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特開2023-145399核酸増幅反応における反応阻害を低減する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145399
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】核酸増幅反応における反応阻害を低減する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6848 20180101AFI20231003BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20231003BHJP
   C12Q 1/6806 20180101ALI20231003BHJP
【FI】
C12Q1/6848 Z
C12N15/10 100Z
C12Q1/6806 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049680
(22)【出願日】2023-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2022051971
(32)【優先日】2022-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000120456
【氏名又は名称】栄研化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】毛利 勇太
(72)【発明者】
【氏名】浅野 良則
(72)【発明者】
【氏名】川口 公平
(72)【発明者】
【氏名】陳 雅▲民▼
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ10
4B063QQ28
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR56
4B063QR62
4B063QR72
4B063QR79
4B063QS14
4B063QS24
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】本発明は、核酸抽出液を精製せずに増幅反応を行った場合における、生体試料に起因する反応阻害を低減することを目的とする。
【解決手段】本発明の一側面に係る核酸増幅反応における反応阻害を低減する方法は、核酸を含む生体試料を、ドデシルアルコール硫酸エステル塩、及び2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単位をモノマー単位として有する共重合体と混合して、核酸抽出液を得る工程を含み、反応阻害は、生体試料に起因する反応阻害である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸増幅反応における反応阻害を低減する方法であって、
核酸を含む生体試料を、ドデシルアルコール硫酸エステル塩、及び2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単位をモノマー単位として有する共重合体と混合して、核酸抽出液を得る工程を含み、
反応阻害は、生体試料に起因する反応阻害である、方法。
【請求項2】
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単位をモノマー単位として有する共重合体が、第一の共重合体、第二の共重合体、第三の共重合体、又は第四の共重合体であり、
第一の共重合体は、フーリエ変換赤外吸収スペクトルにおいて、波数748±4cm-1、787±4cm-1、842±4cm-1、870±4cm-1、959±4cm-1、1056±4cm-1、1163±4cm-1、1234±4cm-1、1389±4cm-1、1481±4cm-1、1707±4cm-1、2947±4cm-1、及び2991±4cm-1にピークを有する共重合体であって、1056±4cm-1でのピーク強度を1としたときのピーク強度が
748±4cm-1で0.075~0.103であり、
787±4cm-1で0.182~0.186であり、
842±4cm-1で0.018~0.031であり、
870±4cm-1で0.009~0.078であり、
959±4cm-1で0.317~0.988であり、
1163±4cm-1で0.616~0.724であり、
1234±4cm-1で0.133~0.141であり、
1389±4cm-1で0.061~0.094であり、
1481±4cm-1で0.158~0.533であり、
1707±4cm-1で1.001~1.246であり、
2947±4cm-1で0.077~0.090であり、
2991±4cm-1で0.028~0.043である、共重合体であり、
第二の共重合体は、フーリエ変換赤外吸収スペクトルにおいて、波数748±4cm-1、785±4cm-1、853±4cm-1、874±4cm-1、928±4cm-1、962±4cm-1、1059±4cm-1、1162±4cm-1、1232±4cm-1、1404±4cm-1、1481±4cm-1、1652±4cm-1、1722±4cm-1、2853±4cm-1、及び2924±4cm-1にピークを有する共重合体であって、1059±4cm-1でのピーク強度を1としたときのピーク強度が
748±4cm-1で0.030~0.046であり、
785±4cm-1で0.182~0.199であり、
853±4cm-1で0超、0.020以下であり、
874±4cm-1で0.059~0.070であり、
928±4cm-1で0.052~0.062であり、
962±4cm-1で0.481~0.510であり、
1162±4cm-1で0.156~0.229であり、
1232±4cm-1で0.506~0.632であり、
1404±4cm-1で0.003~0.018であり、
1481±4cm-1で0.307~0.372であり、
1652±4cm-1で0.013~0.022であり、
1722±4cm-1で0.582~0.647であり、
2853±4cm-1で0.255~0.257であり、
2924±4cm-1で0.502~0.556である、共重合体であり、
第三の共重合体は、フーリエ変換赤外吸収スペクトルにおいて、波数748±4cm-1、786±4cm-1、874±4cm-1、964±4cm-1、1059±4cm-1、1157±4cm-1、1234±4cm-1、1402±4cm-1、1479±4cm-1、1721±4cm-1、2875±4cm-1、及び2957±4cm-1にピークを有する共重合体であって、1059±4cm-1でのピーク強度を1としたときのピーク強度が
748±4cm-1で0.074~0.081であり、
786±4cm-1で0.157~0.172であり、
874±4cm-1で0.049~0.063であり、
964±4cm-1で0.463~0.469であり、
1157±4cm-1で0.450~0.457であり、
1234±4cm-1で0.546~0.563であり、
1402±4cm-1で0.004~0.017であり、
1479±4cm-1で0.026~0.520であり、
1721±4cm-1で1.186~1.234であり、
2875±4cm-1で0.047~0.054であり、
2957±4cm-1で0.138~0.171である、共重合体であり、
第四の共重合体は、フーリエ変換赤外吸収スペクトルにおいて、波数748±4cm-1、784±4cm-1、853±4cm-1、874±4cm-1、928±4cm-1、955±4cm-1、1055±4cm-1、1166±4cm-1、1229±4cm-1、1481±4cm-1、1717±4cm-1、及び2956±4cm-1にピークを有する共重合体であって、1055±4cm-1でのピーク強度を1としたときのピーク強度が
