(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145327
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】堤防の補強構造および堤防の補強構造の施工方法
(51)【国際特許分類】
E02B 3/10 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
E02B3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186577
(22)【出願日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2022051856
(32)【優先日】2022-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】持田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】妙中 真治
(72)【発明者】
【氏名】森安 俊介
(72)【発明者】
【氏名】亀山 彰久
(72)【発明者】
【氏名】西山 輝樹
(72)【発明者】
【氏名】中山 裕章
【テーマコード(参考)】
2D118
【Fターム(参考)】
2D118AA02
2D118AA05
2D118BA03
2D118BA05
2D118CA07
2D118FA01
2D118FB30
2D118GA09
2D118GA12
2D118GA31
(57)【要約】
【課題】堤体に打設される壁体を用いた堤防の補強構造において、越水時における堤体地盤の洗掘に対して効果的に壁体の地盤抵抗を保持する。
【解決手段】堤体の水域とは反対側の部分に打設される第1の壁体と、堤体の前記水域側の部分に打設される第2の壁体と、を備え、堤体の長さ方向の少なくとも一部の区間において、上記第2の壁体の上端の高さよりも低い位置で上記第1の壁体に通水性を有する領域が形成される、堤防の補強構造が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
堤体の水域とは反対側の部分に打設される第1の壁体と、
前記堤体の水域側の部分に打設される第2の壁体と
を備え、
前記堤体の長さ方向の少なくとも一部の区間において、前記第2の壁体の上端の高さよりも低い位置で前記第1の壁体に通水性を有する領域が形成される、
堤防の補強構造。
【請求項2】
前記通水性を有する領域は、前記第1の壁体の上端が前記第2の壁体の上端よりも低いことによって形成される、請求項1に記載の堤防の補強構造。
【請求項3】
前記通水性を有する領域は、前記第1の壁体の上端側の領域に形成される通水孔によって形成される、請求項1に記載の堤防の補強構造。
【請求項4】
前記第1の壁体の根入れ長さが、前記第2の壁体の根入れ長さよりも長い、請求項1に記載の堤防の補強構造。
【請求項5】
前記第1の壁体と前記第2の壁体との間で前記堤体を構成する盛土を覆う補強材をさらに備える、請求項1に記載の堤防の補強構造。
【請求項6】
前記補強材は、前記第1の壁体と前記第2の壁体との間の少なくとも一部分で、前記通水性を有する領域の下端よりも低い位置に配置される、請求項5に記載の堤防の補強構造。
【請求項7】
前記補強材は、前記第1の壁体の上端よりも低い位置に接合される、請求項6に記載の堤防の補強構造。
【請求項8】
前記第1の壁体および前記第2の壁体を連結する連結部材をさらに備える、請求項1に記載の堤防の補強構造。
【請求項9】
前記第1の壁体は、鋼矢板壁である、請求項1に記載の堤防の補強構造。
【請求項10】
前記通水性を有する領域は、前記鋼矢板壁の上端が前記堤体の長さ方向に凹凸形状となるように、前記鋼矢板壁を構成する複数の鋼矢板が少なくとも2通りの上端の高さで打設されることによって形成される、請求項9に記載の堤防の補強構造。
【請求項11】
前記複数の鋼矢板は、上端が第1の高さになるように打設された第1の鋼矢板と、上端が前記第1の高さよりも低い第2の高さになるように打設された第2の鋼矢板とを含み、
前記堤体の長さ方向について、前記第2の鋼矢板の両側には前記第1の鋼矢板が打設される、請求項10に記載の堤防の補強構造。
【請求項12】
前記第1の壁体は、第1の鋼矢板壁であり、
前記第2の壁体は、上端に笠コンクリートが打設された第2の鋼矢板壁であり、
前記通水性を有する領域は、前記第1の鋼矢板壁の上端に笠コンクリートを打設しないか、または前記第1の鋼矢板壁の上端に前記第2の鋼矢板壁の笠コンクリートよりも高さが小さい笠コンクリートを打設することによって形成される、請求項1に記載の堤防の補強構造。
【請求項13】
請求項9に記載の堤防の補強構造の施工方法であって、
前記複数の鋼矢板は、第1の鋼矢板と第2の鋼矢板とを含み、
