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特開2023-145423ウンデカベルトールの鏡像異性体を生成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145423
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】ウンデカベルトールの鏡像異性体を生成する方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 41/00 20060101AFI20231003BHJP
   C12P 7/04 20060101ALI20231003BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20231003BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20231003BHJP
   C12N 9/06 20060101ALN20231003BHJP
【FI】
C12P41/00 C
C12P7/04
A61K8/34
A61Q13/00 101
C12N9/06
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023082969
(22)【出願日】2023-05-19
(62)【分割の表示】P 2020543308の分割
【原出願日】2019-02-13
(31)【優先権主張番号】1802383.8
(32)【優先日】2018-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】501105842
【氏名又は名称】ジボダン エス エー
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビールマン,マーク
(72)【発明者】
【氏名】バウムガルトナー,コリン
(72)【発明者】
【氏名】エルウッド,サイモン
【テーマコード(参考)】
4B064
4C083
【Fターム(参考)】
4B064AC09
4B064CA21
4B064CB13
4B064DA20
4C083AC091
4C083BB41
4C083CC02
4C083FF01
4C083KK02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物中のウンデカベルトールの一方の鏡像異性体の割合を増加させるための方法、ウンデカベルトールを立体選択的に合成するための方法、及びそれらの生成物を提供する。
【解決手段】ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物を、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)およびADH補因子と接触させることにより一方の鏡像異性体の割合を増加させる方法、ウンデカベルトンを、ADHおよびADH補因子と接触させることを含む、ウンデカベルトールを立体選択的に合成する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物中のウンデカベルトールの一方の鏡像異性体の割合を増加させる方法であって、方法が、ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物を、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)およびADH補因子と接触させることを含む、前記方法。
【請求項2】
ウンデカベルトールを立体選択的に合成する方法であって、方法が、ウンデカベルトンを、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)およびADH補因子と接触させることを含む、前記方法。
【請求項3】
ADH補因子が、NADPH、NADH、キノイド補因子、亜鉛、またはそれら1以上の組み合わせから選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
方法が、ADH補因子をADH補因子再生系と接触させることをさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ADH補因子再生系が、基質共役再生系、例えば補基質としてアセトンまたはイソプロパノールを使用する基質共役再生系である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ADH補因子再生系が、酵素共役再生系、例えばNADPHオキシダーゼ、NADHオキシダーゼ、鉄(III)ポルフィリン、ラッカーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、ギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH)、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)、亜リン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)、またはそれらの組み合わせを含む酵素共役再生系である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
ADHおよびADH補因子との接触に先立つウンデカベルトールの鏡像異性体混合物中の(R)-鏡像異性体:(S)-鏡像異性体の比率が、約45:55から約55:45までに及ぶ、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ADHおよびADH補因子との接触に先立つウンデカベルトールの鏡像異性体混合物が、ラセミ混合物(rac-ウンデカベルトール)である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
方法が、約94%以上の、例えば約96%以上の、鏡像異性体過剰率を有する生成物をもたらす、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
方法が、約94%以上の、例えば約96%以上の、鏡像異性体過剰の(R)-鏡像異性体を有する生成物をもたらす、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
接触させるステップが、約30分間から約3日間までに及ぶ期間に生じる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
接触させるステップが、約20℃から約40℃までに及ぶ温度にて生じる、先行する請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
約94%以上の、例えば約96%以上の鏡像異性体過剰率を有する、ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物。
【請求項14】
混合物が、鏡像異性体過剰の(R)-鏡像異性体を有する、請求項13に記載の鏡像異性体混合物。
【請求項15】
フレグランスとしての、請求項13または14に記載の鏡像異性体混合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は一般に、ウンデカベルトール(undecavertol)の鏡像異性体混合物中のウンデカベルトールの一方の鏡像異性体の割合を増加させるための方法、とりわけ鏡像異性体混合物中のウンデカベルトールの(R)-鏡像異性体の割合を増加させるための方法に関する。本発明はまた、一般に、ウンデカベルトン(undecavertone)からウンデカベルトールを立体選択的に合成する方法にも関する。本発明はさらに、これらの方法によって形成される鏡像異性体混合物およびこれらの鏡像異性体混合物のフレグランスとしての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
