(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145346
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】間葉系細胞を含む細胞製剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20231003BHJP
【FI】
C12N5/077
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017577
(22)【出願日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2022052147
(32)【優先日】2022-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 宗哉
(72)【発明者】
【氏名】林 真広
(72)【発明者】
【氏名】中石 智之
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BB02
4B065BB04
4B065CA44
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、特定の低分子化合物を添加した培地を用いた方法により、遊走能をより一層高めた間葉系細胞の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】間葉系細胞を含む細胞集団を、デフェロキサミン及びその塩から選択される少なくとも1種のデフェロキサミン化合物、及びジメチルオキサリルグリシン及びその塩から選択される少なくとも1種のジメチルオキサリルグリシン化合物を含有する培地中で培養する工程を含む、間葉系細胞を含む細胞製剤の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系細胞を含む細胞集団を、デフェロキサミン及びその塩から選択される少なくとも1種のデフェロキサミン化合物、及びジメチルオキサリルグリシン及びその塩から選択される少なくとも1種のジメチルオキサリルグリシン化合物を含有する培地中で培養する工程を含む、間葉系細胞を含む細胞製剤の製造方法。
【請求項2】
培地中に塩化コバルト又はその水和物をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記間葉系細胞が羊膜由来である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記工程で処理した細胞が、未処理の細胞と比べて遊走能が高いことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
間葉系細胞を含む細胞集団を、デフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を含有する培地中で培養する工程を含む、間葉系細胞の遊走能を高める方法。
【請求項6】
培地中に塩化コバルト又はその水和物をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記間葉系細胞が羊膜由来である、請求項5または6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系細胞を含む細胞製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞は、骨髄、脂肪組織、歯髄、羊膜などに存在することが報告されている体性幹細胞である。間葉系幹細胞は、骨や軟骨及び脂肪などに分化する能力を有し、加えて分泌因子による免疫調節作用や血管新生・組織保護作用を有することから、細胞治療における有望な細胞ソースとして注目されており、実際に、急性移植片対宿主病(GVHD)や脊髄損傷などに対する実用化が進んでいる。
【0003】
間葉系幹細胞が有する疾患治療に有用なもう一つの機能として、損傷部位への遊走能がある。体内に投与された間葉系幹細胞は、損傷を受けた組織から発されるシグナルを検知し、損傷部位へ遊走・集積して治療効果をもたらす。すなわち、間葉系幹細胞の遊走能を高めることができれば、間葉系幹細胞をさらに効率良く損傷部位に送達することができ、より高い治療効果が期待できる。
【0004】
間葉系幹細胞の遊走能を高める簡便な方法としては、炎症性サイトカインを含むタンパク質や低分子化合物などの培地添加物で処理する方法がある。例えば、非特許文献1には、間葉系幹細胞を炎症性サイトカインIFN-γで刺激することで、遊走能が高まることが記載されている。非特許文献2には、間葉系幹細胞をデフェロキサミンまたは塩化コバルトといった低分子化合物で処理することで、遊走能が高まることが記載されている。タンパク質を培地中に添加する方法は、低分子化合物を培地中に添加する方法と比べて、一般的に製造コストが高くなる傾向にあり、かつ生物由来原料を使用するために安全上の観点で懸念事項となり得る。そのため、遊走能を高めた間葉系幹細胞を疾患治療用細胞製剤として大量製造する際には、デフェロキサミンまたは塩化コバルトといった低分子化合物を培地添加物として処理する方法がより適している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Duijvestein M., Wildenberg M.E., Welling M.M., Hennink S., Molendijk I., Van Zuylen V.L., Bosse T., Vos A.C., De Jonge-Muller E.S. et al. Pretreatment with interferon-gamma enhances the therapeutic activity of mesenchymal stromal cells in animal models of colitis. Stem Cells. 2011; 29: 1549-1558
