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特開2023-145315プレス成形方法及びプレス成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145315
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】プレス成形方法及びプレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/26 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
B21D22/26 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161454
(22)【出願日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2022051057
(32)【優先日】2022-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕之
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA06
4E137AA11
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC01
4E137CA09
4E137CA24
4E137EA03
4E137GA03
4E137GA06
4E137GA17
4E137GB03
(57)【要約】
【課題】コーナーフランジ部を有するプレス成形品のプレス成形方法であって、リストライク工程を追加することなくしわや折れ込みを防止できるプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法は、天板部3と、縦壁部5と、底フランジ部7と、縦フランジ部9と、縦フランジ部9と底フランジ部7との間に設けられたコーナーフランジ部11と、を有するプレス成形品1のプレス成形方法であって、底フランジ部7、縦フランジ部9及びコーナーフランジ部11を有し、縦壁部5と底フランジ部7との角度及び/又は縦壁部5と縦フランジ部9との角度を目標形状の角度より大きくした中間フランジ部を有する中間成形品100をプレス成形する第1工程と、該第1工程で目標形状の角度より大きくした中間フランジ部における縦壁部5との角度を、目標形状の角度にプレス成形する第2工程とを備えたものである。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板部と、該天板部に連続する縦壁部と、該縦壁部に連続して前記天板部と反対側に位置する底フランジ部と、前記縦壁部における長手方向の前部及び/又は後部に前記縦壁部に連続する縦フランジ部と、該縦フランジ部と前記底フランジ部との間に設けられたコーナーフランジ部と、を有するプレス成形品のプレス成形方法であって、
前記底フランジ部、前記縦フランジ部及び前記コーナーフランジ部を有し、前記縦壁部と前記底フランジ部との角度及び/又は前記縦壁部と前記縦フランジ部との角度を目標形状の角度より大きくした中間フランジ部を有する中間成形品をプレス成形する第1工程と、
該第1工程で目標形状の角度より大きくした中間フランジ部における縦壁部との角度を、目標形状の角度にプレス成形する第2工程とを備えたことを特徴とするプレス成形方法。
【請求項2】
前記第1工程において、天板部と縦壁部との内角を目標形状の内角より大きくプレス成形し、前記第2工程において、前記内角を目標形状の内角にプレス成形することを特徴とする請求項1に記載のプレス成形方法。
【請求項3】
前記プレス成形品が、天板部の両側に縦壁部を有し、該縦壁部に連続して前記底フランジ部を有するハット断面形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス成形方法。
【請求項4】
前記プレス成形品が、天板部の片側に縦壁部を有し、該縦壁部に連続して前記底フランジ部を有するZ字断面形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス成形方法。
【請求項5】
