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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014537
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】支持装置
(51)【国際特許分類】
   F16B 35/06 20060101AFI20230124BHJP
   F16B 1/00 20060101ALI20230124BHJP
   E04B 9/18 20060101ALI20230124BHJP
   E04B 9/00 20060101ALI20230124BHJP
   F16B 5/12 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
F16B35/06 Z
F16B1/00 A
E04B9/18 B
E04B9/00 F
E04B9/00 K
F16B5/12 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118540
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】398034319
【氏名又は名称】エヌパット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117651
【弁理士】
【氏名又は名称】高垣 泰志
(72)【発明者】
【氏名】生野 真
(72)【発明者】
【氏名】石川 将司
【テーマコード(参考)】
3J001
【Fターム(参考)】
3J001FA18
3J001GA01
3J001GB01
3J001GC02
3J001GC12
3J001HA02
3J001HA07
3J001JA10
3J001JB02
3J001KA19
3J001KB04
(57)【要約】
【課題】ボルトの締め付け箇所を少なくして作業効率を向上させると共に、吊りボルトに対して強固に且つ確実に固定できるようにした支持装置を提供する。
【解決手段】一対の吊りボルト110,110間を横断し、一対の吊りボルト110,110のそれぞれに取り付けられ、一対の吊りボルト110,110間において支持対象物を支持する支持装置1であって、一対の吊りボルト110,110のそれぞれに取り付けられる支持部材2と、一対の吊りボルト110,110のそれぞれを支持部材2に固定する固定部材3と、を備える。固定部材3は、吊りボルト110を挟着保持する挟着部材4と、挟着部材4を支持部材2に取り付ける締結ボルト5と、締結ボルト5に装着される締付ナット6とを有する。締結ボルト5は、締付ナット6の締め付け操作が行われるとき、締付ナット6と供回りすることを防止する供回り防止手段7を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の吊りボルト間を横断し、前記一対の吊りボルトのそれぞれに取り付けられ、前記一対の吊りボルト間において支持対象物を支持する支持装置であって、
前記一対の吊りボルトのそれぞれに取り付けられる支持部材と、
前記一対の吊りボルトのそれぞれを前記支持部材に固定する固定部材と、
を備え、
前記固定部材は、前記吊りボルトを挟着保持する挟着部材と、前記挟着部材を前記支持部材に取り付ける締結ボルトと、前記締結ボルトに装着される締付ナットとを有し、
前記締結ボルトは、前記締付ナットの締め付け操作が行われるとき、前記締付ナットと供回りすることを防止する供回り防止手段を有することを特徴とする支持装置。
【請求項2】
前記締結ボルトは、ボルト頭部と雄螺子部とを有し、
前記供回り防止手段は、前記ボルト頭部に設けられることを特徴とする請求項1に記載の支持装置。
【請求項3】
一対の吊りボルト間を横断し、前記一対の吊りボルトのそれぞれに接合させた状態に配置される支持部材と、
前記支持部材との間に前記吊りボルトを挟み込む挟着部材と、
ボルト頭部と雄螺子部とを有し、前記雄螺子部が前記支持部材及び前記挟着部材のそれぞれに形成されたボルト挿通孔に挿通される締結ボルトと、
前記締結ボルトの前記雄螺子部の先端に装着される締付ナットと、
を備え、
前記締結ボルトは、前記支持部材の前記吊りボルトが接合している面とは反対側の面に前記ボルト頭部が配置され、前記挟着部材から突出する前記雄螺子部の先端に前記締付ナットが装着されており、前記締付ナットの締め付けが行われるとき、前記ボルト頭部を前記支持部材に係合させ、前記雄螺子部が前記締付ナットと供回りすることを防止する供回り防止手段を有することを特徴とする支持装置。
【請求項4】
前記支持部材は、前記一対の吊りボルトのそれぞれに接合させた状態に配置される縦板部と、前記縦板部の幅方向端部から前記吊りボルトが接合している面とは反対側に向かって突出形成される横板部とを有し、
