(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145319
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】自動二輪車用タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/18 20060101AFI20231003BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20231003BHJP
B60C 9/20 20060101ALI20231003BHJP
B60C 9/22 20060101ALI20231003BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B60C9/18 J
B60C9/00 M
B60C9/18 K
B60C9/20 E
B60C9/22 B
B60C11/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170521
(22)【出願日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2022052535
(32)【優先日】2022-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】井上 学
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA03
3D131AA15
3D131AA39
3D131AA47
3D131BA02
3D131BA03
3D131BA20
3D131BB06
3D131BC13
3D131DA33
3D131DA34
3D131DA43
3D131DA52
(57)【要約】
【課題】ベルト層材料としてスチールコードを使用しながらも、優れた操縦安定性が得られる自動二輪車用タイヤを提供する。
【解決手段】ベルト層がタイヤ周方向に螺旋状に巻回されたスチールコードを有しており、スチールコードが、m本(1本以上、3本以下)のスチールフィラメントが撚り合わされたストランドのn本(2本以上、6本以下)を、スチールフィラメントと同じ方向に撚り合わせたm×n構成のスチールコードであり、スチールフィラメントの直径が0.15mm以上、0.25mm以下であり、トレッド部を構成するゴム組成物の温度:70℃、初期歪:5%、動歪:±1%、周波数:10Hz、変形モード:伸張の条件下で測定した複素弾性率E*(MPa)が5.0MPa以上であり、スチールコードにおけるスチールフィラメントの総断面積S(mm2)と、複素弾性率E*(MPa)との積(S×E*)が、2.00以下である自動二輪車用タイヤ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至るカーカスと、前記カーカスのタイヤ半径方向外側かつ前記トレッド部の内側に配置されるベルト層とを備えた自動二輪車用タイヤであって、
前記ベルト層が、スチールコードを有するスチールベルト層であり、
前記スチールコードが、m本のスチールフィラメントが撚り合わされたストランドのn本を、前記スチールフィラメントと同じ方向に撚り合わせたm×n構成のスチールコードで、前記mが1本以上、3本以下、前記nが2本以上、6本以下であり、
前記スチールフィラメントの直径が、0.15mm以上、0.25mm以下であり、
前記トレッド部を構成するゴム組成物が、温度:70℃、初期歪:5%、動歪:±1%、周波数:10Hz、変形モード:伸張の条件下で測定した複素弾性率E*(MPa)が、5.0MPa以上のゴム組成物であり、
前記スチールコードの横断面における前記スチールフィラメントの総断面積S(mm2)と、前記複素弾性率E*(MPa)との積(S×E*)が、2.00以下であることを特徴とする自動二輪車用タイヤ。
【請求項2】
前記複素弾性率E*(MPa)が、6.5MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項3】
前記(S×E*)が、1.70未満であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項4】
前記スチールコードの圧縮剛性値が、65N/mm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項5】
前記スチールコードが、座屈点が存在しないスチールコードであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項6】
前記スチールコードの曲げ剛性値が、2.5×10-3N・m以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項7】
前記スチールコードの曲げ剛性値が、2.0×10-3N・m以下であることを特徴とする請求項6に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項8】
前記スチールコードの曲げ剛性値が、1.5×10-3N・m以下であることを特徴とする請求項7に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項9】
前記スチールコードの曲げ剛性値FRと複素弾性率E*(MPa)との積(FR×E*)が、25×10-3(MPa・N・m)以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項10】
前記(FR×E*)が、15×10-3(MPa・N・m)以下であることを特徴とする請求項9に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項11】
前記(FR×E*)が、10×10-3(MPa・N・m)以下であることを特徴とする請求項10に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項12】
前記ベルト層の被覆ゴムに、有機酸コバルトが配合されていることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項13】
前記有機酸コバルトの含有量が、ゴム成分100重量部に対して、コバルトに換算して、0.05質量部以上であることを特徴とする請求項12に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項14】
前記ベルト層が、多層化されており、
前記多層化されたベルト層のタイヤの半径方向に隣り合う1組のベルト層の少なくとも1組において、スチールコード間の平均距離D(mm)が、0.6mm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項15】
前記ベルト層が、多層化されており、
前記多層化されたベルト層のタイヤの半径方向に隣り合う1組のベルト層の少なくとも1組において、トレッド部における互いのベルト層内のスチールコードがタイヤ周方向上でなす角度が、65°以下であることを特徴とし、請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項16】
前記互いのベルト層内のスチールコードがタイヤ周方向上でなす角度が、60°以下であることを特徴とする請求項15に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項17】
前記ベルト層が多層化されており、
互いに隣接するベルト層において、タイヤ半径方向内側のベルト層のタイヤ幅方向長さL1(mm)に対する、タイヤ半径方向外側のベルト層のタイヤ幅方向長さL2(mm)の比(L2/L1)が、1.00超であることを特徴とする請求項1ないし請求項16のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項18】
前記トレッド部のゴム組成物が、ゴム成分中にスチレンを25質量%以下含有し、Tgが-18℃以上であるゴム組成物であることを特徴とする請求項1ないし請求項17のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項19】
前記トレッド部が、タイヤ幅方向に、内側領域と前記内側領域を挟んだ外側領域とに分割されていることを特徴とする請求項1ないし請求項18のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項20】
前記トレッド部の外側領域を構成するゴム組成物が、ゴム成分中にスチレンを25質量%以下含有し、Tgが-18℃以上であるゴム組成物であることを特徴とする請求項19に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項21】
トレッド幅Tw(mm)に対する、ベルト層のタイヤ幅方向最大長さLm(mm)の比(Lm/Tw)が、1.00以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項20のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車用タイヤに関し、より詳しくは、ベルト層にスチールコードが採用された自動二輪車用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車の性能の向上に伴い、自動二輪車用タイヤ(以下、単に「タイヤ」ともいう)に対しても、操縦安定性などの性能向上の要求が高くなっている。このような要求に対応するため、近年、ベルト層として、従来使用されてきたナイロン66(登録商標)コードに替えて、より高強度のアラミドコードが使用されるようになっている。
【0003】
しかし、アラミドコードは非常に高価であり、また、その製造時、濃硫酸など、環境に悪影響を及ぼす薬剤が使用されている。このため、近年の環境意識の高まりとも相俟って、より安価で、より環境にやさしい材料が望まれており、そのような材料として、スチールコードの採用が検討されている。
【0004】
即ち、スチールコードは、アラミドコードに比べて安価であり、また、環境汚染への影響が比較的小さな材料でありながら、アラミドコードと同様にモジュラスが高いため、ベルト層材料として採用することができれば好ましい。
【0005】
そこで、スチールコードをベルト層材料として採用する技術が種々提案されている(例えば、特許文献1、2など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-172548号公報
【特許文献2】特許第6863000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、スチールコードは、アラミドコードに比べて、曲げ剛性や圧縮剛性が高く、無理に圧縮すると座屈するという特性を有している。この内、曲げ剛性の高さは、トレッド面が曲面形状である自動二輪車用タイヤの接地形状を変形させ、操縦安定性の悪化を招く恐れがある。また、圧縮剛性の高さは、特に、高速旋回時、タイヤの一部が接地面から浮き上がって波打ちするバックリング現象の発生を招いて、操縦安定性を悪化させる恐れがある。その為、自動二輪車用タイヤのベルト層材料としてスチールコードを使用した際の高速旋回時の操縦安定性の向上には改善の余地がある。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、ベルト層材料としてスチールコードを使用しながらも、高速旋回時に優れた操縦安定性が得られる自動二輪車用タイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題の解決について鋭意検討を行い、以下に記載する発明により上記課題が解決できることを見出した。
【0010】
本発明は、
トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至るカーカスと、前記カーカスのタイヤ半径方向外側かつ前記トレッド部の内側に配置されるベルト層とを備えた自動二輪車用タイヤであって、
前記ベルト層が、スチールコードを有するスチールベルト層であり、
前記スチールコードが、m本のスチールフィラメントが撚り合わされたストランドのn本を、前記スチールフィラメントと同じ方向に撚り合わせたm×n構成のスチールコードで、前記mが1本以上、3本以下、前記nが2本以上、6本以下であり、
前記スチールフィラメントの直径が、0.15mm以上、0.25mm以下であり、
前記トレッド部を構成するゴム組成物が、温度:70℃、初期歪:5%、動歪:±1%、周波数:10Hz、変形モード:伸張の条件下で測定した複素弾性率E*(MPa)が、5.0MPa以上のゴム組成物であり、
前記スチールコードの横断面における前記スチールフィラメントの総断面積S(mm2)と、前記複素弾性率E*(MPa)との積(S×E*)が、2.00以下であることを特徴とする自動二輪車用タイヤである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ベルト層材料としてスチールコードを使用しながらも、優れた操縦安定性が得られる自動二輪車用タイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る自動二輪車用タイヤの一部模式断面図である。
【
図2】本発明におけるベルト層の構成の一例を示す模式斜視図である。
【
図3】本発明におけるスチールコードの構成の一例を示す模式断面図である。
【
図4】スチールコードの圧縮剛性値の測定用サンプルおよび補正用サンプルを説明する図である。
【
図5】スチールコードの圧縮剛性値の測定方法を説明する模式側面図である。
【
図6】スチールコードの圧縮剛性値の算出方法を説明する図である。
【
図7】スチールコードの座屈点の有無の判定方法を説明する図である。
【
図8】スチールコードの曲げ剛性値の測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[1]本発明に係るタイヤ
最初に、本発明に係る自動二輪車用タイヤ(以下、単に「タイヤ」ともいう)について説明する。