天板部と、該天板部に連続する縦壁部と、該縦壁部に連続して前記天板部と反対側に位置する底フランジ部と、前記縦壁部における長手方向の前部及び/又は後部に前記縦壁部に連続する縦フランジ部と、該縦フランジ部と前記底フランジ部との間に設けられたコーナーフランジ部と、を有するプレス成形品の製造方法であって、
前記底フランジ部、前記縦フランジ部及び前記コーナーフランジ部を有し、前記縦壁部と前記底フランジ部との角度及び/又は前記縦壁部と前記縦フランジ部との角度を目標形状の角度より大きくした中間フランジ部を有する中間成形品をプレス成形する第1工程と、
該第1工程で目標形状の角度より大きくした中間フランジ部における縦壁部との角度を、目標形状の角度にプレス成形する第2工程とを備えたことを特徴とするプレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天板部と、該天板部に連続する縦壁部と、該縦壁部に連続して前記天板部と反対側に位置する底フランジ部と、前記縦壁部における長手方向の前部及び/又は後部に前記縦壁部に連続する縦フランジ部と、該縦フランジ部と前記底フランジ部との間に設けられたコーナーフランジ部と、を有するプレス成形品のプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突安全性基準の厳格化により、車体の衝突安全性の向上が進む中で、二酸化炭素排出規制を受けて、燃費向上やEV化のために車体の軽量化も必要とされている。これら車体の衝突安全性向上と軽量化を両立させるために、車体構造部品への590MPa級以上の高強度鋼板(ハイテン材とも称する)の適用が進んでいる。
【0003】
自動車部品には、例えば図3に示すフロアクロスメンバーなどのように、縦壁部5に連なり天板部3と反対側に位置する底フランジ部7を有し、底フランジ部7に連続し、長手方向の縦壁部5の前部及び後部に至る縦フランジ部9を有するハット断面形状のプレス成形品1がある。
【0004】
このようなプレス成形品1は、底フランジ部7と縦フランジ部9が連続する部分であるコーナーフランジ部11が縮みフランジ成形となり、プレス成形した場合、コーナーフランジ部11において大きなしわや座屈(折れ込み)が発生する。特にハイテン材の場合、高強度化によってしわや座屈(折れ込み)が発生しやすくなる。
【0005】
このようなしわ発生を抑制する技術として、例えば特許文献1には、少なくとも第1の面部及び第1の面部に連続するフランジ部を曲げ成形するプレス部品の製造方法において、少なくともシワ発生領域を含むフランジ部を非接触領域として、金型を非接触な形状に設定して、曲げ成形を行うプレス部品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-093303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法では、しわが発生するフランジ部を金型と非接触な領域とするため、当該領域では金型に十分接触できず、目標形状どおりのプレス成形品にプレス成形できない場合がある。このため、目標形状とするために、さらにリストライク工程を追加して決め押しする必要があった。
また、非接触であるフランジ部に折れ込みが発生した場合には、リストライク工程を追加しても目標形状を得ることができないという問題もあった。
【0008】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、コーナーフランジ部を有するプレス成形品のプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法であって、リストライク工程を追加することなくしわや折れ込みを防止できるプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係るプレス成形方法は、天板部と、該天板部に連続する縦壁部と、該縦壁部に連続して前記天板部と反対側に位置する底フランジ部と、前記縦壁部における長手方向の前部及び/又は後部に前記縦壁部に連続する縦フランジ部と、該縦フランジ部と前記底フランジ部との間に設けられたコーナーフランジ部と、を有するプレス成形品のプレス成形方法であって、
前記底フランジ部、前記縦フランジ部及び前記コーナーフランジ部を有し、前記縦壁部と前記底フランジ部との角度及び/又は前記縦壁部と前記縦フランジ部との角度を目標形状の角度より大きくした中間フランジ部を有する中間成形品をプレス成形する第1工程と、