前記供回り防止手段は、前記横板部に係合することにより、供回りを防止することを特徴とする請求項2又は3に記載の支持装置。
【請求項5】
前記ボルト頭部は、前記雄螺子部と略直角を成す棒状頭部であることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の支持装置。
【請求項6】
前記支持部材は、前記吊りボルトが接合する面に、前記棒状頭部を挿通可能な長孔が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の支持装置。
【請求項7】
前記締付ナットは、緩み止めナットであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の支持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井空間に垂下する一対の吊りボルト間において支持対象物を支持する支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
天井設置型の空気調和機や各種配管などの天井設置物は、上階床スラブから垂下する吊りボルトによって天井空間に吊り下げられた状態に支持されている。ところが、天井空間に既に多くの天井設置物が設置されている状態で新たな天井設置物を設置しようとするとき、既設の天井設置物が邪魔になって上階床スラブに新たな吊りボルトを取り付けることが困難である。
【0003】
そのため、従来は、既設の吊りボルトを利用して新たな天井設置物を設置する手法が提案されている(例えば、特許文献1,2,3,4)。すなわち、従来の手法は、既設の一対の吊りボルト間にL型のアングル材を取り付け、そのアングル材に新たな天井設置物(支持対象物)を取り付ける構造を採用している。この構造では、アングル材の吊りボルトに対する固定強度が十分でない場合、例えば地震発生時に緩みが生じ、アングル材が吊りボルトから離脱し、天井空間から天井設置物を落下させてしまう可能性がある。これを防止するためには、一対の吊りボルト間にアングル材を取り付ける際に、アングル材を一対の吊りボルトのそれぞれに対して強固に且つ確実に固定しておく必要がある。
【0004】
例えば特許文献1,2,3の従来技術では、1本の吊りボルトを挟み込んだ状態に保持する金具を2本のボルトでアングル材に固定する構造を採用している。しかし、この従来技術では、アングル材を1本の吊りボルトに固定する際に2本のボルトの締め付け作業を行わなければならず、作業効率が悪いという問題がある。この種の取り付け作業は、天井空間での高所作業となり、しかも十分な作業空間を確保することが難しいため、作業効率向上の観点からはボルトの締め付け箇所を少なくすることが望まれている。
【0005】
また、特許文献4の従来技術は、両端に雄螺子が形成された軸部材を、吊りボルトを挟着する2つの挟着部材のそれぞれに挿通し、軸部材の両端にナットを取り付けて締め付けることにより、アングル材を吊りボルトに固定する構造を採用している。しかし、この従来技術では、ナットを締め付ける際に、軸部材が供回りする可能性がある。軸部材が供回りしてしまうと、十分な強度でナットを締め付けることができず、アングル材を吊りボルトに対して強固に且つ確実に固定しておくことができなくなる。軸部材の供回りを防止するためには、軸部材の一端に取り付けたナットを電動工具などで締め付ける際に、軸部材の他端に取り付けたナットをスパナなどで抑えておく必要があり、煩雑な作業となることから作業効率を低下させる要因となっている。特に、天井空間には様々な部材や機器が吊り下げられており、十分な作業空間を確保することが難しいこともあり、軸部材の他端に取り付けたナットをスパナなどで抑えること自体が困難なケースも存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3152477号公報
【特許文献2】実用新案登録第3151654号公報
【特許文献3】特開2016-125523号公報
【特許文献4】特開2020-94678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、ボルトの締め付け箇所を少なくして作業効率を向上させると共に、吊りボルトに対して強固に且つ確実に固定できるようにした支持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、第1に、本発明は、一対の吊りボルト間を横断し、前記一対の吊りボルトのそれぞれに取り付けられ、前記一対の吊りボルト間において支持対象物を支持する支持装置であって、前記一対の吊りボルトのそれぞれに取り付けられる支持部材と、前記一対の吊りボルトのそれぞれを前記支持部材に固定する固定部材と、を備え、前記固定部材は、前記吊りボルトを挟着保持する挟着部材と、前記挟着部材を前記支持部材に取り付ける締結ボルトと、前記締結ボルトに装着される締付ナットとを有し、前記締結ボルトは、前記締付ナットの締め付け操作が行われるとき、前記締付ナットと供回りすることを防止する供回り防止手段を有することを特徴とする構成である。