【0014】
1.全体構成
図1は、本発明に係るタイヤの一部模式断面図である。
図1において、1はタイヤ、2はトレッド部、3はサイドウォール部、4はビード部、5はビードコア、6はカーカス、7はベルト層、8はビードエーペックスゴムである。
【0015】
図1に示すように、本発明に係るタイヤ1は、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、カーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内側に配置されるベルト層7とを備えている。なお、
図1では、タイヤ半径方向断面の1/4を記載しており、赤道面及びタイヤ回転軸に対して対称となっている。
【0016】
2.構成部材
(1)ベルト層
ベルト層7は、少なくとも1枚(
図1では2枚)配置されている。
【0017】
図2は、本発明におけるベルト層の構成の一例(1枚の場合)を示す模式斜視図であり、10はスチールコード、Gは被覆ゴムである。
図2に示すように、ベルト層7は、スチールコード10を引き揃えたコード配列体に、被覆ゴムGを被覆することにより、形成されている。
【0018】
なお、コード配列体におけるスチールコード10の配列本数としては、使用されるスチールコードの剛性や太さなどを考慮して、適宜決定されるが、幅50mm当たりの本数(エンズ)として、通常、30本以上、50本以下であることが好ましい。
【0019】
本発明において、ベルト層としては、スチールコードを有するスチールベルト層が用いられており、スチールコードは、m本のスチールフィラメントが撚り合わされたストランドのn本を、スチールフィラメントと同じ方向に撚り合わせたm×n構成であり、mが1以上、3以下、nが2以上、6以下である。なお、スチールフィラメントの直径は、0.15mm以上、0.25mm以下である。
【0020】
図3は、本発明におけるスチールコードの構成の一例を示す模式断面図である。なお、
図3においては、3×3構成(m=3、n=3)のスチールコードを記載しており、3本のスチールフィラメントfが撚り合わされたストランド12が、3本撚り合わされてスチールコード10が形成されている。
【0021】
本発明において、スチールフィラメントfとしては、例えば、JIS G3506-2017に規定される「SWRH72A」(C:0.69~0.75%、Mn:0.30~0.60%、Si:0.15~0.35%、P:0.030%以下、S:0.030%以下)を使用することができる。
【0022】
(2)トレッド部
トレッド部2は、タイヤ赤道Cからトレッド端Teに向かって凸円弧状に湾曲して伸びるトレッド面を有している。トレッド幅Twは、タイヤ赤道Cを挟む左右のTe間で最大幅をなしている。これにより、大きなバンク角での旋回走行が可能となる。なお、トレッド部2は、後述するように、タイヤ幅方向に、外側領域OUTと、内側領域INとに分割されていてもよいが、そのときの分割位置は、トレッド部2の摩擦力発生機能と反力発生機能のバランスを考慮して、適宜、設定すればよい。
【0023】
本発明において、トレッド部を構成するゴム組成物(トレッドゴム組成物)としては、温度:70℃、初期歪:5%、動歪:±1%、周波数:10Hz、変形モード:伸張の条件下で測定した複素弾性率E*(MPa)が、5.0MPa以上のゴム組成物が用いられている。
【0024】
なお、複素弾性率E*は、例えば、GABO社製「イプレクサー(登録商標)」などの粘弾性測定装置を用いて測定することができる。
【0025】
また、スチールコードの横断面におけるスチールフィラメントの総断面積S(mm2)と、上記トレッドゴム組成物の複素弾性率E*(MPa)との積(S×E*)が、2.00以下である。
【0026】
なお、トレッド部は、単一ゴム層で形成されていることに限定されず、ベース層とキャップ層など複数層のゴム組成物で構成されていてもよく、この場合、上記した複素弾性率E*は、最外層であるキャップ層における複素弾性率E*を指す。
【0027】
また、上記トレッドゴム組成物の複素弾性率E*(MPa)は後述の配合材料により、適宜調整することが可能である。例えば、シリカ、カーボンブラックなどの充填剤の含有量を増やす、オイル、樹脂などの可塑剤成分の含有量を減らす、硫黄、促進剤の含有量を増やすことなどにより、複素弾性率E*(MPa)を高くすることができる。逆にシリカ、カーボンブラックなどの充填剤の含有量を減らす、オイル、樹脂などの可塑剤成分の含有量を増やす、硫黄、促進剤の含有量を減らすことなどにより、複素弾性率E*(MPa)を低くすることができる。
【0028】
(3)その他
カーカス6は、ビードコア5、5間に跨るトロイド状のプライ本体部6aの両端に、ビードコア5の廻りでタイヤの軸方向内側から外側に折り返されるプライ折返し部6bを有しており、少なくとも1枚(
図1では1枚)配置されている。そして、プライ本体部6aとプライ折返し部6bとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外側に向かって先細状に伸びるビードエーペックスゴム8が配置されている。また、ベルト層のタイヤ半径方向外側にはベルト補強層9が、タイヤ周方向に巻回されている。
【0029】
本発明の一形態において、タイヤのカーカス6及びベルト補強層9は有機繊維により形成された有機繊維コードを含む。有機繊維としてはポリエステル、ポリアミド、セルロースなどが挙げられる。これらは合成繊維でも良く、バイオマス由来の繊維であっても良い。また、これらの繊維は合成繊維、バイオマス繊維、リサイクル/再生繊維の単一成分で形成されていても良く、これらを撚り合わせたハイブリッドコード、それぞれのフィラメントを合わせたマルチフィラメントを用いたコード、それぞれの成分が化学的に結合した化学構造を有するコードの何れであっても良い。
【0030】
ポリエステルコードとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)コード、ポリエチレンナフタレート(PEN)コード、ポリエチレンフラノエート(PEF)等が挙げられる。他のポリエステルコードと比較して、耐空気透過性に優れ、タイヤ内部の空気圧を保持しやすい観点から、PEFを用いても良い。また、ポリエステルコードの一部がポリアミド繊維等他の有機繊維からなるコードに代わった他の有機繊維からなるコードとのハイブリッドコードであっても良い。
【0031】
前記ポリエステルコードがバイオマス由来のポリエステルコードである場合には、バイオマス由来のテレフタル酸やエチレングリコールを用いたバイオマスPETコード、バイオマス由来のフランジカルボン酸を用いたバイオマスPEFなどを好適に用いることができる。
【0032】
前記バイオマスポリエステルコードは、バイオエタノールやフルフラール類、カレン類、シメン類、テルペン類などから変換、もしくは各種動植物由来の化合物から変換、微生物等から直接発酵製造したバイオマステレフタル酸、バイオマスエチレングリコールなどから得ることが可能である。
【0033】
ポリアミドコードとしては、例えば、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミドが挙げられる。
【0034】
脂肪族ポリアミドは直鎖の炭素鎖がアミド結合により繋がった骨格を有するポリアミドであり、ナイロン4(PA4)、ナイロン410(PA410)、ナイロン6(PA6)、ナイロン66(PA66)、ナイロン610(PA610)、ナイロン1010(PA1010)、ナイロン1012(PA1012)、ナイロン11(PA11)、などを挙げることが出来る。中でも部分的又は完全にバイオマス由来の材料で得られやすい観点からはナイロン4、ナイロン410、ナイロン610、ナイロン10、ナイロン1010、ナイロン11などが挙げられる。
【0035】
ナイロン6及び、ナイロン66としては、従来の化学合成由来のカプロラクタムを開環重合させたもの、ヘキサメチレンジアミン、アジピン酸を縮合重合させたものほか、バイオ由来のシクロヘキサンを出発原料としてバイオカプロラクタムもしくは、バイオアジピン酸、バイオヘキサメチレンジアミンを製造し、それらを用いたナイロン6、もしくはナイロン66を用いても良い。また、前記したバイオ原料はグルコースのような糖などから得たものであっても良い。これらのナイロン6、ナイロン66は従来用いられてきたものと同様の強度を備えると考えられる。
【0036】
ナイロン4としては、バイオ発酵由来のグルタミン酸から、γ-アミノ酪酸に変換したのちに得られる2-ピロリドンを原料としたものが代表として挙げられるが、これに限られない。ナイロン4は、熱的・機械的安定性が良好であり、高分子構造設計が容易という特徴を有しているため、タイヤの性能、強度向上に寄与するため、好適に用いることが可能である。
【0037】
ナイロン410、ナイロン610、ナイロン1010、ナイロン1012、ナイロン11等はひまし油(トウゴマ)から得られるリシノール酸などを原料として得ることが出来る。具体的にはひまし油から得た、セバシン酸、ドデカン二酸と任意のジアミン化合物を縮合重合することにより、ナイロン410、ナイロン610、ナイロン1010を得ることができ、ひまし油から得た11-アミノウンデカン酸を縮合重合することによりナイロン11を得ることが可能である。
【0038】
半芳香族ポリアミドは分子鎖の一部に芳香環構造を有するポリアミドであり、例えば、ナイロン4T(PA4T)、ナイロン6T(PA6T)、ナイロン10T(PA10T)を上げることが出来る。
【0039】
ナイロン4T、ナイロン6T、ナイロン10Tはジカルボン酸として、テレフタル酸を用い、それぞれ任意の炭素数のジアミン化合物と縮合重合を行うことにより得ることが可能である。その際、前述のバイオマス由来のテレフタル酸を用いてこれらのナイロン材料を得ることも可能である。これらは分子鎖内に剛直な環状構造を有する為、耐熱性などの観点で優れる。
【0040】
また、上記した脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミドとして、リジン由来の1,5-ペンタンジアミンをジカルボン酸類と重合したポリアミド5X(Xはジカルボン酸由来の炭素数であり、整数もしくはテレフタル酸を表すT)を挙げることが出来る。
【0041】
全芳香族ポリアミドとしては芳香環がアミド結合により繋がった骨格を有するポリアミドであり、ポリパラフェニレンテレフタルアミドなどを挙げることができる。全芳香族ポリアミドも前述の脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミドと同様に、バイオマス由来のテレフタル酸とフェニレンジアミンを結合させることにより得ても良い。
【0042】
セルロース繊維としては、木材パルプ等の植物素材から製造される、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、アセテート、リヨセル、モダール等を挙げることができる。これらセルロース系繊維は、原料がカーボンニュートラルであるだけでなく、生分解性であり使用後焼却しても有害ガスが出ない等の優れた環境性能を有するため好ましい。上記の中でも、工程の効率、環境への優しさ、機械強度のバランスから、レーヨン、ポリノジック、リヨセルが特に好ましい。
【0043】
また、上記したコードは、合成、バイオマス由来を問わず、飲料用ボトルや衣料品などの使用済みのものから回収、精製したものを再度紡糸することにより得られたリサイクルコードであっても良い。
【0044】
上記したコードは、1本以上のフィラメントを撚り合わせることにより形成されてよい。例えば、1100デシテックスのマルチフィラメントをそれぞれ2本合わせて(言い換えれば、1100/2デシテックス)、48回/10cmの下撚りをかけた後、この下撚コード2本を合せて下撚と反対又は同方向に同数の上撚をかけたもの、1670デシテックスのマルチフィラメントをそれぞれ2本合わせて(言い換えれば、1670/2デシテックス)、40回/10cmの撚りをかけた後、この下撚コード2本を合せて上撚をかけたものなどを使用することが出来る。
【0045】
本発明に係るタイヤは、上記のような構成とすることにより、後述するように、ベルト層材料としてスチールコードを使用しながらも、優れた操縦安定性が得られる自動二輪車用タイヤを提供することができる。
【0046】
3.本発明に係るタイヤにおける効果発現のメカニズム
本発明に係るタイヤにおける効果発現のメカニズムについては、以下のように推測される。
【0047】
(1)スチールコードの構成
前記したように、ベルト層材料としてスチールコードを使用する場合、その圧縮剛性の高さや曲げ剛性の高さが、高速旋回時の操縦安定性の悪化を招くことが懸念される。
【0048】
そこで、本発明者は、まず、圧縮剛性値が低く、適切な曲げ剛性値を有するスチールコードの構成について、鋭意検討を行った。
【0049】
その結果、直径が0.15mm以上、0.25mm以下のスチールフィラメントが1本以上、3本以下のm本、撚り合わせてストランドを形成した後、このストランドを、2本以上、6本以下のn本、スチールフィラメントと同じ方向に撚り合わせることにより、m×n構成のスチールコードとした場合には、圧縮剛性値が低く、適切な曲げ剛性値を有しているため、ベルト層材料として好ましく採用できることを見出した。
【0050】
即ち、まず、ストランドを形成するスチールフィラメントの本数mが3を超えると、スチールフィラメントの径が小さくても太いストランドが形成されるため、スチールコードの圧縮剛性値の増大化を招いてしまう。また、スチールコードとゴム組成物とを合わせる際、ストランド内の隙間へのゴムの浸透度が急激に低下するため、ストランド内部へ水分が浸透して、錆の発生や、接着性能の悪化を招いてしまう。これに対して、ストランドを形成するスチールフィラメントの本数mが3以下であると、太いストランドが形成されないため、上記したような不具合の発生を招くことがない。
【0051】