748±4cm-1で0.020~0.045であり、
784±4cm-1で0.161~0.213であり、
853±4cm-1で0.013~0.018であり、
874±4cm-1で0.053~0.076であり、
928±4cm-1で0.039~0.069であり、
955±4cm-1で0.442~0.481であり、
1166±4cm-1で0.080~0.197であり、
1229±4cm-1で0.443~0.594であり、
1481±4cm-1で0.208~0.227であり、
1717±4cm-1で0.462~0.530であり、
2956±4cm-1で0超、0.107以下である、共重合体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第一の共重合体が、図1~3のいずれかに示すフーリエ変換赤外吸収スペクトルと実質的に同一のフーリエ変換赤外吸収スペクトルを有し、
第二の共重合体が、図4~6のいずれかに示すフーリエ変換赤外吸収スペクトルと実質的に同一のフーリエ変換赤外吸収スペクトルを有し、
第三の共重合体が、図7~9のいずれかに示すフーリエ変換赤外吸収スペクトルと実質的に同一のフーリエ変換赤外吸収スペクトルを有し、
第四の共重合体が、図10~12のいずれかに示すフーリエ変換赤外吸収スペクトルと実質的に同一のフーリエ変換赤外吸収スペクトルを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
生体試料が、唾液、喀痰、又は鼻腔拭い液である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
生体試料が唾液若しくは鼻腔拭い液であり、かつ2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単位をモノマー単位として有する共重合体が、第一の共重合体、第二の共重合体、若しくは第三の共重合体である、又は
生体試料が喀痰であり、かつ2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単位をモノマー単位として有する共重合体が、第一の共重合体若しくは第四の共重合体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単位をモノマー単位として有する共重合体が、第一の共重合体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
生体試料をドデシルアルコール硫酸エステル塩、及び2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単位をモノマー単位として有する共重合体と混合する工程において、核酸抽出液中の第一の共重合体の濃度が0.01~0.25%(w/v)となる量の第一の共重合体を混合する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
核酸増幅反応における非特異的増幅を低減する方法であって、
核酸を含む生体試料を、ドデシルアルコール硫酸エステル塩、及び2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単位をモノマー単位として有する共重合体と混合して、核酸抽出液を得る工程を含む、方法。
【請求項9】
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単位をモノマー単位として有する共重合体が、フーリエ変換赤外吸収スペクトルにおいて、波数748±4cm-1、785±4cm-1、853±4cm-1、874±4cm-1、928±4cm-1、962±4cm-1、1059±4cm-1、1162±4cm-1、1232±4cm-1、1404±4cm-1、1481±4cm-1、1652±4cm-1、1722±4cm-1、2853±4cm-1、及び2924±4cm-1にピークを有する第二の共重合体であって、1059±4cm-1でのピーク強度を1としたときのピーク強度が
748±4cm-1で0.030~0.046であり、
785±4cm-1で0.182~0.199であり、
853±4cm-1で0超、0.020以下であり、
874±4cm-1で0.059~0.070であり、
928±4cm-1で0.052~0.062であり、
962±4cm-1で0.481~0.510であり、
1162±4cm-1で0.156~0.229であり、
1232±4cm-1で0.506~0.632であり、
1404±4cm-1で0.003~0.018であり、
1481±4cm-1で0.307~0.372であり、
1652±4cm-1で0.013~0.022であり、
1722±4cm-1で0.582~0.647であり、
2853±4cm-1で0.255~0.257であり、
2924±4cm-1で0.502~0.556である、第二の共重合体である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第二の共重合体が、図4~6のいずれかに示すフーリエ変換赤外吸収スペクトルと実質的に同一のフーリエ変換赤外吸収スペクトルを有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
生体試料が鼻腔拭い液である、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
非特異的増幅が、生体試料に起因する非特異的増幅である、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸増幅反応における反応阻害を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、生体試料中の核酸を増幅する方法として、界面活性剤、グアニジン等のタンパク質変性剤又はフェノール、クロロホルム等の有機溶媒を使用して生体試料から核酸を抽出(溶出)し、得られた核酸抽出液から核酸を精製してから増幅する方法が知られている(例えば、特許文献1)。タンパク質変性剤及び有機溶媒は核酸増幅反応を阻害するため、この方法では、抽出工程の後にタンパク質変性剤及び有機溶媒を除去するための精製工程が必要である。
【0003】
一方、核酸抽出工程の後に精製工程を必ずしも必要としない、核酸の増幅方法も知られている。特許文献2には、DNAポリメラーゼとシクロデキストリンとバインダーとを少なくとも含有する固相状の試薬を、核酸を含む液体に溶解させる手順と、核酸を増幅する手順と、を含む核酸増幅方法が記載されている。この方法によれば、核酸の抽出にイオン性界面活性剤を用いた場合であっても、固相状試薬に含まれるシクロデキストリンによって、イオン性界面活性剤による核酸増幅反応の阻害を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-253158号公報
【特許文献2】特開2014-198029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の方法によれば、イオン性界面活性剤による核酸増幅反応の阻害を低減しつつ、精製工程を省略することで核酸の増幅までにかかる時間を短縮できる。しかしながら、この方法では、生体試料に含まれるタンパク質等の生体由来物質によって、核酸増幅反応時に目的の特異的増幅反応が阻害されるという欠点があった。
【0006】