【非特許文献2】Bidkhori H.R., Ahmadiankia N., Matin M.M., Heirani-Tabasi A., Farshchian M., Naderi-Meshkin H., Shahriyari M., Dastpak M., Bahrami A.R. Chemically primed bone-marrow derived mesenchymal stem cells show enhanced expression of chemokine receptors contributed to their migration capability. Iran J Basic Med Sci. 2016 Jan;19(1):14-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、特定の低分子化合物を添加した培地を用いた方法により、遊走能をより一層高めた間葉系細胞の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前述の課題解決のために鋭意検討を行なった結果、間葉系幹細胞を含む細胞集団の培養に、デフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を組み合わせて培地添加物として用いることで、作製した間葉系細胞に、予想を上回る遊走能亢進効果をもたらすことができることを見出し、本発明の完成に至った。
すなわち本発明は、下記[1]~[7]に関する。
【0008】
[1]間葉系細胞を含む細胞集団を、デフェロキサミン及びその塩から選択される少なくとも1種のデフェロキサミン化合物、及びジメチルオキサリルグリシン及びその塩から選択される少なくとも1種のジメチルオキサリルグリシン化合物を含有する培地中で培養する工程を含む、間葉系細胞を含む細胞製剤の製造方法。
[2]培地中に塩化コバルト又はその水和物をさらに含む、[1]に記載の製造方法。
[3]前記間葉系細胞が羊膜由来である[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記工程で処理した細胞が、未処理の細胞と比べて遊走能が高いことを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]間葉系細胞を含む細胞集団を、デフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を含有する培地中で培養する工程を含む、間葉系細胞の遊走能を高める方法。
[6]培地中に塩化コバルト又はその水和物をさらに含む、[5]に記載の方法。
[7]前記間葉系細胞が羊膜由来である、[5]または[6]に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定の低分子化合物の組み合わせを用いて遊走能を効率的に高めた間葉系細胞を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0011】
[1]用語の説明
(間葉系細胞)
本明細書における「間葉系細胞」とは、間葉系組織及び器官から採取することができる体性細胞(組織細胞)のことをいう。前記間葉系組織及び器官は、特に限定されないが、例えば、骨、軟骨、脂肪、血液、骨髄、真皮、骨格筋、靭帯、腱、心臓、歯髄、歯肉、臍帯、臍帯血、羊水、羊膜、胎盤などが挙げられる。本明細書における「間葉系細胞」は、好ましくは、脂肪、骨髄、歯髄、臍帯、臍帯血、羊水、羊膜由来であり、より好ましくは、脂肪、骨髄、歯髄、臍帯、羊膜由来であり、さらに好ましくは、脂肪、骨髄、羊膜由来であり、最も好ましくは、羊膜由来である。本明細書における「間葉系細胞」には、「間葉系間質細胞(Mesenchymal stromal cells)」及び「間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells:MSC)」も含まれる。
【0012】
(間葉系細胞を含む細胞集団)
本明細書における「間葉系細胞を含む細胞集団」とは、間葉系細胞を少なくとも1細胞以上含む、少なくとも1細胞以上で構成される細胞の集合体のことをいう。その形態は特に限定されず、例えば、組織、組織片、細胞ペレット、細胞凝集塊、細胞シート、細胞浮遊液、細胞懸濁液、これらの凍結物等が挙げられる。
【0013】
(間葉系細胞を含む細胞製剤)
本明細書における「間葉系細胞を含む細胞製剤」は、間葉系細胞を少なくとも1細胞以上含む、生体外で調製される組成物のことをいう。その形態は特に限定されず、例えば、細胞浮遊液、細胞懸濁液、細胞ペレット、細胞凝集塊、シート、シール剤、これらの凍結物等が挙げられる。