次に、m×n構成のスチールコードにおいてnが6を超えると、そのスチールコードの実際の断面構造は、m×1+m×(n―1)構成のような層撚り構造となり、m×1構成のストランドがコアストランドとなるため、圧縮剛性の増大化を招いてしまう。これに対して、nが2以上、6以下であると、コアストランドが形成されないため、このような不具合の発生を招くことがない。
【0052】
次に、スチールフィラメントの直径は、0.15mm未満であると、スチールフィラメントの剛性が低いため、旋回時に発生させる反力が低下することが懸念される。一方、0.25mmを超えると、圧縮剛性の増大化を招いてしまう。これに対して、スチールフィラメントの直径が0.15mm以上、0.25mmであると、このような不具合の発生を招くことがない。
【0053】
このように、本発明においては、圧縮剛性値が低いスチールコードをベルト層材料として採用することにより、タイヤ走行時のトレッド面の変形、特に、高速時や高荷重時の変形に対して、適切に追従することができる。その結果、前記したバックリング現象の発生を防止して、高速旋回時にも安定したハンドリングが得られ、操縦安定性が向上すると考えられる。
【0054】
(2)トレッド部を構成するゴム組成物の複素弾性率
本発明者は、優れた操縦安定性を安定して発揮するためには、上記したスチールコードをベルト層材料として採用するだけでは十分とは言えず、路面と直接接するトレッドゴムの物性についても考慮する必要があると考え、トレッド部を構成するゴム組成物(トレッドゴム組成物)について、さらに、実験と検討を行った。
【0055】
その結果、トレッドゴム組成物として、温度:70℃、初期歪:5%、動歪:±1%、周波数:10Hz、変形モード:伸張の条件下で測定した複素弾性率E*(MPa)が、5.0MPa以上のゴム組成物を使用した場合、タイヤ走行時、ベルト層部がしなやかに変形して、大きな反力を得易くなると共に、トレッドゴムから路面に十分な力が加わるため、高速旋回時における操縦安定性がさらに向上することが分かった。なお、6.5MPa以上であるとより好ましく、上限としては、特に限定されないが、20MPa以下であることが好ましく、10.0MPa以下であることがより好ましい。
【0056】
そして、このとき、トレッド部全体で発生させる反力を大きくして、高速旋回時の操縦安定性の良化を図るためには、スチールフィラメントがベルト層内で占める面積、即ち、1本のスチールコードの横断面におけるスチールフィラメントの総断面積S(mm2)と、トレッドゴム組成物の複素弾性率E*(MPa)との積(S×E*)を適切な範囲に制御する必要があることが分かり、さらに、実験と検討を行った。その結果、(S×E*)は2.00以下であればよいことが分かった。なお、1.70未満であるとより好ましく、下限としては、特に限定されないが、0.60以上であることが好ましい。
【0057】
以上により、ベルト層の圧縮剛性を低下させ、路面に追従しやすくすると共に、旋回時にトレッド部及びベルト層で反力を発生させやすくすることができる為、高速旋回時の操縦安定性能を向上させることが可能になると考えられる。
【0058】
[2]本発明に係るタイヤにおけるより好ましい態様
本発明に係るタイヤは、以下の態様を採ることにより、さらに大きな効果を得ることができる。
【0059】
1.スチールコードの圧縮剛性値
前記したように、本発明においては、スチールコードの圧縮剛性値を低くしているが、65N/mm以下であると、よりしなやかさが増して、トレッド部の変形に対してより十分に追従することができるため好ましい。なお、下限としては、特に限定されないが、40N/mm以上であることが好ましい。
【0060】
なお、上記したスチールコードの圧縮剛性値は、以下の手順に従って測定することができる。まず、直径25mm、高さ25mmの円柱ゴムの中央に、長さ25mmのスチールコード1本が埋設された加硫ゴム成形体(加硫条件:165℃×18分)を、測定サンプルとして1仕様につき3つ作成する。次に、スチールコードが埋設されていないこと以外は、同様にして、補正用サンプルを1つ作成する。
【0061】
次に、得られた各サンプルを、引張試験機にて、高さ方向に2.0mm/minの速度で圧縮させ、圧縮荷重と圧縮量とを測定する。その後、測定サンプルで得られた測定データから、圧縮量をX軸、圧縮荷重をY軸としたグラフから傾きの最大値を算出し、3つの測定サンプルの単純平均を算出する。次に補正用サンプルについても同様に圧縮量に対する圧縮荷重の傾きの最大値を算出し、測定サンプルの傾きから差し引くことで、スチールコードの圧縮剛性を算出する。
【0062】
この圧縮剛性値の具体的な測定につき、
図4~
図6を用いて説明する。
図4は、測定サンプルおよび補正用サンプルを説明する図である。
図4において、K0はスチールコードが埋設されていない補正用サンプルである。そして、K1~K3はスチールコードが埋設された3個の測定サンプルである。
【0063】
図5は、スチールコードの圧縮剛性値の測定方法を説明する模式側面図であり、上記した速度で圧縮して、横軸を圧縮距離(圧縮量)、縦軸を圧縮荷重としたSSカーブを得る。
【0064】
図6は、圧縮剛性値の算出方法を説明する図であり、K0~K3の各サンプルから得られたSSカーブが示されている。
図6より、K0のSSカーブでは一定の傾きとなっている一方、K1~K3のSSカーブでは、途中からスチールコードに力が掛かることにより傾きが大きくなり、スチールコードが座屈した後は、元の傾斜に戻っていることが分かる。この傾きの変化は、スチールコードの圧縮剛性により発生したものであるため、K1~K3における傾きの最大値からK0における傾きの最大値を引き算することにより、スチールコードの圧縮剛性を求めることができ、K1~K3で得られた結果の平均値を対象スチールコードの圧縮剛性とする(
図6では、1133N/mm)。
【0065】
2.スチールコードの座屈点
本発明において、スチールコードには、座屈点が存在しないことが好ましい。座屈点が存在しないことにより、高速旋回時、大きなストレスを受けたとしても、スチールコードの破断を招くことがないためである。また、圧縮疲労による強度低下の進行を抑制することができる。
【0066】
上記したスチールコードの座屈点は、一般的に、
図7に示す圧縮剛性測定時の傾き(N/mm)と圧縮量(mm)との関係を示すグラフにおいて、傾きの値が増加から減少に転ずる屈曲点、即ち、圧縮剛性を示す点から求めることができるが、傾きが最大となった後における傾きの最小値との差が小さい場合には、屈曲点として明瞭に判定することができない。そこで、本発明においては、傾き最大値(CSmax)と、その後の傾きの最小値(CSmin:
図7右端近傍における傾き)の差(CSmax-CSmin)を求め、この差が200N/mm以下の場合を「座屈点無し」と判定し、200N/mm超の場合を「座屈点有り」と判定する。
【0067】
3.スチールコードの曲げ剛性値
前記したように、本発明においては、スチールコードの曲げ剛性値を低くしているが、2.5×10-3N・m以下であると、ベルト層がタイヤの曲面トレッドにより容易に追従して、接地形状を狙いの形に仕上げることができ好ましい。2.0×10-3N・m以下であるとより好ましく、1.5×10-3N・m以下であるとさらに好ましい。一方、下限としては、特に限定されないが、0.5×10-3N・m以上であることが好ましい。
【0068】
なお、上記したスチールコードの曲げ剛性値は、例えば、TABER社(米国)製の剛性試験機(例えば150-D型)を用いて、以下の手順に従って測定することができる。まず、長さ145mmのスチールコードの両端を剛性試験機のクランプに取り付け、
図8に示すように、スチールコード10に+15度、-15度の曲げ角度を付与する。そして、+15度での曲げモーメントと、-15度での曲げモーメントとの平均値を、曲げ剛性値(N・m)として定義する。
【0069】
なお、スチールコードとトレッドゴムが固すぎると、タイヤの剛性感が強くなって乗り心地の悪化を招くことから、スチールコードの曲げ剛性値FRと複素弾性率E*(MPa)との積(FR×E*)が、25×10-3(MPa・N・m)以下であることが好ましい。15×10-3(MPa・N・m)以下であるとより好ましく、10×10-3(MPa・N・m)以下であるとさらに好ましい。下限としては、特に限定されないが、5×10-3(MPa・N・m)以上であることが好ましく、7×10-3(MPa・N・m)以上であるとより好ましい。
【0070】
4.ベルト層の被覆ゴム
ベルト層は、上記したスチールコードに所定配合のゴム組成物を被覆することにより得ることができるが、本発明においては、このゴム組成物に有機酸コバルトが配合されていることが好ましい。これにより、スチールコードに対する接着力が顕著に向上して、良好なスチールコード被覆性を確保することができる。
【0071】
具体的な有機酸コバルトとしては、例えば、ステアリン酸コバルト、ホウ素ネオデカン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルトなどが挙げられるが、粘度低減効果を有するという点ではステアリン酸コバルトが好ましく、酸化劣化後の破断伸び及び湿熱劣化後のスチールコード接着性が良好であるという点ではホウ素ネオデカン酸コバルトが好ましい。
【0072】
有機酸コバルトの含有量は、ゴム成分100重量部に対して、コバルトに換算して、0.05質量部以上であることが好ましく、0.08質量部以上であるとより好ましい。0.05質量部未満では、スチールコード接着性を充分に確保できない恐れがある。一方、0.20質量部以下であることが好ましく、0.17質量部以下であるとより好ましい。0.20質量部を超えると、酸化劣化後の破断伸びが低下する傾向がある。
【0073】
5.ベルト層の多層化
本発明において、ベルト層は1層であってもよいが、2層以上で多層化されていることが好ましい。このとき、タイヤの半径方向に隣り合う1組のベルト層の少なくとも1組において、スチールコード間の平均距離D(mm)は、0.6mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であるとより好ましく、0.45mm以下であるとさらに好ましい。
【0074】
これにより、1組のベルト層が互いに協働して、適切に、トレッド部を拘束して、転動時のトレッド部の変形量を抑えることができるため、高速走行時の操縦安定性のさらなる向上を図ることができる。
【0075】
なお、ここでいうスチールコード層間の平均距離Dは、互いに重なり合う2枚のベルト層の赤道面上での表面側のベルト層のスチールコードの内面と、内側のベルト層のスチールコードの外面との距離である。
【0076】
そして、多層化されたベルト層の場合、タイヤの半径方向に隣り合う1組のベルト層の少なくとも1組において、トレッド部における互いのベルト層内のスチールコードがタイヤ周方向上でなす角度が、65°以下であることが好ましく、60°以下であるとより好ましく、58°以下であるとさらに好ましい。
【0077】
適切な角度で互いに傾斜したベルト層を積層配置することにより、箍効果を得ることができ、トレッド部のほぼ全幅を強固に拘束して、転動時のトレッド部の変形量を抑えることができるため、高速走行時の操縦安定性のさらなる向上を図ることができる。
【0078】
なお、前記角度は、タイヤに空気を充填していない状態でのタイヤ周方向に対するスチールコードの角度であり、タイヤを半径方向外側からトレッド部を剥がすことにより確認することが可能である。
【0079】
また、ベルト層が2層の場合、タイヤ半径方向内側のベルト層のタイヤ幅方向長さL1(mm)に対する、タイヤ半径方向外側のベルト層のタイヤ幅方向長さL2(mm)の比(L2/L1)が、1.00超であることが好ましい。タイヤ半径方向外側のベルト層のタイヤ幅方向長さを相対的に長くすることで、箍効果を得やすくすることができると共に、トレッド部により大きな反力を発生させ易くすることができると考えられる。
【0080】
前記、タイヤ半径方向内側のベルト層のタイヤ幅方向長さL1(mm)に対する、タイヤ半径方向外側のベルト層のタイヤ幅方向長さL2(mm)の比(L2/L1)は、前記の通り、1.00超が好ましく、1.05超であるとより好ましく、1.10超であるとさらに好ましい。一方、上限は特に限定されないが、1.30未満が好ましく、1.25未満がより好ましく、1.20未満がさらに好ましい。
【0081】
なお、ここでいうベルト層のタイヤ幅方向長さとは、タイヤ幅方向断面における、当該ベルト層が描く円弧の長さを指し、タイヤを半径方向に切り出した断面のビード部を正規リム幅に合わせた状態で測定することにより求めることができる。
【0082】
また、3層以上のベルト層を備える場合、上記したL2/L1の関係は、互いに隣接したベルト層の間で成り立っていることが好ましく、最外層から最内層にかけて徐々にタイヤ幅方向のベルト層幅が短くなっていることが好ましい。
【0083】
6.トレッド部の分割
本発明において、トレッド部はタイヤ幅方向に分割されていることが好ましい。即ち、直進走行時、タイヤは、主として、トレッド部の幅方向内側部分が高い接地圧で路面と接地する。一方、旋回時には、横向きの力を受けて、トレッド部の幅方向外側部分が接地面となる傾向があり、高速走行時にはこの傾向が顕著となり、遠心力によって横滑りする恐れもある。
【0084】
このため、トレッド部の内側部分では強い反力が、外側部分では強い摩擦力が求められ、トレッド部を必要とされる機能に応じて、内側領域とそれを挟んだ外側領域とに分割することが好ましい。なお、この場合、内側領域と外側領域のいずれもが、前記した複素弾性率E*(MPa)が、5.0MPa以上で、(S×E*)が2.00以下であることを満足していることが好ましい。
【0085】
このとき、トレッド部の外側領域を構成するゴム組成物としては、ゴム成分中にスチレンを25質量%以下含有し、Tgが-18℃以上であるゴム組成物を使用することが好ましい。即ち、ゴム成分中にスチレンを25質量%以下含有していることにより、スチレン部同士の相互作用や凝集作用が弱くなり、ポリマー分子をフレキシブルに運動させて、路面とポリマー間での接地面積を増すことができるため、高速旋回中のグリップ性能が向上して、操縦安定性が向上する。そして、一定量のスチレンがゴム成分中に含有されていることにより、フレキシブルに運動するポリマー中のスチレン部同士も互いの摩擦により発熱しやすいため、ポリマー分子の運動がより促進されて、高速旋回中のグリップ性能がより向上して、より優れた操縦安定性を得ることができる。また、-18℃以上と高いTgのゴム組成物は発熱しやすいため、さらに、ポリマー分子の運動を促進させて、高速旋回中のグリップ性能を向上して、より優れた操縦安定性を得ることができる。