ウンデカベルトール(化学名4-メチル-3-デセン-5-オール)は、フローラルの、グリーンの(green)、新鮮な、スミレの葉の匂いを有する分子であって、フレグランス成分として周知である。ウンデカベルトールの種々の鏡像異性体は種々の香り強度を有し、(S)-鏡像異性体はより弱い方の鏡像異性体であり、したがって種々の鏡像異性体は、ウンデカベルトールが組み込まれることになる組成物に応じて選択されることもある。(R)-ウンデカベルトールを選択的に得るための1つの方法が、Brennaら(“Bio-catalysed synthetis of optically active Undecavertol enantiomers”, Tetrahedron: Asymmetry, 16 (2005)、pages 1997-1999)によって公開された。この方法は、ウンデカベルトールのラセミ混合物からの(R)-ウンデカベルトールを、還流する有機溶媒中酢酸ビニルで6日間にわたり選択的にアセチル化するためにリパーゼを使用する。未反応の(S)-ウンデカベルトールおよびアセチル化された(R)-ウンデカベルトールは、次いでカラムクロマトグラフィーを介して分離され、たったの23%純粋なアセチル化(R)-ウンデカベルトールが産生される。アセチル化(R)-ウンデカベルトールは、次いで加水分解されて、(R)-ウンデカベルトールが89%収率(21%全収率)で得られる。したがって、ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物の鏡像異性体純度を増強するための、代替のおよび/または改善された方法を提供することが所望されている。
【発明の概要】
【0003】
本発明の概要
本発明の第1の側面に従うと、ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物中のウンデカベルトールの一方の鏡像異性体の割合を増加させる方法が提供され、方法は、ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物を、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)およびADH補因子と接触させることを含む。ある態様において、方法は、鏡像異性体混合物中のウンデカベルトールの(R)-鏡像異性体の割合を増加させるためのものである。
【0004】
本発明の第2の側面に従うと、ウンデカベルトンからウンデカベルトールを立体選択的に合成する方法が提供される。ある態様において、方法は、ウンデカベルトンをアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)およびADH補因子と接触させることを含む。ある態様において、方法は、ウンデカベルトールからウンデカベルトンを最初に合成することを含む。ある態様において、ウンデカベルトンは、触媒を使用して不斉水素化され(asymmetrically hydrogenated)てもよい。
【0005】
本発明の第3の側面に従うと、本発明のいずれかの側面または態様によって得られた(obtained)および/または得られる(obtainable)ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物が提供される。
【0006】
本発明の第4の側面に従うと、約94%以上の鏡像異性体過剰率を有するウンデカベルトールの鏡像異性体混合物が提供される。
【0007】
本発明の第5の側面に従うと、本発明のいずれかの側面または態様のウンデカベルトールの鏡像異性体混合物の、フレグランスとしての使用が提供される。
【0008】
本発明の第6の側面に従うと、本発明のいずれかの側面または態様のウンデカベルトールの鏡像異性体混合物を含むフレグランス組成物が提供される。
【0009】
本発明のいずれかの側面のある態様は、以下の利点のうち1以上を提供してもよい:
●方法が、純粋に水性(非有機性)媒体中で(例として補因子再生系としてNAD(P)Hオキシダーゼを使用するとき)、いずれの追加の共溶媒もなく実行され得ること;
●環境に優しく(green)かつ持続可能なプロセス;
●高い立体選択性;
●反応速度が、片方の鏡像異性体がほとんど完全に反応した後にほとんどゼロまで急速に減少するから、もう片方の鏡像異性体の酸化を回避するための緊密なモニタリングが必要ないこと;
●酵素が、高濃度(例として最大で80vol%まで)の疎水性基質に対して高い耐性を有すること;
●低減した反応ステップ数;
●低減した追加の試薬の必要性;
●反応に要される相対的に低い温度;
●反応に要される、より短い時間;
●低減した廃棄物;
●改善された原子経済。
【0010】
本発明の表明された側面の具体的ないずれか1以上に関して提供された詳細、例、および選好(preferences)は、本明細書にさらに記載されており、本発明のすべての側面に等しく適用するであろう。本明細書に記載の態様、例、および選好の、それらすべての実行可能なバリエーションにおけるいずれの組み合わせも、本明細書に別様に示されない限り、またはそうでなければ文脈によって明確に矛盾しない限り、本発明によって網羅されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な記載
本発明は、アルコールデヒドロゲナーゼが、ウンデカベルトールに対し、2個の残基が二級アルコールまたはケトンにておよそ同じサイズであっても高い立体選択性を有するという驚くべき知見に、少なくとも一部は基づく。当業者は一般に、残基のサイズが実質的に異なるときにしか、高い立体選択性を期待しないものである。これは、ウンデカベルトールを基質として使用する反応において、片方の鏡像異性体が、他方の鏡像異性体にはほとんど手付かずのままウンデカベルトン(4-メチルデカ-3-エン-5-オン)へ変換されることを意味する。これは、反応が実質的に、片方の鏡像異性体が変換されるとすぐに止まることを意味する。例えば、(R)-鏡像異性体および(S)-鏡像異性体を1:1の比率で含むラセミ混合物を用いて始めると、反応はおよそ50%変換にて止まるであろうから、もう片方の鏡像異性体の酸化を回避する変換の緊密なモニタリングが要されない。
【0012】
よって、ウンデカベルトールの鏡像異性体純度を増加させるための方法が本明細書に提供され、方法は、ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物を、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)およびADH補因子と接触させることを含む。
【0013】
ウンデカベルトールを立体選択的に合成するための方法もまた本明細書に提供され、方法は、ウンデカベルトンを、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)およびADH補因子と接触させることを含む。
【0014】
市販のウンデカベルトール(4-メチル-3-デセン-5-オール)は、少なくとも97%の(E)-異性体を含む(E)-および(Z)-異性体の混合物であって、下に示される構造を有する。それはまた、figovert、バイオレットデセノール(violet decenol)、またはkevertolとも称されることがある。
【化1】
【0015】
ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物は、ウンデカベルトールの(R)-鏡像異性体および(S)-鏡像異性体の混合物を指す。ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物は、当業者に知られているいずれの方法によっても、例えば米国特許第4,482,762号(これらの内容は参照により本明細書に組み込まれる)に記載の方法によっても得られ得る。
【0016】
ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物は、アルコールデヒドロゲナーゼ触媒酸化のための基質として使用される。ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物は、例えば、約45:55から約55:45まで、または約46:54から約54:46まで、または約47:53から約53:47まで、または約48:52から約52:48まで、または約49:51から約51:49までに及ぶ(R)-鏡像異性体:(S)-鏡像異性体の比率を有していてもよい。ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物は、例えば、ウンデカベルトールのラセミ混合物であってもよく、前記混合物は(R)-鏡像異性体と(S)-鏡像異性体との等しい量を含有する混合物(50:50の(R)-鏡像異性体:(S)-鏡像異性体の比率)である。
【0017】
ADH基質として使用されるウンデカベルトールの鏡像異性体混合物は、例えば、約10%以下の鏡像異性体過剰率を有していてもよい。例えば、ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物は、約9%以下、または約8%以下、または約7%以下、または約6%以下、または約5%以下、または約4%以下、または約3%以下、または約2%以下、または約1%以下の鏡像異性体過剰率を有していてもよい。例えば、ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物は、約0%の鏡像異性体過剰率を有していてもよい。ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物は、例えば、鏡像異性体過剰の(S)-鏡像異性体または(R)-鏡像異性体を有していてもよい。
【0018】
鏡像異性体過剰率(ee)は、各鏡像異性体の量同士間の差の測定値である。例えば、70%の片方の鏡像異性体と30%の他方の鏡像異性体との混合物は、40%の鏡像異性体過剰率を有する。ラセミ混合物は0%の鏡像異性体過剰率を有し、完全に純粋な鏡像異性体は、100%の鏡像異性体過剰率を有する。混合物中の各鏡像異性体の量は、例えば、キラルカラムクロマトグラフィーおよびNMR分光法などの方法を使用して測定されてもよい。
【0019】
本明細書に提供される方法は、ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物中の片方の鏡像異性体の割合を、他方の鏡像異性体と比較して増加させるための方法であってもよい。方法は、例えば、鏡像異性体過剰の片方の鏡像異性体を低減させてもよい。例えば、出発鏡像異性体混合物は過剰の(S)-鏡像異性体を有していてもよく、かつ本明細書に提供される方法は、鏡像異性体過剰の(S)-鏡像異性体が低減されるように、(R)-鏡像異性体の(S)-鏡像異性体に対する割合を増加させてもよく、例えば、本明細書に提供される方法は、(R)-鏡像異性体が(S)-鏡像異性体を超過するように、(R)-鏡像異性体の割合を増加させてもよい。方法は、例えば、鏡像異性体過剰の片方の鏡像異性体を増加させてもよい。例えば、出発鏡像異性体混合物は過剰の(R)-鏡像異性体を有していてもよく、かつ本明細書に提供される方法は、鏡像異性体過剰の(R)-鏡像異性体が増加されるように、(R)-鏡像異性体の割合を増加させてもよい。
【0020】
ウンデカベルトン(4-メチルデカ-3-エン-5-オン)は、下に示される構造を有する。それは、例えば、本明細書に記載のとおりのADHを使用してウンデカベルトールを変換することによって得られてもよい。それは、例えば、当業者に知られているいずれの方法によっても、例えばEP1690848に記載のとおりのオッペナウアー酸化反応によっても得られてもよい。
【化2】
【0021】
本明細書に提供される方法は、ウンデカベルトンからウンデカベルトールを立体選択的に合成するための方法であってもよい。これは、ウンデカベルトールへ変換されるウンデカベルトンの大多数が、ウンデカベルトールの同じ鏡像異性体へ変換されることを意味する。例えば、ウンデカベルトールへ変換される少なくとも約60%、または少なくとも約70%、または少なくとも約75%、または少なくとも約80%、または少なくとも約85%、または少なくとも約90%、または少なくとも約92%、または少なくとも約94%、または少なくとも約95%、または少なくとも約96%、または少なくとも約97%、または少なくとも約98%、または少なくとも約99%のウンデカベルトンは、ウンデカベルトールの単一の鏡像異性体へ変換される。反応は、例えば、(R)-鏡像異性体または(S)-鏡像異性体に選択的であってもよい。
【0022】
本明細書に提供される方法は、約94%以上の鏡像異性体過剰率を有するウンデカベルトール生成物をもたらしてもよい。例えば、方法は、約95%以上、または約96%以上、または約97%以上、または約98%以上、または約99%以上の鏡像異性体過剰率を有する生成物をもたらしてもよい。ある態様において、方法は、約100%以下、または約99.9%以下、または約99.8%以下、または約99.7%以下、または約99.6%以下、または約99.5%以下の鏡像異性体過剰率を有する生成物をもたらしてもよい。ある態様において、方法は、100%の鏡像異性体過剰率を有する生成物をもたらしてもよい、換言すれば、生成物は完全に純粋な鏡像異性体である。生成物は、鏡像異性体過剰の(R)-鏡像異性体または(S)-鏡像異性体のいずれかを含んでいてもよい。ある態様において、生成物は、鏡像異性体過剰の(R)-鏡像異性体を含む。
【0023】
本明細書に提供される方法は、ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物を、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)およびADH補因子と接触させることを含んでいてもよい。本明細書に提供される方法は、ウンデカベルトンを、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)およびADH補因子と接触させることを含んでいてもよい。
【0024】
アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)は、アルコールからアルデヒドまたはケトンへの変換、およびアルデヒドまたはケトンからアルコールへの変換を促進する一群の酵素である。このクラスの酵素がアルデヒドまたはケトンからアルコールへの変換のために使用される場合、それらはより一般的に、ケトレダクターゼ(KRED)と称される。ADHは、どのタイプでも、ウンデカベルトールからウンデカベルトンへの、および/またはウンデカベルトンからウンデカベルトールへの立体特異的な変換を実行するのに好適であり得る。ADHは、例えば、真核生物のADH、細菌のADH、または古細菌のADH、例えば、ヒトADH、動物ADH、植物ADH、酵母ADHなどの真菌ADH、またはそれら1以上の組み合わせであってもよい。ADHは、例えば、クラスI、II、III、IV、V、もしくはVI ADH、またはそれら1以上の組み合わせであってもよい。ADHは、例えば、長鎖のADH、短鎖のADH、または鉄を含有するADHであってもよい。