【0014】
本発明の一以上の実施形態に係る間葉系細胞を含む細胞製剤は、医薬組成物として使用することができる。即ち、本発明の一以上の実施形態によれば、前記細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、医薬組成物が提供される。本発明の医薬組成物は、例えば、免疫関連疾患、虚血性疾患、下肢虚血、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血、神経性疾患、移植片対宿主病(GVHD)、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、放射線腸炎、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼瘡、膠原病、脳卒中、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、脳腫瘍、肝硬変、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、乾癬、表皮水疱症、糖尿病、菌状息肉腫(Alibert-Bazin症候群)、強皮症、軟骨等の結合組織の変性及び/又は炎症から起こる疾患、関節軟骨欠損、半月板損傷、離弾性骨軟骨症、無腐性骨壊死、変形性膝関節症、炎症性関節炎、関節リウマチ、眼疾患、血管新生関連疾患、虚血性心疾患、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心不全、心筋症、弁膜症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、筋ジストロフィー、慢性膵炎、慢性腎炎、並びに癌から選択される疾患の治療剤として使用することができる。
【0015】
(未処理の細胞)
本明細書における「未処理の細胞」とは、本発明の方法で培養する工程を含まない工程で培養された細胞のことをいい、具体的には、デフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を含まないこと以外は、本発明の培養工程と同条件(例えば、基礎培地、播種条件、培養条件など)で培養して得られた細胞のことを意味する。
【0016】
(遊走能)
本明細書における「遊走能」とは、任意の物質や任意の方向へ向かって細胞が移動する能力または性質のことをいう。ここで、前記物質は、特に限定されないが、例えば、臓器、組織、部位、細胞、タンパク質、化学物質、有機化合物、無機化合物などが挙げられる。本明細書における「遊走能」には、「細胞遊走(Migration)」及び「走化性(Chemotaxis)」も含まれる。
【0017】
細胞の遊走能の評価方法としては、誘引物質に向かってウェル内に設けたメンブレンインサートを通り抜けた細胞を評価する方法、コラーゲンまたはフィブロネクチンなどのコーティング剤で底面(裏側)をコートしたメンブレンインサートをウェル内に配置し、メンブレンインサート底面に誘引された細胞を評価する方法、細胞または組織を培養した培養器の表面を意図的に引っ掻いて設けた模擬的な傷に遊走し、浸潤する細胞を評価する方法、遊走能に関わる遺伝子またはタンパク質の発現量または発現レベルを評価する方法、生体の全身もしくは生体内の特定の部位または組織または臓器における細胞の分布を評価する方法などが挙げられるが、特に限定されない。
【0018】
[2]間葉系細胞を含む細胞製剤の製造方法
本発明における間葉系細胞を含む細胞製剤の製造方法は、間葉系細胞を含む細胞集団を、デフェロキサミン及びその塩から選択される少なくとも1種のデフェロキサミン化合物、及びジメチルオキサリルグリシン及びその塩から選択される少なくとも1種のジメチルオキサリルグリシン化合物を含有する培地中で培養する工程を含む製造方法である。
【0019】
デフェロキサミン化合物は、デフェロキサミン及びその塩から選択され、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ジメチルオキサリルグリシン化合物は、ジメチルオキサリルグリシン及びその塩から選択され、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。塩としては、特に制限されるものではないが、例えば、酸付加塩が挙げられる。酸付加塩としては、特に制限されるものではないが、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸;又はコハク酸、フマル酸、酢酸、クエン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、酒石酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、ケイ皮酸、エタンスルホン酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ヒドロキシナフトエ酸、乳酸、ラウリル硫酸、ムコン酸、シュウ酸、クロロベンゼンスルホン酸、プロピオン酸、ピルビン酸、サリチル酸、ステアリン酸、第三級ブチル酢酸、トリメチル酢酸などの有機酸とともに形成される酸付加塩を含む。また、塩は、塩基付加塩も含む。