷の低減に大いに貢献可能なフィルムを提供することができる。
【0022】
第5の発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムによると、第2又は4の発明において、前記中間層に帯電防止剤が添加されるため、製膜時の作業環境の悪化をより効果的に防ぐことができ、環境及び人的負荷の低減に大いに貢献可能となる。
【0023】
第6の発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムによると、第1又は3の発明において、前記二軸延伸ポリエチレンフィルムの少なくとも一面が表面処理され、該表面処理された一面のJIS K 6768(1999)に準拠して測定したぬれ張力が36mN/m以上であって、JIS K 6911(2006)に準拠して測定した表面固有抵抗率が1×1010~1×1014Ω/□であるため、印刷適性やラミネート適性が向上するとともに、フィルムの帯電を適切に防ぐことができる。
【0024】
第7の発明のラミネートフィルムによると、第6の発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムにポリエチレン樹脂からなるシーラントフィルムが積層されてなるため、既存のラミネートフィルムの代替として有望である。
【0025】
第8の発明の包装体によると、第7の発明のラミネートフィルムよりなるため、既存の包装体の代替として有望である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムは、ラミネートフィルムの基材として用いられるフィルムであって、印刷やラミネート等の加工適性を備え、縦(MD)方向及び横(TD)方向に延伸されてなるフィルムである。従来のラミネートフィルムの基材フィルムと同様に、Tダイ法によって賦形され、縦(MD)方向に延伸された後に横(TD)方向に延伸されて成形される。なお、二軸方向への延伸は、上記した逐次二軸延伸でも同時二軸延伸でもよく、どちらも良好に用いられる。
【0027】
ラミネートフィルムは、ポリエチレン樹脂からなるシーラントフィルムと積層され積層体として使用される。そして、単一素材(モノマテリアル)の観点から、ラミネートフィルムの基材となる二軸延伸ポリエチレンフィルムはポリエチレン樹脂を主体として構成される。ラミネートフィルムは、例えば食品、日用品、部品等の種々の物品の包装用資材として好適に使用され、包装体等に成形されて使用される。本発明に用いられるポリエチレン樹脂は、化石由来原料からなるポリエチレン樹脂のみならず、バイオマス由来、マテリアルリサイクル由来、ケミカルリサイクル由来等の原料からなるポリエチレン樹脂が使用されることができる。
【0028】
二軸延伸ポリエチレンフィルムには、帯電防止剤が添加される。帯電防止剤は、ラウリルジエタノールアミン、ミリスチルジエタノールアミン、パルミチルジエタノールアミン、オレイルジエタノールアミン、ステアリルジエタノールアミン等の脂肪族アミン化合物及びこれらのエステル化合物である脂肪族アミンエステル化合物、ラウリルジエタノールアミド、ミリスチルジエタノールアミド、パルミチルジエタノールアミド、オレイルジエタノールアミド、ステアリルジエタノールアミド等の脂肪族アミド化合物及びこれらのエステル化合物である脂肪族アミドエステル化合物、グリセリンモノオレート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート等の多価アルコール、ソルビタンラウレート、ソルビタンパルミテート、ソルビタンオレート、ソルビタンステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル類、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等のスルホン酸類、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の硫酸エステル類、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等のリン酸エステル類があり、フィルム成形時における加熱により蒸気化して発煙が生じることがある。そこで、本発明においては、従来のラミネートフィルムの基材の樹脂原料として使用されていた融点の高いポリプロピレン樹脂ではなく、ポリエチレン樹脂が使用される。ポリエチレン樹脂は、ポリプロピレン樹脂よりも融点が低く、160℃以下の加熱条件で延伸が可能である。このため、帯電防止剤がフィルム成形時に高温下にさらされることがなくなり、蒸気化し発煙が生じるのを防ぐことができる。
