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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145326
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】焼結鉱の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/20 20060101AFI20231003BHJP
   F27B 21/14 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C22B1/20 T
F27B21/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185595
(22)【出願日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2022051399
(32)【優先日】2022-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀田 謙弥
(72)【発明者】
【氏名】樋口 隆英
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 一洋
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001BA02
4K001CA33
4K001CA39
4K001CA40
4K001GA10
(57)【要約】
【課題】事前に焼結工場における、原料配合条件や操業条件から、焼成後の焼結鉱の品質を推定することができ、より高品質の焼結鉱を得ることができる焼結鉱の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】鉄鉱石、副原料、雑原料および固体燃料を含有する粉状物質を配合してなる焼結原料に水分を添加して混合造粒し、得られた造粒物である擬似粒子を焼結機で焼結して焼結鉱を製造する方法において、焼結機の焼結層内の温度分布に基づいて熱指標を算出する熱指標算出工程と、算出された前記熱指標が目標値を満足するように焼結機の操業条件を設定する操業条件設定工程と、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鉱石、副原料、雑原料および固体燃料を含有する粉状物質を配合してなる焼結原料に水分を添加して混合造粒し、得られた造粒物である擬似粒子を焼結機で焼結して焼結鉱を製造する方法において、
前記焼結機の焼結層内の温度分布に基づいて熱指標を算出する熱指標算出工程と、
算出された前記熱指標が目標値を満足するように前記焼結機の操業条件を設定する操業条件設定工程と、
を備える、焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
前記温度分布は、前記焼結原料の配合条件、及び予め設定された前記焼結機の操業条件を入力した伝熱モデルから算出される、請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項3】
前記熱指標は、前記温度分布における推定対象である焼結鉱組織の生成温度域の保持時間に基づいて算出される、請求項1又は2に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項4】
前記推定対象である焼結鉱組織はカルシウムフェライトであり、
前記熱指標は、前記カルシウムフェライトの生成温度域である1200℃以上1350℃未満の保持時間に基づいて算出される、請求項3に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項5】
前記熱指標として、以下の(1)式で定義される熱指標ΔTを用いる、請求項4に記載の焼結鉱の製造方法:
ΔT=aΔt-bΔt・・・(1)
ここで、Δtは1200℃以上の保持時間(min)あり、
Δtは1350℃以上の保持時間(min)あり、
ΔTは1200℃以上1350℃未満の保持時間(min)あり、
a、bは係数である。
【請求項6】
前記操業条件として、凝結材の配合比と前記焼結機に吹き込まれる酸素・都市ガスの吹き込み濃度・時間との少なくとも一方を制御する、請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項7】
鉄鉱石、副原料、雑原料および固体燃料を含有する粉状物質を配合してなる焼結原料に水分を添加して混合造粒して造粒物を得るための混合造粒機と、得られた造粒物である擬似粒子を焼結して焼結鉱を製造する焼結機と、前記混合造粒機と前記焼結機とを制御する制御装置とを少なくとも備える焼結鉱の製造装置において、