塩基付加塩の形成に使用し得る無機塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アルミニウム、又は水酸化カルシウムなどが挙げられる。塩基付加塩の形成に使用し得る有機塩としては、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、又はN-メチルグルカミンなどが挙げられる。塩としては、特に制限されるものではないが、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;コハク酸塩、フマル酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩等の有機酸塩;ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等のアンモニウム塩等が挙げられる。
【0020】
本発明における間葉系細胞を含む細胞集団は、少なくとも間葉系細胞を含む細胞集団であれば特に限定されず、他の細胞を含む集団であってもよい。特に限定されないが、前記間葉系細胞を含む細胞集団における間葉系細胞の比率は、例えば、0.1%以上、1%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上である。
【0021】
本発明における間葉系細胞を含む細胞集団は、前培養操作の有無、および凍結操作の有無を問わない。具体的には、個体から採取した組織または細胞、またはこれらの凍結物であってもよいし、個体から採取した組織または細胞の培養物、またはこれらの凍結物であってもよい。
【0022】
本発明は、間葉系細胞を含む細胞集団を培養する工程を含む。本発明では、間葉系細胞を含む細胞集団を培養する工程にデフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を含有する培地を用いることが重要である。間葉系細胞を含む細胞集団を培養する工程にデフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を含有する培地を用いることで、デフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を含有しない培地を用いた場合よりも培養後の間葉系細胞の遊走能を高めることができる。これは、間葉系細胞を含む細胞製剤の治療効果の向上につながる。驚くべきことに、デフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を含有する培地を用いることによる遊走能の亢進効果の程度は、デフェロキサミン化合物のみを含有する培地を用いた場合の遊走能亢進効果及びジメチルオキサリルグリシン化合物のみを含有する培地を用いた場合の遊走能亢進効果をもとに予想される効果の程度よりも大きくなる。さらに、間葉系細胞を含む細胞集団の培養にデフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物に加えて塩化コバルト又はその水和物をさらに含有する培地を用いることで、培養後の間葉系細胞の遊走能をさらに高めることができる。この場合においても、デフェロキサミン化合物、ジメチルオキサリルグリシン化合物及び塩化コバルト若しくはその水和物を含有する培地を用いることによる遊走能の亢進効果の程度は、デフェロキサミン化合物のみを含有する培地を用いた場合の遊走能亢進効果、ジメチルオキサリルグリシン化合物のみを含有する培地を用いた場合の遊走能亢進効果及び塩化コバルトのみを含有する培地を用いた場合の遊走能亢進効果をもとに予想される効果の程度よりも大きくなる。ただし、塩化コバルトは一部の幹細胞においてアポトーシスを誘導することが報告されている(Lee J.H. et al. Mol Cell Biochem. 2013 Jul;379(1-2):133‐40.)ことから、遊走能の亢進を目的とした塩化コバルトを含有する培地の使用が限定される可能性がある。そのような場合においても、デフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を含有する培地を用いて細胞の遊走能を高める本発明は有用となり得る。
【0023】
前記デフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を含有する培地は、少なくともデフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を含有する培地であれば特に限定されず、任意の動物細胞培養用液体培地を基礎培地とし、デフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を添加することにより調製することができる。また、必要に応じて他の成分を適宜添加してもよい。前記他の成分としては、例えば、アルブミン、血清、血清代替試薬、血小板溶解物、サイトカイン、抗生物質や、デフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を除く化学物質などが挙げられるが、特に限定されない。他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