【0086】
上記の理由より、トレッド部が分割されていない場合においても、トレッド部のゴム組成物は、ゴム成分中にスチレンを25質量%以下含有し、Tgが-18℃以上であるゴム組成物であることが好ましい。
【0087】
なお、前記した、ゴム組成物のガラス転移温度(Tg)は、GABO社製「イプレクサー(登録商標)」シリーズなどの粘弾性測定装置を用いて測定されたtanδの温度分布曲線から求めることができる。具体的には、得られたtanδの温度分布曲線における最も大きいtanδ値に対応する温度(tanδピーク温度)をガラス転移温度(Tg)とする。-16℃以上であるとより好ましく、-15℃以上であるとさらに好ましい。一方、上限としては、特に限定されないが、0℃以下であることが好ましく、-8℃以下であるとより好ましく、-10℃以下であるとさらに好ましい。
【0088】
そして、本発明においては、トレッド部の外側領域におけるカーボンブラックの含有比率が、トレッド部の内側領域におけるカーボンブラックの含有比率よりも高いことが好ましい。
【0089】
外側領域におけるカーボンブラックの含有比率を内側領域におけるカーボンブラックの含有比率よりも高くすることにより、高速旋回で外側領域に荷重がかかった際、カーボンブラックとポリマー間での摩擦で温度が上がりやすくなり、ポリマーの運動をより促進させることができるため、高速旋回中のグリップ性能を向上させて、操縦安定性の向上を図ることができる。
【0090】
一方、内側領域では、カーボンブラック量が少ないため、発熱を抑制して、旋回の初期時に接地し易い内側領域の剛性が担保されて、旋回中、外側領域に荷重を掛け易くすることができる。この結果、外側領域の温度が上がりやすくなり、ポリマーの運動をより促進させて、高速旋回中のグリップ性能を向上させて、操縦安定性の向上を図ることができる。
【0091】
なお、外側領域におけるカーボンブラックの含有比率と、内側領域におけるカーボンブラックの含有比率との具体的な差としては、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であるとより好ましい。一方、上限としては特に限定されないが、40質量%以下であることが好ましく、38質量%以下であるとより好ましい。
【0092】
7.トレッド幅とベルト層幅の関係
本発明において、ベルト層のタイヤ幅方向最大長さLm(mm)のトレッド幅Tw(mm)に対する比(Lm/Tw)は1.00以上であることが好ましい。このような関係を満たす、即ちベルト層のタイヤ幅方向最大長さLmをトレッド幅Tw以上とすることで、ベルト層がトレッド部よりもタイヤ半径方向内側で円弧を描く形となり、更に箍効果を発揮させて、トレッド部表面の形状をラウンド状に保持しやすくすることができる。このため、自動二輪車が旋回する際に、車体を傾けやすくなり高速走行時の操縦安定性の向上を図ることができる。さらに、車体を傾けた際にも、接地面のタイヤ半径方向内側にベルト層が存在するようになるため、せん断力も発揮しやすくなり、操縦安定性をさらに向上させ易くすることができると考えられる。
【0093】
なお、ここで言う、ベルト層のタイヤ幅方向最大長さLmとは、前述のベルト層のタイヤ幅方向長さのうち、その長さが最大のものを指す。すなわち、ベルト層が1層である場合には当該ベルト層のタイヤ幅方向長さがLmとなり、2層以上存在する場合には、それらのうち、最も長さが長いものがLmとなる。
【0094】
また、トレッド幅Twはトレッド部のタイヤ幅方向に平行な長さを指し、タイヤを幅方向に切り出した断面において、ビード部を正規リム幅に合わせた状態で、測定することができる。
【0095】
前記ベルト層のタイヤ幅方向最大長さLm(mm)のトレッド幅Tw(mm)に対する比(Lm/Tw)は、前記の通り、1.00以上であることが好ましく、1.05以上であるとさらに好ましく、1.10以上であるとさらに好ましい。一方、上限は特に限定されないが、1.50以下であると好ましく、1.45以下であるとより好ましく、1.40以下であるとさらに好ましい。
【0096】
[3]実施の形態
以下、実施の形態に基づいて、本発明を具体的に説明する。
【0097】
1.トレッドゴム組成物
本実施の形態において、トレッドゴム組成物は、以下に記載するゴム成分、充填剤、軟化剤、加硫剤および加硫促進剤などの各種配合材料から得ることができる。
【0098】
(1)配合材料
(a)ゴム成分
本実施の形態において、ゴム成分としては特に限定されず、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)などのジエン系ゴム、ブチルゴムなどのブチル系ゴム、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)、スチレンブタジエン共重合体(SB)などの熱可塑性エラストマーなど、タイヤの製造に一般的に用いられるゴム(ポリマー)を用いることができるが、前記したように、ゴム成分中のスチレン含有量は25質量%以下であることが好ましいことを考慮すると、SBR、SBS、SBなどのスチレン系のポリマーのいずれか1種を含み、SBRを含むことが好ましい。そして、これらのスチレン系ポリマーと他のゴム成分を併用してもよく、例えば、SBRとBRの併用、SBRとBRとイソプレン系ゴムの併用が好ましい。
【0099】
(イ)SBR
SBRの重量平均分子量は、例えば、10万超、200万未満である。SBRのビニル結合量(1,2-結合ブタジエン単位量)は、例えば、5モル%超、70モル%未満である。なお、SBRの構造同定(スチレン含有量、ビニル結合量の測定)は、例えば、日本電子(株)製JNM-ECAシリーズの装置を用いて行うことができる。
【0100】
ゴム成分100質量部中のSBRの含有量は、55質量部以上であることが好ましく、60質量部以上であるとより好ましく、65質量部以上であるとさらに好ましい。
【0101】
SBRとしては特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E-SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)等を使用できる。SBRは、非変性SBR、変性SBRのいずれであってもよい。また、SBR中のブタジエン部を水素添加させた水添SBRを用いてもよく、水添SBRはSBR中のBR部を後発的に水素添加処理して得てもよく、スチレン、エチレン、ブタジエンを共重合させて同様の構造を得てもよい。また、油展SBRであってもよい。
【0102】
変性SBRとしては、シリカ等の充填剤と相互作用する官能基を有するSBRであればよく、例えば、SBRの少なくとも一方の末端を、上記官能基を有する化合物(変性剤)で変性された末端変性SBR(末端に上記官能基を有する末端変性SBR)や、主鎖に上記官能基を有する主鎖変性SBRや、主鎖および末端に上記官能基を有する主鎖末端変性SBR(例えば、主鎖に上記官能基を有し、少なくとも一方の末端を上記変性剤で変性された主鎖末端変性SBR)や、分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物により変性(カップリング)され、水酸基やエポキシ基が導入された末端変性SBR等が挙げられる。
【0103】
上記官能基としては、例えば、アミノ基、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。
【0104】
また、変性SBRとして、例えば、下記式で表される化合物(変性剤)により変性されたSBRを使用できる。
【0105】
【0106】
なお、式中、R1、R2およびR3は、同一または異なって、アルキル基、アルコキシ基、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基(-COOH)、メルカプト基(-SH)またはこれらの誘導体を表す。R4およびR5は、同一または異なって、水素原子またはアルキル基を表す。R4およびR5は結合して窒素原子と共に環構造を形成してもよい。nは整数を表す。
【0107】
上記式で表される化合物(変性剤)により変性された変性SBRとしては、溶液重合のスチレンブタジエンゴム(S-SBR)の重合末端(活性末端)を上記式で表される化合物により変性されたSBR(特開2010-111753号公報に記載の変性SBR等)を使用できる。
【0108】
R1、R2およびR3としてはアルコキシ基が好適である(好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基)。R4およびR5としてはアルキル基(好ましくは炭素数1~3のアルキル基)が好適である。nは、好ましくは1~5、より好ましくは2~4、更に好ましくは3である。また、R4およびR5が結合して窒素原子と共に環構造を形成する場合、4~8員環であることが好ましい。なお、アルコキシ基には、シクロアルコキシ基(シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基、ベンジルオキシ基等)も含まれる。
【0109】
上記変性剤の具体例としては、2-ジメチルアミノエチルトリメトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2-ジメチルアミノエチルトリエトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、2-ジエチルアミノエチルトリメトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2-ジエチルアミノエチルトリエトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0110】
また、変性SBRとしては、以下の化合物(変性剤)により変性された変性SBRも使用できる。変性剤としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル;ジグリシジル化ビスフェノールA等の2個以上のフェノール基を有する芳香族化合物のポリグリシジルエーテル;1,4-ジグリシジルベンゼン、1,3,5-トリグリシジルベンゼン、ポリエポキシ化液状ポリブタジエン等のポリエポキシ化合物;4,4’-ジグリシジル-ジフェニルメチルアミン、4,4’-ジグリシジル-ジベンジルメチルアミン等のエポキシ基含有3級アミン;ジグリシジルアニリン、N,N’-ジグリシジル-4-グリシジルオキシアニリン、ジグリシジルオルソトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル-p-フェニレンジアミン、ジグリシジルアミノメチルシクロヘキサン、テトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等のジグリシジルアミノ化合物;ビス-(1-メチルプロピル)カルバミン酸クロリド、4-モルホリンカルボニルクロリド、1-ピロリジンカルボニルクロリド、N,N-ジメチルカルバミド酸クロリド、N,N-ジエチルカルバミド酸クロリド等のアミノ基含有酸クロリド;1,3-ビス-(グリシジルオキシプロピル)-テトラメチルジシロキサン、(3-グリシジルオキシプロピル)-ペンタメチルジシロキサン等のエポキシ基含有シラン化合物;(トリメチルシリル)[3-(トリメトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(トリエトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(トリプロポキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(トリブトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(メチルジメトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(メチルジエトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(メチルジプロポキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(メチルジブトキシシリル)プロピル]スルフィド等のスルフィド基含有シラン化合物;エチレンイミン、プロピレンイミン等のN-置換アジリジン化合物;メチルトリエトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリメトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン;4-N,N-ジメチルアミノベンゾフェノン、4-N,N-ジ-t-ブチルアミノベンゾフェノン、4-N,N-ジフェニルアミノベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジフェニルアミノ)ベンゾフェノン、N,N,N’,N’-ビス-(テトラエチルアミノ)ベンゾフェノン等のアミノ基および/または置換アミノ基を有する(チオ)ベンゾフェノン化合物;4-N,N-ジメチルアミノベンズアルデヒド、4-N,N-ジフェニルアミノベンズアルデヒド、4-N,N-ジビニルアミノベンズアルデヒド等のアミノ基および/または置換アミノ基を有するベンズアルデヒド化合物;N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、N-フェニル-2-ピロリドン、N-t-ブチル-2-ピロリドン、N-メチル-5-メチル-2-ピロリドン等のN-置換ピロリドンN-メチル-2-ピペリドン、N-ビニル-2-ピペリドン、N-フェニル-2-ピペリドン等のN-置換ピペリドン;N-メチル-ε-カプロラクタム、N-フェニル-ε-カプロラクタム、N-メチル-ω-ラウリロラクタム、N-ビニル-ω-ラウリロラクタム、N-メチル-β-プロピオラクタム、N-フェニル-β-プロピオラクタム等のN-置換ラクタム類;の他、N,N-ビス-(2,3-エポキシプロポキシ)-アニリン、4,4-メチレン-ビス-(N,N-グリシジルアニリン)、トリス-(2,3-エポキシプロピル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオン類、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルマレイミド、N,N-ジエチル尿素、1,3-ジメチルエチレン尿素、1,3-ジビニルエチレン尿素、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、1-メチル-3-エチル-2-イミダゾリジノン、4-N,N-ジメチルアミノアセトフェン、4-N,N-ジエチルアミノアセトフェノン、1,3-ビス(ジフェニルアミノ)-2-プロパノン、1,7-ビス(メチルエチルアミノ)-4-ヘプタノン等を挙げることができる。なお、上記化合物(変性剤)による変性は公知の方法で実施可能である。