【0009】
第2に、本発明は、上記第1の構成を有する支持装置において、前記締結ボルトは、ボルト頭部と雄螺子部とを有し、前記供回り防止手段は、前記ボルト頭部に設けられることを特徴とする構成である。
【0010】
第3に、本発明は、支持装置であって、一対の吊りボルト間を横断し、前記一対の吊りボルトのそれぞれに接合させた状態に配置される支持部材と、前記支持部材との間に前記吊りボルトを挟み込む挟着部材と、ボルト頭部と雄螺子部とを有し、前記雄螺子部が前記支持部材及び前記挟着部材のそれぞれに形成されたボルト挿通孔に挿通される締結ボルトと、前記締結ボルトの前記雄螺子部の先端に装着される締付ナットと、を備え、前記締結ボルトは、前記支持部材の前記吊りボルトが接合している面とは反対側の面に前記ボルト頭部が配置され、前記挟着部材から突出する前記雄螺子部の先端に前記締付ナットが装着されており、前記締付ナットの締め付けが行われるとき、前記ボルト頭部を前記支持部材に係合させ、前記雄螺子部が前記締付ナットと供回りすることを防止する供回り防止手段を有することを特徴とする構成である。
【0011】
第4に、本発明は、上記第2又は第3の構成を有する支持装置において、前記支持部材は、前記一対の吊りボルトのそれぞれに接合させた状態に配置される縦板部と、前記縦板部の幅方向端部から前記吊りボルトが接合している面とは反対側に向かって突出形成される横板部とを有し、前記供回り防止手段は、前記横板部に係合することにより、供回りを防止することを特徴とする構成である。
【0012】
第5に、本発明は、上記第2乃至第4のいずれかの構成を有する支持装置において、前記ボルト頭部は、前記雄螺子部と略直角を成す棒状頭部であることを特徴とする構成である。
【0013】
第6に、本発明は、上記第5の構成を有する支持装置において、前記支持部材は、前記吊りボルトが接合する面に、前記棒状頭部を挿通可能な長孔が形成されていることを特徴とする構成である。
【0014】
第7に、本発明は、上記第1乃至第6のいずれかの構成を有する支持装置において、前記締付ナットは、緩み止めナットであることを特徴とする構成である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、支持部材を吊りボルトに固定する際の締め付け箇所を少なくすることが可能であり、作業効率を向上させることができる。また、供回り防止手段が締結ボルトの供回りを規制するため、支持装置を吊りボルトに対して強固に且つ確実に固定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】支持装置の設置例を示す概念図である。
図2】支持装置を拡大して示す斜視図である。
図3】固定部材の構成例を示す図である。
図4】固定部材を支持部材に組み付ける態様を例示する図である。
図5】締結ボルトのボルト頭部と支持部材のサイズを示す図である。
図6】供回り防止手段による供回り防止機能を示す図である。
図7】吊りボルトを支持部材に固定する手順を示す図である。
図8】縦板部の裏面側から視た斜視図である。
図9】支持部材として長孔が形成されていないアングル材を用いた例を示す図である。
図10】締結ボルトの変形例を示す図である。
図11】締結ボルトの別の変形例を示す図である。
図12】構造梁の下方において支持装置が支持対象物を支持部材の上面に載置した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、以下において参照する各図面では互いに共通する部材に同一符号を付しており、それらについての重複する説明は省略する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態における支持装置1の取り付け例を示す概念図である。この支持装置1は、上階床スラブ100の下方空間、すなわち下階フロアの天井空間に支持対象物220を支持する装置である。より具体的には、支持装置1は、上階床スラブ100から垂下する複数の吊りボルト110のそれぞれによって天井設置物120が天井空間に既に設置されている状態において、互いに隣接する一対の吊りボルト110,110間を横断するように配置され、それら一対の吊りボルト110,110間に、新たな支持対象物220を支持する。すなわち、支持装置1は、上階床スラブ100に対して新たにあと施工アンカーなどを打設することになく、既存の吊りボルト110,110を利用して新規な支持対象物220を天井空間に設置することができる装置である。尚、既存の吊りボルト110,110が支持している天井設置物120,120は、天井設置型の空気調和機、各種配管、ケーブルラックなどである。