前記第2の鋼矢板の上端に縦継部材を取り付け、前記縦継部材の継手を先行して打設された前記第1の鋼矢板、および後続して打設される前記第1の鋼矢板にそれぞれ嵌合させて前記第2の鋼矢板および前記縦継部材を打設し、打設後に前記第2の鋼矢板から前記縦継部材を取り外す、堤防の補強構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堤防の補強構造および堤防の補強構造の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
河川などの堤防では、地震による堤体の亀裂や沈下、および増水時の越水に伴う堤体の浸食などによる破堤などが懸念される。この対策として、例えば特許文献1には、堤体の幅方向両側の法肩部に堤体の連続方向に延びる鋼矢板壁を打設し、それぞれの鋼矢板壁の頭部をタイロッドで連結する堤防の補強構造が記載されている。このような二重鋼矢板壁による補強構造は、地震時には2列の鋼矢板壁が土の変形および移動を抑制するため、液状化対策として有効であることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような二重鋼矢板壁による堤防の補強構造については、地震時の液状化対策としては研究が進んでいるものの、増水によって越流や洗掘が発生した場合における堤防の強度を向上させるための合理的な構造については未だ十分に提案されているとはいえない。例えば、洗掘が発生した場合でも壁体の地盤抵抗を保持するために壁体をより深く打設したり、洗掘自体を抑制するために堤体の水域とは反対側に地盤改良を施すことが考えられるが、経済性の観点から必ずしも好ましいとはいえない。
【0005】
そこで、本発明は、堤体に打設される壁体を用いた堤防の補強構造において、越水時における堤体地盤の洗掘に対して効果的に壁体の地盤抵抗を保持することが可能な堤防の補強構造および堤防の補強構造の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]堤体の水域とは反対側の部分に打設される第1の壁体と、上記堤体の水域側の部分に打設される第2の壁体とを備え、上記堤体の長さ方向の少なくとも一部の区間において、上記第2の壁体の上端の高さよりも低い位置で上記第1の壁体に通水性を有する領域が形成される、堤防の補強構造。
[2]上記通水性を有する領域は、上記第1の壁体の上端が上記第2の壁体の上端よりも低いことによって形成される、[1]に記載の堤防の補強構造。
[3]上記通水性を有する領域は、上記第1の壁体の上端側の領域に形成される通水孔によって形成される、[1]に記載の堤防の補強構造。
[4]上記第1の壁体の根入れ長さが、上記第2の壁体の根入れ長さよりも長い、[1]から[3]のいずれか1項に記載の堤防の補強構造。
[5]上記第1の壁体と上記第2の壁体との間で上記堤体を構成する盛土を覆う補強材をさらに備える、[1]から[4]のいずれか1項に記載の堤防の補強構造。
[6]上記補強材は、上記第1の壁体と上記第2の壁体との間の少なくとも一部分で、上記通水性を有する領域の下端よりも低い位置に配置される、[5]に記載の堤防の補強構造。
[7]上記補強材は、上記第1の壁体の上端よりも低い位置に接合される、[6]に記載の堤防の補強構造。
[8]上記第1の壁体および上記第2の壁体を連結する連結部材をさらに備える、[1]から[7]のいずれか1項に記載の堤防の補強構造。
[9]上記第1の壁体は、鋼矢板壁である、[1]から[8]のいずれか1項に記載の堤防の補強構造。
[10]上記通水性を有する領域は、上記鋼矢板壁の上端が上記堤体の長さ方向に凹凸形状となるように、上記鋼矢板壁を構成する複数の鋼矢板が少なくとも2通りの上端の高さで打設されることによって形成される、[9]に記載の堤防の補強構造。
[11]上記複数の鋼矢板は、上端が第1の高さになるように打設された第1の鋼矢板と、上端が上記第1の高さよりも低い第2の高さになるように打設された第2の鋼矢板とを含み、上記堤体の長さ方向について、上記第2の鋼矢板の両側には上記第1の鋼矢板が打設される、[10]に記載の堤防の補強構造。
[12]上記第1の壁体は、第1の鋼矢板壁であり、上記第2の壁体は、上端に笠コンクリートが打設された第2の鋼矢板壁であり、上記通水性を有する領域は、上記第1の鋼矢板壁の上端に笠コンクリートを打設しないか、または上記第1の鋼矢板壁の上端に上記第2の鋼矢板壁の笠コンクリートよりも高さが小さい笠コンクリートを打設することによって形成される、[1]に記載の堤防の補強構造。