そこで、本発明は、核酸抽出液を精製せずに増幅反応を行った場合における、生体試料に起因する反応阻害を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、ドデシルアルコール硫酸エステル塩と、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単位をモノマー単位として有する共重合体との組合せを用いて核酸を抽出することで、核酸抽出液を精製せずに増幅反応を行った場合に、生体試料に起因する反応阻害を低減することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の一側面に係る核酸増幅反応における反応阻害を低減する方法は、核酸を含む生体試料を、ドデシルアルコール硫酸エステル塩、及び2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単位をモノマー単位として有する共重合体と混合して、核酸抽出液を得る工程を含み、反応阻害は、生体試料に起因する反応阻害である。
【0009】
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単位をモノマー単位として有する共重合体は、第一の共重合体、第二の共重合体、第三の共重合体、又は第四の共重合体であってよい。
第一の共重合体は、フーリエ変換赤外吸収スペクトルにおいて、波数748±4cm-1、787±4cm-1、842±4cm-1、870±4cm-1、959±4cm-1、1056±4cm-1、1163±4cm-1、1234±4cm-1、1389±4cm-1、1481±4cm-1、1707±4cm-1、2947±4cm-1、及び2991±4cm-1にピークを有する共重合体であって、1056±4cm-1でのピーク強度を1としたときのピーク強度が
748±4cm-1で0.075~0.103であり、
787±4cm-1で0.182~0.186であり、
842±4cm-1で0.018~0.031であり、
870±4cm-1で0.009~0.078であり、
959±4cm-1で0.317~0.988であり、
1163±4cm-1で0.616~0.724であり、
1234±4cm-1で0.133~0.141であり、
1389±4cm-1で0.061~0.094であり、
1481±4cm-1で0.158~0.533であり、
1707±4cm-1で1.001~1.246であり、
2947±4cm-1で0.077~0.090であり、
2991±4cm-1で0.028~0.043である、共重合体である。
第二の共重合体は、フーリエ変換赤外吸収スペクトルにおいて、波数748±4cm-1、785±4cm-1、853±4cm-1、874±4cm-1、928±4cm-1、962±4cm-1、1059±4cm-1、1162±4cm-1、1232±4cm-1、1404±4cm-1、1481±4cm-1、1652±4cm-1、1722±4cm-1、2853±4cm-1、及び2924±4cm-1にピークを有する共重合体であって、1059±4cm-1でのピーク強度を1としたときのピーク強度が
748±4cm-1で0.030~0.046であり、
785±4cm-1で0.182~0.199であり、
853±4cm-1で0超、0.020以下であり、
874±4cm-1で0.059~0.070であり、
928±4cm-1で0.052~0.062であり、
962±4cm-1で0.481~0.510であり、
1162±4cm-1で0.156~0.229であり、
1232±4cm-1で0.506~0.632であり、
1404±4cm-1で0.003~0.018であり、
1481±4cm-1で0.307~0.372であり、
1652±4cm-1で0.013~0.022であり、
1722±4cm-1で0.582~0.647であり、
2853±4cm-1で0.255~0.257であり、
2924±4cm-1で0.502~0.556である、共重合体である。
第三の共重合体は、フーリエ変換赤外吸収スペクトルにおいて、波数748±4cm-1、786±4cm-1、874±4cm-1、964±4cm-1、1059±4cm-1、1157±4cm-1、1234±4cm-1、1402±4cm-1、1479±4cm-1、1721±4cm-1、2875±4cm-1、及び2957±4cm-1にピークを有する共重合体であって、1059±4cm-1でのピーク強度を1としたときのピーク強度が
748±4cm-1で0.074~0.081であり、
786±4cm-1で0.157~0.172であり、
874±4cm-1で0.049~0.063であり、
964±4cm-1で0.463~0.469であり、
1157±4cm-1で0.450~0.457であり、
1234±4cm-1で0.546~0.563であり、
1402±4cm-1で0.004~0.017であり、
1479±4cm-1で0.026~0.520であり、
1721±4cm-1で1.186~1.234であり、
2875±4cm-1で0.047~0.054であり、
2957±4cm-1で0.138~0.171である、共重合体である。
第四の共重合体は、フーリエ変換赤外吸収スペクトルにおいて、波数748±4cm-1、784±4cm-1、853±4cm-1、874±4cm-1、928±4cm-1、955±4cm-1、1055±4cm-1、1166±4cm-1、1229±4cm-1、1481±4cm-1、1717±4cm-1、及び2956±4cm-1にピークを有する共重合体であって、1055±4cm-1でのピーク強度を1としたときのピーク強度が
748±4cm-1で0.020~0.045であり、
784±4cm-1で0.161~0.213であり、
853±4cm-1で0.013~0.018であり、
874±4cm-1で0.053~0.076であり、
928±4cm-1で0.039~0.069であり、
955±4cm-1で0.442~0.481であり、
1166±4cm-1で0.080~0.197であり、
1229±4cm-1で0.443~0.594であり、
1481±4cm-1で0.208~0.227であり、
1717±4cm-1で0.462~0.530であり、
2956±4cm-1で0超、0.107以下である、共重合体である。
【0010】
第一の共重合体は、図1~3のいずれかに示すフーリエ変換赤外吸収スペクトルと実質的に同一のフーリエ変換赤外吸収スペクトルを有してよく、第二の共重合体は、図4~6のいずれかに示すフーリエ変換赤外吸収スペクトルと実質的に同一のフーリエ変換赤外吸収スペクトルを有してよく、第三の共重合体は、図7~9のいずれかに示すフーリエ変換赤外吸収スペクトルと実質的に同一のフーリエ変換赤外吸収スペクトルを有してよく、第四の共重合体は、図10~12のいずれかに示すフーリエ変換赤外吸収スペクトルと実質的に同一のフーリエ変換赤外吸収スペクトルを有してよい。
【0011】
生体試料は、唾液、喀痰、又は鼻腔拭い液であってよい。
【0012】
生体試料が唾液又は鼻腔拭い液の場合には、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単位をモノマー単位として有する共重合体として、第一の共重合体、第二の共重合体、又は第三の共重合体を用いてもよい。生体試料が喀痰の場合には、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単位をモノマー単位として有する共重合体として、第一の共重合体又は第四の共重合体を用いてもよい。
【0013】
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単位をモノマー単位として有する共重合体は、好ましくは第一の共重合体である。
【0014】
生体試料をドデシルアルコール硫酸エステル塩、及び2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単位をモノマー単位として有する共重合体と混合する工程において、核酸抽出液中の第一の共重合体の濃度が0.01~0.25%(w/v)となる量の第一の共重合体を混合してもよい。
【0015】