前記制御装置は、前記焼結機の焼結層内の温度分布に基づいて熱指標を算出し、算出された前記熱指標が目標値を満足するように前記焼結機の操業条件を設定する、焼結鉱の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結層内の温度分布を焼結機の操業に反映させることにより、より高品質の焼結鉱を得ることができる焼結鉱の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉主原料である焼結鉱の製造は、ヤードで混合された鉄鉱石粉、石灰石、粉コークスおよび返鉱が、ドラムミキサーで造粒され、焼結機に装入される。焼結機では、焼結ベッドの上層が点火炉で着火された後、粉コークスの燃焼熱により焼結反応が進行する。焼結生産性は、焼成速度と成品歩留によって決まり、焼成速度は焼結ベッド内のガスの通気性、成品歩留はベッド全体の焼成状態および個々の焼結鉱強度に大きく影響される。
【0003】
ところで、製銑工程においては、高炉での安定的な溶銑製造と、還元材である塊コークスの使用量低減による排出CO削減が重要な課題である。塊コークス比の低減には高い被還元性を有する焼結鉱が必要である一方で、粒径5mm以下の焼結鉱は高炉内の通気性を悪化させ生産性を低下させるため、粉化しにくい高強度焼結鉱の製造の両立が求められている。
【0004】
焼結鉱品質の測定に関して、強度の測定はJIS M 8712で定められたタンブラー強度試験や、JIS M 8711で定められたシャッター強度試験が用いられている。また、焼結鉱の被還元性はJIS M 8713で定められたRI試験によって評価されている。
【0005】
製造された焼結鉱については、日々の操業の中で一定時間ごとに抜き出し装置にてサンプリングし、オフライン分析装置で品質を把握し、操業担当者はその結果を見ながら、品質を満足させるために操業条件の変更、調整等の必要なアクションを行うのが普通である。焼結鉱強度の測定値は、焼結鉱中のFeO分析値(焼結鉱中のFeの含有量をFeO換算したもの)と比較することもある。なお、焼結鉱のマグネタイト組織は、燃焼溶融帯における還元雰囲気で生成して、焼結機の急速冷却条件の下で再酸化せずに残存した組織であり、入熱量が多い時、焼結鉱中のFeO濃度も高くなる傾向があるため、入熱量の指標として用いられる。
【0006】
こうした中で、焼結鉱品質を向上させるためには、品質と密接な関係のある焼結鉱組織に基づいた入熱の制御が求められる。焼結鉱の強度に関しては、非特許文献1において、焼結鉱歩留の推定式が知られている。これによると、タブレット試験により得られた、焼結鉱の基質強度や空隙率を用いて、歩留を推定することが可能である。また、非特許文献2では、基質毎の被還元性や強度の測定例が報告されている。これらによると焼結鉱の主要鉱物組織であるヘマタイトやカルシウムフェライトは、スラグ組織に比べて高強度かつ高被還元性である。また非特許文献3では、カルシウムフェライトの幅が10μm以下の針状カルシウムフェライトと呼ばれる組織が被還元性を向上させると報告されている。
【0007】
しかしながら、このような焼結鉱品質と組織の関係に関する報告は、いずれも焼結鉱製造後の評価であり、サンプリングや測定に時間を要し、迅速なアクションを取れない。そのため実機操業に反映できないといった課題があった。
【0008】
一方で、事前に焼結鉱の品質を把握し、迅速なアクションを提案する方法として、特許文献1には、予め焼成前の原料を樹脂で固めて断面を観察し、固体部と気孔部の面積比から強度を推定する方法が開示されている。
【0009】
また、焼結鉱の品質は焼成温度と密接な関係にあることが知られている。特許文献2では、吸引ガス中の酸素濃度を上昇させた焼結鍋試験において、熱電対による測温を行っており、本文献によると層内の1100℃以上の保持時間が増加し、強度が上昇している。
【0010】
一方で、非特許文献3には、層内の温度履歴を熱電対ではなく伝熱モデルで事前に計算し、常に同じ温度履歴すなわち品質となるように操業アクションする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5-295455号公報
【特許文献2】特開平11-131152号公報
【特許文献3】特開昭58-144433号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】大山ら:鉄と鋼,82(1996), p719.
【非特許文献2】D.A.Kissin:STAL’, 5(1960), p318.