[13][9]から[11]のいずれか1項に記載の堤防の補強構造の施工方法であって、上記複数の鋼矢板は、第1の鋼矢板と第2の鋼矢板とを含み、上記第2の鋼矢板の上端に縦継部材を取り付け、上記縦継部材の継手を先行して打設された上記第1の鋼矢板、および後続して打設される上記第1の鋼矢板にそれぞれ嵌合させて上記第2の鋼矢板および上記縦継部材を打設し、打設後に上記第2の鋼矢板から上記縦継部材を取り外す、堤防の補強構造の施工方法。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によれば、堤体の水域とは反対側の部分に打設される第1の壁体に、水域側の部分に打設される第2の壁体の上端よりも低い位置で通水性を有する領域が形成される。この領域から流れ落ちる越流水は、落下高さが低減されるため第1の壁体の水域とは反対側の地盤を洗掘する力が弱くなる。従って、上記の構成によれば、越水時における堤体地盤の洗掘に対して効果的に壁体の地盤抵抗を保持することができる。壁体から堤体の天端部分に越流水が一旦流れ落ちるときに発生する跳水により、越流水が保有するエネルギーが低下し、さらに洗掘深さが低下する効果もある。壁体の地盤抵抗を保持することによって、堤防全体の決壊を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る堤防の補強構造を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示された堤防の補強構造における越水時の状況を示す模式的な断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る構造を採用していない堤防の補強構造における越水時の状況を示す模式的な断面図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る堤防の補強構造の第1の変形例を示す断面図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る堤防の補強構造の第2の変形例を示す断面図である。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係る堤防の補強構造の第3の変形例を示す断面図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態に係る堤防の補強構造の第4の変形例を示す断面図である。
【
図8】本発明の第1の実施形態に係る堤防の補強構造の施工方法を示す図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態について説明するための図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態の変形例について説明するための図である。
【
図11】本発明の第2の実施形態における堤防の補強構造の施工方法を示す図である。
【
図12】本発明の第3の実施形態について説明するための図である。
【
図13】本発明の第3の実施形態の他の例を示す図である。
【
図14】本発明の第3の実施形態の他の例を示す図である。
【
図15】本発明の第4の実施形態に係る堤防の補強構造の断面図である。
【
図16】本発明の第5の実施形態に係る堤防の補強構造の断面図である。
【
図17】補強材の配置に関する変形例を示す図である。
【
図18】補強材の配置に関する変形例を示す図である。
【
図19】補強材の配置に関する変形例を示す図である。
【
図20】補強材の配置に関する変形例を示す図である。
【
図21】補強材の配置に関する変形例を示す図である。
【
図22】補強材の配置に関する変形例を示す図である。
【
図23】実施例における越流水の流速を示す図である。
【
図24】比較例における越流水の流速を示す図である。
【
図25】実施例および比較例における鋼矢板壁の突出高さの比と越流水が川裏側で地表面に着水した際の圧力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0010】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る堤防の補強構造を示す斜視図である。本実施形態において、堤防の補強構造10は、堤体1の川裏側(水域である河川2とは反対側)の部分に打設される第1の壁体である鋼矢板壁11と、堤体1の川表側(河川2側)の部分に打設され、計画高さを満たしている第2の壁体である鋼矢板壁12と、鋼矢板壁11,12とを連結する連結部材であるタイロッド13とを含む。図示された例において、鋼矢板壁11,12は、それぞれ堤体1の法面と天端面との境界である法肩部またはその近傍に打設されている。なお、本実施形態では連結部材としてタイロッド13が配置されるが、鋼矢板壁11,12の間を連結し、引張力やせん断力を伝達可能な部材であれば連結部材は特に限定されない。例えばそれぞれの鋼矢板壁に対して直角に設置される鋼材による壁体で連結部材を構成してもよい。
【0011】