【0019】
図1に示すように、支持装置1は、一対の吊りボルト110,110間を横断するように配置され、一対の吊りボルト110,110のそれぞれに取り付けられる支持部材2と、一対の吊りボルト110,110のそれぞれを支持部材2に固定する固定部材3,3とを備えている。例えば、固定部材3,3は、支持部材2の両端近傍位置に取り付けられ、吊りボルト110,110を支持部材2に固定する。また、図1に示す例では、吊りボルト110,110を固定する固定部材3と同様の固定部材3が支持部材2の中央にも取り付けられている。支持部材2の中央に取り付けられる固定部材3は、支持対象物220を吊り下げた状態で支持するボルト部材210を支持部材2に固定するためのものである。このボルト部材210は、その下端部において支持対象物220を支持している。尚、図1では、支持対象物220の一例として円筒状の配管を例示している。
【0020】
図2は、支持装置1を拡大して示す斜視図である。支持部材2は、一対の吊りボルト110,110間を横断するように配置される長尺の金属部材である。この支持部材2は、例えば断面L型のアングル材によって構成され、縦板部21と、横板部22とを有している。縦板部21は、吊りボルト110,110と平行な鉛直方向に配置され、その表面に吊りボルト110,110を接合させた状態に配置される。横板部22は、縦板部21の幅方向端部から吊りボルト110,110が接合している面(表面)とは反対側(裏面側)に向かって突出形成される。縦板部21と横板部22とは、互いに略直角を成すように接続されている。このような支持部材2は、例えば一対の吊りボルト110,110間を水平方向に横断するように配置される。ただし、支持部材2の配設方向は必ずしも水平方向に限られず、斜め方向に傾斜させた態様に配設することも可能である。
【0021】
例えば本実施形態における支持部材2は、縦板部21及び横板部22のそれぞれに、支持部材2の長手方向に所定長さを有する長孔23,24が所定間隔で形成された孔あきアングル材である。例えば、縦板部21には長孔23が形成されており、横板部22には長孔24が形成されている。このような孔あきアングル材は大量に流通していることから、支持部材2を安価に入手できるという利点がある。そして支持部材2は、縦板部21に形成されている長孔23をボルト挿通孔として利用する。
【0022】
固定部材3は、吊りボルト110を挟着保持する挟着部材4と、挟着部材4を支持部材2に取り付ける締結ボルト5と、締結ボルト5に装着される締付ナット6とを備える。挟着部材4は、吊りボルト110を支持部材2の縦板部21との間に挟み込んで挟着する部材である。締結ボルト5は、ボルト頭部5aと雄螺子部5bとを有する。ボルト頭部5aは、縦板部21の吊りボルト110が接合する面とは反対側の面に配置され、雄螺子部5bが支持部材2の縦板部21及び挟着部材4に挿通される。そして挟着部材4から突出する雄螺子部5bの先端に、締付ナット6が装着されている。
【0023】
図3は、固定部材3の構成例を示す図である。尚、図3(a)及び(b)は固定部材3をそれぞれ異なる方向から視た図を示している。
【0024】
挟着部材4は、所定形状の金属部材を折曲加工して形成される部材であり、平板部41と、平板部41の両端を略直角に折り曲げて形成される互いに平行な挟着部42,42とを有する。平板部41には、締結ボルト5の雄螺子部5bを挿通可能なボルト挿通孔44が形成されている。挟着部42,42は、吊りボルト110の外周面に係合する係合部43,43が形成される。この係合部43,43は、例えば挟着部42,42をU字状に切り欠いた形態として形成される。吊りボルト110は、挟着部材4に設けられる2つの係合部43,43に係合するように配置される。ボルト挿通孔44は、2つの係合部43,43を横断するように配置される吊りボルト110に干渉しないように、2つの係合部43,43を結ぶ線上から側方に避けた位置に形成されている。
【0025】
締結ボルト5は、例えば図3(a),(b)に示すように、全体としてT字形状を有するボルトである。すなわち、締結ボルト5のボルト頭部5aは、雄螺子部5bに対して略直角を成すように配置された棒状頭部として形成され、その棒状頭部の中央に雄螺子部5bが接続されている。この締結ボルト5は、挟着部材4の一対の挟着部42,42が延びる方向に配置され、その方向から雄螺子部5bをボルト挿通孔44に挿通することにより挟着部材4に配置される。そしてボルト挿通孔44から挟着部材4の反対側に突出する雄螺子部5bの先端に締付ナット6が装着される。
【0026】