該第1工程で目標形状の角度より大きくした中間フランジ部における縦壁部との角度を、目標形状の角度にプレス成形する第2工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0010】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記第1工程において、天板部と縦壁部との内角を目標形状の内角より大きくプレス成形し、前記第2工程において、前記内角を目標形状の内角にプレス成形することを特徴とするものである。
【0011】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記プレス成形品が、天板部の両側に縦壁部を有し、該縦壁部に連続して前記底フランジ部を有するハット断面形状であることを特徴とするものである。
【0012】
(4)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記プレス成形品が、天板部の片側に縦壁部を有し、該縦壁部に連続して前記底フランジ部を有するZ字断面形状であることを特徴とするものである。
【0013】
(5)本発明に係るプレス成形品の製造方法は、天板部と、該天板部に連続する縦壁部と、該縦壁部に連続して前記天板部と反対側に位置する底フランジ部と、前記縦壁部における長手方向の前部及び/又は後部に前記縦壁部に連続する縦フランジ部と、該縦フランジ部と前記底フランジ部との間に設けられたコーナーフランジ部と、を有するプレス成形品の製造方法であって、
前記底フランジ部、前記縦フランジ部及び前記コーナーフランジ部を有し、前記縦壁部と前記底フランジ部との角度及び/又は前記縦壁部と前記縦フランジ部との角度を目標形状の角度より大きくした中間フランジ部を有する中間成形品をプレス成形する第1工程と、
該第1工程で目標形状の角度より大きくした中間フランジ部における縦壁部との角度を、目標形状の角度にプレス成形する第2工程とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、天板部と、該天板部に連続する縦壁部と、該縦壁部に連続して前記天板部と反対側に位置する底フランジ部と、前記縦壁部における長手方向の前部及び/又は後部に前記縦壁部に連続する縦フランジ部と、該縦フランジ部と前記底フランジ部との間に設けられたコーナーフランジ部と、を有するプレス成形品について、リストライク工程を追加することなくフランジ部のしわや折れ込みを効果的に抑制することができる。
その結果、良好な形状のプレス成形品が得られ、プレス成形における歩留まり向上にも繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施の形態のプレス成形方法に用いる金型の説明図である。
図2】本実施の形態によるプレス成形方法の第1工程と第2工程におけるフランジ部の板厚増加率を示す図である。
図3】本実施の形態で対象としたプレス成形品の目標形状の説明図である。
図4図3に示したプレス成形品を1工程で成形する従来例の金型の説明図である。
図5】従来例のプレス成形方法による最大板厚増加率を示す図である。
図6】実施例における中間成形品の断面の位置を説明する説明図である。
図7】実施例における発明例と従来例の第1工程及び第2工程において目標とする断面形状の説明図である。
図8】実施例における発明例と従来例の解析結果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本実施の形態のプレス成形方法が対象としているプレス成形品を図3に基づいて説明する。
対象とするプレス成形品1は、図3に示すように、天板部3と、天板部3に連続する縦壁部5と、縦壁部5に連続して天板部3と反対側に位置する底フランジ部7と、縦壁部5における長手方向の前部及び後部に縦壁部5に連続する縦フランジ部9と、縦フランジ部9と底フランジ部7との間に設けられたコーナーフランジ部11と、を有するハット断面形状の部品である。
【0017】
次に、本発明に至った経緯を説明する。
図3に示すハット断面形状のプレス成形品1を目標形状とする従来のプレス成形方法は、目標形状となる金型を用いて、1工程で成形しており、その金型及びブランクの具体例を図4に示す。