【非特許文献3】佐々木ら:鉄と鋼, 68(1982), p563.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述した特許文献1に記載の方法だと、原料ごとに焼結体の強度を予測することで、事前に配合条件を決定する事が可能である。しかしながら、焼成後の焼結鉱組織の影響が組み込まれていない事に加え、パレットに装入する造粒粒子の凝結材比や水分、粒度分布、充填層の高さや空隙率の情報、焼成中の流速、都市ガス・酸素吹き込み濃度や時間などの操業因子は含まれていない。そのため、目まぐるしく操業条件が変わっていく実操業には対応できないといった課題があった。
【0014】
特許文献2による温度管理手法を実機焼結機に導入するためには、熱電対が必要となり、大規模な設備投資・消耗品である熱電対のメンテナンスおよび、装入物乱れや測温位置のバラつき等、課題が多い。特許文献3に基づくと原理原則に基づいた高精度な温度管理によって品質のバラツキを改善できるが、どのような温度履歴が最適であるかが不明のため、品質を推定・向上させることができない。
【0015】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、事前に焼結工場における、原料配合条件や操業条件から、焼成後の焼結鉱の品質を推定することができ、より高品質の焼結鉱を得ることができる焼結鉱の製造方法および製造装置を提供することにある。先行文献と本発明との違いを、図1に示す。
【課題を解決するための手段】
【0016】
事前に焼結工場における、原料配合条件や操業条件から、焼成後の焼結鉱の品質を推定するために、発明者らは、品質の支配因子である焼結鉱組織の生成量を焼結層内の温度管理によって制御することで品質を最大化させる手法を想起した。
【0017】
本発明は、鉄鉱石、副原料、雑原料および固体燃料を含有する粉状物質を配合してなる焼結原料に水分を添加して混合造粒し、得られた造粒物である擬似粒子を焼結機で焼結して焼結鉱を製造する方法において、前記焼結機の焼結層内の温度分布に基づいて熱指標を算出する熱指標算出工程と、算出された前記熱指標が目標値を満足するように前記焼結機の操業条件を設定する操業条件設定工程と、を備える、焼結鉱の製造方法である。
【0018】
なお、前記のように構成される本発明に係る焼結鉱の製造方法においては、
(1)前記温度分布は、前記焼結原料の配合条件、及び予め設定された前記焼結機の操業条件を入力した伝熱モデルから算出されること、
(2)前記熱指標は、前記温度分布における推定対象である焼結鉱組織の生成温度域の保持時間に基づいて算出されること、
(3)前記推定対象である焼結鉱組織はカルシウムフェライトであり、前記熱指標は、前記カルシウムフェライトの生成温度域である1200℃以上1350℃未満の保持時間に基づいて算出されること、
(4)前記熱指標として、以下の(1)式で定義される熱指標ΔTを用いること、
ΔT=aΔt-bΔt・・・(1)
ここで、Δtは1200℃以上の保持時間(min)あり、
Δtは1350℃以上の保持時間(min)あり、
ΔTは1200℃以上1350℃未満の保持時間(min)あり、
a、bは係数である。
(5)前記操業条件として、凝結材の配合比と前記焼結機に吹き込まれる酸素・都市ガスの吹き込み濃度・時間との少なくとも一方を制御すること、
がより好ましい解決手段となるものと考えられる。
【0019】
また、本発明は、鉄鉱石、副原料、雑原料および固体燃料を含有する粉状物質を配合してなる焼結原料に水分を添加して混合造粒して造粒物を得るための混合造粒機と、得られた造粒物である擬似粒子を焼結して焼結鉱を製造する焼結機と、前記混合造粒機と前記焼結機とを制御する制御装置とを少なくとも備える焼結鉱の製造装置において、前記制御装置は、前記焼結機の焼結層内の温度分布に基づいて熱指標を算出し、算出された前記熱指標が目標値を満足するように前記焼結機の操業条件を設定する、焼結鉱の製造装置である。
【発明の効果】
【0020】