締付ナット6は、六角状のナット本体61と、そのナット本体61の一方の端面に設けられる緩み止め機構62とを備える緩み止めナットである。緩み止め機構62は、ナット本体61の螺子孔よりも内側に突出するように配置されるフリクション片63,63を備えている。例えば、フリクション片63,63は、リング状金属部材の2箇所を内側に突出させることによって形成される。そしてリンク状金属部材はナット本体61の端面に配置され、ナット本体61の端面に設けられるカシメ部64によってナット本体61に組み付けられる。このような締付ナット6は、ナット本体61の螺子孔に締結ボルト5の雄螺子部5bが差し込まれることに伴い、雄螺子部5bと係合してプリベリングトルクを発生させ、雄螺子部5bと締付ナット6との自由回転を阻止する。これにより、締付ナット6は、緩み止め機能を発揮する。ただし、電動工具などを用いて締付ナット6を強く締め付ければ、締付ナット6を雄螺子部5bに対して螺合進行させることができる。
【0027】
図4は、固定部材3を支持部材2に組み付ける態様を例示する図である。図4(a)に示すように、挟着部材4、締結ボルト5及び締付ナット6が組み付けられた固定部材3は、支持部材2の縦板部21に取り付けられる。ここで、締結ボルト5のボルト頭部5aは、その長さL2が縦板部21に形成されている長孔23の長さL1よりも小さくなるように形成される。また、ボルト頭部5aの幅W2は、雄螺子部5bの直径と略同一であり、縦板部21に形成されている長孔23の幅W1よりも小さくなるように形成される。つまり、ボルト頭部5aのサイズは、長孔23のサイズよりも小さく形成される。これにより、挟着部材4、締結ボルト5及び締付ナット6を予め組み付けた状態であっても、図4(a)において矢印F1で示すように、縦板部21の長孔23にボルト頭部5aを挿通させることができる。その結果、固定部材3は、図4(b)に示すように、ボルト頭部5aを縦板部21の裏面側に配置し、挟着部材4及び締付ナット6を縦板部21の表面側に配置することができる。
【0028】
図5は、締結ボルト5のボルト頭部5aと支持部材2のサイズを示す図である。締結ボルト5のボルト頭部5aは、図5(a)に示すように、棒状頭部の端部から雄螺子部5bが接続されている部分の最も遠い位置までの長さL3を有している。一方、支持部材2は、縦板部21に形成されている長孔23の上縁部から横板部22までの長さH1を有している。ここで、L3とH1の関係は、L3≧H1である。このようにボルト頭部5aの長さL3を長孔23の上縁部から横板部22までの長さH1以上とすることにより、締結ボルト5は、締付ナット6が締め付けられるときに雄螺子部5bが供回りすることを防止する供回り防止手段7を有することになる。すなわち、締結ボルト5は、ボルト頭部5aを供回り防止手段7として機能させるのである。
【0029】
図6は、供回り防止手段7による供回り防止機能を示す図である。図6は、支持部材2の縦板部21をボルト頭部5aが配置されている裏面側から視た状態を示している。上述したように締付ナット6は、緩み止めナットとして構成されており、雄螺子部5bに係合するフリクション片63,63を備えている。フリクション片63,63が雄螺子部5bに係合した状態になると、締付ナット6を締め付けるときに、雄螺子部5bとの間に一定の摩擦力が生じるため、締付ナット6の回転に伴い雄螺子部5bが締付ナット6と共に回転する。締付ナット6と共に雄螺子部5bが回転すると、ボルト頭部5aも回転する。そして図6に示すように、ボルト頭部5aの端部が支持部材2の横板部22に接触して係合した状態になると、ボルト頭部5aの回転が規制されるようになる。すなわち、供回り防止手段7がボルト頭部5a及び雄螺子部5bの供回りを防止するのである。その後、締付ナット6に、締付ナット6と雄螺子部5bとの間の摩擦力を超える回転力が作用すると、雄螺子部5bの回転が規制されているため、締付ナット6を雄螺子部5bに対して締め付けることができるようになる。
【0030】
図7は、吊りボルト110を支持部材2に固定する手順を示す図である。まず図7(a)に示すように、作業者は、支持部材2の縦板部21と挟着部材4の係合部43との間に吊りボルト110を収容する。このとき、締付ナット6を雄螺子部5bの先端に設けておけば、挟着部材4と縦板部21との間隔を広げることができ、簡単に吊りボルト110を係合部43の内側に挿入することができる。その後、作業者は、電動工具などを用いて締付ナット6を締め付けることにより、図7(b)に示すように吊りボルト110を支持部材2に固定する。この締め付け作業が行われるとき、締付ナット6のフリクション片63,63が雄螺子部5bに係合し、締付ナット6と雄螺子部5bとの摩擦力が大きくなると、雄螺子部5bは締付ナット6と共に供回りする。これに伴い、ボルト頭部5aも締付ナット6と共に供回りし、供回り防止手段7として設けられているボルト頭部5aの端部が横板部22に接触する。図8は、縦板部21の裏面側から視た斜視図であり、ボルト頭部5aの端部が横板部22に接触した状態を示している。図8に示すように、ボルト頭部5aの端部が横板部22に接触し、供回り防止手段7による供回り防止機能が有効に働くと、雄螺子部5bの供回りが規制されるようになる。したがって、これ以降、締付ナット6を雄螺子部5bに対して良好に締め付けていくことができる。その結果、吊りボルト110は、挟着部材4と縦板部21との間に固定される。