【0029】
帯電防止剤は、二軸延伸ポリエチレンフィルムが複数の層からなる積層フィルムである場合には、表層以外の層に添加されることが多い。積層フィルムの表面がコロナ放電処理等で表面処理されることにより、表層以外の層に添加された帯電防止剤は表層を通過してフィルム表面に移行する。帯電防止剤を適切にフィルム表面へ移行させることによって、所望の帯電防止性能をフィルムに付与することができる。
【0030】
また、所望の帯電防止性能をフィルムに付与するにあたって、帯電防止剤の添加量が調整される。帯電防止剤が積層フィルムの表層に添加される場合は、フィルムの製造工程において、例えば、ガイドロール等の金属ロールに帯電防止剤が付着ないし堆積しやすくなる。金属ロールに堆積した帯電防止剤は、該金属ロールを通過する後続のフィルムに転写されて、外観を損なう等の品質低下に繋がるおそれがある。そのため、金属ロールに付着ないし堆積した帯電防止剤を除去する作業が必要となり、人的負担が増加し、作業効率が悪化するきらいがある。
【0031】
また、金属ロール等に帯電防止剤が付着ないし堆積することは、フィルムに添加された帯電防止剤が製造工程において減少してしまうこととなり、得られた二軸延伸ポリエチレンフィルムが所望の帯電防止性能を備えていない可能性がある。このような問題が考えられることから、帯電防止剤は表層以外の層に添加されることが多い。帯電防止剤が表層に添加される場合には、上記した問題が生じないように、かつ、所望の帯電防止性能が発揮される限度において少量の添加が好ましい。帯電防止剤の添加方法は特に制限されず、例えば、高濃度のマスターバッチを、フィルムの樹脂原料に混合したり、ドライブレンドで混合する等、公知の方法で添加することができる。
【0032】
本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムは、両側に配される両表層と、該表層の間に配される基材層と、必要に応じて基材層と表層の間に配される中間層を備えることがある。つまり、本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムは、3ないし5層の積層フィルムとされることが好ましい。上記したように、帯電防止剤は、表層以外の少なくとも一層に添加されることが多い。この場合には、例えば、基材層のみに添加されたり、基材層と中間層に添加されることが考えられる。帯電防止剤が表層にも添加される場合には、表層に添加される帯電防止剤は少量であることが想定されることから、表層に加えて基材層や中間層にも添加されることが望ましい。
【0033】
従来のポリプロピレン樹脂が主体となる基材フィルムにあっては、フィルムに所望の滑り性を付与するために帯電防止剤の添加量を増加させる場合がある。このとき、帯電防止剤の添加量の増加に比例してフィルム成形時の発煙量も増大することとなる。つまり、帯電防止剤の添加量の増加は、フィルム成形時の作業環境の悪化に直結するきらいがあった。本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムにあっては、帯電防止剤は二軸延伸ポリエチレンフィルムの0.050~4.500重量%の割合で含有され、低温域でフィルム成形がされることから、帯電防止剤の添加量が増加しても、フィルム成形時の発煙は抑制される。なお、帯電防止剤の添加量はラミネートフィルムの基材として要求される一定の滑り性を満たすよう適宜調整される。帯電防止剤の添加量が少なすぎると、印刷時にスパークが生じてインク等の溶剤に引火するおそれがある。
【0034】
また、フィルム成形時に帯電防止剤の蒸気化を防ぐことができることから、フィルムからの帯電防止剤の離脱が結果的に少なくなり、従来のポリプロピレン樹脂を主体とする基材フィルムと比較して、帯電防止剤の添加量の低減を図ることが可能となる。つまり、フィルムの帯電防止性能を損ねることなく、フィルム成形時の発煙を防ぎ、かつ帯電防止剤の添加量低減が可能となり、経済的にも優位となる。
【0035】