【0025】
酵素はまた、EC分類に従うそれらの機能によっても定義されてよい。Enzyme Commission番号(EC番号)は、酵素のための、それらが触媒する化学反応に基づき数字で表された分類スキームである。本明細書に記載の立体特異的な変換を実行するのに好適なADHは、例えば、EC 1.1.1クラス(サブクラスEC 1.1.1.1、EC 1.1.1.2;EC 1.1.1.54、およびEC 1.1.1.71を包含する)に属すものであってもよく、これは、ドナーのCH-OH基に対して、アクセプターとしてのNAD(+)またはNADP(+)とともに作用するオキシドレダクターゼである。
【0026】
ADHは、例えば、下の例に使用されるADH酵素の1以上であってもよく、例えば、Codexis,Inc., Redwood City(USA)から得られたKRED-P1-B10、またはc-LEcta GmbH, Leipzig(Germany)から得られたADH-87もしくはADH-109もしくはADH-170もしくはADH-171もしくはADH-172もしくはADH-174、またはEnzymeWorks, Suzhou(China)から市販のGV-K-120もしくはGV-K-133であって、これらのすべてはウンデカベルトールにS-選択的であり、R-ウンデカベルトールの鏡像異性体を選択的に形成するEC 1.1.1クラスに属する。あるいはADHは、例えば、以下のADH酵素PRO-258(Prozomix Ltd., Haltwhistle, UKから市販)、KRED-P3-G09およびKRED-P3-H12(両方ともCodexis,Inc., Redwood City, USAから市販)の1以上であってもよく、これらのすべてはウンデカベルトールにR-選択的であって、ウンデカベルトールのS-鏡像異性体を選択的に形成するEC 1.1.1クラスに属する。
【0027】
アルコールデヒドロゲナーゼ補因子(ADH補因子)は、触媒作用の反応の最中、ADH酵素を補助する補因子である。本明細書に提供される方法に使用されるADH補因子は、どのタイプでも、ウンデカベルトールからウンデカベルトンへの、および/またはウンデカベルトンからウンデカベルトールへの変換を補助するのに好適であり得る。補因子は、例えば、無機分子であっても、または有機分子であってもよい。ADH補因子は、例えば、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスファート(NADP)、キノイド補因子、亜鉛、またはそれらの組み合わせから選択されてもよい。キノイド補因子は、キノンを基にする構造を有する補因子である。ADH補因子は、例えば、NAD、NADP、またはそれらの組み合わせから選択されてもよい。ADH補因子は、例えば、亜鉛、ならびにNADおよびNADPの一方または両方であってもよい。ADH補因子は、ウンデカベルトールからウンデカベルトンへの変換と同時に還元されてもよい。例えば、NADおよび/またはNADPの酸化型(NADおよびNADP)は、ウンデカベルトールからウンデカベルトンへの変換と同時に還元されてNADHおよび/またはNADPHを夫々形成してもよい。ADH補因子は、ウンデカベルトンからウンデカベルトールへの変換と同時に酸化されてもよい。例えば、NADおよび/またはNADPの還元型(NADHおよびNADPH)は、ウンデカベルトンからウンデカベルトールへの変換と同時に酸化されてNADおよびNADPを夫々形成してもよい。
【0028】
本明細書に提供される方法はさらに、ADH補因子を、ADH補因子再生系と接触させることを含む。ADH補因子再生系は、ADH補因子がウンデカベルトールからウンデカベルトンへの変換またはウンデカベルトンからウンデカベルトールへの変換を補助するのに使用された後に、これを再生するのに役立つ。ADH補因子再生は、例えば、補因子の酸化型、例えばNADおよび/またはNADPの酸化型(NAD+およびNADP+)を再生してもよい。ADH補因子再生は、例えば、補因子の還元型、例えばNADおよび/またはNADPの還元型(NADHおよびNADPH)を再生してもよい。本明細書に提供される方法に使用されるADH補因子再生は、どのタイプでも、ADHによるウンデカベルトールからウンデカベルトンへの変換および/またはウンデカベルトンからウンデカベルトールへの変換に有用なADH補因子を再生するのに好適であり得る。
【0029】
ADH補因子再生系は、例えば、基質共役再生系であってもよい。基質共役再生系は、ADHに対して、ADH補因子をADHによって変換されたときに再生する追加の基質を提供する。例えば、基質共役再生系は、酸化または還元されたADH補因子を、ADHによって変換されたときに再生してもよい。さらなる酵素は要されない。したがって、基質共役再生系は、補基質としてアルコール、アルデヒド、またはケトンを含んでいてもよい。基質共役再生系は次いで、アルデヒドもしくはケトンを対応するアルコールへ変換しても、またはアルコールを対応するアルデヒドもしくはケトンへ変換してもよい。例えば、酸化されたADH補因子は、アルデヒドまたはケトンがADHによってその対応するアルコールへ変換されたときに形成されてもよい。例えば、還元されたADH補因子は、アルコールがADHによってその対応するケトンまたはアルデヒドへ変換されたときに形成されてもよい。基質共役再生系は、例えばアセトンを、例えば再生系がウンデカベルトールをウンデカベルトンへ変換するのに使用されたADH補因子を再生するのに使用されたときに含んでいてもよい。アセトンは、ADH補因子の酸化(例としてNADHおよび/またはNADPHからNADおよび/またはNADPへの酸化)と同時に、ADHによってイソプロパノールへ変換される。よって、イソプロパノールは反応の副生成物である。基質共役再生系は、例えばイソプロパノールを、例えば再生系がウンデカベルトンをウンデカベルトールへ変換するのに使用されたADH補因子を再生するのに使用されたときに含んでいてもよい。イソプロパノールは、ADH補因子の還元(例としてNADおよび/またはNADPから夫々NADHおよび/またはNADPHへの還元)と同時に、ADHによってアセトンへ変換される。よって、アセトンは反応の副生成物である。
【0030】
ADH補因子再生系は、例えば、酵素共役再生系であってもよい。酵素共役再生系は、ADH補因子を再生する追加の酵素を、それが触媒する反応の結果として提供する。補因子としてNADHまたはNADPHを使用するいずれの酵素も、ADH補因子再生系に使用され得る。酵素共役再生系は、例えば、デヒドロゲナーゼ、レダクターゼ、モノオキシゲナーゼ、ヒドロキシラーゼ、ジオキシゲナーゼ、またはそれら1以上の組み合わせを含んでいてもよい。酵素共役再生系は、例えばいずれの他の触媒、例えばADH補因子を再生するいずれの無機錯体も、それが触媒する反応の結果として含んでいてもよい。酵素共役再生系は、例えば、NADHオキシダーゼ、NADPHオキシダーゼ、鉄(III)ポルフィリン錯体、ラッカーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、ギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH)、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)、亜リン酸デヒドロゲナーゼ(phosphite dehydrogenase)(PDH)、またはそれら1以上の組み合わせを含んでいてもよい。酵素共役再生系は、ウンデカベルトールからウンデカベルトンへの変換またはウンデカベルトンからウンデカベルトールへの変換を補助するADH補因子を同時に再生する酵素反応のための基質をさらに含む。例えば、酵素共役再生系は、酸化されたADH補因子(例としてNADおよび/またはNADP)または還元されたADH補因子(例としてNADHおよび/またはNADPH)を同時に再生する酵素反応のための基質をさらに含む。