従来法では焼結鉱の強度や被還元性のバラつきや低下に対して、原因を迅速かつ十分に見極める事ができずに、対症療法的に強度・品質を向上させるアクションをとらざるを得なかった。そのため、焼結鉱強度のオーバースペックにより凝結材のコスト増加を招いたり、強度変動の増加を招いたりしていた。しかし、本発明により、焼結鉱組織の観点から、温度管理によって品質に寄与する組織生成を制御することで、強度や被還元性を最適化させるアクションを事前に提案することが可能である。その結果、強度や被還元性のバラつきを低下させ、製造コストの低減や生産性向上が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】先行文献と本発明との違いを説明するための図である。
図2】本発明の焼結鉱の製造方法における熱指標の計算例を説明するための、伝熱モデルで計算した焼結層内の温度分布の一例を示すグラフである。
図3】本発明の焼結鉱の製造方法における熱指標と強度との関係を示すグラフである。
図4】本発明の焼結鉱の製造装置の一例の構成を示す図である。
図5】従来例、比較例および実施例について回転強度指数を比較して示すグラフである。
図6】従来例、比較例および実施例について被還元性を比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0023】
<本発明の焼結鉱の製造方法について>
発明者らが想起した、品質の支配因子である焼結鉱組織の生成量を焼結層内の温度管理によって制御することで品質を最大化させる手法について、以下に説明する。
【0024】
焼結鉱組織の生成に関しては、種々の報告がある(例えば、鉄と鋼,50(1964),1563.および鉄と鋼,73(1987),804.)。焼結鉱組織は、ヘマタイト、マグネタイト、多元系カルシウムフェライト(以降、CF:Calcium Ferriteとも記す)、非晶質スラグの組織および気孔から構成される。高強度・高被還元性であるカルシウムフェライトは、ヘマタイトとCaOの固相反応により生成したCaO・Feが1200℃以上で溶融し、周囲のSiOやAlなどを固溶することで生成する。1350℃を超えるとCFはヘマタイトに分解し、残りの成分が冷却中にスラグとして晶出する。また、気孔は鉄鉱石が元々保有するものに加え、昇温過程で水分および結合水の脱水と粉コークスおよび石灰石中のCOの気化により生成され、融液が生成する高温下では粒子間空隙を融液が埋め、気孔が低下する。したがって、焼結層内の温度分布(ヒートパターン)が、焼結鉱の鉱物組織や気孔すなわち品質に多大な影響を及ぼす。
【0025】
学術文献:鉄と鋼,56(1970),371.、鉄と鋼, 56(1970),661. 、鉄と鋼, 58 (1972),1567.、鉄と鋼, 60(1974),465.および鉄と鋼, 62(1976),1567. によると、焼結プロセスにおいて伝熱モデルによる焼結層内の温度分布(ヒートパターン)の評価については、既に多くの試みがなされている。これらの学術文献に開示された方法によれば、凝結材比、層厚、添加水分等の各種操業因子を入力することで温度分布の推定が可能である。しかし、推定した焼結層内の温度分布から焼結鉱の品質を推定した例は無い。
【0026】
そこで、発明者らは、原料配合条件や操業条件を伝熱モデル(ISIJ Int., 51(2011), 913.)に入力し、得られた温度分布の計算値から焼結鉱の品質を推定できるモデルを構築した。本モデルを用いることで、各工場で定められている目標品質を満足させる組織生成量が確保できる操業条件を、事前に提案できることを見出した。
【0027】
すなわち、本発明の焼結鉱の製造方法によれば、鉄鉱石、副原料、雑原料および固体燃料を含有する粉状物質を配合してなる焼結原料に水分を添加して混合造粒し、得られた造粒物である擬似粒子を焼結機で焼結して焼結鉱を製造する方法において、焼結機の焼結層内の温度分布に基づいて熱指標を算出する熱指標算出工程と、算出された熱指標が目標値を満足するように焼結機の操業条件を設定する操業条件設定工程と、を備える。
【0028】
以下、本発明の焼結鉱の製造方法における、伝熱モデルに基づき計算して求める熱指標の説明および求めた熱指標に基づく操業条件の設定方法について、具体的に説明する。
【0029】