本発明の一側面に係る核酸増幅反応における非特異的増幅を低減する方法は、核酸を含む生体試料を、ドデシルアルコール硫酸エステル塩、及び2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単位をモノマー単位として有する共重合体と混合して、核酸抽出液を得る工程を含む。
【0016】
核酸増幅反応における非特異的増幅を低減する方法において、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単位をモノマー単位として有する共重合体は、フーリエ変換赤外吸収スペクトルにおいて、波数748±4cm-1、785±4cm-1、853±4cm-1、874±4cm-1、928±4cm-1、962±4cm-1、1059±4cm-1、1162±4cm-1、1232±4cm-1、1404±4cm-1、1481±4cm-1、1652±4cm-1、1722±4cm-1、2853±4cm-1、及び2924±4cm-1にピークを有する第二の共重合体であって、1059±4cm-1でのピーク強度を1としたときのピーク強度が
748±4cm-1で0.030~0.046であり、
785±4cm-1で0.182~0.199であり、
853±4cm-1で0超、0.020以下であり、
874±4cm-1で0.059~0.070であり、
928±4cm-1で0.052~0.062であり、
962±4cm-1で0.481~0.510であり、
1162±4cm-1で0.156~0.229であり、
1232±4cm-1で0.506~0.632であり、
1404±4cm-1で0.003~0.018であり、
1481±4cm-1で0.307~0.372であり、
1652±4cm-1で0.013~0.022であり、
1722±4cm-1で0.582~0.647であり、
2853±4cm-1で0.255~0.257であり、
2924±4cm-1で0.502~0.556である、第二の共重合体であってよい。第二の共重合体は、図4~6のいずれかに示すフーリエ変換赤外吸収スペクトルと実質的に同一のフーリエ変換赤外吸収スペクトルを有してよい。
【0017】
核酸増幅反応における非特異的増幅を低減する方法において、生体試料は鼻腔拭い液であってよい。
【0018】
核酸増幅反応における非特異的増幅を低減する方法において、非特異的増幅は、生体試料に起因する非特異的増幅であってよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、核酸抽出液を精製せずに増幅反応を行った場合における、生体試料に起因する反応阻害を低減することができる。また、本発明によれば、核酸抽出液を精製せずに増幅反応を行った場合における非特異的増幅も低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第一の共重合体(LIPIDURE(登録商標)-BL405))のフーリエ変換赤外吸収スペクトルである。
図2】第一の共重合体(LIPIDURE(登録商標)-BL405)のフーリエ変換赤外吸収スペクトルである。
図3】第一の共重合体(LIPIDURE(登録商標)-BL405)のフーリエ変換赤外吸収スペクトルである。
図4】第二の共重合体(LIPIDURE(登録商標)-BL1002)のフーリエ変換赤外吸収スペクトルである。
図5】第二の共重合体(LIPIDURE(登録商標)-BL1002)のフーリエ変換赤外吸収スペクトルである。
図6】第二の共重合体(LIPIDURE(登録商標)-BL1002)のフーリエ変換赤外吸収スペクトルである。
図7】第三の共重合体(LIPIDURE(登録商標)-BL802)のフーリエ変換赤外吸収スペクトルである。
図8】第三の共重合体(LIPIDURE(登録商標)-BL802)のフーリエ変換赤外吸収スペクトルである。
図9】第三の共重合体(LIPIDURE(登録商標)-BL802)のフーリエ変換赤外吸収スペクトルである。
図10】第四の共重合体(LIPIDURE(登録商標)-BL407)のフーリエ変換赤外吸収スペクトルである。
図11】第四の共重合体(LIPIDURE(登録商標)-BL407)のフーリエ変換赤外吸収スペクトルである。
図12】第四の共重合体(LIPIDURE(登録商標)-BL407)のフーリエ変換赤外吸収スペクトルである。
図13】SDSとリピジュア(登録商標)との組合せがRT-LAMP反応における反応阻害に及ぼす影響を示すグラフである。
図14】SDSとリピジュア(登録商標)との組合せがRT-LAMP反応における非特異的増幅に及ぼす影響を示すグラフである。
図15】核酸抽出液中のLIPIDURE(登録商標)-BL405の濃度と、目的の増副産物の検出時間の遅延との関係を示すグラフである。
図16】異なる検体量において、SDSとLIPIDURE(登録商標)-BL405との組合せがRT-LAMP反応における反応阻害に及ぼす影響を示すグラフである。
図17】LDSとLIPIDURE(登録商標)-BL405との組合せがRT-LAMP反応における反応阻害に及ぼす影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一側面に係る核酸増幅反応における反応阻害を低減する方法は、核酸を含む生体試料を、ドデシルアルコール硫酸エステル塩、及び2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)単位をモノマー単位として有する共重合体と混合して、核酸抽出液を得る工程(以下、抽出工程ともいう。)を含む。反応阻害は、生体試料に起因する反応阻害であり、より具体的には、生体試料中の生体由来物質に起因する反応阻害である。生体由来物質は核酸以外の物質であり、例えばタンパク質が挙げられる。
【0022】
本明細書において、生体試料とは、生体から採取した試料(検体)又はその懸濁液を意味する。核酸を含む生体試料は特に限定されず、例えば、喀痰、体液、糞便、組織、又はこれらの懸濁液であってよい。体液は、例えば、鼻汁、唾液、血液、血清、血漿、髄液、尿、精液、又は羊水であってよい。また、核酸を含む生体試料は、鼻咽頭拭い液、気管支洗浄液、気管支肺胞洗浄液、鼻腔吸引液、鼻腔洗浄液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、又はうがい液であってもよい。
【0023】
生体試料に含まれる核酸の種類は特に限定されない。核酸は、例えば、DNA又はRNAであってよく、一本鎖又は二重鎖であってよい。核酸の由来も限定されず、核酸は、例えば、動物、植物、菌類、細菌類、又はウイルスに由来する核酸であってよい。
【0024】
ドデシルアルコール硫酸エステル塩は、ドデシルアルコール硫酸エステルの塩であれば特に限定されず、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)又はドデシル硫酸リチウム(LDS)であってよい。
【0025】
MPC単位をモノマー単位として有する共重合体(以下、MPCポリマーという。)としては、日油株式会社製のリピジュア(登録商標)シリーズを用いることができる。MPCポリマーは、好ましくはLIPIDURE(登録商標)-BL405として市販されているMPCポリマー(以下、第一の共重合体という。)、LIPIDURE(登録商標)-BL1002として市販されているMPCポリマー(以下、第二の共重合体という。)、LIPIDURE(登録商標)-BL802として市販されているMPCポリマー(以下、第三の共重合体という。)、又はLIPIDURE(登録商標)-BL407として市販されているMPCポリマー(以下、第四の共重合体という。)である。これらの製品はいすれも5質量%MPCポリマー水溶液である。核酸増幅反応における反応阻害を低減する観点からは、第一の共重合体がより好ましい。核酸増幅反応における非特異的増幅を低減する観点からは、第二の共重合体がより好ましい。MPCポリマーとして、複数のMPCポリマーを用いてもよい。