【0031】
例えば、NADHオキシダーゼおよびNADPHオキシダーゼの基質は、NADHオキシダーゼおよびNADPHオキシダーゼの酵素反応の結果としてスーパーオキシド(これは水または過酸化水素から形成する)へ変換される酸素であってもよい。鉄(III)ポルフィリン模倣体NAD(P)Hオキシダーゼ、ひいては鉄(III)ポルフィリンのための基質は、スーパーオキシド(これは水を形成する)へ変換される酸素である。例えば、ラッカーゼの基質は、水へ変換され得る酸素であってもよい。例えば、乳酸デヒドロゲナーゼの基質は、例えばラクタートがNADHおよび/またはNADPHをNADおよび/またはNADPへ変換することから、ラクタートへ変換され得るピルバートであってもよい。例えば、グルタミン酸デヒドロゲナーゼの基質は、例えばグルタマートおよび/またはアミノアジパートがNADHおよび/またはNADPHをNADおよび/またはNADPへ変換することから、グルタマートおよび/またはアミノアジパートへ夫々変換され得るケトグルタラートおよび/またはケトアジパートであってもよい。これらの酵素共役再生系は、ウンデカベルトールをウンデカベルトンへ変換するのに使用されるADH補因子を再生するのに具体的に有用であってもよい。
【0032】
例えば、ギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH)の基質は、FDHの酵素反応の結果として二酸化炭素へ変換されるホルマートであってもよい。例えば、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)の基質は、グルコノラクトンまたはグルコナートへ変換されるグルコースであってもよい。例えば、グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)の基質は、6-ホスホグルコノラクトンまたは6-ホスホグルコナートへ変換されるグルコース-6-ホスファートであってもよい。例えば、亜リン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)の基質は、ホスファートへ変換されるホスファイトであってもよい。これらの酵素共役再生系は、ウンデカベルトンをウンデカベルトールへ変換するのに使用されるADH補因子を再生するのに具体的に有用であってもよい。
【0033】
ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物またはウンデカベルトンは、例えば、ADHおよび/またはADH補因子および/またはADH補因子再生系自体と接触させられてもよく、あるいは、例えば、ADHおよび/またはADH補因子および/またはADH補因子再生系を発現するのに好適な条件下でADHおよび/またはADH補因子および/またはADH補因子再生系を発現することが可能な発現系と接触させられてもよい。例えば、ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物またはウンデカベルトンは、ADHおよび/またはADH補因子を発現する微生物あるいは細胞(より頻繁には、全細胞触媒作用と称される)と接触させられてもよい。
【0034】
代替的に、ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物またはウンデカベルトンは、ADHおよび/またはADH補因子および/またはADH補因子再生系を含有するいずれの組成物とも接触させられてもよく、例えば、発酵ブロス、ホモジナイズされたブロス(homogenized broth)、無細胞抽出物、あるいは精製されたADHおよび/またはADH補因子および/またはADH補因子再生系と接触させられてもよい。例えば、発酵ブロス、ホモジナイズされたブロス、無細胞抽出物、あるいは精製されたADHおよび/またはADH補因子および/またはADH補因子再生系は、溶液中にあってもよく、あるいは、例えば凍結乾燥形態または噴霧乾燥形態であってもよい。
【0035】
ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物またはウンデカベルトン、ADH、ADH補因子、および任意のADH補因子再生系の接触は、例えば、片方のウンデカベルトール鏡像異性体をウンデカベルトンへ変換するのに、またはウンデカベルトンを片方のウンデカベルトールの鏡像異性体へ変換するのに好適な条件下で行われてもよい。ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物またはウンデカベルトン、ADH、ADH補因子、および任意のADH補因子再生系の接触は、例えば、各構成要素を一緒に混合することによって行われてもよい。ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物またはウンデカベルトン、ADH、ADH補因子、および任意のADH補因子再生系の接触は、例えば、水性反応媒体中、例えば緩衝液中、例えばリン酸カリウム緩衝液またはトリス(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)緩衝液などのリン酸緩衝液中で行われてもよい。代替的に、接触ステップは、有機反応媒体または有機/水性の二相反応媒体中で行われてもよい。例えば、基質共役補因子再生系が使用される場合、接触ステップは、有機反応媒体(例として、ジメチルスルホキシド(DMSO)もしくはテトラヒドロフラン(THF))、または有機/水性の二相反応媒体中で行われてもよい。
【0036】
ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物またはウンデカベルトン、ADH、およびADH補因子は、所望の期間中に所望の結果を得るのに好適ないずれの量でおよびいずれの割合で加えられてもよい。
【0037】
ADH基質(例としてウンデカベルトールの鏡像異性体混合物またはウンデカベルトン)の濃度は、例えば約10mM以上であってもよい。例えば、ADH基質の濃度は、約100mM以上、または約500mM以上、または約1M以上であってもよい。ADH基質の濃度は、例えば、約5M以下、例えば約4M以下、例えば約3M以下、例えば約2M以下、例えば約1M以下であってもよい。
【0038】
酵素活性は、「ユニット」または「U」で測定されてもよく、ここで1Uは1分あたりに1マイクロモルの基質を変換する酵素の量に対応する。ある態様において、補因子再生系の酵素活性は、補因子不足を通してADHを限定しないために、ADHの酵素活性より大きくてもよい。例えば、補因子再生系の酵素活性は、ADHの酵素活性より、少なくとも約2倍、または少なくとも約4倍、または少なくとも約5倍、または少なくとも約6倍、または少なくとも約8倍、または少なくとも約10倍大きい。例えば、補因子再生系の酵素活性は、ADHの酵素活性より、最大約20倍まで、または最大約18倍まで、または最大約16倍まで、または最大約15倍まで大きくてもよい。
【0039】
基質(例としてウンデカベルトールの鏡像異性体混合物)の、ADH(U/mmol)の酵素活性に対する比率は、所望される反応時間および酵素の安定性に応じて変動してもよい。ある態様において、基質の、ADHの酵素活性に対する比率は、約0.1U/mmol以上、例えば約0.2U/mmol以上、例えば約0.3U/mmol以上、例えば約0.4U/mmol以上、例えば約0.5U/mmol以上である。例えば、基質の、ADHの酵素活性に対する比率は、約20U/mmol以下、例えば約15U/mmol以下、例えば約10U/mmol以下である。