上記基礎培地としては、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)培地、DMEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地(例えば、DMEM/F12培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture F-12 Ham))等の培地を使用することができるが、特に限定されない。また、市販の各種の無血清培地も使用できる。
【0025】
培地におけるデフェロキサミン化合物の含有濃度は、特に限定されないが、例えば0.01μM~1000μMである。より具体的には、デフェロキサミン化合物の含有濃度の下限値は、例えば0.01μM以上、0.05μM以上、0.1μM以上、0.5μM以上、1μM以上、5μM以上、10μM以上、20μM以上、25μM以上、30μM以上、35μM以上、40μM以上、45μM以上、50μM以上である。また、デフェロキサミン化合物の含有濃度の上限値は、例えば1000μM以下、900μM以下、800μM以下、700μM以下、600μM以下、500μM以下、450μM以下、400μM以下、350μM以下、300μM以下、250μM以下、200μM以下である。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0026】
培地におけるジメチルオキサリルグリシン化合物の含有濃度は、特に限定されないが、例えば0.01μM~1000μMである。より具体的には、ジメチルオキサリルグリシン化合物の含有濃度の下限値は、例えば0.01μM以上、0.05μM以上、0.1μM以上、0.5μM以上、1μM以上、5μM以上、10μM以上、20μM以上、30μM以上、40μM以上、50μM以上、60μM以上、70μM以上、80μM以上、90μM以上、100μM以上、120μM以上、140μM以上、150μM以上、160μM以上、170μM以上、180μM以上、190μM以上、200μM以上である。また、ジメチルオキサリルグリシン化合物の含有濃度の上限値は、例えば1000μM以下、900μM以下、800μM以下、700μM以下、600μM以下、500μM以下、450μM以下、400μM以下、350μM以下、300μM以下である。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0027】
培地における塩化コバルト又はその水和物の含有濃度は、特に限定されないが、例えば0.01μM~1000μMである。より具体的には、塩化コバルト又はその水和物の含有濃度の下限値は、例えば0.01μM以上、0.05μM以上、0.1μM以上、0.5μM以上、1μM以上、5μM以上、10μM以上、20μM以上、30μM以上、40μM以上、50μM以上、55μM以上、60μM以上、65μM以上、70μM以上、75μM以上、80μM以上、85μM以上、90μM以上、95μM以上、100μM以上である。また、塩化コバルト又はその水和物の含有濃度の上限値は、例えば1000μM以下、900μM以下、800μM以下、700μM以下、600μM以下、500μM以下、450μM以下、400μM以下、350μM以下、300μM以下、250μM以下、200μM以下である。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0028】
塩化コバルトの水和物としては、特に制限されるものではないが、例えば、2水和物、4水和物、又は6水和物などが挙げられる。
【0029】
前記間葉系細胞を含む細胞集団を培養する工程の1回の培養時間は、特に限定されないが、例えば1~336時間を挙げることができる。より具体的には、1時間、3時間、6時間、12時間、24時間、36時間、48時間、72時間、96時間、120時間、144時間、168時間、192時間、216時間、240時間、288時間、336時間を挙げることができる。これらの数値は、それぞれ上限値又は下限値として任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0030】
前記間葉系細胞を含む細胞集団を培養する工程は、接着培養であってもよく、浮遊培養であってもよい。また、デフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を含有する培地に細胞を播種する工程を含んでもよく、他の培地からデフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を含有する培地に交換する工程を含んでもよい。また、他の培地での細胞の培養中に、デフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を該培地に添加する工程を含んでもよい。
【0031】
前記他の培地は、少なくともデフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を含有しない培地であれば特に限定されず、任意の動物細胞培養用液体培地を基礎培地とし、必要に応じて他の成分を適宜添加してもよい。前記他の成分としては、例えば、アルブミン、血清、血清代替試薬、血小板溶解物、サイトカイン、抗生物質や、デフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を除く化学物質などが挙げられるが、特に限定されない。他の成分としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて添加してもよい。