【0031】
このように本実施形態の支持装置1は、1本の吊りボルト110を支持部材2に固定するために1つの締付ナット6を締め付ければ良い。そのため、図1に示したように一対の吊りボルト110,110間に支持装置1を適切な強度で設置する場合には、2つの締付ナット6を締め付ければ良い。それ故、支持装置1を一対の吊りボルト110に取り付ける作業を高所作業として行う際の作業効率を向上させることができるという利点がある。また、締め付け対象である締付ナット6の数が少ないことにより、高所作業中にナットを落下させてしまう可能性を低く抑えることも可能であり、安全に作業を進めることができるという利点もある。
【0032】
また、本実施形態の支持装置1は、挟着部材4、締結ボルト5及び締付ナット6を予め組み付けておき、支持部材2の長孔23にボルト頭部5aを差し込むことによって、固定部材3を支持部材2に取り付けることが可能である。そのため、高所作業として、挟着部材4、締結ボルト5及び締付ナット6のそれぞれを組み付ける必要がなく、この点においても作業効率に優れている。また、挟着部材4、締結ボルト5及び締付ナット6を予め組み付けておくことができるため、高所作業中に締結ボルト5や締付ナット6を落下させてしまうことがなく、安全に作業を進めることができるという利点もある。
【0033】
また、本実施形態の支持装置1は、支持部材2の縦板部21の表面に一対の吊りボルト110,110を接合させるように配置することにより、固定部材3を縦板部21の表面側から長孔23に差し込むことが可能であり、また締付ナット6を締め付ける際にも縦板部21の表面側から締め付け作業を行うことができる。つまり、本実施形態の支持装置1は、一対の吊りボルト110,110を含む設置面に対して一方向のみからのアクセスで作業を進めることが可能であり、高所作業を効率的に行うことが可能である。
【0034】
また、本実施形態のように挟着部材4が吊りボルト110の外周面を挟み込んだ状態で吊りボルト110を支持部材2に固定する形態である場合、締結ボルト5と締付ナット6との締着状態が緩んでしまうと、支持部材2が吊りボルト110から落下してしまうという問題がある。これを防止するためには、締付ナット6を締め付けることによって支持装置1を吊りボルト110に固定する際には、締結ボルト5と締付ナット6とを十分な強度で確実に固定する必要がある。上述したように本実施形態の支持装置1は、締結ボルト5が供回り防止手段7を備えている。この供回り防止手段7は、雄螺子部5bに取り付けられる締付ナット6が締め付けられる際に雄螺子部5bの供回りを防止する。そのため、締付ナット6は、雄螺子部5bに対して十分な強度で、且つ、確実に締め付けることが可能であり、締め付け強度不足を未然に防止することが可能である。
【0035】
特に、締結ボルト5が供回り防止手段7を備えることにより、締付ナット6を締め付ける際には、締結ボルト5のボルト頭部5aをスパナなどで抑えておく必要がなくなるため、十分な作業空間を確保することが難しい場合であっても、簡単且つ効率的に作業を行えるという利点がある。
【0036】
更に、本実施形態の支持装置1は、締結ボルト5の雄螺子部5bに装着される締付ナット6として緩み止めナットを用いている。そのため、雄螺子部5bに対して十分な強度で締め付けられた締付ナット6は、締め付け作業が行われた後に緩むことがない。例えば吊りボルト110や支持部材2に振動が伝わった場合でも、締結ボルト5と締付ナット6との締着状態が緩むことはない。特に、吊りボルト110,110が支持する天井設置物120が空気調和機である場合、空気調和機が稼働することによって吊りボルト110,110が継続的に振動する。この場合の振動は地震発生時の振動に比べると微弱であるが、長期に亘って継続的に吊りボルト110が振動することになる。締付ナット6は、緩み止めナットを用いているため、長期に亘って吊りボルト110が継続的に振動する場合であっても、決して締着状態を緩めることがなく、十分な締め付け強度を維持することが可能である。
【0037】