【0040】
補因子の濃度は、例えば、約0.001mol%以上であってもよい。例えば補因子の濃度は、約0.005mol%以上、例えば約0.01mol%以上であってもよい。例えば補因子の濃度は、約10mol%以下、例えば約5mol%以下であってもよい。
【0041】
ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物またはウンデカベルトン、ADH、ADH補因子、および任意のADH補因子再生系の接触は、例えば、所望の結果を得るのに要される期間行われてもよい。例えば、ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物またはウンデカベルトン、ADH、ADH補因子、および任意のADH補因子再生系の接触は、約30分間から約3日間までに及ぶ期間行われてもよい。例えば、ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物またはウンデカベルトン、ADH、ADH補因子、および任意のADH補因子再生系の接触は、約30分間から約2日間まで、または約30分間から約24時間まで、または約1時間から約18時間まで、または約2時間から約12時間まで、または約6時間から約12時間まで、または約6時間から約10時間までに及ぶ期間行われてもよい。
【0042】
ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物またはウンデカベルトン、ADH、ADH補因子、および任意のADH補因子再生系の接触は、例えば、使用される酵素が変性する温度より低い温度、および/または溶媒もしくは溶媒混合物の融点より高い温度にて行われてもよい。当業者は、使用される具体的な酵素に応じて好適な温度を選択することができるであろう。例えば、ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物またはウンデカベルトン、ADH、ADH補因子、および任意のADH補因子再生系の接触は、約20℃から約40℃までに及ぶ温度にて行われてもよい。例えば、接触は、約22℃から約38℃まで、または約24℃から約36℃まで、または約25℃から約35℃まで、または約28℃から約32℃までに及ぶ温度、例えば約30℃にて行われてもよい。
【0043】
構成要素は、例えば100rpm~約500rpmにて、もしくは約150rpmから約450rpmまで、もしくは約200rpmから約400rpmまで、もしくは約250rpmから約350rpmまで、撹拌または振盪されてもよい。
【0044】
本明細書に提供される方法はさらに、ウンデカベルトールの精製、および/またはいずれのウンデカベルトンからの分離を含んでいてもよい。例えば、ウンデカベルトールは、溶媒抽出(例としてメチル-tert-ブチル-エーテル(MTBE)を使用する)によって精製されて、これに続き蒸留されてもよい。
【0045】
さらに、本明細書に提供される方法によって得られたおよび/または得られる鏡像異性体混合物が本明細書に提供される。ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物は、約94%以上の鏡像異性体過剰率を有していてもよい。例えば、鏡像異性体混合物は、約95%以上、または約96%以上、または約97%以上、または約98%以上、または約99%以上の鏡像異性体過剰率を有していてもよい。ある態様において、鏡像異性体混合物は、約100%以下、または約99.5%以下、または約99%以下の鏡像異性体過剰率を有していてもよい。鏡像異性体混合物は、鏡像異性体過剰の(R)-鏡像異性体または(S)-鏡像異性体のいずれかを有していてもよい。ある態様において、鏡像異性体混合物は、鏡像異性体過剰の(R)-鏡像異性体を有する。
【0046】
さらに、本明細書に提供される方法によって得られたおよび/または得られるウンデカベルトールの鏡像異性体混合物の、フレグランスとしての使用が本明細書に提供される。よって、本明細書に提供される方法によって得られたおよび/または得られるウンデカベルトールの鏡像異性体混合物を含むフレグランス組成物もまた、本明細書に提供される。
【0047】
本明細書に提供される方法によって得られたおよび/または得られるウンデカベルトールは、高度にブルーミングする(blooming)フレグランス成分である。とりわけ、(R)-ウンデカベルトールの約94%以上の鏡像異性体過剰率を有する混合物((R)-ウンデカベルトールの約95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%以上のeeを有する混合物を包含する)は、高度にブルーミングするフレグランス成分である。
【0048】
フレグランス「ブルーム(bloom)」は、成分がフレグランス供給源からある距離にて短期的に影響を及ぼすことを指す。短期は、外部作用がフレグランス成分それ自体に適用された後の数秒~数分間を意味する。かかる作用(または事象)は、自然界に複数あり得る。フレグランスのフラスコ瓶を開けること、フレグランス溶液を大気中または皮膚上に噴霧すること、賦香された製品(perfumed product)を表面または水と接触させること、およびとりわけ、賦香された製品を水で希釈することは、ブルームを誘導することが可能な典型的な行為である。香料(Perfumes)および個々のフレグランス成分は、低ブルーミング~高ブルーミング香料/フレグランス成分として分類され得る。高ブルームは、現市場における消費者によって強く所望されている。
【0049】
「ブルーム」は典型的には、フレグランスの時間依存動的パフォーマンス特質(time-dependent dynamic performance attribute)であるが、これはその作用が起こってから、ある時間経過後ではあるが30分以内、好ましくは15~20分以内に測定される。典型的には査定は、密閉された大気(closed volume of air)中で、例えば換気されないブース中で実施される。典型的にはパネリストは、査定の最中のみ開放された小窓を通してブース中のある体積の大気(例として1回または2回の呼吸)の匂いを嗅ぐことによって査定を実施する。典型的には窓は、供給源から0.5メートルと2メートルとの間に、好ましくは0.8メートルと1.5メートルとの間に、例えば供給源から1.3メートルに位置付けられる。実験的設定の厳密な幾何学的形状は、重大なものではないが、査定間(from one assessment to the other)で再現可能なものでなければならない。
【0050】
「フレグランス組成物」とは、本明細書に提供される方法によって得られたおよび/または得られるウンデカベルトールの鏡像異性体混合物と基材とを含むいずれの組成物をも意味する。
【0051】
本明細書に使用されるとき、「基材」は、精油、アルコール、アルデヒドおよびケトン、エーテルおよびアセタール、エステルおよびラクトン、大員環および複素環などの、広範囲にわたる天然物、および目下入手可能な合成分子から選択される、知られているすべてのフレグランス成分、および/または、フレグランス組成物中、匂い物質と併せて従来から使用されている1以上の成分もしくは賦形剤、例えば、当該技術分野において一般的に使用される担体材料、希釈剤、および他の助剤を包含する。
【0052】
当該技術分野に知られているフレグランス成分は、大手フレグランス製造業者らから商業的に容易に入手可能である。かかる成分の非限定例は以下を包含する:
- 精油および抽出物、例として、海狸香、コスタス根(costus root)油、オークモスアブソリュート(oak moss absolute)、ゼラニウム油、トリーモスアブソリュート(tree moss absolute)、バジル油、ベルガモット油およびマンダリン油などの果実油、ミルテ油、パルマローザ油、パッチュリ油、プチグレン油、ジャスミン油、バラ油、白檀油、ベチベル油、アブサン油、ラベンダー油、および/またはイランイラン油;
【0053】
- アルコール、例として、桂皮アルコール((E)-3-フェニルプロパ-2-エン-1-オール);cis-3-ヘキセノール((Z)-ヘキサ-3-エン-1-オール);シトロネロール(3,7-ジメチルオクタ-6-エン-1-オール);ジヒドロミルセノール(2,6-ジメチルオクタ-7-エン-2-オール);Ebanol(商標)((E)-3-メチル-5-(2,2,3-トリメチルシクロペンタ-3-エン-1-イル)ペンタ-4-エン-2-オール);オイゲノール(4-アリル-2-メトキシフェノール);エチルリナロール((E)-3,7-ジメチルノナ-1,6-ジエン-3-オール);ファルネソール((2E,6Z)-3,7,11-トリメチルドデカ-2,6,10-トリエン-1-オール);ゲラニオール((E)-3,7-ジメチルオクタ-2,6-ジエン-1-オール);Super Muguet(商標)((E)-6-エチル-3-メチルオクタ-6-エン-1-オール);リナロール(3,7-ジメチルオクタ-1,6-ジエン-3-オール);メントール(2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサノール);ネロール(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール);フェニルエチルアルコール(2-フェニルエタノール);Rhodinol(商標)(3,7-ジメチルオクタ-6-エン-1-オール);Sandalore(商標)(3-メチル-5-(2,2,3-トリメチルシクロペンタ-3-エン-1-イル)ペンタン-2-オール);テルピネオール(2-(4-メチルシクロヘキサ-3-エン-1-イル)プロパン-2-オール);もしくはTimberol(商標)(1-(2,2,6-トリメチルシクロヘキシル)ヘキサン-3-オール);2,4,7-トリメチルオクタ-2,6-ジエン-1-オール、および/または[1-メチル-2(5-メチルヘキサ-4-エン-2-イル)シクロプロピル]-メタノール;
【0054】
- アルデヒドおよびケトン、例として、アニスアルデヒド(4-メトキシベンズアルデヒド);アルファアミル桂皮アルデヒド(2-ベンジリデンヘプタナール);Georgywood(商標)(1-(1,2,8,8-テトラメチル-1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロナフタレン-2-イル)エタノン);ヒドロキシシトロネラール(7-ヒドロキシ-3,7-ジメチルオクタナール);Iso E Super(登録商標)(1-(2,3,8,8-テトラメチル-1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロナフタレン-2-イル)エタノン);Isoraldeine(登録商標)((E)-3-メチル-4-(2,6,6-トリメチルシクロヘキサ-2-エン-1-イル)ブタ-3-エン-2-オン);3-(4-イソブチル-2-メチルフェニル)プロパナール;(E)-9-ヒドロキシ-5,9-ジメチルデカ-4-エナール;マルトール;メチルセドリルケトン;メチルイオノン;ベルベノン;および/またはバニリン;
【0055】
- エーテルおよびアセタール、例として、Ambrox(登録商標)(3a,6,6,9a-テトラメチル-2,4,5,5a,7,8,9,9b-オクタヒドロ-1H-ベンゾ[e][1]ベンゾフラン);ゲラニルメチルエーテル((2E)-1-メトキシ-3,7-ジメチルオクタ-2,6-ジエン);ローズオキシド(4-メチル-2-(2-メチルプロパ-1-エン-1-イル)テトラヒドロ-2H-ピラン);および/またはSpirambrene(登録商標)(2',2',3,7,7-ペンタメチルスピロ[ビシクロ[4.1.0]ヘプタン-2,5'-[1,3]ジオキサン]);
【0056】
- 大員環、例として、アンブレットリド((Z)-オキサシクロへプタデカ-10-エン-2-オン);ブラシル酸エチレン(1,4-ジオキサシクロへプタデカン-5,17-ジオン);および/またはExaltolide(登録商標)(16-オキサシクロヘキサデカン-1-オン);ならびに
- 複素環、例として、イソブチルキノリン(2-イソブチルキノリン)。
【0057】
本明細書に使用されるとき、「担体材料」は、匂い物質という観点から実際的にニュートラルな材料、すなわち匂い物質の官能特性を有意に変更しない材料を意味する。
【0058】
「希釈剤」とは、フタル酸ジエチル(DEP)、ジプロピレングリコール(DPG)、イソプロピルミリスタート(IPM)、クエン酸トリエチル(TEC)、およびアルコール(例としてエタノール)などの、匂い物質と併せて従来から使用されているいずれの希釈剤をも意味する。
【0059】
用語「助剤」は、フレグランス組成物の嗅覚に関する性能にとくに関連しないという理由から、該組成物に採用されてもよい成分を指す。例えば、助剤は、フレグランス成分(単数もしくは複数)、または該成分(単数もしくは複数)を含有する組成物を加工するための補助剤として作用する成分であってもよく、あるいは、これは、抗酸化剤アジュバントなど、フレグランス成分もしくは同成分を含有する組成物の取扱または保管を改善してもよい。該抗酸化剤は、例えば、Tinogard(登録商標)TT(BASF)、Tinogard(登録商標)Q(BASF)、トコフェロール(その異性体も包含する、CAS59-02-9;364-49-8;18920-62-2;121854-78-2)、2,6-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-メチルフェノール(BHT、CAS128-37-0)、および関連フェノール、ヒドロキノン(CAS121-31-9)から選択されてもよい。
【0060】
これはまた、色または触感を付与するなどの追加の利益を提供する成分であってもよい。これはまた、フレグランス組成物に含有される1以上の成分へ耐光性または化学安定性を付与する成分であってもよい。
【0061】
助剤を含有するフレグランス組成物に一般的に使用される同助剤の性質およびタイプの詳細な記載は網羅的にはなり得ないが、該成分が当業者に周知であることは言及する必要がある。
【0062】
本発明はさらに、特定のウンデカベルトールの鏡像異性体が水素(H2)を使用するウンデカベルトンの不斉水素化によって立体選択的に合成され得るという驚くべき知見に、少なくとも一部は基づく。(R)-鏡像異性体または(S)-鏡像異性体のいずれかが立体選択的に合成されてもよい。しかしながら、ある態様において、(R)-鏡像異性体は、ウンデカベルトンの不斉水素化によって合成される。
【0063】
ウンデカベルトンの不斉水素化は、例えば、触媒によって促進されてもよい。触媒は、例えば、RuCl2[(S)-xylbinap][(S,S)-dpen](ジクロロ[(S)-2,2'-ビス[ジ(3,5-キシリル)ホスフィノ]-1,1'-ビナフチル][(S,S)-1,2-ジフェニルエチレンジアミン]ルテニウム(II))などの無機触媒であってもよい。
【0064】
ウンデカベルトンの不斉水素化は、例えば、例えば、イソプロパノール、カリウムt-ブトキシド、水酸化カリウム、またはそれらの組み合わせなどの1以上のさらなる試薬(水素に加えて)の存在下で行われてもよい。
【0065】