図2は、本発明の焼結鉱の製造方法における熱指標の計算例を説明するための、伝熱モデルで計算した焼結層内の温度分布の一例を示すグラフである。ここで焼結層とは、焼結原料に水分を添加して混合造粒した造粒物である疑似粒子を、例えばドワイトロイド式焼結機のパレット上に所定の厚さに充填した層のことをいう。また、焼結層内の温度分布は、焼結層の高さ方向の中央部分において、焼結層の表層への点火後に焼結層がパレット上で搬送されていくときの温度の焼結時間に対する変化を、伝熱モデルを使って計算して求めている。
【0030】
図2に示すような伝熱モデルを使って計算して得た焼結層内の温度分布に対し、ここでは推定対象である焼結鉱組織をカルシウムフェライトとした。そして、発明者らは高強度・高被還元性組織であるカルシウムフェライトの生成温度域1200℃~1350℃の高温保持時間として、新たな熱指標ΔTを以下の(1)式のように定義した。
ΔT=aΔt-bΔt・・・(1)
ここで、Δtは1200℃以上の保持時間(min)あり、
Δtは1350℃以上の保持時間(min)あり、
ΔTは1200℃以上1350℃未満の保持時間(min)あり、
a、bは係数である。
【0031】
このとき(1)式で定義する熱指標ΔTは、推定したい鉱物組織に基づいて温度領域を変更する必要がある。例えば、気孔の推定は1200℃以上の保持時間、マグネタイトの生成はヘマタイトからの熱解離温度である1350℃以上の保持時間を使用する必要がある。
【0032】
また、都市ガス吹込みによる影響を厳密に評価するには、上記(1)式で定義した熱指標ΔTに替えて、例えば以下の(2)式のように積分値からなる熱指標ΔQを使用する必要がある。
【数1】
ここで、(2)式で定義する熱指標ΔQは1200℃~1350℃の積分値(℃・min)だが、計算時は左辺及び右辺にそれぞれ係数a、bなどをかけて補正しても良い。また、昇温側(温度が極大値を示すまで)に要する保持時間、冷却時間の影響を組み込む等、目的とする品質の特徴量を捉えている指標を用いても良い。
【0033】
図3は、本発明の焼結鉱の製造方法における熱指標と強度との関係を示すグラフである。ここでは、最も単純かつ迅速に適用できる(1)式を用いて、係数はa=1、b=1.5として熱指標ΔTを計算し、実機への適用性を検討した。強度としては、JIS M 8712に基づき実測した回転強度指数TIを用いた。この図3より、高強度であるカルシウムフェライトの生成を促進するΔTを用いて焼結鉱強度を推定できるモデルを構築できることがわかる。すなわち、例えば回転強度指数TIが66%以上の焼結鉱が高品質であるとみなし、図2に基づき、品質を満足できる熱指標ΔT(ここでは3.2min近傍)を予め定義し、原料配合条件に応じて、熱指標ΔTを満足する温度分布を形成するように凝結材比、都市ガス・酸素吹込み条件(濃度および時間)などの焼結機の操業条件を制御することで、焼結鉱品質の向上およびバラつきの低減が可能となる。
【0034】
なお、本発明において、操業アクション(制御する操業条件)には、上述した凝結材比、酸素・都市ガス吹き込み条件(濃度および時間)以外にも、例えば焼結層の層厚、カーボンの偏析、点火炉の空気比やガス量、風量等、焼結層内の温度に関わる様々な操業条件が含まれる。
【0035】
<本発明の焼結鉱の製造装置について>
図4は、本発明の焼結鉱の製造装置の一例の構成を示す図である。図4に示す例において、焼結鉱の製造装置は、鉄鉱石、副原料、雑原料および固体燃料を含有する粉状物質を配合してなる焼結原料に水分を添加して混合造粒して造粒物を得るための混合造粒機1と、得られた造粒物である擬似粒子を焼結して焼結鉱を製造する焼結機2と、混合造粒機1と焼結機2とを制御する制御装置3とを少なくとも備えている。そして、制御装置3において、焼結機2の焼結層内の温度分布に基づいて熱指標を算出し、算出された熱指標が目標値を満足するように焼結機2の操業条件を設定している。なお、混合造粒機1としてはドラムミキサーなどを使用することができ、焼結機2としてはドワイトロイド式の焼結機などを使用することができる。
【実施例0036】
以下に、発明の実施例について詳細に説明する。ここでは、実機焼結機における焼結鉱強度および被還元性に対し、従来例と比較例および発明例とを比較して示す。
【0037】