【0032】
上記基礎培地としては、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)培地、DMEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地(例えば、DMEM/F12培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture F-12 Ham))等の培地を使用することができるが、特に限定されない。また、市販の各種の無血清培地も使用できる。
【0033】
本発明の一以上の実施形態によれば、前記間葉系細胞を含む細胞集団を培養する工程には、好ましくは接着培養を用い、接着状態の細胞の培養培地を、他の培地からデフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を含有する培地に交換する工程を含む。
【0034】
間葉系細胞を含む細胞集団を培養する工程の播種密度は、特に限定されないが、例えば500~100,000細胞/cm2の密度で播種することができる。前記播種密度の下限としては、例えば500細胞/cm2以上、1,000細胞/cm2以上、2,000細胞/cm2以上、3,000細胞/cm2以上、4,000細胞/cm2以上、5,000細胞/cm2以上が好ましい。また、前記播種密度の上限としては、特に限定されないが、細胞培養の効率性の観点から、100,000細胞/cm2以下を用いることが一般的である。他にも、例えば50,000細胞/cm2以下、30,000細胞/cm2以下、20,000細胞/cm2以下、15,000細胞/cm2以下が使用できる。
【0035】
前記間葉系細胞を含む細胞集団を培養する工程は、継代工程を含んでもよいし、異なる培養条件で複数回培養を繰り返す工程を含んでもよい。
【0036】
上記の培養期間中は、培地を交換する工程を含んでもよい。交換先の培地は、交換元の培地と同一の組成の培地であってもよいし、異なる組成の培地であってもよい。培地を交換する頻度は、特に限定されないが、例えば1~7日毎を挙げることができ、好ましくは、1日毎、2日毎、3日毎、4日毎、5日毎である。
【0037】
前記間葉系細胞を含む細胞集団を培養する工程は、例えば、以下のような工程にて行うことができる。まず、間葉系細胞を含む細胞集団の細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除去し、得られた細胞ペレットを培地にて懸濁する。次に、培養容器に細胞を播種し、3%以上5%以下のCO2濃度、37℃環境にて、デフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を含有しない培地を用いて培養する。コンフルエントに達する前の段階で、培地をデフェロキサミン化合物及びジメチルオキサリルグリシン化合物を含有する培地、もしくはデフェロキサミン化合物、ジメチルオキサリルグリシン化合物及び塩化コバルトを含有する培地に交換し、3%以上5%以下のCO2濃度、37℃環境にて培養する。
【0038】
間葉系細胞を含む細胞集団を培養する工程後のコンフルエント率は、特に限定されないが、より多くの間葉系細胞を得る観点から、例えば50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上である。他にも、1%以上、10%以上、30%以上、100%が挙げられる。
【0039】
本発明においては、上記培養工程にて培養した細胞を回収する工程をさらに含んでもよい。培養した細胞の回収方法は、特に限定されないが、例えば以下のようにして行うことができる。まず、所定のコンフルエント率となるまで培養した細胞を、細胞剥離手段にて処理して培養容器から剥離させる。次に、得られた細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除去し、得られた細胞ペレットを培地または任意の溶媒にて懸濁する。必要に応じて細胞懸濁液をさらに遠心分離し、洗浄液を用いて洗浄する工程を含んでもよい。上記のような工程により、間葉系細胞を含む細胞製剤を取得できる。
【0040】
上記の細胞剥離手段として、例えば、細胞剥離剤を使用してもよい。細胞剥離剤は、少なくとも接着細胞を培養容器から剥離する作用を有する薬剤であれば特に限定されず、例えば、トリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等が挙げられる。細胞剥離剤として、市販の細胞剥離剤を用いてもよい。例えば、トリプシン-EDTA溶液(Thermo Fisher Scientific社製)、TrypLE Select(Thermo Fisher Scientific社製)、Accutase(Stemcell Technologies社製)、Accumax(Stemcell Technologies社製)などが挙げられるが、これらに限定されない。また、細胞剥離手段として、物理的な細胞剥離手段を使用してもよく、例えば、セルスクレーパー(コーニング社製)を使用することができるが、これに限定されない。細胞剥離手段は、単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