【0026】
生体試料が唾液又は鼻腔拭い液である場合、MPCポリマーは、好ましくは第一の共重合体、第二の共重合体、又は第三の共重合体である。生体試料が喀痰である場合、MPCポリマーは、好ましくは第一の共重合体若しくは第四の共重合体である。
【0027】
第一の共重合体は、フーリエ変換赤外吸収スペクトルにおいて、波数748±4cm-1、787±4cm-1、842±4cm-1、870±4cm-1、959±4cm-1、1056±4cm-1、1163±4cm-1、1234±4cm-1、1389±4cm-1、1481±4cm-1、1707±4cm-1、2947±4cm-1、及び2991±4cm-1にピークを有する。1056±4cm-1でのピーク強度を1としたときの各ピークのピーク強度は、
748±4cm-1で0.075~0.103であり、
787±4cm-1で0.182~0.186であり、
842±4cm-1で0.018~0.031であり、
870±4cm-1で0.009~0.078であり、
959±4cm-1で0.317~0.988であり、
1163±4cm-1で0.616~0.724であり、
1234±4cm-1で0.133~0.141であり、
1389±4cm-1で0.061~0.094であり、
1481±4cm-1で0.158~0.533であり、
1707±4cm-1で1.001~1.246であり、
2947±4cm-1で0.077~0.090であり、
2991±4cm-1で0.028~0.043である。
【0028】
図1~3は、後述の実施例6において測定した第一の共重合体のフーリエ変換赤外吸収スペクトルである。したがって、第一の共重合体は、図1~3のいずれかに示すフーリエ変換赤外吸収スペクトルと実質的に同一のフーリエ変換赤外吸収スペクトルを有するといえる。
【0029】
第二の共重合体は、フーリエ変換赤外吸収スペクトルにおいて、波数748±4cm-1、785±4cm-1、853±4cm-1、874±4cm-1、928±4cm-1、962±4cm-1、1059±4cm-1、1162±4cm-1、1232±4cm-1、1404±4cm-1、1481±4cm-1、1652±4cm-1、1722±4cm-1、2853±4cm-1、及び2924±4cm-1に特徴的な吸収ピークを有する。1059±4cm-1でのピーク強度を1としたときの各ピークのピーク強度は、
748±4cm-1で0.030~0.046であり、
785±4cm-1で0.182~0.199であり、
853±4cm-1で0超、0.020以下であり、
874±4cm-1で0.059~0.070であり、
928±4cm-1で0.052~0.062であり、
962±4cm-1で0.481~0.510であり、
1162±4cm-1で0.156~0.229であり、
1232±4cm-1で0.506~0.632であり、
1404±4cm-1で0.003~0.018であり、
1481±4cm-1で0.307~0.372であり、
1652±4cm-1で0.013~0.022であり、
1722±4cm-1で0.582~0.647であり、
2853±4cm-1で0.255~0.257であり、
2924±4cm-1で0.502~0.556である。
【0030】
図4~6は、後述の実施例6において測定した第二の共重合体のフーリエ変換赤外吸収スペクトルである。したがって、第二の共重合体は、図4~6のいずれかに示すフーリエ変換赤外吸収スペクトルと実質的に同一のフーリエ変換赤外吸収スペクトルを有するといえる。
【0031】
第三の共重合体は、フーリエ変換赤外吸収スペクトルにおいて、波数748±4cm-1、786±4cm-1、874±4cm-1、964±4cm-1、1059±4cm-1、1157±4cm-1、1234±4cm-1、1402±4cm-1、1479±4cm-1、1721±4cm-1、2875±4cm-1、及び2957±4cm-1に特徴的な吸収ピークを有する。1059±4cm-1でのピーク強度を1としたときの各ピークのピーク強度は、
748±4cm-1で0.074~0.081であり、
786±4cm-1で0.157~0.172であり、
874±4cm-1で0.049~0.063であり、
964±4cm-1で0.463~0.469であり、
1157±4cm-1で0.450~0.457であり、
1234±4cm-1で0.546~0.563であり、
1402±4cm-1で0.004~0.017であり、
1479±4cm-1で0.026~0.520であり、
1721±4cm-1で1.186~1.234であり、
2875±4cm-1で0.047~0.054であり、
2957±4cm-1で0.138~0.171である。
【0032】
図7~9は、後述の実施例6において測定した第三の共重合体のフーリエ変換赤外吸収スペクトルである。したがって、第三の共重合体は、図7~9のいずれかに示すフーリエ変換赤外吸収スペクトルと実質的に同一のフーリエ変換赤外吸収スペクトルを有するといえる。
【0033】
第四の共重合体は、フーリエ変換赤外吸収スペクトルにおいて、波数748±4cm-1、784±4cm-1、853±4cm-1、874±4cm-1、928±4cm-1、955±4cm-1、1055±4cm-1、1166±4cm-1、1229±4cm-1、1481±4cm-1、1717±4cm-1、及び2956±4cm-1に特徴的な吸収ピークを有する。1055±4cm-1でのピーク強度を1としたときの各ピークのピーク強度は、
748±4cm-1で0.020~0.045であり、
784±4cm-1で0.161~0.213であり、
853±4cm-1で0.013~0.018であり、
874±4cm-1で0.053~0.076であり、
928±4cm-1で0.039~0.069であり、
955±4cm-1で0.442~0.481であり、
1166±4cm-1で0.080~0.197であり、
1229±4cm-1で0.443~0.594であり、
1481±4cm-1で0.208~0.227であり、
1717±4cm-1で0.462~0.530であり、
2956±4cm-1で0超、0.107以下である。
【0034】
図10~12は、後述の実施例6において測定した第四の共重合体のフーリエ変換赤外吸収スペクトルである。したがって、第四の共重合体は、図10~12のいずれかに示すフーリエ変換赤外吸収スペクトルと実質的に同一のフーリエ変換赤外吸収スペクトルを有するといえる。
【0035】
本明細書に記載されるフーリエ変換赤外吸収スペクトルは、減衰全反射(ATR)法を利用したフーリエ変換赤外分光法により測定したスペクトルに対してベースライン補正及びATR補正を行ったスペクトルである。ベースライン補正は、具体的には解析ソフトLabSolutions(登録商標)IR(株式会社島津製作所製)を用いて、表1に示す波数を補正点として指定して行うベースライン補正である。ATR補正は、具体的には解析ソフトLabSolutions(登録商標)IR(株式会社島津製作所製)を用いて、999cm-1を補正波数として指定して行うATR補正である。本明細書に記載されるピーク強度は、上記補正後のスペクトルにおいて、ピークの始点と終点を結んだ線(ベースライン)からピークトップまでの高さ、すなわち、ピークトップからベースラインに引いた垂線における、ベースラインとの交点からピークトップまでの長さを意味する。
【0036】
【表1】
【0037】
本明細書において、「±4」との記載は、その直前に数値が記載されている場合、該直前の数値から4を減じた数値を下限とし、該直前の数値に4を加えた数値を上限とする範囲を示すことを意味する。したがって、例えば、「波数748±4cm-1」は「波数744~752cm-1」と同義である。
【0038】