上記のようにして支持装置1が一対の吊りボルト110,110間に設置されると、次に支持装置1に対して支持対象物220が取り付けられる。例えば、図1に示したように、支持装置1にボルト部材210が取り付けられ、そのボルト部材210が支持対象物220を吊り下げた状態で支持する場合には、上記と同様の手順により、支持部材2に固定部材3が取り付けられ、固定部材3の挟着部材4と支持部材2の縦板部21との間にボルト部材210が挟着された状態に固定される。これにより、ボルト部材210は、一対の吊りボルト110,110間において支持部材2から垂下する状態に設置され、上階床スラブ100に対して新たにあと施工アンカーなどを打設する手間を省くことができる。また、ボルト部材210を支持部材2に固定するために固定部材3を用いるため、十分な強度で確実にボルト部材210を支持部材2に固定することができる。
【0038】
以上、本発明に関する好ましい一実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態において説明したものに限定されるものではない。すなわち、本発明には、上記実施形態において説明したものに種々の変形例を適用したものの含まれる。
【0039】
例えば、上記実施形態においては、支持部材2として、縦板部21及び横板部22のそれぞれに、支持部材2の長手方向に所定長さを有する長孔23,24が所定間隔で形成された孔あきアングル材を用いる場合を例示した。しかし、支持装置1は、支持部材2として、必ずしも孔あきアングル材を用いるものには限られない。
【0040】
図9は、支持部材2として長孔23,24が形成されていないアングル材を用いた例を示す図である。図9(a)に示すように、支持部材2は、縦板部21と横板部22とを有している。この支持部材2には、上述した長孔23,24が形成されていない。そのため、縦板部21には、吊りボルト110及びボルト部材210の取り付け位置に対応する位置にボルト挿通孔29が形成される。このボルト挿通孔29は、例えば電動ドリルなどを用いて施工現場において縦板部21に穿孔形成しても良いし、工場から施工現場へ運搬する前に工場において予め穿孔形成しておいても良い。電動ドリルなどを用いて穿孔形成されるボルト挿通孔29は、上述した長孔23とは異なり、図9(a)に示すように円形の孔となる。この場合、固定部材3を支持部材2に取り付ける際には、上述したように挟着部材4、締結ボルト5及び締付ナット6を予め組み付けておくことができない。それ故、図9(a)に示すように、挟着部材4、締結ボルト5及び締付ナット6のそれぞれを分離した状態で、締結ボルト5の雄螺子部5bを縦板部21の裏面側からボルト挿通孔29に差し込み、縦板部21の表面側に突出する雄螺子部5bに挟着部材4及び締付ナット6を取り付ける。これにより、図9(b)に示すように、固定部材3を、支持部材2に取り付けることができる。
【0041】
また、上記実施形態では、締結ボルト5が全体としてT字形状を有するボルトである場合を例示した。しかし、締結ボルト5は、T字形状のものに限られない。
【0042】
図10は、締結ボルト5の変形例を示す図である。図10に示すように、締結ボルト5は、L字形状であっても構わない。この場合、締結ボルト5のボルト頭部5aは、雄螺子部5bに対して略直角を成すように配置された棒状頭部として形成され、その棒状頭部の端部に雄螺子部5bが接続される。この場合、ボルト頭部5aの長さを、上述したように、縦板部21に形成されている長孔23の上縁部から横板部22までの長さH1以上の長さとすることにより、供回り防止手段7を形成することができる。
【0043】
図11は、締結ボルト5の更に別の変形例を示す図である。例えば図11(a)に示すように、締結ボルト5は、一般的な六角ボルトの頭部51に、供回り防止部材52を装着したものであっても構わない。例えば、供回り防止部材52は、平板部53と、平板部53の両端を折り曲げた一対の壁部54,54とを有している。一対の壁部54,54は、その内側に六角ボルトの頭部51を収容可能であり、壁部54,54の内面を頭部51の側面に係合させることが可能である。また、平板部53には、長手方向の端部に形成されたU字状の切欠部55を有し、その切欠部55に六角ボルトの雄螺子部5bを収容することが可能である。この供回り防止部材52は、図11(b)に示すように、切欠部55に六角ボルトの雄螺子部5bを差し込むことにより、締結ボルト5を形成する。すなわち、締結ボルト5は、供回り防止部材52によって供回り防止手段7が形成されている。このように締結ボルト5は、一般的な六角ボルトに供回り防止部材52を装着することによって構成されるものであっても構わない。この場合、一般的な六角ボルトを使用して締結ボルト5を実現することができるため、部品コストを安価に抑えることができるという利点がある。
【0044】