上記洗浄液としては、特に限定されないが、細胞に与えるダメージを低減する観点から、緩衝液や等張液がより好ましい。例えば、PBS、HBSS(-)、リンゲル液、乳酸リンゲル液、ブドウ糖液、各種輸液、生理食塩液、培養液、基礎培地、アルブミン溶液、血液由来成分、それらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
本発明においては、上記回収工程を経て回収した細胞製剤を、凍結保存する工程をさらに含んでも良い。前記凍結保存の手段は、特に限定されないが、例えば、プログラムフリーザー、ディープフリーザー、液体窒素での凍結保存などが挙げられる。上記の凍結保存手段としてプログラムフリーザーを用いた場合、凍結する際の温度は、好ましくは-30℃以下、-40℃以下、-50℃以下、-80℃以下、-90℃以下、-100℃以下、-150℃以下、-180℃以下、又は-196℃(液体窒素温度)以下である。プログラムフリーザーを用いた場合、凍結する際の好ましい凍結速度は、例えば、15℃/分以下、11℃/分以下、10℃/分以下、9℃/分以下、5℃/分以下、2℃/分以下、又は1℃/分以下である。上記の凍結保存手段としてプログラムフリーザーを用いた場合、例えば、少なくとも室温から-10℃の間は1℃/分以上2℃/分以下の凍結速度となるように設定した上で、それ以外は適宜冷却速度を変更し最終的には目的とする凍結温度(例えば-80℃から-150℃)に到達させるのが好ましい。また、上記の凍結手段として液体窒素を用いた場合、例えば、-196℃まで急速に温度を下げて凍結させた後、液体窒素(気相)中で保存することができる。また液体窒素(液相)中で保存することもできる。
【0043】
上記の凍結手段により凍結する際、上記の細胞製剤は、任意の保存容器に入った状態で凍結されてよい。上記の保存容器としては、例えば、クライオチューブ、クライオバイアル、凍結用バッグ、輸注バッグなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
上記の凍結手段により凍結する際、上記の細胞製剤は、任意の凍結保存液中で凍結されてもよい。上記の凍結保存液としては、市販の凍結保存液を用いてもよい。例えば、BAMBANKER(リンフォテック社製)、STEM-CELLBANKER(日本全薬工業社製)、CP-1(極東製薬工業社製)、ReproCryo RM(リプロセル社製)、CryoNovo(Akron Biotechnology社製)、MSC Freezing Solution(Biological Industries社製)、CryoStor(HemaCare社製)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
上記の凍結保存液は、所定濃度の多糖類を含有することができる。多糖類の好ましい濃度は、例えば、1質量%以上、2質量%以上、4質量%以上、又は6質量%以上である。また、多糖類の好ましい濃度は、例えば、20質量%以下、18質量%以下、16質量%以下、14質量%以下、又は13質量%以下である。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。多糖類としては、例えば、ヒドロキシルエチルデンプン(HES)やデキストラン(Dextran40など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0046】
上記の凍結保存液は、所定濃度のジメチルスルホキシド(DMSO)を含有することができる。DMSOの好ましい濃度は、例えば、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、又は5質量%以上である。また、DMSOの好ましい濃度は、例えば、20質量%以下、18質量%以下、16質量%以下、14質量%以下、12質量%以下、又は10質量%以下である。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0047】
上記の凍結保存液は、0質量%より多い所定濃度のアルブミンを含有するものでもよい。アルブミンの好ましい濃度は、例えば、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、又は4質量%以上である。また、アルブミンの好ましい濃度は、例えば、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、又は9質量%以下である。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。アルブミンとしては、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、マウスアルブミン、ヒトアルブミン等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【実施例0048】
以下の実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0049】
(比較例1)