ブランク13をパッド15とパンチ17で挟み、ダイ19をパンチ17に対して相対移動させ、これによって、底フランジ部7、縦フランジ部9及びコーナーフランジ部11が縦壁部5と成す角度を目標角度に成形する。
【0018】
図3に示すプレス成形品1においては、底フランジ部7と縦フランジ部9が連続する湾曲部位であるコーナーフランジ部11が縮みフランジ成形となり、コーナーフランジ部11の板厚が増加してしわが発生して、著しい場合は座屈(折れ込み)に至る。
図4に示した従来のプレス成形方法のFEM解析結果を図5に示す。図5は、プレス成形下死点におけるハット断面形状のプレス成形品1の板厚増加率の分布であり、色の濃い領域は板厚が増加していることを示している。
【0019】
ここで、板厚増加率とは、プレス成形後の板厚とプレス成形前のブランク13の板厚との差(板厚増)を求め、プレス成形前のブランク13の板厚との比(割合)で表したものであり、値が大きいほど板厚が増加することを表している。
図5に示すように、コーナーフランジ部11に大きな板厚増加が生じており、その最大板厚増加率は118%と著しく大きく、しわや座屈(折れ込み)が発生することがわかる。
【0020】
大きな板厚増加が生じた原因は、図3に示すようなハット断面形状のプレス成形品1を1工程でプレス成形すると、プレス成形時の材料が縮みフランジ成形部位に極端に集中するためである。特許文献1の対策では、しわの発生する部位を金型と非接触として材料集中を抑制できず、必ずしも十分な対策ではない。
【0021】
縮みフランジ成形で発生するしわを防ぐには、縮みフランジ成形部位への急激な材料の集中を抑制するとよい。すなわち、1工程で目標形状とするのではなく、複数工程で徐々に成形し、材料の急激な集中を緩和するとよい。
また、複数工程で成形すると、1工程目で成形される中間成形品には、コーナーフランジ部11に材料が集中する前にフランジ部と縦壁部5との間に稜線が成形される。この稜線が成形されることで該部位が加工硬化して、1工程目と次の2工程目での縮みフランジ成形で材料が移動し難くなって材料集中を緩和できる。その結果、目標とするプレス成形品1における縮みフランジ成形部位のしわが効果的に抑制できる。
【0022】
このような観点から、発明者は、1工程で目標形状とするのではなく複数工程で成形して急激な材料集中を防止すると共に、縦壁部5とフランジ部との間に稜線を成形して縮みフランジ成形を抑制するため、第1工程では、フランジ部の曲げ角度を目標形状より大きくした中間成形品100(図2(a)、図7(A)(a)参照)にプレス成形し、その後、第2工程で目標形状にプレス成形することを発案した。
【0023】
すなわち、本実施の形態に係るプレス成形方法は、底フランジ部7、縦フランジ部9及びコーナーフランジ部11を有し、縦壁部5と底フランジ部7との角度及び縦壁部5と縦フランジ部9との角度を目標形状の角度より大きくした中間フランジ部(底フランジ部107、縦フランジ部109及びコーナーフランジ部111)を有する中間成形品100(図2(a)、図7(A)(a)参照)をプレス成形する第1工程と、第1工程で目標形状の角度より大きくした中間フランジ部における縦壁部5との角度を、目標形状の角度にプレス成形する第2工程とを備えたものである。
ここで、中間フランジ部とは、第1工程で成形される中間成形品100における底フランジ部107、縦フランジ部109及びコーナーフランジ部111の総称である。
なお、中間成形品100における縦壁部105とコーナーフランジ部111の角度は、縦壁部105と底フランジ部107との角度及び縦壁部105と縦フランジ部109との角度を決め、底フランジ部107と縦フランジ部109を滑らかに接続するようにすればよい。
プレス成形方法を実行することによって、プレス成形品が製造されるので、プレス成形方法の発明は、プレス成形品の製造方法の発明として構成することができる。したがって、以下に説明するプレス成形方法の実施の形態は、プレス成形品の製造方法の実施の形態と共通するものである。
【0024】
本実施の形態のプレス成形方法を金型に着目して、図1に基づいて説明する。
図1(a)に示す第1工程において、ブランク13をパッド20とパンチ21で挟み、ダイ23をパンチ21に対して相対移動させる。
ダイ23における縦壁成形部23aと底フランジ成形部23bとの接続部位である底肩成形部23cの角度を目標角度より大きくし、さらに、縦壁成形部23aと縦フランジ成形部23dとの接続部位である縦肩成形部23eの角度を目標角度より大きくする。