従来例では、1時間毎にサンプラー(抜き出し装置)で採取される焼結鉱の回転強度指数TI値を元にオペレーターが熱の高低を判断し、粉コークス配合率を調整するアクションを行った。目標とする回転強度指数TI(以後、目標値と称す)に対して、採取された焼結鉱の回転強度指数TI(以後、測定値と称す)の値が低い場合には、入熱量制御として、粉コークス配合率を増加させ、採取焼結鉱の強度が目標よりも高い場合には、粉コークス配合率を低下させた。また、被還元性についても、週に3回、同時刻のタイミングでサンプリングを行いJIS M 8713で定められたRI試験を実施し目標値に到達しているかを調査したが、入熱量の指標は強度を優先しアクションを行った。比較例では、特許文献2の手法を参照に、伝熱モデルに基づき常に同じ温度履歴となるように粉コークス配合率を調整するアクションを行った。
【0038】
発明例では、事前に、伝熱モデルによって熱指標ΔTを求め、求めたΔTから目標値に制御するため、凝結材比(粉コークス配合率)のみを制御したもの(実施例1)、また目標値以上に設定した場合についても検討するため、凝結材比(粉コークス配合率)および都市ガス(LNG)・酸素(O)吹き込み量の両方を制御したもの(実施例2)の2水準について調査した。結果を以下の表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1において、従来例、比較例では熱指標ΔTが2.30であったが、本発明の焼結鉱の製造方法に従ったアクションによって、発明例(実施例1)では熱指標ΔTを3.20に制御するとともに、発明例(実施例2)では熱指標ΔTを3.30になるように制御した。そして、得られた焼結鉱について、JIS M 8712で定められたタンブラー強度試験による回転強度指数TIを求めるとともに、JIS M 8713で定められたRI試験による被還元性を求めた。図5に従来例、比較例および実施例1、2について回転強度指数TIを比較して示し、図6に従来例、比較例および実施例1、2について被還元性を比較して示す。
【0041】
図5の結果から、回転強度指数TIの平均値に関しては、従来例では65.6%であるのに対し、比較例では65.5%、発明例(実施例1)では66.4%、発明例(実施例2)では67.5%となることがわかった。また、回転強度指数TIの標準偏差σに関しては、従来例では1.5%であるのに対し、比較例では1.3%、発明例(実施例1)では1.1%、発明例(実施例2)では0.89%となることがわかった。さらに、図6の結果から、被還元性の平均値に関しては、従来例では66.8%であるのに対し、比較例では66.9%、発明例(実施例1)では69.4%、発明例(実施例2)では72.6%となることがわかった。さらにまた、被還元性の標準偏差に関しては、従来例では2.33%であるのに対し、比較例では2.0%、発明例(実施例1)では1.95%、発明例(実施例2)では1.10%となることがわかった。
【0042】
以上のことから、従来例と発明例(実施例1、2)とを比較すると、発明例では熱指標ΔTに基づく制御をする事で、回転強度指数TIおよび被還元性が向上し、両者ともバラツキが低下することがわかった。さらに、発明例の操業アクション(制御する操業条件)に関しては、実施例1の凝結材のみの調整よりも、実施例2の凝結材と都市ガスおよび酸素の吹き込み量の両方を調整する方が、回転強度指数TIおよび被還元性のバラツキを低下させることができることがわかった。これは、凝結材を調整することで焼結層内の温度が上がったとともに、酸素・都市ガスの吹き込み量(濃度・時間)を調整することで高温保持時間が伸びたことによるものであると推測される。
【0043】
また、今回は強度および被還元性に対して操業アクションを制御したが、他の品質(粒度、還元粉化性など)に対しても、対象とする品質を支配する組織生成に着目した熱指標を構築し、同様の手法でアプローチしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の焼結鉱の製造方法および製造装置によれば、強度や被還元性を最適化させるアクションを事前に提案することが可能であり、製造した焼結鉱の強度や被還元性のバラつきを低下させ、焼結鉱製造コストの低減や生産性向上が可能となるため、産業上有用である。
【符号の説明】
【0045】
1 混合造粒機
2 焼結機
3 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6