そして、本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムは、印刷適性ないしラミネート適性を付与するため、少なくとも一面が表面処理される。表面処理された一面のぬれ張力は、36mN/m以上とされる。また、表面処理によって添加された帯電防止剤がブリードアウトされ、帯電防止機能が十分に発現されることとなる。つまり、表面処理された一面に帯電防止剤がブリードアウトされ、該一面の表面固有抵抗率が1×1010~1×1014Ω/□とされることにより、帯電防止性能及び印刷適性が十分に確保されたフィルムとすることができる。ぬれ張力及び表面固有抵抗率は、後述の実施例に記載される通り、JIS K 6768(1999)及びJIS K 6911(2006)にそれぞれ準拠して測定される。
【実施例0036】
[二軸延伸ポリエチレンフィルム及び二軸延伸ポリプロピレンフィルムの作製]
後述のポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂及び帯電防止剤を用いて試作例及び比較例を作成した。基材層、両表層に対応する原料樹脂のペレット等を押出機に供給し、供給した原料を溶融、混練してTダイ法により複数層(基材層と基材層の両表層の3層)に押出し、縦(MD)方向に5倍に延伸した後、横(TD)方向に8倍に延伸し、二軸延伸して製膜した。その後、片側の表層にコロナ放電処理により表面処理を施した。なお、各試作例及び比較例において、樹脂の配合割合は、基材層又は表層の各層ごとに100重量%となるように配合した。
【0037】
[使用材料]
・ポリエチレン樹脂(PE-1):直鎖状低密度ポリエチレン(ダウ・ケミカル社製、『TF80』)
・ポリプロピレン樹脂(PP-1):ホモポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製、『FL203D』)
・帯電防止剤(AS-1):グリセリンモノステアレート67重量%とステアリルジエタノールアミン33重量%からなる帯電防止剤
・帯電防止剤(AS-2):グリセリンモノステアレート30重量%とオレイルジエタノールアミン20重量%とオレイルジエタノールアミンモノラウレート50重量%からなる帯電防止剤
・帯電防止剤(AS-3):グリセリンモノステアレート100重量%からなる帯電防止剤
・帯電防止剤(AS-4):ステアリルジエタノールアミン100重量%からなる帯電防止剤
・帯電防止剤(AS-5):リン酸エステル100重量%からなる帯電防止剤
【0038】
[試作例1]
基材層はポリエチレン樹脂(PE-1)を99.90重量%、帯電防止剤(AS-1)0.10重量%の割合で混合した原料を用い、表層はポリエチレン樹脂(PE-1)100重量%を用いた。各層の厚みについて、表層(一側):基材層:表層(他側)が1:18:1の比率となるよう原料の吐出量を調整した。縦方向のロール延伸温度を115℃、横方向のテンター予熱温度143℃、延伸温度を122℃とし、20μmの試作例1の二軸延伸ポリエチレンフィルムを得た。フィルムに対する帯電防止剤の添加量は0.090重量%である。
【0039】
[試作例2]
基材層にポリエチレン樹脂(PE-1)を99.00重量%、帯電防止剤(AS-1)1.00重量%の割合で混合した原料を用いた以外は試作例1と同様とし、試作例2の二軸延伸ポリエチレンフィルムを得た。フィルムに対する帯電防止剤の添加量は0.900重量%である。
【0040】
[試作例3]
基材層にポリエチレン樹脂(PE-1)を99.90重量%、帯電防止剤(AS-2)0.10重量%の割合で混合した原料を用いた以外は試作例1と同様とし、試作例3の二軸延伸ポリエチレンフィルムを得た。フィルムに対する帯電防止剤の添加量は0.090重量%である。
【0041】
[試作例4]
基材層にポリエチレン樹脂(PE-1)を99.00重量%、帯電防止剤(AS-2)1.00重量%の割合で混合した原料を用いた以外は試作例1と同様とし、試作例4の二軸延伸ポリエチレンフィルムを得た。フィルムに対する帯電防止剤の添加量は0.900重量%である。
【0042】
[試作例5]
基材層にポリエチレン樹脂(PE-1)を99.90重量%、帯電防止剤(AS-3)0.10重量%の割合で混合した原料を用いた以外は試作例1と同様とし、試作例5の二軸延伸ポリエチレンフィルムを得た。フィルムに対する帯電防止剤の添加量は0.090重量%である。
【0043】
[試作例6]
基材層にポリエチレン樹脂(PE-1)を99.90重量%、帯電防止剤(AS-4)0.10重量%の割合で混合した原料を用いた以外は試作例1と同様とし、試作例6の二軸延伸ポリエチレンフィルムを得た。フィルムに対する帯電防止剤の添加量は0.090重量%である。