不斉水素化は、ウンデカベルトンの立体選択的な水素化に好適ないずれの条件下でも行われてよい。例えば、不斉水素化は、約10バール(1000kPa)から約100バール(10,000kPa)まで、例えば約25バール(2500kPa)から約75バール(7500kPa)まで、例えば約40バール(4000kPa)から約60バール(6000kPa)までに及ぶ水素圧力にて、例えば約50バール(5000kPa)にて行われてもよい。例えば、不斉水素化は、約25℃から約75℃まで、例えば約30℃から約70℃まで、例えば約40℃から約60℃までに及ぶ温度にて、例えば約50℃にて行われてもよい。
【0066】
ウンデカベルトールは次いで、当業者に知られている手段によって精製されてもよく、前記精製はウンデカベルトンからの分離を伴ってもよい。例えば、ウンデカベルトールは蒸留によって精製されてもよい。
【0067】
不斉水素化に使用されるウンデカベルトンは、例えば、本明細書に記載のとおりのウンデカベルトールの鏡像異性体混合物およびADHを使用して作製されてもよい。代替的に、ウンデカベルトンは、別の方法によって、例えばオッペナウアー酸化方法によって作製されてもよい。この方法は、過剰なアセトン、ベンズアルデヒド、またはフルフラール中、ウンデカベルトールの鏡像異性体混合物およびアルミニウムイソプロポキシド触媒を使用してもよい。いずれの好適な条件も使用されてよい。例えば、酸化は、約50℃から約90℃まで、例えば約60℃から約80℃までに及ぶ温度にて、例えば約70℃にて行われてもよい。
【0068】
例1(アセトン補因子再生)
5mL 並列振盪反応器に、2mLのアルコールデヒドロゲナーゼ溶液(Codexis Inc., Redwood City(USA)から得られたKPi緩衝液(100mM、pH 7.5)中、12.5gL-1 KRED-P1-B10)を入れた。0.25mLのNADP溶液(KPi緩衝液(100mM、pH 7.5)中15.8gL-1)、2.25mL KPi緩衝液(100mM、pH 7.5)、および0.5mL rac-trans-ウンデカベルトール溶液(アセトン中0.5M)を加えた。反応物を30℃かつ250rpmにて振盪した。8時間後に反応物から試料を採取し、メチル-tert-ブチル-エーテル(MTBE)で抽出し、ガスクロマトグラフィーを介して有機相を分析した。
変換:52.2%
鏡像異性体過剰率:99.4% (R)-trans-ウンデカベルトール
【0069】
例2(NOX補因子再生)
5mL 並列振盪反応器に、トリス緩衝液(100mM、pH 8.0)中0.524mLのアルコールデヒドロゲナーゼ溶液(c-LEcta GmbH Leipzig(Germany)から得られた50.0gL-1 ADH-87)を入れた。0.05mLのNADP溶液(トリス緩衝液(100mM、pH 8.0)中78.7gL-1)、0.250mL トリス緩衝液(100mM、pH 8.0)、InnoSyn B.V., Geleen(The Netherlands)から得られたStreptococcus mutans由来0.176mL NAD(P)Hオキシダーゼ無細胞抽出物(49gL-1 タンパク質含量)、および4.0mL rac-trans-ウンデカベルトールを加えた。反応物を30℃かつ350rpmにて振盪した。24時間後に有機層から試料を採取し、MTBEで希釈し、ガスクロマトグラフィーを介して分析した。
変換:54.2%
鏡像異性体過剰率:99.2% (R)-trans-ウンデカベルトール
【0070】
例3(アセトン補因子再生)
1.5mL 蓋付き管に、KPi緩衝液(100mM、pH 7.5))中0.85mLのアルコールデヒドロゲナーゼ溶液(20gL-1 KRED-P3-G09(Codexis, Inc., Redwood City, USAから得られた)を入れた。0.05mLのNADP溶液(KPi緩衝液(100mM、pH 7.5)中39.4gL-1)および0.1mLの基質溶液(アセトン中21gL-1 rac-trans-ウンデカベルトール)を加えた。反応物を30℃かつ600rpmにて振盪した。24時間後に反応混合物をMTBEで抽出し、ガスクロマトグラフィーを介して分析した。
鏡像異性体過剰率:98.8% (S)-trans-ウンデカベルトール
【0071】
例4(イソプロパノール補因子再生)
1.5mL蓋付き管に、0.85mLのアルコールデヒドロゲナーゼ溶液(KPi緩衝液(100mM、pH 7.5)中10gL-1 KRED-P3-G09(Codexis, Inc., Redwood City(USA)から得られた))を入れた。0.05mLのNADP溶液(KPi緩衝液(100mM、pH 7.5)中39.4gL-1)および0.1mLの基質溶液(イソプロパノール中84.1gL-1 ウンデカベルトン)を加えた。反応物を30℃かつ600rpmにて振盪した。24時間後に反応混合物をMTBEで抽出し、ガスクロマトグラフィーを介して分析した。
鏡像異性体過剰率:99.2% (R)-trans-ウンデカベルトール
【0072】
例5(ウンデカベルトンの不斉水素化)
空気雰囲気下、RuCl2[(S)-xylbinap][(S,S)-dpen](10mg、0.01wt%)を、1Lのオートクレーブ槽中、i-PrOH(90g)中(E)-4-メチルデカ-3-エン-5-オン(90g、535mmol)、カリウムt-ブトキシド(0.6g、5.35mmol)の溶液へ加えて封をした。撹拌しながら、オートクレーブをN2で3回、次いでH2で3回フラッシュした。H2圧力を47バールに設定し、50℃まで加熱して撹拌した。出発材料が消費された後、オートクレーブの加熱およびH2の流れを止めた。一旦冷却されたら圧力を解放して、オートクレーブをN2で3回フラッシュした。溶媒を粗黄色反応混合物から除去した。粗材料をMTBE(100mL)に溶解し、500mL 分液漏斗へ移してH2O(100mL)で洗浄した。水性層をMTBE(100mL)で再抽出し、合わせた有機層をブラインで洗浄し、MgSO4上で乾燥させて濾過した。溶媒除去によって黄色液体が提供され、これによって蒸留(ズルツァー(Sulzer)充填カラム)後に(R)-ウンデカベルトール(81.5g、83.5%収率、96.4% ee)が無色液体として与えられた。
【0073】
上記は、本発明のある態様を限定せずに広く記載するものである。当業者にとっては容易に明らかになるであろうバリエーションおよび修飾は、添付のクレーム中に、および同クレームによって定義されるとおり、本発明の範囲内にあることが意図される。
【0074】
例6(NOX補因子再生)
1L実験室反応器に、90mL トリス緩衝液(100mM、pH 8.0)、2.62g ADH-87(c-LEcta GmbH Leipzig (Germany)から得られた)、0.079g NADP二ナトリウム塩、Streptococcus mutansからの10mL NAD(P)Hオキシダーゼ無細胞抽出物(InnoSyn B.V., Geleen(The Netherlands)から得られた)、および340.6g rac-trans-ウンデカベルトールを入れた。反応物に酸素(150mL min-1)を注入し、30℃かつ500rpmにて撹拌した。有機層から試料を採取してMTBEで希釈し、ガスクロマトグラフィーを介して分析することで反応の進行を追った。反応を24h後に止め、層を分離した。水性層をMTBEで再抽出し、合わせた有機層から有機溶媒を真空除去した。生成物を、蒸留を介して精製した。
変換:51.2%
鏡像異性体過剰率:97.2% (R)-trans-ウンデカベルトール

【手続補正書】
【提出日】2023-06-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【外国語明細書】