【0111】
SBRとしては、例えば、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等により製造・販売されているSBRを使用できる。なお、SBRは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0112】
(ロ)BR
本実施の形態において、トレッドゴム組成物には、必要に応じて、さらに、BRを含んでもよい。この場合、ゴム成分100質量部中のBRの含有量は、30質量部以上であることが好ましく、35質量部以上であるとより好ましい。一方、45質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であるとより好ましい。
【0113】
BRの重量平均分子量は、例えば、10万超、200万未満である。BRのビニル結合量は、例えば1質量%超、30質量%未満である。BRのシス量は、例えば1質量%超、98質量%未満である。BRのトランス量は、例えば1質量%超、60質量%未満である。
【0114】
BRとしては特に限定されず、高シス含量(シス含量が90%以上)のBR、低シス含量のBR、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR等を使用できる。BRは、非変性BR、変性BRのいずれでもよく、変性BRとしては、前述の官能基が導入された変性BRが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、シス含量は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
【0115】
BRとしては、例えば、宇部興産(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品を使用できる。
【0116】
(ハ)イソプレン系ゴム
本実施の形態において、トレッドゴム組成物には、必要に応じて、必要に応じて、さらに、イソプレン系ゴムを含んでもよい。この場合、ゴム成分100質量部中のイソプレン系ゴムの含有量は、20質量部超、35質量部未満であることが好ましい。
【0117】
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。
【0118】
NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。IRとしては、特に限定されず、例えば、IR2200等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。改質NRとしては、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等、変性NRとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等、変性IRとしては、エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0119】
(ニ)その他のゴム成分
また、その他のゴム成分として、ニトリルゴム(NBR)などのタイヤの製造に一般的に用いられるゴム(ポリマー)を含んでもよい。
【0120】
(b)ゴム成分以外の配合材料
(イ)充填剤
本実施の形態において、ゴム組成物は、充填剤を含有することが好ましい。具体的な充填剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、グラファイト、炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレー、水酸化アルミニウム、マイカなどを挙げることができる。
【0121】
(i)カーボンブラック
本実施の形態において、トレッドゴム組成物には、カーボンブラックを含むことが好ましい。ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量としては、65質量部以上であることが好ましく、70質量部以上であるとより好ましく、75質量部以上であるとさらに好ましい。一方、90質量部以下であることが好ましく、85質量部以下であるとより好ましく80質量部以下であるとさらに好ましい。
【0122】
カーボンブラックとしては特に限定されず、SAF、ISAF、HAF、MAF、FEF、SRF、GPF、APF、FF、CF、SCFおよびECFのようなファーネスブラック(ファーネスカーボンブラック);アセチレンブラック(アセチレンカーボンブラック);FTおよびMTのようなサーマルブラック(サーマルカーボンブラック);EPC、MPCおよびCCのようなチャンネルブラック(チャンネルカーボンブラック)などを挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0123】
カーボンブラックのCTAB(Cetyl Tri-methyl Ammonium Bromide)比表面積は、130m2/g以上が好ましく、160m2/g以上であるとより好ましく、170m2/g以上であるとさらに好ましい。一方、250m2/g以下が好ましく、200m2/g以下であるであるとより好ましい。なお、CTAB比表面積は、ASTM D3765-92に準拠して測定される値である。
【0124】
具体的なカーボンブラックとしては特に限定されず、N134、N110、N220、N234、N219、N339、N330、N326、N351、N550、N762等が挙げられる。市販品としては、例えば、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱化学(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0125】
(ii-1)シリカ
本実施の形態において、トレッドゴム組成物には、必要に応じて、シランカップリング剤と共にシリカを含有することが好ましい。
【0126】
シリカのBET比表面積は、良好な耐久性能が得られる観点から140m2/g超が好ましく、160m2/g超がより好ましい。一方、良好な高速走行時の転がり抵抗性を得られる観点からは250m2/g未満が好ましく、220m2/g未満であることがより好ましい。なお、上記したBET比表面積は、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定されるN2SAの値である。
【0127】
ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量としては、30質量部以上であることが好ましく、45質量部以上であるとより好ましく、60質量部以上であるとさらに好ましい。一方、170質量部以下であることが好ましく、140質量部以下であるとより好ましく80質量部以下であるとさらに好ましい。
【0128】
シリカとしては、例えば、乾式法シリカ(無水シリカ)、湿式法シリカ(含水シリカ)などが挙げられる。なかでも、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。また、含水ガラスなどを原料としたシリカや、もみ殻などのバイオマス材用を原料としたシリカなどを用いてもよい。
【0129】
シリカとしては、例えば、エボニックインダストリーズ社、ローディア社、東ソー・シリカ(株)、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を使用できる。
【0130】
なお、シリカが多く含有されたシリカ系のトレッドゴム組成物の場合には、タイヤに溜まった静電気を効率的に路面に逃がすために、グラファイトなどの通電性の充填剤や微小金属繊維などを添加することが好ましい。
【0131】
また、トレッド部の中央部にカーボンブラックの含有比率を高めた通電用のゴム層を備えても良い。但し、このような通電用ゴム層は、高速旋回時の操縦安定性への寄与が小さい為、物性等の関係性を満たす必要性はない。
【0132】
(ii-2)シランカップリング剤
充填補強剤としてシリカを用いる場合、ゴム組成物は、シリカと共にシランカップリング剤を含むことが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、などのスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、Momentive社製のNXT、NXT-Zなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシランなどのクロロ系などがあげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0133】
シランカップリング剤としては、例えば、エボニックインダストリーズ社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)、東レ・ダウコーニング(株)等の製品を使用できる。
【0134】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、例えば、3質量部超、25質量部未満である。
【0135】
(iii)その他の充填剤
ゴム組成物には、必要に応じて、上記したカーボンブラックやシリカの他に、タイヤ工業において一般的に用いられている、例えば、グラファイト、炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレー、水酸化アルミニウム、マイカ等の充填剤をさらに含有してもよい。これらの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.1質量部超、200質量部未満である。
【0136】
(ロ)可塑剤成分
トレッドゴム組成物は、ゴムを軟化させる成分として、オイル(伸展油を含む)、液状ゴム、および樹脂を可塑剤として含んでもよい。なお、可塑剤成分は、加硫ゴム中からアセトンにより抽出可能な成分である。可塑剤成分の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、10質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であるとより好ましい。一方、50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であるとより好ましい。なお、オイルの含有量には、ゴム(油展ゴム)に含まれるオイルの量も含まれる。
【0137】
なお、アセトン抽出量は、JIS K 6229に準拠して加硫ゴム試験片を72時間アセトンに浸漬して可溶成分を抽出し、抽出前後の各試験片の質量を測定し、下記式により求めることができる。
アセトン抽出量(%)={(抽出前のゴム試験片の質量-抽出後のゴム試験片の質量)
/(抽出前のゴム試験片の質量)}×100
【0138】
(i)オイル
オイルとしては、例えば、鉱物油(一般にプロセスオイルと言われる)、植物油脂、またはその混合物が挙げられる。鉱物油(プロセスオイル)としては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、ライフサイクルアセスメントの観点から、ゴム混合用のミキサーや自動車用エンジンなどの潤滑油として用いられた後の廃オイルや、廃食用油などを適宜用いてもよい。
【0139】
具体的なプロセスオイル(鉱物油)としては、例えば、出光興産(株)、三共油化工業(株)、ENEOS(株)、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、昭和シェル石油(株)、富士興産(株)等の製品を使用できる。
【0140】
(ii)液状ゴム
可塑剤として挙げた液状ゴムとは、常温(25℃)で液体状態の重合体であり、加硫後のタイヤからアセトン抽出により抽出可能なゴム成分である。液状ゴムとしては、ファルネセン系ポリマー、液状ジエン系重合体及びそれらの水素添加物等が挙げられる。
【0141】
ファルネセン系ポリマーとは、ファルネセンを重合することで得られる重合体であり、ファルネセンに基づく構成単位を有する。ファルネセンには、α-ファルネセン((3E,7E)-3,7,11-トリメチル-1,3,6,10-ドデカテトラエン)やβ-ファルネセン(7,11-ジメチル-3-メチレン-1,6,10-ドデカトリエン)などの異性体が存在する。
【0142】
ファルネセン系ポリマーは、ファルネセンの単独重合体(ファルネセン単独重合体)でも、ファルネセンとビニルモノマーとの共重合体(ファルネセン-ビニルモノマー共重合体)でもよい。
【0143】
液状ジエン系重合体としては、液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)などが挙げられる。
【0144】