【0025】
また、ダイ23と同様に、パンチ21における縦壁成形部21aと底フランジ成形部21bとの接続部位である底肩成形部21cの角度をダイ23と同じ角度で目標角度より大きくし、さらに、縦壁成形部21aと縦フランジ成形部21dとの接続部位である縦肩成形部21eの角度をダイ23と同じ角度で目標角度より大きくして、ブランク13を中間成形品100(図2)にプレス成形する。
【0026】
その後、図1(b)に示す第2工程において、フランジ成形部の曲げ角度が目標角度に設定された図4に示したものと同様のダイ19とパンチ17でプレス成形して、目標形状のプレス成形品1とする。これにより、各工程(第1工程、第2工程)における縮みフランジ成形部位の成形量を小さくしつつ、複数工程により徐々にプレス成形して、しわのない目標形状とすることができる。
【0027】
また、図1(a)に示す第1工程で、ダイ23の底肩成形部23cおよび縦肩成形部23eと、パンチ21の底肩成形部21cおよび縦肩成形部21eにより、中間成形品100の底稜線部117、縦稜線部119及びコーナー稜線部121に曲げ稜線が付与され(図2(a)参照)、底稜線部とその周囲、縦稜線部とその周囲の剛性が向上し、図1(b)に示す第2工程で、当該部位及びその周囲の材料が動きにくくなって、目標成形品のコーナーフランジ部11のしわを抑制する効果がさらに大きくなる。
【0028】
本発明のプレス成形におけるFEM解析結果を図2(a)及び(b)に示す。従来は図5に示す通り、コーナーフランジ部11の最大板厚増加率は118%であった。
これに対して、本発明の第1工程では、図2(a)に示すように、中間成形品100のコーナーフランジ部111の最大板厚増加率は4.6%と著しく減少し、しわが全く発生していない。また、第2工程では、図2(b)に示すように、目標形状のプレス成形品1のコーナーフランジ部11の最大板厚増加率は13.6%まで増加したが、上述の剛性向上の影響が大きくて、しわが低減し、座屈(折れ込み)の発生が防止された。
【0029】
以上のように、本実施の形態のプレス成形方法によれば、縮みフランジ成形となるコーナーフランジ部11を有するハット断面形状のプレス成形品1の成形に際して、コーナーフランジ部11のしわや座屈を効果的に抑制することができる。
【0030】
なお、上記の説明は、第1工程で成形される中間成形品100における、縦壁部105と底フランジ部107との接続部位と、縦壁部105と縦フランジ部109との接続部位の双方の曲げ角度について、目標形状のプレス成形品1の曲げ角度より大きくする場合であったが、本発明はこれに限られるものではなく、中間成形品100における縦壁部105と底フランジ部107との接続部位の曲げ角度のみ、あるいは、縦壁部105と長手方向の前部及び後部の縦フランジ部109との接続部位の曲げ角度のみ、あるいは、縦壁部105と一方の縦フランジ部109との接続部位の曲げ角度のみを目標の曲げ角度より大きくしても、しわ防止効果がある。
【0031】
なお、上記の説明では天板部3と縦壁部5とが成す角度(内角)については言及していないが、第1工程において、天板部3と縦壁部5との内角を目標形状の内角より大きくプレス成形し、第2工程において、内角を目標形状の内角にプレス成形するようにするのが好ましい。
このようにすることで、縦壁部5のスプリングバックを抑制する効果もある。
また、上述の方法で得たハット断面形状のプレス成形品について、天板部を稜線方向に2分割してZ字断面形状のプレス成形品を得ることもできる。
なお、上述のプレス成形方法の各工程を実行することで、目標とするプレス成形品が製造でき、製造されたプレス成形品はフランジ部のしわや折れ込みが抑制されたものとなる。
【実施例0032】
本発明の効果を実証するため、板厚1.0mm、引張強度が980MPa級の高強度鋼板をブランク13として、天板部3と、天板部3に連続する縦壁部5と、縦壁部5に連続して天板部3と反対側に位置する底フランジ部7と、縦壁部5における長手方向の前部及び後部の縦壁部5に連続する縦フランジ部9と、縦フランジ部9と底フランジ部7との間に設けられたコーナーフランジ部11と、を有するハット断面形状のプレス成形品125(図7図8)を目標形状の例としてプレス成形した。
【0033】
実施の形態では、従来例として1工程でプレス成形する場合を示したが、本実施例では、従来例も2工程とした例を挙げて説明する。