本実施形態では、上記のような堤防の補強構造10において、鋼矢板壁11の上端が鋼矢板壁12の上端よりも低くなるように、それぞれの鋼矢板壁を構成する鋼矢板が打設される。つまり、それぞれの鋼矢板の長さが同じであれば、鋼矢板壁11を構成する鋼矢板は鋼矢板壁12を構成する鋼矢板よりも根入れ長さが長い。あるいは、鋼矢板壁11は、鋼矢板壁12を構成する鋼矢板よりも短い鋼矢板で構成される。以下の説明では、鋼矢板壁12の上端の高さを堤高Hとする。堤高Hは、堤体1の天端高さにほぼ等しい。一方、鋼矢板壁11の上端の高さhは、堤高Hよりも低い。なお、図示された例において、高さH1,H2は地表面G(堤体と地盤との境界部)を基準にしている。
【0012】
図2は、
図1に示された堤防の補強構造における越水時の状況を示す模式的な断面図であり、
図1のII-II線断面図にあたる。図示された状態では、河川2の水位が上昇して堤高Hを超え、越流水が川表側から堤体1を越えて川裏側に流れ込んでいる。この越流水によって、川裏側で堤体1の法面の浸食および地盤の洗掘が進行する。このときの地盤の洗掘深さをDとする。
【0013】
一方、
図3は、本発明の実施形態に係る構造を採用していない堤防の補強構造における越水時の状況を示す模式的な断面図である。
図3の例では、堤防の補強構造90として、堤体1の川裏側の部分に打設される鋼矢板壁91と、川表側の部分に打設される鋼矢板壁92と、連結部材93とが配置される。本発明の実施形態とは異なり、鋼矢板壁91,92の上端の高さは同じであり、堤高Hに等しい。このときに川裏側で発生している地盤の洗掘深さをD’とする。
【0014】
上記の
図2の例と
図3の例とを比較した場合、
図2の例における越流水の落水高さが鋼矢板壁11の上端の高さhであるのに対して、
図3の例における越流水の落水高さは鋼矢板壁91の上端の高さ、すなわち堤高Hである。ここで、上述のように鋼矢板壁11の上端の高さhは堤高Hよりも低い(h<H)ため、
図2の例において落水高さhの越流水が地盤を洗掘する力は、
図3の例において落水高さHの越流水が地盤を洗掘する力よりも弱くなる。従って、
図2の例における洗掘深さDは、
図3の例における洗掘深さD’よりも浅くなる(D<D’)。そのため、
図2の例では、
図3の例よりも堤体地盤の洗掘を抑制して、鋼矢板壁11に対する地盤抵抗を保持することができる。
【0015】
このように、本実施形態に係る堤防の補強構造10では、増水時において越流が発生しても鋼矢板壁11の川裏側の部分における堤体地盤の洗掘を抑制し、鋼矢板壁11に対する地盤抵抗を保持することができる。これによって、越水時でも鋼矢板壁11,12の変形や変位を防止して、補強構造10の機能を維持することができる。なお、堤体1の天端部分は、流失しても補修が容易である。
【0016】
なお、上述した第1の実施形態では、鋼矢板壁11の上端の高さhが堤高Hよりも低いことによって、越水時に越流水が流れる領域が形成されている。本明細書では、このような領域を、通水性を有する領域ともいう。第1の実施形態では、
図1に示すように、堤体1の長さ方向(x方向)の全区間において鋼矢板壁11の上端の高さhが鋼矢板壁12の上端の高さである堤高Hよりも低い。つまり、第1の実施形態では、堤体1の長さ方向の全区間において、堤高Hよりも低い位置で鋼矢板壁11に通水性を有する領域が形成されている。
【0017】
図4は、本発明の第1の実施形態に係る堤防の補強構造の第1の変形例を示す断面図である。
図4の例では、川裏側の鋼矢板壁11の根入れ長さL1が、川表側の鋼矢板壁12の根入れ長さL2よりも長い。上記のように鋼矢板壁11の上端の高さhを堤高Hよりも低くすることによって堤体地盤の洗掘が抑制されれば、鋼矢板壁11,12およびタイロッド13からなる構造体の安定性が向上する。従って、図示された例のように、川表側の壁体である鋼矢板壁12の根入れ長さを短くして鋼矢板壁の必要鋼材量を削減することも可能である。
【0018】
図5および
図6は、本発明の第1の実施形態に係る堤防の補強構造の第2および第3の変形例を示す断面図である。
図5の例では、川裏側の鋼矢板壁11が堤体1の法肩部よりもさらに川裏側の法面に打設されている。また、
図6の例では、川表側の鋼矢板壁12が堤体1の川裏側の法肩部に打設され、川裏側の鋼矢板壁11はそれよりもさらに川裏側の法面に打設されている。このように、本実施形態において、鋼矢板壁11,12を打設する位置は、鋼矢板壁11が堤体1の川裏側、鋼矢板壁12が堤体1の鋼矢板壁11よりも川表側に打設される範囲内で特に限定されず、
図5および
図6に示した変形例のように堤体1の法面部に鋼矢板壁が打設されてもよい。
【0019】