【0044】
[試作例7]
基材層にポリエチレン樹脂(PE-1)を99.90重量%、帯電防止剤(AS-5)0.10重量%の割合で混合した原料を用いた以外は試作例1と同様とし、試作例7の二軸延伸ポリエチレンフィルムを得た。フィルムに対する帯電防止剤の添加量は0.090重量%である。
【0045】
[試作例8]
基材層にポリエチレン樹脂(PE-1)を95.00重量%、帯電防止剤(AS-1)5.00重量%の割合で混合した原料を用いた以外は試作例1と同様とし、試作例8の二軸延伸ポリエチレンフィルムを得た。フィルムに対する帯電防止剤の添加量は4.500重量%である。
【0046】
[試作例9]
基材層と表面層をともにポリエチレン樹脂(PE-1)を99.95重量%、帯電防止剤(AS-1)0.05重量%の割合で混合した原料を用いた以外は試作例1と同様とし、試作例9の二軸延伸ポリエチレンフィルムを得た。フィルムに対する帯電防止剤の添加量は0.050重量%である。
【0047】
[試作例10]
基材層と表面層をともにポリエチレン樹脂(PE-1)を95.50重量%、帯電防止剤(AS-1)4.50重量%の割合で混合した原料を用いた以外は試作例1と同様とし、試作例10の二軸延伸ポリエチレンフィルムを得た。フィルムに対する帯電防止剤の添加量は4.500重量%である。
【0048】
[試作例11]
横方向のテンター予熱温度を158℃とした以外は試作例10と同様とし、試作例11の二軸延伸ポリエチレンフィルムを得た。フィルムに対する帯電防止剤の添加量は4.500重量%である。
【0049】
[比較例1]
基材層にポリエチレン樹脂(PE-1)を100重量%とし、帯電防止剤を添加せずとした以外は試作例1と同様とし、比較例1の二軸延伸ポリエチレンフィルムを得た。フィルムに対する帯電防止剤の添加量は0.000重量%である。
【0050】
[比較例2]
基材層はポリプロピレン樹脂(PP-1)を99.00重量%、帯電防止剤(AS-1)1.00重量%の割合で混合した原料を用い、表層はポリプロピレン樹脂(PP-1)100重量%を用いた。各層の厚みについて、表層(一側):基材層:表層(他側)が1:18:1の比率となるよう原料の吐出量を調整した。縦方向のロール延伸温度を120℃、横方向のテンター予熱温度184℃、延伸温度を163℃とし、20μmの比較例2の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。フィルムに対する帯電防止剤の添加量は0.900重量%である。
【0051】
[比較例3]
基材層にポリプロピレン樹脂(PP-1)を99.90重量%、帯電防止剤(AS-1)0.10重量%の割合で混合した原料を用いた以外は比較例2と同様とし、比較例3の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。フィルムに対する帯電防止剤の添加量は0.090重量%である。
【0052】
[比較例4]
基材層にポリエチレン樹脂(PE-1)を99.95重量%、帯電防止剤(AS-1)0.05重量%の割合で混合した原料を用いた以外は試作例1と同様とし、比較例4の二軸延伸ポリエチレンフィルムを得た。フィルムに対する帯電防止剤の添加量は0.045重量%である。
【0053】
[比較例5]
横方向のテンター予熱温度を161℃とした以外は試作例10と同様とし、20μmの二軸延伸ポリエチレンフィルムの作製を試みたが、断続的にフィルムの破断が生じ、安定して二軸延伸ポリエチレンフィルムを得ることができなかった。
【0054】
試作例1~11及び比較例1~5につき、ぬれ張力(mN/m)、表面固有抵抗率(Ω/□)を測定した。また、フィルム成形時における発煙の有無につき評価をおこなった。
【0055】
[ぬれ張力の測定]
ぬれ張力(mN/m)は、JIS K 6768(1999)に準拠して測定した。ぬれ張力が36mN/mよりも小さいと、印刷適性やラミネート適性に劣るフィルムであるということができる。
【0056】
[表面固有抵抗率の測定]
表面固有抵抗率(Ω/□)は、JIS K 6911(2006)に準拠して測定した。表面固有抵抗率が大きいほど帯電防止性能に劣るフィルムであるということができる。表中、表面固有抵抗率が1×1014Ω/□を超えるフィルムについてはオーバーレンジとして「O.R.」と表記した。
【0057】
[発煙評価]