液状ジエン系重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、例えば、1.0×103超、2.0×105未満である。なお、本明細書において、液状ジエン系重合体のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算値である。
【0145】
液状ゴムの含有量(液状ファルネセン系ポリマー、液状ジエン系重合体等の合計含有量)は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、1質量部超、100質量部未満である。
【0146】
液状ゴムとしては、例えば、クラレ(株)、クレイバレー社等の製品を使用できる。
【0147】
(iii)樹脂成分
樹脂成分は、粘着性付与成分としても機能し、常温で固体であっても、液体であってもよく、具体的な樹脂成分としては、例えば、ロジン系樹脂、スチレン系樹脂、クマロン系樹脂、テルペン系樹脂、C5樹脂、C9樹脂、C5C9樹脂、アクリル系樹脂などの樹脂が挙げられ、2種以上を併用しても良い。樹脂成分の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、2質量部超で、45質量部未満が好ましく、30質量部未満がより好ましい。なお、これらの樹脂成分は、必要に応じて、シリカ等と反応できる変性基を付与してもよい。
【0148】
ロジン系樹脂は、松脂を加工することにより得られるロジン酸を主成分とする樹脂である。このロジン系樹脂(ロジン類)は、変性の有無によって分類可能であり、無変性ロジン(未変性ロジン)、ロジン変性体(ロジン誘導体)に分類できる。無変性ロジンとしては、トールロジン(別名トール油ロジン)、ガムロジン、ウッドロジン、不均斉化ロジン、重合ロジン、水素化ロジン、その他の化学的に修飾されたロジンなどが挙げられる。ロジン変性体は無変性ロジンの変性体であって、ロジンエステル類、不飽和カルボン酸変性ロジン類、不飽和カルボン酸変性ロジンエステル類、ロジンのアミド化合物、ロジンのアミン塩などが挙げられる。
【0149】
スチレン系樹脂は、スチレン系単量体を構成モノマーとして用いたポリマーであり、スチレン系単量体を主成分(50質量%以上)として重合させたポリマー等が挙げられる。具体的には、スチレン系単量体(スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-フェニルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン等)をそれぞれ単独で重合した単独重合体、2種以上のスチレン系単量体を共重合した共重合体の他、スチレン系単量体およびこれと共重合し得る他の単量体のコポリマーも挙げられる。
【0150】
前記他の単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのアクリロニトリル類、アクリル類、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸類、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルなどの不飽和カルボン酸エステル類、クロロプレン、ブタジエンイソプレンなどのジエン類、1-ブテン、1-ペンテンのようなオレフィン類;無水マレイン酸等のα,β-不飽和カルボン酸またはその酸無水物等が例示できる。
【0151】
クマロン系樹脂の中でも、クマロンインデン樹脂が好ましい。クマロンインデン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成するモノマー成分として、クマロンおよびインデンを含む樹脂である。クマロン、インデン以外に骨格に含まれるモノマー成分としては、スチレン、α-メチルスチレン、メチルインデン、ビニルトルエンなどが挙げられる。
【0152】
クマロンインデン樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、1.0質量部超、50.0質量部未満である。
【0153】
クマロンインデン樹脂の水酸基価(OH価)は、例えば、15mgKOH/g超、150mgKOH/g未満である。なお、OH価とは、樹脂1gをアセチル化するとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムの量をミリグラム数で表したものであり、電位差滴定法(JIS K 0070:1992)により測定した値である。
【0154】
クマロンインデン樹脂の軟化点は、例えば、30℃超、160℃未満である。なお、軟化点は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0155】
テルペン系樹脂としては、ポリテルペン、テルペンフェノール、芳香族変性テルペン樹脂などが挙げられる。ポリテルペンは、テルペン化合物を重合して得られる樹脂およびそれらの水素添加物である。テルペン化合物は、(C5H8)nの組成で表される炭化水素およびその含酸素誘導体で、モノテルペン(C10H16)、セスキテルペン(C15H24)、ジテルペン(C20H32)などに分類されるテルペンを基本骨格とする化合物であり、例えば、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α-フェランドレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオールなどが挙げられる。
【0156】
ポリテルペンとしては、上述したテルペン化合物を原料とするα-ピネン樹脂、β-ピネン樹脂、リモネン樹脂、ジペンテン樹脂、β-ピネン/リモネン樹脂などのテルペン樹脂の他、該テルペン樹脂に水素添加処理した水素添加テルペン樹脂も挙げられる。テルペンフェノールとしては、上記テルペン化合物とフェノール系化合物とを共重合した樹脂、および該樹脂に水素添加処理した樹脂が挙げられ、具体的には、上記テルペン化合物、フェノール系化合物およびホルマリンを縮合させた樹脂が挙げられる。なお、フェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノールなどが挙げられる。芳香族変性テルペン樹脂としては、テルペン樹脂を芳香族化合物で変性して得られる樹脂、および該樹脂に水素添加処理した樹脂が挙げられる。なお、芳香族化合物としては、芳香環を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、フェノール、アルキルフェノール、アルコキシフェノール、不飽和炭化水素基含有フェノールなどのフェノール化合物;ナフトール、アルキルナフトール、アルコキシナフトール、不飽和炭化水素基含有ナフトールなどのナフトール化合物;スチレン、アルキルスチレン、アルコキシスチレン、不飽和炭化水素基含有スチレンなどのスチレン誘導体;クマロン、インデンなどが挙げられる。
【0157】
「C5樹脂」とは、C5留分を重合することにより得られる樹脂をいう。C5留分としては、例えば、シクロペンタジエン、ペンテン、ペンタジエン、イソプレン等の炭素数4~5個相当の石油留分が挙げられる。C5系石油樹脂しては、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)が好適に用いられる。
【0158】
「C9樹脂」とは、C9留分を重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C9留分としては、例えば、ビニルトルエン、アルキルスチレン、インデン、メチルインデン等の炭素数8~10個相当の石油留分が挙げられる。具体例としては、例えば、クマロンインデン樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、および芳香族ビニル系樹脂が好適に用いられる。芳香族ビニル系樹脂としては、経済的で、加工しやすく、発熱性に優れているという理由から、α-メチルスチレンもしくはスチレンの単独重合体またはα-メチルスチレンとスチレンとの共重合体が好ましく、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体がより好ましい。芳香族ビニル系樹脂としては、例えば、クレイトン社、イーストマンケミカル社等より市販されているものを使用することができる。
【0159】
「C5C9樹脂」とは、前記C5留分と前記C9留分を共重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C5留分およびC9留分としては、前記の石油留分が挙げられる。C5C9樹脂としては、例えば、東ソー(株)、LUHUA社等より市販されているものを使用することができる。
【0160】
アクリル系樹脂としては特に限定されないが、例えば、無溶剤型アクリル系樹脂を使用できる。
【0161】
無溶剤型アクリル系樹脂は、副原料となる重合開始剤、連鎖移動剤、有機溶媒などを極力使用せずに、高温連続重合法(高温連続塊重合法)(米国特許第4,414,370号明細書、特開昭59-6207号公報、特公平5-58005号公報、特開平1-313522号公報、米国特許第5,010,166号明細書、東亜合成研究年報TREND2000第3号p42-45等に記載の方法)により合成された(メタ)アクリル系樹脂(重合体)が挙げられる。なお、本発明において、(メタ)アクリルは、メタクリルおよびアクリルを意味する。
【0162】
上記アクリル系樹脂を構成するモノマー成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸や、(メタ)アクリル酸エステル(アルキルエステル、アリールエステル、アラルキルエステルなど)、(メタ)アクリルアミド、および(メタ)アクリルアミド誘導体などの(メタ)アクリル酸誘導体が挙げられる。
【0163】
また、上記アクリル系樹脂を構成するモノマー成分として、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸誘導体と共に、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタレンなどの芳香族ビニルを使用してもよい。
【0164】
上記アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル成分のみで構成される樹脂であっても、(メタ)アクリル成分以外の成分をも構成要素とする樹脂であっても良い。また、上記アクリル系樹脂は、水酸基、カルボキシル基、シラノール基等を有していても良い。
【0165】
樹脂成分としては、例えば、丸善石油化学(株)、住友ベークライト(株)、ヤスハラケミカル(株)、東ソー(株)、Rutgers Chemicals社、BASF社、アリゾナケミカル社、日塗化学(株)、(株)日本触媒、ENEOS(株)、荒川化学工業(株)、田岡化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0166】
(ハ)ステアリン酸
本実施の形態において、トレッドゴム組成物には、ステアリン酸を含むことが好ましい。ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.5質量部超、10.0質量部未満である。ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、例えば、日油(株)、NOF社、花王(株)、富士フイルム和光純薬(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。
【0167】
(ニ)老化防止剤
本実施の形態において、トレッドゴム組成物には、老化防止剤を含むことが好ましい。老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.5質量部超、10質量部未満であり、1質量部以上がより好ましい。
【0168】
老化防止剤としては、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4′-ビス(α,α′-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N-イソプロピル-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス-[メチレン-3-(3′,5′-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0169】
なお、老化防止剤としては、例えば、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。
【0170】
(ホ)ワックス
本発明において、ゴム組成物には、ワックスを含むことが好ましい。ワックスの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.5~20質量部、好ましくは1.0~15質量部、より好ましくは1.5~10質量部である。
【0171】
ワックスとしては、特に限定されず、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;植物系ワックス、動物系ワックス等の天然系ワックス;エチレン、プロピレン等の重合物等の合成ワックスなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0172】
なお、ワックスとしては、例えば、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、精工化学(株)等の製品を使用できる。
【0173】
(ヘ)酸化亜鉛
トレッドゴム組成物は、酸化亜鉛を含んでもよい。酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、例えば、0.5質量部超、10質量部未満である。酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、例えば、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0174】
(ト)架橋剤および加硫促進剤