ヒト羊膜由来MSC(継代数2)を500 cells/cm2以上の播種密度で6cmディッシュ(住友ベークライト)に播種し、ヒト血小板溶解物を終濃度5%で含有するαMEM培地(以下、「MSC培養培地」と表記する)中でサブコンフルエントになるまで培養した。次に、サブコンフルエントに達した後、培地を新たなMSC培養培地に交換し、24時間培養した。
【0050】
細胞の遊走性の解析には、メンブレンインサートを用いた遊走アッセイ法を用いた。具体的には、培養細胞をTrypLE Select(Thermo Fisher Scientific)を用いて6cmディッシュより剥離し、培地を用いて希釈し、遠心分離により回収した。回収細胞をαMEMで懸濁し、12ウェルプレート(Corning/3513)にセットした6.5mm Transwell with 8.0μm Pore Polycarbonate Membrane Insert(Corning/3422)の上側に1.5×105 cells/300μl添加した。また、MSCの誘引物質としてヒト組み換えタンパク質SDF-1α(R&Dsystems/350-NS-010)を終濃度100ng/mlになるよう添加したαMEMを6.5mm Transwell with 8.0μm Pore Polycarbonate Membrane Insertの下側に300μl添加し、37℃で24時間培養した。このとき、のちの工程でのバックグラウンド補正のため、誘引物質SDF-1α無添加のαMEMを6.5mm Transwell with 8.0μm Pore Polycarbonate Membrane Insertの下側に300μl添加したウェルについても、同様に用意した。
【0051】
遊走した細胞は、クリスタルバイオレット染色法により定量した。具体的には、培養後の6.5mm Transwell with 8.0μm Pore Polycarbonate Membrane Insertの上側の面に残った細胞を除去し、下側の面に接着した細胞をクリスタルバイオレット染色液で染色した。余分な染色液を洗浄除去したのち、6.5mm Transwell with 8.0μm Pore Polycarbonate Membrane Insertの下側の面を33%酢酸に15分間浸し、細胞中の色素を抽出した。マイクロプレートリーダー(SpectraMax i3x;モレキュラーデバイス)を用いて、色素抽出液の570nm吸光度を測定した。誘引物質SDF-1αを添加しなかった場合の570nm吸光度をバックグラウンド値として、誘引物質SDF-1αを添加しなかった場合の570nm吸光度からバックグラウンド値を差し引いて得られた値を、遊走した細胞数の指標とした。
【0052】
(比較例2)
ヒト羊膜由来MSC(継代数2)を500 cells/cm2以上の播種密度で6cmディッシュ(住友ベークライト)に播種し、MSC培養培地中でサブコンフルエントになるまで培養した。次に、サブコンフルエントに達した後、培地をデフェロキサミン(Merck社)を終濃度50μMで含むMSC培養培地に交換し、24時間培養した。本培養細胞を、比較例1と同様の方法で回収し、比較例1と同様の方法で遊走アッセイ及び遊走細胞の定量化を行った。結果、遊走細胞の量は比較例1と比べて7.09倍(+609%)であった。
【0053】
(比較例3)
サブコンフルエントに達した後、培地をジメチルオキサリルグリシン(終濃度200μM)(Merck社)を含むMSC培養培地に交換したこと以外は、比較例2と同様の方法で培養細胞を得た。回収後の細胞を比較例1と同様の方法で遊走アッセイ及び遊走細胞の定量化を行った。結果、遊走細胞の量は比較例1と比べて4.48倍(+348%)であった。
【0054】
(実施例1)
サブコンフルエントに達した後、培地をデフェロキサミン(終濃度50μM)及びジメチルオキサリルグリシン(終濃度200μM)(Merck社)を含むMSC培養培地に交換したこと以外は、比較例2と同様の方法で培養細胞を得た。回収後の細胞を比較例1と同様の方法で遊走アッセイ及び遊走細胞の定量化を行った。結果、遊走細胞の量は比較例1と比べて20.38倍(+1938%)となった。本結果より、デフェロキサミン及びジメチルオキサリルグリシンを併用して処理したMSCは、デフェロキサミンまたはジメチルオキサリルグリシンを単独で用いた場合よりも遊走能が向上し、その効果はデフェロキサミン単独の効果(+609%)とジメチルオキサリルグリシン単独の効果(+348%)を合算した値(+957%)を大きく上回ることが分かった。
【0055】
(実施例2)
サブコンフルエントに達した後、培地をデフェロキサミン(終濃度50μM)(Merck社)、ジメチルオキサリルグリシン(終濃度200μM)(Merck社)及び塩化コバルト(終濃度100μM)(Merck社)を含むMSC培養培地に交換したこと以外は、比較例2と同様の方法で培養細胞を得た。回収後の細胞を比較例1と同様の方法で遊走アッセイ及び遊走細胞の定量化を行った。結果、遊走細胞の量は比較例1と比べて73.94倍(+7294%)であった。本結果より、デフェロキサミン及びジメチルオキサリルグリシンに加えて塩化コバルトをさらに併用して処理することで、MSCの遊走能がさらに大きく向上することが分かった。
以上の結果を総括すると、表1のようになる。
【0056】
【0057】
表1に示すように、実施例に記載の方法でMSCを作製することで、予想を上回る遊走能亢進効果を得ることができることが分かった。