本明細書において、「実質的に同一のフーリエ変換赤外吸収スペクトル」とは、完全に同一のフーリエ変換赤外吸収スペクトルだけでなく、測定時に通常生じる誤差の範囲でピークの波数及び/又は強度が異なるフーリエ変換赤外吸収スペクトルも意味する。ここで、実施例6において示されるように、ピークの波数には±4cm-1の範囲でばらつきが生じ得るため、「実質的に同一のフーリエ変換赤外吸収スペクトル」は、例えば、ピークの波数が±4cm-1の範囲で異なるフーリエ変換赤外吸収スペクトルであってよい。また、第一~第四の共重合体のフーリエ変換赤外吸収スペクトルおいては、波数1055~1059cm-1付近のピークのピーク強度を1としたときの他のピークのピーク強度(本明細書中、「ピーク強度比」ともいう。)に、±3×標準偏差の範囲でばらつきが生じ得る。したがって、「実質的に同一のフーリエ変換赤外吸収スペクトル」は、例えば、ピーク強度比が±3×標準偏差の範囲で異なるフーリエ変換赤外吸収スペクトルであってよく、具体的には、ピーク強度比が実施例6の表8~11に示すピーク強度比の範囲内で図1~12とは異なるフーリエ変換赤外吸収スペクトルであってよい。なお、後述するように、表8は第一の共重合体のピークを示し、表9は第二の共重合体のピークを示し、表10は第三の共重合体のピークを示し、表11は第四の共重合体のピークを示す。
【0039】
核酸抽出液中のドデシルアルコール硫酸エステル塩の濃度は、核酸を抽出できる濃度であれば特に制限されず、例えば、0.01~1%(w/v)、0.1~1%(w/v)、又は0.2~1%(w/v)であってよい。抽出工程において混合するドデシルアルコール硫酸エステル塩の量は、核酸抽出液中のドデシルアルコール硫酸エステル塩の濃度が上記濃度範囲となる量であってよい。
【0040】
核酸抽出液中のMPCポリマーの濃度は、例えば、0.01~4.0%(w/v)であってよく、0.02~2.0%(w/v)であってよい。MPCポリマーとして第一の共重合体を用いる場合、核酸抽出液中の第一の共重合体の濃度は、好ましくは0.01%(w/v)以上、より好ましくは0.02%(w/v)以上であり、0.025%(w/v)以上、0.03%(w/v)以上、0.05%(w/v)以上、0.06%(w/v)以上、又は0.1%(w/v)以上であってもよい。核酸抽出液中の第一の共重合体の濃度は、例えば、0.25%(w/v)以下、0.2%(w/v)以下、0.1%(w/v)以下、0.06%(w/v)以下、0.05%(w/v)以下、又は0.03%(w/v)以下であってよい。核酸抽出液中の第一の共重合体の濃度は、例えば、0.01~0.25%(w/v)、0.02~0.2%(w/v)、0.025~0.1%(w/v)、又は0.03~0.1%(w/v)であってよい。抽出工程において混合するMPCポリマーの量は、核酸抽出液中のMPCポリマーの濃度が上記濃度範囲となる量であってよい。
【0041】
生体試料、ドデシルアルコール硫酸エステル塩、及びMPCポリマーを混合する順番は特に限定されず、各成分を任意の順番で混合することができる。また、各成分を同時に混合してもよい。一実施形態において、ドデシルアルコール硫酸エステル塩及びMPCポリマーを予め混合して後述の核酸抽出試薬を調製しておき、かかる核酸抽出試薬を生体試料と混合してもよい。
【0042】
抽出工程の温度は特に限定されず、例えば、0~100℃又は15~30℃であってよい。
【0043】
本側面に係る核酸増幅反応における反応阻害を低減する方法は、核酸増幅反応を行うための公知の試薬を核酸抽出液に混合する工程をさらに含んでよい。核酸増幅反応を行うための公知の試薬としては、例えば、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ等の核酸合成酵素、デオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP:dATP、dTTP、dCTP、及びdGTP)、及びプライマーが挙げられる。核酸増幅反応を行うためのその他の公知の試薬としては、例えば、酵素反応に好適な条件を与える緩衝剤、酵素又は鋳型を安定化するジチオトレイトール(DTT)等の保護剤、増副産物を検出するためのプローブ、並びに核酸を効率的に増幅させる上で有用なシクロデキストリンが挙げられる。
【0044】
本側面に係る核酸増幅反応における反応阻害を低減する方法は、核酸抽出液中の核酸を増幅する工程(以下、増幅工程ともいう。)をさらに含んでよい。核酸の増幅は、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法、RT-PCR(逆転写PCR)法、LAMP(ループ媒介等温増幅)法、RT-LAMP(逆転写LAMP)法、TRC(転写-逆転写協奏反応)法等、従来公知の核酸増幅法を用いて行うことができる。
【0045】
増幅工程は、シクロデキストリンの存在下で行うことが好ましい。シクロデキストリンとしては、例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、及びこれらの誘導体が挙げられる。シクロデキストリンの誘導体とは、水酸基の一部がOR基に置換された分子であり、Rは、例えば、炭化水素基又はヒドロキシアルキル基である。一例として、シクロデキストリンは、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(Hp-β-CD)であってよい。シクロデキストリンの量は、例えば、核酸抽出液中のドデシルアルコール硫酸エステル塩1質量部に対して8質量部以上であってよい。シクロデキストリンは、ドデシルアルコール硫酸エステル塩を包接する作用を有するため、核酸増幅反応にドデシルアルコール硫酸エステル塩が及ぼす影響を低減することができる。
【0046】
本側面に係る核酸増幅反応における反応阻害を低減する方法は、核酸の抽出にドデシルアルコール硫酸エステル塩とMPCポリマーを用いるため、核酸を増幅する前に核酸抽出液から核酸を分離及び精製する必要がない。したがって、核酸増幅反応における反応阻害を低減する方法は、抽出工程と増幅工程との間に、核酸抽出液から核酸を分離又は精製する工程を含まなくてよい。本方法によれば、核酸を分離又は精製する工程を割愛することができるため、簡便、迅速かつ高効率に核酸を増幅することができる。
【0047】
また、上記側面に係る核酸増幅反応における反応阻害を低減する方法においては、ドデシルアルコール硫酸エステル塩とMPCポリマーを組み合わせることで、増幅反応における反応阻害を低減できるだけでなく、非特異的増幅を低減することもできる。したがって、本発明の別の一側面は、核酸を含む生体試料を、ドデシルアルコール硫酸エステル塩及びMPCポリマーと混合して、核酸抽出液を得る工程(抽出工程)を含む、核酸増幅反応における非特異的増幅を低減する方法であるといえる。非特異的増幅は、生体試料に起因する非特異的増幅であってよく、より具体的には、生体試料中の生体由来物質に起因する非特異的増幅であってよい。生体由来物質は核酸以外の物質であり、例えばタンパク質が挙げられる。
【0048】
抽出工程の詳細は、上述のとおりである。ただし、生体試料が鼻腔拭い液である場合、MPCポリマーは、より好ましくは第二の共重合体である。
【0049】
本側面に係る核酸増幅反応における非特異的増幅を低減する方法は、核酸増幅反応を行うための公知の試薬を核酸抽出液に混合する工程をさらに含んでよく、かつ/又は核酸抽出液中の核酸を増幅する工程(増幅工程)をさらに含んでよい。これらの工程の詳細は、上述のとおりである。
【0050】
本側面に係る核酸増幅反応における非特異的増幅を低減する方法においては、上記側面に係る核酸増幅反応における反応阻害を低減する方法同様、核酸を増幅する前に核酸抽出液から核酸を分離及び精製する必要がない。したがって、核酸増幅反応における非特異的増幅を低減する方法は、抽出工程と増幅工程との間に、核酸抽出液から核酸を分離又は精製する工程を含まなくてよい。本方法によれば、核酸を分離又は精製する工程を割愛することができるため、簡便、迅速かつ高効率に核酸を増幅することができる。