フィルム成形時の発煙の程度の評価については、横(TD)方向への延伸部であるテンター設備の出口において、帯電防止剤の蒸気化による発煙の有無を目視により確認して、以下の通り評価した。発煙が全く観察されなかったものを「0」、発煙がごくわずかに観察されるものを「1」、発煙が容易に視認可能なものを「2」とした。
【0058】
試作例1~11、比較例1,4,5の二軸延伸ポリエチレンフィルム及び比較例2,3の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの測定結果及び評価結果について、表1~3に示した。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
[結果と考察]
表1~3に示すように、基材層を構成する樹脂をポリエチレン樹脂とすることにより、フィルム成形時の発煙を抑制することができることが示された。具体的には、基材層を構成する樹脂をポリエチレン樹脂とした試作例1~11では、フィルム成形時に発煙が全く観察されなかった。基材層に同種の帯電防止剤が同濃度で添加された試作例2と比較例2とを対比すると、ポリプロピレン樹脂から構成される比較例2は、延伸の際に160℃以上の加熱条件下で成形されるため、発煙が多量に観察されたのに対し、ポリエチレン樹脂から構成される試作例2においては、延伸の際に発煙は観察されない結果となった。
【0063】
試作例10及び11では、フィルム全体に対して帯電防止剤が4.500重量%と高い割合で含有されているものの、延伸の際に発煙が全く観察されなかった。また、試作例10ないし11の横方向のテンター予熱温度を161℃とした比較例5においては、安定したフィルム製膜はできなかったものの、発煙が観察されることはなかった。
【0064】
[印刷評価]
次に、試作例1,2及び比較例1,2について印刷試験を行った。印刷に際し、グラビア校正機(CM型)(株式会社日商グラビア製、『GRAVO-PROOF MINI』)を使用し、40m/minの印刷速度とした。印刷版には『He,175L,S130°∠0』を使用した。インキには東洋インキ株式会社製、『リオアルファ R92墨 S』、希釈溶媒に同社製、『NKFS 103 溶剤 N』を使用した。インキと希釈溶媒は2:1の比率により調製し、試作例1,2及び比較例1,2のコロナ放電処理を施したフィルム表面に印刷を行った。
【0065】
印刷した試作例及び比較例のフィルムサンプルのインキの転移性について顕微鏡を使用して観察した。帯電防止剤が添加されていない比較例1や、試作例2に対して基材層に同種の帯電防止剤が同濃度で添加されたポリプロピレン樹脂から構成される比較例2と同様に、試作例1及び2は、インキのハジキ等はなく良好な印刷が可能であった。
【0066】
また、ぬれ張力及び表面固有抵抗率が良好な試作例3~11においても、帯電防止剤が適切な分量で添加された例であって、帯電防止剤の添加量が少ない比較例4及び帯電防止剤が添加されていない比較例1と比較して、十分な印刷適性及びラミネート適性を備えつつ、フィルム製膜時の作業環境悪化の防止を望むことができる。
【0067】
[ラミネートフィルムの作製]
試作例1,2及び比較例1,2の二軸延伸ポリエチレンフィルムを用いてラミネートフィルムを作製した。各試作例及び比較例のコロナ処理面に2液硬化型のポリエステル系接着剤を約3g/mを塗布し、ポリエチレン系無延伸フィルム(フタムラ化学株式会社製、『LL-XMTN♯50』)とドライラミネーション法により貼着し、ラミネートフィルムとした。各ラミネートフィルムの外観を目視で確認したところ、シワ等はなく、良好であった。
【0068】
ラミネートフィルムの基材として用いられるフィルムがポリエチレン樹脂を主体として構成されることにより、モノマテリアルを達成しつつ、フィルムの延伸時の温度条件を緩和することが可能となった。このことから、帯電防止剤の蒸気化を抑制し、フィルムからの発煙を防ぐことができることから、本発明によりフィルム成形時の作業環境の悪化の懸念が払拭されることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明したように、本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムは、ラミネートフィルムの基材として用いられる積層フィルムであって、印刷やラミネート等の加工適性を備えつつ、モノマテリアルを達成してリサイクルを容易にするとともに、フィルム成形時の発煙を抑制することができることから、環境及び人的負荷の低減に大いに貢献可能である。