トレッドゴム組成物は、硫黄等の架橋剤を含むことが好ましい。架橋剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.1質量部超、10.0質量部未満である。
【0175】
硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0176】
なお、硫黄としては、例えば、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0177】
硫黄以外の架橋剤としては、例えば、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200、ランクセス社製のKA9188(1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)等の硫黄原子を含む加硫剤や、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物等が挙げられる。
【0178】
トレッドゴム組成物は、加硫促進剤を含むことが好ましい。加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.3質量部超、10.0質量部未満である。
【0179】
加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0180】
(チ)その他
トレッドゴム組成物には、前記成分の他、タイヤ工業において一般的に用いられている添加剤、例えば、脂肪酸金属塩、カルボン酸金属塩、有機過酸化物、リバージョン(加硫戻り)防止剤等を、必要に応じて、さらに配合してもよい。これらの添加剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.1質量部超、200質量部未満である。
【0181】
(2)トレッドゴム組成物の作製
トレッドゴム組成物は、上記した各種配合材料を適宜、調整して、一般的な方法、例えば、ゴム成分とカーボンブラック等のフィラーとを混練するベース練り工程と、前記ベース練り工程で得られた混練物と架橋剤とを混練する仕上げ練り工程とを含む製造方法により作製される。
【0182】
混練は、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、オープンロールなどの公知の(密閉式)混練機を用いて行うことができる。
【0183】
ベース練り工程の混練温度は、例えば、50℃超、200℃未満であり、混練時間は、例えば、30秒超、30分未満である。ベース練り工程では、上記成分以外にも、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、オイル等の軟化剤、酸化亜鉛、老化防止剤、ワックス、加硫促進剤などを必要に応じて適宜添加、混練してもよい。
【0184】
仕上げ練り工程では、前記ベース練り工程で得られた混練物と架橋剤とが混練される。仕上げ練り工程の混練温度は、例えば、室温超、80℃未満であり、混練時間は、例えば、1分超、15分未満である。仕上げ練り工程では、上記成分以外にも、加硫促進剤、酸化亜鉛等を必要に応じて適宜添加、混練してもよい。
【0185】
2.ベルト層
(1)被覆ゴム組成物
本実施の形態において、スチールコードの被覆される被覆ゴム組成物は、基本的に、上記したトレッドゴム組成物と同様の配合材料から得ることができる。
【0186】
(a)ゴム成分
被覆ゴム組成物においても、ゴム成分としては、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)などのジエン系ゴム、ブチルゴムなどのブチル系ゴムなど、タイヤの製造に一般的に用いられるゴム(ポリマー)を用いることができるが、これらの内でも、イソプレン系ゴムが好ましく、ポリイソプレンのシス構造が100%に近く、引張り強さが他のゴム成分より優れているという点で、NRを用いることが好ましい。なお、必要に応じて、SBRやBRを併せて使用してもよい。
【0187】
(イ)イソプレン系ゴム
被覆ゴム組成物において、ゴム成分100質量部中のイソプレン系ゴムの含有量は、60質量部以上であることが好ましく、80質量部以上であるとより好ましく、90質量部以上であるとさらに好ましい。
【0188】
(ロ)SBR
被覆ゴム組成物において、ゴム成分には、必要に応じて、NRと共に、5質量部以上、25質量部以下のSBRを使用してもよい。
【0189】
(ハ)BR
被覆ゴム組成物において、ゴム成分には、必要に応じて、上記したNR、SBRと共に、5質量部以上、25質量部以下のBRを併用してもよい。
【0190】
(ニ)その他のゴム成分
また、その他のゴム成分として、必要に応じて、ニトリルゴム(NBR)などのタイヤの製造に一般的に用いられるゴム(ポリマー)を含んでもよい。
【0191】
(b)ゴム成分以外の配合材料
(イ)充填剤
(i)カーボンブラック
被覆ゴム組成物において、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、10質量部以上、100質量部以下であることが好ましく、40質量部以上、70質量部以下であるとより好ましく、50質量部以上、60質量部以下であるとさらに好ましい。
【0192】
(ii)シリカ
被覆ゴム組成物においても、必要に応じて、さらに、シリカを含むことが好ましく、シランカップリング剤を併用してもよい。ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量は、シランカップリング剤と併用しない場合においては、3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。一方、25質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。また、シランカップリング剤との併用を行う場合には、25質量部以上が好ましい。一方、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。
【0193】
(iii)シランカップリング剤
被覆ゴム組成物において、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、例えば、3質量部超、15質量部未満である。
【0194】
(iv)その他の充填剤
被覆ゴム組成物においても、例えば、グラファイト、炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレー、水酸化アルミニウム、マイカ等の充填剤をさらに含有してもよい。これらの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.1質量部超、200質量部未満である。
【0195】
(ロ)硬化性樹脂成分
被覆ゴム組成物においては、変性レゾルシン樹脂、変性フェノール樹脂などの硬化性樹脂成分を含有することが好ましい。これにより、発熱性、破断時伸びを大きく悪化させることなく、スチールコードとの接着性を向上させ、ゴム、スチールコードで大きな反力を発生させやすくすることができる。
【0196】
具体的な変性レゾルシン樹脂としては、例えば、田岡化学工業(株)製のスミカノール620(変性レゾルシン樹脂)などが挙げられ、変性フェノール樹脂としては、例えば、住友ベークライト(株)製のPR12686(カシューオイル変性フェノール樹脂)などが挙げられる。
【0197】
硬化性樹脂成分の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、複素弾性率を十分に向上させ、変形時に大きな反力を得るという観点から、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。一方、破断強度の維持という観点から、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましい。
【0198】
変性レゾルシン樹脂の使用に際しては、硬化剤として、メチレン供与体を併せて含有することが好ましい。メチレン供与体としては、例えば、ヘキサメチレンテトラミン(HMT)、ヘキサメトキシメチロールメラミン(HMMM)やヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテル(HMMPME)等が挙げられ、硬化性樹脂成分100質量部に対して、例えば、5質量部以上、15質量部程度含有されることが好ましい。少な過ぎると、充分な複素弾性率が得られない恐れがある。一方、多過ぎると、ゴムの粘度が増大し、加工性が悪化する恐れがある。
【0199】
具体的なメチレン供与体としては、例えば、田岡化学工業(株)製のスミカノール507などを使用できる。
【0200】
(ハ)樹脂成分
被覆ゴム組成物においては、加工性(粘着性付与)の観点から、必要に応じて、樹脂成分を含有することが好ましい。樹脂成分の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、2質量部超で、45質量部未満が好ましく、30質量部未満がより好ましい。
【0201】
(ニ)有機酸コバルト
被覆ゴム組成物においては、有機酸コバルトを含有することが好ましい。有機酸コバルトは、コードとゴムとを架橋する役目を果たすため、この成分を配合することにより、コードとゴムとの接着性を向上させることができる。
【0202】
有機酸コバルトとしては、例えば、ステアリン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ホウ素3ネオデカン酸コバルトなどが挙げられる。
【0203】
有機酸コバルトの含有量は、被覆ゴム中のコバルト濃度として、500ppm以上であることが好ましく、700ppm以上であるとより好ましく、900ppm以上であるとさらに好ましい。一方、1500ppm以下であることが好ましく、1300ppm以下であるとより好ましい。少な過ぎると、スチールコードのメッキ層とゴムとの接着性を充分に確保できない恐れがある。一方、多過ぎると、ゴムの酸化劣化が顕著になり、破断特性が悪化する恐れがある。
【0204】
(ホ)リバージョン(加硫戻り)防止剤
被覆ゴム組成物には、必要に応じて、リバージョン(加硫戻り)防止剤を含有していることが好ましい。これにより、リバージョンが抑制されて、耐久性が向上する。リバージョン防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1質量部以上、3質量部以下が好ましく、0.2質量部以上、2.5質量部以下であるとより好ましく、0.3質量部以上、2質量部以下であるとさらに好ましい。なお、具体的なリバージョン防止剤としては、例えばフレクシス社製のパーカリンク900(1,3-ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン)などを使用できる。
【0205】
(ヘ)老化防止剤
被覆ゴム組成物において、老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、1質量部超、10質量部未満である。
【0206】
(ト)ステアリン酸
被覆ゴム組成物において、ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.5質量部超、10.0質量部未満である。
【0207】
(チ)酸化亜鉛
被覆ゴム組成物において、酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.5質量部超、15質量部未満である。
【0208】
(リ)架橋剤および加硫促進剤
被覆ゴム組成物において、架橋剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.1質量部超、10.0質量部未満である。
【0209】
被覆ゴム組成物において、加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.3質量部超、10.0質量部未満である。
【0210】
(ヌ)その他
被覆ゴム組成物には、前記成分の他、タイヤ工業において一般的に用いられている添加剤、例えば、脂肪酸金属塩、カルボン酸金属塩、有機過酸化物等を更に配合してもよい。これらの添加剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.1質量部超、200質量部未満である。
【0211】
(2)ベルト層の製造
(a)被覆ゴム組成物の作製
被覆ゴム組成物は、上記したトレッドゴム組成物の作製と同様に、ベース練り工程および仕上げ練り工程を経て作製することができる。
【0212】
(b)ベルト層の製造
得られた被覆ゴム組成物を、カレンダーロールなどを用いて、所定のエンズで配列されたスチールコードの両面に被覆して成形することにより、ベルト層が製造される。
【0213】
3.タイヤの製造
ベルト層およびトレッド部などの部材は、公知の方法を用いて成形される。そして、成形されたベルト層およびトレッド部を他のタイヤ部材と共に、タイヤ成形機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤとして作製することができる。
【0214】
具体的には、成形ドラム上に、タイヤの気密保持性を確保するための部材としてのインナーライナー、カーカス、およびベルト層などを巻回し、両側縁部にカーカスの両端を固定すると共に、タイヤをリムに固定させるための部材としてのビード部を配置して、トロイド状に成形した後、外周の中央部にトレッド、径方向外側にサイドウォールを貼り合せてサイド部を構成させることにより、未加硫タイヤを作製する。
【0215】
その後、作製された未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得る。加硫工程は、公知の加硫手段を適用することで実施できる。加硫温度としては、例えば、120℃超、200℃未満であり、加硫時間は、例えば、5分超、15分未満である。
【実施例0216】
以下、実施例により、本発明についてさらに具体的に説明する。なお、以下では、