図7は、本発明の第1の実施形態に係る堤防の補強構造の第4の変形例を示す断面図である。越水時に越流水によって天端が浸食された堤体1’が二点鎖線で図示されている。本変形例では、鋼矢板壁11と鋼矢板壁12との間で堤体1を構成する盛土を覆う補強材16を敷設している。補強材16は、ゴムシートなどの不透水性のものでもよいし、網状の部材でもよい。また、補強材16は、鋼矢板壁11と鋼矢板壁12との間をすべて覆うものでなく、例えば川表側の領域のみを覆ってもよい。補強材16は、通常時は天端付近の盛土に覆われているが、越水により天端付近の盛土が流失すると越流水に接する堤体1の表面に露出し、補強材16よりも下で鋼矢板壁11と鋼矢板壁12との間にある盛土がさらに流失することを防止する。なお、補強材16は
図7に示された例のようにタイロッド13よりも上に配置されてもよいし、
図15以降に示された例のようにタイロッド13よりも下に配置されてもよい。
【0020】
上記のような補強材16を敷設することによって、川表側の鋼矢板壁12近傍において越水時に洗掘による段差が生じることを防ぐことができ、鋼矢板壁11と鋼矢板壁12との間の盛土に越流水が流入することによって生じうる浸食を抑制することができる。ひいては、鋼矢板壁11と鋼矢板壁12との間の盛土に期待される、水圧に対する抵抗力を維持することができ、盛土の流出が進むことによって生じる、鋼矢板壁11の変形に起因する堤体1の天端高の低下を抑制することができる。
【0021】
図8は、本発明の第1の実施形態に係る堤防の補強構造の施工方法を示す図である。
図8(a)は、施工前の堤体1の断面を示す。この状態からまず、
図8(b)に示すように、堤体1の天端部分を掘削する。次に、
図8(c)に示すように、堤体1の川裏側に鋼矢板壁11を打設し、堤体1の川表側の部分に鋼矢板壁12を打設する。このとき、打設後の鋼矢板壁11の上端は掘削された堤体1の天端付近に位置し、打設後の鋼矢板壁12の上端は掘削された堤体1の天端から上方に突出している。また、鋼矢板壁11,12をタイロッド13で連結する。最後に、
図8(d)に示すように、堤体1の掘削した部分を埋め戻す。埋め戻し後は、鋼矢板壁11の上端が堤体1の内部に埋設され、鋼矢板壁12の上端が堤体1の天端付近に位置している。
【0022】
(第2の実施形態)
図9は、本発明の第2の実施形態について説明するための図であり、川裏側の鋼矢板壁11の正面図にあたる(堤体1は図示されていない)。本実施形態でも川裏側の鋼矢板壁11の通水性を有する領域は鋼矢板壁11の上端の高さhが堤高Hよりも低いことによって形成されるが、第1の実施形態とは異なり堤体1の長さ方向(x方向)の一部の区間においてのみ上記のような通水性を有する領域が形成される。より具体的には、鋼矢板壁11は、上端が堤体1の長さ方向に凹凸形状となるように、少なくとも2通りの上端の高さで打設された複数の鋼矢板111によって形成される。図示された例では、上端の高さHの鋼矢板111Aと上端の高さhの鋼矢板111Bとが1枚ごとに交互に打設されている。
【0023】
上記の例でも、堤体1の長さ方向の一部の区間に形成された通水性を有する領域、すなわち鋼矢板壁11の上端の高さがhになっている領域では、越流時の越流水によって堤体1の天端が部分的に浸食され、露出した通水性を有する領域から越流水が川裏側に流れ落ちる。この領域に水から流れ落ちる越流水は、鋼矢板壁12から通水性を有する領域に水が流れこむ際の跳水によるエネルギーの減衰や、越流水の落下高さ(位置エネルギー)が低減されるため、川裏側の部分における堤体地盤の洗掘を抑制し、鋼矢板壁11に対する地盤抵抗を保持することができる。これによって、越水時でも鋼矢板壁11,12の変形や変位を防止して、補強構造10の機能を維持することができる。
【0024】
図10は、本発明の第2の実施形態の変形例について説明するための図である。図示された例では、鋼矢板壁11において、上端の高さHの鋼矢板111Aと上端の高さhの鋼矢板111Bとが、2:1の割合で交互になるように打設されている。このように、上端の高さが異なる鋼矢板111A,111Bは、任意の割合で交互に打設することができる。このとき、鋼矢板壁11におけるそれぞれの鋼矢板の上端の高さの平均h
aveは、例えば堤高Hの50%~90%程度であることが好ましい。
【0025】
図11は、本発明の第2の実施形態における堤防の補強構造の施工方法を示す図である。図示された例では、
図11(a)に示すように、堤体1の天端を掘削することなく鋼矢板壁11,12を打設する。川表側の鋼矢板壁12、および川裏側の鋼矢板壁11を構成する上端高さがHの鋼矢板111Aについては、上端が堤体1の天端付近に位置するため、通常の施工で打設が可能である。一方、川裏側の鋼矢板壁11を構成する上端高さがhの鋼矢板111Bについては、上端に治具17Aを用いて縦継部材17を接続した上で、縦継部材17の上端が堤体1の天端付近になるまで打設する。縦継部材17は、例えば鋼矢板111Bと同じく両端部に継手を有する断面の部材であり、鋼矢板111Bの両側で先行して打設された鋼矢板111Aの継手、および後続して打設される鋼矢板111Aの継手に縦継部材17の継手を嵌合させることができる。
【0026】