図6は、第1工程後の中間成形品100を上面視した模式図であり、図6におけるA-A、B-B’-Bは断面の位置を示すための線である。
【0034】
図7は、発明例及び従来例における第1工程で成形される中間成形品100、127及び第2工程で成形される目標形状のプレス成形品125におけるA-A断面形状を示している。
発明例及び従来例の成形方法は以下の通りである。
【0035】
<発明例>
発明例は、図7(A)に示すように、第1工程によって成形される中間成形品100の縦壁部105と底フランジ部107の外角(中間外角)をβとし、第2工程において、図7(A)(b)に示すように目標形状の外角(目標外角)をβよりも小さいγとする成形を行った。
また、中間成形品100の天板部103と縦壁部105の内角(中間内角)をα1とし、目標形状の内角(目標内角)をα1より小さいα2としたプレス成形品125とする成形を行った。
すなわち、発明例では、中間外角(β)及び中間内角(α1)共に目標形状よりも大きくする成形を行い、第2工程で中間外角(β)及び中間内角(α1)をそれぞれより小さい目標外角(γ)及び目標内角(α2)にする成形を行った。
また、縦フランジ部109についても、図6のB-B‘-B断面の形状において、第1工程で中間成形品100の縦壁部105と縦フランジ部109の外角(β)を目標外角(γ)より大きくし、第2工程で目標外角(γ)とした。
【0036】
<従来例>
従来例では、図7(B)(a)(b)に示すように、第1工程で成形される中間成形品127のA-A断面の形状において、中間外角を目標外角と同じγとした。
また、中間内角(α1)と目標内角(α2)との関係は、発明例と同様とした。
さらに、縦フランジ部9についても、図6のB-B‘-B断面の形状において、第1工程で中間成形品127の縦壁部5と縦フランジ部9の外角を目標外角(γ)とした。
【0037】
発明例と従来例における縮みフランジ成形におけるしわの状態を判定するため、FEM解析により、第1工程でのコーナーフランジ部111、第2工程でのコーナーフランジ部11の最大板厚増加率を求めた。なお、最大板厚増加率が大きいほどしわが発生しやすく、さらに大きくなると座屈(折れ込み)が発生する。
【0038】
図8(A)は発明例の解析結果であり、図8(A)(a)に示すように、第1工程において、中間成形品100のコーナーフランジ部111における最大板厚増加率が2.5%とわずかであり、しわは発生しなかった。
また、図8(A)(b)に示すように、第2工程において、目標形状のプレス成形品125の天板部3と縦壁部5との角度を小さくし(α1→α2)、かつ、中間外角をこれより小さい目標外角にプレス成形しても(β→γ)、目標形状のプレス成形品125のコーナーフランジ部11の最大板増加率は7.2%とわずかであり、しわが全く発生せず、良好な形状を得ることができた。
【0039】
これに対して、図8(B)に示す従来例では、図8(B)(a)に示すように、第1工程において、既に中間成形品127のコーナーフランジ部11の最大板厚増加率は19.6%と著しく大きくて、しわが発生するだけでなく座屈(折れ込み)も発生して製品不良となった。そのため、第2工程に進めることができなかった。
【0040】
以上の通り、本発明によれば、リストライク工程を追加することなくしわや折れ込みを効果的に防止できることが実証された。
【符号の説明】
【0041】
1 プレス成形品
3 天板部
5 縦壁部
7 底フランジ部
9 縦フランジ部
11 コーナーフランジ部
13 ブランク
15 パッド(従来例、第2工程)
17 パンチ(従来例、第2工程)
19 ダイ(従来例、第2工程)
20 パッド(第1工程)
21 パンチ(第1工程)
21a 縦壁成形部
21b 底フランジ成形部
21c 底肩成形部
21d 縦フランジ成形部
21e 縦肩成形部
23 ダイ(第1工程)
23a 縦壁成形部
23b 底フランジ成形部
23c 底肩成形部
23d 縦フランジ成形部
23e 縦肩成形部
100 中間成形品(発明例)
103 天板部
105 縦壁部
107 底フランジ部
109 縦フランジ部
111 コーナーフランジ部
117 底稜線部
119 縦稜線部
121 コーナー稜線部
125 プレス成形品(実施例)
127 中間成形品(実施例の従来例の第1工程)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8