図1に示す構造を有するタイヤサイズ190/50ZR17の自動二輪車用タイヤ(後輪用)を製造して、高速旋回時の操縦安定性について評価した。
【0217】
1.ベルト層の作製
最初に、以下の手順に従って、ベルト層を作製した。
【0218】
(1)被覆ゴム組成物の製造
まず、被覆ゴム組成物を製造した。
【0219】
具体的には、NR(RSS3)100質量部、カーボンブラック(キャボットジャパン(株)製のショウブラックN550:N2SA=42m2/g)55質量部、硬化性樹脂成分(田岡化学工業(株)製のスミカノール620:変性レゾルシン樹脂)5質量部、硬化剤(田岡化学工業(株)製のスミカノール507:メチレン供与体)3質量部、有機酸コバルト(DIC(株)製のDICNATE NBC-2:ネオデカン酸ホウ素コバルト、コバルト含有量22.5質量%)1質量部、酸化亜鉛(三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号)11質量部、老化防止剤-1(大内新興化学工業(株)製のノクラック6C:N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン)1質量部、老化防止剤-2(川口化学工業(株)製のアンテージRD:(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン)0.5質量部、ステアリン酸(日油(株)製のステアリン酸「椿」)1質量部、硫黄(鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄)7質量部、加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製のノクセラー DZ:N,N-ジシクロヘキシル-2-べンゾチアゾリルスルフェンアミド)1.2質量部を準備し、バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りして、混練物を得た。
【0220】
次に、得られた混練物に、硫黄および加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、被覆ゴム組成物を得た。
【0221】
(2)ベルト層の作製
表2~5に示すコード構成の各スチールコードを、25本/5cmのエンズとなるように配列させ、上記で得られた被覆ゴム組成物を用いて、その上下に、トータル厚みが1.15mmとなるように被覆させて、各ベルト層を得た。
【0222】
なお、予め、各スチールコードにおける座屈点の有無、圧縮剛性値、曲げ剛性値を、前記した方法に従って測定した。測定結果を、表2~5に示す。
【0223】
2.トレッドゴム組成物の製造
次に、以下の手順に従って、トレッドゴム組成物を製造し、その後、トレッドゴムに成形した。
【0224】
(1)配合材料
まず、以下に示す各配合材料を準備した。
【0225】
(a)ゴム成分
(イ)SBR:旭化成(株)製のタフデン3830(S-SBR:スチレン含有量:33質量%、ビニル結合量:31質量%、37.5%油展品)
(ロ)BR:宇部興産(株)製のウベポールBR150B(Co系触媒を用いて合成したハイシスBR:シス含量97質量%、トランス含量2質量%、ビニル含量1質量%)
【0226】
(b)ゴム成分以外の配合材料
(イ)カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN110
(BET値142m2/g)
(ロ)シリカ:エボニックインダストリーズ社製のウルトラシルVN3
(BET比表面積:175m2/g)
(ハ)シランカップリング剤:エボニックインダストリーズ社製シランカップリング剤Si69
(ニ)オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスNH-70
(ホ)ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
(ヘ)樹脂:アリゾナケミカル社製のSyltraxx4401
(α-メチルスチレン系樹脂、軟化点85℃)
(ト)液状SBR:Cray Valley社製のRICON100(ランダム共重合体、スチレン含量:25質量%、ビニル含量:70%、Mn:4500)
(チ)老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C
(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
(リ)ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸「椿」
(ヌ)酸化亜鉛:東邦亜鉛(株)製の「銀嶺R」
(ル)硫黄:細井化学工業(株)製のHK-200-5(5%オイル含有粉末硫黄)
(ヲ)加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラー-NS
(N-tert一ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0227】
(2)トレッドゴム組成物の製造
表1に示す配合A~Eの各配合内容に従い、バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りして、混練物を得た。なお、各配合量は、質量部である。
【0228】
その後、得られた各トレッドゴム組成物を用いて、長さ40mm、幅4mmの加硫ゴム片を粘弾性測定用ゴム試験片として作製した。そして、得られた各粘弾性測定用ゴム試験片について、GABO社製のイプレクサーを用いて、温度:70℃、初期歪:5%、動歪:±1%、周波数:10Hz、変形モード:伸張の条件下で複素弾性率E*(MPa)を測定した。測定結果を、表1、および、表2~5に示す。
【0229】
【0230】
(3)トレッドゴムの製造
次いで、得られた各トレッドゴム組成物を、所定の形状に押出成形して、トレッドゴムを製造した。
【0231】
3.タイヤの製造
上記で得られたベルト層およびトレッドゴムを、他のタイヤ部材と共に貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で10分間プレス加硫して、表2、表3に示す実施例1~実施例12の各試験用タイヤ、および表4、表5に示す比較例1~比較例10の各試験用タイヤを製造した。
【0232】
4.パラメータの算出
上記したタイヤの製造に併せて、評価用のパラメータとして、各スチールコードの横断面におけるスチールフィラメントの総断面積S(mm2)と、各複素弾性率E*(MPa)との積(S×E*)、および、各スチールコードの曲げ剛性値FRと各複素弾性率E*(MPa)との積(FR×E*)を求めた。また、タイヤ半径方向内側のベルト層のタイヤ幅方向長さL1(mm)に対する、タイヤ半径方向外側のベルト層のタイヤ幅方向長さL2(mm)の比(L2/L1)を求めた。また、トレッド幅Tw(mm)に対する、ベルト層のタイヤ幅方向最大長さLm(mm)の比(Lm/Tw)を求めた。結果を表2~5に示す。
【0233】
5.性能評価試験(高速旋回時の操縦安定性の評価)
各試験用タイヤをリム(MT6.00×17)に装着し、内圧200kPaの条件で大型自動二輪車(1000cc)の後輪に装着して、ドライアスファルトのタイヤテストコースを実車走行した。そして、時速120km/hで走行中にレーンチェンジしたときのハンドリング性の変化を、1(大幅な変化を感じる)から5(殆ど変化を感じない)までの5段階で、ドライバーが官能にて評価した。そして、20人のドライバーによる評価の合計点を算出した。
【0234】
次いで、実施例1における結果を100として、下式に基づいて指数化し、高速旋回時の操縦安定性の評価とした。数値が大きいほど、高速旋回時の操縦安定性が優れていることを示す。
操縦安定性=[(試験用タイヤの結果)/(実施例1の結果)]×100
【0235】
【0236】
【0237】
【0238】
【0239】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【0240】
本発明(1)は、
トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至るカーカスと、前記カーカスのタイヤ半径方向外側かつ前記トレッド部の内側に配置されるベルト層とを備えた自動二輪車用タイヤであって、
前記ベルト層が、スチールコードを有するスチールベルト層であり、
前記スチールコードが、m本のスチールフィラメントが撚り合わされたストランドのn本を、前記スチールフィラメントと同じ方向に撚り合わせたm×n構成のスチールコードで、前記mが1本以上、3本以下、前記nが2本以上、6本以下であり、
前記スチールフィラメントの直径が、0.15mm以上、0.25mm以下であり、
前記トレッド部を構成するゴム組成物が、温度:70℃、初期歪:5%、動歪:±1%、周波数:10Hz、変形モード:伸張の条件下で測定した複素弾性率E*(MPa)が、5.0MPa以上のゴム組成物であり、
前記スチールコードの横断面における前記スチールフィラメントの総断面積S(mm2)と、前記複素弾性率E*(MPa)との積(S×E*)が、2.00以下であることを特徴とする自動二輪車用タイヤである。
【0241】
本発明(2)は、
前記複素弾性率E*(MPa)が、6.5MPa以上であることを特徴とする本発明(1)に記載の自動二輪車用タイヤである。
【0242】
本発明(3)は、
前記(S×E*)が、1.70未満であることを特徴とする本発明(1)または(2)に記載の自動二輪車用タイヤである。
【0243】
本発明(4)は、
前記スチールコードの圧縮剛性値が、65N/mm以下であることを特徴とし、本発明(1)から(3)のいずれかとの任意の組み合わせの自動二輪車用タイヤである。
【0244】
本発明(5)は、
前記スチールコードが、座屈点が存在しないスチールコードであることを特徴とし、本発明(1)から(4)のいずれかとの任意の組み合わせの自動二輪車用タイヤである。
【0245】
本発明(6)は、
前記スチールコードの曲げ剛性値が、2.5×10-3N・m以下であることを特徴とし、本発明(1)から(5)のいずれかとの任意の組み合わせの自動二輪車用タイヤである。
【0246】
本発明(7)は、
前記スチールコードの曲げ剛性値が、2.0×10-3N・m以下であることを特徴とする本発明(6)に記載の自動二輪車用タイヤである。
【0247】
本発明(8)は、
前記スチールコードの曲げ剛性値が、1.5×10-3N・m以下であることを特徴とする本発明(7)に記載の自動二輪車用タイヤである。
【0248】
本発明(9)は、
前記スチールコードの曲げ剛性値FRと複素弾性率E*(MPa)との積(FR×E*)が、25×10-3(MPa・N・m)以下であることを特徴とし、本発明(1)から(8)のいずれかとの任意の組み合わせの自動二輪車用タイヤである。
【0249】
本発明(10)は、
前記(FR×E*)が、15×10-3(MPa・N・m)以下であることを特徴とする本発明(9)に記載の自動二輪車用タイヤである。
【0250】
本発明(11)は、
前記(FR×E*)が、10×10-3(MPa・N・m)以下であることを特徴とする本発明(10)に記載の自動二輪車用タイヤである。
【0251】
本発明(12)は、
前記ベルト層の被覆ゴムに、有機酸コバルトが配合されていることを特徴とし、本発明(1)から(11)のいずれかとの任意の組み合わせの自動二輪車用タイヤである。
【0252】
本発明(13)は、
前記有機酸コバルトの含有量が、ゴム成分100重量部に対して、コバルトに換算して、0.05質量部以上であることを特徴とする本発明(12)に記載の自動二輪車用タイヤである。
【0253】
本発明(14)は、
前記ベルト層が、多層化されており、
前記多層化されたベルト層のタイヤの半径方向に隣り合う1組のベルト層の少なくとも1組において、スチールコード間の平均距離D(mm)が、0.6mm以下であることを特徴とする本発明(1)から(13)のいずれかとの任意の組み合わせの自動二輪車用タイヤである。
【0254】
本発明(15)は、
前記ベルト層が、多層化されており、
前記多層化されたベルト層のタイヤの半径方向に隣り合う1組のベルト層の少なくとも1組において、トレッド部における互いのベルト層内のスチールコードがタイヤ周方向上でなす角度が、65°以下であることを特徴とし、本発明(1)から(13)のいずれかとの任意の組み合わせの自動二輪車用タイヤである。
【0255】
本発明(16)は、
前記互いのベルト層内のスチールコードがタイヤ周方向上でなす角度が、60°以下であることを特徴とする本発明(15)に記載の自動二輪車用タイヤである。
【0256】
本発明(17)は、
前記ベルト層が多層化されており、
互いに隣接するベルト層において、タイヤ半径方向内側のベルト層のタイヤ幅方向長さL1(mm)に対する、タイヤ半径方向外側のベルト層のタイヤ幅方向長さL2(mm)の比(L2/L1)が、1.00超であることを特徴とする本発明(1)から(16)のいずれかとの任意の組み合わせの自動二輪車用タイヤである。
【0257】
本発明(18)は、
前記トレッド部のゴム組成物が、ゴム成分中にスチレンを25質量%以下含有し、Tgが-18℃以上であるゴム組成物であることを特徴とする本発明(1)から(17)のいずれかとの任意の組み合わせの自動二輪車用タイヤである。
【0258】
本発明(19)は、
前記トレッド部が、タイヤ幅方向に、内側領域と前記内側領域を挟んだ外側領域とに分割されていることを特徴とし、本発明(1)から(18)のいずれかとの任意の組み合わせの自動二輪車用タイヤである。
【0259】
本発明(20)は、
前記トレッド部の外側領域を構成するゴム組成物が、ゴム成分中にスチレンを25質量%以下含有し、Tgが-18℃以上であるゴム組成物であることを特徴とする本発明(19)に記載の自動二輪車用タイヤである。
【0260】
本発明(21)は、
トレッド幅Tw(mm)に対する、ベルト層のタイヤ幅方向最大長さLm(mm)の比(Lm/Tw)が、1.00以上であることを特徴とする本発明(1)から(20)のいずれかとの任意の組み合わせの自動二輪車用タイヤである。