【0051】
本発明の別の一側面は、核酸を含む生体試料を、ドデシルアルコール硫酸エステル塩及びMPCポリマーと混合して、核酸抽出液を得る工程(抽出工程)を含む、核酸を抽出する方法である。抽出工程の詳細は、上述のとおりである。
【0052】
本発明の別の一側面は、核酸を抽出する上記方法により核酸抽出液を得る工程(抽出工程)と、核酸抽出液中の核酸を増幅する工程(増幅工程)とを含む、核酸を増幅する方法である。増幅工程の詳細は、上述のとおりである。
【0053】
本側面に係る核酸を増幅する方法は、抽出工程と増幅工程との間に、核酸増幅反応を行うための公知の試薬を核酸抽出液に混合する工程を含んでよい。この工程の詳細は、上述のとおりである。また、本側面に係る核酸を増幅する方法は、抽出工程と増幅工程との間に、核酸抽出液から核酸を分離又は精製する工程を含まなくてよい。
【0054】
上記側面に係る核酸を抽出する方法及び核酸を増幅する方法によれば、核酸抽出液を精製せずに増幅反応を行った場合における、生体試料に起因する反応阻害、及び非特異的増幅を低減することができる。
【0055】
本発明の別の一側面は、ドデシルアルコール硫酸エステル塩とMPCポリマーとを含む、核酸抽出試薬である。ドデシルアルコール硫酸エステル塩及びMPCポリマーの詳細は、上述のとおりである。
【0056】
核酸抽出試薬中のドデシルアルコール硫酸エステル塩の濃度は、核酸を抽出できる濃度であれば特に制限されず、例えば、0.01~1%(w/v)、0.1~1%(w/v)、又は0.2~1%(w/v)であってよい。
【0057】
核酸抽出試薬中のMPCポリマーの濃度は、例えば、0.01~4.0%(w/v)であってよく、0.02~2.0%(w/v)であってよい。MPCポリマーとして第一の共重合体を用いる場合、核酸抽出試薬中の第一の共重合体の濃度は、例えば、0.01~0.25%(w/v)、0.02~0.2%(w/v)、0.025~0.1%(w/v)、又は0.03~0.1%(w/v)であってよい。
【0058】
核酸抽出試薬を使用することのできる生体試料は、核酸を含む生体試料であれば特に限定されず、上述の生体試料を用いることができる。核酸抽出試薬は、例えば、唾液、喀痰、又は鼻腔拭い液中の核酸を抽出するための試薬であってよい。
【0059】
上記側面に係る核酸抽出試薬は、ドデシルアルコール硫酸エステル塩とMPCポリマーとを含む組成物であるが、本発明の別の一側面において、ドデシルアルコール硫酸エステル塩とMPCポリマーは、別々の試薬として提供されてもよい。すなわち、本発明の別の一側面は、ドデシルアルコール硫酸エステル塩とMPCポリマーとを含む、核酸抽出用キットである。
【実施例0060】
以下の試験例において、「%」は、別段の記載がない限り(質量/容量)%、すなわち%(w/v)を指す。リピジュア(登録商標)の濃度は、リピジュア(登録商標)に含まれるMPCポリマーの濃度で示した。
【0061】
以下の試験例において、検体抽出液の調製は室温(20~25℃)にて行い、RT-LAMP反応液の調製は氷上にて行った。RT-LAMP反応の鋳型として用いたRNAは、配列番号1に示すSARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)のM遺伝子を組み込んだ人工遺伝子を転写することにより作製した。検体と混合したリピジュア(登録商標)(MPCポリマーの5質量%水溶液)は、すべて日油株式会社製である。RT-LAMP反応に用いたLAMPマスターミックスは、LAMPプレミックス(緩衝液、MgSO、dNTP、プライマーミックス、プローブ、AMV逆転写酵素、及びBst DNAポリメラーゼを含む)に、Hp-β-CDを加え、撹拌及び遠心することで調製した。表2にプライマーミックスに含まれるプライマー及びプローブの配列並びに終濃度を示す。ただし、表2中のLFプライマー及びLBプライマーは、実施例1及び2では使用しなかった。プローブの3’末端はBODIPY(登録商標) FLで標識した。
【0062】
【表2】
【0063】
RT-LAMP反応は、リアルタイムPCR装置LightCycler(登録商標) 480 Instrument II(ロシュ社製)を用いて、63℃で50分行った。実施例2以外の実施例では、プローブの消光による蛍光強度の減少をモニタリングし(励起波長465nm、検出波長510nm)、所定の蛍光強度に減少するまでに要する時間(検出時間)を算出した。
【0064】
<実施例1>増幅阻害に対するMPCポリマーの効果
(1)鼻腔拭い液
健常人から鼻腔拭い液を採取したドライスワブを、400μLの0.2%SDS溶液に攪拌しながら懸濁し、検体懸濁液を得た。検体懸濁液3.8μLを、LIPIDURE(登録商標)-BL405、BL802、又はBL1002を含む0.15%SDS溶液11.3μLに添加し、検体抽出液を得た。検体抽出液中のリピジュア(登録商標)の濃度は表3に示すとおりである。表3に示す濃度は、増幅反応を阻害しない濃度である。別途、0.2%SDS溶液3.8μLを0.15%SDS溶液11.3μLに混合して、対照を調製した。
【0065】
【表3】
【0066】
(2)唾液
健常人から採取した唾液34μLを、316μLの0.2%SDS溶液に攪拌しながら懸濁し、検体懸濁液を得た。検体懸濁液24μLに、LIPIDURE(登録商標)-BL405、BL802、又はBL1002を6.0μL添加し、検体抽出液を得た。検体抽出液中のリピジュア(登録商標)の濃度は表3に示すとおりである。別途、精製水34μLを316μLの0.2%SDS溶液に混合し、得られた溶液24μLに精製水6.0μL添加し、対照を調製した。
【0067】
(3)喀痰
健常人から採取した喀痰12.2μLを、87.8μLの0.23%SDS溶液に攪拌しながら懸濁し、検体懸濁液を得た。検体懸濁液4.0μLに、LIPIDURE(登録商標)-BL405又はBL407を含む0.25%SDS溶液16.0μLを添加し、検体抽出液を得た。検体抽出液中のリピジュア(登録商標)の濃度は表3に示すとおりである。別途、精製水12.2μLを87.8μLの0.23%SDS溶液に混合し、得られた溶液4.0μLに0.25%SDS溶液16.0μLを混合して、対照を調製した。
【0068】
(4)RT-LAMP反応
上記(1)~(3)の検体抽出液又は対照4.0μL、鋳型RNA(鼻腔拭い液及び唾液に対しては500コピー、喀痰に対しては2000コピー)を含む溶液1.0μL、及びLAMPマスターミックス5.0μLを混合し、得られた反応液(4.0%Hp-β-CD含む)についてRT-LAMP反応を行った。比較のため、リピジュア(登録商標)を含まない反応液を用いて、同様にRT-LAMP反応を行った。
【0069】
結果を図13に示す。図13の(a)は鼻腔拭い液を含む反応液の結果を示し、図13の(b)は唾液を含む反応液の結果を示し、図13の(c)は喀痰を含む反応液の結果を示す。検体を含む反応液では、検体を含まない対照の反応液と比べて検出に長い時間を要していた。これは、検体中の生体由来物質により目的の増幅反応が阻害されたことを示す。また、リピジュア(登録商標)を添加することによって、検体を含む反応液での検出時間が短縮された。これは、リピジュア(登録商標)の添加によって、検体中の生体由来物質による目的の増幅反応の阻害が低減されたことを示す。
【0070】
<実施例2>非特異的増幅に対するMPCポリマーの効果