上記のようにして鋼矢板壁11,12が打設された後で、
図11(b)に示すように縦継部材17を引き抜いて撤去すれば、堤体1を掘削することなく、鋼矢板壁11を構成する鋼矢板111のうち上端高さがhのものを堤体1の内部に埋設することができる。なお、タイロッド13は
図11には図示されていないが、例えばタイロッド13を、鋼矢板壁11を構成する鋼矢板のうち上端高さがHのものと鋼矢板壁12とにそれぞれ連結すれば、タイロッド13についても堤体1を掘削することなく施工することが可能である。
【0027】
(第3の実施形態)
図12は、本発明の第3の実施形態について説明するための図であり、川裏側の鋼矢板壁11の正面図にあたる(堤体1は図示されていない)。本実施形態において、川裏側の鋼矢板壁11の通水性を有する領域は、鋼矢板壁11を構成する鋼矢板111の少なくとも一部で上端側の領域に形成される通水孔14によって形成される。通水孔14によって、堤体1の長さ方向(x方向)の一部の区間で、堤高Hよりも低い位置で鋼矢板壁11に通水性を有する領域が形成される。これらの通水性を有する領域が地表面Gよりも上の鋼矢板壁11の面積の例えば10%~50%を占めるように通水孔14の大きさおよび数を設定することによって、本実施形態でも上記の第1および第2の実施形態と同様に越流時の川裏側の部分における堤体地盤の洗掘を抑制し、鋼矢板壁11に対する地盤抵抗を保持することができる。
【0028】
また、本実施形態では、施工上の利点も得られる。通水孔14が形成された鋼矢板111は、上端の高さは堤高Hとほぼ同じであるため、堤体1を掘削しなくても鋼矢板壁11,12を打設することができる。越水時には、越流水によって堤体1の天端が浸食され、露出した通水孔14から越流水が川裏側に流れ落ちる。
【0029】
図13および
図14は、本発明の第3の実施形態の他の例を示す図である。図示された例では、川裏側の鋼矢板壁11の通水性を有する領域が、鋼矢板壁11を構成する鋼矢板111の少なくとも一部で上端側の領域に組み込まれる有孔版15によって形成される。有孔版15は、例えばパンチングメタルやメッシュのような部材であり、鋼矢板111の一部に穴開け加工がされるか、または鋼矢板111の一部が切り抜かれて有孔版が嵌め込まれる。有孔版15は、例えば
図13の例のようにすべての鋼矢板111に組み込まれてもよいし、
図14の例のように一部の鋼矢板111に組み込まれてもよい。
【0030】
(第4の実施形態)
図15は、本発明の第4の実施形態に係る堤防の補強構造の断面図である。本実施形態では、上記で
図7を参照して説明した補強材16が、川裏側の鋼矢板壁11の上端よりも低い位置に接合される。図示された例では補強材16がほぼ水平に配置されており、補強材16の高さを基準にして川表側の鋼矢板壁12の高さをH
1、川裏側の鋼矢板壁11の高さをH
2とした場合、H
1>H
2>0である。補強材16を鋼矢板壁11の上端よりも低い位置に接合し、補強材16と川裏側の鋼矢板壁11の上端との間に適切な高さH
2の高低差を設けることによって、天端付近の盛土が流失した後、露出された補強材16に沿って流れる越流水に逆流が発生する。ここで、逆流は、補強材16に沿って川表側から川裏側に流れる越流水が川裏側の鋼矢板壁11を乗り越えるときに部分的に川表側に押し戻される結果、川表側から川裏側に向かう越流水の流れとは逆向きに流れることである。逆流によって越流水にエネルギーの損失が発生し、鋼矢板壁11を越えた越流水が川裏側に流れ落ちるときに地盤を洗掘する力をさらに弱めることができる。
【0031】
(第5の実施形態)
図16は、本発明の第5の実施形態に係る堤防の補強構造の断面図である。本実施形態では、上記の第4の実施形態と同様に補強材16が川裏側の鋼矢板壁11の上端よりも低い位置に接合されるのに加えて、笠コンクリート18A,18Bによって川表側および川裏側の壁体の高さの差がつけられる。より具体的には、本実施形態において、川裏側に打設される第1の壁体は、鋼矢板壁11と、鋼矢板壁11の上端に打設される笠コンクリート18Bとによって構成される。一方、川表側に打設される第2の壁体は、鋼矢板壁12と、鋼矢板壁12の上端に打設される笠コンクリート18Aとによって構成される。図示された例において、鋼矢板壁11,12の上端の高さは同じであるが、川裏側の笠コンクリート18Bの高さが川表側の笠コンクリート18Aよりも小さいことによって壁体の高さに差が生じている。つまり、本実施形態では、堤高Hよりも低い位置で川裏側の壁体に形成される通水性を有する領域が、笠コンクリート18A,18Bの高さの差によって形成されている。他の例では、川表側の鋼矢板壁12の上端には笠コンクリート18Aを打設する一方で、川裏側の鋼矢板壁11の上端には笠コンクリートを打設しないことによって通水性を有する領域が形成されてもよい。
【0032】
なお、上記のような笠コンクリート18A,18Bの構成は、必ずしも