また、上記実施形態では、支持装置1が上階床スラブ100の下方位置に設置される場合を例示した。しかし、上述した支持装置1は、上階床スラブ100の下方位置に限られず、例えば構造梁の下方位置などにも適切に設置可能である。構造梁は、建築物を支持する構造体であるため、あと施工アンカーなどを打ち込んで吊りボルトを設置することができない。そのため、構造梁の下方に支持対象物220を設置する際には、上述した支持装置1を好適に利用することができる。
【0045】
また、上記実施形態の支持装置1は、支持部材2にボルト部材210を取り付け、ボルト部材210が支持対象物220を吊り下げた状態に支持する形態を例示した。しかし、支持装置1は、支持対象物220を吊り下げた状態で支持するものに限られない。例えば、支持装置1は、支持対象物220を支持部材2に載置した状態で支持するものであっても構わない。
【0046】
図12は、構造梁101の下方において支持装置1が支持対象物220を支持部材2の上面に載置した例を示す図である。図12に示すように、構造梁101の下方位置に支持対象物220を設置する場合、一対の吊りボルト110,110は、構造梁101の両側に設置される。そして支持装置1は、構造梁101の両側に設置された一対の吊りボルト110,110を横断するように配置されることにより、構造梁101の下方位置に設置される。また、図12に示す支持装置1は、一対の吊りボルト110,110に支持部材2の縦板部21を接合させた状態に配置するとき、横板部22が縦板部21の上端部に位置するように配置される。そして横板部22に設けられている長孔24には、固定バンド230が取り付けられ、支持対象物220を横板部22に載置した状態に固定する。このように支持装置1は、支持対象物220を支持部材2から吊り下げた状態に支持するだけでなく、支持部材2に載置した状態に支持することも可能である。このように構造梁101の下方位置に支持対象物220を設置するときには、上述した支持装置1を用いることにより、構造梁101に吊りボルト110を設置する必要がなくなるため、構造梁101の強度を低下させることなく、支持対象物220を適切に設置することが可能である。
【0047】
また、上記実施形態では、支持部材2として、断面L型のアングル材(山形鋼)を用いた場合を例示した。しかし、支持部材2は、断面L型のアングル材に限られない。例えば、支持部材2は、リップ溝形鋼や軽溝形鋼を用いても良い。
【0048】
また、上記実施形態では、供回り防止手段7が縦板部21の裏面側に位置する横板部22に係合することにより、締結ボルト5の供回りを防止する例を説明した。しかし、供回り防止手段7は、必ずしも横板部22に係合するものには限られない。例えば、縦板部21の裏面側に突出した係合部を設け、その係合部に供回り防止手段7を係合させることにより、締結ボルト5の供回りを防止する構造を作用しても良い。
【0049】
また、上記実施形態では、締付ナット6として緩み止めナットが用いられており、フリクション片63,63が雄螺子部5bに係合した状態になると、締付ナット6の回転に伴って雄螺子部5bが締付ナット6と共に回転することを例示した。しかし、雄螺子部5bの供回り現象は、締付ナット6が緩み止めナットである場合にのみ起こる現象ではない。例えば、締付ナット6が通常の六角ナットである場合であっても、締付ナット6と雄螺子部5bとの間の摩擦力が一定値を超えると、締付ナット6が十分に締め付けられていない場合であっても雄螺子部5bが締付ナット6と共に回転することがある。そのため、上述した供回り防止手段7は、締付ナット6が緩み止めナットである場合にのみ機能するものではなく、締付ナット6が通常の六角ナットである場合にも十分に機能するものである。
【0050】
更に、上記実施形態では、挟着部材4が縦板部21との間に吊りボルト110を挟み込むことによって吊りボルト110を支持部材2に固定する例を説明した。しかし、挟着部材4は、第1挟着部材と第2挟着部材との2つの部材からなり、それら第1挟着部材と第2挟着部材との間に吊りボルト110を挟み込むものであっても構わない。そして締結ボルト5は、雄螺子部5bの先端を支持部材2のボルト挿通孔に挿通した後、更にその先端を第1挟着部材及び第2挟着部材のそれぞれに貫通させた状態に配置され、その先端に締付ナット6が取り付けられる。このような構造であっても、上記実施形態において説明した作用効果を奏することが明らかである。
【符号の説明】
【0051】
1…支持装置、2…支持部材、3…固定部材、4…挟着部材、5…締結ボルト、6…締付ナット(緩み止めナット)、7…供回り防止手段、21…縦板部、22…横板部、23…長孔(ボルト挿通孔)、110…吊りボルト。
図1
図2
図3
図4
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図7
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図10
図11
図12