健常人から鼻腔拭い液を採取したドライスワブを、400μLの0.2%SDS溶液に攪拌しながら懸濁し、検体懸濁液を得た。検体懸濁液1.5μLを、LIPIDURE(登録商標)-BL405、BL802、又はBL1002を含む0.16%SDS溶液13.5μLに添加し、検体抽出液を得た。検体抽出液中のリピジュア(登録商標)の濃度は表3に示すとおりである。別途、0.2%SDS溶液1.5μLを0.16%SDS溶液13.5μLに混合して、対照を調製した。検体抽出液又は対照5.0μL及びLAMPマスターミックス5.0μLを混合し、得られた反応液(4.0%Hp-β-CD含む)についてRT-LAMP反応を行った。比較のため、リピジュア(登録商標)を含まない反応液を用いて、同様にRT-LAMP反応を行った。なお、非特異的増幅の程度を調べるために、LAMPマスターミックスには、反応液中の濃度が0.10μMとなるようにSYTO(商標) 63 Red Fluorescent Nucleic Acid Stainを添加し、SYTOの蛍光強度をモニタリングした(励起波長618nm、検出波長660nm)。
【0071】
結果を図14に示す。図14の(a)は鼻腔拭い液を含む反応液の結果を示し、図14の(b)は鼻腔拭い液を含まない対照の反応液の結果を示す。図14の(a)が示すように、検体にLIPIDURE(登録商標)-BL1002を添加した場合は、リピジュア(登録商標)を添加しなかった場合と比べて非特異的増幅反応が遅延した。これは、LIPIDURE(登録商標)-BL1002の添加によって、非特異的増幅反応が低減されたことを示す。
【0072】
<実施例3>MPCポリマー濃度の変化による影響
健常人から採取した唾液(2検体)又は精製水11μLに、0.00~0.25%(w/v)のLIPIDURE(登録商標)-BL405(第一の共重合体)を含む1.2%SDS溶液70μLを添加し、検体抽出液を得た。鋳型RNA200コピーを含む溶液0.3μL、検体抽出液10.0μL、及びLAMPマスターミックス14.7μLを混合し、得られた反応液(8.0%Hp-β-CD含む)についてRT-LAMP反応を行った。下式のとおり、唾液検体に起因する検出時間の遅延を算出した:
遅延時間(分)=(唾液を含む反応液での検出時間)-(精製水を含む反応液での検出時間)
【0073】
結果を図15に示す。0.016~0.25%(w/v)のいずれ濃度でも、LIPIDURE(登録商標)-BL405を含まない場合と比較して、遅延時間が減少していた。この結果は、0.016~0.25%(w/v)のLIPIDURE(登録商標)-BL405の添加によって、唾液検体中の生体由来物質による目的の増幅反応の阻害が低減されたことを示す。
【0074】
<実施例4>検体量の変化による影響
健常人から採取した唾液10μLに、0.063%(w/v)のLIPIDURE(登録商標)-BL405(第一の共重合体)を含む0.2%SDS溶液を50μL~400μL添加して、検体抽出液を得た。検体抽出液に鋳型RNA5128コピーを含む溶液6.4μLを添加した。鋳型RNAと検体抽出液との混合溶液10.0μL及びLAMPマスターミックス15.0μLを混合し、得られた反応液(4.0%Hp-β-CD含む)についてRT-LAMP反応を行った。比較のため、LIPIDURE(登録商標)-BL405を含まない反応液を用いて、同様にRT-LAMP反応を行った。
【0075】
結果を図16に示す。唾液10μLとSDS溶液を400μLと鋳型RNA6.4μLとを混合して得られた混合溶液中の唾液量(1倍)から、唾液量を1.9倍~6.3倍増加させることで、LIPIDURE(登録商標)-BL405が未添加の場合は検出時間が遅くなり、目的の増幅反応の阻害が増大したことが示唆された。一方、LIPIDURE(登録商標)-BL405を添加することで、唾液量が増加しても検出時間はほとんど変わらず、目的の増幅反応の阻害が低減されていた。
【0076】
<実施例5>LDSの使用による影響
健常人から採取した唾液11μLに、0.063%(w/v)のLIPIDURE(登録商標)-BL405(第一の共重合体)を含む1.2%LDS溶液70μLを添加して、検体抽出液を得た。LDSは2社(A社及びB社)から購入した。鋳型RNA250コピーを含む溶液0.3μL、検体抽出液9.0μL、及びLAMPマスターミックス15.7μLを混合し、得られた反応液(8.0%Hp-β-CD含む)についてRT-LAMP反応を行った。比較のため、LIPIDURE(登録商標)-BL405を含まない反応液を用いて、同様にRT-LAMP反応を行った。
【0077】
結果を図17に示す。LDSを用いた場合もSDSを用いた場合と同様に、LIPIDURE(登録商標)-BL405の添加により目的の増幅反応の阻害が低減された。
【0078】
<実施例6>MPCポリマーの分析
フーリエ変換赤外分光光度計IRAffinity-1S(株式会社島津製作所製)を用いて、ATR法によりLIPIDURE(登録商標)-BL405、BL1002、BL802、及びBL407それぞれのフーリエ変換赤外吸収スペクトルを測定した。具体的には、上記リピジュアの原液を、IRAffinity-1Sのプリズム面に2μL滴下し、自然乾燥させて密着させ、以下の条件で各リピジュアにつき3回ずつ測定を行った。
・測定モード:ABS
・積算回数:40回
・アポダイズ関数:Happ-Genzel
・測定波数範囲:400~4000cm-1
【0079】
解析ソフトLabSolutions(登録商標)IR(株式会社島津製作所製)を用いてスペクトルのベースライン補正及びATR補正を行った。ベースライン補正は、表1に示す波数を補正点として指定して行った。ATR補正は、999cm-1を補正波数として指定して行った。補正後のスペクトルにおけるピークを解析した。MPCポリマーに特徴的なピークが観察された波数範囲700~3000cm-1での補正後のスペクトルを図1~12に示す。図1~3は第一の共重合体(LIPIDURE(登録商標)-BL405)のスペクトルであり、図4~6は第二の共重合体(LIPIDURE(登録商標)-BL1002)のスペクトルであり、図7~9は第三の共重合体(LIPIDURE(登録商標)-BL802)のスペクトルであり、図10~12は第四の共重合体(LIPIDURE(登録商標)-BL407)のスペクトルである。また、補正後のスペクトルにおいて、波数1055~1059cm-1付近のピークのピーク強度を1としたときの他のピークのピーク強度(ピーク強度比)を算出した。波数範囲700~3000cm-1におけるピークの解析結果を表4~7に示す。
【0080】
【表4】
【0081】
【表5】
【0082】
【表6】
【0083】
【表7】
【0084】
各MPCポリマーの各ピークについて波数の平均値を算出し、平均値と測定値を比較したところ、測定値の平均値からのばらつきは±4cm-1以内であった。したがって、第一~第四の共重合体のフーリエ変換赤外吸収スペクトルの測定においては、ピークの波数に±4cm-1の範囲でばらつきが生じるといえる。また、各MPCポリマーの各ピークについて3回の測定におけるピーク強度比から標準偏差を算出した。第一~第四の共重合体のフーリエ変換赤外吸収スペクトルの測定においては、ピーク強度比に概ね±3×標準偏差の範囲でばらつきが生じるといえる。これらの結果から、第一~第四の共重合体のフーリエ変換赤外吸収スペクトルは、表8~11に示すピークを有するといえる。表8は第一の共重合体のピークを示し、表9は第二の共重合体のピークを示し、表10は第三の共重合体のピークを示し、表11は第四の共重合体のピークを示す。表8~11中、「波数」は上記で算出した平均波数±4の値を示し、「ピーク強度比」は上記の「ピーク強度比±3×標準偏差」の数値範囲を示す。ただし、ピーク強度比-3×標準偏差の値が負の値の場合は、ピーク強度比の下限を「0超」と記載した。また、波数1055~1059cm-1付近のピークのピーク強度は「1」と記載した。
【0085】
【表8】
【0086】
【表9】
【0087】
【表10】
【0088】
【表11】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
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