図16の例のように補強材16が通水性を有する領域の下端よりも低い位置に配置される形態で採用されなくてもよい。上述した他の実施形態、具体的には例えば補強材16が配置されない例や、補強材16が川裏側の鋼矢板壁11の上端に接合される例でも、笠コンクリート18A,18Bの高さの差、または川表側の笠コンクリート18Aのみを打設することによって通水性を有する領域が形成されてもよい。
【0033】
(補強材の配置に関する変形例)
図17~
図22には、上述した第4および第5の実施形態ついて、補強材16の配置に関する変形例が示されている。なお、図示された例では第4の実施形態において補強材16の配置を変更しているが、第5の実施形態において同様に補強材16の配置を変更してもよい。以下で説明する例では、補強材16A~16Fが、鋼矢板壁11と鋼矢板壁12との間の少なくとも一部分で、通水性を有する領域(図示された例では鋼矢板壁11の上端)よりも低い位置に配置されている。このような場合も、天端付近の盛土が流失した後に露出された補強材16に沿って流れる越流水に逆流を発生させることによって、越流水が川裏側に流れ落ちるときに地盤を洗掘する力をさらに弱めることができる。
【0034】
図17に示された例では、補強材16Aが、川裏側の鋼矢板壁11から川表側の鋼矢板壁12に向かって低くなるように傾斜して配置されている。補強材16Aが川表側の鋼矢板壁12に取り付けられる位置は、川裏側の鋼矢板壁11の上端よりも低い(高さの差H
2)。なお、図示された例では補強材16Aが川裏側でも鋼矢板壁11の上端よりも低い位置に取り付けられているが、補強材16Aは川裏側では鋼矢板壁11の上端に取り付けられていてもよい。
【0035】
図18に示された例では、補強材16Bが、川表側の鋼矢板壁12から川裏側の鋼矢板壁11に向かって低くなるように傾斜して配置されている。補強材16Bは、川裏側の鋼矢板壁11の上端よりも低い位置に取り付けられる(高さの差H
2)。なお、図示された例では補強材16Bが川表側の鋼矢板壁12に取り付けられる位置も川裏側の鋼矢板壁11の上端よりも低くなっているが、補強材16Bが川表側の鋼矢板壁12に取り付けられる位置は川裏側の鋼矢板壁11の上端と同じか、より高くてもよい。
【0036】
図19に示された例では、補強材16Cが、川表側の鋼矢板壁12から川裏側の鋼矢板壁11に向かって低くなるように段差状に配置されている。補強材16Cは、川裏側の鋼矢板壁11の上端よりも低い位置に取り付けられる(高さの差H
2)。なお、図示された例では補強材16Cが川表側の鋼矢板壁12に取り付けられる位置も川裏側の鋼矢板壁11の上端よりも低くなっているが、補強材16Cが川表側の鋼矢板壁12に取り付けられる位置は川裏側の鋼矢板壁11の上端と同じか、より高くてもよい。
【0037】
図20に示された例では、補強材16Dが、鋼矢板壁11,12の中間付近で段差状の凹部を形成するように配置されている。補強材16Dの最も低い部分は、川裏側の鋼矢板壁11の上端よりも低い位置にある(高さの差H
2)。なお、図示された例では補強材16Dの川裏側の鋼矢板壁11への取付位置も鋼矢板壁11の上端よりも低いが、補強材16Dは鋼矢板壁11の上端に取り付けられていてもよい。
【0038】
図21に示された例では、補強材16Eが、鋼矢板壁11,12の中間付近で傾斜面を含む凹部を形成するように配置されている。補強材16Eの最も低い部分は、川裏側の鋼矢板壁11の上端よりも低い位置にある(高さの差H
2)。なお、図示された例では補強材16Eの川裏側の鋼矢板壁11への取付位置も鋼矢板壁11の上端よりも低いが、補強材16Eは鋼矢板壁11の上端に取り付けられていてもよい。
【0039】
図22に示された例では、補強材16Fが、鋼矢板壁11,12の中間付近で傾斜面を含む凸部を形成するように配置されている。補強材16Fは、川裏側の鋼矢板壁11の上端よりも低い位置に取り付けられる(高さの差H
2)。なお、図示された例では補強材16Fの最も高い部分が鋼矢板壁11の上端よりも低くなっているが、補強材16Fの最も高い部分は川裏側の鋼矢板壁11の上端と同じか、より高くてもよい。
【0040】
(第1の実験結果)
以下では、模型実験装置を用いて、越流による堤体の洗掘状況を解析した第1の実験結果について説明する。堤防を1/15スケールにモデル化した模型実験装置において、堤体の川裏側に打設する壁体の上端の高さを川表側に打設する壁体の高さよりも低くして、川表側からの越流を発生させる実験を行った。具体的には、堤体を地表面から400mmの高さとして、実施例では川表側の壁体の上端を地表面から400mmの高さとし、川裏側の壁体の上端を地表面から250mmの高さとし、比較例では両方の壁体の上端を地表面から400mmの高さとした。実施例において、壁体の上端の高さ(250mm)は、堤高(400mm)の約60%である。
【0041】
上記のような実施例と比較例のそれぞれの場合において川表側からの越流を発生させると、越流水によって川裏側の法面部が浸食され、基礎地盤の洗掘が発生した。越流の開始後1時間経過した状態で、洗掘深さを測定したところ、実施例における洗掘深さは40mm、比較例における洗掘深さは100mmであった。この結果は、壁体の上端の高さの違いによって越流水の落下高さを低減することで越流水が地盤を洗掘する力を弱め、洗掘を抑制して壁体の地盤抵抗を保持できることを示している。
【0042】
(第2の実験結果)
次に、VOF(Volume Of Fluid)法、具体的には混相流の界面補足法によって越流水が川裏側で地表面に着水した際の圧力を計算した第2の実験結果について説明する。計算にあたっては、堤高6.0m、堤頭幅6.0m、法部幅12.0m(法勾配1:2)の堤防において、越流水深0.4m、流速1.0m/s、流量0.4m3/sで越流が発生した場合を想定した。川表側には上端の高さが堤高と同じ鋼矢板壁が打設され、川裏側には上端の高さが堤高以下の鋼矢板壁が打設され、川裏側の鋼矢板壁よりも川裏側の盛土は既に流失しているものとする。また、川表側の鋼矢板壁の上端から1.2m低い位置から川裏側の鋼矢板壁までほぼ水平に補強材を設置し、鋼矢板壁の間の領域では盛土の流失が補強材の高さで抑えられるものとした。実験では、補強材と川表側の鋼矢板壁との高さの差をH1、川裏側の鋼矢板壁との高さの差をH2として、以下の表1のように高さH1,H2を設定して越流水の圧力を計算した。
【0043】
【0044】
表1に示された各例のうち、実施例1は川裏側の壁体の上端が川表側の壁体の上端よりも低いが、補強材は川裏側の壁体の上端と同じ高さに設置される例(
図7の例に対応する)である。実施例2および実施例3は、川裏側の壁体の上端が川表側の壁体の上端よりも低く、かつ補強材が川裏側の壁体の上端よりも低い位置に設置される例(
図15の例に対応する)である。比較例1は、川裏側の壁体の上端と川表側の壁体の上端とが同じ高さの例(補強材を除いて
図3の例に対応する)である。
【0045】
図23は、実施例2における越流水の流速を示す図である。この例では、補強材に沿って流れてきた越流水が川裏側の鋼矢板を乗り越えるときに逆流が発生し、そのために鋼矢板を乗り越えて川裏側に流れ落ちる越流水の流速が低下している。流速の低下は越流水のエネルギーの損失を示しており、これによって越流水が川裏側で地表面に着水した際の圧力が小さくなり、地盤を洗掘する力が弱くなる。
【0046】
一方、
図24は、比較例1における越流水の流速を示す図である。この例では、川表側および川裏側の鋼矢板壁の高さの差が小さく、かつ補強材と川裏側の鋼矢板壁の上端との間の高低差が大きいため、
図23の例のような逆流による越流水の流速の低下は生じていない。より具体的には、鋼矢板壁の間の領域の水深が深くなることによって越流水の流れが内部と表面とで分離し、内部の流れには渦が発生する一方で表面の流れには渦や逆流が発生しないため、流速の低下、すなわちエネルギーの損失は発生していない。
【0047】
図25は、実施例および比較例における鋼矢板壁の突出高さの比(H
2/H
1)と越流水の圧力との関係を示すグラフである。グラフに示されるように、H
2/H
1=0の実施例1で8.5kPaだった圧力は、H
2/H
1=0.25の実施例2(3kPa)、およびH
2/H
1=0.6の実施例3(6.5kPa)で実施例1よりも小さくなる。これは、
図23に示したように越流水の逆流によるエネルギーの損失が発生するためである。一方、H
2/H
1=1の比較例1では圧力が12kPaであり、実施例1よりも大きくなっている。これは、
図24に示したように越流水の逆流によるエネルギーの低下が発生しないのに加えて、川裏側の壁体の上端の高さが川表側の壁体の上端の高さと同じであるために越流水の落水高さが各実施例よりも大きくなる結果である。
【0048】
上述のような第2の実験結果によって、川裏側の壁体の上端を川表側の壁体の上端よりも低くして通水性を有する領域を形成することが越流水による地盤の洗掘を抑制するために効果的であり、補強材を川裏側の壁体の上端よりも低い位置に設置することによって越流水による地盤の洗掘をさらに抑制できることが示された。なお、H2/H1の適切な値は越流水の流速などによっても異なるため、上記の実施例の値には限定されず堤防の形状や越流の発生状況の予測に基づいて適宜設定される。
【0049】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0050】
1…堤体、2…河川、10…補強構造、11,12…鋼矢板壁、111,111A,111B…鋼矢板、13…タイロッド、14…通水孔、15…有孔版、16,16A,16B,16C,16D,16E,16F…補強材、17…縦継部材、17A…治具、18A,18B…笠コンクリート。